「と、言うように、ボソンジャンプと言うものは・・・」
「大体理解していますよ、イネスさん」
「あなたが理解しているのは知っているわ、
私は会長に説明しているの」
「はぁ、じゃあ俺は・・・」
「テンカワ君、一人で逃げるなんてひどいじゃないか」
「い、いや・・・」
「・・・で、あるからして、
この時、スカラー値が・・・
って、聞いてるの?
全く・・・もう一度言うわよ、
つまりボソンジャンプとは、物体の・・・」
「「はぁ・・・」」
ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
第六十一話 鉄人
「・・・つまり以上の点をまとめると、ボソンジャンプとはスピンが・・・」
イネスさんに連れられ、
ジャンプに関して具体的なデータを取るために、
ネルガルの研究所につれてこられたが、
予想通りと言うか、なんと言うか、
やはりイネスさんの説明が始まってしまった。
二回目はこんな事はなかったはずだが、どうやらウリバタケさんが処分しなかった、
ジャンプフィールド発生装置の設計図のせいで、
中途半端にジャンプに関する研究が進んでいたので、
俺たちの渡したデータを逸早く飲み込むことができたため、こんな事態を招いた・・・
・・・のであろうと、ルリちゃんが推理していた。
しかし、初めて聞く内容ならそれでもまだしも、
俺にとっては既に十分理解している・・・
もしかしたら、イネスさんより俺の方が詳しいかもしれないことを、
延々説明され続けるのは、ただひたすらに辛い。
とはいえ、勝手に帰るわけにもいかないし・・・
と、その時、
ビィー!!ビィー!!ビィー!!
「チューリップ内部、圧力上昇!!」
「フィールドジェネレータ破損!!」
!!
まさか・・・おいでなすった・・・か?
しかし、よりにもよってこのタイミングで・・・
何が原因で・・・
と、そんなことをしている場合じゃないな。
「総員退避!!」
突然動き始めたチューリップに、
どう対応して良いか解らず、パニクりかけている研究者に対して、
俺は有無を言わせない口調と雰囲気で命令をする。
それでも、何人かは事態を収拾しようと動いていたが、
俺がもう一度、更に強い口調で言うと、
ようやく全員が逃げ始めた。
説明をしている暇は無い。
「君はどうするんだ?」
自分の言葉とは逆にチューリップに向かう俺を見て、アカツキが問う。
「被害は最小限に食い止めませんとね。
俺がしんがりを勤めます。
アカツキは皆をつれて逃げてください」
「もっとも危険な任務を選ぶのは、英雄の務めかい?」
「そう言うわけでもありませんよ。
ただ、この仕事ができるのは、俺以外にいない、それだけですよ。
大丈夫です、
この程度でいちいち死んでいたら、俺はやってられませんよ」
本来なら、さっさとナデシコに戻ってブラックサレナを取って来たいのだが、
そうもいかない状況だ。
「オーケー、だが君に死なれたら困る。
必ず生きて戻ってきてくれよ」
「ふっ、俺をだれだと思っているんです?
漆黒の戦神、テンカワ アキトですよ?
さっきも言ったでしょう、この程度で死んでいたら、俺はやってられないって。
それに、それは俺の台詞ですよ。
俺も、お前に死なれたら困るんですから。
ほら、解ったんなら、さっさと逃げて、
エステバリスでも取って来て下さいよ」
ビィー!!ビィー!!ビィー!!
「敵襲!!
ネルガルの研究所を、敵の新型機が襲撃中です」
アキトさんがアカツキさんたちと研究所に行ってしまって、
暇を持て余してブリッジでオモイカネと、
色々とプログラム等を作っていると、
突然通信が入りました。
敵襲・・・ですか、このタイミングで・・・
・・・なるほど、
クリムゾンのスパイでもいたのかもしれませんね。
あわよくば研究所を破壊すると同時に、アキトさんも葬れる、
仮にそこまでは無理でも、アキトさんは相手にしなくてすむ・・・と。
まぁ、ナデシコが出航するまで襲ってこないよりはマシですが・・・
「何、何があったの?」
艦内放送が流れて一分もたたないうちに、
ユリカさんが現れてそう聞いて来ました。
「はい、敵新型機が、ネルガル系列の研究所に突如として出現、
研究所を攻撃しつつ、市街地の方へ向かっています」
「ええ〜、
近くにチューリップはないんでしょ?
