「オーーシ、そのままそのまま!!

 大切に扱えよ、なんてったって、スーパーロボットだからな!!

 こらぁ、ジュン!!

 おめぇが転ぶのはかまわねぇけど、エステとスーパーロボットを傷つけるんじゃねぇ!!」





ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
 第六十三話 誤算





私が格納庫に来ると、ちょうどジンタイプを格納庫に運び入れているところでした。

ところで・・・白鳥さんはいつナデシコに忍び込んだのでしょう?

まさか、わざわざ戦場で脱出してナデシコに忍び込んだとも思えませんよね・・・

となると、脱出する機会をつかめないまま格納庫に運び込まれてしまい、

脱出するにできない状況におちいってしまった・・・と言うところでしょうか?

・・・となると、最初の時と違って出撃した機体が少ないので、

修理もそんなにかからないでしょうし、

隙を見て脱出するのは、ちょっと難しいかもしれませんね。

できれば、月に向かって出発するまでは、

騒ぎを大きくするのは避けたいのですが・・・

まぁ、その分被害も多いですし、そこまで懸念する必要は無いかもしれませんが・・・

もし、忍び込めずにつかまった時は、その時です。

そうなったら、仕方がありませんので、

私の技術を総動員して、事をうやむやにするとして・・・

ここはとりあえず待ちましょうか?





ルリルリが走って行ったあと、ルリルリを追いかけて行くと・・・

格納庫の隅で、特に何をするでもなく、座っていた。

・・・どう言うこと?

アキト君が帰艦するのを待つ・・・と言うのなら解るわ。

でも、アキト君は月にいるんでしょう?

まぁ、"ボソンジャンプ"で戻ってくるのかもしれないけど・・・

それなら、わざわざ連絡なんていれずに、さっさと戻ってくるでしょう?

それに、さっきの通信を見る限り、すぐに戻ってくるつもりもなかったようだし・・・

そう思いながら、しばらく様子を見ていると・・・

突然ルリルリが立ち上がり、

収容したあの"ジンタイプ"の残骸に近付いた。

整備班の人たちは、とりあえずかなりダメージを受けてしまった、

ジュン君とイツキさんの機体の整備をやっていて、

ルリルリには気が付いていない。

・・・あの機体に興味があって、近付く機会をうかがっていた?

それはないわね、アキト君の様子だと、アキト君はあの機体に詳しいようだったもの。

当然、ルリルリもあの機体に詳しいと判断するのが自然ってものじゃないかしら?

そう考えていると、ルリルリは、悪戦苦闘しながら"ジンタイプ"によじ登り、

胸部の装甲を手際よく外してしまった。

私は、機動兵器には詳しくないし、

特にこのタイプの機動兵器は見るのも初めてだから、推測しかできないけど、

機動兵器の装甲版が、人一人の力であんなに簡単に外れると言うのは、

ちょっと考えにくい。

これがアキト君なら、力任せに引き千切りました・・・とか、

良くわからない原理で切り取りました・・・って言う可能性もあるけど・・・

やっぱり、ルリルリもあの機体に詳しいようね・・・

その後、中をなにやら弄り、そのまま装甲を元のようにはめ直すと、

何事も無かったかのように"ジンタイプ"から下りようとし・・・

そのまま足を滑らして落ちてしまった・・・

・・・ルリルリ、あなたもう少し運動した方が良いわよ?

・・・と、こんなこと考えてる場合じゃないわね。

しばらくうずくまっていたルリルリが立ち上がってこちらに歩いてくるのを見て、

私は、慌ててその場から立ち去った。





「ったくよ、

 やっと帰ってきやがった。

 すぐ行くんだからちょっと位待っとけってんだよな」

「ほーんと、

 置いて行くんなら、置いて行くって言ってほしいよね、

 せっかく良いところだったのに・・・」

ヒカルの奴はそう言うけど、

俺はそんなことを気にしてるわけじゃない。

確かに連勝記録を塗り替えられなかったのは悔しいが、

あんなレベルの奴らを相手に、

シミュレータで何百連勝しようと、何の役にもたたねえ。

弱いものいじめは趣味じゃねぇしな。

「ホント、残念ね・・・」

「ん?

