私はユリカさんとテンカワさん、そしてラピスと一緒に夏祭りを満喫しています。
目立たないようにしたいところではあったんですが…どう変装してもバレバレなので、
私達はあえて堂々とお祭りを回ることにしました。
うかつに目立たなくなれば、それはそれで危険になってしまうので、
今回は保安部のナオさんと、さつきさん達の警備チーム、
そして連合軍特殊部隊の人たちも手伝ってくれてます。
ちょっとオーバーですし、嫌ではあるんですけど自分の立場が分かってないほど子供じゃありません。
うかつに怪我でもしようものなら、ピースランドからも衛兵が飛んできかねませんし。
今後の事を考えると多少万全な方がいいです。
…私はいろんな研究機関に狙われそうな立ち位置ですし。
今日はせっかく楽しめる状況を作ってもらってるわけなので、甘えることにしました。
思いっきり楽しもうと思ってます。
…決して芸能界がめんどうくさかったからじゃないです。
生まれて初めて夏祭りを浴衣を着て、
それも仲の良い姉妹と一緒に出掛けられて嬉しいからです!!
強がりじゃないです!!
「ルリ、金魚飼うの?」
「飼いませんけど、ちょっとやってみたくて」
「ルリちゃん、ちょっと取りすぎじゃない?
お店の人泣いちゃってるよ?」
「わー、器用だね…」
私は初めてやっている金魚すくいでどんどん金魚をすくってます。
…すでに浮いている茶碗をすべて使い切ってしまって、半数近い金魚を獲得しています。
なんでか分からないんですけどとれちゃうんですよね、これ。
「飼うつもりないんで、お返ししますね」
「さ、さすが『世紀末の魔術師』の妹…。
金魚を盗るなんてお手の物なんだな…」
テキ屋の金髪のにーちゃんがぼそっとつぶやきましたが……それは心外です。
別にホシノ家、泥棒一家というわけじゃないんですよ。
いえ、そういえばあの育ての両親、私を盗んでましたね。否定できないです。
冗談にしてはちょっと笑えませんが。
私達は金魚すくいを後にして、再び歩き始めました。
「ナオさん、今日も警護ありがとうございます。
…でも、あの三人はなんとかならなかったんですか?」
「いや、俺もちょっとためらってはいたんだけど、
さすがにまだ素人同然だからなぁ…。
暑くてもあのカッコじゃないといざって時、怪我されると困るからよ」
「そ、そうそう…あぢ…」
保安部の三人、さつきさんと青葉さん、レオナさんはこの夜でも蒸し暑い季節に、
PMCマルスに備え付けの装甲服に身を包み、盾まで背負っています。
練度で劣るこの三人は、自分自身の身を守るのも怪しいので…。
ナオさんも帽子こそかぶってはいませんが、この間のピースランド騒動の時の、
アキト兄さんの戦闘服同様の素材で作られた防弾スーツで固めています。
いざという時は盾になってくれるつもりでいるそうです。
気は引けますが、安心できますね。
アキト兄さんなしに私達が出歩かないのが一番いいんですが、
それではさすがにアキト兄さんとユリ姉さんがかわいそうです。
二人きりで出かけることが一切できない生活はあまりにもかわいそうです。
こんなにみんなのために働いているのにそういう権利すらないのは論外です。
警備のみんなは入れ代わり立ち代わりで夏祭りを歩いてますし、
ナオさんは夏祭りは歩くだけで楽しい派だそうなのでずっと警護してくれてます。
ユリ姉さんは世界一のボディーガードが居るのでむしろ私達がおとりになった方がマシです。
あ…そういえば。
「あの、ユリカさんもテンカワさんもいいんですよ。
せっかくなんだから二人きりで楽しんだ方がいいでしょう?」
「そんなの気にしてないよぉ!
たまには私がお姉さんらしく、付き添って一緒に遊ばないと!」
…ピースランドの時もそうだったんですけど、気を使ってくれてるのはあるんですが…。
ちょっとずれてる感じ、ありますよね。嬉しいんですけど…。
「…ユリカ、俺は警備の手間が倍になるから一緒にいるもんだと思ってたけど」
「……いえ、それはとっくに気づいてます」
「ユリカ、私達は確かに子供かもだけど、
そういう気の使い方はしなくてもいいよ。
大人並みに頭いいんだから」
「うう…ラピスちゃん、私頼りない?」
「うん」
「うわーん!アキトぉ!」
「ちょ、ユリカ落ち着けよ」
「ら、ラピス…ちょっと言い過ぎですよ」
ラピスの言ってることの方が正しいんですが…。
ちょっと辛辣さが度を越してます。
ユリカさんの気遣いを否定するかのような発言はさすがにひどいです。
「確かにユリカは普段は頼りないけど、
自分のやるべきことが見えると誰もできないすごいことができるし、
頼りなくてもみんなに助けてもらえる人望があるんだからいいんじゃない?
ユリカのすべきことじゃないよ、そういう変な気の回し方は。
いつもどおり素直に開けっ広げに話したほうがいいよ」
ぴたっと私達の空気が止まりました。
ラピスの人物評の正確さは私も知るところですが…。
このタイミングでこれが出てくるとは思いませんでした。
ユリカさんはあくまで「普通の姉妹であること」にこだわっているんでしょう。
ですが私達はどこまで行っても普通にはなり切れません。
立場的にも境遇的にもどうしようもないところがたくさんあります。
警備のどうこうを気遣っても仕方ないです。
だからこそ普通の姉妹のようにふるまおうと努力しているんでしょうけど…。
それに…。
「でも、ラピスちゃん…」
「ユリカ、いい?
ルリがいつもユリカとユリの事を人に話す時の顔見てれば分かるよ。
大事なお姉さんって思われてるよ。
いつも必要なこと言ってあげてるでしょ、一緒に居てあげてるでしょ。
私もちゃんとお姉さんだって思ってるよ。
無理にお姉さんとして頼れるとか、
普通の姉妹みたいに振舞うことにこだわらないでもいいの。
ただいつもどおりそばにいて、一緒に同じ方向を見てればいいじゃない」
「…ラピス、セリフをあんまり取らないで下さいよ」
「あ、ごめん」
…本当、ちょっと苛烈で過剰なところだけはラピスの欠点ですね。
私が言うことが無くなっちゃいましたよ。
ユリカさんは気遣いを否定されながらも、
ラピスにはあんまりこういうことを言われたことがなかったのか、感激して瞳に涙を浮かべています。
「…う、うん。
そう、だよね…ちょっと、不自然、だったね。
あは、あははは…」
「そ。
いつもどおり、楽しくいこうね。
ユリカおねえさま?」
ラピスはウインクして、私の手をとって、歩き始めました。
……辛辣で皮肉たっぷりに見えて、その実、まっすぐに相手を深く思っている。
私達の事を本当に想ってくれて、そのためになんでも手伝ってくれて…本当に頼りになる、優しい姉です。
普段の仕事の剛腕っぷりはもう呆れながらも逆らえないところはちょっと困りますけど…。
そんなラピスと居るのが私は本当に楽しくて、嬉しくて、幸せで…。
…でも、満たされた心の中に、この間感じた一抹の不安がよぎりました。
ラピスは本当に何でもできるように見えます。
一人でも何とかしてしまうかもしれないと思うほどに。
だからこそ…もし私達が危機に陥った時には、どこかへ行ってしまうのかも。
いえ、自分の命を差し出してでも何とかしようとしてしまうんじゃないかって…。
杞憂にすぎないとは思いますが。
普通、そういう状況になるはずはありませんし。
ラピス、気づいていますか?
……あなたが私を助けてくれるように、
私もユリカさんもあなたを助けられるようになりたいんですよ。
だからさっきユリカさんは…。
「ルリ!今日は何を食べようか?」
「ちょっとラピス、また食べ過ぎちゃいますよ」
「いいじゃない!
お休みくらいパーっとやろうよ!」
…いえ、そんなことはないです。
今は楽しみましょう。
テンカワさんもユリカさんも私達を笑ってみてくれてます。
……ついでにたくさんの人に見られるのはあきらめましょうか。
これもいわゆる有名税です。
はぁ…バカばっか。
……ご、誤算だぜ。
今日はシーラちゃんが整備班のユーチャリスとエステバリスの整備を担当しているから、
俺は誰か誘って夏祭りとしゃれこもうとしたんだが…。
「とうちゃーん!たこ焼きたこ焼き-!」
「あ、ああ…」
……どういうわけかナデシコに乗ることで逃れる予定だった家族が追っかけて、
この夏まつりに乗り込んできた。当然俺は捕縛されちまった…。
…女房と離れるためなら地獄だっていいと思ってったってのに、くそ。
「あんた、職場のみんなに迷惑かけてないだろーね」
「バカ言うな、俺は世界一の整備士だぜ」
「違法改造をコソコソやっててびくついてたのは誰だっけ?」
「うるへえ、あのテクニックなしに班長なんてやってらんねぇんだよ。
…それよりオリエ、どうやってここに」
「PMCマルスのユリ社長から招待状と飛行機のチケットが届いたんだよ。
『やりたい放題のお父さんに家族サービスさせてください』って」
……そ、そういうわけかよ。
ったく、ユリ社長、なんで外部の会社なのに俺に…いや俺の家族に気を使ってるんだ?
