機動戦艦ナデシコ ORIGINAL GENERATION |
第3話
選んだ道は『戦いの道』
爆発が断続的に続き、崩壊のカウントダウンを進めて行くアマテラス
そのアマテラス内部で明かされた真実
リョーコ「アキト!
アキトなんだろ?だから『リョーコちゃん』って、オイ!?」
必死に呼びかけるリョーコ
だが、アキトは何も答えようとはしない
それを見据えたようにカケルが語りかける
カケル「止めときなよリョーコさん」
リョーコ「カケル!?」
カケル「たぶん・・・・・・この人は、俺たちの知ってる義兄さんじゃないから・・・・・・」
その言葉に息を飲み込むリョーコとルリ
おそらくアキトの事をもっとも信頼しているだろうカケル
そのカケルが目の前のアキトの存在を否定したのだから
カケル「それよりも、この状況を何とかしないと」
眼前に迫る夜天光と六連
静かな静寂から一転して一気に迫り来る
そこに天井を破り、サブロウタのスーパーエステバリスが現れる
サブロウタ「久しぶりの登場ォ―――――!」
突然乱入してきたサブロウタのスーパーエステバリスはリョーコのエステバリスカスタムを回収する
アキト「彼女と彼を連れて逃げろ」
カケル「俺は大丈夫だから、リョーコさんを頼む」
サブロウタ「・・・・・・分かった」
少し躊躇したが、この状況では迷ってはいられない
そう思ったサブロウタはリョーコ機のアサルトコックピットを抱えてその場を去る
それを見送り、視線を敵に戻すカケル
カケル「さて、続きを始めようか」
左手にイミディエットナイフを構える
北辰「復讐者となった義兄を守護するか、翼よ」
カケル「だったら?」
北辰「愚か者よ・・・・・・滅!」
北辰の夜天光を初め、6機の六連が動く
それと同時にエステバリスとブラックサレナも動く
運命の開幕を告げる戦いが始まった
崩れ落ちる通路を全速力で駆けるスーパーエステバリス
抱えられたエステバリスカスタムのコックピットではリョーコが騒いでいる
リョーコ「バカバカ引き返せ!ユリカとアキトとカケルが・・・・・・」
サブロウタ「艦長命令だ、悪ィな」
リョーコ「ルリィ!応答しろ!聞いてるんだろ?見てんだろ?
生きてたんだよアイツら!目覚めたんだよアイツが!
分かってんだろルリ!?
今度も見殺しかよ、チクショー・・・・・・チクショー・・・・・・」
リョーコの呼びかけに反応しないルリ
その呼びかけが耳に届いているかさえ怪しい
完全に脱力してしまった状態だが、それでも最低限の指示を出す
ルリ「戦闘モード解除。タカスギ機回収後、この宙域を離脱します・・・・・・」
ハーリー「了解」
ルリは崩壊の続くアマテラスを見ながら
震える唇を僅かに動かして呟く
ルリ「カケルさん・・・・・・アキトさん・・・・・・ユリカさん・・・・・・」
アマテラス内部では、まだ9機の戦闘が続いていた
だが、このブロックにも爆発が迫ってきた
カケル「此処もそろそろ限界か・・・・・・」
カケルの注意が一瞬爆発に取られてしまう
その一瞬の隙を突いて錫状を振り下ろした
これは回避できず、イミデュエットナイフで防ぐが、パワーの差で大きく飛ばされる
カケル「クッ!」
北辰「他の事に気を取られたか、愚かな」
アキト「それは貴様だ!!」
攻撃を加えた北辰の注意もカケルに集中していた
そこにブラックサレナのハンドカノンが捉える
北辰「なかなか・・・だが、あまい」
錫状を振り、ハンドカノンの軌道を逸らす
次に北辰衆の六連が一斉にブラックサレナへミサイルを放つ
アキト「チッ!」
まともに直撃を受ける
しかし、ディストーションフィールドのおかげで損傷はほとんどない
爆煙の中、夜天光が間合いを詰める
北辰「終わりだ復讐者よ」
振り下ろされる錫状
アキト(クソッ!こんな所で)
錫状がブラックサレナを捉えようとした刹那
カケルのエステバリスが夜天光に突っ込んできた