せっかくお出かけしようと思ってたのに・・・」
そう言うユリカさんを見ると、確かに私服を着ています。
・・・もう少しタイミングが遅れたら、
ユリカさんも無しで戦うことになったんですか・・・
全く、ナデシコの中では、休暇と言ってもたかが知れていますので、
出せる時にまとめて休暇を与える必要があるのは解りますが、
プロスさんも、もう少し考えて休暇を出してほしいですね。
まぁ、アキトさんの休暇は、イネスさんのごり押しの結果かもしれませんが・・・
「うぅ〜・・・、仕方ありません。
ナデシコ、緊急発進!!」
まぁ、一応既に独立部隊として編成されていますから、
勝手に出撃するのは問題ないですが・・・
「でも艦長、
既に相当数のクルーが町に出ています」
「かまいません、
作戦の第一目的は、敵機動兵器の市街地への侵攻を防ぐこと、
第二目的が研究所職員の安全の確保です。
エステバリス、緊急発進準備!!」
ここで、戦力を整えてから出発するか、
とにかく急いで出発するかは、どちらが正しいと決め付けられる問題ではないのですが、
ユリカさんは迷うことなく命令を下しました。
ちょっと不安ですね・・・
「現在パイロットは、
ジュンさん、イツキさんが待機しています」
「二人だけ?」
「はい、現在待機中の残り三名・・・リョーコさんたちは、基地の方へ行ったようです。
どうしますか、戻りましょうか?」
「いえ、何とかなります、それより早く到着することが最優先です。
ルリちゃん、軍の部隊はどうなってる?
後艦内に残っているクルーを教えて」
「現在、パイロットは先の二名しかいません。
また、ブリッジクルーもほとんどでかけています。
整備班もかなりの人数が出ていますが、幸いウリバタケさんは残っているようですし、
パイロットの数も少ないので、
問題はないでしょう」
西欧から来た人たちは観光気分で町にいったそうですし、
ヤマダさんも、町に出かけたのでしょう。
アキトさんはアカツキさん、イネスさんと一緒に研究所に行きましたし・・・
ハーリー君とラピスは、軍の方から、書類に不備が・・・などと言われて、
プロスさんと基地の方に行きましたし・・・
まぁ、究極的なところ、
ナデシコは私さえいれば、何とか動くんですが、
特にナデシコAではやはり限界があります。
ミナトさんとフィリスさん、エリナさんは艦内にいるはずですが・・・
とは言え、まだ何も起きていないのに、
明確な根拠もなしに呼びつけるような権限は、
私にはありません。
警報を聞いて駆けつけるのを待つしかないですね。
そもそも、このタイミングで来ること自体予想していませんでしたからね。
さて・・・
「軍はほぼ全滅です。
データ、出します」
本来ならあるはずのないデータですが、
まぁ問題ないでしょう。
そんなに詳しいデータを出したわけではありません。
軍の通信から解る程度のデータですし、
そもそもスクランブルもかけていない通信ですし、
怒られる事もないでしょう。
そもそも襲われているのはネルガル系列の研究所なんですから、
ソースはいくらでも考えられます。
「グラビティ・ブラストと"ボソンジャンプ"?
