私は四機のエステバリスを従えてスイスの空を駆けていた。
連合軍内のエステバリス教習カリキュラムの完成と共に、
私達は早くも、エステバリス隊として活躍することになった。
PMCマルスで訓練していた私達が先陣を切る形で、
ついにチューリップの撃破に挑むことになった。
「陸戦と砲戦の第一陣各機、散開してジョロをたたいて!
第二陣は第一陣が敵戦力を削いだ後、作戦通りチューリップ撃破に動く!」
『アリサ少尉、我々空戦小隊はどうします!』
「こちらも作戦通り敵空戦部隊を蹴散らして、地上部隊に近づけないようにするわ!
駆逐艦クラスが出たら、フィールドランサーで敵フィールドを突破!
駆逐艦クラスは地上部隊の脅威になるわ!
ミサイルとレールガンに気を付けて!!」
今こそ連合軍西欧方面軍のエステバリス隊の切り札…。
空戦小隊『銀の弾丸(シルバーバレッツ)』の力を見せる時ッ!
トカゲどもを地上に這いつくばらせてやろうじゃないッ!!
『アリサ少尉、気負うなよ。
お前が一人で突っ走ったところで状況が好転するわけじゃないんだ』
「しかし隊長…。
これくらいしなければ、西欧は…」
『隊長の言う通りだ、アリサ少尉。
敵は雲霞のように集まっている。
この状況を切り抜けるパイロットなど、居るわけがない』
…居るのよ、たった一人だけ。
恐らくは世界最強のエステバリスライダー・ホシノアキト。
幾度となく奇跡を起こした、あの、とぼけた男こそが…。
一回の出撃で200機の機動兵器、そして駆逐艦を2隻落とした、あの男が…。
──私はついに彼には勝てなかった。
もっとも、彼とナデシコのエステバリス隊のメンバーを除けば、
私は間違いなく世界一と言えるが、そんな状況では胸を張れない。
限界はまだ見えていないけど、それでも実力差、経験差を感じることは多かった。
努力すればいつかナデシコのエステバリス隊には追いつけると、思う。
その距離はそう遠くない…それでも、ホシノアキトには永久に勝てない気がしてしまった。
勝てない相手が居るから無価値と思うほどうぬぼれてはいないが…。
あの力があればこの西欧は間違いなく助かる。
…いや、これもきっと思い上がりだ。
──ナデシコ級戦艦・シャクヤク。
あの船が、年が明けたら来てくれる。
そうすればエステバリスでの戦い以上の、すさまじい戦果が得られる。
西欧を救うシャクヤクを、護る役割を私達が出来ればいいんだ。
個人の力ではやはり限度がある。
ホシノアキトでも、あの戦闘が限界という話がある。
だったら一人強くなろうとするだけじゃダメ…何をこだわっているのかしら、私は。
今は作戦に集中しなくちゃ…。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
その後、戦闘が終了した。
圧勝と言っていい、一方的ともいえる勝利だった。
当然といえば当然だった。
私達空戦部隊はPMCマルスに派遣されていたメンバーが中心で、5機。
そして地上部隊はなんと陸戦15機に砲戦10機。合計30機。
素人が混じっていたとはいえ、PMCマルスが少数精鋭の部隊だったことを考えると、
高々中型チューリップ相手にここまで戦力を注ぎ込むのはやりすぎだった。
しかし、地上部隊は元陸戦兵士の集まりで、戦闘技術はともかくエステバリス操縦の練度が低い。
それを鑑みての部隊編成だった。
…危なげなくチューリップ撃破出来たことで、パイロット、そして市民を守る事が出来た。
まずは喜ばしいことだろう。
市民たちは私たちに喝采を浴びせてくれたが…誇れるようなやり方じゃない。
彼らですら、内心は「PMCマルスはわずかな戦力で勝ったというのに」と思っているかもしれない。
全体の練度が上がるまでにはもう少しかかる。
けど、わずかな小隊でチューリップを撃破できるところまで、仕上げてやるしかないわ。
おじい様が私を信じてくれたんだもの…!
私達、シルバーバレッツ小隊は食堂で祝杯を挙げた。
地上部隊のみんなも、別テーブルではしゃいでいる。
シュン隊長も、カズシ副長も各テーブルに回り、隊員を労っている。
…この人達も日本人だが、なんていうかPMCマルスやナデシコの人達と相性がよさそうだ。
「アリサ少尉~。
今度でかけませんかぁ?」
「一回でもシミュレーターで勝てたら考えてもいいですよ?」
「うげぇっ、そりゃないですよ少尉~」
「少尉に勝てる人なんて、そうそういませんよ」
……この男は、PMCマルスに居る時でも遊びほうけて居た方だが、腕はそこそこ良い。
そこそこ止まりなのはやはり性格のせいだと思うけど。
私と互角にやり合ったのは…ナデシコエステバリス隊、ホシノアキト、アカツキ会長以外…だと…。
PMCマルスパイロット候補生筆頭、青葉くらいね。
彼女はスタンドプレーが目立つけど、腕はズバぬけてるのよね。
私も彼女とは馬があう方だったから、一応こっちにこないか誘ってみたくらいだったんだけど…。
……ホント、あの子はホシノアキトにぞっこんラブなのよね。
まあ引き抜こうにも、連合軍の訓練を受けないといけないから意味がないんだけど、
ホシノアキトと離れるのを嫌がって断ったのよね、彼女は。
どうしてそこまで既婚者に入れ込めるのか、理解不能だわ…。
「お、ホシノアキトが映画に出るって?」
「なにぃ?大根役者で有名なあいつがぁ?」
私が振り向くと、ホシノアキトがテレビに映ってます。
どうやら日本のテレビ局からこの西欧のテレビ局に中継して放送しているようですね。
……そんなに暇じゃないでしょうに、どうしたんでしょうね、あの人は。
…ん?
