テンカワ・アキトは時間軸上から外れ、過去へと戻るのだった。
しかし、彼がたどる軌跡は決して幸福ではない。
彼はそれを自覚して生きている。
ー今、女となって過去に戻るのだった。
第1話「彼が彼女になる時に」
・・・・・・ごぉっ。
「・・・!アイちゃん、しっかりつかまってて!」
「きゃっ!」
二人は機動兵器の目の前に出てきた。
「なんだよ出向前のナデシコに来るんじゃなかったのかよ!」
「・・・ごめんお姉ちゃん。細かい調整ができなかったの」
「・・・しょうがない、こいつらを・・・って!?」
ぐぉっ。
すると一機のエステバリスが近くを通ろうとするのが見えた。
不意に突っ込んできたエステバリスを回避し、機動兵器を破壊していく姿をはっきりと捉えた。
「!?あれは・・・そしてここは・・・過去に俺が囮になった時・・・だが、あんな正確な動きは俺には出来なかったはずだ!」
「・・・」
エステバリスは殲滅とまではいかないが、それでも昔戦ってたアキトとは比べ物にならないスムーズな動きで敵を誘導していった。
(なんだ!?紅い・・・サレナ!?)
戦っていたテンカワ・アキトが思う。
彼もまた、時を逆行して来たものである。
そして、戦艦に居たルリにもその姿は衝撃的だった。
二人には理解しがたいものだった。
結局、グラビティブラストが炸裂し、ナデシコは初戦闘を見事に勝利したのだった。
その時、二人のテンカワ・アキトが対峙する事となる。
『そこの紅い機体に告ぐ・・・何者だ・・・』
「俺はテ・・・」
「お姉ちゃん!」
「テ、テンリョウ。テンリョウ・アキコだ。この子はテンリョウ・アイ」
この台詞にやはり驚くアキト。
こんなたった今とってつけたような名前で、なおかつアキトの名にそっくりな名でそっくりな顔立ち、アイも居る。
そしてその事実をひっくるめられるような形でたたずむレッドサレナ。
『事情はナデシコで聞かせて欲しい』
「了解した」
格納庫に入るレッドサレナ。
このサレナは整備兵の度肝を抜く代物である。
何しろウリバタケ以外はまったく分からず、ウリバタケですら半分も理解できない技術で出来ている。
もっとも、設計や整備は未来のウリバタケの仕事だったが。
「アキコさん、私に許可を取ってからお入りを・・・」
「少し待ってくれ」
プロスがアキコに話しかけるが、アキトによって遮られる。
「この人は俺が尋問する・・・」
「アキト!私も!」
「ユリカ、済まない。ここはルリちゃんも含めた四人で話したいんだ」
「アキト・・・」
四人はアキトの自室に向かう。
「どういう事なんだ?」
「それはこちらが聞きたい」
「俺は時を遡って来たテンカワ・アキト・・・およそ五年後の」
するとアキトは目を見開いて驚く。
「・・・俺たちもジャンプフィールドの暴走によってここに来た五年後のテンカワ・アキトだ」
「状況が飲み込めないな・・・」
アキトが話せばアキコも話す。
二人は顔立ちがそっくりなのは言うまでもない。
しかし、アキコの方が少し若く、女性であるせいか、幼い印象を与える。
「はいはい。それは私が説明するよ〜」
嬉しそうにホワイトボードを取り出すアイ。
・・・無論、どこから持ってきたかは謎だ。
((やっぱりイネスさんだったんだ・・・))
アキトとルリはアイがイネスであることにすぐに気がつく。
「さっきどうしてこんな状況に陥ったのか考えていたの。ここの四つの線があるよね?まず、ここが正確な時間軸。
ここがもう一つの「例えばの世界」つまり「IF」。
この三つの時間軸は、「もしも」によって分岐した世界なの。
つまり、お姉ちゃんと私が居たのはここ。今の軸はここ。
ルリちゃんとお兄ちゃんが居たのはここ。このIFの世界は
「もしここでこうしたら」っていう数だけ存在するパラレルワールドだから、何通りあるか分からないくらいの数の時間軸が
存在するのよ。それぞれの時間軸の中から飛び出してここの時間軸に集まったの。大体分かった?」
「ああ・・・良く分かった。けどアイちゃん。何でそんなかっこうしてるの?」
「・・・私がこうしているのはあくまでこの時代ではこの姿で居たいからなの。イネスはもう死んだのよ。
ここに居るのはテンリョウ・アイだけ・・・お兄ちゃんは何でその姿なの?」
「なんか・・・精神だけボソンジャンプしちゃったらしいんだ」
「そうなんだ・・・私達は・・・あの忌まわしい過去を変えるために」
「薬で自殺しようとしたんだがな・・・アイちゃんの渡した治療薬のせいでこんなカッコになった・・・
