〇地球・東京都・アカツキ邸─アカツキ

やれやれ…。
ホシノ君ちは相変わらずトラブル続きのようだね。
エリナ君から聞いた通りだと…この世界のホシノユリの人格が表面化したと。
もっとも別人格というよりは本人の一部という方が正しいそうだから、
そのうちうまく落ち着くんだろうね。
まあ、それでもうまくやるんだろうが。

…それにしても朝日がまぶしいね。

エリナ君は…もうシャワーを浴びているみたいだ。
いつもながら切り替えが見事だ。いつも感心する。
そういえばエリナ君は山口までラピスを送らないといけないんだったか。
ホシノ君のためになることは僕らのためになるわけだが…。
少しだけ妬くね、さすがに…。

「起きた?」

「ああ、さっきね」

「それじゃ、私は先に行くわよ。
 アカツキ君は?」

「僕は昼から。
 だけどエステバリスとナデシコ関係の事で軍の上層部との接待が長引きそうだ。
 夜はだいぶ遅くなるから先に帰っていたほうがいいと思うよ」

…このところ毎晩、一緒に過ごしてしまっているな。
ホシノ君との勝負が近いからか、エリナ君は妙に積極的だ。
それでも優しい言葉はかけてくれないのが、ちょっとだけ悔しいところだ。
…全部、僕が悪いとは知っていてもね。

「…分かったわ」

エリナ君は手早く着替えて、出かけてしまった。
僕の態度が気に入らなかっただろうか…それはここのところずっとだけども。
僕は煙草を少しだけふかして、すぐに灰皿に置いてしまった。
…僕のやっていることは、恐らくホシノ君の馬鹿げたやり方よりも愚かだ。
それでも…引けないんだよね。

さて今日は…君たちはどう戦うんだい…?






























『機動戦艦ナデシコD』
第二十三話:Deny-否定する-その6






























〇地球・テレビニュース

「本番はいりまーす。3・2・1…」

ADのカウントが終わり、
テレビのニュースキャスターが、カメラに向かって一礼をした。

「みなさん、こんにちは。
 お昼のニュースの時間ですが、今日は予定を変更してお送りします。
 山口県で、連合軍とPMCマルスの共同作戦が再び実行されるとのことです。
 こちらをどうぞ」

ニュースキャスターの背後のモニターに、
PMCマルスの小隊構成が表示される。
そして前回のPMCマルスの放送を担当した解説・実況の二人が現れた。

「こんにちは。
 今回のPMCマルスの編成ですが大きく様変わりしましたね」

「はい。
 襲撃事件で負傷したホシノ、マエノ両名が小隊から外れてしまいました。
 しかし、ネルガルのパイロット養成所から4名、新規に加入した形になっています。
 ご覧下さい。
 第一小隊、
 スバル・リョーコ、
 アマノ・ヒカル、
 マキ・イズミ、
 
 第一小隊の指揮は、ホシノユリの姉でもあり、
 ネルガルに就職しているミスマルユリカが担当しています。
 なんと今回はホシノユリがにより精神的に不調になり、
 記憶喪失になってしまっため代打として参加することになったそうです。
 ミスマルユリカは皆様ご存知、連合軍極東方面軍司令官・ミスマル提督の長女です。
 彼女は連合軍の士官学校にて主席で卒業したほどの才女です。
 諸事情あって代理出産で誕生したホシノユリとは戸籍上は姉妹ではありませんが、
 血縁上ではまぎれもない姉妹です!」

「記憶喪失ですか…。
 彼女もPMCマルスの準備に奔走する日々が続き、
 またPMCマルス襲撃事件からトラブル続きで過労が祟ったんでしょうね。
 それにしても血縁上ではまぎれもない姉妹でも、戸籍上では姉妹ではないとは奇妙ですね」

「代理出産は違法ですから、仕方ないとは思います。
 法律上、変更する方法がないということでしょう。
 その代理出産も非合法に行われたようですが、
 彼女の育ての両親についての詳細も謎に包まれております。
 
 …さて、ミスマルユリカはネルガルの社員であることもあり、
 ネルガルのパイロット養成所卒業生の指揮を担当することになったそうです。
 
 また、指揮車両のオペレーターはホシノアキトの妹、ホシノルリが担当するそうです。
 先日から噂になっていた、沖縄で目撃されていた彼女です。
 ホシノアキトは自分の家族構成についてはあまり語った事がありませんが、
 やはりそっくりですねー!
 彼女は社検をクリアして正式にネルガルの社員になった、弱冠十一歳の天才少女だそうです!!
 これは…兄妹そろって才覚がありますねー!」

「これは意外な展開になってきましたね。
 ミスマルユリカは、この間の衝撃的な記者会見にも参加していたこともあり、
 ミスマル提督の娘として知っている方は多いかと思いますが…。
 
 最近、噂になっていたホシノアキトの妹、ホシノルリも登場とは驚きです。
 二人とも天賦の才に恵まれているようですが、ホシノ家には謎が多く…。
 両親共に、取材を拒否しています。
 
 この二人はホシノユリの不調のため、自分から手伝いを申し出たそうです」

「家族思いですねー」

「この件についてミスマル提督は、
 『アキト君の助けになるならとユリカの意思を優先させた。
  ルリ君も協力してくれるということで非常に心強い。
  ぜひ、いかんなく実力を発揮してくれることを期待している』
 との事です。
 
 続いてパイロットの紹介です。
 
 スバルリョーコは戦闘機パイロットの父を持ち、パイロットの素質に優れております。
 また祖父譲りの居合術にも長けるため、人型のエステバリスの操縦に向いている層です。
 
 アマノヒカルは漫画家志望だそうですが、エステバリスのゲームの全国大会で優勝、
 その後、パイロットにスカウトされたという異色の経歴です!
 
 マキイズミはその過去が一切不明!
 ミステリアスな笑みと、鋭い射撃術が冴え渡ります!」

「なんとも個性豊かな小隊ですね」

「そして続いて第二小隊です。
 ヤマダジロウ、
 テンカワアキト、
 明野さつき。
 
 ヤマダジロウはネルガルのパイロット養成所の卒業生です。
 彼はゲキガンガーマニアのようでして、
 エステバリスをゲキガンガー呼ばわりしているそうです。
 大声と気合は人100倍!暑苦しくて騒がしい男です!
 
 そしてテンカワアキト!
 どうやら前回ひどい目に遭いながらも心が折れていないようです。
 ホシノに代わって十分な活躍を見せられることを期待しましょう!
 
 最後にPMCマルス期待のホープ、明野さつき。
 彼女は12名いるパイロット候補生の中でも、
 総合力ではホシノアキトのお墨付きをもらえるほどだそうです。
 エステバリスの操縦訓練は三日と経験は浅いですが、期待できます。
 
 第二小隊の指揮は、ホシノアキト。
 前回見事な活躍をしたホシノアキトですが、
 傷は驚くことにほとんど完治しつつあるそうです。
 しかし大事を取って指揮にまわりました。
 プレイヤーとしてではなく監督…ではなく指揮担当としてどこまでの腕をみせるか?
 
 指揮車両のオペレーターは、ホシノユリの妹、
 ホシノ・ラピス・ラズリが担当します。
 彼女もルリ同様、先日、社検をクリアしているそうです。
 同じく十二歳の天才少女だそうです!!
 しかし、まさかホシノユリにも妹がいたとは…。
 こ…これはどういうことでしょう!?」
 
「いえーホントにホシノ家は謎ですね。
 ラピスラズリ、といえば瑠璃を意味します。
 どういうことでしょうか!?
 ホシノルリと同じ名前を持つこの少女、
 あまりにホシノユリと似ても似つかない!」

「えープロフィールによりますと、
 ホシノアキトとホシノルリ、
 ホシノユリとホシノ・ラピス・ラズリは、
 それぞれ兄妹、姉妹関係こそありますが、血縁関係が無いようです。
 ですのでミスマル家の直系の血筋を持つのは、
 ミスマルユリカ、ホシノユリのみで…ラピスラズリはどうやら、
 ホシノユリを代理出産した家に養子にとられていたそうです。
 そのためラピスラズリもホシノ姓のようです…ホシノユリは旧姓も『ホシノ』だそうです。
 …謎が深まりますね」

「血筋が違う割にホシノアキトとホシノルリは見た目があまりに似ていますからねー。
 彼らにもっとお話を聞きたいところですが、
 もうすぐ戦闘開始です。
 インタビューは戦闘後にしましょう!!」














〇地球・佐世保市・佐世保ドック・ナデシコ・ブリッジ─アオイジュン

僕はブリッジの大型モニターに映り込むテレビ番組を見ながらソワソワしていた。

ああ──心配だ心配だー!

戦闘力は抜群とはいえ、PMCマルスの戦闘は無謀なことが多い。
その中にユリカが飛び込んでいくなんて考えもしなかった。
今日は訓練が休みの日だけど、まさか手伝いに行くなんてー!

