〇地球・高速自動車国道・ミスマル家専用車両内──ルリ

「ほら、そろそろ起きといた方がいいよ。
 ユリカ、ルリ」

「ん…」

「うぇ?
 …どうしたの?敵襲?」

私はラピスが肩を叩いたので、眼を覚まして…でもちょっと寝ぼけたまま、
周りを見ました。まだ首都高のあたりみたいですけど。
いえ、ユリカさんの方が寝ぼけてますね。
こんなところじゃ敵襲なんて…。

「うん、敵襲。
 ちょっと荒事になるかも」

「ええ!?」

私がそんなことないと思った矢先、ラピスはユリカさんの言葉を肯定しました。
驚いて後ろを見ると、人相の悪い人が数人乗ってる黒い車が五台程度追いかけてきています。

「こ、こんなところでですか!?」

「さすがに連中も余裕がなくなってきたんじゃない?
 こんなところでドンパチやらかそうなんて。
 搦め手でも勝ち目がないと踏んで、足がつく覚悟で仕掛けたみたいね」

「それはそうだよね。
 アキト君が居ない今、私達を狙うのはチャンスだもん。
 ……でも、さすがにちょっと焦っちゃうね」

……はぁ、ナデシコに籠っているべきでしたか。
後から追っかけてくるアキト兄さんとユリ姉さんは無事でしょうが…。
ちょっと厄介ですね、戦力がないですから。

「少佐のおじさま、戦力は?」

「ええ、潤沢に準備しております。
 敵もそろそろ気づいているでしょう」

「え?」

よくよく敵の車両の後ろを見るとバイクが数台追いかけてきてますね。

『応援に来ました、元少佐』

「おお、キリュウ君。
 すまない、この程度の敵のために手を煩わせてしまって」

『はは、リュウジさんの戦友の頼みです。
 それに世界に名だたるお姫様たちの護衛のあれば、
 手を貸さない訳には行きませんよ』

自動車電話のハンズフリーホンから、男性の声が聞こえてきました。
どうやら運転手さんの言っている戦力とはこのキリュウさんという方のようです。
…しかしバイク二台でどうやって戦うつもりでしょう。


『マウロ!リサ!
 今回は足止めだけが目的だ!
 あっちも高速道路だから武装の類は持ってても拳銃ぐらいだ!
 やってやるぞ!』


『『了解!』』


ボンボンボンボンッ!!


…!?
こ、こんなところでショットガンを乱射し始めました!?
……あ、でもあれはナオさんが使ってた連射式ゴム弾仕様のショットガンですね。
火薬量がかなり増加しているらしく、フロントガラスにヒビが入って…。
でもフロントガラスをどけて風が吹きすさぶ中、必死に追いかけてますね。


びゅっ!どどどっ!



今度は、一番年上の糸目の男性が横にナイフを投擲して、タイヤを次々にパンクさせてます。
…き、器用な…。
敵は反撃する隙間もなく、銃を抜いたそばから停車していきます。
事故にならないだけマシですけど。


『ローダー!
 仕上げだ!ぶちまけてやれ!』


『オッケイ!』



あ…私達の前の方から大型のトラックが追いついてきました。
トラックを私達の車の後ろにつけると、バイク二台は前に走り去って居ます。
……あ、ドラム缶を荷台から落としました。


「「「「「どわああああああっ!?」」」」」


がしゃーんっ!!



残った三台の車の黒服さんたちの悲鳴もむなしく、ドラム缶は直撃しました。
中身は映画なんかだと爆発する燃料だったりはしますが…水だったみたいです。
かろうじて爆発はしないまま、彼らの車はスクラップ同然になってしまいました。
ご愁傷様です。

「あ…あ~あ、派手にやっちゃって…」

「…おじさま、これ大丈夫なんですか?」

「ちょっと危ないんですが、
 これも映画のプロモーションの撮影ということで許可を取ってあります。
 上下線ともに封鎖済みで、敵襲がなければそれでよし、あったらこのように撃退、と」

「…ラピス、また仕込みましたね」

「だぁって、危ないじゃん。
 …でもここまでやるとは思わなかったけど。
 運転手のおじさん、どこのツテなの?」

「いえまあ、リュウジという男が居まして、かつては敵同士だったんですが…。
 ちょっとしたことで再会して意気投合しましてねぇ。
 もっとも、奴のほうが先に地獄に落ちたそうですが、その縁で」

はぁ、また首謀者がラピスですか。
しかし、運転手さんもさすがにというか人脈がすごいですね。
……私達、本当に長生きできそうにないですよね。

「実を言うと、ここまでは連合軍からの護衛や、
 ピースランドの護衛の方も協力をしてくれたのですが、
 故意の事故で各個撃破されてしまったので。
 ずいぶん怪我人を出してしまったようですね。
 お嬢様方も同じ手口で狙っていたと思われます。
 この期に及んで事故死として処理できるとは甘い考えでいるようですが」

備えが有効に働いたようですね。
でも…。

「…父の部下が、傷ついてしまったんですね。
 私達のために…」

「…そんな顔をなさいますな、ルリお嬢様。
 あなたのために命を捨てる覚悟で、彼らは守ってくれているのですから」

「それがいけないんです。
 …彼らにも家族がいます。
 私を大切に想う人が居てくれるのは嬉しいことですが、
 そんな人には死んでほしくないんです」

「…ルリお嬢様、あなたは本当に優しいお方ですね」

「こんなことなら、ナデシコに籠っているんでした」

「ルリ、怒ってもいいけど、
 そんなに想うなら後で直接お礼を言いに行けばいいでしょ。
 …私もちょっと配慮が足りなかったの、謝るから」

「……そうですね」

私は今の自分の立場に戸惑っていました。
ラピスが怪我人が出るようなことを…。
平然と裏で手を回していたというのは、気分が良くありません。
ピースランドの時とは状況が違います。
下手をすれば護衛についてくれた人だけじゃなく、無関係の人をも巻き込みます。
アキト兄さんのためならだれかを殺すというのも、ハッタリじゃないってことです。
今は私も、ユリカさんも、ラピスも…アキト兄さんのアキレス腱なんです。

私達の死が、アキト兄さんを狂わせる…。

あの真っ黒い姿にならなかったとしても…取り返しのつかないことになる。
そしてそれを望んでいる人がまだたくさんいる…。
ラピスの過激すぎる作戦も大げさじゃないんです。
…まさか、ラピスはこれを教えるためにわざわざこんなことを?
いえ、ないとは言えませんが、さすがにそこまでは…。

いえ…今まで私は『極めてまれなIFS強化体質者のサンプル』にすぎませんでした。
でも、今は違う。
ピースランド王家の血縁者で、ミスマル家の養女、そしてアキト兄さんの妹。

それを改めて教えるためにこうしたというのはあり得ることですね…。

「…ごめんね、ルリ。
 ルリの立場の事はちゃんと言えばよかったね。
 でもそれも半分だけだよ。
 もう半分は……戦艦に乗ってる女の子じゃなくて、
 普通に車で帰省する、普通の女の子で居たいんじゃかなって思ったからだよ」

「……分かりました」

…ラピスは私の表情から察したのか、白状しました。
半分は単なる気遣いだったんですね。
私はこの複雑な感情を飲み下して、小さく頷きました。

「じゃあ、ラピスも普通の女の子らしくして下さいよ。
 アキト兄さんの事ばかり考えてないで」

「普通の女の子ほどアキトのこと考えてると思うけど?」

「…そりゃそうですけど」

「ま、いいよ。
 この年末くらいは、
 大好きだけどめんどくさい兄貴分と可愛い妹のために、
 普通の女の子でいてあげようじゃん?」

……ちょっとヘラヘラしてますが、信頼は出来る返事です。
なんていうか、アカツキさんの真似っぽいですねこれ。

…寝正月じゃないですけど、年末はできるだけでかけないで気をつけましょう。
ユリカさんが初詣は絶対に行きたいって言ってましたし、
その時はしっかり打ち合わせして、隠し事なしで行けるようにしましょう。
それがいいです。

ちなみにこの襲撃の犯人たちは、どこをどうやったのか逃げおおせたらしいです。
ラピスもさすがに殺し合いを公共の場で行うのは避けてくれたようです。
運が悪ければ死んでたかもしれないやり方でしたが…。
まあそこは事故扱いで殺そうとしてたからってことでしょうが、
今後は注意してくれるそうですし、信じてあげましょうか。















〇地球・佐世保市・PMCマルス本社──ホシノアキト
俺とユリちゃんは、荷造りをしてナデシコに持ってってもらえるように手配して、
倉庫を貸してくれてる大家さんにちゃんとご挨拶をしに行って、
ようやくブラックサレナ…白いけど…に乗り込んで佐世保を発つことになった。
さつきちゃんたち社員と、ユーチャリススタッフのみんなは名残惜しい様子で手を振ってくれた。
本当はぎりぎりまで佐世保に残っていたかったけど…死ぬかもしれない戦いの前に、
ミスマル家への帰省をしておきたかった。これだけは後悔したくないし。
前の世界での、お義父さんへの裏切りに等しい行為をまだ悔いている部分があるから。
ユリちゃんのことも、ユリカ義姉さんの事もある。
…ルリちゃんとラピスにも、一時でも穏やかに過ごせる時間を与えたい。
だから、俺たちは頼りになる会社の仲間たちにすべてを任せて、地球を発つんだ。

「それじゃ、みんな!
 行ってくるから!
 
