「アキト!!いくらアキトでも出撃回数が多すぎるよ!!
睡眠時間も少ないじゃない!!」
「・・・大丈夫だよ、これくらい・・・
ブラックサレナもあるし、
睡眠時間も、あの頃に比べれば・・・
それに俺が出ないと戦線の維持が出来ないだろ?」
ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
第三十八話 中将
「・・・どうしてそんなに自分を追い込むのよ。
私に理由くらい教えてよ」
「理由、か・・・
別に自分を追い込んでるつもりなんて無いさ。
いつか言わなかったか?
俺は俺の目的のために生きてるって。
これはそのための布石・・・
余程の理由がない限り・・・引く事はできない」
「でも・・・戦うのは軍の仕事でしょ?
何かどうしてもアキトが戦わなきゃいけない理由があるの?」
「さっき言ったろ?
軍に戦線の維持ができるのなら・・・
街を、一般人を完全に守れるのなら、俺は引くさ」
「そんな・・・」
「じゃあ、次の出撃があるから」
・・・軍はそれほどに無力なのでしょうか?
彼もその一般人の中の一人だというのに。
私は彼の事が気になって仕方がありません。
「アキトさん!!
今日も厨房に立つんですか?」
「ん?
ああ、俺の唯一の趣味みたいなものだからね」
「どういった経緯で、アキトさんが厨房に立つ様になったのですか?」
「・・・言っただろ、俺の趣味だって、
頼んだんだよ。
やらせてくださいってね。
幸い俺の味付けはここの人たちの口にあったみたいだから、
そのまま俺がやる事になってさ。
アリサちゃんにも趣味の一つや二つあるだろ?
俺は・・・料理をしてると落ち着くんだよ。
言ったけ?
俺、本当はコックになりたかったんだ、
料理をしてると、その頃に戻れるんだよ、全てを忘れてね」
「・・・なんで・・・そこまでして戦うんですか?
アキトさんの腕なら・・・十分コックとして生きていけるじゃないですか」
「ははは、サラちゃんにも同じようなことを聞かれたよ。
何でそこまで自分を追い込むのかって」
「姉さんに・・・ですか?
で・・・なんでですか?」
「俺は俺のために戦う・・・
今はたまたまそれがアリサちゃんの道と同じ方向にあるだけさ」
そう言って不思議な笑みを浮かべるアキトさん・・・
そんな彼に・・・
私は彼に惹かれています・・・恐い程に。
私は二つの手紙を机に置くと、
"彼"に思いを馳せた。
サラとアリサの変化といい・・・
彼には何か不思議な力でもあるのだろうか?
「・・・自分の信念を貫く・・・か、
その道は苦しいよ・・・テンカワ アキト君」
最も理解して欲しい人に、自分の道を理解されない事もある。
そう、他ならぬ私のように・・・
彼の戦闘結果は誰もが知る事が出来る。
しかし、その戦闘映像はネルガルとの契約で見る事が出来ない。
その為に彼の存在を疑問視する軍人は多い。
実際、私も彼の戦闘を見た事は無い。
彼はカスタムメイドのエステバリスに乗り、
ネルガルの開発した特殊な武器を用いて、チューリップの破壊を行なう。
それならば、その武器を大量生産をすれば?
私はその意見を連合軍本部に打診した。
しかし、連合軍本部からの返信は意外に素早く・・・驚愕に値するものだった。
連合軍の要請を聞いたネルガルは、その武器のサンプルを軍に送った。
一言、使いこなせるのならば生産しましょう、とメッセージを添付して。
そして、そのサンプルの仕様説明を見たテストパイロットは・・・こう呟いた。
「自分は自殺願望者ではありません」
・・・己を守る防御フィールドすら攻撃に転換する武器。
それが彼の武器だった。
ならば、彼のカスタムメイドエステバリスは・・・
それも無理だった。
興味を持ったアリサが試しに乗ってみた所、
あまりの操作性の複雑さに、動かす事ができず、
リンク係数を上げたらコントロールが効かずに暴走し、
なんとか制御下に置いたら、今度は、
その出力の五十%も出さないうちに、Gで気を失ってしまったそうだ。
ほとんど欠陥兵器・・・
その欠陥品を、自在に操る男・・・
生と死が紙一重の戦場で・・・
更に生存の確率を削りながら戦う彼。
その凄まじい戦闘能力と引換えに、常に己の命を賭け事のチップとしている。
何が彼をそこまで駈り立てるのか?
