File.02_01

幻想と電子の空間に、少女がたゆたっていた。

何をするでなく、何を思うでなく。

ただ在り続けるためだけに、少女はそこに在った。

だが。

だがしかし、少女には『予感』があった。

15年前に、喪ったモノ。

己の半身が還ってくる、そんな感触にも似た何か。

情報の波に洗われながら、少女はひたすら在り続けていた─────────




GEAR戦士 撫子

File.02『遺産継ぎし者たち −出現! ユニコーンドリル−』




ぷしゅぅっ

「・・・・・・うわあ、すげえ・・・・・・」
「・・・む。何処の組織のモノかは知らんが、大した設備だ」

時間は少々遡り、『GEAR戦士・撫子』がコンテナに収容された後。

移動している気配が消え、堅く閉ざされていたコックピットが開いた。

開けた視界に飛びこんできたものは・・・・・・薄闇に満たされた、大規模な格納庫だった。

「・・・でも、誰もいないな?」
「・・・・・・ああ・・・・・・ここは無人制御なのかもしれん。どうも、秘密基地の匂いがする」

アキトがきょろきょろと辺りを見回しながら言うと、北斗が足元を調べながら応える。

「・・・何やってんだお前?」
「縄梯子か何かを降ろすスイッチを探している・・・・・・む、これか?」

北斗が小さな蓋を跳ね上げると、赤いボタンが現れた。躊躇なく、そのボタンを押しこむ。

「お、おい!? 自爆スイッチだったりしたら・・・・・・」

ばしゅっ

慌てたアキトだったが、小さな空気音と共に射出されたワイヤーを見て、胸をなで下ろす。

「・・・・・・ふ〜。全く・・・・・・心臓に悪いから、ワケ解んないボタンいきなり押すなよな」
「馬鹿かお前は。こんな押し易い所に自爆スイッチなどあるものか。少しは頭を使ってから喋れ」

呆れ果てたと言わんばかりの北斗に、むっときて言い返す。

ほ〜? ンじゃあそのスイッチ、『自爆スイッチではありません』とでも書いてあんのかよ? どれどれ〜? ・・・な〜んだ、なぁぁぁぁぁぁんにも書いてませんけど〜? それで良くわかるよなー。いやあすげえすげえ。」
「・・・貴様、馬鹿にしてるのか?
「とぉぉぉぉぉぉんでもない。おエライ北斗様にそんなこととてもとても。」
「・・・・・・言いたいことがあるなら、はっきり言え。女の腐ったような言い方しやがって・・・・・・」
「ンだと!?」
「やるか!?」

