…俺は胃もたれする体を引きずって、何とか雪谷食堂に出てきた。
今日は仕込みからやる予定だからちょっと朝早いんだよなー。
それにしてもホシノのやつ、本当に腹立つよ…。
眼上さんも俺が同じ見た目だとつい間違って普通に仕事振っちゃったって…はぁ。
まぁ、戦闘するよりはいいんだけどさ。
それでサイゾウさんが何とか復帰のめどが立って、普段の半分程度の時間営業することになった。
昼の部だけだし、俺の様子も珍しくなくなって、それでも忙しいがだいぶ落ち着いてくれた。
俺も足引っ張ることの方がまだ多いから連合軍のパイロット訓練生たちとPMCマルスで訓練してることの方が多いし、
本業はコックだからこっちの方が落ち着く。
やっぱり半端なやり方ではあるが、両方の経験でなんとなく頭と体の使い方が身についてきて上達が早まった。
サイゾウさんも、俺の動きを褒めはしないものの感心してくれた。
これは嬉しかった。
「よう、芸能界は楽しかったか」
「…胃もたれしたっす」
「あ?」
「いえ…なんでもねっす」
俺はサイゾウさんに芸能界での災難を話すと『若いんだから大丈夫だろ』と笑われた。
いや、十人前も食わされるのは若くても無理っす…。
で、雪谷食堂の状況は少しずつ変化していた。
まず、PMCマルスの食堂班のみんなの手伝いはひとまずなくなった。
PMCマルスそのものが今まで以上に修羅場を迎えているからだ。
ユーチャリスのスタッフ採用の件も、まだ地雷除けすら落ち着いてすらいないらしい。
…そう考えるとのんきに芸能界に出てる場合じゃないんだろうけどな、ホシノも。
ま、いいや…俺は経営者に口出す立場じゃないし。間柄は対等だけど。
ついでに雪谷食堂も、ぼちぼち俺が火星に出てしまうので新人を雇うことにしたらしい。
話題の雪谷食堂だから引くてあまたとはいえ、それなりに技術があるやつがこないと逆に足手まといだ。
俺は基礎ができてたから拾ってもらえたが、ど素人が来ると困る。
俺自身はもっとサイゾウさんと腕を磨きたかったが、ホウメイシェフの事を話すとナデシコで鍛えてこいと言われた。
なんでもホウメイシェフの腕は相当有名らしく、弟子も従業員もほとんどとらない。
軍艦のコックだったから当たり前といえば当たり前だけど…軍艦に乗せておくにはもったいなさすぎる人、ってうわさらしい。
…す、すごい人なんだな、ホウメイシェフは。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
ようやく昼の部が終わり、サイゾウさんはひとまず営業終了。
俺は訓練があるので二人でまかない食事をとって、サイゾウさんはお茶の時間だ。
俺は大量の皿を洗っていた。
「なぁ、テンカワ。
ホシノのやつと組んでみてどうだ?」
「どうって…俺は相変わらずへっぽこパイロットっす。
やっぱ手伝えるのって身代わりくらいしか」
「身代わりでも役には立ってるか。
やっぱり気にいられてるみたいだな」
……気に入られてる?
うーん、そういうつもりなかったけど…言われてみれば色々良くしてくれてるよな。
給料もパートなのに破格だし、無理はさせないし、料理も体術も操縦技術も付きっ切りで教えてくれるし…。
特になんでかユリカとの間はすごい応援してくれてるし、それどころか休みまで合わせてくれている。
ホシノがもともとかなり丁寧に教える方だし、みんなの予定合わせるのを気を付けてくれてるから、
そこまでみんなに気にはされてないけど考えてみると結構露骨にひいきしているところがあるな。
「うーん、好かれている感じはしないんですけど、
確かに良く面倒見てもらってるっすね」
「兄弟分くらいにはみてもらってるんじゃねぇか」
……それは不本意だけどそうなる可能性、あるんだよな。
ミスマルおじさんの出した条件だと、あと何年かかるか分からないけど。
「それとな、この間の食べたホシノラーメンな。
ちょっと不思議だと思ったんだ」
「え?なんすか?」
「テンカワ、お前があれくらいのラーメンを自分で編み出すのにどれくらいかかると思う?」
「えーと…。
…ちょっと想像つかないっす。
ベースはあるかもしれないっすけど、創作料理ってやったことないし…。
…一年とかっすか」
「三年はかかるな」
「基礎がしっかりできるまでお前も何年もかかったろ。
確かお前の育った養護施設でもよく料理はしてたし、火星でもバイトで食堂で働いてたんだろ?
だが、それでもようやっと基礎がしっかりできてるレベルだ。
お前も最近ようやく伸びてきたが、それでもそれくらいはかかる。
応用がある程度しっかりできて、それから創作だからな。
…あいつがいつから料理始めてたのか分からねぇが、並大抵じゃない修行をしてきたはずだ。
それも中華専業じゃなくていろんな料理を、かなりいい師匠に教わり続けた。
だから俺はお前がナデシコのホウメイシェフに鍛えられるのを勧めたんだ」
…サイゾウさんの言いようだと、俺はホウメイシェフに師事してもらっても三年はかかるのか。
あのラーメンのレシピにたどり着くのには…。
初めてホシノのラーメンを見た時の、ユリさんは涙を流した。
恐らく中学生くらいの精神状態に退行したと言っていたってことは、
あいつはそのころすでにこのラーメンを編み出していたってことになる…なんてやつだよ。
しかもユリさんの様子からすると、すさまじい思い入れのあるラーメンだ。
そのあと婚約者を失って、すべてを捨ててでもネルガルで戦闘訓練をして…。
それでようやく勘を取り戻して、あのラーメンをユリさんに作ってあげたんだよな。
…そんなすごくて大切なものを、
俺にだけこんなにあっさり教えてくれたっていうのか。
いっしょに働く食堂班のみんなにも教えず、ほとんど門外不出もいいところのラーメンを、
この間の夏祭りの屋台で披露するずっと前から、教えてたってのは…。
それは気に入っているっていうよりは…。
…すでに俺を本当に義理の弟のように思ってるってことじゃないか?
ユリカと付き合っているからってだけじゃ、そこまでしてはくれないよな。
な、なんでだ?
確かにユリさんを助けた恩を感じてくれてるかもしれないし、
ユリカがほれ込んだ俺を特別に感じてるのかもしれないが、それにしても大げさだ。
…いや、あいつは言っていた。
病院の屋上で自分の過去を語った時に『本当の俺はお前そっくりだよ』と。
そしてラピスちゃんも言っていた。
ホシノの過去を話した時に『ユリカによく似た婚約者がいた』と。
初恋、だったのかな。
ホシノは俺に自分と同じ後悔をさせないためにそうしてるのか?
…なんて迷惑な奴だよ。
自分の過去を押し付けるなんて、どうかしてる。
俺はホシノの操り人形じゃないってのに。
……でも俺は、ユリカを少しずつだけど、本当に好きになり始めてる。
それは嘘じゃない。ホシノが応援しようがどう扱おうが関係なく、そう思っている。
なんていうか、明るくて壁がない…俺にまっすぐに好意を伝えて、
ずっと一緒に居てくれそうなところが、本当に好きなんだ。
ホシノが、ユリカを俺が好いている部分を分析した時、俺は本当にドキッとした。
自分でも分かってなかったことを明文化されて、俺がユリカを好きな理由に気づいてしまって…。
それからというもの、あいつと居る時には胸が高鳴って、気持ちが抑えられなくなっている。
……こんなこと、ユリカに知られちゃまずいよホント。
「おい、なにボーっとしてんだ。
そろそろ行かないと訓練に間に合わないんじゃねぇか?」
「おー、せいぜいがんばれよ」
俺はサイゾウさんに言われて時計をみると、すでにかなり自転車を飛ばさないといけない時間になっていた。
何とか皿洗いを終えて、俺は自転車で駆け出した。
…そういえば、今日はユリカとルリちゃんがユーチャリスから帰ってくるんだっけ。
入れ替わりでユリさんとハーリー君が出撃するだよな。
…あいつに、何か言えることがあるかな…。
まだ素直に好意をしっかり伝えるのはちょっと、ためらうけど。
いや…まだ、いいよな…そこまで気にしなくても…。
私はユーチャリスから降り、一時的に明日の出航に備えて買い出しに出掛けた。
ユーチャリスはまだ本格運用というわけにもいかないのでこまめに点検する必要がある。
補給もついでにこまめに行うので、佐世保の連合軍ドックに間借りして点検、
その間はクルーは一時的に休養と買い出しに出て、リフレッシュすることになっている。
まだ民間上がりでそんなにこなれてないので、圧迫感のある戦艦内は色々ストレスがあるようだからな。
これは悪くない対処だろう。
荷物をある程度まとめた後、私はムネタケの元を訪れた。
適度に適当にできる職場に配備されて、だいぶ険しさが和らいで居る様子で何よりだ。
「あ、提督。
おかえりなさい」
「ただいま」
「いつものですね、どうぞ」
「うむ、すまんな」
ムネタケは本を閉じると、私にパイプのタバコの袋とホットの紅茶を差し出した。
私はムネタケに無理を言って、私の好む銘柄のタバコを注文してもらっている。
宇宙においては酸素の確保の関係もあって、
タバコという習慣そのものが唾棄すべき文化とされているが、完全に撲滅されているわけではない。
ストレス管理が難しい密閉された空間においては、飲酒、喫煙というわずかな娯楽も貴重になる。
エンターテイメントを楽しめるのもだいぶ普及はしているものの、
動画やゲームの類だけではリラックスをするのは少し神経が張り詰めすぎるところもあるので、
実は区分けこそしっかりされてるが飲酒や喫煙は許容されている。
空気清浄機も高性能化しており禁煙用タブレットさえあれば一時的にイライラしないですむし、飲酒に至っては中和剤すらある。
21世紀の世の中では禁止されたものが、
