「これは・・・

 ユリカさんが?

 前は確かアキトさんが・・・

 アキトさんは、西欧のほうで手一杯でしょうから、

 できれば、私一人で処理したかったんですが・・・」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第四十四話 混沌





これは知らせ無いといけないでしょうが・・・

直接連絡を入れるわけには行きませんよね・・・

でも・・・やはりラピス経由でしょうか?

取り敢えず、手を打って、アキトさんには事後報告を・・・

"ラピスには、まだ全てを話す訳にはいかない・・・"

確か、アキトさんはそう言ってましたよね・・・

・・・アキトさんに来てもらいましょう。

予定より早く話を進めたほうがいいかもしれませんね・・・

それもアキトさんに相談しましょう。





「総員、戦闘配置!!」

・・・ユリカさん、今日は元気ですね。

何が・・・

やはりあのジャンプ実験が何か関わってるんでしょうか?

「艦長、元気になりましたよね」

「吹っ切れたのか、壊れたのか・・・

 ちゃんと道を見つけたんなら良いんだけどね・・・」

道・・・ですか、

ユリカさんは、道を見つける天才ですからね。

どんなときでも前向き、天真爛漫、それがユリカさんです。

「ミナトさんはどう思ってるんですか?」

「私?私はもう少し様子見かな?

 アキト君の事だもの、用事が終わったらすぐに帰ってくるわ。

 それに、艦長が吹っ切れたんなら、

 ついていくべきか見捨てるべきか、決めるのは今から・・・じゃない?

 そういうメグちゃんはどうなの?」

「私ですか?私はジュンさんと・・・」

「ジュン君しだい・・・か。

 ジュン君はネルガルにはつかないと思うけど・・・

 でも、やっぱりそれもアキト君の"目的"しだい・・・か」

「・・・・・・・・・・・・」

アキトさんの目的・・・

やっぱり"ついこの間まであったことも無い人"を

"守る事"が目的だって言われても、

信じてくれませんよね・・・

「ルリルリは?ルリルリはどうするの?」

「え?

 私ですか?

 私はユリカさんを信頼してますし、信用してますよ」

「そう、

 ・・・ねえ、

「ルリルリってナデシコに乗る前に艦長と会った事があるの?」

「なんでですか?」

「初めて会った・・・とは思えないのよ、

 だってそうでしょう?

 艦長を初めから信じきってるんだもん」

「・・・やっぱり、解りますよね、

 はい、あった事はありますよ、

 ユリカさんは覚えていませんが」

「・・・みたいね。

 で・・・ルリルリと艦長の関係って?」

「そういえば聞いたことありませんよね、

 艦長とアキトさん、アキトさんとルリちゃんの関係は聞きましたけど・・・」

「・・・私の尊敬する人・・・です」 

「尊敬する人・・・ね、

 でも、ルリルリは今のままのほうがいいわよ?

 下手に艦長みたいになるより、ずっと魅力的よ」

「そう・・・ですか?」

「そうよ」

「・・・・・・・・・・・・」

多分私は真っ赤になっていると思います。

「ルリルリかーわい」

そんな・・・ミナトさん!!

「コラー、作戦行動中はまじめにやってください!!

 ルリちゃん、グラビティ・ブラスト発射!!」

「了解」





私らしく、

私が私でいられる場所。

それが私がナデシコに乗った理由。

私は、私がアキトと一緒に楽しく暮らせる世界を創るために戦う。

私はアキトと・・・

私にしかできないこと・・・私が、私であるために・・・





「そう、じゃあそういうことで」

ふう、ラピスに伝言を頼みましたし、

これだけ厳重にプロテクトをかけていれば、

ユリカさんやアカツキさん、フィリスさんにも

何をしたのか解らないはずです。

もし解っても、人間開発センターと連絡しただけですからね、

昔の知り合いと話しただけ・・・

特に怪しまれるはずがありません。

さて・・・

アキトさんが来るのは昼前ですか・・・

便利ですねジャンプは・・・

だからアキトさんや、ユリカさんは、皆に狙われるんです。

A級ジャンパー・・・アキトさんが、ナデシコに乗らなければ、

歴史の表舞台に出る事もなかったのかもしれませんが・・・

・・・アキトさんが、いなければ、ナデシコは最初の戦闘で、落ちていたわけですから、

私は・・・ユリカさんやナデシコは死ぬ事に・・・

アキトさんは・・・

そんな事考えている暇はありませんでしたね。

さて・・・朝食の前に、もう一仕事しなければいけません。

ボソン反応を無視するようにオモイカネに言っておかなければ・・・





ふふふ・・・遂にやったわ、

これで、ジャンプ技術を・・・

有人ボソンジャンプの手がかりをつかむ事ができる!!