 会社のことは任せたよ!」

「…お願いします」


『『『『『アキト様!お元気で!!』』』』』



……はは、相変わらずすぎてもう苦笑いしか出ないよ。
週刊誌に叩かれてるんだろうなぁ、まだ…。
もう読みたくなくてチェックすらしてないんだけど、
エリナとアカツキに笑われてて大方の想像はついてる…くぅっ。

「……アキトさん、飛ばさなくていいんですか?」

「ユリちゃんを乗せたまま無理はできないよ」

このブラックサレナはテンカワとユリカ義姉さんが乗ってきてそのまま置いていった、
二人乗り仕様のアサルトピット、専用品が乗っている。
だから通常のタンデム・アサルトピットよりだいぶ広い。
二人で乗っても不自由しない大きさがある。
同乗しているユリちゃんに、俺の戦闘服を着せてあるから、耐Gは結構いいんだけど、
それでも無理はできないからね。

「でもあんまりのんびりしてるとバッテリーが…」

「それは大丈夫、山口で演習中の連合軍部隊の重力波で補充してくから」

「…それ、この間出演した番組で思いついたんでしょう」

ユリちゃんが呆れた様子でいる。
バイクの充電旅、あれはあぶなかったなぁ。
みんな追っかけてくるんだもんなぁ。
で、それから思いついて、お義父さんにお願いして充電させてもらえる連合軍基地を紹介してもらった。
PMCマルスの二回目の出撃の地、山口の連合軍基地になったんだ。

「…じゃあ、ちょっと楽にしてますよ」

「うん」

ユリちゃんは体をシートにもたれさせると、瞳をつぶった。
…例によって、俺たちは昨晩も盛り上がってしまったので、
ユリちゃんは疲労困憊で、本当は昼まで眠っていたいんだろう。
俺も配慮しつつも、そこそこ飛ばす必要はあるくらいだけど…。

「…アキトさん」

「何だい?」

眠るのかと思ったが、ルリちゃんは話しかけてきた。
でも、どこかいつもの表情より柔らかく、油断している感じがする。

「ナデシコに乗ってからも、テンカワさんを鍛えたり忙しくなるんですよね」

「…うん。
 俺も、もう少しだけでも体力を取り戻さないと危ないし」

「それでも料理は続けたがるのがアキトさんらしいですけどね」

「…うん、料理は譲れないから」

本当は死ぬ気で体が許す限りの鍛錬をしないといけない。
何が起こるか分からないんだから…準備はいくらしてもたりない。
芸能界にかまけてるというのもよくなかったが、この状況がベストだ。
…こんなで、いいとはとても言えないんだけど。

「…いえ、それでもいいです。
 身体を大事にしてくれるなら、それで…」

「…うん」

俺の中の黒い皇子の部分を引き出すのも、今なら出来るかもしれない。
そうすれば厳しい鍛錬を精神力で押し通すこともできる。
そして、その状態からもとに戻ることもできるかもしれないが…。
身体の方が恐らく持たないということも分かっている。
イネスさんに身体を見てもらうまでは油断できないんだ。
ナノマシンが致死量体内にある俺は、もしかしたら明日にも死ぬかもしれない。
出来る範囲で、無理なく強くなる方向でやっていくしかないんだ。
今はせいぜい、黒い皇子全盛期の半分程度の体力、筋力しかない。
技術的なところはともかく、地力が弱くてはどうしようもないからな…。
テンカワを鍛えながら、自分の修行もしないと。

「無鉄砲でも無謀でもなくて、多少計画的なことができるようになったの、
 本当に嬉しいです。
 昔のアキトさん、計画性ってものがあんまりなかったですから」

「…はい」

当時は失うものがなかったせいか、一杯一杯でやってきたり、場当たり的だったり、
学がなかったりで本当にダメだったからな…俺のテンカワ時代は…。
今は自分の世の中での価値の高さや立場の危うさもあるけど…。
…俺が死んだらユリちゃんを泣かせるだけじゃなく、
後追いで死なせるかもしれないってなると、さすがに色々考えざるを得ないわけで…。
あの時、夢の中で見たユリカの事と、
俺のブラスターで自殺しかかってたユリちゃんの事、実は毎日思い出してる。
…死ねない。どうしたって死ねないよ。

「無事に帰ってきて…。
 自分の店をもって…何でもない毎日を過ごそうね」

「……はい」

俺の本当の願いは大それたものじゃない。
ただ毎日鍋をふるうコックになること。
そして大事な人達が居ること、ただそれだけなんだ。

俺は…。
戦争を終結させたナデシコのテンカワアキトでも、
最悪のテロリスト・黒い皇子でも、
世界一の王子様・ホシノアキトでもない。

俺はただの町食堂のコック、ホシノアキトになる。

後ろを振り向くと、ユリちゃんは静かに寝息を立てていた。
その表情がとても嬉しそうに微笑んでいるのを見て、嬉しくなった。
ユリちゃんは…俺の答えを喜んでくれたんだろう。
そして安心して、気が緩んで眠ってしまったんだろう。

俺も嬉しいよ、ユリちゃん。

あの過酷な日々、
そして夢を諦めたあの時…。
ラピスの未来を奪って居ることを自覚しながら、
責任も取れずに死ぬことしか考えられなかったあの頃。
そして自分のすべてをぐちゃぐちゃに打ち砕かれても遺跡を壊す選択をできなかった。
どうしようもない、俺、俺を取り巻く運命、そして敵…。
すべてを諦めるしかない状況に置かれていた。

それらがすべて覆った、ホシノアキトとしての人生を手に入れた。
俺は…変わったんだろう、根幹から、何もかもが。
もう少しで、もしかしたらすべてうまくかもしれない。

俺の愛したユリカが居ないこの世界。

でもこの世界のユリカは生きている世界。

この世界が穏やかに続くならいいんだ。

大事な人を失うことなんて、珍しいことでもない。
思い出すと今も泣きそうになるけれど…。
この運命を、呪わず、大事に抱きしめるんだ…。
それが…俺が望んだ世界だ。

…そして、一番ユリカの喜ぶことだから。
















〇東京都・立川市・ミスマル邸──ユリカ
私とルリちゃんとラピスちゃんが戻って、
中途半端だった睡眠を取り戻すためにこたつでうたたねしていると、
おやつの時間くらいになって、アキト君とユリちゃんも到着した。
二人とも見るからに疲労困憊で、こたつに入る直前になって倒れて眠っちゃった。
暖房が効いてるから大丈夫なんだけど、本当に疲れてるんだね。
き、昨日はラブラブだったみたいだし…。

「おお、みんな戻っていたか」

「お父様、お帰りなさい」

「おじ…お、お父さん、おかえりなさい…」

「お帰り、お父様」

ルリちゃんはもじもじと恥ずかしがりながら、お父さんと呼んだ。
ユリちゃんと同じ呼び方で真似してみたんだ。
いつも父、とか母、とかそっけない感じでピースランドの家族と話してたけど、
あれも意外と砕けた話し方だったのかもね。
ふふふ、ルリちゃん、嬉しそうで、でも恥ずかしそうで可愛い。
…でもラピスちゃんは「お父様」呼びなんだ。
そういうイメージないけど…私の真似?

「た、ただいま」

「お父様、照れちゃって。
 もう家族なんだから気にしなくてもいいんですよぅ」

「わ、分かってはいるが…。
 二人ともユリカに負けず劣らず可愛らしくて、つい、な」

「そりゃそうだよ。
 本物のプリンセスのルリと、
 それに並び立つ私だもん。
 可愛いに決まってんじゃん」

「…ラピス、自信満々ですね」

でもラピスちゃんの言う通りだよ。
アキト君のことやピースランドの事を抜きにしても、二人はとびっきり可愛いもん。
お父様も、最近はユリちゃんのおかげか私に過保護な態度をとらなくなってきたし、
窮屈な感じがなくなって、一緒に居やすいんだよ。
…変な話だけど、『ミスマル家のユリカ』じゃなくなるためにナデシコに乗ろうと思ったのに、
ユリちゃんと会ってからの私って、ミスマル家から離れることにこだわらなくなってきたんだよね。
アキトとお付き合いするようになって、ナデシコでうまくいくようになって…。
ナデシコでも結局連合軍の人たちと共同戦線張るからお父様とはそんなに遠くないし。
ミスマル家に居るからこそユリちゃん、アキト君、ルリちゃん、ラピスちゃんと一緒に居られるから、
「あれ?なんで私ってミスマル家から出たかったんだっけ?」って思うようになっちゃった。
やっぱり、ちょっと私って突っ張ってただけなのかなぁ。
一時でもお父様と離れて仕事に専念してみたいっていうのもあった。
お父様、しつこいから。
今の距離感って、すごくいい。
ユリちゃんたちといると、なんていうか私も普通の女の子らしく居られる感じ。

連合軍の重鎮・ミスマル家の一人娘って重みが急に軽くなった気がするの。

……もしもだけど、
『ユリちゃんとアキト君が未来から来たルリちゃんとアキト説』が本当なら、
この辺もうまく調整してくれてるのかも。

そうなると、ちょっと申し訳ないかな…。
どこまでも助けてもらっちゃってるから。
でもユリちゃんがルリちゃんだったら、
今ここにいるルリちゃんと同じで喜んでるのは間違いないけどね。
二人とも力尽きて、こたつにも入らないで倒れちゃうほど頑張ってて…。

「ユリカ、こたつでのぼせた?」

「え?
 ちょ、ちょっとね」

ラピスちゃんが私をじっと見つめて居るのに気づいて、私はうろたえちゃった。
…ラピスちゃんもただものじゃないもんね。
ちなみにラピスちゃんは倒れて眠るアキト君を膝枕で寝かせてあげてる。
ルリちゃんに写真を一枚撮らせて証拠写真を仕上げるあたり、策士だよねラピスちゃん…。


・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。


「しかし、年末もアキト兄さん一色ですね」

「ねー」

私達はしばらくこたつでのんびりテレビを見ながら休んでたけど、
アキト君の関係の特番がバンバン組まれてて、
「世界一の王子様の謎に迫れ!」
「PMCマルス、激闘の日々」
「ユーチャリス、そしてナデシコ」
「世紀末の魔術師&世紀末の魔術師の弟子スペシャル」
各局がこぞって、大晦日の何時間かは枠を確保しちゃってるんだよね。
そうじゃなくてもアキト君は録画の番組が何本か組まれてるし。

「む、この番組にもでてるのか?」

「うん。
 不意を打って笑いをとるのが基本だし」

『出前持ってきましたー』

『『『『『おお~~~~』』』』』

『はいーお待ちどうです』


『『『『『ホシノアキトぉ!?』』』』』


デデーン!


