第９話後編
＜アキト＞
俺たちが格納庫に着くと、ちょうどシャトルの固定作業が終わったところだった。
格納庫にはブリッジクルーをはじめ、保安クルー・整備班など、暇（であろう）なクルーが集まっている。
何故か同盟のメンバーが全員いるし……そんなに暇なのか？
「何で同盟が全員いるか理解してないな、この天然スケコマシは…（汗）」
「ま、それがアキトでしょ。なんと言っても鈍感だしね。」
「なんでこんな奴がもてるのかな？ わかるキャナル？」
「さぁ？ 私に聞かないでよサリア。」
なんか後ろでいろいろ言われてるが、俺にはなんのことかわからない。
確かに自分は鈍感だと思うが、それと同盟が全員いるのとどう関係があるんだと言うんだ？
「……その顔は全然わかってないわね。
ま、いいわ。とりあえず補充クルーの出迎えをしましょ。」
俺の顔をしばらく見つめた後、キャナルちゃんはそう言った。
いったいなんなんだよ？
そんなやりとりをしている間にシャトルから1人の男が降りてきた。
その男は俺のよく知っている男だった。
「『ロスト』から来たムネタケ・サダアキよ。提督として着任することになるわ。
これからよろしく頼むわね。」
前回と同じように、ムネタケが提督としてナデシコに来た。
ただ前回と違うのは、ムネタケが優秀であることと、
そして、俺たち『ロスト』の社長だと言うことだ。
「テンカワ、久しぶりね。元気にしていたかしら？
と、聞くまでもないわね。」
「元気に決まっているだろ。それよりあなたこそ元気だったかい社長？」
俺の姿を見つけたムネタケが、こちらに歩み寄って来ながら話しかけてくる。
俺はその問いに答え、そして同じ問いを返した。
「この８ヶ月間いろいろあったけど、一応元気よ。
それから社長と呼ぶのはやめなさいって言わなかったかしら？」
「あれ、そうだったか？ でも社長なのは事実なんだからさ。」
「その呼ばれ方は慣れないのよ、いつも通り呼び捨てで良いわ。
そっちの方が気が楽だし。」
「了解。わかったよムネタケ。」
「後ろにいるあんた達も、わかったわね？」
「別に社長でいいじゃない。ね、ケイン？」
「キャナルの言うとおりだな。社長なんだから社長って呼んで何が悪いんだ？」
「はぁ、あんたたちには何を言っても無駄ね。」
諦めた表情で呟くムネタケ。
確かにキャナルちゃん達には、何を言っても無駄なような気がする。
「アキトさん、ちょっと……」
「ん、なんだいルリちゃん？ 」
後ろを振り向くと、ルリちゃんが何か言いたそうな顔をしていた。
何を考えているかは大体わかる。
「ムネタケの性格、前回とかなり違いませんか？
なんか凄くいい人っぽいというか、まともというか……
とにかく違ってませんか？」
周りの人に聞こえないように小声で話すルリちゃん。
やっぱりそう思うか。前回のムネタケを知っていたら当然の疑問だ。
「『ロスト』に入ってからムネタケも変わったんだよ。」
「『ロスト』に入ってから、ですか？」
ルリちゃんが首を傾げて問い返してくる。
「そうだよ。その時の経緯はまた今度話してあげるよ。
今は新しく来たクルーの歓迎をしなくちゃね。」
「……わかりました。今度話してくださいね。」
少しだけ名残惜しそうにしながらもルリちゃんは納得してくれた。
いつもこんな風に、俺の言うことを聞いてくれたらいいのになぁ……（汗）
ムネタケは俺との会話後、他のクルーに歓迎されていた。
その表情はとても嬉しそうだ。
そんなことをやっているうちに次の補充クルーがシャトルから降りてきた。
