PM:1.00 ナデシコ 食堂

其処には・・・既に多くの人が集まり、パーティの開始を待ちわびていた

「みなさ〜ん、明日はいよいよ決戦です、その時に全力を出し切るためにも

今日は思いっきり騒いで英気を養っちゃいましょう

では・・・・かんぱ〜い!!」

「乾杯!!」

ナデシコ艦長、ミスマル・ユリカのどこか軽い挨拶と、乾杯の音頭と共にパーティは始まった

誰もが日常を忘れ・・・・普段以上に騒ぎ・・・楽しむこの時間にも

その先にあるものを見据え・・・・決意を固めなおす者達もいた・・・・




機動戦艦ナデシコif
『新たなる刻の歌』
第二十話 決戦前日 〜昼〜





PM:1.25 ナデシコ 食堂 ホシノ・ルリ



ふと離れて皆を見ているとよくわかる・・・・・過去の自分・・・人との接触を無意味と思っていた自分がいかに馬鹿だったかが

明日の決戦に影響をできるだけ残さないように、食事は胃に余り残らない物が中心

お酒も比較的アルコール濃度が低い奴だし・・・・プロスさんやゴートさんが念のために見張っている

皆もそれを分かっているから・・・安心して騒いで・・・心地良い空間を形成し続けている

・・・・私がこの空間に入れるきっかけになったのは・・・やっぱりアキトさんの影響だろう

ただの人形だった私に・・・人としてのぬくもりを教えてくれた人・・・・私にとっての・・・最愛の家族

私の知っている『アキトさん』はいないけれど・・・この世界のアキトさんも・・・やっぱりアキトさんだった

自分が傷ついたとしても・・・・他人を護ろうとする・・・殆ど面識が無い人達ですら

『人間』としては合格かもしれないけれど・・・軍人には余りにも不向きなその優しさ

私にとっての過去で・・・アキトさんがああなってしまった原因の一つに・・・私もあったと思う

あのときのシャトル事故・・・・事故の日から私の頭の中にはずっと何かが引っかかっていた・・・

もしも・・・あの時すぐにアカツキさんやイネスさんと連絡をとり・・・全面的に私が協力していれば

もっと早くに・・・・アキトさんとユリカさんを・・・いや、A級ジャンパーの人たちの多くを救えていたかもしれない

そうすれば・・・アキトさんは闇に身を落とさなくてもよかったはず・・・・・

でも・・・所詮これはIF・・・もしもでしかないと思っていた・・・ユリカさんを助けた時からずっと・・・

でも・・・・今はそのIFの世界に来ている・・・アキトさんが闇に落ちる事は阻止できなかったけど

もう一度光に戻して・・・・そのままずっと光ですごしてもらう事はできるはず・・・・

その為にも・・・この戦いを終わらせないといけない・・・勿論・・・ナデシコクルー全員が揃っての終戦だ

戦争が終わったら・・・ラピスと一緒に軍の腐敗に関する情報を集めないといけない

身体能力では同年代の子に劣る私の最大の武器が・・・・情報なのだから

その情報を武器に・・アキトさん達だけでなく・・・皆を護ろう・・・私にできる範囲だけでも

それが・・・私に暖かさを教えてくれた『アキトさん』に対する・・・一番の恩返しになるはずだから









PM:1.28 ナデシコ 食堂 アカツキ・ナガレ



「やれやれ・・・よくあそこまで騒げるものだ・・・・・僕にはちょっと真似できないね・・」

目の前にいる人・・・ウリバタケ整備班長を見ながら僕はそう思う・・・

しかし・・・ほんとにナデシコクルーは凄いね・・・・決戦前だというのによくここまで明るくなれるものだ

まぁ・・・其処が逆にいいところだとも思う・・・・僕も見習うべきところは多い

『ピピッ』

おや?・・・・どうやら地球で仕事中のSSから連絡が来たようだ・・・・どれどれ・・・・

「ふっ・・・・やっぱりか・・・・このまま上手くいってくれれば・・・・」

「うん?どうした、何かあったのか?」

「いや、何でもないよ、ちょっと調べ事をしてもらってただけさ」

「そうか・・・・」

ふぅ・・・・ナデシコクルーは意外に鋭い・・・ちょっとの真実を混ぜないとそう簡単には引いてくれない

・・・・まぁ・・・引いてくれない原因が・・・お祭り好きと言うところがちょっといただけないけどね