軽く飛びすさって身構える二人。暫く睨み合い─────────

「・・・・・・・・・止めだ。こんな事してる場合じゃない」
「・・・・・・・・・そだな。」

どちらからともなく、構えを解く。

「取り敢えずは、ここから降りよう。こんなとこにいてもラチが空かねえ」
「・・・そうだな。まずは、それからだ」

二人はワイヤーに付いていた取っ手を握り、付いていたボタンを押した。甲高いモーター音と共に、ゆっくりと降りてゆく。

「・・・・・・しっかし、改めてみるとデカいよなー、こいつ」
「そうだな・・・・・・」

降りながら、『撫子』の巨体を見やる二人。つい先程まで激戦を繰り広げた鋼鉄の肉体は、微動だにしない。今されても困るが。

「よっ、と・・・・・・さて、出口は・・・・・・?」
「大抵は、正面にあるものだが・・・・・・?」

床に着いた二人は、取り敢えず出口を探した。程なく、アキトが扉とおぼしきものを発見する。

「これ・・・・・・か?」
「ああ、多分な。エレベータだろう」

アキトが恐る恐る、正三角形のマークが付いたボタンを押す。果たして、扉がスライドし、薄暗かった格納庫内に光をこぼれさせる。

「・・・・・・どうする?」
「どうするも何も、入る以外に道はなかろう。・・・行くぞ」
「あ!? おい待てよ!」

とっとと入る北斗と、慌てて後に続くアキト。二人を収容したエレベーターは、ゆっくりと扉を閉めた。

ウィィィィィィィィィ・・・・・・・・・

「・・・・・・何か勝手に動きだしたけどよ・・・・・・何処に出るんだ?」
「そんなもの、俺が知るか」

見れば階数を表示するインジケータは、既にB20を切っている。言い替えれば、それ以上の地下にあったということだ、あの格納庫は。

「・・・おい。見ろ、アキト」
「・・・B4までしかない・・・?」

不意にあることに気づいた北斗が、階数指定ボタンを指差した。確かに、B20どころかB4までしかない。

ウィィィィィィィィィ・・・・・・・・・キュゥゥゥゥゥゥン

そしてエレベータが止り、扉は開かれた。



          ◇          ◇          ◇


『貴方を只待っている〜♪』

二人を出迎えたのは、音と光の洪水だった。

「こ、ここは・・・・・・」
「どこだ?」

引っ越ししてきたばかり(何しろ未だ引っ越し「当日」だ!)で何も知らない北斗は、何やら驚愕しているらしいアキトに訊いてみた。

その返答は、驚くべきものであった──────

「何処だろ?」
「・・・・・・それは俺が訊いてるんだが?

真剣にボケをかますアキトに、北斗は自分のこめかみに血管が浮き出ている事を自覚した。

「い、いや、俺だってこの街、隅から隅まで知ってる訳じゃないし・・・・・・」

ちょっぴり殺意が混じってる視線に冷や汗を掻きつつ、しどろもどろに弁解を試みる。北斗はそんなアキトに一つ溜め息をつくと、試しにB4のボタンを押してみた。

ウィィィィィィィィィ・・・・・・・・・キュゥゥゥゥゥゥン

果たして、再び開いた光景は、格納庫であった。

・・・・・・但し、車専用の。

「駐車場だな」

そうともいう。

「・・・ここより下って・・・ないよなあ」
「ああ。取り敢えず、1Fに戻るぞ」

ウィィィィィィィィィ・・・・・・・・・キュゥゥゥゥゥゥン

『恋していいかな〜♪』

大音量で流れ続ける音に柳眉をしかめつつ、北斗はホールへ足を踏み入れた。少し遅れて、アキトが続く。

「・・・・・・どうやら、遊戯施設のようだが・・・・・・」
「とにかく、外に出てみよう? 玄関にだったら、ここの名前書いてあるだろ〜し」
「そうだな」

二人はだだっ広いホールを過り、正面玄関と思われる回転ドアへと向かった。

「・・・《星見アミューズメントパーク》?」
「・・・・・・なんつーか、まんまな名前だなー」

ヒネリも何もない名称に、あきれ顔の二人である。

「・・・まあ、いい。とにかく、ここは一旦帰ろう。少々、考える時間が欲しい」
「ああ、そだな」

頷きあい、二人は喧騒を後にした。



          ◇          ◇          ◇


「・・・・・・なあ。何処に向かっているんだ?」

1時間ほど歩いただろうか。

隣の北斗が、問いかけてきた。

「ウチに決まってんだろ? 何いってんだお前」

何を今更、と言わんばかりの口調で応えるアキト。その答え方に、北斗は不機嫌そうに口を少し尖らせた。

「・・・それじゃお前、ここがどこか解っているのか? 現在位置が解らないなら、家への道も解らないはずだぞ?」
「ああ、解ってるぜ。ここら辺は、前に何回か通ったことがあるからな・・・・・・あんな目立つ建物、そう簡単には忘れないぜ」

言って指差す先には・・・・・・巨大な戦闘機があった。

先のアミューズメントパークの上に設置されたそれは、相当に巨大だった。遠くからみると、『戦闘機のフィギュアとその台』にもみえる。何千人も収容できるであろうパークの大きさを考えれば、その巨大さが解ろうというものだ。