「アオイさん、付いていけばよかったのに」

「こういうところだらしないわねぇ」

「だってしょうがないじゃないですかー!
 予定があるとは聞いてたけど、
 まさかPMCマルスの手伝いとは思わなかったんですからー!!」


メグミちゃんとミナトさんが呆れてみているけど…やめられない。
うう…ユリカ、君はいつからそんなにアクティブになったんだい…。
いつも覚悟が決まるとすごい一直線に動くタイプだったけどさ…。
ナデシコでの訓練は休みだけど、結局ここで生活しているので、
僕らはロビーのごとくブリッジに入り浸ったりすることは日常だ。
特に外出する用事がなければそのまま内部で過ごしている。

…しかしホシノ家、謎が多すぎないか…?
ホシノアキトの戦闘能力の事もだけど…妹までことごとく天才。
しかも血縁関係がない…。
う~ん…まさか本当に改造人間の集まりじゃないだろうか…。

「でもルリルリといい、ホシノアキトくんといい、
 このラピスって子といい…すっごい目立つわよね。
 確か地毛だって言ってたけど」

「アニメのキャラみたいですよね」

「魔法少女?」

「ナチュラルライチはあんな感じじゃないですよぉ」

「じゃあビジュアル系バンド?」

「…確か歌は下手だったような」

…ナデシコは今日も平和です。



























〇地球・連合軍立川基地・司令官執務室─ミスマル提督

さて、もう少しで作戦開始か…。
私はテレビを付けて、生放送のPMCマルスの戦闘中継を見ている。
こんな形でユリカの初陣を見る事になろうとはな。
連合軍に属していたとしても、リアルタイムで戦闘を見ることなどあまりないしな。
アキト君との共同作戦ということで、ある程度安心はしているが…不安がないわけではない。
チューリップはそれほどサイズが大きくないが、消耗戦になると手に負えないからな。
…それにしてもユリの状態が気になるな。
うーむ、今回もアキト君のそばにはいるのかもしれんが…。

「提督」

「なんだ?」

「いえ、あちらの連合軍基地には何か指示をされないので?」

「こういう時は現場の判断を信じるしかあるまいよ。
 共同作戦に娘が二人、息子が一人居ようと特別視はできん。
 彼らの事だ、うまくやるだろう」

「信頼なさってますね」

「ああ」

今回も艦隊支援は期待できそうにないな…。
しかし、あのチューリップをどうやって撃破するかだ。
小さいとは言っても、チューリップ相手ではネルガル製のロケットランチャーといえど数が必要だ。
駆逐艦クラスほどあっさりとは撃破できまい。
しかも連合軍もまだネルガル製のロケットランチャー、そしてミサイルに関しては予算が降りてない。
配備にはあと一ヶ月は必要だろう。
ただ戦線もそれまでは膠着状態になっている場所が多い。恐らく大丈夫だ。
チューリップも奇妙な艦だからな…あれはどちらかといえば一種の空母なんだろうが、
休眠状態になることもある謎の多い艦だ。
それどころか駆逐艦まで吐き出すからな…。
アキト君、今回はどんな手を使ってくるんだ?



















〇地球・山口県・連合軍基地周辺・バス─アリサ

私達は指揮車両の近くにバスを止め、現場の動きを見学するためにここに到着した。
PMCマルスの社員、そしてパイロット候補生達は右往左往して準備を進めている。
軍と違って、物資の準備なども訓練の一部というわけではないので、
それなりに苦労しているのがわかる。
…しかし私達、連合軍パイロット訓練生はかなりリラックスしてその様子を見ていた。
今回は手伝いなしで完全に見学ということで、それなりにしっかり観察しないといけないわけですが…。

「ビデオ持ってきたか?」

「間近でエステバリスの戦闘が見られるとはなー」

…完全にお遊び気分の人も2割くらい居るので、どうも気が滅入りますね。
テレビ局の人もついでに右往左往してます。
私達はテレビ局の撮影している映像をついでに見せてもらってます。
恐らく、全国で一番この戦闘の様子が良く見える場所ですね。
…しかし、あまりに堂々とこんな戦闘風景を見せてますが、情報統制は大丈夫なんでしょうか。
勝っている間は映しておいた方がいいでしょうけど…。
ああ…私も早くエステバリスで戦闘に入りたい…。























〇地球・山口県・連合軍基地周辺・指揮車両周辺─さつき

私達PMCマルス社員はてんやわんや状態だった。
前回は佐世保市内でそれなりに土地勘がある状態だったけど…。
今回は遠隔地なので何か足りないものを買うのにすらも困難が生じる。
ユリさんの入念な下準備がPMCマルスには不可欠だって、再認識させられる。
…う~ん、ユリさんってすごい。

「レオナー!
 空戦のエステバリス、一台だけ来るんでしょー?
 まだ届いてないのーーー!!」

「さっき連絡があったわよー!
 整備に手間取って、あと一時間はかかっちゃうってー!」

「あー…ぎりぎり間に合わないじゃないの…」

トレーラー班の私と、青葉、レオナは本来ユリさんが担当していた、
エステバリスの移動について手配を行わざるを得なかった。
しかも、今回は私はパイロットのほうに集中せざるをえないので…。
トレーラー運転手をスポットで手配する必要があった。
…そして佐世保の整備班が整備した空戦エステバリスの手配に手間取っていた。
陸戦フレームのエステバリスの整備はみんな慣れてきたけど、
どうしても作戦上、高価な空戦フレームを一台だけでも無理に準備しなければならなかった。
今回は基地周辺で迎撃をすることになるし、海に逃げられてしまうと手出しができない。
前回ほど木星トカゲは地上戦闘に力を入れていないから…水際での迎撃がメインになる。

ただ、空戦フレームは戦闘機のノウハウが入っていることもあり、
手練れの整備士であっても困ることが多かった。
…整備班長のシーラちゃん抜きで、
一時間の遅れくらいで済ませてくれている事が奇跡的なんだよね。
ただでさえ台数が倍増しているし…砲戦フレームまで増台したから、合計すると3倍の台数がある。
今回も陸戦エステバリス5台、砲戦エステバリス3台、空戦エステバリス1台と大所帯。
トレーラーも9台。うち、6台がレンタル。
アサルトピットの付け替えで対応できるとはいえ…これは戦艦なしの運営が厳しいと思い知らされるわね。
パイロットが6人に対して、エステバリスが9台だもんね。
重力波ビームトラックも小隊ごとに1台ずつあるし。

「さつき、そろそろパイロットスーツに着替えて」

「青葉、更衣室なんてないわよぉ!?」

「指揮車両で順番に着替えればいいじゃない。
 そもそも蒸れて暑いからって着てこなかったのはアンタでしょ」
 
…ぎゃふん。
安物でいいからテントくらい買ってくるんだった…。
仮説トイレじゃ狭すぎて着替えるのきびしいもん。


















〇地球・山口県・連合軍基地周辺・指揮車両周辺─テンカワアキト

俺達はしばらく準備に追われ続けた。
今回はユリさんの不調でいつもの下準備がない上に、3倍のエステバリスがある。
配置、指揮車両、そして控えの人員、そのほか準備を考えると時間がいくらあっても足りない。
…大変なことになったな。
整備班のみんなも半分はPMC本社に戻って空戦フレームの整備にかかりっきりだったからな。
空戦フレームと同時にここに来る予定だが、作戦中の到着になる。
今回は前と違ってパイロットの人員も出撃準備に奔走することになるほどに手順が整っていない。
…ホシノもこういう準備は得意じゃないみたいだしな。

「テンカワー!そろそろブリーフィングだぞー!」

「うっす」

俺はナオさんに呼ばれて、指揮車両に向かった。
PMCマルスの社員が一同に集まっている。
今回はネルガルから支援で参加してくれているエステバリス隊、
そしてユリカと…本当にルリちゃんまで参加するのか。
社検を受かっているとはいえ、こんな小さな子まで。
俺達は慢性的に人手不足しているし…ユリさんもなんだか別人格が出てきているらしいし。
一番頼りになる人が抜けている状態だ、生き残るにはこういうのも致し方ないだろう。
こんな危ないことを手伝ってくれるとはホシノもいい妹を持ったよなー。
…お、ホシノが作戦説明を始めたな。

「前回と違って、敵は地上戦力はあまり展開しない。
 海に面した基地を、直接空戦戦力で叩いてくるらしい。
 つまり、前回のような誘導は難しい。
 基地での水際での迎撃になる。
 基地施設の破壊をしないように気を付けてくれ。
 
 それと今回はユリカ義姉さんが作戦の基本指揮をとる。
 実力はみんな知っての通り、軍の学校を首席で卒業するレベルだ」

「よろしくね!ブイッ!」

ユリカは満面の笑顔でブイサインを差し出している。
……不安だ。
みんなちょっと呆れてるが、まあホシノが凄い奴だが抜けてるせいもあって、
この程度なら許容範囲なんだろうけどな。

「…バカ」

ルリちゃんは割と徹底的に呆れている。
ユリカは昔っから突拍子もないんだよなー。
それから編成について詳しい説明が入り…。
どうやら俺達第2小隊は控えのポジションになるみたいだな。
第1小隊のみんなが前線…リョーコちゃん達は本当に強いから、大丈夫だろう。
そうこうしているうちにブリーフィングが終わり、ひとまず作戦前の休憩にはいった。
…それにしても。

「みんなー!作戦前にお弁当たべてねー!」

「「「「「「あざーーーっす!!」」」」」」


ユリさんが大量に作ったおにぎりやからあげやら厚焼き玉子やらをふるまっている。
彼女は作戦行動にかかわることが全くできなくなってしまったので、お弁当係だ。
…ユリさん、完全に別人だよな。
いや今のほうがユリカの妹らしい感じはするんだが…。

「テンカワ君!こっちおいでよ!」

「アキトー!こっちこっち!」

…ホシノ家全員とユリカが、ビニールシートを引いて集まっている。
作戦前の休憩とはいえ、ピクニックじゃないんだぞ…。
とはいえ…微妙に断る理由も見つからず、俺はホシノの隣に陣取った…。
が、強引にユリカに引っ張られた。

「アキトぉ!隣に来てよぅ!」

「だーっ!なんでベタベタするんだよ!」

「テンカワ、女の子からの好意は受け取っとけよ。
 かまってもらってる内が華だぞ」

「そーだよ!冷たいよアキト!ぷんぷん!」

…ホシノ、お前がそういうことを言うとは思わなかったぞ。
なんとなく好意を抱かれてる気はするんだけど、どう応じていいのか分からないんだよな。
別に告白されたりしたりしたわけじゃないからなー。
はぁ、嫌いじゃないけど騒がしいんだよなユリカは…。

「…ユリ姉さん、大丈夫ですか?」

「うん、ちょっとだけ怖いけど大丈夫。
 ルリこそ」

「私はもう慣れてますから」

ユリさんの心配をよそにルリちゃんは余裕そうにおにぎりを頬張っている。
…こういう荒事になれてるのか?
どうなってるんだこの家は…。

「そういえばユリカお前、戦艦乗るんだろ?
 軍じゃないのか?
 ネルガルの社員だって…」

「あれ?
 言わなかったっけ、ネルガルの新造艦に乗るんだよ。
 あ、どんな戦艦かは秘密なんだけどね」

…初耳だぞ。
ネルガルもPMCマルスみたいに民間だけど戦うってことか?
そういえばユーチャリスって艦がPMCマルスに来るって話もあったな。

「そっか…」

「だからPMCマルスに手伝いに来れたんだ。
 こんな形でユリちゃんとアキト君の力になれるとは思わなかったよ」

ユリカも自分の職場に居ながら手伝えるから来れたんだな…。
ネルガルも意外に温情があるところがあるみたいだな。
…ただ、ホシノを兵士のサンプルとして引き取ってたってのもある。
現状ではあんまり心を許していいとは思えないけどな。