それより・・・やっぱり・・・クリムゾンと軍の腐敗部分はほぼ直結しているか・・・・

クリムゾンも・・今はまだいいが、終戦後・・アキト君を手にいれる為には何をするかわかったもんじゃない

なら・・・・引き込むための人員を動かせないほど、競争を仕掛けてやればいい

副長達は軍の相手をしてくれるようだ・・・なら・・・ネルガルの会長としてクリムゾンの相手をするべきだろう

僕にとって始めての・・・そして唯一無二の親友である・・・『テンカワ・アキト』を護る為にも・・・

今まで以上に仕事は忙しくなるだろうが・・・・遣り甲斐は今までとは比べようが無いだろう

初めて・・・・自らの意思で『ネルガル会長』として戦う事を決めたのだから









PM:1.45 ナデシコ 食堂 ムネタケ・サダアキ



「はぁ・・・ここのクルーの行動力にはいつも驚かされてばかりね・・・・」

パーティ会場と言うより大宴会場と言うほうが正しい気がするこの状況を見て・・・つい言葉が出てしまった

「まっ・・・・悪くは無いんだけどね・・・・」

その思いは事実だ・・・軍人でも・・・決戦寸前だというのにここまで騒げる度胸を持っているやつは少ない

だからこそ・・・夢みてしまう・・・・あの絶望ともいえる戦力差を見事にひっくり返し・・全員無事で帰還できる事を

戦場では・・・強い弱いではなく・・・恐怖の感情に捕われた者から死んでいく・・・

度胸が無い物にいくら最強の武器を持たせても、その真価を発揮するまもなく死んでしまう

逆に・・・度胸があるものにそこそこの武器を持たせれば・・・性能以上の戦果を出す事が多い

もっとも・・・勇気と無謀さの違いが解っている奴にしか・・・性能以上の戦果は出せない

かつてはこのクルーは無謀さと勇気を勘違いしているものの集まりだったが・・・

今は違う・・・確実に勇気と言うものが何かを解っているだろう

「ふぅ・・・だからこそ・・・全てを賭けてみたくなるんだけどね・・・・」

・・・私は・・・この戦争が終われば軍を退役するつもりだ・・・ナデシコクルーの安全と引き換えに

私が軍を抜ければ・・・腐敗した連中は多くの秘密を持つ私を食い止めようと躍起になるだろう

そう・・・・ナデシコクルーを引き抜くことすら忘れて・・・・・・

私の命の保証は無いが・・・・それだけの価値をこのクルーは持っているだろう

このクルーが軍に巻き込まれず、民間人として生きられるのなら・・・完全な和平も夢ではない

だが・・・軍に巻き込まれるほど社会が腐りかけているのならば・・・和平など形だけになりかねない

軍人は軍人、民間人は民間人、この区切りをしっかりさせるためには・・・この命など安い物だろう

父は・・・多分わかってくれるだろう・・・・これが・・・軍人としての・・最善の選択だと

だからこそ・・・私はこの戦争を生き延びたい・・・この戦争の終わりをこの目で見たいから・・・・









PM:1.55 ナデシコ 食堂 イツキ・カザマ



「・・・・・・・はぁ・・・・・」

もう無礼講の大騒ぎになっている人達を見ながら・・・・私は溜息をつく

別に彼らが原因では無い・・・・私は・・・もっと別の事が気になっていた

それは・・・アキトのことだ・・・・

「アキト・・・・どうするのかなぁ・・・・」

ずっとこの事は気になっていた・・・でも・・ここまで気になるのは初めてだ

やっぱり・・・・最後の決戦だと言うことで・・・未来の事を気にする時間が増えてきたからだろう

アキトは・・・個人の戦闘能力なら・・・まさに地球最強だろう・・・

もともと最強の存在だったのが・・・よりいっそう強くなっている・・・木連のあの二人を外せば・・まともに戦える人なんていないだろう

だからこそ・・・怖い・・・アキトに一番似合わない・・・軍人にまたなってしまうのが・・・

今も・・軍人だけれど・・・あくまでナデシコクルーだと言う事が・・アキトを昔の『アキト』に近づけている

もし・・・再び軍人になったら・・・アキトは・・・また『死神』に戻るのだろう・・・

『白騎士』の名に隠された『死神』の存在・・・・多分・・・ムネタケ少将も私と同意見のはずだ

