短編小説集・こんなIFがあったとか言う話。「君は人のために死ねるか」
墓場に三つの影があった。
そこにある墓に入っているはずの男は、こう言った。
「君の知っているテンカワ・アキトは死んだ」
その男に対して、万感の思いを見せる事もなく、少女は答えた。
「それカッコつけてます」
『昨日一人の男が死んだ』
男は、少女にメモを渡した。
その内容を見て少女は驚く。
「これ・・・」
「あのラーメンのレシピだ。
彼が生きた証・・・受け取って欲しい」
「こんなの受け取れません」
「違うんだ・・・俺・・・頭ン中引っ掻き回されて・・・」
バイザーを外し、男は向きかえる。
「五感がもう駄目なんだ・・・特に、味覚がね」
男はそれを渡し終えると、戦地に赴く。
ただ、妻を救い出したいという一心で。
『戦って戦ってひっそり死んだ』
一度、死んだ男は・・復讐を果たし、妻を救い出すために。
黒い鎧を纏い、赤い目をした男に挑む。
「来たか・・・遅かりし復讐人よ」
「北辰・・!」
「だが・・まだ未熟」
『あいつは何のとりえもない素寒貧な若者だった』
「うおおおおおおぉぉぉっっ!!」
黒い鎧は、ひたすらに赤めの男を追う。
そして、ついに・・・復讐は完遂される。
『しかしアイツは知っていた熱い涙を』
顔中にナノマシンの煌めきが・・・溢れる中、男は涙を流し・・そして、脱力する。
(ユリカ・・・)
もはや、彼は死を覚悟していた。
このまま、誰かに撃墜されてもかまわないと思っていた。
だが、彼は生き残る。
何かに生かされているかのように、無事に戻るべき艦に戻る・・。
そして、桃色の髪をした少女に支えられ・・・船を発進させる。
(ユリカ・・・幸せになってくれ・・・)
願いながら、彼は飛び立った。
しかし、彼を追うものも、居た。
「帰ってこないなら、追っかけるまでです。
だって、あの人は大切な人だから」
新たな決意を胸に、少女は・・男を追った。
ただ、自分達の元に戻ってきて欲しい為に。
それだけの為に。
だが、少女は知らなかった。
男の妻が、彼女が考えている以上に危険な位置に居る事を。
「ユリカが捕らえられた?」
「ええ・・・連合軍も、彼女を翻訳機として欲しているみたい」
「・・・く。
どこへ行っても・・・俺達は利用されるしかないってのかよ・・・」
「・・・アキト君」
「・・・俺は、一度死んだ・・・」
『戦って死ぬ事をどうして死んだのかとは訊かない訊かない』
「そうね・・・でも、彼女を護れるのは所詮・・・あなただけってトコなんじゃない?」
「・・・行って来る」
男は立ち去る。
秘書は、立ち尽くしながら涙を流した。
男に、泣き顔を見られないがない故に、耐え忍んだ。
「な・・・んで・・・」
そして、床に崩れる。
「何で・・・あなたたちばかりそんな目に会うのよ・・・。
幸せになる資格がないって言うの・・・?
残酷よ・・・あなた達はまだ何も出来なかったって言うのに・・・」
『でもアイツの青春はどこへどこへ埋めてやればいい?』
「ラピス・・・恐らく俺はここで・・全身全霊を掛けてあいつを救う・・。
死んでも、悲しまないでくれ」
「・・・駄目、行かないで」
「・・・俺は、あいつの事が・・」
「うん、分かってる」
桃色の髪をした少女は引きとめながらも・・・分かっていた。
男の気持ちは、痛いほどに分かっていた。
それは心が繋がっていた故であり・・。
それ以上に、自分の気持ちでも理解できた。
「・・・アキトがそんな風にされたら・・・私もそうするから・・・」
「・・・すまない。
代わりに、生きて帰ってこれたら・・・不味いかもしれないが、俺がラーメンを作ってやる」
「!ホント!?」
「ああ、約束だ」
(・・・俺はこうして人に未練を残すのか・・。
いや、俺自身・・・未練だらけの人間だからな・・・。
ユリカを・・・救い出したら・・・どうするんだろうな?)
