私はついにアクアが…自ら作戦を発案し、実行するのを目の当たりにしていた。
…驚いたことにアクアは、私の想像を上回るスケール、そして馬鹿げた、
だがとてつもなく有効な作戦を立ててホシノアキトを陥れている。
しかも好都合なことに、ネルガルの若造会長まで一緒に居る。
もしかしたら、あの忌々しい二人をまとめて始末できるかもしれん…。
…手段のバカバカしさはさておいても、こんなにいい状況に持ち込む方法があったとは。
それにあの『ブーステッドマン』たちのことだ。
私、そしてアクアは彼らにとっては仇であり、加害者であるにも関わらず、
どんな手を使ったのか、うまく味方に引き込み、実行犯に仕立て上げた。
彼らはすでにクリムゾンからは切れている…ということになっている。
彼らのメンテナンス費や保護用の住宅など程度は保障せざるを得なかったが、
それ以上はお互いに不干渉を貫く約束をした。
彼らも報復をしない代わりに、私達も彼らの命を保証する…。
そうしない限り、彼らが命を賭けて表立って、
クリムゾンを批難することを選ぶ可能性があったからだ。
少し前ならそれくらい叩き潰せたが、今はまずい。
ステルンクーゲルminiとPMCセレネの件で、
人権を踏みにじっているという評判が蔓延している今では…。
…それがなければ、保護もメンテナンスもしてやる義理もない。
ガサ入れがなければ廃棄処分も容易だったろうからな…。
「やりますね、アクア嬢は」
「期待していなかったが、腐ってもわが一族の血を引いてるということだな。
…とはいえエキセントリックなことばかりする、
あの孫娘にはここで消えてもらいたい。
あれを御することの出来る人間など居ないだろうからな」
「全くで…おっと、これは無礼ですね」
「いや、構わん。
この数か月、苦労をかけたな」
…能力の優秀さを認めるにしても、
あの突拍子のないアクアにクリムゾンに居られては困る。
ここはアクアの作戦通り、
『ブーステッドマンがホシノアキトを標的にテロ行為を働くため、
ホシノユリに爆弾を取り付けた。
ホシノアキトは解除器を確保するためにブーステッドマンに戦いを挑み、
その最中で、ブーステッドマンが自爆した。
一方でブーステッドマン達は、
クリムゾンへの報復目的でアクアを誘拐しており、
その自爆にアクアが巻き込まれた』
という筋書きを完遂するのが良かろう。
ホシノアキトもアカツキの若造も、ブーステッドマンもアクアもまとめて始末できる。
しかもだ。
ブーステッドマンは犯行声明もしっかり録画済みで、
ホシノアキトがネルガルの人体実験を隠匿する目的で、
人体実験の被害者としてネルガルを告発しなかった事でテロを起こした事にするらしい。
それにクリムゾンへの報復目的というのは告発されても、知らぬ存ぜぬで通せる。
何しろ世間的にはまだクリムゾンが人体実験を行っていたとは明らかになってない。
当人たちが死亡すればそれで証拠はゼロになる。
だがネルガルはどうだ?
まだ人体実験の産物が何人も生き残っている…。
ホシノユリの代わりに爆弾を付けられたラピスラズリ、
そしてホシノアキトが死んでも、まだ三人もいる。
だったらクリムゾンの人体実験をネルガルに押し付ける方法などいくらでもある。
ブーステッドマンの人体実験を行っていた研究所のほとんどはまだダミー会社が握ってたことになっている。
ダミー会社の重役をすべて始末してやれば痕跡を消す事も可能だろう。
そう考えれば、果実が勝手に落ちてくるのを待った方が得だ。
それにこの戦いはホシノアキトが自分から始めたことになっている。
そうなれば、すべての責任をヤツに押し付けることもできるかもしれん。
義理の妹に本物の爆弾を取り付けて、無謀なことを始めたと。
知らなかったでは済まんだろう。
仮に失敗したとしても、アクアはクリムゾンから追い出せる。
嫁ぎ先を勝手に決めてきたのは頂けないが、うかつに手元に残すよりマシだ。
ホシノアキトを映画に出した所で、どれだけヒットしようが、
クリムゾンに悪影響を及ぼすわけがないだろう。
…トータルで考えて、どうあっても損はしないやり方だ。
制御できない一族の汚点が消えると考えればなんでもいい。
アクア…突拍子のないところと趣味に走る癖さえなければまだ…。
とはいえ…失うことに感傷を覚えるほど愛した孫娘ではないがな。
私とラピスはアキトさんの姿が普段通りになるのを確認してホッとしました。
戦い方が明らかに手加減しているのは分かっていたので不安はなかったんですが、
やっぱりサディスティックな戦いぶりで嫌です。
インは気にしてない様子でしたが、さすがにイメージダウンはしそうですね。
でもファンの女の子たちは戸惑いながらも、
しっかり追っかけてるあたり、ファンの数は減らない気もします。
…はぁ。
「ホント嫌です、あの姿」
「ユリ。
それでもアキトは嫌いになれないでしょ」
「それはそうですよ」
簡単に嫌いになれるほど浅い惚れ方してません。
ファンの女の子たち以下の愛情じゃないですか、そんなの。
アキトさんは自分の命をかけたいと思える人です。
でも、そういえば…。
「…ラピス、ちょっと聞きたかったんですけど。
やっぱり昔のアキトさんの事…ラピスも話してはくれないんですね」
「アキトが言わないんだったら私も言わないよ。
…知りたいの?」
「いえ、片鱗を見たので何が起こったのかは知ってます。
でもなんていうか…」
…アカツキさんもエリナさんも、ラピスもアキトさんの過去を知っています。
身近な場所で見続け…堕ち続けるアキトさんを、支えてしまったんです。
私だけが知らないでいていいものかどうか…アキトさんを受け止めるというのは、
そこまで全部知るということじゃないかと思うんですけど…。
「…ユリ、うぬぼれないで。
昔はともかく、今のユリはより優しい心の持ち主だから。
きっと全部聞いたらユリの心が壊れるよ」
想像以上の答えが返ってきたので、私は肩を震わせました。
…私が想像できないレベルの闇があるんです、きっと。