現在はオートマ化されて余裕が出た世の中でこそ、
そういう人間のブレというのを許容する必要が出てくるようになったというのは面白いものだな。
「そろそろ上がりだろう、ちょっと一服せんか」
「私はすいませんので…コーヒーで良ければ付き合います」
「なら喫茶店でも行くか」
頷いて店じまいを手伝った。
私は紅茶派だがムネタケは珈琲派だ。
この喫茶店はやたら混むが、運よく座れたな。
…ここも、ホシノ君たちが来たことがあるとかでかなり盛況だな。
若い娘でたくさんだ。
「…しかし喫煙しづらいでしょうに」
「分煙席に座ってるんだ、気にはなるまい」
ドアの付いている分煙席だけにだいぶマシだ。
睨まれたりはしていないからいいだろう。
何より狭くて人気があまりないから落ち着けるからな。
「ムネタケ、心身の調子はどうだ?」
「ピンピンしてます、とは言えませんね。
コミュニケーションをとるのが楽になって、気は楽になってますが、
まだ夜は時々神経が突っ張ります。
睡眠剤も使って、ひとまずは医師にも改善がみられるとは言われてますが…。
ちょっとずつ治ってるくらい、としか」
「うむ、少しでも良くなっていればよい。
少なくとも悪くなってなければな」
「…しかし、ちょっと焦ります。
私も期限は限られてますし…」
「焦るのが悪いことだとはわかっているだろう。
それに頼りになる副官もついてくれる。
あのパンジーの艦長は私の同期だからな。
地球勤務で駆逐艦を任されて長い。
私のようにたたき上げとはいえ後年は司令官でやっていた人間よりも、
実戦向けの考えを持っていることだろう」
「…そのことなんですが、階級はそれほど離れてはいないとはいえ、
提督ほどの人の同期を副官につけるなど恐れ多いことです」
「バカを言うな。
彼もこのスカウトが無かったら引退するつもりだったと言っていたぞ。
お前に自分のすべてを教えて引退したいと言ってくれた。
…情けないことだが、私はすでに単独の艦での戦闘戦術は錆び切っている。
これ以上の条件はないと思うぞ」
「…しかし」
「ムネタケ、今は気負うな。
今はリハビリ、人に頼っていい時期だ。
決して長い期間ではないが、気負っていては治るものも治らん」
「は…」
ムネタケは落ち込むように…いや、呼吸を落ち着けるようにうなずいた。
こういう時に強がって判断を誤るのが悪い癖だったが、直りつつあるようだな。
だんだんと改善はしているようだが、まだまだ落ち着くには時間がかかりそうだな。
…ムネタケは静かに英気を養い、そして知識を蓄えている。
シミュレーションゲームでの戦術の練習も、行っているが、こちらは進みは遅いもののその長所に気づいて果敢に挑んでいる。
シミュレーションやゲームのいいところは『何度失敗してもいい』ということに尽きる。
ミスマルの娘っ子もそれを利用してあまたの戦場を駆けた司令官のように、
天賦の才と組み合わせて恐ろしい実力を身に着けた。
ムネタケもその長所に気づいて、繰り返しイメージし、兵法書や歴史書を読み漁り、
戦術のイロハを復習し始めた。
…まあ、補給線を断つことと増援の対処を誤らないようにすることにようやく気付いたのでひよっこもいいところだが。
しかし希望は見え始めているな。
「しかし、意外なことなんですが、提督…。
私という人間はあまり部下受けしないと思っていたんですが、
売店で座っていると世間話というか、人生相談を持ちかけられることがあります。
パイロット訓練生の女の子たちと、整備士の若い子に。
私はそんなに老練でも、頼りになるタイプでもないように思うんですが」
「む、それは初耳だな。
…いや、意外とお前はPMCマルスの中では貴重な人材なのかもしれんぞ」
「は?」
「PMCマルスのスタッフは10~20代、責任者すらもほぼ10代だ。
眼上プロデューサーは50代だが、芸能界や折衝担当だ。
そう考えるとお前のように30台後半の人間というのは貴重だ。
親よりは歳が低いが、彼らからするとちょうど学校の先生と同じくらいの年の頃の印象がある。
それにお前は今、責任が低めの仕事についているだろう。
彼らからは余裕があるように見えるということだ」
人材が豊富な連合軍にあってはそんなことはあまりないのだが、
年齢ごとの分布というのがPMCマルスは極端に偏っている。
同じ若い層があつまるナデシコですらも責任者は20代~30代で固まっているが、
PMCマルスは会長、社長、会長秘書、整備班長、事務長、すべて10代だ。
…週刊誌で『子供会社』と揶揄されるわけだな、これは。
「はぁ…な、なんていうか意外と話してて、安心してもらえるみたいで」
「自信を持っていいと思うぞ、ムネタケ。
お前の上司としての素質はそこにあるのかもしれん。
威張ったり階級や権力をかさにしたりするよりも、
綿密に時間をかけて相互理解を深めるほうが最終的な解決を図れるようになるかもな」
「わ、私が…?」
「今はまだ理解できないかもしれないが、頭に置いておいて損はないだろう。
軍の命令系統を使わない会話の練習を十分にしろ。
ある意味ではどんな戦術より重要になるかもしれんぞ」
「わ…分かりました」
ムネタケは少し悩みながらも私のアドバイスを受け入れて、今後のためにメモをとった。
命令を出す時の大雑把さに反して、意外とムネタケはマメなところがある。
それゆえに人間関係では迷うことに出会うと大変だろうが、しっかり話す癖が付けば理想の上司になるかもしれんな。
ふふ…思わぬところにムネタケの長所が眠っていたようだ。
1月にはユーチャリスが地球に戻る、そのころまでにムネタケが持ち直せば希望はあるぞ。
楽しみだな、これは。
私はラピスと一緒に湯船に浸かっていた。
ナガレ君とアキト君はまた軽く飲みながら話してる。
ラピスとアキト君は芸能界で活動している期間が最近長く、ユーチャリスに乗れない状態らしい。
眼上マネージャーと重子マネージャーは疲労気味のアキト君を休ませるべく、外部との折衝を二人で行いに出かけているとか。
それでナガレ君の家に遊びに来たのよね。
芸能界の仕事がなければ佐世保に居る二人に会える機会って今のところ少ないから嬉しいわね。
いつも連絡はしてる方だけど直接会いたい気持ちはやっぱりあるもの。
ラピスが元気な姿をもっと見たいし、ね。
「ラピス、また綺麗になったわね」
「えへへっ、いっぱい食べて眠って運動してるもん。
この間頼んだばかりのスーツと靴がちっちゃくなってきちゃった」
「あら、すごいわねぇ」
ラピスがほんの一か月くらい会わない間に、少し背が伸びているのを見て驚かされた。
この世界の年齢では4歳だけど、初めて見たときはこの世界に来る前と体格が変わらない状態だった。
下手すると小学校の低学年の平均に近いくらい小柄な方だったけど、急激に大きくなり始めてる。
摂取している栄養価の違いか、それともユリカさん譲りのDNAのおかげなのか、
まるで今まで成長できなかった分を取り戻すがごとく、成長を始めている。
だんだんと胸のふくらみも大きくなって、骨格から大きくなり始めている。
すでにこの世界に来てから身長は5センチ以上は大きくなってる。
ラピスによるとルリの方も、かなり体格が変わってきたって話だった。
…そういえばルリもラピスも、この大事な成長期に昼も夜もなく戦ってきたものね。
私達ってこの子達を本当に無理ばかりさせて、情けない限りだわ。
「そういえばこの間の広告見たわよ。
かわいいスーツだったわね。
カジュアルの広告も今度やるんだっけ?
ラピスはオペレーターやマネージャーだけじゃなくて、
ジュニアモデルとしてもすごいのね」
「えっへっへっへ~。
そんなに褒めないでよぉ、褒めても出てくるのは有益な情報くらいだよ。
PMCマルスじゃ社員も兼業するのが普通だもん!
あ、今度はアキトとルリとユリまで誘って中高一貫校の私立学校の制服のモデルもしてほしいって、
『洋服の赤山』の社長のツテで頼まれちゃった~。
その私立学校でついでにイベントもしてほしいってさ。
アキトはもうどこに行ってもモテモテだからねぇ」
本当にアキト君関係の人気の白熱具合というのは、想像を絶するものがあるわ。
未来におけるトップアイドル…この間、夏祭りで激突していた天龍地龍兄弟の『ダブルドラゴン』ですらも、
ここまで世間をまるごと動かす実力はなかった。あくまでも『アイドルとして』の人気だったから。
けど、アキト君は桁が違う。
大食い、モデル、アスリート的な番組への出演、今度はドラマ俳優までやるマルチタレント。
地球圏一のエステバリスライダーとして子供たちのあこがれを集め、地球を救う英雄。
個人としては驚異的な白兵戦の実力もあり、連合軍にも一目も二目も置かれる戦闘員。
若くしてPMCマルスを成功させた未成年の実業家。
ミスマル提督の義理の息子であり、ピースランドのお姫様であるルリの義理の兄。
そして人体実験を生き抜いた、悲劇の青少年。
でも、将来の夢は小さな町食堂をすること。
ここまですべて、開けっ広げに世間に知られている。
………さ、さすがに盛りすぎじゃないの?
どんな少年漫画でも、いくらなんでもこんな頭の悪い重ね方ってしないしできないわ。
元々のアキト君は不器用で、一つの事に集中した時のすごさっていうのはあった。
でもこんな風に色々やれるような人じゃなかったんだけど…。
いえ、半分くらいは普通にサポートありだったり、勝手に言われてるところもあるにはあるんだけど…。
…もしかしてあの素直さがすべての起点になっているとでもいうの?
両親を失って、児童養護施設を出て、生きていくので精いっぱいだったアキト君が、
半分幼児になって素直さを獲得した結果、これほどまでに能力を伸ばしたっていうの?
