アキトはクルーに木星トカゲに対する意識の改革を行った。
クルーにはこれから色々と考えなければいけない問題だろう。
しかし、今はその時であり・・・そうではない。
疲労しきっている。
北辰の襲撃の時のダメージが回復できていないのだ。
特に・・・アキトは相当なものだった。肉体的ではなく、精神的には一番、被害が大きい。
アキコはコウタロウに再会した事によって軽減できている所が大きい。
軍への出向、帰ってきてからの襲撃、少し前のあの演技。
あっちこっち出向いたり、焦って行動する事が多かった。
そしてー。
第4話「ナデシコクルーの休日?」
がしゅん・・・・。
「ふ〜疲れた」
「大成功だったな」
二人がサレナ・Rから降り立つ。
だが、格納庫にはほかに人っ子一人居なかった。
「「・・・・・・・・」」
二人とも嫌な予感がした。
案の定、
ぷしゅーーーー・・・。
「これは・・・催眠ガス・・・か・・・」
二人は意識を失い、その場にへたり込んだ。
そこにガスマスクを装着した整備班どもが駆けつけた。
「やろ〜ども!戦友を騙した不届きものどもをひっとらえろ〜!」
「「「「「「「「おおおおおお!!」」」」」」」」」」
・・・二人はどこかに連れて行かれた。
「う・・ここは」
アキトが目覚めたのは、何故か暗い部屋だった。
「何だ、ここはナデシコ内なのか?」
『そのとおり』
何処からか声がする。
その声はイネスのものだった。
「イネスさん・・・一体俺に何をする気なんです?」
『アキト君、あなたはちょっとした罰ゲームを受けてもらいたいの』
「罰ゲーム?」
その一言にアキトは間抜けな声を上げる。
「罰ゲームってよくバラエティ番組で何かした人が受けるあれですよね?」
『そこまで言わなくてもそれよ。
アキト君、あなたは私達の本心を除こうとしてあのような行動を取った。
それは認めるわよね?』
「・・・ええ、騙していた事は事実ですから」
『だから、アキト君にも一つ、いえ、いくつかして貰いたい事があるのよ。
ちなみにこれを断るともっと凄い事になるけど』
「とりあえず聞かせてください」
『よろしい』
すると、モニターが現われ、映像が流れる。
『何かアキト君の秘密を暴露してください。
もちろん、これはプライベートでも木星のことでも良いわよ』
(そう来たか・・・)
アキトはどうするか考えた。
木連についてはほとんど話してしまった。
プライベートとは言っても、過去の思い出に話せることはあまり無い。
『皆、ブリッジでアキト君が何を喋るか見てるわ』
(皆に話せる内容で、俺の秘密?そんなに無いぞ?)
彼は心底悩んだ。
「ちなみに、これじゃない場合はどういうことになるんです?」
『う〜んそうね。
今のところ出ている案は・・・
1.騙したお詫びにブリッジクルー、パイロット、各役職の好きな料理を一人で作る。
2.アンチ・テンカワ同盟に引き渡す
3.私の特製自白剤で記憶を勝手に喋らせる
・・・・が今の所の案よ』
・・・・・・・選択の余地はないようだった。
そして、アキトが出した答えとは!
「・・・俺の秘密ですか。
じゃあ、俺が料理人を目指した理由でも話しますよ」
アキトは一応簡単な話題で切り抜けることに成功したようだった。
・・・・・しかし、アキトはこれだけで終わりだと思っていたが、さっきのセリフを思い出して欲しい。
『いくつかして貰いたい事があるのよ』・・・。
・・・と。
『では、次のお題に入ります!』
「ま、まだあるんですか(汗)」
『もちろん!その程度で逃れる事が出来ると思ったら大間違いよ』
・・・結局、アキトは過去のナデシコに乗り込む前の半生をほとんど語ることになったらしい。
・・・・・のまず食わずで5時間ほど。
「う・・・う〜ん」
アキコが目覚めた場所、そこは自室であった。
「ふぅっ・・・」
ベットに横たわっていた彼女は一息溜息をついた。
「・・・何も無くてよかった」
彼女はさっきの出来事を思い出した。
アキトは何か酷い目にあっているのではないか、と思っていたが。
「ん〜」
疲れたらしく、もう一眠りしたいとアキコは思った。
だが、さっき慣れない演技をしたせいか、汗をかいていた。
その為に、風呂に入ろうと思った。
しゃ〜〜・・・・。
「ん〜〜〜、気持ちいい・・・」
彼女は女性になってから、やはり変化が出てきたようで、風呂が好きになっていた。
・・・と、その後ろではお仕置きの執行をしようとするものが待ち構えていた!
「は〜・・・」
アンダースーツ姿で出てきたアキコ。
「おねえ〜ちゃん」
「あ、アイちゃん。戻ってたの?」
「うん、さっきね」
ベットに向かおうとするアキコ。
だが・・・・!