 どうしたんだ、イズミ?」

「そうだよ、なんでシリアスイズミちゃんなの?」

ヒカルの言う通り、イズミがいつに無く真剣だ。

・・・なんだ、ここにも敵が来たのか?

だとしたら、基地の奴にでも言ってエステを借りるか?

それとも・・・

と、戦場独特の緊張感が辺りを被い尽くそうとしたその時・・・

「・・・遠洋漁業」

・・・は?

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

「さっき、言おうとしたのに敵襲のせいで、

 タイミングを逃して言えなかったのよ」

・・・ったく、どいつもこいつも!!





「はぁ、本社と軍の意向には逆らえませんが、

 休暇が取りやめになった方たちには、変わりに何か手を打つ必要もありますし・・・」

ゲキガンガーの歌を止めた後、ブリッジに帰ってきて、

先ほどの戦闘でアキトさんが使ったガンフェザーのデータを整理していると、

ユリカさんと一緒に軍と通信をしていたプロスさんが、そう愚痴をこぼしました。

・・・思いの他早く結論が出ましたね。

これなら、わざわざ歌を止めなくても、何とかなったかもしれません。

「でも、アキトは一刻も早く迎えに行くべきです」

「まぁ、それはそうですが・・・」

ユリカさんの言うことは、確かに一理ありますが、

そんなことを急に言われても困ると言う、プロスさんの言い分ももっともです。

まぁ、私としては、さっさと月に行ってもらいたいのですが・・・

「でも、良く軍がそんなこと許しましたよね」

その話を聞いていたメグミさんが、突然口を挟んできました。

「まぁ、軍は内心はともかく、建前としては反対できないと言うのが本音でしょうな。

 ナデシコは、第十三艦隊として独立されているので、

 よほどの事情がない限り最高議会か政府の命令以外は聞く必要が無いわけですからな」

「それに、二週間前に起きた謎の大爆発事件の影響で、

 今地球圏でもっとも護りが薄い場所が月だろ?

 そこに行くことを妨げることができるだけの、

 明確な根拠を示すのは難しいとおもうけどね?」

アカツキさんが、そう口を挟んできました。

「しかし艦長、

 いくらそうであっても、

 まだ正式に許可も降りていないうちに、

 非常招集をかけようとするのは辞めて頂きたいですな」

「え?でも・・・」

「ただでさえ、明日以降に休暇を申請されていた方は、

 休暇が取りやめになったのですよ。

 休暇を楽しんでいたクルーになんとおっしゃるつもりですか?」

「はぁ〜い・・・」

「以後、十分に注意してくださいよ。

 と、それはともかく・・・」

と言って、プロスさんがアカツキさんに手招きします。

「ん?

 どうしたんだい、プロス君」

「ちょっと・・・」

アカツキさんに呼び出しですか。

一足先に月に行くのかもしれませんが・・・

さて?





「ねぇ、まだ出発しないの?

 早く行こうよ〜〜〜」

コンソールに突っ伏しながら、

ユリカさんが、一分前と同じ質問をします。

とはいっても、まだ帰艦していない人もいるのに、

私たちだけ出発するわけにも行きません。

最も、ユリカさんも当然その事は知っているでしょうが、

わかっているのと、愚痴を言いたくなることは関係がありませんからね・・・

と、そんなことを考えていると、

「ねぇ艦長、

 そっちで航路データ弄るのやめてくんない?」

「フェ?」

「さっきから何度も何度も・・・」

ミナトさんが、怒ったように言いました。

まぁ、艦長席のコンソールからは、最優先命令が出せますから、

そのコンソールにじゃれ付かれても困りますよね・・・

最も、そうでなくては意味がないのも事実ですが・・・

「艦長は着替えでもして来たら?」

ミナトさんが不機嫌そうに言い放ちます。

そう言えば、ユリカさんはなぜか未だに私服を着ていますね。

「ん、わかったぁ〜」

ユリカさんがふらふらとブリッジを出て行くのを見届けると、

私はデータ整理の方に意識を戻しました。

えぇ〜っと・・・どこまで進めたんでしたっけ?