「・・・・・・おい。だったらさっき、『解らん』と言ってたのは何だったんだ?」
「い、いやだってよ・・・・・・中に入ったことないんだぜ? それで解るワケ無いって」

再度視線がキツくなる北斗に、慌てて弁解するアキトであった。

と、その時。

二人は、地響きを耳にした。



          ◇          ◇          ◇


「・・・む、何事だ?」
「・・・こ、これはまさか」

辺りを見回す北斗と、何故か顔が引きつるアキト。

そんな二人に向けて、地響きは確実に近づいていた。

ドドドドドド

「・・・・・・まー・・・・・・」
「ん? 何か言ったか、アキト?」
「・・・いや・・・『俺は』何も言ってないぞ」

アキトは何だか疲れた表情で、『俺』を強調した。そんなアキトを怪訝そうに覗きこみ、重ねて問いただそうとしたとき。

ドドドドドドドドド

「・・・ーさまーーー・・・」

遠くから、叫び声が聞こえてきた。急速に大きくなるその声に、何者かと振り返った瞬間。

瑠璃色の弾丸が、北斗の傍を掠めて行った。



          ◇          ◇          ◇


「に──────さま─────────────────っ!!」

ドゴォッ!

「ぐはっ!!」

その小柄なミサイルは見事アキトに着弾し、彼の息を詰まらせるという戦果を上げた。

「兄様! ご無事ですか!? お怪我は!? どこか痛いところはありませんか!?」
「・・・・・・し、強いてゆーなら腹が痛てえ・・・・・・」
「・・・た、大変です! 早く病院へ! い、いえ救急車を!!」
「・・・・・・お前のタックル、其処まで威力あんのかよ・・・・・・?」

かなりげんなりしているアキトをしりめに、人型弾頭はぴったり抱きついたまま取り乱していた。

いきなりなその光景に、北斗は唖然として、唐突に現れた少女を見やった。

歳は多分、メティより1つ2つ上だろう。ほっそりしてはいるが、十分に少女らしい体つきをしている。

そして何よりも目立つ、瑠璃色の髪と黄金の瞳。

「・・・なあ、アキト。なんだ『それ』は?」
「ああ。こいつはルリ。俺の妹。」

唖然としたまま、アキトに問いかけてみる。当のアキトは何だか複雑な表情で、弾丸少女──────出雲ルリの頭を撫でながら紹介した。

「・・・・・・兄様。こちらは?」

なでなでされてトリップしていたルリが、表情のない顔で北斗を見やる。その反応にとまどいつつも、アキトは『戦友』を紹介した。

「あ、ああ。こいつは草薙北斗。今日の・・・・・・その、なんだ。『騒ぎ』でちょっと・・・・・・な。知り合ったんだようん。」

何やら歯切れの悪い兄に、ルリのつり目気味の瞳が一瞬燃え上がった──────ように、北斗には感じられた。

「・・・・・・・・・そうですか。初めまして、出雲ルリです。兄が何やらお世話になったようで。」
「あ、ああ。なに、どうということもない」

なんだか解らないが、強烈な『何か』を含んだルリの視線と台詞に、北斗はらしくもなくやや怯んだ。

そんな両者を交互に眺めて・・・・・・アキトは、深く深く溜め息を吐いた。



          ◇          ◇          ◇


「と、とにかく、い〜加減で行こうぜ? もう随分、遅くなっちまったし」

なんだか知らないが膠着状態に陥っている北斗とルリに、アキトは声をかけた。

「あ、ああ。そうだな」
「・・・・・・まあ、いいです。母も心配していますし」

一も二もなく、と言う感じでカクカクと頷く北斗と、氷点下の視線もそのままに、返事だけをするルリ。

アキトはもう一度溜め息をつくと、率先して歩き出した。少し遅れて、後の二人が続く。

「・・・なあ、アキト。お前の家って、この近くなのか?」

暫くして、不意に北斗がそんな事を訊いてきた。アキトは振り返ると、怪訝そうに言った。

「ああ、そうだけど? なんでそんなことがわかるんだ?」
「なに。其処の妹がこんな時間に出歩いてても、お前何も言わなかっただろう? だからだ」
「・・・・・・ふーん・・・・・・?」

何と言う事もない、と言った風情の北斗を、アキトはじろじろと見つめた。そんな様子に、一寸むっとする北斗。

「・・・なんだ? ひとの顔じろじろ見やがって」
「いや・・・・・・お前、観察力あるなあ、って思ってさ」

心底感心したような声音に、北斗はこそばゆくなった。

「・・・いきなり変なことを言うな、気持ち悪い」
「なんだよ。誉めてんじゃないか」
「うるさい。お前の口から聞くと、誉められてる気がせん」
「・・・ちぇっ。」

自然に交わされる、たわいのないやりとり。そう、まるで十年来の親友のように何気なく。

(・・・・・・まったく。今日会ったばかりなのにな)

