「いらっしゃ・・・

 えっと・・・き、君は・・・」

「今度この部隊に配属されたアリサ ファー ハーテッドです。

 階級は中尉です。

 今後とも宜しくお願いしますね」

「そ、そうなんだ。こ、こちらこそ宜しく。

 あ・・・で、食堂に入って来たって事はお腹が空いてるんだよ・・・ね。

 何を食べたい?」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第三十六話 義兄





なんとも微妙な表情で私に話し掛けてくるコックさん。

私はいつも張り詰めた雰囲気をしているので、

他人を寄せ付けない空気を纏っています。

だから私を忌諱する人はそこそこ居るのですが・・・、

・・・この反応は珍しいですね。

気圧されてるというより・・・悪戯がばれた時のような・・・

何か後ろめたい事でも?

そう思ってもう一度コックを見る・・・と視線を外された。

と言っても真っ黒いバイザーをつけているので、

そう思っただけですが・・・

・・・私は一応容姿にはそこそこ自信があります。

モデル並・・・とは言いませんが、経験と相成って、

下手なモデルより魅力的なつもりです。

その私が、張り詰めた空気を解除して、

見つめているというのに・・・

こういう反応はプライドを傷つけられますね。

「そ、それより注文は?」

・・・逃げましたね。

まあ良いです。

「注文と言われましても・・・

 軍の食堂で調理できるものなど限られているのでは無いのですか?」

「あ、それは大丈夫!!

 自前で揃えたスパイスと調味料があるし。

 この現地の仲が良い人達から分けてもらった食材が、結構あるからね」

自身たっぷりに・・・楽しそうに言うコックさん・・・

行動力は旺盛・・・やっぱり何か悪戯でも?

しかし好感が持てます。

姉さんと私を間違わず、それでいて・・・

もしかして私に・・・

そう考えれば全ての辻褄が・・・合いませんね、

もしかしたら姉さんに?

それも違いそうですし・・・

・・・不思議な人です。

近くにいるだけで・・・安心できるような・・・

いえいえ、私はテンカワ アキトの魔の手から姉さんを救うために・・・

でも・・・

改めてこのコックを眺めてみます。

身長は175cm前後でしょうか、体重も軽そうです。

身体は引き締まっていますが・・・戦闘向きには見えませんね。

まあ今の時代、戦闘に力はあまり必要ありませんが・・・

年齢は・・・少なくとも若いですね。

でも、さっきの隊長さんや、お爺様と同じような雰囲気・・・

洗練されたというか・・・そういう雰囲気がありますから、

・・・多分私より一回りほど上でしょうか?

・・・顔が見えないのではっきりとは解りませんが、

・・・現地のコックを徴収したのでしょうか?

「アリサ中尉?」

「あ、はい。

 じゃあ、ミートスパゲティ頼みます」

「了解!!」

私の注文を受けて嬉しそうに調理を始めるコックさん。

なかなか鮮やかな手並みですね。

「一つ・・・聞いていいでしょうか?」

「何?」

鍋の中の煮立ったお湯にスパゲティを放り込みながら、コックが応えます。

「双子の姉さん・・・サラ少尉と私が似ている訳を聞かないのですか?」

「ああ、そんな事か。

 全然似て無いじゃないか。

 サラちゃんとは間違えようが無いね。」

私は両親の死を知った時以外で最大の衝撃を受けました!!

私と姉さんが全然似ていない?

このような言葉をかけられたのは生まれて初めてです。

「外見だけなら俺も髪の色の違いだけでしか判断出来ないけどね。

 俺は昔ちょっと視力が極端に落ちちゃってさ・・・

 今はもう治ってるけどね。

 その時に外見より話し方や雰囲気とか、声の感情で人を見分ける癖がついたんだ。

 サラちゃんはちょっと荒っぽい言葉使いだけど、根は純粋な女性だよね。

 アリサ中尉は言葉使いは丁寧だけど警戒心が強いね、

 後、サラちゃんは燃えにくいけど冷めにくい、

 アリサ中尉は燃え易いけど冷め易いタイプかな?」

「・・・私の事はアリサと呼んでくれてかまいません」

これは降参ですね。

ここまで私の内面と姉さんの事を理解出来るとは・・・

隠れた逸材ですよ・・・本当に。

少しはこの部隊にきて良かったと、思える事もありましたね。

ですから特別に私の事を名前で呼ぶ事を許して上げます。

別に深い意味は無いんですよ!!

