火星 遺跡近辺空域





「ナデシコゼロ、後退します!!」



「ナデシコ前進!!ゼロが撤退するまで囮になります!

 ルリちゃん、ラピスちゃん、無人兵器部隊の出撃急いで!!

 メグミさん、全艦隊に第二作戦開始の合図をお願いします!!」






アキト達が突入してまもなく、ユリカは迅速な指揮をもって艦隊を再編成していく



最初の陣形はあくまでナデシコゼロの主砲を活かすための陣形でしかなく

いざ守護者の無人兵器部隊と交戦するには危険すぎる陣形なのだ



そこでユリカは・・・最大の防壁・・・最高出力のディストーションフィールドをもち

なおかつ、後方待機にしたコスモスよりも機動性に優れたナデシコを前面に一時的に押し出すことで

主砲発射のためフィールド出力が下がっているゼロを保護する作戦に出た

その上で全艦隊の機動兵器部隊を同時に出撃させ、即座に決戦態勢へと移行させる

もちろん、ナデシコの守備も忘れてはいない

ナデシコゼロのオペレーターとして移動したマキビ・ハリとナデシコに残ったラピス・ラズリ

さらに、メインオペレーターであるホシノ・ルリ・・・人類最高のマシンチャイルドが揃っている利点を活かし

木連で改良されたバッタ、並びにバッタを寄生させるような形で準備したエステバリスを利用し

ナデシコ、並びにナデシコゼロの守備に当たらせているのだ


流石にナデシコエステ隊ほどの戦力はないが・・・・



元より指揮官の艦として、また、後方からの強大な砲台役を担当する予定だったナデシコとナデシコゼロにはそれで充分だった


ユリカ率いる連合艦隊、並びに草壁率いる木連艦隊と守護者の無人機動兵器部隊が本格的に交戦を開始したころ



一番最初に睨みあいを始めた悟刻率いる舞歌親衛隊・影とサツキ・カザマの合同部隊とポーン達との交戦も始まった・・・・












機動戦艦ナデシコif
『新たなる刻の歌』
第二十一話 『使命』と『誓い』







「さぁ・・・・始めようか!!」

そんな掛け声と共に、羅刹の乗る格闘戦に特化した機体、夜天光・焔がポーン部隊に殴りかかる

「まったく・・・・少し焦りすぎよ!!」

それに呼応するかのように、闇龍の乗る射撃戦に特化した機体、夜天光・氷雨がポーン部隊を拡散させる形で攻撃を開始する

「サツキ殿は二体ほど相手を願います、我々で残り六体を相手にします」

悟刻がサツキに通信を入れつつ、高速戦闘に特化した機体である夜天光・光矢で更なるかく乱行動に移り

「わかりました、任せてください」

『これくらいなら僕達だけで4体まで相手にできる自信があるからね』

『ブロス、あんまり調子にのらないの』

サツキがその言葉に応じるように二機のイトシャジンと交戦に入り

ブロスとディアが操るフェザーにより、その二機を引っ張るような形で少しずつ悟刻達からはなれていく





「皆・・・作戦通りに行くぞ!!」

サツキが離れた事を確認した悟刻が全員に通信を入れる

「応」

それに全員が応え、焔に乗る羅刹、修羅を先陣とし、中陣に光矢に乗る刹那と悟刻、後陣に氷雨に乗る闇龍と光龍が移動する


それに呼応するかのように、ポーン達もそれぞれが武器を変更し、同様な陣形をとり始める



先陣の二機のイトシャジンは手の部分にグローブのような装甲を

中陣の二機のイトシャジンはやや短めの西洋剣のような形をした武器を

後陣の二機のイトシャジンは、ライフルの形をした武器をそれぞれ構えた



「兄さん・・・先手は貰いますよ!!」

修羅がそういいつつ先陣のイトシャジンに格闘戦を仕掛け

「・・・先手は譲ったけど第一撃墜者は譲らないぜ!!」

それにやや遅れる形で羅刹がもう一機のイトシャジンに攻撃を仕掛ける

「さてと・・・射撃に徹するのは久しぶりね・・・腕は鈍ってないかな!!」

「何を言ってるんですか姉さん・・・・ずっと射撃訓練ばっかりしてたでしょ?」

「そうはいっても実戦と訓練とはまったく別よ」

どこかずれ気味の会話をしつつ、闇龍と光龍が格闘戦をしている二人に近づけないように

また後方の機体を狙撃するように交互に射撃する相手を変えつつ援護していた


「作戦通りですね・・・・隊長」

「・・・・いや・・・まだ作戦が完遂されてはいない・・・油断するな」

「・・・・はい・・・では・・・行きますか?」

「・・・・あぁ・・・いくぞ!!」

中陣から先陣の戦闘状況を傍観する体制であった刹那と悟刻は、互いに声をかけあい終わると共に