とにかく俺はあの世界から逃げたかったんだ。五感は戻った・・・後は未来を変えるだけだ」
「そんな簡単に未来を変えるとか言うな。要は自分には関係ないからせめて事実だけでも変更しちまう気か?ずいぶんと自分勝手だな」
もちろん、その意味はアキコ達も理解はしている。
しかしこの二人にはもう行き場は無い。
ただ、逃げ場も無く乗り込んできたに過ぎない。
むしろここが唯一の逃げ場と言えるのかもしれない。
「確かにそうだ。だがな。お前らもこんな状況になったからには事実に干渉せずにはいられないだろう?」
「・・・」
「とにかくだ。俺たちは故意に来た。お前らは事故で来た。それだけの差だ」
「ふん・・・仕方が無いな。それなら訂正すべき歴史を変えていくか。ルリちゃん、IDの捏造をしておいて」
平静を保ちながらとんでもないことを話し始めるアキト。
「はい・・・でもいいんですか?」
「いいんだよ。事情が違うとはいえ俺が相手なんだ。気にすることはない」
「すまない」
少々奇妙だが二人は事実上の同一人物だ。
お互いの考えぐらいなら把握できる。
「オモイカネ」
『何?』
「人物データベースにアクセスしてこの二人のことを登録しておいて」
『わかったよ』
オモイカネはウインドウを閉じて消える。
「ねえ、ルリちゃん」
「え?何ですか・・・アキコさん」
一瞬戸惑うものの返事を返すルリ。
「この時期ってさ、何か小さいにしろ事件がおきなかったっけ?」
「そういえば・・・」
四人が頭を抱えている間にウインドウが開き、通信が入る。
『この船はムネタケ副提督、以下連合軍が占拠した!』
「あ〜ムネタケの叛乱か〜」
呑気にアキコは呟く。
「どうします?すぐに鎮圧しますか?」
「いや、ナデシコは火星に向かうということを明確にしておいたほうがいい。とりあえずブリッジに向かおう」
四人はとりあえず・・・いや、仕方なくブリッジに向かう。
のこのこと出てきた四人にムネタケは高笑いしながら話しかける。
「ほーっほほほほ!!このナデシコは連合軍の指揮下に入ってもらうわよ〜!」
「・・・・・」
分かっているとすごく間抜けに見えて仕方ない。
まさに四人にとっては推理ドラマの犯人が分かっているのに、無理やり見せられていると言う心境である。
「なあ・・・ルリちゃん」
「はい?」
「今のうちにムネタケがナデシコから下りたくなるように手を打っといていて良いかな?」
アキトの提案にルリは反対した。
「構いませんですけど・・・歴史上に影響が出るんじゃないですか?」
確かに影響は出る。
だが、アキコ&アイの乱入で既に歴史は変わりつつある。
この後、ユリカの父の通信によりクルーは30秒ほどのフリーズに入るのだった・・・・。
結局、クルーの方で好き勝手に反撃を始めていたりする。
さすが「性格に問題があっても腕は一流」のメンバーである。
ここでは性格に問題があるほうが良かった。
「さ・・てと。そろそろか」
「そうですね」
「俺も行くよ」
ルリとデッキに向かおうとするアキトにアキコが話しかける。
「アキコ、お前は実力を隠しておけ」
「そうか?」
「お姉ちゃん、さすがに奥の手は隠してたほうが・・・・」
「そうだなぁ・・・じゃ、軽くやって来い」
アキコがアキトを見送っているとアイが裾を引っ張り始める。
「ん?アイちゃん、どうかしたの?」
「おなかすいちゃったの・・・・」
「そんじゃ、何か作ってあげるよ」
アキコはアイの頭をなでた。
・・・もうお姉さん役が板についているようである(笑)。
そんなこんなで二人は食堂に向かう。
「あ・・・そういえば俺、プロスさんと契約してないじゃん」
「・・・う〜、じゃあナデシコが出航するまで待つ」
「それはそうとアイちゃんはそんなに過去にこだわるけどどうして?」
アキコはアイに問うてみた。
・・・自分が過去に来るように仕向けた理由を。
「・・・・・うん。
実はね、お姉ちゃんがあの未来に絶望してたから・・・
光を見せたかったの」
「光?」
「そう。
お姉ちゃんが光に向かって進めるように・・・
昔のナデシコに乗ったら昔の光を見て新しい自分の道に進んで欲しかったの。
ユリカさん達には悪いけど・・・立ち直って欲しいのよ」
「・・・そうか。でも俺はいまさら帰る気なんてないよ?」
「うん、分かってるよ。元々こっちにきたら戻れないんだから」
「ああ・・・それなら」
アキコは自然と納得した。
アイが自分の事を思ってくれてこういう行動をとってくれた事に感謝しつつ。
「あの・・・テンリョウさん?
