僕はプロスペクターから口頭での報告を受けた後、
彼の部下の撮影した一部始終を端末で見ていた。
元・テンカワアキト、現在のホシノアキト…その実力に興味があった。
「…やはり、かなりなまっちょろいやり方をしているな。
もっとも、そのおかげで隠蔽工作も楽だったんだろうが」
彼自身は昔に戻っているつもりのようだったが、僕の知る彼はこんなに甘くない。
ヤクザを拷問のように痛めつけているとはいっても、
指をへし折るだけで済ませるのは、やはり生ぬるい。
ほとんどの構成員は一晩意識を失っていたようだが、入院もしないレベルの怪我で済ませている。
かつてのテンカワ君だったら、どんなに手加減しても2、3人は死んでいたはずだ。
──数人殺して、実力差を見せつけて戦意を削いで、その上で浮足立った連中を皆殺しにする。
…そのころから考えればずいぶんと優しくなったね。
もっとも本来の、昔の彼らしいとも言えるが。
その後のプロスに叩きのめされたホシノ君を見ても…。
やはり身体だけではなく、
思考や精神がかなりこの世界の『ホシノアキト』に引きずられているのが分かる。
…技術面に関しては、どういうわけか壊滅的か。
もっとも、プロス曰く、
『どう考えてもなにかしら格闘術を持っているのになぜか使わなかった』ということだが。
恐らく、久しぶりの興奮状態で何かしらおかしくなっていたんだろうが…。
かつての『黒い皇子』として完成してしまったテンカワ君は、
戦う時は自分の昂りを制御することが出来ていた。
人として狂っては居ても、どんな状況でも技術を手放すことなどあり得ないことだ。
「やっぱり、本格的に腑抜けになったんだね。
彼は」
「…さっき連絡があったわよ。
いつものアキト君に戻ったって」
エリナ君が入室してアキト君の近況を伝えてくれた。
「ほう?
…まあそうだろうね。
今のテンカワ君…いや、ホシノ君の精神と肉体では、
『黒の皇子』には耐えられず、
『この時代のホシノ君』で居続けるには退屈が過ぎるだろう。
長く保つはずがないのさ」
「…それと事後報告だけど、
ラピスの脳波がだんだん活発になってて、
いつ目覚めるか分からないから養子の手続きをしておいたわ。
ユリの親のほうに養子に…」
「は?どうしてだい?
里親が存命中のアキト君の妹でもいいじゃないか」
あのラピスを娘同然に可愛がっていたエリナ君が、
ラピスの意見を聞かぬままこういうことをするというのは、らしくない。
とはいえ、マシンチャイルドはまとめて家族にしておいてもいい気もするんだが。
ホシノアキト、ホシノルリ、ホシノラピスのマシンチャイルド三兄妹でいいと思うけどねぇ。
…考えただけでも壮観だね、その光景は。
ん?
もう一人ナデシコCのオペレータの少年が居た気がするが、名前が思い出せないな。
「…あっちのホシノ家は、がめついのよ。
相談してみたら名義貸しだけでも1億くれっていうし。
私達も余裕がないのに、はぁ…」
…何ともリアクションしづらいね、これは。
もっとも、彼らの言い分はそれほど否定しきれるわけでもない。
名義上のみの容姿でも、何かあれば結局引き取る責任を負う可能性はあるわけだからね。
ラピスの事はテンカワ君への義理立てもあるので金を惜しまないつもりだが、
確かに余計な経費は避けたい。
ホシノユリの両親は表面的には生存しているが、実際は死亡している。
…死人に口なし、影武者に書類手続きをしてもらった方が手続きも楽なんだろう。
しかし、手続きに行った両親、養子の3人が全員影武者というのは、なんだか気味が悪いね。
ラピスが目覚めないから仕方ないとはいえ。
「それにね」
「なんだい?」
「ラピスに恨まれたくないから」
「は?」
「調べたんだけど、
養子同士の結婚は出来るけど、
それだと世間的に面倒な所があるでしょう?
ユリの妹にしておいた方が、問題が少ないのよ」
えーと…それは…。
「まさかそれは、
ラピスにも…ホシノアキト君と結ばれるチャンスを?」
「そうよ。
人間いつ死ぬか分からないし、
その時、ラピスに恨まれたくないのよ。
…もっともアキト君の方が、寿命に不安はあるけど…」
…なんとまあ。
テ…ホシノ君も、何というか災難だな。
またもや自分の娘同然の子に迫られるか。
まあ、今のホシノ君の状態を鑑みるにその時が来たらあり得ないことじゃないが…。
──エリナ君。
そのやり方はラピスを補欠扱いしてるってこと、分かってるのかい?
俺達はおとといの『ホシノアキト幼児退行事件』から立ち直って翌日、
早速オフィス部分だけでも掃除をはじめた。
綺麗に清掃して、机と応接スペースだけでも整えて格好がつくようにした。
そうしなければ話し合いすら近所の喫茶店にわざわざ移動しなければならないからな。
格納庫になる倉庫部分や3、4階の居住スペースの掃除は後回しだ。
中古だがオフィス用のデスクを買い、椅子は消耗品なので新品、
ウォーターサーバーは補充式ではなく水道水の濾過式。
一応冷蔵庫もある。
コストはできる限り削りつつ、快適なレベルに整えた。
応接スペースに俺とユリちゃん、
そして眼上さんで真新しいために固いソファに腰かけて、
コーヒーをすすりながら事件の顛末を話した。
とは言っても、暴力団の部分はバッサリとカットせざるを得なかったが。
「大変だったわねえ…。
でもホントに戻ってきてくれて良かったわね、ユリさん」
「ええ…ホントです…」
ユリちゃんと眼上さんがホッとしている。
この二人には苦労を掛けてしまって…本当に頭が上がらないな…。
…まあ、今回の事は一日にしていろいろと懸念事項がなくなっただけいいんだろうが…。
「それじゃ早速人集めと…身辺の整理が必要になりそうね」
「そうですね。
さすがにコスプレ喫茶も辞めるべきでしょうし…。
ちょっと余裕があったら個人的な用事もありますし…」
「個人的な用事?」
「私は訳あって養父母に育てられたんですが、
この間、私の血縁上の父が私を見つけてくれて、
ぜひゆっくり話がしたいと…」
「あら!おめでとう!」
眼上さんは満面の笑みで手を合わせて祝福してくれている。
ユリちゃんは静かに微笑んでいる。
「私もまだ記憶障害が完全には治ってませんが…。
2年前に養父母を亡くして心細かったもので」
「いいわよ、忙しくなる前にぜひ会ってきなさい。
幸い、アキト君の事があったからリスケジュールしてあるし…。
五日後の14時、ここで会いましょう。
休養も兼ねて休みながら、予定を合わせてもらって会って来なさいな」
それはありがたい。
ミスマル家に挨拶に行くのなら…俺もいい加減、ユリカへの未練を断たねばならないだろう。
未練があれば、また俺のドス黒い部分が目覚める可能性がある。
生きているユリカを目の前にして、自分を抑えきれるだろうか…。
いや、抑えねばならないだろう。
俺はホシノアキトでいい。
テンカワアキトに成り代わるなど、自分が逆の立場だったら許せない。
…幸い、髪が黒い状態にならなければ憎しみや怒りが噴き出すようなことはないし、な。
私がミスマル父さんに会いに行くと連絡を入れたら、とても喜んでくれました。
意外と早くに会えることになって…。
お忙しいのに、休みを取ってくれたようです。
昨日はアキトさんのコスプレ喫茶の同僚に手伝ってもらって3、4階の清掃をして過ごしました。
あ、もちろん少しですが謝礼と食事は出しました。
一日仕事になってしまいましたから…。
そして眼上さんとの話し合いから2日…。
私たちはミスマル家に向かっています。
ミスマル父さんは迎えを出させると言ってくれましたが、
私たちも心の準備が必要なのでゆっくり向かいます、と伝えました。
「…アキトさん、本当に大丈夫なんですか?」
「ああ…。
ユリカへの気持ちに決着をつけないと…」
アキトさんはそう言いながらも震えています。
ばっちり変装して目元が見えないにも関わらず、不安が良く分かります。
…かくいう私も、あまり動揺しない自信がありません。
二人して勇気が出なくて約束の時間よりずっと早く到着して、
迷いを振り切りたいと思って、もうかれこれ2時間以上歩いています。
さすがに足が疲れてきてしまいましたね…。
…これではミスマル邸に向かっている、とは言えませんね。
「ユリちゃんはもう迷いはないんだよね」
「はい。
…自分が娘でいいのかためらっている所はありますけど、
娘として迎えられることにはなんの迷いもありません。
私はミスマル父さんの娘になりたいんです…」
許されることではなくても、私はミスマル提督の娘で居たい。
しかし…ミスマル父さんはきっとアキトさんの過去が空白であることに気づき、
調査をして、クローンであることを突き止めてしまうかもしれません。
ミスマル父さんがアキトさんがクローンと知ってもなお、
娘婿として認めてくれるかはわかりませんが、
もし受け入れてくれれば、アキトさんはミスマル家の庇護を受けることが出来ます。
そうなれば絶対安全とは言えないまでも、立場上の不利が大分軽減できます。
ただそれは外部に対しての話…アキトさんの内面的には…。
「でも…いいんですか?