『死神』は・・・アキトにとっては害でしかないと

でも・・・私には自信が無い・・・アキトのフィアンセだったとしても・・・アキトを止められるだけの力があるとは思っていない

もしも・・・アキトが・・・軍人になるといったら・・・私はどうするのだろうか・・・・

アキトに直接聞いてみたいけど・・・怖い・・・その二つの感情がずっとループし続けていた・・・

「お姉ちゃん?」

「!?・・・・サツキ・・どうしたの?」

いけない・・・・ここまで接近されても気付いていないなんて・・・・考え事に集中しすぎていたみたい

「お姉ちゃん・・・やっぱりお兄ちゃんの事が気になってるんだね・・・・

・・・これもっていって、お兄ちゃんの部屋でゆっくりと話をした方がいいよ」

そう言ってサツキは・・・ワインを一本手渡してきた

確かに・・・・アキトに話をしようと思ったら・・・・アルコールが入ってないとできないだろう

「ありがと、サツキ。・・・・・・じゃあ・・・・いってくるね」

私がそう言うとサツキは満面の笑みを浮かべて・・・・リョーコ達のところに向かった

確か・・・アキトは自分の部屋にいたはずだ・・・・・



『カッカッカッカッカッ』

廊下を歩く音がやけに響いて聞こえる・・・そこまで私が緊張していると言うことだろう

「ふぅ〜〜〜〜」

アキトの部屋の目の前に着いた・・・・深呼吸で心を落ち着ける・・・・・・

『トントン』

さぁ・・・・私の勝負はここからが始まりだ・・・・・分は圧倒的に悪いけど、負けられない勝負

アキトと私の人生をかけるといってもいい勝負だ・・・・・絶対に負けられない

『プシュー』

「イツキ?どうしたんだ一体・・・・」

アキトの驚いたような顔が目の前にある・・・・私は精一杯の笑顔で言う

「ちょっとアキトと話がしたくてね・・・・飲み物も持ってきたわよ」









PM:2.15 ナデシコ アキトの部屋 テンカワ・アキト



今・・・グラスの準備をしながら思う・・・、イツキがここにきた理由は・・・俺に聞きたい事があるからだろうと

その聞きたい事も・・・俺には充分分かっている・・・だからこそ・・今は逃げるわけにはいかないだろう



・・・・いつの間にやらグラスにワインが注がれていた・・・ちょっと考え事に集中しすぎたようだ

「それじゃあ・・・・」

「「乾杯」」

キィン

二つのグラスが僅かにぶつかり、どこか心地よい音を立てた

イツキは・・・半分くらいワインを飲むと、グラスをテーブルに置いた、俺もそれと共にテーブルにグラスを置く

「こうやって二人になるの・・・久しぶりだね・・・・」

「そう・・・だな・・・ここ最近ずっと忙しかったからな・・・・」

本当に・・・ここ最近は忙しかった、俺は昴氣の扱い方をマスターしていくのに必死で

イツキはイツキでアルテミスの性能を限界まで引き出そうと訓練に明け暮れていた

こうやって二人っきりではなすことは愚か・・・顔をあわせることも滅多に無かった気がする・・・

「アキトは・・・どうするの・・・この戦争が終わったら・・・・」

イツキのグラスからワインが僅かに減っている・・・・戦争が終わった後か・・・・

「そうだな・・・・・このまま軍に残るのもいいかもしれないが・・・・・」

軍に残る・・・そうすれば・・少なくともナデシコクルーは戦後も色々な形で守れるはずだ・・・だが・・・

「アキトは・・・本当にそれでいいの?・・・・軍人にまたなりたいの?」

イツキが・・どこか恐れを含んだ声でいってくる・・・・よく見るとグラスからワインがなくなっている

イツキにとっては・・・其処まで度胸がいると言うことなんだろう・・・・

俺は・・・イツキのグラスにワインを注ぎながら言う

「イツキ・・・最後まで話を聞いてくれ・・・・俺はあくまで選択の一つに軍人があると考えているだけだ

それに・・・俺ももう軍人である事には疲れてきてるからな・・・・もうなることは無いと思う」

俺の言葉を聞き・・・僅かにイツキの恐れがなくなったみたいだ・・・・

俺自身・・・もう軍人である事には疲れてきた・・・民間人を守ると言うことは・・誇りだろう・・だが

