ー結局。
ルリの工作によってアキコとアイの身元証明が終わった。
アキコはアキトの父親の友人の娘、アイは養子であることにした。
アキコの役職はコック兼パイロット。
実力を測らずにスカウトするほどプロスは人が良くないが、
コックは不足していたので雇った。
レッドサレナに乗っていた事も手伝って、パイロットとしても雇われておく事にした。
こちらの方が緊急時に代理が出来て便利なのだ。
今の所は戦闘に参加する気は無いので、能力査定も受けていないのだが。
レッドサレナにしたってウリバタケのみいじることを許されているだけでただの実験機で済んでいる。
「・・・で、何でこっちに来たらあっちに戻れないの?」
「それはね・・・」
するとアイは白衣の下から小型のホワイトボードを取り出した・・・。
(しまった!!)
不覚にも、アキコはアイに説明を頼んでしまった。
「まず、時間軸は何かをした分だけ数が増えるの。で、私達がここに来たのは一つのイレギュラーであり、
ここからの分岐が多数増えてしまったからあの世界の時間軸を探すのは天文学的数値の中の一つを探す事になるの。
時間軸については・・・」
最初の説明だけで事足りるのだが、説明の出番が無いであろう、アイはここぞとばかりに説明を続け、二時間弱ほど説明を続けた・・・。
第2話「俺はこんなにさびしい世界を望んだのか・・・・」
「そろそろですね」
「「ああ」」
二人のアキト・・・いや、片方は女のアキト、アキコだ。
その二人が声をそろえてルリに返事をした。
「・・・流石にお二人は息があっているようで」
「「まあね」」
多少思考が違うことはあるが、基本的には同じである。
当然返事も重なりやすくなる。
「第三防衛ラインにはジュンさんがいます・・・けどヤマダさんはどうします?」
「無理に死なせることも無い。ベットに縛りつけておいたほうが・・・」
「お兄ちゃん、これ・・・」
一枚の粉薬を渡されるアキト。
「これは?」
「飲ませれば三日間は目を覚まさない睡眠薬」
「・・・できればアイちゃんからはこういうものは受け取りたくないな」
「でも良いんじゃないですか?ヤマダさんは死なないんですから」
ルリが相槌を打つ。
よくよく見るとアイは白衣を小さめに切ったものを羽織っている。
・・・おおよそ8歳児には見えない。
「ま・・・いいか。見舞いに何か料理を持っていけば食うだろう」
善は急げと厨房に向かうアキト。
「ねえ・・・アイちゃん」
「なあに?お姉ちゃん」
怯えた顔のアキコと対照的に、アイは飛び切りの笑顔で振り向いた。
「あれは何のために持ってきたの?」
「ん〜・・・色々便利でしょ?」
ニコニコして話すアイには少しだがイネスの時の毒気が残っている。
アキコはアイには逆らうまいと心に誓った。
第3防衛ライン。
ジュンが出てくるのに合わせてアキトは出撃した。
「・・・どういうつもりだ、ジュン」
『僕はお前がにくい!』
ストレートすぎる一言に、アキトは目を細めた。
「一方的に憎まれても困るな。ユリカのことだったら本人に言え」
『ユリカはっ!関係ない!いや・・・正確には・・・ユリカだから止めたい!』
「理不尽な要求を突きつけられて素直に従う阿呆はいない。
ユリカのことが心配だったらその傍にいて守ってやるのが良いだろう」
『!・・・彼女は僕を忘れていた・・・それなのに!お前はそれでも傍にいろと!?』
確かに彼女は完全に忘れていただろう。
「そうだ」
だが、アキトは吐き捨てるように呟く。
そして続ける。
「お前は一方的に・・・相当な勘違いをしている。ユリカはお前の優柔不断さのせいで気づいていないだけだ。
ユリカの思い込みは半端じゃない。幼馴染ってだけで俺に惚れたりしているぐらいだ。
そんな女に中途半端なアプローチをしたって気づいてもらえると思うな。
・・・それなのに気づいてもらおうなんて被害妄想もいい所だ」
『!!そんなこと・・・くそぉぉぉ!!お前さえ居なければ!!全機、一斉射撃!』
やけになったのか、デルフィニュウム隊の一斉射撃を命じるジュン。
どどどどっ!!