そんな・・・どうするの、こんな奴?」
「やはり戻りましょうか?」
「えぇ〜と・・・」
「さて・・・
厄介なことになったな、全く・・・」
全く、昨日襲ってきてくれれば、こんな事態にはならずにすんだのに・・・
・・・ま、そんなこと言っても仕方ないな。
「テンカワ君!!」
瓦礫の下敷きになった人を助け、外に運び出すと言う作業を、何度か繰り返すうち、
負傷した研究者の群れの中、
なぜか無傷のアカツキに声をかけられた。
ちなみに、イネスさんは当然のように無傷で、
なにやらテツジンを見て考察している。
全く、丈夫なことで・・・
「アカツキ、ナデシコに戻って・・・」
「ここは僕たちに撒かせて、テンカワ君、
君はさっさとナデシコに戻りたまえ、
艦長がナデシコを発進させた。
もうすぐここに到着するだろう。
僕にはこの状況でナデシコに戻るのは不可能だが・・・
君なら、ジャンプですぐだろう?」
ク・・・
この瓦礫の中にまだ人がいるのなら、助けてあげたいが・・・
そうだよな、ユリカなら、取る物も取らずに発進させるよな。
・・・そうだな、
さっさと敵を片付けて、ここはアカツキに任せるか・・・
「解った、
じゃぁ、もう一度人がいないか確認したら、
ジャンプで向かいますよ、
ナデシコがこないと、俺がナデシコに向かっても無意味ですからね」
「ルリちゃん、状況は?」
その後、ミナトさんとフィリスさんもやってきて、
ようやくオペレータ兼操舵手と言う状況から開放されて、一息ついたところで、
アキトさんから通信が入りました。
「ハイ、ちょうど今そちらに向かっているところです。
幸い、センサーを見る限り、まだ自爆の気配はありません。
と、言うより自爆するのなら、出現と同時に自爆した方が効果的なので、
追い詰めない限り自爆はしないでしょう。
幸か不幸か、現在待機しているパイロットは、
ジュンさんとイツキさんだけですので、
こちらが撃破されることはあっても、
自爆される事はないと思いますが・・・」
「あれ、ルリちゃん、何やってるの?」
と、アキトさんに説明していると、ユリカさんが話しかけてきました。
「ハイ、アキトさんから通信、
状況を説明しています」
「あ、そうか、
アキトなら"ボソンジャンプ"ができるんだよね、
アキト、早く早く」
「解ってるよ、
ちょっと待て・・・」
そういうと、コミュニケが切れました。
そんなことを言っている間に、
先行したジュンさんたちが戦闘に入ったようで、
予想通り"ボソンジャンプ"に手を焼いているらしい通信が入って来ました。
「なんなんですか、この機体は!!」
「カザマさん、目的はあくまで敵の足止めと時間稼ぎだ、
囮に・・・」
と、ジュンさんが言っていますが、
この敵は研究所の破壊が目的ですから、
囮を使う戦法は、余り有効じゃないんですけど・・・
まぁ、下手な事を言ってジャンプに巻き込まれるのは困りますから、
黙っておきますが・・・
もちろんジュンさんもそういうつもりでしょう。
さて・・・
アキトさんが来るまで事態を持たせられますか・・・
「え、どう言うことです?」
格納庫の前にジャンプしてきた俺を待っていたのは、あまり嬉しくない知らせだった。
「だから、お前は今日町に出てるって聞いたから、
ブラックサレナはメンテナンス中だって言ってんだ。
一応動くことは動くが、
今、昨日とどいたコミュニケーション・ユニット用の新武装・・・
ガンフェザーとか言うものの、装着テストを兼ねて、
コミュニケーション・ユニットを装備させたんだが、
設計上のミスか、それともフレームが歪んじまったのか、
何かに引っかかっちまったらしく、強制分離できねぇ。
手動で外すこともできるが、人手もたりねぇし・・・十分はかかるぞ?」
くっ・・・
ガンフェザー・・・フェザーのように、子機として使えるDFRがあれば、
コミュニケーションユニットでも十分以上に戦えるとは思うが、
DFR用のサポートプログラムや、
ガンフェザーの推進機関等のサポートプログラムも無しに・・・か。
手持ち式のライフルとして使うしかないか・・・
月臣の方は・・・まぁ、何とかなるだろう。
「かまいません、それで行きます」
そう言って、コックピットに飛びのる。
「それで行くって、おい!!」
ウリバタケさんが怒鳴ってくるが、今は時間がない。
「それ以外は完璧なんでしょう?