夜天光・光矢の最大速度をもって先陣のイトシャジンの横腹に移動し、その錫杖で攻撃する

その攻撃はまさに一撃必殺・・・防ぎようがないはず・・・であった・・・



『ガキィィィィィン・・・・』



「なっ!?」

「・・・ここまで早いとは・・・・読み違えたか・・・」

刹那達が自分達側に少しずつひきつけ、その上で闇龍達が敵を少しだけ引き離す・・・

そうする事によって僅かに生じる距離の差、その距離の差が・・・光矢の力をもってすれば必殺の好機に変えられる筈であったが

『キャリキャリキャリ・・・・キィィィン!!』


「くっ!?」

「・・・力も上手か・・・!!」

中陣に控えていた西洋剣をもったイトシャジンにより、その攻撃は完全に防がれてしまった・・・・

また・・・刹那達も苦しい戦いを強いられていた



『ガシャン!ガシャン・・グワァシャァアン!!』


「くぅぅぅ!!」

「兄さん!?・・・うわぁ!!」

『グワシャァァァン!!』

最初の方こそ、羅刹と修羅の独壇場であったが・・・

少しずつ形勢は相手側に傾き始め・・・ついには劣勢になりつつあった

「ちっ・・・相手の方が反応速度、攻撃の重さ・・・両方上手かよ・・・」

「正直苦しいね・・・・でも・・・負けるわけには・・!!」

刹那達の近くから吹き飛ばされる形で距離を開く事になった羅刹と修羅は

つい先ほどまでの攻撃態勢をやめ、防御に徹し、ひたすら好機をうかがっていた・・・


射撃戦という事もあってか、闇龍達は特に戦況が悪化はしてはいなかったが・・・・

1対2で戦闘を行っているサツキは・・・じわじわと押されつつあった





『ズガァァン!!』

「きゃぁあ!!」

『ブロス!!損傷の確認急いで!!』

『特に目立った損傷はないけど・・・蓄積しすぎるとあぶないよ!!』


サツキが相手にしているイトシャジンは、数回の攻撃でブローディアのフィールドを打ち破るのは難しいと悟ったのか

小型の手榴弾のようなものを急速に接近しては投げつけ、ダメージを蓄積させる戦法を取り続けていた・・・


しかし・・・サツキとてただ黙っているわけではない

敵が近づくたびにDFSで、離れたらフェザーやラピッドライフルで攻撃を仕掛けているが

一機が狙われたらもう一機が攻撃を僅かにそらす・・・それで攻撃を避け続けているのだ

互いに少しずつのダメージの蓄積・・・しかし・・サツキの方が不利なのは誰の眼にも明らかだった


「・・・・・ごめん・・・二人とも・・・つきあって貰うよ・・・?」

少しずつ蓄積されていくダメージをみて・・・サツキは何かを決意したようにブロスとディアに話しかける

『・・・・いいよ、やられっぱなしじゃ嫌だもんね!!』

『聞くまでもないよ、私達はサツキ姉ちゃんのサポートだもん』

どこかかるめの口調で、・・しかし真剣なまなざしでブロスとディアもそれに答える


「・・・うん・・・じゃあ・・・いくよ・・・・!!」

サツキがそう言うと共に離れていたイトシャジンが再び接近を図ってくる


「・・・たぁああ!!」

『バシィン・・・』

つい先ほどまでのようにDFSを振るうも・・・それはもう一機のイトシャジンに防がれる・・・しかし


「・・・いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」



『ゴォォォォォ・・・グワシャァァァァン!!』



それは・・・今までの敵の行動に慣れたイトシャジンには正しく意外な行動だっただろう

DFSを受け流し、ちょうど真正面に移動する形になったイトシャジンに・・・・

ブローディアが、一気に加速をし、タックルをしたのだ

イトシャジンに与える損害も大きいかもしれないが・・・それ以上にブローディアの危険性の方が高いだろう

ただでさえ爆撃で体勢を崩され、その状態から半ば強引にDFSを振るっている状態から

さらに攻撃を流されることによって崩されているというのに・・・タックルを行う


どれほど機体に負荷がかかるのか・・・それは一対一ならともかく、複数の敵との交戦中では無謀な行為だっただろう・・・


しかし・・・・相手が人間以下の判断力だと言うのが功を制した

戦闘方法などは人間以下どころか、下手なパイロットよりもはるかに上だったが

予想だにしない・・・自身を危険に追い込むような無謀な行動は自分達が行わないせいなのか

そういった行動を取った相手に対して、即座に臨機応変には動けないようだった・・・・