カケル「させるか!!」
北辰「何ッ!?」
カケルのエステバリスが夜天光の下方から急接近してきた
そこからフィールドを集中させた左拳を叩き込む
完全にキヨを突かれた北辰は避けきれず、ヘッドに直撃した
カケル「決まった・・・・・・!?」
そう、確かに決まっていた
3年前の機体ならこれで完全に決着がついていただろう
だが、エステバリスの拳は夜天光のヘッドの紙一重の場所で停止していた
フィールド出力の差が決定的で、それだけで攻撃を防がれてしまったのだ
北辰「惜しかったな。せめて同等の機体ならば勝負はついていただろう・・・・・・斬!!」
そのまま錫状でコックピットを狙うように突き刺そうとするが
それを間一髪で避わす
北辰「ほう、なかなかにできるか」
カケル「はぁはぁはぁ・・・・・・」
今の攻撃を避わせたのは偶然だった
次も避わせる保障はない
カケル(機体の性能のハンデがここまで響くなんて、さっきの2戦で分かっていたつもりだったけど
やっぱりゼロを使うしかないか・・・・・・)
カケルはユーチャリス戦で、かなり長い間ゼロの領域を使っていた
此処でさらに使用すれば、そう長くないうちに限界が来るだろう
だが、このままの状態で戦闘を続行しても、確実な死が待っている
ならば迷う必要はない
カケルはゼロの領域に突入した
それと同時にアキトのブラックサレナが隣に降りてきた
アキト「動けるか?」
カケル「なんとか」
右腕以外は無事に見えるが、内部の回線はショートを起こしている
そう長くは持ちそうにない
アキト「俺が真紅の機体を片付ける。その間、残りの6機を頼む」
カケル「やってみるよ」
2機は散開してそれぞれの相手に向かって行く
北辰「懲りずに挑んでくるか。よかろう、相手をしてやる」
北辰の夜天光とアキトのブラックサレナが正面から激突する
アキトがハンドカノンを引っ込め、代わりに出てきた腕で夜天光を殴り飛ばすと
北辰は機体を旋回させて蹴りを入れる
そこから距離を取り、ブラックサレナはハンドカノンを連射する
アキト「北辰!お前だけは俺が倒す!!」
北辰「貴様には無理だ復讐人よ」
二人の戦闘はヒートアップしていくが
小回りの聞かない宙域での戦闘はブラックサレナが不利
それはアキトにも分かっていた
この際、多少強引でも一気に決着を付けること決意する
アキト「これで決める!!」
ディストーションフィールドを全開で展開しての特攻
過去、何処かの熱血バカが『ゲキガンフレア』などと呼んでいた技だ
北辰「笑止!!」
迫るブラックサレナに対し、夜天光は錫状を振り下ろす
2機の激突が閃光となり、大きな爆発を引き起こした
爆発の中から2機の機影はまだ確認できない
カケル「義兄さん、アイツもまだ・・・・・・」
誰も状況が把握できてない中、カケルだけが全ての状況を把握していた
ゼロの領域のカケルにはアマテラス内部の全てが分かるからだ
そのおかげで六連の攻撃を完全に先読みして避わし続けているのだ
もっともそれが限界で、それ以上は今の機体では無理があった
カケル(なんとかコイツらを振り切らないと・・・・・・)
連携で攻めてくる六連に死角はなく、こちらから反撃に転じる隙を見せない
それでも何とか6機の間を抜け、爆煙の中に突っ込んでいく
北辰衆C「何処へ行く気だ?」
北辰衆E「分からん。だが、逃がすわけにはいかん」
6機の六連もカケルのエステバリスを追撃に向かう
それこそがカケルの狙いだった
爆煙の中では視界もレーダーも大して役にたたず、敵の判別もままならない
だが、カケルには敵と味方の判別はもちろん、障害物や爆発する場所の全てが分かる
機体を反転させ、北辰衆の六連を次々と攻め立てる
北辰衆B「バカな。彼奴には我らの位置が分かっているのか!?」
北辰衆D「わからん。だが、間違いなく我らの居場所と動きが読まれている」