そして無言になった私の目の前でコックはミートソースを作り・・・

茹で上がったスパゲティを鍋から取り出し・・・

私の前にミートスパゲティを盛った皿を置いてくれました。

「はい、お待ちどう様!!」

そして屈託の無い笑顔で私に話しかけます・・・

・・・明るい人ですね。

!! そう言えば。

「どうして姉さんの事を・・・名前で呼んでるんですか?」

「ん?

 ああ、サラちゃんがそう呼んでくれって言うからね」

む〜〜〜〜・・・

姉さん・・・性格が軽くなり過ぎてませんか?

まあ、このコックは悪い人ではないようですが。

これは・・・やはりテンカワ アキトの影響ですね!!

最早一刻の猶予もありません!!

これ以上姉さんが悪影響を受けないうちに、

テンカワ アキトを物理的にでも排除しなければ。

などと自分の考えに私が沈み込んでいる間も・・・

このコックは洗い物をしたりテーブルを拭いたりしています。

楽しくて仕方がないとでも言うような雰囲気です。

・・・変な人ですね。

は!!

私は何を・・・

私は姉さんを救いに来たんです!!

でも・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・

・・・

「アリサちゃん?」

「は!!

 な、何ですか?

 え〜と・・・」

「い、いや、もしかして美味しくなかった?」

そのコックがバイザーを外して私のスパゲティを覗き込み、

次に本当に心配そうな顔で私の顔を覗き込みます。

私は訂正する事も忘れて彼の顔に見とれていました。

顔は・・・東南アジア系・・・

意外と童顔ですが、合格ですね。

一回りも上ではなく・・・二つか三つ上位・・・

もしかしたら私と同じ・・・場合によっては私より下かもしれません。

ですが、東南アジア系の人は実年齢より若く見えるそうなので、

もしかしたら二十五位は、いっているかもしれません。

意志の強そうな金色の目が印象的です。

・・・金色の目?

・・・引っかかりますね。

どこかで見た・・・いえ、聞いたような・・・

ビィー!!ビィー!!ビィー!!

これは!!敵襲!!

考えるのは後です。

・・・じゃなくって私はテンカワ アキトを探さないといけないんですってば!!

でも・・・名前ぐらい聞いても良かったかもしれませんね。





「第一級戦闘配備!!」

隊長の号令が司令部に響き渡ります。

そして私に出撃命令が出されます。

・・・いいでしょう、戦場で待ちましょう。

彼を・・・テンカワ アキトを!!

「アリサ機、出ます!!」

「敵はまだ少数しか確認出来ていない!!

 深追いはするな!!」

「了解!!」

そして、私の白銀のエステバリスが青空を駆け抜けます!!





ふう・・・思わずバイザーを外してしまった。

金色の目なんて滅多に・・・というか世界に二桁もいないからな、

ばれるんじゃないかと思ったけど・・・

しかし・・・アリサちゃんは何で・・・

わかんないな。

さて・・・二回目はチューリップが基地の周りを飛行していて、

アリサちゃんが危なかったんだよな。

さて・・・

ブラックサレナのお披露目・・・か。

「レイナちゃん、出撃まで何分かかる?」

「追加装甲つけてる最中だから・・・付け終わってテストして・・・

 三十分はかかるわよ、

 何せ初めてだから色々と調整もあるし・・・」

「・・・テストは止めて、ぶっつけ本番でいく」

「そんな!!」

「大丈夫、ばらした状態では異常なかったんだろ?」

「え、ええ」

「なら問題ないって、レイナちゃんを信じてるからさ」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・?レイナちゃん?」

「え?あ、はわ!

 わ、わかったわ、十分で終わらせるから」

「俺も手伝う、五分で終わらせるぞ!!」

こんな時に不謹慎だが・・・ブラックサレナの整備・・・懐かしいな。





チューリップを利用した消耗戦・・・

まだ出てこないんですか、テンカワ アキトは!!

