ナデシコは休暇を終え、月基地を飛び立った。

彼らの行く先にあるのは自らが求めた理想か?

それとも甘くない現実か?

それは、誰にも分からない。

そう・・・未来を知っている10人でさえも分からないのだ。











第7話「シャクヤク奪還!道は知らない物に変わる。その時、歴史が動いた」




















休暇が終わり、ナデシコは地球へ向かっている。

勤務時間が終わり、二人の男女がシミュレーション室にたたずんでいる。

「・・・ふぅ」

「どうしたの?アキト」

小さいため息をつくアキコにコウタロウは声をかけた。

「いや、・・・たまには部屋じゃなくて正面切って会うのはいいと思う」

「うん」

「だからシミュレーション室っていうのは良く分かる」

「うんうん」

「でも・・・なんでシュチエーションが学校なんだよ!」

・・・そう、今二人は学校の教室に居る。

そして彼女はセーラー服である。

「なんでって?だって私達今17歳でしょ?なら学校がぴったりじゃない?」

「そ、そうだけど・・・いくらなんでもこれは・・・」

・・・彼女は精神年齢が24である。

つまり心境的にはコスプレをしているような状態なのだ。

「私達、一緒に通学した事ないでしょ?少し時間が近づいた気になれるじゃない」

「・・・・・そう言えば俺はユリカと居たのは幼稚園の時とナデシコに乗ってからだよな・・・」

「だから。そ・れ・に!」

「え?わっ」


ぱたん。


コウタロウはアキコを押し倒した。

「学校でいけない事をしてみるのも・・・楽しいでしょ♪」

「・・・ユリカは不良だな」

「えへへ」

・・・・・ここからは17の筆者は描写できません(笑)。











ルリの自室。

「・・・(赤面)」

・・・・・彼女は部屋であの二人の行為を傍観していた。

・・・オモイカネがあの光景を見てしまったとき、その映像をルリも見てしまった。

それからというもの、盗撮をしてしまうようになってしまった。

・・・・・ウリバタケよりもやばいぞ!ルリ!

早く真っ当な道へ戻れ!

(見ちゃいけないと知ってるのに・・・見ちゃうんですよね・・・)

・・・もう引き返せないかもしれない。

既に犯罪者街道まっしぐらだ。






2時間後。

「ふぅ・・・床は固いんだからあんなに激しくしなくても・・・」

「・・・ごめん」

二人はシミュレーション室から出てきた。

シミュレーションをしている時は体は全く反応していないので痛い事はないはずなのだが・・。

気分の問題なのだろう(何が)。

「あ、そういえば会議の時間じゃない?」

「いけね、忘れてた」

二人は会議室に向かった。

・・・しかし勤務時間は終了しているとはいえ、忘れちゃいけないのでは?