「えい」
ぷしゅ。
「あ、れ?」
アイはアキコの手を取り、さりげない動きで無針注射を打ち込んだ。
急激に体の力が抜けていく。
倒れこむような形でベットに横たわった。
「何をするんだよ、アイちゃん」
「お仕置き」
その一言にアキコは固まった。
お仕置きがあるのだとすれば、今の薬はー。
「・・・お姉ちゃんは今筋弛緩剤とその他もろもろの薬の調合物を身体に打ち込まれたの。
明日の朝には治るけど、今日はもう動けないよ」
「・・・で、それがお仕置きの内容じゃないんだよね?」
「はい、正解です。
お姉ちゃんはそのまま待機していてくださ〜い」
ぷしゅ。
アイはそのまま部屋を出た。
(何なんだろう?お仕置きって)
どんなお仕置きがあるにしても、アキコは不安で仕方が無かった。
この類の事はされた事が無かったからだ。
ぷしゅ。
「ふふふふふ・・・・」
開いたドアから不敵な笑いが響く。
「ま、まさか」
「そのまさか」
・・・そこに居たのは・・・野獣のような瞳でアキコを見つめるコウタロウだった。
で、5時間後。
「・・・アキト君、少し休みなさい」
「へ?」
アキトは罰ゲームが終了して、謎の部屋から出るとイネスにこう言われた。
「精神的に少し参ってるようね。
・・・肉体は健康そのものだけど」
「しかし・・・俺は」
「・・・もしここで断るならそれすら言えない状況にするわよ?」
「休養をさせてもらいます」
イネスが言ったのは「幼児化の刑」の事だ。
既に三人が被害にあっている(笑)。
いまだにその話題でからかわれている。
アキトはその時のアキコの写真を見てー苦笑するしかなかった。
「・・・どちらにしても数日後に1週間の休暇の申請をしているそうよ」
「え?何故?」
「艦長がみんなの疲労を考えて申請しているらしいの」
「・・・そうですか」
アキトはユリカの判断を妥当だと思った。
今のクルーの状況を見る限り、
休暇は必要だし、考える時間も必要だ。
アキトは自室に戻るとそのまま眠りについた・・・。
翌日。
午前10時。
ー薄暗い廊下。
ナデシコは基本的に24時間営業だ。
消灯される事はあまりない。
それなのにここは暗い。
雰囲気のせいだとも言える。
暗闇に足音が響く。
かつーん。かつーん。
そして・・・座禅室。
シミュレーター室とも呼ばれる部屋のドアが開いた。
「全員そろったようね」
一人の女性が呟いた。
28歳程度の女性が。
その他にも17人ほどの女性がこの部屋に居る。
「今回の議題は?」
8歳の少女が顔を上げる。
「落ち着きなさい「少女医師」。
第3回TA保護同盟の会合を開いたのは
今回の休暇の事よ。
アキト君は一人で歩かせるといろいろな意味で危険・・・
そこで、負担にならない程度の監視・・・
一人同伴するものが居た方がいいと思ったの」
「つまりこの中から代表を決める・・・という事ですか?」
「そうよ、「成妖精」」
アキトを一人で歩かせれば確実に女性を落とすだろう。
ライバルを増やす要因を減らし・・・
そして、自分たちのことをアピールするのが目的だ。
そのころアキト当人は・・・。
「メティちゃん、ありがとう」
「アキトお兄ちゃん、どこか悪いの?」
「いや・・・少し疲れて、ね」
アキトの様子を見にメティが来た。
アキトはこういう優しさが好きだった。
あまり奪い合ったりしない、純粋な優しさが。
「無理しないでね」
「・・・ああ」
アキトはー心のそこではユリカを望むが、
こういうのも悪くないと思っていたりする。
・・・メティも何年かすれば変わるかもしれないが。
「それではいかにして決めますか?」
「ここに19面のダイスが・・・」
「却下」
「成妖精」は一瞬にして否定した。
「な、何故?」
「「科学者」さん。あなたの狡猾さを考えればそんなダイスは信用できません」
「ではくじでも・・・」
「却下」
「成妖精」はあくまでずるをされない事を優先した。
・・・もっとも、古典的なトリックを見破るのも面倒だと思ったのだろう。
「私が思うに、私達の中だけで決めるのは難しいと思います」
「ならどんな方法が?」
「・・・何人かの女性に意見を求めては?」
あくまでこの同盟は「アキトと結ばれたい人」の集まりだ。
それでは冷静な判断を仰ぐのは難しい。
「そうですね・・・いい判断です」
「ありがとう「妖精」」
・・・ナイスコンビネーション。
そういうわけでアキトと仲がよさそうな人を選抜する事となった。
第一証人・・・ミナト。
「え?アキト君と仲のよさそうな人?」
「はい」
ルリがミナトに質問している。
「え〜と。アキコちゃんじゃない?」
「え」
TA保護同盟は別室のモニターで話を傍聴している。
「いつもアキト君のそばに居るし、親友でしょ?」
「・・・そうですか」
ルリはミナトから離れていった。
第二・三証人・・・ヒカル&シーラ。
「「「ジョーーーーー!」」」
「はぅっ・・・」
破壊的叫びに意識を失いそうになるルリ。
実はヒカルとシーラはガイと一緒にゲキガンガーを見ていた。
ルリがオモイカネの検索を使って探したのだ。
「あ・・・あの」
「えっく・・・え?ルリちゃん?