北辰衆A「一度この煙から出るぞ」
煙から出て行く六連を感じ取るカケル
そして、さらに上空から接近してくる存在に気づく
北辰の夜天光だ
アキトのブラックサレナも少し遅れて追跡しているようだ
北辰「そこまでだ翼よ」
カケル「このォ!!」
夜天光に向けて拳を放とうとするが、腕が動かなかった
カケル(しまった!機体に限界がきた・・・・・・)
そう思ったときには既に遅かった
夜天光の錫状は完全にエステバリスを捕らえた
錫状はエステバリスのコックピットの僅か左方へと突き刺さり、壁に串刺しにされる
さらに待ち構えていた6機の六連もエステバリスに向けて錫状を投げつける
もはや動きの取れないエステバリスにそれを避わす術はない
6つの錫状が無造作にカケルのエステバリスを貫いた
カケル「ガハッ・・・・・・」
衝撃で頭部を打ち、鮮血が流れる
さらにコックピット内も爆発で変形し、カケルは全身に傷を負ってしまう
その傷が決定的なモノとなり、カケルに限界が訪れてしまう
カケル(・・・・・・ここまでか・・・・・・・・・)
カケルは完全に意識を失ってしまった
その映像はアキトのコックピットにも映し出されている
アキト(カケル、このままでは・・・・・・)
アキトはブラックサレナをカケルの半壊したエステバリスの前に付ける
前方には夜天光と六連がゆっくりと降下してくるが、こちらに仕掛けてくる様子は見せない
まるで二人を無視するかのように、ユリカの組み込まれた遺跡ユニットに付けた
北辰「復讐人、そして翼よ。もはやこれ以上の戦闘は無意味だ
貴様たちを捕らえられぬのは惜しいが、決着は次の機会まで預けておく」
アキト「なんだと?」
北辰「女は頂いて行くという事だ」
夜天光、六連、そして、遺跡ユニットがボソン粒子に覆われる
それらは激しい光とともに完全にその場から姿を消した
残されたのはブラックサレナとエステバリスだけ
アキトは夜天光たちが消えた場所を睨みながら悔しさを噛み締める
少しずつ体が光を放っていた
アキト「また逃がしてしまった・・・・・・クソッ!!」
アキトは舌打ちし、爆発する様子を確かめる
確かめるまでも無くアマテラスは数分後には完全崩壊するだろう
アキト「此処もそう持たないだろうな。離脱するか・・・・・・」
爆発が続くアマテラスから脱出しようとしたが
一瞬、カケルのエステバリスが映った
先程の戦闘で徹底的に痛めつけられ、機動不能に陥って動けない
アキトは少し途惑いながらも、カケルに通信を送るが
やはり気を失っているので反応がない
体から流れる鮮血も相当な量に至っていた
アキト(このままだと死んでしまうな・・・・・・)
復讐者となったアキトだが、目の前で死にかけている義弟を見捨てる事はできなかったのか
エステバリスに近づくと、ハンドカノンをしまい、腕を取り出した
その腕で無理矢理コックピットを開き、カケルを引きずり出した
傷ついたカケルを一見すると、ラピスへ通信を送る
アキト(ラピス、これから戻る)
ラピス(わかった)
アキトはラピスとのリンクを終えると、機体の周囲にボソン粒子が発生し
カケルをコックピットの中へと導く
アキト「これでよし・・・・・・ジャンプ」
カケルを連れて消えるブラックサレナ
その数分後・・・・・・
アマテラスは宇宙の藻屑へと消えた
ユーチャリスの格納庫へとジャンプアウトしたブラックサレナ
ゆっくりとコックピットからカケルを担いで出てくる
床に着地し、扉の方へと向かう
床にはカケルの流した血が滴り落ちていた
そこにラピスが格納庫に入ってきた
ラピス「アキト・・・・・・あれ?」
ラピスはアキトの傍へ行くと、不思議そうに抱えているカケルを見る
全身から血を流し、俯いているので顔が見えない
ラピス「その人・・・・・・誰?」
アキトが人を連れて来たことなど一度としてない
そんなアキトが連れてきた人物に興味を持ち、顔を覗き見た