…そうだとしたら、才能以上に環境や精神的なもので人間が変わってしまうってことよね。
でも私自身も思い当たることがあるわ。
私とナガレ君は、若くして社長と社長秘書になれたけど、
ぼんくら年寄りどもを黙らせるためにかなりいろんな人を出し抜くことに躍起になってた。
それは内外ともにそう。
味方ですらも、圧力と成果で黙らせる必要があった。
もっとも、そのやり方が災いしてネルガルはナガレ君自身のスキャンダルと、
ネルガルの戦時中の悪事によってそれは噴き出してしまって落ち目になる原因となった。
そういうこともあって、今回はできる限りはクリーンなやり方を通そうとしたし、
アキト君が味方に居ることもあってそれはすさまじく支持されることになった。
それに実は前の世界のムネタケ提督の発狂と自爆は結構堪えたのよね。
彼は私達よりずる賢くも、悪人にもなり切れず、威張り散らして満足することしかできなかったのに、
上司に責任を押し付けられてハシゴを外されてあんなことになって…。
表面上では強がっていたけどナガレ君も相当落ち込んでいた。
他人ごとにはとても思えなかったと。私もそうだった。
……だからユリとラピスにムネタケ提督が蜂起するようなことがあったら、
と対策を持ちかけられた時、そのアフタフォローも込みで綿密に話した。
時間をかける必要はあるけど、償いじゃないけどムネタケ提督を助けるという提案には賛成した。
…思えば無理ばかりしてきたものね。私達も。
そんなことを思っていると、ラピスは私を神妙な顔でじっと見た。
「…ね、エリナ。
アキトを口説くにはどうしたらいいと思う?」
「そうねぇ…。
素直になったから昔よりはずっと口説きやすいとは思うけど、
元々はそういうところが誠実じゃないといけないって考えてるタイプだものね。
ユリの事も、ユリカさんの事も、私の事もあって、
もう二度と不倫はしないって言いそうなもんだけど…」
「むう、やっぱそう思う?
正直、ちょっと私もそうじゃないかなとは思ってたんだけど、
でも諦められないんだ…」
「…やっぱり、妹とか娘とかじゃ不満?」
「不満っていうか…ほら、アキト以上の男の人って中々いないでしょ?
テンカワはちょっと変なプライドがあるし、ユリカがもらわないといけないし。
あ、アカツキはいいセン行ってるよね。私の趣味じゃないけど。
さっすがエリナ、いい目の付け方してるよね」
「とっ、当然よ!」
…もっとも、あの前の世界の出来事がなければ私達はきっとすれ違い続けたんだろうけどね。
そう考えると、アキト君には悪いけど私達にとっては幸運なことだったのよね。
私達も色々悪いことして、突っ張って生きてきたから、お互いが見えてなかったし…。
「でね、アキトは、
『私の人生をゆがめた癖に!』とか『アキトが抱いてくれないなら死んじゃうから!』
って私が言ったら絶対抱いてくれるのは分かるの。
…でもそれって、最低なやり方でしょ?
相手の弱みに付け込んで、本来通らない要求を通すんだから。
そんな脅すやり方したら、アキトは一生私の言いなりになるだけなの。
私を好きだって、愛してるって言ってくれるわけないもん。
私は対等な条件で、アキトの意思で抱いてもらう方法だけを探して、
それで勝ち取るつもりなの」
「……ラピス、あんたはやっぱりユリカさんと同じよ、そういうところ。
ユリカさんって同情で慰められたりするの嫌うタイプだったのよね」
「そう?
…そっちの路線の方がいいかな、じゃあ。
見た目は、ユリのほうがユリカ似だけど…。
性格も、DNAもユリカに近い私は結構有利かもしれないね。
ま、露骨にユリカのフリやったら逆に嫌われちゃうだろうけど。
…アキトがどれくらい生きられるか分からないのだけは不安だけどね」
「そうよね…」
「でも、アキトが長生きできない時は、アキトが犯罪者って言われても抱いてもらうの。
ユリにもちゃんと頭を下げてでも叶えてもらうつもり。
…それくらい、いいよね?」
「…仮の姉として、母としては止めたいけど…そんなの止められないわ。
あなたは自分の身も、心も、人生も、命も全部アキト君に賭けたんだもの。
今だってアキト君の意思を誰より尊重してるじゃない。
理屈や状況に頼って言いなりにしたりすることをためらわなかったメグミや、
ナデシコに乗ってた頃の私はそうやって負けちゃったんだから。
あなたはアキト君に抱いてほしいって頼む資格があるわよ」
「…うん、ありがと…エリナ」
ラピスはいつも強気なのに…アキト君絡みの事を考える時は、いつも辛そうにする。
表面上は明るく、アキト君と離れないように何かとべたべたするけど、
その実、深く求めるのをためらって、怖がってる。
アキト君が誰かと付き合ってても、別れる可能性があるなら大丈夫。
だけどアキト君に拒絶されることは、死にも等しいことだから、恐怖している。
そういうところもユリカさん似なのよね。
「…エリナ、アキトに抱かれるって、どんな気持ちなの?」
「…っ。
年頃の女の子には興味があることだろうけど、聞いちゃだめよそんなの。
……それにラピス、あなたは見ちゃったんでしょ?」
「分かんないよ、抱かれてないもん。
エリナもユリも、抱かれてる間苦しそうだけど、幸せそうにしてる所しか分からないし、
どんな気分なのか想像もつかないよ。
で、どうなの?」
…私は返答を躊躇った。
これを答えることが、ラピスをゆがめてしまう可能性を考えた。
アキト君に不倫で抱かれる、幸福感と背徳感と温かさを教えてしまうのは…。
……そんなことにあこがれを持ってほしくない。
もしかしたら、ラピスだって普通の男の人に惹かれる未来だってあるかもしれないんだから。
「…じゃあ答えやすいように質問を変えるよ。
幸せだった?」
「……うん」
「乱暴にされた時も、そうだったの?」
「…うん」
「…好きな人とだと、
やっぱりそうなんだね」
ラピスは寂しそうにうつむいた。
ラピスは…私とアキト君の関係を全部知っている。
そういう関係になれればまだ救いがあるとでも思っているんだろうけど…。
でも、やっぱりそれも終わる運命だったのよね。
…私も『黒い皇子』のアキト君の過去について思い出した。
──前の世界で、アキト君がボロボロで助かった時、私は本当に…苦しかった。
私がアキト君を生体ボソンジャンプをさせてしまったから、ボソンジャンプの秘密は解き明かされ、
あの戦争を終わる未来をもたらしたものの…そのせいでアキト君が幸せを、自分をすべて奪われてしまった。
死んでしまいたかった。
私が恋したアキト君は、私のせいですべてを失った。
もし私の命でアキト君を助けられるなら、何でもしたいと思った…。
目もおぼろげにしか見えず、言葉もろくにしゃべれず、膝も立たず、
触覚だけはある程度戻り、かろうじて補聴器で耳が少し聞こえるという頃に。
私は、リハビリにあえぐアキト君を支えていた。
「うぅっ…ぁぅ…」
アキト君は赤子のように…這いずることしかできず、
あと少しで立ち上がれるというところで倒れてしまっていた。
壁に捕まってでも立ち上がれれば希望がある。
そうすれば筋肉と骨がしっかりバランスを取り戻し、神経も少しずつ戻る。
アキト君は涙を流し、よだれも鼻水もぬぐえず、ただ地獄の苦しみの中で自分の体力を戻そうとしていた。
成果は中々でなかった。
アキト君も心が折れそうになって、自傷を繰り返し…。
そのうち、リハビリに出ようともしなくなってしまった。
「行かないの、アキト君」
「…」
「今日はお休みしてちょっとお話しようか?」
アキト君は力なく首を横に振った。
うまく喋れないので、聞くか肯定するか、否定するかしかできない。
そんな状態で話したいとは思えなかったんだろう。
「じゃあ、諦めるの?」
今度はアキト君は否定も肯定もできなかった。
──ここで諦めることが出来ていればアキト君は最低にならずに済んだのかもしれない。
ルリに力を借りて、火星の後継者に対抗する術を探す方向になった。
私達はそれでも…本当は構わなかった。
でも、アキト君は二度と這い上がることはなく…ただ暗闇の中で苦しみ、死んでいくだけだった。
だけど、私はそうなるのだけは嫌だった。
私は火星の後継者を許したくなかった。
この人の手で、あいつらが死んでしまえばいいと心の底から願っていた。
だから、私は…。
「ね、アキト君。
こんな目に遭ってるのは、ユリカさんがまだとらえられているのは、
元はといえば誰のせいだと思う?」
「ぅ…?」
「よく思い出して。
あなたが生体ボソンジャンプをしたことで、火星生まれの人がA級ジャンパーだと判明した。
そして、その引き金を引いたのは、誰だったかしら?」
アキト君は私を見た。
あの時、積極的にボソンジャンプの実験を進め、
それどころか少しずつ惹かれていたアキト君を実験台に選び、
人体実験にかけようとした瞬間の事を思い出したらしい。
「くす…。
あなたっていつもそうよね。
人が良くて、恨んでいた相手も結局助けたいって、綺麗事を通して…。
それでこの結果よ?
馬鹿じゃないの?」
「う…」
「あなたのやったことは、全部無意味なのよ。
それどころか敵に塩を送ってしまっただけ。
私と共謀してね。
それでそんな目に遭ってるわけ…。
本当に無様で、みじめで、滑稽だわ」
アキト君は拳を握った。
リハビリに耐えられないほどの体力で、力ない手だった。
でも、今は違う。
私の罵倒で、自分の今の状況を招いた癖にと、怒りと憎悪に猛って、拳を握りしめてる。
立ち上がるのに使えなかったなかった力が、みなぎっているはず。
冷静に考える余地などありはしないアキト君にこんなことを言うのは自殺行為そのものだった。
でも、それでいい。
そうすればきっと…。
「悔しいかしら?