「お待たせしました」

「遅いぞ、二人とも」

入ってきた二人に声をかけるアキト。

会議室にはユリカ・アカツキ・エリナ・プロス・シュン・カズシ・コウタロウ・サラ・サブロウタ・・・・
そしてアキトとアキコ。

「みんな、分かっているかもしれないかもが、相手は人間だ。出来るだけ平穏に事を進めたい」

「そのための和平会議、なんだろ?」

アカツキは要約するがごとく、それを短く言った。

「ああ、そうだ。ネルガル会長」

「・・・皮肉かい?」

その冗談めいた・・・いや、冗談か。

その一言にアカツキは苦笑した。

「皮肉だ。色々言いたい事があるといえばあるからな」

「・・・思い当たる事が幾つもあるせいで特定できないのが残念だな」

黄昏るアカツキを一瞥して、アキトは言葉を次いだ。

「それは置いておいて。極端に言えば地球側の意思をまとめる事は簡単なんだ」

「そんな方法があるのか?」

「あります」

シュンの一言に振り向く。

「例えば、俺とアキコで欧米方面に喧嘩を吹っかけて全滅させたっていい」

「な!?」

カズシは間の抜けた声を上げた。

「またはマシンチャイルドの電子的制圧で食料の輸入ラインを絶つとか?」

「そうそう」

コウタロウの冗談じみた発言にアキトは頷く。

「もしくは銀行を全て閉鎖させて見たり、ですか?」

「そうです」

プロスも悪乗りしているように発言した。

「・・・でも、それは実際にはやらない」

「はい、やりません」

エリナの一言に頷く。

「・・・アキトはこんなところでも私たちを試すんだね」

「当然。生半可な意思でぶつかってみろ。戦争を終わらす意味を分からないようであれば消えてもらわないと迷惑だからな」

「ですが、5つある方面の内、ヨーロッパと極東は何とかなるかもしれませんが、

意見が過半数を超えない限り地球の意思がまとまったとはいえませんよ?」

「サラちゃん、それはそうだけど・・・どう考えてもクリムゾンの息がかかっている北米、南米は無理だよ。と、なれば当然・・・」

「アフリカ・・・ですか」

「ご名答。

だけど、それじゃ足りない。

まず、アフリカは基本的に戦争には反対している。

だから比較的和平の意見をとる事はそれほど難しくないんだ。・・・けど、代わりに」

「徹底的に戦力の不足している地域、だと言いたいんだろう?」

アキコが口を開いた。

「そう。この地域は戦力不足なんだ。

人口密度は少ないが、広いだけにカバーが出来ていない。

現在アフリカ地方にあるチューリップの数は200。

それをナデシコで全て破壊する事を条件に和平の約束をしてもらえばいい」

「お見事」

サブロウタは会議室でつぶやいた。

ーサブロウタは和平を実現する力があるかどうか調べに来ているのだ。

その具体案をアキトから聞いてサブロウタは見事としか言いようがなかった。

「これだけの実力があるならば木連との和平も夢物語じゃない。

是非、お手並みを拝見させてもらいますよ」

サブロウタはいつになく真剣だ。

とにかくー木連との間に細いながらも一つのパイプが出来た。

だがー。

「・・・その格好で言われても説得力はないな」

「・・・言わないでくれ」

アキトの一言によってうな垂れる三郎太だった。










ナデシコは地球に向かっていた。

二週間の航路である。

そして出向から一週間後ー。

パーソナル・エステが完成した。

ナデシコの面々は過去以上の実力を身につけている。

特に、リョーコは目覚しい成長を遂げた。

やはり、アキコと戦いつづけていたせいなのだろう。

「ふぅ・・・それにしても疲れたぜ」

説明を終え、ウリバタケが休んでいると、シーラが話し掛けてきた。

「ウリバタケ師匠!すごいエステばかりですね!」

「まあ・・・お前さんが持ってきたエンジンがなけりゃここまで出来んかったぞ。礼を言いたいくらいだ」

ウリバタケはー以前から考察してきたパーソナルエステ・・・

ナデシコのみで運用できるエステの開発にいそしんでいた。

そこに入ってきたシーラの技術。

ウリバタケの案では従来のエステより基本性能が10倍にも跳ね上がる新エンジンを付ける予定だったが、

小型相転移エンジンに変えてからはその2倍、つまり20倍もの性能まで跳ね上がる。

他のエステも出力が倍増したおかげで武装、機体性能が飛躍的にあがったのだ。

「そう言えばよ。皆には言っていないが・・・アキトとアキコのサレナには

換装専用の装甲・・・「ブローディア」を作った。

性能は今のとこ秘密だが・・・お前は功労者だ、二つだけ教えてやるよ。

「フェザー」、羽根型の武器でDFSを纏う事が出来る。

そして人格をもったコンピューター・・・オモイカネの小型版を持っている。

アキトは「ディア」と「ブロス」、アキコは「ディオ」と「ブレス」だ。ちょっと来てもらっていいか?」

すると、4人の子供が出てきた。

ホログラムだ。

「アキト達の戦闘能力に合わせて機体の制御その他をしてくれるはずだ。明日皆にも見せる」

「「「「よろしく」」」」

四人・・・四つ子のように容姿が似通っている。

オモイカネ級のコンピューターだが、とてつもなく小型化されている。

プログラミングはルリだ。

「あ、あとな。お前のもちょっと改造しちまったんだ」

「え!本当ですか!」

・・・他のパイロットであれば怪訝そうな顔をするところであるが、シーラは目を輝かせている。

「嬉しそうだな」

「はい!だってウリバタケさんの整備って凄いですから!」

「はは、ありがとうよ。

まず「シェルブリット」だけどな・・・まあ、燃費が悪いだろ?

一撃撃ったらディストーションフィールドは消えるわ、エンジンに負担はかかるわで無駄が多かった。

だから、威力を2割落とし、燃費をあげる事によって、ディストーションフィールドの安定と、エンジンの負担を減らした。

「デンドロバリス」もミサイルが多すぎてプロスさんから使わないように言われて無いか?

