「ルリルリ、どう?元気・・・じゃないから入院してるのよね」
「ミナトさん・・・
すいません、
迷惑かけて・・・」
「いいのよ、アキト君のため・・・でしょ?」
「・・・はい」
ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
第四十話 実験
「・・・ねえルリルリ?」
「なんですか?」
「・・・あなた・・・アキト君が西欧に行く事知ってたの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「知ってたのね」
「すいません」
「いいのよ、誰にだって秘密の一つや二つあるんだから」
「・・・・・・・・・・・・」
「あなたたちの目的って・・・本当に"私たちを救う事"なの」
「はい・・・って・・・言ったんでしょうね、
この間までなら・・・」
「?」
「アキトさんは・・・多分そう考えてます。
でも・・・私は・・・
アキトさんと一緒に生きていきたいんです。
アキトさんと、同じ夢を見たいから、
アキトさんに、私と同じ夢を見て欲しいから・・・
多分・・・皆を助ける事は・・・その次です」
「ふ〜ん・・・ルリルリも成長したわね」
「え?どういう・・・」
「ルリルリって、アキト君の後ついていくだけで・・・
恋人って言うより、妹みたいだったもの」
「妹・・・ですか?」
「そう、妹。
あ、それと・・・これアキト君からの手紙・・・
じゃあ、ゆっくり休みなさいね、
じゃあね」
「ふう・・・もう大丈夫ね、
できればもう二〜三日様子を見たいけど、
退院したいなら退院してかまわないわよ?
どうする?」
「退院します」
「そ、じゃあこの書類にサインして、
プロスさんそういうのに煩いから。
ああ、それと今日までは休暇扱いだから、
仕事は明日の朝一からね、
じゃ、お大事に」
そう言って医務室からでようとするイネスさん。
「どこに行くんですか?」
「私も色々と忙しいのよ。
私としては、もっと簡単な方法を取りたいんだけど・・・」
「どう言う事ですか?」
「アキト君もだけど・・・あなたも、謎の多い人だからね」
「・・・・・・・・・・・・」
「色々と難しいのよ、
大人の世界は」
そう言ってイネスさんは、今度こそ本当に医務室から出て行く。
ネルガル・・・ですか。
今までは単純に味方だと思ってましたけど・・・
でも最初のときもネルガルとは決別しましたし・・・
アキトさんとも相談したいですけど・・・
ネルガルのコンピュータに侵入してみましょうか。
「ルリちゃん」
医務室で荷物をまとめていると、
ユリカさんが入ってきました。
「どうしたんですか、ユリカさん?」
「・・・ごめんね」
・・・はい?
何で・・・
そういえばユリカさんとは喧嘩していたんでしたね、
ま、まぁ今更態度を変えるわけにもいきませんね。
「良いですよ」
「・・・そう」
「あの〜、どうしたんですか?
元気がないようですけど・・・」
「・・・ルリちゃん」
「なんですか?」
「ルリちゃんは・・・
ううん、なんでもない、
じゃあね」
・・・?
一体・・・
「で・・・答えは決まったみたいね、艦長?」
「・・・質問・・・良いですか?」
「何かしら?」
「アキトは・・・私がその実験に参加したら、
アキトの役に立った事になるんですか?」
「あなたはアキト君のためにナデシコに乗ってるの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「まぁいいわ、
で・・・質問の答えだけど、
アキト君のためになる・・・わね」
「アキトは・・・何でアキトはあなたたちに、
その・・・"ジャンプ技術"を教えないんですか?」
「さぁ、解らないわね、
自分だけができる技術にして、
英雄にでもなりたいんじゃない?」
「英雄・・・」
「そ、英雄。
でも・・・戦時中の英雄は、平時の厄介者って相場が決まってるのよね。
戦争が終わったら、どうなるかしらね、
鯨と英雄は死んでから使い道があるって言葉もあるぐらいだし・・・」
「死ぬ?アキトが・・・死ぬ?」
「殺されるか・・・少なくとも、ジャンプ技術のモルモットか・・・
未来は暗いわね」
「死ぬ・・・アキトが・・・アキト・・・アキト・・・」
「それに・・・
このままじゃアキト君を取られちゃうわよ」
「駄目!!駄目!!駄目〜〜〜!!
解りました、
私実験に参加します」
「そう、それは良かったわ、
じゃあこの書類に・・・」
「解りました」
トントン
部屋でネルガルのコンピュータをハッキングしていた私は、
ノックの音に急いでウインドーを閉じる。
「ハイどうぞ」
プシュー!!
