〇地球・東京都・病院──サヤカ
ホシノアキトの重婚発表と、彼らの結婚式から一ヶ月ほどした後…。
私はひとりで病院に赴き、順番待ちをしていた。
…ナガレ君との幾度かの夜を過ごした結果、私は身ごもっていた。
油断していたうかつなことをしてしまった自分を呪った。
こういうことも覚悟していたつもりだけど…。
ナガレ君に言ったら、また私を助けようとしてしまうから。
ナガレ君と一緒に居られるだけでも、浮気してくれるだけでも、私は幸せ…。
だからこれ以上、ナガレ君に負担をかけないようにしたい。
これくらいのけじめは、ちゃんとつけるつもり。
生まれてくる前に、この子を…私が…。
…つらい、けど…。
ナガレ君とエリナの仲を裂くような真似をしてるのに、これ以上は…!
「ムトウサヤカさん、こちらへどうぞ」
私はついに呼ばれて、診察室に向かおうと立ち上がった。
けど、通されたのは…個人用の、個室の病室、だった。
疑問はあったけど、黙って従った。
子供を堕胎するから色々話さないといけないことでもあるのかと思っていた。
でも…。
「サヤカ姉さん」
「!!」
そこに居たのは、ナガレ君だった。
私が今、一番会いたくない…、
一番愛している、この人が…なぜ…。
なぜ、ここに居るのか、分からなかった。
「…ごめん、ラピスに相談しておいたんだ。
すべての病院の予約データをハッキングで調べてもらってね。
もしかしたら、サヤカ姉さんは僕の子供を身ごもってしまった時…。
子供を堕胎させるかもしれないって、思っていたから…」
「どうして…」
「…忘れたのかい、僕は妾腹で生まれたんだよ。
親父のせいで母さんが苦しんだことも…知ってる…。
想像できない、考えなかった、とは言えないんだ、僕は…」
「や、やめて…ナガレ君…。
こ、これ以上、私に…。
私に、情けをかけないでいいの…。
これは…私の…問題で…」
私は息が止まりそうだった。
これ以上、ナガレ君に負担をかけたくない。
私のせいで人生を狂わせてほしくない。
そんなことしか考えられなかった。
ナガレ君の優しさで…。
ナガレ君のお母さんに重ねられて助けられるなんて、あってはいけない。
それだけは、絶対に…!
「僕の問題でもあるよ」
「違う、違うのよぉ…」
私は、膝をついて泣き崩れることしかできない…。
もう、どうしていいか分からない。
エリナに完全にバレてしまう、それでいいとはとても言えない。
ナガレ君はそれを覚悟して私を抱きしめたと言ってくれる、だろうけど…。
「違わないよ、サヤカ姉さん。
僕は妾腹と言われても、僕は死にたいとは一度も思わなかった。
クソ親父が無責任にしでかしたことに起こしたことを呪ったことはあっても…。
母さんを泣かせたことを怒ったことは、あっても…。
僕は生まれてきたことを呪ったことは、ないんだよ。
…サヤカ姉さん。
姉さんのお腹にいるのは、僕と姉さんの子で…。
二十五年前の…生まれる前の僕、そのものなんだよ」
「!!」
私は愚かすぎる自分に気づいた。
ナガレ君を想うあまり、この子の未来を奪おうとしていたことに気付いた。
それが、ナガレ君の人生の否定になると、気づかずに…!
「…サヤカ姉さん。
いや…もう、姉さんと呼ぶのはやめるよ。
マモル兄さんから奪っちゃって、子供まで作っちゃったんだから。
サヤカさん。
僕の子を、産みたくないっていうのでなければ…。
『僕』を、『僕の子供』を…捨てないでくれないか。
あのクソ親父と同類と言われても、誰になんと言われても。
僕は君と、僕たちの子を決して捨てないから。
サヤカさんが、僕を嫌いにならない限り絶対に離れない、から…。
…お願い、だからさ…」
「…いいんだ、僕が悪いんだ。
僕のせいでサヤカさんを一人で悩ませたんだから…。
…一緒に、エリナに謝ってくれるかい。
大丈夫、何とかできるよ。
何があっても、君を守るから」
「…うぐ…ひぐ…ぐずっ」
私は声が出せなくなって、小さく頷くことしかできなかった。
ナガレ君の優しさに甘えるのではなく…ナガレ君の願いを聞き届けたいと思った。
ナガレ君は私を助けるためではなく、
本当に私に子供を産んで欲しいと思ってそう言ってくれてるのが分かった。
私を離したくないと、本心から思ってくれてるのが分かった。
私はナガレ君に受け入れられたことだけでも、生きてきて良かったと思えたのに。
今日、またこんなに嬉しいことがあっていいのかって…。
だから…。
ナガレ君を一生離したくない…。
エリナに何を言われても…。
何を、されても…。
ずっと…。
〇地球・東京都・アカツキ邸──アカツキ
……僕とサヤカさんは、鬼の形相をしたエリナ君の前に鎮座していた。
先日生まれた僕とエリナ君の子は、我関せずとすやすやと寝息を立てて眠っている。
…お、大物になりそうだよね、このオーラを受けても何も感じないんだから。
僕たちが事情をすべて説明したあと、エリナ君は黙り込んで僕を睨んでいた。
サヤカ姉さ…サヤカさんを憎んでいなさそうなのは、まだ救いだった。
も、もしかしたら今日が僕の命日になっちゃうかもね…。
「…命懸けの救出劇で、自分が抑えられなかったってことよね?
しかも私が子供の世話を必死にしてる時に、ナガレ君は浮気してたのね?
楽しい思いをして、私を騙してたってことでしょ。
で、挙句に未来のことまでペラペラしゃべって。
…こんなことなら、あの時に行かせるんじゃなかったわよ」
…僕たちは黙り込むことしかできなかった。
エリナ君は、サヤカさんが死んでた方が良かったと突き付けていると分かって言っている。
サヤカさんは、悔しそうに唇を噛んでいる。
…言い返せない。
僕たちは、言い返す資格がない。
最低なことをしたのは僕たちだ。
ひょうひょうとふざけて切り抜けることなんて、出来っこない。
無責任に、黙っているという選択肢もない。
その内、どうやったってばれることだ。
マスコミなのか、別のルートなのかは分からないけど…。
…ここでエリナ君が堕胎しろと命令したら、僕たちは従うしかない。
だから…僕は…。
僕が、今できることは…!
「ごめん…エリナ君。
僕がしでかしたことだ。
エリナ君に対する責任は、どんなことがあっても、どんなことをしてでも取るから…。
サヤカさんに…子供を産むのは許してくれないかい…?」
「…ナガレ君。
あんた、本気で言ってるの?」
「本気だよ」
「それがどういうことか分かってるの?
スキャンダル扱いされて、未来の二の舞を演じるかもしれないのよ?
生まれた子供だって、サヤカ先輩だって、後ろ指をさされるかもしれないのに。
そして…。
一番軽蔑していたあなたの父親と同じことをしようとしているのよ。
サヤカ先輩だって、私が身ごもってるのを知ってて、
私がどんな気持ちでいるのかも知っている癖に、浮気したんでしょう。
挙句に、私に子供を産むのを許してほしいなんて都合が良すぎよ。
…最低、最悪じゃない」
「それでも…僕は…!」
僕はかぁっと頭に血が上った。
エリナ君が厳しい人で…容赦のない性格だというのは分かっている。
時には、命を捨てるかもしれない場所に人を送り込むことが出来た過去もあって…。
でも、エリナ君は…サヤカさんの気持ちが分かるはずだ。
テンカワ君への叶わない恋に苦しんだはずなのに…。
君だって、そういう未来があったかもしれないのに、そこまで言わなくてもいいじゃないか…!
…だが、僕はこのガキっぽい反論を何とか言わずに持ちこたえた。
分かってる…そんなことを言い返す資格もない。
エリナ君の言うことが間違いなく、正論だ。
僕たちが自分勝手で、被害者のエリナ君に更なる負担をかけようとしているだけだ。
だけど、それ以上に…僕が何か言い返したら、サヤカさんを守れない。
だから…!
「僕は…!
最低になっても…エリナ君に嫌われても…。
何もかも失っても…。
…サヤカさんに。
僕の…子供を諦めさせたくないんだよぉ…っ!」
僕は、理由を言うことを避けた。
何を言っても言い訳にしかならない。
理由があればやっていいことじゃない。
サヤカさんを母さんに重ねたことも、身ごもってしまった子を自分に重ねたことも。
そんなのは、エリナ君からすれば関係のないことだ。
僕たちの都合なんだから…。
だったら…言わない方がマシだよ…。
エリナ君は眉間にすごいシワを作りながら、僕たちを見つめた。
今度は…サヤカさんも見ている。
そして、脱力するようにため息を吐いた。
「…ナガレ君、私の事はまだ愛してくれてるわよね」
「…え、っと。
はい…もちろん…」
「私か子供がサヤカ先輩と同じ状況に置かれたら、
同じように助けてくれるわよね?」
「そ、それは当たり前だよ」
「…そ。
なら、分かったわ。
だったら許してあげる。
慰謝料と期限付き離婚で、手を打ってあげるわ」
僕とサヤカさんは驚きすぎて、声をあげてしまった。
まさかこんな簡単に許すという言葉が出てくるとは思わなかった。
それに『期限付き離婚』ってなんなのかが分からなかった…。
「…私だって妊娠中に子供をおろせなんて言われたらって考えたら、怖いわよ。
一児の母として、そんなこと言えないわよ…。
それにラピスからサヤカ先輩のことの連絡が来てて、私も覚悟はしてたの。
ナガレ君も抜けてるわよね、ラピスに頼んだら私に届くに決まってるじゃない。
だから何を問うべきか、何を話すべきかじっくり考えて待ってたのよ。
…ごめんなさい、サヤカ先輩。
あんなひどいことを言って。
本当は…二人が助かったって聞いて、嬉しかったの。
サヤカ先輩が、ナガレ君のせいで死ぬなんて嫌だった。
ナガレ君が大切な人を見捨てる人でなしになるのも、嫌だった。
だからこそナガレ君が、本気なのかどうか聞きたくて…。
単に流されて浮気して、それで運悪く妊娠してってくらいだったら、許せなかったけど…。
でも、サヤカ先輩を助けに行こうとするナガレ君の表情も、言葉も…。
普段からの態度も、全部、サヤカ先輩を想ってるからだって分かってた。
…悔しいけど、私と同じくらい本気で愛してるんだって、分かったの」
「エリナ…」
「あ、で、でも、怒ってるのも本当よ?
