〇地球・日本海上空・ユーチャリス・ラピスの部屋──ラピス
私は天井を見つめながらぼんやりと過去の出来事を回想していた。
ユリカとしての最後の…ろくでもない人生を。
火星行きのシャトルに乗り込んだ後…。
私達は北辰に短距離ボソンジャンプで別の場所に連れ去られた。
私はアキトと強制的に引き離され、自分の罪の大きさを思い知らされた。
戦争という中においても、許されないことをしたんだ…。

オペレーターとしてもアキトの仕事の監修の仕事もあるから激務だけど…。
確かにあの頃に比べれば、今の私はよっぽど気楽なものだった。
少なくとも、現実の方には逃げ場がいくらでもある。
それでも…自分が極悪人だという自覚があってもなお、
私は草壁さんを、北辰を、ヤマサキさんを殺したいというどす黒い衝動に駆られていた。

『黒い皇子』の暴力性を持って、蹂躙して、何もかも消滅させてやりたい。
悪夢にうなされ、目覚めて泣く時でさえ、悲しみの中に常にちらつくこの衝動。
熱に体を侵されたような、震えと怒りに悶えてしまう。
毎朝、小一時間以上を冷たいシャワーを浴びて、抑え込んでいる。
暴力的に冷たい温度の水が体に突き刺さる苦しみでしか、心の苦しみを和らげる方法がなかった。

テンカワユリカとして終わる時でさえこんな風には思わなかったのに…。
…やっぱり…アキトの憎しみを私が肩代わりできたんだね
それはそれで、とってもいいことだよ。

あの『黒い皇子』にはどんな説得も無意味だったんだから…。
昔以上にカッコよく、愛らしく、誰よりも輝く王子様になってくれたアキト。
私はアキトを救うことができるんだから幸せだよ。
ユリちゃんと一緒に、私の分まで幸せに生きてほしい。
だから私は笑って死ねるんだから…。

…そう、笑って死ねる。
とうとう私ができるすべての準備が終わってしまった。
後はアキトが生きて火星を出れば全部終わる。
ボソンジャンプの封印を誓ったアキトが物理的に戻れない距離を使って…。
その間に私が死ぬことが条件なの…。

笑って、死ねるけど…。
憎しみと違って死の恐怖は抑えきれなかった。
あの冷たい、真っ暗闇の中から戻れなくなる…。
何もない…何も考えられない……何も感じられない、あの闇…。
恐怖を抑えようとすればするほど、深く胸に食い込んでくる…。

「怖いよ……アキト……」

この言葉を、アキトに言えたらどれだけ楽だろう。
毎夜悪夢にうなされることを伝えたら、きっと優しく抱きしめてくれる。
アキトはきっと私を救ってくれる。
ユリちゃんを捨ててでも。
全てをなげうってでも。

…ラピスラズリと成り果てて、
こんな憎しみに悶える、浅ましくて汚い私を。

それだけはダメなの…。
アキトとユリちゃんは…お似合いの二人なんだから…。
テンカワアキトとミスマルユリカと同じに…。

だから…。
無事に帰ってきてね…。






















『機動戦艦ナデシコD』
第五十七話:Diplomatic talks-外交会談-

























〇宇宙・火星航路・ナデシコ・アキトの部屋──ユリカ
私とアキトは一つの布団で、抱きしめあっていた。
明日はついに火星に突入するからって、一緒に過ごしたんだけど…。

あ、アキト…どうしちゃったの…?
何か別人みたいに、色々変わっちゃって…激しくて…。
今だって、今まで見せたことないくらい優しい笑顔を見せてくれて…。
私のことを好きだと何度も言ってくれて…ゆ、夢みたい…。

「…あ、アキト…変だよ…いい意味だけど…」

「…ちょっとは自信がついたからかな」

そ、そんなことで?
でも、アキトはどこか陰のある眼で、私を見つめた。

「…ホシノに言われたことがようやく分かってきたんだ。
 映画を撮ってた頃も、セリフでたくさんあったけど…。
 ユリカを守るってことが…どういうことなのか…。

 …最後の最後までお前を守るためには、強くなるだけじゃなくて、
 生き残るつもりがないと意味がないんだって…。
 どちらかが死ぬ時まで必死に守って、
 全てをかけて幸せにしないと意味がないんだって…」

「アキト…」

アキトは私の頬に優しく触れると、再びキスをしてくれた。
……きっとアキトも、アキト君の正体に気づいたんだ。

「…私はアキトと居るだけで幸せなの。
 だからいっしょに生きて帰ろうね。
 死ぬも生きるも一緒だよ、アキト」

「ああ、約束だ」

アキトは私を強く強く抱きしめてくれた……本当に幸せ。
…アキト君の正体に確信を持った日から、気が気じゃなかったけど…。
もう、そんなこと構わない。
だってそうでしょ?
最愛のアキトが、二人も私の前に居るんだもん。
…アキト君の愛情には答えちゃいけないんだけど。
でも、私の妹になったルリちゃん、ユリちゃんがアキト君を支えてくれる…。
ルリちゃんが本当に私の妹になっちゃったって、すっごい素敵だよね…。
理屈はよくわからないけど。

…これ以上の幸せなんてそうそうないもん。

だから、もう私は十分だから、アキト君にも幸せが来ますようにって祈った。
木星トカゲの親玉さんを説得出来て、
アキト君の主治医が見つかって、長生きできるようになって…。
…無事に地球に帰れる未来が来る、そんな未来を祈った。

きっと木星トカゲの人たちも、神様も、そんなに意地悪じゃない。

ひどい目に遭ったアキト君も、過去に戻ってやり直す機会を貰えた。
きっとうまくいく。
みんな幸せになれる。

ナデシコで掴むの!
私達の未来!幸せな明日を!
パーッといっちゃうの!

ナデシコには、天下無敵の『王子様』が二人も居るんだもん!
どんな困難だって、トカゲさんの大群だって乗り越えられるよ!

映画に負けない素敵な未来をつかむんだから!















〇宇宙・ナデシコ・アキトとユリの部屋──ユリ
私とアキトさんは、かなり長い間、一緒に過ごして…。
ま、また腰が抜けてしまいました…。
鍛えぬいたアキトさんに比べると、私はちょっとなまっちゃいましたから…。
…帰りの二ヶ月は私も鍛えないと。

「ゆ、ユリちゃん、ごめんね…」

「……はぁ、はぁ…もう…諦めてます…。
 それに最後の夜になっちゃうかもしれないんですから、
 遠慮されてもそれはそれで後悔しちゃいますから…」

私は完全に疲労困憊でアキトさんにもたれかかって介抱されてます。
呼吸を整えて、水を飲ませてもらって、ようやく落ち着いてきました。

「…テンカワさんにまでバレちゃうなんて思いませんでしたね」

「まあ俺もバカだけど、さすがに気づかれる要因が多すぎたよね…」

テンカワさんとユリカさんがほぼ完全にくっつき、
ルリも家族関係について問題なくまとまったので、
これ以上隠す意味も、もはやなくなってしまってはいますが…。
それでもボソンジャンプのことについては、すぐには話せません。
何しろ、実戦で一度でも使おうものならナデシコのクルー全員がマークされます。
どれだけ隠し通そうとしても、いずれ火星生まれがA級ジャンパーであると発覚します。
そうなればテンカワさんとユリカさんを守り切れるかは微妙になります。
敵が多いだけではなく、ボソンジャンプの圧倒的な威力を世間に広めてしまいます。
…この場合アキトさんの人気が裏目に出ちゃうんです。
最悪、完全に包囲された時は使う必要がありますが、それ以外では絶対に禁止です。
チューリップを通るのも同様です。
人が乗ったまま通れるというのはそれほどまでに驚異ですから。

「…戻れたら、ユ…ラピスも一緒に、みんなで長い休暇をとりましょう。
 この一年、ずーっと大変でした。
 ……世論もかなり味方をしてくれると思いますけど、
 戦争の行方については議論の時間が必要です。
 その間くらい、遊び惚けてしまいましょう。
 パーッと」

「ゆ、ユリちゃん、なんかユリカに似てきた?」

「当たり前です、姉妹ですから」

…ユリカさんを能天気とはすでに笑えないくらい能天気なんです、私。
ちゃんと落ち着いて考えれば昔と同じ思考にはなりますが、
愛されて育ったホシノユリの人生と、ミスマル家のDNAは私の性格をかなり変えてます。
普段は苦労ばっかりしてるから前にでないんですけどね。

「…そういうのも含めて、すごい幸せです。
 昔は育ちのせいで、ユリカさんにも、アキトさんにも遠慮せざるを得なかったですし…」

「…うん。
 今は、俺たちは…そういうのなくなったから、す、すごく幸せで…。
 あ、あとルリちゃんも遠慮がどんどんなくなって、嬉しかったよね」

「テンカワさんとユリカさんもですね。
 だからいいんです、何も心配ないんです。
 何も…」

…でもこれは完全に強がりです。
火星の事、アキトさんの体のこと、そしてイネスさんの事…。
本当は不安だらけです。

「大丈夫、逃げるだけならボソンジャンプもあるし…。
 …その後のことはその後考えよう」

「いつもの行き当たりばったりですね、アキトさん。
 …でも結局そうしないといけないことって、本当は多いですもんね」

私も昔は愚かしい大人の考えや、向こう見ずなバカをやらかすナデシコのみんなに、
ちょっと呆れてることが多かったですけど…私も結局同じバカだったと最後に気づいた。
先のことなんてやっぱりわからないです。
だからもう、いいんです。
準備は十分にしてきました。
草壁やヤマサキと対峙するにも、もう覚悟はできてます。
…あとは当たって砕けろです。
火星で彼らに出会うかは分かりませんけど。

そして私達は…眠りにつきました。
…この部屋に置いておいたプロテインの箱も、すでに半分以下になってます。
食料はさすがにコンテナの量を減らすほどは食べなかったので、あまり減ってません。
…三畳しか床の見えない部屋であることに変わりはないんです。
い、色気がない部屋です、本当に…。

それはそれとして、二人して疲労困憊で眠ってしまいました。
アキトさんも久しぶりの本格的な鍛錬でだいぶ疲れがたまってたんでしょうね。
三日くらいじゃ疲れがとり切れてないんでしょう。

…それぞれの想いを乗せて、ナデシコはついに火星にたどり着くことになりました。















〇宇宙・火星目前・ナデシコ・ブリッジ──ルリ

「火星が見えてきたね」

アキト兄さんはぽつりとこぼしました。
私達はブリッジから火星を一望しています。
パイロットのみんなと、ブリッジクルーのみんなと、全員で。
他のクルーはすでに戦闘配置についています。
ついに…この時が来たんですね。
戦争の全貌がまだ見えない中ではありますが…。
火星に取り残された人たちを救出し、アキト兄さんの主治医を見つける。
アキト兄さんとユリ姉さんの未来という過去との決着も、
もしかしたらそこにあるかもしれない。
そうなればここで引くという選択はありません。
私もユリカ姉さんも、ユリ姉さんも、覚悟はできてます。
地球に残ったラピスも同じ気持ちでいてくれるはずです。

アキト兄さんの体内の、致死量のナノマシンをなんとかしなければいけない。
今だってもしかしたら突然死ぬかもしれない。
そんなのは認めません!
ひどいことがあったと想定される未来…。
苦しんで、それでも立ち直ってやり直す機会を得たアキト兄さんとユリ姉さんのために…。
そして私を救ってくれたラピスのためにも…。

アキト兄さんが生き続ける未来を引き寄せるんです!

