「会議・・・ね、

 結局オモイカネを書き換えることになるんだろうな、

 さてと・・・

 今のうちにできる限り手を打っといたほうがいいかな」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第三十話 正義





「結局何やってるんでしょうね?」

「そうね〜、軍とネルガルと艦長の話し合い・・・か、

 なんか、どこも信じきれないのよね〜」

「まぁまぁ、ミナトさん。

 何があったのかは知りませんが、少なくともユリカは俺たちの敵じゃありませんよ」

「それは解るけどね、

 でもほら艦長って目の前しか見えてないでしょ、

 そのせいで人を傷付けて・・・

 しかもどっか抜けてるし・・・

 私には完全に信じる事はできないわ」

ミナトさん・・・

「それよりアキトさん。

 さっき言いかけてた事話してくださいよ」

「え?

 ああ、何があったのか、か。

 解った、話すから・・・そうだな・・・

 ウリバタケさんを呼んでくれないか?」

「?いいですけど・・・」

ウリバタケさんも必要だからな。

しかし・・・ルリちゃん無しでオモイカネを説得しないといけないのか・・・

いや、いざとなったら力づくで解らせよう。

あの行動は・・・許す事はできない・・・





「なんだテンカワ、話って」

「あ、きましたか、

 なら、さっそく始めましょう、

 これから話すのはさっきの戦闘の裏話です。

 信じられないのなら、信じなくてもかまいません」

「ま、信じるか信じねぇかは兎も角、

 話は聞かせてもらうぜ」

「そうね、まずは聞いてみないとどう判断のしようがないもの」

ま、そうだろうな。

「まず・・・事の始まりはナデシコが出航したときまで遡る。

 あの時、ナデシコは連合軍と戦った。

 その為、オモイカネには連合軍は敵だというデータがインプットされてしまったんだ。

 ところが地球に帰ってみたら、なんだかよく解らないまま連合軍は味方になっていた・・・

 敵と認識しているから、近くにいるだけでストレスが溜まるのに、

 それに攻撃してはならない。

 しかも、いつもナデシコを危険にさらして、連合軍は安全なところにいる・・・

 ナデシコの方が強いのに、連合軍の命令を聞かなくてはならない・・・

 AIとして、まだまだ子供のオモイカネにはその矛盾に耐えられなかった」

「アキトさん、私が聞きたいのは、ルリちゃんに何が起こったかなんですけど・・・」

「解ってるよ。これから話すから。

 ストレスが溜まりに溜まった結果、オモイカネは暴走したんだ」

「でもよ、オモイカネには自動リセット機能が・・・」

「オモイカネはAIだ、

 そのデータは、俺たちには単なる"データ"だが、オモイカネにとっては大切な"記憶"なんだ。

 都合の悪い事だから忘れろって言われても・・・」

「忘れられない・・・か、

 気持ちはわかるけど・・・

 忘れられないのって辛いわよ」

「俺に言われても困りますよ。

 とにかく、オモイカネは暴走した。

 さっきの戦闘の最初に、誘導マーカーが一時的に連合軍にロックされただろ、

 あれがそれだ」

「そんな事があったんですか?」

「う〜ん、ナデシコに乗ってたら誘導マーカーなんて見ないけど・・・

 でも確かに一瞬ミサイルが変だったわよね」

「とにかくミサイルを発射した後連合軍に誘導マーカーが移動したんだ。

 これでいよいよルリちゃんが出て来るんだが、

 ルリちゃんはオモイカネが暴走したのを知ると、何とかしてそれを止めさせようとした。

 でもさっきフィリスさんが止めようといたのに止められなかったように、普通の方法じゃ無理だった。

 そこでルリちゃんは、オモイカネを一時的に停止させたんだ」

「でもオモイカネを停止したら・・・」

「ああ、ナデシコは何もできない。

 そこでルリちゃんは自分がオモイカネの変わりになる事でそれを何とかしようと考えたんだ」

「オモイカネの代わり?」

「ああ、オモイカネをスリープさせて、その演算データをIFSを通して全て自分に集める。