代わりになるように接近戦用の長めの簡易DFSをつけておいた。

・・・そもそも、エンジンの整備の仕方がまずい。

お前は開発部だからそれなりにエンジンに理解があるのは分かる。

だが、俺達の整備の仕方ならエンジンの性能、エネルギー燃焼効率から考えると1.5倍はこっちの方が効率がいい。

まあ、俺達は一流だからな」

「おお〜!凄い、凄すぎますよウリバタケさん!」

飲み込みが早いというか、なんと言うか。シーラはその整備の万端さに驚いていた。

「あ、そういえばあのロボット、上がりましたよ」

「ほ〜?」

「セレス、出ておいで」

「はい!」

呼ばれた瞬間、セレスはデンドロバリスから出てきた。

「こっ、これは・・・」

「はじめまして。セレス・カシスです。婦警と呼んでください」

セレスはビシィッ!と敬礼を決めた。

「こ、これを休暇中に作ったのか?」

「はい。ただプログラムに戸惑って少し完成がおそまりましたけど。どうです?」

「・・・やべえな。こりゃ。お前どこでこんなロボットの作り方覚えたんだよ?」

「父親が・・・いえ、何でもありません」

「・・・・・・何か悪い事を聞いちまったか?」

「・・・・気にしないで下さい」

「ああ。ところでこいつのセールスポイントとかあるのか?」

「ええ、まずロケットパンチ」

ポチッとゲームのコントローラーを押す。


ばしゅん!


「どへっ!?」

セレスの右腕が飛ぶ。

なぜかセレス自身が驚いていた。

「そんでドリル」


ぎゅいいいいん!



左腕が外れ、ドリルが出現した!

「ええっ!」

「殺傷力はないけどちょっと熱い目からビーム」


びいいいい。


「うそぉ!?」

「で、極めつけはぁ、

自爆装置ぃ!」

「お母さん、私を何だと思ってるんですか!」

掴みかかられ、正気に戻るシーラ。

「あ、ごめん。ちょっと興奮して」

「勘弁してくださいよ!殺す気ですか!」

「お、おい。お母さんて呼ばせてんのか?」

「ええ、まあ」

・・・だがセレスは見た目20歳位に見える為、違和感は抜群だ。

「もう遅いんで寝ます。お休みなさい」

「お休み・・」

手をぶらぶらふってシーラを見送った。

「ウリバタケさん・・」

「おう、どうしたシマムラ」

「実は・・・」













一時間後・・。

「あれ、ウリバタケさん。どうかしたんですか?」

「・・・アキコか」

ウリバタケは自販コーナーで佇んでいた。

既に消灯時間になり、人はまばらだ。

「何か悩みでもあれば聞きますよ」

「・・・すまん」

ウリバタケは持っていたコーラを一気に飲み干した。

「・・・・アキコ」

「はい?」

「・・・男って自分勝手だよな・・・・・」


がつんっ!