「みんな、聞いてくれ」

アキト兄さんはどこかとても懐かしそうな、でも悲しそうで切なそうな瞳で私達を見ます。
こういう時は艦長が何か言うものですが…戦闘アドバイザーも兼任しているので変ではありません。
これはユリカ姉さんの提案でした。
自分が激励するより、アキト兄さんが激励した方がきっといいって。
ちなみに、元々は映画で出てたネルガルのゴートさんが戦闘アドバイザーになる予定だったそうです。

そしてパイロットのみんなを見て、少しだけ微笑んでいました。

「今日までよく俺の無茶な訓練に付き合ってくれた。
 …テンカワも、よく俺に勝ってくれたな」

「…ああ」

頷いたテンカワさんの目つきが、どこか鋭さを持っています。
今までの、自信がなくてうろたえがちなところを引っ込めて…真剣にこの場に臨んでいます。
アキト兄さんに勝った試合は見ていましたが、こうも急激に変わっちゃうなんて…。

それからアキト兄さんは、メグミさんに全艦放送を頼んで、
改めて話し出しました。

「…みんな、ネルガルの描いた、無謀な作戦に付き合ってくれてありがとう。
 俺自身の命にかかわることも理由の一つだし…。
 アカツキに代わって礼を言うよ。
 
 そして聞いてほしい。

 結局、俺たちは何とどこの誰と戦っているのかも分かっていないまま、
 どこかの名前も知らない人達の決めた戦争に巻き込まれていたんだと思う…それでも。
 
 自分の命を、
 家族を、
 友達を、
 仲間を…。
 
 失いたくないという気持ちで今日まで戦ってきたんだと思う。

 この戦争は…まだすべてが解明されたわけじゃないけれど…。
 それでもろくでもない、誰かの都合で始まった戦争なんだ。
 
 そんな奴らのために死ぬことはないんだ。
 
 危険があったら、全員で全力で逃げていいんだ。
 あくまで俺たちの目的は救出任務なんだ。
 火星の敵を殲滅することでもなければ、火星を占領することでもない。
 
 それで、もし木星トカゲが人間だったら…。

 …もしかしたら人と戦って、殺し合わないと帰れないかもしれない。
 
 そうならないように、すべての手を尽くそう。
 それでも戦わないといけない時は…」

「私が責任を負います。
 この戦艦の艦長は私です。
 そんな事態に陥ることがあったら、どんな批難でも私が受けます。
 そういうときのために私は居るんです。
 

 それだけの覚悟もなしに艦長になったわけじゃありません!」


アキト兄さんの隣に立っていたユリカ姉さんが言い切りました。
普段の能天気さが嘘のように、堂々とした態度でアキト兄さんをフォローしました。
うまいです。
アキト兄さんはこれで殺し合いの時に先頭に立つような無理が出来なくなりましたし、
クルーのみんなの心も少しだけ軽くなったはずです。
二人が並び立つことで、全員の力を引き出しつつ、生きて帰ろうと思えるようになった気がします。

……ちょっと想像しちゃいましたけど、この二人が夫婦だったら、
ナデシコはきっと誰にも負けない最強の戦艦になっちゃうんでしょうね。

いえ、きっとそんなもんじゃ収まりません。

あの映画と地球の動き…この道中でも少しずつ情報が通信されてきましたけど、
本当にあの映画とアキト兄さんのせいで戦争に対する意識が激変して、
ナデシコシリーズの配備で有利になったにもかかわらず、反戦に傾きつつあるんです。
特訓に明け暮れてて、アキト兄さんの耳には入ってきてないみたいですけど…。
…単に耳をふさいで居るだけかもしれませんが。

すでに戦争の象徴になりつつあるアキト兄さんと、最強クラスの戦艦・ナデシコ。
ユリカ姉さんの戦術が組み合わさって、オモイカネの戦闘システムの速度が揃うと…。

…武勲と名誉の揃った、名実ともに本物の英雄として歴史に名を残すことになってしまう。

……そうじゃなくても、実際に火星から帰ったらそうなっちゃいそうです。
ラピスはどうするつもりなんでしょう。なんかアイディアがあるそうですけど…。
!!

『レーダーに感あり。
 木星トカゲの団体さんが来たよ!
 映画のシーンにも負けないくらいの大群!』

「総員!戦闘開始!
 パイロットのみなさんは全員出撃!
 ルリちゃん、グラビティブラストのチャージは!?」

「そうくると思って、すでに始めてます。
 80%チャージしてあります」

「さっすがぁ!
 それじゃ広域放射で40%の出力で撃って!
 先制攻撃で敵の動きを見ながら、出撃までの時間を稼ぐよ!」

「はい、それじゃ。
 グラビティブラスト、発射」

私の言葉とともに、グラビティブラストの閃光が放たれました。
そしてついに、決戦が始まりました。

……こ、これは!
今までの戦闘が水遊びのしぶきとするならこれは高波です!
こちらが早く身動きができない状況で、襲い掛かってきます…!
ナデシコも無傷とはいかない!
アキト兄さんたちは…!?


















〇宇宙・火星軌道上・エステバリスアサルトピット──ガイ
ちぃっ…多勢に無勢とはこのことだぜ。
こいつは本当に映画のあのシーンの再現じゃねぇか。
さっきオペレーターのルリ助が推測してたが、
この半年のユーチャリス、そしてナデシコの活躍が知られていたせいか、
満員御礼の団体さんで歓迎してきやがった…。
あのホシノですらも『こ、こんなに変わるか!?』って驚いてたしな。
で、そのホシノとテンカワは…。

『ち…きりがないッ!』

『このままじゃ、お、俺たちは持つが、みんなが…!』

『へっ!
 いってくれるじゃね~か、コックもどきが!』

スバルが映画のセリフを持ち出して冗談交じりに強がっちゃいるが…。
本当にこりゃ大ごとだぜ。
何しろ戦闘開始から20分で、ホシノとアキトはすでに千単位の敵を葬ってる。
ブラックサレナのナデシコ並みのフィールドを持ってすれば、体当たりで一方的に蹴散らせる。
だが、対照的に…。

『ふええ~~~~ん!!
 10機中2機しか倒せないよ~~~~?』

『ちぃっ!こいつら特別注文で作られてるわよ!
 弾がいくらあっても足りないわ!』

射撃が中心のヒカルとイズミはかなり苦戦してる。
イズミはすぐに切り替えてスナイパーライフルに切り替えちゃいるが、この数じゃ厳しいな。
砲戦エステバリスが宇宙でも使えりゃいいんだが、あの鈍重さじゃ出れても同じか。

『ぜぇ…ぜぇ…』

『ホシノ!?ガス欠か!?』

『ああ、まだ持つが疲れてきた…。
 すまん…早めに、ちょっとだけ離脱する!』

ホシノはテンカワに言うと、一度ナデシコに戻るためにターンしてくる。

「例の試作IFSの欠点か…。


 くうぅぅ!そういうのもヒーローらしくて燃えるよなぁ!」


『『『『言ってる場合か!!』』』』
















〇宇宙・火星軌道上・ナデシコ・格納庫──ウリバタケ
俺たちは、戻ってきたブラックサレナの各種点検を手早く済ませて、
すぐに弾薬の補充を始めた。
…さすがにフィールドのおかげで無傷とはいえ、スラスターの調整が狂うなこりゃ。
無理な機動でもある程度耐えられる設定とはいっても、あんな大回転して急速な加減速を繰り返しちゃな。
できれば今すぐにも引っ込めてやりたいが、ばらしてたら俺たちも危ない。
出来る限りの調整をして返してやるっきゃあるめぇよ。
……しかし。

「ホシノさ~~~ん!
 追加持ってきましたよ~~~~!」

「よ~~~~し!どんどん喰うんだよ、ホシノ!
 あんたは食べてりゃ結構回復できるんだからね!!」

「がふがふがふがふ!!ふみまへん!!」

食堂班のみんなは本来食堂待機なんだが…。
試作IFSの負担を少しでも減らすために、体力の消耗を癒すために…。


おにぎりとかサンドイッチとか軽食を山ほど用意してもらっていた。


普通はあんなに戦闘前に食べたら、宇宙空間で嘔吐したら……。
しかし…ナノマシンの量のせいなのか、全く腹が膨れているようには見えない。
お、恐ろしいやつ…。

















〇宇宙・火星軌道上・ブラックサレナ(黒)アサルトピット──テンカワ
俺は十分だけ離脱してすぐに帰ってきたホシノに安堵した。
ホシノが抜けた瞬間、バッタと戦艦の集中砲火を浴びてしまい、
ユリカと示し合わせてグラビティブラストで蹴散らして、を繰り返していた。
…ブラックサレナのフィールドなら大丈夫とはいえ、さすがに生きた心地がしないんだよな。

「ルリちゃん、あとどれくらい倒さないと火星に行けないの?」

『はい。
 計算上では、今30%くらいは倒せてます。
 でも残り70%を何とか片付けないと撤退も危険ですね』

「さっ…!?」

俺は絶句するしかなかった。
戦闘開始から40分、すでにナデシコの撃墜数は数万を超えている。
戦艦もかなり落としたが、それでも30%…!?
十万は倒す必要があるのか!?

『テンカワ、お前も一度着艦しろ!
 ブラックサレナの場合、装甲よりスラスターが持たないらしい!
 ウリバタケさんに見てもらえ!』

「あ、ああ…」

戻ってきて激闘してるホシノは、
食べまくったせいか思ったよりずっと体力が回復していた。
……俺が休む間くらいは持つか。

だが…。
リョーコちゃんたちのエステバリスの損傷も結構ひどい。
何度か着艦してるが、パーツの付け替えはできるが消耗した間接までは変えられない。
そうなると中破以上になると再出撃が難しい。
パーツはともかく、フレームの予備は少ないから…。


『なーーーーっはっはっは!

 ダイゴウジガイ、ふっかーーーーつ!』



……だが、ガイだけは例外的にぴんぴんしていた。
エステバリスの方は結構ボロボロだったけど、意外と腕がいいから中破にはならないんだよな、ガイ。


・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。


その後、映画さながらの死闘はなおも続いた。
0G戦フレーム二台をほぼ全損させ、予備パーツの6割と9割の弾薬を使い、
ナデシコのミサイルの9割を無くして、ブラックサレナの装甲部のスラスターが限界を迎え、
ただの0G戦エステバリスにして出さないといけないところまで消耗してようやく、
かろうじて90%の敵を倒し、火星まであと一息というところまで来ているが…。

『ちいっ!
 体当たりで蹴散らせないってのは厳しいな!』

「このままじゃ、あんまり持たないぞ!?」

すでに残りの0G戦エステバリスはない。
ホシノと俺だけが出撃している状態で…ブラックサレナももうない。
空戦セッティングのブラックサレナは宇宙に出られず、
また宇宙セッティングをしようとすると半日仕事になる。

…絶体絶命の状態だった。

『ふ…まさか映画と同じシチュエーションになっちまうとはな』


『ヤマダくん!?』



『悪いな、艦長。
 映画の通り特攻しないといけないみたいだな。
 ……発進許可を』


「ま、待て!?止めろ、ガイ!!」



『映画のあのセリフ…言わせる気かよ。
 だが、俺ぁ本気だぜ』

『やめてよヤマダくん!!
 お願いだから…!
 わ、私…ヤマダくんのこと…』

ヒカルちゃんがガイに抱き着いて…あれ、ヒカルちゃんって結構ガイの事…。
コミュニケの端っこに移る整備班の一部の人たちが絶望的な顔になってるっぽいな…。
ってそうじゃなくて!?
どうするんだよ、ユリカは…。


『『『却下します』』』


「なにぃっ!?」



『映画とは違って、ヤマダさん今回は地味ですから、意味ないです!』

『そうです。
 そんなことするくらいならアキトさんとテンカワさんに任せた方が10倍マシです』

『映画でいい役もらったからって特攻して、
 無意味に死んだ人って呼ばれたいなら、ご自由にどうぞ』

『へ、へへ……お、俺ってやつぁ…。
 ヒーローから一番遠い位置にいるのかよ…。
 ぐすっ…』

『よ~しよ~し、ヤマダ君泣かない泣かない。
 ヒーローになるならこんなことで泣いちゃいけないぞ~~~』

……ミスマル家の姉妹三人にぼっこぼこに言われて、
ガイは椅子に座って特攻前に燃え尽きた。
特にルリちゃん、死なせないためとはいえすっごい辛辣だな…。
ヒカルちゃんが隣で頭をなでて慰めてるのがちょっとだけ救いか。

っと!
俺もそんなことを言ってる場合じゃないな!
……!?