アキトさんから契約の話を持ち出して構わないと言われたのですが?」
「あ、お願いします」
・・・プロスがお決まりの契約書を切って勧誘し始めた。
ルリ視点。
(なんで・・・なんでこんな所に!?)
突如として現れたブラックサレナーいえ、赤いサレナです。
呼ぶならばレッドサレナでしょうか。
私はその機体を凝視してしまいました。
アキトさんが使った復讐の道具であり半身ー。
ですが、意味が分かりません。
現れたときの光を見ればボソンジャンプである事は明白です。
何のために現れ、何でここにサレナがあるのかが分かりません。
「・・・木星蜥蜴の新兵器か!?」
・・・皆さん、やはりそう考えますよね。
あ、アキトさんが通信を入れたようです。
『そこの紅い機体に告ぐ・・・何者だ・・・』
『俺はテ・・・』
『お姉ちゃん!』
『テ、テンリョウ。テンリョウ・アキコだ。この子はテンリョウ・アイ』
確実に誰かが乗っている事は分かっていたのですが・・・。
・・・アキトさん?
確かにサレナに乗っていれば考えられない事は無いのですが・・・。
・・・声が高い上に良く見ると胸まで確認できますね。女性のようです。
多分ナデシコに乗り込んでくるはずです。
名前は・・・絶対思い付きですね。
・・・凄い事になってますね。
治療のためとはいえ、女性になるなんて。
イネスさんの一方的な介入があったようですが。
私はムネタケの制圧が失敗して戦闘を眺めながら考えてました。
後ろにいるアキコさんの姿が気になりますが・・・。
「ん?アイちゃん、どうかしたの?」
「おなかすいちゃったの・・・・」
「そんじゃ、何か作ってあげるよ」
アキコさん頭を撫でてますが・・・・。
自然すぎませんか?
・・・イネスさんですよね、アイちゃんって。
優しすぎます、アキコさん。
というより、感性を疑ってしまいたくなりますよ。
・・・でもこれはアキトさんにも共通するところなんですよね。
二人は食堂に向かったようです。
ミナト視点。
あれは・・・バッタみたいなのには見えないわね。
どっちかって言うとエステバリスみたいな機体。
私はその機体からえも言えないものを感じた気がした。
私が教師をしていたのもその人一倍、感受性が強いからだった。
皆は気にしてないようだけど、私は怖い。
何故だかわからないけど背筋が凍る。
・・・でも私の不安は一瞬にして砕かれた。
通信ウインドウが開いた。
そこに居たのは高校生ぐらいの女の子と、私の持っていたクラスくらいの女の子。
・・・正直、妬けるぐらいに可愛く見えた。
でも、片方の女の子は少し悲しそうな顔してる。
・・・どこか酷く陰鬱な印象を与える顔。
どちらかといえば表情かしら。
着艦したようだけど、何故かアキト君が止めに入った。
知り合いにあったような呼び止め方だったような気がする。
けど、私は気にしない。
職場に女の人が少ないのはなんとなく不満だから、いっそここに入ってきてくれたほうがいいと思うくらいよ。
「え〜みなさんにナデシコの行き先を教えたいと思います」
・・・プロスさんは行き先を説明しようとしている。
私は知ってるから関係ない。
なんでって?
