たまにはTV準拠で(笑)

「デート」と云う言葉は、好きだけどキライだ。

スケジュール表のてっぺんに「ででんっ」と書かれている Date の文字。

これを見るたびに、そんな事を思ってしまう。

昔のひとは何を思って、こんな反対の意味を同じ単語に込めたんだろうか?

・・・・・・まあ、気の持ちようと言うか受け止め方の問題かも知れないけど。

それでもやっぱり、いいコトはいいコトだけにして欲しい。

そう思ってしまうのは、我儘なんだろうか?



          ◇          ◇          ◇


「アキトさ〜ん!」

呼ばれて、テンカワアキトは振り返った。

いつも野暮ったい彼にしては珍しく、品のいい濃紺のシャツにベージュのスラックスと言ういでたちだった。

「ああ、こっちこっち」

彼が手を振った先からは、可憐な少女が息せき切って走ってきていた。

三つ編みからおろされた髪が風にそよぎ、ゆるくかかったウェイヴが弾む。

ライトブルーに白ラインが入ったセーラー襟は、躍動する髪を優しく支え。

涼しげなロングスカートからは、すらりと健康的な脚が生命の喜びを謳歌していた。

生きている事の素晴らしさを、体中で表現しているような。

そんな気持ちにさせる、少女だった。

「・・・はぁっ・・・はぁっ・・・んっ、待ちましたか?」
「ううん、今来たとこだよ、メグミちゃん」






メグミ=レイナードの平和な一日






「・・・・・・変わっちゃってるね」
「・・・・・・変わっちゃってます」

二人は腕を組んだまま、半ば呆然と映画看板を眺めていた。

「おっかしーなー。確かに昨日までは・・・・・・」
「はい。私のイチオシ『愛と青春のラフレシア〜キッスは放射能の吐息〜』のハズです」

怪獣恋愛して大決戦な映画? とゆーツッコミは昨日までに済ませて来たらしく、アキトは急に上映スケジュールが変更になった事のみに驚いていた。

「・・・あ! アキトさん、あれ!」

突然声を上げたメグミの指す方を見てみれば。

「ん、告知・・・・・・だね」

入場券販売窓口の横に貼られた、一枚の紙切れ。

「・・・・・・そっかー。しょうがない・・・・・・かな」
「・・・・・・そうですね。しょうがない・・・・・・ですよね」

思わず、落胆して肩が落ちる。

だがメグミは素早く立ち直ると、アキトの手を取って引っ張りはじめた。

「それじゃあ! ちょっと繰り上がっちゃいましたけどお買い物に行きましょ! もうお店、開いてますから!」
「あ、ちょっと! そんな引っ張らなくても行くよ!」

じゃれあいながら走り去る恋人たちを、券売のおばさんは生あくびで送りだしたのだった。



          ◇          ◇          ◇


「・・・いらっしゃいませ」
「「うっ」」

ブティックに入った途端、覇気のない挨拶がへろへろ〜とやって来た。

一瞬、顔見知りの極寒呪文使いかと思って呻きが洩れるが・・・・・・良く良く見ると、背格好やスタイルはともかく、顔だちは全然違っていた。雰囲気はまあ、多少似てなくもなかったが。

「・・・・・・そちらの方の服をお探しですか〜?」
「え、ええまあ・・・・・・はい」

えらくだるそうに指差されたメグミは、引きつりながらもなんとか笑顔を取り繕い、頷いた。

「わかりました〜。では・・・・・・こちらなどいかがでしょうか〜」

やる気ゼロっぽい割には即座に取り出して来た服は、薄いピンクの襟つきノースリーブと、白い短パンだった。前もって用意していたとしか思えない早業である。

「あ、いえ、それはもう持ってますから」

一瞥くれるやいなやの即答。

横のアキトが目を丸くしたが、本当の驚きはこれからだった。

「・・・そうですかー! いやいや、そうですよねー!! それではお客様、こちらへどうぞ〜☆」
へ? いや、あの、その」

もしかして反転? と聞きたくなるほど態度が変わる店員。

流石のメグミもついていけず、されるがままに拉致られて逝く。

「・・・あ、アキトさーーーーーーん! たすけてーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

ひとり残されたアキトは、呆然と見送りながら呟いた。

「・・・・・・こーゆーの、『引かれ者の小唄』ってゆーんだっけ?」

それは絶対に違う、とツッコミを入れられる者は既になく。

店内にも関わらず、アキトの足元を木枯らしが吹きすさんでいった。



          ◇          ◇          ◇


「・・・も〜! アキトさんヒドイですぅ〜」
「ははは・・・・・・ごめんてば」

ブティック近くのオープンカフェで、二人は一息入れていた。

アキトの足元には、両手でやっとこ抱えられる量の紙袋が置いてあった。見捨てた仕返しに、しこたま買わされたらしい。

自業自得、とは言い切れないものの・・・・・・まあ、野郎の立場なんぞこんなもんである。

「・・・でもさ、あの店員さん、いい人だったじゃない? 安くしてもらったしさ」
「もう! でもあの人、パンツ系ばっかり勧めてくるんですよ? 私、スカートの方が好きなんだけどなあ」
「そう? ああゆう格好もいいと思うけどなあ。可愛くて」

