「痛っ!」
「さっさと歩け」
「ちょっと、
怪我人なんだからもうちょっと考えてあげてもいいじゃな・・・
って・・・わかったわよ、わかったって・・・」
ブロスとディアの正しいアキト君の育て方
第六十九話 北辰
私が、白鳥さんに声をかけては、その都度『北辰の部下』に刀を突きつけられる。
何度そんな押し問答を繰り返したか、
いいかげん文句を言うのにも疲れてきたころ、
まだ足がふらついている白鳥さんが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「済みません、本来なら自分があなたたちの安全を確保しなくてはならないのですが・・・」
「ああ、いいのよ、好きで巻き込まれたんだから」
・・・とは言っても、このまま・・・って訳には行かないんだけど。
まぁ、アキト君が黙っているとも思えないし、何とかなるでしょ。
多少楽観的過ぎるような気もするけど、ようはそういうこと。
みんなアキト君に頼りすぎだとは思うけど、この状況じゃ仕方ないし、
白鳥さんのためにもここは甘えさせてもらいましょう。
「お前達はこっちへ来い」
格納庫まで来ると、"北辰の部下たち"が、
私とイネスさんの腕をつかんでどこかへ連れて行こうとする。
「お前達!!」
と、そのとき・・・
目の前に"ボソンジャンプ"の光が現れる。
唖然とする白鳥さんと『北辰の部下』たちを前に、
漆黒のエステバリスが実体化し、そのハッチが開く同時に・・・
北辰の部下たちが吹き飛ばされた。
とっさに白鳥さんのほうを見ると、
白鳥さんだけは器用に避けて吹き飛ばしたらしく、
さっきまでと変わらない場所で、北進の部下に代わってアキト君が、白鳥さんを支えていた。
・・・彼を知っている?
この状況で、アキト君が白鳥さんを見逃すのはすごく不自然。
そういえば、ルリルリも彼が乗ってきた"ジンタイプ"を弄ってたわ・・・
そう思って、白鳥さんの顔を見たけど、
白鳥さんは呆然としか表現できないような顔をしている。
少なくとも、知り合いに対する反応じゃない。
・・・ルリルリと艦長の関係と同じく、一方的に知っている・・・と考えるべきかしら。
そんなことを考えていると、アキト君が、
「後は任せます」
といって、白鳥さんを私に預けると、ブリッジのほうへ走っていった。
「つまらんな、
地球の艦にしてはマシなほうだと聞いておったが、
戦神がいなければこの程度か」
もし無人兵器に心があるのなら、
アキトさんと向かい合う無人兵器は、
今の私たちと同じような心境になるのでしょう。
圧倒的。
それ以外に言葉がありませんでした。
全ての人が、ただ一撃の元に倒されてしまったのですから。
「テンカワ アキトの使用している機体のデータを出せ」
北辰が部下にハーリー君の咽に刀を突きつけさせ、
自分はこちらを睨んだまま言います。
「それが目的だったの!?」
「そうだ、あの大きさで相転移炉を内蔵し重力波砲を持つ人型兵器、
我等がこれに興味を持たぬと思ったか。
さあ、どうした。
大切な仲間を見殺しにするのか?」
ハーリー君の咽に、担当の切っ先が食い込みます。
「・・・わかりました」
ブラックサレナのデータを渡すことは、もとより予定されている誤差のうち。
どうせ、クリムゾン経由でデータはコピーされているのだから、
今更このデータを死守する必要もないでしょう。
何より、時間を稼ぐにしても、ハーリー君を危険な目に合わせるわけには・・・
「ルリちゃん!!」
思わず、ユリカさんが声を上げますが・・・
「不服か?
さすがは悪の地球人、
仲間を見殺しにするか」
「ウゥ・・・」
この状況では、逆らえません。
「ルリさん、僕は大丈夫で・・・!!」
ガスゥ!!