人柄がよさそうだから、なんて安易な理由で皆に言わない代わりに教えてくれたの。
・・・プロスさんもアバウトよね〜。
なんて考えてると連合軍の兵士がブリッジに乗り込んできた。
「この船はムネタケ副提督、以下連合軍が占拠した!」
・・・面倒な事になってきた気がする。
ブリッジがどたばたしているあいだにアキト君とさっきの女の子。が、ブリッジに入って来た。
急にこんな展開になったら普通は驚くわよね。
「ほーっほほほほ!!このナデシコは連合軍の指揮下に入ってもらうわよ〜!」
「・・・・・」
驚かないの?
あの馬鹿副提督が高笑いしているのを呆れた顔で見てる。
いい度胸してるわね。私、そういうの結構好きなのよ。
ジュン視点。
何だ?あの赤い機体は。
僕はユリカに次いで士官学校次席の成績を持っているけど良く分からない。
こういうときの対処法なんて聞いたことが無い。
僕はどうすればいいんだ?
ユリカは・・・どうする気なんだろう?
『事情はナデシコで聞かせて欲しい』
『了解した』
ちょっと待てよ、テンカワ。
何でそんな急に?つーかなんでそんな結論に至るんだい?
ユリカ、まさか許可を出さないよな?
「アキトがそう言うなら入れてください」
ユリカ、お前もか。
「・・・提督これでいいんですか?」
「あの機体から敵意は感じられない」
あなたは時が見えたり勘で何か察知したり、ファンネルを操れる人種ですか?
「まあ、大丈夫でしょう」
何故そこまで言い切れるんですか?プロスさん。
軍艦じゃないからって非常識ですよ、絶対。
・・・あ、ムネタケ副提督は入れないようにって叫んでる。
同じ人種だと思われたくないから黙っとくか。
メグミ視点。
・・・?
みんな何を驚いてるんだろう。
あのロボットは何だろう?
私は声優をしていたころのアニメの収録に似た話があったのを思い出した。
そのアニメは子供向けで、今の状況そのものだった。
戦闘の途中に謎のロボットが現れて、戦闘後に主人公と話をして次の話の時には仲間になってた。
その謎のロボットのパイロットがどういう境遇だったのかというと、未来の主人公の息子で、
地球が滅亡した未来を変えるために乗り込んできたという話だった。
・・・でもそんな単純な話の中にも、何かが流れていた。
何か、失ってはいけない人間としての根本を見せられてる気がして少し考えた事があった。自分の中に何かを与えてくれた気がした。
そんな、アニメには良くありそうな、けど、実際は無い話を脳裏で描いていた傍でウインドウが開いた。
そこには、思い描いていたようなストーリーが見えた気がした。
『そこの紅い機体に告ぐ・・・何者だ・・・』
『俺はテ・・・』
『お姉ちゃん!』
『テ、テンリョウ。テンリョウ・アキコだ。この子はテンリョウ・アイ』
・・・・。
話そのままのような気がした。
さっきエステバリスに乗っていった・・・テンカワ・アキトさんだったかな?
そっくり。
名前も無理やり捻じ曲げたようなそんな感じだった。
私はそんなありえない事を想像していた。
・・・でも無いよね、そんな事。
ユリカ視点。
・・・?アキトが二人?
私は一瞬頭が混乱した。
謎の機体が現れたと思ったら、ウインドウを見てみてびっくり、黒い服を着たアキトが居たんだもん。
でも、次の瞬間私の認識が誤っていた事を実感させられた。
『テ、テンリョウ。テンリョウ・アキコだ。この子はテンリョウ・アイ』
何だ、全然違う。
女の人だし、名前も違う。
そうだよね、そんな事無いよね。
『事情はナデシコで聞かせて欲しい』
『了解した』
『ユリカ、着艦許可を』
うん、分かったよアキト。
・・・・でも、何でアキトが尋問するんだろう?
アキトが知ってる人だったのかな?
それとも恋人?
無い無い。
アキトは私の王子様だもん。
尋問が進められているあいだ、ブリッジでボ〜ッとしていた。
仕事はジュン君がしてくれるし。
そんな事を考えてると、ムネタケ副提督がナデシコを占拠したと発表した。
私を信用してなかったんですか、お父様?