「ネルガルから来ました会長秘書のエリナ・キンジョウ・ウォンです。
ここでは副操舵士になります。
あと、どこぞの極楽とんぼが仕事をさぼらないように見張りに来ました。
よろしく。」
エリナさんか、極楽とんぼって言うのは間違いなくアカツキだな。
俺はアカツキの方へ視線を向けた。
アカツキは引きつった笑みを浮かべている。
よくみると冷や汗も少しかいていた。
仕事から逃げてきたのにその仕事が追っかけてきたんだから無理もないか。
「あ、テンカワ君久しぶりね。元気にしていた？」
「ええ、元気ですよ。エリナさんも相変わらず大変ですね。」
声をかけてきたエリナさんに返事を返す。
もちろん大変と言うのはアカツキのことだ。
「そうなのよ。
どこぞのバカが仕事をほっぽり出してナデシコに乗るなんて言うから、ね！」
最後の部分を強調してアカツキを睨み付けるエリナさん。
睨み付けられたアカツキは、蛇に睨まれた蛙のようになった。
「会長、ナデシコでパイロットをやることはかまいませんけど、
会長としての仕事はきっちりとやってくださいよ！」
「エ、エリナくん。それは少し厳しいのではないかい？（汗）」
「何言ってるんですか！ 会長のわがままでナデシコに乗ったんですからね。
きちんと仕事をしてもらわないとネルガルが困ります！
書類などはシャトルに積んでありますからすぐにでも仕事に取りかかってください！ 」
「せ、せめて明日からにしないかいエリナ君？」
「問答無用！ プロス、こいつの部屋はどこ？」
「私も一緒に行きましょう。エリナさん一人だと逃げ出すかもしれませんからね。」
「プ、プロスくん！ 君もか？！」
「さ、行きましょうか会長。」
「もう少し僕に休みをぉぉぉぉぉぉぉ…………………」
アカツキはズルズルとエリナさんとプロスさんに引きずられていった。
……自業自得だと思うぞアカツキ。
「さて、補充クルーはこれでお終いかな。 」
そう呟いたとき、シャトルから１人の少女が降りてきた。
なんだ、他にも補充クルーはいたのか。
前回はムネタケとエリナさんだけだったからもういないと思ってたよ。
やっぱり前回とは違うんだな。
「あーくん、見ーっけ♪」
……………はい？
その声に反応する暇もなく俺の胸に何かが飛び込んできた。
先ほどの少女だ。
彼女は俺のことを「あーくん」と言った。
俺のことをそう呼ぶ人物には１人しか心当たりがない。
俺は自分の考えを確かめるため、抱きついている少女をよく見てみた。
腰下まで届く長い赤毛。
鳶色の瞳。
シャトルからここまで２０ｍはあるのに、それをひとっ飛びしてくる身体能力。
………おそらく間違いないだろう。（汗
「枝織ちゃん、なんでここにいるのかな？」
俺は他の人には聞き取れないほど小声で赤毛の少女に話しかけた。
「えっとね、あーくんがどっかに行っちゃった後、私と北ちゃんはずーっとあーくんを捜していたの。
それで探し始めて１日も立たないうちに、眼の前にいきなり変なお兄さんが現れて、
「テンカワくんの所に行きたいか？」ッて聞いてきたの。だから私と北ちゃんは迷わず頷いたの。
そしたらいきなり目の前が光に包まれて…気がついたら座敷牢の中だったんだよ。
そのあと調べてみたら過去に戻ってたことがわかって、
それで木蓮を脱出してあーくんに会いに来たんだよ。」
俺の問いに枝織ちゃんが小声で答えてくれた。
……なるほど、遺跡の代理人の仕業か。
「……もしかして、私達が来たら邪魔だった？」
俺が少し顔を曇らせたのを見て枝織ちゃんがそう言ってきた。
その表情はとても悲しみに満ちている。