確かディストーション・フィールドの干渉による推進装置の不都合は、

大体まとめましたよね・・・

それを踏まえたプログラムを作るには、まだデータ不足ですし、

プログラム作りの方は月に行ってからにしましょう。

後は収束発射機関ですか・・・

ディストーション・ブリットの形成に必要な、

ディストーション・フィールド定数が500000N/m^2・・・

ここまでディストーション・フィールドを圧縮すると、

やっぱりどうやったって不安定になるんですよね・・・

多重フィールド干渉式収束装置を使えば、

もう少し安定すると思ったんですが・・・

機械的に、超高圧縮ディストーション・フィールドを安定させることは、

五年以上前から何度も試したことですから、

そう簡単にクリアできる問題じゃないことはわかってはいるんですが・・・

やっぱり、発射の際の収束は、アキトさんにやってもらうしかないんでしょうか・・・

いずれにしても、このレベルのカオス理論を、

エステバリスの制御コンピュータで安定させることは不可能です。

もう少し、ハードの方を改良するしかありませんね。

まぁ、これ以上は、アキトさんに感想を聞いてからです。

そんなことを考えていると、プロスさんがやってきました。

「おや、艦長はどうされました?」

「着替えに行ったわ」

「そうですか・・・

 ふむ、それは仕方ありませんな」

「どうしたんですか?」

「いえ、本社の方から、ちょっとした追加指示があっただけです」

追加指示・・・ですか・・・

このタイミングで・・・

「たっだいまぁ!!

 ねぇねぇルリちゃん、

 皆帰ってきた?」

「後二名帰艦していません。

 それはともかく、プロスさんがネルガル本社から追加指示を持ってきたそうです」

「え?

 月に行くんじゃないの?」

ユリカさんが、あからさまに不満そうな声を上げます。

「ええ、ですが、その前に補充人員が一人来るそうなので、

 出発は明日まで待ってはいただけないでしょうか?」

「なんで今更?」

「いえ、元々ナデシコに乗艦予定でしたが、

 ナデシコの停泊時間が大幅に短縮されたのでそのため・・・だそうです」

「うぅ〜、

 なんで皆で邪魔するの〜〜〜〜!!!」

ブリッジにユリカさんの絶叫が響き渡ります。

しかし、補充人員・・・ですか。

歴史が大幅に変わりつつあります。

アキトさんに連絡する必要がありますね。





戦闘の後、敵の"瞬間移動"に巻き込まれた私は、

医療班長兼技術班長のイネスさんに呼ばれて、

精密検査を受けることになりました。

精密検査なんて、時間がかかる面倒なものではありますが、

ミスマル提督からもらった報告書にあった、

護衛艦クロッカスの顛末を読んだ以上、無視する訳にも行きません。

チューリップに吸い込まれたり、突入したりした艦は、

二度と戻ってこないという事は聞いていましたし、

同じような現象が起きると言う話を、聞いたことが無いわけでもありません。

もっとも、その話を聞いたのは、

チューリップはワープゲートになっていると言う話と同時だったので、

古典的なフィラデルフィアの実験の噂に引っ掛けたものだろうと、

たいして気にも止めていなかったのですが・・・

事実は小節より奇なりとはよく言ったものです。

検査自体も、かなり詳しく行なわれたようですが、

それ以上に終わった後の説明が長く、夕刻までかかってしまいました。

・・・今後医務室には、差し迫った用事が無い限り近付かないようにしましょう。

さて、エステバリスの方も、

何か異常があると行けないから、一度ばらして見るといっていましたが・・・

そう思い、格納庫へ足を運ぶと、

ウリバタケさんが、私のエステを、色々といじっていました。

何でも、ナデシコのエステは彼が特別に改造した物らしく、

軍で一般的に使っているものより、一回り以上高性能になっているそうです。

その分、整備が複雑になるから、一般市場向けではないそうですが・・・

軍に売るのは、一般市場と言うのですかね?