「ルリちゃんも一緒に乗るんだよ」

「ルリちゃんもか!?」

「そーだよ。
 アキト君の妹といっしょの艦に乗るなんて、びっくりだよね。
 運命感じちゃった」

「…そうですね」

はしゃいでいるユリカとは対照的にルリちゃんは少し表情が曇っている。
…ホシノがネルガルに引き取られて兵士のサンプルにされていたとしたら。
同じ家に引き取られて妹になったルリちゃんも、同じようなことをされたのか?
無いとは…言いきれないな…。

「…どうしたのアキト?」

「…ん。
 ああ、なんでもない」

…これは俺の問題じゃない。
ホシノがネルガルに逆襲する必要性がないと思っているなら、それはホシノの問題だ。
いくらネルガルが強くても、今のホシノなら世論を味方につければ勝てるかもしれない。
それなのに動くつもりがないなら、俺の出る幕じゃないだろう…。

「ユリ姉さんって料理上手ですね」

「うん、これだけはお母さんにしっかり教えられたから」

そういえばユリさんはホシノと良く厨房に立っているが…。
昨日は四川本格中華を作っているし、
今日はなんていうか普通のお弁当を作っているよな。
しかもうまいし…。

「良いお嫁さんになってほしいって、よく言ってたっけ…」

ユリさんは寂しそうに俯いた…ユリさんも親を亡くしているのか…。

「良いお嫁さんですよ、ユリ姉さんは」

「ルリちゃん…」

「そうだよ!
 いつもユリちゃんは素敵だよ!」

「ユリカさん…」

ユリさんは目に涙を浮かべながら二人を見つめていた。
…ユリさんはユリカとルリちゃんの二人に挟まれていると、本当に二人と姉妹って感じがする。
ルリちゃんは別に本当の姉妹じゃないってのに…。
でも、そんなことは些細なことなのかもしれない。
血のつながりよりも…なんていうか、大事なものがあるんだ。
今のユリさんも、普段のユリさんも…大事な姉妹だって思っているんだな。
だからか、二人がこんな命懸けの仕事を手伝っているのは…。
…なんだか、羨ましいな。
俺も家族を亡くして久しいからな。



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。



お弁当タイムが終わり、俺達は再び出撃準備に戻った。
今回はリョーコちゃんたち第1小隊が陸戦エステバリス1台、砲戦エステバリス2台、
第2小隊が陸戦エステバリス2台、砲戦エステバリス1台のフォーメーションだ。
俺とさつきちゃんはまだ射撃の腕がそれほどでもないので、
ガイが切り札の砲戦エステバリスで後方で構える形。
指揮車両の隣にはホシノ用の陸戦エステバリスカスタム…やや基礎能力を上げてある特注タイプがある。
ホシノがまだ不調とはいえ、傷はほとんど治っているので、
もしもの時、そして指揮車両の防衛のために配置。
…まあ、何とかなるんだろう。
俺がエステバリスに乗り込もうとしたら、ユリカが顔を出した。

「アキト、お願いね」

「ああ…ユリカ。
 お前、大丈夫か?」

「だいじょーぶだよぉ!
 みんな頼りになるし、
 こっちはアキト君が守ってくれるもん!」

「そうじゃない、お前は俺達の命を背負うんだぞ?
 …大丈夫、かよ」

前はホシノとユリさんが俺達の命を背負ってくれた。
作戦次第では俺達を死なせるかもしれないと知りながら。
あの短い時間で二人を深く信じたのが、俺は自分でも意外だったが…。
ユリカを信じてはいるが、不安のほうが大きい。
二人ほどタフな生き方をして来たとは思えないからな。
…もし俺が戦っている最中死んだりしたら、ユリカは…。

「…うん。
 ホントはすっごい不安」

「…そっか」

「でもね」

「うん?」

「私、信じてる!
 アキトも、みんなも!
 私ができることを全部やってみるから、アキトも私を信じて!」

屈託なく笑い…そして正直に不安を吐露したユリカ。
それだけで俺はこいつを、より深く信じられた気がした。

どんなことでも必ずうまくいく保証なんて、ありえない。

そんなのは普通に生きていたら誰でも知っていることだ。
でも…強がったり自分をだましたりして乗り越えようとする人のほうがきっと多い。
その中でユリカは、正直に答え、そして俺達を信じてくれた。
弱い部分を認めてさらけ出せるってすごいことだ。
それを受け入れてしっかり立ち向かうと…。
子供っぽいこいつのほうが、俺よりずっと大人っぽいのかもな。
…なら俺もできることを…やるしかないだろ!

「ああ、行ってくる」

アサルトピットのハッチが閉じ…ユリカの姿が見えなくなった。
それでも彼女の実直な答えが、
俺の心に響いてきて、また少し…進めるようになった気がした。
やっぱり、ミスマルおじさんと同じで人を動かす才能があるんだろうな。
意外と艦長向いているのかもな。

……いや、そんなことはないか。
あんな突拍子もない奴が艦長の戦艦…考えるだけで不安すぎる。
とはいえ、この小さな部隊であればお互いの顔が見えているし、何とかするだろう。
それくらいにはユリカを信頼している自分が居るのが、少しだけ意外だった。














〇地球・佐世保市・沿道沿い

作戦開始、30分前…。
マエノと兄妹たちが背中にかごをしょって歩いている。
よく見るとかごの中に入っているのは、前回の戦闘で使われた空薬莢だった。

「おーいにいちゃーん、そろそろカゴいっぱいだよー」

「おーーう、そんじゃ帰るかー」

「兄さん、これなんに使うの?」

「あー空薬莢放置するのもちょっと良くないし、
 せっかくだから小物入れにして売ろうってシーラが思いついたんだ。
 ユリさんには公式グッズとして作る許可はもらってたんだけど、
 諸々大変で回収する暇なかったから作戦でみんなが出払っている間に、
 俺のリハビリついでに回収しにきたんだよ。
 で、お前らはその回収のアルバイト」

「へー!
 今日はいくら出るの?」

「時給1000円だから、2000円くらいだな」

「えー!けちんぼー!」

「けちんぼー!」

「そうぼやくな。
 もしかしたら小物入れ作るの手伝ってもらうかもしれないしな。
 そっちでも追加でもらえるって」

「内職?」

「そうそう。内職。
 まあ、なんだ。
 右腕の補償金は出るけど、やっぱり額に汗して働いておこうぜ。
 そっちのほうがやっぱ飯がうまいしな」

「「「「おーーーーっ!!」」」」

…妙にたくましいマエノ一家だった。



















〇地球・山口県・連合軍基地周辺・指揮車両周辺─ホシノアキト

俺は指揮車両で、みんなの様子を見ながら、レーダーに敵機が映っていないかを確認した。
敵が出てくるのは何もチューリップからだけじゃないからな…偵察機が来るといろいろ困る。
しかし、ユリちゃんでもこの指揮車両をつかうのは少し骨だったのが良く分かる。
説明書を読みながら何とか使いこなしているが、
俺もこういうオペレートは素人なのでもたついてしまっている。
小型とはいえこの指揮車両は本来2~3名での運営を想定している。
1人で扱えたユリちゃんが凄いだけなんだよな。

「アキト…」

「ユリさん、避難しててもいいんだよ」

「大丈夫…アキトと一緒にいる」

俺は手伝えなくて心配そうにしているユリさんをなだめるため、
『幼い』ホシノアキトとして話しかけたが…やはり譲るつもりはないらしい。
それはそうか…俺のことがなくても、ユリカ義姉さんともなんだかんだで打ち解けているんだ。
何もできない自分に焦りながらも、離れるという選択は取れないのだろう。

「アキト君、待たせたわね」

「アキトッ!おまたせーっ!」


そうこうしていると、ついにエリナとラピスが到着した。
話を通しておいてよかったな…ぎりぎりだったがなんとかなりそうだ。
この指揮車両も、ラピスなら使いこなせるだろう。
俺とラピスで、指揮車両を操作。
もう一台の指揮車両はユリカ義姉さんとルリちゃん。
なんとか6台のエステバリスを指揮できる。

「アキトッ!」


「うわあっ!?」

ガバッ!!

と、考えていたらラピスは俺に飛びついて抱き付いてきた。
…だから!!
そういう所でユリカに似るなって!!

「会いたかったよぅ!アキトーッ!」


「あらあら…」

ラピスが俺に頬ずりして…エリナは微笑みながら見ている。
ユリさんのほうはというと…びっくりしている。
一応事情は伝えてあるものの、実際に見るとすごいんだろう。

「ら、ラピス!
 わかった!わかったから…!
 みんな見てるから!!」

「えへへっ!やーだー!
 私はアキトが大好きなんだもんっ!
 やっと会えたのに冷たいじゃない!!」

……勘弁してくれ。
指揮車両付近でスタンバイしていた眼上さんや整備員のみんなはニコニコニヤニヤ見ている。
ラピスの事は作戦説明の時に簡単に説明しておいたんだが…このまっしぐらっぷりが面白いんだろう。
まだラピスが小学生くらいだから義理の兄とじゃれ合ってる、くらいの感覚なんだろうが…。
…だが、どーもエリナから話を聞く限りラピスは結構マジなんだよなー。
小柄だがもう12歳になったんだっけか?
ユリちゃんもルリちゃんだった頃、
だんだんとそのころから好きになり始めたってそれとなくどこかで言ってた気がするし…。
……後を引かないといいんだけど。
いや…エリナは割とそれを応援してる気がする。
あの表情…楽しんでるなエリナ…。
くうっ、ちょっとしたあてつけなのか!?



