アキトが居ないナデシコー

その最悪のタイミングに最悪の来客が現われた!



第3話「北辰」




「九十九よ、適当に人質でもつれて逃げろ。

我のように影に生きるものならかまわぬが、貴様は表に立つもの。

顔を知られては色々と面倒だぞ」

「ぬ・・・仕方ない、そこの女性、済まないがご同行していただけないか」

九十九は近くにいたミナトとレイナをつれて格納庫の方面に向かった。

今、ブリッジにはー北辰と六連がシェリーを人質に立てこもっていた。

「さあ、そこの三人を渡せ。さもなくばこの娘は死に、

それでも分からぬなら貴様らを皆殺しにした後、ゆっくり連れて行くぞ?」

「ユリカさん!私は構いません!渡さないでください!」

北辰はマシンチャイルドの三人を指差した。

「そんな!」

「我は外道。

人が何人死のうが知ったことではないぞ?

さあ、決断するのだ」

「艦長・・・こいつら本物だ・・・」

呻き声にも似たナオの呟きがブリッジに響いた。

「ヘマをしたら皆殺しにあっちまう・・・」

(兄貴、どこいったんだよ!?)

アキトが居ない今、ナオは最強のSSであるイオリに賭けるしかなかった。

ナオはアキコが白兵戦でも強い事を知らない。

だから至極当然かもしれない。

だが、そのイオリ自身は何処に行ったのか見当もつかない。

「・・悔しいがナオの言うとおりだ。こいつが俺達を殺さなかったのは自分の力を示し、理解させた上で脅迫をしている。

残念だが・・・」

ゴートの嘆くような呟きが届き、ユリカが悩んでいると・・・彼が現われた。

「・・・女、少し我慢しろ」

ブリッジの入り口にはイオリ居た。そして・・・呟いた刹那、彼の炎が北辰を焼こうと襲い掛かる!


ごあっ!


紫炎が北辰に向かいー

北辰がシェリーを抱えていた手を離した。

「あっ!」

シェリーはウィッグを落としてしまった。

「その髪は!?」

ブリッジにいた人間のほとんどが驚いた。

「ふ・・・このようなまやかし、我に効くとでも?」

「まやかしかどうかは貴様の身で知れ」

イオリは北辰に向かって走り出す。

その手斧のごとき手を振るうとー鋭利な刃物より鋭い一閃。

「ふん!」

北辰は飛びのいた。

しかし、イオリはそれを許さなかった。

「楽には・・・死ねんぞ!」

イオリの手から放たれた炎は火柱となり、北辰を襲った。

「なにっ!?」


ぼぉっ!