ともかく、私のエステも改造するので、後で調整のために来てくれと言われましたが、

ただ組み立てるだけで数十分はかかりそうです。

"後"と言うからには、もう少しかかるのでしょう。

私は、格納庫を後にして、パイロットの控え室へと向かう事にしました。

確か、今日の昼班はリョーコさんとイズミさんとヒカルさんでしたね。

で、部屋に入ると・・・

「おい、こら!!

 テメ、待ちやがれ!!」

「きゃぁ〜〜〜!!

 リョーコちゃん恐〜〜い!!」

「りょーこちゃんこわーい・・・」

「おい、このヤロ!!」

リョーコさんが、イズミさんにチョークスイーパーをかけていました。

更に、ヒカルさんが素早く私の後ろに隠れます。

・・・何があったのでしょう?

と、思っていると・・・

「摂氏九度・・・

 九℃・・・九度しー・・・くどしー・・・くるしー・・・

 くっくっくっくっ・・・

 ・・・・・・・・・・・・くぅ(ガクッ)」

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

気、気を取り直して・・・

と、三人のやり取りに気を取られて気が付きませんでしたが、

どうやら、テンカワ アキト以外のパイロットが全員集まっています。

シミュレータの電源が入っていますし、訓練をやっていたとか、

フォーメーションの研究でも行なっていたのでしょう。

テンカワ アキトに関する情報を集めたかったのですが、

どうせなら同じパイロットに聞くべきだと思ってここに来たんです。

全員いる場面に出くわすとは、かなり運が良いですね。

そう思い、とりあえず手近にいるヒカルさんに話をしよう振り向こうとした瞬間・・・

「じゃぁ、そろそろ休憩も終わりにしよう」

と、副長が訓練の再開を宣言しました。

・・・ちょうどパイロットが全員揃っているところに出くわすなんて、

話ができすぎてると思ったんです。

まぁ、しばらくしたらまた休憩するでしょうから、その時にでも聞くとしましょう。

「と・・・イツキさんはどうする?

 訓練は参加するよね?

 とりあえず、一度ここで僕たちの戦闘を見て見るのもいいと思うけど・・・」

「そうですね・・・」

一緒に戦って見ないことには、その人の本当の実力などはわかりませんが、

客観的に見て見ないと、わからないこともあります。

ここは・・・

「とりあえず参加させてもらいます。

 習うより慣れろ・・・と言いますからね」

「そう、じゃぁとりあえず・・・

 後でルリちゃんに言って、

 シミュレータにイツキさん用のエステのデータを入れてもらわないと行けないけど・・・ 

 とりあえず、今回は初期設定になってるから気を付けてね」

そう言って、訓練が始まりました。

感想は・・・

ナデシコ部隊は、テンカワ アキト以外もすごいと言うのが、よくわかりました。

アリサさんと、ヤマダさんはちょっと浮いていますが、

リョーコさんとイズミさん、ヒカルさんの連携は、

私が今まで見たどのチームよりも完成されていました。

お互いの癖を知りぬいているというか、信頼しきっていると言うか・・・

私は、私の真後ろから私の脇をぬけるように敵を狙撃させられるでしょうか?

ちょっと間違えば、ディストーション・フィールドは間に合わないでしょうから、

直撃してしまいます。

聞くと、いつかテンカワ アキトと模擬戦をした時、

援護射撃を受ける際の一瞬の隙に、前衛を殺されたのだそうです。

だから援護を受ける時に隙ができないようにしたんだって言われましたが・・・

そんなに簡単にできる問題では無いでしょう?

「まぁ、始めは敵よりヒカルとイズミに打ち落とされることの方が多かったけどよ。

 はっはっは!!」

私は、こんな場所でやって行けるのでしょうか?

っと・・・

「それより・・・」

と、テンカワ アキトに付いて質問し様とした瞬間、

ピッ!!

「おお、イツキちゃんか?

 エステの修理が終わったからよ、

 エステの調整したいんで来てくれねぇか?」

・・・バットタイミング、ですね。

はぁ、なんか、ナデシコに来てから全てがうまく行っていない気がします。

まぁ、良いんですけどね?