戦艦クラスが出てくる前にチューリップを捕捉して・・・

しかし、チューリップの位置を確認していないのに戦艦が出てこない・・・

数で押すつもりですか、

消耗戦に持ち込めば、確かに有利・・・





「アキトは何をやってるんだ?」

「俺に言われても困りますよ、隊長は知らないんですか?」

「知ってたら聞かないさ」

アキトは・・・

しかし、チューリップの位置を把握していないのに来るのはバッタが中心・・・

もしかして・・・

「サラ少尉、敵の増援の出方をグラフに出してくれ」

「はい」

・・・・・・・・・・・・

やはり、波がある・・・

これは・・・

「数で押して、戦局を維持、戦艦を十分集めた上で総攻撃・・・

 消耗している所を、戦艦の大群に狙われたら・・・」

「どうするんですか?」

「アキトのエステはないんだろ?」

「はい、さっき確認させました」

アキトが頼り・・・

でもあいつは民間人なんだ。

民間人に頼って戦局を維持して、何が軍だ!!

・・・・・・・・・・・・

妻は・・・息子は・・・こんな俺を・・・軍を許してくれるのか?

・・・・・・・・・・・・





黄昏時になっても戦闘は続いています。

オセアニア方面では最長一週間戦闘が続いたそうですから、

ありえない事ではありませんが・・・

何でもそのときは入れ替わり立ち代り戦いつづけたそうです。

結局極東方面軍からあの"ナデシコ"を援軍として呼んで決着をつけたそうですが・・・

とにかく早く決着をつけないと、絶対に不利です。

「私に考えがあります。

 このままでは疲れを知らない無人兵器の思うがままです」

「それで、アリサ中尉の策とは何かね?」

「私が囮になってチューリップを誘き出します」

「・・・君には無理だ」

「いいえ、私以外に出来る人は・・・彼は逃げ出したんでしょう?」

私が侮蔑の言葉を出しても・・・彼からの反応はありません。

・・・本当に逃げ出したのですか?

「アリサ!!アキトはそんな人じゃないわ!!」

姉さんの通信が私のコクピットに入ります。

想い人を臆病者呼ばわりされて、黙っていられなかったのでしょう。

しかし・・・

「でも、今現在この場にいないではないですか!!

 漆黒の戦神と呼ばれる西欧方面軍最強の英雄様は!!」

・・・神経を逆なでしてみたのですが・・・でてきませんね。

腰抜けですか!!テンカワ アキトは!!

「私は行きます!!」

「アリサ!!待ちなさい!!」

「アリサ中尉!!」

バシュウゥゥゥゥゥゥ!!!

姉さんと隊長の言葉に耳を貸さず・・・

私のエステバリスは夕暮れの空に飛び出しました。

この戦闘は私が片付けてみせます!!





ソナーの配置は・・・ほぼ終わり・・・と。

まさかさらに別働隊が居るとは思わなかったけど・・・

南がやや手薄だったのはそのための陽動だった見たいだな。

取り敢えず・・・急げばアリサちゃんが無茶する前に・・・

「こちらテンカワ機、

 南でチューリップ三機からなる別働隊と遭遇、これを撃破。

 基地周囲で、周回飛行するチューリップを五機確認、現在二機撃破」

「アキト!!」

サラちゃんから通信が入る・・・

間に合わなかったのか?

「アキト、アリサ中尉がチューリップをおびき出しに向かった、

 彼女の援護を要請する!!」

「解った」

ちっ!!前回アリサちゃんを助けた辺りからソナーを配置したのに・・・

別働隊を撃破して、

チューリップを二機撃破したのに・・・

頼む、間に合ってくれ。





「くっ!! まさかチューリップが部隊の周辺を飛行しているなんて!!」

私が部隊を飛び出して見た物・・・

それは部隊の駐屯地を中心にして、周りを飛行しているチューリップでした。

遠距離で移動をしながら、バッタとジョロを送り出し続けていたんですね!!

これでは場所の特定が出来ない筈です!!

しかもチューリップの周りには大量の戦艦がいます。

バッタで時間を稼いで・・・

そういえば、隊長さんがそんなことを・・・

私は自惚れていたようですね。

それが解ったからには、

この経験を生かせる機会があるといいのですが・・・

とにかく、この数の戦艦を相手にするなんて自殺行為です。

くっ!!早く知らせ・・・

しかし、既に私のエステバリスには、それほどエネルギーは残っていませんでした。

しかも、運悪く私は彼等のレーダーに既に察知されていた様です。

退路は既に無人兵器達に塞がれ・・・

私は絶望的な戦いを強いられていました。

戦艦が動いていないのが幸いですが・・・

「このままでは・・・

 せめて通信のジャミングが解ければ、チューリップの所在を報告出来るのに。」

無人兵器達の攻撃を避ける為に・・・

私は今、切り立った崖の隙間に隠れています。

一矢も報いる事無く私はここで死ぬのでしょうか?