どうかしたの?」
ヒカルはルリの方を向いて返事をした。
「アキトさんと仲がよさそうな人って誰だと思います?」
「・・・アキコちゃんじゃない?」
「そう・・・ですよね」
シーラも振り向いて賛同。
「・・・」
第四証人・・・ホウメイ。
「え?テンリョウじゃないか?」
第五証人・・・イズミ。
「アキコちゃんじゃ・・・?」
第六証人・・・アキコ。
「いてて・・・」
「あの・・・アキコさん?」
「ちょっと腰痛・・・」
「・・・そうですか。
ほどほどにしておいてくださいよ?」
「・・・そういわれても」
・・・昨日のお仕置きのせいで足腰が立たなくなっているアキコ。
「それはそうと、今アキトさんと仲がよさそうな人は誰だと思いますか?」
「え?・・・う〜ん。わかんないなぁ・・・」
ここに来て分からない、と言い始めた。
「・・・出来るだけはっきり言ってもらえます?」
この時点で、同盟側の目的である「アキトとデート権」はアキコに委ねられている。
アキコが答えを出してくれなければ、どうしようもない。
「え〜と・・・シェリーちゃんじゃないか?」
「え?・・・何故ですか?」
「ヨーロッパに行った時に一番、あいつを助けてやってたんじゃないかな?
すぐに打ち解けたって言っても心細かっただろうし。
コウタロウはあまり干渉してなかったみたいだし、
マリーはまだ精神的に未熟だったし。
・・・少なくとも俺もルリちゃんもサポートできないときに
サポートできた、慰められたのはシェリーちゃんかな・・・って」
「・・・そうですか」
結局、アキトとデートするのはシェリーとなった。
「♪」
シェリーは休暇の二日目にアキトと出かける約束をした。
思い切りガッツポーズをとりたい衝動を抑えながら。
小さいスキップで・・・廊下を歩いた。
「ふふふ・・・」
とにかく楽しそうだった。
自分の世界のアキトは・・・女となって戻るべき場所に戻ってしまった。
自分の元には戻ってきてくれないその人。
もう一人のアキトでもいいから自分の元に来てほしいと思ったのだった。
「シェリーさん・・・」
「あ、ルリ・・・」
事実上、同一人物の二人。
その二人が対峙した。
「どうかした?」
「・・・私、アキトさんのサポートをしてきたつもりでした。
少なくとも自分のやれる事をやってきたつもりでした。
・・・私、努力不足なんでしょうか?」
「・・・そんなことないよ。
私がルリを上回ってたわけじゃないし、
ルリが努力不足なんじゃない。
・・・ただ、アキコさんはー
自分の見えていないところでの、見ていないからこそ不安だった事を
評価したかったんだと思う。
ルリは・・・私と代わりたい?」
「代わりたいです・・・
アキトさんとデートが出来て・・・
結婚も出来る年齢です。
今の私では不釣合いなアキトさんと一緒になれる年齢なんですよ!
シェリーさんは!」
「・・・そう。
私はーコウタロウさんと一緒に居たからここまで来れた。
一人でも来る自信はあったけど、
アキコさんがコウタロウさんに再会する事を前提とした時の旅。
・・・少し辛かった。
ルリはーアキトさんが傷ついたのを見て辛くなった。
そんなに変わりはないのよ。
私達。
だから・・・」
「だから?」
す・・・・。
シェリーはルリを軽く抱き寄せた。
そして、耳元で呟いた。
「明日、一緒にアキトさんとデートしよう。
・・・アイちゃんなら何とかできるよ、きっと」
「え・・・?」
「私は午前中、ルリは午後に。
アイちゃんの薬で姿を変えれば・・・」
シェリーは、ルリに寂しい思いをさせるのは少し心もとないと思った。
ルリ自身、同じ思いをして来たのだから。
「!・・・ありがとう、シェリーさん」
「・・・多分、気づかないから一言言うのよ?
「私はさっきのシェリーじゃない」って。頑張ってね」
「はい・・・」
ルリは、シェリーの心遣いに少し嬉しさを感じた。
恐らく、肉体年齢の差だろう。
精神的に余裕のあるシェリー。
逆に、まだ精神的にも未成熟なはずのルリ。
この差が、気を使えたポイントであった。
もし、ルリが逆の立場にたってもこういうことは出来なかっただろう。
言葉遣いもールリは丁寧口調だが、シェリーは少し崩れていた。
ルリに会ってからもアキコは腰をさすりながら廊下を移動していた。
「痛っ・・・ユリカめ、本気でやったな・・・」
彼女はコウタロウのお仕置きにより、腰痛を患っていた。
アイに湿布を受け取りに医務室に向かう。
この日は休暇なので別にアイが医務室にいる必要は無いのだが、実験がしたいそうで、残っている。
ぷしゅ。
「アイちゃん・・・湿布ある?」
「あ、お姉ちゃん」
アイはアンプルを手から離し、アキコの近くに寄った。
「やっぱり腰痛?」
「・・・やっぱりって言うくらいなら最初からあのお仕置きはやめてほしかったんだけど・・・」
と、彼女は苦笑する。
実際、彼女の心境は複雑だった。
自分が女になって、ユリカが男になって自分と付き合うなど想像もしなかっただろう。
だがどちらかといえば、その状況には有り難味を感じずに入られないかもしれない。
自分をわざわざ追って来てくれたコウタロウには。
「でも、こうしなきゃお姉ちゃんも皆にいろいろ聞かれる羽目になったのよ?