すると、普段表情を変えることがほとんどないラピスが、驚きの表情を浮かべた
アキトはそんなラピスの様子を気にも止めずに説明する
アキト「俺の義弟だ。ラピスは会うのは2度目になるが、覚えているか?」
アキトはラピスの事だから、他人の事など眼中にないだろうと思っていたが
案外そうではなかった
ラピスはカケルの事をハッキリと覚えていた
最初は互いに敵として戦い、それから一緒に話をしてその優しさに触れた
間違いなく、その時の青年だ
アキト「どうしたラピス?」
ラピス「この人、カケルだよね・・・・・・ケガしてるの?」
アキト「ああ、さっきの戦闘で俺を庇ってな。それにしても、覚えてたのか?」
ラピス「さっきの戦闘まで知らなかった」
ラピスそう言って、カケルの額に手を当てる
ラピス「カケルはアキトと同じだね・・・・・・」
戦士でありながら戦う事を嫌い、自分以外の為に自分を傷つける
戦士としては決定的なまでに甘い
だが、人として周囲を和ませる優しい空気を纏っている
これはアキトとカケル、二人に共通することだった
アキトにもそれは充分に理解していた
アキト「そうだな・・・・・・コイツは昔の俺に、よく似てる」
あくまで昔を主張する
アキトはカケルの髪を撫でると
バイザーをしているので見えないが、少しだけ優しい目に戻った
それこそがカケルの持つ、癒しの雰囲気の効果なのだろう
アキト「ラピス、カケルを頼めるか?」
ラピス「うん」
ラピスは少し嬉しそうに返事をした
普段のラピスなら絶対に嫌がって拒否しただろう
アキトはそのままカケルをラピスに渡したのだが
一つ大事な、かつ単純な事を忘れていた
ラピス「あッ・・・・・・」
ラピスの細い腕でカケルを支えられる訳がなく
当然その場で落っことしてしまった
しかも後頭部直撃のコースで落下した
結果、後頭部を強く打ち、血が"ドクドク"と流れる
顔色も青くなっていた
普通の人間なら、今頃『三途の川』などに立っているだろう
ラピスとアキトは冷や汗を浮べていた
ラピス「アキト・・・・・・カケル、大丈夫かな?」
アキト「ど、どうかな・・・・・・」
アキトは何とも言えなかった
何か半分虫の息で、呼吸すら止まっている気がする
確かめようにも、五感を失っているので確かめようがない
アキト(たぶん大丈夫だよな。体は丈夫だったし・・・・・・)
これは丈夫とかいう問題ではない
仕方がないのでアキトが担いで医務室に連れて行くことにした
ラピスはアキトの後ろをゆっくりと付いて行く
顔を俯かせて、何処となく悲しい表情を浮べていた
アキト「カケルなら大丈夫だ」
アキトが優しく気遣うが、それでもラピスの表情は暗かった
結局医務室に着くまでその状態は続いた
医務室に着き、カケルをベッドに横たわらせる
頭部からは相変わらず血を流していた
アキト「ラピス、カケルの介護を頼んで良いか?」
ラピス「良いの?」
アキト「ああ、俺はこういうのは苦手だからな」
ラピス「わかった、がんばる」
カケルをラピスに任せ、アキトは近くのイスに座る
ラピスはテキパキとカケルの手当てをしているように見える
その様子を見て、アキトは嬉しく思った
これまで自分以外に対してまったく無関心だったラピスが、自分以外の人間に接している
それが本当に嬉しかった
アキト(これで俺がいなくなってもラピスは大丈夫だな
けど、この様子だとルリちゃんとラピスの間でカケルは苦労しそうだな)
などという考えをしながらカケルとラピスを見てみると
また驚くべき光景が飛び込んできた
アキト「げっ!!」
なんと、カケルは包帯をグルグル巻きにされてミイラになっていた
決して中身は干からびている訳ではない
まあ、確かにこれで血は止まったかもしれないが
呼吸をする為の口や鼻まで包帯に覆われていた
アキト(あれじゃ息の根も止まったんじゃないか?)