それが・・・サツキにとって絶好の好機となった


「絶対に・・・お姉ちゃん達と一緒に・・・

地球に帰るんだからぁぁぁぁ!!!」

『ギュオン・・・ザシュゥゥン!!』



半ば雄叫びのようなその掛け声と共に、タックルによって体勢を崩したイトシャジンをDFSで突き刺す


『バチ・・・バチバチ・・・ドッゴーーン』

「くぅぅぅぅ・・・・!!」

『ブロス!!いまよ!!』

『わかってる・・・フェザー!!』



DFSで突き刺したイトシャジンの爆発を至近距離で受け、その衝撃にサツキが耐えている間にブロス達は

あまりの状況の急変に追いつけなかったのか、佇んでいるもう一機のイトシャジンに対しフェザーで攻撃を行う



「・・・くっ・・・・敵は・・・?」

衝撃が収まりしばらくした後、落ち着いたのかサツキが話しかける

『ちゃんと始末したよ、このまま援軍に向かいたいけど・・・』

『ちょっとオーバーヒート寸前だから・・・下手に動かない方がいいね』


「そっか・・・・少し・・・やすもっか・・・」

サツキはそう言いながら、パイロットシートに深く身を預けた

その顔には疲労の色が濃く見えたが・・・それ以上に・・・達成感と安堵の色が色濃く映っていた





サツキが二体のイトシャジンを破壊してまもなく・・・悟刻達も優勢に事を運びつつあった

「なるほど・・・相手の予想範囲外の行動をとれば僅かに反応が遅れるか・・・」

「しかし・・・決定打には今一つ欠けますが・・・どうします?」

刹那と悟刻は格闘戦に対応した装備をつけているイトシャジンと戦闘を行いながら通信をしていた


悟刻達が相手にしているイトシャジン達は、焔に先陣、光矢に中陣、氷雨に後陣の機体で戦闘を行う事を前提としているようで

焔が後陣、氷雨が中陣、光矢が先陣を相手にした場合、反応が若干遅れつつあった


しかし、それを活かし、決定打にするには・・・焔にも、光矢にも、氷雨にも不可能であった

サツキの乗るブローディアとは違い、決定的戦力と言うものが不足しているのだ

DFSも量産されたとはいえそう多くは作られてはおらず

その全てをナイトランクと闘うナデシコ隊、並びに優華部隊と秋山源八郎と白鳥九十九に渡されたため

悟刻達の武装は、確実に敵を葬るには火力が乏しいのだ



戦況は膠着状態に入り・・・悟刻は決定打を得るための方法を考え始めた



「(戦況は五分・・・・決定的に異なる何かが我らの勝利の要因だろう・・・

 しかし・・・それが一体どこにある・・・・・

 戦術ではこちらが若干上手ではあるが・・・機体性能差でそれは埋められる

 疲労は・・・我らにとっての不利でしかない・・・・

 そもそも・・・・何が違うと言うのだ・・・こやつらと我らは

 『守るべきもの』のために敵を殺す、そのためには命を惜しまぬ・・・

 我らの戦に出る際の心得はそれだが・・・一体やつらと何が違う

 確かに作られた存在ではあるが・・・我らと同じではないか・・・!!)」

「隊長!!危ない!!」


「ぬっ・・・・なっ!?」

思考に没頭し過ぎたせいか、先陣を受け持っていたイトシャジンの接近を許してしまい、その攻撃を必死に防ごうとするが・・・


『グワシャァァァア』


その攻撃は・・・刹那の乗る夜天光によって防がれた・・・その身を挺する事で


攻撃はコックピット付近・・・幸いにも貫通も陥没もしていなかったが


光矢はやや装甲を薄めにする事でその速度を得ている・・・コックピットに伝わる衝撃はかなりのものだろう

その反動で頭をぶつけ、気絶する・・・ほぼ確実にそうなるはずであったが・・



『ギッ・・・・ガシャリィ!!』


悟刻の盾となった刹那の夜天光が動き、その両腕で攻撃して来たイトシャジンの腕を掴む


「はぁ・・・はぁ・・・隊長・・・今のうちに・・・!!」

「なっ!?」

刹那からの通信を見た瞬間・・・悟刻は息を呑んだ


頭を強くぶつけたのだろう・・・出血により額は赤く染まり、片方の目にその血が流れ

片目だけ開いた状態で・・・荒く息をしながらも、刹那はイトシャジンの腕を掴んでいたのだ

「隊長・・・急いでください・・・そう長くはもちません・・・・

 何としても・・こやつらを倒し・・・舞歌様の元に戻らねばならないのです・・・

 私の事は気にせずに・・・・早く!!」


刹那は、悟刻が自分の傷を気遣っている事に気付いたのだろう

必死の形相で、イトシャジンを討つ事を再度要請した・・・


悟刻も・・・その言葉を聞き、何かを察したかのように錫杖を構える