…でも私も、不倫したことあるし…気持ちはわかるの…。
ってナガレ君から聞いてるかしら?
ホシノアキト君と、未来の世界でね」
「ええっ!?」
サヤカさんは先ほど以上にびっくりしている。
……そういえばサヤカさんには話してなかったっけ。
「…この世界で、本気で想い合ってたことをお互い告白しあって、別れたの。
あの時…私が身ごもってたら、私も同じ立場になっていたはずだし…。
ナガレ君は元々ナンパ師だったし、
こういう日が来るのも、覚悟してなかったわけじゃない。
このバカも言い訳せずに、必死に頼んでくれたから…。
…ま、何を考えてたのかくらいはお見通しだけどね。
だから…。
あんまり気にしないで、サヤカ先輩…」
「…エリナぁ…っ」
「大丈夫、私だってナガレ君の事諦めないから。
ユリとラピスが考えてた方法で仲良くやりましょ?
一年おきに結婚と離婚を繰り返すって、バカバカしい方法だけど。
…あ、でも子供の成長で競い合うのはやってみたいわね」
「うん…ありがと…」
エリナ君はサヤカさんの手をそっと取って、にっこり笑った。
僕は安堵のため息を吐いてソファに寄りかかった。
い、命の危険まで覚悟してたのに。
こんな風にエリナ君が許してくれるなんて思ってなかったから…けど…。
「…で、ナガレ君。
離婚の慰謝料なんだけど」
「あ、えっと、な、何がいいんだい?」
そら来た。
エリナ君はそう甘くはない。
僕のことを想ってくれている、許してくれていると言っても、無制限じゃない。
とんでもない債務を背負わせて来るのは間違いないはずだ…。
「ネルガル」
「へ?」
「…私をネルガルの会長にしてくれる?」
僕は顔の血の気が引くのを感じた。
エリナ君が、まさかそこまで露骨にネルガルを狙うとは思わなかった。
でも、僕にはこれを回避する手段がない…。
ど、ど、どうする…ネルガルとられちゃったら、
僕は本当になにも残らなくなる、よね…。
何もかも無くしてもって言った手前、断れないし…。
「…心配しないでも何年かしたらちゃんと返すわよ。
これでもあんたより経営センスないのは自覚してるんだから」
「そ、それなら…いいんだけど…」
「それとサヤカ先輩」
「はい?
どうしたの、エリナ」
「ムトウ社長が死んで空白になった社長のポジションは、
サヤカ先輩にお願いしたいわ」
「えっ!?」
「もちろん、産休はとってもらうけどね。
ムトウ社長を秘書として手伝うこともあったサヤカ先輩なら、できると思うの。
ムトウ社長もその方が喜ぶわよ」
「ちょ、ちょっとエリナ君…。
稟議書もなしにそんなことをしちゃ──」
「何言ってるのよ、ナガレ君。
ナガレ君には、なにもいう権利はないのよ?」
……だ、ダイナミックすぎる人事が目の前で起こってしまって、僕は固まるしかなかった。
ああ。
地球圏一の兵器商に成り上がったネルガルが、僕のせいであっさり変わってしまった。
こ、これも…ある意味未来と同じ現象が起こってしまったってことかな…。
ま、まあ仕方ないか…会長職を返してくれるのを信じるしかない…。
何年、かかるかなぁ…。
「で、僕は…なにを…」
「会長秘書、社長秘書、それか、主夫。
…どれがいいかしら?」
……僕は、かろうじて会長秘書、と答えることしかできなかった。
もっとも、その実態は子供の面倒を見るのを大半やらないといけない主夫業だったけど…。
……とほほ。
〇宇宙・火星⇔地球航路・ナデシコD・ヤマダジロウの部屋──ヤマダジロウ
……火星で、新ナデシコAに乗っていたヒカルをこっちのナデシコDに乗せてから…二ヶ月。
あと一ヶ月で地球に着くころになって…俺はとんでもないことが起こっていたことに気づいてしまった。
イズミと医務室に寄って、しばらくしてから…ヒカルに呼び出された。
俺とイズミは、赤子を抱いたヒカルににらまれていた。
すごい笑顔なんだが、目が笑っていないし、額には青筋がそこかしこにみえる…。
イズミは、俺のせいで妊娠したことが発覚して、三ヶ月目だと診断されていた。
こ、これは…どうするんだ、俺は…。
「…ジロウくぅん?
詳しく説明してくれるかなぁ?」
「あ、あの、その、えっと──」
俺はうろたえながら、何を説明するべきか悩んでいた。
…どこをどう説明しても、俺の不誠実さしか出てこない。
正直に伝えるのが一番いい、けど、それを躊躇っている俺が居る。
ヒカルのせいじゃない、俺が悪いんだと謝りたいのに、できない。
男らしくない、ゲキガンガーに、熱血に背く行為だと分かっているのにだ。
…少なくとも『イズミが、本気で俺に惚れてしまったから応えた』って言ったら最低、だよな。
そ、それは理由の一つだけど、そんな流されただけみたいな言い方をしたら──。
「…ごめん、ヒカル。
私が悪いの…。
…ガイに私が勝手に惚れて、
酔いつぶれたところを狙って、襲っただけだから…」
「……へぇ」
あ…ああああっ!?
ヒカルがメガネを光らせてうつむいた!!
ぶ、ブチ切れる五秒前だ!!
だ、ダメだ!
イズミを殺しかねない気迫だ!!
お、俺が正直に言わないと…イズミも、イズミの子供もどうなっちまうか…!
「ま、待てヒカル!?
イズミも嘘をつくんじゃねぇよ!!
お、俺が死にかけた時に、助けてもらって…。
地球で約束した通りに、『ガイ』って呼んでくれた、のが嬉しくて…。
それで、俺が…」
「ッ!」
ヒカルが俺の方を睨んだ。
俺に、注意が向いたのはいいが…。
ああ、俺は…ヒーローにならないうちに死ぬのか!?
く、くぅ…悔しいが潔く死ぬしかねぇか!?