「サイボーグと戦ってる?
またへんな設定で戦ってるな」
「でもこれ生放送だろ?
こんなワイヤーアクションじみた動きができるもんかね?」
「…!?」
私は気付きました。
私はホシノアキトと本気で試合をしたことがあります。
彼はリハビリと言っていて、全く歯が立ちませんでしたが…彼の実力はよくわかります。
そのホシノアキトが、ここまで苦戦して、しかもあれほどの動きをして…ということは…。
とはいえこの西欧からでは彼の力にはなれないでしょう。
彼が絡むとなんでも起こりそうな気がしてしまいますけど。
はぁ…どうしてこうなったのかしら……。
…本当に彼はよくわからないひとですね…はぁ…。
『え~それではぁ、今日は予定を変更しまして…』
『さあ、始まりました!
本日のメェンエベントッ!
テレビ局の情報筋によりますとぉ、我らが「世界一の王子様」、
ホシノアキト様はなんとなんと、モノホンのサイボーグと共に映画を撮るということで、
己の限界に挑む、極限バトルに挑んでおります!!
あいっ変わらず、命知らずよねぇ、ホシノアキト様ってば』
『ホントよねぇ!
陸戦のエステバリスで無理矢理駆逐艦を単独で二隻も撃破、
連合軍の特殊部隊も蹴散らし、心臓に銃弾を浴びてなお生き残り、
ネルガルのアカツキ会長との実弾使用のCM撮影、
命知らずにもほどがあるわよぉ!
それにこの間のピースランドの一件も、
プレミア国王や衛兵の人達のリアクションから推測すると、
もしかしたらマジバトルだったんじゃないかって噂が立ってるわよねぇ!
仲直りするための戦いだったんじゃないかって、
ファンの妄想は天を擦らんばかりの盛り上がり様よ!』
『そして今回も、特撮なしであんなアクションを繰り返しています!
ファンのみんなは既にテレビで見ていると思うけど、
ラピスちゃんが爆弾付の首輪をつけられ、さあ大変!
夜12時の鐘が鳴るまでに解除装置を手に入れなければ、
ラピスちゃんの儚い命が消えてしまいます!』
『…っていう設定だそうだけど、
これが本当だったら大事よね?』
『そーんなわけないでしょ?
でもでも実はね。
ここからはこのラジオに送られて来た極秘情報なんだけど、
実はその解除装置を持っている、
ラピスちゃんと同じ首輪をつけたお姫様がもう一人いるそうなのよ!』
『あらやだぁ!
解除装置持ってるのに爆弾ついてる首輪付けてるの!?
その子変態じゃないの!?』
『変態かどうかはわからないけど、その子の元にたどり着けないと、
その子が怯えて解除装置を動かさない限り、
ホシノアキト様は二人の少女を助けられなかったっていう烙印を受けるわけね。
…もっともフィクションだろうけど』
『盛り下げるんじゃないの!
とにかく!!
私達も追いかけて放送していくのよ!』
『でもでも~。
私達がいっくら実況してたって、みんなテレビに食いついてるんじゃないの?』
『何をおっしゃるウサギさん!
このラジオは、ホシノアキト様ファンの女の子御用達!
放送が始まるとテレビを付けながら器用にこの放送を聞いてくれる子も多いのよ!
それに手が離せない人、車を運転中の人、いろんな人のために役立つのよ!』
『それにしても~…ねぇ?
こんなすっごい番組をいきなり始めるの、相変わらず唐突よねぇ』
『そこが面白いんじゃないの!
今回テレビ放映をしている日売テレビさんは、
「目指すは視聴率90%!」って息巻いてるのよ!』
『あらそうなの。
それじゃ、さっそく私達も現場の中継を、
独自にして行こうと思います。
え~~~現場のC子さん?』
『ごうが~いごうが~い!
ただいまホシノアキト様とアカツキ会長を追跡してまーす!
すごい数のファンとマスコミが追いかけてて、大変でーす!
自転車に乗りながらウエアラブルカメラで追っかけてまーす!』
『あらぁ、音声があれてるわね確かに』
『はーい!すでに千人単位の追っかけが出てまーす!
それで、状況ですがそちらでも確認してると思いますけど、
ホシノアキト様は、
ブーステッドマンズの一人目『怪力無双のジェイ』を撃破、
乗っていた軽自動車を破壊されて、大荷物を持って走ってまーす!
残りの四人の所在は、いまだ持って不明でーす!』
『なるほどぉっ!
二人はこれから四人を倒してラピスちゃんを助けられそうですか?』
『びみょうでーす!
一人目の時点で二人がかりでも結構苦戦してまーす!
それにブーステッドマンの最終兵器、『D』という人は、
全身のほとんどが機械になってて本当に強いそうでーす!
ファンのみんな、どんどんホシノアキト様を応援して、パワーを分けてあげてね!
ラピスちゃんと、シークレットなお姫様の為にもね!
では中継おわりまーす!