ユリカさんが、義理のお姉さんになるんですよ?」
これはアキトさんにとってはかなり酷な話になると思います。
想い人が義理の兄や姉になるというのは、実体験を持ってその辛さは思い知っています。
「…俺は昔のルリちゃんのように、
愛する人を、義理の兄弟としてを見つめることになるんだね。
ユリカに焦がれながら、彼女を姉さんと呼んで…。
そしてユリカが幸せになる姿を…見つめるんだ…」
私はアキトさんの横顔を見ていられなくなりました…。
私たちはこの2時間、歩きながらずっとユリカさんとの関係を話していました。
それでも決着はつきませんでした。
…言ってはいけないことですが、私は言わずにはいられません。
「……私と別れてユリカさんを愛しても私は恨みません。
私に縛られないでください」
私は…アキトさんに苦しんで欲しくない。
そうなってしまえば、私が苦しむ事になるのは明らかです。
でもアキトさんが私と別れてユリカさんと幸せに過ごす…。
その姿を見たい気持ちもあります。
それが本当の、本来の「ホシノルリ」の運命なんですから…。
でもアキトさんは首を横に振りました。
そうは思わなかったみたいです。
「この時代のアキトから、ユリカを奪うことはできないよ。
…少なくとも俺が愛したユリカでなければそんなことはできない。
自分ではなくても、火星の後継者に踏みにじられる事なく、
『テンカワアキトとミスマルユリカが幸せになる世界』があるならそれでいいんだ…」
…それがアキトさんの決意。
アキトさんが本気でユリカさんを愛しようとすればきっと振り向いてくれます。
テンカワアキトではなくても…。
それでもその可能性に賭けることも諦めてしまうなんて…。
私がかつて背負った運命をアキトさんが背負って、私を選んでくれている。
…その気持ちを否定なんてできません。
私は何も言い返せませんでした…。
「いずれ吹っ切らなければならないんだ。
…今は君がいてくれれば大丈夫だよ」
「ありがとう、アキトさん」
アキトさんは微笑んでくれた。
その微笑みがどれだけの無理を内包しているのか、はかり知れません。
アキトさんの気持ちに報いるためにも…これからもアキトさんを助けないと…。
「…先に言っておくけど、俺の出自も、ユリちゃん事も…。
ルリちゃんとラピスの事も、話しておこうと思う。
途中でユリカが居なくなる場面があったら、お義父さんには伝えて相談しないと…」
「そうですね…かえって隠し通そうとするとボロが出そうですし。
…そういえば、ラピスの戸籍…。
私の知らぬ間に私の妹にされていたんですか?」
「…みたいだね。
昨日、エリナから事後連絡が来たんだ。
呼び名が決まったから仮に登録してくれたんだって。
それにもしかしたらもうすぐ目覚めるかもしれないから」
…確かに今の私の育ての両親が生きていることになっているとはいえ、
エリナさん、ちょっとやり方が雑じゃありませんか?
…まあ助かりますし、迷惑ではないんでいいんですけど。
「…そろそろ行こうか」
「…はい」
時間通り、ミスマル邸にようやく到着し、
門をくぐったところで私達はようやく変装を解きました。
──ユリカの実家に来るのは、二度目だ。
…後ろめたい事は、たくさんある。
前の世界でも、今の世界でも。
恥知らずと自分を批難したいが、それでも俺はここに戻ってきてしまった。
「おお!来てくれたか!!」
ミスマル提督…お義父さんが満面の笑みで迎えてくれた。
俺も嬉しい気持ちが…胸が締め付けられる気持ちと共に襲い来る。
だが今は抑えなければならないだろう…。
「…お義父さん、挨拶が遅れて申し訳ないです」
「いや、いいさ。
君たちも忙しかったろう」
…こういう時、芸能人という職業は分かりやすくていいな。
この1ヶ月くらいは毎日どこかしらの番組に顔を出していたし、
顔を覚えてもらえていたのが良かったのか、
お義父さんも俺を観察するようには見ていない。
いやお義父さんの事だ、それでも人物像まで丸見えだろう。
「…お気遣いありがとうございます。
お父さん」
ユリちゃんは、もじもじしていた。
…お義父さんが実の父親であるというのが、本当にうれしいんだな。
良かったね…。
「ユリカ、こっちに来なさい。
ユリとアキト君が会いに来てくれたよ」
「はーい!」
俺は、ぐっと自分の胸を押さえた。
心臓が高鳴る。
ユリカの声。
どれだけ聞きたかっただろう。
焦がれたその声。
元気で優しいその声。
もっと彼女の声を聞きたい…。
彼女が戸を開けた時──。
ユリカは、いつも通りの笑顔でそこに佇んでいた。
俺はその光景に、目頭が熱くなるのを感じた。
ああ──あの頃のユリカだ。
現実に、今ここにいる…。
何度も夢見た。悪夢と共に。
笑顔の彼女を、もう一度見られるなんて…。
俺は彼女を抱きしめることは、もうできない。
それでも、嬉しかった。
ユリカは、ユリちゃんの前に座って、彼女の手を掴んだ。
優しい笑顔でユリちゃんを見つめて居る。
ああ……その笑顔は、きっともう二度と俺に向けられないのに。
目が離せない…。
「あなたが…ユリちゃん…?」
「…はい、ユリカさん」
「そんなに他人行儀じゃなくてもいいよぉ!」
よろしくね!」
「はい…ありがとう、ございます…」
ユリカはユリちゃんの手を握ったまま、力強く上下に振る。
…子供っぽいところは変わらないな。
当たり前だが。
今度は抱き付いた。
とても力強く…。
「さっすが私の妹!かわいい!」
ユリカの自画自賛はさておいて──。
ユリちゃんはそれどころじゃないんだろう。
妹になれた嬉しさも、ユリカへの罪悪感も…抑えきれずにいるはずだ。
ユリちゃんはもう涙を流しながら、震える事しかできなかった。
「ど、どうしたの?」
「いえ…その…嬉しくて…」
「…うん、私も嬉しい」
ユリカはそっとユリちゃんの涙をハンカチでぬぐった。
「ありがとう…ユリカさん…」
俺も感極まってしまい、たまらず変装に使っているサングラスをすっとかけた。
言い訳だが、ユリカに『アキト』と気づかれるとユリちゃんに集中できないと思ったからだ。
「アキト君、どうした?サングラスなどして」
「いえ、二人がまぶしくて…」
「ふっ…分かるか、君にも」
ユリカはともかく、お義父さんには泣いてるのは既に気づかれているだろう。
それでも、俺の苦しい言い訳に合わせてくれたお義父さんの気遣いに、俺は感謝していた。
ユリちゃんもだんだん落ち着いてきたのか、笑顔でユリカの抱擁から離れた。