そういえば、ネルガルの給料とは別に何万円かPMCマルス名義で振り込みがあって、
一応問い合わせたら「必要になる手当です」って返されてよくわからないままラッキーと思ってたが…。
…この様子だとこの家族サービスのためのボーナスみたいだな。
いや、俺も元手なしでっていうならまあいいんだが…。
一応こいつらはナデシコの給料の破格さで、俺が離れることを許容してはいるが…。
…言葉はともかくここぞとばかりに甘えまくってこられてて、ちょっと、なぁ。
さすがになんていうか…。
「柄にもなく、ちょっと嬉しそうですね。
ウリバタケさん」
「なっ!?」
すれ違ってぼそっとつぶやいたのは、ル、ルリちゃん!?
お、俺がいつもからかってるから仕返しか!?
「あ、ルリ姫だ!」
「本物だ!!」
「たー!」
「はい、ルリ姫です。
ウリバタケさんのご家族の方々ですね。
いつもお世話になってます」
ひょうひょうとブイサインを差し出して、そのあと静かに一礼をするルリちゃん…。
ピースランドから戻ってきてずいぶん明るくなったけど、相変わらず淡々としてるな。
「…あんた、この子に何したのさ」
「ばっ、何もするわけないだろォ!?」
「どうだか」
親しげにルリちゃんと話す俺が不審に見えたんだろうが…。
職場が同じだってだけってしってるだろうに。
……ぐっ、俺が子供に懐かれるって可能性は一切考えてないのかよ。
「いえ、ウリバタケさんにはいっぱい助けてもらいました。
ピースランドの一件では、
私にこの緊急連絡用のペンダント型通信機を作ってくれたり、
『世紀末の魔術師』を演じたアキト兄さんの装備、
そしてナオさんの武器のほとんどはウリバタケさんが作ってくれたんです。
ウリバタケさんがナデシコに乗っていなかったら、
もしかしたら日本に帰ってこれなかったかもしれません」
「お、おいルリルリ!?
いいのかよ、それオフレコだろ!?」
「いいんです。
ウリバタケさんも黙っておくしかないことですし。
あんな装備作ったのが世間にばれれば困るのはウリバタケさんも同じです。
日本ではそもそも殺傷・非殺傷問わず銃火器の自作製造はアウトです。
ご家族一同、あれがノンフィクションの戦いだったことは秘密でお願いします。
こんな危ない橋を渡るようなやり方で私を助けてくれたこと、本当に感謝してます。
ありがとうございます」
…俺は呆気に取られていた。
結局、あの事件のあとお礼は言われていたが、
改めてこんな風に詳しく、しかも家族の前で全部バラされてしまうとは思わなかった。
…ユリ社長といいルリちゃんといい、なんかコンビネーションでも組んでたのか!?
連携が完璧すぎるぞ?!
「とーちゃん、ルリ姫を助けてたの!?
すごい!えらいっ!」
「すごーい!」
「ごいごい!」
「あ、あったぼうよ」
俺はかろうじて胸を張ってえばったものの、あんまり世間には言えない仕事なんだよな…。
子供たちにそれをうかつにしゃべられないようにしないとお縄だぜ…。
「…あんた、そんなヤバい事に首突っ込んでたのかい」
「う、うるへえっ!
男にはヤバいって思ってもやらなきゃならねぇことが…」
…!?
な、なんだよ、オリエ、その熱っぽい視線は!?
「…自己満足で自分の技術を磨くだけのバカだと思ってたけど、
こんな小さくてか弱い子を助けるために…。
ちょっとは見直したよ、あんた」
「ば、ば、バカァッ!!
は、恥ずかしいこと言ってんじゃねーよ!」
「あーとーちゃん顔が真っ赤だー!」
「まっかっかー!」
「かー!」
「か、からかうんじゃねえ!」
……い、いかん、どう繕ってもドツボだ。なにも覆せないぜ…。
家族サービスさせられた上に、こ、こんな目に遭うなんて…。
「それじゃ、失礼します」
「お、おう…」
俺はルリちゃんがラピスちゃんと合流して歩いていくのを見送った。
俺に直接もう一度礼を言いたくて、少し離れた場所で待ってたみたいだな。
後ろには艦長とテンカワも居た。
……ええい、気が済まねぇな。酒でも飲むか。
「あん?」
と、考えていたら、突如号外の掛け声と共に、
大量のメッセージウィンドウが宙に浮かんだ。
…こいつはまだ技術的には最新でコミュニケで使われるか、
都心じゃないと表示されないものなんだが…。
…こりゃまたずいぶん派手な予告状出したな。
今回は佐世保市長の要請でマッチポンプ…もとい、コラボレーション企画でやるそうだが。
しかもこの秋公開予定のドラマ『世紀末の魔術師の弟子』とのタイアップでもあるらしい。
主演の俳優と初共演をこの場でやらかすってのも聞いたが…。
…とはいえ、佐世保市長…ヒールを演じるのは大丈夫なのかよ?
次の選挙で落選しそうな気がしないでもないが…。
な、生で見るのは初めてだったが、ホシノ会長ファンの子たちってこんなすごいのか!?
確かに今日は聖地巡礼のようにこのPMCマルスの敷地に入れるとあって、
相当数のファンが居るのは知っていたが…こんな野球のドーム内のような歓声が一斉に…!
「うわーっ!
ここで見られるの、『世紀末の魔術師』ショー!」
「みたーい!みたーい!」
…うちの子供たちまではしゃいでやがるな。
だが…。
「…すまねえけど、俺はあした仕事なんだ。
お前らはかーちゃんと一緒に見てくれ、な?」
「えー!やだー!」
「やだー!!」
「やー!」
「こら、言うこと聞きな。
頑張って仕事するんだから。
…あんた、気にしなくていいよ。
私が子供たちを見てるから」
「…すまねえな」
さっきのやり取りのせいか、ずいぶん柔らかいな、オリエ。
何とか問題なく俺は整備に集中できそうだな…。
そして俺の家族たちは周囲のホテルが満杯だそうなのでと、
PMCマルスの契約社員用のプレハブ寮に泊めてもらうそうで、
今日は俺も一緒に泊まり込むことになった。
…ま、たまにゃあな。
「…ああ、明日始まる前に届けてくれ。
俺もあいつには負けるわけにはいかないんだ」
『…だけど世界一のエステバリスパイロットが相手だよ。
機体性能の差も大きいし。
どうやって勝つの?』
「それも考えてはある。
ディーラーに話は通してあるんだろ?」
『うん。話したら値段をだいぶ負けてくれたよ。
それどころか、本社広報から負けてもいいから宣伝してくれって』
「おお、そりゃよかった。
俺たちの今までの稼ぎの五分の三もつぎ込むんだからな…。
ホシノアキトを運が良ければぶっ殺せる。
事故ってことに出来るかもな」
『殺すなんて物騒なこと言わないでよ。
怪我のひとつやふたつくらいでいいじゃない』
「こっちだって死ぬ覚悟でやるんだ。
殺すつもりでやらなきゃ勝てないっての」
夏祭りも二日目に入って、ナデシコクルーもPMCマルスのスタッフも楽しんでいる。
前の世界ではナデシコに乗ってる間、本当に大変だったからなー。
こういう休養がしっかりとれるというのはいいものだ。
…で、俺は何をしているかっていうと…。
「アキトー!
三番のテーブル、
ネギ抜きひとつ、味玉トッピングひとつ、チャーシュートッピングひとつ!
それぞれおねがーい!」
「分かった、ラピス!
お前も少し水分補給しろよ!」
「おっけおっけ!気を付けないとね!」
…このくそ暑い中、俺たちはひたすらにラーメンを作っていた。
今夜は『世紀末の魔術師』ショーがあるが、
それまでの時間は、俺は屋台を出すことになった。
ちょっとサービス過剰かもしれないが、ふれあいイベントの一つや二つもやらないと、
うっかりしてると本当に変に祭り上げられちゃうからな。
今日は俺とテンカワが調理、ウエイターはユリちゃん、ユリカ義姉さん、ルリちゃん、ラピス。
こんなことにつき合わせるのはどうかと思ったけど、全員二つ返事で頷いてくれた。
まとまったのは警備の班の護衛がばらつかないようにする目的もある。
出すのはもちろん『ホシノ特製ラーメン』。
当然、あまりメニューを凝る余裕はないのでこの特製ラーメンだけがメニューだ。
トッピングくらいはしっかりやるけど。
今日のために、俺たちは早朝から大量の仕込みを行い、
いつも頼んでいる製麺所に無理を言って大量の麺を作ってもらった。
…計算上だが、俺とテンカワが居れば1分間で4杯程度のラーメンが作れる。
最大1時間あたり240杯…ペースダウンしない前提ではあるものの、それほどずれこまない。
で、俺たちは午後3時から7時まで続けて営業するから、おおむね1000杯売ることになる。
レシピが極秘であるため、それ以上はできない。テンカワだけには教えてあるが。
ショーが始まるまでには何とかしないとな…。
で…俺たちは屋台の集まりからは離れ小島の、
本社の近くでちょっとしたカフェスペースのような場所でやってる。
この1000人ほどが並ぶ間、ほかの屋台を妨害する可能性があったからな…。
発泡スチロール製の小さなどんぶりをお盆に乗せて、みんな大忙しだ。
当然、俺も汗だくだ。
「おいしーーー!」
「こんなの初めて食べたわー!」
……当然、このラーメンを食べにくるのはファンの子ばかりのわけで、
それでも味で納得してもらえてるのは結構嬉しい。
「おう、テンカワ、ホシノ。やってるな」
「「さ、サイゾウさん!?」」
「腰の調子がいいんで噂の『魔法のラーメン』とやらを食べに来たぜ。
ちょっとばかり女の子に混ざるのは大変だったけどよ」
…と思ってたらサイゾウさんまで並んでいた。
言ってくれれば俺が直接出前してもよかったのに。
サイゾウさんはラーメンを食べて…かなり驚いた様子だ。
俺もちょっとは成長できたかな。
それにしても…暑いな。
一番熱い時間からスタートしてるからな…。
PMCマルスのドックは今夜は使わないので、
暑さ対策でそこからスポットクーラーを持ってきているので多少マシだが…。
食べる方も食べる方だよ、すごい汗をかきながらラーメンをほおばっている。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
そして午後7時になり、無事に営業が終わった。
な、何とかなった。大変だったが、満足だ。
出来れば店を出したいが、今はこれと自社食堂で精いっぱいだ。
こういう形もやっぱり面白いもんだ。
…それにこれくらいやらないと、気の乗らない打合せが待ってるからな。
「よしっ!営業終わり!