『全員、アウトーーーー』


「ぷーーーっ!」

「……本人はこれが将来の夢なんだが、
 実際に見ると笑ってしまうものなんだな」

「ぷくくく」

「あはは」

テレビに映る『笑ったらケツバット』という番組で、
アキト君は普通に岡持ちを持ってコック姿で現れただけなのに、
笑いを取って、出演者をお尻を叩かせる罰ゲームに陥れた。

『そんでうまいなぁ!?』

『ほんまやわー』

『いやーこれ毎日食べたいっすわ』

アキト君の作った中華料理に舌鼓を打ってる出演者の人たち…。
でも私はというと…この間自信なくしちゃったなぁ。料理下手すぎて。
もしお父様にアキトとの結婚を認められても前途多難だなぁ。
はぁ。

「ユリカさ…。
 …ゆ、ユリカ姉さん」

「なぁに!?
 ルリちゃん!!」

ルリちゃんが私をお姉さんと呼んでくれて、つい嬉しくて笑っちゃった。
で、ルリちゃんはお蕎麦屋さんの店屋物のメニュー表を持ってた。

「お手伝いさんも大晦日は帰省してるそうですし、
 アキト兄さんも今日くらいはお休みさせてあげたいですし、
 出前で年越しそばを頼みますけど、何にします?」

「あ、そうだよね。
 見せて見せて。
 二人とも起こしてあげて」


・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。


それから私達は年越しそばを食べて、
年を越したらすぐに近所の神社に初詣にでるための警備計画について相談した。
ルリちゃんがあんまり自分のために怪我人を出したくないということで、
それなりに工夫を凝らして安全性を高める計画になった。
…で。

「今度は三人ともぶっ倒れてますね」

「ラピスちゃんも無理してるもんね」

「…この三人は、この一年でどこの誰よりも働いたかもしれんな」

ユリちゃんとアキト君は向かい合って、ラピスちゃんはアキト君の背中を抱きしめて、眠ってる。
年越しそばを食べて警備計画を少し話して、人員の手配をしたらすぐに眠っちゃった。

「…本当にこの三人にはお世話になってばかりです。
 ピースランドの一件も何もかも」

「そうだよねぇ。
 あんな方法でどうにかしちゃうからすごいよねぇ」

ラピスちゃんはなんか人の心をよくわかってるタイプで…。
でもたまに容赦ないところが顔を出しちゃうんだよね。
軍人みたいな冷徹さに近いかな。
ルリちゃんが怪我した警備の人のことで注意するのも無理ないよ。
本当はナデシコで向かうべきだったんだと思う。
この一日の帰省のためだけに、私達のためだけに人が死んだりしたらよくないもん。
ラピスちゃんも疲労のせいかそのあたりの配慮を欠いたんだろうけど。

「…ルリ君だけじゃない、私も、アカツキ会長もだ」

「お父様、アキト君もかなり助けられたって言ってました。
 ユリちゃんも、かなり助けられたみたいです」

「…私達はラピス君には頭が上がらないな、これでは」

「…でも、三人とも私達を大事に想ってくれてるから、
 助けてくれるんです…。
 私は全然助けられてないのに…」

「ユリカ…」

お父様はかける言葉が見つからなかったのか、私を切なそうな顔を見ている。
…三人が未来から来たなら、その理由は解ける。
でも、そうだとすると…私が死んだ未来があるってことになる。
そしてルリちゃんがひとりぼっちになった未来があるってことになる…。
そんなの…受け入れたくない…。

「ユリカ姉さん、悩むのやめましょう。
 今は無理でも助けられる日が来るかもしれません。
 それまでは、三人が無理しないように一緒に居ましょうよ」
 
「…そうだよね。
 何も今すぐ役に立つ必要なんてないし、無理して私達が死ぬようなことがあったら、
 それこそ優しい三人が深く傷つくことになっちゃうし、向いてないことするのはもっとダメだし…。
 時間をかけよっか」

「はい。
 無理しそうになったら止められる位置にいれば大丈夫です」

「うむ、そうだな。
 ユリカ、今は何もできないかもしれんが、
 家族として一心に愛することが重要じゃないか?」

「…お父様」

…お父様の言う通りだね。
まずは気持ちが大事だよ。
料理の上達に時間がかかりそうなのと同じで、
今は時間をかけて、私に出来ることをしよう。それから考えよう。
じゃないと、本当にダメになっちゃうよ、きっと…。

「さて、そろそろ初詣に出掛けようか」

日付が変わって、除夜の鐘が鳴って…もうそんな時間なんだ。

…もう、眠って起きたらナデシコに乗らないといけないんだ。
帰ってこれるかな?
…うん、大丈夫。
ナデシコは強いし、最高のクルーが乗り込んでる。
火星に取り残された人を乗せて、戻ってこれるよ!うん!
















〇地球・東京都・立川市・神社─ホシノアキト
俺たちは、初詣に出掛けていた。
団らんの時間を少しは持てたけど、俺たちは疲労がすごすぎてほとんど寝てしまった。
も、申し訳ないことをしたけど…。

……しかし、俺も来年ハタチだというのにお年玉をもらってしまった。

ミスマル家的にはハタチまではお年玉をもらっていいルールらしいが…。

「わーい」

「わ、わーい」

と、ラピスとルリちゃんがなれないながらも子供らしい喜び方を披露しているそばで、

「う、生まれて初めてもらった…」

……俺はテンカワアキト、そしてホシノアキトの全生涯のうちでも、
生まれて初めてもらったお年玉に妙に感動してしまった…。
…ここにいる全員がすでに働いているけど、
ちょっと照れながらも全員がちゃんとお年玉を受け取った。

で…初詣は、と言うと。


「「「「「アキト様ーーーーー!」」」」」」



「え、映画もよろしくね!
 今日からやってるよ!」

営業スマイル全開で、ファンにサービスしまくっていた。
…これはラピス発案の、最もコストの低い護衛策だ。
一番命を狙われる可能性が高いのは俺だ。
何しろクリムゾン関係は言うに及ばず、たぶん芸能界でも敵視されてるかもしれない。敵が多すぎる。
爆弾を持ち込まれたらアウトだが、こういう場所で爆弾仕掛けるのはさすがにないだろう。
とはいえ刃物での暗殺は警戒しなければいけない。
そういう観点で、俺はおとりになってひきつけたほうがいい、という結論に至った。
俺は一人なら逃げ回れるし。

そして俺がファンサービスをしている間に、みんなが警護されながら初詣を済ませて、
神様に申し訳ないが、俺はお賽銭を投げ入れて高速に二礼二拍手一礼を行って走って逃げた。
こ、孤独だ…ファンには囲まれているが家族的には孤独な参拝だ…。
どうやらこの場で暗殺しようとする連中は居なかったようだが…警戒せざるを得なかった。

「うまくいったね」

「ええ、アキト兄さんには悪いですけど」

「ユリちゃん、安産祈願のお守り買わなくてよかったの?」

「さ、さすがにちょっと早いですよう…」

「そうだな。
 だが来年は買える状況になっていることを祈ろうか」

追いついたらのんきに話してるミスマル一家が見えて…。
さらに孤独感に追い打ちをされてしまった。
勘弁してくれ…。

「そういえば…ラピス。
 ルリちゃんとどっちがナデシコに乗るか決めたのか?」

「うん、さっき。
 私、凶だったから地球に残るよ」

「私は大吉だったのでナデシコに乗ろうかと。
 私の私物もナデシコに載せたままですし」

……占いかよ。
さつきちゃんたちは重子ちゃんの占いで色々決めることが多いって話してたけど、ここでもか。
まあゲンを担ぐのはいいかもね。先のことなんてわからないわけだし。
ちょっと映画をおもいだして複雑だけど。

その後、俺たちは帰宅後、入浴してすぐに就寝した。
明日からはナデシコか…無事に戻ってこれるといいが。
弱気になっちゃダメだが、草壁の事はまだ安心できる状況じゃないからな。
今日はゆっくり休まないと…。




・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。





…そしてその日、久しぶりに生々しい悪夢を見た。

火星に発つためのシャトルの爆発から始まり、
あの、火星の後継者に捉えられていた間の、
地獄とも言える日々を、鮮明に思い出して………。

俺は目覚めてしまった。
何時間も眠っていない、まだ暗い夜空が広がっている時間に。

…目覚めて、しまったんだ。
目覚めたのに、一瞬目の前が真っ暗になっていたことに恐怖して、
冬だというのに、おびただしい寝汗をかいて。
情けないことに涙を流して震えていた。

この世界に来てから、ここまで鮮明な悪夢を見たのは初めてだった。

二ヶ月の昏睡状態だった日々にも、この悪夢の映像が見えたが、
どこか他人事に思えて大丈夫だったのに。
俺はこの悪寒から逃げようと必死になって、飛び起きた。
そして自分の中のどす黒い感情に悶えた。



憎い。

ユリカを奪ったあいつらが。

ユリカをクローンとまぜこぜにして殺したあいつらが。

俺のすべてを、夢を奪ったあいつらが。

火星に着いたら、草壁を、ヤマサキを、この手で…!




