「敵戦力の報告をします!! チューリップ二機、無人兵器が約四百です!!」
「よし!!エステバリス隊は無人兵器の破壊に集中!!
チューリップはアイツに任せる!!
地上兵器、空戦部隊はエステバリス隊の援護!!」
ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
第四十二話 戦神
ふ〜ん、ここが司令室ね〜。
「アリサ機が戦闘に入りました!!
・・・続いて後続のエステバリス部隊も戦闘に入ります!!」
お、サラちゃんも頑張ってるな、
さて、俺は俺の仕事をするか。
チュドドドドォォォォォォォォォォンンンン!!!!
・・・もう撃破したのか、
女も戦闘も、手が早いな。
まぁ、俺はそのほうが面白いから良いんだけどね。
「空戦部隊はどうした?」
「フォーメーションを維持しつつ、無人兵器と戦闘に入ります!!」
「カズシ、地上兵器の配置はどうだ?」
「一応やっています。
間に合わないとは思いますが・・・」
「それでもアイツは軍属ではないんだ。
俺達は俺達の仕事をするまでだ」
「了解」
そこまで聞いて、モニターに目を移す。
お、これがアキトの戦闘シーンか。
やっぱり生で見ると迫力が違うね。
「・・・ヤガミ君、君の仕事はガードじゃないのかね?」
・・・声をかけないで下さいよ。
アキトに気付かれたら・・・
まぁ、声をかけてこないところを見ると、
通信は繋がっていないようだが・・・
「いやいや、お届け物をしに来ただけですよ。
それに、噂の"漆黒の戦神"テンカワ アキトの戦闘ですよ?
これは見ないと損じゃないですか。
タダでさえ戦闘シーンは公表されてないんですしね」
「お届け物?」
「そ、サラちゃん、これお祖父さんから」
といって婚姻届を渡す。
「これは・・・」
「アキトとの婚姻届だ。
男にとっては・・・薔薇色の鎖とも人生の墓場への切符、とも言うな」
「ね、ね、ね、姉さん!!」
「何ですか、アリサ中尉。
なお、戦闘中の私語は禁止されてます」
うんうん、修羅場だな、
さてさて・・・どうなる事やら。
「そう言う些細な問題じゃないです!!」
「あ〜大丈夫だ、アリサちゃん、君の分もあるから」
「そ、そうですか・・・」
「あ、そうだ」
ピッ!!
「アキト」
「・・・なんだ?」
「ねえねえ、帰ってきたら見せたい物があるの」
「・・・そこにナオさんはいるな、
いや、いるのは解っている。
後で・・・お手合わせ願います」
「い、いや・・・遠慮する」
今の内に逃げよう・・・
が、
「・・・どう言う事だ?」
「い、いや〜、俺はただ頼まれて、
アキト(以外(ボソッ))の署名入りの婚姻届を持ってきただけで・・・」
「何〜〜〜〜〜!!」
「おい、アキト、どういう・・・」
「・・・こちらテンカワ機、
一分以内に終わらせる、邪魔をするな」
「じゃ、じゃあ、俺はこれで・・・」
ズゴォォォォォォォォォォン!!!!!
ドゴォォォォォォォォォンン!!!!!
ズゴォォォォォォォォンンン!!!!!
「て、敵殲滅を確認・・・」
「一分どころか三十秒も経ってないんだが・・・」
「いつにもまして早いですね」
「・・・ヤガミ君、俺を巻き込まないでくれ」
「う、ここにいれば安全かと・・・」
「・・・総員退避、この男から離れろ!!」
「イエッサ〜!!」
・・・ノリがいいな、この上官にしてこの部下あり・・・か。
「か、軽い冗談のつもりだったんだよ!!」
「・・・」
「む、無言で睨むなよ、な?
俺が悪かったからさ!!」
「・・・」
「こ、こっちに来ないでくれ〜〜〜〜」
「・・・なら」
「な、なら?」
「皆にちゃんと説明してください」
「わ、解った・・・」
「後、あの二人にも・・・」
「そ、それは・・・」
「してくれますね?」
「・・・解りました」
あの後ナオさんはアキトと何かあったみたいだけど、
特に怪我することなく帰ってきた。
・・・ちぇ!!