いくらなんでも同じような話をされたら疑われるよ」
「そんなことないでしょ」
「そうでもないよ。シェリーさんがプロスさんにマシンチャイルドである事を見抜かれたとき、
コウタロウさんもマリーさんも疑われたのよ?」
「・・・あ、そう」
「で、これ先に作っておいた特製湿布」
アイは湿布の入った袋を差し出す。
「ありがとう」
「お大事に」
ぷしゅ。
アキコは部屋から出た。
「さて、今日は休暇だし、たまには一日中寝ててもバチは当たらないよな」
大きく身体を伸ばし、あくびをする。
するとー。
ぴぴっ。
電子音が廊下に響き渡った。
コミュニケのメール受信のブザーだ。
それを見て、アキコは苦笑した。
『アキト、昨日はごめんね。疲れたでしょ。
今日は休んで明日、一緒に出かけよう』
コウタロウはアキコの考えていた事を読んでいたかのように予定を組もうとしていた。
それでも別にかまわないのでーというより、今まで心配をかけていた分、出来るだけ一緒に居てあげたいらしいので、
アキコは、
『いいよ。
ただし皆にばれると色々大変だからあっちで合流しよう。
場所はターミナルステーション前のラーメン屋で、12時ごろにでいい?』
と打ち込んだ。
確かにメールなら関係がばれる事もほとんど無いようだが、二人は食堂で会うたびに顔を合わせずらいと思っていたりする。
だからこそ、こういうとき位は、という事だそうだ。
自室に戻る頃に、返事が返ってきた。
『うん、じゃあ明日ね』
その文面を見て、彼女は笑顔を浮かべた。
ー自分が求め、自分を求める人がいるからには以前のように壊れる寸前まで働く事は出来ない。
アキコはそう思ってベットに沈んだ。
「アイちゃん、居る?」
「あ、ルリお姉ちゃんにシェリーお姉ちゃん」
「実は相談したい事があるんです」
二人はかくかくしかじか・・・なことを話した。
「・・・なるほど、なら小さくなる薬だけじゃなくて大きくなる薬も必要なのね」
「ええ、ありますか?」
「あるわよ。前回お姉ちゃんを小さくした時、元に戻すために作っておいたから」
そう言ってアイは錠剤を取り出した。
「こっちが一粒のむごとに1歳歳を取る薬。こっちはのむごとに1歳若返る薬。
一日の使用目安は20粒まで。それ以上の使用は危険」
「もし使ったらどうなるんですか?」
一応聞きなおすルリ。
「・・・ホルモンバランスが崩れてお姉ちゃんみたく性が逆転するわ」
「・・・確かに危ないですね」
「治す事は出来るけどね。
決して健康的とはいえないから気をつけてね」
「分かりました。ルリ、行こう」
「はい。ありがとう、アイちゃん」
二人は医務室から出て行った。
「やれやれ・・・いろいろ手のかかるお姉ちゃんたちだこと・・・」
少女とは思えない台詞を吐きながらアイはコーヒーを口にした。
と、数秒後に少しむせた。
「けほけほ・・・やっぱり味覚が子供じゃ美味しくない・・・」
そう言ってオレンジジュースを飲み始めた。
午後2時。
休暇の為に最後の整備を終えた格納庫では仕事を終えて片づけを始めている整備班の間でなにやら言い合いをしている二人がいた。
「だから!ウリバタケさん!私にこの子を預けてくれればパーフェクトに仕上げてあげますって!」
「だめだ!俺のリリィちゃんはこれでいいんだよ!」
「そんな可愛くない格好じゃリリィちゃんが可愛そうですよ!」
「なにおう!?リリィちゃんはこう見えてミサイルやら自爆装置やらドリルやらついてて、
なおかつ、自立独立稼動が可能なんだぞ!?」
「そう言う問題じゃありません!」
二人が言い争っているのは・・・ウリバタケの作ったロボット、リリィである。
見た目はマネキン人形同然と言う酷い物だ。
何気に、知能を持っている辺りが馬鹿に出来ないが。
「なんでウリバタケさんはフィギュアとか作るのはうまいのにロボットはこんなんなんですか!」
「はっっ!分かってねえな『男のロマン』は見た目じゃ語れねえのさ!」
「っか〜〜〜〜!なら、私の技術を結集して最っ高のロボットを見せてあげましょう!」
シーラはウリバタケの前に三本の指を差し出した。
「三日です!三日あればウリバタケさんのロボットを越えるロボットを作れます!」
「おもしれえ!それが出来たら俺はお前にリリィちゃんを預ける!
だがお前が負けたら一週間、俺のコレクションによるコスプレで勤務しろよ!」
「えーえー、構いませんよー!」
・・・整備班による意地の張り合いが始まっていた。
シーラは怒りながら格納庫から出て行った。
「ウリバタケさん、私が若いからって侮りましたね」
シーラはどこへ行くのかと思えば、スクラップ置き場に出向いた。
「動力は・・・極小相転移エンジン。これが無きゃウリバタケさんには勝てない」
動力は軽量化できれば出来るほど、他のものが詰め込める。
動力は最大のネックといっても過言ではない。
彼女はウリバタケと違って、ロボットの初期段階から設計をする事を知っているのだ。
ウリバタケは、勝負が始まる前から敗北していたのかもしれない。
シーラが過ぎ去った後、格納庫では照明が落とされ重々しい雰囲気に包まれた。
「・・・よし、レイナちゃんもシーラちゃんも居なくなったな。他の女性整備員は居ないよな?」
「ええ、ウリバタケさん。ここは他にメスねずみ一匹居ません」
「ハーリー、ジュン、アカツキ、最後に特別参加の高杉三郎太も来ました」
「では第13回「A・T組織」の会合を始める」
ウリバタケは眼鏡を怪しく光らせ、テーブルに肘をついた。
世間一般にいう「ゲンドウポーズ」である。
「しかし、今日の会合はTAに関する話題ではない」
ざわっ。
格納庫がざわめく。
かんかん。
「静粛に」
ジュンが木槌を鳴らして静まらせる。
「・・・ではどういった議題なのです?」
一人の整備員の一言にウリバタケは厳しい顔をして後ろのスクリーンを仰いだ。
「実は、この写真を見てもらいたい」
そこにはどこかの部屋から出てくるアキコの姿が映っていた。
「ほう、もう一人のTA」
「しかし、彼女に関する話題はTAに関する情報以外は取り上げても仕方ないのでは?」
「そうだ。だが、この組織の存在意義を・・・ハーリー、言ってみろ」
指名されたハーリーは立ち上がる。
「はい!1.人類(男限定)の敵であるTAを撲滅する事
2.ナデシコ内で恋愛をする男女を徹底的に撲滅する事
以上です、ウリバタケ大佐!」
元気よく叫ぶハーリー。
・・・しかしいつ大佐になったんだウリバタケ。
いや、むしろこの組織、階級とかがあるのか?