次のブーステッドマンとホシノアキト様のバトルにご期待くださーい!』
ユリさんとラピスちゃんに食事を届けた後…。
私達はほとんどのスタッフと共に食堂で意気消沈していた。
正式にパイロットになってようやく闘いの役に立てるって思ったそばからこれじゃあ自信失くすわ…。
アキト隊長とアカツキ会長が走ってる姿を、指をくわえて見てるしかない…。
ヘッドホンを半分だけしてラジオ放送に傾けている子も居る。
こんなピンチの時に、何もできないでいる自分たちのふがいなさに私達は…。
「騒ぐんじゃないわよ、レオナ。
あんたちょっと精神的にもろいわよ」
「だってぇ!!」
…大柄で、頑張り屋だけど心根がふつうに乙女なのよね、レオナってば。
みんなが落ち込んでるのに騒げるだけ元気だとは思うけどね。
100人のユーチャリス新スタッフも、ほとんど身動きが取れないし…。
整備班長のシーラさんは整備員と共に、PMCマルス所有のエステバリス最後の一台、
『陸戦エステバリスカスタム・ホシノアキト機』を徹底的に仕上げている。
他は全部ナデシコに乗っけちゃってたのが災いした。
何しろ、ここに全機置いておく理由がないから。
シーラ班長曰く、『整備班は手を動かせるだけ精神的にはマシ』って言ってたけど…。
それでも悔しそうにしてたわ…。
!
重子がタロットに手を取ったわ!
しかも、今日は一人で広げ始めた!!
「当たるも八卦、当たらぬも八卦。
今日のアキト様の戦いを占ってみましょうか」
ざわっ。
重子の占いは私達12人の社員パイロット以外にも有名になってる。
的中率はほとんど100%。
外れたとしても、詳細やタイミングがずれこむだけでほとんど当たっている。
…その重子が自分の責任でアキト隊長の占いをする。
この覚悟、この決意…相変わらず肝が据わってるわ。
そしてみんなが驚く間に、三枚のカードを引いた!!
「出たわ!
『愚者』!
『戦車』!
そして『星』!
すべて正位置!
『愚者』は『新たなスタート』『独創的・芸術的』『独立する』『心配していない』
『戦車』は『勝利・前進・意志の強さ』『試練を乗り越える』『愛しぬく』『勝利し成功を収める』
『星』は言わずもがな!
アキト様を示す、勝利のカードよ!
…今回もバッチリ勝てるわッ!」
…なんか女の子にあるまじき歓声ね、これ。
でも、重子の占いでここまで良いカードが連続するのも珍しいわ。
これだけ盛り上げるっていうのも分かる。
とはいえ、この戦いでアキト隊長が何かいいことが起こるの?
不穏なスタート、その先には決していいことがありそうには見えなかったのに…。
…だけど、沈み込んでたみんなが胸をはって、出来ることはないか考え始めた。
あ、我慢しきれず外に走っていく子もいる。
よしっ!私達も腹ごしらえして備えなきゃっ!!
…ラピスちゃん!私達もいつでも出られるように備えておくよ!
大丈夫、きっと大丈夫!!
……!?敵ッ!?
俺はホシノアキトとアカツキナガレに二名を双眼鏡で確認すると、
その表情から奴らの疲労が垣間見えた。
……なるほど、ジェイは早々に降参したが、あの怪力に相当消耗したと見える。
この調子だとさすがにカエンの所までたどり着けるか怪しいものだな。
下手したら俺との戦いで終わりかもしれん。
…カエンに譲るつもりだったが、そこまでの実力なら仕方ないだろう。
街道を走り、大人数を引き連れたあの二人に挑んでみるとするか。
俺は光学迷彩で身を隠し、あの二人に迫った。
俺の能力は光学迷彩と温度の抹消、消音技術によるステルス。
身体能力は脚力を強化してあるが、他のブーステッドマンに比べると身体能力はあまり強くはない。
あくまでも潜入や暗殺向けの能力だ。
故に武器の有無で俺の有利不利が大きく左右されてしまう欠点がある。
だが、彼ら程度の実力ではな。
予定通り武器なしだが、これくらいなら勝てるだろう。
カエンには悪いが、ここで倒れてもらうか。
……!?
ホシノアキトは俺のほうをじっと見ている。
バカな、見抜けるわけがない!
少なくともこのレベルの光学迷彩は、軍需産業ですらもまだ実現できてないんだ。
「ホシノ君?!どうした!?」
…俺のそんな驚愕をよそに、ホシノアキトは立ち止まって構えた。
ちぃっ、仕掛けてみるか!
「アカツキ、危ないっ!」
「なっ!?」
ホシノアキトがアカツキを突き飛ばして俺の突撃を回避させる。
…やはり見えている!!
なんだ?気配を察することができるまでの達人だとでもいうのか!?
「姿を見せろ、ブーステッドマン!
光学迷彩くらい、俺が見たことがないとでも思ったか!」
「…ふん。
単なる光学迷彩程度だったらもう少し気を引き締めるがな。
消音技術と温度の抹消までしてるのに気づかれるとは」
「なんだって!?」
「…アカツキ、どいてろ。
こいつは能力的に完全な暗殺向けタイプだ。
俺じゃないと分が悪い」
ホシノアキト…ネルガルにどういう作られ方をしたんだ?
恐らくIFS関係の実験体として引き取られ、戦闘訓練を受けたそうだが…。
このレベルになるのにどれだけの期間が必要か、はかり知れん。
本来は俺達のような実戦を欠いた訓練を行ってきた実験体で太刀打ちできないが…。
「俺の名はイン。
見ての通り、隠密能力に長けたブーステッドマンだ。
ホシノアキト、覚悟しろ。
…俺とお前とでは能力の差がありすぎるんだ」
「言ってろ、ド素人。
構えが甘くて隙だらけだぞ」
「ふん…バレバレか。
だが、戦闘中にステルスされてもお前は俺を捕まえられるかな?」
……ふ、やっぱり俺もカエンに感化されたかな。
周囲で好き勝手盛り上がるギャラリーに見世物のように見られていてなお、
このホシノアキトとの闘いに、生まれて初めて胸が躍る気持ちになっている。
底の知れぬ、この男の実力…俺の能力がどこまで通用するか試したいと思い始めた。
……やってみるさ。
出来る限りな!