でもあなたは何もできないじゃない。
力はないし、相手を殺すと思えない腰抜けじゃない。
憎き私を目の前にしても、ユリカさんに起こったひどいことを、
私はその後、アキト君に殴打され続けた。
抵抗しない私を、一方的に憎しみのままに殴りつけつづけた。
イネスは焦って病室に駆け付けたけど、私はそれを制止した。
そうする権利が、アキト君にはある。
私を憎んで、殺して、それでも生きぬいて、
同じことを火星の後継者にしてやる必要がある。
だから…。
……そして私は殴られるだけじゃなく、ユリカさんがされたらしい乱暴もされて、
それでようやく正気に戻ったアキト君は舌を噛もうとしたけど、
イネスに拘束されて、車いすに乗せられて出て行った。
私はそれでもアキト君に、方法はともかく抱かれたことを嬉しがる自分が居たことに気づいていた…。
今考えると、私もアキト君に引きずられて病んでいて、歪んでいたんだわ、きっと…。
すぐに意識を失って、一日経って意識が戻った後も顔はだいぶ腫れ上がっていた。
イネスにはこっぴどく怒られた。
素人判断でショック療法をするんじゃないと、
どんな理由があろうと女の子が自分の顔と体を軽んじるんじゃないと。
次は顔の形が戻らなくなるかもしれないわよ、と注意された。
…それから、イネスを挟んでちゃんと冷静に『建設的に』話し合うことになった。
アキト君は喋れない上に、うまく手が動かないのに無理くりホワイトボードを使って筆談した。
私がわざと仕掛けたことなので過度に気にしないようにと言うと、アキト君はしぶしぶ頷いた。
代わりに、辛くなったら私を抱くようにと約束させた。
これもかなり抵抗はされたけど、
私がナデシコ時代からアキト君を好きだったと告白すると真っ赤になって頷いた。
この時は罪悪感に付け込んだやり方で、やっぱりアキト君は私を真っ向から好きにはなってくれなかった。
ユリカさんが居る、居ないの問題じゃないっていうのはこの時点じゃ気づけなかったわ。
ちなみにイネスもこれにはおおむね納得して許してくれた。
順序があべこべだけど、不倫でもなんでもとにかく辛いことばかりでは心身共に持たないからと。
──そしてこれからああいう感情を火星の後継者にぶつけるつもりじゃないと、
リハビリはうまくいかないかもしれないと忠告され、アキト君は覚悟を決めた。
ただ、その時もやっぱり抵抗してはいた。
『あんなことをしたやつらとおなじになるのはていこうがある』
「じゃあ、あんなことをした連中をすぐに許せるわけ?
ユリカさんだってあんなもんじゃすまなかったでしょ。
…相手を憎んで殺すつもりじゃなきゃ、ユリカさんは助からないんじゃないの。
それに今までとは比べ物にならないくらい力が出てたわよ。
時間をかければそんなことをしないでもリハビリはできるかもしれないけど、
下手したらそれまでに寿命が尽きちゃうわよ」
『…』
…てんてんてん、ってホワイトボードに書かないでもいいのに。
「とにかく、アキト君。
本当はあれくらい憎んでいるんでしょ?
何も感じられない闇の中で憎しみに苦しんだんでしょう?
だったらぶつけてやらなきゃ、勝てるものも勝てないわよ」
『わかった、もうがまんしないよ。
おれもきがすまないし、ゆりかをたすけたい』
腕の動きが制限されててほとんどひらがなしか書けないような状態でも、
アキト君は自分を表現して、誓いを立て…ようやく立ち直っていった。
目標がはっきりしたのも、私を頼っていいというのもそれなりに効果が大きかったらしい。
その後、数日もしないうちに壁につかまって立てるようになり、
二週間もすると杖をつきながらも、膝がしっかり立って、自力で歩けるようになった。
人並みとは言えないけど、人間としてギリギリ自立できるレベルに直っていった。
ラピスが合流したあとはようやく喋れるようになり、
視覚は色盲だけどほぼ戻り、聴覚も補聴器なしでも何とか聞けるようになった。
…味覚だけはどうやっても治らなかったのは、本当につらそうだった。
でも人間らしい生活を取り戻したアキト君は、
いままで私達には見せようとしなかった憎しみを表に出すようになり、
それと引き換えに怒りと憎しみで強くなっていった。
ただ本当に人を手にかけるようになって、生き方そのものを歪め、人格も引きずられてしまった。
そこまではしなくてもいいと何度止めてもやめられず…。
時折見せる、昔と同じ優しさが、かえって痛々しく感じられた。
…今振り返ると、あの時に無理にそんな風に憎しみを引き出すのはやりすぎだった。
あの時はあの場所にいた誰もが正常な精神状態ではなかったから止めようがなかったけど…。
私が起こした出来事でアキト君は立ち直る代わりに、自分の意志で人を殺すようになってしまったんだもの…。
アキト君を奮起させるためにしたことが、最悪な方向に進んじゃったのよね。
最期の時も、それが原因で居なくなったわけだし…。
…そうするしかなかったとはいえ、ラピスを巻き込んだことと同じく反省しないとね。
まあ、今の状態なら…ユリがそばに居るなら大丈夫だとは思うけど。
「うー…エリナ、そろそろあがろ。
さすがにのぼせちゃうよ」
「あ、ごめんね。
ちょっと考えこんじゃったわね」
「んーん、いいの。
ありがとね、聞いてくれて」
…今度はアキト君もユリも、ラピスも、全員幸せになってほしいわ。
もっとも、世間も家庭も問題だらけで大変は大変だろうけどね。
丸く収まってほしいわ、ホントに。
俺とアカツキはいつものワインを飲みながら、つまみを食べていた。
…お義父さんの手前だと飲めないが、悪友とだと飲めるあたり俺も大概だよな。
「ホシノ君、フライドポテト山盛りを酒の肴にするセンスはどうなんだい?」
「いいじゃんか、スパークリングワインにはよくあうぞ」
…そういえばお義父さんも一瞬眉間にしわが寄ってた気がするな。気を付けるか。
白ワインにはわりと簡単なつまみの方が合うから俺は手間があんまりなくて、
ざっくりとフライドポテトを作ってしまった。
で、色々話してきたわけだが…。
「ホシノ君、いろいろ大丈夫か?
半分幼児みたいなところがあって不安なんだが」
…アカツキにこういうことを心配されるとは思わなかったな。
だが…。
「うーん…大丈夫じゃない気がするな。
何しろテンカワに心配されるレベルだから」
「それ、相当じゃないか」
…そうなんだよな。
俺自身がテンカワアキトだった頃も、色々とぼけた発言をしてからかわれるのは多かったが、
今はなんていうか素直さのせいでそれが増えてる部分も多いんだよな。
いまだにゲキガンガーの再放送を見るのを止めないし。
この間はテンカワに予定を伝え忘れるし。
ちょっと気が利かない部分がある。
「ま、今となっては君は周りに助けてもらえる人間だからそれでもいいんだろうけどね。
大事な部分が抑えられてれば問題ないだろう。
幸い、君の周りの人間は君の限界が良くわかっているし、
君のサポートに向いている人間がゴロゴロいる。
それだけでも十分恵まれているよ」
「ああ…ただパイロットより芸能人で居てほしいって思われてるのは、
助かる反面、コックになりたいって夢は遠ざかりやすくて困るよ」
「いいじゃないか、別に。
俳優やってる人がステーキ店のオーナーやってるケースだってあるんだ。
それにPMCマルスでは君に倣って兼業するのが普通だっていうじゃないか。
労働時間はそれなりに絞ってはいるだろうけど、それも君の新しい人生には必要なんだろ」
……うーん、そうだな。
平穏に過ごせる人生があるなら、例えば週に一度だけ芸能人やる生活でもまだいい。
ちょっと妥協ではあるけど、ゼロになるよりはずっといいだろうから。
「しかしアカツキ、そうはいうがクリムゾンの対策は大丈夫なのか?」
「断言はできないけど、とりあえず大丈夫そうだよ。
君だってラピスからは聞いているんだろ?」
「ああ、ラピスも忙しいながらにオモイカネダッシュから集めた情報の精査に時間を割いてるからな。
もうクリムゾンは連合軍から見放されつつあるって話だろ」
ラピスによるとステルンクーゲルは大きな需要が見込める軍需ではなく、民間の需要で伸びてて、
ステルンクーゲルminiはさらにホビー需要で伸びてはいるものの、限定的で、
どちらかというとアフリカ方面にかなり直接的に権力的に関与して情報統制までやっているので、
悪評が立って相転移エンジン搭載艦の開発に携われなくなったらしいな。
「それだけじゃない。
君自身の働きでクリムゾンそのものの力が削げているんだよ」
「なに?」
「この間は君の話ばかりになっちゃって言いそびれたんだが、
君のところのボディーガード、保安主任のヤガミナオっているだろう」
「ああ。
俺も今の状態じゃ本気で戦っても勝率は五分五分のすごい人だよ」
「彼はね、未来の世界ではクリムゾンの凄腕シークレットサービスでね。
月臣君や、ゴートホーリーもかなり辛酸をなめさせられたんだ。
彼一人のために、君の救出も半年は遅れたといっても過言じゃない」
「!?…そんなすごい奴だったのか…」
月臣は素手の戦いであれば北辰にすらも圧勝する実力がある。
北辰が武器を持っている状態ではさすがに不利なうえに、
六連の連携が強固なので、苦戦を強いられやすいという問題があった。
もっとも月臣自身も戦う中で実力を上げて、最終的には六連では歯が立たなくなったが。
…そんな月臣とも互角の戦いをしたっていうのか?