「ふぅ・・・

 後は、本体の整備だけですから・・・

 サレナの方は弄んないで下さい」

「弄れって言われても弄れませんよ・・・

 さっぱりわかんないんですから・・・」

「そうですか、

 ならいいんすけど・・・」

月にジャンプした後、

アカツキからの連絡で俺を出迎えてくれた月基地で、

俺はCユニットをサレナごと手動で取り外していた。

作動不良の原因は、良くわからなかったが、

まぁ、ウリバタケさんたちに見せれば、

何とかしてくれるだろう。

しかし、この状態で、どこをどうやったら十分でCユニットだけ取り外せるんだ?

「まぁ、それはそうですが・・・

 しかし、どこで手に入れたんですか、

 今うちで小型相転移炉を作ってますけど、

 比較にならない位大きいですよ?」

「別にここの技術が世界最高と言うわけじゃないでしょう?」

「そりゃそうですけど・・・

 なんていうか・・・

 そう言うレベルじゃないでしょう?」

「そう言われても・・・」

まさか、未来の技術です・・・なんて、言うわけにもいかないしなぁ・・・

「まぁ、現にあるんだから、仕方ないですけど・・・」

「そう言うことです、

 ああ、それと最終的な調整は自分でやりますから、

 調整の際のテスト用に、イミティッドナイフか、フィールドランサーを準備しておいてくれますか?」

別に何か問題があるわけじゃないが、

今回はDFSすらもって来てないからな。

用心にこした事は無い。

「えぇっと・・・

 ここに普通のエステ用のナイフとかランサーあったかな・・・

 まぁ、何とかしておきます。

 でも、 "漆黒の戦神"ともなれば、初期プログラムでも十分なんじゃないんですか?」

「別にそれでも動かせない事はないけど、

 やっぱりIFSの技術的な欠点として、

 個人ごとの微妙な調整は必要ですよ。

 そのままじゃ、重いし細かいコントロールは効きませんし・・・

 じゃぁ、俺はちょっと・・・」

と、俺は早々に話を切り上げた。





(さて・・・

 今回はブラックサレナ用のDFSすら持ってきてないからな)

『そうそう、

 まぁ、Cユニットじゃ仕方が無いけど・・・

 でも、何が悪かったんだろうね?』

『それはもちろん・・・』

『僕じゃないよ』

『私でもないよ』

『じゃぁ・・・』

(そんなことはどうでも良いだろ?

 代わりの獲物も注文したし、

 いざとなれば武器無しでも何とかなるさ)

『まぁ、アキト兄なら何とでもなるだろうけど・・・』

(そう言うことだ、

 話を進めるぞ?)

『そうだね、

 とりあえず・・・相転移炉を持って言ってもらわないと行けないんでしょ?』

(別にそう言うわけでもないが・・・)

『・・・食い止めるの?』

(いや、

 北斗を助けるには、あいつが全力で戦える状況を作る必要があるだろうし、

 それにはやっぱり小型相転移炉は必要だろう。

 それに、チハヤさんたちとも話したい。

 だけど、例えどんな人間だろうと、

 殺されるのを黙って見ている訳にもいかんだろ?)

『じゃぁ、久美ちゃんの所には行かないの?』

『違うよ。

 久美ちゃんの所に行かないと、

 そもそも相転移炉の盗難イベントが起きないじゃん』

『なに言ってるの?

 別にあれが無くても、

 相転移炉を盗む計画自体はあったはずでしょ?』

『でもさ、どうせなら恩を売りたいじゃん』

『ああ言うタイプは、助けられても恩を感じないよ。

 きっとかえって逆恨みするタイプだよ』

(・・・いずれにせよ、とりあえずは予定通り行くさ、

 ダメだったらダメで、その時はその時だ)

『それはそうだけどさ、アキト兄、

 今気がついたんだけど・・・』

(どうしたんだディア?)

『そもそも、久美ちゃんが絡まれてたのは昨日だよ?』

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

(・・・あ)

『そう言えば!!