ゴート視点。
むう・・・なんだ?あれは。
軍に居た時から訳の分からない事には多数当たってきたが、
今回ほどの事件は、「軍の備品を盗みに来たと思いきや、兵士の私物(タバコ、その他消耗品)を盗んでいった泥棒事件」以来だぞ。
あのロボット・・・なかなか精巧に出来ているようだ。
見た感じは鈍重そうに見えるが機動性には優れているようだ。
だが、武器が見当たらない。
腰についている銃が二挺だけか?
・・・それだけ自信があるのか。
俺がそんな事を考えていると、着艦許可を出して欲しいとテンカワが言ってきた。
・・・素人がでしゃばるな。
と、言いたいところだが、あの戦闘の動き・・・素人とは思えん。
寧ろ、手加減をした達人・・・そんな動きだった。
もしや、今回もそんな事があるのか?
いや、無いだろう。
俺は諜報戦のエキスパートと呼ばれていたが、その他の事に関してはあまりプロとはいえないものが多い。
ミスターほどの男となれば話は別だが、いかんせん若い。
テンカワはあの少女と知り合いなのか?
ありえないな。
「ただのコック」が「突如、謎の機動兵器とともに現れた少女」と知り合いだ、なんて話。馬鹿馬鹿しい。
「ミスター、着艦の許可を出すのか?」
「ええ、それは艦長と提督の仕事ですから」
・・・何だ、その含み笑いは。
何かを悟ったのか?
流石は「狂いの無い天秤」の異名を持つ交渉人だな。
プロス視点。
ほほう・・・これはこれは。
最新戦艦であるナデシコの前に立ちはだかるとは。
しかし、どう見てもネルガル製でも木星蜥蜴にも見えません。
木星蜥蜴はもっと昆虫的フォルムを見せているものが多いですからね。
あのテンリョウさんは、何のためにここに来たのかが知りたい。
それが私の正直な感想です。
敵であれば叩き伏せさせていただきます。
ですが、ネルガルに入社したいのであれば話は別です。
私は、人を見分けるのは得意な方です。
それこそここ20年交渉をしてきた中で一度も、私が選んだ人は裏切らなかったんですから。
あの手の顔つきをしている人は大丈夫です。
・・・ただ、私がナデシコの人事で不服であったのは連合軍のムネタケ副提督です。
フクベ提督を勧誘はしましたが、その有能な提督にくっついてきたあのキノコは。
おっと、少し表現が不適切でしたな。
それは置いておいて、あのテンリョウさんは一体何がお望みなのでしょう?
条件いかんではなかなか有益になります。
何しろあのロボット。
エステバリスに外見こそ似ていませんが、構造は割と近いはずです。
ディストーションフィールドも持っていないで飛行するのは困難でしょうし、
何より飛べるまで軽量化が出来るわけありません。
・・・ですが、疑問も残ります。
突然現れた事を考えると不審者と言えないわけはありません。
通常のエステバリスであればバッテリーを積んでいても相当近くにいなければナデシコまで近づけません。
ですが、この辺りの調査は済んでいてあんな機動兵器が入るようなスペースは見えませんでした。
・・・謎ですな。
もしや、あのロボットは動力だけはエステバリスと違う方式をとっているのでしょうか。
それもないはず。
エネルギーをとる事が出来なければ飛行できません。
空戦はただでさえエネルギーを喰うんですから。
・・・考えるだけ無駄でしょうな。
取らぬ狸の皮算用してても始まりません。
着艦許可を出したようですね。
まずは取調べから入りたいと思います。
「アキコさん、私に許可を取ってからお入りを・・・」
「少し待ってくれ」
おや?テンカワさん、飛び入り参加の新入り君にしてはずいぶん大きく出ますね。
ですが、その顔・・・。さっきの戦闘といい、あなたは本当にコックなのですか?