「それに…人間知られたくないことの一つや二つあるでしょ。
無理に踏み込んだら、ユリの心の前にアキトとの関係が壊れるよ。
いい、ユリ。
アキトは昔を思い出さないで済む、今の自分が好きなんだよ。
だからユリをためらいなく抱きしめられるの。
それくらいわかってるでしょ」
「わかっ、て、ますけど…」
「アキトの気持ちが分かってるなら、深く知らないままで、
昔の、テンカワだったころのアキトと同じように愛してあげて。
そうしてあげたほうがよっぽど嬉しいんだよ、アキトは。
だから知らなくていいの」
……情けないです、何も言い返せない。
ラピスの言う通りです。
アキトさんはそうして欲しいと思ってて…その方がアキトさんの為になるって分かってるのに…。
半端にアキトさんの事を全部知らないといけないって、思ってしまいました。
いつもはこんな事、考えないのに…。
…やっぱりちょっといろいろあって私、弱ってるのかな…。
ラピスの方がプレッシャーを感じてるはずなのに…。
「ただね、アキトの力の源は、愛と憎しみの表裏一体だから。
昔より素直で、愛情深さも増してるだけに、
また憎しみにとらわれたらもうアウトだよ。
たぶん二度と戻れないかも。
犯人を殺しても収まり切らないか…。
もしかしたら今度は世界がまるごと滅びちゃうかもね?」
「っ」
…ラピスの言ってることが冗談とは思えませんでした。
アキトさんはどんなに強くなっても限度がありますが…。
アカツキさんと計画的に火星の後継者を負いまわしていたことから考えても、
協力者を募って、逆襲し…犯人を殺す。
その上で連合軍や企業、加担した勢力すべてを滅ぼすところまでやらないとは断言できません。
結果として全世界に混乱と戦争があふれるとしてもそうしてしまうかもしれません。
これは衝動で誰かを殺すのより、ある意味ではタチが悪いです。
あふれる憎悪を抑え込んで冷静に、相手を滅ぼす方法を実行に移し…追いつめ…。
殺す時に憎悪を解放していたぶる。
アキトさんは、その快楽を知っている……やはり、あの『黒い皇子』は狂っているんです。
それもアキトさんの一面であり、二度と表に出してはいけないものです。
…先ほどの戦いで、アキトさんの中から消せない部分なんだって思い知らされました。
今回は辛うじてちゃんとブレーキがかかりましたが、
誰かが死ねばあの頃の姿に戻ったまま帰ってこれないかもしれません。
そうなったら…アキトさんは冷静になった時に、『やはり自分は殺人者に過ぎない』と振り返ってしまう。
絶対に夢を諦めてしまいます。私の前から居なくなってしまうかもしれません。
今のアキトさんはかなり危ういバランスです。
…だからこそアキトさんを狂気に走らせないようにしないといけないわけですが…。
「だからユリはどうあっても死んじゃダメ。
ユリが居る限り、どんなことがあってもぎりぎりアキトは立ち直れる。
ユリがアキトを愛の鎖でがんじがらめにして、縛り付けておかないとね。
責任重大だね?ユリ?」
「…他人事みたいに言わないで下さいよ、ラピス。
あなたが死んだって結果は同じかもしれないんですよ」
先ほどまでの話でもラピスは私の重要度を語っていましたが…。
アキトさんの性格上、本当にラピスが死んだらどうなるかわかりません。
悲しむ相手の話をしてた時とは打って変わって、責任を私に押し付ける憎らしい強がりを見せます。
…緊張してるくせに、です。
「そこまで思われてるなら本望だけど…。
でも、やっぱ無責任かなぁ、これ」
「無責任です、とんでもなく」
首輪をつっついてラピスは困ったような顔をしてます。
恐怖を感じてなさそうにひょうひょうとしてますが、やっぱり手に汗をかいているようです。
…はぁ、自分でなんでも背負い込むのと、やせ我慢が得意になってるの、
やっぱりアキトさんの影響なんですかね。
でもアキトさんとは違って、図太く、自分の理論を通すための無責任を堂々とやらかします。
…それが結果として通っちゃうと、ユリカさん顔負けの戦術家ってことになるあたり、
ラピスはユリカさんとアキトさんの子供のようにすらも見えますね。
そしてラピスは、ストローカップをゆらゆら揺らしながら眺めました。
「今のアキトってねぇ…このタピオカミルクティーじゃないけど、
白っぽい甘さの中に黒っぽい甘さが沈み込んでて、ちらちら見えてるの。
ミルクティー部分だけが全部なくなったら、黒いタピオカだけが丸見えになるよ。
その実、どっちも根源的には甘いんだけど…こっちだけの場合、喉に詰まらせるわけよ。
でもそれって、もう飲み物じゃないわけじゃない?」
「…なんかあんまりいい例えには聞こえませんけど、言いたいことは分かります。
もし『ホシノアキト』部分が消えるほどの憎しみにとらわれたら、
もうアキトさんはアキトさんじゃなくなるんですね」
「うん、その解釈であってるよ。
『黒い皇子』でいたアキトが危ういながらも、『テンカワアキト』で居られたのは…。
『テンカワユリカ』が生きていたからなんだから…」
私の胸がぎゅっと締め付けられました。
当時、あそこまで堕ちたアキトさんが辛うじて人の心を失わなかったのは、
やっぱりユリカさんが生きていたからなんです。
もし最初から死んでると分かって居たら…恐ろしいことになっていたかもしれません。
ターミナルコロニーの関係者が脱出できない状態でも襲撃して、数万以上の死人を出したり…。
……考えたくありませんが、『黒い皇子』のアキトさんはそうしかねません。
この世界に来て、ユリカさんの死を受け入れられたのは…きっと、
アキトさんの中に『ホシノアキト』の部分があったから。
穏やかで、人を傷つけるどころか何もできない、本当に子どもの心を抱いた真っ白なホシノアキトが…。
真っ黒いアキトさんの心を中和して、元のアキトさんと同じくらいの濃度になってくれただけなんです。
もしそうでなかったら、もしかしたら…。
「だからね、ユリ」
