火星の守護者から宣戦布告があってまもなく

木連と地球は正式に停戦協定を結び、共に守護者に当たることとなった

そして・・・火星の守護者に対して最大の戦力になるだろうと予測されているナデシコとシャクヤクは

共に相手になるほどの訓練相手がそういない事、また、両方の戦艦のAIを使用することで

より現実味のあるシミュレーション訓練ができると言うことから、同じドックに停泊させることとなった

それから約三ヶ月の月日が流れた・・・・・・







機動戦艦ナデシコif
『新たなる刻の歌』
サイドストーリー3 『現在』と『歴史』と





シャクヤク内、黒河龍斗の部屋

そこでは・・・木連軍最強の戦士、黒河龍斗が一人、読書に励んでいた

『コンコン』

「鍵は開いている、用事があるのなら入って来い」

龍斗はノックの音を聞き、本を読んだままノックした人物に入室を促した

『プシュー』

「失礼します」

「お前か・・・・今日は昴氣の訓練は無かったはずだが」

龍斗は部屋に入ってきた人物を一瞥すると本を閉じ、本棚にしまう

やってきた人物、連合軍最強の戦士、テンカワ・アキトは僅かに苦笑すると顔を引き締める

この二人は、同じドックに停泊してから毎日の様に顔をあわせている

その理由は・・・龍斗が言ったとおり昴氣の訓練にある

龍斗は昴氣の扱いに関しては北斗を大きく上回っている

龍斗は・・・昴氣だけで槍、剣、盾といった形に変換する事ができるのだ

北斗ですら、何らかの触媒が無ければその形に昴氣を収束させる事はできない

龍斗は・・・何の触媒も用いずにそれらの形に昴氣を収束させているのだ

その事もあり、まだ目覚めたばかりであるアキトに龍斗が訓練をしていたのだ

「いえ・・・・今日は別の件です・・・・しかし・・・・本が多いんですね」

アキトは軽く龍斗の部屋を見渡しながら行った、龍斗の部屋は半分以上を本棚が占めているのだ

「ああ・・・木連にある歴史書に、古代の地球で使われた兵法書ばかりだがな

色々と学ぶところは多い、それに・・・読書は俺の趣味だ」

「それは・・・・自分の過去を失った事の反動では無いんですか?」

「ふっ・・・・・そうかもしれんな・・・」

アキトの言葉に、龍斗はかすかに笑った・・・それは・・・どこか自虐的な笑みだった

「・・・・実は・・・貴方に伝えなければいけない事があります・・・それは・・・」

「俺の過去の歴史・・・テンカワ・アキトと呼ばれていたころの事についてか?」

アキトの言葉を遮った龍斗の言葉に、アキトは驚愕した

「この間の戦闘で思い出したんでな・・・・・わざわざ言ってもらうまでのことではない」

龍斗は・・・どこか余裕に充ちた笑みを浮かべてアキトに話し掛けた

「そうですか・・・・・貴方は・・・テンカワ・アキトとして生きようとは・・・思わないんですか」

「思わんな、過去がどうであろうが俺は舞歌に命を助けられ、千沙に黒龍の異名を貰い

北斗と会った事で昴氣に目覚め、シャクヤクのこの部屋にいる黒河龍斗に他ならん

今更テンカワ・アキトとして生きようとは思わん、むしろそんなことを言われても迷惑なだけだ

過去にテンカワ・アキトと呼ばれていようが今の俺は木連軍の黒河龍斗でしかないからな」

アキトの・・どこか怯えが入った声に、龍斗は間髪いれずに返した

「・・・・・・わかりました」

「テンカワ・アキト・・・・過去にそう呼ばれていた者として忠告しておこう

何があろうと・・・大切な物を見失うな、見失えば・・・待っているのは破滅と絶望だけだぞ

そして・・・自分の闇を消そうとはするな、闇も自分の一部だ

闇を認め、光により闇を操れ、そうでなければ・・・何時の日か・・・大切な物を自分の手で失うぞ