「君の救出時、月臣君が相打ち覚悟で殺したんだ。
…彼はその時ですら素手の戦いにこだわって、木連式柔の前に倒れた」
「ナオさんらしいな」
しかし、ナオさんがクリムゾンに勤めることになっていたとは…。
いや、そう考えるとPMCマルスに就職してなかったらクリムゾンに行ってたってことだろう。
『ボディーガード業界で干されちまって参ってたんだ。助かったぜ』
そんなことを言っていたな。
…しかし半年か。
俺が味覚を失ったのは確か8ヶ月目くらいだったか。助かったのは一年後だ。
その頃に助かっていれば、俺は味覚を失わずに済み、
ユリカも引き離されてなかったはずで一緒に助かっていた。
恐らくは俺も『黒い皇子』になることはなかったんだろう。
アカツキもそれがわかってるから、ユリちゃんが居る場で話すのをためらったんだろうな。
「それだけじゃない。
整備班の班長をしているシーラ・カシスだが…。
彼女は戦後にクリムゾンに入社してステルンクーゲルの開発にかなり入れ込んでいたらしい。
なんでも、彼女の両親はクリムゾンで二足歩行ロボットの開発に携わっていて、
そのあとを引き継ぐ形でステルンクーゲルを完成させたとか。
木星大戦中はネルガルに居て、月面フレームの開発に携わっていた。
ステルンクーゲルの武装とコンセプトが月面フレームとほぼ同等なのは、
彼女が大戦中に月に来て、月面フレームの開発に携わって、
そのあとにネルガル退社、クリムゾンに入ったせいだと言われている。
何があったかは分からないけど産業スパイだったんじゃないかな」
「あんな優しくて明るい子がそんなことを…」
「君と同じさ。
愛情深い人ほど、きっかけがあれば危険なことに走ってしまうのさ。
ナオ君もシーラ君も…何かしら狂気に走るようなことがあったらしい。
鬼気迫る活躍をしていたとはもっぱらの噂だったよ」
……そうだな、そう考えるとよくわかる。
「今となっては本人に聞くこともできないが…。
…シーラちゃんの方は、マエノさん関係だとは思うが」
過去よりは佐世保の損害はかなり小さくなった。
ナデシコが出港する10月になると、かなり大きなクレーターやらが出来てた覚えがある。
…巻き込まれたのかもな、マエノさん達も。
「…あ、ついでだけど眼上プロデューサーは、
一番星コンテストの企画立案と、メグちゃんとホウメイガールズのスカウトに携わってるね」
「あの人…本当に才能がある人を見抜くんだな…」
実際、眼上さんの眼鏡に叶うっていうのは本当にすごいことだけど…。
俺は今でもあの人に選ばれた理由がよくわからん。
世間にこれだけ支持されてる理由はもっとわからん。
ナデシコ時代もモテてるってやっかまれたことは多かったけど、
どうしてそうなったのかいまだにわからん…。
うーん…。
「とにかく、前の世界と同じことが仮に起こったとしても、
君とユリ君、ラピスが居れば恐らく五感を失う前に助けることはできるわけさ。
クリムゾンももしかしたら、あそこまで伸びることもなかったかもしれない。
もっと言えば木星が交信を断っているってのが事実なら、
クリムゾンという企業を孤立させることすらできる」
「そうだな…。
もっともさらわれるのを見過ごすわけにもいかないがな。
そもそも生体ボソンジャンプについてのとっかかりがない以上、
草壁と山崎が意図的にどうこうしない限りは世間的にばれる理由がないわけだ」
「そういうことだ。
…もっとも草壁と山崎が苛烈に攻めてこない理由が分からない。
彼らの目的がそもそもつかめないわけだからね。
火星で待ち伏せされてて相転移砲でドカン、なんてこともあり得る。
その時は、最終手段でナデシコでボソンジャンプをしてでも帰ってきてもらうよ」
「…ああ、分かってる」
生体ボソンジャンプは諸刃の剣だ。
これが広まれば再び戦争の種にされることはもちろん、
過去と未来をごっちゃにしたりすることもできてしまう。
チューリップを介して、別の場所に無人兵器を送れるだけ、という世間に認識してもらった方が有益だ。
しかも俺は今火星生まれじゃないからボソンジャンプが出来ない。
やってもらうとしたらテンカワとユリカ義姉さんにやってもらうしかない。
だが、それは同時に二人の運命を激変させかねない。
…それだけはダメだ。何があっても、避けたい。
……そういえば、あいつらは遺跡の詳しい位置が分かっているはずだ。
火星に乗り込まない理由がないはずだ。
そうなれば速攻は可能だ。火星にはまだ生き残りの人がかなりいる。
なんなら遺跡と融合させるのも容易だろう。
火星を見捨てた地球に復讐する意図で、参加する人が一人くらいはいてもおかしくない。
無理にクローンを作らなくても、本人の同意さえあれば容易に送り込める。
俺たちに気兼ねせず、火星の後継者の取った作戦をとれるはずだ。
だったらなぜこの作戦をとらないのか……俺たちはこう願っている。
草壁と山崎は、何かしらの理由でボソンジャンプを禁止してくれようとしている。
楽天的な考えだが、可能性としては十分にあり得る。
なにしろ、一番強力な手段をとってこないのだから、脈があると思うしかないだろう。
ただ、そうなるとなぜ戦争を継続しているのかが問題になる。
少なくともナデシコ級並のディストーションフィールドさえあれば地球へ直接ジャンプすることもできるはずだ。
そうすれば正面から自分たちが人間だと言うことができるし…。
そうでなくても優人部隊なら問題なく乗り込める。
戦争を継続させなくても、正面から正々堂々と地球側の非を認めさせ、先祖の無念を晴らすことすらできるだろう。
あるいはボソンジャンプの独占をすでにできる状態だから戦争を継続している可能性もあるが。
…まさか草壁と山崎がボソンジャンプで戻ってきていないのか?
遺跡の中に残ったユリカの意識がそうする可能性はないとは言えないが…。
いや、これ以上は不毛だ。火星に行ってから考えよう。
いずれにしても未来を知っていようと、技術レベルが一朝一夕に上がることはあり得ない。
そう考えると山崎ひとりでは木連の技術レベルを底上げできるわけがない。ボソンジャンプの技術も同様だ。
頭の中にいくら前の世界の知識があろうと、一人で作ることはできないだろうからな。
俺たちもユーチャリスは増やしたものの、あくまで既存技術に頼ったものだ。
2196年時点のナデシコ級のノウハウしか使いようがない。
イネスさんが居たとしても、戦艦そのものを再設計するのは厳しい。
何しろ本来のユーチャリスとナデシコCは木星側の技術がかなり使われているからな。
お互い技術面で圧倒するのは難しいことだろう。
そういう問題があって攻めてこないだけかもしれないんだ。
それに地球から火星までは通常のナデシコで90日かかり、木星まではおおよそその三倍の270日以上かかる。
Yユニットがある場合速力が1.7倍程度?まで跳ね上がるから、
もう少し早くつくが、それでも半年近い。…うーん、無理を通したな、あの時は。
そうなると、ボソンジャンプの安全性の確保に時間がかかってまだ無理だったと考えれば自然だ。
つまり、チューリップ利用なしに木星側が火星に迫っていようと、
ナデシコほどの速力の船がない以上、一年かかる可能性もある。
ナデシコでも木星から火星までは180日以上はかかる
火星の開戦があったのとほぼ同時に俺たちが戻ってきたとして、草壁と山崎が戻ってきたのも同じとすれば、
まだ火星についてすらいない可能性が高いわけだ。
…そう考えるとあんまり油断できないな。
火星にたどり着いたらばったり顔合わせとかもあり得るわけで…。
…ということをざっくりとアカツキと話した。
希望的観測に頼り過ぎず火星にたどり着くしかないということだ、結局は。
「…話題を変えようか。
ラピスの事だ」
「…ラピスか」
「ああ。
どうするつもりだい、君は」
「…どうしていいか分からん」
「素直なのはいいが、ちょっとなげっぱじゃないかそれは」
「いや、その…。
…普通の関係じゃないし、想定のしようがなくってさ」
「ま、そうだろうね。
普通は自分の心の底までよく知っている、
一心同体もいいところの共犯者だったパートナーが、
12歳の娘だったってのはあり得ることじゃない。
だが、いつかちゃんと振るなり、一晩だけでも答えてやるなりしてあげなきゃいけなくなるだろう。
…とはいえ、あのラピスを真っ向から振る度胸が君にはないだろ」
「…ああ。
あそこまで色んなものを賭けさせてしまったラピスの心を砕くことなんてできない」
「罪悪感で言ってるのかい?」
「いや、純粋にそうしたくない。
…答えてやれるものなら、そうしてやりたいよ」
「ユリ君と真っ向から付き合うようになって、
ちょっとは甲斐性がマシになってみたいだね、君も」
「ほっとけ」
ラピスは、おそらく俺がしっかり断れば止めてくれるだろう。
だが俺はそこまで強く言えない。
ラピスにとって、俺をまっすぐに好きと言い、想える状況がどれだけ大切なのか分かる。
本当はいろんなものを見て、いろんな人を見る機会を増やしてやりたいが、
普段の彼女はそんな一般的なことを言えるような無知さがない。
人をよく見るし、むしろ人に必要なことを提供できるレベルだ。
…そうなると世間一般で言うような普通の子供らしさを教えようとしてもあまり意味がない。
それどころか、ルリちゃんよりもいい具合に子供らしい態度をとることすらできる。
…だから介入のしようがないんだよな。俺もユリちゃんも。
「いいじゃないか、答えたいなら年頃になったら抱いてあげれば。
ユリ君だって、自分が似たような立場に居たことがあるんだから分かってくれるさ」
た、確かにユリちゃんもそんなことは言ってたけどお前が言うか!?
大関スケコマシに言われてもなんの説得力もないぞ!?