さらっと何の気なしにこーゆー事を言うから、この男は恐ろしい。

「・・・・・・もう。アキトさんったら・・・・・・」

乙女心にダンクシュート決められて、メグミ轟沈。

真っ赤に俯いてもぢもぢする様は、とっても食べごろで熟れごろであった。

「・・・・・・それにしても、最初見た時はびっくりしたな〜。イズミさんかと思っちゃったよ、あの店員さん」

しかしアキトはそんなメグミを無視するかのように、話を続けてくれちゃったりした。中々人間離れした感性をお持ちのようである。

「ア〜キ〜ト〜さん〜?」

一転、地の底から響いてくるような声を出すメグミ。今なら、番町皿屋敷の独演だって出来そうだ。

「あ、いや。で、でもさ、メグミちゃんもそう思わなかった?」
「・・・そりゃあ、ちょっとは思いましたけど〜」
「で、でさ。あの店員さん、ホントにイズミさんだったりしたら・・・・・・」
「・・・・・・・・・」

話を逸らそうとしているのはモロバレだったが、一応思い浮かべてみる。

やたらとテンションの高いイズミを。


「「・・・・・・ぷっ」」

笑えた。

なんかツボだった。

そして、よせばいいのにぽろっと出て来た一言は、とどめだった。

「な・・・・・・なんか、すんごく素早いキョンシーって感じですね、それ・・・・・・ぷぷっ」
「・・・・・・す、素早いキョンシーって・・・・・・うぷぷっ」
「「・・・・・・ぶあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」」