などと本気で思うアキト
実際にラピスを見てみると、何か違うといった感じでカケルを見ている
この時、まともな知識を与えていなかった事を少し後悔した
アキト(はぁ〜仕方ないな)
アキトは立ち上がり、ラピスの元へ行く
ラピス「アキト・・・・・・」
アキト「俺が教えてやるから、一緒にやろう」
ラピスは頷き、アキトに教えてもらいながらカケルを介抱する
思いのほかラピスは飲み込みが早く、カケルの治療はすぐ終わった
最初からこうすれば良かったのだが、アキトはラピスの自主性を見てみたかったのだ
まあ、結果として良かったとしておいた
ラピスはひたすらカケルの顔を見つめている
ラピス「カケル、いつになったら起きるのかな?」
アキト「わからない。相当なダメージを負っているようだしな。心配か?」
聞くまでもなく答えは分かっているが、それでも本人から聞きたいと思った
ラピスは少し顔を赤らめて俯く
ラピス「・・・・・・うん」
小さな声で確かに答える
アキト「だったら良い事を教えてやる」
ラピス「良い事?」
ラピスはその事に興味を引いた
アキトとしてはおもしろ半分にひらめいた事をラピスに教えてやる
アキトが何を言ったのか、ラピスはゆっくりとカケルの頭を持ち上げた
カケル「うっ・・・・・・うん・・・・・・」
どれくらい気を失っていただろうか
カケルはゆっくりと意識を取り戻した
何か後頭部が痛み、それとは別に、暖かくて軟らかい感触が伝わってくる
何というか、実に気持ちよく、それでいて安らぎを感じる
不思議に思い、目をゆっくりと開く
景色がボヤケているが、何かが見えてくる
ラピス「目が覚めた?」
カケル「・・・・・・え?」
最初に視界に入ったのはラピスの顔だった
驚くカケルだが、自分の置かれている状況にさらに驚く事になる
なんと、カケルはラピスの膝に頭を乗せていた
早い話が"膝枕"をしてもらっていたのだ
とても気持ち良い。気持ち良いのだが、この状況をどう理解してよいのだろうか
カケル「あ、あの〜・・・・・・これは?」
慌てふためくカケルとは裏腹に、ラピスは"キョトン"としている
どうやらこの萌えるシュチュエーションを理解していないのだろう
だが、ラピスはいきなり笑顔で微笑んだ
一人の男が狼男に変貌するには充分過ぎるほどの効果があった
野生が理性を凌駕しようとしたとき、そこにアキトがやって来た
アキト「カケル、目が覚めたようだな。ラピスの膝枕は気持ち良かったか?」
カケル「そりゃ気持ちよ・・・・・・って、違う!」
思わず本音を言いそうになったが、なんとか抑制する
確かにラピスの膝枕は気持ちいい
なごりは惜しいが、後ろめたい気持ちもあるので、すぐ体を起こす
ラピスはラピスで少し残念そうな顔をしている
カケル「それより此処は何処?」
アキト「機動戦艦ユーチャリスの医務室だ。お前は随分とケガが酷くな・・・・・・・酷かったからな」
アキトは思わず、"酷くなった"と言おうとしたが
後々の事を考えて、その言葉を引っ込めた
カケルの性格なら笑って許すだろうが、面倒なので引っ込めておく
アキト「それより、体は大丈夫なのか?」
それを聞くなり腕や頭をを軽く回す
多少の違和感があるが、それほどの痛みはない
昔から傷の治りが早かったのだ
カケル「少し痛みはあるけど、これくらいなら平気だよ
それよりこの艦、ユーチャリスだっけ、何処に向かってるの?」
ラピス「月のネルガルドック」
答えたのはラピスだった
いつの間にかアキトとカケルの間に移動して手を握っていた
ユーチャリスはオモイカネの次世代型超高性能AIの『ダッシュ』に任せているらしい
月に着くまでまだ時間がある
アキトはラピスに頼んでカケルのユーチャリス戦の映像を出させた
アキト「これがカケルがラピスと戦ったときの記録か」
ラピス「うん。カケルは強かったよ、アキトと同じくらい」
その実力に関しては、アマテラス内部での戦闘を見ていたので分かっている
量産型のエステバリスであそこまで戦えたのだ
アキトや北辰レベルの技量は充分に持っているだろう
だが、それ以上に、戦闘中のカケルの反応の急上昇が気になった
アキト「カケル、さっきの北辰たちとの戦闘もそうだったが、お前の反応が急激に上がっているな
明らかにお前の限界を超えた反応だ。どうなってるんだ?」
カケル「ああ、ゼロの領域を使ったんだ」
アキト「ゼロの領域?」
カケル「うん。これは・・・・・・」
カケルは二人にゼロの領域の事を説明する
知覚の限界を超え、全ての状況を把握し、先読みして事を有利に進められる
その反面で体力と精神力の消耗が激しいというリスクを持つ
精神面に関しては、一歩間違えたり使い続けると、精神が崩壊して廃人になる
運が悪ければそのまま死んでしまう
もっとも、カケルはそのリスクをほとんどクリアしている
カケル「・・・・・・と、こんな感じかな」
カケルの説明が終わると、アキトは何かを真剣に考えている顔をしていた
それを不思議に思うカケルとラピス
とたん、アキトが思わぬ質問をしてきた
アキト「そのゼロの領域だが、俺にも使えるのか?」
危険性は充分に説明したつもりだった
それでありながらもアキトはゼロの領域を求めてきた
その表情は真剣そのもので、何か信念すら感じる
カケル「難しいけど、不可能じゃないと思うよ。でも、なんでそこまで力を求めるの?