だ、だめだ…。

俺は…人殺しに戻りたくない…!

嫌だ、そんな人生はもう嫌だ。

また夢を捨てるのか…!?

またユリちゃんを捨てるのか…!?

だがこのままでは…火星に行ったら…あいつらを殺そうと考えてしまうかもしれない。




嫌だ!


やめろ!


やめろッ!!


黙ってろ!


黒い皇子!!



「ぜえっ…ぜぇ…」

俺は布団の上でうずくまって、しばらく悶えていた。
そして、少しずつ震えと胸の動悸が落ち着いて…。
どす黒い感情が少しずつ収まって…俺を抱きしめる腕があることに気づいた。

「だい、じょうぶですか…アキトさん……」


ユリちゃんは弱弱しく俺に語り掛けた。
彼女が俺を抱きしめてくれて…温かい体温が、俺の冷え切った心をほぐしてくれた。

「…ああ、大丈夫。
 ちょっと…悪夢を見ただけだから…」

心配をかけてしまった。
…もう乗り越えたと思ったけど、ナデシコに乗る段階でまたぶり返すとはな。

「少し、夜風に当たってくるよ」

「私も行きます」

…俺、ちょっと寂しそうに見えたかな。
いや…ユリちゃんの気遣いに甘ったれてしまおうか。
一人で背負い込めるほど、俺は強くないんだから。
……あの黒い皇子のころでさえも、そうだったんだから。

「あれ、ラピスも居ませんね」

「…たぶん、俺の悪夢に当てられちゃったんだろう。
 一緒に慰めてあげようか」

「もう、二人っきりの方がいいのに」

「そう言わないでよ。
 …ラピスに対する貸しが全然返せてないんだから」
 
「ま、いいです。
 アキトさんにしかできないことですから」

とは言いながらも、ユリちゃんは優しそうな顔で笑ってくれた。
ユリちゃんも心配してくれているんだろう。
あのブーステッドマン達の一件の後は、
どことなく対立しやすいように見えたユリちゃんもラピスと打ち解け始めているらしい。
…浮気の約束はともかくだけど。

そして俺たちはこのミスマル家の、旧家らしい見事な日本庭園に出てきた。
錦鯉が泳ぐ池の石垣にラピスは手をついて涙をこぼしていた。
やっぱり俺の夢に引きずられてしまったんだな。
俺は近づいて声をかけようとした。

だが何か言い知れぬ予感を感じて、歩を止めてしまった。

おかしい。
俺とリンクをして、地獄のような俺の悪夢にさらされてなお、
ラピスは涙を流したりはしなかった。
確かに当時は感情に乏しい少女だったし、感情豊かな今なら泣いてもおかしくはないかもしれない。
それでもなお、心がざわめく。
その理由が分からずにいた。
動悸を押し殺して、ラピスに近づいた。

「ラピス、俺の悪夢が怖かったか?
 ごめんな」
















〇地球・東京都・立川市・ミスマル家・庭園──ラピス
私は茫然と膝をついて涙を流すことしかできなかった。
池に映る自分の顔を見たくなかった。
否定したい現実があった。
知りたくなかった自分がそこに居た。
…どうして思い出してしまったの。
どうせなら、忘れたままでよかったのに…。
こんなこと…知られちゃダメ…。
知られたら、きっと二人の関係を壊してしまう、壊せてしまう。


私の脳髄の…記憶以外の部分が…。






『テンカワユリカ』だったなんて…!!






アキトに知られたら、何が起こるか分かる。
…ユリちゃんがアキトから身を引いてしまう。
アキトもきっと私を…それだけはだめ!

私は、テンカワユリカは死んだんだよ…!

どうして…どうして思い出したの…!


なんで思い出せたの…!?


脳髄の記憶の部分は、ヤマサキさんに盗まれてしまったはずなのに…!


「ラピス、俺の悪夢が怖かったか?
 ごめんな」

後ろから投げかけられた声に、身体が震えた。
アキトは、私と同じ悪夢をみて…目を覚ましたんだ。
気付かれちゃいけない…。
こんな、ことに…。
二人の人生を引き裂ける私が、居ちゃいけないのに…!

「う、うん、だいじょぶ。
 先に戻ってて」

強がってそう言うのが精いっぱいだった。
でも…アキトの目が変わった。
き、気付かれ……ダメッ!













〇地球・東京都・立川市・ミスマル家・庭園──ユリ
私はアキトさんとラピスの間に…ただならぬ空気が漂っているのを感じました。
この場に居るはずなのに、口出しをできないような二人だけの空気を…。

……変です、二人とも。

アキトさんはこの世界に来てから悪夢には見舞われなかったと言っていたのに。
ラピスもそうです、アキトさんの苦しみをすべて知り尽くしていますし、
悪夢を蹴っ飛ばすくらいの強さを持ってます。
その二人が、なぜ今日に限って人並みに悪夢を見て、示し合わせたように目覚めたのか…。
…不穏、な感じがします。

「…ラピス、強がることないよ。
 怖い夢を見たら…泣くことだってあるだろ…」

「あ…」

アキトさんは、ラピスを後ろから抱きしめました。
……さすがにちょっとむかつきますね。
そんな抱き方、口説く時以外にはしないでしょうに。

でもアキトさんの唇が…動いた時…。
衝撃が走りました。
その言葉は…!!

「ッ!
 は、離してッ!!」


「離すかッ!」



ラピスは突然、暴れだしました。
アキトさんが自分から抱きしめるようなことがあれば、
浮かれるであろうラピスらしくない態度です。
それは…私に、ラピスがラピスでなかったことを突き付けてきました。
ハッキリとは聞こえなかったんですが、アキトさんの唇の動きと表情で気づきました。

『ユリカ、だな』

とラピスの耳元でささやいたんです。
アキトさんは暴れるラピスを力強く抑え込もうとしてます。
当然です、もし本当にラピスがユリカさんだとしたら、離すわけにはいかない…。

やっと…死んだと思ったユリカさんに会えたのに…!


「私はユリカじゃない!

 ユリカじゃないよ!
 
 テンカワユリカは死んだじゃない!

 私はラピスラズリ!!

 それ以外の何者でもないよ!!」


「だったら、なんで逃げるんだよ!?
 
 俺に抱きしめられて嫌がるラピスじゃないだろ!?
 

 なんで、なんで…うっ…ううっ…うう…ぅ…」


「あっ、アキ…ト…」


「なんで離れようとしたんだ…どこにもいかないでくれ…。

 お願いだ…せめて…ちゃんと話をしてくれ…。

 俺が…どれだけお前に会いたかったか、分かってるだろ…?」



アキトさんはただ、悲しそうに、訴えかけるように話しかけられてラピスは小さく頷きました。
悲しみと戸惑いに染まったラピスをしっかり抱きしめて。
…いえ、もう…これは確定です…。


ラピスは、ユリカさんです。


それも『ミスマルユリカ』ではなく、『テンカワユリカ』…未来のユリカさん…。

…そうなると、終わり、ですね。
私とアキトさんの夫婦関係も…。
所詮、私は…ユリカさんの代わりにしかなれなかった。
アキトさんがユリカさんを振り切れなかったのは、私のふがいなさのせいです。
浮気がバレた時って、こんな気分なんでしょうか…。

でも……いいんです。

あの時の後悔を、本当の意味で取り返すことが出来る。
嬉しくない訳がありません。
私の頬を伝う涙も、悲しみだけじゃない…うれし涙でもあるんですから…。


私達は涙をぬぐうと、ユリカさんを挟んで縁側に座りました。
ユリカさんが今にも逃げ出したそうにしているので、そうせざるをえなかったんですけど…。
嬉しさと悲しさの間に居る私はアキトさんの隣に居られないだけで、ずいぶん心細いです。

「…いい気なもんだよね、アキト。
 ちゃんと話もしないでルリちゃんを置いてって、
 私にはちゃんと話してほしいっていうんだから」

「…もう反省してるよ。
 取り返しがつかないことをしでかして、
 誰も救われないような状態にしたのも、全部…。
 だから、やっちゃいけないことだって身に染みて分かってるつもりだよ。
 逃げないで教えてほしいんだ。
 どうして…ラピスの中に、ユリカの人格が潜んでたのか。
 …教えてくれるか、ユリカ」

「…。
 状況証拠だけだし、確実なことじゃないと思うけど…。
 一応、覚えてる限りのことを話すよ」

ユリカさんは事のいきさつを話し始めました。
前の世界でラピスラズリという少女が居たのは事実だった。
ただ実験中に死亡して…気付いたらまたカプセルの中に揺られていたと。
その時は単に蘇生に成功したと思っていたそうですが、消えない違和感を覚えるようになったと。
だから自分がラピスラズリであることを疑いもしなかったそうですが…。
ヤマサキ博士の発していた言葉が、今の状況を考えたら納得がいく内容でした。
当時は何を言ってるか理解できなかったそうですけど。