『な、なんですかあれは!?』

『巨大バッタの群れ!?』

「うそ、だろ…!?」

俺たちの前からバッタたちが一度引くと、希望が見えた気がしたが…。
突如、チューリップから巨大な七機のバッタがぞろぞろと現れた。
そして、残ったバッタと戦艦が、そのバッタの背から内部に入っていった。

『取り込んで動力にするつもりか!?
 ユリカ!!』

『……ルリちゃん、グラビティブラストフルパワー!
 高収束で!』

『…はい!』


ぎゅおおおおおお……。



高収束グラビティブラストの黒い帯が、
チューリップの前に一列になっていた巨大なバッタを包み込んだ。
まさに一網打尽だ!
これはかえってうまくいったんじゃないか!?
……だが。

『う、そ…三機、無傷…』

考えが甘かったらしい。
七機のうち、二機は完全に蒸発、さらに二機は耐えかかったが崩壊、
しかし残りの三機はその前列の四機が盾になって無傷で残った。
…戦力的にはまとまってくれたから助かるけど、あれを倒す方法がないぞ。
グラビティブラストのチャージは宇宙なら早いとはいえ、
あいつらが襲い掛かってくるまでには終わらない。

『……ミナトさん』

『な、なぁに、艦長』


『…アキトとアキト君を回収してから…。

 か、火星に逃げてーーーーーッ!!』



せ、戦略的撤退かよ!?
確かにあの鈍重そうな巨体じゃ、追いつけないかもしれないけどさ!?
目的は達成できるから大丈夫かもしれないけどさ!?

そんなんでいいのか!?
いや帰りはどうすんだ!?

…だが、それ以外に方法がないことも確かなわけで…。
俺とホシノは大人しくナデシコに着艦すると、苦笑して顔を見合わせることしかできなかった。

「…ユリカは昔っからああいうやつだった…」

「……そうか」

ホシノがつぶやいたことで、ホシノの体験したトカゲ戦争でも同じことがあったんだと分かった。
ユリカは映画でもカグヤちゃんから逃げてたわけだが…。
あれは結構ユリカをしっかり理解したセリフ選びだったんだな…。

…だ、大丈夫かな…。



















〇宇宙・火星軌道上・ナデシコ・ブリッジ──ユリ
……大失敗です。
ま、まさかナデシコを警戒してこんなに準備してくるなんて想定外でした…。
確かに前の世界では…ナデシコの撃墜数って大したことなかったんです、ここまでは。
初出撃の時のグラビティブラストの戦果はともかく、全体の撃墜数はわずかで…。
…でもこの世界でのユーチャリスとナデシコの撃墜数はシャレになりません。
半年近く戦ったこともあって、チューリップの撃墜数は100近く、
敵戦艦、バッタの撃墜数は百万近くに至ります。
……今回の撃墜数、本当に一ヶ月の撃墜に迫る勢いなんです。
それを、わずか一戦で行ってしまったこともあって、もうナデシコは限界です。
アキトさん達の死闘もあって、ナデシコ本体の損傷は大したことはありませんが…。
エステバリスは修理できるとしても武器がありませんし、
ナデシコもミサイルがほとんどないので危険です。

Yユニットがあるので、相転移砲の使用も視野に入れていましたが…。
なぜか、ラピス…いえ未来のユリカさんに使わないように強く言われてて、
言い出せないままでいたんです。実際、ギリギリまで持ちましたし。
というか時間が必要です、立て直せないです、このままじゃ。

「艦長、どうすんのよぉ!?
 あいつらまた分離しておっかけてきたわよぉ!?」

「火星に逃げ切れば何とかなります!
 大気圏の突入に耐えられる敵艦は居ないみたいですし!
 待ち伏せじゃなければこっちだって対処できますよぅ!
 あ、ルリちゃん、グラビティブラストのチャージお願い!
 敵がいたら軌道上から連射して、安全に入らないと!」

「はぁ…。
 ここまで準備万端でも無理って、おっかないですね」

ルリはため息交じりに言いながらオモイカネにお願いしました。
……帰りが本当に不安です、これじゃ。


「!!
 ユリカ姉さん、チューリップが!!」


「ええっ!?」



私が目をやると、ナデシコの先に…。
前方二時の方向に、チューリップが居ます。
…まずいですね、グラビティブラストを撃つために迂回すると危険です。
追いつかれてしまう可能性がありますし、
かといって撃墜しないでいると、チューリップから敵があふれ出て追いつかれます。
しかしアキトさん達に出てもらうと、今度は大気圏突入前には戻れなくなります。
……ば、万事休す?
それくらいならいっそ相転移砲を…。

「ルリちゃん、ミサイルで牽制して逃げるよ!」

「はい。
 タイミングは…」


ピピッ!


『待ってください!!』


突如、ウインドウが切り替わり…いえ、コミュニケの通信!?
どこから!?
いえ、火星の方向から…あれは木連優人部隊の戦艦です!
そしてそのウインドウに見えた、懐かしい顔に私は目を見開いて驚きました。

『その戦艦はナデシコとお見受けする!
 援護いたしますから、火星に飛び込んでください!』

「あなたは!?」

「申し遅れました!

 …我々はあなたたちの言うところの木星トカゲ。
 『木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家間反地球共同連合体』、
 優人部隊火星駐屯軍所属、
 

 白鳥九十九少佐であります!

 
 以後お見知りおきを!』
 
「と、トカゲさんの仲間!?
 でもなんで私達に味方してくれるんですか!?」

ユリカさんがさすがに驚いて事情を聴こうとしますが、
木連の戦艦から次々にゲキガンタイプが出撃する中、九十九さんは首を横に振りました。
 
『この状況ではご説明の余裕はないと思います。
 我々は、あなた方にとっても憎き敵だと、存じています!
 

 しかし!
 
 今はただ、私達を信じて欲しい!
 あなたたちを無事に火星に送り届けることこそが、
 我らの、そしてゲキガンガーの愛した地球のためだとだけ申しておきます!
 
 各員、戦闘開始!

 
 ……レェェェェッツ!!』


『『『『『『ゲキガインンンッ!!』』』』』』



『なんだなんだァ!?
 ヤマダのバカが大増殖したかぁ~~~~~~ッ!?』


ウリバタケさんの呆れたような絶叫がコミュニケから聞こえてきました。
そしてゲキガンタイプの出撃で、クルーのほとんどは時間が止まってます。
ユリカさんでさえも…。

『………う』

……いえ、この人だけは別ですね。


『羨ましいぞこのヤロォ~~~~!

 リアルにゲキガンガーを再現しやがって!

 俺にもそのゲキガンガー乗せやがれチクショーーーーッ!!』



『…ぶれないわね、ヤマダ君』

『言うと思ったよね~~~』

『は、はは……や、ヤマダの同類がいっぱい居やがるぜ…』


先ほどの落ち込みから復活したヤマダさんの目の輝きようが尋常じゃないです。
そりゃヤマダさんにとってゲキガンガーが聖典の木連はユートピアですからね。
……はぁ。何とか助かったみたいなので、久しぶりに言いたい気分です。


「「バカばっか」」


ルリとハモッてしまって、私達は目を見合わせて苦笑しました。
…ああ。
バレるとかバレないとか考えるのが、それこそ馬鹿らしくなってきました。
















〇火星・ユートピアコロニー跡地・木連大型軍用車内──ホシノアキト
…俺たちは居心地悪い中、木連の人たちに連れられて移動していた。
久しぶりの火星…だがこの風景は、俺の記憶と違っていた。
2199年の3月に、遺跡の調査のために立ち寄った風景そのものだった。
かなりの建物が建設され、復興されつつある。
あの時も結構大変なことがあったっけか…。

なんと、火星の内部には敵が一切居なかった。
まるであの数の敵は、火星の内部から誰も出さないように見張っていたかのような印象すらもった。
その訳も後で話してもらえるとは言っていたが…。

…俺たちは、あの後、結局白鳥さんに助けられて、白鳥さん達も敵をある程度倒すと、
ボソンジャンプで戦艦に戻って火星に突入した。
そして合流し、火星の統治者になったという草壁の元に向かうことになった。
その車内で、事情を軽く話す余裕が生まれた。

「地球の戦艦の威力、とくと拝見させていただきました。
 改めまして、白鳥九十九少佐です。
 草壁閣下の命令で、あなた達を出迎えるようにと頼まれまして…。
 まさか、この火星から我々を出さないように支配する駐屯兵器団を、
 ほとんど撃破してしまうとは思いませんでした」

「…そういう、役割の兵器だったのか。
 事情が呑み込めないな。
 一から説明してもらってもいいか、白鳥さん」

やはり、あの兵器たちは…火星を守るのではなく、
火星から人を出さないように配備されたのか…何故だ?
そちらの疑問は一度引っ込めることにして、俺は白鳥さんに説明を促した。

この大きなリムジンのような、それなりに居心地の良い軍用車…。
軍用車と白鳥さんが言ってただけで、これは来客用の送迎車両なんだろうが。
そこに俺、ユリちゃん、ユリカ義姉さん、テンカワ、フクベ提督は乗り込んでいた。
他の人員はナデシコを守ってもらう必要があるので残ってもらった。

一応ドックを借りることにはなったが、
まだ油断ができないので俺たちが戻ってから修理を始めることで一致した。
ゴートさんはいないが保安部もそれなりに数が居るから一応大丈夫だろう。

…木連の人たちと混じると話にならないだろうガイは特に連れてくるわけにはいかなかった。
話が終わったら呼んでやろう。俺もはしゃぎたいのはあるが、それどころじゃない。
草壁が火星にいるのに、
火星を制圧した…ようには見えないこの状況が特に気になる。

「ええ、喜んで。
 草壁閣下の元に向かうまで小一時間はあります。
 その間にお話しさせていただきましょう」

ユリカ義姉さんはごくりと喉を鳴らした。
…ラピスが木星トカゲの正体が人間であることは知らせたが、
戦争の起こりを聞かされるというのはさすがに気が気じゃないんだろう。

…それから白鳥さんは、このトカゲ戦争の理由、そしてその後のことを話した。

百年前の月の独立戦争、その独立派が策謀により月を追われ、火星に逃れ、
さらにその火星でも核攻撃を受けて、木星にたどり着き、
そこで見つけた古代文明のプラントと呼ばれる生産装置を発見し、
かろうじて生き延び、人口を増加させ、今日まで戦力を蓄えてきたという。

「し、信じられない…そんなことが…」

「……先祖が一方的に攻撃され、虐殺されかかったという怒りがそうさせたのか」

「ええ…。
 ……ただ、我々は悔やんでも悔やみきれない、
 その時以上の蛮行をしようとしていたことにも気が付いてしまったのです」

…しようとしていた?
火星に移住しようとした際に、取り残された人たちに責められて、罪の意識にさいなまれたか…?
だが…それにしては様子が妙だ。
木連全土が自分たちの意思で戦争を決めたはずだ。
未遂のような言い方をしているのが気になる…。
草壁と言えど、そこまで認識をゆがめることが出来るだろうか。

「白鳥さん、あなた達は戦争に舵を切らなかったのか?」

「いえ、確かに舵を切ろうとしていたのです。
 火星を攻め落とし、次は地球へと手を伸ばす計画は確かにありました。
 あと一歩で実行するところまで。
 ……しかし、一人の狂気の科学者によって、その準備は横取りされてしまったのです」

俺は驚きに目を見開いた。
その人物の名前が想像できた。
しかしまったく理由が分からず、混乱していた。


「ヤマサキという一人の天才的な…。
 人を人とも思わない人の道を外れた科学者の手で」


















〇火星・草壁の屋敷・居間──ユリカ
私達は居間に通された。
…アキト君とユリちゃんは先に草壁さんに先に呼ばれた。
普通だったら初対面のはずから、二人が木連のスパイに疑われるような状況だけど…。
事情を知ってる私とアキトは、きっと大事なことを話すのが分かった。
敵対してたはずのアキト君と草壁さんが何かを話し合うんだ。
フクベ提督と白鳥さんは疑問そうな顔をしているけど…。

「…不躾で申し訳ございませんが、
 あのホシノアキトさんはゲキガンガーがお好きなんですか?」

「ああ。
 俺もよく一緒に見てるよ」

「木星トカゲと同じアニメを?
 …そうなると彼は」

「アキト君はスパイじゃありません」

フクベ提督と白鳥さんは、アキト君が木連のスパイだと思ったみたいだけど、
私はそれを否定した。
それを言っちゃうとヤマダさんの方が怪しいし。

「どういうことなんだ、艦長。
 事情を知っているなら教えてもらえないだろうか」

「…とても重大なことなので、言えません。
 私がアキト君を信じる理由は…詳しくは言えません。

 でもあの三人の間にはこの戦争の真実があるはずなんです。

 …アキト君も、必要な時に必ず教えてくれます。
 その時期も、もうすぐ…だと思うんです…」

「ユリカ…」

私とアキトは目が合った。
アキトもアキト君を信じてるんだ。
未来の自分のことを…。
そして敵対してたはずの草壁さんと和解できることを。

「アキト、私達きっと同じこと考えてるよ」

「…そうだな」

「仲がよろしいですね。
 …お二人は許嫁でしたか」

私とアキトはつい顔を真っ赤にしてうろたえた。
否定しないところをみて、白鳥さんは微笑んで何度もうなずいた。
そうこうしているうちに、お茶を持ってきてくれた女性に一礼して、
落ち着くために何度かお茶をすすった。

「白鳥君、私達にも事情を説明してくれないだろうか。
 …私は火星の木星トカゲの初戦で戦った者だ。
 かろうじて生き残っておめおめと地球に戻ったのだよ。
 火星を救えなかったのは私達のせいなのだからな」

「…聞き及んでいます。
 あなたは最後の最後まで戦い抜き、
 チューリップに自分の艦をぶつけて一矢報いようとしたと」

「不本意ながら勝てもしないまま英雄扱いされてしまったよ。
 …もっとも実情は愚行に過ぎなかったがな。
 私などホシノアキト君の足元にも及ばぬよ」

フクベ提督はアキトを横目で見て、目を伏せた。

「…フクベ提督、あなたはここを出たらすぐにナデシコに戻られた方がいい。
 火星の生き残りの人たちはあなたを恨んでいます」

恨んで?
確かに勝てなくて取り残されてしまったのは事実かもしれないけど…。
でもフクベ提督だって懸命に戦ってきたのに。

「…そうだな。
 最後のあの特攻が原因で、あのチューリップは…。
 ユートピアコロニーに墜落したのだから」

!!