「燃え尽きろ」

北辰はー炎に包まれたまま立ち上がろうとしたがー

そのまま倒れこんだ。

「貴様らもだ」

イオリは六連を睨んだ。

「くっ・・・ひるむな!」

「無駄だ」


ざしゅっ。ばしゅっ。ずば。


三人の六連が一瞬にして駆逐されー

残りの六連は恐怖を覚え、逃げようとした。

「逃さん」

イオリは手から炎を放ち、地を這わせた。

その炎は六連の一人を焼く。

そのまま彼は走りー

もう一人に追いつく。

そして背中に肘をかまし、

頭をつかんで叩きつけ、そして爆破した。


ぼんっ・・。


「う・・・うわあ!」

「貴様で最後だな」

イオリは恐るべき速さで飛び掛り、

最後の六連を床に押さえつけた。

そして・・・


ど・・・ごん。


大きな火柱ーさっきの5倍はあろうかという大きな火柱が立った。

「火葬の手間を省いてやった。礼はいらん」

「いや〜お見事です」

プロスは今の戦闘を見ても物怖じしない。

流石にネルガルのSSトップだけはある。

「・・・仕事だ。気にするな」

ブリッジには血の跡と、爆発による焦げ跡が残っている。

「皆さん、もう大丈夫です・・・よ」

ブリッジにいたクルーは恐怖していた。普通の反応である。

「しばらく休憩しててください」

プロスも流石にこのまますぐに動くのは無理と踏んで休憩をとらせることにした。





「アキコさん!」

「シェリーちゃん!大丈夫?」

「はい・・・イオリさんが倒してくれました・・・」

「!?北辰を・・!?」

シェリーは小さくうなずいた。

その体は震えている。

「どんな風に?」

シェリーの様子がおかしい事を見抜いて、アキコは問いただす。

「・・・怖かったです。イオリさんは炎を出して・・・北辰を・・・焼き殺しました。六連も・・・」

「そう・・・」

アキコは自分の倒すべき敵をー倒されたのは残念だが、これで過去のようなことが起きにくくなったと心底安心した。






「ブラックサレナ、出るぞ!」

アキトは月の基地に居る。

敵をボソンジャンプさせたついでに自分もここに飛んできたのだ。

そこでー発注していたブラックサレナ・・・

実は普通のサレナではなく、この世界に来てからの性能の限界を知ったアキトは、このサレナにも改造を施しておいた。

まず、欠陥品である小型相転移エンジン。

ネルガル側に送られていたシーラ製作のエンジンに変更してある。

レッドサレナのエンジンより回復が早く、長時間戦闘も可能だ。

そして武装だが、DFSの装備をした。

強度を何倍かにしてあるものの、

アキトの必殺技全てに耐えられるかは不明。

二刀流にしてある。

ハンドカノン二丁にハンドグラビティファウストを追加。

これは小型の相転移砲で、原作(時ナデ)のアカツキ専用機「ジャッジ」の

物よりは威力は低いが、ナデシコ10数隻は沈められる。

さらには、スラスターがサレナの30%以上も上だ。

これ以上も可能だがー

リミッターを外した場合である。

万が一のために設定してあるが、

アキトがそれを制御できる保障はない。



ぎゅおっ。



アキトは月の基地から飛び立った。

しかし・・・そこにあったもう一台のサレナ。

解析に回されていたレッドサレナが鎮座していた。

「・・・我等、木連の崇高なる目的の為に、この機体は頂く!」

「だれだ!?」

「貴様と話す舌などもたん」

男はその懐から刀を取り出した。


どすっ。


「・・・な・・?」

「悪い、だが急所は外してある。助けを呼んでやる、死にはしないだろう」

「あ・・・んた、な、にもんだ?」

「我は北山。光と闇をつなぐ者なり」


ばしゅっ。


北山はレッドサレナに乗り込み、去って行った。

「大丈夫か!?」

「な、んとかな・・・だがあれ、が取られちまった・・・」

「こっちで依頼人に連絡をしとく!お前はゆっくり休養してろ!」

担架で男を運んでいく。

・・・何が起こったのだろう?





「引け!月臣!

俺は今、急いでるんだ!」

「な!?

