機動戦艦ナデシコ



遺失文明乱入?



第八話











火星に突入するまでは順調だったナデシコ。

しかし、膨大な敵の数を前に撤退を余儀なくされ、
脱出するためにチューリップに突入していった。

その際、ケインとキャナルはソードブレイカーに乗り、

囮になるため、敵の大群に向かっていった。





チューリップに突入してからしばらくして、全クルーは意識を手放した。

















ここは地球と月の間にある宙域


そこでは現在、地球連合軍と木星蜥蜴が、

大規模な戦闘をしていた。

膨大な木星蜥蜴を相手に連合軍は、数で劣りながらも善戦していた。


そんな中、チューリップの1つに変化があった。




「チューリップ内部より、戦艦クラスが出てきます!」




連合軍の艦、グラシオラスのブリッジで、兵の1人が叫ぶ。




「ぬう・・・蜥蜴どもめ・・・いざとなったら、

 このグラジオラスをぶつけるまで!」




その間もチューリップはその口を開けていた。

しばらくして、中から巨大な物体が出て来た。


それを見た兵が驚愕する。




「これは・・・・・ナデシコです!」



「なっナデシコー!?」






そう、チューリップから出てきたのは、

火星でチューリップに突入したナデシコであった。


ナデシコがチューリップから出ると、チューリップは爆発・四散し、

周りの無人機を巻き添えにした。

どうやら、そのチューリップはナデシコより小さかったため、

ナデシコが出るときに、無理が生じ、耐え切れなくなったようだ。









連合軍はナデシコがチューリップから出てきたことに驚きを隠せないでいた。


状況確認のため、急いでナデシコに通信を送ろうとした矢先、


黒い光が連合軍を掠めていった。


発射元は・・・ナデシコである。





















《なあに考えてんだ!!

 幸い、死人こそでなかったからいいものを。

 いいか!我々の邪魔をするなら、連合軍のプライドをかけて、

 迎撃するからな!!わかったな!以上!!》





連合軍からの通信は切れた。




「うー・・・わざとじゃないのに、誤解なのに・・・」



「誤解で済んだら、戦争だっておきないよ。ユリカ。」




拗ねるユリカを咎めるジュン。




「ジュンさんの言う通りですな。

 まあ過ぎたことを言っても仕方がないでしょう。

 それより今は、現状をどうするかです。

 艦長、指揮を。」




ジュンに同意しつつ、ユリカに指揮を促すプロス。




「わかりました。ルリちゃん、エンジンの状態は」



「火星でのダメージで、出力は50パーセントが限度です。」



「わかりました。

 だったらフィールドを展開しつつ、連合軍のほうへ向かってください。

 パイロットの皆さんは、ナデシコに近づく敵を優先に撃破してください。」

 その他のクルーは衝撃に備えてください。」




ユリカが全クルーに指示を出す。

それを聞いたクルーは、それぞれ自分がやるべきことをするため、持ち場についた。




「ミナトさん、このルートで進んでください。

 このルートなら敵の数が少ないですから。」




いいながら、ミナトに進行ルートを表示したウィンドウを飛ばすルリ。




「サンッキュ、ルリルリ。」




それを受け取り、礼をいうミナト。




「みんな、しっかり捕まっててね。」






















「全機、ナデシコの護衛を最優先!近づいてくる敵だけを落とせ!」




アキトが自分以外のパイロットに通信を送る。




「「「了解!!!」」」



「おっしゃー!暴れるぜー!!」



「ガイ、深追いはするなよ。」



1人で突出しそうなガイに釘をさすアキト。




「・・・わかってるって、心配するなアキト」




(心配だから言ったんだけどな・・・)




どうやらガイは、アキトに信用されていないようだ。


そうこうしている内に、バッタが数十機近づいてきた。




「来たか・・・全機散開!」




アキトの声とともに全機が散開する。





「イズミ、いくよ!」



「わかったわ。」




イズミは前方にいるバッタ数機に向かって、ラピッドライフルを連射した。

しかし威力はあまり高くないので、ほとんどがフィールドに弾かれてしまう。

そこにフィールドを纏ったヒカルのエステが突っ込む。

しかし、落とせたのは2、3機だった。




「ええー!?何でこんだけしか落とせないの?」



「どうやらフィールドが強化されてるみたいね。」




いつもなら十数機は落とせるのに、今ではたったの数機という事実に驚きを隠せないヒカル

一方、イズミも少しは驚いていたが、すぐさま攻撃を再開した。




「だったら接近戦あるのみだぜ!」



「おお!リョ―コの言う通りだ!

 いくぜ!ガァイッ!!スーパーッナッパァッ!!!