「そんなことない、会えて嬉しいよ。
少し言うのが遅れたけど、久しぶりだね枝織ちゃん。」
「うん、あーくん久しぶり♪ 会いたかったよ♪」
顔を輝かせて抱きついてくる枝織ちゃん。
この笑顔をみているとどこか癒される。
「そうだ枝織ちゃん、北斗に変わってくれないか？」
「北ちゃんに？ うん、わかった…」
そう言って眼を閉じる枝織ちゃん。
しばらくしてその眼を開くと、雰囲気が一変した。
「久しぶりだな北斗。元気にしていたか？」
「当たり前だ。おまえとの決着はまだついてないんだぞアキト。
それなのに１人で過去に戻るとは……」
「…すまないな。あの時の俺は精神的にやばかったからな。
そこまで気が回らなかった、許し……」
そこまで言った瞬間、北斗がもたれ掛かってきた。
どうしたんだ北斗のやつ？
「……寂しかったんだからな。
俺も枝織もおまえのことが好きだから……
好きな奴から離れて……その……心細かったんだからな……。」
弱々しい声が北斗の口から発せられる。
……て、北斗のやつ今なんて言ったんだ？ 北斗と枝織ちゃんが俺のことを好き？
聞き間違いじゃないよな？
「……北斗、今なんて言った？」
「……２回も言えるかあんな恥ずかしい台詞……
そろそろ枝織に変わるからな。」
顔を真っ赤にしながら眼を閉じる北斗。
すぐさま枝織ちゃんと入れ替わった。
「…枝織ちゃん。」
「あーくん、さっき北ちゃんが言ったことは本当だよ。
私も北ちゃんもあーくんのことが大好きなんだからね。」
「…………」
「この話はまた後でしようよ、ね？」
「そうだな。」
とりあえずこの話はあとだ。
北斗と枝織ちゃんの告白の事はじっくり考えたいしな。
それに、先ほどからもの凄い殺気が周りから発せられているし…（汗
「ずいぶん仲が良さそうですねアキトさん？」
ルリちゃん、頼むからそんなに怖い顔をしないでくれ……（汗
「抱擁までするなんて……アキトさん、その子誰なんですか？」
メグミちゃん、誰って……なんて言えばいいんだろ……
「アキト、密談するほど仲がいいのか？」
リョーコちゃん、人が殺せそうな視線はやめてくれ…（汗
「酷いよアキト。アキトはユリカの王子様なんだよ？。」
まだ俺のことを王子様といっているのか……ユリカよ。
「「「「「アキトさん。その子とどういう関係なんですか！？」」」」」
うぅ、関係って……なんて言えばいいんだよ！
「アキトくん、自白剤…打ってみる？」
イネスさん、その怪しい色の薬品が入った注射器はいったい何なんですか？！
同盟の面々が俺に迫ってくる。
全員が全員凄まじい殺気を放っている。（汗
あぁ、またか…またお仕置きされるのか……(T.T)
俺の頭の中に逃げるという選択肢は浮かばなかった。
逃げたらそれだけお仕置きがきつくなる…
それなら逃げずにお仕置きを受けた方がまだましだ……
「あーくんに何するつもりなの？」
じりじりと迫ってくる同盟と俺の間に枝織ちゃんが立ち塞がる。
枝織ちゃん、君が天使に見えるよ…
「あなたには関係ないことです。そこを退いてください。」
「あーくんに危害を加えようとするなら……
私が相手になるよ。」
そう言って静かに殺気を放ちはじめる枝織ちゃん。
同盟のみんなはその殺気に動けないでいる。
緊迫した雰囲気の中、
「む、あれが婿殿か。いい目をしている。
枝織と北斗の婿には申し分なし。」
そんな声が聞こえた。
「お父様。」
枝織ちゃんが声の主に向かってしゃべる。
しかし……お父様って……(汗
「まさか……まさか、あいつが…（汗」