入ってきたのは・・・プロスさんだった。
さて、どうしましょうか・・・
「何のようですか、プロスさん」
「いえ、ちょっとお話を・・・」
相変わらず微妙な笑みを浮かべながらそういいます。
「お話・・・ですか?」
「ハイ」
そういうと、プロスさんの顔が変わる・・・
ただのまじめな話をするときの顔でも、
交渉するときの顔でもない。
プロスさんの裏の顔・・・
ネルガル最強のSS・・・プロスペクター・・・
「ボソンジャンプ・・・という物をご存知ですよね」
直球で来ましたね。
プロスさんは変化球のほうが好きですから、
裏を取って変化球で勝負したかったのかもしれませんが、
本来なら知らないはずの事ですからね、
裏が取れず、はったりだけで勝負するよりは、
直球で・・・とでも思ったのでしょう。
誤魔化せばそれまでですが・・・
話に乗っても良いかもしれませんね。
データだけでは見えない何かが見えてくるかもしれません。
いろいろと考えましたが、それはほとんど一瞬の事でした。
「ええ、知っていますよ」
プロスさんの顔色をうかがいながら答える・・・
ですが、流石に私に見て取れるような変化はない・・・
アキトさんなら微妙な変化を感じ取れるのかもしれませんが・・・
「そうですか・・・
では・・・」
「ただ、簡単な技術ではありませんよ。
特に、有人ボソンジャンプ実験は止めたほうが良いですね」
「そうですか、ですが・・・」
そう言って持っていたかばんを開くプロスさん。
「ですが・・・なんですか?」
「実は、先日このようなものを拾ったのですが・・・」
こ、これは・・・
ウリバタケさん、こういうものはちゃんと処分してください。
「・・・これが何か?」
「あなた方は、個人レベルでの有人ボソンジャンプを、
成功させているのでしょう?」
アキトさんがジャンプした時の映像もありますしね、
プロスさんが勝算も無しに動くはずがありませんでしたね。
「ええ、ですが誰でも自由に・・・という訳にはいきません」
「ほう」
「で、それだけですか?」
だからどうしました?というふうに、
なるべくそっけなく切り返す。
微妙ですからね・・・
ネルガルに有人ボソンジャンプの技術を与えると、
ネルガルが暴走するのは目に見えています。
かといって、ネルガルが完全にボソンジャンプ実験を中止したら、
白鳥さんたちがいつ来るかが解らなくなってしまいます。
ですが、有人ボソンジャンプ実験は中止してもらいたい・・・
できるだけ人を助けたい・・・それがアキトさんの望みだと思うから、
アキトさんならそうすると思うから。
「・・・なぜ誰でも自由に・・・とはいかないんですか?」
そういえば・・・
「その質問の前に一つ良いですか?」
「ええ、もちろん質問にもよりますが」
「なぜ"あなたが"このようなことを聞きに来るのですか?
イネスさんやエリナさん、アカツキさんが来るというのなら解りますが」
「会長についてもご存知で・・・
そうですな、テンカワさんはご存知だったわけですから、
ルリさんがご存知でもおかしくありませんな」
「質問に答えてください」
「・・・ネルガルも一枚岩ではないという事ですよ」
「・・・と、言うと?」
「これ以上は・・・」
「それだけの情報で、私に協力しろと?」
「そうですな、ちょっと虫が良さ過ぎましたか。
では・・・
まぁいいでしょう。
では、テンカワさんに宜しく」
・・・どう言う事でしょうか?
ネルガルも混乱しているようですね・・・
調べて、アキトさんに・・・
いえ、アキトさんに負担をかけたくありません。
多少のことなら、私の一存で決めてしまいましょう。
トントン
・・・プロスさんが帰って暫くして、
まただれかが来ました。
千客万来ですね。
「はい」
入ってきたのは、ウリバタケさんでした。
「どうしたんですか?」
「いや、テンカワに言われて作ったあのエステだがよ」
「・・・何か問題が?」
「・・・なんでジュンがあのエステのパスワード知ってるんだ?」
「・・・あれは元々ジュンさん用ですから」
「どう言う事だ?」
「そのままの意味です。
あれは初めからジュンさん用にと思って、
開発をお願いしたんです」
「なら、何でその事を言ってくれなかったんだ?」
「・・・すいません」
「・・・まあいいがよ、
だがよ、一つ聞かせてくれ。
テンカワはどこであの技術を手に入れたんだ?
あのエステに他にも色々と・・・
少なくとも二年近く先行してるぞ、あれは」
「・・・でしょうね」
「でしょうねってどう言う事だ?」
「あの技術をどこで手に入れたのかは聞かないで下さい。
ただ・・・あの程度で驚かれては困ります。
もっととんでもない技術もありますから」
「・・・オメェーら一体何者だ?」
「・・・味方です。
それで十分ではないですか」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「解ったよ」
「じゃあ・・・」
「テンカワの奴が帰ってきたら、直接問い詰める」
・・・仕方がないのかもしれませんね。
すいません、アキトさん。
「ルリちゃんへ・・・
ごめんルリちゃん、
せっかくルリちゃんが俺のためにオモイカネをとめようとしてくれたのに・・・
それと・・・もう二度と、あんな危ない事をしないでくれ、
フルコンタクトは危ないって言ったのはルリちゃんじゃないか!!