私とユリは二人だけでアキトの戦闘を追っかけている。
かなりハッキングもしてるから見られちゃまずいしね。
参っちゃった…完全に計算違い。
敵にも光学迷彩使うのがいるなんて…。
光学迷彩は悪用される危険があるので、技術的に公開されてない。
もっとも諜報要員のために極秘裏に使ってはいるけど搭載できる大きさは戦闘機や車両が限界。
小型化はまだ無理で、ウリバタケが個人的に作っちゃったのが本当はいけないことだったんだけど…。
…このレベルの技術を持ってるのが敵ってなるとちょっとまずいね。
もっとも、アキトのレベルならあんな素人くさい相手なんてどうってことない…けど…。
「え…押されてる?
あの程度の相手、アキトなら何とかなるはずなのに…」
「…一人目のジェイの相手をした後とはいえ、ちょっと変ですね。
アキトさんにしては精彩を欠く動きです」
体力の消耗があるとはいっても、アキトの潜り抜けてきた修羅場の数からすれば、
この程度でへこたれるはずない。
確かにアキトの今の体力は『黒い皇子』時代に比べれば半減してるけど、
失われてない技術でカバーして何とか出来るはずなのに。
「あっ!光学迷彩で隠れた状態からの体当たりを!
アキトさん、まともに受けちゃいましたよ!」
「大丈夫、ガードできてるし受け身は取れてる!
…でも、なんであんなに疲れてるの?」
アキトの息切れが…ううん、なんか違う。
体力的なものじゃないみたいに見える。
何ていうか、精神的に消耗してるような…。
「…もしかしてカエンの言葉を、
まだ心のどこかで気にしてるところがあるの?」
「え…?」
「でもジェイといい、このインといい、アキトを殺しに来てる感じはしないけど…。
どうしたのかな、アキトは…」
…理由はどうあれ、アキトの状態が良くない事だけは確か。
なんとかしないと…ナデシコの人達の力もなんとか借りたいね。
そろそろ戻ってきていい頃だけど…。
「…ユリ、ちょっとナデシコに通信するね。
状況のモニターお願い」
「は、はい」
私はルリに連絡して、ナデシコの様子を聞こうとした。
けど…。
『あ、ラピスですか!?
何とか戻ろうとしてるんですけど、手間取って…。
ちょっとこっちは手が離せないんです!!』
「えっ!?どうかしたの!?」
『エリナさんから頼まれて奪われたブラックサレナの捕獲を…』
私とユリは絶叫するしかなかった。
ブラックサレナが奪われた!?
パイロットの実力は分からないけど、絶望的じゃない!!
だってフルパワーのフィールド強度はナデシコに匹敵するんだよ!?
ナデシコの人達だって強いけど、そのレベルのフィールドをぶち破れるか…。
…私、自分が青い顔をしてるのが分かる。
何しろ一番強い機動兵器を奪われて、そのせいでナデシコのみんながピンチになってる…。
そしてその結果として私を助けられそうな人たちが到着できない。
少なくともリョーコの持ってる高周波ブレードは届けないとDは倒せないのに…!!
アキト、何とか持ちこたえて!!
普通のパイロットが操るブラックサレナ程度だったらナデシコのみんなでもなんとかなるから!!
私たちは真っ黒い機動兵器…ブラックサレナとの戦闘に追われていた。
なんとかエステバリス隊の四人が対応してるけど…全然傷がつく様子がない。
これはアキト君専用機として造られた、武装は少ないけどかなり強力なエステバリス…。
フィールド強度はすでにナデシコ並とデータが出てる。
こんな、こんなすごいエステバリスがあるんだ…。
「ユリカ、グラビティブラストを高収束にしてぶつけるしかないよ!
このままじゃいつまでたってもらちが明かない」
「け、けど!あれは人が乗ってるかもしれないんだよ!!」
ジュン君の提案に、私は頷けなかった。
私はまだ人間相手と戦うのには少しためらいがある。
敵が有人でも艦隊規模で来るとか、無人兵器の数が多いとかならともかく、
有人の一機を相手にグラビティブラストを撃つのは…。
ナデシコ並のフィールドがあったとしても重力波の乱気流にもまれればただじゃすまない。
そんなことをできない…。
「いえ、大丈夫です」
ルリちゃんの小さな一言にブリッジのみんなの視線が集まった。
「オモイカネによると、どうやらあのブラックサレナ、人は乗ってないようです」
「そ、それじゃ幽霊でも乗っているのかい!?」
「いえ、アオイさん。
ブラックサレナを解析したところ、光学迷彩で隠れていますが、
木星トカゲの兵器が背中に張り付いているようです。
あれはヤドカリって渾名されてるみたいですね。
機械に乗っ取られただけで、ぶちおとしても何の問題もないです」
ルリちゃんの発言に、私は安心した。
それなら容赦なくやれるよ!
「分かった!
ルリちゃん、グラビティブラスト、フルチャージ!
やっつけちゃおう!」
…リョーコちゃんからの通信が入って私たちの動きが止まった。
どうしたんだろ。
「あ……」
私は自分の考えの甘さにうろたえた。
戦闘機や機動兵器を一機だけとらえるというのはかなり難しい。
木星トカゲや編隊を組む戦闘機というのは、動きが規則的にならざるを得ない。
そうしなければ衝突の危険があるし、戦力を分断する可能性がある。
だからこそグラビティブラストの範囲に入れることも不可能じゃないんだけど…。
『おまけに、腕もすごいんだよなんでかわからないんだけどぉ~。
まるでホシノ君と戦ってるみたいだよぉ~』
『…生きた心地がしないわ、全く』
「…ヤマダさん」
…いつものヤマダさんの訂正の叫びも、悲壮な叫びにすら聞こえてくる。
絶体絶命の状況に、明らかに冷や汗すら流しているのに…。
…私がしっかりしなきゃ!!