アキトはフクベ提督の方を見て目を見開いた。
私も突然告白したフクベ提督に驚いた。
そんな事実を隠して…。
もしかしたらこの火星に死場所をもとめていたのかも…。

「あんた…そんなことを…」

「…すまんな、テンカワ君。
 火星生まれの君を前にこんなことを言って。
 ホシノ君にも口外するのはやめろと警告されたのだが…。
 …私はもう耐えられないのだよ。
 罪の意識にも…戦意高揚のための偽りの英雄を演じるのも…」

アキトはうつむいて、膝の上に載せていた手を強く握って…。
でも提督の目を見ると、首を横に振った。

「…言わないでくれ、提督。
 そんなの、俺に言われても困るよ。
 俺も、もしかしたらあの場で巻き込まれてたかもしれないけど…。
 
 でも俺もユリカと半年戦ってきて分かったんだ。

 必死に戦ってると周りが見えなくなることも、
 被害を計算しながら戦うことなんて、
 ましてその戦いがどんな影響を与えるのかなんて計算できっこないことも。

 …謝るなら生き残った人に謝ってくれ。
 そして生き続けて、みんなに戦いの無意味さを教えてくれよ。
 その方がずっと必要なことだろ」

「…テンカワ君、君は大人なんだな。
 私よりもずっと…立派だ」

アキトも…火星に来るまでの間、ずっと考えてたのかな…。
もしかしたら夏に木星トカゲが人間だと知ってからずっと…。
私は昨日見せた、アキトの優しい横顔を思い出した。
アキトは戦うという行為そのものより、きっと大事なものを見出したんだ。

「俺は立派なんかじゃない。

 ずっとずっと臆病な、ただのコックだ。


 でも大切な人が、大切な仲間が死んでいくなんて耐えられないだけなんだ。
 そして俺と同じに大切な人がいる地球のみんな、火星のみんな、木星のみんなも。

 あのシェルターで、みんな一瞬のうちに死んでいくのを見たら、
 小さな女の子が、アイちゃんが死んだのが許せなかった。
 悲して憎くて、どうしようもなくて、自分の夢すら追えなくなりそうになって…。
 
 でも、戦争を続ければそんなふうに思う人がもっと増える。

 俺は無意味な戦争で誰も死んで欲しくないんだ。
 憎み合って欲しくないんだ。
 だから…」

アキトは真剣な顔でフクベ提督と白鳥さんをじっと見た。
…そうだよね、アキト。
アキトはやっぱりすごいよ。
その悲しみを乗り越えて、憎しみを乗り越えて必死に前を見ようとしてるんだから。
私は…悔しいけど、お父様の血を引いてるもの。戦うことしかできない。
でも、ナデシコなら…きっとナデシコなら、人を傷つけるための戦いだけじゃない、
人を助けることができるんだ。
アキトと、アキト君、ユリちゃん、ルリちゃんがいるんだから…!

「テンカワ君…我々木連人は許されないことを考えていた。
 ゲキガンガーという正義の使者の名を借り、
 愛すべき地球へ、キョアック星人のような侵略を目論んでいた。

 だが…。

 君のような、ゲキガンガーを愛し、真なる平和を求める、
 地球でも随一の戦士に出会えて本当に嬉しい。
 あのブラックサレナの戦いぶりに、我々は胸を打たれたよ」

「よ、よしてくれよ白鳥さん。
 …俺も近くに師匠みたいな奴がいたからこうしてやってこれた。
 ホシノの力がなかったらきっと火星にも来れなかったんだ」

「ホシノ…草壁閣下に呼ばれた彼か。
 …そうか、それほどの男が木連にいたならば、
 この愚かしい戦争もきっと起こらなかったんだろうな…」

「違うよ、白鳥さん。
 アキト君も少しずつ少しずつ準備を整えて、
 ここまで来れるように努力してたの。
 やりたくないことも山ほどやって、戦力を整えて。
 一人じゃできないことを、みんなで、力を合わせて。
 
 木星の人たちができないはずがないよ。

 現に横取りされたっていうこの戦争の準備だって、
 地球の戦力を圧倒するくらい凄かった…。


 いい方向にだって、出来るはずなんだよ!」



「ミスマルさん…」

私の言葉に、うつむいていた白鳥さんが顔を上げた。
…そう、きっとそうなの。
ここまで地球を圧倒する戦力を作れるのなら、
人を生かすことにだって使えるはずだもん!

「確かにロクでもないやつは地球にもいるし、火星にも木星にもいると思うんだ。
 でも、地球にもゲキガンガーが好きな奴がいるように、
 仲良くなれる希望がないわけじゃないんだ。

 …俺たちがこんなふうにここで言ってても始まんないけどさ」

「いや、本当に君の言葉に感動した。
 …ありがとう、テンカワ君、ミスマルさん。
 草壁閣下の言葉を、私達は生まれて初めて疑っていた。
 地球の…敵と教えられてきた人たちのことを信じて欲しいと、
 言われて戸惑っていたのに…。
 
 君たちの言葉で目が覚めた。

 ぜひ、ホシノ君とも話がしたい。
 草壁閣下との話し合いが終わったら、

 時間が許す限り語り明かそうじゃないか!」


「お、おう」

アキトはちょっと白鳥さんのヤマダさんばりの迫力に驚いてた。
…顔立ちが同じ、礼儀正しさは正反対、でも熱血なのはおんなじだね…。














〇火星・草壁の屋敷・居間──フクベ
…なんというか若々しくて清々しすぎるな、この二人は。
だが、もしかしたらホシノ君のブームと相まって、
本当に世界を変えてしまうかもしれないな。
あの欲望に塗れた上層部の老人たちにも見せてやりたいものだ。
人類は戦争を十年も捨てられたことはない。
常に現実の戦争、そして冷戦、経済戦争は続いていた。
それを…本当に変えてしまうかもしれないのだ。

「盛り上がっているところすまないが、
 そろそろ詳しいことを話してくれないか。
 事情を知らぬままでは、話を持って帰れないからな」

「あ、し、失礼しました!」

白鳥さん君はちゃぶ台を挟んで身を乗り出したのを戻して、
背筋をピッと伸ばした。
行儀が良すぎるというか力み過ぎだな、この若者は。

「ことの発端については、先ほどお話しした通りです。
 百年前の独立戦争の生き残りである我々が、
 古代火星人の遺産を使って攻め込もうとしたわけです。

 しかし、準備の最中にヤマサキ博士がプラントを制圧したのです」

「制圧って…一人で?」

「…我々も協力者がいるのではないかとは思ったのですが。
 我々を追い出すための準備を密かに続けていたようなのです。
 最後は、例の大型バッタを持ち出して我々に対抗できないように追いこみました」

「セキュリティが脆かったのか?」

「…それは否定できません。
 地球と比べての基準はわかりませんが、
 我々は生存できる場所が少なく、お互いの信頼関係が生命線になります。
 最高機密の部分にはかなり厳重にしてありますが、
 ヤマサキ博士の場合は元々優人部隊の遺伝子改造部門の最高責任者。
 兵器開発のプラントに入る権限を持っていてもおかしくないのです」

そして白鳥君は事の詳細を話した。

それは2195年の3月、ついに火星へ向けて進軍し始める準備を整えた木星では、
全土で決起集会を行って士気を鼓舞していた。
といっても、無人兵器をけしかけて火星を制圧するだけの、お粗末な作戦だった。
だがその圧倒的物量と、連合軍の主力兵器のビームを無効化するバッタたちの威力もあり、
勝てる見込みは十分だった。
実際に私達が敗北したが、指揮官なしの戦いで惨敗していたとは…。

そして木星全土が決起集会のテレビ中継で熱狂する間、
その間を狙って、ヤマサキ博士はプラントで準備していた兵器群を奪取。
木星の兵器のコントロールセンターを占拠、居住区ではない場所を爆破して警告とし、
居住区にバッタをけしかけて火星に避難するように促した。
従わなければ虐殺を行うと脅したそうだ。
元々生活用の市民艦などの準備があるため、市民の避難、移動は容易なものの、
兵器のコントロールを奪われて、主戦力がない状態で火星に逃げねばならなかったらしい。
残った戦力は先ほど出撃してきた優人部隊と言われるゲキガンガー風の機動兵器のみだったという…。

「奇しくも、我々は祖先と逆に木星から追われて火星に逃げ延びることになったのです。
 我々は人数が満載されてる状態で移動する都合上、速度が出せず…。
 私達を追い越すバッタと戦艦、チューリップを指をくわえてみてるしかありませんでした。
 武勲を独り占めしようとするヤマサキ博士を特攻覚悟で倒そうとする者もいましたが…。
 草壁閣下が、そうするならまずは火星に生き延びて力を蓄えよ、と止めてくれたのです」

「なるほどな…」

「元々私達は追い出されても何度も立ち上がった祖先の血を引いています。
 いつか見てろ、と。
 三代以上血が続いても、恨みを受け継ぐことができたのだから、
 今度も同じにすればよい、と考え直すことはできたのです」

あまりに荒唐無稽な芸当だが、不可能ではないのだな。
しかしそのヤマサキ博士が何を考えていたのかが分からんな。

「…しかし、その道中、私達の心は砕かれたのです」

「何?」

「ヤマサキ博士は、火星にたどり着いた兵器たちの戦闘を、私達の艦に送信したのです。
 …フクベ提督、あなたの艦隊を打ち砕いた映像に、
 百年越しの悲願がかなったと木連の人間たちは熱狂しました。
 …しかし、その直後に私達は自分たちの過ちに気づいたのです。
 
 火星の地上に攻め入ったバッタたちが人々を…虐殺するのを見た時に。
 
 人を見れば攻撃し、爆破し、粉々になっていく人たち。
 無邪気に続きを見ようとしていた人たちは青ざめました。
 戦勝に酔いしれていた空気が、変わったのです。
 
 バッタに追われてシェルターに避難している人々の様子…。
 あれは木星でヤマサキ博士に追い出された時を思い出しました。
 そして、その直後に狭い通路を爆破され焼けこげる人、
 建物が崩れて押しつぶされる人、
 機関砲に打ち抜かれて形も残らない人、
 死んだ赤子を抱いて泣き叫んでいる人…。
 
 ……それを目にした瞬間、
 我々が地獄を作ろうとしていたことに気が付いたのです。
 祖先を核攻撃した、地球側の卑怯な攻撃とそう変わらない虐殺を企てたのだと」

白鳥君は脂汗を浮かべてわなわなと震えている。
テンカワ君も同じ光景を見たかのように冷や汗を流して青ざめている。
いや…見たのか?
だがそうなるとなぜ地球に…。

「避難していた者たちも、その時、何人も自刃して、発狂する者も居ました。
 かろうじて持ちこたえた人たちも焦燥しきっている状態で…八か月の旅ののちに、
 私達は火星にたどり着いたのです。
 
