「じゃ、ルリちゃん、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいアキトさん」
「・・・ジャンプ」
・・・・・・・・・・・・
「ふぅ・・・」
アキトさんと・・・
あんな事・・・できれば・・・その・・・
・・・・・・・・・・・・
ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
第四十六話 策謀
ピッ!
「ルリルリ、起きて・・・
あれ、どうしたの?顔真っ赤よ?」
「な、何でもありません!!」
「そ、そう?」
「で・・・なんですか、ミナトさん?」
「ちょっと・・・
フィリスさんが、ルリルリの部屋で変な反応があったって言うから・・・」
「大丈夫です、異常はありません」
「でも・・・」
「解りました、今行きます」
「そう、そうしてくれると助かるわ」
変な反応・・・まさか・・・
「で・・・なんだったの、さっきの・・・」
「ボース粒子反応です」
「そう、それ」
・・・話す訳にはいきません・・・よね。
「・・・得に異常はありません、
センサー類の誤作動・・・
もしくは、太陽風等で発生した強電磁波が、海面やオゾン層などでかく乱、
衝突し、プラズマでも発生したのかもしれません。
昔から人魂やUFOと誤認される自然現象です」
「そ、そう・・・」
「あの・・・ルリさん」
「なんですか、フィリスさん」
「・・・ちょっといいですか?」
「はい、かまいませんよ?」
「じゃ、私たちちょっと・・・」
「どうします、艦長」
「え?
いいよ、オペレータがちょっと席を外したからといって、
何にもできないわけじゃないし・・・」
「では、失礼します」
シュッ!
「・・・で、何ですか?」
「あの反応は、そのような物でできる物ではありません」
「・・・・・・・・・・・・」
やっぱり・・・ばれてしまいますよね。
でも・・・
「後、さっき見つけたのですが、そのセンサーのプログラムに細工した後があったん
です」
「!!」
「たまたま整備班がグラビティ・ライフルの実験をしていまして、
その際にセンサーがおかしいという事に気が付いたのですが・・・
ナデシコのセンサープログラムに細工できる人は・・・」
「・・・すいません、でも・・・黙っておいて下さい」
「・・・何か理由があるんですか?」
「・・・今は言えません」
「解りました、でも、今度から悪戯するときは、私にも話してください」
「はい、ありがとうございます」
・・・でも、アカツキさんやエリナさんには話がいくでしょうね。
プロスさんもゴートさんも、ブリッジにいましたし・・・
・・・ジャンプの反応だということは、すぐにわかるはずです。
・・・先手を打つべきでしょうか?
でも、下手に動くと・・・
さて・・・急いでアキトさんに頼まれていた事を済ませないといけませんね・・・
軍と企業に、ネルガルの・・・
ついでに、クリムゾンの情報をネルガルに渡してみましょうか・・・
ネルガルが動いていれば、クリムゾンも少しは警戒して、
派手には動けないでしょうから・・・
それに、ネルガルも動きにくいでしょうし・・・
でも・・・
ネルガルはジャンプ技術を・・・
木連は地球圏の支配を・・・
クリムゾンは、木連のおこぼれに預かろうと・・・
もしかしたら、もっと裏があるのかもしれませんが・・・
軍は・・・ほとんど、軍のため・・・ですね。
嫌ですね、大人の都合って・・・
こんな汚い仕事をしている人の台詞じゃありませんね・・・
良いんです。
アキトさんと・・・私の夢・・・
それは、この向こうにあるんですから・・・
「さて・・・この間のあの反応・・・か・・・」
「ボース粒子反応・・・ルリルリはああ言ってたけど、
どう考えても、これはジャンプの反応よ」
「イネス博士がそういうんなら、そうなんだろうね」
「で・・・どうするの?」
「う〜ん・・・
いっそのこと、テンカワ君を呼び戻そうか?」
「何言っているのよ!!
せっかくあいつが居なくなっているのに、
何も好んで獅子身中の蟲を飼うこともないでしょう!!」
「・・・彼の場合、どこにいても同じだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「彼は個人レベルでの有人ボソンジャンプが可能だ、
なら、いっそのこと近くに置いておいたほうが安全なんじゃないかな?」
「けど、軍がそう簡単にあいつを手放すとは思えないわ」
「・・・いっそのこと、軍に正式に編入するのもいいかもしれないね」
「何でよ」
「軍に編入する代わりに、彼を呼び戻す・・・」
「そんなこと・・・」
「それに、わざわざ弱みを見せる事はないと思うけどね・・・」
「テンカワ アキトに、もう少し執着しろってこと?」
「ああ、むしろ軍には彼とうちは繋がっていると思わせたほうがいい。
大体・・・この間も言ったけど、
おそらく今年中に戦局は大きく変わる・・・
そのとき、彼を握っているほうが軍に対して有利に動けるんじゃないかな?」
「・・・テンカワ アキトは、うちの社員よ。
今のままでも十分なんじゃない?」
「あら、それはどうかしら?