俺は少し控えめに、ユリカに挨拶した。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
ユリちゃんが落ち着いたのを見計らって、ユリカがお茶を淹れて俺達はしばらく歓談した。
こういうところはお嬢様らしいよな、ユリカは。
話はPMCマルスの事から始まり、
戦略的な用語が飛び交う軍事家庭ならではの歓談となり、俺は完全に蚊帳の外だった。
俺は仮に、元の世界でユリカとルリちゃんの元に帰ってもこういう場面が起こったんだろうなと考えていた。
当然、しばらくすると話題は俺の方に移り…。
「そういえばユリちゃん、結婚してるんだよね。
…ゴメンね、アキト君。
テレビで見慣れてるせいか、放っておいちゃったね」
「いえ、構いません。
ユリカ…義姉さん…。
俺は今回はおまけみたいなもんですし」
…難しいな。
ユリカに敬語で、義姉さん呼びっていうのは…。
新鮮な感じもするが。
まあテレビなんてながら見したりするものだから、
ファンでもない限り俺はながら見感覚で見られるのがちょうどいい。
「いや、すまんすまん。失礼だったな。
見慣れているとつい慣れ慣れしくなってしまうものだな。
街中でも変装してないと気安く話しかけられて大変だろう」
「…ええ、ホントに大変です」
俺はついがっくり肩を落としてしまった。
バッチリ変装していても…たまに変装を見抜く子までいる。
逃げるにも、恋する乙女のパワーというのはスゴいもので、
鍛えた俺の走りに火事場の馬鹿力みたいな速力で追いついてくるからな…。
「ねえ、アキト君。
いつまでサングラスしてるの?
家でかける必要ないでしょ?」
「あ、これは…その…」
「アキトさん、そろそろとりましょうよ。
失礼ですよ」
「はい…」
…正直に言うと、俺はユリちゃんに強く注意されると逆らえない。
ホシノアキトとしての人生が、俺に『ユリちゃんが絶対』と上下関係をたたき込んでしまっている。
思考停止しているというか、ほとんど無意識でそうしてしまう。
ユリちゃんもそれが分かっているのであまりそうならないように話してくれるが、
今回はすぐに従うしかなかった…。
…こういうの、『尻に敷かれている』って言うんだっけ?
ちょっと違うか?
サングラスを外した俺を、ユリカは目をぱちくりして見ている。
「あれ…?
どこかで会ったこと…」
俺の髪の色と金色の瞳以外は、すべてテンカワアキトと同一だ。
肌の色も少し白いが、大差はない。
俺の姿を見て、ユリカはこの顔に見覚えがあり…。
自分の脳内に『アキト』という大事な名前があった事を思い出したようだった。
「もしかして…!」
「おいユリカ!?どうしたんだ!?」
ユリカは自室に走って戻り、写真立てを持ってきた。
俺の顔と、写真立てのアキトの顔を見比べる。
…やはりテレビ越しだと気づきづらいんだろう。
この段階になって気づいたんだろうな。
「やっぱり…アキト…テンカワアキト…」
「あ、いや…」
俺が否定しようとしたのを気にせずユリカが弾けた。
──ああ、やっちまった。
ユリカがナデシコに乗った時時のように騒ぎ始めるんだろうな、と俺は思っていた。
しかし、直後にユリカはぴたりと止まって、ぶつぶつ言い始めた。
「…あれ? テンカワアキト。
ユリちゃんの夫が、ホシノアキト。
きっと、婿養子…。
アキトはユリちゃんのもの。
アキトはユリちゃんの王子様…。
」
ユリカの瞳から、涙がぶわっっとあふれる。
…頭の回転が早いというか、思い込みが激しいというか。
こちらも声を出そうとしたところで、ユリカの方が先んじて声を上げた。
「あ、あ、あ、あ…。
ユリカは再びダッシュで自室に戻ってしまった。
…しまった、ユリカとの関係ばかり考えていて、
ユリカが俺をテンカワアキト本人と間違える可能性を忘れていた。
「あ…ユリカさん…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「ゆ、ユリちゃんまで…大丈夫だってば、ほら…。
誤解を解きに行こうって…」
ユリちゃんはユリちゃんで、
面と向かってユリカにアキトを奪ったことをなじられてぼろぼろと涙を流していた。
…トラウマがあるからなぁ、こればっかりは仕方ない。
お義父さんも、何が起こったか分からず固まってしまっている。
ユリカは自室に篭ってしまった…。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
俺はユリカにテンカワアキトではない、と繰り返し伝えたが、
ユリカはユリちゃんと結婚したから嘘ついているんでしょ、と聞いてはくれなかった。
……本当にそうだから、タチの悪い状態ではある。
それはそれとして、根気強く彼女に呼びかけて、
身分証まで持ち出して、本籍地の確認を…と思ったが、
知らなかったが本籍地って結婚した時に変えられるんだな。
ユリカにさらっと否定されて、
また一つ一つ丁寧に話さざるを得なかった。
「ユリカ義姉さん、俺は地球出身なんで…。
テンカワアキトは火星の出身なんですよね?」
「えぐっ…えぐっ…。
そっくりで名前も同じなのに別人なんだね…?」
「ええ、ですからあまり泣かないで下さい…」
「…えへへ、安心しちゃった」
ユリカは戸を開けて、ようやく出てきた。
彼女は普段度々子供っぽく振る舞いながらも、納得したら切り替えがやたらに早い。
…昔、北極でグラビティブラストぶっ放して落ち込んだユリカが、
励まそうとしたそばから勝手に立ち直った時のことを思い出したな。
…やれやれ誤解を解くのに30分もかかってしまった。
「ユリカさん、
佐世保でアキトさんに似ているテンカワアキトって人は見かけましたよ」
「えっ!?本当!?
火星が全滅したんじゃないかって話になっていたから、
もしかしたら…って思ったのに…」
おいおい、ユリちゃん…。
「その写真、お借りしてもいいですか?
佐世保に行った時、少し…聞いてきます」
「うんうん!貸しちゃう!聞いて来て!」
「ちょっと、ユリちゃんユリちゃん」
俺はユリちゃんに、耳打ちをしつつ、聞いた。
「いいの?
テンカワアキトをPMCに入れるのはいいとしても…。
こんな段階でユリカ…義姉さんと会わせるなんて」
「いえ、今会っといた方がいいです。絶対に。
…ナデシコに乗ってからじゃ進展が遅れて、二人の恋愛が失敗する可能性がありますよ?