なら大丈夫ですよ、
なんていっても、ウリバタケさんの整備なんですからね」
「ちっ、そう言われちゃぁ、何にも言い返せないじゃないか。
解ったよ、ほら、さっさと行け、
壊して俺の仕事を増やすんじゃねぇぞ!!」
「大丈夫ですって、
俺を誰だと思ってるんですか?
漆黒の戦神、テンカワ アキトですよ。
この程度でやられてては・・・"俺"はやってられませんよ」
「テンカワ アキト、ブラックサレナC・・・
行くぞ!!」
俺は、カタパルトに向かいながら、背中についている五つのガンフェザー・・・
(本来は六つあるはずだが、一つはウリバタケさんがばらしたらしい)
の内二つを取り出して、両手に持ち、
そのまま、エネルギー回路を接続する。
今回はナデシコの周りで戦うのだから良いが、
ガンフェザーは、今のようにブラックサレナから直接エネルギーを得るか、
重力波ビームを受けてエネルギーを得るシステムになっているので、
このままじゃ、ナデシコの近くでしか使えないよな。
相転移炉を搭載して・・・とか言っていたが・・・
できるのか、この大きさの相転移炉が・・・
大体DFRはDFSと比べて、
ディストーション・フィールド発生装置を組み込んだ分だけ、
システムが大型になったし、
それ自体には、DFSと比べて大量のエネルギーが必要だが、
"DFSを装備したエステバリス"と比べれば、はるかに小さくてすむ。
また、常時刃を発生させる必要のあるDFSと違い、
常に高エネルギーが必要なわけじゃない。
そもそも、二枚のディストーション・フィールド発生装置から、
指向的に発生させたディストーション・フィールド同士を干渉させ、
局地的に高出力のディストーション・フィールドを作り出し、
それを更にDFSで収束させると言う、
初めから高密度のディストーション・フィールドを収束させる事で、
高圧縮ディストーション・フィールドを、飛ばし易くしていると言うシステム上、
どうしてもディストーション・フィールドを干渉させて高密度にすると言う過程を取る必要があり、
連射性はDFSよりも低いので、
常に高エネルギーを得られても、余り使い道はない・・・と思う。
事実、このガンフェザーも、コンデンサーを使って、
発射する瞬間だけ高エネルギーを得るシステムを使っているはずだ。
更に、高圧縮ディストーション・フィールドの発生地点が、
二枚のディストーション・フィールド発生装置の間と言う構造上、
おそらく、秘剣レベルであっても耐えられない可能性が高い。
別に、わざわざ相転移炉を搭載しなくても、
コンデンサーとバッテリー、重力波アンテナの組み合わせで、
十分な出力は確保できるはずだ。
そもそも、ブローディアやブラックサレナのはるか遠くで使うと言う事態は、
考慮に入れていない・・・と言うより、考えられないので、
ブローディアに重力波ビーム発生装置をつけて・・・
難しいだろうか?
・・・と、そんなこと考えてる暇はないな。
ピッ!!
「ルリちゃん」
「はい、なんですか」
「敵味方の位置関係のデータ、出してくれる?」
「はい。
頑張ってくださいね」
「ああ、
色々と、急がないと行けないし・・・ね?」
そんな会話をしているうちに、
ブラックサレナはカタパルトから発射された。
と、同時に両手のDFRを発射する。
如何に俺でも、敵の姿が見えたと同時には狙いを付けて撃つことは出来ない。
どうしたって、その方向に腕を動かす分だけのタイムロスが生じる。
今回撃てたのは、ルリちゃんからもらったデータを元に、
カタパルトの中で狙撃の準備を整えていたからだ。
打ち出された高圧縮ディストーション・フィールドは、
狙い通り、テツジンの腕を貫いた。
「アキトさん!!」
出撃したブラックサレナを見て、私は慌てて閉じかけたコミュニケを開きました。
「何、ルリちゃん?」
「何・・・じゃありません。
なんでCユニットを・・・」
別にジンタイプを相手にするのに、不向きな武装だとは言いませんが、
カザマさんもジュンさんも、遠距離攻撃型です。
わざわざCユニットを使う必然性が・・・
「ちょっとあってね、
これを装備した状態だったから、外してる暇もなかったし・・・」
と、言っていますが、それなら強制分離するなり、方法があるはずです。
今ひとつ納得の行かない説明ですが・・・
まぁ良いでしょう。
「そうですか、
では、ついでにデータも取る事にしましょう。
何かあったら言ってください、
最優先でバックアップしますから」
「ああ、頼んだよ、ルリちゃん」
何があったんでしょうか・・・
今日研究所に行くことと言い、なんで話してくれないのでしょう?