私まで死んでしまって・・・姉さんは大丈夫なのでしょうか?

それに私自身・・・まだ、死にたくは無い。

ピッ!!

「エネルギー残量がゼロになりました・・・」

そう・・・もう打つ手は無いのですね。

その時、私の視界には・・・

こちらに向って飛んで来る、大量の無人兵器を捉えました。

せめて・・・姉さんとお爺様に一言を・・・

隊長にお詫びの言葉を・・・

そして・・・あのコックの名前を知りたかったですね・・・

こんな時にあのコックの事を気にするなんて、

私も変な女ですね。

金色の目をした東南アジア系の・・・

金色の目?

まさか!!

その時、漆黒の闇と・・・

一筋の光が・・・

無人兵器達と私のエステバリスの間を駆け抜けました。

「え?今のは一体・・・」

一瞬の空白の後に・・・爆発!!

私のエステバリスの前にいた数十の無人兵器達は、一瞬にして殲滅されました!!

そして、これ程の事をやってのける人物は・・・

私の知る限り・・・

消え去った無人兵器達のいた場所には白い刃が見えています・・・

夕暮れをバックに浮かぶ漆黒のエステバリス。

先程見たのとやや違うようですが・・・

でも間違いなく・・・そう、それは・・・

「・・・今頃になって登場ですか。

 良い御身分ですね」

私の予想が正しければ・・・

「無事かアリサちゃん」

その声は紛れもなく、あのコックの物でした。

でも・・・今まで遊んでた事を許したわけでは有りません。

「何をやっていたんですか?

 それともピンチになるまで様子見ですか?」

「済まん、ソナーの配置に手間取った。

 現在確認したチューリップは五機、うち二機は撃破した。

 共に円を描きながら駐屯地周辺をまわっている。

 今から俺はチューリップの破壊に向う。

 アリサちゃんの救出は他のエステバリスに連絡しておいた」

ソナーの配置、ですって?

では、彼はチューリップ達の行動を読んでいたのですか?

今迄、時間をかけてジャミングの影響を受けないソナーを配置していたと・・・

そんな・・・では私には彼を責める資格など無い。

むしろ助けてもらった礼を言うべきではないですか・・・

・・・なかなか冷静な人ですね。

「もう暫く、その場所で我慢していてくれ。

 俺は今からあのチューリップを破壊する!!」

「そ、そんな一人で可能なのですか?」

「・・・心配しなくても俺には可能だ。

 それに、サラちゃんが心配していたぞ」

「・・・すいません、

 ありがとございます。

 それと・・・あのスパゲティは美味しかったですよ」

「ははは、やっぱり気付いていたんだ。

 金色の目をした人なんてそういないからね。

 俺が知る限りでも・・・俺を含めて・・・

 まあいい、今は無事に帰った時にサラちゃんと隊長に言う、言い訳を考えておくんだな」

そう言い残して、漆黒の機体はチューリップに向って飛んで行きました。

・・・金色の目をした人が他にいるのですか?

安堵感から私はちょっとずれた事を考えていました。

そして、私は急いで機体から飛び出します。

今から始まる出来事は、私達エステバリスライダーの間での伝説。

それを特等席で見なくてどうしますか!!

隠れていた崖の端から身を乗り出して・・・

私はチューリップに向う闇を纏った機体を凝視します。

その直線上にいる無人兵器など歯牙にもかけず、白い刃で切り裂いて飛ぶ漆黒の機体!!

正に戦神・・・これが、テンカワ アキト!!

そして、私のエステバリスからは彼の声が聞えてきます。

「本来なら一気に決めたいんだが・・・

 他のチューリップも・・・

 いや、他のチューリップはシュンさんたちに任せて・・・

 速攻で決めたいが・・・

 こうもばらばらに居られると・・・

 ・・・やって見るか。

 バースト・モードスタート!!」

テンカワ アキトは、その光の剣を腰にしまい、

それと同時に何か甲高い音が彼の機体から聞えます・・・

そして・・・彼の機体が赤い光を纏いだします!!

「あれは・・・一体?」

機体に纏い付く赤い光が、彼の姿を更に禍禍しく印象付けます。

「また戦艦ばかりたくさん集めたものだな。

 今回は微妙な密度で集まっているから・・・

 雑魚もいっしょにかたずけてやる」

彼にとって戦艦は雑魚なのですか?