ラピスは私の頬をしっかりつかんで私の目を見据えました。
どこか…ユリカさんの面影を感じるラピスの顔。
覚悟に満ちた、どこか寂しそうな瞳で…。
「…絶対、死んじゃダメだよ?」
「…分かってますよ」
「…それでね、もし私が死ぬようなことがあったら」
「だからそんな事はさせないと」
ラピスが声を荒げると、私は金縛りにあったかのように動けなくなってしまいました。
死の恐怖ではない…何かに怯えた様子で…。
「……バカなことしたの、分かってる。
ユリがアキトと不倫して良いって…言ってくれたの、すごい嬉しかった。
だから諦めないよ。
大丈夫、最後の最後まであきらめないってば。
でも…諦めなきゃいけないって時が来たらこれだけはアキトに言っておいてほしいの」
私は息を飲んで、ラピスの声に耳を傾けようとしました。
「なん、です」
「…アキトは優しいから、私を助けられない自分を許せないと思う。
きっと復讐しないって、無理だと思う。
だからまず、私を責めてほしいって…。
それでも収まらないなら、その時は仇を討ってって。
でも、今度はできる限りまっとうな方法で…。
今のアキトなら、きっと昔みたいな暗闘しなくても、相手を何とか出来る。
全世界が味方になってくれるよ、きっと。
…アキトに手を直接汚させない方法を、取ってもらえるようにして…」
「ラピス、あなたは…」
「…この方法だと、何年もアキトは苦しむ。
でもね、焦って何人も殺す方法だけはとってほしくないの。
そっちのほうがきっと早く相手にたどり着くし、
アキトが自分の手でどうしても相手を殺したいって言い始めたら止められないけど…。
……でもね、こういう遺言、破れるアキトじゃないでしょ?」
「……相変わらず策士ですね、ラピス。
アキトさんが…少なくとも直接言われたら逆らえないって分かってて。
それで、そのボイスレコーダーを渡してほしいんですね?」
「てへ、バレてたか」
ラピスは自分のポケットからボイスレコーダーを取り出すと私に預けました。
…アキトさんがどれだけ生きられるかわかりませんし、
犯人探しに何年かかるかわかりませんが…。
そこまでの過程で、アキトさんが狂う可能性は少しですが減ってくれます。
アキトさんもまっとうな人間で居たい気持ちの方が大きいと思いますし。
ラピスは自分の死より、アキトさんが『黒い皇子』に戻るのを一番恐れているんですね…。
実際にラピスが死んだら気持ち的にも世間的にもボロボロになるかもしれませんが…。
確かに逆に世間に力を借りられる可能性も高いです。
そうなれば、勝てる可能性はゼロじゃなくなります。
非合法の方法だけが手段じゃありませんし、
私もそこまでの事態になったらハッキングでもなんでもしますし。
…それに実行犯がカエンたちであっても、計画は別の人間が作ってる可能性があります。
カエンたちはアキトさんに恨みがあっても、それ以上に人体実験をした人を恨んでるはずです。
そう考えれば明かなターゲット違いの相手を選んだ理由が必要です。
…誰かにそそのかされたか、計画を持ち込まれたか…。
とにかく、ラピスの配慮は適切です。
私はこのボイスレコーダーを届ける必要があります…けど…。
「…だからもう少ししたら、ブリッジから出て行った方がいいと思うよ。
ちょっと分が悪い戦いだから…」
「…そうはいきませんよ」
まだやけっぱちなところがあるラピスを放っておくのはちょっと無理です。
いえ、もう大丈夫だとはおもうんですが、心細いのには違いないでしょうから。
できる限り、一緒に居たいですし、協力できることも多いはずですから。
ラピスは私の目を見た後、目を閉じてじっと考えてましたが、すぐに目を開きました。
「…分かった、ブリッジからは出ないでいい。
でも、最悪の事があったら困るから、爆風を防げるようにだけは気を付けてほしいの。
爆風が届きづらいようにユリがブリッジの下の方の…オペレーター席に行くのと…。
あと、盾くらいは挟んだ方がいいでしょ。
保安部に盾でも借りてきたほうがいいよ」
「…はぁ、仕方ありません。妥協しますよ。
ラピスはこれ以上どうこうしたらまたスタンガン押しあててきそうですから」
「うん、さすがユリ。
賢いね」
…あの電撃はもう喰らいたくありません。
とりあえず、肉声が聴ける距離に居るのと…私がオペレートできる状態は確保した方がいいです。
ラピスはIFS仕様のノートパソコンを開いてオモイカネダッシュと接続し始めて…。
私は保安部に盾を持って来てもらう連絡をして、ラピスは接続が終わって一息ついてます。
「…そだ、ちょっと最後に…いや最後はちょっと縁起が悪いかな。
でも最後になるかもだから…。
ああもう!なんでもいいや!
ユリ、ちょっと来てくれる?」
「…なんです?」
私がオペレーター席から離れてラピスの前に立つと…。
ラピスは私を抱きしめて、私の胸元に顔をうずめています。
こんなこと、今まで一度もなかったんですが…。
「ら、ラピス?」
「……あ、あのね。
私も…一応妹だから…。
…ちょっとくらい、その、素直になっておきたいって思って。
…ユリ、お姉ちゃんに…」
「ラピス…」
……ラピスは、こう…エリナさんに懐きすぎてて、立ち入る隙がないと思ってたんですが…。
アキトさんをとりあう恋敵と思われてると考えてたんですが…。
…いえ単に私が警戒してただけだったかもしれませんね。
私は、あの時エリナさんを許したつもりでしたけど…。
やっぱり、エリナさんに嫉妬して…怒ってたんでしょう。
エリナさんにも、エリナさんに懐くラピスにも…。
だからお互いに…微妙に距離が遠くて…。
勝手に怒って、勝手に相手に距離を空けて、勝手に苦手になって…。
こんな時にならないと本音が言えないなんて。
……ホント、バカです、私達。
「ラピス、私こそごめんね。
ルリと同じ扱いをしてるつもりだったけど…やっぱり私、自分に甘いみたい。
ルリが仲良くしてる、可愛い妹をちゃんと見てなかったんだね。
……今度、ルリとユリカさんと、四人で出かけましょ?