かつて・・・・闇の王子と呼ばれていた男のようにな・・・・・」

龍斗の言葉は・・アキトの心に深く浸透した・・・・

自らの経験だからこそ、また、自分も同じような立場だからこそ、その言葉は・・・深い意味をもっていた

『コンコン』

「黒河、いるか?」

「北辰か・・・入って来い」

『プシュー』

ドアが開くと共に、北辰が部屋の中に入ってきた

「むっ、先客がおったか」

「いえ・・・・俺はもう帰ります、失礼しました」

アキトはそう言うと軽く頭を下げ、龍斗の部屋から出て行った

「・・・どうした、北辰」

アキトが出て行ったのを呆然と眺めていた北辰に龍斗が話し掛ける

「おお・・・・・忘れるところであった・・・お前に頼まれていた白鳥、月臣、秋山、高杉の現在の状況だ」

北辰はそう言うと手にもっていた紙を手渡した

「ふむ・・・・まぁ・・・・こんな物か、しかし・・四人がかりでもお前に勝てないのか

悟刻達に徹底的にしごかせるか」

龍斗はそのデータを見るとそう言った

「ふっ・・・・黒河・・・・礼を言わせて貰うぞ」

北辰のいきなりの言葉に龍斗は頭を軽くかしげた

「先日・・・北斗と話をした・・・・北斗と枝織が壊れずにすんだのはそなたのおかげだ

この北辰・・・・・・一人の親として・・・・礼を言わせて貰う」

そう言うと北辰は頭を深く下げた

「・・・・北斗達が壊れなかったのは自分たちの強さだ、俺が何かやったわけではない

北辰・・・・二度と北斗達を悲しませる事だけはするな、本当に・・・外道である事を止めたのならな

かつて・・・木連で最高の武人と呼ばれていたお前なら・・・・悲しませる事は無いはずだがな」

「ふっ・・・・わかっておるわ、もはや・・・闇に逃げようなどとは思わぬ

・・・妻が望んでいた物のためにも・・・・最後まで戦い抜いてくれる

しかし・・・我としてはそなたと北斗がともに歩むようになってくれれば安心なのだがな」

北辰はそう言うと部屋から去っていった、残される形になった龍斗は少し不満げな顔をしていた

・・・北辰に一方的にいわれたまま去られたのがシャクに触ったようだ

その後・・・龍斗は憂さ晴らしなのかどうかはしらないが九十九達をしごいていたらしい





それから約二時間後・・・定例となりつつあるシミュレーションバトルが開始されようとしていた

シミュレーションバトルの仕方は、まずヤマトとオモイカネをリンクさせ、それぞれにステージ情報を伝える

その後、パイロット達は各々の機体のデータが入っているシミュレーションマシンに乗り込んでいく

そして・・・シミュレーション状況をブリッジにウィンドウにも映し、ブリッジからの指示が可能にしているのだ


ナデシコ陣営側シミュレーションマシンアレスプログラム内蔵型

その中では待機態勢であるアキトが、一人考え事をしていた

「(闇を認め、光により闇を操れ・・・・か

今の俺には・・・・まだ無理なんだろうな・・・・あの人・・黒河龍斗は・・間違いなく強い

肉体の強さだけじゃあない・・・心も・・・俺なんかとは比較にならないほど強い

でも・・・俺だって譲れない物があるんだ、守りたい・・・人がいる

その為なら・・・彼を超えてみせる!!)」

アキトは、自らの心の中で新たなる決意をし、出撃体勢に移った

「テンカワ・アキト、アレスででる!!」

その言葉と共に・・・アレスが電脳世界の宇宙に飛んでいった


シャクヤク陣営側、黒河龍斗専用シミュレーションマシン

「データ約85パーセントまで読み込み終了・・・残り時間は約三分か」

龍斗は・・・今回から使う新型のデータを自分のマシンに読み込ませている最中だった

無論・・・戦闘は始まっている、龍斗がいないことでシャクヤク側が押されている状況だ

そんな中・・・龍斗もまた、考え事をしていた