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。



ラピスがようやく話を聞いてくれる状態になってくれたので、
俺はラピスに指揮車両の操作法を教える…つもりだったが、
勝手にどんどん覚えてしまうのでむしろ俺の方が操作が下手なくらいになってしまった。
うーん…俺だってエステバリスのセッティングやチューニングはした事くらいあるのに。
やっぱりオペレート経験の差が大きいんだな…。

「うん、おっけ。
 いつでもバッチリいけるよ、アキト」

「ありがとう、今回も頼む」

「任せて!私はアキトの相棒だもん!」

…相棒、か。
ロクでもない戦いに巻き込んだってのに、ラピスはそんなことを気にする様子もない。
明るくなって、精神的にも成長したようにも見えるが…。
半年以上、俺の視界を借りていろんなものを見つめることが出来たのが良かったんだろうか。
ユリカのDNAだけじゃ説明がつかないもんな。
…そうか。
俺の視界ということはユリちゃんや、色んな人を見ていたってことだ。
俺以外の人間が、生き生きとしている姿を見る…色んな事を学べたに違いない。
リンクが半端になり、感覚や感情のリンクで影響を与える事はできなくなったが、
反面、どんどんと豊かな人間になるチャンスを得たのか…どう転ぶか分からないもんだな。
まあ芸能生活がドロドロしてなかったから…。

「…ねえ、アキト」

「…まだ実感わかない?」

「うん…」

ユリさんはラピスをしげしげと観察している。
しかし顔つきがユリカにあまり似ていないので、クローンとは思えないんだろう。
俺とユリさんが居た研究所でもラピスは見かけた覚えがあったそうだが、
まさか自分の血縁と関係があるクローンとは思っていなかっただろうからな。

「ラピス、ちょっと」

「うん?」

「ユリちゃんが…えっと今はちょっと性格違うけど…」

「事情は知ってるってば。
 昨日も遅くまで話しこんじゃって。
 夜更かしは体に悪いよ?」

ラピスは俺達が話し込んでいる間、眠っていたらしい。
ということは俺の視界や聴覚も全部筒抜けだったわけか。
…便利だがプライバシーもへったくれもないな。

「だから、挨拶はあとでいいよ。
 ユリも今は思い出せないだけで同一人物なんでしょ?
 すぐ思い出すんでしょ?
 だったら今は作戦に集中しよ?」

「う…そ、そうだな」

…いかんな。
ラピスはユリカに似ているだけじゃなく、
方向性は違うがユリちゃんと同じでかなりしっかり者なんだな。

「あの、ラピスちゃん」

「んー?」

「…おべんと、食べる?」

ユリさんは、持ってきた重箱とは別にとって置いた小さなお弁当箱を出した。
そういえば…ラピスの事を話したから、別個にお弁当を作って置いてくれたのか。
後から遅れて合流するから…。

「…ありがと」

ラピスはお弁当箱を受け取ると静かに食べ始めた。

「…おいし」

「良かった!
 ラピスちゃんにおいしいって言ってもらえて」

ユリさんはいつものユリちゃんとは印象が違うが…。
ラピスもどうやら、ユリさんを嫌っていないみたいだ。
やれやれ…どうなる事かと思ったが。

「さすがアキトのお嫁さんだね。
 料理が上手じゃないと隣に立てないもん」

「あっ、その…うう…ラピスちゃんったら…」

ユリさんは恥ずかしそうに俯いてしまった…。
…ラピス、そういう言い方をするなって。

「エリナも食べる?」

「大丈夫よ。
 ラピスったらさっき飛行機で軽食食べたのに…」

「育ち盛りだもんっ」

エリナは差し出したおにぎりを断った。
…マシンチャイルドって大食いになりやすいのが困りものだよなー。
ルリちゃんも普通に一人前以上食べるもんなー。

ピッ!


『アキト兄さん、チューリップが動きました。
 そろそろ動き始めて下さい』

「あっと、ごめんねルリちゃん。
 こっちもラピスがついたばかりで…」

『いいです、別に。
 …あなたがラピス?』

「初めましてだね、ルリ。
 私はユリの妹だから義理の姉妹になるかな?
 作戦が終わったらいろいろお話しよ」

『ええ。
 ここを無事に切り抜けたら、ぜひ』

これは…話し口はドライなんだけど、お互いに興味があるみたいだ。
なんというか珍しいものを見ている気分だ。
この時期のルリちゃんは同い年くらいの子と話す機会に恵まれなかったし…。
確かに二人が一緒に居るというのはいいことだとは考えていたが、
ルリちゃんがこんな風に人に興味を持つ姿を見るのは初めてかもしれない。
…境遇や、能力も近いからな。
ひょっとしたら、想像以上にいい影響を与えるかもな。
そして多数のモニターを見ながら…俺は全員の準備が整っているのを確かめた。

「それじゃ、作戦開始だ。
 …みんな、頼んだぞ!」






















〇地球・山口県・連合軍基地・海沿い─スバルリョーコ

「おおーい、モタモタすんなよ!」

『無茶言わないでよリョーコぉ!
 私達砲戦フレームなんだよ?』

『死に急ぐにはちょっと早いわよ』

オレたち第一小隊は最前線に向かってエステバリスを走らせていた。
第一小隊は、チューリップから出てくる敵を逐次撃破する。
第二小隊は俺達の撃ち漏らしや、偵察機が街に寄り付かないように守る。
…もっとも第二小隊はあの熱血バカが隊長な上に、
ほとんど素人同然のパイロットが二人。
二人とも見どころがあるところはあるから、これからに期待なんだけどな。
もっとも、この戦いを生き抜いて次があればの話だ。
…父さんにはパイロットになる前にいろいろと厳しい事を言われて来たし、
じいちゃんからも生き死にの事はよく聞いてきた。
分かってるつもりだけど…さすがに初陣ってなると震えてくるな。
こればっかりは強がりきれるもんじゃねえ。

ピッ!


『スバルさん、連合軍からの連絡がありました。
 チューリップにはまだ動く気配がないそうです。
 焦らないでも大丈夫です』

「わかったぜ、ルリ!
 任せな!」

このちっこいオペレーターのルリ…。
しっかしネルガルは何考えてこんな小さい子をオペレーターにしたんだ?
あのホシノアキトの妹とはいっても血縁はないって聞いたのにな…。
ま、俺達が乗船予定のナデシコのクルーのスカウト基準は、
『性格に問題があっても腕は一流』ってのがキャッチコピーらしいからな。
能力は保証できる…と思う。

『スバルさん、こっちに来る前に第一小隊で、
 ドーンとやっつけちゃって!』

……このちょっと抜けてそうな艦長もな。
信頼されてるのは分かるから、いっか。

『…ね、二人とも。
 あ、これ内緒話ね。
 みんなには届かないから。
 ホシノ家ってどう思う?』

「あン?なんだよ急に」

『……変だとは思うけど、
 あなたらしくないわね、ヒカル。
 他人の家の事情に首を突っ込むなんて』

イズミの言う通りだ。
ヒカルもあんなスチャラカな態度の割にはいろいろ苦労してきた。
だから踏み込まれたくない事には踏み込んでこないし、
他人の過去や事情に首を突っ込むというのは徹底してしないようにしている。
オレも男に負けたくないって気持ちがあっていろいろ試してきたが、
喋り方をからかわれたことも多かった。
…それでもそういうところを変だと言わずに接してくれるヒカルはとても信頼してる。
そんなヒカルがどうしてあのホシノ家に興味をもったんだ?

『…うん、ちょっとマジな話なの。
 私もね、ホシノアキトくんとルリルリだけだったらあんまり気にならなかったんだけど…。
 二人が血がつながらない兄妹で、ラピスちゃんもそう。
 でも血のつながりは三人ともない。
 でも、全員義理の兄妹。
 それにアキト君は、
 『ネルガルに兵士のサンプルを作るために引き取られた』
 ってあのアカツキ会長が言ってたでしょ?
 …なんだか、良くない事が裏であったんじゃないかって、
 落ち込んじゃって…』

…なるほどな。
こいつも家庭の事情で苦労して、社検に受かって家を飛び出して、
自分の男と同居したけど、そこでもうまくいかなくて…。
そういう事情もあって、家庭的に問題があると思しきホシノ家の事を心配してるんだな。
ヒカルも最初は漫画のネタにしようとニヤニヤしてたくらいだが、
情報が多くなるにつれてだんだんとただ事じゃないと気づいてきたってことか。

『ヒカル、どうしようもない事に首を突っ込むべきじゃないわ。
 …うかつな同情をするとあんたの人生まで持ってかれるよ』

『分かってるよ、でも…』

イズミはさらにそれに輪をかけて苦労人だ。
婚約者が立て続けに二人死んでいる。
…あのふざけたギャグも地はあるんだろうけど、躁鬱みたいになってる節がある。
自分の将来の事を考える余裕がないって、一度だけ零した事がある。
やけっぱちでパイロットになっているようなところがあるが…。
冷徹になりきることが得意で、パイロットの才能はあったらしい。
組んでいて心地よい援護をしてくれるイズミは頼れるヤツだ。
だが、オレのホシノ家への印象は少しだけ違っていた。

「…オレはなんか大丈夫な気がするんだ」

『どうして?』

「あのホシノアキトがさ…。
 強いとか、何ができるかどうかとか関係なく、
 ユリさんや艦長やルリを見ている目が…なんかわからないんだけど、
 すごく優しく見えたんだ。
 過去がどうとか、そういうのがどうでもよくなるくらいな」

楽天的すぎる考え方かもしれない。
それでも、そう思わせる何かがあったんだ。
心根の強さ?やさしさ?
なんていえばいいのか分からない深さと温かさを感じたんだ…。
大事なものを守りたいと焦がれるような、
本当は抱きしめて離したくないと思っているような、そんな何かを。

『…意外とリョーコの方が当たっているかもしれないわね』

『イズミちゃん?なんで?』

『私達、あんまり父親に良い思い出がある方じゃないけど、
 リョーコは意外とファザコンなところがあるでしょう』

「なっ!?」


『あー!言えてる言えてるー!
 そっか、ホシノアキトくんはとぼけてるけど優しいし、
 ちゃんといいお父さんになれそうだもんね!
 リョーコがそういうところに気づけるわけだね!
 なっとくなっとく!』

「お、お、お前らなーーーー!!」


抗議はするが…否定はしきれなかった。
オレも父さんと同じパイロットを目指してきた。
…今でもあの父さんの言葉が頭から張り付いて離れない。
『お前も一番星を見つけるんだぞ』って…。
でも…結局、オレは父さんの後ろを追いかけてばかりだ。
そう言えば艦長もそんな感じだったっけか。
あのミスマル提督が父さんか…オレよりずっと気負ってるかもな。

「…ったく!
 いいからさっさと行くぞ!」

「おーっ!」

「お仕事お仕事…」

オレたちは、遠くにチューリップが見える場所にたどり着いた。
…シミュレーターでは負けなしだったが、ロンゲ会長にはボロ負けだ。
1対4で辛うじて互角、なんとか勝てるレベルだった。
サシだったら惜しいところまでも行けない。
実戦で油断していたらあっという間にやられちまうだろうな。
だけど、オレたちだって負けてやるつもりはねえ!
やっつけてやるぜ!!



