みんなお疲れ様!」
「「「「「おつかれさまーっ!」」」」」
かろうじて死闘ともいえる営業が終わり、みんなして飲み物をがぶ飲みしている。
…うーん、それにしてもトラブルが起こらなくてよかった。
列に並んでいる人も、ちゃんと数えて売り切れを伝えたし、何とかな。
正直、この規模になっちゃうと麺をゆでる機械も入れないといけないから大変なんだよなー。
で、俺たちは腹ごしらえのために、食事をとろうとしたわけだが…。
「…アキト、いい加減ラーメンを食べさせてよ」
「麺の在庫がもうないって…。
それに食べれなかったのはお前が俺を芸能界に引っ張ってたせいだろうに」
…ラピスにラーメンをせがまれていた。
スープはかろうじて何杯か分はあるんだが。
と思ったらラピスは仕込みとは別の小さなクーラーボックスから麺の袋を取り出した。
「そう来ると思って、実は何玉か余分に発注しておいたのよ」
「……またお前はそうやってこっそり準備するな。
まあいい、お前のリクエストなら答えないわけにはいかないな。
分かった」
「じゃあアキト君、私とユリちゃんとアキトがみんなの分も屋台の食べ物を買ってくるから、
ルリちゃんとラピスちゃんと待っててね」
「すみません、お願いします」
…俺のせいで10人前以上は買ってこないといけないから三人がかりなんだよな。
ユリカ義姉さんたちを見送って、俺は二人のためにラーメンを作り始めた。
…このラーメン、ルリちゃんには食べさせる隙間があったんだが、
ラピスには食べさせてなかったんだよなー。
「わくわく」
「ほら、お待たせ」
俺はルリちゃんとラピスの前にラーメンの器を置くと、
ラピスはいただきますも言わずに食べ始めた。
「ずるっずるっ…んぐんぐ…」
「おいしいですね、やっぱり」
ルリちゃんは静かに食べていたが、ラピスはちょっと急ぎがちに食べている。
…どうしたんだ?
「…ん。おいしい。すごいおいしい。
……なんか…ホロっとくる味…」
…ラピスはぽろっと涙をこぼして、スープを再び飲み始めた。
俺の思い出をよく知っているお前だから、そういう感想になるんだな。
『これがアキトが頑張って作った、アキトだけの味なんだね』って、
褒めてくれている気がするよ…。
ルリちゃんの前だから言わないんだろうけど…。
「……懐かしいってこういう気持ちなんだね…」
「ラピス…どうしたの?
そんなに、何か…」
「ううん、気にしないで。
ごちそうさま、アキト」
「ああ、満足してくれたようで良かったよ」
……うん、良かった。
ラピスがこの味をおいしいって言ってくれただけでも…。
…今日の出来事は、俺も懐かしさを思い出さずにいられなかった。
ピースランドの一件の時もそうだったけど、今日は特にそうだった。
俺はテンカワとユリカ義姉さんが二人でラーメンを屋台をやるという姿を見て…。
ルリちゃんの視点で自分を見ているような気分になった。
そして…失いたくない風景だな、とちょっとしんみりしてしまった。
…いや、大丈夫だ。
無くさないように頑張ってるだろ、俺も。
…まだまだやれる、これからも。
しかし…。
「…遠目に写真撮るのやめてくれないかなー」
俺がラーメンを作る姿とかこの恰好って結構レアだから、
写真を撮るファンの人がいっぱいいる。
望遠レンズまで持ち込んでる人も相当数いる。
うう…次は外食系のCMでも受けようかな、そうすればレア度下がるし…。
私とアキトさん、ラピス、眼上さんは最後の打ち合わせのために企画運営のメンバー、
そしてキャストである佐世保市長と、『世紀末の魔術師』の弟子扱いの天龍さんで集まりました。
ドラマ版の製作スタッフもかなり混ざってます。
…緊張する部分がないとは言いませんが、気を付けるべきは演技の方なんですよね。
アキトさんも調子づけば結構いい演技を出来るというのは分かってきましたが、
よくセリフを噛んだりどもったりするのは相変わらずです。
完璧な怪盗を演じるにはとことん向いてない人です。
対して天龍さんのほうはどっぷり芸能界に使ってて、本人も相当の努力をして、
トレーニングのたまもので演技はばっちりです。
私も前の世界では名前を憶えているレベルのトップアイドルです。
そのアイドルとしての実力はアキトさんでは足元に及ばないでしょう。
……ただアキトさんは目立ちすぎるんです、何もかもが。
天然な性格、見た目、身体能力、話題性、立場、すべてが優ってます。
宣伝しようとしなくてもみんなが集まってきてしまうんですから…。
それは地道な売り込みと本人の努力では補いようがありません。
事務所の力関係を駆使しても無理でしょう。
……さすがに気の毒になってしまいますが。
で、その天龍さんはというと、本人も恐らく不本意でしょうが、
髪を脱色し、カラーコンタクトを入れてアキトさんそっくりになっています。
顔立ちは結構似たり寄ったりなところがあります。テンカワさんほどそっくりじゃないですけど。
ドラマでは影武者であるということで、このように合わせないといけません。
「それで──アキト君、お願いしておいた仕込みの方はしておいた?」
「あ、それは大丈夫です。
衣装の方もラピスが発注してくれて…」
「白スーツくらいならツテがあるもんね!えっへん!」
……ラピス、強力なツテを作りましたよね。
まさかアキトさんと広告に出るのを条件に『洋服の赤山』の社長に、
格安で白スーツを大量発注するなんて。
…最も、依頼をかけた相手の方もすでに白スーツは結構持ってたそうですけど、
持ち回りだから一度には使えないんで発注が必要だったんですよね。
…はぁ、やらかす内容が内容だけにばかばかしさマシマシですね。
これも当然のごとくラピスの発案です。このアイディアはドラマ脚本の人にも大絶賛です。
ラピスはユリカさんのクローンなわけですが、
ユリカさんってもしかして状況によってはこうなったんですかね。
……否定できないですね。
「じゃ、いっちょやってみよっか。
アキト、みんなにゴーサイン出して。
開始は30分後だよ!」
俺とユリカとルリちゃんは、ホシノが準備に向かったので、
ホシノの屋台専用のカフェスペースで雑談していた。
昨日しっかりあそんで、今日は疲れ切っちゃったので、のんびりしている。
当然ルリちゃんを撮影しようとする人も絶えないが…。
それはナオさんたちがある程度ブロックしてくれている。助かるなー。
「いいんですよ、ユリカさん、テンカワさん。
私は護衛の方もいますし、一緒に出掛けて来ても」
「ううん、いいの。
…なんかね、今日すっごい幸せだったの。
みんなであんな風に一緒に屋台するなんて、想像もできなかった。
でもそれがすっごく楽しくて、幸せでね…。
今はユリちゃんもアキト君もラピスちゃんもいないけど、
しばらく余韻に浸りたい気分なの」
……なるほど。
そういうことだったら、あんまり気にしないでよさそうだな。
俺、その気分、分かるな。
なんだか充実してた…家族ってこういうもんなんだろうな。
俺も……。
…いやいや、待て。
ユリカと付き合い始めたのはいい。別にいい。
だけど将来を決めるには早すぎるだろ…。
家族ぐるみの付き合いに巻き込まれまくっててだんだん麻痺している。
…ユリカのペースに引き込まれ過ぎてるだろ、実際。
そもそもホシノと兄弟みたいな関係になるのは本当に勘弁してほしいし、
本当に強くならないとユリカとの仲を認められないし…先は長そうだ。
うう…俺は料理に集中したいのにどうしてこうなる…。
今は火星に乗り込むのもあるから強くなるのは別にいいんだけど、
ユリカやユリさんたちの事を考えると強くなるのも必要だけど…はぁ。
ホシノ並みに強くなれってもさすがに無理がある気がする。
アカツキ会長が素質はありそうって言ってくれたけどさ。
料理の方も、サイゾウさんを驚かすレベルのホシノに比べれば…。
いや。
「…ま、いいか。
今は色々試す時期なんだろうな」
「ん?どうしたの、アキト」
「あ、悪い。
何でもない」
独り言がでちゃったな。
まあ、いっか。
自信がないのは仕方ないとして、俺はまだ半人前だ。
色々試してみるのもありだろ。
サイゾウさんもパイロットやりながらコックをするな、なんて言ってない。
むしろ俺に、もっといろんなことを知ってほしいと思ってるみたいだし、な。
……ただ、芸能界だけは絶対いやだけど。
「ユリカさん、そういえば今日はどんなショーになると思います?」
「え?私も聞いてないよ?