「サラ、私としては好都合なんだけど、
テンカワ君もいることだし、その顔は止めたほうが・・・」
「え?」
見るとアキトが引きつった笑いを浮かべながらこっちを見ている。
「あ、アキト、今のは別にそんな意味じゃなくて・・・」
「そ、そう。
なら今の顔は止めてくれないかな・・・
ちょっと昔・・・」
あのアキトが青い顔をしている。
そんなに嫌な思い出が?
・・・気になる。
そういえば、レイナ、
私にとっては好都合って・・・
そう・・・レイナ、あなたも私の敵なのね。
「そういえばアキト、
この書類・・・」
アキトの額に冷や汗が浮かぶ。
「姉さん、抜け駆けは無しよ!!」
「そ、それは・・・」
「そんなに嫌なの?」
首を傾げつつアキトの顔を覗き込む、
お爺様やパパにこれを使うと、
大概のことは聞いてくれたんだけど・・・
「アキトさん!!」
となりでアリサが激しく詰め寄る。
ふふふ、アリサ、北風と太陽の話を知ってる?
「ナオさん」
アキトがナオさんに助けを求める。
ギロッ!!
私とアリサが同時にナオさんのほうを見る。
「・・・嫌だ」
そうそれでいいんです。
「ナオさん、約束は守らないと・・・」
「あ〜〜解った、解ったから止めろ」
・・・ナオさん?
「そうですか、
ならお願いします。
サラちゃん、アリサちゃん、
ナオさんが理由を説明してくれるから」
・・・まぁいいです。
ナオさんなら多少は無茶ができるし・・・
「・・・なんでですか?」
「い、いや・・・それは・・・」
「ナオさん、迷わず成仏してくれよ」
アキトの呟きが聞こえた・・・
「アキト〜〜〜」
「約束は守ってください」
「と、言うわけらしい、
よっぽどひどい失恋でもしたんじゃねーのか?」
そうだったんですか
"あの"アキトさんにそんな過去が・・・
姉さんが立ち上がり、アキトさんのところへ向かう。
ふふふ、姉さん、北風と太陽の話を知ってますか?
ガタッ!!
椅子が動く音に反応してそちらを向くと、
ナオさんが、懐に手を入れて静止していた。
顔はサングラスをしているので解りませんが・・・
以前いた部隊で、出撃前のあの張り詰めた空気を感じます。
「・・・関係無い、ですよ」
「・・・ま、アキトがそう言うならそうなんだろうな」
アキトさんの一言を聞いて、元の姿勢に戻るナオさん。
「アキトお兄ちゃん!!」
突然、アキトさんの後ろのほうから女の子の声が聞こえました。
そういえばナオさんって一応私たちのガードでしたね。
一応仕事"も"しているようです。
「や、やあ、メティちゃん、
久し振り・・・」
・・・?
あのアキトさんが・・・
おびえているというのが一番近いでしょうか?
強いて言えば、撃墜させれて、
軽い閉所恐怖症になった人を、
無理やりエステバリスに乗せたときの反応を、
控えめにしたような・・・
何かあったのでしょうか?
・・・まだまだアキトさんには私の知らない過去がありそうですね。
「おいおい、幾らアキトでも守備範囲があぁぁぁぁぁ!!!」
アキトさんが"軽く"ナオさんに触れただけで、
ナオさんが悲鳴をあげてのた打ち回ります。
本当にこの人は役に立つのでしょうか、お爺様?
と、言うより、アキトさんは何をやったんでしょう?
「おじちゃん、煩い」
・・・同感です。
曲がりなりにもガードなんですから、
どんなに激痛が走っても、声を上げないで下さい。
「お、おじちゃんは・・・酷い・・・な、お嬢ちゃん・・・
これ・・でもお兄さん・・・は、二十八歳だ・・・ぞ・・・」
息も絶え絶えに言うナオさん、
根性だけはあるようですね。
「私は十歳だもん!!