「男としてむしろまっとうだと思うがねぇ、それくらいは。
男女関係ってのはお互いの同意が重要で、
責任を取る取らないってのはその先の話だろ。
それに…僕は妾腹だったからね。
自分の親父が最低だとは思ったしコンプレックスではあったけど、
不幸だとか、そのせいで死にたいとかは一度も思わなかったさ。
兄さんも僕をよく可愛がってくれたし、ね。
…母さんはね、二号さんって呼ばれて後ろ指さされても親父を好きなのをやめられなかった。
そういうのを見てるから、分かるんだよ。
不倫は最低だってのは事実だろうが、人間は過ちを犯すものだ。
間違ってでも相手を幸せにしようと考えられるかどうかだろ。
大事なのはそういうところじゃないかい?」
…う、今度はすごい説得力だ。
俺も自分の過ちを受け入れる覚悟があったら、ユリカを助けた時にあの場に…。
い、いや丸め込まれるな、俺。
どんな事情があろうと、一人の女の子を幸せにできずに胸を張れるか。
「ゆ、ユリちゃんにもユリカにも悪いって、そんなことしたら」
「いや、君は絶対そうするしそうなると思うよ。
恋愛じゃ優柔不断だが、相手を愛するってなったらとことんだ。
何しろ、たった一人の女の子のためだったら迷いながらも最低になることを選べる君だ。
ラピスの一途さを放っておけるとはとてもじゃないが思えないね。
ナデシコ時代にはエリナ君やリョーコ君の好意にすら気づかないほど鈍い君が気付くんだからさ。
芸能人の不倫騒動なんて今に始まったことじゃないし、
君の人柄からすると割と世間からはむしろ仕方ないって思ってもらえるんじゃないかな。
あ、ひょっとすると、
『ようやくホシノアキトが人並みに欲望をさらけ出した』
って安心してくれる人の方が多いかもしれないよ。
何しろ、噂を立ててる側が異常に感じるほど君は欲がないからねぇ」
勝手なことばっかり言いやがって。
…けど今のところ否定できる要素も何もないんだよな。
ラピスの好意を真っ向から断れない時点でな。
眼上さんにも言われたけど、
険悪な関係じゃなければいい、芸能人なんだからスキャンダルの一つや二つとは言われてるし…。
そうしないつもりだけど…一応、お義父さんに怒られる覚悟だけはしておくか。
また自分の理屈で逃げ出して、かえってひどい結果になってしまっては元も子もない。
それにどのみちあと数年はラピスも遠慮してくれることだろうし、大丈夫だ。
そんなに切羽詰まった問題じゃない。気楽でいていいわけはないけど、さ。
「…はぁ、どうせ俺は恋愛沙汰にはうといよ」
「いじけるなよ。
僕はこれでも結構褒めてるほうなんだから。
奥手で、誰かの行為に応えることを怖がってた君が、
『出来ることなら答えてやりたい』なんて言うと思ってなかったさ。
ま、ラピスがいい年ごろになって、そうしたくなった時は相談してくれたまえよ。
絶対バレない方法なんていくらでもあるんだから」
「…お前、女性関係のスキャンダルでネルガルをつぶしかけたろうが」
「うおっと、耳が痛い。
…ま、それはそれとして、ラピスの事はいままで通り邪険にはしないであげなよ。
君はあと何年生きれるか未知数なんだから」
「…ああ。
寿命が持たなかったとしても、
まずはイネスさんの生存を確認したい。
それが確認出来てからだ」
「そうだね。
彼女が…この世界に居てくれるのを祈るしかないね」
生死はともかくとして…消滅しているなんてことだけ、無ければいいが。
俺の命が続くかどうかはイネスさんにかかっているが、存在そのものが無くなっていたら…。
…それだけは残酷すぎる結果だ。
とてもじゃないが許容できない…俺は自分を責めずにはいられないだろう。
…それから俺たちは再び他愛なく話し始めた。
そのうち、エリナとラピスが戻ってきて…。
ラピスが飲酒をしようとしたところで、エリナがせっかくの成長が台無しになると注意して、
ラピスはしぶしぶグラスから手を放してくれた。
…そうだよな、ラピスもだいぶ大きくなってきたもんな。
彼女の心身の成長はとても喜ばしいことだったが…。
同時にそう遠くない未来に迫るラピスとの関係について考えが及んでしまい、少しだけ胸が痛んだ。
私はようやくアキト君関係の仕事が一段落して、
後任のラピスちゃんと重子ちゃんに仕事を渡すことが出来そうな状態になった。
二人とも私の関係のある事務所、テレビプロデューサーとしっかり面通しできて、
ちょっとやそっとじゃ無理は言われない状態になれたと思うわ。
…で、重子ちゃんには先に佐世保に戻ってもらって、私はヨーコと話しに来た。
ヨーコとは、PMCマルスの資金集めの時に会ったのともう一度くらいしか会えてない。
そのうち飲みに行こうって約束だったけど、ようやく実現したわ。
…ヨーコは、私にただひたすらに兄がボクシングの試合中に死んだ時の出来事を話してくれた。
強烈なラッシュに凍り付いて、タオルを投げ込むのも、声を上げるのもできず、
その後悔で、自分を何十年も誤魔化して格闘技に関わり続けることしかできなかったと…。
ヨーコはすでに日本酒を5杯は飲んでいるけど、顔が赤いわりに全然酔えていない様子だった。
「だからねぇ…ぐずっ…。
私、ケンの事、ホント大好きだったの…ごめんなさい…。
あの時、何もできなかったのがずっとずっと心残りで…」
「ホントバカねぇ。
それくらい分かってるわよぉ…。
あの時、私も冷静じゃなかったのは悪かったけど…。
謝り損ねて30年も無駄にすることなかったじゃない」
「うん……」
ヨーコが私の兄さんに片思いしていたのは知っていた。
ただ、それだけにすぐに助けられなかったことが信じられなかった。
だから距離を置いてしまったんだけど…彼女の胸中は想像できた。
謝る機会はたくさんあったのに、そうしなかったヨーコ。
疎遠になるのにそれほど時間はかからなかったから。
私達をつなげていたのは兄さんだけだったから…。
でも、こうして正直な気持ちを話す機会が、死ぬまでにあってよかったわ。
「…アキト君に感謝しなくちゃね。
あの子供っぽくて無鉄砲ですごい子が、試合してくれなかったら、
きっと私達は二度とこうやって話すこともなかったのよ」
「そうね…。
あの子たちの試合が、ケンが死んだ試合と重なって…。
あんな風に叫べばケンはきっと…」
「もう、気にするんじゃないわよ。
何も戻らないわよ、そんなことを言っても」
「うん…。
…本当に色々あったわよねぇ…30年も経っちゃうと…。
お互い、出世はしたけど、寂しいもんよね」
「そうよね…」
私達は一息に冷酒を飲み干した。
…二人して酒にめちゃくちゃ強いからそれでも今一つ酔えないんだけど。
私は結局、そのあと家庭を持ったりはしなかった。身軽で居たかった。
大事な人をまた失うには、とてもじゃないけど耐えられなさそうで。
ヨーコは結婚はしたそうだけど、旦那は早くに亡くしたらしいわ。
「…だけど、あの非正規試合で死んだ人や引退した人はどうしてるの?
それだけは聞かせてくれない?」
「…そこまでひどい試合はいくつもないわ。
でも、そうなってしまった時はちゃんとその後の生活を支えてるわよ…」
「悪い噂だって聞いてる、
暴力団との関係だってないわけじゃないでしょ?」
「暴力団との関係は、格闘技関係だったら避けられない…。
自分が善人じゃないって分かってるから、
…私が頼んで大げさに宣伝してもらっただけよ」
「…ホントに、バカね。
確かに善人じゃないけど、純粋よあんたは」
「マリア…」
マリアがなんでそこまでして非公式試合を組んだのか今ならわかるわ。
あんな大げさな地下リングを設けて、暴力団とつながりすら作ってそうしたのか。
兄さんを殺した相手ボクサーを、スパーリングと偽って殺すのが目的だったんだわ。
…私もあの後、相手ボクサーがどういう事情であそこまで兄さんを痛めつけたのか、
探偵を雇って相手のことを調べた。
あの相手ボクサーは、賭けボクシングの八百長に乗ってこない選手を殺すために、
特定の暴力団から依頼されて相手を引退か死に追い込む専属のボクサーだった。
私はそこまで突き止めた時、探偵が腕の骨を折られて警告されたと、
これ以上踏み込めば女のあなたでは地獄を見ることになる、と言われ、泣く泣く私は口をふさいだ。
…それから五年、ヨーコは倉石ジムのオーナーに嫁いだ。
倉石ジムはもともと暴力団とのつながりがある、黒いジムだった。
今では総合的に格闘技を扱うようになり、メディアへの露出が増え、
だいぶつながりは薄くなったけど、それでもゼロじゃない。
…この暴力団というのが、ちょうどその相手ボクサーの所属する暴力団と対立する組織だった。
それを利用して、代理戦争と称して互いの暴力団の代表を出させて戦わせようと仕組んだ。
…ヨーコは自分で選手を一人鍛え上げ、相手ボクサーを死ぬまで殴らせた。
無制限一本勝負というボクシングではありえない試合で、五分間、
ロープダウンでもストップのかからない、闇試合だからこそできる復讐を遂げた。
……そのあとのヨーコは、抜け殻同然で、暴力団の支配が弱まった近年でも、
だいぶ本数は減ったけど非正規試合は続けていた。
…ヨーコ自身はもう血を欲しがっていないというのに、
もう、復讐を遂げてなにも残っていない自分を、まだ終わってないって誤魔化すように…。
…やりきれない、こんなのは。
そういう意味でも、アキト君はこの子を解き放ってくれたんだわ。
「…ヨーコちゃん、本当に大変だったんだなぁ」
「おじさんってば、ずーっと黙ってると思ったら」
「聞き上手じゃなきゃやってらんないよこの仕事は」
このおでん屋台で私達に酒を注いでくれているおじさんは、
かつての兄さんの通っていたジムのコーチをしていた。
…あの後、ボクシングを指導する自信をなくして、こうやって屋台でしのいでるらしい。
店を出すように資金援助もすると申し出たのに、気楽にやりたいからこっちの方がいいって…。
…不器用な人ね、この人も。
「…まあ、いいじゃねぇか。
いつ死ぬか分かんねぇ世の中だけど、
少しは楽しくやっていこうじゃねぇの」
「そうよねー…」
「…マリア、あんたこそPMCマルスはうまくやってるみたいだけど…」
「ええ、そろそろ私の手が必要なくなりつつあるわ。
ま、久しぶりに沖縄でも行こうかしらね。
しばらく、のんびりしようかなーって。
あの辺はアキト君たちがトカゲさんたちやっつけてくれて安全だし」
「……私も行っていいかしら」
ヨーコは寂しそうに私を覗き込んで、まだ許しを請うように話しかけた。
…いいに決まってるじゃない。
「もちろんよ。
…そろそろ、ヨーコも疲れたでしょ?」
「ええ…。
ありがと…」
…その後、またしばらく私達は話した。
これまでの思い出話、というにはあまりにも長すぎる話を、夜明けまで。
ヨーコはついに倉石ジムを手放し、引退することにしたらしい。
後任には、おじさんの息子を指名したらしい。
おじさんはボクシングを引退したけど、息子がどうしても、といってボクサーを志した。
…やっぱり、血は争えないってことかしらね。
私はヨーコと別れて、すっかり日が昇っている中、
テレビ局に向かって、仮眠室を借りて爆睡してしまった。
その途中に見えたモニターに映った稀代の英雄の顔が、いつもよりさらに眩しく見えた。
…私は夜遅くですが、ユーチャリススタッフ募集の履歴書を見ていました。
すでに入浴済みでパジャマも着込んでいます。これが終わったらもう寝ます。
もう少しで終わりそうなんですが、私ひとりじゃどうしようもないです。
元パイロット候補生の子たち12人にかなり見てもらってますが、
さすがに人数があまりに足らないので、バイトの人を二十人ほど雇って、地雷除けにかかりました。
これによって、とりあえず九月頭までには地雷除けが完了し、そのうえでさらに絞り込むことになります。
何とか九月中旬には面接に進むことが出来るかもしれませんね…。
それにしても地雷除けだけで500万通から10万通程度に減りそうっていうのは、ちょっと頭が痛くなりますね。
どれだけ対象外の年齢の…小中学生が結構いるみたいですね、これ。
どう考えても社検を受かってないので働けないんですけど…。
…もしかしなくてもルリとラピスのせいで社検が今一つ分かってない年齢の子が応募してるんですか?