先程の戦闘を見る限りでは、アキトは北辰たちに遅れを取っていなかった
不利な地形なので苦戦していたが、地上や宇宙なら問題はないだろう
かつてと違い、今のアキトは最強と言っても過言じゃないほどの実力だ
それでもアキトはそれ以上の力を求めている
カケル「あれは訓練とかじゃ身に付けられないんだ。俺は眠りから覚めたら身に付いていた
俺の場合はたぶん、生死の境からの極限状態から生還した時に身に付いたんだと思う」
アキト「そうか・・・・・・」
それは早い話、習得方法が分からないと言っているようなものだ
だからといって、アキトを生死の境に落とすして試す事などできる訳がない
少しの間沈黙が流れるが、突然カケルの腹が"ぐ〜"と鳴った
カケル「あはは・・・・・・考えてみれば、アマテラスに着いてから何も食べたないんだ」
ラピス「カケル、おもしろい」
ラピスはクスクス笑いながら、ポケットから何かを取り出し、それを渡す
どうやら栄養薬剤と固形食物のようだ
それを見て一つの疑問を感じた
カケル「まさかと思うけど、いつもこれを食べてるの?」
ラピス「うん」
カケルの質問にラピスはあっさりと答えた
どうやら本当に普通の食事は取っていないようだ
アキトが一緒なのだから毎日美味しい食事が約束されているはず
カケル「義兄さん、料理はやめたの?」
その言葉を聞き、アキトの表情が硬くなる
ラピスも表情を暗くして顔を背けた
そんな雰囲気に何か嫌な予感を感じる
カケル「義兄さん?」
アキト「俺はもう・・・・・・料理はできないんだ・・・・・・」
アキトはそう言ってバイザーを外す
すると、アキトの全身はナノマシンの発光を示す
明らかに異質な状態にカケルは驚く
カケル「義兄さん・・・・・・それは・・・・・・?」
アキトにしてみれば、思ったとおりの反応だっただろう
この先を話せばどの様な反応をするかも理解している
それでも話さなければならない気がした
アキト「俺は奴らの実験で五感を失ってしまったんだ。特に味覚が・・・・・・ダメなんだ
もう2度と・・・・・・料理はできない・・・・・・」
カケルはそれを聞いて、アキトたちがどんな悲惨な目にあってきたか想像できた
五感を失うまで実験されたアキトに、遺跡に組み込まれたユリカ
心の底から怒りが込み上げてくる思いになるが
今のアキトを見て一つ引っ掛かった
カケル「でも義兄さん。何で話したり聞いたりできるの?」
アキト「それはラピスのおかげだ。俺とラピスは全ての感覚をリンクしている」
ラピスの方を見ると、"コクリ"と頷く
これであの時、ラピスの言っていた言葉の本当の意味が解かった
カケル「全感覚のリンク・・・・・・それってかなり負担になるんじゃ」
アキト「だから普段はこれをしている。これにはそういう機能が付いてるからな」
再びアキトは再びバイザーをする
すると、ナノマシンの発光も収まった
アキト「カケル、お前が付いて来るのは勝手だが、俺は戻る気はない
それだけは覚えておくんだ」
アキトはそう言うと、背を向けて扉に向かう
その背中は他人を寄せ付けない孤独な雰囲気を漂わせていた
カケル(義兄さん・・・・・・)
静かに出て行くアキト
そんなアキトを止めたいと思うが、体も口も動かなかった
思いも気持ちも痛いほど分かるから
カケル「でも・・・・・・」
視線を扉からラピスへと移す
二人の視線が合わさると、ラピスは微笑んでくれた