『脳の調整はうまくいったねぇ』

『遺伝子的には何の縁もないもの同士だったけど』

『捨てるのはもったいないと思ってとっといたけど、運が良かったよ』

『良かったね、あの夢見がちなボウヤと一緒に帰れるかもね』



この言葉だけでは何の意味を示しているのか分かりません。
けど、ラピスの状況…ユリカさんの記憶を持つラピスが居れば意味がつながります。

未来の世界でユリカさんは別のクローンをつくられ、脳髄の記憶の部分を移植され、
残りの脳髄は破棄されて死んでいたと思われていました。

でもヤマサキ博士がいうことをつなぎ合わせて考えると、
実験中に死亡したラピスラズリの記憶の部分と、
ユリカさんの記憶以外の脳髄部分を組み合わせた、
一つの脳髄が、ラピスラズリの肉体に入っていた…と考えればすべて辻褄が合います。
もっとも、なぜユリカさんの記憶がほぼすべて蘇っているのかはわかりません。
確かに記憶をつかさどる領域以外にも、
脳は記憶をバックアップしてくれてる場合があるとは言いますが、
それにしたって正確すぎます。齟齬がなさすぎます。

…すべてを聞くとアキトさんは申し訳なさそうに、ため息交じりに話し始めました。

「…もっと早く気づくべきだった。
 俺が撃たれて死にかけた時、夢でユリカに出会ったと思ったが…。
 そもそもユリカの記憶の部分の脳髄と体は死んでたわけだし…。
 過去に戻ったことで、未来の世界が消えたのに語り掛けてくれるはずがない。
 そうでなければ…眠っている間はお互いに視界や聴覚が共有出来たり、
 同時に眠っていると交信が出来るラピスが、
 俺に語り掛けてくれたと考えるべきだったんだ」

「…私も気づくべきでした。
 あのブラックサレナが襲撃してきた時、ラピスは言っていました。
 
 『小さい頃のアキトが見えた』と。
 
 …アキトさんの記憶を除いただけだったら、見えないはずなんです。
 頻繁に鏡を見るようになる年齢じゃなければ、成長途中の自分の顔なんて印象に残りません。
 どちらかというと、アキトさんの記憶だったらユリカさんの顔が見えているはずなんです。
 
 …どうしてそこに気が付かなかったんでしょう。
 
 その時も、私のことを『ユリちゃん』と呼びかかってましたし…。
 どうして…」

「…しょうがないよ、気づくわけないもん。
 だって脳髄はともかく、体はほとんどラピスちゃんだもん。
 脳の9割以上はユリカかもしれないけど、
 身体の割合で言ったら9割以上ラピスちゃんだし。
 
 そんなことにすぐ気づくなんて、エスパーだよ」

不覚です。
あの時の違和感に今になって気づくなんて。
もう少し早く気づいていれば…もっと色々…いえ、まだ遅くありません。

「…ユリカさん。
 あなたに会えて…ホントに、本当に嬉しいです…。
 もう二度と会えないと思ってましたから…。
 
 でも、終わらせなきゃいけないことがひとつ、出来ました。
 
 あなたが居ない間…アキトさんの妻になれてうれしかったです。
 だけど、ユリカさんがが戻ってきてくれた以上、もうそれも終わりです。

 アキトさんをお返しします。

 …あの時、出来なかったことをたくさん叶えて下さい」


「ゆ、ユリちゃん!
 待ってくれ、確かに俺もユリカに会いたいと思っていたけど、
 だけど!」


「いいんです、アキトさん。
 …二人ともひどいこと、沢山されたんでしょう?
 私は…ユリカさんが居ないから、アキトさんを抱きしめられたんですから…。
 ……き、気にしないで下さい。気にしちゃ嫌です…。
 アキトさんは今まで、いっぱい愛してくれましたから…。
 死に別れるわけじゃありませんし、全然大丈夫です…」

…アキトさんが戸惑ってくれるのが嬉しいです。
私とも離れたくないと思ってくれるだけで…。
もう、後悔はありません。
この涙は止めようがないけど…。
ここまでの生活は、『黒い皇子』と『ホシノルリ』だったら絶対に叶わなかった事。
どんな幸運が重なろうと起こりようのない奇跡。
…だから、このラピスになり果てたユリカさんが記憶を取り戻すという奇跡も、受け入れられる。

だって、もしラピスがユリカさんじゃなかったら、
アキトさんは撃たれた時点でとっくに死んでいたんです。

そうじゃなくてもラピスが居なかったら、お父さんもアカツキさんも無事じゃすまなかったし、
ルリも、ピースランドの家族とうまくいかなかったかもしれない…。
私が出来ないことを代わってもらって、たくさん助けられて、
それでのうのうとアキトさんと一緒に居られません。
あるべきところに戻るべきなんです。
でも、ユリカさんは首を横に振りました。

「ダメだよ、ユリちゃん。
 私…本当にテンカワユリカか分からないんだよ?」

「そ、そんなこと…」

「もしかしたらヤマサキさんが意地悪して、
 ラピスちゃんにユリカの記憶を刷り込んだだけかもしれないんだよ?
 だから…」


「そんなことありませんッ!」



私が声を上げると、ユリカさんはびっくりして肩を震わせました。
アキトさんはただ涙を流してうなだれています。

「この世界に来てからアキトさんやお父さんやアカツキさんの命を救っただけでなく、
 前の世界でもラピスになったあなたはアキトさんを支え続けて…!
 最後の時も、私を助けるためにアキトさんに体を差し出してくれた!

 

 そんなあなたがユリカさんじゃないわけがありません!」



私もアキトさんもラピスに助けられてばかりです。
…その理由が、そしてこの世界に来てからのラピスの機転が利く理由が、ついにわかりました。
ラピスラズリという少女の記憶を持ちながら、
それ以外の部分はユリカさんが握っていたんです。
だから感情表現も豊かで、頭の回転の速さも、
人心掌握の見事さも、策の練り方も、
すべてユリカさん譲りだったんです。
性格は地のラピスだったかもしれないですが…。

ラピスが助けたかったのはアキトさんだけじゃない。
私も身を挺して助けようとしてくれたんです。
爆弾の付いた首輪を代わりに付けてくれたのだってそうです…!
アキトさんのためと言いながら、私を死なせないために…!

「…駄目だよ、ユリちゃん。
 アキトを簡単に手放そうとしちゃ。
 
 アキトは今や世界一の王子様なんだよ?
 
 うっかりしてると私以外の子にとられちゃうんだから。
 それにラピスちゃんは…まだ12歳だよ?
 あと六年はアキトに抱かれる資格がないし…。
 アキトは私と約束したんだよ。
 
 私の分まで、ユリちゃんと幸せになってくれるって。
 
 だから…ね?」

「ぅ…うう…。
 だから…そんな風に言うから、
 あなたはラピスじゃないっていうんです…っ。
 ラピスだったら…きっと、
 『六年後ユリからアキトさんを奪ってやる!』
 っていうはずです。
 こんな…こんなことって…」

「……じゃあ、ユリカでいいから。
 せめて、すぐに決めるのやめよ?

 火星に行って、草壁さんに私の脳髄が本当にユリカか聞いてきて。
 
 それから私の事を考えてよ」

「で、でも…」

ほぼ確定的な状況なのに、
ユリカさんは私達に予定通りに火星に向かうように言ってます。
そんなに冷静になれない状態だっていうのに…。

「…私、草壁さん達をみたら冷静になれるか不安なの。
 この記憶が本物かどうか分からないのにね。
 アキトが撃たなかったら…私が殺しちゃうかもしれないの…。
 
 だからダメなの。
 そんなことになったら、アキトの夢はきっと叶わなくなる。

 私の夢でもあるんだよ…?
 アキトが一人前のコックになる夢は…。
 
 この世界、色々、よくわからないことが多いし、
 ちゃんと調べてからじゃないと、早まって判断したらきっと後悔しちゃうよ。
 
 だから私達の関係はひとまず保留で、
 アキトをいつもどおり支えてあげて。
 それでいつもどおり甘えていいんだよ、ユリちゃん。
 こんなに小さくなった私のことを気にしちゃダメなんだから」

ユリカさんはにっこりと笑って、私に言い聞かせてくれました。
……こんな風に私に笑いかけてくれるのが、刷り込みの記憶だなんて思えない。
断らなきゃいけない、でも言葉が出てこない…。

「…ユリちゃん、あのね。
 私、ユリちゃんがこの世界で、本当に私の妹になってくれた時…。
 泣いちゃうくらい嬉しかったの。
 
 ユリちゃんみたいな妹が欲しいって、ずっと思ってた。
 
 …ホントは、寂しそうなユリちゃんのお母さんになってあげたかったんだけどね。
 
 だから…。
 私をテンカワユリカだと思ってくれるなら、
 
 

 二人で、今まで通り支え合って生きて…!
 
 それで火星から戻って、元気な顔を見せて!
 
 私が戻ってきたからって、
 二人の愛が嘘だったなんて言わせないんだから!
 
 私が認める、私以外のアキトのお嫁さんはユリちゃん一人だけ!

 わ、私が浮気できるくらいまでの間も、私に遠慮しちゃだめだよ!

 お似合いの二人が、死ぬ時にいい人生だった、幸せだったって、
 
 笑える人生を歩こうとしなかったら…。
 
 私、ぜったい、ぜったい許さないんだから…」
 

「ず、ずるいです…そんな、風に言われたら…」

ユリカさん、ずるいです…。
涙を流しながらそんな風に言われたら、なにも言い返せません。
私はユリカさんが手に入れられなかったものを全部持ってしまっているのに…。
何もユリカさんにしてあげられてないのに…!