そんな俺のつぶやきと共に１人の男が現れた。
爬虫類を思わせる眼。
薄汚れた防弾繊維製のマント。
そして編み笠………
間違いない…奴だ（汗
「ぬしがテンカワアキトか。
枝織と北斗の父、影護北辰だ。
これからは義父と呼ぶがいい。」
いきなりとんでもないことをぬかす外道――北辰。
そんなこと言うから…ああ、同盟のみんなが殺気を放ちまくってるじゃないか。（汗
「もうお父様。あーくんはそんなんじゃないよ。
大切な人なのは確かだけど。」
顔を赤くしながら北辰に言う枝織ちゃん。
北辰は枝織ちゃんを見ると途端に優しい顔になった。
あの爬虫類顔の原型すら残さないほどに優しい顔を……
「ぬ、そうであったか。
どうやら我の早とちりだったようだな。許せ、婿殿。」
そう言って頭を下げてくる北辰。
というかこれは本当に北辰なのか？
「お父様。またあーくんのこと婿殿って呼んでるよ。」
「うむ、こっちの方が呼びやすいのでな。
すまぬがこの呼び方でかまわぬか、婿殿？」
「あ…ああ。別にかまわないが。」
「かたじけない。」
また頭を下げる北辰。
………えーと、この場合どうすればいいんだ？
目の前には北辰と枝織ちゃんがなんか妙にほのぼのとした会話を交わしているし…
周りは同盟のみんなに囲まれているし………
逃げても捕まってお仕置きが酷くなるだけだけど……
何故か猛烈に逃げたい……
よし、逃げよう。後のことは後で考えよう。
とりあえず今はこの場から離脱しよう。
そう結論し、俺は格納庫から全力で飛び出した。
＜キャナル＞
「あ、あーくん待ってよー。」
アキトが急に格納庫から飛び出し、
枝織がそれを追っていった。
同盟及び他のクルーも呆然としている。
…なんかまぬけね。
「は！ 急いでアキトさんを追わないと。」
「おのれテンカワアキト！ やはり奴は討つべきだ。
全員、俺に続け〜！！！」
ルリとセイヤさんの声につられて、アキトを追いかけようとする某同盟と某組織。
でもそうは問屋がおろさないのよね♪
「……なんのまねですか？ キャナルさん。」
「そこをどくんだケイン。同じ男なら俺たちの気持ちがわかるはずだ。」
同盟と組織の前に立ち塞がるケインと私。
「なんのまね？ そんなの決まってるじゃない。
あなたたち某同盟の邪魔よ。」
「俺は某組織の邪魔だな。アキトは親友だからな。
アキトに危害を加えようとする奴をそう簡単にいかせるわけには行かないんだよ。」
私とケインはサイブレードを起動させた。柄から青白い光の刃が出現する。
「ま、そんなわけだからアキトを追いたいんだったら私たちを倒してからね。」
「たった２人で私たちと某組織を止めるつもりですか？」
「あら、２人じゃないわよ。サリアも北辰もいるわ。」
私はそう言って後ろに目を向ける。
「我が愛娘の想い人に危害を加えようとするものは……滅！」
「私は特にアキトに思い入れはないけど…同じ『ロスト』の関係者だしね。」
北辰――この場合北ちゃんパパって呼んだ方がいいかしら？
ともかく北ちゃんパパは枝織とアキトのためにという動機。
サリアは……ま、頼まれたらいやといえない性格だしね。
「それに、……そこにいるんだろ雪人、冬桜！」
「はっはっは、ばれてしまったようだね。」
「……気づかれて当然……気配……消していない。」
ケインがエステバリスの影に声をかけると、
影から雪人と冬桜が出てきた。
「おまえ達も加勢するんだろ？」
「当然だとも！ 我が親友アキトがピンチになっているのだぞ。
これを救わずして何が親友か？！」
「……アキに……危害を加えたら……斬る！」