俺の名を何故ー」

「後で話してやる!」



ばしゅっ・・・。



DFSで切り裂かれるジンシリーズ。

「うおっ!?」

「間に合わん・・・仕方ない」

アキトは・・・ボソンジャンプを使用してナデシコに向かった。

だが、クリスタルチューリップも無しでは

「・・・なんてことだ。

木連の英知を結集して作られたダイマジンが・・・こうも簡単に」

「おお〜い。

月臣。大丈夫か?」

月臣の目の前に現れたのは、ジンシリーズに乗り込んだ九十九だった。

北辰の手引きで脱出し、六連の乗っていたジンシリーズをもらったのだ。

「!九十九、無事だった・・・か?」

月臣はモニターに映った映像に眉をしかめた。

「あ、このお二人は人質として北辰の命令でさらって行けと言われたのだ」

「・・・何もないんだな?」

「何もというのは?」

九十九はこの後、月臣の逆鱗に触れてしまい、

戦艦に帰るなり殴り合いを演じたそうだ。




「皆!大丈夫か!」

アキトが到着した時はー既に終わっていた。

「アキトさぁん・・・」

メグミは虚ろなー少し涙の溜まった瞳でアキトを見つめる。

「これは・・・」

アキトがブリッジに現れた時見たものは・・・

焦げたブリッジとへばりついていやなにおいを放つ血糊だった。

「・・・侵入者はイオリさんが倒してくれました。

けど・・・どちらかと言えば「殺し」ました。

私達はしばらく恐怖で動けませんでした」

メグミは言い切るなり、涙を流した。

よほど怖かったんだろう。

「・・・死んだのか」

アキトは感慨深そうにつぶやいた。



アキトはアキコの部屋を訪ねた。

アキコとコウタロウがシェリーとマリーを慰めていた。

「・・・ちょっといいか」

「あ、アキトか」

「・・・北辰は死んだのか?」

「・・・ああ。

俺がブリッジに着く前に死んでいたらしい」

「私が人質にとられて・・・

けど、イオリさんは炎を出して助けてくれたんです。

・・・それは酷いものですが。

北辰は焼死体です。

・・・見ますか?」

シェリーは震えた声で言う。

「いや、いい。

・・・ラピスの言葉を聞いて飛んできた俺が馬鹿みたいだ」

アキトはラピスの悲鳴ー

つながっているままのリンクによって聞いたのだ。

「・・・それより俺はサレナをとりに行かなきゃならん。

そろそろエステだけじゃ辛いからな。

アキコの分も用意してある」

「そうか。分かった」

泣きついていた二人の手を離し、アキコは立ち上がった。

「!アキト!」

「・・・いい加減アキコって呼んでね、マリー」

アキコは部屋から出た。

「・・・いいのか?」

「なんだ?」

「木連について話さなくていいのか?」

アキコはそれが気がかりだった。

「あ・・・忘れてたな。確かに北辰が現われた以上言わないわけにもいかないか」

「・・・イネスさんに説明を頼んでおこう」

アキトはかなり間抜けていた。

もっとも、後ほんの数分あれば気付いたかもしれないが。








アキコ達が去った後ー。

プロスはシェリーを訪ねた。

「・・・シェリーさん、あなたは何故、このようなものを被っていらしたんですか?」

プロスはさっき落としたウィッグを見せた。

「え、その、ファッションです」

凄く苦し紛れな返事を返す。

「・・・私の推測からすればあなたはマシンチャイルドです」

プロスは一瞬ためてからもう一言言った。

「マシンチャイルドである事を隠すためにわざわざ変装をなさっているようですが、

ここには何人ものマシンチャイルドが居ます。

隠す必要は無いように思えるのですが、

いかがですかな?」

「・・・私はマシンチャイルドじゃありません」

「では、DNA鑑定でも受けてみますか?」

シェリーはその一言に身体を強張らせる。

「はぁ・・・やはりですか。その目はカラーコンタクトですね。

あなたほどの年齢であればルリさんや、ラピスさんに代われると思えるのです。

出来ればあなたにもオペレーターをしてほしいんですよ」

「・・・これ以上の詮索をしないと約束していただければやります」

「おっと、失礼。