ただでさえ私達が居たら、関係が変化しそうなのに」
…言われてみればそうだ。
恋愛なんてタイミングがすべてだ。
まあユリカの事だから多少のタイミングは全部ぶっ壊すと思うんだけど、
それに俺に対して滑りに滑ってた過去があるから…。
色々変化する可能性がある今、確実性を増すのは悪い選択じゃないか。
「…分かった」
「ねーねー何話してるの?」
「いえ、アキトさんもテンカワさんを見かけたって」
…ユリちゃん誤魔化すのうまいな。
固まっていたお義父さんも何とか再起動できたようで、
その後、またしばらく歓談した。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
テンカワアキトの件は一度保留することになったが、
二人は俺の芸能活動の事に特に興味を持っているようだった。
もっとも、テレビで見たままの事くらいしか話せないのだが。
元々PMCマルスの資金集めのためで、本来の俺からは不本意だったことを話すと、
お義父さんは感心した様子でいた。
「うむ。
一度社会に出れば目的の為に不本意でもやらねばならないことも多いからな。
それができるのは大したものだ」
…パイロットを不本意にしていた以前の俺とはえらく評価が違うな。
まあオモイカネの反抗期の時、燃料施設を破壊したという大ポカをやらかした事を勘案したら、
激甘の評価だった気もするけどな…。
「そういえばユリちゃん結婚式は挙げたの?」
…俺はユリカの言葉に固まってしまった。
そう…俺達は本来、言ってしまえば『保護の為に不本意に』婚姻を結んだ状態だ。
当然式などはしていない。
ただ外部に人間関係がほとんどないから、やっていても味気なくなるだけだろうが。
とはいえ、結婚式どころか考えてみれば夫婦として大事なことはほとんどしていない。
いろんな事が状況に引きづられてばっかだよな…最低だ、俺。
「あっ…その…まだで…」
「そっか、大変だったんだね…うんうん」
ユリカは勝手に納得しているようだった。
『若い二人が駆け落ち結婚』というのがユリカ的な解釈だったらしい。
…半分以上、あってる気がするが。
「…今はちょっとそんな場合じゃありませんし、
お金もほとんど準備に使ってしまいました。
もう何年かして…落ち着いたころにって」
「ユリよ。
懸命だとは思うが、指輪の一つくらいはしておいた方がいいぞ。
既婚者であると示し、身を護る意味でもな。
なあ?アキト君?」
「…申し訳ないです」
…お義父さんはかなり強烈なプレッシャーをかけていた。
俺の背筋にかなり冷たい汗が伝った気がする。
この辺は急造の夫婦であるというのを差し引いても、気が効かな過ぎたな。
「仕事中もほとんどアキトさんと一緒ですし、気にしてません。
指輪より、そばに居たいって…」
「…わがままの一つくらい、言った方がいいぞ、ユリ。
何しろ…お前もアキト君も、死地に向かうんだ。
確実に二人とも生きて帰れる保証があるほど…戦闘は生ぬるくない」
「そう、ですね」
ユリちゃんは小さく震えた。
フォローをしてくれたユリちゃんも、
前の世界のユリカの事もあって我慢しているだけなんだ。
本当は俺ともっと深く…付き合いたいんだろう。
それに…俺もいつ死ぬか分からない。
もし近く死ぬ時があるとしたら、戦闘なのかナノマシンのオーバードーズなのかは分からない。
…今震えているユリちゃんも、どちらかというとその部分を心配している気がする。
いかんな…明日にでもユリちゃんと出かけるか…。
「…。
仕事ばかりで、思い出作りを怠っていた気はしています」
「…ユリ、アキト君…PMCマルスなどやめてしまわないか?
うちに来て、別の仕事をはじめないか…。
芸能界だって、料理の仕事だってできるじゃないか…。
戦うにしても、せめて士官学校くらいは出たほうが良いと思うが…」
お義父さんは俺達を止めたいのだろう。
…ただ、止められて辞められるような状況じゃない。
ある意味俺の…俺達の命以上に大事なものを失うかもしれないんだ。
ナデシコに乗れないなら乗れないで…戦闘経験が認められなければ、
うまく関与する方法が一切なくなる。
お義父さんが言ってくれた事は、
俺達にとってはとてつもなく甘美な誘いだ。
それこそが俺達の願い。
それこそが俺達の夢。
だが…。
「佐世保で俺たちの…PMCマルスを受け入れてくれた社屋の持ち主は、
木星トカゲにすべてを奪われてしまっていました。
…彼らのような人をもう出したくないんです。
少なくとも、すぐに守る必要があります。
私たちが士官学校に入ったりするのではとても間に合いません」
「だが…正規の軍でもないのに人の命を背負うなど…」
「人が生きるには、希望が必要です。
木星トカゲとやり合うなら、
ネルガル製のエステバリスなら勝てる可能性があります。
…この日本で、勝って見せる必要があります」
「希望を見せる為に…か?」
「はい。
……確かに俺の将来の夢は料理人です。
お義父さん、お気遣いは感謝します…。
でも、今は戦わないと…すべてを失うんです…」
──綺麗事というか、少し都合が良すぎる話だろうか。
だが、既に『ナデシコに乗るためのPMCマルス』ではない。
今は、
『ナデシコに乗らなくても俺達が自分の身を守って行けるようになり、
できれば戦争を止める機会を得るためのPMCマルス』だ。
アカツキとの話し合いが失敗すれば、ナデシコに乗ることができない。
…そうなった時、戦争が終わるまでは自分の身を守らねばならない。
まだどうなるかはわからないが…備えておかねばならないだろう。
何より、戦争が終わるまで待つという消極的な事はしていられない。
数の問題ではないにしても、失われる命は少ない方がいい。
できるのになにもしないのは嫌だ。
その為に戦いたいというのも嘘ではない。
…昔、独立する前にサイゾウさんにあいさつに行ったことがある。
その時、初めてサイゾウさんは奥さんを木星トカゲに奪われていたことを話してくれた。
サイゾウさんは…どれだけの涙を飲んだんだろう。
それでもサイゾウさんは強く生きていた…。
だが、すべての人が強くあれるわけじゃない…。
この時代の俺のように、木星トカゲにおびえる人がいるんだ…。
草壁の目論みが分からないにしても、戦争の終結を早めるのは必須だ。
とはいえ、ナデシコ級戦艦なしでは俺達のような少数の部隊では、どんなに頑張っても無理だ。
しかし地球圏すべてがエステバリスの有用性を見出すに至れば、それは不可能じゃない。
…つまり、ナデシコの強さの前にエステバリスの強さを、
一刻も早く地球全体に示す方がよっぽど有益だと言える。
アカツキが独り勝ちしそうなのがちょっと癪だが。
「…そうだな。
君のような若者がそこまで考えているとは…。
私はひどく胸が痛いよ。
ユリが説明してくれたように、
分の悪い戦いではないのは理解している。
…連合軍も一枚岩ではないからな。
連携がとり切れていないがために、戦力が集中できないところがある。
君たちが協力してくれれば何とかなるかもしれない」
「…何とかしましょう。
エステバリスの採用は連合全体は渋るかもしれませんが、
採用せざるをえないくらいの戦果を上げてみますよ」
「ああ。
よろしく頼む」
お義父さんは…いやミスマル提督は、PMCマルスに協力してくれるようだ。
…ありがたい。
俺達のような零細企業では、後ろ盾なしでは危険も大きい。
もっとも抱っこにおんぶになるわけにはいかないが…。
大分気が楽になったな…。
私は初めて出会ったユリとアキト君に、懐かしさを覚えた。
初対面の二人に、ありえないことにも関わらず…。
アキト君は見た目や芸能人をしていた経歴とは裏腹に、
ちょっとズレてはいるが、とても素朴な人柄と誠実さを持っていた。
お隣さんのテンカワ君の息子によく似ているせいもあって、なじみやすいと感じる。
それにユリカとユリのやり取りを見るだけで泣くような、情に厚そうな男だ。
ユリは…ほとんど話したこともない私やユリカをとても想ってくれているのが分かる。
とても嬉しそうなユリの顔…。
何というか…不思議な心地だった。
私はユリとアキト君が帰ろうとするのを呼び止めた。
名残惜しい気持ちがあったからというのもあっただろう。
だが、二人にはまだ聞くべき事があると予感させる何かがあった。
特にアキト君には…底知れぬ何かが、あるように感じた。
「ユリ、せっかくだ。
泊まってユリカともう少し、話して行きなさい」
「は、はい」
「お父様?