アキトは?」
「いや…。
今回は俺たちも観戦側に回ってほしいってことだろ?
俺だって影武者やらされないから安心して見てることにしようと思ってたけど」
……そういえば、今回は別に身代わりトリックはしないんだな。
いや、その方が当然いいんだけどさ。
「あ、あそこにいますよ。
…でも何か雑というか無防備ですね」
ルリちゃんに言われて同じ方向を見ると…確かに。
…うん?
いや、待て…ええっ!?
「あれはホシノじゃない!!
1、2、3、4…10人は居るぞ!?
『世紀末の魔術師』のコスプレをしてる連中だ!!」
「「えええっ!?」」
なんだ、コスプレ大会でもあるのか!?
いや…これは意図的な作戦だ。
ホシノのコスプレをしてかく乱するつもりだ!
10人…いや20人!?この場から見えるだけでそんなに!?
どっから沸いた!?
「あれ、アキト様じゃない!?」
「どこなのよ~!」
〇地球・佐世保市・PMCマルス本社・食堂──ラピス
私達バックアップは、食堂で祭りの様子を見ている。
空撮ドローンがあっちこっち居るので、様子を見るのには事欠かない。
「ラピスちゃん、うまくいったみたいね」
「うん、ファンの女の子も混乱してるよ。
この調子ならアキトと天竜がゴール地点にたどり着くのも容易だし、
屋台通りに縛り付けるのもできるし、盛り上がるね」
今回『洋服の赤山』で白スーツを大量に発注したのはこのため。
アキトが働いていたコスプレ喫茶『サーフェス』の全従業員の力を借りて、
100人の『世紀末の魔術師』を用意して、ファンの女の子たちの目をくらませる作戦。
今回は本当に誰かをだます目的じゃないけど、ちょっとした余興よね。
「でもこのためだけにスーツを大量に頼んだの?」
「そうだけど、
さすがに『サーフェス』の人たちはアキトで商売してるようなもんだから、
スーツ代は自分で払ってもらうことにしたよ。
こっちもノーギャラ、だからあっちもノーギャラ。
アキトのおかげで伸びてるんだから文句言わせないもん」
「さすがラピスちゃんね、抜け目ないわ」
まったく、本当にアキトに便乗してる連中って死ぬほど多いんだから。
ま、ちゃんと筋を通して私たちに交渉してくる相手は邪険にしないけど、
訴訟めっちゃ起こさないといけない相手も多いし、対処が大変なのよね。
あーあ。もう一人私がほしくなっちゃうわ。
「さて、もう少しでショーの始まりだね」
アキトと天竜の一騎打ち、今回は武器もトリックもほとんど使えないだけに、
危険が付きまとうけどどうするつもりかな、二人とも。
アキトはともかく、天龍の方は格闘技はからっきしみたいだけど…。
ま、格闘ごっこして走ってゴールにたどり着くだけの競争だし、どってことないよね。
「ん、メール。
……ラピス、ちょっとこの場を預かってもらえませんか?
お父さんに呼び出されてるみたいです。
何か緊急の用事のようで…護衛の迎えまで寄越してますね」
「あいあい、大丈夫。
いざって時はユリカも居るし、何とでもなるよ」
…それにしても変なタイミングだよね。ミスマルおじさん。
直接呼び出すなんて…しかも要件がメールに書いてないってことは、
結構重大な用事みたいだけど…。
ふう…。
俺は何とかスタート地点に到着した。
今回は天龍君と『怪盗対決』をすることになってる。
ちなみに特殊装備は一切なし。
うかつにこの辺の特殊装備マジックを広めると、すごい弊害があるんだよね。
犯罪に使われかねないし…外部の人に広めるわけにはいかない。
そうじゃなくても光学迷彩のマントはさすがにこの場で出すには大げさすぎるし、
こいつは勝負の体はとってるものの、単なる余興にすぎない。
できれば俺が負けてあげて天龍君に『世紀末の魔術師』の称号を譲ってあげたいのが本当のところだ。
……ファンのみんなには悪いんだけど、俺が持ってるには重すぎるんだよね。
さて、そろそろ時間か…。
「な、なんだ!?」
「照明が消えた!?」
夏祭りを照らす照明が消え、屋台のわずかな明かりだけになった…。
ざわつく会場に、俺の録音のメッセージが流れる。
…セリフをとちりやすいから、録音でやってもらってるんだよな。
PMCマルス本社の屋上に、俺は姿を現した。
サーチライトがばっちり当たって、やっぱり眩しい。
…しっかしこっぱずかしいな。やっぱし。
天龍君が俺と同じ格好で、プレハブ寮の屋根に現れ、再び、驚きと歓声が上がる。
どうやら彼もかなり好かれているらしく、驚きの中に嬉しさを感じている気がする。
ファンの層は結構かぶってるらしく、トップアイドルの貫禄を見せてくれるな。
……ファン、全部引き取ってくないかな、ホントに。
…よしっ、想像以上につかみはばっちりだな。
秋からの天龍君の活躍に期待しよう!!
ぜひ俺より目立ってくれ!!
俺は三階建ての社屋の壁をけり、ちょっとしたでっぱりに足を引っかけながら容易く降り、
天龍君はあらかじめかけてあったロープで下に降りた。
あっちは二階建てだからそんなに負担はない。
ファンの女子たちは、ひとまず声をあげながらも俺たちに近づくことなく、様子を見守っている。
上空にウインドウが浮いていて、俺たちの姿が死角に入っても問題なく観察できるからだろう。
明かりをかなり消してしまっているので、こういう対処がないと危険だ。
それに競争という体があるので、さすがに邪魔をするつもりにはならないんだろう。
そして俺たちを待ち受けるキャスト…おおよそ300人の大軍団だ。
海外の警備会社を真似した服装を着ている。
当然素人ばかりで、かいくぐるためだけの配置のはず…。
警棒を思いっきり振り回す警備員風の男たち。
な、なんだ!?ここまで本気で来るとは思わなかったぞ!?
「ここであったが百年目…」
「純真な婦女子をかような奇術と話術、そしてその奇怪な風貌で惑わし、
幾人の女性を地獄に堕としたか分からぬ奸賊、ホシノアキト!」
この人たち、計画であてがわれたキャストじゃないのか!?
ま、まさか何かの仕掛けで俺の方だけマジのアンチファンが襲ってるのか!?
ラピスの情報で噂に聞いては居たけど…。
200万人を超えるファンが居る一方で、
超過激なアンチファンの集団が1000人は居るって聞いた。
よく見ると警棒じゃなくて刀とか包丁を持ってるやつがたくさんいるじゃないか!?
アキトが暴漢たちに襲われて、かなり不利な状態に陥ってる。
もっともあの服は防弾防刃でひとまず問題なくいられるし、
あの程度の有象無象の素人集団じゃ致命にはならないだろうけど…。
それでも一仕事終えて体力が消耗している状態じゃどうなっちゃうか…!
「な、何よあれ!?
ほとんど私刑目的の連中じゃない!?」
「ラピスちゃん、ナオさんを助けに行かせないと!!」
「だ、ダメだよ!
あの乱戦に飛び込んだってアキトにはたどりつけないし、
日本じゃ銃火器の類は使えないんだから!!」
誤算だったわ、まさかこんなことをしてくるなんて!!
堂々とゴム弾の拳銃やらショットガンやらを出すのは、生放送の今はできないし…。
緊急時以外には使えないもん!
キャストの人たちはあくまでフリをするために集まったし、
身辺調査もしっかりしてたはずなんだけど…。
まさか…。
「天龍がこの連中を手引きしたの!?」
キャストの装備を知っている人間は私達だけ!
でもアキトとの力関係を考えたらこんなことを仕掛ける人なんて誰もいない!
この場合、アキトが死ぬなり怪我するなりすれば利益がある天龍は唯一、やる理由があるよ!
「こんなことをするなんて…!
ドローンをいくつかぶちおとして警戒させるにも、
そんな事故を起こしたらそれはそれで問題だから…くう…」
いいアイディアが出てこない!
あーもう!どうして私ってばこういう無茶苦茶な相手にはアドリブきかないんだろ!
アキトなら大丈夫だと思うけど!
天龍、あとで覚えてなよ!
ちいっ、ちょっとこいつは骨だな!
素人集団とはいえ、この数になると厄介だ!
相手を殴るにも投げるにも体力も、手も持たないからな!
「ふっ、とぉっ、はっ!」
三人に拳を当てて昏倒させるものの、不利は変わらない。
…一人が手にしていた、ステンレス製のトンファーを両手に持ち、俺も対抗した。
トンファーは防御にも使える上に、拳をふるうように扱いやすいので俺も使いやすい。
ちょっと日本刀を受けるのは厳しいだろうけど、ナイフくらいなら問題なくさばける!
俺は走りながらまとめて十人くらい片付けたが、
そろそろ逃げないととてもじゃないが身体が持たないぞ!
こうなったら…。
「そら、俺はこっちだぞ!」
「うぐあぁ!?」
「のわぁ!?」
俺は俺を取り囲んだ連中を踏み台にして、悠々と上を飛び回った。
密集状態なのが災いして、身動きが取れず、俺を捕まえることもできず、
ただただ踏まれるだけになってしまっている。
「それぇっ!」
俺はこの団体さんを通り抜けて走り出した。
…それでもファンの女の子たちの声援が届く。
ああ、もう。
なんでこんなことになっちゃったかな…。
とはいえこの程度さっさと切り抜けないとな!
ちっ、もうホシノの野郎、突破したのかよ!超人かあいつは!!