知らず、北斗の口元は綻んでいた。



          ◇          ◇          ◇


「・・・ただ〜いまっ、と」

そんなこんなで、アキトはわが家に帰ってきた。

が。

「・・・・・・なんだよ? 鍵がかかってるじゃないか。誰もいないのか?」

玄関先で、首をかしげる羽目に陥った。

「・・・あ。そういえば、学校の方に行くって言ってました。『学校に避難した皆、心細いだろうからね。ついでに、何かあったまるモンでも作るとするよ』って」

ずっと腰にしがみついていたルリが、そんなことを言ってきた。アキトはふっ、と息を吐くと、ルリの頭に手を乗せつつ言った。

「しょーがねぇなあ。ンじゃルリ、頼まあ。俺、こんなカッコだから鍵持ってねぇし」
「・・・はい、兄様。」

ルリはちょっとだけ名残惜しそうな表情をすると、扉の前までとことこ歩いて行った。ポシェットから鍵を取り出すのを見届けて、アキトは北斗の方を振り返った。

「で、お前ど〜する? ウチ寄ってくか?」
「・・・・・・そうだな。では少し休ませてもらおうか」

北斗は少し考えた後、首を縦に振った。正直かなり疲れていたし、落ちついて考えたい事項は山脈を形成しつつある。

「・・・兄様。早く入りましょう。」

と、ルリが袖口を引っ張る。一体いつの間に戻ってきた、気配全然感じなかったぞ? と引きつるアキトを引きずって、開けっ放しの玄関をくぐる。アキト同様、呆然としている北斗の方を振り返り、

「・・・・・・其処のひと。兄様がお誘いした以上、貴方はわが家のお客様です。粗茶程度はお出ししますので、とっととお上がりになってください。」

とまあ、少々クール過ぎる一言を残して見えなくなった。

北斗はやや暫く固まっていたが・・・・・・軽く溜め息をつくと、その跡を追って出雲家に入って行った。



          ◇          ◇          ◇


「・・・・・・どうぞ、粗茶ですが。」
「ああ、すまん。」

出雲家リビング。

ソファに陣取った北斗の前に、ルリは湯のみと煎餅を置いた。一歩下がって、お盆越しにじっと見つめたりしている。

「・・・・・・何だ? 俺に何か用か?」
「・・・いえ、別に。」

と言いつつ、ルリは視線を外さない。微動だにせず、その金色の瞳で北斗を見据え続ける。

「・・・・・・」
「・・・・・・(じーっ)」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・(じぃーっ)」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・(じぃぃぃぃぃぃーっ)」
「ええいうっとうしい!! 一体なんのマネだ!?」

遂に(といっても我慢してたのは1分くらい)北斗が切れた。だんっ! とテーブルを叩き、荒々しく立ちあがってルリを睨みつける。高校生の不良共すらひと睨みで追い返した、凶悪な眼光だ。

だが、ルリは全くの無表情で北斗の怒気を受け流すと、ぼそっと呟いた。

「・・・兄様のところに、行かないんですね?」
「・・・・・・なんだと?」

意外なことを言われて、北斗はあっけにとられた。

それに構わず、ルリは淡々と続けた。

「・・・いえ。兄様に『くっついてきた』ひとは全員、兄様の部屋に行こうとしますので。・・・貴方は、行かないんですか?」
「・・・そいつらが何者で、何を考えてたのかは知らんが・・・少なくとも俺は、招待主に『ここで待っていろ』と言われたのだ。だからアキトが来るまで、ここで待つつもりだ。それが何か問題なのか?」
「いえ・・・・・・そういうことなら、それで結構です。」

相変わらず鉄面皮ではあるが、今のやりとりでなんとなくほっとしたように、北斗には見えた。理由はさっぱり、解らなかったが。

「お待たせ〜。はー、何かウチ帰ってきたら腹減っちまったな・・・・・・ルリ〜、何かあるか〜?」

と、其処へちょうど良くアキトが降りて来た。赤いセーターとベージュのスラックスに着替えている。

「あ、はい。出来合いのものはありませんが、いつも冷蔵庫に入ってる食材で、切れてるものはないはずです。」
「そっか〜。ちょっとメンドーだけど、何か作るか・・・・・・北斗、お前はどーする?」
「・・・どうする、とは何がだ?」
「だーら、俺これから飯にすんだけど、お前は何か喰うか? ってこと」