アキトさんには考えがあるのかもしれませんが・・・
・・・寂しいですね。
そんなことを考えているうちに、当然のことながらどんどん戦闘は進んでいきます。
しかし、DFRでは、貫くことはできても、
切り裂いたりする事はできません。
さて・・・
それでどうやって、戦闘不能にしますか?
「くっ・・・こいつでジンタイプを戦闘不能にするには・・・」
俺は内心焦っていた。
コミュニケーション・フレームと言うものは、
接近戦を考えていない。
そもそも、今回のブラックサレナは、実験機として作った物で、
特にオプション・パーツは実用性など、全く考えていない。
実にアンバランスな機体となっている。
「とは言え・・・
"漆黒の戦神"の名にかけて・・・
無様な戦いをするわけには行かないな・・・」
接近戦が無理なのなら、遠距離戦で戦うまで!!
確か、白鳥さんのジンタイプのジャンプパターンは・・・
「そこ・・・だったな」
俺は、記憶を頼りに白鳥さんのジャンプアウト地点を割り出すと、
ガンフェザーから発射される高圧縮ディストーション・フィールドの形を、
板状に変えて打ち出す事にした。
DFSなら、不可能な技だ。
DFSはエステのディストーション・フィールドを、
収束させて棒状にする装置・・・だと思う。
少なくとも、使っている人にとってはそう感じる。
本来、球状の物を筒状の装置で圧縮するのだから、
どうしたって棒状にしかならない。
もちろん、エステのディストーション・フィールド自体のコントロールと、
DFSのコントロールで、ある程度は変化可能だが、
ここまで恣意的なコントロールは至難の技だ。
一方ガンフェザーの場合、
収束装置は平行な二枚の板状だ。
当然、板状にするのは比較的簡単にできる。
「後は、首をはねるだけ・・・か・・・」
ピッ!!
「ジュン、しばらくお前たちだけで敵の相手をしてくれないか?」
「何をするつもりかは・・・
聞いても無駄なんだろう?
解った、何とかしてみるよ。
カザマさん!!
いったん・・・」
比較的簡単にできる・・・とは言え、
やって見た事がないので、実際どうなるかは解らない。
出力にも注意しないと、ガンフェザー自体が崩壊しかねないし、
慎重にためといて、跳んだところで狙い撃ちにしたほうが良いだろう。
そして・・・
「テンカワ、跳んだぞ!!」
よし、狙いは・・・はずさん。
「いけぇ!!」
予想通りの場所に出た白鳥さんに対し、
俺はガンフェザーを発射し、
狙い通り首をはねられたジンタイプに対し、
更に胸と足を打ちぬく。
さて・・・ルリちゃんも行っていた様に、
有人機をわざわざ自爆するように設定して送ってくるとは思えない。
そもそも、自爆するのならチューリップから出たと同時に自爆した方が、
はるかに効果的だろう。
と、次の瞬間、月臣がジャンプした。
いつまでも振り回されていては、話が進まないな。
「敵の瞬間移動にはパターンがある、
そいつは、三秒後に右三十度に跳ぶ」
「ジャンプしか逃げ道がないのはわかるが・・・」
俺がそう言いながらガンフェザーを打ち出し、両手を破壊し、
続いて胸のグラビティ・ブラストも破壊すると、
月臣が慌てているのが見て取れた。
既に、月臣もジャンプが見切られている事は承知しているはずだ。
いつまでも、逃げつづけられるものじゃない。
となると・・・捕虜になったり殺されたりするぐらいなら、
自爆することを選ぶ・・・か、何考えてんだか。
と、思った瞬間、月臣が突然動き出した。
月臣に向かって、近付きながらラピッドライフルを打っているイツキちゃんの方を向き、
そのままイツキさんのエステに一直線に突撃を仕掛ける。
一見無防備な突撃・・・一体何を・・・
と、思った瞬間、一つのトラップが脳裏をよぎった。
最初の時、俺がアジトとして使っていた部屋に仕掛けたトラップだ。
アジトと言っても、ジャンプを使えば距離は意味を失うので、
いちいちユーチャリスに帰った方が早い。
実際に使ってもいたが、どちらかと言うと、敵を引き付けて排除するための、
ブービートラップ的な意味の方が強いものだったが・・・
そこに仕掛けた罠・・・誰かが部屋に侵入すると、
ジャンプフィールド発生装置が作動し、
部屋ごとどこかにジャンプさせると言うものだ。
これを回避するには、A級ジャンパー、
もしくはそれに匹敵するナビゲート能力を持っていて、
かつその罠の存在を予測している必要がある。
それでなければ、クロッカスのクルーと同様の運命をたどるか、
ランダムジャンプで時空の彼方・・・と言う、凶悪な罠だ。
・・・まさか、あのままジャンプする気か?