これで、あの癪な男、テンカワ アキトに一泡吹かせる事ができるわ。

帰ってきて驚きなさい。

そういえば・・・レイナからの連絡は・・・

非常に興味深いけど、特に問題点は見当たらない・・・

当たり前ね、あいつがそう簡単にぼろを出すとは思えないわ。

でも、みてなさいよ・・・いつかあいつを見返してやるわ。

「おや、何一人百面相してるんだい、エリナ君?」

「あなたには関係無いでしょう!!」

「おやおや、僕も嫌われたもんだ、

 で、どうするんだい?

 テンカワ君の力を借りて、確実にジャンプ技術を手に入れるというのも、

 アリだと思うけどね?」

「何言ってるのよ、

 あいつの力を借りてみなさい!!

 どんな条件を出してくるか解ったもんじゃないわ。

 足元を見られたら終わりよ!!

 あいつ等が黙っているうち一つでもカードを増やさないと・・・」

「ナデシコは十分強力なカードだと思うけどね」

「それをあいつは切ったわ、

 現に今あいつはここに居ないでしょ?」

「でも、帰ってくるって言ってたよ?

 切り札にはなると思うけどね?」

「で?切り札だけで戦う気?

 足りないのよ、カードが!!」

「おーこわっ!

 でも、周りは見たほうがいいよ、

 下手して艦長を殺したりしたら・・・

 ナデシコが火星で消息を経ったときの事を忘れたわけじゃないだろう?」

「・・・それは」

「ま、この件を進めたのは君だ。

 万が一のときの、ミスマル提督との交渉は君に任せるよ、

 もちろん僕も最後には出るけど、

 それまでの交渉はやってよね、

 大変なんだ、あの提督は・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「軍がどうするか・・・

 うちが軍に協力した事で、地上の戦局は落ち着きつつある。

 唯一の例外が西欧だったけど、

 テンカワ君が行ったんだ、今年中にはかたがつくんじゃないかい?」

「何が言いたいのよ」

「いつまでも、この状態が続くわけじゃない。

 これは僕の予想なんだが、軍はナデシコを軍へ編入させようとするよ」

「そんなの断ればいいでしょ?」

「ま、そうだけどね、

 ただ、軍もいつまでも黙っちゃいないってことさ」

「つまり、やるんなら早くやれってこと?」

「さぁね?」

「・・・一つ、言っておくわ。

 貴方が艦長の事が気になるのは結構ですけど、

 貴方はネルガルの会長なのよ、

 仕事に私情を挟まないで頂戴」

「私情を挟んでいるのは君のほうじゃないのかい?

 少なくとも僕には、

 テンカワ君に対する個人的な感情で動いてるとしか思えないけどね?」

「そ、そんな事ないわよ!!」

「おーコワッ!!

 じゃ、そういうことで・・・」

そんな事ない・・・

ジャンプ技術を手に入れないと、

地球は負ける・・・

軍の動き?

大丈夫よ・・・

虎穴に入らずんば、虎児を得ず・・・

絶対に成功させて見せる・・・

テンカワ アキト・・・

絶対に彼を屈服させて見せるわ。





遅れてしまいました、

まさか半日に二回も敵襲があるとは・・・

どうせなら、後一時間遅くきてくれれば、

非常召集といえど、無視する事ができたのですが・・・

今回は、フィリスさんがいますからね。

考えてみると、前回は一人でよくやっていたものです。

まぁ・・・前回は、今回より遥かに戦闘も少なかったですし、

今回のように、とんでもない数の敵と単独で戦うことや、

三部隊との連続戦闘なんて無かったですけど・・・

それより・・・

この時間ではもうアキトさんは来ているころですね、

急がないと・・・

「あら、どうしたの、ルリルリ」

「ミナトさん、すいません、ちょっと・・・」

「そう?

 ああ、ルリルリ昨日夜勤だったわね。

 ならいいけど・・・

 お昼は?

 寝る前に食べない?」

「すいません、

 戦闘が始まる前に朝を軽く食べましたから・・・」

「そう?

 ア〜ア、今日は夜勤か・・・

 不規則な生活は肌が荒れるのよね・・・」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「お帰り、ルリちゃん」

「ただいま、アキトさん」

「遅かったね、で、何、話したいことって?」

「実は・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 というわけなんです」

「ユリカを・・・ね。

 何がいけなかったんだ?」

「そんなこといっている場合じゃありません。

 どうするんですか?」

「俺の経験から言うと、別にそこまで危険な事をするわけでも無いんだが・・・」

「でも、ほっておく訳にも行かないでしょう?

「ああ、ユリカのことは心配だし、

 ジャンプ技術は重要なカードだからね。

 まさか、俺がそんなこと言うことになるとは思わなかったけどね・・・

 結局、俺のやってる事は、草壁と同じなんだよ」

「そんな事・・・」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「西欧のほうも山場なんだ・・・

 そろそろ、テツヤが来る・・・はずだ」

「・・・解ります、

 でも・・・」

「ああ、肝心のナデシコを疎かにする訳にもいかないからね、

 やっぱり・・・計画を早めるしかないか」

「でも、アキトさんがいないと・・・

 ネルガルをのっとる計画も・・・」

「・・・解ってる、なるべく早く終わらせるよ、

 それと・・・テツヤについての情報はどう?