「敵のフィールドだって完璧じゃありません。それに無理して落とす必要もありません。

 無人機の注意をこちらに引き付けるだけでも十分です。」




リョ―コは、接近してきたバッタだけに狙いを絞り、ナックルを叩き込でいた。

ガイは、フィールドを纏ったナックルで次々と、バッタを落としていった。

よく見ると、少しづつナデシコから離れていた。

イツキはというと、ラピッドライフルで軽く牽制した後、

動きの鈍くなったバッタに、イミディエットナイフを突き刺して撃墜していた。




「あれ?アキト君は?」




ライフルで無人機を牽制しながら、この場にいないアキトの事を聞くヒカル。




「アキトさんは、一番敵が多い箇所に向かいました。」




向かってくるバッタをナイフで切り払いながら答えるイツキ。




「1人って・・・おい大丈夫なのか?!」



「アキトなら大丈夫だろ。」




バッタを殴り飛ばしながら、しゃべるリョ―コとガイ。




「ええ大丈夫です。だから私達は、今出来る事をやりましょう。」



「「「おう!!!」」」












一方アキトは一人で数十機の無人機を相手にしていた。


無人機のフィールドが強化されているので、

ライフルはばら撒く程度に撃ち、それによって怯んだ隙に、

一気に接近し、廻し蹴りを叩き込んだり、

手にしたナイフを突き刺していた。




「くっ・・・流石にフィールドが強化されていると、

 一筋縄では行かないな・・・・だが、ひるんでなどいられない!」




アキトは愚痴りながらも、向かってくるバッタの下方に回りこみ、

零距離でラピッドライフルを連射した。

流石にフィールドが耐え切れなかったようで、バッタは爆発した。

落としたのを確認する間もなく、アキトは後方にいたバッタに向かった。

反応する暇を与えないうちに、ナイフで切り落とす。

そして次のバッタを落とそうとした瞬間、

アキトの回りにいた無人機数十機がいきなり爆発した。




《相変わらずの強さだなアキト。》



「そういう、おまえこそな。」




通信と同時に無人機の残骸から出てくる白亜の機体。

そう、その機体はソードブレイカーであった。目の前に出現したウィンドウに写る人物に答えるアキト。

それはまぎれもなく、火星で囮になったケイン・ブルーリバー。

先ほど、一度に数十機を落としたのもケインのようだ。




「それで用はなんなんだい?」




わかっていながらも、聞くアキト




《決まってるだろ。ナデシコを助けに来たんだよ。

 おまえ、解ってて言ってるだろ。》






「ふふふ・・・ああ。

 それで、相棒はどうしたんだい?」




いつも一緒のはずの人物がいないことに疑問を抱くアキト。




《ん?あいつなら後輩連れてナデシコのほうへ行ったぜ。》



「後輩?というとあの2人かい?」



《ああ。その通りだ。これから騒がしくなると思うぞ、いろいろな意味で。》



「はあ・・・・まっ、なるようになるさ。

 さてと・・・ナデシコに向かおうか。

 駆逐艦クラスがナデシコに向かっているからな。」



《あいつらがむかってるから、大丈夫だろう?》



「だからといって、任せるわけにも行かないだろ?」



《それもそうだな。》



「いくぞ、ケイン。」



《わかってるよ、アキト。》




2人はナデシコに向かって加速した。















一方そのころ、

エステバリス隊は、無人機に徐々に押され始めていた。




「うえーん・・・フィールドが破れないよう・・・」



「狙いをナデシコから私達に変えたようね・・・」



「ったくよー・・・きりがねえぜ・・・」



「俺のゲキガンガーは・・・・まだまだ負けないぜ・・・!」



「くっ・・・・・流石にこれだけの数が相手だと・・・・」




どんどん蓄積していく疲労・・・

それは既に、エステの動きに影響がでるほど溜まっていた。

それでもパイロット達はバッタの半分以上を落としていた。

だが、かなり無理をしているようで、機体のあちこちに被弾していた。



しかしバッタは、そんな彼らに容赦なく襲い掛かる。

懸命に対抗するエステバリス隊。

だが疲労している事もあり、すぐに周りを数十機の無人機に囲まれてしまった。


周りを囲まれたエステバリス隊は、一箇所に集まる事になってしまった。

なんとか脱出しようにもバッタの数があまりに多く、さらに機体のダメージもあって突破できないでいた。

そんなエステバリス隊をあざ笑うかのように、バッタはゆっくりと周りを囲むと、

容赦なく大量のミサイルを撃ち放った。




「駄目!・・・避けられない!」




目の前に写るミサイルの雨。そして・・・





ズガガガガガガガガアンッッッ!!!!!