「(もう一人のテンカワ・アキト・・・俺から見れば並行世界の自分か・・・・

もはや・・・アキトの名に後悔も未練も無い、だが・・・この世界の俺にまでこれ以上悲劇を背負わせる必要は無い

今は状況は違うが・・・あの守護者どもを殲滅しなければ・・・結局はあれ以上の悲劇になるか

テンカワ・アキトよ・・・強くなれ・・・俺を踏み台にできるほどに・・・・強くなってくれ

お前にとって大切な者達のためにも・・・そして・・・何よりおまえ自身の為に

ふっ・・・俺にしては甘い考えか・・・まぁ・・・俺の干渉無しで自立してもらえるだけの力は見につけてもらわんとな

そうでなければ・・・俺が完全に黒河龍斗として生きる事ができんかも知れんからな)」

『機体データのロードが完了しました、機体名の登録をしてください』

龍斗は、機械の報告により思考の海から抜け出した

「機体名は・・・・・デージーだ」

デージー・・・その花言葉は・・無意識、純潔、平和そして・・・希望

「テンカワ・アキトよ・・見事この俺の希望となり、俺に平和をもたらしてみせろ

この俺が・・・・黒河龍斗として生きられると言う平和をな・・・・・・

黒河龍斗、デージー・・・・出るぞ!!」

龍斗の叫びと共に、漆黒に彩られたロストテクノロジーの塊である機動兵器が飛び出していった



今、この世界に生きるテンカワ・アキト、平行世界より迷い込み、新たな名、そして新たな命を得た黒河龍斗

二人には・・・微かにわかっていた・・・自分達の根本が・・・未だに共通されていると言う事が・・・

どちらかの存在が完全にこの世界に認められたとき・・・もう片方が消えてなくなると言う可能性を・・・

だからこそ・・・二人は考えていた・・・共に・・この時空で生きていく手段について

龍斗は・・・その手段として・・完全に個別の存在として生きていこうと考えていた

しかし・・・未だに根本は変わってはいない・・・一つの時空に、同じ存在が共に生きていく事はできない

どちらかが消えるか・・・共に消滅するかのどちらかしか・・・手段は無い

だが・・・二人は諦めてはいない・・・大切な人達の為にも・・・・共に生きる手段を模索し続ける

火星の守護者との決戦・・・これが一つの区切りになる事も、二人は本能的にわかっていた

だからこそ・・・二人は戦い、鍛錬を続ける・・大切な人たちと共に・・・運命を切り開く為に

この二人の思案は・・・・火星の守護者との決戦後・・・一つの答えが提示される事となる

その答えが・・・光か闇か・・・だれも知らない、誰も知ることはできない

そして・・・その答えが提示された時・・・新たなる刻は本当に動き出すのだ

今は・・・ただ・・・ゆっくりと・・・・古き刻が・・・・新たな刻へと・・・流れ続けている





















後書き

少々短めになりましたが・・・どうだったでしょうか

ええ・・・この作品も残すところ後わずかとなりました

その事もあり、しばらくは新たなる刻の歌一本で行こうと思います

他の作品群はこれが連載終了するまでは更新できないと思います

他の作品を楽しみにしていただいてる方には申し訳ありませんが・・・ご了承をお願いします

今回の作品は・・アキトと龍斗の一つの決意を書きたかったのですが・・・失敗したかもしれません

次回は・・一つの繋ぎです、その後・・・最終戦へと持っていく予定であります

新たなる刻の歌終盤編・・・・どうか最後までお付き合いください

 

 

代理人の感想

ん〜。書きたいことは判るんですけど、ちょっと良くありすぎるパターンな上、

強引に進められる程の筆力がないのでややキツイかなと。

なんせシラフで聞いたら赤面するような台詞回しですもんで(爆)。