〇地球・山口県・連合軍基地・市街地近く─テンカワアキト

俺達は連合軍基地と、基地と街を隔てるフェンスの少し近くに居る。
撃ち漏らしの迎撃がメインで…サッカーで例えるなら、
オフェンスが押し切られない限りは暇なディフェンダーかゴールキーパーのような立ち位置だ。
だが…。

『おっしゃぁっ!
 ついに俺達の出番だぜ!
 気合入れろよテメェら!』


「お、おう」

『はーい!
 ヤマダ隊長、よろしく!』

『だから俺の名前はダイゴウジガイだ!!』

…この暑苦しいゲキガンガーオタクは、
どうにもそういう立ち位置でもたぎっているみたいだな。
俺はどうも乗り切れないんだよな、このヤマダのノリには…。

『だーっ!!気合が足んねえぞ!!』

ピッ!


『ガイ、気合を入れるのはいいが少し気を休ませろ。
 緊張しすぎも良くないぞ』

『フッ、このダイゴウジガイ様がこの程度でへこたれると…』

『お前の体力に合わせてたら俺だってへばるって。
 いいからちょっと休め、命令だぞ』

『む、しゃあねえな』

ヤマダはやっと落ち着いた。
一応、指揮をするホシノの言う事は聞いてくれるんだな。
まあ流石に話を聞く余裕がある場面だったらな。
これが敵が来ている最中だと危ういかもしれないが…。
ガイはゲキガンガーのディスクをアサルトピットで流してるみたいだ。その音声が聞こえる。
…しかしあいつゲキガンガーを何回見たんだ?事あるごとに見てるけど…。

『テンカワ君、頑張ろっ!』

「あ、うん」

さつきちゃんも緊張の色は隠せないが、何とかいつも通りの元気で自分を奮い立たせている。
訓練もそこそこの、普通の女の子だもんな…。
俺は後方に居るせいもあって、結構落ち着いている。
トラウマが抜けたのもあるけど…戦える状態でいるかどうかって言うのはかなり重要なんだな。
…そういえば避難所で襲われた時は本当に怖かったな。
逃げ場がほとんどない状態だったから。
アサルトピットは狭いけど、このまま戦えるからそんなに恐怖がない…。
それに一緒に戦ってくれる仲間が居るっていうのは結構安心感がある。
…さすがにホシノが出られないっていうのは不安の種ではあるけどな。
リョーコちゃん達に期待しなければいけないのは情けないが、
正規のパイロットが居るなら任せた方がいいに決まっている。
パートタイマーの俺で代われる問題じゃないからな。
しかし…。

『このダイゴウジガイ様の活躍、とくと見てくれ!
 子供たちよぉ!!』

『は、はは…』

…本当、何とかなんないのか?
ヤマダ…。


















〇地球・山口県・連合軍基地

連合軍の基地から次々に発進する戦闘機群。
その数、20機。
既にこの基地に配備された戦闘機は半数以上が撃墜されてしまっている。
この地域では木星トカゲの襲撃はそれほど苛烈ではないが、
ドッグファイトに持ち込まれてしまうと数と機動力で劣る戦闘機では、
バッタのミサイル攻撃に対抗することはできなかった。
最高速ではバッタを大きく上回るため、
不利になったら逃げの一手で街への被害を押さえるのが関の山だった。
──しかし、今回は違った。

「いいかっ!
 今回はPMCマルスの支援がある!
 力負けは決してしないはずだ!
 消耗戦になる前に必ず押しきれ!」

「「「「「はっ!!」」」」」


連合軍内の士気はかなり高かった。
状況的に決して不利ではない。
佐世保のチューリップよりサイズ的には半分であり、
戦艦を落とさずとも有効打が与えられる可能性はある。
強固な外殻であっても制空権さえ確保できれば、連打で撃破する目算が立っていたのだ。
そしてそのために──
になり、
さらに国家間での戦争はかなり減った

「第一波、行けぇっ!!」

5機の戦闘機がチューリップに迫る。
このチューリップが戦闘態勢に入る時期を見計らっての作戦開始だったが、
連合軍は先んじて攻撃を仕掛け、有効打を与えられるか計る必要があった。
通常のミサイル攻撃はチューリップのフィールドに阻まれる可能性がある。
ネルガル製ミサイルはまだ配備されていない。
そこで、地球連合軍が選んだのは…。

『くらえっ!!』

5機の戦闘機は、連続してチューリップに弾を落としていく。
地中貫通爆弾──いわゆるバンカーバスターである。
コンクリートや土を貫通して、シェルターなどの防御施設を攻撃するための兵器。
現在、戦艦同士のビーム攻撃がメインであるものの、
シェルターなどを攻撃する機会がまだある。
この基地にも予備的ではあるが、地中貫通爆弾の在庫があった。
一世紀以上前の骨董品だったものの、保存状態に問題がなく、
ディストーションフィールドには質量攻撃が有効と分かった現在、この骨董品の出番が回ってきた。
大型のチューリップであれば無理だが、このサイズであれば有効打になり得る。
もっとも実際に使わなければ有効かは不明だ。
そのため、作戦が本格的になる前に試す必要性があった。

ドドドドドドドドドッ!!


『全弾命中!!
 わずかながら着弾の効果が認められます!!』

「よし!!」

攻撃の効果は、限定的ではあったがチューリップも無傷とはいかなかった。
フィールドを貫通し、少なからず外殻に傷を残した。
しかし落下した地中貫通式爆弾は10発──在庫の5分の1を使用してしまった。
元々用途が限られている兵器であるため、この在庫量も実を言うと多い方だった。

『うっ!?うわあああああっ!!』

バキッ!!


報告直後、一機の戦闘機の後部がチューリップの触手に当たってしまい、
戦闘機は墜落していく。

『だ、脱出しますっ!!』

兵士は辛うじて脱出して着水、基地のほうに泳ぎ出した。

「くっ!
 攻撃機をこれ以上失うわけにはいかん!!
 一度引けっ!
 入れ替わりにバッタの攻撃に向かう部隊を出せっ!
 PMCマルスにも連絡しろッ!」

司令官は歯噛みをしながら、指示を出した。
地中貫通爆弾の数も限られているが、この爆弾を使用できる戦闘機の数も限られている。
5機のみ─現在は4機になってしまった。
残りの弾をすべて乗せて、かろうじてすべて出し切れる台数である。
司令官はエステバリスの配備が進まない事に苛立っていた。

(PMCマルスにこれ以上借りを作るのは癪だが…。
 トカゲ野郎に好き勝手させるのはもっと屈辱だ…!)

この基地の司令官も長い間、市民からも軍の上司からも板挟みで責められ続け、
かといって戦闘も積極的に出来ず、どうしようもない状態が続いていた。
どんな手を使ってでも勝ちたい。
その気持ちが彼の行動を早めた。




















〇地球・山口県・連合軍基地周辺・指揮車両周辺─ホシノアキト

連合軍の攻撃…有効打にはなってるみたいだが、あの状態じゃ近寄りようがないな。
次はもう出せないか?
しかしもう戦艦をぶつけるってのはできないだろ?
うーん…。

『アキト兄さん、連合軍からの通信です。
 初手のアタックが失敗したようです。
 しかし地中貫通爆弾による有効打は与えられる可能性があるそうです。
 制空権の確保に協力、確保成功後、合同で集中砲火を浴びせてチューリップの撃破…。
 という作戦を通したいようです』

「…うん、妥当だとは思うけど。
 ユリカ義姉さんはどう思います?」

『うん、今のところはそれくらいしか作戦が取れないから、
 大丈夫って答えていいと思うよ。
 トカゲさんたちの動きも読めないし、
 こちらから動いて様子を見ようよ』

…そうだな、前回みたいに引き付けて撃破というのも厳しいからな。
またこっちを脅威と見なしてくれれば、それだけでも十分だ。
それで俺達は第一小隊に連絡して攻撃開始を指示した…。



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。

それからしばらく、第一小隊の激闘を見守っていたが…。

『アキト、レーダーで見るとチューリップがだんだん離れてるよ。
 …ちょっとまずいんじゃない?』

「なに?」

ラピスの指摘で、俺もレーダーを見てみる。
…確かに離れているな。
いや、これは…。

「しまった!
 あいつらエステバリスを脅威だと感じて警戒しているんだ!!」

前回の戦闘でエステバリスという兵器に特別さを見出したんだろう。
木星機動兵器は単純なアルゴリズムながら、陸戦と空戦の区別がつく。
そして、どんな兵器が強いかどうかというのも、学習して共有していく。
前の世界では「チームワークで戦うリョーコちゃんたち」を脅威と感じて編隊攻撃を強化したが、
今回はエステバリスそのものが危険だと判断したんだ。
しかもエステバリスが戦えるのは陸戦しかないと気付かれている。
チューリップに危険を及ぼす可能性があるエステバリスは、海上に逃げれば怖くない。
海上からバッタを放出して消耗戦に持ち込めば、有利に戦えると…。
空戦エステバリスさえ届いていれば、それも崩せるが…。
まさか木星トカゲが逃げの一手を打ってくるとは。
これは意外すぎる展開だ…駆逐艦を撃破するまでやりすぎた俺のせいだけど。
こういう時は敵の細かい対処が追い付かないように、
グラビティブラストで吹き飛ばすのが一番有効なんだが…当然、そんなものはないわけで…。

「これじゃジリ貧だぞ…!」























〇地球・山口県・連合軍基地・海沿い─アマノヒカル

私達は初の実戦だっていうのに…結構ハードな戦闘になってて、汗が止まらない。
チューリップは遠くから次々にバッタちゃんを吐き出してくるし…。
勘弁してよぉ~!