『アキトッ!』
「そんなアマちゃんだから・・・責任転嫁しかできないから!気づいてもらえないんだよっ!」
ばしゅっばしゅっ・・・。
ユリカの声が響くもアキトはミサイルの雨あられをいとも簡単によけていく。
「無駄だ。お前らは命令で動いてるに過ぎない。俺は・・・少なくとも何の思いも抱かずにナデシコに乗っている訳じゃない」
『くっ!仕方ない・・・お前らは下がれ!』
『しかし・・・』
『いいから下がれ!ここからは防衛ラインに差し掛かるんだぞ!』
『!・・了解』
どしゅうっ!
早々と去る部下達。
『・・・みろ、僕の人望なんかこの程度さ・・・』
「ジュン、一人で抱え込むな」
『なんだ・・・哀れむなよ』
「抱え込むなって言ってるだろ。今のお前は自分の不幸さに酔って人のせいにしているだけだ・・・
そんなに抱え込んで生きるのが楽しいか?・・・ユリカをみてみろ。あいつは常に明るく振舞い、
自分で全てを抱え込むのではなく、誰かに相談したり出来る強さがある。
『性格に問題があっても腕は一流』って呼ばれてるナデシコだがな、人間性ではどこの艦にも勝ると少なくとも俺はそう思う。
・・・お前はここに来れば変われる。それこそユリカの心がわかるほどに変われるかもしれん」
『・・・本当か?』
「ああ。人の気持ちってのはなんだって可能にしてくれるハズだ・・・それを今から実践してやるよ」
後ろには第二防衛ラインのミサイルが肉薄し、既に危険な状態である。
がっきいん!
するとアキトのエステがジュンのデルフィニュウムを殴りつけた。
『うお!?何を・・・』
「悪いな。先にナデシコに帰っててくれ。これはさっきの話しの授業料だと思ってくれ」
『アキト!お前防衛ラインのミサイルを避け切るつもりか!?』
「そこまでは出来ないが・・・とりあえず生き残って見せる。・・・ユリカ」
『え!?は、はい!』
「俺が死ぬと思うか?」
『!!・・・アキトは・・・私の王子様だから死なないよ・・・』
「だそうだ。ルリちゃんはどう思う?」
『私はアキトさんを信じます』
「だとよ。俺はこの二人の為だけでも生き残る。いや、生き残らなければならない。
何故なら俺には最高の仲間が居てその仲間を守りたいからだ。少なくとも戦争が終わらない限りは・・・死ねないんだ。
このエステバリス一つにしたって、ウリバタケさん達が全力で整備してくれた気持ちの詰まったものだ。
ブリッジに居る皆が励ましてくれて最高のサポートをしてくれるのにもしここで俺が死んだら面目は立たないし、皆も守れない。
・・・ジュン。ナデシコで色々と学べ」
ミサイルを回避しながらアキトは独演する。
この言葉に胸を震わせないものは居なかった。
アキトの言葉には大きな決意が感じられた。
今まで話していなかったことを全て吐き出し・・・・それこそ本音を言う。
クルーは自分たちに命を預け、そしてクルー達の命を預かる一人の男にひかれた。
自分たちをいかに信頼してくれていたのか。
当人が口に出そうとしていない事をこの土壇場で聞けば、死を覚悟しているものと考えるだろう。
が・・・アキトには余裕があった。
踊るようにミサイルを回避し、余裕を見せるように撃墜までして見せた。
「むう・・・本当にコックなのか?」
ゴートは元軍人である。
彼は素人がここまでの機動はできない事を知っている。
「ううむ・・・彼には気をつけておきたまえ」
「はい、承知しています」
提督の一言にうなづくゴート。
しかし、彼が戻ってきた時は別段問いかける事はなかった。