「ずるいもなにも、ないよ。
 だって…テンカワユリカは死んじゃったんだから…。
 黒い皇子のテンカワアキトも、16歳のホシノルリも…。
 
 テンカワユリカの遺言はね、ホシノユリに…。
 ううん、もうユリちゃんはミスマルユリだよね。
 
 生まれ変わっちゃったんだから、いいじゃない。
 今度は、ユリちゃんがアキトの一番にならなくちゃ!
 そうなってほしいの!」

「ゆり、か…さん…!!」

や、やっぱりずるいです…。
私が抵抗できない方向に全部先回りされてしまう…。
アキトさんに助けを求めても、アキトさんも小さく首を横に振ってます。
その先は言わなくても分かります。

『ユリカは一度決めたことに頑固だからこの場での説得は無理』

…そんなことは分かってます。
ただ、一つだけ崩す方法も、知ってます。

「…じゃあ、ユリカさん」

「なぁに?ユリちゃん」

「分かりました。
 ユリカさんの言うことの方が正しいのを認めます。
 ラピスは12歳で、復縁しようにも無理ですし。
 今は私がアキトさんをいつも通り支えるのも了承します。
 いったん、結論は保留でいいです。
 火星に行って、本当にラピスの体にユリカさんの脳髄が入ってるのかも聞いてきます。
 でも…」


ぎゅっ。



私はユリカさんの腰に手を回して動けないようにロックしました。
ユリカさんはえっ、っておどろいてます。

「せっかく再会出来たのに、逃げようとしたのは頂けないです。
 …アキトさん、キス」

「「ええっ!?」」

「キスくらいしてください!ふざけないでくださいよ!
 離れ離れになった二人が、
 死ぬかもしれない戦いに向かう前にキスもしないなんて許せません!」

「で、で、でもぉ!
 そ、そんな浮気なキスしちゃ…。
 私、ラピスちゃんかもしれないのに…」


「公認浮気一回分認めてる仲で何言ってんですか!?
 アキトさん、早く!!」


ユリカさんは顔を真っ赤にして抵抗して見せてますけど、
そんなこと知ったこっちゃないです。


…って、アキトさんまで顔真っ赤で悶えてる場合ですか!?



「ちょ、ちょ、まって…心の準備が…」


「いつも私にしてることでしょう!?」



・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。


…結局、二人とも私が居るとムード的にダメみたいでこの試みは頓挫しました。
やっぱり、無理に離婚してでも何とかするべきなのかもしれないですけど…。
10分ほど抵抗が続いて、私とユリカさんの体力だけが尽きて、
うなだれていると、不思議に変な笑いが浮かんできて、もんどりうって三人して笑いました。
何か…ゲキガンガーの夕日の殴り合い後みたいな、変な空気です。

こんな風に三人がまた揃うという奇跡が嬉しくて。
またユリカさんにキスするのを躊躇うアキトさんがおかしくて。

……もう、悩むのがバカバカしくなってきました。
帰って来れてから悩めばいいです、確かに。
元々ラピスとのドロドロの三角関係になる可能性はありました。
なのに今更そんなことで悩んでもしょうがないです。
火星から帰ってこれたら、何とでもなります。
ユリカさん…いえ、ラピスが地球に残るなら、何一つ問題はないはずです。

私はユリカさんの天才的な戦術眼も、ラピスラズリの策士ぶりも信頼してます。

この二つが一つになっているなら、きっと私達が戻る間も無事で居てくれます。
私達がちゃんと帰ってこれるかどうかの方が不安なくらいです。

「…情けない話だよ。
 一番求めてた人が、助けたかった人が、まさかずっと隣にいたなんて。
 何度も命を賭けさせて、
 挙句にこの世界に来なかったら失っていたかもしれないなんてさ…。
 喜劇もいいところだよ…バカだよ…」

…ヤマサキ博士の策で、見破れないに決まってる状況なのに、
またアキトさんはウジウジしてます。
今回は気にしないって方が無理でしょうけどね…。

「…まだ私がユリカって確定したわけじゃないんだから気にしないでよ。
 私、二人とは状況が違うから二人みたいに、
 一つの人格に二つの性格がある感じじゃないかもしれないし。
 もしかしたら、明日にはただのラピスラズリに戻っちゃうのかも」

「不安なことを言わないで下さいよ…。
 …でも、ユリカさんがラピスの中に居るなら、大丈夫です。
 ラピスが無理しそうになったら止めて下さいね」

「うん」

ユリカさんは小さく頷いて立ち上がりました。
そして、空を見上げて、すぐに私達に向きかえりました。

「まだ結論はわかんないけど…。
 私はラピスちゃんを依り代にしてこの世にしがみついただけ、
 みたいな言い方になるのかもね。
 あの映画のユリカじゃないけど」

「…だったらキスくらいはいいんじゃないですか?
 映画じゃないんでしょう?
 アキトさんとキスしたいんでしょう?」

「い、いいよ、今は…。
 もし本当に私がユリカだったら、
 もっかい最初っから恋をやりなおすの。
 …そっちの方が、嫌なこと忘れられそうだし。
 でも、もし私が本当にユリカの記憶を持たされただけのラピスちゃんだったら、
 逆にもう遠慮なくどーんとやっちゃうから!
 浮気の権利、捨てる気は、わ、私もないもん…」

「…なら止めません」

ユリカさんは顔を赤くしたまま、
そういう風に言われると、止められません。
…アキトさんもさすがに12歳相手にキスというのはためらいがあるみたいですし。
ユリカさんもアキトさんへの愛情を捨てるつもりもなさそうです。
だったら…何があってもまた会えます、きっと…。

「ユリカ」

黙ってることの多かったアキトさんが、ユリカさんをまたつよく抱きしめました。
今度は…嫉妬じゃなくて嬉しい気持ちがわいてきました。

「…二度とお前と離れたくない。
 でも…ユリちゃんとも…お前とも…ずっと一緒に居たい。
 その…いつかは、決めなきゃいけないんだろうけど…。
 それでも…」

「もう、アキトのバカ。
 既婚者の癖に。
 別れるかもって、ユリちゃんの前で言ってるみたいじゃない。
 この世界じゃユリちゃんの旦那様なんだよ?
 ユリちゃん、怒っていいよ」

「う…」

「…今は怒るのやめときます。
 ユリカさんが大事なのは私も同じですから」

「もう、ユリちゃんまで」

アキトさんのことだから、いつか私とユリカさんを選ぶ頃には、
すごく悩んで情けなく泣いてしまうんでしょうね。

でも、それはアキトさんが決めることです。

私とユリカさんは、そしてラピスは、
変わらずアキトさんを好きだと言い続けます。

その結末がどうなろうと、すべて納得して受け入れます。
だって…私の愛した二人が、
生きていてくれるだけでこんなに嬉しいんですから…。

あっ…。

「…ダメだってば」

「…う」

…アキトさん、不意をついて唇を奪おうとしましたね。
素直になってくれたのはいいことでしたが、ちょっといただけないです。
12歳相手にためらいがあったように見えたのはフェイクでしたか…。
……意外と放っとくとアキトさん危ないかもしれないです。
脇は固めましょう、ちゃんと。ユリカさん以外には。
ラピスも無論含めます。ややこしいですけど。

「あと、エリナさんとの事、地球にもどったらしっぽり叱ってあげるよ」

「うぐっ」

…キスをしようとした事にからめて、強く抑え込みましたね。
ユリカさん、こういうところ厳しいから。

「…だから無事に帰ってきて、アキト。
 身体のことも、大丈夫だといいね」

「ああ…絶対に帰ってくる…」

私はアキトさんの体のこともですが…。
ラピスの脳髄が…ユリカさんのものであることを祈ってしまっています…。
そうなると私とアキトさんの仲も壊れてしまうかもしれませんけど…。

もうそんなことは怖くないです。

だって、どうやったって生きてたらゼロにはなりませんから。
罪を犯さなければ、誰かを傷つけなければ生きてたらやりなおしがきくんです。

だから、何度だってやり直してみます、
アキトさんとユリカさんとなら、何度だって…!


ちゅっ。



「あ…」

「でも、私からほっぺにはキスしてあげる。
 ユリちゃんとの約束だもんね」

「…ばか」

アキトさんは不意を突かれて、ユリカさんにキスされて顔を赤くしてます。
…はぁ、なんでここをリセットしちゃってますかね、アキトさんは…。

「じゃあ、寝よっか。
 …私もね、このミスマル家に帰ってこれて嬉しいの。
 もう二度と、戻ってこれないって思ってたから…」

「ユリカ…」

「アキト、元通りになれたよ。
 私達。
 だから…誰も殺さないでね…」

「…うん」

ユリカさんの目からこぼれる涙も、静かにこぼれる笑顔も、すべてが眩しいです。
…明日にはまたしばらく会えなくなるのが残念です。
でも…私とアキトさんはその日、よく眠れました。



そして翌朝、ラピスはユリカさんの部屋で眠っているのを発見されました。
寝ぼけてたのか分かりませんが…。
…記憶がコピーされてるだけだったら習慣までは重ならないでしょうに。
ラピスの脳髄のほとんどが未来のユリカさんだったというのはたぶん確定です。
……死ねない理由が、また一つできちゃいましたね。

今度こそ…三人で幸せになるんです、絶対に…。

ね、アキトさん?

