「そうだ。
このたった二つの戒めしかないこの組織でもう一人のTAがクローズアップされたという事は・・・」
「!まさか!」
「・・・理由は一つ」
「そう、この部屋は男の部屋だ。それも、時間帯は勤務開始一時間前だ」
「・・・つまり」
「2の条件という事ですか?」
「・・・そういうことだ」
「では誰の部屋なんですか?」
「焦るな。この部屋の持ち主は・・・」
そう言ってパネルを操作すると、スクリーンが切り替わった。
そこには一人の少年が映し出された。
「スミダ・コウタロウ」
「何だと!」
「二週間ほど前に来たばかりの!?」
「あのガードの固いもう一人のTAを二週間、
いえ、入院中の時間を引いて一週間で・・・?
ありえません!」
再び格納庫がざわめく。
そのざわめきを一人の男が止めた。
「だが、問題はそこではない」
「そうだ、アカツキ」
ウリバタケは眼鏡を持ち上げる。
「この組織の目的2は、あくまで恋愛の阻止。細かい事を気にする必要はない」
「しかし・・・」
「だが、それ以上の問題が起こっている」
「それ以上に?」
「そうだ。
これを見てみろ」
またスクリーンが切り替わる。
「これは・・?」
「さっきの続きだ」
そこにはコウタロウと、シェリーとマリーが映っていた。
「・・・これがどういうことか分かるか?」
「まさか・・・」
「これが意味するもの、即ち多人数での・・・だ」
「そんなことが!?」
「いや、十分にありうる」
アカツキが再び口を開いた。
「この本を見て欲しい」
その本は薄い同人誌であった。
それをウリバタケの方に放り投げる。
「ヒカル君から譲ってもらったのだが・・・」
「・・・!これは」
数ページめくってウリバタケの顔が驚愕の表情に代わった。
「そう。養子の少女が、養父の子供に恋をし、肉体関係に発展する話だ」
「つまり、こういう事が起こりうるといいたいんだな?アカツキ」
三郎太は腕を組んで渋い顔をした。
「まあね。こういうアブノーマルな話もありうる、いやこの場合はその流れのほうが自然というものだ」
「ある意味、コウタロウはTA以上に脅威になりうるかもしれない。
で、今回の休暇中に調査をしたいと思う」
「ですがTAはどうします?」
「放っておけ。
どちらにしろ同盟の手が回っている」
「調査結果によっては「A・S組織」の発足も考えなければいけない」
「しかし、今回の休暇で行動を見せない場合は?」
「調査を続行しろ」
「もう一人のTAがいた場合は?」
「それくらいで怖気ずくな。
・・・それに我らが艦には優秀なSSが何人か乗っているではないか」
「それは盲点だったな」
「一番こういう事が好きそうなヤガミ・ナオなら引き受けてくれるだろう」
「あ、ナオさんなら空いてませんよ」
「なにっ!?」
ハーリーの一言にウリバタケは驚いた。
「デートだって言ってましたから」
「貴様〜!それを早く言わないか!」
「す、すいません」
「戦力を割くのは辛いが・・・仕方ない。
チーム分けをするしかないようだな。
コウタロウを追跡するのは俺、アカツキ、整備班チームA。
ナオを追跡するのはジュン、ハーリー、三郎太、整備班チームBだ」
「我々にはマシンチャイルドが一人しかいない。
あちらには三人。
戦力的には圧倒的に劣っていると言わざるを得ないが、電子的監視は出来る。
・・・ただし、あちら側の電子の妖精に見つかったらピンポイントで攻撃されるからハーリー、
くれぐれも気をつけろよ」
「はい!」
「では今日の会合は終了だ」
「「「「「「「「「「「はっ!全ては仰せのままに!」」」」」」」」」
・・・ひがみ屋が動き出した。
シェリーはアキトとのデートをする事になった。
「アキトさ〜ん♪」
「シェリーちゃん」
月都市で待ち合わせをしていた。
もちろん、TA同盟の監視の目が走る。
監視の一員にはルリが居る。
シェリーとの交代作戦を実行するためだ。
本来であれば指示側に回るのだが。
「シェリーちゃん行きたい場所のリクエスト、ある?」
「はい!テニスをしたいです」
運動神経は抜群に悪いはずのシェリーが何故、
テニスをリクエストしたのか。
それは・・・アピール&カインド。
自分の体のアピールすることと、
アキトの優しさを全開に受けるためである。
普段運動した事のない人が、
急にテニスなどをしたら何かしらのトラブルを受ける。
それを狙っているのだ。
ぽーん。
「えいっ!」
「あっ・・・」
ぱたん・・・。
アキトのサーブについていけず、シェリーは転倒する。
「いたっ・・・」
「大丈夫?」
「は、はい・・・(赤面)」
アキトはシェリーの元にすっ飛んでいって足を見る。
(うおっ・・・シェリー・・・ルリちゃんの足ってこんなに白くて
細いんだ。ユリカのは健康的で少し太い印象を受けるけど)