凄まじい爆発がした。

だが来るべき衝撃は来なかった。

それを疑問に思い、閉じていた眼を開けるイツキ達。


開いた眼に写ったのは、

白く透き通るような結晶で出来た2枚の大きな翼をもつ、一体の機動兵器だった。

その機体は背中の翼を、各エステバリスを包みこむように広げていた。



   ピ!


イツキ達がその機体に目を奪われていると、

コクピットに通信が入ってきた。




《ふー・・・間一髪ってところね。》




通信から入ってきた女性の声に、イツキ達は我に返った。

その声に聞き覚えがあったからである。




「「「「その声は!?」」」」




その声と共に開かれるウィンドウ。

そこには緑色の髪をした少女が写っていた。




《やっほ〜♪久しぶり〜♪みんな元気?》



「「「「キャナル(さん)!?!?」」」」




そう、ウィンドウに写ったのは、

数時間前にケインと共に囮になるため、火星に残ったキャナルであった。

そのキャナルが目の前にいるという事実に驚愕するエステ隊。




「なっ、なんでキャナルさんがここに!?」



「数時間前に火星でケインと共に囮になったはずなのに!?」



《あはは・・・まあその事はあとで話すとして、あなた達はナデシコに戻りなさい。》




イツキ達の反応が楽しいのか、笑いながら答えるキャナル。

そんなとき、周りを囲んでいたバッタの一機が、突然爆発した。




「こっ、こんどは何?」




爆発の中から現れたのは、青紫色のエステバリスであった。

その手には槍のような武器を持っている。

どうやら、先ほどバッタを落としたのも、その武器のようだ。



   ピ!



《酷いよキャナル君。1人で先に行くなんてさ。》




通信から声が聞こえてきた。どうやら声から判断すると若い男のようである。




《仕方ないでしょう、皆が危なかったんだから。》



《ははは、わかってるよ。》



   ピ!



《しかしそれならそれで、もう少し早く出撃すればよかったのではないか?》



   ピ!



《・・・そうです。》




キャナルと男の会話に、2つの通信が割り込んできた。

それと同時に爆発するバッタが2機。

1機は真っ二つに割れ、もう1機は細い光に撃ち抜かれていた。




《あなたたち、来るのが遅いわよ。》



突然割り込んできた、2つの通信に返信するキャナル。

それと同時に、爆発した2機のバッタの後方から現れる、2機の機動兵器。


1機は、エメラルドグリーンの機体で、

その手には、クリスタルのような物質でできた日本刀があった。


もう1機は、ターコイズブルーの機体で、

クリスタルのような物質でできたライフルを装備していた。


2機とも細かい所と、背中の翼が4枚な事を除いて、

ソードブレイカーに非常に酷似していた。




《無茶いわないでくれよ、キャナル。

 ここに来るまでに、どれだけのバッタを相手にしたと思ってるんだ?》



《・・・私たちじゃなきゃ・・・・やられてたです。》




ウィンドウが開かれないので声のみだが、

その声から判断すると、

新しく現れた2機の機体のパイロットの片方は若い男、

もう片方は少女のようである。




《そうだよキャナル君。僕だって2人がバッタを引き付けてくれたから、

 ここまで来れたんだし。》




2人の意見に同意する先程きたエステバリスのパイロット。

3人に言われたためか、キャナルは笑いながらこめかみに汗を浮かべていた。




「あの、キャナルさん?その人たちは一体・・・?」




ようやく立ち直ったイツキがキャナルに質問する。

ちなみに他のパイロットは、目の前の出来事についていけないようだ。




《ん?ああ、大丈夫よ。彼らは私の仲間よ。

 そういうわけだから、あなた達はナデシコに戻りなさい。

 ここは私達で十分だから。》



《今、ナデシコ2番艦のコスモスが、

 こっちに向かってるからそのことをナデシコに伝えてくれないかい?》




エステバリスのパイロットが連絡事項を伝える。

聞きなれない単語を聞いたイツキの表情が少し曇る。




「ナデシコ2番艦・・・コスモス?」




《ああ。コスモスはドック艦で、ナデシコの修理が出来るからね。

 さっきも言ったとおり、ここは僕達に任せて早く行きたまえ。》



「・・・わかりました。

 リョーコさん、ヒカルさん、イズミさん、ガイさん、

 ナデシコに戻りますよ。」



「「「「おう(わかったわ)(うん)。」」」」




イツキの呼びかけで、ようやく我を取り戻したエステ隊は、

おとなしくナデシコに戻っていった。













《そういえばテンカワ君はどこにいるんだい?》




手にした槍でバッタを貫きながら、エステのパイロットが問う。




《さあ?ケインが向かったはずだから、そのうちこっちに来るとは思うけど・・・

 それよりどうアカツキ?フィールドランサーの使い心地は?》




キャナルは、手にしたクリスタルの剣でバッタを切り払いながら、

アカツキと呼ばれた男の質問に答え、そしてアカツキが使っている武器の感想を聞く。




《ああ、悪くないよ。試作品とはいえ、

 ディストーションフィールドを中和できるのはいいね。》




貫いていた槍を抜き、後方に迫っていたバッタを、

振り向かずに貫きながら答えるアカツキ。

そのとき、彼の機体の近くにいたバッタが、

遠くから飛来した光に撃ち抜かれ、爆発した。




   ピ!