・・・突撃しながらジャンプフィールド発生装置を作動させ、
ジャンプに巻き込んで敵を無力化、か。
実に豪快な技だ。
俺の脳裏に、「ゲキガンフレアァァァァァァ」と、叫んでいる月臣の姿が浮かび上がった。
超至近距離でジャンプするわけだから、
どうしたって無防備な時間が生まれる。
タイミングを外せば、自滅するだろうし、
ジャンパーでない人には、まさに一撃必殺の威力がある当たり、
"ゲキガンフレア"の名はふさわしいかもしれないが・・・
とにかく、イツキちゃんを殺させるわけには行かない。
逃げるように言っても、ちょっと難しそうだ。
かといって、俺が助けに行っても、Cフレーム装備のブラックサレナではぎりぎり間に合わない。
月臣を撃破すればイツキちゃんは助けられるし、
それは造作もないことだが、それをするわけには行かない。
一瞬でそう結論を出すと、俺は手にもっていたガンフェザーをイツキちゃんに投げつけ、
更に背中から二つガンフェザーを取り出して投げつけた。
「ルリちゃん!!」
それだけでルリちゃんには伝わる。
そう確信してガンフェザーのフェザーとしてのシステムを作動させる。
同時にガンフェザーに重力波ビームが接続され、
ガンフェザーが起動したのを確認すると、イツキちゃんのエステを中心に、
それぞれ正四面体の頂点に位置するように動かす。
と、同時に二枚のディストーション・フィールド発生装置を動かし、
角度を調整して、ディストーション・フィールドを発生させる。
「キャ、何?
何が起こったんですか?!」
四組八枚のディストーション・フィールド発生装置の相乗効果により、
薄い赤色に輝いているディストーション・フィールドが、イツキちゃんのエステを覆い、
イツキちゃんが驚きの声をあげる。
が、俺にはあいにくそれに答える余裕がなかった。
ク・・・これは・・・予想外だった。
ガンフェザーをこのように"シールド"として使おうと言うアイデア自体に問題はないのだが、
ディストーション・フィールド同士の干渉が予想外に強く、
バラバラの方向に弾き飛ばされそうになる。
「ち、やっぱり、サポートプログラム・・・じゃ足りないな、
ブロスにコントロールしてもらう必要があるか」
と、つぶやいた瞬間、イツキちゃんのエステは月臣のジャンプにまきこまれた。
!!