周囲から集まる視線をものともせず、二人は死ヌほど爆笑しまくったのだった。



          ◇          ◇          ◇


「・・・あ〜。笑った笑った腹痛い」
「もう。しばらくあの店いけないじゃないですか」

未だ笑いの余韻が残ってるアキトはともかく、先に素に戻ってしまったメグミは恥ずかしそうに口を尖らせていた。

「まあまあ。別になんかある訳じゃないんだから、いいじゃない」
「それはそうですけどぉ〜」
「・・・・・・でもさ。ホント何やってるかな、みんな」

メグミだからこそ聞き取れた、微かな呟き。

はっ、と見上げた先には、ここにはいないアキトがいた。

あの日以来、ついぞ見なかった遠いアキトが。

「・・・行きましょ」
「あ、うん?」

メグミはただそれだけを言って、それ以上言わせず、商店街へとアキトを引っ張った。



          ◇          ◇          ◇


「・・・わあ〜。アキトさーん! これ可愛い〜」

ショーウィンドウに張りついて、満面の笑みで自分を呼ぶメグミを見やり。

アキトは密かに、胸をなで下ろしていた。

「・・・・・・良かった。機嫌直ったみたいだ。良く分かんないけど結果オーライ、かな」
「アキトさ〜ん、早く早く〜」
「はいはい、ただいま参りますよ」

苦笑しつつ紙袋を抱え直し、ゆっくり歩み寄ろうとした時。

二十歳前半と思しき女性と、すれ違った。

「・・・・・・ユ、ユリカ?」

驚愕、と名札の付いた彫像に振り向いて、その女性は小首を傾げた。



          ◇          ◇          ◇


「・・・ユリカ、さん?」

ぱたぱたとやって来たメグミも、少なからず驚いているようだった。

さっきの店員と違い、この女性はユリカそっくりだった。髪こそショートにしているが、それを除けば顔もスタイルも、最後にナデシコの昇降口で見た時のままだ。

だが。

「・・・失礼ですが、どちら様でしょうか?」

その物言いも、物腰も。

ユリカである部分は、何一つとしてなかった。

「・・・・・・あ、すみません。人違いでした」
「そうでしたか。では、失礼致します」

アキトが慌てて頭を下げると、その女性はたおやかに会釈して去って行った。

二人は、何ともいえない表情で、その背中を見送っていた・・・・・・



          ◇          ◇          ◇


「・・・・・・もう、2年経ったんですよね」

ちょっと洒落た料理店で。

デザートを待っていたメグミは、窓の外を見ながら呟いた。

「・・・うん。2年半、になるかな」

アキトも同じように、外を眺めながら答える。

いや。

二人とも、窓に映る自分を見ているのかも知れない。

日常の雑踏に重なる、不確かな自分たちの影を。

「ねえ、アキトさん?」
「ん?」
「あの時、私が言ったこと・・・・・・まだ、覚えてますか?」
「うん。覚えてるよ・・・・・・

『一人の女の子を守って生きるのも、地球を守って生きるのも、同じ戦いでしょう!』

だったよね?」

アキトが答えると、メグミは軽く頷いて前に向き直った。

やや暫く、視線をワイングラスや卓上照明に彷徨わせていたが・・・・・・意を決して、アキトの目をまっすぐに見詰める。

「・・・・・・あの時、私は心の底からそう思ってました。今でも、そう思ってます」

ちょっと何かあれば俯きそうな危うさで、しかし視線は揺るがずアキトを捕らえて離さない。

それは、恋する強さなのであろうか。

「でも、最近思うんです。
 あの時ナデシコを降りたのは、戦いなんかじゃなかったんじゃないかって。
 ただただ、恐くなって逃げただけじゃなかったのかって」
「そんなことは・・・・・・」

ない、という言葉は空気を伝わることなく、喉の奥に消えた。

半端に口を開いたままのアキトに構わず、メグミは淡々と話を続ける。

「知ってますか? アキトさん。
 見間違いって、よっぽど逢いたいか、反対に絶対逢いたくないって思ってると起こりやすいそうです。
 ・・・どっちだったかは、解りません。でも、ずっと気になってたことは確かなんですよね。
 なんだか、思い知らされちゃいました」

えへへ、と舌を出してみせるメグミは・・・・・・どうしようもなく、無理をしていた。

アキトでも解るくらいに。

「・・・メグミちゃん。正直言って、ナデシコのみんなが気になってないって言ったら嘘になる。もし、あの時に戻れたとして、同じことをするかって言われると・・・正直な話、自信ないよ」

見る見るうちにメグミの顔色が悪くなる。

だが、アキトはきっぱりと言い切った。

「でも、後悔はしてない。それに、たとえナデシコに残ったとしても、メグミちゃんを一番に守るよ。これだけは、何があっても変わらない」

メグミの息を呑む音が、やけにはっきり聞こえた。

顔を両手で被って押し出した、「ありがとう」の一言も。

アキトはずっと、メグミを優しく見守っていた。

ずっと、ずっと・・・・・・・・・



          ◇          ◇          ◇


満点の星空の下、恋人たちが歩いて行く。

光量を押さえた街灯の橙と、傍に居るパートナーが暖かい。

今この時、世界は恋人たちのものだった。

恋人たちは、歩いて行く。

ずっと、ずっと未来へ。
































恋人たちが通り過ぎた映画館に、風が吹いた。

紙が舞い飛び、舞い落ちる。

窓口のおばさんが大儀そうに出て来て、路上看板にかかった紙を取り除いた。

たとえ一時でも、この文字が見えないことがあってはならないのだ。



















「終戦記念ゲキガン祭り 一挙全話上映!」






















受け付けのおばさんは、一度腰を伸ばしてから窓口に戻って行った。

どうせ、仕事はないと知りつつも。

《おしまい》






あとがき


えー、なんかこっちではエライご無沙汰だったよぉな気がしないでもないプロフェッサー圧縮ですー(爆散)

・・・・・・まあ、それはこっちゃに置いときまして(/・・)/


いきなりですが、この話木連勝ってます。


や、ちょっと解り辛いかな〜、と思いまして(゜▽゜;)

TV13話で、アキトがメグミ選んだifなんですが・・・・・・なんかこうなったり(爆)

個人的には、アキトいないくらいでナデシコが負ける気はあんまりせんのですが(をひ)そこはそれ、もしもの世界と言ふことで(゜▽゜;)

ナデクルーやらネルガルがどーなっとるのかは一応考えてはありますが、話にカンケーないので割愛。興味がおありでしたら、感想掲示板辺りでお聞きくださいませ。

ではこんなところで。

                By プロフェッサー圧縮

 

 

 

代理人の感想

メグたん・・・・・。

確かに13話以降出番がガクっと減って、「僕たちの戦争」以降は殆ど

ホウメイガールズと同等の扱いでしたね(爆)。

 

彼女、ある意味では典型的ヒロイン体質だと思うのですが、

同様に典型的ヒーロー体質のガイがどういう扱いを受けたかと言うことを合わせて考えてみるに、

やはり「ナデシコ」という作品のテーマ(と言うか何と言うか)の為の人柱にされた感はあります。

(尤もガイと違ってイケニエの祭壇に捧げられるメグたんというのは、これはこれで絵になる・・・おっとっと)

 

「熱血」とか「正義」とか、そういった既存の価値観を破壊するシナリオとキャラクター。

そこらへんが「ナデシコ」と言う作品の持ち味(魅力とはあえて言わない)なんですが・・・

あ、だから二次創作が絶えないんだなこのアニメ(爆)。