「・・・・覚悟!!」



戦況を見て即座に闇龍が援護射撃をし、もう一体のイトシャジンを引き離す

そして・・・その引き離した僅かな瞬間に悟刻の夜天光は刹那が掴んでいるイトシャジンの側部に回り込み



『ザシュゥゥウ!!・・・・ブォォンン』



その錫杖で貫きその錫杖ごと、羅刹達が相手にしていたイトシャジンに向かって放り投げる


「刹那・・・借りるぞ」

悟刻はそう言うと刹那の夜天光から錫杖を取り、放り投げたイトシャジンのやや後方に待機するかのような形で加速する


『ガガガガガ・・・・ドッゴーン!!・・・ザシュウ!』


羅刹達が相手にしていた後陣にいたイトシャジンは、即座に羅刹達から距離を取り飛んできたイトシャジンを迎撃したが・・・


そのイトシャジンの軌道の直線上に位置する事になった一機に・・・悟刻の乗る夜天光が錫杖を突き刺していた


「悪く思うな・・・我らには帰る場所があるのでな・・・いかなる手段を使ってでも勝たせてもらわねばならんのだ」



悟刻はそう言うと共にもう一機の後方に控えていたイトシャジンに向かって再び錫杖ごと投げつける


流石に相手も学習能力はあるのだろう、そのイトシャジンを完全に回避出来る位置まで移動し・・・


『ズドン!!・・・・ドガーン!!』



「・・・私達がいるって事・・・忘れてませんでしたか?」


悟刻の行動から次の行動を予測した羅刹と修羅により、相手がいなくなり、手があく形になった光龍の一撃で葬られた


敵を葬った後、光龍は即座に刹那の乗る夜天光付近に移動、近づこうとするイトシャジンを悟刻や羅刹、修羅が来るまで引き離す係を担当し

闇龍は即座に刹那の夜天光・光矢のコックピットを開き治療を開始

悟刻は遊撃の形を取りながら光龍、刹那、修羅の援護をして回っていた


刹那、闇龍の両方を守りながらの戦いではあったが・・・悟刻達の優勢に動いていた



時間がたつにつれ・・・悟刻のフェイクに引っかかり羅刹に先陣の一機、クロスカウンターの形で修羅が先陣のもう一機を葬り

最後の一機は・・・治療を終えた闇龍、光龍姉妹の射撃による包囲陣でその速度をころされ

悟刻に背後、羅刹に前方、修羅に上方からほぼ同時に襲い掛かられ、あえなく撃墜された・・・・



「刹那!!無事か!!」

戦闘を終え、羅刹と光龍をサツキと合流させるために送った後、悟刻は夜天光から降り、刹那の容態を見ていた

「大丈夫です・・・・致命傷ではありませんよ・・・少々深く切っただけですから」

刹那は、僅かに苦笑しながら悟刻の言葉にこたえた


「隊長・・・これからどうしますか?」

闇龍が悟刻に問う、ポーンを殲滅した以上この場に留まる必要性はなく

ナイトと闘っているアカツキ達の援軍に向かうか・・・・・

それとも背後から少数による撹乱奇襲でユリカ達の援護をするか・・・

そのどちらかに次の行動は分けられるだろう・・・・


「・・・そうだな・・・・しばらくは待機をしよう

 我らの機体も損傷は激しい・・・迂闊に動けばやられるだけだろう

 サツキ殿と合流後、再度戦力を整えなおしてから舞歌様の援護に向かおう」


闇龍は悟刻の言葉に頷くと共に、即座に自分の機体へと戻った・・・機体の損傷を確認し、応急手当をするために



悟刻は、その光景を見て僅かに苦笑した後・・・空を仰いだ


「(・・・我らとやつらとの決定的な違いは・・・・

 刹那の言うように・・・我ら自身の意志で定めた帰るべき場所があるという事なのだろうな

 それにすら気付けぬとは・・・まだまだ精進がたりんな・・・・)」


悟刻は、思考を中断すると共に自分の夜天光と、刹那の夜天光のチェックを始めた・・・



自らが誓った帰るべき場所に・・・必ず生きて帰る為に・・・・・







































あとがき(というよりなかがき)

最終戦第一幕・・・VSイトシャジン戦、いかがだったでしょうか?

次回はVSシュロ、並びにアフェランドラ戦になります

そろそろ身の回りも慌しくなってくるので更新が遅れるかもしれませんが・・・

六月後半には最低でも更新する予定です

では・・次回、ナイトランク戦でお会いしましょう

 

 

 

 

 

 

代理人の感想

んー。

クライマックス、刹那が敵の動きを止めたあたりで一寸。

「私ごとこいつを貫いてください!」ならともかく、腕を掴んで動きを止めたくらいで攻撃戸惑っちゃいかんよな、とw