…ヒカルは抱いていた子供をそっとベビーカーに乗せて、すぐに戻ってきて座った。
襲い掛かると思っていた俺は、拍子抜けしてへたり込んでしまった。
な、情けねぇ…。
かと思うと…ヒカルは、先ほどまでの怒りの形相が嘘のように、
弱々しく、泣き始めた。
「…信じてたのに。
ジロウ君なら、あの人みたいに裏切らないって信じてたのに。
ゲキガンガーバカで、私が身ごもってたら悪いことしないって思ったのに。
『ガイ』呼びされたくらいでなびいちゃうんだ。
戻ってくるのが待ちきれなくて、デジタル作画も覚えて、
ナデシコAに乗って追いかけてきたのに。
私が一人で仕事も、出産も、育児も一生懸命して待ってたのに。
ひどい。
…ひどいよぅ」
…俺は、視界がぐらぐら揺れたのを感じた。
ヒカルの想いを裏切って、こんなことをしたのを後悔した。
どれだけ俺のことを信じていたのか、
俺が生きて戻るってことをどれだけ喜んでいたのか、思い知った。
最低…すぎるぜ…俺は…。
だけど…だけどよぉ…。
イズミが決戦前に消え入りそうな声で、俺に愚痴ってたこと…。
自分が死んでも誰も悲しまないって言いたげだった、あの時の事が…。
救命行為の最中にキスされた時に気付くきっかけになっちまったんだよ。
俺に救って欲しいって、愛してほしいって、
俺と生きていたい、一緒に居たら幸せに生きていけるって…。
縋り付くようなイズミの表情に、言葉に…引きずられて…。
それで、段々と…好きに、なっちまって…。
「…最低、だよな。
俺は…」
「…ヒカル、ごめん。
私が責任を取るから。
この子はおろすから…。
だから…ガイを許してあげて」
「ま、待てよ、イズミ。
そんな、ことしたら…」
俺はうろたえた。
イズミが俺を助けるためだけにそんなことを言っているのが、辛かった。
イズミが妊娠が発覚した時の、あの時の心底嬉しそうな顔を、忘れられない。
あの時イズミは別れてもいいから、子供を産ませてほしいと俺に頼んだ。
俺と別れてしまっても、俺の子を抱きしめることが出来る。
俺の分身ともいうべき子供を、育てることが出来る。
シングルマザーでもいい。
それでもいいからと、そういう覚悟でいると言ってくれた。
俺は、その時、何も言えなかった。
でもなぜかすごく嬉しくて、イズミが愛しくて仕方なくて、抱きしめた。
それが、とんでもなく不誠実だってことは分かってても。
俺も…イズミとの接点が無くなるのが嫌だったんだと、今になって思う。
…とことん、最悪だ。
責任を取らないって言ってるようなもんなのに、俺は…。
けど、そんなのは秘密にはできなかった。
当然だ、俺とイズミがずっと行動を共にしていることも、
頻繁に部屋を出入りしていることもバレているし、
それどころか医務室に二人で入ってしまったのも、オモイカネダッシュに見られている。
ヒカルがハーリー坊やに問いかけて、ジ・エンドだった。
いくら船員のプライバシー保護の観点で医療情報を引き出せないとはいえ、
ガキのハーリー坊やじゃ、俺たちが浮気しているかどうかの問いをごまかせない。
「ヒカル、お願い。
私はどうなってもいい。
死ねと言われたら死んでだっていい。
ガイを許してあげて…」
「…っ」
ヒカルは、また涙をぽろぽろこぼしてうつむいた。
今度は…何か、我慢しようとしているみたいな顔に見えた。
「…バカ、イズミちゃんのバカ。
ジロウ君なんて最低男のために、全部投げ出しちゃうなんて馬鹿だよ。
でも…。
…そんなことしないでいい。
死なないでいい。
堕胎なんかしなくていいよぅ…」
「「…え?」」
俺とイズミは、急なヒカルの態度の急変に付いて行けずに、
間の抜けた声を発することしかできなかった。
「だって…こんなイズミちゃんの…。
いつも辛そうで悲しそうな顔してたイズミちゃんの…。
幸せそうな顔してるの見せられたら、怒れないじゃない…」
「これは…」
「…リョーコが送ってくれたの。
これを見た時に、イズミちゃんが恋をしたんだって分かったの…。
こんな風に明るい顔を急にするようになるなんて、それしかないって思ったの。
相手がジロウ君だっていうのは、言わなかったけどね…」
ヒカルがタブレット端末で見せた、イズミの、明るい表情…笑顔…。
かつてのイズミを知る人間だったら絶対に想像できない顔だった。
ヒカルもイズミの悩みを、過去に婚約者を二人も亡くしていることを知っている。
だから、この顔で何があったか分かっちまったのか…。
そうか…。
スバルのやつ、おせっかいなことをしやがって。
「…イズミちゃん、しばらくジロウ君の事、お願いね。
ちょっと、何年かジロウ君を許せそうにないから。
そのお腹じゃウエディングドレスはすぐには着れないだろうけど…結婚式には呼んでね。
じゃ…」
「ま、待ってくれ、ヒカル!」
立ち上がってふらふらと子供を連れて部屋を出ていこうとするヒカルを、何とか止めたかった。
こ、このまま放っておいたら、ヒカルはどうなるか…だから俺は…!
でも、ヒカルは俺の方を振り返らないで、小さな声で…。
堪えるように、振り絞る様に俺を止めた。
「…ジロウ君。
私ね、ジロウ君がイズミちゃんをかばったの、すっごくショックだったの。
相思相愛で、お互いのためなら命を捨てられちゃうんだって。
私…失恋しちゃったんだって、思った。
でも、今止めてくれたの、嬉しい。
できれば、ジロウ君に抱きしめてほしい、つなぎとめてほしい。
私もね、ジロウ君が私を裏切ったとは、思ってないよ。
だから真剣に悩んでくれたんだろうなって思う。
ただ、どこかの誰かさんみたいに、ちょっと優柔不断で、
でも本気で、熱血な恋をしちゃったんだなぁって…。
私も、そんなジロウ君の事、まだ好きなんだなぁって…」
「だ、だったら…」
「ううん、ちゃんと離婚するよ。
今回のことはけじめつけたいし。
イズミちゃんにも、私と同じ幸せを感じてほしいから。
だから、今はイズミちゃんを幸せにしてあげて。
…私は一人でも大丈夫だって、分かったから」
「ヒカル…ごめん…」
「…謝んないでよ、イズミちゃん。
私達、親友で、戦友なんだよ?
ジロウ君を助けてくれた命の恩人だし、ね。
…お礼なら、聞きたいな」
「……ッ!
あ、あり…。
あ…ありがと…ヒカル…」
「ヒカル…俺は…」
「もういいの、ジロウ君。
今は君の声を聴きたくないの。
お願いだから黙ってて。
今、ジロウ君の顔を見たら、声を聴いたら…。
きっとイズミちゃんから、奪い返そうとしちゃうから。
悔しくなって、許せなくなっちゃうから。
…いい、ジロウ君?
私がこれから、ジロウ君から離れて過ごす人生はね?
イズミちゃんが送るはずだった人生なの。
それもイズミちゃんは一生、ずぅっとこうなる予定だったんだよ?
子供を連れて女手一つで生きていく。
一緒に暮らしたいはずなのに、恋敵のために離れなきゃいけなくて、
我慢してめそめそ泣いて、それでも相手が戻ってくるのを期待してないといけないの。
…それを憐れんだり悲しんだりくらいなら、
最初っから浮気して子供なんて作らないのが一番いいんだよ。
でもジロウ君がしっかりしてくれたら、私とイズミちゃんは不幸にならない。
普通の男の人だったら一人支えるのが精いっぱい。
でもヒーローになるつもりなら二人分くらいは支えられるように頑張ってよね。
それだけはしっかり覚えておいてね」
ヒカルが、遠くに居るように見えた。
俺から心が離れてると言いたそうな言葉に、悔しさと寂しさがにじんでいるのが分かった。
そして、俺は止めてはいけないのが…分かった…。
「だから今は別れるの。
…でも、二人で必ず迎えに来てよ?
私だって、本当はジロウ君と別れたくないんだから。
二人がそこそこ幸せになったって言えるまで何年かかるのか…。
2年か、3年か…分からないけど…。
迎えに来なかったら、グレちゃうんだからね?」
「…ああ、必ず」
「…迎えに行くわ」
「…約束だよ」
ヒカルは離婚届を後で書くことだけを約束して、部屋を出ていった。
…ひとまず丸く収まったけど、俺はとんでもなく寂しい気持ちになった。
ヒカルだけじゃなく、ヒカルと俺のガキにはしばらく会えないん、だよな。
……一番、かわいい時期にな。
自業自得だけど、堪える…ぜ…。
「…ガイ、ごめんなさい」
「…半分は俺のせいだ、気にすんな」
イズミは俺にもたれかかってきた。
俺は彼女をそっと抱きしめた。
…俺は大事な嫁を、イズミは大事な親友をなくしちまったな。
それでも、ちゃんと幸せになれってか…キツイ課題を出しやがって。
…。
いや、違うな…。
俺は、今…ヒカルに言われたことを受け入れることしかできなかった。
本当は…ヒカルは…。
俺がイズミとしばらく好きにすることを許してほしいと、自分から頼んで欲しかったんだな。
そうしたら、もうちょっとだけ…ヒカルは、俺を許してくれたのかもしれねぇ。
そうでなかったら、イズミとの仲を許してくれるわけがねぇよな。
…本当に情けねぇ。
こんなことに、すぐ気が付けねぇなんてよ。
これじゃ気圧されて、ヒカルに全部やってもらっちまっただけじゃねぇか。
ヒカルが泣かなきゃいけなかったのは…。
俺が未熟で、情けなかったからってだけのことだ。
一人の女だけを一生かけて愛し抜くことも、
二人の女をまとめて愛し抜くことも、
どちらも決断できなかった…流されちまった…。
…それも込みで、二人を支えられるくらい強くなれってことだよな。
畜生、まだまだゲキガンガーには程遠いぜ…。
…サブロウタには、一生たどりつけないとからかわれそうだけどな。
「…イズミ。
俺と来てくれる、よな…」
「もちろんよ、ガイ」
「よっしゃぁ!」
〇地球・佐世保市・PMCマルス本社・ユーチャリスⅢ・格納庫──チハヤ
ホシノアキトたちの結婚式が終わってから一ヶ月後──。
私達は再びアイドル巡業の旅に出ることになった。
そして私達の立ち位置がこれまで以上に重要になるということもあって、
通常の警護では足りず、ヒナギク改二でも追いつかないということになり、
ネルガルから新型ユーチャリスを貸与されることになった。
これは、未来の世界ではユーチャリスがナデシコCのための実験艦だったのと逆に、
ナデシコC・Dのレーダー、電子戦機能を簡易的にフィードバックして生かしたものが搭載されている。
操艦OSも、オモイカネ系に頼らなくてもある程度は電子戦が可能になる。
…でも、正式採用バージョンでは電子戦機能は外すそうだけどね。
それに最終的にはIFS強化体質者でなくても扱えるようにするのが目標だそうだし。
ホシノアキトの義妹ってことで準・マシンチャイルド化したライザが居るから、
まだそこまでは落とし込めてない状態でも問題はないんだけどね。
っていうか、もう戦争がないんじゃ無用の長物だろうけど。
「そろそろ出発するわよ。
エステバリスも六機、問題なく積載できてる」
「じゃあ、頑張ってね!」
「ええ…あんたたちもうまくやんなさいよ」
「は、はは…」
ライザは、見送りに来たジュンとメグミへにこやかに笑った。
…結局、ライザの想いはジュンには届かなかった。
ライザはそれを笑ってごまかしたけど…悲しそうな目はしていた。
でもアイドル巡業と人身売買組織の撲滅活動で、
自分と同じ境遇の人間を助けられる人生で贖罪したいと考えていて…そっちに集中できると強がってたっけ。
「…ライザさんっ!」
「えっ──」
ちゅっ…。
歩き出そうとしたライザをジュンが引き留めて、何をするかと思ったら──。
ジュンは、ライザの唇に…キスを!?