ですが・・・もう一つ、聞きたいことがあります。

あなた達の顔つき・・・見覚えがある人ばかりなのですが、

気のせいですかな?」

「・・・気のせいですよ」

「では、そういうことにしておきましょう。

これ以上交渉条件を減らしてしまうのは惜しい。では、後ほど」

そう言ってプロスは部屋から出て行った。

「・・・鋭いですね」

「鋭いね。

ルリちゃん、プロスさんには気をつけよう。

ラピス、分かったね?」

「・・・うん」

三人はしばらく溜息をついていた。











医務室。

「イネスさ・・・ん!?」

「あら、アキト君にアキコちゃん」

「・・・何してんですか」

そこにはー

さっきの襲撃で倒されたはずの仲間たちだった。

しかし・・・問題なのは、

ヤガミ・ナオだけ小さくされていることだった。

眠っている・・・・。

「何でナオさんを小さく?」

「・・・歩くだけで傷が痛むのに見回りにいくって言うから強引に眠らせたのよ」

眠らすだけなら睡眠薬だけでいいような気がしたがー

・・・イネスの趣味なのだろう。

と、横を見てみると、ミリアがそのナオを眺めていた。

・・・微笑んでいた。

「少し頼みたい事があるんです」

「あら?この忙しい時に嫌がらせのつもり?」

「・・・こういう事はイネスさんに頼みたいんですよ。1時間後、これを読んでみんなに聞かせてください」

イネスにスピーチ用のカンペを渡し、

二人はウリバタケとハーリーを連れてヒナギクに乗り込んだ。








ー1時間後。

ブリッジに主要メンバー全員が集まっていた。

「・・・以上がアキト君のくれた手紙の内容です」

衝撃的な内容だった。

木星トカゲと呼ばれていた無人兵器を作っていたのはー

昔、地球で追放した火星移民人だったと。

「アキト君は最後にー

『これは100年前に起こった戦争じゃない。

俺たちの戦争だ。

もし、戦争をしているという意識がないなら

考え直して欲しい。

それが出来ない奴はナデシコから下りろ・・・』

と書いているわ」

クルーは静まり返った。

今まで戦ってきたのは無人兵器でー

今度は相手が人間であるのだ。

それなりに考えなければならない。

「・・・何故、アキトはこんなものをイネスさんにーいえ、何でこんな事を知っていたの?」

こんな大事な話なら自分の口から言えばいいのに、とユリカは寂しそうに呟いた。

「そういえば・・・」

「アキコちゃんは?」

「あ」

クルー達は少し思考を止め・・・

「またですか・・・アキトさん」

ルリの呟きから感情を怒りに変えた。






「アキトよ〜こんな急ぐ必要あったのか?」

「あるんですよ。

さっき、レッドサレナを盗んだ奴がいたって

通信があったんですから」

「なに!?」

「大丈夫です。

俺とアキコ以外に乗れる奴が居ませんから。

・・・技術的には危険ですが」

アキトの思惑ー

それはシャクヤクのユニットをナデシコに搭載すること。

そして、サレナを受け取りにいくことだった。

「ま・・・それなら急ぐに越したことはねえな」

ウリバタケはサレナの危険性を十二分に理解している。

「に、してもよ。こんなに色気の無いメンバーで組んだ意味はあんのか?アキコちゃんが居るこた居るが、

新しく整備班に入ってきたシーラちゃんと話がしたかったんだが」

「ナデシコに優秀な整備師が一人も居なくなったら危ないじゃないですか。

開発、整備、パイロット、全部やってるシーラちゃんならウリバタケさんの代わりも出来そうなんで置いてきたんですよ」

「・・・まあそうといっちゃそうだが・・・」

ウリバタケはぶつぶつと小言を言いながら休憩スペースのほうへ向かった。

(・・・そう、女性比を最小限にとどめればお仕置きの可能性は低くなる!)

・・・何気に計算高い男、アキトであった。

だからわざわざハーリーを乗り込ませたのだ。

だが、その思惑はアキコを乗り込ませたあたりから失敗している。

「アキトさん、一つ聞きたかったんですが」

「ん?なんだい?」

ウリバタケが出て行った後、ハーリーが珍しくアキトに話し掛けた。

「何で僕まで養子なんですか?