年齢制限は募集要項に書いたんですけど…ま、また頭が痛くなってきますね。
とはいえこの量でも見るのは結構大変ですが、フル稼働すれば10万通なら一晩で軽く精査できる量です。
じっくり見る余裕も出てくるでしょう。
「はい?どうぞ」
「おじゃましまーす、ユリちゃん」
「ユリカさん、どうしたんですか?
そんなカッコして…」
ユリカさんが、パジャマ姿で現れました。
確かにユーチャリスが帰ってきてますし、私がハーリー君と出撃する予定ではありますけど、
明日出るんですが…どうしたんでしょう。
「ごめん、ちょっと大事な話があるの。
…長くなると思うから、ここで寝てもいい?」
「え、ええ。
アキトさんも居ないですし、
私は今日は別に普通に眠るつもりでしたから」
私は見ていた履歴書を簡単に片づけて、布団を敷きました。
…どうしたんでしょう、急に。
「ユリちゃん。
私って、そんなに、アキト君の婚約者に瓜二つなの?」
「…はい」
「やっぱりそうなんだ…この質問をしていいのか迷ったけど……。
でも、ラピスちゃんが聞いても大丈夫かもって、言ってくれたから…。
な、なんでもお墓もなくて、お盆でも会えないから苦しんでるんじゃないかって、
私を見るたびにアキト君もユリちゃんも辛いって思ってるんじゃないかって…」
…色々だましだまし話してきましたが、ついにこの部分を聞かれてしまいますか…。
私達はあの場で話さなければ、一生話す機会がなくなるかもって思って外出しましたが、
あの場合、私達が外出したのは決していいことじゃないです。
心配されるのもそうですが、未来のユリカさんの事に感づかれる可能性が高かったので。
ラピスも、判断は悪くなかったとは思いますが一声かけておいてほしいものですね、まったく。
「…辛いのは、辛いですけど。
でも私が実の姉であってほしかった人と、実の姉が同じ顔だったのは嬉しかったです。
重ねるような真似をしてしまって、ごめんなさい」
「そ、それはいいの。
だけど、もう一個聞かないといけないことがあるの…。
その、その人の名前って…どんな名前なの?」
「そ、れは……」
なんて答えればいいんですか。
まさか『ミスマルユリカ』ですとは…でも変に嘘をつくと気づかれてしまいます。
偽名はすぐには思いつきませんし…言い淀んでもダメです。
……仕方ありませんね。
「……『テンカワユリカ』です」
「!?」
ユリカさんが目を見開いて、驚いています。
それはそうです…まさか顔立ちや性格だけではなく名前まで一緒で…。
今自分が恋をしている相手の苗字を持った相手だとは思いもしないはずです。
決して気づかれることのない、あり得ない話ですが、真実です。
ユリカさんも真実と思わざるを得ません。
「うそ…」
「…アキトさんがユリカさんを呼び捨てにしたりしそうになったり何度かありましたよね?
微妙にさん付けが遅くなったりとか…」
「あ、あったけど…。
…だから私の事、ユリちゃんもお姉さんって呼んでくれなかったの…?」
「…そういうわけじゃないです。
テンカワユリカさんにも、私は『ユリカさん』と呼ぶことが多かったんです。
……やっぱり重ねちゃってますね」
そんなの…そんな………。
奇跡にしては残酷すぎる…。
顔も名前も性格もそっくりな人に出会うなんて…。
どれだけ、二人の古傷をえぐっていたの…。
こんな大事なことなのに二人とも黙ってたなんて…」
ユリカさんは取り乱してしまいましたが、私は首を横に振りました。
…確かに辛いことですが、私達はそれ以上に救われてます。
ユリカさんが、テンカワさんと結ばれ、温かな未来を手にする瞬間を目の当りに出来る。
それはある意味では、私達の未来以上に重要なことなんです。
この二人の未来が閉ざされてしまうことは…私達にとって死も同然です。
結局、運命に逆らえない…ミスマルユリカという大事な人を幸せにできなかったら、
私達は幸せになれっこありません。二度と立ち直れないと思います。
テンカワさん、ユリカさん、そしてルリが…過去より幸せに一生を生き抜く。
そうでなければ意味がないんです…そうならなければ私の命の価値はゼロになってしまうんです。
前の世界でユリカさんを守り抜けなかった、ユリカさんを殺すしかなかった私達の生きる目的。
希望そのものなんです。
それがあるからこそ、私達は頑張っていけるんです…。
「ユリカさん、いいんです。
私もアキトさんもあなたの姿を見れるだけで救われるような気分になれました。
ユリカさんが生きてくれていたら、こんな風になってくれてたんだろうなって…。
どうして助けてあげられなかったんだって、ずっと後悔してたんです。
…私、その癖、あの人を裏切ってアキトさんを奪いました。
それだけでも最低な妹だって、思うんです。
ユリカさん、重ねてしまってごめんなさい。
でも、あの人の分までユリカさんを幸せにしたくてしょうがないんです…」
ユリカさんはぼろぼろと涙をこぼして、私を抱きしめました。
私がどこかに行ってしまいそうに見えたんでしょうか…?
私の目からも涙があふれだしました。
アキトさんが死の淵で見たっていうユリカさんと、ほとんど同じことを…。
ユリカさんに直接そう言われると…私は本当に許してもらえた気分になれます。
…もう、あのユリカさんは弔うことすらできないのに。
そう思うと、また涙が…。
「私はその、テンカワユリカって人じゃないけど、
…でも、この二人を見てれば分かるよ!
こんなに悩んで、でも一心に想いあっている人なんて見たことない。
二人とも葛藤して、向かい合って一緒に頑張ってきたって分かるよ。
だから卑下してほしくない、間違っていると思ってほしくないの…。
お互いを愛する気持ちも、私を愛してくれることも…」
「うぐ…ご、ごめんなさい…ユリカさん…。
重ねている私は、あなたと姉妹で居てはいけないんじゃないかって思ったこともあります…。
それでも本当にあなたと姉妹で居たいって思ったんです…嘘じゃないです…」
「分かってる…。
ずっとため込んできたんだね、テンカワユリカって人への想いを。
許せなかったんだよね。彼女を守れなかった自分たちを。
私を愛するのは彼女への裏切りで、
私と彼女を重ねると私に対してもやっぱり裏切りだって思ったんでしょ?
…謝らないでいいよ、ユリちゃん…。
私をテンカワユリカと一緒に愛して。
私もそのテンカワユリカと一緒に、抱きしめてあげるから…」
「はい…っ」
…私はまた、懺悔しながら嘘をついている。
ボソンジャンプの事を話してしまったら、すべてが変わってしまうから…。
話す必要がなければずっと黙っていなきゃいけないことです。
辛いけど…でも出来れば最後の最後まで隠し通さなきゃ、意味がないんです。
お墓までもっていかないといけないんです。
…ボソンジャンプの秘密を話さなきゃいけない状況はイコールでユリカさんが危険な時です。
何があっても話す必要がなければそれに越したことはないんです。
……ユリカさんのことだから、真実を知ったらそれはそれで受け入れてくれるでしょうが、
そんな状況はいりません。
ユリカさん、私、あなたが幸せになってくれるところが見たいです。
世界で一番、幸せになってほしいんです。
私にとってアキトさんと同じくらい大事な人なんですから…。
…私達はすごい幸せになれましたけど、たぶん世界一は無理です。
未来のユリカさんが欠けた分はどうやっても埋まりません。
せいぜい、この世界のユリカさんが幸せになって、それでも埋まりきらないんです。
…不幸だとは思いません、こんなに都合のいい世界に生まれ直したんですから。
世界一の幸運を手に入れましたけど、
世界一の幸せ者にはなれっこないんです。
私はユリちゃんと一緒のお布団に入って、ユリちゃんの寝顔を見つめていた。
この子は本当にすごい子…でも辛かったんだろうな、ここまでの人生。
いつも忙しくて大変で…私に気を使ってばっかりで。もっと甘えてくれていいのに…。
でも…私も会ってみたかったな、その『テンカワユリカ』って人に。
そんなにそっくりってことはアキトとアキト君とが並んだ時みたいに双子みたいに見えるんだろうなぁ。
性格も名前も見た目もそっくりで、ってそんな奇跡があるんだね。
絶対仲良くなっちゃうよね、そんな人。
あ、でもそうしたらアキト君はその人と結ばれちゃってユリちゃんは…。
うーん、それはちょっとユリちゃんの幸せを奪うことになっちゃうから…。
あちらが立てばこちらが立たぬってやつだよね。
難しいね。
でも、私、アキトと結婚しちゃったら『テンカワユリカ』になっちゃうんだね。
…それはそれで喜んでくれるのかな、二人とも。
だからいつもいつもアキトとの仲を応援してくれるんだね。えへへ。
……あれ?