私から見たら二十八歳なんて、おじちゃんで十分よ!!」
その言葉を聞いて涙するナオさん。
この人って一体・・・
「・・・じゃあ、私はおばちゃんなのかしらメティ?」
「あ、お姉ちゃん!!」
そう言って私の知らない女性が食堂に入って来る。
その女性を見て・・・メティちゃんが厨房から飛び出してきた。
「済みません、妹が失礼な事を言ったみたいで」
髪の色は栗色、目の色はちょっと暗い藍色だった。
長い髪を後ろに流している・・・なかなかの美人。
年齢は二十二〜二十四くらいかな?
メティちゃんは、その女性の小さい頃を見てる様な容姿だった。
この子も将来は美人になるでしょうね。
「じゃあ行きましょうか」
「あれ?お兄ちゃん、
何でお父さんがいないのか聞かないの?」
「あ、ああ、そういえばいないね・・・」
アキトはこういうタイプの娘が苦手・・・なのかな?
元気があって活発な感じの・・・
アリサと同じようなタイプですね。
「父がこの基地への配達なら、アキトさんがいるので大丈夫だと言って。
今はいろいろと忙しいらしいので私が配達に来たんです」
「そう、俺を信用してくれてるんだ・・・
そうか・・・」
・・・暗くなりました。
でもこの女性には普通・・・私たちと同じように話してますね。
・・・この人みたいな人はタイプなのかもしれません。
私は・・・アリサやレイナと比べると近いタイプかな。
一歩リードです。
だからレイナ、その怯えた瞳は何?
「じゃあ・・・早速荷物をチェックしましょうか。
ナオさんももちろん手伝ってくれますよね?」
「・・・アキト、それは要請じゃなくて強制だろ。
解ったからその右手に持つ柳葉包丁をしまってくれ」
「そうですか・・・
いえ、なら良いんです。
ここで待っていてください。
じゃあミリアさん、行きましょうか?」
「ちょ、ちょっと待て!!
だれも手伝わないとは言っていないだろう!!」
・・・・・・・・・・・・
「サ、サラ?
あ・・・・な、なんでもない」
レイナが私を呼んだので、そちらを向くと急に黙ってしまった。
・・・用が無いんなら呼ばないで!!
そして四人は食堂の裏にあるトラックから品物を運び出す。
降ろした商品を一つ一つチェックするアキト。
その隣ではメティちゃんが嬉しそうにアキトにじゃれついている。
「・・・サ、サラ?
相手は十歳の子供なのよ、落ち付いて、ね?」
「そう・・・十歳なのよね。
十年後・・・いえ七年後には脅威になるわ」
「ちょ、ちょっとサラ!! 落ち着きなさいってば!!」
レイナの言葉を聞きながら私は状況判断に務めた。
・・・メティちゃん、これは予想外の敵ね。
アキトは、今まで私たちには見せたことの無いような反応を見せている。
意識している・・・可能性もありますね・・・
アキトはロリコンなんでしょうか?
そのお姉さんとは・・・
あの娘と違ってかなり親しげに話しています。
それに、やたらと気遣っている・・・
もしかしてあの人のことが・・・
そのとき、
「ねえねえ、君の名前は・・・ミリアでいいんだよね?」
「え?あ、はい、そうですけど・・・」
ナオさんがナンパを始めた。
ナオさんあなたって人は・・・ナイスです。
初めて仕事らしい仕事をしてますね。
「・・・サラ、その笑い方はアキト君の前でしない方がいいよ」
「え!!・・・笑ってたかしら私?」
「・・・うん」
そうなの? 全然自覚は無かったけど・・・
・・・レイナ、その気の毒そうな顔は何?
でも・・・
ミリアさんがナンパされているというのに、アキトは特に反応しませんね。
これは・・・私の思い過ごしなんでしょうか?
アキトは自分の気持ちに気付いていないだけ・・・とも考えられますが・・・
そして、さんざんアキトに甘えて満足したメティちゃんと、
とことんナオさんに付き纏わて・・・それでも余り嫌な顔をせずに対応していたミリアさんは、
夕方になってから実家へと帰って行った。
後には、泣いているような苦笑しているような、左右非対称の微妙な顔をしたアキトと、
自分の戦果(ミリアさん家の電話番号その他)に御満喫なナオさんが残った。
そしてアキトは、二人が見えなくなっても、まだそこに残っていた・・・
メティちゃんを、不思議な表情で見守るアキト・・・
無理やり表現するなら・・・
畏怖・・・かな?