北斗は一寸考えた後、首を縦に振った。

「・・・・・・そうだな。折角のお誘いだ。馳走になろう。」



          ◇          ◇          ◇


「「閃光ッ!! 雷!刃!撃ッ!!!」」


ヴァオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!


ドシュッ!
ズドッ!
ガギュギュギュゥン!!


「・・・・・・コレは流石、と言うべきか?」
「所詮機獣共では、歯が立たんか・・・・・・」
「しかし、データウェポンを使っていないな?」

月面・螺旋城。

3体の巨大な影達が、巨神の戦いぶりを検証していた。

「・・・・・・もしかすると、データウェポンはマスターを見つけておらぬのかも知れぬ」

と、背後から重低音の声が響く。

先の3体よりもなお巨大なその「何か」を振り返り、影達は訊く。

「では、データウェポンは初期状態で?」
「そうだとすれば・・・・・・コレはチャンスですな?」
「データウェポンは単体では何もできん・・・・・・そうでしたな、お館様?」
「そうだ・・・・・・チップをかの星に送れ! 密かにデータウェポンの所在を探り、回収するのだ!」
「「「御意」」」

「何か」に向かって首を垂れると、影達は掌に人型を産み出した。

「ふふっ・・・・・・久しぶりよの、チップを送りこむとは」
「七色星団攻略戦以来か?」
「ふ、まぁたまには悪くなかろう」

そして影達は命ずる。自分達の、機械帝国ガルファの栄光のために!

「「「ゆけ! チップ共よ! データウェポンを探り出し、我らの手に取り戻すのだ!!」」」

3つの人型は一礼すると、床に溶けこむようにしてこの場から消えた。

恐るべきスパイが、今放たれた────────



          ◇          ◇          ◇


「・・・なあ、アキト。」

出雲家リビング。

アキトのチャーハンを綺麗に平らげ、食後の茶を啜っていた北斗が、対面に座っているアキトに話しかけた。

「ん?」
「結構、飯作ってるのか? 随分と手慣れているようだったが・・・・・・」
「ああ。かーちゃんに仕込まれたんだ。『人間、食い物にさえ困んなきゃあ死なないもんだよ!』とか言っちゃってさ。」

答えて、肩を竦めるアキトである。

「それにさ、かーちゃん旅行好きでさあ。俺いっつも連れてかれるんだけど・・・・・・何回遭難したか。まあ、それで腹減った時は感謝するけどな。毒草とか毒キノコとか、喰えね〜モンの見分け方はいちお〜習ったし。知ってッか? 菊って喰えるんだぜ?」
「・・・・・・・・・何処に行ってるんだ、お前ら・・・・・・・・・というより、何者だお前の母親は」

何気にスゴイことをさらっと言ってのけるアキトに、引きつった笑いが出る北斗である。

「んー・・・・・・何か、今の道場やる前ってコックだったみたいだぜ。世界中を武者修行してたとかで、あっちこっちに友達いるぜ。だから俺、ホテルって泊まったことないんだよな〜。泊めてくれるひと達って、みんないい人なんだけどさ。たまには一寸洒落たベッドで寝てみたいじゃん? 俺、前にそう言ったんだけど頭叩かれちゃってさ〜・・・・・・」
「・・・兄様。そろそろ夜も遅いです。母も心配していますから、そろそろ避難所に行かれた方が。」

くいくいと袖を引っ張られて振り向けば、複雑そうなルリの顔があった。いつになく嬉しそうな兄貴の邪魔はしたくないが、そう言う訳にもいかない。そんなことを言っているように、アキトには思えた。

「お、そうか。ンじゃあ悪いけど北斗・・・・・・」
「ああ。馳走になったな。」

空気を察したのか、北斗は鷹揚に頷くと立ちあがった。

「話す事なら、何時でも出来そうだしな。」