〇地球・立川市・連合軍基地・ナデシコ・ブリッジ──ルリ

「機動戦艦ナデシコ、はっしーーーん!」


ユリカさんの景気のいい言葉とともに、ナデシコは飛び立ちました。
ついに私達は、火星へと向かうことになりました。
割とあっさりと出発が出来て良かったです。
根回しに次ぐ根回しが功を奏して、ナデシコが火星に行くと世間に知られずに出航出来ました。
もっとも、単に月に向かうことになっているとはいえ、じきにばれます。
妨害したがっている人がめちゃくちゃいますし。
アキト兄さんが乗り込んでることを黙ってたこともあって、記者会見なしでしたし。
…しかしアキト兄さんが火星に向かうって知られたらパニックになりそうな気がしないでもないですけど…。
まあ、コスモス、カキツバタ、シャクヤク、そしてユーチャリスが残るので、全く問題はないでしょう。
ラピスとハーリー君がユーチャリスに居ますし、ちょっとやそっとじゃ負けません。
それにしても…。

「アキト君、ご機嫌だよね…。
 なんでだろ?」

「芸能界離れられるからじゃないですか?
 嫌がってましたし」

「そーよねー。
 遊び癖もなくて、普段何してるか分からないから、
 ストレス貯めてそうだったけどねぇ」

「私もあんな顔初めて見ました。
 …まあ、ユリ姉さんと居る時は割とニコニコしてますけど」

ブリッジでたたずんでるアキト兄さんが、珍しくご満悦な表情です。
宝くじ当たったってこんな顔にはならなさそうなくらい。
ユリ姉さんも同じくらい笑ってます。
やっぱり芸能界から逃げおおせたのは嬉しいってことでしょう。

……もしかして結構長いハネムーンみたいに思ってます?

芸能人扱いされないで居られる期間が、四か月くらいありますから…。
の、のんきですね…。

「そういえばぁルリルリは、
 ついにミスマル家に入ったんだっけ」

「はい。
 ホシノルリ改め、ミスマルルリです。ぶい」

「そうだよぉ!
 私がユリカお姉さんです、えっへん!」

ユリカさんとユリ姉さん、それにラピスと名実ともに姉妹…。
……め、めちゃくちゃ嬉しいです。
世間ではどうしてもアキト兄さんとユリ姉さんを挟んで、姉妹関係と認識されがちでしたが、
もうこれで揺るぐことはないでしょう。
色々ありましたけど、こんなに嬉しいこと、なかなかありません。
…私も結構はしゃいじゃってますね、アキト兄さんたちに物を言えません。

「…でもラピスちゃんにはしばらく会えなくなっちゃうんだよね。
 お父様も居るし、大丈夫だと思うけど…」

「そうですね…ラピスも意外と寂しがりなところがありますから…」

何か仕事をしている時以外にアキト兄さんに四六時中くっついてるのがいい証拠です。
私もですけど、結構年相応なところが実はあるんです。
ユリ姉さんとラピス、涙ぐんで抱きしめあって別れましたし。
アキト兄さんに至っては、本当に心配そうに泣いてて…。
…私もつられて泣いちゃいました。

でもラピスが残ってくれて良かったです。
私が残ってもPMCマルスを支えるなんて無理ですし、
アキト兄さんのファンの怒りを何とか鎮火できるのもラピスしかいません。
父と母に、ラピスに協力を求められたら力を貸して欲しいとも頼んでありますし。
大丈夫です、きっと…。


















〇地球・立川市・連合軍基地・ナデシコ・アキトとユリの部屋──ユリ
月に向かうまでの時間が結構長いからと…私達は自室に戻っていました。
私とアキトさんはアカツキさんにもらっておいたワインを開けて、二人で祝杯を上げました。
本当はアルコールはまずいんですが、今はアルコールは打ち消す薬があるから大丈夫です。

「…ついにナデシコで火星に向かえるね」

「ええ、やっとここまでこれました。
 一年以上、大変なことばかりでしたけど…やった甲斐がありました」

最初は何もできないんじゃないかって思ったけど…。
妨害も少なくなかったけど、トントン拍子と言っていいくらい順調にここまで来れて…。
アキトさんともずっと深い関係になれましたし…。

しかも、ユリカさんが生きていた。

…こんな幸運なことばかり続いて、嘘じゃないかと疑ってしまいそうです。

「…ユリカ…ラピスと別れるのは辛いけど、大丈夫だよね。
 俺たちも火星に行くまでに、準備をしっかりしておかないと」

「…ええ。
 絶対、生きて帰ります。
 何が起こるかわかりませんが…きっと大丈夫です」

希望的観測を語るのは性に合いませんが…。
それを裏付ける現象はたくさんあります。
草壁たちが戦術を変えてこないのも、強い兵器を作ってこないのも、何もかも。
…あの二人を憎むなと言われれば無理ですが、経過はどうあれ、
アキトさんとユリカさんが帰ってきてくれたなら…許せます。
……ユリカさんの心の傷も、軽くはないのかもしれませんけど、でも…。

「…アキトさん。
 戻ったら、出来る限りユリカさんと出かけたりしてあげて下さい。
 ……私、そうじゃないと」

「…分かってる。
 できればいっしょに来てほしかったけど…」

「それは言いっこなしです。
 万全を期すのであればユリカさんは、ラピスは、地球に居ないとダメです」

…せめて一週間くらいあればまだ良かったんですけど。
あの時に失った時間を少しでも埋めてあげたかった…。
けど、私が地球に残ると言っても、ユリカさんは首を縦に振ってくれなかったでしょう。
草壁たちとの話し合いがまとまるまでは、動きを止められないんです…。
ユリカさんの言う通り、自分たちの気持ちは我慢して予定通り動くしかありません。 それに…。

「…私たちの関係を整理するのにも、大分時間が必要だと思います。
 ユリカさんもあんな風に強がってますけど、アキトさんと一緒に居たいに決まってます。
 今日はユリカさんも複雑そうな顔をしてましたし…。
 ラピスのふりをかろうじてしてるだけみたいで、たどたどしかったですし…」

「そうだね。
 …やっぱり俺たちの時と同じだったね」

しばらくユリカさんはラピスの状態には戻れないようでした。
とはいえ、落ち着いたら自然に融合してくるはずです。
なんの心配もないでしょう。

「…明日からテンカワと、料理も戦闘技術も鍛え直すよ。
 ユリちゃんと過ごせる時間も、今まで変わらず少なくなっちゃうだろうけど…」

「いいです。
 私、幸せですから。
 絶対に火星から生きて帰りましょう」

火星から帰って来れれば…ハッピーエンドはもうすぐです。
もう、こんな人生があっていいのかと思うくらい充実してます。
苦労に見合うだけの幸せと幸運を貰ってます。
かつては色々知られてる人には薄幸の美少女扱いされることも多かったですけど…。
ユリカさん並みに恵まれてて、図太く生きていけるだけのものを貰ってます。
ホントに。

「…うん。
 そのための努力が続くだろうから、
 せめて今日くらいはのんびり過ごそうか」

「…はい」

…本当はアキトさんには何日か休んで欲しいです。
まだとてもじゃないですけど疲れが取れてるとは言えません。
……いえ、火星ですべてがまとまったら、帰りの二ヶ月はのんびりできます。
それまでは、生き残れるように最善を尽くしましょう。
でも…。

「…この部屋、ムードないですよね」

「…言わないで」

私達二人分の八畳一間の大き目な部屋は…。


米だの野菜だのフリーズドライ食品だのの食料で70%が埋め尽くされてました。



プロテインの一キロの袋もダース単位で詰め込んで天井に迫る勢いです。
倒れてきたら命の危険がありそうですから積み方には細心の注意を払いました。

…アキトさんは普段何もしてなくても六人前は食べます。
特訓してる期間は、下手すると二十人前は食べます。
つまり、一日当たり六十人前の食料を消費する可能性があるんです。
そうなると、214人のクルー、プラス火星で救出した人達の人数分の食料を満載したナデシコとはいえ、
足りなくなる可能性が0じゃありません。
だから…アキトさんの分だけでコンテナ十個分にも及ぶ食料を格納庫に搭載してますし、
それでも足りない場合も考えて自分の部屋にもできるかぎりしまい込んで…。
…結果として、二人が眠るスペースくらいしか残ってません。
私の私物はユリカさんの部屋とルリの部屋に置かせてもらいました。
アキトさんは一部テンカワさんの部屋に置かせてもらってます。

…はぁ。

アキトさんが生きていてくれるだけでも嬉しいですし、これくらいは我慢しますけど…。
た、大変だからなんとかしたいです。
イネスさんはアキトさんのこの大食い体質を治せるでしょうか…。
治せなかったら最悪、帰りの航路ではアキトさんはコールドスリープでもして何とかするしかなくなります。

…か、勘弁して…。





















〇連合軍・立川基地・指令執務室──ラピス(テンカワユリカ)
私とお父様は、ナデシコの出航を見送った後、お父様の仕事場でお茶を飲んだ。
……久しぶりに食べるフタバやさんのケーキ、美味しい。
涙でちゃいそう。

「行ってしまったな」

「ええ、寂しいです」

…ナデシコにもう一回くらい乗っておきたかったなぁ。
私が目覚めるの遅くなっちゃって、残念…。
でもいいの。
私には…アキトとの思い出の船があるもん。
ラピスラズリとしての人生で…。
アキトを支え続けた、二人の墓場になる予定だった、あの船が。

「ラピス君…。
 やっぱり、君はユーチャリスからは下りないのか…?
 連合軍に貸し出したままでも…」

「…私とハーリー君じゃないとフルに性能が引き出せません。
 それにもう百人も雇っちゃいましたし」

「…別にユリカの真似をしなくていいんだよ、ラピス君。
 君はもう、ミスマル家の…私の娘になったんだから…」

お父様は困ったように、ユリカのようにふるまう私に、
娘と認識しているんだから気兼ねしないように言ってくれた…。
この世界では私はユリカのクローンだから…。
だから、娘と認めてほしいとおもってユリカの真似をしているんじゃないかと思ってる。

…嬉しい。

私を、ただのユリカの複製にすぎないラピスラズリを、
娘としてまっすぐに愛しようとしてくれている。
昔は、愛しい気持ちとは裏腹に窮屈さを覚えていた、
もう二度と、会えるなんて思っても居なかったから…。
お父様の愛情が、こんなに嬉しいなんて思いもしなかった…!