なんかこの間、アキトと見た映画でこんなの見たことがあるような…。
…タイムスリップして、未来の悲劇を回避するお話。
主人公は自分の正体を隠して過去の自分と恋人を助けに来るの。
見た目はそっくりなんだけど別人のフリをしてて。
ラピスちゃんが話した『アキト君とユリちゃん』の過去のお話…。
そして今日ユリちゃんの『テンカワユリカ』のお話…。
……もしかして、アキト君って未来のアキトで…。
私がアキトと結婚して『テンカワユリカ』になった直後に、
木星トカゲの人たちにさらわれちゃって…。
結局私を守れなくて、死んだ私を助けるため…未来からやってきちゃったとか…。
………は、ははは。
そんなこと、あるはず……。
……ないよね?
で、でも…そうなると説明がついちゃうんだよね…。
どこの組織も本格採用していないエステバリスを使うことを決定したこと、
アカツキ会長と妙に親密なこと、
木星トカゲが人間だって知っていたこと、
私を見た瞬間に二人して涙を流したこと、
アキト君がアキトの演技を滞りなく全部できちゃったこと、
『テンカワユリカ』のお墓がないこと…。
ぜ…全部、説明できちゃう…。
ゆ、ユリちゃんってまさか未来のルリちゃん?
ナデシコで一緒に居て、仲良くなって…アキトと私と一緒に暮らしてたとか?
だから私を慕ってくれていたの?
ユリちゃん、真っ先にルリちゃんを抱きしめようとしたよね…?
そうしてほしいのが分かっていたかのように。
それにピースランドの事を知っていたのもユリちゃんだった…。
誰も、ピースランドの人たちも、ネルガルも誰も知らないようなことを…。
………あ、あははは!
ホント私ってバカだよね!
映画とか漫画とか見過ぎてるだけよ!
そんなことあるわけ…あるわけ………。
この謎を、二人に聞くのはおそらく簡単だけど…。
…二人は私にはきっと正直に答えてくれる。
でも、聞いてしまったら…何か、壊れてしまう気がした。
私の、アキトへの恋心?
ユリちゃんとの、姉妹関係?
それとも……私の未来?
…全部、かもしれない。
否定できる要素が何一つない、そのバカげた考え。
ほんの少しだけ、頭の片隅に住み着いたそれを…。
私は無理矢理抑え込んで、眠りについた。
……いつかきっと話さないといけない時が来る。
二人はこの木星トカゲとの『戦争』の真実を知っていた。
そうなると二人が話す気があろうとなかろうと…いつかは話す時が来る。
そういうときに備える程度にとどめて、今は待とう。
…二人を信じるってことはきっとそういうことだろうから。
仮にそうだとしたら、話してくれない理由こそが、
未来の私を死に追いやった『何か』なんだ。
もしかしたら、その『何か』が、この世界に二人を呼び込んだものかもしれない。
タイムマシン…はちょっと違う気がするけど、それに類するものだよね、きっと。
でも二人が私を、ミスマルユリカという女の子を、事情はどうあれ想ってくれているのに…。
私がその関係を無理矢理壊して、真実を知ることに何の意味があるんだろう。
ルリちゃんは、私をお姉さん扱いしてくれるようになった。
ユリちゃんだってそう。とっても嬉しそうだった。
ラピスちゃんも私をお姉さんと認めてくれたし。
…もしアキト君が、未来のアキトだったら、私と一緒にいるのは辛いのかも。
…ううん、辛いかもしれないけど…。
それでも、一緒に居たいって思ってくれているなら…。
私は、いつも通りアキト君と一緒に居よう。
ユリちゃんが、その辛い分はきっと支えてくれる。私がこれ以上傷をえぐる必要性はない。
今まで通り私達は、家族で居ればいいんだから。
それでいいじゃない。
推測…ううん妄想のたぐいだよこれじゃ。
確実じゃないことに首を突っ込む必要なんてないよね。
……うん、きっとそう。
私は二人を信じる。
──それから少しだけ時が流れた。
夏から秋になり、だんだんと連合軍パイロット訓練生は卒業していった。
アリサちゃんが連合軍のエステバリスライダーを指導するカリキュラムを作り上げ、
地球の各地でトカゲさんたちに対抗する準備を着々と整えてる。
エステバリスもおおむね各方面軍に届いて、順次出撃している場所も多い。
お父様も極東でのユーチャリスの活躍を支援してくれている。
まだまだ戦況は楽にはなってないけど小康状態を保っている場所が多く、
反転攻勢に向けて根回しはしっかりできてる。
私はというとアキトとの仲はなかなか進まなかったけど、
ラピスちゃんがしっかり計画を立ててくれてるらしいから期待してる。
ちなみに出撃する時は大体ルリちゃんと一緒。
アキトは料理に戦いに修行の毎日。
筋がいいって評判だけど、なかなか大変なんだよね。
あ、アキト君は相変わらず芸能界に付きっ切りで、
ラピスちゃんは『ルリとパフェ食べに戻る隙が無い!』っておかんむりだった。
まあ、そうだよねぇ。
ユリちゃんは週に一度は必ずアキト君に無理矢理会いに行ってるくらいはしてるんだけど。
恋する乙女は無敵だもんね。
ユーチャリスはもちろん連戦連勝で、無傷で帰ってくることが圧倒的に多い。
もうすぐ連合軍に貸し出されて月に行ってもらうらしいけど。
…そんな日常が、大変ながらも過ぎ去って。
そして…ついに。
私達は『ナデシコ』という戦艦に出会った。
生涯決して忘れることのできない…大切な思い出を、私達の心に刻んでくれる、この船に。
今回は『アキトたちが動いたことで、影響を受けた人たちについて』のお話でした。
良い種まけば、良い花みのる~ってわけで、アキト君は身近な人にかなり影響を与えてて、
アキト自身もそれに助けられてるってお話でした。
とはいえ、ユリカも知らなくてもいいようなことをつい突っついて真相に気づき始めて…?
みたいな回でもあります。
いわゆる蘭ねーちゃんにコナンの正体がバレそうになってる回ですね。
さて、つづいてクリムゾンや木連に大穴開けられるか、アキト!
ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!
TV版本編+PODのナデシコ世界でも十分さんざんな目に遭ってるアキト君とルリちゃん。
それにプラスしてさらにひどい目に遭わせて…っていうスタートをさせてしまいましたね。
まあなんていうか…。
しかしそうは言ってもそればっかりじゃなんなのでバランスをとるべく、
芸能界やったり、ほのぼのしたり、後悔を取り戻したり、絆を深めたり…。
まあ色々、やっていかないととやってったら尺がロングロングアゴー。
ここに投稿してた時期が本格的に創作をスタートした時期なので、
…少なくとも、
「近くにユリカ本人が居るのに、手が出せぬ状態で、
未来のユリカと重なって苦しむ状況」
が主軸に残ったのはそのせいです。
時ナデのようにテンカワアキト状態じゃないので本来は離れてもいいんですが、
ユリちゃんのせいで義理の姉になっちゃったのでどうやっても離れらんないです。
…ってこれけっこー意地悪ですね。
眼上マネージャーは、変装したテンカワとホシノアキトとが見た目が同じだったので、
ついいつもどおりの対応をしてしまい、拒否権をいつも与えているにも関わらず、
ちょっと離れてる間にスタートしてしまい、テンカワも逃げ切れなったそうです。
結局、胃腸の調子が悪くなってしまったのでとカットを挟みつつ何とかやり切ったそうですw
ルリです。
この度、めでたくナデシコが出港することに相成りました。
先行してユーチャリスに乗り込んでましたけど、スムーズにナデシコになじめると思います。
え?なんか嬉しそうだって?
…ま、色々あるの。ラピスのこととか。
実際、楽しいし。
すでにバカばっかな人たちともう三か月以上の付き合いにはなってるし、もう慣れっこね。
ま、あと悪だくみしてる人たちがけっこー居るらしいんだけど、
作者さんはこのあたりの話をどうしても書きたかったらしいの。
バカっぽすぎるけどまあ気長に見守ってあげて。
それじゃ、つぎいってみよー。
『機動戦艦ナデシコ』のタイトルが付いてる割に、
全然ナデシコが出てこないし、『時の流れに』のキャラが割と出てくるし、
本当に大丈夫?なナデシコ二次創作も、ついにナデシコが出てくるので汚名返上ね。
それじゃ、ナデシコがやってた頃のアニメだったら三クール目の最終回になる次回、
をみんなで見よう。
…ねえ、作者さん。
このタイトル使いたくてナデシコDってつけたわけじゃないよね?
感想代理人プロフィール
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代理人の感想
閑話だけに余り言うべき事もないかなー。
・・・しかし、ホウメイさんって人格者枠だけど、それでも「人格より能力」で集められたメンバーの一人なんだよなあw
本当に何でナデシコなんかに乗ってるんだろうあの人w
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