それにしてもさすがに嫉妬で集まった連中だけあって、
何の技術もない役立たずのルサンチマンどもだ!
まだ俺がタイマン挑んだ方がマシじゃねーのか!?だが…。
「もらったぜ、ホシノ先輩ッ!」
俺はすでにコンテナにたどり着いてる!
勝負はもらった!
が…。
「早いね、さすが天龍君」
んな!?
ホシノはすでに俺を追い抜いて反対側から開けようとしていただと!?
このコンテナは俺たちが最後の最後、競うように開けられるように前後に扉が付いている。
とはいえ、ここは最後の難関ということもあり、ちょっとしたパズルが組まれてる。
こいつを早く解いた方が…。
「ああ、もう、めんどくさいな」
なんだと!?
ホシノがさっきの連中から奪った武器でカギを壊しやがった!?
ち、畜生!!俺の負けかよ!!
…ちょっとムキになって勝っちゃったな。
ま、まあいいだろ。
これくらいの差で居られるなら天龍君だってそれなりに評価されるだろうし…。
ん!?
この声は…天龍君!!?
い、いや!?
『エステバリスを盗ませてもらったからね!』
「何ッ!?」
上空に浮かぶウインドウに、天龍君そっくりの少年が見える。
しまった、予備に残しておいた俺のエステバリスが!!
実はこのエステバリスで肩のロケットランチャーを使って花火を上げる予定だったんだ!
だから俺がすぐ乗れるように置いといたんだが、裏目に出てしまったか!
「地龍、ナイスタイミングだぜ!」
『兄ちゃん、こいつ二人乗りだ!
一緒に乗れよ!』
女の子たちの絶叫が聞こえる…。
この地龍と呼ばれた少年は黒髪で、天龍君と並ぶと、
さながら俺とテンカワのように色違いの二人が並ぶようになる。
…そういえばこの天龍君、双子だったな。
前の世界では2年後には明らかにしてることだった。
ラピスが知らなかったのを忘れてたが、俺が天龍君に『世紀末の魔術師の弟子』を任せた理由の一つだ。
企画段階ですでに彼がキャストになるのは決まっていたが、最終的には俺の承認を必要としていた。
みんなは知らなかったようだが、企画を立案した人物はこのことを知っており、
俺とテンカワのような影武者トリックが作りやすく、映像や設定としても面白いからな。
何より、俺の代わりに『世紀末の魔術師』を背負ってくれたとしても、
二人で多忙なスケジュールをこなしてくれそうだからな。
…いかん、色々考えていたことが全部裏目に出てるっぽいな。
「戦えったって…。
俺に素手で戦えってのかよ?!」
『機体は準備してあるぜ!
経験者のお前はハンディキャップを背負ってもらう!
ステルンクーゲルがそこのトレーラーに準備してある!
嫌とは言わせないぜ!!自腹でわざわざ買ってきたんだからな!
『世紀末の魔術師』の名を賭けて勝負だ!!』
……うん、譲ってもよかったんだけど変な妨害してきてムキにさせた君らが悪いんだけどね。
とはいえ盛り上がっちゃってるが…いや、ちゃんと断るか。
俺は別にそういうの気にしないし。
ラピスが俺を戦わせるためにかけた言葉で、会場はもはや最高潮だ。
誰も俺が戦わないなどとは想像していないと思うほどに。
…ラピス、俺が負けないと思ってこういう決闘に軽率に出させるなよ。
ゆ、ユリちゃんはどうしたんだよ!?こういう時ブレーキになってくれないと困るぞ!?
それにうちは有限会社だから株価はないだろ…。
ステルンクーゲルの性能が分からないし、自分のエステバリスを壊しちゃな…。
いや…それでも世間の評判ってのは、案外ばかに出来ないな。
PMCマルスが『弱い組織』って思われるのはマイナスだな。
最終的には和平に導く立場になる必要があるのに、
いざって時に戦わないかもしれないって思われちゃうとどうしようもなくなる。
いや、本当はこんな野試合みたいなことをする方がマイナスなんだけどね。
「はぁ…しかたない。
やっつけてやろうかな」
俺は会社の裏口においてあったトレーラーのステルンクーゲルに乗り込んだ。
…まさかこんなことでステルンクーゲルに乗るなんて思わなかったよ。
…なんか妙なことになってきたな、ホシノのやつ。
しかしどうしてこうアカツキ会長といいホシノに対抗心を燃やす奴は決闘好きなんだ?
「ユリカさん、アキト兄さん勝てそうですか?」
「…うーん、二人ともたぶん初めての機体を使うから、
状況的に五分に見えるけど…経験ではアキト君の方が圧倒的に有利で…。
でもこういうのちょっと私わかんないや、あはは。
人型機動兵器で一対一の勝負ってなっちゃうと、完全に専門外だもんね」
まあそりゃそうだな。
あの様子だと武器の一つも使わないだろうし、
ロケットランチャーも空だろうし。
「にいちゃーん、本当に勝てるの?」
「勝てるかどうかじゃなくて勝つんだよ!
このために自腹でステルンクーゲル買ったんだからよ」
「だけど、あのホシノアキトだよ?」
見た目は同じでも天龍に比べると地龍はだいぶおとなしい性格だった。
「俺に任せろって!
二人でトップアイドルにのし上がるのが俺たちの夢だろ!!」
「うん、分かってる。
だけどみんな怪我しないようにしよーね」
うーむ…一応乗っては見たものの、足腰がふにゃんふにゃんだな、これ。
エステバリスの通常の半分以下の出力ってこんなにひどいのか…。
フィールドがない機体だから、
代わりにフレーム剛性や装甲はそれなりにあるからダメージは耐えきれるんだけど…。
基本的にボディがアルミ系で作られてるからプラスチックほど軽くないし、
ぶっちゃけて言うと鈍重で力がないって最悪の作りなんだよな。
エステバリスのフィールドを打ち破るのも厳しいなこれじゃ。
「うーん、ラピス、なんかステルンクーゲルの特徴とか、武装とかないか?」
『分かった、調べてみる』
『ラピスちゃん、ハッキングでもするの?』
『そんなことしな…できないよぉ、私がいっくらすごくたって』
『え?どうするの?』
……そういえば普通にそうするべきだよな。
俺が普通に端末でダウンロードすればいいだけの事だった、確かに。
ラピスはハッカーだというのが広まらないように誤魔化す意味もあったんだろうけど。
しかし、ステルンクーゲルの内部にはマニュアルがないのか…いや、探せばあるだろうけど、
あんまり時間がないからな。
『アキト、そっちの端末に送ったよ』
「ありがとう」
俺は端末で一通り仕様を読む。
……いやこれほとんどエステバリスのパクリだな。
値段を抑える目的で真似をしているのはもちろんの事、
代わりに著作権に引っ掛からない程度にある程度改変…もとい改悪してある。
こんなので大群を相手にしたら死ぬぞ…。
とはいえ…うーん、イミディエットナイフやワイヤードフィストのような内蔵武器はなく、
大型のナックルガードがついているくらいしか特徴がない。
それはそうか、いくら性能をケチったところで単価はそんなに極端に変わるわけじゃない。
基本構造をシンプルにすることで、強度の方に割り切って調整をしているんだろう。
…はぁ、これじゃ相打ち覚悟で攻撃するしかなさそうだ。
「これでやるっきゃないか…。
来い!天龍君ッ!」
『やっとか、ホシノ先輩!』
『待ちくたびれたよぉ~』
天龍君も威勢よく迎えてくれたものの、それほど彼らも余裕があるわけじゃないな。
マニュアル本を見ながら練習用の体操を繰り返しているだけだ。
もっとも武装がない以上、アカツキの時同様に致命傷を負う可能性は低い。
最悪ギブアップしてもらえばいくらでもなんとかなる。
…そら、来た!!
俺はステルンクーゲルを動かして、エステバリスの体当たりを避ける。
天龍君たちはど素人だが、機体性能の差はそれでもかなり離れている。
俺のエステバリスは通常のエステバリスより30%ほど強化されてる。
それを計算すると3倍のパワーがあると考えていいだろう。
だが、くっ、こんなにラグがあるのか!
何とかよけたがギリギリだった!!
格闘となればディストーションフィールドもそんなに持たないだろうが、
こっちはそれがあまりできない立場だ。
どうするか…。
くっ!!
子供のような駄々っ子パンチだが、ステルンクーゲルじゃ驚異だ。
フィールドまとってる分だけ、少しリーチが長いしな。
隙をみて、ステルンクーゲルを壊すつもりでやらなきゃ勝てないぞ!!
『どうしたー!そんなもんか!ホシノ先輩』
『ギブアップした方がいいですよ~』
「ちっ、一発でも当ててから言ってくれよっ!」
全部回避してるそばから、天龍君たちは挑発してくるが…。
だが、こっちにも決め手がない。
どうする!?
…うん、やっぱり機体性能の差がこれだけ開いても、アキトなら勝てる。
だけど、ディストーションフィールドの差が、つらいね。
結局相打ち覚悟で一撃出さないといけないけど…うーん、どれくらい持つか分からないし。
隙をついていつも通りやっつけるんだろうけど、何か手伝えるようなことは…。
「…ラピスちゃん、この部屋オフレコにしてハッキングすれば勝てるんでしょ?