いや、問いかける事はできなかった。
ごうん・・・。
エステバリスが着艦した。
アキトはこの程度の戦闘であれば本気を出さずとも切り抜けられる。
だが、体はそれを許してくれなかった。
慣性に体がついていかないのだろう。
相当疲労がひどい。
ナデシコのクルーが歓声を上げてアキトを迎えるがアキトは帰ってきた途端に睡眠に入ってしまう。
そこになんとなく来ていたアキコがアキトを受け止める。
「やれやれだな」
ぐいっ。
アキコは軽々とアキトを持ち上げ・・・お姫様抱っこで。
(う〜ん。やっぱり少し力が落ちてるな)
力が落ちているといっても女性になったからであって、実際にはパワーそのものは10kgと変わらない。
その光景を見て、周りの人間は驚くもののそれ以上の事はなかったという・・・・。
とにかく、ナデシコはサツキミドリに向かう事となった。
アキトが戦闘しているときのアキコサイド。
・・・料理はいい。
五感が戻って一番楽しみにしていたのはやはり、料理だ。
俺の生きがいだし、何より一番やりたい事だった。
・・・五感が戻る前は料理を嫌わなければいけなかったからな。
「〜〜〜〜♪」
とんとんとん・・・。
「アキコちゃん、何か良い事でもあった?」
いけね、無意識に鼻歌が出てたか。
・・・とてもいいことがあったよサユリちゃん。
何しろ切望してた五感が戻ったんだから。
え?じゃあ何でイネスさんに言われた時治療を選択しなかったって?
・・・そりゃそんな事したらユリカの元に戻らなきゃいけなくなるだろ。
「いえ、別に」
「そう?とっても嬉しそうだったけど」
まあ、楽しいしね。
何気に俺の知らない事を知れた。
俺の第一印象とかね。
「あのさ、アキコちゃんは何でナデシコに乗り込んだの?」
「え〜とですね」
・・・理由、考えてなかったな。
プロスさんは「ネルガルに入社したい」っていう意思だけ問うからな。
妥当なのは・・・
「私、両親も親戚も居ないんで仕事がないと生活できないんです」
「あ・・・ご、ごめんなさい」
・・・ちょっとハードすぎる設定だったかな?
ほら話に謝って貰うと少し申し訳ないんだけど・・・。
この頃両親が居なくて仕事がなかったのは間違ってないけどさ。
「・・・・・・・」
サユリちゃんが黙り込んでしまった。
・・・悪い事したかな。
「あ、気にしないで下さい。俺にはアイちゃんが居ますから」
「・・・強いね、アキコちゃんって」
・・・昔はもっと大変でした。
・・・・・・でもなんか変だな?
自分に違和感がある。
何でここまで自然に話してるんだ?
以前は黒一点という事で話すのを控えていたせいか?
やっぱり女同士って言うのは打ち解けやすいんだろうか。
・・・・・出来ればパイロットやらないでずっとコックをしたいな。
アイちゃんもそっちのほうが心配しないだろうし。
確かに、アキトだけでも何とかなるだろうけどさ。
でも確実に北辰や山崎を倒すには俺も何かしないといけないだろう。
奴らが居たら確実に未来の二の舞だ。
それだけは何とか防がねば。
「・・・・・・アキコちゃん、怒ってる?」
「・・・・・・・・・・・え!?い、今そんな顔してました!?」
・・・いかんなー。
こっち来てから表情が出やすくて。
・・・もしかしてバイザーをしてたから前は表情が見えずらかったから表情を読み取られなかっただけなのか?
「少し考え事をしてたんですよ」
「・・・」
罰が悪そうに俯いてしまった。
・・・俺にどうしろと?