『君は人のために死ねるか?』
男は、愛に殉ずる覚悟を持っていた。
ヒ ト
『君は、愛する女性のために死ねるか?』
男の妻は・・・保護という名の元、監禁されていた。
(アキトが・・・傷付いた・・・私のせいで・・・)
真っ白な部屋の中、真っ白なベットの上で・・・彼女はただ、すすり泣いていた。
(アキト・・・戻ってきて・・・・)
涙が、シーツの上に零れ落ちた。
(お互いを支えあうのが・・夫婦・・・・私から逃げないで・・・。
私は・・・アキトの奥さんだもん・・・頼らせるだけじゃ・・・駄目だよ?)
そして男の妻が乗っていた艦に・・・衝撃が走る。
どごんっ!
(ユリカ・・・!)
男は走りながら、妻の名を心で叫ぶ。
男の前に立ちふさがる兵士達は次々と倒れる。
『昔、人は戦で死んだ』
男は、単独で・・・艦に乗り込み。
妻を助ける為に危険を冒す。
『国の為、戦って、黙って死んだ』
軍の狗は・・・無能だった。
所詮は戦艦要員、戦闘はお世辞にも上手とはいえなかった。
『しかし世慣れた囁きや薄ら笑いで』
男は、黙ってみて居る事など出来なかった。
妻が・・・自分が思っている以上に危険視されている事が腹立たしかった。
何より、自分の自己満足の為に放っておく事などは論外だった。
『幸せを護れるか?明日に男が死んで消えても消えても』
男の決意は・・・それこそ、固かった。
(ユリカ・・・!助けるからな・・・護るからな!)
頭の中にはそれしかない。
体のほうが勝手に敵をなぎ倒しているような気がしているほどだ。
『花も言葉も要らない』
(出来れば忘れて欲しかった!)
『風が過ぎたら忘れて欲しい』
(けど・・・それで不幸になるくらいなら!)
そして、男は到達した。
妻が居る部屋に。
「ユリカぁーっ!」
「あ・・・アキトっ!」
男は、妻を抱き締めた・・。
それは、とても対照的な・・色合いをした二人だった・・。
「アキト・・・アキト!
ごめんね・・・私・・・アキトが苦しんでいたのに・・・苦しんでるのに・・・!」
「いい、ユリカ・・・お前は悪くないよ」
「アキトぉ・・・」
「ああ・・・俺こそ悪かった・・・。
お前を護ろうともしないで・・・逃げて・・・」
「大丈夫だから、そのっ・・・」
嗚咽でうまく言葉が継げない妻を、男は・・よりいっそう強く抱きしめる。
ぎゅっ。
「ユリカ・・・屋台は出来ないかもしれないけど・・・また一緒に暮らそう・・・!」
「あ・・・きとぉっ・・・」
妻も抱きしめ返した。
『君は、人のために死ねるか?』
ヒ ト
『君は、大切な家族の為に死ねるか?』
「侵入者め・・・大人しく投降しろ!」
ばすんっ、ばすんっ。
男のブラスターが兵士の足に命中する。
だが、男にも兵士の銃撃が命中していた。
『許せない事がある 許せない奴がいる』
「ぐ・・・もう一発・・・」
しかし、男には効いていなかった。
男の服の性能ゆえだった。
そして二人は青白い光に包まれる。
「・・・・無駄だ、お前の・・・負けだ」
『何度倒れても倒れても立ち上がる立ち上がる』
そして兵士は、思い出したように口にした。
「おっ、お前は・・!プリンス・オブ・ダークネス・・」
「違う・・・俺は・・・俺の名は!」
消えかかりながら、男は言った。
『俺の名は・・・』
「テンカワ・アキトだ!!」
作者から一言。
うおおおおあっ、電波じゃなく熱血の血がああ。
ナデシコは熱血じゃないし、これはどっちかといえば木連サイドですよねえぇっ?
・・・・・・あー、自己満足。
てか、ユリカの場所に行く際はボソンジャンプは使えない事にしました。
書いてませんけど←馬鹿。
書いちゃうと冷める気がして・・・。
それに、こういう時はそんなものを使わないほうがいいだろうし。
サンクス、杉良太郎。
代理人の感想
うむ。
短いながらも起承転結はちゃんとして、それなりに燃える話です。
(それなりなのは純粋に腕の問題)
お話ってのはこの程度でもええんでないかね、と思ったり思わなかったり(笑)。