いつかアキト君が言っていたけど、
彼は彼の目的のために戦っていて、
そのためにナデシコは都合がいいから乗っているんであって、
別に軍の艦でもクリムゾンの艦でも関係ない・・・
そんな事を言ってたわよ」
「だろうね、
テンカワ君を引き抜くのは、そんなに難しいことじゃないんじゃないかな?
その上引き抜きたいと思っているところは、それこそ無数にあるし・・・」
「・・・そういえば、西欧のほうでクリムゾン動いているという情報がありました」
「・・・どういうことだい、ミスター?」
「はい、そのボース粒子反応があった日、匿名のたれこみが有りまして、
クリムゾンが妙な動きをしているという・・・」
「裏は?」
「ハイ、クリムゾンが水面下で動いているという情報まではつかめましたが、
それが西欧であるかどうかまでは・・・」
「ふーん・・・
罠・・・って言う可能性もあるわけか・・・」
「はい、
何しろ差し出し人の正体はおろか、
目的も不明で・・・」
「目的が不明?」
「はい、何も要求などはありませんでした。
クリムゾンに恨みを持つ方かとも思ったのですが・・・
色々と突き詰めていくと、そうとも言い切れない部分も・・・
あと一つ・・・
こちらは裏が取れない・・・というより、
もっと積極的に、矛盾しているともいえるのですが・・・」
「なんだい?」
「クリムゾンの西欧での動きの目的です。
どうやら、クリムゾンはテンカワさんをスカウトするつもりらしいです」
「ほう、でも確かテンカワ君が西欧に行ったのは、彼自身の望みだったよね」
「はい、しかしクリムゾンの動きを見る限り、
もっと前から準備をしていたとしか思えないふしが・・・
テンカワさんがうちから離れたので、これ幸いと・・・という動きでしたら、
おそらくもう少し粗があるはずです」
「ふ〜ん・・・
やっぱり罠・・・」
「しかし罠だとして、この情報をくれた方・・・
この罠をかけるためにはクリムゾンの人間である必要があるのですが、
クリムゾンに何の得があるのかが・・・」
「確かに・・・
可能性としては、うちの目を西欧に向けておいて、その隙に・・・
ってとこだけど・・・
嘘か真か・・・
いずれにせよ、彼がクリムゾンにつくのは防がないとね?」
「・・・・・・・・・・・・
それはやっぱり彼を呼び戻せって言うこと?」
「大体、有人ジャンプ実験は、今年中には再開できそうにないんだろう?」
「・・・・・・・・・・・・」
「これは僕の予想なんだけど・・・
多分彼は西欧のほうが片付いたら、ナデシコに帰ってくるよ」
「彼は軍への出向社員よ、
軍が簡単に彼を手放すとは思えないわ。
それに・・・彼がすぐに帰ってくるだろうからこそ、
なおの事彼が帰ってくる前に・・・」
「可能なのかい?」
「・・・・・・・・・・・・」
「むしろ、彼を早いところ回収したほうがいいと思うよ。
危険人物は野放しにするべきじゃない」
「・・・テンカワ アキトはクリムゾンとはくっつかないわよ」
「何でそう言い切れるんだい?」
「・・・私があんな怪しい男を野放しにすると思う?」
「・・・なるほど、レイナ君か」
「ええ、さっきレイナから面白い情報が届いたわ」
「面白い情報?」
「・・・まず、クリムゾンが木連とつながっているのはほぼ間違いないみたいよ」
「おいおい、君はレイナ君に彼らのことを話したのかい?」
「・・・テンカワ アキトをスカウトに来た・・・というより、
脅迫して無理やり・・・って言う手口だった見たいだけど」
「ふ〜ん・・・
やっぱりクリムゾンは西欧で動いてるのか、
ま、陽動って可能性もあるから、油断はできないけどね?」
「続けていい?」
「ああ、ごめんごめん」
「とにかくスカウトに来た"テツヤ"っている人に、
テンカワ アキトが交換条件として"木連との直接交渉"を要求したそうよ」
「・・・彼はそこまで知っているのか。
ま、ボソンジャンプについて僕たちより詳しいんだ、
知っていても不思議じゃないな」
「とにかく、交渉決裂、しかもテンカワ アキトを引き抜くために、
テンカワ アキトに親しい人を誘拐して、脅したそうよ。
テンカワ アキトの性格から考えて、クリムゾンに傾くとは思えないわ」
「・・・希望的観測は危険だよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「それに、彼を引き抜きたいと思ってるところはクリムゾンだけじゃない、
軍だって彼をほしがってるだろうし、明日香インダストリーの動きも気になる。
ミスター、明日香インダストリーの動きは?」
「はい、今のところ特にこれといった動きは・・・
おとなしすぎるのが逆に不気味ですが・・・
おそらく蜥蜴の正体は知っていると思うのですが・・・」
「うーん・・・
テンカワ君と一番近い裏の組織・・・明日香インダストリーだと思ったんだけどね
?」
「あの爆弾テロの直前までに、テンカワさんたちと親しかった有力者は、
相次いで火星を離れるか、事故死していますから」
「それは初耳だね、
僕はてっきり艦長たちだけかと思ってたけど・・・
親しかった人全員ね?