何で・・・あの子を?
アキトの新しい一面を見た気がした・・・
二週間後・・・私達の部隊に一つの命令がされた。
遊撃部隊としての各地への出撃。
部隊名は"Moon Night"
月・・・これはアリサを表している。
しかし月夜・・・
これは・・・
アリサを、私達を包み込み守護してくれる漆黒の存在を表している。
私達はそう考えた。
アリサも同意見だった。
自分が彼に対する鎖みたいに見られていて嫌です、と言っていたけど。
でも、彼はやっぱり、
私達に付いて来ると言っていた。
私は、そう信じていた。
そういう人だもの・・・
とは言うものの、アキトが本当は何を考えているか、
だれにもわからない・・・
もしかしたら、ナデシコのクルーにはわかるの?
・・・アキトは・・・何を求めているの?
御免ねメティちゃん・・・アキトを連れて私達はここを去るわ。
こんな形でアキトと別れるなんてね。
本当に御免・・・最後に会った時にアキトに泣き付いてた姿が忘れられない。
でも絶対に、ここにまた帰って来るから・・・私達もアキトも・・・
絶対に、連れて帰ってくるから・・・
それまでは・・・さようなら、ね。
私はアキトをずっと見詰めていたい・・・
だれよりも不器用で誰よりも優しくて、だれよりも謎が多い人だけど。
出来れば一番近くで・・・
だれよりも長く・・・
この碧の瞳で・・・
彼を・・・
第四十三話に続く
あとがき
自分が殺してしまった人と出会ったらどうするでしょう?
単に幽霊に会ったと言うのなら、(単に?)
まだ解るのですが・・・
なんとも収まりがつかないというのが、今回のアキト君です。
守りたい気持ちと、近寄りがたい気持ちと・・・
神聖な物に対する反応に近い・・・と、思うのですが・・・
まぁ、人を殺した事も、その人にあったことも無いので、解りませんが・・・
やっぱり、畏怖・・・が一番近いと・・・
また、ミリアさんに対するアキト君の気持ちも微妙な物があります。
なんと言ってもこの話のアキト君は「時の流れに」を経験したアキト君ですから、
ミリアさんには逆らえないでしょう。
メティちゃんにも逆らえませんが、ちょっと違う・・・
ミリアさんの場合は、
・・・強いて言葉で表現するなら・・・陶酔・・・している人の反応でしょうか?
陶酔とは、全然違いますが、
反応は同じではないかと・・・
ルリ君とハーリーの関係を、極端にしたような・・・
ミリアさんは、アキト君がなぜこういう反応をするのか知りません。
「時の流れに」のミリアさんなら、
アキト君を気遣うでしょうが、この話のミリアさんは解っていませんし・・・
また、それをいい事に・・・などはしないタイプですし・・・
難しいです。
アキト君は、ミリアさんが望めば、なんでもしてくれる・・・
まぁ、あの人がアキト君に特に何かを求めるとも思えませんが・・・
しかしアキト君。
完全にナオさんを使いこなしています。
こういう役の人が一人ぐらいいてもいいかな・・・と。
人間関係・・・特にこういう人間同士の関係は、
先に尻尾をつかんだ人の勝ちです。
何か大事件でもない限り主導権を握られっぱなしです。
アキト君にとっては、知っている人ですから、
簡単に主導権を握れるでしょう。
さて・・・メティちゃんは一体どうなるのでいたしましょうか?
殺してしまうのも面白くないですし・・・
かといって生かしておいては、話が先に進みにくいですし・・・
まぁ、いろいろと考えてはいるのですが・・・
書きたいネタもありますし・・・
期待せずに待っていてください。
代理人の感想
メティちゃんを「生かしておいては」などというあたり、
こっそり大蒲鉾菌に冒されているのではないかと思う今日この頃。
引き返せ、今ならまだ間に合う(爆)。