たまにはアキトさん抜きで、女の子同士で」
「!!
ラピスは元気に頷いて、笑顔でぽろぽろと涙を流した。
これは生き残らないと、果たせない約束だけど…。
でもやっぱり、何個も大事な約束がないと最後の最後で踏ん張れないから。
ラピスの普段の仕事ぶり、生き方はどちらかというとエリナさんよりだけど…。
年相応の、構ってほしい年頃の弱いところをようやく私にも少しずつ出してくれるようになって…。
…ラピスは自立してるからもうお姉さんが要らないんじゃって思ったけど、
まだエリナさんにも甘えてるって分かってたのに…私も鈍いんですね。
これから、もっと…。
…さて、私も頑張りましょう!
大事な妹の『これから』がなくなっちゃ、ダメです!
アキトさんのためもありますが、今回の場合はまずラピスのためです!
ブラックサレナのこともありますし、
情報収集と、ナデシコとの連絡をしないと!
私達保安部は、ユリさんに言われて盾をブリッジに持ってきたけど…。
二人の悲壮な覚悟を感じて辛かったんだけど、でもその時、確かに何かを感じた。
ユリさんとラピスちゃんの間に、今までにない柔らかさと…絆を感じた。
何か…危機を迎えて何か、あったみたいね…。
「なんかいがみ合ってはいなかったけど、
あの二人って息がぴったりな割に、
仲がいい感じじゃなかったんだけどねぇ」
「そうなのよ」
私とさつきとレオナはぼやきながら、装甲服を身にまとっていた。
必要にはならないかもしれないけど、矢面に立つ場合がある。
…エステバリスパイロットよりもこっちの仕事のほうが多いのってちょっと複雑だけど。
「なんていうの、アキト様挟んでるから仕方なく、って感じでいたわよね。
ラピスちゃんって人を動かすけど豪腕なところあるじゃない?
だからアキト様も過度に嫌がってはいないけど、苦労してるみたいだし…」
「そうよねぇ」
レオナの評価はPMCマルス第一期メンバーである12人の私達で共通してる。
ラピスちゃんの作戦に乗らないといけない状況が多いのと、
判断が適切過ぎて口出しできないから、ユリさんでも反対すらできない事が多い。
…今回の爆弾首輪の判断はちょっとヤバすぎるけどね。
「…そういえばラピスちゃん数年眠ってたって聞いたけど、あの感じだと、
ユリさんとラピスちゃんって姉妹の割に最近まで面識なかった気がしない?」
「「するする」」
「いくらホシノ家がその…人売りのための名義貸し一家だとしてもよ?
ちょっと距離感がありすぎるんじゃないかって」
「そこでエリナ秘書さんじゃない?」
む、いきなり重子が割って入ってきたわね。
外回りの営業モードから着替えるために来たみたいだけど。
「エリナ秘書さんアキト様とどこまで行ってたかしらないけど、
一時的にラピスちゃんの保護者だったみたいじゃない?
ってなると…ほら、やっぱり同棲アリの元カノとの間の子供みたいな立ち位置になるでしょ、
ラピスちゃんって」
そういえばそうよね…ユリさんも人の子だし、嫉妬しないわけじゃないし。
ラピスちゃんもエリナ秘書とアキト様がくっつかなかったのって不満かもしれないし。
実験体同士で仮の家庭があるみたいな状態だったみたいだけど…。
「そうなると不思議なのはなんでそのユリさんの妹になってるかってことだけど…」
「…エリナ秘書が、自分からそうしたみたいね」
「「「え?」」」
「って、占いはそう言ってるわよ」
重子がタロットカードを引きながら話してて…。
……あのね重子。
いっくら当たるからってプライバシーまで探るのどうかと思うわよ。
「もしかしたらエリナさんは、自分がアキト様とくっつけなかったから、
ラピスちゃんにチャンスを与えるつもりでそうしたんじゃないかしらね。
自分が叶えられなかった夢を託すつもりで。
一応、義理の妹だったら結婚して良いらしいし」
「…調べてたのね、重子」
「そりゃ、まあ。
ラピスちゃんとは仕事上協力するし、
そのうちアキト様と何かあった時のためにね」
変なところで用意周到なのよね、重子って…。
…でもなんていうか私達も下世話なこと話してるわよね、はぁ。
「とにかく、私達もできることはやりましょう。
せっかく仲良くなったユリさんとラピスちゃんを引き裂いちゃだめよ」
「そーねー」
私達はいい加減ほどほどにして、動きはじめた。
色々考えることはあるけど、まずはラピスちゃんを助けないと…。
…うーん、とはいえ私達はどうすればいいかな。
アキト様を援護に行くのもちょっとむりがあるわけで…。
もっとナオさんに鍛えてもらわないとなぁ。
ピッ!
『ちょっと!青葉センパイ、食堂に来て!
アキト様が危ないの!!
Dと対決し始めたのよぉっ!!』
「「「「ええっ!?」」」
私達は驚いて、装甲服の着替えもそこそこに走って食堂に向かった。
も、もう例の全身の80%がサイボーグになってるDとの対決に入っちゃったの!?
例の改造人間はあと三人残ってて、Dはラスボスだとばかり思ってたのに…。
……アキト様!死なないで!
あとアカツキ会長も!エリナさんとラピスちゃんの為にも!