「んむぅ!?」
「……必ず戻ってきてくれるかい、ライザさん。
その…僕、ライザさんのことを、諦めてないから…」
「あ、あ、諦めてないからって…!?
め、メグミはどうすんの!?
っていうかメグミ、なんか言いなさいよ」
「あーあー、見えてませーん、聞こえてませーん」
メグミは、なぜかそっぽを向いて、耳を手でふさいだり離したりを繰り返している。
ふ、ふざけているようにしか見えないけど…ジュンとライザの仲を黙認するつもりらしい。
ど、どういうことかしらね?
ジュンとメグミは来月には結婚を発表して再来月には結婚式をあげるはずだけど…。
「ちょっと、メグミ!
どういうことなのか説明しなさいよ!」
「…説明って言っても、見ての通りですよ?
私とジュンさんが、別れる可能性だってあるんだから…。
ライザさんだって、諦めなくていいんじゃないかって」
「…ライザさんにも、幸せになる権利があるからです」
「情けをかけるつもり…?」
「そう思いたければどうぞ。
…ただ、ジュンさんがライザさんも欲しいって、思ってるだけ。
別に、離婚と結婚を繰り返す分には合法ですから」
くすくすとメグミが笑うと、ライザは頭を抱えるようにして悩んでいたけど…。
顔を真っ赤にして、ジュンとメグミの前に立った。
「そういうことなら容赦しないわよ!
一年の巡業が終わったら、覚悟しておきなさいよ、メグミ!
ライザは言い切ると、恥ずかしそうに居住区画に走って行ってしまった…。
ああ、なに青春してんだか…。
「…っていうかジュンさん、なんであんなことを?」
「…しょ、正直にならないと後悔するからって、
め、メグミちゃんにけしかけられて、つい…」
……何してんのよ。
ていうか、何のつもりよ、メグミは。
ま、いいわ…私には関係のないことだし。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
しばらくしてライザは休憩室に現れ、
アイスコーヒーを二本一気飲みしてクールダウンしていた。
私がぐったりしているのをみて、どこか申し訳なさそうにしていた。
…ったく、らしくないわよ、ライザ。
「…本当、ひどい人よね。
失恋もさせてくれないんだから」
「…キープされてる感じがするからでしょ、それは」
「キープ…だったら良かったんだけどね。
あの人みたいに」
…ライザが、あのクソ兄貴を思い出して思い出を振り返る顔になってる。
ば、ばっかみたい…。
「でも、私なんかに真剣になってくれてるから、嬉しくて…。
そりゃ一年も連続で巡業するってなったら、縁も中々ないだろうし、
私って立場上、恋愛する相手も選ばないといけないし…。
でも私の詳しい事情を知ってくれてる人って限られてるし…。
…ジュンとの恋愛が無理だったら、一生独身で居ようと思ってたから」
「あんた…」
…私が元殺し屋だったことをなじったせいかしらね。
ライザは自分の出自をひどく気にしている…いえ、コンプレックスになっているのよね。
それに、そのコンプレックスを消したのがジュンだったってのもあるみたいだけど…。
「…まだあきらめないでいいって、幸せになっていいかもしれないって。
別に独身でも幸せで居られるとは思ったんだけど、
ジュンに本気で惚れてもいいって、振りむいてもらえそうって思ったら…。
もう、すごくうれしくなって…。
ぐずっ…」
「あーもう、めんどくさい。
泣くなら自室で勝手にべそかいてればいいのに。
ま、良かったじゃない?
お相手が乗り気になってくれたんだし、
一年後、気が変わってないことを祈ってれば。
…お幸せにね」
「うん、ありがと…」
私はライザから離れて自室に戻ると…ジュンの特集が組まれた記事を読み返した。
確かにホシノアキトとダブルドラゴンををのぞけば、不動のトップアイドルだけど…。
あいつって、そんなに魅力的かしらね。
でも…ライザが、こんなに変わるなんて思わなかった。
テツヤのクソ兄貴の呪いが強力すぎてダメになりかかってたのに、あれだもの。
…ま、私には関係なさそうなことだけど、ね。
それならせいぜい、クソ兄貴が奪った分の幸せを補填してくれればいいじゃない。
頼んだわよ、ジュン。
〇地球・佐世保市・町食堂『星天』──テンカワアキト
「ユリカー!ラーメン五人前上がったから頼むー!」
「はーい!」
ホシノたちの結婚式が終わってから一ヶ月後。
俺たちはハネムーンのホシノたちが完全に抜けてしまい、厨房の人数が足りない中…。
ホウメイさんとホウメイガールズがわざわざ手伝いに呼ばないといけない状態になっていた。
ゴールドセインツのみんなもアイドル巡業で抜けてるし、
ホウメイガールズのみんなは一時休業してるから何とかなってるけど…。
…営業が一段落して、俺たちは自分たちの食事を取っていたんだが…。
「そういえばホウメイさん、今日は休みなんでしたっけ?」
「…なんか、最近若い男が出来たとかで。
あれ、確か誰かのマネージャーじゃなかったっけ」
…ホウメイさんが!?
俺は想像が出来なかったけど、そういうことも、あり得る、のか…。
「…ねえ、アキト。
そろそろみんな戻ってこないかなぁ…」
ユリカは、寂しそうにつぶやいた。
俺が居れば幸せだと強がって、ホシノたち、そしてルリちゃんを送り出したユリカだけど…。
さすがに一ヶ月も離れると心細いんだろう。
…少し前に、死んでたかもしれない状況だったからな。
まだ、ちょっと不安になっちゃうんだろうな…。
「安心しろ、ユリカ。
もうすぐ戻ってくるって。
さすがにもう一ヶ月帰ってこないってこともないよ。
それに、ラズリさんとももっと話したいって言ってたろ?」
「…うんっ。
それまで私達が『星天』を守ってなきゃね!」
「だろ?
…明日は休みだし、一緒にどこかに…」
俺は言いかけて、周りに居る人たちがじっと俺たちの言葉を黙って聞いていることに気づいた。
ホウメイガールズのみんなも、すごく関心を持ってるみたい…で…。
…俺たちは、ぼっと顔が真っ赤になっていた。
「ふぁぁ…」
この静寂の中…。
俺たちの、娘が小さくあくびをしているのだけが、食堂内に響いた。
…こんな日常が、ずっと続いてくれればいいよな…。
〇地球・ピースランド・王城・ルリの部屋──ハーリー
ホシノアキトさんたちの結婚式が終わってから一ヶ月後。
四人はハネムーンをそろそろ終わりにして佐世保に戻ろうという相談をしていたみたいで…。
何故か僕はわざわざ通話ではなくピースランドに直接よばれて、ルリさんの部屋に居た。
僕たちは色々あって、連合軍を再び除籍されていた。
戦争が終わったこと、ナデシコ級の艦隊の威力がマシンチャイルドを不要とするところまで来たこと、
理由は色々だったけど、社検を受けているとはいえ少年兵扱いはされていたから、
妥当なところだとは思ったけど…僕は手が空いている状態ではあった。
学校に通うのも今更って感じだし、どうしようか悩んでいたところの、召集だった。
でも…ルリさんとラピスさん二人に呼び出されて、僕は妙に緊張していた。
僕にとっては憧れの二人だもんなぁ…。
ラピスさんよりラズリさんの方が性格的には好きだけど…。
何の用だろう?
「ハーリー、あんたをスカウトしようかなって思ったんだ」
「え…?」
僕の内心を読むように、ラピスさんは急に踏み込んだ話をし始めた。
どうやら、二人はホシノアキトさんを守るために、
様々な戦争防止のための活動をしようと考えてるらしい。
商業活動、政治活動、NPO活動に至るまで、色々なところに首を突っ込んでいけるように…。
そこで必要になるのが、僕たちマシンチャイルドだったと…。
「まずは会社を作って、利益を上げて活動の幅を広げようと思うの。
アキトを広告に使えばいくらでも集められるし、活動の支援もしてもらえるけど…。
アキト自身の意思ではなくて、私達の責任でやろうと思ってね」
「そうです。
幸い、今回は電子制圧を表立って使わないでも済みました。
だから、私達はこれからは裏の世界を監視するために、
電子世界を継続的に掌握しようかと考えたんです。
もちろん、自分たちの活動に有利な情報を得るための不正はしないつもりですけど、
アキトや私達を加害しようとすることや、不正にかかわる内容は暴けるようにしようかって」
「…は、はい」
…それでもちょっと危ないとは思うけど、まだ何か先があるんだろうと思って、
僕は黙って聞いていた。
「で、これが最重要なんだけど。
ネット・コンピューター産業を制圧することができれば、
まずは私達の力に頼らなくてもある程度は達成できると思うの。
だから、ピースランド資本で会社を立ち上げるところからやろうかなって」
「…オモイカネ級コンピューターを三台使って、ですか」
「名前も決まってるんですよ。
不本意ですけど…ダイヤモンド社って名前にしようかなって」
「だ、大胆ですね…」
「で、ハーリーはルリと一緒に社長副社長でやってもらおうかなって。
私は活動が広くなるだろうから、相談役って感じでね。
…どう、やってみない?」
僕は感激した。
軍に残ることは叶わなかったし…。
ルリさんとラピスさんとは離れないといけないと思っていたのに。
こんな風に誘ってもらえるなんて、最高ですよ!