 そして私達は…火星の生き残りの人たちに謝罪をしました。
 当然、謝っただけでは彼らは許してはくれませんでした…。
 
 …ヤマサキ博士が一人で実行しただけで、
 準備をした我々も同罪です。
 彼らの生活を、家族を、仲間を奪ったことをそうたやすく許してはもらえませんでした。
 
 火星を復興して、元の暮らしに出来るだけ近づけるように努力し、
 重ね重ねの謝罪ののちに、今後の生活の保障をするという約束で和解しました。
 
 …これも本当に理解し合うには百年以上、時間がかかるかもしれません。
  
 ヤマサキ博士は私達に僅かばかりですがプラントは持っていかせてくれたので、
 食料生産や機材生産は効率よくできました。
 
 そうして、一年をかけて…。
 草壁閣下の統治の元、ここまで火星は立ち直ったのです」

「…でも白鳥さん、それって独裁ってことだろ?
 木星が後から乗り込んできて、統治するなんて…」

「…ええ。
 どうしてもこの状況だと、政治に長けた人が極端に少ないので。
 政治家も逃げ延びてはいましたが、
 戦争に舵を切ったのが彼らのせいであったということで、
 避難中、恐慌状態に陥った木連市民に…。
 
 草壁閣下だけは戦争に巻き込まれた側の兵士の代表だったので、無事だったんです

 それに独裁だからこそスピードのある決定が下せます。
 木星の技術と火星の残った文化、文明を組み合わせて復興を目指しました。

 土は悪いですがプラントの無機物から有機物の変換に比べれば桁違いです。
 火星の土と、プラントの変換技術を組み合わせて栄養価も味も改善されつつあります。
 それもこれも、博士のおかげです」

「…博士?」

「ええ、天才的な…本当に頼れる人が…。
 信じられないくらいの天才が、居るんです。
 そろそろこちらに…」

「失礼します。
 博士をお連れしました」

「ちょうどよいですね…どうぞ」

私達は障子の方をみた。
しかし隣には小さなシルエットが…はて?子連れか?

「お兄ちゃん…久しぶりだね…」


「あっ……アイちゃん!?」



テンカワ君はガタっと立ち上がって、少女の元に駆け寄った。
アイと呼ばれた少女も、眼にいっぱいの涙をためて走り出した。

「よ、よかった…!
 生きてたんだね、良かった…!!」

「ごめんね、お兄ちゃん!
 火星もトカゲさんが妨害電波でブロックかけてて、
 どこにいるのかもわからないから連絡できなくて…!」

「いいんだよ、アイちゃん…!
 い、生きてくれててほんとうに…!」

先ほどまで険しい表情をしていたテンカワ君は、本当に嬉しそうな表情だった。
アイという娘を強く抱きしめて、涙を流している。
…む、艦長がちょっとむくれているな。
こんな小さい子に嫉妬などしないでもいいだろうに。


・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。


二人は落ち着いて離れると、少女もちょこんと座った。
一緒に居る母親と思しき女性ともども白衣を羽織っている。

「でもアイちゃん、だいぶおっきくなったよね。
 離れてたのは一年くらいだったのに」

「色々事情があって…。

 ………あれ?

 私の姿見て、出てくる感想ってそれだけ?」

「え?
 俺変なこと言った?」

「…お兄ちゃん、ここまで来るのにブラックサレナに乗らなかった?」

「え、乗ったけど…。
 どうしてアイちゃんがブラックサレナを知ってるの?」

二人とも顔を見合わせて、何か記憶の食い違いがありそうな状態だ。
このアイという子はまだ10歳くらいか?ルリ君と同じくらいだったろうか。
なら勘違いや思い違いということもあり得るんだが…。


「「んん~~~~~~~~?」」



二人で首をかしげて唸っている。
……なんだか分からないが、ホシノ君が来るまでは謎が解けなさそうだな。そんな気がする。






















〇火星・草壁の屋敷・応接間──ホシノアキト
…俺とユリちゃんは困惑していた。
ヤマサキがこの戦争のための準備を一人で横取りし…。
たった一人でトカゲ戦争を引き起こした人物になっているという事実に。
そして草壁が何の策もなく、たった一人で俺たちを出迎えてくれたことに…。

…移動してる最中、白鳥さんがヤマサキについて話しかかったところで到着してしまった。
その先は、草壁閣下に直接聞いてほしいと促してくれた。
そして、俺とユリちゃんだけを草壁と話せるようにしてくれた。
気を使ってくれた形だったが…。
しかし、草壁が語った内容もだが、様子がおかしい。
あの良くも悪くも堂々たる態度を崩さないこの男が、妙に穏やかでしおらしい。
演技にはとても見えない…火星に来てから奇妙なことばかりだ。


「……そんなこと納得できません!!
 草壁、あなたはそうやってヤマサキ博士に全てを押し付けて、火星を手に入れて!
 そして裏ではヤマサキ博士を操って独裁を計ったんじゃないんですか!?」



「……そう言われても仕方のないことだな。
 私の記憶が戻ったのが、ヤマサキ博士に追い出された後だったなどとは、
 とても信じられないだろう」

草壁はやや落ち込んだようにうつむいた。
…草壁に話された、木連の人たちが火星に移住したいきさつが、
ユリちゃんには納得できないんだろう。

俺は妙に草壁の言っていることに真実味を感じていた。

ユリちゃんの言う通り、そういう策もありえなくはない。
そっちの方がもしかしたら連合軍にも地球にもうまく取り入れるかもしれない。
だが…。

「…ユリちゃん、落ち着いて。
 俺たちがこんな風にお互いが悪いって言いあってたら、
 地球のみんなに戦争を終わらせてほしいって頼めないよ…。

 俺たちが、どんな憎しみも乗り越えてお互いを理解しようとしないとダメなんだ」

「…いえ、私こそ取り乱してごめんなさい…」

この場で草壁を疑ってかかるのはまずいんだ。
俺も草壁という男が悪人であったら、という気持ちはゼロじゃない。
だけど、それが本当に俺にとって、全人類にとって良いことじゃないとも分かってる。

今は草壁と俺たちの気持ちを、隠し通さず伝え合うのが必要なんだ。

ユリちゃんは一通り怒って、気持ちが落ち着いてきたのか、
呼吸を整えて、俺に話すように促した。

俺は、この世界に来てからのいきさつをすべて話した。
違う身体と戸籍を手に入れた事、テンカワのクローンとして生まれ変わったこと、
ユリちゃんの事、地球であった荒唐無稽な戦いのすべてを。
…ラピスのことは一旦置いておいた。
重要なことだが、まずは方針を合わせたかった。
そしてボソンジャンプの封印を提案し、過去の遺恨をもゼロにしようと。

「…そうか。
 我々は同じ道を目指そうとしていたのか」

「同じ?」

「その前に私が未来において、
 なぜ火星の後継者として蜂起したか、
 私とヤマサキ博士が何を考えていたかわかるかね」
 
「あなたが地球圏を支配するつもりだったんでしょう。
 こんなふうに独裁したがっていたんでしょう?」

ユリちゃんはまだ不信そうな目で草壁を見ている。
…もう少し話し合う必要がありそうだな。

「違う…。
 
 

 ボソンジャンプの封印だよ」


「「!?」」



「ボソンジャンプの危険性を世間に教えることが主目的だったのだ」

「う、嘘を言わないで下さい!」

ユリちゃんだけではなく、俺まで揺れた。
ボソングレネードでこの世界に飛ばされる前の行動は、
どう考えてもボソンジャンプの独占と、独裁を目指す形に思えた。
…いや?もしかしたら…。

「嘘ではない…。
 帰ったらミスマルユリカに聞くといい。
 私の言ったことがでたらめではないとすぐにわかるだろう」

「何を!?」

「待ってくれ、ユリちゃん。
 ヤマサキが、木星の兵器をすべて奪ったことと合わせると、
 もしかしたら謎が解けるかもしれない」

「…どういうことです?」

「一応、俺の推測だけど、いいか?」

「話してみたまえ」

俺は一つの推論を話した。
ボソンジャンプの危険を教えるのに、一番良い方法は何か。

それは一番危険な方法で相手を占領する方法だ。
その危険性に気づいた人が手を引っ込めるのか、さらに深入りするのかは分からないが…。

だが、少なくともユリカのクローンを使った翻訳機を使って、
ボソン砲のように直接爆発物を送って脅す方法をとらなかったのを考えると、
その意味も明らかになってくる。

「俺が火星の後継者やヒサゴプランに関わる連中に、
 安寧を与えないためにとった行動と同じだよ。
 いつ襲ってくるか分からない相手というのは非常に怖い。

 …そうなると、あの時点でボソンジャンプを独占し、
 テロリストとして活動を続ければボソンジャンプはより禁忌に近づく。
 世間に公表されれば、そんな悪魔の兵器を使うことを許容しないだろう」

「そんな!?」

「…あの時の俺とルリちゃんが捕らえられていれば、さらに驚異を感じただろう。
 史上最悪のテロリスト、そして電子制圧を可能にするマシンチャイルド。
 そのクローンを大量生産して行けば、さらに万全だろう。
 ボソンジャンプ、そして遺伝子操作が禁忌ということになっていく。
 それをヤマサキと草壁、たった二人のテロリストが行ったとなればなおのことだし…。
 
 火星の後継者や木連の人たちではなく、
 二人だけがこのボソンジャンプの罪を背負うことができるかもしれない。
 
 それが草壁さんの目的だったら、筋は通るよ」

「…理解が早くて助かる」

…やはりそう言うことか。
ヤマサキも、もしかしたらこの世界ではそういう発想でいたのかもしれない。
だが…。

「だが、そこまでしてボソンジャンプを封印しにかかった理由は分からない。
 何故だ?」

「ヒサゴプランはボソンジャンプの研究を進めた。
 統合軍に私も勢力をかなり送って政治的に引き込んだものも多い。
 それだけでも十分だと最初は踏んでいたのだが…。
 …だがそれでもしぶとく生き残った地球の政治家に覆される可能性があったのだ」

「覆されるって何を?」

「考えてもみたまえ。
 一応休戦ということで木星の兵器プラントは廃棄、
 そして全ての木連人は火星や月に移住したとはいえだ。
 
 あくまで休戦だ。
 
 いつ再開されるかもわからない状態で、
 プラントが無事に残っているのは危険だと思わんか?」

「!まさか…」

「そうだ。
 ヒサゴプランの真の目的は外宇宙への旅立ちではない。
 
 木連の人たちが帰る場所を破壊するための、
 ターミナルチューリップの建造にあったのだよ」

ユリちゃんが驚いた。
俺もそこまで深く地球の勢力が食い込んでるとは思わなかった。

「最初の段階では、我々がヒサゴプランに噛んでいた理由は別にあったが…。
 優人部隊というボソンジャンプを使いこなした人間が多くいたことで、
 積極的にボソンジャンプの技術を提供してしまった。
 
 …気付いたのはヒサゴプランが公に公開されてからだった。
 
 地球を信じた私が愚かだったのだ」

「そんな…」

確かに反ネルガルの勢力が一つになってヒサゴプランを作ったとはいえ、一枚岩じゃない。
呉越同舟じゃないが、それぞれ別の目的で手を結んでいる可能性はある。
…まさか自分たちを滅ぼす目的に協力を求めるとは思わないだろう。

「そうなれば、木星の兵器を生産する遺跡が奪われたとしたら、
 あとは数の少ない木連の将校、そして市民など各個撃破できる。
 我々を恨んでいる人はたくさんいたからな。
 
 もし木星までチューリップを作ることができなくても、
 チューリップで補給線が確保できる距離まで伸ばせたら地球の勝ちだ。
 あるいは過去と同じく、そこから核ミサイルを撃ち込んできてもおかしくはない」