その笑顔を見て一つの希望を見出す
カケル(義兄さんはまだ闇に染まりきってる訳じゃない。まだ、光が残ってる
それはラピスちゃんを見れば分かるよ)
そんな事を心で思いながら、ラピスの頭を優しく撫でてやる
ラピスはそれが嬉しかったのか、その小さな身体を預けてきた
二人の温もりが互いに伝わり、安らぎを感じる
ラピス「カケル、暖かい・・・・・・」
カケルに身を任せ、安心したのだろうか
数分後、ラピスは静かに眠りについた
カケルはそんなラピスを暖かい目で見守り続ける
3人を乗せたユーチャリスは永遠の闇たる宇宙を進む
それからしばらくして、ユーチャリスは月のネルガルドッグに到着した
アキトは自室を出て、カケルとラピスのいる医務室へと向かう
扉を開けて中に入ると、寝ているラピスをカケルが抱え込んでいる
アキト「カケル、月に着いたぞ。ラピスを起こして付いて来い」
カケル「ラピスちゃん、疲れてるよ。もう少しだけ寝かせてあげたいんだ」
確かにアキトたちはこれまでハードな状況が続いてきた
ラピスは口や表情にこそ出さないが、かなり疲労が溜まっている
昔のアキトなら決して無理をさせるような事はしない
だが、今のアキトは・・・・・・
アキト「時間が惜しい。そんなに休ませたいならお前がおぶって来るんだな」
こんな感じだった
仕方がないので、カケルはラピスを抱き抱える
そのままアキトに付いてユーチャリスの通路を歩いていると
ラピスの金色の目がゆっくりと開かれる
ラピス「・・・・・・ん・・・・・・カケル?」
半分寝惚け気味で目を擦る
カケル「あ、起きたみたいだね」
ラピス「うん・・・・・・」
やっぱりまだ眠そうだ
まだ寝てから大して時間も経ってない
カケル「もう少し休んでなよ」
ラピス「ううん、私だけ休めない」
もう少しこのままでいる事を勧めるが、ラピスは自分で歩く事を選択する
3人がユーチャリスを降りると、一人の女性が待ち構えていた
ネルガル会長秘書のエリナ・キンジョウ・ウォンだ
エリナ「戻ってきたみたいね。あら?」
エリナがカケルの顔を見て驚く
エリナ「あなた・・・・・・目が覚めたのね」
カケル「ええ、エリナさん、久しぶりです。3年ぶりですね」
エリナ「あなたは3年経っても変わってないわね」
カケル「3年間寝てたんだし、変わりようがないですよ」
エリナ「それもそうね。でも・・・・・・」
エリナは視線をカケルからラピスに移す
ラピスはアキトとカケルの間で二人の手を握っていた
エリナはラピスがアキト以外に触れるのを許している所を見るのは初めてだった
エリナ「あらラピス、珍しいわね。あなたがテンカワくん以外の人に懐くなんて」
それを聞いてラピスはカケルを見上げる
二人の視線が一瞬合わさると、ラピスはにっこり笑った
ラピス「うん。カケルは好き」
あっさりと"好き"と答えるラピス
それを聞いたエリナは面白そうな笑みを浮べてカケルを見る
エリナ「あらあら、しばらく見ないうちにカケルくんもなかなかやる様になったわね
電子の妖精を二人も虜にするなんて」
カケル「人聞きの悪い事を言わないでくださいよ」
エリナ「事実でしょ」
カケル「違いますよ。どうせ俺は義兄さんと重ねられているだけだし」
カケルの内面は恐ろしいほど昔のアキトに酷似していた
それは誰もが思ったことだったが
エリナ「あら、そう思ってるのはあなただけじゃないかしら?