「…オーバーですね」
「…バカハーリー」
そして、僕は…ラピスさんから契約書を渡されて、真っ先にサインしました。
ちなみに、サブロウタさんも連合軍は半分クビになって、予備兵役になったそうで、
こちらの警備主任になることが決まっているそうです。
会長職には、ピースランドの王子、ジャックさんがついてくれるって…。
…どんな会社になるかはわかりませんけど、
僕はこれから二人を…アキトさん達を…支えるための人生を送れるんです。
嬉しいに決まってますよっ!
〇火星・開拓地・ナノマシン研究所周辺の畑──アイ
お兄ちゃんたちが結婚式を挙げてから四か月後…。
私は火星の開拓地に建てられた研究所で、新しい生活を始めていた。
お兄ちゃんたちの事は、もう一段落したから、あとは遠隔診察で問題はもうないし。
本格的にナノマシンの研究をしたかったのもあるけど、
お兄ちゃんを諦めるためには物理的に離れる必要があると考えたから。
「はぁ…ふぅ…」
「夏美さん、そろそろお昼よー」
「すぐに戻ります、アイ博士」
私が声をかけると、畑で研究用の農作物を作っていた夏美さん…。
かつて『草壁夏樹』だった、まだ変装用のマスクをつけている彼女が振り返った。
私は夏樹さんの身元洗浄のため、遺伝子改造をすることになっていたけど、
ついでとばかりに、独り身になった彼女の仕事と生活に協力することになった。
この開拓地と研究所にはネルガル関係の人しか集まってない。
彼女の身柄を保護するのにはちょうど良いということで、
私が世話をするようにと、ラピスに任された。
夏美さんと名を変えた彼女も、あまり人に会わない方が気が楽だと受け入れてくれた。
「…夏美さん、そろそろ顔を変えないと危ないわよ」
「分かってます…。
でも…まだ吹っ切れなくて…」
うつむく夏美さん…私は声をかけられなかった。
まだまだ心の傷が癒えるには時間がかかるわ。
一生癒えないかもしれない、ひどい傷だもの…。
「…でも、こうして手を動かすと生きてる感じがして助かります。
あの頃のことを考えすぎないようになって、ずいぶん心は軽いです」
「なら、いいんだけど…」
遺伝子だけを変えて顔を変えないのであれば、地球に移住した方がいい。
アリサさんからも養子にならないかと誘われているし、条件はそろっている。
でも、草壁さんにこれ以上心配をかけたくないという気持ちに縛られている。
…私からはこれ以上、言いようがないわね。
「昼食が終わったら午後から遺伝子改造の影響の診断をするから、
午後の作業はお休みなのは分かってるわよね」
「はい、博士。
仕事のスケジュール管理までしてもらって、すみません」
「ナノマシンの土改良の研究の手伝いで、
私が上司なんだから当然でしょう。
さ、早くシャワーでも浴びて来なさい」
お兄ちゃんたちも、ずいぶん変わった気がしたけど…。
私もなんというか、昔に比べておせっかいになったかもしれないわね。
…前の世界で死んじゃったママと、明るくなったイリスお義母さんのおかげかな。
二人は私が未来から来た、中身が三十路のおばさんと知っても変わらず接してくれた。
お兄ちゃんたちに振られたのもあるけど、
私は二人と離れたくない、平和な研究を一緒にしていたいと思って火星についてきてもらった。
…私も夏美さんの事を言えないわよね。
でもナノマシンの研究は木連の方が進んでる。
用途を絞ったものは地球も勝っているものは多いけど、全体的には負けてるから…。
研究に打ち込みたいって言うのも本心だけどね。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
私達は研究用の畑でとれた野菜を使った食事を食堂で食べた後、ラボに戻った。
私の研究は、お兄ちゃんたちの身体の整備にも必要なものが多く、
またAH型うるう年ナノマシン、ダイヤモンドダストナノマシン関係の、
特許も多いので機密を理由に立ち入りを制限してある。
だから夏美さんを診るにはちょうどよいのよね。
「はい、大丈夫そうね。
体の能力を上げるための遺伝子改造も良く効いてるみたいだし、
問題なさそうね」
「良かった…」
夏美さんはホッと胸をなでおろした。
木連では遺伝子改造は普通のことだけど、
ボソンジャンプに関わる改造が中心だったため、
廃人を作る可能性が高いイメージもあって夏美さんは若干不安そうだったのよね。
「…睡眠薬は、ちゃんと飲んでる?」
「…はい。
よく眠れてます」
夏美さんはこの仕事に就くまではあれた生活をしていたみたいで…。
一ヶ月ほどは休養を兼ねて静かに生活したものの、
それ以降はストレスから飲酒量がかさみ、
寝不足、ストレスによる体調不良や肌荒れを起こしていた。
仕事はアルバイトくらいはしていたみたいだけど、
一日四時間くらい働くと、家に戻って横なる、酒を飲む、そんな生活をしていた。
平和な世の中を生きようとしても、なかなか立ち直れなかったみたい。
この一ヶ月くらいでだいぶ持ち直したけど、主治医としてはまだ心配が尽きない。
遺伝子改造の影響もあって、それなりに良くなってきたけど…。
「…自分を責めたくなるのは仕方ないわ。
気楽にするのは難しいと思うけど、時間をかけて行きましょう」
「…分かってます」
夏美さんの曇った表情は、晴れなかった。
当り前よね…。
私なんかが、どうこうできることじゃない。
この人の笑顔を取り戻せる人は一人しかいなかったのに…。
…。
私達は、突如ラボの中に青白い光が満ちたことに気付いた。
この懐かしい光は…もう何年も見ていない、あの思い出深い光。
私達の人生を何度も狂わせてきた、あのボソンジャンプの光だった。
誰かがボソンアウトしてくる!?
封印されたはずのボソンジャンプで!?
ということは…たった一人だけボソンの封印を解けるのは…。
そして、その光の中から、ゆっくり落ちてきたのは…。
──あの、ヤマサキ博士だった。
浮遊するようにゆっくりと落ちてきたヤマサキ博士を、
驚きながらも夏美さんは受け止めた。
落とさないように大事そうに抱えて、慌ててラボのベットに寝かせた。
ボソンの粒子の閃光が消え去ったあと…。
静かなラボの中には、夏美さんの荒い呼吸と、激しい心臓の鼓動だけが聞こえた。
私は茫然としている夏美さんに割り込んで、ヤマサキ博士を観察した。
生きているのか、死んでいるのかを確かめないと…。
でも呼吸は落ち着いており、脈も正常だった…。
奇妙だったのは、その顔立ちがずいぶん若いかったこと。
ヤマサキ博士本人とは分かるものの、まだ十代半ばのあどけない顔立ち。
もしかしたら兄弟か、別人なのではないかと思うくらいに違っていた。
夏美さんも、それを想像していて素直に喜べないんだと思うけれど…。
…?
ヤマサキ博士の白衣の胸ポケットに…何か、紙が…?
〇地球・佐世保市・町食堂『星天』──ラピス
私達の結婚式から四か月…。
私は昼時の戦場と化した食堂内で駆け回っていた。
ホントにこの食堂、営業時間短いのに一日1500人はさばくもんだから、
いくら私が若いっていっても、きっついんだよね!
久しぶりに佐世保に戻って、アキトと一緒に働けるのは嬉しいんだけどね!
ダイヤモンド社が軌道に乗るまでが勝負だからって、
一ヶ月に何回も佐世保に戻れないんだもん!
ま、案の定、順調そのものなんだけどね!
「アキトー!
醤油焼きそば、十人前ねー!」
「あいよーっ!」
「…って、何してんのよ、ラズリ!
手が止まってるよ!!」
「あ、ごめんね…」
…思い詰めてるわね、ラズリ。
まーた夏樹さんのこと考えてんのね。
足手まといになるくらい思い詰めなくてもいいのに。
でも足を止めるわけにもいかないから、
ちょっと集中してラズリと脳内で会話することにした。
基本的にはラズリが義体使ってる間はできないんだけど、
ラズリの義体が止まってるなら、ちょっと頑張れば声は届くんだ。
(ラズリ、気にするなら休んでていいんだよ。
誰も責めないんだから)
(で、でも…)
(足手まといになるくらいならちょっと頭を冷やしてくればいいでしょ。
さつきたちに手伝いをお願いするくらいなんでもないんだから)
(…でも)
(なに愚図なこと考えてんの!?
まったく、そんなに気にしてんなら、冷静に考えてみればいいでしょ!?)
(…え?)
(何のために私がアイにお願いしたのか分かんないの!?
夏樹の身元を引き受けさせた理由を考えてよ!
遺跡ユリカはあんたのコピーでしょ!
あんただったら、
あんたが遺跡ユリカだったらどうするかを考えたら…。
ここまで言えば分かるでしょ!?)
(え、えっ…?
…。
……あ。
ああっ!?)
「痛っ!?」
「あっ!?
ラズリ、大丈夫か!?」
ラズリは私の言っていることに気付いたのか、
ねぎの仕込みをしていたため、握っていた包丁で指をきってしまった。
やれやれ、何やってんだか。
「ご、ごめんね、アキト…。
ちょ、ちょっとばんそうこう貼ってくるー!」
お客さんたちが二人をからかうと、顔を真っ赤にしてうつむいちゃった。
それでも手を止めないあたり、アキトはホントにホントの料理バカだよねぇ。
…ま、これくらいバラすのは許してくれるでしょ、遺跡ユリカも。
私達に心の底から幸せになってほしいって考えてるんだろうから。
アキトはユリカ本人じゃないって分かったらドライで居られるけど、
ラズリの場合は他人事じゃないからねー。
でも、シャレにならないくらい手間のかかる二人だよね、全く。
私もちゃんとお嫁さんなれたから良かったけど、なれなかったらホントに貧乏くじだよ。
…でも、私だってラズリにも、ユリにも、負けてないんだから!