ルリさんを連れて行ったようですが・・・何か関係があるのでしょうか。
キノコ副提督のナデシコ捕縛作戦も失敗してくれてめでたく出航ですなあ。
あ、そういえばテンカワさんはどういう話をなさっていたのでしょうか。
「プロスさん」
テンカワさんの方から来てくださいましたか。
「テンカワさん、一体どうなりましたか?」
「ええ、以前両親が働いていた研究所で会った事があったんです。
それでもしかして・・・と思って話を聞いたんですが、
あのロボットはアキコの両親が作ったものらしいんです」
「ほう・・・しかしボソンジャンプの研究をしていたんですよね?」
「はい。しかし、それだけではなかったんです。
割と広い分野で研究をしていたそうです」
初耳ですな。
まあよいでしょう。
テンカワさんは信用できる方です。
さっきの戦闘に出撃する際も手当てが出ないといったのにも関わらず命を賭けて発進してくださいました。
・・・どんな優秀なパイロットでも保険には入っていますからな。
あのテンリョウさんもどことなく、信用できそうです。
アバウトと言われるかもしれませんが、これが一番良い選択なのです。
こういう時は契約しておくのが一番得です。
今のうちにテンカワさんのパイロット契約も済ませてしまいましょうか。
「俺は出撃しますんで!じゃ!」
・・・タイミングを外しましたか。
「あ、アキコにも声をかけておいてください。ナデシコに乗り込みたいそうですから」
好都合ですな。
いやあまったく、あの時テンカワさんを入社させておいて正解でしたな。
「で、契約はこれでよろしいですか?」
「あ、はい」
なかなかですな。
かなり好感触です。
こちらの条件をほとんど飲んでくださいました。
ロボットのほうはウリバタケさんにお願いしておきますか。
それにしてもパイロット兼コックですか、経済的で何よりです。
正直、テンカワさんだけ増やしても足りないと思ってたんですよ。
「ちょっと待って」
おや?
アイさんの方はどこか不服な点でも?
「・・・ここ消して」
「ああ、気付かれましたか。ここは気付かれた方のみ消せる特典になっていますので、お二人はこの契約についてはフリーです」
・・・目ざとい。
小さいながらやりますな。
アキコ視点。
・・・・・・・はあ。
今更だけど何でこんな事になっちゃうかなー。
俺は自分勝手に生きてるとは思うよ。
会いたいと言われても合う資格が無いと思ってたよ。
死んで責任から逃れたいとも思ったよ。
でもこれは無いだろう?
確かにユリカ達に追われないで生きることは出来る。
けど女になりたいなんて思ってないよ?
・・・悪性ナノマシンが全滅したから肉体的には絶好調だけど、かんなりブルーだ。
そうこうしている間に食堂についた。
「ホウメイさん、こちらが新たに食堂勤務に入ることとなったテンリョウ・アキコさんです」
プロスさんが俺を紹介してくれる。
・・・本当は必要ないんだよな、ここまで改まって紹介するなんてのは。
皆は俺の事を知らないから必要なんだけどね。
「ああ、わかったよ。皆、新入りが来たよ」
「俺、テンリョウ・アキコって言います。これからお世話になります」
「「「「「よろしく!」」」」」
ホウメイガールズは満面の笑みとともに、アキコを迎え入れた。
「私は料理長のホウメイだ。みんな、仲良くやるんだよ」
「は〜い!」
・・・俺ってどういう立場に居るのか把握できない事が多いんだよな。
だから自分がとるべき行動もいまいち分からないし。
「テンリョウ、お前の得意な料理はなんだい?」
「あ、ラーメンです」
これは譲れない。
俺が料理人人生で培ってきた、最大の武器だ。
・・・もっともこれ以外とナデシコで習ってきた料理技術意外は何も無いかもしれないけど。
「じゃ、早速作ってもらおうか」
よし、これでいい。
他の料理だとホウメイさんに「自分の癖がある」って見抜かれるからな。
早速俺は調理室の道具を使って調理を始める。
・・・スープの仕込みは鶏がらベースの醤油味。
屋台をやってた時もこれしか出さないのがこだわりだった。
あの時は楽しかったよな・・・・。
・・・・・今考えると、そんなにユリカの事敬遠しなくてもよかったような気がしてきた。
はっ!!急に何を思ってるんだ、俺は。
ユリカ達と一緒に居たら不幸になるのは俺じゃなくてユリカ達なんだ。
「どうぞ」
こと。