《すまない。少し遅れちまった。》



《みんな無事か?》




ウィンドウが開くと同時に、2つの機体がキャナル達に合流した。

漆黒のエステバリスとソードブレイカーである。




《遅いわよ、ケイン、アキト。》



《久しぶりだな、アキト。》



《・・・アキ・・・お久しぶりです。》



《やあテンカワ君、久しぶりだねえ。》




アキトのコクピットに次々開くウィンドウ。

そこにはキャナルの他に、

ロン毛の青年と銀色の髪をした青年、

そして綺麗な黒い髪をした少女が写っていた。




《ごめん、ごめん。

 それよりユキト、冬桜ちゃん、アカツキ、久しぶりだな。

 元気にしてたかい?》




アキトはコクピットに現れたウィンドウを見て、顔を綻ばせた。

そして、久しぶりに会った仲間と親友に、笑顔で挨拶した。




《はっはっは。キャナルから聞いたぞアキト。

 ナデシコでも女難は相変わらずのようだな。》




アキトに雪人と呼ばれた青年が、笑いながら話し掛ける。

その言葉に、アキトはこめかみの辺りに汗を浮かべて答える。




《うっ・・・その事は言わないでくれ、ユキト。》



《テンカワ君。その様子だと、ナデシコで嫌な事でもあったのかい?

 例えば・・・・・・お仕置きとか?》


   ビクッ



《ははは・・・何を言ってるのかなあ、アカツキは・・・?》




アカツキに、一番気にしている事をいきなり言われ、

ひどく動揺するアキト。




《その慌てぶり・・・図星だねテンカワ君。

 (どうやら、キャナル君の言ってたことは、本当だったようだね。

  ・・・某組織への参入。本気で考えてみようか・・・)》




アキトのうろたえ様から、真実だと知るアカツキ。

そして心の中でとんでもない事を考えていた。




《はいはい。たくさん話したい事があるだろうけど、

 とりあえず今は、敵を殲滅させるほうが先よ。それに・・・》



《・・・駆逐艦クラスが・・・近づいてるです。》




キャナルの言葉に、アキトに冬桜と呼ばれた少女が言葉を続ける。




《・・・さっさと・・・・潰すです・・・・》




その言葉と共に、アキト達は散開した。<br>


















それから20分後、戦闘はあっけなく終了した。


ナデシコの修理も8割方終わっており、

後は、細かい調整をするだけとなった。


そして現在、エステバリス隊のパイロットを含む、

主要クルーは格納庫に集まっていた。



格納庫には、先程エステバリス隊を助けた青紫のエステと、

アキトの漆黒のエステバリス、ソードブレイカー、

そのソードブレイカーに酷似した2つの機体、

そして、背中に天使のような翼を持つ機体がいた。



当然ウリバタケが、それらの機体を見て狂喜乱舞するのは、目に見えていた

よって、そうなる前にウリバタケは、某同盟によって血の海に沈められている。

しかし、誰もその事を気にするものはいなかった。

まあ・・・すぐに復活する者のことなど、気にするものなどいるわけがない。



クルーが格納庫の片隅でそれらの機体を眺めていると、

漆黒のエステバリスのアサルトピットが開いた。

アキトは開いたアサルトピットから飛び降り、エステの足元に音もなく着地すると、

クルーが集まっているところへ歩き出した。


そんなアキトを、某同盟のメンバーが真っ先に出迎える。

すぐさま周りを囲まれるアキト。

その様子を見て、嫉妬パワーを全開にする某組織。

この後、聖戦が勃発するのは決定事項であろう。


今格納庫には、禍々しいオーラが漂っていた。

もちろんそれは、嫉妬オーラであることは言うまでもない。

しかし、アキトと某同盟がそれに気付かないのは、お約束である。




「おいおい、俺達のことは無視か?」



「・・・助けて・・・あげたのにです。」



「何やら妙なオーラが漂っているねえ・・・」



「む・・・アキトが女性に囲まれている・・・

 どうやらこのオーラは嫉妬オーラのようだね。」



  「なに?また聖戦でも始まるの?」




クルーがその声に反応し、声のしたほうへ顔をむける。

そこには、ケインとキャナル、

そして、見慣れぬ青年2人と少女の姿があった。






後編へ続く