「はぁ…はぁ…」
「ぜぇ…ぜぇ…」
僕とホシノ君は、二人がかりで例の全身の80%が機械化された…。
おまけに小型相転移エンジンまで仕込まれてて体力切れが望めないという恐ろしいブーステッドマン…。
Dとの戦いに挑んでいた。
この河川敷の土手の上にはスゴい人数のギャラリーが見守って、
好き勝手に大声を上げて応援を続けている。
けど、まさかこんなに早くこのDが出てくるとは思わなかった…。
出てくるにしても四番目か最後だと思ったんだけどね…。
この戦いは、勝負というにはあまりにも一方的過ぎた。
ホシノ君も容赦なく木連式柔の禁じ手を放ったものの、全く通らない。
内部にダメージを与える技で、常人に放てばどんな鍛えてようが致命傷、あるいは重傷になる技。
それを駆使してさえもDには全く歯が立たなかった。
「ほ…ホシノ君、もう品切れか…」
「あ、ああ…もうこれ以上は有効な技がない…。
鎧通し、兜割、矛砕き…そのほか試したが全部だめだ…。
普通の打撃をこっちから打つと、金属の部分があまりに多くてこっち手のほうが砕ける。
かといって関節技や投げ技をかけるには重すぎる。
俺がかろうじて何とかできる200キロをかなり超えてる重さだ」
…200キロはまでなんとかできるのかい。
僕でさえ、ゴート君を投げるのは厳しかったってのに。
だがそんなホシノ君でも、このDという男は辛いんだろう。
かといって僕達の持ち歩いているナイフくらいじゃどうやっても倒せない。
銃器の類はゴム弾でも生放送中に使うのはまずい。
暗闘を前提とした装備だっただけに、こんな生放送で戦うことになるとは思わなかった。
八方ふさがりだ…なんてこった!
「さっきみたいな力は出せないのか?」
「…あの状態は一見すると派手だが、身体能力が上がるわけじゃないんだ。
感知能力が上がって、出す技がちょっと辛辣な攻撃に偏るだけのことだ。
あの状態でもDに有効打を与えられるとは思えん」
……ちょっと絶望的じゃないか、それ。
あてにしてた高周波ブレードはまだ届きそうにないし…。
どうしたものかな。
「どうした…それで終わりか?
こっちはまだ性能の半分も出し切ってないんだぞ。
がっかりさせるな、ホシノアキト」
Dはその巨体をずいっと前に出して…近づいてきた。
…全力を出されたら僕達なんてあっさり死んじゃうのかもしれないね。
ったく、こんなところでくたばったらエリナ君に怒られちゃうじゃないか…。
「しかたない、ツープラトンで行こう。
数うちゃ当たるでいくしかなさそうだ」
「……それも分が悪そうだがな!」
僕とホシノ君はぼやきながら二手に分かれてラッシュを仕掛けようとした。
先ほどまでとやり方そのものは変わってないが、同士うちを避ける為に順番はそれなりにずらしてた。
だが、今度は全く同時に撃ちこむ。
そうすれば、Dもさすがに両方は裁けないだろうからね。
僕とホシノ君はDに接触する前に何かバリアのようなもので吹き飛ばされた。
こ、これはっ!!
「でぃ、ディストーションフィールド!?
機動兵器じゃあるまいし、なんでそんなのを持ってるんだい!?」
「俺の身体には小型の相転移エンジンが入っている。
これがあることで俺はこのクソ重たい金属のボディを動かす事が出来る。
もっとも、正面から銃機関銃を撃たれれば耐えきれるかは怪しいがな」
……それでもかなり脅威だよ、実際。
素手での戦いは絶望的、銃火器はかなりヘビーなのを持ってこないとあんまり意味がない…。
しかもフィールドを貫通しても恐らくボディにチタン合金以上の金属を使っているD相手には歯が立たないだろう…。
「く…ギブアップしたくなってくるね、さすがに…」
「バカ言え、ラピスを見捨てられるか」
「分かってるよ。
話し合いに応じてもらえるなら何とか答えてほしいところだなってさ」
無茶な話だが、可能性があるならもうそうしたいくらいだよ、本当に。
「依頼主がうなずいてくれるなら俺も手を引いてもいいが…。
俺を倒さんと、依頼主の場所にはたどり着けないぞ」
「ったく、そんなこったろーと思ったよ」
だが、どうする!?
もはや僕達がどうこうできる相手じゃない。
…アレがあれば。
恐らくホシノ君も考えて居ることだろう。
イネスさんが居てくれたら…恐らく火星にいるだろうイネスさんが、
僕と同じくらいにこの世界、この地球に居てくれたらついに完成できなかったあの武器。
個人用ディストーションフィールド発生装置。
そして『黒い皇子』時代のホシノ君のブラックサレナに積もうとしてついに完成しなかった、
ディストーションフィールドソード…。
ディストーションフィールド収束制御装置を転じて強力な剣とする、
小さいが理論上の破壊力はグラビティブラストの数倍から数十倍になると計算された、対北辰用の最終兵器。
時間的な都合で開発が間に合わずブラックサレナには搭載できなかったあの武器…。
もともとブラックサレナが武器をあまり持っていないのは、
あまりに分厚いディストーションフィールドを張れるので体当たりだけでも破壊力がとんでもないということもあるが、
ディストーションフィールドソードの実用化が間に合う見込みだったからだ。
最も、草壁がずっと早く動いてしまったので僕達もかなり急ぎ足になって間に合わなかったんだが…。
もしイネスさんがこの世界に居たとしたら、とっくに実用化して、
個人用のディストーションフィールド発生装置を作り上げ、
携帯用のディストーションフィールドソードも実用化したことだろう。
だが、そうはならなかった…イネスさんはまだ火星にとらわれてるんだから。
…ホシノ君もさすがにかなり険しい顔をしている。
僕達が今いる、河川敷の上にある橋…。
せめてあれを爆弾で崩すなりしてDの頭上に落とせれば、ダメージもあるとは思うんだけど…。
…爆弾を持ってない、使えない状態ということもさることながら、
それ以上にこの河川敷をかこっているホシノ君のファンと、野次馬ギャラリーどもが問題だ。
彼らも巻き添えが怖くて河川敷には降りてこないけど、
そういった思い切った手段がとりづらいっていうのが最悪だ。
…このDが水に弱いとか都合のいいことないかな。突き落として勝てるならそうしたいんだけど。
「………~~~~!」
…ん?