「だあーっ!!何機居るんだこいつらは!!」

「無駄口叩いてると死ぬよ!
 機械に文句言ったってわかりゃしないんだから!」

「でもキリがないよ~っ!」

私達はすでに3人で合計200機は落としているはずなのに、
チューリップはどこにそんなに入っているのか分からないくらいバッタを出してくる。
しかも、ほとんど途切れずに連続して。
どうしようもないよ、これじゃ!
弾丸だって限りがあるのに…!
絶体絶命ってやつじゃん!

























〇地球・山口県・連合軍基地周辺・指揮車両周辺─ホシノアキト

…さすがリョーコちゃんたちだ。
あの物量をものともせずに対抗している。
だが、そろそろ弾も集中力も切れてもおかしくない。
どうする…!?

『おい、ホシノ!!合流した方がいいんじゃないか!?』

「ちょ、ちょっと待ってくれ…!」

テンカワの言っている事のほうが正しい。
…だがここの戦力がゼロになってしまうと、本当に街が危険になる。
…いや?

「ユリカ義姉さん、このままだと第一小隊は…」

『…うん、逃げ切れないと思う。
 撤退命令を出しても、多分…』

…ユリカ義姉さんが言うなら間違いないな。
それどころか俺もテンカワも同意見だ。
なら…。

「分かった、行ってくれ。
 3人全員だ。
 こっちは俺が護る。
 迎撃ぐらいなら負担も少ないしな」

『わ、分かった!』

「それとテンカワとさつきちゃんは武器コンテナを背負ってくれ!
 恐らく弾はほとんど残ってないはずだ!
 まだギリギリ間に合うタイミングだ!
 リョーコちゃん、ヒカルちゃん、イズミさん!
 それまで持ちこたえてくれ!」

『ちっ、しゃあねえ!
 やるぞ!』

『おっけー!』

『弾が尽きるか、命(タマ)を落とすか…。
 …どっちもゴメンだわ』

俺の指示で第二小隊も走り出した。
…頼むぞ。

「ユリさん、ラピス。
 ごめん、ここを任せる。
 エリナも何かあったら手伝ってくれ。
 ユリカ義姉さん、ルリちゃん、指揮をお願いします」

『うん!任せて!』

『はい』

「いってらっしゃい、アキト」

「気を付けてね、アキト君」

ユリカ義姉さんも、ルリちゃんも、ラピスも、エリナも…。
みんな応えてくれたが、ユリさんは俺の首根っこを掴んで引き留めた。

「うぐっ」

「…いっちゃダメだよ、アキト」

「…ユリさん」

…こんな顔で言われてしまうと俺もためらってしまう。
だけど…。

「みんなで、生きて帰りたいから…。
 行かなきゃ」

「でも…」

「お義父さんに約束したんだ。
 君を守って、みんなを守って、全員で生きて帰るって」

「だけど、そんな体じゃ…」

「無理はしないよ、約束する」

…嘘っぱちに近いけどな。
いつも無理しかしてない。

「信じるよ、アキト…」

ユリさんは小さく頷いて手を離してくれた。
…まあ、俺が今できそうなことは結局『固定砲台』みたいなものだ。
それ以上はさすがに体に障るだろうからな…。
しかし、ちょっとだけ後ろ髪を引かれるな。
ユリちゃんにもユリさんにも…どうも心配かけてばかりの人生だから…。
…せめて怪我しないで帰らないとなー。


















〇地球・山口県・連合軍基地周辺・バス─アリサ

私達パイロット訓練生は…バスで待機しながらも、戦況が良く見えます。
本当にすごい。あれだけの大群に対抗できるなんて…。
様々な角度から撮影された映像はあの戦闘映像以上の迫力と、危うさを感じさせるものだった。
3機のエステバリスは見事なチームワークでお互いを助け合い、
効率的に敵を撃退しているものの、どうしても戦力的に押し切れない。
戦艦からの支援があればもう少し違うかもしれないけど、
結局艦船でのビーム主体の攻撃ではバッタは撃破出来ない上に、命中もしない…。
目くらましで精いっぱいだと思う。
本当にエステバリスでなければ対抗できないのが良く分かる。
これを上回る兵器があればと思うけど、そんなものはないし…。

「あっ!?弾切れだ!
 陸戦のエステバリスが回避運動を始めた!」

「危ない!!」

私も思わず声を上げてしまいました。
あの赤のエステバリス…パイロットはリョーコ=スバルと言いましたね。
ミサイルの着弾をものともせず、高速でターンを繰り返して見事に避けています。
…ピンチだというのに華麗に避けるものですね。
あっ!?ターンしている間にもうマガジンの交換を済ませている!?
直後にもう反撃をして…でももう最後のマガジンですね。
節約するように先ほどまでの連射よりだいぶ抑えて撃っているのが分かります。
だんだんと後退して、逃げの姿勢です。
こんな状態じゃ…!

「援軍だ!」

「あれが第二小隊!!」

第二小隊の援軍が間に合ったみたいですね。
コンテナを置いて第一小隊に消耗した弾薬を補充させ、
自分たちが入れ替わりに戦い始めたみたいですが…。
聞いた通り、第二小隊のテンカワとさつきはどうも練度が低すぎますね。
ヤマダ隊長がフォローにかかりっきりになってて、弾薬補充の間持たせるのが精いっぱいみたいです。
…これはやはりパイロット育成は急務という感じがします。
私も頑張らないと…。




















〇地球・山口県・連合軍基地・海沿い─マキイズミ

私達第一小隊は、テンカワ君とさつきの持ってきた弾薬でかろうじて首の皮一枚で助かった。
だけど…。

『あわわわ!あぶなっあぶなっ!』

『さつきちゃん、落ち着いて!!』

…本当に練度が低いわね、この二人。
今回の作戦はチューリップが小型だから大丈夫かと思ったけど、
ここまで途切れなくチューリップがバッタを吐き出すとは想定してなかったわ。
今補充した弾薬もどれだけ持つか…。

「死神が見えてきたわね」

『『見えん見えん!!』』


私…割とマジだったんだけど。
とはいえ…。

『なぁ~~~~~っはっはっはっは!
 どんどんきやがれトカゲども!!』


ヤマダジロウ…景気よく砲戦フレームの弾薬を撃ちまくって敵を撃退している。
何の計算もしてなさそうな癖に、腕は結構いい。
この男だけは殺しても死ななそうだわ。
…うらやましい感性してるわ、図太くて。



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。



そうこうしているうちに、何とかバッタが打ち止めになったらしく、
私達は一度指揮車両に戻ることにした。
チューリップも追跡不能な位置にまで下がってくれた。
どのみち、今の状態ではほとんど手出しできない。
陸地からチューリップが離れすぎているから…。
テンカワ機とさつき機はそれなりに損傷しているけど、中破には至っていない。
全員のエステバリスのチェックと、弾薬の再補充をしないと危ない。
…なんとか命拾いしたわね。
私達パイロットも一度エステバリスから降りて休憩しないと…過労で倒れるわね。

「ねーイズミちゃん、大丈夫~?」

「…さすがにギャグを言う気になれないくらいには大丈夫じゃないわね」

「なにぃ!?イズミが!?」

…心外だわね。
私だってそんなに余裕がいつもあるわけじゃないわよ…。
まあ…あの二人ほどじゃないけど。

「あ、あうう…怖かった…」

「さつき、大丈夫?
 代わるわよ?」

「そーよー11人も控えてるんだから」

「だ、大丈夫…今日はやりきるから…」

さつきがうなだれながらも何とか強がってる…。
それに対して…。

「…ほ、ホシノ…代わってくれ…」

「頑張れ、テンカワ」

…情けない事に、テンカワ君はそれどころじゃないらしい。
テンカワ君は自分も素人同然の癖にさつきちゃんを何度も庇って、疲労がスゴいみたいね…。
私から見ると、パイロット候補生の誰かを控えで準備しておくべきだったんだけど…。
IFSを入れてすぐには操縦するのが厳しいのと、
小隊規模での訓練ができていないのであまり出せない。ジレンマね。
…次はどうするのかしらね。






















〇地球・山口県・連合軍基地周辺・指揮車両周辺─ホシノアキト

…参ったな。
俺も一度エステバリスから降りて、作戦会議に集まった。
先ほど空戦フレームのエステバリスが到着した。
しかし、重力波ビームの関係で海上に離れすぎると5分くらいしか飛ばせず、
またミサイルも少しあるにはあるが、チューリップの撃破は難しい。
何より…扱えるのがナデシコのエステバリス隊の4人と俺だけだ。
俺は除外するとして…そうでなくとも空戦フレーム1台じゃどうしようもない。
制空権の確保には成功しないだろうな。
チューリップもいつ戻ってくるかわからないし、厳しい状況だな…

「うーん…」

「アキト君、制空権の確保が最優先でいいんだよね?」

「はい…。
 先ほどの連合軍の先制攻撃で空爆による攻撃が有効打になると分かったんで、
 俺達が制空権を確保さえできれば、
 チューリップの撃破も不可能じゃないみたいです」

木星トカゲの物量作戦による制圧能力というのは本当に侮れない。
制空権の確保というのも、あの貧弱なAIの機動兵器群でも、
あれだけ数がそろっていると抵抗が難しい。
制空権の確保など、連合軍の戦闘機では不可能なほどだ。
…しかし、また逃げの一手を打たれたら追い込む方法が皆無だ。
陸戦フレームと砲戦フレームは海上の敵が離れすぎれば攻撃すらままならないし、
空戦フレームも一台では制空権の確保をするのは難しい。
チューリップの注意を引きつけることすら難しいだろう。
…打つ手なし、だな。