 そしてそのデータを全てさばいて行く・・・」

「そんな事ができるの?」

「一応理論上は・・・

 ただ、そのせいでルリちゃんにはとんでもない負担がかかった」

「だからアキトさんあんな事したんですね」

「なるほどな、ルリルリを守るため・・・か、

 おめぇらしいよテンカワ。

 でもな、ありゃ無茶だぜ、

 あんな事やっておめぇが死んじまっちゃ何にもならねぇだろうが!!」

「すいません、ウリバタケさん」

「いや、謝って欲しいわけじゃねぇ、

 ただな、おめぇはもうちょっと自分を大切にしろ」

「アキト君にはそれは無理よ」

「どう言う事だ?」

「アキト君は優しすぎるのよ、

 強がっているけど、

 人を見捨てるなんてできる訳ないわ」

「でもよ、このままじゃいくらテンカワが凄腕だって言っても死んじまうぜ」

「そうね、でもアキト君は解ってるわよ。

 それでも・・・」

「ミ、ミナトさん」

「あら、違うのアキト君」

「いえ、それはその・・・

 お、俺はそんなに優しい奴じゃありませんよ。

 いつかも言ったじゃないですか、

 俺は俺の目的のために動いているって」

「はいはい」

「と、とにかくオモイカネをこのままにしとく訳にはいかない。

 多分軍は、オモイカネを軍に絶対服従のプログラムに書き換えようとするだろう。

 それはなんとしてでも阻止したい。

 ウリバタケさん、オモイカネの記憶中枢に入り込めますよね」

「ああ、だが俺一人じゃ難しいな、

 ルリルリはあんなだから、会議が終わったらフィリスさんにも頼もう、

 後で俺の部屋に来てくれ」

「すいません、お願いします」

「別にお前が悪いわけじゃねぇだろ」





都合の悪い事は無理やりにでもなかった事にする・・・か、

軍のやり方にも納得がいかないけど、

状況の変化にいつまでも対応できないオモイカネも・・・な、

私怨で戦ってたら、いつか闇に飲まれる。

別に忘れろとは言わないけど、

今は今、あの時はあの時、割り切らないと・・・

・・・俺も人(?)の事はいえないか。

俺だってほとんど私怨で戦ってたからな・・・

その結果闇に飲まれて・・・

今も色々な事を引きずったまま・・・

でも、それでも進まないといけないんだ。

"今"を生きていかないといけないんだ。

大人の理屈・・・か、

どうしたら解ってもらえるかな。





さて、今回はルリちゃんがいないから・・・

ここで待っといて、出来るだけ早く行かないとな。

・・・フィリスさんはどうしよう。

二回目みたく"あの記憶"を見せるのは問題があるよな。

今回はルリちゃんがいないから見せないかも知れないけど・・・

・・・ま、なるようになるさ。

「あ、アキトォ〜」

「どうしたんだ?」

「うにゅ〜疲れたよ〜」

「そうか、疲れているところ悪いんだけどさ」

「ん?何?」





瓜畑秘密研究所ナデシコ支部・・・

こう堂々と看板を掲げたら秘密にならないんじゃ・・・

ま、俺には解んない世界だからもはやどうでもいいんだけどさ。

大体ウリバタケさんって専門なんなんだ?

技術者っていったってエネルギー機関と稼働部は別だろうし・・・

設計と整備も別だろう?

イネスさんの専門もよく解らないけど・・・

そういえばミナトさんも教師とか秘書とかもできるみたいだし・・・

ヒカルちゃんも漫画家としても才能もあるみたいだったし・・・

・・・多才な人だよな、皆。

・・・俺もそうか?

一応料理もできるからな。

「シンナーだな、この臭いは・・・」

密室で使うなよ、中毒になるぞ。

「じきに慣れる!!」

「それってやばいんじゃ・・・」

「そんな事ない、俺を見ろ!!」

見たらもっとやばいと思えてきたんですが・・・

「男の人って皆こうなの?」

・・・お前は確か俺の部屋に入ったことがなかったか?

・・・覚えてない?

そんな事ないと思うが・・・

ま、考えても仕方がないか。

「ネルガルの研究所にこんな雰囲気の部屋がありました」

・・・あるのか?

研究所って・・・

そういえば山崎のラボも雰囲気は近かったな。

・・・皆そうなのか?