お父様とアキト君はどうするの?」
「ちょっとな。
…アキト君、少し外で男同士の話をしないか?」
私には、アキト君が二人の前では話しづらいことを沢山抱えているのが分かった。
彼が元々性格的には不器用なところがあるのは良く分かる。
…それに、調べたアキト君の経歴が少し不自然なところが多かった。
この点についてはユリはともかくユリカには知られない方が良いだろう。
「…はい」
アキト君も私の誘いを察してくれたらしい。
ユリカがいつか誰かと結ばれた時に、
息子になる男と酒を酌み交わす日が来るとは思っていたが…。
思ったよりずっと早く、そういう機会が来てしまったな。
もっとも、自分で育ててもいないユリの事でそんな気分になるのは、我ながらさすがに図々しいとは思うが。
「うむ。
帰りは遅くなる。
先に眠っていてほしい」
私は運転手に行きつけの料亭に向かってもらった。
アキト君は到着するなり、驚いた様子で目を開いていた。
「ここって…」
「私の行きつけのちょっとした料亭だ。
おごりだ、気にしないでほしい」
「こ、こんな高そうな所でなくても…」
やはり、こういうところは若いな。
こんな事でうろたえてしまうとは。
だが、これは本当に直感にすぎないがここである必要がどうしてもある。
「アキト君、君は芸能人だろう?
その辺の居酒屋で変装もなしに話すのは目立ちすぎる。
かといって変装していてはリラックスして話もできまい?」
「は、はあ…」
表向きの理由を話しても、アキト君は頷かないか。
「…それにこの手の料亭はプライバシーが厳密に守れる。
連合軍の司令官ともなるとそういう場所が一つや二つなければ、
友人との付き合いも相談もうまくいかないのだよ」
「…はい」
アキト君は私の意図を察して納得してくれたようだ。
…こんな控えめな性格で芸能界でやっていくのは大変だろうに。
料亭に入ってからも、遠慮がちだった。
私はアキト君にも酒を勧めたかったが、未成年であるので、と断った。
「すみません」
「いや、いいさ。
君が未成年にはとても見えなかったものでな」
「…恐縮です」
私はユリの事について聞いた。
なれそめについて聞いてみたものの、アキト君は歯切れよく話せなかった。
「…話せない、のか?」
「いえ…話す事はできます。
ただ、その前に2つほど…あまり明るくない話をしないといけません」
私はぐっと歯をくいしばってアキト君を見た。
…覚悟が必要な話題のようだな。
「一つは…ユリちゃんは、
受精卵の状態のまま人体実験の実験台にされるために育てられました。
ある夫婦に代理出産の形で産んでもらったそうです」
「なんだと!?」
「…とはいえ、その夫婦はかなりユリちゃんに入れ込んで、
できる限り普通の生活を送れるように大切に育ててくれたようです」
「…そうか」
私は何か家庭環境に問題があるのでは、と考えていたが、
覚悟をあっさり乗り越える強烈な衝撃に声を上げてしまった。
正直に言うと、ユリがテレビに出ているところから、
かろうじて普通に生きて来れていたのではないかと淡い期待があった。
…人体実験とは、考えたくもなかった。
ただ、アキト君の口ぶりからして、育ての親はユリを愛してくれていたのだろう。
それだけは少しだけ救いだった。
「二つ目は…先ほどユリカ義姉さんが持ってきた写真と関係があります」
「何?」
「俺は、
あのテンカワアキトのクローンなんです」
私は、もはや声を発することができなかった。
人間のクローンという禁忌。
かつてクローン実験は盛んにおこなわれていたが、
テロメアの欠如やどうしても短命になりやすいことで、
研究自体が縮小され、最終的にはほぼ禁止、特に人間には禁じられた。
…そんな禁忌を冒してまで、何をしようとしたんだ?
とはいえ…このアキト君を、見捨てることなどできるだろうか。
確かに…どう育ったかは分からん。
もしかしたらアキト君とユリはどこかの勢力が、
連合軍極東総司令の私に取り入るための…材料に過ぎないのかもしれん。
ユリが受精卵だった頃に奪ったテロリストの一味や…企業や団体…なんでも考えられる。
だが…そうだとして、彼の態度はこうなるだろうか?
こんなに詳しく話すだろうか?
…信じたい、いや、信じてしまっている。
長年の駆け引きを必要とした私の直感が、彼の発言が嘘ではないと告げている。
アキト君の髪も瞳も生まれつきと聞いたことがあるが、
恐らくクローンとして生まれ、人体実験を受けたせいなのだろう。
「…ユリちゃん…いえ、ユリさんには、
その時に生活を世話してもらったことが縁で、夫婦になったんです。
…俺は人体実験に使われ、
ユリさんは実験に向かない体質になったせいで、世話係として生き延びて…」
「…その人体実験は、どこの誰が?」
「…すみません、それを頭の中から消されてしまって、
俺達は記憶障害になってしまっているんです」
今度は、はっきり嘘だと分かった。
何か話せない事情があるようだが、自分が有利になるための嘘ではなさそうだな。
…いや、私やユリカの立場に関わるから話せないように思えるな。
もう少し話を進めてみよう。
ここまでの話はすべて嘘でないからな…。
「わかった。
この件は思い出せたらいずれ話してほしい。
…そうか、君はクローンなのか…。
この件は、ユリと私以外には誰も知らないのか?」
「いえ、知っているのは何人かいます。
信頼のおける人が数人…」
「…そうか。
いや、君を連れ出して、この料亭で話したのは正解だった」
私は熱燗を一息に飲み干した。
…こんな事をユリカには聞かせられん。
あの子は聞いても表面上平気そうな顔をするだろうが、
深く傷つき、二人を気遣って気を回してしまうかもしれない。
現段階であまりに繊細な立場の義理の妹と弟を持ってしまうのは、
ユリカの成長を止める可能性がある。
この二人の過去を受け止めることは間違いなく人間としての成長につながるだろう。
しかしその成長は…同時に軍への、
ひいては戦争に関わるすべてに嫌悪感を持たせるに至る。
そうなればユリカは自分の才能を使うことを拒絶するかもしれない。
親の私が言うのもなんだが艦長として大成するのは間違いないと思う。
さらに未完成の大器で居させるのは…きっとユリカのその後の人生にも影を落としかねない。
他者の過去に深入りしないまま関われる感性こそが、人を動かす者に必要な素質だ。
その素質をユリカは持っている。
実際に艦長をして2、3年も経てば、人の機敏も理解できるようになる。
そうなってからであれば、二人の真実にも折り合いを付けられるだろう。
…それまでは伏せておかなければならない。
二人の経歴はマスコミにはもちろんだが、外部にはほぼ知られてはいけない事だ。
「…娘さんと、不釣合いな男である自覚はあります。
しかし…」
「一つ、問いたい」
この件を隠さずに話したのは、彼自身が自分の存在に自信を持てていないからだろう。
…これもアキト君の不器用な誠実さだな。
『クローンである自分にユリと居る資格があるのか?』と…アキト君は迷っている。
ならば、私もその誠実さに応えて、
逆に問うて、知るべきだろう。
彼の決意を…。
「私が別れろ、と言ったら別れるのか?」
「…いえ。
あなたから奪って見せます」
ふふ…奪う、とは大きく出たものだ。
そうこなくてはな。
「奪ってそのあとはどうするんだ?」
「…命に代えても、守り抜きます。
彼女を幸せにするために…」
「…親の私とではなく、
君といた方が幸せになれると言い切れるのかね?」
「はい」
私はアキト君の迷いのない力強い返事に頷いた。
自分の存在には不安があるが、自分の意志や生き方には迷いがない。
…ユリはいい男に手をつかんでもらえたようだな。
「分かった。
君の決意は固いようだな。
親の私を前にして『奪う』とはなかなか言えまい。
連合軍極東支部総司令の私が本気になったら何が起こるか、
分かって言っているようだな」
「…俺には他に失うものなど、
何もありませんから」
…人間のコピーというクローンの悲しさか。
いや、それだけではないな。
何か…すべてを賭けて戦ってきた兵士のようなものを感じる。
PMCマルスの主戦力であるエステバリスはアキト君が操縦するという。
やはり、戦闘経験があると考えるのが自然だ。
…しかし、どこでそんな技術を?これも人体実験の賜物なのか?