アキコは自販に思い切り頭をぶつけた。

「う、ウリバタケさん?何があったんですか?」

アキコは頭を擦りながらウリバタケに訪ねた。

「・・・いやな、最近お前の気持ちがわかる気がするんだ」

「え?」

「・・・俺が女になってから整備班の連中が妙に優しいんだ。

・・・しかも20%くらい良く働くようになるしよ」

「へ、へえ」

「・・・・・さっき、プロポーズもされた」

「うそぉ!?」

「・・・・・お前、静かにしろよ。消灯時刻なんだからよ」

「す、すいません。しかしプロポーズですか?」

「・・・お前は誰にもされた事ないか?」

「いえ、ある事はあるんですが・・・長い付き合いですから・・・」

「・・・でも整備班の連中からじゃないだろ?」

「え、ええ」

「・・・遠くの手の届かない女にじゃなくて近くの奴でいいって感覚なんだろうよ」

「で、なんて言われたんです?」

「『俺、ウリバタケさんが何を改造しても文句言いませんから・・・女のままで居てください。それで俺の嫁になってください』・・・だとよ」

「そ、それはなんとも・・・」

「・・・確かに俺がオリエに文句を言われてた事も愚痴ってたさ。けどよ、それを餌にして俺を・・釣ろうってか!?」



くしゃり。




ウリバタケは缶を握りつぶした。

それも柔らかく潰れやすいアルミ缶ではなく、握りつぶすのが容易でないスチール缶だ。

「俺には心に決めた女が居る・・・家族も居る。それなのにだ・・・アイツは断ったら何をしたと思う!?」

「ま、まさか・・・」

アキコに嫌な予感がよぎった。

「そうだよ!押し倒されたんだよ俺は!犯されそうになったんだよ!」

「で、どうしたんですか?」

「どうしたもなにもぶん殴ったに決まってるだろ!そうじゃなきゃ俺は犯されてた!アイツが気を失うまでぶん殴ってやったよ!」

柄にもなく、涙を流すウリバタケ。

自分が信用している、信頼している者から受けた仕打ちである。

それを信じたくなかったのだろう。

「・・・俺、女の辛さってのが分かった。すまん、アキコ。

俺は・・・そういう馬鹿野郎になるところだったんだな」

「・・・ウリバタケさんは違いますよ。命を預けてますから」

「・・・・・しばらく謹慎だな、俺」



からーん・・・・。



ウリバタケは缶を放り投げ、立ち上がった。

「愚痴を聞いてくれてありがとよ。俺はプロスさんに処分受けてくらぁ」

「ウリバタケさん」

アキコはウリバタケを引き止めた。

「・・・プロスさんなら分かってくれますよ」

「・・・・・ああ」

ウリバタケは歩いていった。

「・・・・・・「性を変える」っていうのはその人の視点や運命を変えちゃうんだな」

「アキト」

後ろからコウタロウが現われた。

「・・・聞いてたのか?」

「うん。・・・・・ウリバタケさん、悲しそうだったね」

「・・・まあ、仲間からされたんだし・・・当然だ」

「・・・・・アキト、アキトは女の子になって嫌だったと思う?」

「・・・いや、むしろ合ってると思う。なんていうか・・・素直になれるんだ。今までのことを考えても・・・」

「私もね、こっちの方が性に合ってるかなって思ってるんだ」

「ユリカも?」

意外そうな表情を浮かべるアキコ。

「うん。・・・みんな前みたいに冷たい目で見ないから」

「・・・・・そうか」

「ねえ、アキト」

「ん?」

「・・・ううん、何でもない」

「何だよ、言えよ」

「秘密!」

逃げ出すコウタロウ。

「あ、待てよ!」

ふざけながら二人は自分達の部屋に向かった。

コウタロウは「このままでいようか」と言おうと思っていたが、飲み込んだ。

・・・そこまで言ってしまえば何か変わってしまうのではないかと思ったからである。















そしてー。

「ん・・・」

アキコは抱かれている。

コウタロウに抱かれ、快感を感じている。

再会してから、一晩と欠かした事の無い秘め事だ。

毎日できるのはその肉体の若さゆえだろう。

彼女は快感を感じながら、思う。

(・・・違和感無いよな・・)

そう、彼女は元は男である。

にもかかわらず、女として生きている事に疑問を感じようとした事はここの所無い。

あたかも、昔から女であったかのような錯覚を覚えるほどである。

(こうして抱かれて、甘えさせてもらって・・・凄く気分がいい。

安定感・・・安心感・・・。

俺は男の時・・・少し前もか。

貧乏性で動いてないと不安を紛らわせられなかったよな。

それなのに・・・ユリカに抱かれてからそれが無くなった・・・。

・・・やっぱりこっちの方が俺にはあってるのか?)

彼女は、最近の自分を振り返って思う。

自分はこのまま女であるべきではないのか・・・と。

自分が男に戻ると、以前のように責任やらなにやらを四六時中考えてしまうかもしれない。

また恋人をすてる、馬鹿らしい考えの持ち主になってしまうのではないか?

と、男に戻る事に不安感を思い、男に戻る事に疑問を感じる。

(・・・この格好じゃなきゃ、正直になれないな、俺は)