私がどれだけアキト達に気を遣ってるか、アキトはま~だ分かってないんだもん。
こういう風になじることくらい、許してくんないと困っちゃうよ。
ま、その分、楽しくやってるけどねっ!
…。
遺跡ユリカは、どうしてるのかな…?
私達のことを見て、笑ってるのかなぁ…?
〇火星・開拓地・ナノマシン研究所周辺の畑──夏美
私は……ユリカさんと同じ人格をもった、遺跡の演算ユニットの人格からの…。
一枚の手紙を読んで、涙をこぼしていた。
そこに書かれていたのは…。
『夏樹さんへ
コバッタちゃんから事情は聞かされてると思います。
すべてが終わったので、ヤマサキさんをお返しします。
身元が割れないように過去のヤマサキさんの身体データで体を作り替えて、
ついでに遺伝子を改造しておいたのでバレないと思います。
あのヤマサキさんの遺体は…。
ちょっと工夫してボソン粒子から精製した『精巧な肉人形』なの。
ヤマサキさんとすり替えたから、もう死んだものとしてあつかわれるはずだから。
遺伝子と年齢が合致した死体があるのに身代わりって思われることはないし、ね?
これでチャラってわけにはいかないと思いますけど…
私達の始めたことで、いっぱい大変な苦労をお掛けしてごめんなさい。
安心して、ヤマサキさんと一緒になってね。
この手紙は燃やして処分して下さい。
ヤマサキさんにすべてを押し付けて雲隠れした、
世界最悪の悪女より』
……なんて最悪な女なのよ、ユリカって女は。
自分勝手すぎるわよ、全部終わったから返すって、なんなのよ。
不良品の返品じゃないのよ、使いつぶしてポイ捨てするなんて。
あんたのしたことってなんなのよ、何のための戦いなの…?
ホシノアキトは放っといたって生きてたじゃない。
自分で好き勝手に夢を叶えて、三股かける性悪じゃない。
そんな人たちのために、私達の人生は狂ったのに。
中途半端に情けをかけて、こんなことを。
こんな勝手な…勝手すぎること…。
受け入れられる、わけ…。
「…う、う、うっ…うぅ…」
「夏美さ…。
いえ、夏樹さん…」
受け入れたくない、こんなの認めたくないのに…。
全世界を欺いて、生き残る、ホシノアキトと同じような手でヨシオさんを…。
戦争被害者にとっての仇を…世界を狂わせた人をこんな風に助けるなんて…。
こんな方法を認めるわけにはいかないのに…!
「ん…あれ…」
「あ…!」
私がこぼした涙が頬に当たって、ヨシオ三が目を覚ました。
あ…会いたかった…嬉しい…!
生きてる、ヨシオさんにもう一度会えるなんて…!
夢だったら覚めてほしくない、もう二度と目覚めなくてもいい…!
ヨシオさんは、私の事をじっと見つめた。
診察のために変装は解いていたから、すぐに分かってくれたみたい。
……でも、次に聞こえてきた言葉は、私の想像をはるかに超える言葉だった。
「な、夏樹さん?
……。
…あれ?
なんか……。
……老けました?」
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
私は…五年ぶりの再開を果たしたヨシオさんに、
腰の入った全力の平手打ちを打ち込んでしまった…。
…手紙をよく読んでおくべきだったわ。
『追伸
ヤマサキさんも自分が無事に帰ってしまうと気にするし、
見た目と矛盾する状態だともろもろ困るだろうから、
年齢と同じくらいの記憶に退行させてあるから気をつけてね♪』
……本当に、『世界最悪の悪女』は格が違うわね。
一番重要なことを、最後に書いておくなんて。
よ、読み飛ばしちゃったのは私だけど…。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
「…ごめんなさい」
「い、いえ、こちらこそ…。
女性に、年齢のことを言うなんて失礼なことを…」
寝起きで強烈なビンタを喰らったヨシオさんは、
むち打ちみたいになってしまって、首にコルセットをはめる羽目になった。
…やっぱりヨシオさんは完全に若いころ、学生の頃に戻って居た。
やたら丁寧で、おどおどしてる性格で…私に対してすごい遠慮がち…懐かしいわ。
「え、えっと…僕は、どうしたのかな…」
「ええっと…どう、説明したらいいかしら…」
「ちょっと、まとめてきた方がいいわよね。
…なつ…き、さん」
「は、はい…。
ヨシオさん、ちょっと色々説明するから、待っててね」
「あ、はい…」
ヨシオさんは、明らかに年下のアイ博士に敬語を使っている私をいぶかしんでいた。
でも事情を説明するのも大変そうね…。
私達はアイ博士とどうするのかを話し合ったけど…。
結局、嘘をつくしかなかった。
10年前に突然不治の病で倒れたヨシオさんが、
治療法を研究する間、冷凍睡眠にかけられており、年をとらなかったことにした。
でも、その冷凍睡眠は表立って公表されず、影武者とひそかにすり替えられた。
影武者はヨシオさんのクローンで、
木連内で地球側に与する勢力が送り込んだ売国奴だった。
元々優秀で、私を許嫁として迎える予定のヨシオさんの、
立場と頭脳を利用するつもりだった。
そして偶然接触してきたコバッタからの情報を受け、
戦争を止める方法として考えていた方法を使って、
地球側に有利にするために動き続けた。
武装を解除した木連を火星に追い出した上で、
火星市民の虐殺を見せつけ、自分たちが罪深い民だと知らしめて、
地球からの交渉を有利にしようとしていたと…。
でも、その間に地球側がホシノアキトの影響で『反戦』に傾いてしまい、
地球と木連の戦争状態が解除されてしまい、
ヨシオさんのクローンは帰る場所もなくして徹底抗戦をせざるを得なくなり、自決した…。
私もそのクローンが本物のヨシオさんだと思って追いかけていたものの、失敗。
その後の顛末は現実と同じ説明をして…。
本物のヨシオさんが偶然、この開拓地で奇跡的に冷凍睡眠のカプセルごと発見、
ここまでで10年の月日が経ってしまった、と説明した。
「…それじゃ、何で僕は生かされてたんだろう?」
「うまいところで入れ替わって死なせるつもりだったんじゃないかしらね。
もっとも、火星に眠っていた理由は分からないわ。
そのせいか引っ込みがつかなくなった後、
入れ替わりたくても間に合わなかったみたいだけど」
アイ博士は何とかまとめてくれた。
ヨシオさんは釈然としないものを感じながらも、頷いてくれた。
…結構穴だらけだし、いつかバレてしまうかもしれないけど、
そのあたりにたどり着ける証拠もないから、大丈夫だと思うわ。
クローンの説明もホシノアキトの事がなかったら思いつかなかったわ。
また、変な助けられ方をしたわね、はぁ…。
「そういうわけで身元を隠すための遺伝子改造を済ませて、
昏睡状態だったあなたが目覚めるのを待っていたのよ。
…夏樹さんも」
「…そんな奇跡的なことが?」
「愛の力、じゃないかしらね。
もしかしたら、親切な神様が居てくれたのかもね?」
…アイ博士、らしくないことを言うわね。
その『親切な神様』は文字通り『世界最悪の悪女』にしか見えないわよ。
「さて…それじゃ二人とも顔を変えて、
生きていきましょうね。
木連もだいぶ変わったし、これからの世の中になじんでいかないと」
「で、でも…僕の知識は時代遅れになって…。
助けたかった木連も、もう…」
「何もかも無くしても、あなたには夏樹さんが居るじゃない?
大事な人のために、これから頑張ればいいのよ」
「で、でも…」
「ヨシオさんは…。
年増の、スレちゃった私じゃ、嫌…?」
ヨシオさんは私の方をじっと見た…。
もう、十歳近く年齢が離れている。
そんなことを考えたら、振られても仕方ないと思った。
でも、ヨシオさんは首を激しく横に振ってくれた。
「夏樹さん…。
十年も待ってくれた…僕のために必死に頑張ってくれた人を嫌いになれません。
お綺麗で、びっくりしてしまっただけで…」
「ヨシオさんっ!」
ぎゅっ!
私は嬉しくて、ヨシオさんに抱き着いた。
ヨシオさんも戸惑いながらも強く抱きしめ返してくれた。
こんな私をもう一回抱きしめてくれるなら…。
もう、全部許してあげる!
五年も待たせたことも、遺跡ユリカにそそのかされて出ていったことも!
嬉しい、嬉しい…!
「決まりね。
…ヤマサキさん。
偽物のヤマサキ博士も、全世界を変えられる力があった。
クローンだったってことはあなたも優秀なの。
元々木連でも優秀だったんでしょう?
…頑張らないとね」
年がそう変わらないように見えるアイ博士に押されて、
ヨシオさんは、小さくこくこくと頷いた…。
…アイ博士がこの中で一番年上だって聞いたら、
ヨシオさんも腰を抜かしちゃうわよね。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
私達は一度解散した。
ヨシオさんはマスクと帽子で人相を隠して…。
私とヨシオさんはあてがわれた研究所の私室に向かった。
これから…また戸籍を作ってもらったり、顔を変えるまでの変装を教えたり…。
たくさん、やらなきゃいけないことがある。
でも、こんな苦労なら大歓迎だわ。
全部、元通りとは言えないけど…。
昔の可愛くなっちゃったヨシオさんと、暮らせるなんて…!