とすれば…いや、今は考えまい。
「失うものなど何もないか…」
「人とのつながりもほとんどありませんし…。
俺にはユリちゃんと、仕事仲間くらいしかいません。
財産的なものはあまり持ってませんし…。
親戚も恩師や友達もおらず、一個の人間としては弱い気がします」
「ふむ…ファンが多いという君でも、友人となると難しいのか。
むしろファンが多いから難しいのか?」
「…そんなところです。
あ」
ん?何か思い出したのか?
「俺の個人的なつながりでお話したい事があります。
あまり明るい話ではありませんが、
実験体としてのつながりのある子が一人います。
養子として名義を借りているところに、血のつながりのない妹が。
ホシノルリ、というんですが…まだ会った事はありません」
「…その子も、クローンなのか?」
「いえ、ユリちゃんと同じ…人工授精で生まれた子です。
…それに、もっと言わないといけないことがあります」
「…何だね?」
「顔立ちは似ていませんが、ユリカ義姉さんのクローンがいます。
ラピスラズリという…」
がたんっ!
私はたまらず立ち上がってしまった。
…なんてことだ。
クローンの件については、ミスマル家は無関係と思っていた。
思いたかった。
顔は違えど娘と同じものを持った者が、人体実験に使われている…。
こんな事が…胸が張り裂けそうだ…。
「…詳しく聞かせてくれ」
「…はい」
アキト君は『話せない』部分はある程度伏せながらも、
火星で生まれた子供の健康調査用の血液を使って自分とラピスが『造られた』という。
…大それたことを。
だがそんなことが出来るとすれば…どこかの軍の研究所が秘密裏にやっているか…。
ネルガルやクリムゾン、明日香などの大企業、軍需産業だろうか。
優秀な兵士を作る研究でもしているのか?
「…まだ彼女とは話せていないのですが、
保護を…いえ、養子にして頂ければと考えています」
「うむ…。
ユリカのクローンだから引き取るのではなく、
あくまでも娘として迎えてほしいということか…。
任せてほしい。
最も、ラピスラズリというその娘が私を受け入れてくれるかは分からないが…」
「その時は、彼女の望む形をとります。
できる限りラピスの願いをかなえてあげたいんです」
「…うむ、そうだな。
ユリもこの事は?」
「知っています。
戸籍上は彼女の妹ということになっているらしいので…。
今は眠っている状態で、いつ目覚めるかわからないそうです」
「ふむ…なるほど。
それでは、君の妹ルリ、そしてラピスか。
もし彼女達さえよければ養子として迎えよう」
「…ありがとうございます。
厄介ごとばかり持ち込んでしまって、申し訳ないです」
「なに、構わんよ。
君たちの境遇を知らされた以上、黙ってみておれん。
未成年では養子もとれないし、ミスマル家に関係がある事だ。
娘婿の頼みでもあるしな。
それに…私も妻を亡くして久しい。
同居はしないまでも、
娘婿が一人、娘が三人も家に来てくれるとは、めでたいことだ。
…孫の顔も、すぐ見られそうだな」
「…戦争か会社が一段落したら…で…お願いします」
「うむ。
数年はかかるだろうが、まだ君たちも若い。
焦ることはないだろう」
早くにおじいちゃんになるというのもいいが…。
それよりもユリとアキト君、まだ見ぬ娘たちとも言葉を交わし、思い出を作らねばな。
アキト君たちは研究対象…研究所住まいというのはとても寂しいことだろう。
クローンであれば天涯孤独。
結びつきを求めるのは当然だ。
家でのさっきのアキト君が私やユリカを見る目で、分かってしまった。
求めているというか、懐かしさを感じているというか、憧れているというか…。
出会ったばかりの私たちにそんな目を向けるなどありえない。
彼は、家族を欲している。
アキト君の気持ちを裏切ってはいけない。
まして彼らの人生を、私の思うままにしてはいけないだろう。
「…最後になるが、君たちはどんな人体実験をされたんだ?」
「IFSの…強化体質です。
より効率のいいナノマシンの運用ができる…。
この処置を施された者はマシンチャイルドという渾名で呼ばれています」
「ナノマシンにIFS…。
パイロットやオペレータ用の操作用のものだな?」
「はい。
俺達はIFS強化体質者です。
髪の色や瞳の色が変化している者が多くいます。
ユリちゃんもIFSの実験を受けて、逆にIFS拒絶体質になっています。
精神的なものなので、本人が望めば使えるようなのですが…。
俺達は、良く言えば、人類の新しい可能性のため…。
悪く言えば、戦争の道具としての人間を造りだすための存在なんです」
「…君は軍人を軽蔑しているようだな。無理もない」
アキト君のIFSのタトゥーは、通常のIFSとは異なる。
IFSがパイロットの物、というのは地球での常識だ。
火星では一般的だが、地球ではほとんど軍に関わりの無い者はまずつけていない。
現在は地球でも土木作業のロボットにも使われているそうだがパイロット崩れが多い。
IFSの規格はすでに20年ほど変わっていない。
そのIFSをより強力にするための人体実験か…。
「あなたは別…いえ特別です。
…その武勲には、曇りがありません」
「うむ…すまん」
私がアキト君を調べたように、アキト君も私についてよく調べたようだな。
もっとも…曇りないと言い切れない部分も、あるにはあるのだが。
アキト君の説明が一段落して、私たちはお冷を頼んでのどを潤した。
しばらく、私たちはだまりこんでいたが、アキト君が口を開いた。
「…先ほど、娘さんを奪うと発言したご無礼を、お許しください」
「構わん。
そこまで面と向かって言ってのける男でなければ、
あの子を連れさせて帰すわけにはいかなかったからな…。
ユリがどれだけ信頼していようと、な」
「…ありがとうございます」
「…もっとも、君がPMCマルスをやめると言ってくれれば、
こんなことも聞かずに済んだのだが」
私も精神力や決意だけで勝てると思うほど夢見がちではないが、
何も考えていない人間にユリを預け、戦いに出せるほどお人よしではないからな。
「申し訳ありません…」
「気にするな。
君はもう私の息子だ。
一口だけ、飲んでくれるか?」
「はい」
最初に断った酒を勧めた。
アキト君はおちょこに半分だけ入った酒を、飲み干してくれた。
──その後、私たちはしばらく他愛なく話した。
連合軍の事も、PMCの事も、木星トカゲの事も、しばし忘れ…。
ただの親と子のように、それぞれの思い出を語り合った。
酒を酌み交わす息子がいるというのは、良いものだな…。
「…不思議なものだ。
君やユリが…私を知っているように見える…。
出会ったばかりなのに、とても信頼してくれているように…。
私も自然と信頼している気がするんだ…」
「…はい。
俺も…昔からあなたを知っていたように思えています」
「…これも、運命のようなものだろうか」
「ロマンチストですね」
「ふふ、意外かね。
だが…友人を幾度の戦争の中で亡くし、彼らが枕元に立ち、
時に戦う中で神風が吹いたように思う時もたくさんあった…。