「…アキト。
格納庫に向かって」
『ユリカ?
あ、ああ…』
「ウリバタケさん、空戦エステバリス、アキト用のセッティングお願い!」
『ああ!任せな!』
…本当はこんな危険な敵に控えパイロットのアキトを出させたくない。
でも艦長の私が特別扱いするわけにはいかないし、
今から準備しなきゃいざって時に後悔しちゃうよ…。
……みんな、死なないで。
僕はホシノ君とインの激闘を見学して出番を待っているが…。
インは脚力がかなりあるようだが、それもホシノ君よりちょっと強いくらいだ。
全く捕らえられないほど速くもないはずだが…。
……どうしたんだ、ホシノ君は。
何度も蹴りや体当たりをくらって、ダウンさせられてる。
妙に体力を消耗しているのもあるようだが…。
いや、焦燥感に駆られているのか?
だが涙もろくてガキっぽっくなったとはいえ、そんな精神が細い奴じゃなかったと思うが…。
「がはぁっ!!」
ホシノ君が蹴りを受けて、吹き飛ばされる。
かろうじてガードはしているが、ダメージがあるな、この受け方は。
ファンの悲鳴が響き渡り、踏ん張って立とうとするホシノ君への励ましの応援もある。
だが…。
「もういい、ホシノ君。
代わってやる、休んでろよ」
僕はインを軽く制止すると、インもおとなしく待ってくれた。
…助かるが、やっぱりちょっと違和感があるな。
テレビの手前だからと言って遠慮する立場でもないだろうに。
僕がホシノ君に肩を貸すと、ホシノ君は細々と声をかけてきた。
誰にも聞こえないくらい小さい声で…。
「…ごめんなさい、アカツキさん…」
「!?」
僕はついホシノ君の表情を見た。
いつもよりずっと頼りない、あどけない子供のような目をして…。
これは!?
「君は…」
「…いつもの僕で居られる余裕がなくなっちゃったみたい。
ど、どうしよ…」
……なんてこった。
この世界のほうの人格に引きずられてるんだな、ホシノ君は。
二重人格というわけではなく、二重性格みたいな感じのようだったが…。
つまり精神的な消耗をして、弱い方の性格が上に出てきちゃったのか。
…まいったな、これは。
「落ち着け、ちょっと休んでれば良くなるだろ。
カエンに言われてちょっと堪えただけだ。
インは僕がやっつけるから休んでいたまえよ」
「…ごめんなさい」
後ろに下げてやると、いたいけな顔をしてへたり込んでるホシノ君に、
ファンの女の子が駆け寄って介抱してくれてるな。
……助かるんだけど、むかつくね、これ。
「と、いうわけで選手交代だ。
来なよ、改造人間」
「…ふん、お前が死んだら喜ぶ連中が多そうだな」
「その通り、ホシノ君と違うタイプの人にモテモテでねぇ。
だけど僕だってホシノ君ほどじゃないけどやる方だよ?」
「だろうな、手の内は見えてる」
…はぁ、さっきのジェイとの戦いで僕の戦い方を見られてたのは参ったね。
僕はホシノ君ほど必殺技や特殊な技術はないからねぇ。
ま、ホシノ君ちのためだし、命懸けて頑張るかな。
「お、落ち着いてラピス。
アカツキさんもいますから大丈夫ですよ!」
私たちはアカツキさんが戦う様子を見ていますが…。
…私は取り乱したラピスをなだめるので精一杯です。
カエンとの会話と、ラピスに怒られたのがかなり堪えたらしく…。
アキトさんのいつもの性格が引っ込んじゃったみたいですね。
一目で弱ってるのが分かるような状態になっちゃいました…。
「はぁ…こういう時にはそばに居てあげないと危ないんですが、
介抱されてれば何とか立ち直れるでしょう…むかつきますけど」
「…うう、アキト早く治って…」
ラピス、アキトさんが弱ると同時に弱りますね。
アキトさんの一部と自称するだけのことはありますよ。
…なんてのんきなこと言ってる場合じゃないですね。
うーん、とはいえ身動きがとれませんし、援護に適した人員が居ません。
なんとかしたいんですが…。
…今はラピスを抱きしめて、なだめることくらいしかできませんね。
はぁ…。
『おおっと!
ここでホシノアキト様も人の子ということで、弱ってますねぇ?
さすがにサイボーグ相手は荷が重かったかしら?』
『えー?これも演出じゃないの?』
『でも世間の乙女のハートを射抜く、ベイビーフェイスになってるじゃない?
大根役者で有名なアキト様がこんな演技できっこないしぃ?
ほら、介抱されてうろたえちゃってるわよ?
かっわいい~~~』
『あ~~~…あんた結構そういう趣味があるのね。
でも手のかかる子ほどかわいいっていう親心みたいなの、
ある子も結構多いってことかしら?』
『こういうのは顔立ちがいいから許されるのよ!
かわいいは正義!ってご存知ないかしら?』
……みんな動きが止まってる。
せっかくみんなが出来ることはないか考えて動き始めたっていうのに、
アキト隊長が精神的に追い詰められて幼児退行起こして…。
いつもと違うアキト様を見れて、保護欲を掻き立てて、見入ってしまう悪い展開に。
……そういえば、眼上さんがこんなふうになったって言ってたような。
ってこんなことしてる場合じゃない!!