彼女は、女になってから自分に正直に生きることが出来た。

男の時は自分を殺し、目的、責任、誰かの為に動く事しか出来ず、己が無いー。

否、己の意思に抵抗していた。

過去に自分が選択した事は。

『ユリカと結ばれる事』

それだけだった。

料理人になろうと思った事も、うまい料理を食べさせたい、作りたいと他人のためだった。

ナデシコに乗る理由も、ユリカの事が気になり、それを利用されてのせられ、流されただけだった。

ユリカを取り戻そうとしたときでさえー義務感が生じてしまった。

・・・そう考えたら情けなくなった。

彼女は、今、選択できる。

自分が、自分で居られる。

自分を抑えつづける必要も無くなる。

・・・吹っ切れた。

彼女は吹っ切った。

「はぁ・・・はぁ・・・なあ、ユリカ」

事を終え、彼女は荒い息を立てながら話し掛けた。

「ん?何?」

「俺・・・女になるかもしれない・・・」

「・・・・・」

唖然とした顔をするコウタロウ。だが、次の瞬間には笑顔になった。

「いいよ、アキトが望むなら」

「ありがとう・・・そうじゃないと、俺・・正直に生きられないかもしれないんだ・・・」

そう言うとアキコは眠ってしまった。

「すー・・・すー・・・」

「・・・そうだよね、ここまでアキトが自分を見せてくれたのは初めてかもしれない」

コウタロウは思い返す。

幼い時、自分が連れまわし、振り回し続けた時。

ユリカであったコウタロウは、アキトが自分で決断したところを見たことは無かった。

ナデシコに乗っていた時。

自分の周りに起きる出来事に翻弄され、「これは人としてやっちゃいけない」事を否定はしたが、

それはあくまで道徳上での事だったような様子だった。

屋台をやって同棲していた時。

ルリが居たせいもあるが、決してユリカを求めようとはしなかった。

大切にされていたとは思う。アキトも幸せだったと思う。

が、その裏で計り知れない負担があったことはユリカが一番知っていた。

コウタロウになった今も、それは鮮明に覚えている。

だが、今はどうだ?

アキコは自分の気持ちを時間をかけて理解し、コウタロウを欲していることを自覚した。

コウタロウに再会した時にそれを告白した。

抱かれるときに、コウタロウに甘えた。

とても素直だった。

自分にすら嘘をつく、昔の姿からは想像がつかない。

・・・いや、単純に甘えられる環境ではなかったからかもしれない。

だから、十分に成長も出来ず、足掻きながらナデシコで成長していたのかもしれない。

「・・・私が、アキトのわがままを聞く番だよね」

しかし、彼も今の状況を嫌いではない。

彼の自由奔放な・・・悪く言えば少々自分勝手な性格でも、男の世界では些細な事に過ぎない。

こう言うと、少々変かもしれないが、許容範囲に見えるのだ。

それが、彼にはちょうど良いように思えた。

(でも・・・アキト。私達が・・・過ごしたあの時間の事も・・・忘れないでね)

彼は、アキコの頬に小さいキスをして自らも眠りに入った。

・・・アキコは、コウタロウが飲み込んだ先を言ってしまった。

だが、アキコから聞いた一言は、言われてみると別に何も変わらないように思えた。
















翌日。

「ウリバタケさん、おはようございます」

「おはよう」

食堂で二人は遭遇した。

「処分はなかったみたいですね」

「・・・・ああ。プロスさんはアイツを首にするらしい」

「・・・当然ですよね」

二人が話しているとホウメイから声がかかった。

「テンリョウ、チャーハンつくりなよ!」

「はーい!ウリバタケさん、また!」

「おう。頑張れよ」

アキコは厨房に消えていった。

「・・・ウリバタケさん、何かあったんですか?」

ジュンがトレーを持って現われた。

「お?ジュン、お前は貞操大丈夫だよな?」

「なっ・・・あたりまえですよ」

「そうか・・・そうだよな!はっはっは!」

「・・・本当に何かあったんですか?」

「まあ大っぴらに言う話じゃねえけどな」

ウリバタケは自らが食べていたラーメンを啜った。






こちらはハーリーの部屋。

「・・・ルリさん」

「ハーリー、うじうじしてると突くよ」

「・・・ラピス、赤い槍は勘弁してくれないかな」

(・・・最近肉体的な攻撃はしてこないけど・・・どうして僕が嫌がる事ばっかするかなあ)

・・・例として大浴場で背中を流させる事などがあげられる(笑)。

もちろん、ハーリーが7歳児で女にされているからである。

・・・・・ルリに見られているのが大ダメージとなっている。

「ううう・・・ラピス、何で僕の部屋でアニメを見てるの?」

「だってアキトが嫌がるんだもん!」

「僕の意思は関係ないのか・・・」

「うん!」

「・・・ぐぅ」

床でうな垂れるハーリー。

ちなみにベットはラピスに奪われている。

何気に尻に敷かれる夫のようだ。

(・・・ホントに。前はここまでしなかったのに・・・)