ま、俺も人のことは言えないんだけどね?
でも・・・久しぶりにルリちゃんがわがままを言ってくれてうれしかった。
ルリちゃんは少女なんだから、
もう少し自分のやりたいようにやるべきだよ。
ま、やりすぎても問題だけど・・・
とにかくルリちゃんが俺のためにやってくれたのは嬉しかった。
でも・・・俺はどうしても西欧へ行かないといけないんだ。
あそこにも俺の大事な人がいるから・・・
俺が助けたいと思う人がいるから・・・
もしかしたら俺が行かなければ、
その人たちが危険になる事はないかも知れないけど・・・
俺に黙って見ている事はできないんだ。
ナデシコの事はルリちゃんに任せます。
まあユリカに任せておけばナデシコが沈む事はないとは思うけど・・・
後ルリちゃんが起きる頃にはジュン専用のエステが完成しているはずだ。
頑張ってね。
俺は必ずナデシコに帰ってくる。
信じて待っていてくれ。
テンカワ アキトより」
・・・アキトさん。
そうですよね、私にとっては見知らぬ人でも、
アキトさんにとっては大切な仲間なんですよね。
・・・すいません。
早く帰ってきてください。
あんたの隣が・・・私が一番私らしくあれる場所なんですから。
「やあ、イネス博士、
元気かい?」
「・・・何かしら、こんな所に呼び出して」
「・・・テンカワ君」
「・・・アキト君がどうかしたの?」
「ああ、彼に付けたスパイから面白い物が届いたんでね」
「スパイ?」
「そ、ミスターが独自に・・・
彼はテンカワ君を警戒しているからね」
「ふ〜ん・・・それで?」
「・・・で、実はその報告書がここにある」
「・・・いいのかしら、プライベートを覗いて?」
「良いんだよ、会長とか会長秘書とかにそんな常識は通用しないんだ。
奇麗事だけでわたっていけるほど、この世界は甘くないんでね」
「・・・まあ良いわ、で・・・何が書いてあったの?」
「やっぱり気になるのかい?」
「良いから早く見せて」
「はいはい」
「・・・ブラックサレナ?」
「そう、差し出し人不明のエステバリスの追加装甲」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「・・・これは、本当にこのデータで合ってるの?」
「誰かが僕を騙そうとしていない限りね」
「・・・・・・・・・・・・」
「イネス博士の意見を聞きたい。
ナデシコの設計者にして、
相転移炉やグラビティ・ブラスト開発の第一人者としての意見を」
「アキト君が何らかの形で関わってるとしか言いようがないわね。
小型相転移炉・・・この出力、この安定性、
この徹底的に突き詰められた駆動系。
さらにこれは・・・ジャンプフィールド発生装置?
単体でのジャンプも可能なの、この機体は?
他にも・・・オプションパーツ?
面白い機体ね、実用性よりいろいろな技術を詰め込んだような・・・
もしかしてテスト機?
だとしても・・・最低でも五年以上先行してるわよ、これは」
「他には?」
「解らないわね、実物を見ればもう少し解るかも知れないけど・・・
データだけじゃ・・・ブラックボックスの固まり・・・としかいえないわ。
中には本当に正体不明の技術・・・
レベルがどうこう言う問題じゃないわね」
「ふ〜ん・・・で、どうするんだい?」
「面白そうね、
ちょっとこれについて調べてみるわ」
「ジャンプ実験のほうはどうするんだい?」
「後でもいいでしょう?
契約はもうしているんだし、
いつでもできるはずよ?」
「そうか、エリナ君が怒るだろうけど・・・
まあ良いか。
準備その他色々と時間もかかるしね」
「それに・・・ちょっと改良したい事があるって言えば良いんじゃないかしら?
彼女に技術的知識があるとは思えないから、
私が何をしているか解らないはずよ?」
「はぁ、役員たちを説得するのは難しそうだけど・・・
どうするかね、エリナ君には頼めないし、
しかし・・・ミスターも、面白い物を見つけたね、
流石・・・といったところか。
いい事なのか悪い事なのか解らないけどね」
第四十一話に続く
あとがき
色々な事が同時進行しています。
アカツキは何を考えているのか、
軍の動きはどうなるのか?
プロスさんも色々と独自に動いているようですし・・・
ルリ君はどう動くか、
イネスさんは?
ウリバタケさんは・・・
さてさて、どうなる事やら。