アキトは少しシェリーの足に魅了された。
「あ、挫いてるね・・・背負っていくよ」
「す、すいません」
アキトの言葉に即答するシェリー。
それが目的でもあるのだから当然か。
「ターゲットAはシェリーを背負った模様」
「アキトにおんぶして貰えるなんて・・・いいな〜」
ユリカは呑気に見つめている。
(流石ですね)
ルリはシェリーの作戦に唸る。
(私達マシンチャイルドの弱点ーそれを活用するとは)
・・・何か間違っている気がしないでもないが、とりあえず真剣な表情でそれを見つめている。
と、ルリはリンクしていた監視衛星から他のハッキングを感知した。
(・・・この癖は・・・ハーリー君ですか。まだ隠し切っていると思ってますね。少しお灸を据えますか)
ルリはハーリーが使っているダッシュにオモイカネが見たあの映像を送った。
(・・・くっ!ルリさん、感づいてしまいましたか・・)
「ハーリー、どうした?」
「・・・あっち側の衛生のハックを止められました・・・
あちらでは有視界での監視のみになってしまうでしょう・・・」
「・・・マジかよ」
「・・・・・それより僕、お仕置き決定ですよ〜(泣)」
目から止め処ない涙を流すハーリー。
「・・・泣くな。今はやつの監視に集中しろよ」
「・・・・はいぃぃ・・・」
泣く泣くナオの監視を始めるハーリー。
他の整備班もつかず離れずの距離で監視している。
「・・・しかし、僕はテンカワに一泡吹かせたいな・・・」
「・・・命がいらないならやってみたらどうです?」
「・・僕はユリカに思いを伝えるまでは死ねないよ」
・・・それなら早いとこちゃんと伝えとけよ。
「お昼はなんにします?」
「このあたりにおいしい店があるか聞いてみよう」
「ナデシコ食堂に勝るお店なんてそうそうありませんけどね」
昼食ー二人が食べるのはラーメンだった。
昔、ラーメン屋台をやっていたときを思い出す。
しかし、今はそういうことを思い出すのも少し辛い。
「・・・しぇ・・ルリちゃん」
「・・・はい」
この話はルリとして聞いてほしいようだった。
「俺、アキコが海で浜茶屋でラーメンを作ってるとき、
ウリバタケさんとアイちゃんと一緒にラーメンを作る姿を見て
心が揺らいだんだ。
戻る気がなかったはずなのにー
戻りたくなった。
あの三人でラーメン屋台をやっていたころに。
俺にとってもっとも尊く、幸せだったあのころに。
・・・戻れるかな?」
「ええ・・・戻れますよ。
この戦争が終われば。
私達が、アキトさんを好きな人が思う事は、
アキトさんの幸せです。
もちろん、自分がアキトさんと結ばれたいと思ってますけどー
アキトさんが幸せになれるなら身を引いてくれるでしょう」
「・・・そうか」
「伸びちゃいますよ?」
「あ・・・うん」
アキトはルリの指摘でラーメンをすする。
「んー・・・」
アキコはラーメン屋の前に立っていた。
彼女の服装はポロシャツにジーパンという、あまりにも女性らしくない服装だった。
どこか表情が思わしくない。
「ちょっと寝すぎたな・・・」
昨日、無理して一日中眠っていたせいかかえって疲れているようだ。
「お待たせ〜!」
「あ、ゆ・・・コウタロウ」
コウタロウがあわられた。
彼の服装はTシャツに肩の出たダウンジャケットといった、軍人っぽい服装だ。
だが、彼は華奢な体なのでアンバランスに見えた。
「はぁ・・はぁ・・待った?」
「待ち合わせ時間より10分も早く来たじゃないか、待つわけないだろ?」
どうやらお互いに少し早く来たようだ。
「じゃ、ラーメン食べよっか」
「うん!」
二人は昼食をここで食べるらしい。
がらっ。
「「あ」」
「「あ」」
・・・どうやら二人はアキト達が居るラーメン屋で待ち合わせをしていたようだ。
「二人もここに来たんだ」
「・・・ま、まあね」
気まずそうに視線を逸らすアキト。
「醤油ラーメン二つ」
「あいよ」
二人はアキト達の横に座った。
「デート中?」
「な、何を急に」
「隠さなくてもいいだろ?くのっ」
肘でアキトのことを小突くアキコ。
「・・・シェリーちゃんのこと、頼んだぞ」
「シェリーちゃんガンバレ〜」
「どいつもこいつも・・・なんでこう無責任なんだよ〜(泣)」
煽る二人にアキトは頭を抱える。
シェリーは頬を赤くして見ていた。
・・・その頃、外では激しい攻防が始まっていた。
「アキトさんに付きまとって何のつもりですか!?」
「今日は標的が違うんだよ!」
「信用できません!」
「ふん!話すだけ無駄だ!」
「邪魔をするなら容赦はしません!」
「かかってこい!」
・・・やるだけ無駄なのに言う事は強気なウリバタケ。
「いけえ、リリィちゃん!」
「甘い、甘いぜ!ウリバタケぇ!」
突っ込んできたリリィに間引いた(切れないようにした)真剣で居合をはなつリョーコ!