そ、そうですか、そう来ますか・・・
私は目の前で月臣さんの仕掛けた攻撃を見て、思わず戦慄を覚えました。
一応、アキトさんがガンフェザーを使って強力なディストーション・フィールドを張ったので、
とりあえず問題ないとは思いますが・・・
と、次の瞬間、月臣さんの機体が、イツキさんのエステと共にジャンプアウトし、
その周りにあったガンフェザーが地面に落ちました。
おそらく、ジャンプしたせいでコントロールがうまく行かなくなったのでしょう。
月臣さんは、イツキさんを片付けたと思ったのか、
イツキさんのエステを無視して、次の獲物を探します。
優人部隊・・・ジャンパー処理をした人でないと、チューリップを通る事はできない・・・
と、言っていた事から察するに、
ディストーション・フィールドを張る事で、チューリップを通りぬけられると言うことは、
木連の人たちは気がついていないのでしょう。
そもそも私たちだって、あんな状況でなければ、
チューリップに突入・・・なんてやったとは思えませんからね。
しかし・・・月臣さんも往生際が悪いですね・・・
最初の時は、こんな戦法を使わなかったと思うのですが・・・
アキトさんの話でも、自爆させるのに苦労したとは聞いていません。
となると・・・ジャンプフィールド発生装置が壊れたか、
使用回数を使いきってしまったか・・・でしょうか?
とりあえずアキトさんに連絡でしょうか?
「大丈夫、イツキちゃん!!」
「・・・・・・・・・・・・」
ジャンプアウトしたイツキちゃんを確認すると、
俺は急いで通信を入れた。
ガンフェザーを使った"シールド"は、
並みの戦艦をはるかに凌駕する出力のディストーション・フィールドを張る事ができるが、
それでジャンプ可能かどうかについては、実例がない。
ナデシコで使っているコミュニケは最新型で、
心拍数等の情報を感知して、
感情や体調に応じてウインドーの大きさを調整する機能がある。
もちろんそのシステムを切る事も可能だが、
少なくとも戦闘中は、ナデシコ側がパイロットの疲労度等を確認できるように、
強制的に作動するようになっている。
少なくともウインドーを見る限り、命に別状はないようだが・・・
どうやら、月臣はイツキちゃんを撃破したと思っているらしいし、
このまま動かなければ、わざわざ攻撃する事はないだろう。
そう判断してコミュニケを閉じる。
さて・・・ここはどうするか・・・
最初の時は詳しく知らないが、少なくとも前回はこんな攻撃はしなかった。
何か理由が・・・
と、考えた瞬間、ルリちゃんから連絡があった。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
なるほど、普通まだ打つ手があるのに自爆はしないだろうし、
なかなか説得力のある意見だ。
となると、俺が打つべき手は・・・
あいにくと、ジンタイプのジャンプ限界数は知らないので、
もう少し痛めつけるしかないか・・・
いや、もっと簡単な手があったな。
思い立ったが吉日、すぐさまイツキちゃんの機体に向かうと、
落ちているガンフェザーを拾い、イツキちゃんを巻き込まないように場所を変える。
月臣は、何とかして俺かジュンに近寄ろうとしているが、
俺はもちろん、ジュンも早め早めに逃げているので、なかなかうまく行かない。
そもそも、ジンタイプとエステバリスでは、どう考えてもエステバリスの方が機動性は高い。
さっきみたいに、突撃をかけている時に、
逆に体当たりするぐらいの状況でないと、うまくは行かないだろう。
となると、後一押し・・・
「さてと・・・これでもう打つ手無しだろう」
俺は、タイミングを見計らって足を打ち抜く。
かくして、反撃の手段を封じられた月臣のジンタイプは甲高い音を発し始めた。
「何、何が起こったの?」
月臣さんの機体の変化を見て、ユリカさんがそんな声をあげます。
まぁ、イネスさんはいないので・・・
ピッ!!
「説明しましょう!!」
・・・どうやってブリッジを監視しているのですか、イネスさん?
まぁ、今更考えても、仕方のないことだとは思いますが・・・
「アイツは初めから自爆用にプログラムされて、ここに送られて来たのよ。
周囲の空間全体を相転移してね。
まっ、この街全体が消し飛ぶ事は保証するわ」
珍しく短い説明をしたイネスさんに、ユリカさんが噛み付きました。
「えぇ〜、そんな、どうするの?」
「説明・・・って言いたいけど、私の仕事は説明と分析、
作戦を立てるのは艦長の役目でしょ?」
・・・分析はともかく、説明は仕事なんですか?