彼の"目的"とは何なのか?
私自身も彼への興味は尽き無かった。
そして、二人の孫娘の手紙に書いてある共通事項は、
「彼の出向期間はいつまでなのですか?」
彼を・・・軍が手放す事があるのだろうか?
その圧倒的な戦闘能力。
作戦行動を見ても欠点を見付ける事が出来ない。
そう、彼は信じられない事に現地の隊長の指示では無く。
自分の考えで作戦を実行している。
彼は・・・隊長クラスに与えるには大き過ぎる戦力だからだろう。
その為に、軍の人事部が隊長に命令権を渡していない。
私ですら・・・許可が出るのは怪しいかもしれない。
しかし・・・一つ確信できる事がある。
彼に命令できたとしても・・・
彼が必要ないと判断したら、彼は決して動かないだろう。
それは命令できないのと変わらない。
ならば何故?
彼は軍の作戦の手伝いをするのだろうか?
彼に対する疑問は増えるばかりだった・・・
そして・・・孫娘たちからの質問の答え・・・
それは・・・
「彼がここでやりたい事が終わる・・・
もしくは他に急を要する自体がおきるまで・・・」
そうとしか言いようがない。
仮に西欧方面の全軍を引っ張り出しても、
彼を止める事はできない。
そのときは・・・私の権限で、彼を自由にしてやろう。
サラを、我々を救ってくれた・・・そのささやかな礼として。
次に彼の部隊の隊長からの報告書に目を通す。
プライベートな時間にまで、部下の報告書を読んでいる自分に自嘲する。
息子夫婦が亡くなっても私は軍人らしい。
軍人である事を恥じた事は無い。
ただ・・・息子に最後まで理解されなかった事だけが悲しい。
「報告書 No.258 2197年11月01日
報告者 第三部隊 隊長 オオサキ シュン
2197年10月31日 AM 03:42 の戦闘報告
戦果 チューリップ 五つ
無人兵器 測定不能
被害 特になし
備考 軽傷者が数名。
死者は無し。 」
・・・どう反応すればいいのだろうか。
つい数ヶ月ほど前までは、考えられなかった報告書だ。
しかし・・・この報告書に一番貢献・・・
いや、この報告書をほとんど一人で作った人物の名が、世間に出る事はない。
全ては連合軍の功績として記録されていくのだ。
・・・彼は、その事をどう思っているのだろう?
実績だけで行けば、彼は少佐か中佐・・・
いや、彼の戦力を自由にできるのなら、
連合軍本部は将官クラスの地位を用意するだろう。
准将か少将・・・
「十代の少将殿・・・か、前代未聞だな」
だが、軍部は与えるだろう。
彼にはそれだけの価値がある。
だが、彼は民間人だ。
私たち軍人が守るべき人なのだ。
それが・・・軍が逆に彼に守られている。
「情けないものだな、我が軍も・・・」
サラの手紙によると、彼は戦いたくて戦っているわけではない。
軍が確りすれば彼は戦わなくてすむのだ。
そして、その隊長からの嘆願書に目を通す。
現在自分は自己嫌悪に陥っています。
民間人に助けられなければ勝てない軍に、存在価値はあるのでしょうか?
彼が軍人ならば自分は彼を誇りに思います。
しかし、彼は民間人なのです。
一度、彼を軍に誘いました・・・
「おい、アキト・・・お前はどうして軍人にならなかったんだ?」
「・・・どうしてだと思います?」
「いや、そう聞かれても俺には答える事はできんぞ」
「はぁ、サラちゃんにもアリサちゃんにも同じような事を聞かれましたよ。
俺は・・・俺の守るべき者の為・・・俺の目的のためにしか戦わない。
だから・・・
軍の・・・他人の都合で戦場に立つつもりは微塵も無い!!