 う〜ん・・・それは根本的かつ致命的な問題だね』

(そ、そうだな・・・

 困ったな・・・)

『で、どうするの?』

(・・・まぁ、食堂に行けば、被害者が久美ちゃんじゃないにしろ、

 誰かが被害にあってるだろう・・・)

『良いの、それで?』

(・・・仕方あるまい)

『あぁ〜あ、

 昨日久美ちゃんはあの後・・・』

『そうそう、ああ言う奴らは、因縁つけた後・・・』

『きゃ〜〜!!』

『恐怖の一夜、

 迫り来る危機また危機』

『待てど暮らせど救いの主は現れず』

『果たして無事に、

 この危機を乗りきることができるのか!!』

『久美ちゃんの運命や如何に!!』

(・・・・・・・・・・・・)

『ね、ねぇアキト兄、

 無言で返されると、ボケ難いんだけど・・・』

(・・・・・・・・・・・・)

『『・・・・・・・・・・・・』』

(・・・・・・・・・)

『『・・・・・・・・・』』

(・・・・・・)

『『・・・・・・』』

(・・・)

『『・・・ごめんなさい』』





第六十四話に続く





あとがき

イツキ カザマが言っていますが、

クロッカスのクルーの運命を知っている物は、ナデシコクルーの他には、ごく少数でしょう。

同じ敵が、異なる二つの"瞬間移動技術"を持っていると考えるのは、かなり不自然ですので、

チューリップが瞬間移動装置であると知っていれば、

ジンタイプの"瞬間移動"も、同じ原理を使っていると推測するほうが、自然です。

仮にイツキ カザマがクロッカスの顛末を知っていたとなると、

TV版における彼女の行動が、とても不自然に感じられます。

もしかしたら、チューリップが瞬間移動装置であると言う事ぐらいは知っていたかもしれませんが、

あの時点では彼女レベルの人間は、その辺りの情報は流れていなかった・・・

と、考えざるを得ません。

しかし、この話や「時の流れに」における彼女は、地球連合極東方面軍指令直属のスパイです。

それくらいの情報は流してくれたのではないかと・・・



IFSの技術的欠点について・・・

IFSと言うシステムは、コネクタを通して人と機械をつなぎ、

それによって機械を動かすシステム・・・だと思います。

これは、他のコントロール装置のように、

まず機械ありきで、それに人間が合わせるシステムで無く、

まず人ありきな操縦システムです。

だからこそ、操縦に熟練が必要ないわけですが、

人間のイメージと言うものが、全ての人で同一とは思い難いです。

つまり、人の数だけ異なるタイプのキーボードで、

コンピュータを動かそうとするようなものですから、

当然色々と不都合が出てきます。

もちろん、汎用プログラムも存在するでしょうが、

細かい操作は難しいでしょうし、

タイムラグも出てくると思います。

作業機械ならともかく、エステバリスではその微妙なずれは十分命取りになりえます。

非常の際には自分の機体以外の機体に乗ることもありえるでしょうから、

そう言うプログラムを装備はするべきでしょうが、

自分の機体はそれ無しで動くように調整するべきだと思うのです。

もちろん、カスタムエステのように完全に特定の個人専用機なのであれば、

別に必要ないでしょうが・・・

いずれにせよ、個人に合わせた微妙な設定をするには、

まず機械ありきな普通のプログラムのように、

ただ確実、迅速、強力に作動し、使い方がわかり易いだけでなく、

非常に高い柔軟性と、個人個人に合わせた様々な微調整ができるだけのシステム的余裕が必要でしょう。

強力、確実と言う部分と、矛盾しているようにも思えますが・・・



さて、久美ちゃんはどうするかな・・・

既に悲惨なことになっていると言うプロットもあるにはありますが・・・

やっぱりさすがに問題が大きいかなぁ・・・と・・・

まぁ、どちらを選んでも話の本筋に大きな影響は無いんですけどね?

管理人の感想

アリア=ミリディールさんからの投稿です。

そうか、ジンタイプはスーパーロボットだったんだ(笑)

確かにそう言われれば、そうですよねぇ

久美ちゃんイベント・・・風のように現れて、悪者を倒して、風のように去ってみればどうでしょう?(苦笑)