私が叫ぶと、みんなハッとしたように動き始めた。
…能力あるし、やる気はあるんだけどね、みんな。
はぁ。
…僕は水を手渡されて、ファンの人に介抱されて、なんとか落ち着いてきた。
以前、僕が目覚めた時は…『テンカワアキトの人格』について覚えてない状態だったけど…。
今は割とはっきりと、テンカワアキト側の記憶もしっかり覚えてる。
それが自分自身だと分かる。
やっぱり、僕は彼だったんだ…。
でも何で今この状態になったんだろ。
確かにちょっと気分が悪いけど…自分を見失ったのかな。
分からない…どうして、僕は…。
「ぐはぁっ!!」
「あ、アカツキさん!!」
アカツキさんはモロにインの前蹴りを受けてしまって、ダウンした。
インは姿を消して移動し、攻撃をしてくる。
アカツキさんでは彼の姿をとらえられず、かろうじて反撃するのが精いっぱいだった。
それも深く入らずに、大したダメージにはなっていないみたいだ…。
「ちぃ…。
僕でも時間稼ぎが精一杯か…。
光学迷彩がなけりゃ互角以上にやれると思うんだけどね…」
「それがお前の限界だ。
所詮人間業だ」
…どうしよう。
このままじゃラピスちゃんが…。
!……そうだ!!
「消火器ある!?」
「え?そこに…」
「貸して!!」
僕は消火器を手に取ると、インに向かって放射した。
当然、周囲に消化用のピンクの粉塵が上がり、インにはその粉が集中的にかかった。
そうすると、光学迷彩がオンになってても姿が見える。
…挑発するためにわざわざ姿を現したのが仇になったんだ!!
「ぐっ!?
し、しまった!?」
「ナイスだ、ホシノ君!
光学迷彩と言えど、粉じんはそうそう隠せない!
これで互角だ!!」
「くそっ!」
インはなりふり構わず、アカツキさんと戦い始めた。
二人は一進一退の攻防を始めた。
トータルの身体能力も技術的にもアカツキさんの方が上。
だから、ハンデがゼロになればほぼ勝てるはず!
インの技術じゃ、勝てっこない!
「頑張って…!
うっ……!?」
「アキト様!?」
「す、すごい脂汗…。
救急車を!!」
あ、頭が割れるように痛い…。
い、意識が保てない…うぐ…。
…僕は真っ暗闇の中に落ちた。
意識を失ったのかな。
でもなんか変な気分だ…意識が妙にはっきりしてる。
「…来たか」
!?
僕の前に、もう一人の僕…いや、これは『テンカワアキト』!
それもこの世界のテンカワアキトじゃない、僕自身の前世の姿ともいうべき、
『黒い皇子』だ!!
「こうして出会うのは初めてだな。
もっとも二重人格のように別れるのも初めての事なんだろうが」
…そう、僕たちは通常の二重人格とは違う。
一つの心が、時々性格が変わるだけなんだ。
テンカワアキトとしての人生も、ホシノアキトとしての人生も、消し去ることはできず…。
どちらとしても、常に存在し続ける。
生活する時のベースの性格は『本来の』テンカワアキトの性格をしている、奇妙な人間。
「どうやら余裕があれば俺たちはひとつでいられるようだが、
追い詰められると耐えきれないようだな。
情けないことだが」
「…僕はかつて人殺しだったんだね」
…この世界のホシノアキトとして、知りたくなかった事実。
消滅した未来のことだと知っていても…この事実は知りたくなかった。
「ああ」
「…君は、どうして」
「分かってるんだろう、ホシノアキト。
もしお前が、俺と同じ育ち方、同じ境遇に置かれていたらそうなっていたと」
「だ、だけど!!」
「受け止めきれないのは仕方ない。
だが、この世界ではそうならないように戦ってきたのも、わかっているだろう」
「それでも…君みたいなやつと、
人殺しと一つになるなんて嫌だ!」
テンカワアキトはため息を吐いた。
…僕も分かっている。
本当はこの人も、人を殺したいと思うような人じゃないんだ…。
それでも、抵抗はあった。
元々一つの人間で、分けようがないって分かっていても…。
「…それは追々決めろ。
それにこの程度の分離ではすぐに戻ってしまうだろう。
だがこのままじゃラピスが死ぬ」
「…」
「すぐに一つになるのが嫌なら……今だけは俺に体を完全に任せろ。
お前ではインには勝てん」
「い、インはアカツキさんが倒すよ!」
「ダメだ。
ここまででアカツキはかなりダメージを負ってる。
放っておけば致命傷になりかねん。
さらに、この後にはまだブーステッドマンは三人も残ってる。
……安心しろ、誰も殺しはしない」
「……約束だよ?」
「ああ。
俺も誰も殺さないと…誓ったからな」
……ユリさんと約束、してたもんね。
僕も頭じゃ分かってる…この人は僕自身だから…。
僕がテンカワアキトにほんの少しだけ信頼を置くと…。
意識が急速に現実に引き戻されていく…。
そして…。
こ、こいつはきついね…。
僕はインと攻防して、かろうじていい勝負にはなってるけど…。
ここまででダメージを受けすぎたね。体力が持たない。
ちょっと休まないと、回復できそうにない。骨身にこたえる攻撃が多すぎた。