「ハーリー君!!」
「こやつらの戯れ言など聞く必要はない、
ほれ、早くしないと・・・」
・・・アキトさん。
早く・・・早く来てください。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「・・・終わりました」
私は、ディスクを持って立ち上がり、
それを北辰に投げ渡します。
アキトさんはまだ来ません。
精一杯時間を稼いだのですが・・・
「今後の指示は?」
「三人も要らん。
二人の妖精を残し、後は殺せ」
・・・予想どおりの言葉。
「そんな、約束がちがうじゃないですか!!」
ユリカさんが再び叫び声を上げます。
「ふん、強者が弱者の約束を守る必要はあるまい。
お前達地球人が我々にしてきたことと同じよ」
そして部下に片手で合図を送り。
それを受けた部下が短刀を・・・
「ま・・・て・・・」
と、その時、シュンさんが起き上がりました。
「ほう、
まだ立ち上がれるか」
「一応、俺はそいつの保護者代理なんでね、
殺されるのを黙ってみているわけにはいかないんだ」
と、フラフラになりながら立ち上がりますが・・・
「根性は気にいったが、体がついてこぬようだな」
北辰に蹴られ、そのまま倒れてしまいました。
「い・・・いや、これで・・・いいんだよ」
北辰に踏まれたまま、シュンさんが言い返します。
「何?」
「グァ!!」
突然北辰の部下が叫び声をあげ、振り返ると、
いつのまにかナオさんが脱出して、
北辰の部下の腕をナイフで切りつけ、
ハーリー君を助け出すと、
逆にその咽元にそのナイフを突きつけていました。
「そう言うこと、
助かったぜ、隊長さん」
「ほう、
さっきのはそのナイフをそやつに渡すためだったか」
「そういうこと、
さて、形勢逆転だな」
ナオさんが、そのまま、瞬きをせずに北辰をにらみつけると、
北辰は無表情にシュンさんから足をどけ・・・
次の瞬間、そんなことなど全く気にしない様子で、投げナイフを投げます。
「な!!」
「殺したくば殺せ、
地球人ごときに遅れをとるような無能者などいらぬ」
「く!!」
ナオさんがそのナイフに気を取られた瞬間、
北辰の部下がナオさんの肘を突き上げながら身を屈め、
横腹に肘を打ち込むと同時に腕をつかんで捻り、ナイフを奪うと、
そのナイフをナオさんの肩に突き刺して距離を取ります。
「どうやら形成再逆転のようだな?」
北辰の余裕たっぷりに宣言し、ナイフを構えたそのとき・・・
「!!」
突然北辰が後ろを振り返りながら、手にしていた投げナイフを投げます。
その投げナイフが飛んでいった先に・・・
「おっと・・・もう見つかったか、
もう少し近付きたかったんだが・・・」
ついに、真打が現れました。
「おっと・・・もう見つかったか、
もう少し近付きたかったんだが・・・」
俺が北辰の投げた投げナイフを受け止めると、
俺はブリッジの中の様子を確認し、
答えが返ってこない事がわかり切った質問を口にしながら、
重心を確認して、それを構える。
「・・・ほう、テンカワ アキトか。
主がここにおると言うことは、やはり、地球人は生体跳躍を完成させておったのだな。
しかし、彼奴等め地球人ごときに返り討ちにあうとは・・・
彼奴等が役に立たぬのか、それとも漆黒の戦神の名は伊達ではないのか・・・」
この状況で二人一気に戦闘不能にするのは難しいか。
北辰を相手にしている間に、六人衆にユリカやルリちゃんたちを攻撃される可能性を考えると、
このまま相手をするのはまずい。
あの傷じゃあナオさんに期待するのは酷だし、ゴートさんたちは気を失っている。
・・・北辰を投擲だけで倒すのは難しいかもしれないが、六人衆なら、何とか可能だろう。
隙を見て、ナイフを投げるか・・・
「相も変わらずべらべらとよくしゃべるな、お前は」
そう言いつつ、微妙に立ち居地を変える。
が、当然のことながら、北辰は俺にとって都合の悪い位置に動く。
さて・・・
「我は初めて会ったと思うが・・・
しかし、我に気取られずにこの距離まで来るとはな。
陰行術は地球人にはさほど縁のない術だと聞いていたが?」
「中には縁のある例外だっているし・・・
縁がないということは、使えないということとイコールじゃない。
地球は狭いようで広い。
中には好き好んで使えもしない技術や知識を溜め込む物好きもいるの・・・さ!!」
そういい終わると同時に手に持ったナイフを六人衆にむけて投げつける。
あいにく、時間稼ぎにも限界があるため、
適当なところで見切りをつけて投げざるを得ず、
位置と角度の問題で急所はねらえなかったが、
ナイフは吸い込まれるように肩口に突き刺さった。
「グァ!!」
「道楽にしては洗練されておったようだが・・・
まぁよい、覚えておこう。
おい、動けるならさっさと逃げろ」
「し、しかし北辰様!!」
「その傷では満足に動けまい、
足手まといにしかならん。
こやつ・・・我より修羅の道を歩いておるわ」
そういうと、北辰はやや間合いをとって構える。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
来る!!