「えっと、その。だ、大丈夫です。ちょっと昔の事を思い出してたんです」
「・・・本当に大丈夫なの?」
「はい!」
「・・・ならいいんだけど」
・・・・ふう。
確かにあの事を思い出す時はラピスに怖がられてたからな。バイザーつきでも。
・・・・・じゃあ怖いわけだ。
俺は仕事を終わらせて、自室に戻った。
「はぁ〜・・・何で顔に出ちゃうのかな・・俺」
ぼすっ。
ベットに横たわる。
「・・・一張羅がこれだけじゃまずいよな」
俺の着ている服はあの黒いスーツだ。準備も何もしていないからこれしか服が無い。
防刃、防水、防弾、耐G、熱いときは涼しく、寒いときはあったかくなる。マントの裏にはブラスターが一丁と、
ナイフ、手榴弾、クリスタルチューリップが入っている。
性能は良いんだが・・・喪服だよな見た目。
戦闘用ならともかく、普段着にしたら物騒だし、飛行機検査には引っかかる、葬式に行くように見える、場合によっては不審者扱い。
少なくともこれだけで良いとはいえない。
購買部に行くか。
契約金で何とかなるだろう。
ぷしゅっ。
そんなことを考えているとアイちゃんも帰ってきた。
医務室の勤務を終えたようだ。
「あ、アイちゃん。お帰り」
「ただいま、お姉ちゃん」
・・・この呼び方くすぐったいな。
「ちょっと購買部に行ってくるよ」
「なんで?」
「いや、服がこれだけって言うのはまずいでしょ?だから買いに行くんだ」
・・・いや、パイロットスーツはあるんだけど、体にぴっちり付くし、体のラインが丸見えになっちゃうから嫌なんだよね。
食堂勤務は制服が無いし。
「あ、私も。白衣しかないし、何か買っておかないと」
・・・サイズがあるのか?
いや、ルリちゃんのもあるんだし、あるだろう。
で、購買部。
プロスさんが就寝時間一時間前にやっている。
服だけではなく、おやつや生活用品、生理用品各種まで揃えている。
・・・品書きに書いてなくても聞けば何でも出てきそうだ。
「おや、アキコさん。どうかしたんですか?」
「いえ、着の身着のままで乗り込んだもんですから服も下着も無くて買いに来たんです」
「ほう、そうですか。
では欲しい服と服のサイズを教えてくれませんか?」
「えっと、サイズはLで欲しい服はジーンズ・・・ジャケットとトレーナーくらいで良いです。それぞれ3着ずつお願いします」
「はい、かしこまりました。アイさんは?」
「私は・・・サイズはSS、白衣が5着にパーカー2着、ミニスカートが3本・・・トレーナー2着で」
・・・サイズがSSの白衣なんてあるの?
「はい、かしこまりました」
・・・・・・・・あるんだ。
「あとは下着も要りますか?」
「あ、よろしくお願いします」
「アキコさんはブラジャーもですね。サイズはお分かりですか?」
「いえ、測ってないんですけど・・・」
「では、メジャーをお貸しします。
その他の服を持ってきますのでスリーサイズは測って置いてくださいね」
「それなら俺が・・・ごふぅっ!」
ばきっ。
・・・ウリバタケさん、どっから沸いて出たんですかあんた。
気持ちだけ取っときますから静かに永眠してください。
「巨人軍が無くなっても俺は永遠に不滅だ〜」
・・・どこの出身ですか。
血を流したまま倒れているウリバタケさんを尻目に、アイちゃんに計ってもらう。
「バスト82・・・ウエスト57・・・ヒップ87。なかなかいいスタイルね」
・・・基準が分からないから大きいのかどうかも分からないんだけど。
「そ、そうか、スリーサイズが分かったぞ・・・我が生涯に一片の悔いごふっ」
どすっ。
・・・しまいまで言わんといて下さい。
安らかな眠りを祈ってあげますから。ストンピングで寝ててください。
プロスさんは在庫を取りに奥のほうに向かったようだ。
「お待たせしました。服はこちらです。スリーサイズの方は測りましたか?」
「ええ、82、57、87です」
「ちくしょ〜プロスの旦那、ナチュラルに聞けるなんて羨まげふっ」
「・・・今何か聞こえませんでした?」
「気のせいでしょう」
・・・プロスさんはやましい所は無いでしょうウリバタケさん。プロスさんは商売人だから。
部屋に戻って、俺はシャワーを浴びてから新しい服を着て眠る事にした。
「・・・ふぅ〜色々な出来事があった」
「お姉ちゃん、ご苦労様」
「・・・ウリバタケさんの見たくない所を見ちゃった気がするよ」
「・・・・・あんな感じだったよ」
「・・・はぁ。お休み」
「お休みなさい、お姉ちゃん」
俺はまどろむようにして眠った。
ちなみに、アイちゃんも同じベットだ。
何でって?