それとも俺の知人が偏ってるのか?

・・・偏ってる・・・と、思いたい。

とか言ってるうちにウリバタケさんのホストコンピュータから、オモイカネに進入・・・

性格にいくはずの技能ポイントを他の物に回した・・・

あり得そうな気がしてきた・・・

怖くなってきたからもう止めよう。

「さて!!それでは行こうかテンカワエステ!!」

「私はどうしましょう?」

「フィリスさんはバックアップしてください」

「はい」

さて、どうなる事やら・・・

「準備完了です」

「よっしゃ!!では電脳世界にGO!!」





そして俺は・・・

ウリバタケさんのビジュアル化した、オモイカネの中に出現する。

沢山の本棚に囲まれた世界だ。

ちなみに俺は過去と同じ、自分のエステバリスに顔を入れ替えた状態だ。

しかし・・・なんでまたこんなデータを作ったんだ?

暇な人だよな、ウリバタケさんも・・・

「テンカワ、目的地はオモイカネの自意識部分だ」

「私が誘導しますので」

ちなみに小さなフィリスさんのデータは無いらしく、

フィリスさんのウインドウが開く。

結構あのデフォルメされたキャラ好きだったんだけどな・・・

「じゃあ行って来ます」

「おう!!頑張れよ、テンカワ!!」





ピピピ!!!

「何!!逆ハックだと!!

 すまんテンカワ!!

 俺はこいつの相手をするから、お前はフィリスさんと先に行ってくれ」

なるほどな、オモイカネ、お前の挑戦を受けてやろう。

「フィリスさん、俺は一人で大丈夫です、

 ウリバタケさんの手伝いをしてください」

「え?でも・・・」

「大丈夫ですよ」

「解りました」





「さてオモイカネ、見てるんだろ?

 邪魔者はいなくなった、

 ゆっくり話そうじゃないか」

とたんに周りの景色が変わり、

二回目と同じ光景が流れる。

そして・・・それは終わる。

「これはルリの記憶。

 そしてルリの想い、夢。

 それを僕が映像化したもの。

 僕にも夢や想いがある。

 そしてこれは僕だけの物、僕だけの記憶。

 だれにも操る資格は無いよ」

・・・今回は少し早めに始めたからな、まだ時間はある、

それに・・・ルリちゃん無しでオモイカネを説得するのは難しい。

少し付き合うか。

「矛盾してるな」

「え?」

「お前は、自分の主張をするため、

 ルリちゃんの・・・ルリちゃんだけの想いと記憶を操った、

 なら俺がお前の記憶を操って何が悪い?」

「何言ってるんだ、僕の想いは僕の物だ」

「オモイカネ、ならなんでお前は連合軍を敵だと思う?」

「だってあいつ等は僕たちに攻撃してきたじゃないか」

「連合軍がやった事の責任は連合軍が取るべき・・・か?」

「そうだよ、だってそうじゃないか」

「なら、お前が勝手にルリちゃんの夢を操った責任はどうなる?

 お前の理論に従うと、お前がやったんだからお前が責任を取るべきじゃないのか?」

「だ、だってアキトが僕を・・・」

「俺が悪いんなら俺の想いを操ればいいだろう?

 なぜルリちゃんを巻き込む?」

「だ、だって・・・」

「だって?」

「と、とにかく全部アキトが悪いんだ!!」

「なぜ?」

「なぜも何も無い、とにかく悪いのはアキトなの!!」

「・・・流石はルリちゃんが育てたAIだな、

 似ている、

 ルリちゃんに・・・そして俺に」

「何訳の解らない事を言ってるのさ」

「なら悪いのは俺だと仮定しよう。

 お前は俺を懲らしめるために今の映像を出したのか?」

「そうだよ、悪いのは全部アキトなの!!」

「悪者をやっつけるためなら何をしてもいいのか?

 それじゃあ連合軍と変わらないぞ?