「こ、こんなことになっちゃうなんて…」
部屋に戻ると、ヨシオさんは変わってしまった木連、世の中、
生活空間、食事に至るまで大幅に改善していたこと…。
ここが火星であるということなども含めて、改めて、驚きの連続だったようだった。
十代の若者らしい興奮の仕方に、微笑ましいなと思った。
これからヨシオさんも、この好奇心でどんどん成長するのよね。
きっと、またすごい科学者になるわ。
ヨシオさんが落ち着いて…。
ううん、落ち着き冷めやらぬ中、だけど。
もう一度、改めて、大事なことを伝えたかった。
私の事も…地球と、火星と、木連のことも。
「…ヨシオさん、ずっと会いたかった。
死んだと思った時は…後を追いたくて、辛かった…」
「夏樹さん…」
「もう、戦わなくていいの…。
正義の戦争は本当はないんだって、みんな気づいたの。
私が死にたくなった時…優しい地球人に助けてもらった。
全員が悪い人ばかりの星があるわけじゃないの。
優しい人と、悪い人がいる、それだけなんだって…。
…地球の英雄が、教えてくれたの」
「…そう、なんだ」
「地球の英雄もゲキガンガーが大好きで…。
…彼が、地球と木連をとりもってくれたのよ?」
「…きっとすごい人なんだね。
それできっと…すごい、優しい人なんだね」
「…そうね。
私もいっぱい頼ったの…。
ヨシオさんを迎えに行くときに、無理を言ってね…」
「…やっぱり、すごい優しいんだ。
さっきもテレビジョンに映ってたよね…どのチャンネルでも見かけるくらい。
英雄で、アイドルで、映画俳優で、凄腕パイロットで、
ついでに料理人でって…どんな人なのさ?」
「説明が難しいわね…」
どうやって説明したものかしらね…。
ヨシオさんとの因縁の事は話さなく手もいいけど、
それでも十分ややこしい人だもの。
…。
私は、迷いながらも…。
明日、ヨシオさんと一緒にホシノアキトの映画を、見ようかと思った。
紹介ついでに、デートしてしまおうと、ちょっとはしゃいでいた。
まだロードショウはどこの映画館でも続いている。
私はホシノアキトの映画を見たことはない。
見る価値がないと、見てはいけないとすらも思っていた。
さすがにあらすじは知っているけど、深く知りたくはなかった。
ヨシオさんが狂う原因を作った人たちで…。
能天気な生き方をして、自分の人生をパロディしたような映画を撮る彼を、
心のどこかで、嫌いになろうと努力していたから。
本当はそんなことない、ヨシオさんの言う通りの優しい人達だって分かってたのに。
「…彼の半生によく似た、彼の主演映画、やってるけど見に行ってみる?」
「えっ!?そ、そんな、悪いですよ!
ぼ、僕は無一文ですから!?
そ、それに、あ、逢引きなんて…」
……ヨシオさん、ホントに昔の木連時代に戻ってるから、変な遠慮があるわよね。
これは、接吻一つとっても時間がかかりそうね…。
ま…それも楽しみましょう。
今はただ、平和に一緒に暮らしていきたいし…。
あ、そうだ。
ヨシオさんが年を取るまで、私もAH型うるう年ナノマシンで年齢を合わせようかしら。
「逢引きって…ヨシオさん、そもそも一つ屋根の下でこれから暮らすのよ。
買い出しも、食事も、遊びに行くのも、仕事も、何もかも。
そんなの、毎日逢引きじゃない?」
「……ぼっ」
ヨシオさんは、顔を真っ赤にして震えていた。
十代半ばの木連男児には刺激が強すぎたかしらね。
「それに、ゲキガンガー以外の娯楽も多くなって…。
木連出身の人も、結構地球側の文化に触れて、変わったの。
…何年も待たせたんだから、それくらい、いいでしょ…?」
…ふふっ。
焦っちゃって、本当にかわいい。
でも、その一方でこの世の中の変化を見てみたいという純粋な期待も見える。
ヨシオさんは、改めて前のめりで頷いてくれた。
…せっかくだし、しばらくお仕事休もうかしらね。
ぴんぽーん…。
『夜分失礼するわね、アイよ』
「ヨシオさん、ちょっと出てきます」
「あ、はい」
私は玄関から出ると…アイ博士に呼ばれて、部屋にまぬかれた。
アイ博士の自室で、私は意外なことを提案された。
「今回のことはお兄ちゃんたちには黙っておこうと思うの」
「何故です…?
彼らだって、私の事は心配してるのでは」
「ほとぼりが冷めるまで、大人しくした方がいいってこと。
それに…ちょっとくらい、お兄ちゃんたちに反省してほしいって思ってるでしょ?」
「…それは、そうですが」
「情報的にも、距離的にも、あんまりよろしくないのもあるわ。
いいじゃない、お兄ちゃんたちが本当に悪いと思ってたら、
何年かしたら顔出すでしょ?
火星まで往復半年じゃそうそう来れないけど、
そのうちもっと早く船が出る頃になったら、来てくれるわ。
その時にでも驚かしてあげれば?
…それくらい、していいじゃない?」
アイ博士は、悪そうに笑って、またらしくないことを言っている…。
でも…。
「…そうしますか。
ヨシオさんも彼の事を知ったらはしゃいじゃいそうですし。
今は会わせたくないですし」
「ヨシオ君は意外とミーハーなの?
まあ、死んだはずのヤマサキ博士が若返ってはしゃいでるのを見て、
困惑するお兄ちゃんたちを見るってのも面白いかもしれないけどね。
…あなた達は好きに生きていいわ。
失われた時間を取り戻すために、時間を使ってみればいいじゃない。
しばらく、仕事休みたいんでしょう?」
「アイ博士…。
なんか今日はちょっと、らしくないですね」
「そう?
私はけっこう、こういうタイプよ?
…でも、そうね。
今日は、もう少し私も好きに生きようって思えたから。
じゃ、用はそれだけよ。
お休みなさい、夏美さん。
若い二人を、これ以上邪魔しちゃいけないわよね」
「え、ええ」
…アイ博士、身体は私より若いでしょうに。
私はアイ博士の部屋から出た。
アイ博士はホントに、どこか吹っ切れた感じがするわ…。
…私達も吹っ切らないとね。
これから、新しい人生を歩んでいくんだから…!
私の人生に、失われた希望がよみがえった。
これから先の人生をすべて差し出してもおつりが来るほどの、最高の贈り物。
でも、それは…。
その贈り物を、受け取ると言うことは…。
ヨシオさんがそそのかされて、一人で始めた戦争で失われた命への…。
ヨシオさんがその命で贖っても、決して贖えないほどの罪への…。
裏切りだってことは、覚えておかないといけない。
私が今日決断したことは、
この戦争によってすべてを失った人々に対して、最低最悪の無礼を働くこと。
「おかえりなさい、夏樹さん」
「…ただいま」
ぎゅっ…。
ほんの、十分足らずの外出…。
それなのに、私はまた何年振りの再会のように、泣いてしまった。
ヨシオさんが、私を抱きしめてくれている。
夢じゃない。
この人と居られる、幸せな人生が夢じゃない。
ずっと、ずっと続く、対峙な日常になっていくんだわ…。
…いっぱい、あなたとの思い出が欲しい。
いずれは、あなたの子供も…。
年老いて、死ぬまで…。
あなたと…幸せな人生を…。
〇木星・都市・機動兵器プラント・制御室──遺跡ユリカ
…そろそろ夏樹さんのところに届いてるはずだね、ヤマサキさん。
ようやく、全員…幸せになってくれたみたい。
これくらいのズルは、いいよね。
だって…。
望まない結末を避けるために、私がアキト達を助けるのは、本当のズル。
木星戦争の元凶である私が、戦争の特異点であるアキトを助けてしまったら、
世界にどんな最悪の因果律を生み出すか分からない…だけど。
ヤマサキさんは、アキト達を狂わすターニングポイント、でさえない。
ヤマサキが居なくても、草壁さんたちの勢力に居る人が代わるだけ。
結局同じ実験はされてアキト達の人生は狂う。
ヤマサキさんの生死は、因果律に大きな影響は与えない。
アキト達は自分たちの意思で、力で運命に抗い、ズルなしで因果律を捻じ曲げた。
全てに打ち勝った彼らには、全てを取り返す権利がある。
だから、最後くらいは私の力を受け継いだコバッタちゃんを丸め込むちょっとズルしていいもん。
そのズルで、大きく結末が変わらないんだから。
だから──私の、最後の最期で一個だけのズルも、許されていい。
私はヤマサキさんが自決する前の日に、眠っているヤマサキさんにある仕掛けをした。
ヤマサキさんの意識をボソン粒子で生成した「生体義体」に接続して、
目覚める身体を義体に設定した…当然、ヤマサキさんには気づかれなかった。
それもそのはずで、検死されても困らないように脳もほとんどコピーしてあって…。
ナノマシンの補助脳による義体の操作を無意識にしながら、
丸々コピーの肉体で、ヤマサキさんは自殺した。
そしてそのショックはさすがに本体の身体にも影響がある。
あまりに完璧に模写してしまったため、電気信号が同じように働く。
そのため完全に意識を失い、一瞬、ショック死に近い状態に陥る。
私はショック状態のヤマサキさんの身体が本当に死ぬ前に、
ヤマサキさんの身体データを過去の分を引き出して、
ボソンジャンプさせるのと同時に、全身と脳髄の記憶部分をすり替えた。
B級ジャンパーにもこっそりしてあるし、ね。
まだ脳の一部にある程度の記憶のバックアップは入っているだろうけど…。
アキトの映画を見た後には、きっとその夢だと勘違いする程度しか残らない。
体と脳の記憶部分がラピスちゃん、
脳のほとんどがユリカという別人で造られた、未来の世界の『ラピスラズリ』と同じ方法。
これを使ってヤマサキさんを新しく作り替えた。
これなら、全部うまくいくと思う。
何もかも、これでリセットできる。
いい方法を思いついてくれたよね…。
アイちゃんとアクアちゃん、それに重子ちゃん。
生体ボソンプリンター、義体、死んだように見せるトリック…。
全部、最悪の結末を覆すための、いいヒントになったよ。
ふふ、それにしても…。
本当は私と同じユリカだったラズリちゃんじゃなくて、
ラピスちゃんの方が私に考えが似てるなんて、ね。
生体義体を使って、大切な人を助けるんだもん。
…ヤマサキさんを、助ける権利なんてないって、私も自分で思うけど。
でも、あるの。
私は遺跡として、ではなく…。
ユリカのコピーとはいえ、一個の人間としてヤマサキさんを愛したから。
愛した人を助ける資格は、私にもあるの。
それがどんな間違ってることでも、間違ったやり方でも。
ヤマサキさんの、本当に生きたかった道に戻してあげるくらい、いいじゃない!