ハーリーは玩具という意味で気に入られている。

女になってからは自由度が上がったと思っている。








ブリッジ。

「・・・うう」

「ジュン君?可愛い顔が台無しよ?」

「可愛いって言わないで下さい!」

ジュンは仕事をしながら涙を流している。

ミナトがちょっかいを出すのが日課となっているらしい。

「メイクしてあげようか?」

「何でそうなるんですか!」

「だって・・・見たいんだもん」

まるで聖母のように・・いや、イタズラ好きの子供のように見つめた。

「そうですよね。以前のパーティの時だって似合ってましたし」

メグミまで参加する。

「うううう・・・」

「あ、ジュンさん。月のネルガル基地から通信です」

「・・つないでくれ」

ジュンはどこからともなくカツラと制服を取り出した。

そう、「代理ユリカ」である。

・・・女装をしたくなくても女になっている時はユリカがサボる時に代理をやらされるのだ。

「はい、こちらナデシコ」

俯き加減で返事を返すジュン。

『こちら月基地・・・ナデシコ3番艦、シャクヤクが奪取された!』

「「「!!」」」






月基地。



・・・・どごんっ。



「この程度か・・・」

『おい北斗、枝織。程々にして置けよ。突貫工事で作った機体だからな』

「分かっている」

北斗、枝織、北山はシャクヤクの奪還に現われていた。

「え〜い!」


ぼんっ。


警備に当たっていたエステバリスが撃破された。

既に30機ものエステバリスが叩き伏されている。

「弱い」


ざしゅっ。


「弱い・・・」


がこんっ。


「弱いぞ!」



・・・どんっ。



一機のエステバリスが閃光を放ち、爆散した。

北斗の機体からはDFSの透明な刃がー。

「あはは!落ちちゃえ!」


ぼんっ。



枝織は拳撃のみでエステバリスを翻弄していた。

「枝織、遊ぶのもいいが機体のほうを気遣ってやれよ?