動きを一瞬止めちゃうとか」
「それはそうだけど、さすがにそれはちょっと…」
「でも危ないことさせちゃだめよ、あの二人はどっちが怪我しても大変なんだから」
「…眼上の言う通りだけど、ハッキングしたってなるとタイミングによっては致命傷負うし。
どっちみち、こっちから手を出すのは危ないよ。
さっきよりは逆に危なくないの。
相手が一人ならアキトは何とかしちゃうから」
「そうね、あの戦いの申し子みたいなアキト君だし」
「!ちょっと待って、思いついた。
この方法ならあの二人を追い詰められるかも。
眼上、オフレコにするから、みんなに気づかれないように気をそらして」
「任せて!」
そうと決まったらアキトにメッセージを送ろっと。
そうすれば焦って勝負に出てくるし、あんまり長引かせないで済むでしょ。
観客もこの大迫力バトルに満足してるし。そろそろ決着させようね。
うん、そうしよう。
「に、兄ちゃん!なんかウインドウめちゃくちゃ出てきたよ!」
「なんだっ!?バッテリー警告!?
さっきまで満タンだったろ!?」
『あーごめーん。
そのエステバリス、電池が古くなっててあんまし持たないのー。
整備員のみんながここには来ていないし、
エステバリスは肩のロケットランチャーで花火を打ち上げるだけの役割しかないから、
そのまんまだったのー」
天龍と地龍は驚き、ラピスの棒読みの忠告に驚いている。
当然、整備状態がいいホシノアキトのエステバリスにそんなことはあり得ない。
ラピスがハッキングして電池残量がゼロに近づいているとOSに錯覚させているだけだ。
ディストーションフィールドが弱くなり始め、ついにゼロになった。
「ちいっ!!
このヤロウッ!」
天龍が、ついにアキトに対して大ぶりの一撃で勝負を決めようとしてきた!!
だが…!
アキトがステルンクーゲルの手のひらを開くと、腰を入れたカウンター気味の掌底を繰り出し、
エステバリスはバランスを崩してダウンする。
そして…。
『そりゃっ!』
「うおおおっ!?」
エステバリスの顔面にアイアンクローの形でメインカメラをふさいで、
ついでに腰に馬乗りになる形で動きを封じた。
パワーでは倍以上の差があるエステバリスカスタムとステルンクーゲルといえど、
重量的にステルンクーゲルの方が上であるため、エステバリスは身動きが取れなくなる。
そしてしっかり動きを止めたのを確認すると、アキトはステルンクーゲルから降りた。
抑え込まれちまった…こ、これじゃ!
「ま、負けちまう、どうした、動け、動けよ!!」
「だ、ダメだよにいちゃん!
ちっとも動かないよエステバリスが!!」
ば、バッテリーが完全に切れた…。
かろうじて明るさだけは確保できてるが、これじゃ…!
!?
こ、コックピットが開いちまった!?
そして、そこには…。
ホシノアキトが、例の煙幕弾発射用の銃を構えていた…!
「や、天龍君。
フリーズ。
降参してくれるよね」
「ど、どうやって…」
「エステバリスにはね、緊急時に救助活動をするために、
手動で開けられるスイッチがあるんだ。
被弾では開かないように、ちょっと溝の部分だから気づきづらいんだけどね。
乗る時は開いてたから気づかなかったんだろうけど」
「…俺はアイドルで世界を取るつもりはないよ。
『世紀末の魔術師』の称号だって、君にあげたっていいんだ」
「だったら、なんでだよ!?」
「…俺がほしい夢、知ってるだろ?
戦争を終えて、町食堂を始めたいだけなんだよ。
でも、今はこの立場も、この力も必要なんだ。
天龍君がアイドルで一番になるためにどれだけ頑張ってるか、
どういうことをしてるのか見たことないけど、分かるよ。
俺はアイドルとしての実力じゃ君の足元にも及ばない。
だから…」
……こいつ、きれいごとばっかり言いやがって!
結局、俺をなだめたいだけだろうが!!
いいカッコしいもいい加減にしろってんだよ!!
「うん、わかんないよ。
人が何をしていて、何を考えてるかなんてわかんないさ。
…そして自分が誰の、何を奪おうとしてるかなんて、分かるわけないさ」
「な、何を…」
「俺は君の輝かしい未来を奪ったのかもしれない。
…でも君も誰かの未来を奪っているのかもしれない。
ちょっと屁理屈だけどさ、
今日、君は俺の命を、未来を奪おうとしたよね?」
「……」
俺は返事が出来なかった。
俺はそういう自覚はあったけど、果たして人殺しになる覚悟はあったか…?
殺してでも手に入れるつもりだったトップアイドルの座…。
だけど地龍はホシノを殺してまでトップになれとは言わなかったし、止めようと案じてすらいた。
いや、殺したらトップになることなんて永久にないに決まってる、当たり前だ…。
「でも、結果はまだわからないじゃないか。
綺麗事かもしれないけど、まだ将来が決まったわけじゃないだろ?
…俺に勝つことができなくったって、
俺はタイミングさえ合えばすぐに辞めちゃうんだから気にしなくても」
「…アイドルの寿命なんて大したことねえよ。
だったらすぐにトップにならなきゃ意味ねえじゃんか」
「じゃあトップになったとして、その先にやりたいことはあるのかな。
次に何が待ち受けてるか、何をしたいのか、何があるのか…。
ゴールが近かったら、終わるのも早いんじゃないかい?」
「…いいよ、兄ちゃん…そんなに意地にならなくても」
「地龍!!俺たちの約束を忘れたのかよ!?」
「だ、だけど…」
天龍は、いつだって俺を励ましてくれた。
基本的におとなしくて、人前に出るのが苦手なタイプだった…。
だけど、俺の言うことに反抗して起こるなんて…。
地龍は俺が独り相撲をしていたことに怒っているのか…?
……俺、もしかしてちょっと意地張ってて結構バカやってたか?
今日は大事な勝負だからって地龍にも色々頼んだけど…。
もしかしたら、もっと早く言ってたらトップアイドルになれてたかもしれない。
ホシノアキトが追いつけないほど、すごいアイドルに…。
「……あ、ああ。
ごめんな…」
「…ほら、行こうよ。
負けでも、結構頑張ったんだからみんな喜んでくれるよ?」
…そうかもな。
俺はこいつともう一回やり直すべきなんだろう。
双子の癖に、全然俺より冷静で、
俺と同じくらい激情家の癖に、自分の気持ちを抑え込む我慢ができて…。
俺の欠けてる部分をきっと補ってくれるはずだ。
…施設を出てからずいぶん経つが、俺はそんなことにも気が付かなかったのか。
こいつとだったら…。
……ああ、超えられるさ!
ホシノアキトを!!
結局その後、俺たちは自分たちの機体から降りて、お互いをたたえ合った。
秋からのドラマの宣伝もちゃんとこの場で伝えて、俺たちは控室代わりの社屋の食堂に戻った。
天龍君はちょっと不満そうだが、ひとまず俺を信じてくれるらしい。
ラピスが気を使ってホールドアップの時の音声を切ってくれたのが幸いして、
本当にこれは世間の上では単なるショーのまま終わった。
花火大会では予定通り、俺のエステバリスからウリバタケさん特製の花火弾が打ち上げられ、
これもまた大いに盛り上がった。
はぁ、何とかなったものの災難だったな…。
…全員が解散して、もう夜の11時になって、撤収作業に入る中、
俺たちは疲れ切って食堂でうなだれていた。
部屋に戻る気力もほとんど残ってないくらいだ…。
そしてユリカ義姉さんたちナデシコクルーはナデシコに帰っていった。
「…アキト、天龍を本当に許すの?」
「…俺も天龍君には悪いことしたと思ってるからさ。
前の世界じゃ天龍君はトップアイドルになれたんだ。
俺みたいなアイドル向けじゃない奴が、
芸能界でトップアイドル扱いされてるほうが間違ってるんだよ」
「はぁ、相変わらずお人よしよね。
ま、いっか。
天龍がしでかしたことも表ざたにしちゃえばトラブルが増えちゃうもんね。
…ま、アキトをボコボコにしようとした連中はちょっとくらい仕返ししてやるけど」
…ラピスは相変わらず辛辣だな。
だが、そんなに手ひどいことはしないだろう。
俺もなんていうか…不本意でやってて不本意にやっかまれてるだけだから。
「それにな、天龍君がトップアイドルになったのは…前の世界では来年の冬なんだよ。
双子アイドルとして売り出した時からなんだ。
俺も興味はなかったけど、その話題で一週間くらい持ち切りだった時期があったんだ。
今日、その弟の地龍君が一緒に芸能界に入るって言ったから、
時期的にはかなり早めになったんだ。
もしかしたら俺を本当に追い越してくれるかもしれないよ」
「…そうかもね。
アキト、アイドルっていうよりは本当にマルチタレントって感じだし、専業には勝てないよね。
ライブとか全然しないし、ブームが過ぎたら意外とあっさりしたものかもね。
その方がアキトにとってもいいことだし。
アキトとの相乗効果で天龍たちがもっともっと伸びそうだし。
…ま、戦争が終わるまでは無理かもしれないけど?」
…そこだけはちょっと憂鬱だが、戦争が早期に終わればなんとかなる気もする。
そういえばユリちゃんの姿がないな…。
「ラピス、ユリちゃんはどうした?」
「ユリはミスマルおじさんに呼ばれてるよ。
なんか緊急の案件らしくて」
うーん、ユリちゃん一人だけ呼ばれたのか。
護衛もついているらしいけど、何かあったのかな?