な、なんか聞こえてきた…上から?
僕だけじゃなく、ホシノ君とDも気づいて上を見上げる。
…人!?
しかもご老人!?
日本刀を手に、上空から老人が降ってきた!?
僕が状況を認識するのとほぼ同時に、ご老人は日本刀を振りかざして、Dに切りかかった!
「ッ!!」
Dはたまらず両手を交差して自分を庇って…それでも耐えきれず片膝を地についた!
それとともに衝撃波が伝って、僕達は体を揺らした。
な、なんだ!?何がどうなってるんだ!?
ご老人は居合系の剣術家なのか、日本刀を一度鞘に納めて頬をぽりぽりかいている。
片手で切りかかったようだが…そっちの手は痺れているのか手を振っている。
ど、どんな高度から落っこちてきたのかわからないけど、良く痺れだけで済んでるよね。
「…何者だ、ご老人。
俺の腕が特殊金属の腕じゃなかったら助からなかったぞ…」
「ワシか?
ワシャぁ、スバル・ユウじゃ。
孫娘の頼みで、山ごもりしてる間に呼ばれたんじゃよ」
スバル…居合………!
リョーコ君のおじいさんか!!
それにしてもこれだけの威力を発揮して、なお折れない日本刀…。
そして空から降ってきてなお無事にすみ、躊躇なく真っ二つにしようとする…。
……おっそろしい人を寄越したね、リョーコ君。
私達はナデシコで日本に向かってる最中だけど、まだ一時間くらいかかっちゃうみたい。
で、私達はホシノ君の活躍をブリッジに居るみんなと合流してみてたんだけど…。
「ほっ、間に合った見たいで良かったぜ」
『リョーコ、お義父さん相変わらず無茶するけど大丈夫だったか?
なにしろパラシュートもなしに戦闘機から飛び降りるもんだからな…』
「…相変わらず無茶、で済むのかよ、父さん」
…メインモニターでホシノ君たちの戦いが見えてる横で、
小さな通信窓でリョーコとリョーコのお父さんが通話している。
まさか居合の達人で有名なリョーコのおじいちゃんが手伝ってくれるなんてねぇ~。
なんでもたまたま佐世保近くの山で篭ってたから、
リョーコがホシノ君の援軍にちょうどいいって頼んだんだって。
それにしても、本当に強いんだね~リョーコのおじいちゃんって。
本当にあのホシノ君が手も足もでなかったDってサイボーグ相手に、
日本刀一本で互角以上の戦いをしてるんだもんねぇ~。
世の中って広いね、本当に。
Dが出てきたって知ってから、リョーコが連絡を入れて十分足らずで良く駆けつけてくれたよねぇ。
『ホシノアキト!
こんな面白い相手とはワシがやるから先に進めい!
お主も得物なしには勝てんじゃろう!』
『…すみません、お願いします!』
ホシノ君とアカツキ会長はさっさと次に進んだね。
ま、これでぎりぎり何とかなりそうだし、いいのかもね~。
「まあ、ファンの女の子たちは不満たらたらで、
アキト兄さんの方を追いかけてますけどね」
ギャラリーの半分くらいの、ホシノ君ファンの女の子達はさっさとホシノ君のほうを追いかけたみたいだね。
いや~ほんと、気持ちは分かるよね~。
推しは見たいし、どんなにすごい戦いでもスルーしたくなっちゃうってやつだよね。
残りの半分は、
『世紀の大決戦!
全身サイボーグフランケン対妖怪辻斬りジジイ』
の迫力に見入ってて動かないみたいだけど~。
「…ヒカル、お前今すごいむかつくこと考えてねぇか?」
「い、いや~?そんなことないよ~?」
リョーコ、意外と鋭いね~。
…ったく、なんてエステバリスだ。
カスタムタイプとはいえ、一回り大きいエステバリス、
ブラックサレナを目の前に俺は顔をしかめざるを得なかった。
どうやらこのエステバリスは追加装甲を付けてブースター出力でスピードを確保しているらしい。
…だが奇妙なことにこれはホシノ専用機という割にホシノに似合わない。
さっきから放送してるテレビの様子のあのホシノには似合うが……どういうわけだ?
そもそもホシノの場合、こんな偏った機体を使うより普通に戦ったほうが戦果が大きいと思うが…。
まあ、そんなことを気にしている場合じゃないんだが…。
「班長、このブラックサレナはどうします?」
「ああ?
後回しにきまってんだろが、戦力の殆どが動けない状態なんだから」
「意外っすね、班長ならすぐにばらしにかかるかと」
「バカ。
俺だってほぼ全機中破じゃなかったらバラすがな。
空戦戦力がゼロに近くなる状況でそんなのんきな真似するわけねぇだろ。
一応バッテリー格納部のところだけ装甲を外してバッテリーだけ抜いとけ。
例のヤドカリがウイルス仕込んでたら洒落にならねぇからな」
「ッス」
昔、どっかのアニメでOSが暴走してロボットが勝手に動くって展開があった。
あの時、取れる対応を考えたら…燃料やバッテリーを抜くのが一番効果的だと思った。
とりあえず電源さえ切ればいいが、電源だけじゃウイルスにスリープの真似されたらアウトだ。
だったら完全に電力を遠ざけちまえば何とかなる。
それならまず安心できるはずだ。
……だが、この後、俺は先んじてブラックサレナをバラさなかったのを後悔した。
少なくとも、ブラックサレナの構造を、エリナ秘書に聞いておくべきだったんだ…。
…想定外だわ。
Dに対抗できる人間がこの世に存在してたなんて…。
まさかただの日本刀でディストーションフィールドを無効化してくるなんて思わなかったわ…。
居合術で衝撃波を出してくる上に、
Dのけた違いの破壊力を持つ身体能力に追い付いてくるなんて…本当に人間なの?