体当たりって質量攻撃がかなりきついんだよねぇ。
「ぜっ…ぜぇ…や、やるね…」
「はぁ…はぁ…ブーステッドマン相手によくやる…。
骨の二、三本でも折ってやろうと思っていたのに…」
「簡単にやらせるわけないだろ。
僕だってプロ並みに鍛えたんだから」
…はぁ、ちょっとだけ後悔してるよ。
ゴートとプロスを連れてこられなかったのは。
気が抜けないね。
「…どけ、アカツキ」
「ほ、ホシノ君!?」
僕は音もなく後ろに立ったホシノ君の姿を確認して驚いた。
精神的に回復したのかとおもったが、それ以上だった。
彼は『テンカワ君』それも『黒い皇子』に戻っていた。
後ろでホシノ君を開放していたファンの女の子が固まっている。
それはそうだ。
何しろ髪も瞳も真っ黒に戻ったホシノ君が周りを凍りつかせる鋭い空気を放っていたからだ。
さっきのあどけない表情が嘘のようだ。
「…立ち直りすぎじゃないか?そりゃ」
「…ちょっと折り合いがつかなかっただけだ。
どうも『ぼうや』は力を貸してくれないらしい」
……ああ、なるほど。
『この世界のホシノアキト』の人格と喧嘩でもしたのか。
「仲直りしたら元通りになれる。
…それに」
ホシノ君は僕の前に立って、インに向き合った。
その表情、その立ち振る舞い…。
…やっぱり『黒い皇子』そのものだ。
この世界で、どうやっても出会いたかった彼がここにいる。
だが、すでに僕は彼を欲していない…。
木連を滅ぼしてでも、という気持ちはすでに柔いでいる。
彼自身も、この姿に戻ったとしても、そうしたいと思っちゃいないだろうしね。
「…それにこいつには、
『俺』の方が相性がよさそうだ」
目の前のインは服をはたいて、水をかぶって粉じんを振るい落としている。
僕らが話してる間に、光学迷彩がよみがえっちゃったね。
もっとも…そんなものはもう役に立たなくなるんだけど。
「…君、その状態だとやっぱりちょっと五感が悪いのかい?」
「ああ、昔に比べるとマシだがな。
少し耳は遠いし、色の区別がつかん。
触覚も少し鈍いが…嗅覚と味覚は大丈夫そうだな」
……君、それだけでずいぶん機嫌がよさそうだね。
髪が黒くなってるということは、五感をサポートしてるナノマシンまで止まってるようだが…。
…別にこの世界では五感を失ってないそうだが、
脳細胞の一部がナノマシンに置き換わっているので、
ナノマシンが完全に止まると動けなくなる場合があるそうだが、
多少ナノマシンが止まっても大丈夫そうだな、これは。
偶然だがナノマシン治療の希望は見えたかもしれないな。
「…『黒い皇子』再公演ってわけかい?」
「…冗談にしてはタチが悪いがな」
ホシノ君は先ほどまでは外していたバイザーを付けると、あの頃の悪い笑みを浮かべた。
火星の後継者に対抗するために、心までテロリストそのものに染め上げたころの、
あの冷たくて、容赦なくて、深い深い闇を感じさせる笑みだ。
──インが、震えた。
その静かな殺気に。
触れたら傷つくだけではなく存在が削り取られそうな闇に畏怖を覚えた…。
もう勝ち目はないだろう、僕やイン程度では…。
「イン。
やるか、やめとくか、どっちにする。
続けるなら……」
「ぐ…」
「───壊れても知らんぞ?」
インは再び背筋に走った寒気に震わせた。
……大丈夫かな。
放送禁止になりそうな悪い笑みだよ、これ。
「あーーーーー…。
こうなると安心だけどどうしてこんな極端かなぁ…。
はぁ…アキトもファンが減っちゃうかもね、こうなると」
「…それはどうでもいいです。
ちょっとくらい減った方がいいです。
…でも大丈夫ですか、あれ」
「んー大丈夫だとはおもうけど、
インは死なないまでも可哀そうなことになるかもね」
…私たちはアキトさんが立ち直って、
『黒い皇子』そのものになる姿をみてため息を吐きました。
半分は安堵のため息ですけど。
ああなればアキトさんはまず負けません。
いいことではないんですけど、死ぬよりはずっとましです。
「…私、あのアキトさんあんまり好きじゃないです」
「あら、言うじゃんユリ。
大切な人だから追っかけるって言ってたのに」
「大切な人だから嫌なんです。
あれもアキトさんの一部分だから受け入れたいとは思いますけど、
進んでああなってしまうのは嫌です」
「まー分かるよ。
私も『ホシノアキト』になっちゃったアキトのほうが好きだし」
…もっとも、『黒い皇子』でもDには勝てないかもしれません。
早くナデシコに、そしてリョーコさんに戻ってきてもらわないと…。
…はぁ、何とか穏便に済ませたいですね。
『ど、どうしたのかしら!?
先ほどまでのベイビーフェイスから一転、
ヒールも真っ青、姿は真っ黒、戦う姿は黒い花!
まるっきり邪悪の化身みたいになっちゃったわよ!?』
『も、もしかして中二病もかくや、二重人格なのでは!?』
『ええ~~~~~!?
どんだけ設定盛るの、アキト様ってば!!
いえ、三重人格じゃない!?
だって普段の状態、さっきの幼児退行、それから今のヒール状態!!