あのお義父さんの事だから、
近くまで来てるならPMCマルスに寄ってくれると思ったんだけど。
「…ふふーん、それじゃアキト独り占めしちゃおうっかな~」
「ちょ、ちょっと待てよ。
お前、また怒られるぞ」
「いいもーん」
…はぁ、全くラピスは。
ちょっと愛情表現が過剰なところがあるよな…まるで…ユリカみたいで。
…いや当たり前か、クローンだしな。
「こら、ラピス。
私が居ないと思って何してるんですか」
「む、ユリってば意外と早かったじゃない」
…助かった。
「お帰りユリちゃん。
お義父さん、なんだって?」
「あ、ただいまです。
連合軍各方面軍の動きに変化があったみたいで…」
ユリちゃんの報告を少し聞いていたが…ちょっと厄介なことになり始めているらしい。
まず、連合軍の手戦力としてエステバリスが採用されるのは決定したが、
ナデシコ級戦艦の生産に必要な月の鉱物を手に入れるために、
月の攻略を先にするべきではないか、と流れが変わってしまった。
そしてナデシコが月の攻略作戦に組み込まれる可能性があるという。
…まずいな、ナデシコ系の艦の威力があまりにすごすぎて選択を誤ってる。
月はまだかなり人が残されているが、火星と違って地球と距離が近いため、
その気になれば物資だけを届けることは可能だ。木星もそれはブロックしない。
だから生き残るのは容易で…確かに月に居る人からすれば冷や汗ものだが、
それでも直接的な戦闘が月面上で起こらない限りは無事でいられる。
今は占領されているために小康状態で、突っつかなければ何も起こらない。
月は技術的な重要拠点で、かつ木星の連中の宿命の地の一つ。
ここはしっかり確保しておきたいというのが木星側の意向だ。
…だが、逆に地球はギリギリで被害が少なめに済んでいる程度の状況だ。
いくらユーチャリスがナデシコの代替を出来るとはいえ、
ナデシコが火星に向かわず月で戦うとなると、火星はさらにピンチになる。
何しろ火星の方も、木連がわの保護がいつかはいるとはいえ、
助かった人たちは人数がいるから、いつか物資が尽きてしまう可能性が高くなり…。
俺たちが乗り込んだ時には手遅れになってしまうかもしれない。
早めに乗り込むのも問題がある。
慣熟航行なしに月に乗り込むとなると整備の手間が増えすぎてしまう。
何しろ、月の奪還は多連装のグラビティブラストを撃てるコスモスが出来て、それでも数か月を要する。
ナデシコ一隻じゃ何ヶ月かかるか分からないぞ…。
かといってユーチャリスまで差し向けることになると、地球はボロボロだ。
…上層部、目先の利益にとらわれて信用を失うことをえらんだのか?
「ま、さすがにこの間の襲撃事件で世間の厳しい目があるとはいっても、
真正面から月の奪還をしてください、って言われちゃうと断るのが難しくなっちゃうよね」
「そうなんです。
…困ったことになりましたね」
「うーん…ちょっとやりすぎたかな」
ユーチャリスの威力を見せたのは失敗だったか。
とはいえ、アカツキもそんなことを許すわけはないが…。
「そういえばアカツキ、
ナデシコ系の艦を身内に独占させてるんじゃないかって疑われてるらしいよ。
だからもっと連合軍にもナデシコ系の艦を寄越せってごねられたみたい」
…参ったな、これは。
世間にリークすればひとまずこのプランは抑えられるかもしれないが…。
リークしてしまえば情報を流出させたことになってしまうし。
かといって俺たちじゃどうしようもない…。
「なら、ひとまずユーチャリスを連合軍に貸し出すプランを早めましょうか。
正直、スタッフの教育もすぐには行き渡りませんし…。
PMCマルススタッフと連合軍のスイッチ式でユーチャリスを利用すれば事足ります。
私達はナデシコで出撃すればいいですし。
それにそろそろ連合軍のパイロット訓練生たちも独り立ちできそうな人が増えてます。
もうすぐお盆ですし、一時、パイロット訓練生たちは各方面軍に里帰りしてもらって、
新スタッフの教育の準備と、ユーチャリスの訓練用の施設の作成と、
連合軍との話し合いでやっていきましょう」
「…そうだね、ナデシコが火星に出るまでにユーチャリスのスタッフをここで鍛えて、
ユーチャリスそのものは早めに貸与してしまうのがいいかもしれないね。
けど、ムネタケの事はどうするの?
ユーチャリスを任せる予定だったんじゃ?」
「別に艦の責任者は一人じゃなくていいんですよ。
パンジーの元艦長にユーチャリス副長に任命、しばらく艦長をやってもらえばだいぶ緩和されます。
ムネタケ提督もまだ療養が済んでませんし、今はまだ連合軍の人間を統括するのは無理でしょう。
ユーチャリススタッフはムネタケ提督とうまく組めるようになってもらうしかありません。
焦らせないほうが得策です」
……なるほど、艦を保有するのが一つの団体である必要はないしな。
ユーチャリスはこのところそういう柔軟な対応をしてきたし。
月の攻略に何ヶ月かかるかは分からないが、
自社のユーチャリススタッフが育ち切るまでは連合軍に預けてしまうのもありだな。
……うーんますますマシンチャイルドが乗らない方がよさそうだ。
ブリッジの付け替えは真面目に考えておくべきだろうな…。
連合軍の部隊に組み込まれるならその方がいいかもしれない。
ユーチャリスの持ち味は生かしきれないが、そういうオペレート方法をとってもいい。
『ユーチャリススタッフ育成のため、ユーチャリスを一時完全に貸与します』というのは心象も悪くないだろうし。
そのあとはムネタケとパンジーの元艦長の二人で代わる代わる艦を預かり、
連合軍系のクルーとPMCマルス系のクルーで代わる代わる使い、稼働率を100%に近づける…。
悪くない、悪くないぞ。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
翌日、お義父さんが佐世保基地から立川基地に戻る前に、
合流し、このプランをしっかりと頷いてくれた。
元々ユーチャリスを民間が保有していることそのものに連合軍のほとんどは懐疑的だった。
俺への重すぎる借りや、世間の心象は無論あったが、それでも内情は別だ。
そもそもグラビティブラストの威力の高さだけでも相当危険視される。
俺たちの事情としても、好都合なことも多いしな。
火星に向かうのと同時にうまく地球に月攻略を済ませてユーチャリスが戻ってこれるようにするか、
入れ替わりでコスモスが出港できているのが好ましいか。
話しが終わるところで、そして…。
「そういえば、お盆にでもユリの育ての両親の葬儀をしたいと思うんだが…。
最近は少しは時間が取れているかもしれないが、またいつ忙しくなるかもしれん。
少し無理を言って、お寺さんにお願いしておいた。
スケジュールは何日がいいかな」
「すみません、それなら…」
…俺たちはユリちゃんの育ての両親の葬式の日取りをひとまず決め、
そして確実にその日が開くように、テンカワと眼上さんにお願いして一芝居打ってもらう約束をした。
こんな日くらい、自由になりたいもんな。
話してる間、ユリちゃんはずっと寂しそうな顔をしていた。
「…アキトさん、置いてかないで下さいよ」
「…うん」
俺たちはただ短く、そう言って車に戻った…。
俺はホシノアキト周りの調査でえらく疲れていた。
ライザやほかの部下も居るにはいるが、数が少ないからな。
情報を漏らさないためにはツテはたくさん作るが、直属の部下を増やし過ぎると致命傷になる。
役に立たなかったら消せばいいが、まずは逃げられないようにするのが重要だからな…。
…ったく、俺も会長に散々っぱら振り回されてんなここのところは。
クリムゾンも落ち目も落ち目になりつつあるものの…このジジイはただじゃすまさないだろう。
仮にクリムゾンが消滅の憂き目にあったとしてもため込んでいる金はまだかなりあるはずだ。
いつか攻勢に転ずる時までおとなしく…いやクリムゾン系のPMCセレネも、
ステルンクーゲルminiも、えげつない方法をとってでも少しでも力を残すための策として取っている。
極端に言えば、自社開発を投げ捨ててもPMCセレネにライバルのネルガル製エステバリスを導入してでも、
生き残る方法はいくらでもあるってことだ。
もっとも木星との戦争が終わらなければ、という条件付きだがな。
「…やはり失敗か。
期待などしてはいなかったが…」
ステルンクーゲルをまさか日本で発注するバカが居るとは思わなかったが…。
まさかそれホシノアキトに押し付けて勝とうとするってのは、ちょっとばかばかしいが、策としては良かったな。
とはいえそれでもステルンクーゲルで勝つとは予想外だった。
操ったのがホシノアキトとはいえ、あれはちょっとした衝撃だったな。
まず勝てるわけがないと思ったんだが。
「素人じゃどうしようもないでしょうね」
「まあいい。
付け入る隙が全く無いというほどじゃないのも分かったしな。
さしあたっては、何か…」
な、なんだ!?た、確かこいつはクリムゾン家の汚点として有名な、
孫娘のアクアクリムゾン!?
自分のためだけに少女漫画を描かせようとして誘拐未遂を起こし、
通っている学校でもしびれ薬を盛ったり、危険なことばかりして慰謝料の額がとんでもないことになってる…。
し、しかしホシノアキトを暗殺する計画がこんな小娘にばれるだと!?
クリムゾン会長、別の意味で落ち目になっちゃいないか!?
「な、な、なにを言っている!?
そんなことをするわけないだろう!?」
「ほんとですかぁ…?
無実なんですか…?
ホントだったら…がっかりですわ」
……は?