この程度の雑魚に得物を壊してしまっては一流ではない」

「うん、北ちゃん」

「・・・その呼び方はやめろといったはずだ」

北斗が呟くのとほぼ同時に通信が入った。

『敵は全滅したな?』

「ああ、全滅だ」

『シャクヤクの奪還に入る。

・・・・・・チハヤ殿、ライザ殿、案内を』

『ええ、わかってるわ』

「よし・・・カトンボ、着艦せよ!」









30分後のブリッジ。

「・・・たった2機の機体が50機ものエステバリスを・・・!?」

「しかもその機体は赤とピンクのサレナ・・」

「確かにサレナを操れるならそれくらいは容易いだろうな・・・」

ブリッジでシュン達は奥歯を噛み締めた。

「・・・しかし今引き返したところで間に合うはずがありません・・。俺達は進みましょう」

「・・・そうだな」

コウタロウの一言にシュンが頷いた。

「よし、各自元の配置に戻れ」

それぞれ散開して行った。






アキトの部屋。

「・・・・クソッ!サレナが奪われたあたりから歴史が変わってきたとは思ったが・・・。サレナを操れる奴が居たとは・・・!」

「迂闊だった・・・だが、誰なんだ?奴は」

「分かるわけないだろ!」

アキトは叫んだ。

部屋には逆行者が集まっていた。

「しかし・・・どうも二機だったというのが気にかかる。・・・北辰は死んだんだろう?」

三郎太は誰にともなく呟いた。

「・・ああ。シェリーちゃんが見た」

「・・・・肺に炎が入ったら即死です、生きているはずがありません」

「・・・それよりだ。

つまりは俺、そしてアキトと同じぐらいの実力を持った奴が木連に居る・・・。

それも二人だ。

今回は北辰が居なくなったから楽勝・・・とまでは行かなくてもそれほど辛い戦いはないと思っていたが・・・。

甘かったな」

「ああ、甘かった。和平交渉もスムーズに行かないかもしれない」

「・・・アキコ、私はどうすればいいと思う?」

コウタロウの一言にそこに居た人物全員がそちらを向いた。

「・・・・・私はもう艦長じゃない。

誰かを動かす事も出来ないし、和平の交渉にも多分でられない。

・・・・・・・・・私は・・・どうしたら・・・」

「コウタロウ、そんなに気にしなくてもいい。

俺は戦う。

お前の為に、ここに居るみんなの為に、ナデシコのクルー全員の為に。

・・・・・この戦争がボソンジャンプの権利争いである事を知れば、みんな戦争なんかしたくなくなるさ。

お前は俺の心の支えになってくれるだけでもいいんだ。それだけで俺は戦える」

「・・・・アキコ」

コウタロウは潤んだ瞳でアキコの方を向く。

すると三郎太が口を開いた。

「お熱い中申し訳ないんだが、

これからの動向なんだが・・・恐らく前回同様、和平まで持ち込む事は難しくないはずだ。

何しろ、資源、人材、そして食料などなど、木連は疲弊してるだろうからな」

「つまり?」

「つまり、さし当たってはその二人を抑えれば、問題はないということだ」

「・・・えらく楽観的なんだな」

「ま、戦場で色恋沙汰をしようって目論む男ですから」

へらへらと笑ってみせる三郎太。

しかしその辺の理論から行くとアキコ達は恐ろしく楽観的な思想の持ち主になってしまう気がするが。

「艦長、あんたはどうお考えだい?」

「私はシェリーです。そこの三郎太さんとは知り合いじゃありません」

「おっと失礼。ちっこい艦長、どうですか?」

三郎太はルリの方を仰ぐ。

「今は艦長じゃありません。それにちっこいは余計です。

・・・・・そうですね。ここから先は何が起こっても不思議じゃありません。

サレナがあちらにいってしまった以上、サレナを操れる人物が居てもおかしくありませんよ」

「ま・・・そういう事だな。

じゃ、今日のところは解散だ」










「ハーリー君、少し話があります。部屋に来て下さい」

「・・はい」

逆行者会議が終わった後、ハーリーはルリに呼ばれた。

普段であれば悦び勇んでくるところであるが、今はルリに大浴場で姿を目撃されているだけあって気まずいだけだ。

「・・ハーリー君。もう少し男らしく出来ませんか?」

「・・・すいません」

「謝るところじゃありませんよ」

「すいません」

「謝るところじゃないって言ってるでしょう?」

「・・・ルリさん、僕って何でこうなんでしょう」

「ハーリー君、情けないですよ」

「・・・・・すいません」

「・・・はぁ。アキトさんもたまに情けないですが、あなたがそこまで情けないとは思いませんでしたよ」

「・・・・・僕は一体どうしたら」

「・・・・とりあえず怒ってませんからラピスに背中を流せといわれても断りなさい」

「・・・そうですよね。でもあの赤い槍は・・・殺されそうなんですが・・・」

「やっぱり脅されてるんですか・・・」

ルリは小さい溜息をついた。

「・・・・・ハーリー君。このままだと確実に尻に敷かれた亭主になりますよ」

「・・・・・・ほっといてください。僕は所詮その程度の男です・・・」

「・・・ハーリー君。私の事、好きですか?」

「・・・・・はい」

「恋愛でですよ?」

「・・・はい」

「・・私はどんなに情けなくてもアキトさん程度でなければ嫌いですよ」

「・・・・・僕は・・・駄目人間です」

すっかり自信を無くして落ち込むハーリー。

「・・・私、アキトさんの事を好きです。ハーリー君にも言いましたよね?」

「はい」

「初恋は叶わない・・・知ってるんですけどアキトさんはユリカさんを失っています。

・・・そう思うと・・どうしても代わりにされてもいいからって思っちゃうんです」

「・・・僕みたいなのが割り込む隙はないですよね」

「でも、ハ−リー君。あなたは強くなろうとしないんですか?」

「え?」

「相手が好きだったら護りたい、そう思うのは当然です。