そういうものを信じてみたくなるものだ。
君の言葉じゃないが、戦う者には希望が必要なのだよ」
「そうですね…」
そうだ…。
希望なくして人は生きられず、辛い戦いに挑むことはできない。
希望を砕かれた者は、我が身を砕いてでも希望を砕いたものへの逆襲をする。
世を乱すテロリストとはそうして生まれる場合も多いのだ…。
──彼に聞いてみたいと思った。
彼の、希望を。
「君の希望は何だ?」
「…平和です。
永久は無理でも、少なくとも俺の知る人が寿命で亡くなるまでの間…。
戦争がなくなってほしいって、思ってます」
「…それこそ途方もない願いに思えるが、まさに希望だな。
そうだな…。
それじゃあ、私は失業してしまうが」
「平和でも軍は必要ですよ。
お互いが手を出せないくらいに、強い軍が」
「抑止力か…20世紀に謳われて以来、久しい言葉だな…。
核抑止のために、国連がそれを否定するための連合軍を発足したが、
それも何の変化も与えなかった…。
揺るぎないほどの力を持つものは、何をするかわからないからな…」
「ええ…。
そうですね」
私たちははしばし黙り込んだ。
だが、やがて顔を上げると、立ち上がった。
「帰ろう。
アキト君、今日はありがとう」
「ええ。
こちらこそ。
…あなたがユリちゃんの父親で、本当によかった」
「もう君の父だよ、私は」
アキト君は、嬉しそうにうなずいてくれた。
恐らく彼にはまだ謎がたくさんある。
テンカワ君の息子のクローンだったとして──健康調査がある4歳の頃の血液を使っているなら、
実年齢は15歳のはずだ。いやもっと低いかもしれん。
だが、どう考えても20代半ばのような落ち着きと、雰囲気を感じさせた。
何かしら特殊な処置を施された実験体だったとして、精神や経験までは成長しないだろう。
秘匿されている研究施設の調査をしなければならないだろう。
アキト君は危険かもしれないと思うが…それ以上に信じたいと思わせる男だ。
これからを見て、判断をすることになるだろう。
ふふふ…楽しみだな。
義父としても、軍人としても…。
──アキト君。
君は私に何を見せ、その命で何を成し遂げるんだ?
「はーい、かゆいところはございませんか~」
「は、はい、大丈夫です」
カポーン…
私はユリちゃんの髪を洗っていた。
銭湯のようなとても大きな大浴場で、私たち二人だけが使っている。
ミスマル家は、有事の際に避難民や軍人の待機を目的として、
大人数で寝泊まりできるような施設が整っている。
大浴場も普段は使っていないけど、常に使えるように掃除とメンテナンスがされている。
普段生活している母屋の方は小さな檜風呂が一つだけで、
私とお父様は普段そちらを使っている。
でも、ユリちゃんと一緒にお風呂に入ってみたくて、お手伝いさんに言ってこっちのお風呂にした。
私もたまに一人でこの大きな浴場を使うけど、なんだかうれしい。
昔、小さい頃はお父様が何か月も留守の時は、
お手伝いさんが一緒に寝てくれて寂しさを紛らわせてくれたっけ…。
ユリちゃんがもし、私が小さい頃に来てくれたら…楽しかっただろうなぁ…。
「ねえ、ユリちゃんはアキト君のどこが好きなの?」
「ど、どこって…」
ユリちゃんは真っ赤になってる。
背中から見てもわかるくらいに。
「ふふ、ユリちゃんは全部大好きみたいだね」
「あ、あの…はい…」
シャワーで泡を洗い流しながら、
私も一緒に映る鏡でユリちゃんの事を見つめる。
「なんか不思議な感じ…ユリちゃんといると、私が二人いるように見えるのに…。
よくよくみると、似てるけど全然違うんだね…」
「…そうですね。
私、ちょっと目つきが悪いですから」
「そんなことないよぉ!
私と種類が違うだけで美人だよ!」
お世辞じゃなく、そう思っている。
私のぱっちりお目目もいいけど、ユリちゃんの目は何ていうかすごい人を引き付ける目をしている。
ツリ目っていうより、目はしっかり開いてるのに鋭い目つきっていうか…。
吸い込まれるような、深さがあるんだよね。
「…ありがとうございます」
でもユリちゃん…ちょっと気になるなぁ。
なんか距離は遠くないけど、すごい敬語で話すんだもん。
「ねえ、ユリちゃん。
もっと普通にしゃべっていいんだよ?」
「…いえ、これが私の普通なんです。
あまり気にしないで下さい」
「そお?」
私もそれ以上追及をやめた。
お互いに言葉遣いで態度が変わるわけでもないし…育ちについて話すのは今はやめておきたいし。
育ち方については、ユリちゃんの記憶障害の話がまだあるので聞けない。
「…そういえばユリカ姉さんは、
テンカワアキトさんと…どういう関係なんです?」
今度はユリちゃんからの質問。
少しためらいがあったけど、ユリちゃんには話してもいいかな…。
…なんだか、ユリちゃんがすごい私を信頼してくれてる気がして、何か話しちゃうんだよね。
「私の王子様…かな…。
昔ね、ずっと小さい頃…。
工事現場のショベルカーを勝手に動かしちゃったことがあってね。
その時、アキトが止めるのも聞かずに、動かしちゃったのに、
アキトは私を助けるために頑張ってハンドルを取って何とかしてくれようとしたの…」
「そう…なんですか…」
「…私ね。
昔っからそうなの。
頑張ってると周りが見えなくなっちゃって、時々すっごいバカやっちゃうの。
ジュン君って友達にいつも助けてもらってばっかりだし…。
士官学校を首席で卒業したけど、お父様があんまり偉い人だから、
配属が中々決まらなくて万年訓練生みたいになっちゃってるし…。
今も私になにができるんだろうって、ずっと悩んでいるの…」
「…ユリカさん、あなたはもっとすごい人です」
「え?」
「きっと、地球で一番のすごい艦長になれますよ。
私が保証しちゃいます」
「ユリちゃん…」
何だろう出会ったばかりで、根拠がほとんどないって分かってるのに、
ユリちゃんの言葉がすごく信じられる…不思議な子…。
「…うん! 私、頑張っちゃう!」
俺はお義父さんと一緒に車に揺られていた。
…もう、午前の2時なのか。
ユリちゃんもユリカも、もう寝ているだろうな。
お義父さんは、疲れていたのか眠っていた。
「おや、提督が車で眠るなんて珍しいこともあるものですね」
「…そうなんですか?」
「ええ。
提督はいつも自室にもどるまでは眠ったりはしません。
今日出会ったばかりのあなたを、本当に信頼しているんですね」
ミスマル家専属の運転手さんは、バックミラーで俺のほうを見た。
「今日は、よっぽど楽しいお酒だったんでしょう。
ホシノさんは…失礼ですがテレビではとぼけていますが、
提督と同じくらいの人たらしのようで」
「…褒められているんですか?それ」
「もちろんですよ。
人たらしであるというのは魅力と気力に満ちており、
人を動かす将の器であるということです。
きっとPMCマルスも成功することでしょう」
「女たらしと悪口を言われた事はありますが、
そんな風に言われたのは初めてですよ」
「あなたは既婚者なのに女性ファンが凄いですからねぇ。
…どう見てもユリさんに一途なのに、ですよ?