 動いてる?」

「はい、私が調べた情報によると、

 既にチューリップを集め始めています。

 それとクリムゾン、軍の監視衛星も・・・」

「そうか・・・

 テツヤがどう動いてくるかは・・・解らないか」

「はい、残念ながらそこまでは・・・

 すいません」

「い、いや、ルリちゃんが謝る事じゃないよ、

 無茶な注文した俺が悪かったんだからさ」

「ふふふ、アキトさんらしいですね、

 それで・・・どうしますか?

 監視衛星位なら騙せますが・・・」

「そうだな・・・

 メティちゃんの安全を確保したいけど・・・

 でも動いてくれない事には・・・」

「こちらから攻める訳には行きませんからね」

「ああ、こっちも監視衛星を使って、

 テツヤたちの行動を調べるつもりだが・・・」

「それはラピスの役・・・ですね」

「ああ、ごめんね」

「・・・いいですよ、そこで謝ってくれただけで十分です」

「それよりナデシコは・・・」

「あ、そうでした」

「ルリちゃんはネルガルを監視しておいて、

 場合によっては色々な所に情報を流したり・・・

 ま、時間稼ぎでしかないけど・・・

 それと・・・」

「それと?」

「おじさんにもそれとなく情報を流そう、

 軍がナデシコに干渉してくるのは嫌なんだが・・・」

「毒を食らわば皿まで・・・ですね」

「う〜ん・・・どちらかと言うと、毒を持って毒を制す・・・かな?」

「わかりました、軍にネルガルの有人ボソンジャンプ実験のデータを流します」

「ジャンプ実験・・・いや、軍がネルガルをやや警戒する程度の情報で良い。

 下手に情報を流すと、軍とネルガルが協力する可能性もある」

「そうですね、じゃあ・・・」

「軍事物資に関する情報・・・

 一応ぎりぎりグレーラインの情報を頼むよ。

 ある程度は捏造しても言いからさ」

「難しい注文ですね」

「頼むよ、ルリちゃんにしか頼めない事だからさ」

「だれも無理だとは言ってませんよ、

 ただ、めんどくさいだけです」

「ごめん、ルリちゃん」

「・・・じゃあ、もう暫くここにいてください」

「え?」

「ファ〜、昨日夜勤だったんです。

 今から一眠りしますから・・・

 寝付くまでで良いですから・・・」

「あ、ああ、解った・・・」

「ありがとうございます」

「ああ、お休み、ルリちゃん」

「お休みなさい、アキトさん・・・」





第四十五話に続く





あとがき

良いですね、アキト君とルリ君のほのぼのした(?)会話・・・

なんと言っても、この二人の会話は、書き易いのです。

はじめは、こんな雰囲気の話を書く予定だったのですが・・・



ユリカですが、

私的には、彼女は天才です。

天才というのは、物事の最も重要な本質を、

一発で、確実に見抜ける人だと思います。

元も重要な一点だけを踏んでいますので、

柔軟性がありますし、

一見荒唐無稽に見えても、その本質を外す事は無い・・・

そういう人だと思うのです。

ただ、一点しか踏んでいないため、

意外に脆い・・・

正しいのですが、理解されませんし、

本質を見抜いたのは、天性の感による物で、

知識や経験に裏打ちされた物ではないので、

細かいところでの間違いにはかえって気付きにくい・・・

本質だけを踏んでいれば良いという物でもありませんから・・・

天才ゆえの間違いや、苦労・・・間違い・・・

またややこしそうなテーマを・・・



エリナ様は・・・

なかなか思い通りにはいきませんね・・・

ようやくユリカを口説き落としたと思ったら・・・

ただ・・・

この人はアキト君の影なのですよね。

目的のためには手段を選ばない・・・

アキト君も結局のところユリカや、ネルガルですら利用して、

目的を達成しようとしているわけで・・・

ただ、やっている事のレベルは同じでも・・・

と、言うわけです。

才能もありますし、そのための努力もしています。

ただカリスマ性が無い・・・

カリスマ性は大事です。

カリスマ性があれば、多少無茶な事をしても、人は付いてきます。

アキト君やユリカが良い例ですね。



ただ、この話のユリカは、

カリスマ性はありますが、それ以外の面でアキト君に負けていますので、

今ひとつです。

カリスマ性"だけ"では・・・



さて、ネルガルも動かさないといけませんし・・・

・・・非常にややこしい事になりそうです。

西欧とナデシコ・・・別けて書いていたこの二つを徐々に重ねていく予定です。

プロスさんでも動かしましょうか・・・

状況によっては、ナデシコごと西欧へ向かわせてもいいですし・・・



ちなみに前回アキト君がジャンプした場所は、

当然ナデシコです。

 

 

管理人の感想

 

エリナさん、頑張ってますね〜(笑)

アカツキは相変わらずですけど(苦笑)

着々とテツヤとの戦いに備えるアキト

さて、今回はあの悲劇を防げるでしょうか?