ここでホシノアキトを適度にいたぶって消耗させて、カエンとの対決に持ち込ませるのがプランだったけど…。
…まあ時間的にはちょうどいい感じだからいいんだけど。
Dも全力で30分以上戦うと動けなくなってくるから適当なところで車に乗せて退散しましょう。
この互角の試合では、老人の体力よりもDの時間切れのほうが心配だわ。
Dを乗せて行かないとカエンのエネルギーラインがなくて炎が使えなくなって、
自分の体力だけで動こうとすると身体能力もがた落ちだから。
それに…それくらいしてもいいくらいの時間稼ぎは置いてきたし、ね。
私は今回サポートに回ってるのはこのためだもの。
俺とアカツキはついに指定されたホテルの跡地…。
木星トカゲに破壊されて半壊し、廃墟になっているこの場所にたどり着いた。
ここの最上階に解除器を持った人がいるらしいが…。
まだブーステッドマンは二人残ってる。
下手するとDも追いついてくるかもしれないし…。
急がないといけないんだが…。
「おい、まだかホシノ君。
もうあと二時間もないんだよ」
「分かってるよ。
…ったく、意地の悪い敵に当たったもんだ」
俺はぼやきながら地道にトラップを解除する作業を続けていた。
鋼線と手りゅう弾を使ったブービートラップ…。
クレイモア地雷の類はないが、これがかなり厄介だ。
見抜くのがむずかしく、うかつに爆発させれば誘爆して床が抜けて押しつぶされるかもしれない。
…ちなみに廃墟ということもあり、ファンの女の子でさえも追っかけはしてこない。
この廃墟にトラップと一緒にご丁寧に監視カメラのようなものがたくさん仕掛けてある。
どうやら追っかけてこないのは、この場面もご丁寧に放送してくれているからのようだ。
「だがホシノ君、そんなに生真面目にトラップを突破する必要があるのかい?」
「バカ言え、こんなすごいトラップをかけてくる相手だぞ。
外から登ったら何かさらにトラップがあるはずだ」
トラップを仕掛ける場合、
回り道をさせるための絶対突破不能なトラップ、
時間稼ぎのための純粋な妨害用のトラップ、
相手を殺すための必殺を期したトラップなどが考えられるわけだが…。
俺の目の前にあるのは時間稼ぎ用だ。
そして外から登ろうとした場合は、絶対突破不可能用か必殺用があると推測される。
無論、時間稼ぎ用とはいえ、解除に失敗すると死ぬわけだがな。
何より…。
「アカツキ、トラップとカメラの配置を考えろ。
俺達がしっかり映る位置にトラップを張ってるわけだが、
逆に言うとここを通過しないとうまく目的地にたどりつけないように設定してるわけだ」
「ああ、なるほどね。
メタ的な読み方もしてるのか。
確かにカメラが置いてなさそうな通路ほど、がれきやらで通行不可能になってるな。
…君、バラエティ番組だと嫌がられるタイプだろ」
……そういえばプロデューサーに怒られたことがあるな。
びっくりさせる企画であまりリアクションなく避けるのは止めてほしいって。
俺だって無意識に避けようとしてしまうから無理なんだけどさ…。
「とにかく、ここは地道に行こう。
最上階の12階に最短でたどり着くのはこのルートで正解だ。
それにしてもいいトラップの組み方をしてるよ。
物量が多いから解除するのは大変だけど、
撤収も考えてあるのか配置自体はそんなに複雑じゃないから」
「…君、なんか鑑定人みたいだよ」
「…ほっとけ」
私とユリはアキトの様子を見ながら…Dとリョーコのお爺ちゃんとの対決もモニターしつつ、
とれそうな手段を探してるけど…。
…本当に今回は私達、そんなにやれることがなくて悔しい。
いくら情報を集めても、アキトの事くらいしかわからないし、それに…。
「っ…だめです、また撃墜されました」
「はぁ…やっぱだめかぁ」
私達は都合三度ほどホテルストーン佐世保の最上階を探るためにドローンを送り込んでたけど…。
ことごとく撃墜されて、打つ手なしなのよね。はぁ。
「こうなるとやはり外壁をよじ登らなかったアキトさんが正解のようですね」
「だね。
最上階の上からの侵入と、
最上階の下からの侵入に対してはかなり完璧な自動射撃システムがあるみたい。
アキトはよけられるかもしれないけど、結局登れなくなっちゃうし意味ないね」
「私達は身動きが取れずにこの状況…まるっきりナナフシとの戦いと同じですね、これは」
ナナフシの戦い…確か、飛んでいくと撃墜される可能性が高いから陸路を行く作戦だったかな。
たしかその時も障害物やら大変で、
タイムリミットがあって、過ぎたらナデシコごとどっかーん。って感じの作戦で。
…ま、命を落とすのが私だけってところだけは違うけどね。
「あの時は、アキトさんのほうが焦ってピンチになったんですけど…。
今回はアキトさんのほうが落ち着いてますね。
アカツキさんのほうがトラップに手が出せないだけに焦ってます」
「その時は、どうやってピンチを切り抜けたの?」
「ギリギリにアカツキさん達が追い付いて、それで…」
『ユリ姉さん、ラピス、お待たせしました。
ナデシコ、ただいま佐世保に到着しました。
手伝えそうな人員を連れてひなぎくでPMCマルスに直接降ります』
「ありがとう、ルリ。
…こんな感じで助けが来ましたよ」
ユリは映り込んだルリの顔を見た後、にっこりと笑って、私を見た。
…まだ確信は持てないけど、何とかなりそうになってきたね!
『ラピス、心配かけないで下さい。
私、ラピスが死んだら泣いちゃいます』
「…うん、ごめん。
ユリにめちゃくちゃ怒られた」
『当たり前です!