……ようやく納得できた。
草壁の考えていたことが…。

「…すべては、木連の血を絶やさないため。
 本当の意味で故郷を救おうとしたらあの行動しかなかったということか」

「……謝って済むはずがないとは思っている。
 だが、私は…」

「草壁…。

 …いや草壁、さん…。
 俺たちは、ずっとすれ違ってきた。
 ……俺もあんたにされたことを、恨んだ。
 今となっては…あんたを許してもいいと思ってる」

草壁さんは、顔を上げて俺の顔を見つめた。
…その顔には、すでに恨みや執着などなさそうだった。
悔いは、ありそうだけど。

「俺もあんたも、自分の夢をかなえ、人類に未来をつかませるのが目的のはずだ。
 利害は一致しているし、お互いの気持ちもよく分かった。
 
 だが、どうしても…。
 どうしても、理解できないことがあったんだ」

「……何かね」

「……教えてくれ、草壁さん。
 あなたが、どうして俺たちに…あんな実験を行ったのか。
 ユリカは…何故、辱められ、苦しめられて、
 切り刻まれてしまわなければいけなかったのか。
 
 …ユリカを、ラピスに改造したのは何故なんだ」


「……!?
 君たちはあのラピスラズリのことに気づいたのか…!?」



「……どうやらお互いにこれは最後に話すべきだと思ってたみたいだな。
 彼女はすべて記憶を取り戻した。
 理由は分からないが…。
 それが真実だと、確認できたなら…。

 事情はどうあれ、彼女は返してもらった。
 俺の失ったものはすべて取り戻せた。
 だから……俺はもうあんたらを恨む気はない。

 あんたらのせいでラピスになったユリカとのことも…。
 傷ついた彼女の心は、俺たちが、俺たちの手で何とかする。

 あんたらとはこれ以上戦争も、テロリストごっこもごめんだ。

 だから、最後にそれだけ聞かせてほしい」

「…それが我々がヒサゴプランに加わった最初の理由なのだよ。
 あの一撃がすべてを変えてしまったのだ。
 私も…ヤマサキ博士も…そして多くの木連兵士の希望も奪い去った。
 
 

 ナデシコが放った、あのたった一発の相転移砲が」




「「……!」」















〇地球・アフリカ大陸上空・ユーチャリス・ラピスの部屋──ラピス
私は…浅い眠りについていた。
眠りが浅いと夢を見てしまうから、本当は熟睡したいんだけど…。
少しの間目をつむるだけでも、あの悪夢は追ってくる。
だからアキトの声を…あの映画を流して声だけでも聞こえていれば、
ほんの少しだけ悪夢の時間が減ってくれる…。

ああ……こんな時間も、もうすぐ終わるけど…。

……それでも死にたくない。
そう考えてる、矛盾した自分がいる──。
でも…。





ああ。
きてしまった。
終わらない地獄に…。






───私は裸で無防備に横たわっていた。
幾度となく蹂躙され、辱められ、穢されて…もう7か月になる。
今日も男の人たちに乱暴されて、力尽きて動けなくなっていた。

「ひぐっ……許して…もうやだよぉ…」

「許してだと?
 あいつは、許しを請うこともできずに死んでいったんだ!!
 お前のせいでな!」


ばちんっ!



私は元木連の将校の人に髪をつかまれて平手打ちをされた。
何も言い返せず…ただ床に突っ伏して涙を流して許しを請うことしかできない。

──私は人体実験は受けなかった。
言ってしまえば私は火星の後継者にとって『切り札』。

ミスマル提督の娘であり、ナデシコの中心人物であった私は、人質としては最適だった。
それ故に人体実験に用いるわけにはいかず、比較的丁重に扱われた。
比較的、というのは人体実験をされないだけで、毎日男の人に乱暴された。

ナデシコが相転移砲を撃ったあの時…。
木連も人手が足りず、学徒が動員され挙句には女子供が運営する艦があった。
そして居住区が壊れて避難するように逃れ、保護する大型艦もあった。

あの一発の相転移砲が、彼らの命を奪った。

…彼らをあの宙域に居させたのは木連の人たち、
私に命令をしたのは連合軍の人たち。
でも、私に乱暴する人たちにはそんなことは関係なかった。

彼らは家族を、愛する人を永遠に失った。
私もそれを聞いて心が痛んだ。
けど、あの時…もし私たちが何もしなかったら、戦争は終結しなかったかもしれない。
そうするしかなかった…どうすることもできなかった…。
だから木連の人の乱暴に抵抗する意思すら持てず、
私はただ力なく耐えることしかできなかった。
ナデシコという艦が起こした虐殺を背負う責任が、艦長の私にはあるから…。

時にはアキトに、私が乱暴される姿を見せつけることすらあった。

完全に女の子として、人間としての尊厳をボロボロにされて、
それでもなお私は狂ったりはできなかった。
私が自殺せずに居られたのは、

『お前が自殺しないようにアキトは生かしておいてやる』
という言葉を信じたから。
アキトの姿が見えて居る時、悲しくて悔しいけど、
まだ無事だって分かって、嬉しくてしょうがなかった。

だから私は希望を捨てなかった。
ナデシコ一隻で地球と木星の両方から孤立してなお、
最後の最後まであきらめなかったように。

もう一度、アキトに抱きしめてもらうまでは死ねない。
私もアキトも元通りの幸せいっぱいの未来はもうありえない。
それでも、アキトのぬくもりをもう一度感じて…死ぬにしてもその後で…。



でも…そんな私の希望は、あっさり砕かれてしまった。
翌月、ヤマサキ博士が私の前を訪れた。

「テンカワユリカ君、処刑が決まったよ」


「しょっ…!?
 処刑!?」



「ああ、すぐにだ。
 君の脳髄が必要になった。
 …ボソンジャンプのコントロールに必要なんだ」


「…い、嫌っ!!」



「安心して、痛くはしないよ。
 それに抵抗しないって約束するなら、
 アキト君と最後の時を過ごさせてあげるよ」

「!!」

私はその言葉に揺れた。
もし、抵抗したら…アキトとの時間は、もう永久に奪われるんだと分かった。

「そうそう、頷いてくれたらアキト君の命を助けてもいい。

 君がアキト君を助けるんだ。

 それくらい譲歩してもいいくらい、君の脳髄は価値があるんだ。
 ま、それが嫌だって言うなら死んで火葬した後もずっと離れ離れだよ。
 アキト君も当然、処刑。

 …どうする?」

私はその言葉に頷くしかなかった。
私の命でアキトが助かるなら、まだ救われる。
最後の時間、意地悪しないでいてくれるなら…。
それなら、まだ…。
私もまだ救われる…。

そしてしばらくするとヤマサキ博士がアキトを連れてきた。

けど…。

「ほら、アキト君だよ」


どさっ!!



「う…うぅ…」

「アキトッ!?」

ヤマサキ博士が乱暴に私の前に転がしたアキトは…うつろに虚空をみながらうめくだけだった。
私の姿も見えず、声も聞こえて居ない…。
う、嘘……!?

「アキトに何をしたの!?」

「いやぁ、ボソンジャンプはイメージングが命だから。
 君の脳を生かすためには失敗できないからねぇ。
 アキト君の脳を使って実験したのさ。
 脳をちょいちょいっとね、いじくったらこのざまだよ。
 アキト君はもうほとんど五感がないのさ。
 君の声も、届かないだろうし、
 触覚もないから触っても気がつかないだろう。
 
 …ああ、そうそう。
 味覚はもう完全に死んでるよ。
 
 どんなに治っても、この状態からじゃコックにはもどれないだろうね?
 今、アキト君は意識を失うこともできず、
 真っ暗闇の中でもがき苦しんでいるのさ」


「…ひどいっ!!
 人間のすることじゃないッ!!」



「一万人近く一度に消し飛ばした君が言う事かなぁ?
 君は僕の大切な人だって奪ったんだよ?
 
 …君は命令されれば何人でも何万人でも殺せる女じゃないか」

私は何も反論できなかった。
ナデシコという大切な船を守るために…。
200名余りを守るために私は一万人近くを殺したんだ…。
戦争中、木星トカゲの機動兵器で死んだ人は数万じゃ効かないけど…。
私は自分で戦うことを選んだ…そして作戦を決行した…。
言い訳などできるわけがなかった…。

「…ゆぃ……か……」


「!!

 アキト!

 ユリカはここにいるよ、アキトッ!!」



「おおっと…これは驚いた。
 五感が死んでいるのに、ユリカ君に気付いて手を伸ばした…。
 凄い、分かるんだねぇ。
 素晴らしく感動的じゃないか」

アキトは私の名前を呼んでくれた。
私はアキトの手をかろうじて掴んで…。
けどその手はひどく冷たく、死人のようにすら感じた。
こんなになっても、私を…。

「けど、時間切れだよ」

「ま、待って!
 あとちょっとだけ…お願いッ…」

「だーめ」


バリバリバリバリッ!!


「うぐぐああぁーーーーっ!?」



「一応ギリギリ死なない程度の電気ショックだけど、
 気絶してもらうよ。
 …ま、目覚めることは二度とないんだけどさ」

私の目の前が真っ暗になって…。

そんな…。

意識が…闇に…。

アキトは私のせいでこんな残酷なことを…。


アキト…!


こんなの…こんなのって…神様…ひどいよぅ……。








……こんなのってないよぉっ!










…………そして。
私は脳の大部分だけを…ラピスちゃんの記憶部分の脳髄と体と組み合わされて…。

ラピスラズリに成り果てて…。
ボソンジャンプで改変された世界で…。
ユリカのクローンの体ってことになって…。
もう存在そのものが変わってしまって…それでも生きながらえてしまっている…。
こんな記憶なんて…なかったら…。
いっそラピスちゃんのまま、記憶を取り戻さない方が幸せだったよ…。

「……」

私は目覚めて、自分の顔がひどいことになってるのを確認して…。
深夜の四時だと確認して、心臓の鼓動と悪寒に震えた。

……許したくない。
私とアキトにひどいことをしたあの人たちを殺したい。
いっそ、もう一回相転移砲でバラバラにしてやりたい…。
全部奪いつくして、それから…。

………ダメだよ、ユリカ。

アキトが見てるそばでそんなことしたら、絶対に嫌われる。
アキトに嫌われることだけは絶対に、何があっても嫌…耐えられない…。

アキトが死んだ時だけそうするって決めたでしょ…?

それ以外は何があっても、アキトのしてほしくないことはしない…。
アキトが英雄のポジションから降りられる方法だってバレちゃだめ…。

でも、でも……。

「悔しいよ……っ。
 こんな風に私を作り替えた人たちになにもできないんだもん…。
 アキトと私を引き裂いたあの人たちを…」

私は自分のしでかした罪を棚に上げて、とんでもなく傲慢なことを考えてる。
…こんな汚い私はもういらない。
だからアキトを救って…黒い皇子の呪いを背負って消えていくんだよ。
それが一番、世のため人のた…アキトのため、なんだから…。

「……ユリちゃん、いいなぁ」

映画の中での…。
結婚シーンも、
火傷した後肩を貸して歩くシーンも、
一緒に戦うシーンも。
全部全部、羨ましい。

ユリちゃんだけは恨んじゃダメなのに…。
大切で、大好きな、自慢の妹なのに、アキトを救ってくれる唯一の女の子なのに…。

…それでも嫉妬している、そんな醜い自分が一番嫌い。

お願いだから…これ以上、誰も恨ませないで…。



………早く、死なせてよぉ…。


























〇火星・草壁の屋敷・応接間──ユリ

「……相転移砲が歴史上、はじめてつかわれた木星戦争後期のことだ。
 あの激戦区に…木連の市民艦が漂っていた。

 木星圏の人間がほとんど住んでいる、市民艦れいげつという艦がある。
 元々経年による老朽化がひどく、居住区が修復しきれないほど老朽化した区画が増えてきた。
 元々プラントが兵器と食料生産でぎりぎりの状態にあった状態では修理も無理があってな…。
 
 戦艦の中で一番大きい、かぐらづき型の艦を簡易的に改装し、
 前線の兵士たちの家族を住まわせる一時的な居住区とした。
 兵士たちも、家族に会えると喜んでくれていた。
 

 ──だがあの相転移法の一撃で消えた」


「「!!」」



「幼子も、身ごもった女性も、
 身体の欠損を伴う怪我で退役せざるをえないものも、あの船には乗っていた。
 一万人に満たない…地球からすればわずかな数だったが、
 木星の人口の比率からすれば途方もない人的損失だった。
 …まして、将来を担う子供たちがかなりの数失われたのだ」

「そんな……」

私は草壁の言葉を聞きたくない、耳をふさいでしまいたいという気持ちでいっぱいでした。
あの時は必死に戦ってた…問答無用の威力を持つ、相転移砲を使わなかったどうなったか…。
でもそれが原因で、アキトさんとユリカさんが復讐の対象になっていたなんて…。

「…戦闘中では、あの艦は巨大な戦艦にしか見えなかっただろう。
 我々も仕方ないとあきらめようとした。
 れいげつのほとんどの市民は、この出来事で心が折れた。
 熱血クーデター以前に、すでに市民の心は木星の圏の存続ではなく、
 故郷を、プライドを捨てて、戦争終結とともに月、火星に移住して、
 安全な暮らしを得ることにシフトしていったのだ…。

 ……それでも私は火星の遺跡を手に入れ、ボソンジャンプを支配し、
 圧倒的優位を手に入れたうえで火星に移住することが最善だと考えた。
 そうでなければ、少数派の木連は吸収されつくすか、
 もしくは差別の対象になって潰えるだけだと考えたからだ。
 それが木星の人間に残された、最後の生存方法だったのだ。

 ……だがっ!!」


がんっ!