「ぐっ!!外道で修羅に勝てぬか」
「当然、
俺が俺である限り、俺は負けるわけにはいかない」
「まだ・・・我は死なん」
そう言って、ナイフを投げるが・・・
「させるか!!」
それを予測していた俺は、軽く払い、
そのまま一瞬遅れて北辰を追いかけるために、爆破された扉に駆け寄る。
北斗との関係上、ここで仕留めるわけには行かないが、
五体満足で帰らせる気はない。
と、思った瞬間、北辰が何か箱状の物を放り投げる。
俺は、その正体を確かめる前にとっさに手を伸ばした。
如何に、時前の情報収集を完全にしていても、
爆薬を使い切るという状況はまず考えられない。
むしろ、それが起きるのは情報不足から敵の装備を過小評価していた場合におきることで、
普通は、不測の事態に備えて爆薬などは余裕を持って持っていく。
その無駄のない行動から察するに、
前回、今回と、北辰たちの事前調査は完璧だったようだから、
後は逃げるだけというこの状況でも、爆薬に余裕があるのは全く不思議ではない。
そして、あとは逃げるだけという状況では、ただの荷物である余った爆薬なのだから、
それを武器に転用しても、これもまた全く不思議ではない。
不思議ではないが・・・使われた方はたまったものではない。
受け取って投げ返す・・・と思ったが、
これが本当に隔壁を爆破したものの残りなら、
無線か何かで爆発するタイミングを支持するタイプだろう。
北辰は逃げることに集中していてこちらを見ていないとは言え、
大体のタイミングはわかる。
受け取った瞬間に爆発させるだろう。
となると、昂氣をつかうしかないな・・・
そう思って、昂氣を収束させようとして一瞬躊躇する。
北辰にみられると、ややこしいことになるまいか?
といっても、他に手段のあるわけでもない。
と、俺が昂氣を収束させた瞬間、それは爆発した。
幸いというか、予想通りというか、それは隔壁などを爆破した残りで、
殺傷力を高めるための工夫などは施されず、ただ爆発するだけのものだった。
釘などを混ぜ込むといった、原始的な工夫でも、
この距離で爆発されれば、ユリカやルリちゃんたちに被害が行く。
自分だけなら、爆風のベクトルを変化させれば良いだけなので、
例えどんな工夫を施されていようと防ぎきる自信があるが、
周りに被害がいかないようにするには、爆風を完全に中和しなければならない。
それも、昂氣をきちんと集中させていれば可能だったろうが、
集中させ始めたばかりだったし、
釘などが撒き散らされることの方を優先していたため、
爆炎は完全に防ぐことはできなかった。
「ちっ、油断したな」
焼け爛れた腕を見て、俺は舌打ちをする。
周りへの被害は完全に抑えられたが、
これじゃあ、この腕は少なくとも、この北辰の追撃戦では使い物になるまい。
爆弾のせいでかなり時間を稼がれたが、
腕が一本ぐらいつかえなくても、銃は撃てるし、
多少痛いが、十分コントロールできる範囲だ・・・IFSでの操縦に影響はないだろう。
そもそも、多少不備があっても、追撃を中止するわけには行かないのだ。
俺は迷わず追撃を再開した。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・・で、追いついたのは結局格納庫に入ってからだった。
「待て!!」
「しつこい奴だ」
北辰はそういいつつ、またもナイフを投げてくる。
今回は、周囲に誰もいないのでそれを避けて一気に近づく・・・
と、北辰の乗り込もうとしていたものとは別の小型ジンタイプが、
こちらに向けてロケットパンチを撃ってきた。
「く!!
ここでそんなものを撃つか、普通!?」
これを防御した場合はもちろん、回避しようと迎撃しようと、
その間に北辰はジンタイプに乗り込むだろう。
となるとエステで追うか・・・
現状で一番近くにある機体は、
俺の真後ろにまさに今の今まで整備していたようにおかれているイツキちゃんのエステだ。
これを壊されては、大きく時間をロスする。
そう思って、飛んでくるロケットパンチをまわし蹴りで弾き飛ばす!!
蹴り飛ばされたロケットパンチは、大きくコースをそれ・・・
ハンガーにおかれているピンク色のエステバリスに直撃した。
「ア・・・」
これはウリバタケさんに怒られるな・・・
すいませんウリバタケさん、すまん、ガイ。
と、心の中で謝りつつ、
北進を追いかけることを優先してイツキちゃんのエステに乗り込んだ。
第七十話に続く
あとがき
テンカワsplは試作型アラストロメリアだったはずですので、
単体ボソンジャンプ可能ですよね、確か。
「時の流れに」と違い、エステバリスごとジャンプしたのは、
別に何かの伏線ではありません。
まさか、敵の目の前でエステバリスを残してジャンプするわけにも行きませんし、
「時の流れに」において、月からジャンプしてきた時、
格納庫にジャンプアウトしたのは予定外だと言うようなことを言っていたようなので、
エステバリスをおいていったのは、
ブリッジに直接ジャンプするため・・・と愚考いたしましたしだいです。
そもそも格納庫にジャンプするなら、エステバリスごと持っていっても問題ないですし、
そのほうが遥かに自然ですからね。
きゅ〜・・・
北辰って書きにくい・・・メグミちゃんほどではないですが・・・
早いところこの辺を書き終わって、カスタムエステとかを登場させたいです。
管理人の感想
アリア・ミリディールさんからの投稿です。
さて、感想なのですが凄く印象に残った事があります。
さすがにジンタイプのロケットパンチは・・・蹴り返せないと思いますよ?(汗)