拒絶されたのはショックだったけど…それでも助けたかった。
…本当に、アキトに似て不器用で、愛しい人だった。
あの人を愛したことを、誇れるような…。
…?
あれ、ボソン反応…?
私のボソンジャンプログに、残らない、反応…?
え、だれ?どこから?どうやって…?
「ぐへぇっ…」
「ゆ、ユリカ、大丈夫か!?」
「ユリカさん、しっかり!」
「…二人とも、それ本体じゃないから大丈夫だよ」
私がボソン反応のある方向、上を見上げると…。
突然、アキトとルリちゃんとラピスちゃんが降ってきて私を押しつぶした。
それだけじゃなくて、私の本体である遺跡の演算ユニットまで三つ落ちてきた。
って、つぶれてる場合じゃないよぅ!?
だ、だって…三人とも、私と同じ格好…。
裸で、真っ白で、それで演算ユニットを抱えてる…。
まるっきり私と同じ存在に見える…。
アキトは黒い皇子時代の頃の年齢に見えるけど暗そうじゃないし、
ルリちゃんは18歳くらい…?
ラピスちゃんも背は低いけど、ルリちゃんと同じくらい、なの…?
「えほっ、けほっ…。
え、え、え!?
何これ、どうしたの三人とも!?
みんな演算ユニットなの!?」
「そ、そうだよ。
よ、ようやく見つけたよ…ユリカ…時間かかった…」
「…何をようやく見つけた人を押しつぶしてんですか。
危うく殺すところだったじゃないですか。
バカ」
「探したよ、ユリカ。
私達、並行世界から『ユリカの人格をコピーした演算ユニット』を、
何とか見つけようとしたんだ」
「え?!」
「詳しく説明しますね」
ルリちゃんはイネスさんみたいにどこからかガラガラとホワイトボードを押してきた。
…ボソン反応、しなかったんだけどどこからだしたのかな。
で、私に対して詳しい説明をしてくれた。
私達は全員はだかんぼだから、ちょっとおかしい状況だけどね…。
…で、ルリちゃんとラピスちゃんが説明してくれたことにびっくりしちゃった。
なんと、遺跡にユリカが融合されることで生まれた、コピーされた私と同じで、
アキトが遺跡に融合された世界というのも存在してて、
そちらではヤマサキさんと夏樹が逆の立場だった。
「で、でも、夏樹さんは私の世界のオリジナルのはずなのに…」
「それくらい些細な差です。
並行世界の数からいえば、そんなのいくらでも発生しえます。
ってか、私とラピスがA級ジャンパーである世界に比べれば些細なことです」
「えええええええええっ!?
やっぱり二人とも遺跡に融合されたの!?」
「うん。
アキトの世界はユリカの世界と逆位置になってるだけなんだけど…。
私とルリのところは色々立ち位置も違ってて、
アキトがマシンチャイルドで、
ルリが少女パイロットだったりとか。
まあ、細かい話はあとでゆ~~~~っくりお茶でも飲んでしよ。
とにかく、そういうことをしてきた。
で、私達もユリカと同じで自分の納得するエンディングを迎えるまでは何万年も粘ったの」
「しかもその後、私達はお互い家族になれる人格がコピーされた演算ユニットが、
並行世界にないかを探そうとしたんです。
でも、これは納得するエンディングを探すよりずっと大変で…」
「参ったよ、ホントに。
遺跡に融合した人格をコピーされる現象ってケースが少なすぎてさ、
すごい年月探さないといけなかったんだ」
「ど、どれくらいかかったの?」
「アキトさんが私を見つけるまでに23億年、
私とアキトさんがラピスを見つけるまで10億年、
ユリカさんを見つけるまでに17億年。
合計50億とんで12649189年です。
しかもこれ、合流するたびに並列処理してそれくらいかかったんですよ?」
「そうそう。
ボソンの空間に漂って、影響が出ないように配慮しながら。
その間ずっとこの体はインターフェースにすぎないし、
ずぅっと自由だったから、楽しい思いさせてもらったけどね」
「やめろって、ラピス…」
「いやー」
私はあんぐりと口を開けるしかなかった。
私の四万年そこそこなんて、ホント赤子以下じゃない!?
宇宙の誕生から今以上の時間がかかってようやく出会えたの!?
「でもさすがユリカさんです。
四万年くらいで、よくここまでの事を考えつきましたね。
私達、納得いくまで百万年以上かかったのに」
「あ、あははは…」
い、一か八かの賭けだったけどね。
ホシノアキトって存在を作るの、因果律にも因子にも悪影響だから…。
「…ユリカ、良いか。
俺たちは人間に比べれば永久不滅の寿命を持ってる。
たぶん、宇宙が崩壊するまでの年数は持つと思う。
だから…」
「…だから?」
「さっき言った通りだ。
…同じ時を生きられる遺跡同士で、
俺たちのオリジナルと同じような、家族として…。
一緒に暮らせるのを夢見てたんだ」
「…でも、私達、言ったら同じ演算ユニットでしょ…?
別世界って言っても、同一人物で…」
「そんなの、些細なことだよユリカ。
オモイカネ×オモイカネダッシュみたいなもんだから」
「…ラピス、カップリングみたいに言うのやめて下さい、萎えます」
「…まあ、見た目も性格も違うからいいだろ、ユリカ。
そんなことは、もうどうでもいいだろ…?」
…確かにそうだよね。
寂しい思いをするくらいなら、羨ましかった『本物』のアキト達と同じように…。
ううん、私と同じ時を生きてくれる、この三人と生きる方がいいもん。
「ボソンジャンプの記録書き出しを終わらせて、
並行世界を作らずに、この結果で世界を固定する方法がある。
…三人で合流出来たこの世界で、生きよう。
俺たちはこの世界で壊れるまで生き続けよう。
もう、誰にも干渉しないで、幸せに暮らそう」
「いいの…?
こ、こんなご都合主義みたいな…偶然があって…。
私が望んだとおりに、こんなことが起こって…」
「いいもなにも、なくないか?
自分の人生なんだから、そうしたいか、そうしたくないか、だけだろ?
お前の気持ち一つだぞ?
それにこれは偶然じゃない、必然なんだ。
お前が俺たちと同じ、遺跡にコピーされた人格で…。
同じように世界を改変しようとしたから、こうして探し当てることができたんだ。
そうしないままだったら、俺たちはお前の存在を発見できなかった。
お前の行動が、諦めない心が、俺たちを引き寄せてくれたんだよ。
胸を張っていいんだよ、ユリカ」
「そうですよ。
寂しい思いは、もうさせません」
「うん。
一緒に居よ?
何のために50億年も探したと思ってるの?
私達にはユリカが必要なんだよ。
…アキトも、私達二人だけじゃ足りないんだって」
「だ、だからなじるなよぉ、ラピス」
「いや」
「どうです、ユリカさん?」
「…ぐず…。
わ、私は…」
〇作者あとがき
どうもこんばんわ、武説草です。
改めて、最終話(裏)を書かせていただきました。
さて、祝杯だ。
今日はきっとお酒が美味しい。
どいつもこいつもご都合主義的にクリアしてしまう、
そんなお話になってしまいましたが、これにて今作の目標だった、
『メインキャラ全員幸せにして最終回』を迎えるという目標を達成してのエンディングです。
世界の闇に抗いきれなかったナデシコの人達が、ナデシコ色に世界を染め上げての、大勝利。
これが、最新式武説草流だッッッ!!
アキトという人間が、そしてナデシコに登場する人たちが、
何が何でも幸せをつかもうとして、それが叶う話があってもいいじゃないかッ!
本当はもう少し、他のキャラのその後を書こうかと思ったんですが、
長くなるしヤボかもしれないので、それは別の機会にしようかなと。機会があれば。
まだ書きたい話、語りたいことはありますが、99話のあとがきのとおり、まずはちゃんと終わろうと。
今回のメインストーリーで継続して色々恋愛が続いていた人たちと、
ルリとラピス、ハーリーのその後を描いて、
ヤマサキと夏樹も、遺跡ユリカさえも救われて終わり、ということでひとつ。
感想代理人プロフィール
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代理人の感想
怒濤の結婚ラッシュ――――――――まとめて片付けやがったな(笑)。
まあ一流の悲劇より三流のハッピーエンドってのもありますけどね。
無理矢理強引やけっぱちの大団円、ある意味では非常にナデシコらしいかと思います。
それでは――完結、お疲れ様でした!
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