ばしゅっ。
「・・・こわします」
サラの消火器がリリィに一撃を!
ばきっ。
「みんな〜!一斉にかかれ〜!」
ラストにホウメイガールズのフライパンリンチ!
かん!ごん!ぼこん!ずごゅ!
「おっ、俺のリリィちゃんが〜!(叫泣)てめえら、助けねーか!」
「だって・・・なあ」
「僕はあんなロボットを助けるためにリンチを受けたくはないよ・・・」
アカツキは薄情に・・・いや、至極当然にそれを断った。
「OH〜MYGOD!」
次の瞬間にはスクラップ同然になったリリィが姿を現した。
「次は・・・あなたたちですよ?ウリバタケさん達?」
サラの怪しい笑いが戦慄を引き起こす。
ロボットを殴ったはずなのにどす黒い液体が滴る消火器が整備班を恨めしそうに見ているようにすら思える。
「一時撤退だ〜!」
「ふ・・・他愛もない」
「あれ?そういえばルリちゃんは?」
「お手洗いに行って来るといってましたが・・・」
ジュンコが答える。
そう、ルリは交代の為にシェリーの元に向かったのだった。
「じゃ、俺達は」
「ああ、じゃあな」
アキトとシェリーはラーメン屋を出た。
「あ、アキトさん。少しお手洗いに行ってきていいですか?」
「うん、じゃあそこのベンチで待ってるよ」
こそこそとシェリーは裏路地に回った。
そこにはルリが居た。
「・・・頑張って」
「はい・・・!」
二人は薬を飲む。
5分ほどして完全に効果が現れた。
二人はバトンタッチして服を取り替えた。
「お待たせしました」
「シェリー・・・ちゃん?」
アキトはシェリーからルリに変わったことに気づいた。
最も雰囲気が違うという程度でしかないが。
「ルリです。
アイちゃんの薬で大きくなってみました。
シェリーさんが午後は代わってくれるって言ってくれたんです」
「へー・・・」
「さ、行きましょう」
「ああ。ルリちゃんはどこに行きたいんだい?」
「私は映画を見たいです」
ルリは映画を選んだ。
もちろん、ホラーを選択。
「きゃっ・・・」
ルリはアキトに抱きつく。
これが目的なのだから。
「大丈夫?」
「はい・・・(赤面)」
これが目的ではあるもののー少し恥ずかしい。
そして少し嬉しい。
ルリはアキトの腕を放すことなく映画を見終えた。
「アキトさん、今日はありがとうございました」
ルリはパフェを食べながらアキトに礼を言った。
「気にしなくてもいいよ。
俺は俺で楽しかったし」
映画を見終わった後ーアキトは調理用具を見ていた。
その後に喫茶店で休んでいるのだ。
「私、アキトさんとデートできるなんて夢にも思いませんでした」
「う〜ん。これでデートって呼んでいいのかな?」
「いいんですよ」
ルリはー満足だった。
自分の憧れ、ユリカと結ばれてからその思いを知ったアキトという存在。
しかし今はユリカと結ばれてはいない。
ユリカを求める気持ちはあるものの、
まだルリにも・・・クルー全員にもチャンスがあるのだ。
・・・二人は帰路に着いた。
もっとも、ルリとしては最後まで行きたいと思っていたのだろうが、
流石に朝帰りは出来ないし、監視もあるのでその提案はしなかった。
「ごちそうさま〜」
こちらもラーメンを食べ終えたらしく、ラーメン屋を出た。
「さて、どうしようか」
「俺、料理が趣味だからあんまり行きたい所ってないんだよな」
・・・実はこの二人、デートをしたのは初めてだった。
しかし、いきなりキスして、同棲して結婚して、それからデートというのは実に順番前後し過ぎだと思うのだが。
「う〜ん・・・あ、そうだ!服でも見に行こうか?」
「え・・・別にいいけどさ・・・」
コウタロウの提案に気乗りはしないものの、反対はしないらしい。
そして、二人は安さが売りと評判の「ユニグロウ」の店に入っていった。
「これどうかな?」
「え?・・・う〜ん露出が多いよ」
「いいから着て来て!」
強引にコウタロウに試着室に押し込まれるアキコ。
(・・・まあ、ナデシコに乗ってから服装を気にした事はなかったよな・・・)
そんな事を考えながら試着を終える。
「・・・・・どう?」
「似合う似合う!」
アキコの服装は、タンクトップにジャケット、それにミニスカートという、夏らしい格好だった。
・・・・非常に似合う、という事は確かだ。
「ぶはっ!」
一人の整備員が鼻血を出して倒れた。
「だっ、大丈夫か!キタムラ!」
「あ、ああ。・・なれないものを見るというもの恐ろしいもんだな・・・」
・・・こういうシチュエーションは少ないのか、整備班の3分の1は鼻血を出してよろめいた。
「ふ、まだまだだな」
「ああ、まだまだだね」
・・・この二人は落ち着き払っていた。
「・・・しかしあの二人、どっちも男らしくないのと女らしくないのと・・ある意味バランスは取れてるんだがな・・・」
「ふぅっ・・・時代は白い歯、面長、いい男、から童顔、軟弱、中性的に変わったんだろうか・・」
・・・・なにやら無駄な議論を始めていた。
二人はお互いの服を選びながら、買い物を済ませた。
「はー・・・沢山買ったね」
「・・・俺、こんなに服買ったの初めてだよ」
外は薄暗くなっていた。
「・・・」
「アキコ?」
アキコはさり気なく、コウタロウを路地裏に引き込んだ。
「???どうしたの?」
「・・・」
す・・・・どすん。
唐突に、アキコはコウタロウを押し倒した。
「え・・・!?」
「こっ・・・これは・・・!」
「目の保養だ!」
「ウリバタケさんカメラを!出来ればビデオを!」
「・・・ふははは、ついに尻尾を出したな!」
・・・整備班は興奮しながら気付かれない距離、いや、かなり近づいた。
ここからはコウタロウ視点でお楽しみください。
・・・え?