今の軍部はあまりにも腐りきっている・・・火星会戦の時も・・火星軌道上の会戦で敗れた時点で民間人保護を開始するべきだった

だが・・・多くの軍人は会戦に負けた後・・・民間人保護なんて考えずに・・・直ぐに月方面軍との合流を決断していた

民間人保護の為に残ったのは・・・西欧軍、グラシス中将直属の中隊と・・・ミスマル中将直属の大隊

そして・・・火星方面軍のフクベ中将、ムネタケ大佐直属の部隊・・・そして・・司令官に逆らって残った部隊だけだった

あの時ほど・・・軍に嫌気がさした事は無い・・・だから・・俺は地球にジャンプした後・・・軍を抜けたのだ

抜けた理由の一つに・・・イツキが既に軍から抜けたと言うことを知ったと言うこともあった

戦友を見捨てるのは後味が悪かったが・・・あのときの俺は軍で戦う理由を失っていた・・・いや、見失っていた

「じゃあ・・・アキトはこれからどうするの・・・?」

「そうだな・・・・また・・・コックを目指してみようと思う」

これは・・・俺の偽らざる気持ちだろう、俺にとって戦う理由はただ一つ・・『大切な者のために』

その戦いの舞台は・・・何も軍でなくてもいいと言うことをこのナデシコで学んできた

コックと言うのも、ふと思いついていったわけではない・・・サイゾウさんの所で働いていたころから考えていた事だ

・・・サイゾウさんの口癖のように言っていた事が・・・今ならよくわかる

『男にはな・・・どんな事があったとしても、大切な人を守り通せるだけの覚悟が必要だ

守るっていっても体だけじゃあねぇ、心も守ってやるんだ

それができれば・・・一人前の男だ、それまではどんなに立派になってもしょせん半人前だ

男としても・・・コックとしてもな』

俺は・・・イツキの心まで守ってやれなかっただろう・・・むしろ・・・イツキの心を傷つけてきたはずだ

それがコックにどんな関係があるのかよくわからなかったが・・・今はわかる

料理は、お客さんの『心』を癒す事ができる、それは・・・『守る』事とほぼ同意になるはずだ

大切な人すら守れないようでは・・・お客さんの心を『癒す』事なんてできないだろう・・・

だから・・・俺はコックになりたい・・・大切な人の心を守り、お客さんの心を癒せるコックに

「・・・・イツキ?」

妙に静かなのが気になってイツキの様子を見る・・・イツキは眠っていた・・・どこか安心した顔で

「やれやれ・・・」

俺はそう言いながらイツキを抱っこし、イツキの部屋に連れて行くために部屋から出る、片付けはあとでいいだろう

「酒に弱いのに・・・・・無茶するなよ・・・・」

だが・・・無茶させたのは俺だ・・・・それだけに余計に自分が情けなくなる

「アキト・・・・」

イツキのかすかな寝言・・・俺の事を眠っていても考えてくれている・・・それだけで俺の心が満たされるのがわかる

「イツキ・・・必ず・・・守ってやるからな・・・」

この言葉は・・・俺にとって・・決して破る事は無い決意の表れだ

この身砕け散ろうとも・・・と言うつもりは無い・・・俺はイツキを守り・・必ず生きて返ってやる

明日の戦いは・・・今までで一番大きく・・・不利な戦いとなるだろう

だが・・・俺は必ず生きて帰る・・・イツキと・・ナデシコの皆と共に

そう・・・・絶望の後に残される・・・大いなる希望を皆で手に入れるためにも・・・・・・

























後書き

最終決戦前日 〜昼〜  いかがだったでしょうか?

朝に比べると物足りないかもしれませんが・・・・ご容赦ください

次回・・・夜編は・・・草壁、北辰、舞歌、龍斗の四人の心情を描く予定です

もしかすると・・・北斗達が入るかも知れませんが・・・・とりあえず上記四人を中心にしてお届けします

次回の話が終わるとついに最終決戦開幕です・・・・決戦前日最後の思い・・・私の持ちうる力全てをかけて描きたいと思います

では・・・最終決戦前日〜夜〜にてお会いしましょう



もしかすると・・・投稿予定の○姫クロス作品の予告編を先に書くかもしれませんけど(核爆)

 

 

代理人の感想

ん〜。特に言うこともありませんか。

お約束ですしね。