僕には義父さんと義母さんがいるんですよ?」

「あー・・・」

アキトは軽く額を掻いた。

「・・・誘拐してきたなんて言えないだろ」

「・・・・はい」

ハーリーは文句が言えなかった。

とはいえ、養子といってもナデシコ内だけであって、戦争が終わり次第元の家庭に戻すのだが。

「それともう一つ、ルリさんのことはどうするつもりですか?」

ハーリーはかなり突っ込んだ話をし始めた。

「どうする、っていうのは?」

「とぼけないで下さい。僕が合流した日、いろいろ話していたんですがルリさんはこぼしていましたよ。

『アキトさんが帰ってくれるならそれで満足です。けど、結婚できたら最高なんですけどね・・・』

・・・って」

「諦めるのかい?ハーリー君」

「誤魔化そうとしないで下さい。

それとこれとは別問題なんです。

僕は確かにルリさんが好きです。アキトさんはルリさんに好かれていて羨ましいやら憎いやら・・・

・・・じゃなくてですね。

ルリさんが僕を求めていないのは分かっているんです。

ルリさんには僕は弟くらいにしか映っていませんから・・・」

「あはははは・・・」

アキトはなぜか笑い始めた。

「何を笑ってるんですか!」

「ハーリー君、君は分かってないよ」

「な、何をですか?」

「君の言うように君はルリちゃんには弟くらいにしか見えていないかもしれない。

けど、それは俺も同じなんだ。

ルリちゃんは俺の家族で、妹のような存在だ。

だから恋人になれとかそういう次元じゃないんだ。

それにあのユリカが居ないから、同じ世界から来たルリちゃんを愛しろ、なんてわがままじゃないか」

「・・・でも、僕はルリさんに幸せになってほしいんです」

「他人に頼るんじゃない。男なら、自分で幸せにするくらいの気持ちでいなよ」

横からアキコが出てきた。

「・・・アキコさんに何がわかるんですか?これは男同士の話ですよ?」

「全部分かるよ」

ハーリーが傲慢な物言いをするのに対し、アキコもそれに対応するかのように全部分かるといった。

「分かってません!」

「全部分かる。じゃあ、ハーリー君は俺がどんな育ち方をしたか分かる?」

「・・・分かるわけ無いじゃないですか」

「俺はね、男として育てられたんだ」

その一言にハーリーは固まった。

「・・・・え?」

「最近知ったんだよ、自分が女だって事は」

「嘘ですよね?」

「本当。ナデシコに乗り込む前にね。それで20くらいのお姉さんに恋をしてたんだ。

でも、木星蜥蜴の襲来で死んじゃったけどね。

その時、死ぬ間際に言ってくれたんだ。

『君の事大好きだったよ』って。

・・・でも今考えるとその目は妹を見る姉の目だったよ」

「・・・・・」

ハーリーは黙り込んでしまった。

すると、アキトが口を開いた。


「さて、この即興の作り話は置いといて・・・少し頼みたい事があるんだが」






・・





・・・





・・・・





・・・・・

「作り話ですかあ!?」

「はぁ〜。ハーリー君、本当に鈍いね。というか目が悪いんじゃないか?」

「どういうことですか!?」

アキコの言いように怒気をはらんだ声で叫ぶハーリー。

「だから・・・ちょっとアキコ、こっちこい」

二人はそろって並んだ。

「・・・もしかして!」

「そう。俺もアキト」

アキコは自分のほうを指差した。

「違う次元からボソンジャンプしてきたらしい。

他にも4人ほど居るんだが・・・探してみなよ」

「・・・・ちょっと頭痛くなってきたんで抜けて良いですか?」

「ああ、いいよ・・・と、騙したお詫びにこれからやるちょっとしたどっきりのネタを教えてあげるよ」

「どっきりですか?」

「うんうん・・・ごにょごにょ」

アキトはわざわざ耳打ちをしてハーリーに話す。

「・・・ふんふん・・・え?振るいにかけるような真似をするんですか?」

「失礼だな。ナデシコのみんなはこんな事で降りたりしないよ」





その後ー。

「・・・到着・・・っと」

ヒナギクを停止させる。

「ハーリー君、悪いがサレナのセッティング頼む」

「命がかかってるからね」

「・・・善処します」

ハーリーは少し暗かった。

・・・当然と言えば当然かもしれないが。

「ウリバタケさん、DFSの規格はまだネルガル本社には送られていないので調整お願いします」

「あいよ!」

それぞれ作業を開始したようである。








「アキト〜!」

「うおっ」

ユリカの声が施設内に響く。

「は、早かったな」

出発してから一日しかたっていない。

「・・・(怒)」

メグミ達は怒っていた。

アキトが理由はどうあれ、アキコを連れて行ったことにおかんむりだ。

「理由は話してくれますね?」

「・・・了解」

・・・ルリは理解があるからいいが、アキコのことを本当には知らないもの達は少し危険だ。




びー。びー。びー。




「敵!?こんなときに!」

まさにこんな時にだ(笑)。

「ウリバタケさん、調整は?」

「終わってらあ!」

「でます!」

二人は、サレナ・改「サレナ・R(reloadの意味)」に乗り込む!