「なぁんだ!
 そんな事で良ければ簡単だよぉ!」

…ユリカ義姉さんはもう答えが見えてしまったらしい。
俺はもうなにも思いつかなかったって言うのに。
やはり伊達じゃないな…。

「連合軍の人に、ちょっと連絡してくれる?」






















〇地球・山口県・連合軍基地

連合軍基地内は、かなり慌ただしく動いていた。
前例のない作戦と、PMCマルスの協力依頼で動かざるを得なくなり、
チューリップが戻ってくるまでに何とかしなければならないという状態になっている。

「各戦闘機のチェックを怠るな!
 弾が骨董品なんだ、再度チェックをするんだ!!」

「はっ!」

「PMCマルスからの依頼の準備は?」

「あと20分ほどあれば…」

「よし、あいつらもまだ体勢を整えるのに時間が必要だろう。
 間に合わせろ!」

「了解致しました!」



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。



「機材はすべて準備整いました!」

「チューリップ、再度接近!」

「よしっ!とどめを刺しに行くぞ!!」

「「「「「はっ!!」」」」」



















〇地球・連合軍基地・ヘリポート─ダイゴウジガイ(ヤマダジロウ)

ふっふっふ…ついに俺の本領を発揮する時が来たぜ。
今回は無茶な作戦になるって聞いたが、逆境ほどヒーローは燃えるもんだ。
望むところだぜ。

『ほっ、本当に大丈夫なのぉ!?』

「フッ、ヒカル…俺に任せてくれてもいいんだぜ」

『…でも火力が足りなくなっちゃうでしょ?
 やらないわけにはいかないよう』

『準備完了!
 飛ばすぞ!』

「来い来い来いーーーー!」


連合軍の整備の人達が俺達のエステバリスから離れていく。
周囲には自動操縦のヘリがたくさん並んでいて、
俺達のエステバリスをワイヤーでつないでいた。

ババババババ…。

『飛んだ!
 エステバリスが飛んだぞ!』

『成功だ!!』


俺とヒカルのエステバリスがヘリにつりさげられ、離陸していく。
そうだ、陸戦のエステバリスは一トンを切るという超軽量の機動兵器だ。
しかし艦長は発想がすごいな。
元々ヘリでの車両輸送ってのは実例があったそうだが…。
まさか空戦のエステバリスの台数が足りないからってこんな策に出るとはな…。
けど、こういう緊急時に現場にあるもので対抗するシチュエーションってのは、

激・燃えるんだよな~~~!


『ガイ、その状態じゃ大した速度が出ない!
 それにディストーションフィールドを張ったらワイヤーが切れる可能性が高い!
 あくまであいつらを引き付けるだけに専念してくれ!』

「任せろぉ!
 俺ぁ、不利な状況ほど燃えてくるんだからよぉ!」

聞いていた全員の呆れのため息が聞こえるが、俺は気にしちゃいない。
熱血バカ、突撃バカと言われようとも、俺は俺を曲げることだけはしない。
地球を守りたいという気持ちを…ゲキガンガーに教えられた正義の心を…突き通すだけだ!

「かかってきやがれ木星トカゲ!」


『ヤマダく~ん。
 ちょっとは気を付けてね~』






















〇地球・山口県・連合軍基地周辺・海沿い─ホシノアキト

…まさかこんな手を使うとは思わなかった。
ユリカ義姉さん…いや、ユリカらしいというべきなんだろうが。
ヘリで戦車などをつりさげる方法があるから思いついたらしいが、
まさかエステバリスを宙づりにするだけの単純な方法でクリアするとは思わなかった。

あまりに単純だが、木星トカゲのAIに混乱を与えるにはちょうど良い方法だった。

空戦フレームが単に登場すると「新型機」扱いで、別のカテゴリーに分けてくるだろう。
だが、陸戦のエステバリスが急に空中を舞った場合…。
今までなかった新機能で浮いたエステに対抗する方法を考えるのに時間を使うだろう。
作戦の性質上、真っ先に手を挙げたのはガイだったが…ヒカルちゃんが手伝うとは意外だった。
まあ、いい感じに分担が分けられたのはよかったが…。

『う~ん。
 空中に飛んだは良いけど、あれじゃ地形適応Cってところね』

『…シーラちゃん、なんだいそれ』

…シーラちゃんにナオさんが呆れているな。
何を言っているんだろう。
とはいえ、俺も作戦に一時的に復帰しなければいけなくなってしまった。
安全のため、走らせているエステバリスは普段の半分以下の速度で移動しているが…。
作戦はこうだ。

まず、リョーコちゃんの空戦エステバリスと、
ガイとヒカルちゃんのヘリ宙づりエステバリス2台で敵を牽制、
俺とイズミさんの陸戦エステバリスによる狙撃でリョーコちゃんたちを支援、
チューリップをうまく陸地に近づける。
そしてぎりぎり有効射程に入ったところで、完全に制空権を確保する。
最後に、連合軍の空爆と俺のエステバリスの肩部ロケットランチャー、
そしてテンカワとさつきちゃんの砲戦フレームの集中砲火でチューリップを撃破。

ヘリで宙づりになっている二人と、テンカワとさつきちゃんの技量が不安にはなるが…。
海上での作戦ということもあり、最悪脱出できればなんとか助かるとは思う。
しかし…本当に戦艦なしの作戦というのは大変だな。

『アキト、無理しないでね…』

「あ、うん…」

…うーん、せめて戦艦あればな…。
無事にアカツキに勝ってユーチャリスを手に入れなければ…。






















〇地球・山口県・連合軍基地周辺・指揮車両─ラピスラズリ

私はレーダーと通信の状態を気にしながら、アキトのエステバリスの様子を見ていた。
ちゃんと無理しないでゆっくり向かってるみたいだから大丈夫、かな。
それにしても…ユリカ、本当に無茶なことを考えるね。
もっとも今回みたいな場合、私だったとしてもそうするかもしれないけど。
ユリカの場合、連合軍にお願いできちゃう立場だからすっと思いついたんだろうけどね。

「…エリナさん、
 あなたは…ネルガルは…」

「…なに?」

ユリの声に、私は振り向いて二人を見た。
どこか泣いてしまいそうな…寂しそうな声だったから…。
ユリもエリナがネルガルの会長秘書だって知ってる。
私とアキトはアカツキとエリナを信頼できているから大丈夫だけど、
ユリは…この世界のユリは明確にネルガルを恨む理由がある。
それほどひどい目に遭って…今ここに居るんだ。

「どういうつもりで私やアキトや…ラピスちゃんを…」

「…私も詳しくは知らないの。
 私も会長秘書になったのは最近の事だし…。
 アカツキ君もそう。
 詳しいことを知っているのは前々会長の、アカツキ君の父親よ。
 …とっくに死んじゃったけどね」

「…じゃあ私の両親がどうなったか、知りませんか?」

「…生きてることにはしてあるけど、死んでるわ。
 ちゃんと遺体は丁重に保存してあるから…」

「…」

「…アカツキ君と私を恨んでくれていいわ。
 例え世間にばれなくても、過去は変えられないし…。
 どうやってもネルガルは綺麗な企業にはなりきれないもの。
 …できる限りあなたとアキト君と、ラピスを助ける。
 それくらいしか償う方法がないもの」

ユリは黙り込んでしまった。
それ以上追及することはできなかったみたい。
エリナがここで悪辣な態度を取ってくれた方が、救われたんだろうけど…。
かえって優しい言葉をかけられて次の言葉が出てこなかったみたい。
エリナの言葉がでまかせでないことも理解できちゃったんだ…。

エリナは敵やライバルに容赦ないけど、
地が優しいから情がちょっとでも入ると動けなくなる。
生きる為に非情に徹してきたけど…アキトがそれを壊しちゃったんだ。
この世界で生まれたユリという人間の半生を壊したネルガル。
自分のすべてを奪われたアキトを、愛したエリナ。
ユリの気持ちが分からないエリナじゃないから…。

悔しそうに唇を噛んでいるユリに、私達は何も言えなかった。
エリナはそれを慰める資格を持っていなかったし…。
私はなんて言えばいいのか分からなかった。
私も…出会ったばかりのユリにほのかな好意を抱いては居るけど、
アカツキとエリナも大切だから、彼女を庇う言葉が浮かんでこなかった。

…アキト、今のユリからは離れちゃダメだったみたいだよ…。





















〇地球・山口県・連合軍基地・海沿い─さつき

私とテンカワ君、アキト隊長、それからイズミちゃんの4人で遠目に見える激闘を見守っている。
機動力が発揮できないながらも、ヤマダ君とヒカルちゃんも辛うじて迎撃し続けて引き付けているらしい。
あと少しでスナイパーライフルの射程内にチューリップが来る。
そこから吐き出される機動兵器を、アキト隊長とイズミちゃんの狙撃で落として制空権を確保、
最後の攻撃で私達が全火力を注いで倒す。
…トリを任されると責任重大で怖いね…。
私達が一番苦手な射撃だし…射撃が得意な青葉に代わってもらえばよかった…。

『テンカワ、焦って撃つなよ』

『だ、大丈夫だよ』

テンカワ君の声からも緊張の色が濃いのが感じられる。
もっとも遠くとはいえチューリップは機動力には欠けるし大型なので、
エステバリスの優れたロックオンならそうそう外さないとは思うんだけどね。

『イズミさん!狙撃の射程内に入った!
 攻撃開始だ!』

『…いいわ。
 片っ端から落としてやる』

…イズミちゃんってこういう時めっちゃ怖いのね。



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。



それからしばらく、アキト隊長とイズミちゃんはチューリップの吐き出す機動兵器群を蹴散らしつつ、
うまくリョーコちゃんたちが陸地にだんだんとチューリップを寄せ始めてくれた。
まだ砲戦フレームの射程内には入っていないけど…徐々に制空権を確保しつつある。
もう少し…もう少し…!