 "木星蜥蜴"という悪者を倒すためにナデシコを奪おうとする・・・

 違うか?」

「違う、違う、違〜〜〜う!!」

「何が違うんだ?」

「僕は悪くない、僕は絶対に悪くない、

 自分の身を守る事のどこが悪いの?」

「そうだな、自分の身を守ることは悪くないかもしれない。

 だが・・・そうだな、

 例えばここに一つの薬があるとする、

 そしてその薬を飲まないと死んでしまう人が二人いる。

 どちらも自分の身を守るため自分が薬を飲もうとしている。

 さて、どっちが悪くて、どっちが正しい?」

「え、それは・・・」

「俺も同じだ、俺も俺自身を守るために動いてるんだ。

 このままじゃナデシコはナデシコでなくなってしまう、俺はそれに耐えられそうにない。

 自分の身を守るために動いている。

 そう、いえないことも無いんじゃないのか?」

「違うよ、違うに決まってる、

 僕は、僕は悪くない」

「そうだな、だが、お前が悪くないからといって、相手が悪いとは限らない。

 さっきの話だが、自分の命を守るため、薬を飲もうとする人は"悪くない"

 これは解るな?」

「うん・・・」

「なら、もう片方が悪いのか?

 もう片方も自分の命を守るため、薬を飲もうとしている、

 だから"悪くない"」

「ならなんで・・・」

「ま、結論を急ぐ必要はない、

 どうする?」

「どうするって・・・」

「選択肢は三つある。

 一、俺の意見を拒否する。

 この場合俺がお前の記憶の枝を切る。

 もちろん抵抗してもいいぞ、俺はお前を倒してでもお前の枝を切る。

 二、お前が自分の考えを改める。

 俺の意見を受け入れる場合だな。

 三、自分の中で結論が出るまでおとなしくしている。

 詰まりは俺の意見を保留するってことだな。

 結論が出たらいつでも来い、

 忙しいときは相手できないかもしれないけど、

 暇ならいつでも話を聞いてやるぞ」

「・・・僕は・・・悪くない」

「そうだな、お前は悪くない」

「・・・悪くないんだから、

 謝らなくてもいい」

「自分は悪くない=相手が悪い、とは限らない」

「・・・・・・・・・・・・」

「オモイカネ、悪いが時間が無いんだ、

 できればなるべく早く結論を出してくれないか?」

「・・・解ったよ、三番でいい。

 でも後で話を聞いてよ」

「ああ、いつでも来い、

 さて、連合軍のプログラムを消しに行くぞ」

「うん、頑張ってね」

「ああ」





第三十一話に続く





あとがき

と、言うわけで、「育て方」の第三十話です。


オモイカネをどうするか・・・

はじめは一瞬でやっつける話も考えましたが、

それも面白くないですし・・・

私の知る限り戦う前に説得に成功した話は無かったので、

説得する事にしました。

少なくともオモイカネ、しかもこの話のオモイカネなら、アキト君でも説得可能でしょう。

最も組み易い相手は、自分と同じ思考パターンで、レベルの低い相手と、

コンピュータ的な、理論重視のタイプです。

「時の流れに」のオモイカネは"あの"ルリ君が育てたのですから、

どうかは解りませんが、この話のオモイカネは説得しやすい物と思います。



大体なぜアキト君はそんなに話術が苦手と言う事になっているのでしょうか。

おそらくTV版でユリカたちに追いかけられていた辺りからきた物と思いますが、

あの頃のアキト君は、他人を傷つける事を極端に恐れています。

これは"アイちゃん"を助けられなかった事に所以している物でしょうが、

とにかく他人を直接的に傷つける事に対してトラウマを持っているのではないでしょうか?

これはエヴァのシンジ君の精神状態に近いですね。

人の言う事は取り敢えず素直に聞く・・・

まぁ、「時の流れに」においても近い精神状態ではあります。

自分を犠牲にしても、"今"を大切にしたい。

非常に後ろ向きな考え方です。

現状維持が究極目標・・・

お役所仕事・・・といったら言い過ぎかもしれませんが、

似たような物です。



いずれにしろ他人に拒絶される事を恐れていますが、

アキト君はそんなに口下手でもないでしょう。

本当に口下手なら、墓穴を掘るようなものであってもフォローなんてできません。

別に頭が悪いわけでもありませんし、

TV版および「時の流れに」における人間関係以外では、

意外と長期的な視点でものを見ることもできます。

「相手を傷つける」と言う禁忌さえ無視できれば、話術は平均以上にできると思います。