念の入ったことで、
ま、親父ならやりかねないけどね」
「いずれにせよ、明日香インダストリーとテンカワさんとのつながりはないようで
す。
明日香インダストリーはもちろん、軍やクリムゾンに気付かれる事を覚悟の上で、
かなり踏み込んで調べてみたのですが・・・」
「虎穴に入ったは良いけど、虎子はいなかったわけか」
「テンカワさんと、明日香インダストリーとのつながりはないということがわかりま
したので、
何も収穫がなかったわけではないのですが・・・」
「被害に見合った収穫はない・・・か、
ま、テンカワ君とそういった組織とのつながりは、調べた限り完全にゼロなんだ、
ゼロに何をかけてもゼロ、調べるだけ無駄かね?」
「とりあえず調査の規模は縮小してあります。
何かきっかけでもなければ・・・」
「明日香インダストリーの線が消えた以上、
やっぱりルリ君に聞くべきかね?」
「ホシノ ルリに?
・・・彼女はテンカワ アキトの仲間よ、
協力してくれると思えないし、信用できないわ」
「条件さえよければ協力してくれると思うよ、
テンカワ君も、ルリ君も・・・」
「・・・じゃあ聞くけど、私たちがあの二人に対して、
どんなカードを持っているって言うの?
言っておきますけど、ナデシコだけなんていわないでよね、
確かにナデシコはあの二人にとって十分切り札になると思うわ、
でも、それだけじゃ戦えないわよ?」
「解ってるよ、あるじゃないか、
もう一つ切り札が」
「・・・何?」
「艦長だよ、
テンカワ君も何かと気にかけているし、ルリ君の尊敬する人だって言ってたじゃな
いか」
「・・・で、具体的に?」
「そうだね、艦長を使ったジャンプ実験を中止する代わりに、
ジャンプ技術を提供してもらうって言うのはどうかな?」
「・・・・・・・・・・・・」
「この間も言ったけど、艦長にもしもの事があったら、大変だよ?
少なくとも、ナデシコを軍に正式に編入させることぐらいは覚悟するべきだね」
「・・・・・・・・・・・・
でも、わざわざ敵に手札を見せることもないじゃない」
「・・・多分、あの二人ならそれぐらい知ってると思うよ?
何より、いくら僕たちが必死に隠したからって、
ルリ君があのデータに気が付いていないとは思えないね。
となると艦長かイネス博士・・・
イネス博士には、実験の指揮をしてもらいたいから、艦長に・・・
簡単に予想できるんじゃないかな?」
「でも、テンカワ アキトの正体はわからないわよ」
「ついでに聞けばいいよ、
少なくとも、交渉術に関しては、
こっちのほうに分があると思うよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「僕はこれから探りを入れに行くけど、エリナ君はどうする?」
「解ったわ、行くわよ」
第四十七話に続く
あとがき
どうも、ご無沙汰していました。
久しぶりの更新です。
えぇ〜、
だいぶ間があいた上、かなり切りの悪いところで止まっていたため、
多少前後のつながりがおかしいかもしれませんが、ご容赦ください。
また、一応用事は終わりましたが、以前のようなスピード更新は難しいかもしれませ
ん。
とりあえずネルガルの陰謀も一区切りがつきました。
ユリカを握った以上、実験台として使うより、
アキト君との交渉に使ったほうが、有効でしょう。
ま、この先どうなるかは解りませんが・・・
当初、ネルガルの見解としては、
アキト君は明日香インダストリーのスパイでした。
まぁ、一番信憑性が高いのはそれかな?というわけで・・・
しかし、裏は何も取れない・・・
しかも、どう考えたって、アキト君にスパイは役不足です。
知れば知るほど訳分からなくなる存在・・・
それがこの話のアキト君です。
代理人の感想
「握った」と認識させるには描写がやや少ないかな?
少なくとも「ボソンジャンプ実験に協力するだけで何故ネルガルがユリカを握った事になるのか」
と言う説明は必要でしょう。