「それに・・・
何とかなる・・・と言うより、何とかできる人が一人だけいるわ」
「エ?」
皆、一瞬でそれが誰をさしているかを理解したらしく、
いっせいにアキトさんに注目しました。
「そう言うことだよ、
それじゃぁ、最後の詰めをさせてもらおうかな」
そう言いつつ、アキトさんは無造作に月臣さんのジンタイプに近付いていきます。
「ア、アキト!!
何をする気なの!!
そんな、危ないよ!!」
「ジャンプフィールドを展開。
ジンシリーズのディストーション・フィールドに同調、と」
ユリカさんが大声をあげますが、まさかここで中止するわけにも行きません。
そして・・・
「ジャンプ」
アキトさんたちは、七色の光に包まれて消えました。
第六十二話に続く
あとがき
・・・よ、ようやくこの話までこぎつけました。
長々と引っ張って、まことに申し訳ありませんでした。
とりあえず、急いでここまで話を持って来ましたが、
この先の話は、ほとんどできていないので、
今後は、今のようなハイペースで投稿する事はできないと思います。
で、この話ですが、
クリスマスパーティーの最中ならともかく、それ以外の時であれば、
当然町に行っている人や、基地に行っている人もいてしかるべきですよね。
ルリ君は残さないと話にならないのですが、
他の人をどう残すかは、ちょっと考えました。
まぁ、全体の半分のメンバーは揃っているということで・・・
ガンフェザーについてですが、
まぁ、元ネタが"あれ"である以上、"シールド"は当然張れないといけないでしょう。
しかし・・・自分で書いておいてなんですが、
これは、どう言う原理で浮かんでいるのでしょう。
エステバリス・・・空戦エステのように、
上下の区別があれば、スラスターで重力に対抗・・・と言うこともできましょう。
しかしこれは"あらゆる角度でホバリングできる"必要があるでしょうから・・・
そもそも、ナデシコの世界の"重力波スラスター"とは、一体なんぞや?
噴射光が見えるうえに、どう考えてもインパルス推進、
更に、何もない宇宙で使うことが前提・・・
しかも、純地球製の技術ときては・・・
曲りなりにも"重力"である以上、距離の二乗に反比例して弱くなるでしょうから、
宇宙で使うのは難しそうですし・・・
"光子ロケット"見たく、"重力子ロケット"と言う手もあるかもしれませんが、
それでは、機動兵器に必要な高出力は期待できそうにありませんし、
仮に可能なら、Xエステバリスが失敗した理由が説明できません。
そもそも、重力を使っているくせに、
インパルス推進と言うことが、話をややこしくしてるんです。
おとなしく、"イナーシャルドライブ"と言うことにすれば、話は簡単なんですが・・・
と、いうことで、こいつは"イナーシャルドライブ"で、
重力を相殺していると言うことにしてください。
ちなみに、DFRについては、まだ少しアイデアがあります。
ガンフェザーではなく、DFRの方ですが・・・
さて、どうしましょうか・・・
しかし、月臣さん・・・
相手に体当たりして、一緒にジャンプする事で敵を無力化・・・
凶悪な技ですね・・・
追記
ルリ君についてですが、第五十七話で、"このままでは、ルリ君が嫌なキャラになる"と書いたのは、
この辺りをうけての事です。
元々、その辺りの話は第五十七話を書くはるか以前に書き終わっていたシーンでしたので・・・
"なら書き直せばいい"と言う意見もありましょうが・・・
まぁ、そう言うことです。
どう考えても、進路修正をする必要がありますよね?
ちなみに、ルリ君はイネスさんについで、二番目に好きなキャラです。
ですが、それ以上に"共感できる"キャラなのです。
まぁ、私自身が、ルリ君のような思考パターンを持った人間ですので・・・
代理人の個人的な感想
(文章が)おかしいですよカテジナさんっ!(爆)
え〜、失礼ですが文章読み返されてます?
アリアさんの作品には(例えばこの話のDFRの説明のあたりのように)
主述関係その他が破綻した文章が時々ありますので注意された方がよろしいかと。
間違った文章と言うのは読んでてストレス溜まるですよ。