つまり人を引き付ける物をもっているのですよ」
…この運転手さんは、きっと元軍人だ。
お義父さんの元部下だろうか?
しかし将の器とは…軍事はどれだけ勉強してもさっぱりだったが、
この人はお世辞を言うタイプには見えない。
喋りはうまいが、嘘がつけないタイプに見えるな。
「…生まれのせいでこんな姿をしているからですよ」
「いえいえ。
見た目だけでは人は大成しません。
それに見た目が合格点が出てしまえば、内面の評価は厳しくなるものです。
ぜひその内面を失わずに、頑張って下さい」
「…どうも、ありがとうございます」
…不思議な人だな。
しかしお義父さんが俺の事を信じてくれたのは、純粋にうれしかった。
俺の出生が不審であるのは分かっていたにも関わらず…。
そして色んな懸念事項も、話せてよかった。
この世界のルリちゃん、そして俺達と同じ逆行したラピス。
彼女たちを守る手立てが少ない俺達には、
お義父さんが申し出を受けてくれたのは本当にありがたいことだった。
…俺の立場を利用しようにも芸能人ってだけじゃ、すぐに失脚しちゃうもんなぁ。
かつてのルリちゃんも、お義父さんに引き取られたのは良かったんだろうな。
親権をとりあったミナトさんには悪いが誘拐にあう可能性も大きかっただろう。
ひとまず…ある程度は安心だな…。
いかん…安心したせいか…もうすぐミスマル家に付くというのに…。
俺も…なんだか眠く…。
私はユリカさんから下着とパジャマを借りて、ユリカさんの部屋に戻りました。
しかし…なんでしょう、さっきの大浴場で、響いて聞こえた自分の声…。
自分の言葉なのにすごい…信じられる気がしました。
これは私の時代のユリカさんがナデシコでみんなにかけた言葉に宿っていた力…。
カリスマ…言霊…。
表現の難しい、そんな不思議な力…。
これはミスマル家の人間特有の才能でしょうか…その代償があの大声なんでしょうけど。
強力な武器になり得ますが…意図的には出せる物じゃなさそうです。
…本当に信じているから、声に力が乗って届くという事なんでしょうね。
不思議です、本当に。
「ねえねえ、ユリちゃんゲームしない?」
「ゲームですか?」
私は思い当たる節がありました。
ユリカさんが手に持っているゲームディスク。
ふさぎこんでいた一年の間、ミスマル父さんに勧められたゲームですね。
「ああ、『ラインハルトの野望』ですか」
「え!?ユリちゃん知ってるの!?」
「はい。
昔やってたんですけど、ヤン編の最後がどうしてもクリアできなくて」
「わー!奇遇だね!」
まあ、二人ともミスマル父さんに勧められたので当然ですけど。
私の手をとってブンブンと上下に振るユリカさん。
セーブデータを見るとユリカさんもかろうじてヤン編を最終シナリオまで進めているみたいですが、
ギリギリでクリアできていないようですね。
私よりずっといい条件で進めているようです。
さすがですね。
…初心者に勧めるようなゲームじゃないのは、この際目をつぶっておきましょう。
「じゃあ対戦しよう!」
「いいですよ。
シナリオはどうします?」
私たちは乙女にあるまじき…。
恋愛話もそこそこに夜中にゲームに熱中してしまうという展開を演じてしまいました。
…ただ戦績は、はっきり言ってボコボコです。
10戦やって2勝しかできませんでした。
途中から私が有利なラインハルト側で固定したにもかかわらず、です。
ユリカさん曰く、
「連合軍でも同じくらいのハンデで戦った事も多いけど、
初めて負けたよ!」
…とのことです。
確かに連合軍のシミュレーターってこのゲームをハックして作った説もあるくらいらしいですし、
このゲームの出来は艦隊戦に忠実に作ってあるとは思いますけど…。
それなりに現役の連合宇宙軍で訓練をした私が、
ミスマル家の遺伝子を継承して戦闘中の頭の回転や思考が良くなったのに、
それでも2勝…。
──ユリカさん、あなたはどんだけ強いんですか?
そんな強い人に何とか勝てたことは誇っていいのかもしれませんが…。
最後の一戦、ユリカさんは自分の操作を終えると先に布団に倒れ込んでしまいました。
…私はその時気づいてませんでしたが、詰みの状態でした。
かくいう私も、詰みの状態を理解したら眠気の限界が来てしまい…。
ミスマル父さんとアキトさんの乗った車のエンジン音が聞こえつつも…。
電気を消して、ゲームを消して…ユリカさんの布団に潜り込んでただ寝てしまいました…。
ユリカさん、いい匂い…。
ユリカさんとの姉妹生活、楽しいですけどお肌に悪そうですね。
いえ、もちろん毎日こうなるわけではないですし、
これが普通の姉妹ってわけじゃないんですけど、ね。
この日は、なんだかよく眠れました。
どうもこんばんわ、
武説草です。
今回は前回の予告から予定を変更してお送りしております。
アキト、二度目の挨拶編。
もろもろミスマル父さんに押し付ける気でいるけど本当にいいのぉ?
みたいな感じのお話でした。
今後ともどうぞご期待ください。
そんなわけで次回へ~~~ッ!
※同時投稿の形になるので、代理人様への返信はございません。
※次回予告は前回と同様です。
正社員、契約社員、派遣社員、アルバイト、パートタイマー、日雇い労働。
ありとあらゆる職種職場にそこかしこで、真価を発揮できぬまま、信管を咥えた不発弾が眠っている。
トカゲにおびえるくすぶった不発弾『テンカワアキト』は、誰もが気がつかぬ規格外の、核弾頭。
この核弾頭をスカウトに向かうはホシノユリ。
そしてついについについに出会った!二人の『アキト』!
かつての自分に向き合ったホシノアキトは、何を語る?
困惑と迷いに揺れるテンカワアキトの爆発を、ああ君は見たか!?
ブックオフとハードオフにちょくちょく通いながらCDを探すのが好きな作者が送る、
己のリベンジとリバイバルに挑むためのナデシコ二次創作、
感想代理人プロフィール
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代理人の感想
すいません、前回トップだけ更新して投稿の方を更新してませんでした(爆)。
それはさておきいちゃいちゃ回ですねー。
男女じゃなくて女の子同士、男同士のですがw
しかしこいつら(アキトとユリ)大丈夫か?
ここまで素朴だと、戦争とか抜きにしても一般社会でやってくには危なっかしいことこの上ないw
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