・・・・・・これはプロスさんが経済的にもいいって言って容認してしまったんだ。アイちゃんの発言を。
無論、飛び込みの契約だったので別室は出来ないし、ベットを増やすのも難しかった。
・・・そもそも8歳児を一人で置いておくのは可哀相だと思われるだろう。
「アキト、こっちにラーメン二つ追加!」
「ユリカ、どんぶり洗ってくれ!」
・・・俺達はラーメンを作っている。
思い出のあの場所、あの屋台、みんなの前で。
「・・・」
その光景を俺は静かに眺める。
「アキト、スープが切れたよ」
「・・・ああ、今日は店じまいだな」
・・・・そこで俺は目を覚ました。
「・・・短い・・・けど何だ?この虚しさは・・・」
短いながらー。
俺に何か忘れていないかと思わせるのには十分すぎる長さの夢だった。
「・・・ユリカ」
ユリカ。
俺は五感が戻った。
それに女だ。
多分、DNAのチェックにも引っかからないだろう。
いや、引っかかるかもしれないが、見た目には誤魔化せるし、ユリカの元に居ても良かったんじゃないか?
・・・俺が居なくなった後、ユリカはどう思っていたんだ?
・・俺の頭の中にそれがこびりついた。
「火星の後継者との戦いに巻き込んだ人の責任からは逃げられないよな」
そう言って自分を誤魔化そうとしたが、結局、今日一日俺の頭から離れなかった。
「・・・っ」
食堂の厨房ーアキコは気の緩みで指を切ってしまった。
・・・彼女は悩んでいた。
何故、自分はユリカの元に戻らなかったのかとー。
女性になってからと言うものー女心が分かってきた気がした。
ユリカの側に立って考えてみた。
(もし、ユリカが俺のように傷ついて俺を助けてくれたら・・・俺はユリカの帰りを望む。
・・・・・割と簡単な事だよな、実際。
いくら拒絶しても、帰ってきて欲しいと思う)
ユリカの側に立って考える事が出来た。
それは精神の女性化が進んでいることの現われでもある。
(何でこんな簡単な答えがすぐに出せなかったんだ?帰れば良かったんだ)
そのうち、ユリカ達の元から離れた自分の愚かさを後悔するようになっていた。
・・・もうあの時には戻れない。
血に汚れている手でもうあの二人には触れられない。
そう誓ったはずなのに。
(弱くなったもんだな・・・迷惑がかかるといってユリカから離れようとしたときとは大違いだ)
弱いのではない、柔軟に考える事が出来ただけだ。
アキコの昔の優柔不断さは無くなった。
ただ女々しい男ではない。今は女性だ。
それだけで精神的にも女性に近づいてきた。
それだけで破滅的な考えが嫌いになり、
それだけでユリカの暖かさが懐かしくなる。
恋しくて仕方が無い。
血に汚れていてもいいと言ったあのルリを、そしてユリカを恋しく。愛しく。そしてかけがえの無い存在だと実感したのだった。
その夜ー。
アキコは再び夢を見た。
(アキト・・・!)
(ユリカ!)
(アキトさん!)
(ルリちゃん!)
(アキト・・・)
(ラピス!)
三人はアキトから遠ざかっていく。
(((アキト(さん)!!)))
三人の叫びもむなしく、アキトには手が届かない。
アキトの隣にはアイが居た。
彼女もまた三人の事を呼びつづけた。
しかし、三人は遠く彼方に消え去ってしまった。
(う・・・うああああ!!)
霧のごとく・・・アイまでもが消えようとしている。
(お・・にい・・・ちゃ・・・)
(アイちゃん・・・う・・・)
アイの小さい手を握ろうとした手は空を切っていた。
アキトは消えてしまったアイのいた場所を見つめる。
(やめてくれ・・・)
気がつくとアキトはブラックサレナの中に居た。
(やめてくれ・・・)
自分が沈めたコロニーが閃光を放つ瞬間を見た。
(やめてくれ・・・・!)
そして最後には・・・ナデシコが沈む。
(やめてくれぇぇ!!)