「い、いや確かに目のたんこぶとは思っているし、
死んでほしいとは思っているが…」
……な~に考えてんだ、このアーパー娘は。
ロマンチックな死にざまでもしたいのか、このバカ。
「だ、だが、お前が想像している以上にホシノアキトは手ごわいぞ。
それに、お前が直接暗殺しようものなら私達だってただでは…」
アクア嬢は大粒の涙をながしながら、お願いポーズでクリムゾン会長に迫っている。
顔だけはいいから、ちょっとした男なら騙せそうな感じはする。
…あ、クリムゾン会長が笑ったな。
クリムゾン家の多くの孫の中でも飛びぬけて出来が悪く、一族の汚点のアクア嬢。
運が良ければホシノアキトと一緒に始末できる。
運が悪くてももしかしたらアクア嬢が死んでくれる。
しかもホシノアキトのそばでうまく、無残に死んでくれれば、
ホシノアキトの名声にそれなりに傷はつけられる。
何しろ『ネルガルのライバル企業の孫娘』だ。
例えばテロに巻き込まれたフリをしたとして、
ホシノアキトの目の前でこんな小娘が爆弾で吹っ飛んで黒焦げのバラバラになっちまえば、
『ネルガルの利益のためにホシノアキトはアクア嬢を見殺しにした!!』って批難ごうごうだ。
アクア嬢自身は自分にダイナマイトを括り付けて自爆してでもやり切るかもしれんな。
しかも見返りは大きい割にノーコストだ。
…意外と悪くないかもしれないな。
「よし、アクアやってみろ。
だが、もしも作戦失敗して、死に損なったら縁を切るぞ。
どこか適当なところに養子なり嫁になりだしてやる。
…それでもいいんだな?」
…なーんか昔の特撮の怪人みたいな小娘だな。
いや、そんなことはどうでもいい。
……嫌な予感がするんだよな。
「そ、それじゃ俺はこれで」
「な、なんですか」
「…お前が手伝え。
アクアは世間知らずすぎるところがあるからな。
お前なら何とかやり切るだろう」
「手伝えばうまくいこうがいくまいが、この間の失敗はチャラにしてやる」
……マジかよ。
こんな爆弾娘を預かるってか…はぁ…。
それもこれも全部ホシノアキトのせいだ。
あいつのせいでケチが付きっぱなしだ。
…ホシノアキト、覚悟しろよ。
必ずこの爆弾娘でお前を吹っ飛ばしてやるからな!!
……本当に大丈夫か、これ。
…ふう、何とかやってけてるな。
だが、この数…ちょっと厳しいものがあるな。
最初は20機…今は14機か。アカツキが何機か片付けてるだろうが、半分切ってるかどうか…。
『おい、ホシノ君。
何機片付けた?こっちは5機だ』
「ああ、6機だ。
もう折り返しはできたみたいだな」
『あんなポンコツ相手じゃそうそう負けないよ』
「だが油断してると死ぬぞ。
ライフルの威力にはそう差がないんだ。
それにあちらさんは耐久力は結構あるんだ。
囲まれたら骨だぞ」
『…しかしさぁ。
なんでああも簡単に勝っちゃうかな君はぁ!?』
…俺たちは20機のステルンクーゲルとのデスマッチに挑まざるを得なくなってしまった。
俺がステルンクーゲルでエステバリスに勝ってしまったので、
エステバリスの性能が低いんじゃないかということになってしまい、
元々エステバリスの価格がステルンクーゲルの2倍、ステルンクーゲルminiの10倍、
とかなり高価であることに不満を持っている株主やマスコミが居たらしい。
…で、エステバリスの性能を証明する方法を悩んでいたところで、
クリムゾン側から、性能試験のデスマッチを挑まれた。
これは状況的に受けざるを得なかった。
アカツキも悪いと思ったのか、俺だけじゃなく自分も手伝っている。
ここでエステバリスの連合軍導入がパーになれば前の世界と同じことになる。
それどころか株価がガタ落ちしてしまった。放っとくと危険な領域だ。
それを取り戻すにはこのデスマッチを受けざるを得ない。
既に各国の民間企業および個人で、ステルンクーゲルの購入が進んでしまったらしい。
連合軍に売り込む目的で作ったこのステルンクーゲルも、かなりの台数がダブついていたので、
需要と供給が合致してしまって大変なことになっているらしい。
…よりにもよってライバル会社のステルンクーゲルで、
カスタムされたエステバリスに勝っちゃったもんなぁ。
恥も外聞も捨てて数で圧倒的な優位を持ったまま俺とアカツキを殺すためだけの、
露骨なデスマッチでとどめを刺しにくるとは…。
はぁ。
こっちは人を殺したくないってばれてるから、あっちの容赦ない攻撃が厄介だ。
…こうなったら。
「…とっとと片付けるか」
『は?
人型相手にコックピットを外して戦うのは君だって骨だろう?』
「アカツキ、ちょっと工夫して一気に片付ける。
エステバリスの性能を見せつけてやるから、俺を守ってくれ」
『あ?かまわないが…』
俺は片手にライフルを構え、突き出した。
俺はワイヤードフィストを操作して、ライフルを撃ちながら腕を飛ばし続けている。
遮蔽物を交わして、飛んでくる腕というのはかなりの恐怖だろう。
直進するだけの武器だけにちょっと調整は難しいが、
ライフルの照準はカメラを切り替えるとしっかり見えるので、
結構難しいがこういった手も使えなくはないわけだ。
『…ホシノ君、ワイヤードフィストをインコムみたいに使うなよ』
「インコムってなんだよ」
…なんかのアニメの武器か?
『ま、まあいい。
君に出来るなら僕にだってできるさ!!』
「やってみろよっ!」
……そのあとは完全に一方的な戦いになった。
元々技量差があるのもあるが、こういう多次元的な戦いというのは空戦・宇宙で戦ったことがないと身につかない。
四方八方から弾が飛んでくるというのは中々慣れないものだからな。
俺たちは何とか無傷で勝利して、エステバリスの性能を見せつけて勝ったことで、
何とかその後、株価は持ち直したらしい。
もっとも、ステルンクーゲルの注文自体はキャンセルされることもなく、
俺はうっかりライバル企業の製品を宣伝してしまったことで、
アカツキとエリナから小一時間説教を受けてしまった。
…くう、クリムゾンはこの世界でも俺の邪魔をするのかよぅ…。
言わずにはいられないな…こりゃ…。
「ば…バカばっか…」
今回はピースランド編に続いて、家族回ですね。いろんな家族の。
色々と大ごとになってきて『世紀末の魔術師』を押し付けたくて仕方ないアキト。
しかし本当にうまくいくんでしょうか。
ちなみにウリバタケさんの子供、調べたら劇場版時点でトリプル入学って話があったので、
地球の時期は夏、5年後ってことは高校・中学・小学の三人、
テレビ版で一番前に出てた子供の身長を考えると恐らく10歳程度、
ウリバタケさん18歳くらいで子供一人こさえてると考えると29歳で計算が合う。
ということはテレビ版では10歳、6歳、1歳…。
で、劇場版時点では計算するとそれぞれ15、12、6歳。
劇場版ではさらに乳飲み子背負ってるので1歳くらい、
そいでもう一人身ごもってるって考えると、五人…すげえ。
それはそうとついに『爆弾娘』アクアクリムゾン登場のフラグです。
彼女はいったい何を考えているのか。それは彼女にしか分からない~♪
次に巻き込まれるキャストはいったい誰だぁ!?
あと地味に天龍・地龍の双子がとった作戦はお気に入りです。
不利だからって相手の武器を奪って自分の買ってきた武器を押し付ける…。
…ん、ヤマトタケルの話にそんなんあった気もする。それでも勝てないけど。
ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!
こういうふれあいシーンがちょっとほしかったのでつい。
ラピスとルリですね。
ルリとラピスって設定上年齢が遠いので、
同い年くらいで登場させると楽しそうに動いてくれるので嬉しいんですよね、書いてて。
これも狙った設定ではあるんですが、想像以上に書きやすい。
世界一の王子様と比較すると、
どうしてもノーマルな女の子はナオさんの良さに気づけないっていう可哀想なナオさん。
いつか出会え、運命の人に!!
普通はどうやっても何ヶ月かかかるものですが、
実はホシノアキトを使ったドラマ自体は構想がいくつか元々あって、
ドラマの出演禁止という制約で芸能人を続けてたアキト向けのシナリオが実はたくさんあったという、
感じなのではと(今考えた)
こんばんわ、ユリカです!
夏祭り楽しかったなぁ!
え、遊んでばっかりでたるんでる?
私達ちゃんと戦ってるよぉ!ユーチャリスはフル稼働で月月火水木金金なんだから!
あ、そうそう。
ついにナデシコが出港するときが近いんだって!!
私、自分の戦艦を持てるんだ!!嬉しいなっ!!
でも考えないといけないこともいっぱいあるし、
アキト君の周りっていつも不穏で大変そう。
ううん、みんなで頑張ればなんとかなるよ!
…ユリちゃんももっと励ましてあげよっと。
ナデシコが40話近く出てこない!なんじゃぁこりゃぁ!
な、ナデシコ行方不明系のナデシコ二次創作、
ユリちゃん、アキト君、これからもずっと一緒だよ。
感想代理人プロフィール
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代理人の感想
武器で壊す怪盗がいるかwww
いやどこぞのぱんつはいてない王なら一刀両断でいいけどさw
そしてクッソ厄い次回タイトル・・・・
>五分の三もつぎ込むんだからな
鉄甲艦かな?
>コスプレ大会
つまり百一匹ゼロちゃんか(ぉ
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