草壁が、机を強くたたいて、私達を睨みつけました。
あの黒い皇子と全く同じ、憎しみと悲しみに染まった顔で私達を睨んでいます。
私は……。


「お前たちは何をした!?

 我々を撃滅するでもなく!

 演算ユニットを地球のために持って帰ってやるでもなく!

 遺跡を破壊してすべて清算するでもなく!
 
 自分たちの思い出のために!戦争終結のためだけに!
 
 命を賭けて生存圏を得ようとした我々を踏みにじった!!
 
 おちゃらけた、あの小娘と、ふざけたナデシコの連中がッ!!」



「……」

「……分かっている。
 戦争などという方法で、
 嘘で塗り固めて火星と遺跡を手に入れようとしたことがそもそもの間違いだった。
 戦争全体で死んだ地球人と火星人の数も、木星の死者数に比べれば途方もないほどだ。
 我々にそんなことを言う資格はなかった…。
 

 だが家族を惨殺されてなお、生き残ってしまった者は…。
 怒り、苦しみが、向けられる先があったらどうする!?

 その怨敵を捕らえたとして!
 
 お前だったらどうする!?


 答えろ!!テンカワアキトッ!!」



「………。
 出来る限り苦しめて殺すな」

アキトさんはほぼよどみなく答えました。
今のアキトさんはそうする必要がないだけで…きっかけがあればまた復讐に囚われる。
だから、草壁の気持ちがよく分かってしまうんでしょう…。

「……私達もそうしたのだけなのだよ…。
 自分がいかに醜く、悪に染まっても…。
 そうしなければ何も…収まらない…。
 だからヒサゴプランでA級ジャンパーをかき集め、
 人体実験に使うというのが決定していたからな。
 地球・木星のほとんどの勢力はこれに賛同した。
 ミスマル提督やネルガルしか敵対相手がいないとなれば…。
 君たちへの復讐を遂げるのは容易だった。
 だから協力してしまったのだ」

「ああ。
 俺もそうした…。
 だから俺もあんたらを責める資格はないよな…」

二人はお互いにうつむいて、申し訳なさそうに、しかし共感しているようでした。
……私には二人の気持ちは…分かりません。
復讐は何も生まないとは言いますが、そうじゃない。
…復讐には終わりがないんでしょう。
やったらやり返す、その繰り返しの螺旋から抜けられなくなるんです。
ここで私達が草壁を拒絶したり、暗殺すれば、また泥沼です。
終わらせるには、ここで引き下がるしかないんでしょう。

……でもユリカさん、辛そうでした。
ラピスの体になっても、アキトさんを好きなことに変わりはないのに。
私にすべてを任せて、ひとまず確認に火星に行って欲しいと言っていたけど…。
それに…。

「…待ってください。
 私も二人の言うことに賛成してます。
 でもそれは言ってしまえばこれだけ人が死んだのに、
 ボソンジャンプが原因で起こった戦争の、
 理由を永遠に封印することになるんですよ?
 そんなことをしたら…」

結局、戦争の理由がボソンジャンプが原因でだったのを隠蔽するということです。
全てを明らかにしないままにしたら、それこそ不誠実です。
単なる侵略戦争だったとするには問題があります。
しかも意図的に、私達と草壁が、隠蔽したと…罪を背負うことになると思います。
…そんなことをしたら為政者の嘘とそう大差ないとおもいます。

「…ボソンジャンプ…跳躍技術に関しても、すべては封印できないだろう。
 優人部隊が外部に接触することがあれば情報は広まるだろう。
 この時期の地球でも、すでにボソンジャンプの研究をしている者が居たはずだ」

「確かに、遺伝子操作、そして人体実験に関しては、
 俺たちの事、カエンたちブーステッドマン達のこともあって、
 かなり厳密に多数の研究所が検挙されてる。
 だからある程度は防げるが…。
 逆に言えば、ボソンジャンプの研究についても、政府も気付いている」

「元々政府の下に属している研究所は生き延びているかもしれんしな」

「…だったら、どうすれば」

封印する方法がなければ、そもそもどうしようもないと思います。
…それでは全く意味がないんですが。

「それについては…。
 君のよく知る博士が説明してくれるだろう。
 彼女が、ボソンジャンプの封印を可能にすることができるかもしれないと、
 言ってくれたのだ」

「…!!
 イネスさんが生きてるのか!?」

「ああ。
 君たちが来たということで、ここに呼んである。
 そろそろ到着している頃だろう」

「「よ、よかった…」」

これで一つの問題が解決しました。
アキトさんの体を診れるのはイネスさんしかいません。
元々アキトさんの体を診るためのナノマシンの研究をしていたのはイネスさんです。
この時代の、誰よりも人体に入ったナノマシンについて詳しいんです。
それにボソンジャンプの封印のカギも握っているとなれば、
希望が、見えてきました…!

「…では、そろそろ動くとしようか。
 戦争を終わらせるためにな」

「いや、待ってくれ。
 …もう一つ、ヤマサキのことについても聞いておきたい。
 あいつは…」
 
「……恐らく木星で一人で無人兵器に指示を下している。
 ヤマサキ博士は私達が火星に降り立ったのを確認して、
 火星の制空権を支配し、電波妨害で地球へ交信をできないようにしてきた。
 乗せてきた戦力も、兵器プラントを奪われたために修理もできず、
 火星から脱出できない状態が続いたのだ」

「…じゃあ俺たちも出れなくなったか?」

「いや、相転移砲があれば蹴散らせるだろう。
 地球に向かう者と、地球に出ていくものを乗せて、
 我々の意思を伝える者とともに帰還してほしい」

「そうか。
 …ヤマサキも、その…相転移砲で大事な人を?」

「…あの艦の中には私の娘もいた…。
 
 ヤマサキ博士は、あの子の夫だった。
 
 身ごもっていた…。
 全てを奪われて…ヤマサキ博士は…」

「……俺達の夢を打ち砕いたのか。

 ユリカの脳髄とラピスラズリとまぜこぜにして、
 俺が決して気づかないようにしたのも…。

 遺跡に翻訳機として融合させたユリカがクローンで、
 記憶の部分だけがユリカの脳髄だったのも、全部が復讐だった…」

「そうだ…」

……改めて聞くと、やっぱりかなり狂ってます。
アキトさんが黒い皇子としてやってきたこともですけど、
ヤマサキも草壁もやっぱり常軌を逸しています。

……でも、それだけ愛情深かったのかもしれませんね。

ヤマサキも草壁も木連を守りたかった。
自分のすべてを奪われて、復讐心に囚われていた。

…やっぱり、私には責められません。
そんな資格があるとは思えません…。

二人を責め立てるのは、アキトさんを責め立てるのと同じですから…。

「…分かった。
 ……ヤマサキはどうするつもりだ?」

アキトさんは今更口裏を合わせてるわけもないと考えたのか、
普通に問いかけました。

「…私の荷物に、手紙が入れられていた」

私とアキトさんは、差し出された手紙を見た。



『お義父さん
 まず、ボソンジャンプの事故とは言えやり直す機会を得たのに、
 このようなやり方を選んだことをお許しください。
 
 戻ってきて、娘さんの顔を見れて、僕は嬉しくて仕方ありませんでした。
 もう一度、やり直せる…もしかしたら戦争を早く終わらせることができるかもと…。
 最初は浮かれてすらいました。
 
 しかし、戦争が無事に終わる未来が信じられなかったのです。
 
 テンカワアキトがもしこの時代に戻ってきたとして、
 彼はまだ僕たちを殺すつもりでいることでしょう。
 それに地球も、黙っては居ないでしょう。
 
 未来を知っていても、僕たちはいずれ逆転されてしまうでしょう。
 それならばいっそ、僕がすべての責任を背負うことにしたのです。
 
 木星トカゲはヤマサキという狂気の科学者の作った軍団。
 地球に報復するための戦争準備中だった木連の兵器工場を支配し、
 たった一人で侵略戦争を始めたのだと、そういうシナリオを通すことにしたのです。
  
 そのために、まず木星の全市民、全兵士を火星に追い出します。
 そして代わりに生存に必要なプラントは持って行ってもらいました。
 備蓄食料は僕一人なら有り余るくらいにはありますから…。
 
 僕は火星に木連全員がたどり着いたのを確認したら、
 制空権を確保して身動きを封じるので、みんなには火星の復興に当たってもらいます。
 火星の人たちの生き残りに罪滅ぼしを兼ねて、木連のための国を作って下さい。
 
 そのうち、ナデシコが様子を見に来るはずです。
 
 その時、和解できる余地があるように彼らを迎えて下さい。
 彼らの望みは元々和平にあったのですから、希望はあります。
 僕が責任を負うことができれば、
 木連の市民は火星に根付いて無事に生き延びることができる!
 
 僕のことは気にしないで下さい。
 お義父さん…いえ、僕はもう彼女の許婚でも、夫でもありませんね。
 
 草壁閣下。
 彼女に、夏樹に、僕のように狂った科学者ではなく、
 新しい恋を探すように言ってあげて下さい。
 まだこの時期の夏樹は僕と関係をもってはいません。
 
 やりなおしは効くはずなんです。
 
 夏樹と木連は、まだやり直しできるはずなんです。
 
 あなたなら、もう一度やり直せます。
 みんなを立ち直らせてほしいんです、僕たちの信じた草壁閣下に!
 
 …夏樹を捨ててしまったことを、木連全員に故郷を捨てさせたことをお許しください。
 
 では、お元気で』




「…これは」

「…遺書だ」

私は…。
ヤマサキの書いた手紙を読んで、自分の頬に涙が伝うのを感じました。
やっぱり、アキトさんと同じです。
最後の最後まで自分の親しい人達を救うことを考えていました。
全部、分かってしまう…。

目の前にいる草壁は、未来のミスマル父さんと同じです。
娘を亡くして苦しみ、
そしてそのために狂った娘婿を止めることもできずに苦しんでいる…。
あの時、私達が無事に変えれたらきっとそうなっていました。

…人間、だったんです。

やっぱり、相手も人間なんです…。
人を愛し、失ったら狂ってしまうような情深さを持っている…人間。

それどころか、木連を救おうとして自己犠牲を…。

……一人で背負うなんて、そんなの現実的に無理です。
結局木連も色々問われてしまいます。綺麗事だと思いますけど…。
でも、分かってしまう…。
そんな悲しい決意が、私には分かってしまうんです。

アキトさんが黒い皇子として凶行に走っていた時も、
この世界の、ホシノユリとしての人生の両親もそうでした。

自分の愛する者のため…すべてを捨てて…。
いえ…。
もしかしたらこの戦争で戦う人、
巻き込まれた人々、すべてが同じだったのかも──。

「……ヤマサキを見つけたら、どうするんだ?」

「義父としては戻るようには言いたいがな…。
 …とても頷いてくれるとは思えん。
 それに、私以外のだれも、許してくれはしないだろう。
 
 …君たちは、見つけたら…」

「…俺は、もう彼を殺すことが出来ません。
 ……彼の気持ちは、よくわかりますから」

「そうか…」

「それに、状況が整ったら俺は戦うのを止めます。
 体が持つか分かりませんし……。
 ヤマサキを助けるのに何年かかるかわかりません」

「…ぜひそうしてくれ。
 君の人生をこれ以上邪魔したくない…」

草壁は、十分に復讐を遂げたと言っているように…。
そしてアキトさんも、お互いにやれることをすべてやって、後悔がないというように。
深く頷いて…やがてアキトさんはすっと立ち上がりました。

「草壁さん。
 ……俺たちは地球に行きたい人を乗せて、ナデシコで帰ります。
 俺たちはお互いに近くに居ない方がいい」

「……ああ。そうだな」

二人は分かりあったとはいえ、お互いに近くに居つづければ、
また感情が呼び起こされる可能性があると思ったのか、距離を置くようですね。
…ボソンジャンプの封印が出来れば地球と火星ほどの距離が離れたらもう問題ないでしょう。
今まで通り、この距離が、お互いの心の平穏を取り戻させてくれるでしょう…。

…ユリカさん、終わりましたよ。
戦争はきっと無事に終わります。
ヤマサキの事はまだ不安に思いますけど、
イネスさんも見つかった…あとは帰るだけです。

帰ったら、いっぱいアキトさんに甘えて下さい。
私達の関係は、アキトさんとのことは追々決めていけばいいんです。
だから…。

……私達は地球で、もう一度やり直すんです。
あの…四畳半の小さな部屋で過ごした頃とおんなじに…。























〇火星・草壁の屋敷・日本庭園──???
……。
私は地球からの使者が来たと聞いて飛んできた。
敵が…しかもお父様が特別に呼び出すような人がどのような人物なのか。
知りたくて、この草むらに身を潜めて、集音器を使って会話を聞いていた。
……でも、その先にある会話は私を震撼させた。

お父様が…そして敵のホシノアキトが未来から跳躍してきたなんて…。

跳躍技術が時間移動を伴うなんて知らなかった。
そして未来ではナデシコの相転移砲で私も死んで…そのせいでお父様もヨシオさんも…。

許さない…。


そんなことがあったのに、私には黙って…お父様もヨシオさんもひどいわ!
私、許婚なのに放っておいて、木連のために一人で死のうとするなんて!
私だって連れて行ってくれたら…最後の時まで一緒に居たのに…!