……次はなにかしら、実は宇宙人だったとか』
『ありえないわ…けでもないわよねぇ、アキト様の場合…。
それに噂では銃弾で胸に穴が開いた時、
ナノマシンの光がこぼれて宇宙人みたいになってたそうだから…』
『……なんでもありかしら』
『それに『世紀末の魔術師』のピカレスクスタイルが似合ってたのも説得力があるわよねぇ。
ひょっとしたら、こんな邪悪な姿でも新規ファンが出来ちゃうんじゃないかしら?』
『もう、設定とかじゃないんじゃないかって気がするわよねぇ、これじゃぁ』
『と、いうわけで、次回のラジオから、この姿をみて新規にホシノアキトファンになった皆様、
この姿を見てより好きになっちゃった人からのお便り、お待ちしてます~』
…再び、みんな動きを止めちゃったわ。
……今度は悲鳴が聞こえてくるわね。
『悪堕ち』ともいうべき、このアキト様の姿。
かなり暴力的にインをぼっこぼこにしてるわ…。
それになんでか、光学迷彩で隠れるインの場所を正確に見抜いて攻撃してる。
…さすがの私もこの状態はおっかなくて近付きたくないわね。
みんなもドン引き状態…。
でも…。
「あぁ…アキト様…なんて悪そうな…ああ…素敵……。
青葉、アキト様になら好きに使われてボロ雑巾みたいに捨てられてもいい…。
一生ついていきたい…」
………なんかピンポイントでツボに入ってメロメロになってるのよね、青葉と他数名。
私はアキト隊長にはハードボイルドなんて言葉が全く似合わないと思ってたのに…。
……そ、それでも私もアキト隊長を信じてるけどね。
これがラピスちゃんの言ってた、婚約者を助けるために復讐に燃えた時期の姿なんだろうから。
なんでこの恰好になったのかはちょっとわからないけど…世間の反応が不安だわね…。
はぁ、これからもいろいろ大変そうだわ。
私はお茶などを飲みながら、木星トカゲの襲撃で廃墟になったホテルのスイートルームに居ます。
そこでおとなしくアキト様の到着を待っているわけですが…。
真っ黒になって悪そうになったアキト様をみて、つい心が躍ってしまいますわ!
普段とは違うあの強さ、あの悪さ、とってもしびれてしまいます!
…うふふ、これは面白くなってきました。
この状態でアキト様がここに来てくれたら、
挑発がうまくいったら私を殺してくれるかも…。
私が付けている首輪はラピスラズリと同じ、心臓が止まったら爆発する仕組みですもの。
心中は大成功、ライバル起業の孫娘を撃ったとあれば私をアキト様の名声もどん底ですわ。
この部屋の映像も地上波で流す予定ですもの。
おじい様にも褒められちゃう。うふふふ…。
…ただ、なんとなくあればアキト様の本性とは思えない自分が居ます。
ここに来たとして、厳しい態度で臨まないんではないかと予想している…。
普段のアキト様の態度と違い過ぎるからっていうのもありますが。
…まあ、どのみち心中の成功を目指すだけです。
もしじれったいことするようだったら、私が起爆装置を押すだけですし。
待ち遠しいですわ。
「はーやくこいこい、アキトーさまー♪」
どうもこんばんわ、武説草です。
諸事情に付き、今回もちょっと短めです。
激闘に次ぐ激闘で、ホシノアキト君もちょっと余裕がないです。
しかしその為にいろんな場所に影響を与えそうな『黒い皇子』再演と相成りました。
ああ、イン無事でいてくれ。
それでもなお盛り上がっているアクア嬢、余裕の笑み。
Dに勝つ方法は果たしてあるのか!?
ナデシコはブラックサレナに勝つことができるのか!?
そんでなんでヤドカリに操られてそんなに強いのか!?
ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!
一見主張が正当だったとしても、手段が過剰だったりするんでテロは本当にあかんですね。
何か他に方法がある場合も多いのに、というのでああいう描写になりました。
カエンみたいに明らかに逆恨みだったりする場合もありますし。
ただアキトもテロリスト経験者なので感情移入しちゃったわけですね。
…劇場版では一応死者がなかったように表現してはいますが、
二次創作では作品によってまちまちなんですよね、アキトが殺した人数。
責任を負うために矢面に立とうとしただけで実はゼロ、という可能性すらあるのが何とも。
(だからこそ取り方に多様性があって楽しいともいう)
アカツキ・インダストリとクリムゾン社の暗闘は長く続いていた。
報復に次ぐ報復、復讐に次ぐ復讐に、暗闘開戦の理由も定かではなくなっていた。
『ドーモ、カエン=サン。
ダーク・プリンス、デス』
『ドーモ、ダーク・プリンス=サン。
カエンデス』
ゴウランガ!!
カエンのカエン=ジツが、ダーク・プリンスの肌を焼こうとした時、
ダーク・プリンスはバク転で回避!
すかさず、カエンを抱えて上昇!
あれは!!
ニンジャ動体視力をお持ちの読者の皆様なら見えた事だろう、
あの動きは──
紀元前に起こった『激頑雅』文化から派生した木連式・ヤワラの奥義!
キリモミ回転を帯びた必殺の一撃!
この落下地点にアフリカゾウが居たとしても、即死は免れないだろう。
………続きません。
ジェイは色々とさわやかな印象があります。
カエンとは違う方法で人の心の中に生き様を刻んだなって…。
バカはバカに見抜かれ、バカに模倣される。
…ある意味、アクアはラピスの同類ですね。環境は違うけど。
……インだ。
突如、真っ黒になってパワーアップしたホシノアキト…。
俺はもはや手も足も出ないが、あの殺気、何人殺したんだ…!?
一矢報いてやりたいところだが、どうなるか…。
…本当は参ったといいたいところだが、どうもひっこめない。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
…生きて帰れるだろうか。
暗闘が出来ない状態に置くことでかえって退けない状態を作る、
ちょっと意地の悪いけどバカで明るい系ナデシコ二次創作、
をみんなで見てくれ。
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代理人の感想
まあ女は影のある男に弱いからw
美形で影がありゃ、それだけで女が群がってくるものよぉ!(偏見・・・でもない
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