少なくともルリちゃんとラピスはあなただから好きになったのよ」
それを聞き、ラピスに視線を移して見ると、顔を赤らめて俯いていた
なんと言うか、複雑な心境になってしまう
確かにラピスはカワイイし、好意を抱いているのも間違いない
だが、カケルは3年前にルリに告白して良い関係を築いていた
久しぶりに再会したときは、本当に熱い想いが込上げてきた
間違いなくカケルはルリとラピスの両方が好きなのだ
カケル(優柔不断だよな〜俺って・・・・・・)
などと思った矢先に
エリナ「優柔不断なのは昔のテンカワくんと同じね」
エリナに図星を突かれてしまう
カケルはルリとラピスが出会い、そのときの自分の様子を思い浮かべるが
なにか怖いので想像するのはやめた
おそらく自分はこの世にいないかもしれないからだ
カケル(ま、なんとかなる・・・・・・かもしれない)
自信はまったくないが、そう思うことで自制する
アキト「つまらない話は後にしろ。それよりエリナ、アレは何だ」
アキトが指差した方向にあるアレ
それはこれまで見たことのないまったく新しい機動兵器だった
通常のエステバリスはもちろん、ブラックサレナよりも大きな15mくらいの機体だ
背には翼の様なフライトユニットに大型射撃兵器を装備して
純白を主としながらも、黄金の色飾が大幅に施された美しい外見をしている
エリナ「ああ、アレね。会長の指示よ。私は何も聞かされてないわ
ただ、性能的にはブラックサレナと同等か、あるいは上を行っているはずよ」
アキト「はず?性能テストはしていないのか?」
本来、新型の機動兵器、というか大抵の物はテストを行うものである
ましてやネルガル重工ともなれば念入りにテストしたはずだ
アキトのもっともな質問にエリナは溜め息を漏らした
エリナ「テストはしたわよ。したんだけどね〜・・・・・・」
アキト「どうしたんだ?」
エリナ「この機体ね、テストパイロットを5人も殺しているのよ
それで完成はしたんだけどそのまま格納庫で眠ってるってわけ。こんなの誰が乗るやら・・・・・・」
ネルガルのテストパイロットは皆元連合のエースパイロットだったりする
そんな連中を5人も殺したんだ
危険すぎて乗りたがる人間なんていないだろう(本来なら一人目で気づくだろ)
設計した人物も相当ヤバイ奴だと思ったとき
カケル「あ、それ俺が自分用に設計した機体だ」
それを聞いたエリナがカケルに視線を向ける
エリナ「これをあなたが設計したの!?」
カケル「うん。ちょっと性能面を重視したから、乗りこなすのは難しいだろうけどね」
死人を出すような機体は難しいでは片付かない
アカツキもそれは承知だったが、恐らくカケルなら乗りこなせると踏んだのだろう
でなけでばとっくに廃棄されている
それはそれとして、一見し終わると通路に向かって歩みだす
カケル「それで、これからどうするの?」
アキト「そうだな、とりあえず一度地球へ降りようと思う」
カケル「地球へ?」
てっきり補給が終わったら別のコロニーに襲撃を仕掛けると思った
もしもの時は力ずくで止めるのも仕方ないとさえ考えていた
だが、どうもその理由が気になるが、アキトは答えようとしない
そんな折、コミュニケに一通のメールが届いた
カケル「あ、メールだ」
誰からか気になってメールを開いてみると
そこにはアカツキから次なる司令が届いていた
それにはこう記されていた
悪いけど一度地球まで戻って来てくれ
今後の事を考えると、旧ナデシコのクルーを集めようと思うんだけど
どうも人材不足でね、君にも手伝ってもらいたいんだよ
君が担当する人材のリストは追って送るから、よろしく頼むよ
カケル「・・・・・・まぁ、地球に戻るから良いけどさ」
"やれやれ"といった感じでメールを閉じる
人材不足というのも、人材を集める事のできる人材が不足しているという事だろう
アキト「補給が終わったらすぐに出発するぞ」
アキトはそのままユーチャリスに向かう
どうやらゆっくりと休む訳でもないようだ
ラピス「カケル、私たちも行こう」
ラピスが服の袖を引っ張る
カケル「そうだね。エリナさん、ウイングレイヤーも積み込んでてください」
エリナ「ちょっと。人の話を聞いてたの?
アレは5人も死人を出している危険な機体なのよ」
カケル「危険は承知です。でも、これからの戦いはアレが必要なんですよ
大切な人たちを守るためにはね」
そう言ってカケルもラピスと一緒にユーチャリスへ乗りこむ
これでは何の為に艦から降りてきたのか分からない
そして数時間後
補給を終え、ウイングレイヤーを搭載したユーチャリスは地球へ向けて発進した
〜〜〜あとがき〜〜〜
何か分からないうちに3話を書いてしまった
何か違う気がするが、それなりに進んでいきます
一応新型機は出しましたが、戦闘で使うのはまだ先になりそうです
エステバリスを使った戦闘は原作の劇場版では、この先火星での1回の戦闘しかありませんでした
何処かで一度くらい戦闘を入れてみようかと思ったりします
話通りに危険な機体なので、いきなり使ったらシャレになんないでしょ
さてさて、次回はナデシコの仲間たちを集めて行くお話です
誰から行ってみようかな〜♪
管理人の感想
アテムさんからの投稿です。
うーん、何だかカケルとアキトの再会の場面に盛り上がりが欠けますね。
一度、アキトがカケルから逃げて、その後で時間を置いて再会とか。
ちょっと話の展開が急すぎるような印象を受けました。
ついでに言えば、ラピスがカケルに馴染むのも早すぎるのではないかと(苦笑)