俺はホウメイさんの前にどんぶりを差し出した。
「それじゃ、いただこうか」
ずるずる・・・。
「・・・・?テンリョウ、お前どこでこれ覚えた?」
・・・流石にホウメイさんには隠しきれないか。
「え〜と、昔母さんが教えてくれたんです」
「・・・いや、そうじゃない。
こんな味付けは一度覚えただけ、一年二年修行しただけじゃ身につかない。
・・・客の評価を聞き、師の教えに忠実に研究したラーメンだ。普通は5年は修行しないとここまでの味にならないはずだ」
・・・・・あなたに散々しごかれましたから。
「どうも」
俺は軽く頭をかいた。
「・・・よし、これくらいなら他の料理もかなりうまく出来る。みんな、色々教えてやんな!」
・・・ふう、とりあえずこの場は凌げたか。
だが、俺の最大の誤算はホウメイガールズの質問攻めだった。
「ねえねえ、アキコちゃん。彼氏とか居るの?」
居たらこんな戦艦に乗りませんよ。
「経験は?」
最近女になったばかりで全然。
「スリーサイズは?」
測ってません。
「趣味は?」
「料理です」
・・・これしかないんです。
「いくつ?」
「16です」
・・・すいません、本当は24くらいです。
こんな調子で今日一日、ずっと質問攻めだった。
・・・・流石に風呂に誘われた時は断っておいた。
で、俺は自室に戻った。
「お姉ちゃん」
「・・アイちゃん」
医務室での仕事が終わったのか。
あ、俺を見て目を細めてる。
はは・・・やっぱり疲れて見えるか。
「・・・やっぱり慣れない?」
「・・・本音を言えばね」
「・・・・・ごめんなさい」
いいよ、謝らなくて。
俺が手間をかけさせたのが悪いんだから。
「・・・湿布、張ろうか?」
「・・・別にいいよ」
年寄り臭くなるよ、それ。
それに精神的な事で疲れてるんだから。
「む〜・・・じゃあ、マッサージしてあげる」
・・・潤んだ瞳で俺を見ないでくれ。
「それならお願い」
・・・何となく恥ずかしいな。
ベットにうつ伏せで倒れる俺の背中にアイちゃんは乗っかる。
「む・・・うん」
お、いい塩梅。
流石に科学者をやってるだけの事はあるよ、人体の構造を知り尽くしてるからこそできる技。
・・・くはぁ〜。
「ん・・・・お姉ちゃん、どう?」
「うん、気持ちいいよ」
気持ちいいよホント。
何か眠くなっちゃったし。
・・・いいよね、寝ても?
「く〜・・・」
「あれ?寝ちゃった」
・・・ごめん、口に出そうとはしたんだけど。
俺の女としての一日はこうして過ぎていった。
作者からの一言。
流石にこの俺ではこのシナリオが限界です。
時の流れにを見てから読んでください(オイ)。
イネス=アイはどんどんアキコに甘えていきます。
そして暖かい女性に・・・なれますかねえ?
でも元の年齢に戻ると精神年齢が・・・すいません。
「時間軸」の設定はスパロボAのシナリオを参考にしてました(そん時もイネスさんが説明してくれました)。
あ、そうそう。
名前を間違えて入力してしまって恐縮なんですが、
俺は武説草良雄です。
無節操良雄でも武説良雄でもありません(笑)。
読みは武説草良雄(むせっそうよしお)です。
では次回へ。
改定後の一言。
えー、読み応えが無く、描写不足の第1話をサイドストーリーを加えて再構成しました。
でも、ストーリーの展開の速さと分かりづらさは変わってません。
・・・誰か俺に文才をください。
・・・・・ていうより、第1話を見てからだとアキコの態度が大きく違うように見えて気になりました。
04年2月22日武説草良雄。
管理人の感想
武説草良雄さんからの投稿です。
名前の方は変更をしておきますね(苦笑)
さて、何だか意外なチームが結成されましたが、この先はどうなるんでしょうか?
というか、ナデシコの既存キャラで今回忘れられていたのは、ガイ、ジュン、ミナト、メグミ、ゴート(爆)
台詞すらありませんでしたね・・・
えっとですね、気になった点があります。
簡単にアキコを信用して雇用しようとするプロスさんが浮いてますよ?
この時点でのアキトはただのコック見習いの新人さんです、プロスが信用に足ると思う人物ではないんですよねぇ
ですからアキトに許可を貰ったからといって、いそいそと契約に行くのは・・・ちょっと、ねぇ(汗)
と、色々と説明不足・描写不足と思われる点が目に付きましたが、このチームの今後の活躍にも期待したいです。