「ぐすっ…」

「ラピス君…」

「ご、ごめんなさい…嬉しくて…」

「いいんだよ、ラピス君。
 …君が私の言葉でこんな風に泣いてしまうなんて思いもしなかった。
 アキト君を支える君も、普通の女の子なんだな」

「はい…。
 でも、これはユリカお姉様の真似じゃありません。
 これも私の一つの側面なんです
 ……あの、お父様、お願いが…」

「ん?なんだい?」

「二つあります。
 一つは…ユリカお姉様と同じように呼び捨てて下さい。
 もう一つは…そ、その…。
 
 だ、抱きしめてくれませんか?
 
 私が、アキトとユリち…達が出て行った分まで働いて、
 PMCマルスも、地球も守りたいんです。
 そうしたら、お父様に会うのも難しくなるかも…。
 
 だ、だから…」


ぎゅっ。



「あ…」

「当たり前じゃないか、ラピス。
 君も、紛れもなく私の娘なんだ。
 生まれも血筋も関係ない。
 君は、私の大事な娘だ!
 だから、これからの戦いでも死ぬようなことは絶対にしてくれるなよ。
 
 分かったな!」


「はい…!
 お父様っ!お父様…っ!」



私は強く抱きしめてくれたお父様を強く抱きしめ返した。
お父様がまたこうして抱きしめてくれるなんて…!
こんな大切な人を手放そうとしていたなんて、私、バカだった…。

私は恵まれていたんだ、何もかも…。

大事なお父様も、家も、才能が発揮できる職もあったのに…。
私らしく生きられる場所が欲しかったなんてわがままのために全部捨て去って…。
確かに、その先で出会えたアキトも、ルリちゃんも、ナデシコのみんなとも出会えたけど…。
出会えた人生を嫌ったりなんかできないけど…。

でも、もう手遅れなの。

…もう遅いのよ、バカなユリカ…!

今回もこんな風に私を信じてくれるお父様を騙して、逃げ出して、捨てるんだから!!

救えないバカだよ、私は…。


「ん、ありがと…。
 もうだいじょぶ…」

「そうかい?」

「うん。
 …嬉しかった。
 こんな風に言ってくれるお父様の居る家に来れて、
 ラピスは幸せ者だよ…」

「…嬉しいことを言ってくれるな、ラピス」

くしゃくしゃと私の頭をお父様は撫でてくれた。
…変わらないね、当たり前だけど。

「それじゃ失礼します。
 …頑張ってきます、お父様」

「……あ。
 あ、ああ!
 いつでも頼っていいんだぞ、ラピス!」

私が執務室から出て、案内してもらおうとした時、
お父様は呆気に取られて手を振るのが遅れた。
…私のあいさつにユリカと同じもの感じたんだね。

……ごめんね、お父様。

私は待合室でエリナさんの迎えを待っている間、
泣くのをやめなきゃいけないのに、しばらく泣いていた。



…バカだよね、アキトは。

ユリカは嘘をつかないって思ってるんだから…。
私が歪んだことにすら気が付いてないんだから。

そう。
確かに私はラピスラズリとして生まれ変わった。
でも、なぜか取り戻してしまったユリカの記憶。
すべてを奪われ、穢され、
心も体もズタズタに引き裂かれた、あのころの記憶がよみがえった。
それが私にすべての希望を捨てさせたんだよ。

私はアキトとは違って、この世界の自分と憎しみを半分こにはしてもらえなかった。

あの人たちを憎む心が、あの地獄の業火の残り香が、私の中にまだくすぶり続けてる。
…昨日、悪夢に当てられたのは私じゃなくてアキトの方なんだ。

その時に確信した。
私はこの記憶を消し去ることなんてできない。
そして私が悪夢を思い出すたびに、アキトも同じ憎しみにとらわれてしまう。
……私自身もこの悪夢を抱えたままじゃ、生きていけないよ…。




だったら…。



死ぬしか…ない…。



死ぬしかない…よ…。




アキトのために、私が全部持っていくしかない…。

誰かに殺されるとか、自殺じゃダメだけど、病死だったら…アキトは誰も憎めなくなる。
かかれば死ぬようなウイルスを手に入れて…死ぬしかない。

でもそのためには、アキトが火星から生き残って戻って来るのが前提。
戻ってこれなかったら…木星全土を焼き尽くしてでも仇をとってあげるから…。

戻ってこれたら、誰もアキトたちに手出しができないくらい、
完膚なきまでにすべてを打ち倒して、世の中を変えてでも守って見せる。
絶対に…。

どっちにしても今から準備を始めないとね。
二人の手は血に染めたりさせない。
私が全部穢れを請け負うよ。

…私にはそれしか残されてないんだから。
私にはアキトの隣にいる資格なんてもうない。
この半端なリンクなら、きっと地球何個分か距離が離れれば、届かなくなるはずだし…。
アキトとリンクがつながらないのを確認してから、始めよう。


大丈夫だよ、アキト、ユリちゃん。

全部うまくいく。全部まとまるよ。

二人も、この世界のアキトも、ユリカも、ルリちゃんも。

絶対に幸せになれるよ。



……私が消えればね。



だから二人は…私が居ることに気づく前と同じように…。


幸せになるために、頑張って…。


二人のために、私は全部捧げて戦い抜いてから、逝くから…。


嘘ついてごめんね。でも…。







──愛してるよ。アキト。ユリちゃん。


















『機動戦艦ナデシコD』
第五十二話:『Darling, goodbye-最愛の人よ、さようなら-』
END
































〇作者あとがき
どうもこんばんわ、武説草です。
ついにテレビ本編二話目の時間に入るころになってきました。
そして長く長く続いた『ダイヤモンド・プリンセス』編が完全に終了し、
次回から『火星航路編&黒百合編』に突入してまいります。
いやぁ…ようやっと本題に入ってくる感じですね。
一年半か…だいぶかかったな…(バカ
Dがつく言葉だけでよく52話持ったな、とか思います。
今回のタイトルはだいぶ前に決定してましたけど。
ヘビー武説草リスナー(居るんか?)の方はお気づきかとおもいますが、
この設定は過去に書いた短編ネタをすごくすごく丁寧にやるためにここまでやりました。
それプラス、近年に影響を受けたものを練り込んでおります。
では、次回もどうぞご期待くださいませ。

ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!



















〇代理人様への返信
>なんでこう、アキトのヒロインはメシマズばっかりなんだw
たぶんアキトの料理スキル分が、ヒロインに減算されるシステムですね。

>ダークマターはやめろ、ダークマターはw
>P4のムドオンカレー、あれ実在するんだぞw
じ、実在するんすか!?

















~次回予告~
ナデシコという船に乗る資格も、アキトの隣にいる資格も失った、
かつて『テンカワユリカ』と呼ばれた少女、ラピスラズリ。
彼女が望むのは、ただ一つ。
アキトとその周囲にいる者が全員幸せになる世界。
だが、その中には彼女は含まれては居なかった。

そして彼女は自分の存在を問う。

脳髄の九割が『テンカワユリカ』であっても、
身体の九割が『ラピスラズリ』だったとしたら、
それはラピスラズリとしか言えないのではないか。

しかし世界が変わって完全に一つの存在となった今となっては、
その問いが適切ではないことに彼女は気づけはしなかった。
彼らのここまでの幸せな日々が、彼女の心を蝕み始めていた。
重ねた時が幸せであればあるほど深みにはまる、憎しみの蟻地獄。

幸せな二人のそばに自分は居てはいけないのだと。

「もし、アキトをこの世界が拒むというのなら…。
 私がこの世界を否定する…。
 地球も木連も、世界のすべてを灰と化してでも…!」

彼女は『囚われ』。
宝石に囚われた、黒く染まった百合の花。

宝石を砕くことはできないと、黒く染まった色は消せないと、悟った彼女は願った。
かつて鎧をまとっても心の弱さは隠せないと突き付けられた、彼の心の鎧になることを。
そして心だけでなく、あの鎧をまとった機械人形のように、彼を守り抜くことを。
自分の存在をかけて、救って見せると。

彼が望まないだろう、彼女の願いは果たして叶うのか。
次回、
















『機動戦艦ナデシコD』
第五十三話:『disappear-視界から消える-』


















彼女の本当の顔は、
彼と妹に見せた優しい女神の顔か。
敵を憎む悪鬼の顔か。
真実は彼女自身も、神すらも知りはしない。

























感想代理人プロフィール

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代理人の感想
そろそろこいつらが一体何と戦ってるのかわからなくなってきた(ぉ
木星トカゲ、随分長いこと出てきてねえぞw


>ムドオンカレー
食感の描写とか嫌な意味でリアルだなと思ってたら、スタッフのコメントであれ実体験が元だと・・・ひいいい。


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