アキコは夢から目覚める。
汗を掻き、嘔吐感が襲い、体は動かない。
アキコはこの夢を見たくはなかった。
この自体そのものはアキコの引き起こしたものだ。
だが、それは結果に過ぎないしナデシコが落ちたのは夢の中だけだ。
アキコはそれが許せなかった。
自分が望んだ事ーあの時は怒りに身を任せて復讐に生きたが、やはりそれは甘えでしかなかった。
五感が戻る方法を知った時点で自分は戻るべきだったのだ。
あの三人のもとに。
しかしもう遅い。
もう元の世界には戻れない。
アキコはようやく自分が失ったものの尊さに気がついたのだった。
「俺は・・・俺は・・・!」
アキコは涙を流す。
「俺は・・・こんな世界を望んだのか・・・?」
もう戻れない。戻れるなら愛したい。
壊れてしまうほど。壊れてしまいたくなるほど。
一緒に寝ていたアイがそのアキコの異変に気付いて起きる。そして何が起きたのかを理解する。
「お姉ちゃん・・・」
「・・・ごめん。起こしちゃった?」
「ううん。いいの・・・」
「俺ってバカだよな。失ってみてはじめて気付くんだから」
「・・・」
「アイちゃんの事だってそうだ。俺はあの時にアイちゃんを死なせたって思ってて悩んだけど・・・
結局、俺の甘えだったんだ。イネスさんとして現れたアイちゃんは俺の知っているアイちゃんと変わらなかった」
アキコは言葉をつぐ。
「俺はどこ行っても人を傷つけてたんだ。アイちゃんを大切にしなければいけなかったのにほとんど詫びることすら出来なかった。
会いたかったあの二人にしても会わないなんてことで傷を深くしていった。
ラピスは俺を支えてくれたのに俺はそのラピスを置いてここまで来た」
アキコは涙で顔をぐちゃぐちゃにして語る。
「・・・もう一人の俺にもそんな事はさせたくない。いや、防がなきゃいけない」
「お姉ちゃん」
アイはアキコを抱きしめる。
「私のわがままについてこさせてごめんなさい。でも私はーお姉ちゃんの為に、お姉ちゃんのことならなんでもしたい。
そう思ってたの。それがこんなことを招くなんて・・・」
「いいんだよ、アイちゃん」
アキコはアイの頭を撫でる。
「多分、あの世界に居たままだったら俺はこのことに気がつかなかったんだ。今、気付いても手遅れだけど・・・。
それにアイちゃんは・・・今、俺のことを分かってくれる唯一の存在だから」
「ごめん・・・ごめんなさい・・・」
アイも泣き始める。
お互いに泣き合う二人。
もう起床時間まで一時間しかないがそんな事はむしろどうでも良かった。
続。
作者から一言。
あ、あはは〜つらい目にあってますね、アキコ。
アキトは男ですからある程度割り切れるんですけど女のアキコは孤独に生きていくことは不可能のようですね。
まあ、精神的にも女性化が進むとこういうこともあるんでしょう(笑)。
未来を変えようとするアキコはつらいことを多々乗り越えて人間的に最強になります(笑)。
・・・こういうのを描いてみたかったんですけど、やっぱり難しいですね。
人物数も結構絞られちゃってますし。
で、前回の補足ですけど、冒頭に説明したとおりです。
プロスさんが雇ってくれたのはアキトの知り合いである事、
そして、レッドサレナを持っていた事です。
・・・でもぶっちゃけた話、ユリカの知り合いってだけで突然入って来た不審者のアキトを
雇うあたりから普通にスルーしてくると思ったんですけどね。
パイロットとしての査定は次回へ持越しです。
では次回へ。
改定後の一言。
これは、何か勢いで結構加筆してしまった例です。
第1話の加筆のせいでしょう。
04年2月22日武説草良雄。
管理人の感想
武説草良雄さんからの投稿です。
う〜ん、むしろ私としては個人でレッドサレナのような兵器を所有している人物など、怖くて雇えませんがねぇ(笑)
ま、突っ込んだ話はそこまでとして。
アキコは精神までもが、急速に女性化をしている様子。
という事は、この先男性に惚れる可能性もあり?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・北辰だったら笑うだろうなぁ、本気で。