こんな所で?
・・・・・やだよ、アキト。
見えちゃうもん。
(ユリカ、よく聞いてくれ)
私を抱きながらアキトが話し掛ける。
・・・・どこか真剣そう。
(ウリバタケさん達がつけてるんだ)
・・・?
私は視線を通りの方に向けてみる。
1・・・2・3・・・4・・5・・・・・。
見えてるだけでも10人は居る。
・・・・・せっかくのデートなんだから邪魔しないでよ〜。
(だから、俺が合図したら俺を押し倒し返す動きをしてくれ。
そのままゆっくり動いて、死角に入る。
追ってきたところを叩いてそれから全力で逃げる。
うまく逃げよう)
うん、分かったよアキト。
・・・でも私、足早くないよ?
それにウリバタケさん達全員を捲くのは難しいと思うんだけど。
そんな事を考えてるとアキトがキスをして来た。
・・・合図だ!
ばっ。
すかさず、私はアキトを押し返す。
「うお〜すげ〜!」
「情熱的だ!」
「感動的だ!」
・・・整備班の皆さん、いつもこんな事をしてるんですか?
で、私はアキトの動きに合わせてゆっくりずりずりと後退した。
「う・・・ん」
いけない、早く動かないと演技じゃなくなりそう(笑)。
・・・冗談は置いておいて、そこの路地に入るんだね?
よい・・・しょっと。
「おい、追うぜ」
・・・入ったはいいけどどうするの?アキト?
しゅんっ!
・・・へっ?
一瞬の出来事で混乱したけど、周りを見て理解できた。
・・・・・アキトは私を持ち上げて飛んだんだ。
うまくコンクリートの出っ張りに足をかけて、上に向かう。
「あれ?消えたぞ!」
「どこいった!?」
ははは、皆困ってる。
ビルの屋上に着いた私は、アキトに訪ねた。
「はぁ・・でも逃げる必要はあったの?」
「ああ、ウリバタケさんの標的はずばり、お前だ」
・・・?
「何で?」
「アキトが色々な女性クルーに惚れられてるのは知ってるよな?」
「うん」
十何人もいればね。
「アキトはウリバタケさん・・・広くいえば整備班の人から目をつけられてる。
・・・俺達もたぶんどっかでばれたんだろう。
ウリバタケさんはナデシコが恋愛禁止だって言ってたときから、
カップルになりそうな人の邪魔をしてきたんだ。
・・・まあ、ちょっかいぐらいにしかならないんだけど、
ネタにされて振り回されたら嫌だろ?」
「うん・・・まあ」
・・・ウリバタケさんてそういう人だったけ?
「今日は早く帰ろう。
この辺でうろうろしてたらまた目をつけられる」
「うん、帰ろう」
私はアキトの手をとって歩き出した。
艦に戻った後、ウリバタケはプロスの元に向かった。
「おい、プロスさん。
この二人が付き合ってるみたいだぞ?」
「はい?・・・本当ですか?」
ウリバタケの差し出した写真に目を光らせるプロス。
「・・・あ、このお二人なら関係ありません」
「あ?」
間抜けな声を上げてウリバタケは呆ける。
「テンリョウさんは乗船の際、契約変更をなさってますし、
スミダさんは軍からの出向ですのでナデシコの契約は関係ありません」
「・・な・・・んだと・・・」
「では、これで」
真っ白な灰になるウリバタケ。
「は・・・はは・・・燃え尽きたぜ・・・」
「ウリバタケさん!完成しましたよ!」
「・・・あ・・はは・・・・あ」
「・・・部屋に戻ります」
シーラがウリバタケの傍に来たものの・・・魂が抜けかかっているウリバタケを見て、自室に戻っていった。
おまけ。
「ミリアさんは野菜がお好きで?」
「ええ、少々偏食と言われますが・・・」
二人はフランス料理の店に来ていた。
「・・・ナオが片思いしている程度であまり深い関係は無いようだな」
「ええ・・・でもなかなかいい雰囲気を出してませんか?」
「う〜む、僕は気にかけるほどではないと思うんだが・・・」
「いや、予防はするに越した事はない」
食事をするナオ達を眺めるハーリー、三郎太、ジュン。
・・・実は、他の整備班達は帰ってしまった。
この三人はそれに気付いていない。
「あー、君達?すこしいいかな?」
「「「あ・・・」」」
青い服を着て警棒と銃を持ったお兄さんがそこには立っていた。
作者から一言。
ん〜・・・のびのび、ですかね。
ネガティブ度数が少なくて気に入ってます。
では次回へ。
改定後の一言。
特殊効果を増やしました。
・・いや〜プログラムでやると楽チンですわ。
04年2月29日武説草良雄。
代理人の感想
んー、改めてみると・・・・ゲホゲホゲホゲホ。
ええとその。
もうちょっとスラップスティックコメディにしても良かったかも。(微妙にとってつけな感じ)