ユリ姉さんにスタンガン押し当てるとか何考えてるんですか!!』
「…うう、やっぱユリみたいな怒り方するね」
『とにかく私もそっち行きます!
合流してから協議しましょう!』
心強いんだけど、やっぱりこっち来ちゃうか…。
…ユリはともかく、ルリにはあんまりショッキングな光景みせたくないなぁ。
自信を持って生き残れるって言いきれない状況だもんね…。
はぁ、アキト、アカツキ…信じてる…。
お願いだから…何とかして…。
俺はホシノアキトが迫るのに心が躍る一方で…。
Dが圧倒されて…辛うじて互角に戦ってる映像をみて唖然としていた。
明らかに老人で、体力が劣ってておかしくないはずなのにだ…。
日本刀一本で衝撃波まで繰り出して、Dのディストーションフィールドを打ち破り、
有効打を何発も当て、自分はDの攻撃を難なく回避して見せている。
人間でも…極めればここまでやれるのか…。
俺は生唾を飲み込んでこの死闘を眺めるしかなかった。
「おほほほ、流石アキト様ですわ。
カリスマのおかげか人脈が豊富なんですね」
アクア嬢は暢気にコメントしているが…。
…正直、生きた心地がしない。
間もなくDの全力戦闘の活動限界、30分が経過する。
相手のユウというジジイはまだまだ元気だ。
体力面でも有利になれないってのはおそろしいな…。
このジジイ…その気になったら一人で国の一つや二つ滅ぼすんじゃねぇか。
「Dさんもさすがに適当なところで切り上げてくれるでしょう。
私達とアキト様のひと時の邪魔はしないと思います。
アキト様もそろそろ
…ご支度を」
アクア嬢はテレビを消すと、俺に支度をするように求めた。
…いよいよだ。
この場で、ホシノアキトは命を落とすか…その名声を地に落とすことになる。
俺は──アクア嬢を後ろ手に縛り付け、イスに括り付けて、布で猿轡を噛ませ、目隠しをしてやる。
…アクア嬢、いっちょまえに色っぽくあえぐなよ…ったく。
まあ、この生粋の変態のことだから今の状況でも楽しくて仕方ないんだろうが。
…しかし、Dがこちらにすぐに追い付けないとなると俺もちょっと不利だ。
炎を操る能力がつかえねぇし、身体能力も素の状態に戻っちまう。
Dが戻るまでしばらく舌戦で遊んでみるか。
最悪、アクア嬢を人質にしておけばうかつには手が出せねぇだろう。
ホシノアキトの性格からして無関係な人間が死ぬのを許すとは思えねぇしな。
…アクア嬢の腰もとには解除スイッチが、俺の手の中には爆弾の起爆スイッチがある。
舌戦の最中にいい感じにあいつから失言を引きだせれば、アイツをヒールに仕立てた上で一緒に自爆する。
引きだせないようなら炎を操る能力が戻ってから嬲り殺しにしてやる。
どのみち…あいつには勝ち目がない。
俺を倒したところで、Dが追い付けばやつは勝てん。
あのジジイも追っかけてくるかもしれんが…この室内ではあの刀も扱いづらいだろう。
多少はDが有利になるはずだ。
Dもここに来るまでに多少クールダウンできれば10分くらいは持つだろう…。
そうなれば…。
どうもこんばんわ、武説草です。
今回も引きがいいところなんで、ちょっと短めです。
とはいえ本来はこれくらいが適正なのかもしれないんですけどw
そして内容的なところですが、クリムゾンもにっこりな作戦進捗で、
でもその一方でユリとラピスはなんかアキトを通じてお互いに理解を深め始め、
どうやっても勝てないDに対してはスバルユウをぶつけることで進んでもらいました。
DFSか昴気がない状態じゃどうやっても勝てないんでこんな感じにしてみましたw
曰く『化け物には化け物をぶつけるんだよ』ってやつです。
まあ結果としてBenさん版のスバルユウがやらなそうなことばかりする、
活動的過ぎるジジイになっちゃいましたが。
さらにカエンとの対決でVSブーステッドマン戦も最終章突入!
そして不穏なナデシコ格納庫!
さてさて次回はどうなる!?
ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!
>自転車泥棒(爆笑)
よおし!
今回の場合、このタイミングで二千円という明らかに少額(とはいえちょっとした金額)を、
失ったことについてブチ切れるテンカワのほうがズレてますねw
とはいえ、我を忘れてこれを叫んだことでいい結果になったようで。
>ガイが相変わらずガイだなあとか
>アクアがちょっといいとこ見せたりとか、色々ありましたが、
>これで全部吹っ飛んだわw
シリアスが持たない!
TV版ナデシコっぽさと、時ナデっぽさを融合させたらこんなんなりました。
ガイは今回割とまっとうに活躍出来つつも、やっぱああなんですよね。彼は。
アクア嬢に関してはようやく自分で頭を下げて、
色々頼んで約束して物事を進めるということを覚えて、視野が広がった結果がああいう感じです。
……アクアの若さゆえの考えなしのズレズレさも、突拍子もなさってなんかシンパシーを感じる…。
それは置いておいて、ちょっと吹っ飛ばしすぎを反省しつつも、たぶんやめらんないなとw
カエンだぜ。
ようやく、俺とアクア嬢の見せ場が来たな。
Dが追い付くまではちょっと遊ばせてもらうが…。
どのみち、ホシノアキトとアカツキナガレの結末は決まってる。
世間がどんな阿鼻叫喚に包まれるかみれねぇのだけはちょっと残念だけどな。
あいつらには逆転の目はもうないぜ。
俺達がホシノアキトと共に華々しく散る姿、とくと目に刻んでくれよな?
紆余曲折あって、継続してお話を続けるのが何とか出来るようになった作者が贈る、
ン燃えろぉ!遊びは終わりだぁ!なナデシコ二次創作、
をみんなで見やがれーーーっ!
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達人は保護されているっ!(違)
だが衝撃波はやりすぎだwwww
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