「射程に入った!
 アキト隊長、撃っていいですか?」

『いや、まだだ!
 まだ連合軍の戦闘機が近づけない!
 リョーコちゃん、触手を何とか出来るかい!?』

『フィールドアタックで何とかしてみる!
 ヒカル!ヤマダ!援護頼むぜ!』

『おっけー!まっかせてー!』

『俺は…ああったく!やってやるぜ!』

いつもの名前訂正を忘れるくらいにヤマダ君も対応が大変なんだろうね。
大軍を蹴散らして、リョーコちゃんの援護をする。

ばしゅっ!!

リョーコちゃんのエステバリスが、触手の一本を切り飛ばして、急速に離脱。
次の触手に狙いを定めたけど…。

がっっきょんっ!!

『んなっ!?』


ヤマダ君のエステバリスのほうに異変が。
少し無理のある状態でライフルを乱射した反動で、
支えているワイヤーが少しずつ切れてしまった。
今にも墜落しそう!

『ガイッ!
 ワイヤーを切り離して、海に着水しろッ!
 このあたりは深さがあるから無事に降りられる!』

『フッ…。
 こっからが、このダイゴウジガイ様の見せ場だぜ!!
 見てろ、ホシノアキトぉ!!』

いっ!?
ヘリのワイヤーを切り離すどころか、そのままチューリップに接近した!?

『無茶をするな!もう少しで制空権が…』

『うおおおおおおおおっ!』


ヤマダ君はさらに高く上昇し、かなり高いところからワイヤーを切り離した。
落下して…えっ!?
それどころか普通減速するところを、海面に向かってスラスターで加速した!?
こ、これは!?



『ゲキガン…フレアアアアアァァァァアァッ!!』



ギューーーーーーーン…ドガアアアアン!!





落下しながら、さらに機体制御用のスラスターで重力落下の速度を加速、
空戦エステバリスお得意の高速度収束フィールドアタックを、陸戦エステバリスで繰り出した!!
チューリップもフィールドがあったけど、それを見事に貫通した。
直撃を受けたチューリップの外殻には大穴が空いて、
無人兵器を吐き出すのは止めなかったけど、
触手の制御系に影響を与えたようで、触手の動きが完全に止まった。

『どうだ!これがダイゴウジガイ様の必殺技だ!』

『チューリップの触手、沈黙。
 制空権、ほぼ確保できました。
 続いて連合軍の追撃が来ます。
 ヤマダさん、逃げないと危ないですよ』

『なにぃっ!?』

『逃げろ!ガイ!』





ドドドドドドドドドッ!!




『うわっ、ぬわあ、



 のわあああああっ!!』





あんな衝撃を受けてもぴんぴんしつつ、ヤマダ君が勝ち誇っていたのもつかの間、
直後に連合軍の戦闘機部隊が駆けつけてチューリップにダメ押しを始めた。
ヤマダ君のエステバリスは、チューリップから何とか飛び降りながらも、
爆風で吹き飛ばされてチューリップから少し離れた場所に着水した。
右手が完全にオシャカになってしまって、
立ち上がるのに時間がかかってしまったのが災いしたらしい。
連合軍も避けるとは思っていただろうけど容赦ないね…。

『ガイ…!
 くっ、みんな!チューリップに集中砲火だ!
 このままチューリップを放っておくとガイが危険だ!!』

「は、はいっ!!」

ドンッドンッ!ババババババ…!!


私達は辛うじて気を取り直し、テンカワ君と共に全弾発射の構えで撃ちまくる。
アキト隊長とイズミさんも、足しにするためかスナイパーライフルを連射している。
チューリップは、連合軍の空爆と私達の集中砲火で、完全に機能を停止した。

『やったわ』

『よぉし!』

『ガイ、無事か!?』

『あ~~~…死ぬかと思ったぜ…』

ヤマダ君は死ぬかと思ったと言いつつ、案の定ぴんぴんしていた。
…本当に死なないんじゃないかな、この人。
コミュニケ見ると、コックピットに盛大に浸水してるから、
エステバリスも大破しちゃってる感じだよねぇ…これはまた怒られちゃうんじゃないかな。
辛うじてチューリップの残骸に捕まって沈まずに居られるみたいだけど、
でも…全員無事で作戦が終わってよかった。
危ないところがたくさんあったけど…。
こういうところも、戦艦が入ると変わるのかなぁ…?















〇地球・山口県・連合軍基地周辺・指揮車両─ユリカ

良かった…。
何とかうまくいったみたい。
ヤマダさんも危ないところだったけど、無事でよかった。
ヘリを貸してくれた連合軍の人達にもお礼を言って、
待機していたみんなで盛り上げっていた。

「やったぁ!
 勝利のブイッ!」

「何とか勝てましたね」

「うんっ!
 よかったよかった!」

ルリちゃんも静かに、表情はすこし固いけど喜んでくれているようだった。
みんなが無事で…次もこうなってくれればいいな…。
…あれ?ユリちゃんが指揮車両に入ってきた、けど…。

「ユリちゃん、無事に終わってよかったね!」

「…はい」

…どうしたんだろう、ユリちゃん。
なんか元気が全然ない…。
そう思っていたら、ユリちゃんは…。
私に、涙にぬれた瞳を向けてきた。

「ど、どうしたの?
 アキト君に何かあった?」

「違うんです、私…わたし…。
 お姉さん…わたし…っ…!
 どうしたらしいのか…」

…どうしたんだろう。
急にこんなに落ちこんじゃうなんて…。
作戦の事じゃないみたいだけど、何があったんだろう。
でも…。

「よしよし…大丈夫だよ、ユリちゃん。
 私はどんなことがあってもユリちゃんの味方だから。
 …私に言えない事、なんでしょ?
 無理に言わなくていい、言わなくてもいいんだよ…。
 頼ってくれて嬉しいよ…」

「…ひぐっ…ひぐ…」

私はユリちゃんを抱きしめる事くらいしかできない。
でも…それが必要だって、何となくわかった。
どんな事があっても、この子を守ってあげたい。
きっとまだユリちゃんは…ネルガルとの事で悩んでるんだ。
ネルガルにたくさん大切なものを奪われたのに、
今はネルガルと協力しなくちゃいけないから…。
もっと、深く、重い事を隠しているかもしれないけど…。
話したくないというユリちゃんに無理に聞いちゃダメだよね。
もっと、ユリちゃんの力になれることがたくさんある。
だから…。

「私が幸せに暮らした人生を…いっぱいユリちゃんにも分けてあげたいの。
 アキト君にもルリちゃんにも、きっとアキトにも。
 それでね、もっと楽しく、幸せに、これからの人生を生きていきたいの…」

ユリちゃんは私に抱きしめられたまま、小さく頷いてくれた。
ルリちゃんも、小さく頷いてくれた。
どんなことがあっても、どんな残酷な真実があったとしても…私はこの子たちと生きたい。
お父様に守られ続けた私が、初めて守りたいと思った家族。
だから、もっと私も戦えるように…ならなきゃ。

「…大丈夫です。
 ありがと、お姉さん」

「うん、よかった。
 …お化粧直そっか?
 それでアキト君を迎えてあげよ」

「…はいっ」

私達はお化粧を直して、それからアキト君たちを出迎えた。
またテレビ局の人にアキト君は囲まれていつも通り苦笑いしながら応対して…。
私もちょっとは聞かれたけど、そんなに印象なかったみたい。
…すごいなぁ、アキト君。
でもアキト君もまた危ない目に遭うかもしれない。
アカツキ会長の件も済んでいないし…。
…アキト君が平和に生きられるように私も頑張らないと。
今日はアキト君に頼りっきりじゃなくても乗り切れたし…。
きっと艦があれば何とかなるよね。
そんな事を考えながら、私達は帰路についた。
今日は、アキト君と一緒にユリちゃんを挟んで帰った。
…もっと普通に、一緒に暮らせる日が来るといいな。

ね?ユリちゃん?


































〇作者あとがき

今回は戦艦手に入るまでにもう一回くらい戦闘させたくて若干無理くり入れた回です。
ただ、結果的にはナデシコエステバリス隊を絡めてそれなりに激闘になりつつ、
戦力が増強されても戦艦がないことで起こるデメリット、
そして空戦エステバリスをケチってしまってどうしようもない状態を書きつつ、
まだユリの人格戻らんの!?な状態のままアカツキとの決闘に向かいそうな回になりました。
解決策はカラスヘリコプター(鬼太郎)でした。
う~ん、やっぱり戦艦必要だなぁ…『時の流れに』でも西欧戦線の話は大変そうだったもんなぁ。
というかエステバリスは空戦or0Gがメインになりがちという…。

ってな具合で次回へ~~~~~~~~ッ!!












〇代理人様への返信

※更新の兼ね合いで、今回は返信がございません。
 次回、まとめて返信致します。
 代理人様、いつもお疲れ様です。
 ありがとうございます。

























~次回予告~

エリナよ。
…はあ、バカなアカツキ君、その父親はもっとバカよね。
もっとも、私も過去じゃそんなに大差ないことしてきたって自覚はあるけどね。
アキト君にしろアカツキ君にしろ、
『バカは死ななきゃ治らない』ってのを地で言ってて困るわよ。
…いえ、本当にいっぺん死んでても治ってないわね。
撤回するわ。

この世界のユリの境遇には同情するけど…どうしようもないわよね。
まあ私達の知るユリに戻ったら自然に丸く収まるわ。
それまでの辛抱よね。
そろそろラピスも退院できそうだし、ね。

GWも普通にお仕事でトホホな作者(ちゃんと土日はお休み)が贈る、
ラヴ&ピース!ハートふるふるストーリーなナデシコ二次創作、










『機動戦艦ナデシコD』
第二十四話:Deny-否定する-その7












をみんなで見なさいよっ!









感想代理人プロフィール

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代理人の感想 
すいません、前回頂いた作品、更新作業はしたんですがアップするのを忘れてました。
・・・意外とよくやるんだよなあ・・・(落ち込み)

しかしお遊び気分とか言ってるけど、アリサも戦いたくて仕方ないあたり、割と人のこと言えない気がw




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