・・・私はアキトさんの弱い心を支えたい、その為には甘えちゃいけないと思っていたんです。

・・・・・最後の最後で弱いと思われたくないですから」

「僕は・・・ルリさんの為に何も出来ない・・・そう思ってました」

「いいえ、少なくとも何か出来るはずです。

・・・私は強くなろうとしてます。

コウタロウさんの言ってた事を思い出して下さい。

・・・本当はアキトさんほど心が強くないはずなのに何か出来ないかと探しているじゃないですか。

・・・・・・ハーリー君。私の為に何かしろ、何て言えませんけど・・・。

・・・私の心を捉えるくらいの甲斐性を持てるようになってください・・・」

ルリは微笑んだ。

「・・・僕、甘えてたんですね。11歳っていう年齢と、立場に。

・・・ルリさんは誰よりも強い想いをもつ人だと僕は思ってました。

どこからそこまで強い想いが出てくるのか分かりませんでした。

・・・・・・僕はルリさんを護りたい。

・・・こんな情けない僕でも・・・ルリさんを護れるだけの男になりたいです」

「・・・ハーリー君、今の一言聞きましたよ。

強くなるんですね。アキトさんほどじゃなくても、私を護れるだけの男になるんですね」

「・・・・はい」

静かに呟くハーリーの表情はどこか凛々しかった。

すると、ルリの手が伸び、ハーリーを抱きしめた。



・・・・ぎゅっ。



「る、ルリさん?」

「これで最後ですよ?ハーリー君を甘えさせるのはこれが最後です。

もし、次にハーリー君が甘える時があるとしたらそれは私がハーリー君に甘える時でもあります。

・・・頑張ってください」

「・・・僕、一人前の男になります。

・・・・・出来ればアキトさんだって超えて見せます」

「無理ですよ、それは」

「・・・はは、それが現実ですけど」

「・・・格好よくなりなさい。ハーリー君」

「・・・・・はい」

ハーリーは少女の姿のまま、男としての成長を遂げた。













「・・・・・あの二人と同じくらいの実力・・・うかうかしてられねえよ」

リョーコはトレーニング室で技の研究に励んでいた。

彼女は居合の使い手である。

しかも、新エステに変わってからは居合が再現できる。

それならば、という事だ。

「・・・設定、「senjin」・・・よし」

コンピューターレベル、「senjin」。

アキトの戦闘の癖、必殺技などを解析して作られたナデシコのみのシミュレーターレベル。

ウリバタケがリョーコに頼まれて搭載したものである。

・・・・ちなみにナデシコの一流パイロット達ですらこのレベルで1分持った事はない。

「バースト・モード!」



ばしゅっ。




バーストモードをいきなり使用するのは負けパターンだが・・何かヒントが欲しかった。

それにバーストモードのほうが技に幅がでる。

「こい・・・アキトの偽者」

わざわざ言うまでもないことだが、彼女はあえてそう呟いた。

それは、先日アキトがクルーを試した事から、アキトに敵に回って欲しくないという願いからである。

女々しいとは思っている。

だが、言わずにいられない。

『九頭龍閃』


ごぁぁぁぁ!!


9匹の赤い竜がリョーコを襲う。

(・・・アキトはこれをかわして見せるんだろうな)

リョーコは避けながら受けた。

新エステでも、これが限界である。

本来、この技は敵を蹴散らすのに使うのだが、範囲が大きい分、連発されると近づく事すら難しい。

無論、ディストーションフィールドが持たないので連発などもってのほかだが。

(・・・・・一方向への『流れ』。この技の流れは間違いなく一箇所に集中している。

けど、この技の本質は『突き』だ。

『薙ぐ』訳じゃねえ。

芯を喰らわなければ良いだけだ。

つまり、『流れ』にそって『流す』)

リョーコはうまくそのままの体勢で流れから外れた。

(そして、アイツに近づく。

・・・接近戦でも勝ち目はねーよな。

でもやらなきゃならねえよ!)

ディストーションフィールドがなくなってしまったため、ハンドカノンを正射し、リョーコを近づけまいとする。

(くっ!そうだよな、普通はそう来るよな!)

だが、あくまでアキトの真似である。

リョーコの回避はすれすれで成功している。

「行けえ!フル・バーストォ!」

『READY?』

(ここだ!)

アキトダミーはDFSを構え、リョーコのエステを切り裂こうとする。

「おせぇええ!」

吼えるリョーコ。

彼女は見えていた。アキトの太刀筋が。

アドレナリンが多量に分泌されているのか、彼女には全てが見えた。

(上、横、斜め!)


ぶぉっぶぉぶぉんっ。



全て受け、リョーコは止まった。

普通に見ればとまったなどとは思えないが、彼女には10秒にも20秒にも思えた。

その20秒と思えた時間はおよそ0.01秒。

感覚の加速である。

極限まで加速した感覚の中でリョーコは一分の隙を見抜いた。

そこに突っ込んでみせる。

(遅え遅え!ぶった切れろ!)

アキトダミーは彼女を切ろうとした。だが、彼女は既に受けていた。

流れるようにダミーのDFSの上をリョーコの赤雷が駆け、切り裂いた。

「らぁっ!」


ぱしゅん・・・・・。



「・・・・・」



ぱちぃんっ・・・。



リョーコは赤雷を鞘に収める。

同時にダミーは爆発した。



・・・・どごおおん!



「今の感覚だ・・・これが、これがいつでも出来れば・・・アキトに追いつけるかも知れねえ」

・・・・彼女は何かを掴んだようだ。















作者から一言。

「嵐の前の静けさ」。この一言がテーマじゃないでしょうか。

まあ、色々起きてますが。

では、次回へ。

 

 

代理人の感想

・・・・・・・・・・・・・・・・・うーん。

無節操さんはギャグやパロディやほのぼの話入れないほうがいいかも。

シリアス方面を突き詰めれば化けるかな・・・・?