…手の中に護身用の拳銃を握った。

追い詰められた時の自決以外では使わないつもりだったこの銃で…。
ヨシオさんの敵を、木連の敵を…!

「やめておけ、夏樹」

「!?」

握りしめていた拳銃は突如現れた人に奪われてしまった。
…私はその人を睨む事しかできなかった。

「…北斗」

「お前が抜け出したことに気づかない俺だと思ったか。護衛から逃げてどうする。
 お前もヤマサキの奴の関係者だから追われてると言っているだろう。
 …草壁閣下の娘とはいえ、まだ危険だから単独行動するなとあれほど」

「…放っといてよ。
 何にも知らないくせに」

「いや、知っているさ。
 俺は耳がいいんでな。
 跳躍の事故で未来から戻ったヤマサキ博士が、
 あの地球の英雄とやらのせいで凶行に走ったんだろう?
 …中々の大物だな」

……趣味悪い。
全部知ってて、それでも止めるんだから。

「それより、いいことを思いついたぞ。
 堂々とあいつらを血祭りにあげる方法がある」

「…どんな?」

「そこまで追っかけてきてる、血気盛んな連中をつついてやればいいのさ」

私は北斗の策を聞いて、しぶしぶ頷いた。
…お父様の真意が、私にはまだ飲み込めてない。

でも、私もこれ以上我慢できなかった。
危険だからと幽閉されて、隔離されて何もできない毎日を送るなんて。
話の内容が理解しきれていない部分もあるけど…。
ヨシオさんの事を諦めろというお父様の言いつけを守るだけでは、納得できないから…。

……私はお父様への初めての反抗に、少しずつ胸が高鳴っていることに気付いた。






















〇火星・草壁の屋敷・居間──テンカワアキト
……俺は平行線をたどったアイちゃんとの会話に疑問符を浮かべていた。
確かであった時は小学生低学年くらいの女の子だったアイちゃんが…。
なぜか小学生高学年前後の急激な成長を遂げていた。
離れていたのは丸一年と少し、でも三年ほど経過しているような感じで…。


「……ランダムジャンプの弊害?
 でもブラックサレナを作れたとなるとアカツキ君も戻ってるはず。
 だけどこの特殊なボソンジャンプが起こった理由が別にあるとすれば納得できるけど、
 私の推測が正しければ部分的な記憶の欠損のはず…」



……アイちゃんは眉間にしわを寄せてぶつぶつと考え始めた。
年相応じゃないその様子に、俺たちは不気味さすら覚えていたが…。

「ごめんなさいね、この子ってば一度スイッチが入っちゃうとこうなっちゃうの。
 一段落したら戻ってくるから」

「は、はぁ」

アイちゃんのお母さんは慣れっこのようで、ニコニコしているだけだった。
…シェルターでの出来事と、
コロニーの直撃があったことを考えるとこの二人がなぜ無事だったのか…。
特に、アイちゃんは…。

「それで、アイちゃんのお母さん…ええっと」

「トモコ・フレサンジュです。
 この子はアイ・フレサンジュ。
 縁あって、あれから私達はフレサンジュ家の養子になりまして…。
 旧姓はカワカミトモコ、この子はカワカミアイでした」

「あ、そうなんすか…」

「それで、火星の研究者の義母さんのお手伝いをしています。
 …もっとも、私は雑用ばかりで本当は博士と呼ばれるにふさわしいのは、
 この子なんですけど」


「「えっ!?」」


俺とユリカは驚いた。
まさか、アイちゃんの方が博士なのか!?

「ええ。
 こちらのアイ・フレサンジュ博士こそ、火星の復興の立役者の一人なのです。
 ナノマシンの基礎技術のすごさもさることながら、
 跳躍技術や機械技術などにも精通し、我々の生活水準を大きく上げてくれました。
 …最も公にすると事情がややこしくなるので、
 研究成果はすべてトモコ・フレサンジュ博士の名義での提出になっていますが」

「お恥ずかしいです、子供の成果を横取りすることしかできなくて」

「し、信じられない…」

出会った時のアイちゃんは、普通の女の子にしか見えなかった。
だけど雰囲気から何から、一年どころか十年、二十年離れていたかのような感じがする。
……いや、もしかして。

「まさかホシノが…」

「アキト君がどうしたの?」

「いや、その…」

「悪い、ちょっと時間がかかった。
 …和平会談と行こうか」

「お、ホシノ」

俺が今ちょうど呼びたかったホシノが戻ってきた。
どうやらその隣にいるのが、例の草壁さんか…。


「!?アイちゃん!?」


「えっ?」



ホシノの大声に考え込んでいたアイちゃんが反応した。
…!
やっぱりホシノの関係者なのか!?


「ど、どうしてここに!?」


「お、お兄ちゃんが二人!?
 しかも片方がマシンチャイルド!?
 な、なにこれ!?」



アイちゃんは俺とホシノを見比べて、おろおろしてる。
ちょっとだけ子供らしい感じがして、面白い。


「!?
 ゆ、ユリカさん、あの人誰!?」



「え?ユリちゃんのこと?
 私の妹だよ?」


「ええーーーーーっ!?」



アイちゃんは二度、三度の衝撃に揺られて、絶叫している。
…どうしたんだろう、なんかあったか。

そして、何かに気づいたように草壁さんの方をじっと見た。

「……まさか」

草壁さんはにやりと笑った。

「どうやら驚かすつもりが逆に驚かされたようだな」


「……!
 く、く、く…くぅ~~~~」



アイちゃんは顔を真っ赤にしてプルプルと震えた。



「草壁さんのいじわるーーーーーーっ!!」




涙目になったアイちゃんは再び絶叫した。
……どうやら草壁さんもホシノの関係者、なのか?
それでアイちゃんの、おそらくはドッキリのような登場を、
逆手にとってからかったんだろうか…。


い、意外とおちゃめだったんだな…木連のお偉いさんは…。

























〇作者あとがき

……長い!!


一番筆が乗ってしまったピースランド編並みに長い!
でもこの部分は一息にやらないと途切れちゃうんよなぁ・・・。

今回は希望を得るアキトとユリとは正反対に、どんどんと一人、憎しみに囚われ続けるラピス。
彼女の策は、ナデシコが火星から無事に出たら始まってしまう!どうなる!?な展開でした。

この世界のユリカが背負うといった責任を、実際に背負ったラピスが苦しみ、
草壁は改心して、ヤマサキはまだ木連のために狂気に走っているようなお話でした。
どうやら木星とクリムゾンの交信が切れた理由の一端がここにあるようですねぇ。
そしてなんでイネスさんはアイちゃんになっちゃたの!?
草壁の娘、ヤマサキの許婚、夏樹とはいったい!?
というかヤマサキはどうやって一人でプラント占拠を!?
あの身体は強くなさそうな(声は強そうな)彼がなんで!?
その山盛りのなぞはまだ解けない…。
しかしすべての真実が明らかになる日は近い!…のか?


ってなわけで次回へ~~~~~~!



















〇代理人様への返信
>チェーンロックわろすw
>でもわかったってことは、その数字黒の皇子時代まで使ってたのかなあw
>セキュリティに鈍感な奴だw
テンカワ君の場合その辺は超鈍感なのには違いないので恐らく使ってましたねw
元々これをバレる理由に使うつもりはなかったんですが、
自転車窃盗されたのにそこを疑問に思わんかったんかい、と。
テンカワ君時代の鈍さを表現するためにも使ってみましたw








>>でもあんだけ食べまくって動きまくれる人の寿命が短いってこと、ありえるんですか?
>強く燃える火は早く燃え尽きる――意外と単純な物理法則ですよ(私を月へ連れてって感)
>めちゃくちゃ仕事してた手塚や石ノ森は早死にして、のんびり生きた水木は90まで生きたのがその証拠。
せ、説得力あるぅ!!
確かにそうですね。
どんな仕事でもボロボロになるまで戦うのが正義とばかりに攻め込んでたのも今は昔。
しっかり休んで無理なく働いた方が仕事も人間関係もばっちしうまくいくのですねー。
さてさて、ホシノアキト君の体の具合はいかに。




>>カラテドージョーを
>まあ人を殺すだけならカラテいりませんしねえ。
>鉄パイプなり包丁なりで十分だしw
北斗神拳並みに誰がどう殺したのかわかんないくらいじゃないとあんま意味がない(そこじゃない
とはいえ確かにハッカーですと公言するのは、
刃物をもってうろついてるのと変わらないくらい危険に見えちゃいますね・
ホワイトだろうとブラックだろうとハッカーはハッカー。
……いや、そう考えるとやっぱりアキトがあの戦闘力見せびらかしてたのは危ないな。
あんまりいい影響はなさそう。
コックやりたいって、どうするつもりだ、ホシノアキト…。
コックをするにしてもお前に残されてるのはセガールコースくらいだぞ…。




















~次回予告~
こんにちは、アイちゃんですっ!
今回はちっちゃくたって頭脳は同じ!
迷宮なしの説明お嬢ちゃんですよ!

何々?
説明おばさんが説明お嬢ちゃんになったって、中身は説明おばさんでしょって?


いいじゃない、今ってロリババアって流行ってるんでしょ!?



……とりあえず、続きを見てからありかなしか判断してよね?

と、とにかく!
お兄ちゃんの身体は私が診るんだから!
誰にも譲らないんだから!

…ど、どこまで診ちゃおうかな…どきどき…。


ご、ごほん!

とにかく、次回予告!
次回は、例の北斗と夏樹さんが暗躍するそうです。
無事ナデシコは地球に戻れるのか!?
ラピスはどうなっちゃうのか!?
それで、ランダムボソンジャンプの世界改変についての説明もしたいけど、
データがそろってない以上、まだなにも言えないの。
なぜなにナデシコもやりたいけど我慢我慢…。
ね?そういえばお兄ちゃんって芸能人やってたんだって!?
……それは…楽しみね。(ニヤリ)
そんなお話!



在宅勤務になって空腹がいまいちわからなくなって体調不良になってようやく気付く作者が贈る、
ようやくB3Yネタもちょっと引っ張った系ナデシコ二次創作、
















『機動戦艦ナデシコD』
第五十八話:duet-デュエット-



















をみんなで見ようっ!






































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代理人の感想
ヘヴィだなあ・・・

>私は草壁さんを、北辰を、ヤマサキさんを殺したいというどす黒い衝動に駆られていた。
ヤマサキだけさんづけなのか。殺したいくらい憎んでるのにw

>れいげつ
・・・艦隊の中に民間船混ぜてたらそりゃさすがにあんたらが悪いよ・・・





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