「・・・で、色はこのままなんだな?」

「・・・ああ(汗)。アイちゃんの希望だ」

出撃したアキトを待っていたのは・・・高杉三郎太だった。

彼も逆行者の1人である。

「いきますよ、テンカワの兄さん!」

高杉はダイマジンを駆り、アキトに突っ込む!

しかし・・・。


ばしゅ・・・。


アキトは切り裂いた。

コックピットこそ外しているが・・・

戦闘不能だ。

だが、アキトは攻撃をやめない。

「!!」

「アキト!?どうしたの!?」

「ユリカ・・・さっきイネスさんから話は聞いたな?」

「え・・・うん」

「俺たちの答えはこうだ。

木連が攻撃を続けるなら

俺達は皆殺しにする!」

「!!!!!!!」

クルーは・・・凍りついた。

アキトの視線、口調、全てがあの時のアキトだった。

復讐鬼だったあの時の。

「払う火の粉は払うだけだ・・・」

アキコもその口から物騒な台詞を吐く。

「二人だけじゃ絶対無理だよ!」

「・・・ユリカさん。

あなたは私達が本気で戦っていたとでも?」

「う・・・そ」

「俺たちの真の実力を見たのか?

俺たちの力のそこが見えたのか?

・・・そう思ってんだったら笑わせる。

少なくとも地球、木星両方壊滅的打撃を与えるのは容易いぞ?」

クルーはその言葉に、二人が本気であると分かった。

この二人にかかっては恐らく補給がなくても、

小型相転移エンジンを搭載したサレナ・Rであればほぼ確実に全ての

連合軍を壊滅させることが出来るだろう。

「二人とも・・・らしくないよ!

アキコちゃんは・・・料理を教えてくれたのに!

なんで!?なんでなの!?」

「それとこれとは話が別です。

・・・ユリカさんの答えは何ですか?」

「・・・私の答え・・・?」

「そうだ。

もし、何にも考えていないなら艦長を辞めるべきだ」

「私は!

和平を実現させて見せます!

そして・・・二人を止めます!」

「ユリカさん、あなたにはそれが出来ますか?」

「俺達抜きのナデシコで、勝てると?」

二人はー冷たく言い放った。

まるで氷のような零度の視線を放ちつつ。

「勝って見せます!」

ユリカは・・・震える声で言った。

コウタロウは黙ってみていた。

だが、どこか厳しい表情が見て取れた。

「そんなことはさせね〜ぞ!」

「木連の人を・・・殺させません!」

「アキト!」

「アキト君!」

クルーが・・・アキトに声を送る。

そして・・・最後に、

「アキト!私達は誰にも負けない!

このナデシコは・・・あなた達にも!

ナデシコは絶対に負けない!」

アキト達は・・・しばらく黙り込んだ。

クルー達は・・・涙を流したり、息を荒くしていた。

そこに、一機の機動兵器が割り込んできた。

「テンカワ・アキト!

貴様の目的が木連の虐殺にあるならば!

この月臣、喜んで刺し違えようぞ!」

月臣が猛進しようとジンシリーズの腕をアキトの方に向ける。

「月臣・・・今のナデシコクルーの本音は聞いたな?」

「む・・・確かに」

「・・・それが俺たちの望むものだ」

「!」

アキトはーさっきまでの殺気を解き、

月臣に背を向けた。

「月臣・・・今はひけ」

「舞歌殿・・・!

しかし・・・」

「よい!

テンカワ・アキトが切れ者であることは分かった。

お前が帰ってから話そう」

「・・・分かりました」

「テンカワ・アキト!