軍人を・・・理解はできる。
軍人にだってあなたみたいに立派な人もいる事も解っている。
だが・・・"軍人"としての生き方に賛同はできない。
そういう意味で、あなたは嫌いじゃありませんよ。
良くも悪くも、"軍人"っぽくないところが、
それに・・・俺が一番嫌いなものは・・・
俺が認めたくないものは・・・」
「・・・ものは、何だ?」
「俺の一番嫌いな物・・・それは、昔の自分・・・
軍人は・・・
見ていると・・・怖いんですよ。
昔の俺を思い出すんです。
時々・・・そんな軍人を見ていることに耐えられなくなるんですよ。
殺したい・・・ばらばらにして・・・全てを消したい・・・
軍人と名がつく・・・全てを・・・
そして・・・目に映る・・・全てを・・・
何より・・・自分自身・・・過去の自分を・・・」
あの時、彼の発する鬼気に自分は動けませんでした。
彼の過去を自分は知りません。
また、知りたいとは思いません。
ただ、自分は一人の人間として彼の解雇を嘆願します。
未だ若く未来ある彼を潰す可能性がある軍に、彼は置いておけません。
戦力としては大幅な低下ですが。
ネルガルの新造戦艦の参入で大きく戦況は変りつつあります。
この西欧方面の戦況も大きく変るはずです。
自分の嘆願が通る事を切に願います。
「テンカワ アキト・・・か」
孫娘達とこの部隊長の手紙を読む度に・・・
私の中での彼の人物像は揺らぐ。
我が身を削り、軍人を含む民間人を守り、
厨房では楽しそうに料理を作り、
そして、我が身の狂気を恐れる。
お人好しであり、責任感が強く、素直である。
気高く、好戦的で、狂気を纏う。
意志が強く・・・優柔不断である。
全てを否定し、全てを受け入れる・・・
覇王を目指し、英雄としての道を進む・・・
その相反する感情を胸に彼は戦い続けている。
その相反する世界に・・・彼は居る。
息子の目指した夢を胸に抱きつつ・・・私と同じ道を歩む・・・
全てがばらばら・・・アンバランス・・・か。
あの部隊長が言っていた通りだな。
何が彼を戦いに駆り立てる?
私の先祖はこの土地を・・・家族を守る為に軍人になった。
だから私も軍人になった。
私は軍に一生を捧げた・・・
だからこそ、強く生きて来れた。
だが彼は?
彼は何を求めて戦場をさ迷うのだろう?
民間人を守る為か?
それだけとは思えない・・・
彼にも何か心に秘めたモノがあるはずだ。
自分を強く保てる何かが。
彼の目的・・・
ここに居るのはその布石・・・
ここを守る事が、将来彼のためになる?
・・・彼は・・・何を見ている?
そして・・・何が見えているんだ?
「さて、来週には噂の彼に会えるのかな」
・・・さて、私は彼に会いたいのだろうか?
彼が居る・・・ただそれだけで、
この西欧の運命を動かした・・・
彼に会う・・・それだけで、もう引き返せなくなるのかもしれない。
彼の織り成す、運命の歯車に組み込まれて・・・
彼にあっただけで・・・全てを覆されそうで・・・
時代の鍵を握る物・・・
そして・・・
「全てを手に入れた為、全てを失った者・・・」
最初のあの部隊長からの手紙にあった文・・・
意味不明な文だが・・・どうにも頭に引っかかる。
「何れにせよ、会ってみなくては解らぬ・・・か」
第三十九話に続く
あとがき
短いですね・・・今回。
しかも、ほとんど「時の流れに」のままですね。
特にこれといって書くことはありません。
と、言うより、
手の加えようが無いんですよ、この話。
イベント自体少ないですし・・・
ただ・・・
「全てを手に入れた為、全てを失った者・・・」
この文は個人的に気に入ってたりします。
昔書いていた小説の主人公の二つ名です。
まあ、その和訳ですが・・・
"Reap so lose"
アキト君っぽい雰囲気の名前かなぁ・・・と。