ケインの問いかけに肯定の返事を返す雪人と冬桜。
「さ、どうする？ 同盟と組織のみなさん？」
軽く挑発するように問いかける。
ま、これで引き下がるとは思えないけどね。
「「「「「「私たちの邪魔をするものは、例えあなた達であろうと粉砕します！」」」」」」
「「「「「「テンカワアキトに天誅を下さねば俺たちの怒りは収まらない！」」」」」」
やっぱりね。
としたらやっぱり全面対決かぁ……。
「そう、ならしかたないわね。」
「ま、せいぜい頑張りなさいね。私は手加減しないよ。」
「……通りたければ……私たちを倒すです…」
冬桜はどこからか出した日本刀をとり、サリアは半身になって拳を突き出し、
私はサイブレードを構えて同盟の前に立ち塞がった。
「娘と婿殿の邪魔はさせん。」
「はっはっは。アキトには近づけさせんよ。」
「死ぬ気でかかってこないと……ここは通れないぜ。」
一方、ケイン達は某組織の前に立ち塞がった。
手にした武器はケインはサイブレード、北ちゃんパパは小太刀、雪人は２丁拳銃だ。
雪人の銃の弾は実弾でなく、非致死性のゴムスタン弾でしょうね。
「突撃です！！」
「突貫だ〜！！！」
２人のかけ声と共に某同盟と某組織が突っ込んできた。
さぁて、私達を相手にあなた達はどれだけやれるかしらねぇ？♪
「いくわよ〜♪ みんな気絶させるだけで良いからね。
特に北辰、絶対相手を殺しちゃ駄目よ。」
「承知！」
私達も向かってくる２つの団体に突っ込んだ。
楽しいパーティー（乱闘）の始まりね♪
つづく
後書き
ＡＲＸ−７：どうもこんにちわ。相変わらず駄目駄目作者なＡＲＸ−７です。
冬桜：……ＵＰが遅れた理由は？
ＡＲＸ−７：………いや、６月末に前編、７月末に後編は完成していたんだけど……
テストやら、補講やら、手伝いやら、ＨＰ作ったりやら、カノンＳＳを書いてみたりやら、ＲＯをやったりやら……
冬桜：……あなたやる気あるの？
ＡＲＸ−７：ありますよ。……ただ、いろいろやりたいことがあっただけで……（滝汗
冬桜：……はぁ……それはともかく……今回の話……なんで枝織と北斗と北辰の３人がでてるの？
ＡＲＸ−７：……それは１０話以降に語りましょう…（汗
冬桜：……相変わらず下手な文ね。……それに北斗がなんか北ちゃんっぽいし……。
ＡＲＸ−７：……下手なのは十分承知です。
北斗は……なんでだろう？ 書いてたら自然とあんな風になったんだけど…（汗
冬桜：……北辰は北ちゃんパパと化してるし……。同盟＋組織ＶＳロストになってるし……。
ＡＲＸ−７：北辰は気がついたらパパと化していました。
同盟＋組織ＶＳロストに関しては連載開始当初からそうするつもりだったし。
冬桜：……ともかく……もっと精進しなさい。……こんなＳＳでも読んでくれてる方は居るんだから…。
ＡＲＸ−７：ウィ。頑張って精進します。少しずつでも文が上手くなるよう頑張ります。
冬桜：……それが結果にでなければ……誰もあなたが頑張ってるなんて思わないからね……。
……それでは、ここまで読んでくださってありがとうございます……。
代理人の感想
う〜む、アキトがすっかり脇役。
ネタフリと同盟＆組織から逃げるだけの存在になってますからねぇ（笑）。
さて、多くのSSで今や物語の悪を一身に担う存在になりつつある（核爆）「同盟」ですが、
その「同盟」と別に北斗＆枝織を出したと言うことは、ひょっとして彼女がヒロインなんでしょーか。
作者のひとも「自然とあんな風になった」と仰ってましたし・・・・・
いやぁ、残念です（ヲイ）。