ナデシコの真意、確かに聞いたぞ!」

「・・・ああ」

「あと・・・こちらで捕虜としていた二人をそこの近くの岩場に置いた。救助しろ」

月臣はさっき撃破された九十九を救出し・・・

撤退した。

・・・ミナトとレイナと三郎太を残して。




戦闘が終了し、三人を収容してからブリッジで話を開始した。

「さて、少し説明してもらいましょうか?」

イネスがはじめて他人に説明を頼んだ。

「実は、皆がアキトや俺を頼りにしすぎているんじゃないかって思い始めていたんです。

そんな状況で木連、つまり人間を相手に出来るかどうか不安だったんです。

判断を俺たちに委ねてしまったら人の命が関わる戦いという意識が無くなってしまっては困りますから」

「だから皆が俺達が居なくても、ちゃんとした判断が取れるのかどうか聞きたかったんだ」

二人の話を聞いてクルー達はやっと緊張が解けた。

「よ・・・よかった・・・」

全員腰を抜かしている。

「それはそうと・・・アキト、私達を騙したんだから、

それなりの処置を受けなさい」

ユリカは少し怒気をはらんだ声を出す。

「は・・・はい」

もちろん、後ろにはもっと多くの女性が鬼のような形相で待ち構えていた・・・。



おわし。



・・・と見せかけて。

「ふんふんふん〜いや〜無事で何よりですね、北辰さん」

『何処が無事だ、死んでいるではないか』

「いやいや〜すばらしい事に、人間は脳が生きていれば死んでいる事にはならないんですよ」

ヤマサキの前には培養液に使った脳があった。

そのよこにスピーカーがあり、声が出ていた。

「新しいボディですが、どうしますか?クローンで出来る限りの肉体の用意は出来ますが」

『特に希望は無い。出来るだけ強い肉体であればいい』

「了解です」


ぷしゅ。


ヤマサキはその部屋から出てきた。

「・・・ヤマサキよ」

「ん?あ、木織さん」

木織と呼ばれた女性は20代前半に見える。だが既に三十路を半ばも過ぎた女性なのだ。

「あの人の新しい肉体だが・・・まさかあの子の肉体を複製するわけではないだろうな?」

「ええ、そのつもりですよ」

「ふざけるな!」


ばこんっ。


木織は壁を叩いた。

その壁はばらばらと砕けた。

「あ〜いちいち破壊しないで下さいよ、経費で落ちなくなっちゃうじゃないですか」

「そんなことは問題ではない。どうしてあの子の肉体で無ければいけないのだ!?」

「北辰さんのリクエストなんですよ。出来るだけ強い肉体がいいと言っていたので」

「・・・だが」

「地球を制圧した後にどうにかしますよ。

北辰さんの体でもよかったのですが、強い肉体と言ったからにはそれじゃなくても良いと思ったんです。

何しろ彼女達はあなた達の子供なんですから」

「・・・言ってくれる」

後ろに振り返り、木織はヤマサキから離れた。

「義姉さん」

「・・・北山か」

「兄者はどうなる?」

「・・・・・聞かないほうが幸せな事もある」

何が何なのか良く分からない北山は腕を組んで首を捻っていた。

だが、北辰を回収してきたのは彼なのだ。

北辰を回収後、サレナを奪取したようだ。








作者から一言。

えー今回は動きがありませんでしたな(そうか?)。

>そもそもアキトの性を元に戻せばよかろーなのではなかろうかと思うのですがすがすが。

 理由としてはちと弱いかなー。

 まぁ、作品としては倒錯のほうがメインだからこれはこれでいいのかなー(爆)。

・・・あー理由不足だとは思ったんですが、こうしておかないと既婚者でもアキトは追われそう(爆)ですし、

見分けが尽きずらいのが問題だと思ってます。多少強引なのは覚悟の上です。

>えーと・・・・・笑うところですか?

面白ければ笑ってください。つまらないとは思いますがギャグです。

あと、途中で出てきた連中ですがー。

・・・・・・北辰の家族です、彼らは。

では次回へ。





改定後の一言。

作者から一言がうっとおしい解説の嵐だったので、修正しました。

04年2月29日武説草良雄。



 

代理人の感想

あー、自分がやりたいからやってるなら言い訳も妥協も無用かと。(妥協はしてないっぽいですが)

「俺が好きだからやっとるんじゃモンクあるかボケェ」くらいゆーても問題ないです。

それが理解されるとは限りませんが(爆)