まぁ、噂どおりの実力ならそうでしょうが・・・

「いくぞ!!

 闇よ、我が意に従い、

 邪神を誘いて、我が僕と為せ!!

 奥義!!鳳絶・煉獄殺!!」

そのまま彼は無造作に戦艦に近づく・・・

と、同時に彼の機体を取り巻く赤い光は急激に彼の前方に集まり、

真紅から漆黒へと色が変わっていきます。

次の瞬間、彼の機体の前方の黒いフィールドが爆発し、

真紅の光をつむぎだす。

そしてそのまま爆風に乗って信じられない加速・・・

慣性の法則を無視したような動きで、

敵の中を縦横無尽に動き回ります。

しかし、ターンするたびに起きる黒いフィールドの真紅の爆発で、

戦艦を次々と撃破・・・

その姿はまるで・・・焔を纏った一筋の流星・・・

そしてそのまま・・・

チューリップに突撃・・・

「チ、チューリップが・・・崩れ・・・て・・・いく・・・」

ドゴォォォォォォォンンンンン!!!

「きゃあ!!」

私はチューリップの破壊された時の衝撃波を受け・・・

急いで崖に身を隠しました。

そして、今目撃した事を思い返します。

空を駆ける彼の操る漆黒のエステバリス。

圧倒的な力で無人兵器達を破壊する彼。

その姿はまさに・・・戦神・・・

その華麗な戦いに・・・

その圧倒的なまでの実力に・・・

私は身体の震えを抑える事が出来ません・・・

その時、隊長の言葉が脳裏に蘇ります。

「アイツの実力は君達とは桁が違う・・・どころか別次元だ」

そう、別次元です。

自分の目で見るまでは信じられませんでしたが。

確かに彼の存在は、この駐屯地・・・西欧方面全軍の戦力を軽く凌駕しています。

噂どおり・・・いえ、噂以上の実力・・・

でも・・・

私は彼のもう一つの顔を思い出します。

楽しそうに料理をしていた彼。

美味しい心の篭った暖かい料理を、私に作ってくれた彼。

テーブルを拭きながら・・・洗い物をしながら笑っていた彼。

私と姉さんとの違いを真剣に話してくれた彼。

私は・・・彼のその二面性に惹かれている自分を認識しました。

光と闇・・・

相反するモノをその身に宿す彼は・・・

彼の名前はテンカワ アキト。

姉さんの想い人。

そして・・・

「やっぱり・・・姉さんと私は趣味が一緒なのですね」

帰ってから姉さんに言う言葉は決まりました。

「負けませんよ姉さん。

 そして・・・」

残敵の掃討が終わった彼は、次のチューリップに向って飛び立って行きます。

私は飛び去るその姿を確認し・・・

「逃がしませんからねアキトさん!!」

私は大声でアキトさんにも宣戦布告をしました。





第三十七話に続く





あとがき

やっぱりこうなりました。

アリサさん・・・やっぱりアキト君に惚れてもらいました。

そのほうが二人の違いが書き易いかな?というわけです。

この話のアリサさんは、ユリカほどではありませんが、妄想癖があります。

意外とサラちゃんのほうが現実的なタイプじゃないかな?と思ったので・・・

事実「時の流れに」でも妄想っぽいことやってますし・・・

思い込みが激しい人だそうですから、有ってもおかしくないでしょう。



私的にはアリサさんのイメージは"かっこいい女性"です。

リョーコさんもかっこいい女性"ですが、

アリサさんは女性的なかっこよさの持ち主なのに対し、

リョーコさんは男性的なかっこよさの持ち主です。

ですが実際のところリョーコさんのほうが内面は女性的だと思うのですが・・・

この二人も対比させて書きたいですね。



また、取り敢えずアリサさんもアキト君の光と闇を見ていますが、

同時に見ているわけじゃ有りません。

優しいが残酷な暗い光の視線・・・

この話のアキト君は二面性があるわけではありません。

光でもある闇を持っているのです。

ほとんどの人は、光と闇を別々に見ていますが・・・

同時に見ているのはルリ君とシュン隊長ぐらいです。

他の人も見ているかもしれませんが、理解してはいません。

ただもしかしたらミナトさんは気付いているかもしれませんが・・・