〇地球・ピースランド・王城・王室──イセリア王妃
私と国王は公務が終わり、遅くなって戻ったところで王子たちに呼び出されました。
こんな時間に…と咎める私達をぐいぐいと押し込みながら王子たちは目を輝かせて、
説明を始めましたが…。
「舞踏会?」
「はいっ!舞踏会です!
…ラピスお姉様、だいぶお元気ですけど、悩みがまだあるみたいで…。
ナデシコが帰ってきたら映画の成功と帰還を祝ってパーティをすることになってたと思うんですけど、
その時に、とびっきりロマンチックなのをやってあげたくて!」
特に前に出てきたのがジャックでした。
この子はラピスさんをとても気に入っていて、本当に好きになっているみたい。
将来、お付き合いしたいとまで言っていたものね。
でも彼女を励ますためにホシノアキトさんと踊ってもらうなんて、
けなげというか恋を分かっていないというか…。
いえ、そんな心配など要らないでしょう。
恋が成就しても失敗してもいい経験になるはずです。
女性を相手にする時、どうすべきなのか学ぶにはいい機会です。
それにラピスさんは相手に非がない限りは手ひどい断り方などしないでしょう。
いっしょに過ごした時間は短いですが、気遣いもしっかりしている賢い子でした。
「分かりました。
ではジャック、手配に付き添いなさい。
こういう時にどうするべきなのか、教えてあげましょう」
「はっ…はいっ!」
〇宇宙・月軌道上・コスモスドック・ナデシコ・ヴァーチャルルーム──ユリ
「ふうっ…ヴァーチャル空間とはいえ疲労感はありますね」
「でもここしかないもんね、隠れて練習できる場所って…」
私とアキトさんはVRヘルメットを外して一息つきました。
ストレス緩和のために脳波をつかって、
疑似的に体験を得るという特質のあるこのヴァーチャルルーム。
そこでアキトさんと私はダンスの練習を積んでいました。
ことの発端は、ピースランドの王子たちから送られてきた招待状です。
ナデシコ帰還のお祝いと、映画の大成功のお祝いを兼ねつつ…。
一人地球に残って寂しがっていたラピスのために、パーティをすることになったそうです。
そこでラピスをねぎらうために、アキトさんにダンスを覚えてほしいと…。
『ラピスお姉様、自信失くしちゃってるみたいで…。
だからアキトお兄様とロマンチックな舞踏会をさせてあげたいんです!』
この子は…確かルリが言っていた、ジャックというラピスを美人と評した子です。
なんて言うか、目がキラキラしてます。
…ユリカさんを見る時のアオイさんの顔にそっくりですね。
ちょっとだけ将来が不安ですけど…私達はそろって了承しました。
ただ、通常通信で送ってきたもんだから傍受されてないか不安ですね…。
まあこの程度の通信がバレたところで困る内容じゃないからいいんですけど。
この通信でピースランドにラピスをかくまっているのがバレたとしても、
王城の鉄壁の防御では入り込むことすらも困難ですから。
アキトさんの見立てでは、普通は一週間以上の調査と数日の潜入期間が必要だそうです。
よっぽど準備が出来てないと一週間以内で攻略するなんて無理だとか…。
それはともかく、ラピスの中に居るユリカさんが心を病んでいるのは間違いないです。
ラピス本人だったら弱気になるなんてありえないです。マジで。
死ぬのを考えるなんてこともありえないです。
だから今も表層に出ているのはユリカさんの方。
だとしたら、これはあり得ないほどの好機です。
本物のお城で、世界一の王子様が迎えに来る。
素敵な舞踏会…まるでシンデレラのお話のように…。
もう二度と死のうなんて思えないほど、心をがっちりつかめるシチュエーションです。
ユリカさんはそういうのに弱いです。激弱です。よわよわのよわです。
私はそういうロマンチックなのは別に興味ないですし…。
……いえ、私もたぶん一発でやられちゃいますね。
ユリカさんの因子の強さってすごいですから…。
『世紀末の魔術師』の時も、私はホントこてんこてんにされちゃいました。
そんなわけでユリカさんをオトすのはこの機会しかありません。
ちょっと立場上複雑な関係ですが、もうそんなことどうでもいいです。
……私とアキトさんはこれですべて取り戻すんです。
あの、一番幸せだった日々を──。
「そういえばさ…翼の龍王騎士の活躍すごかったね。
アリサちゃんと…双子のお姉さんのサラちゃんだっけ。
…あんな風にDFSを扱えるなんて、びっくりしたよ」
「そうですね…天性のものなんでしょう。
アキトさん達以上に器用な人なんてそうそういないと思ったんですけどね」
アリサさんがテストパイロットを務めることになって、
そのデータのフィードバックをブローディアに落とし込むことになってましたが…。
私達は二日前に届いた映像に度肝を抜かれました。
本当に映画さながらの光の鎧と翼に包まれた『翼の龍王騎士』。
そして次々に木星の機動兵器を蹴散らす姿…。
…映画以上の光景を目の当たりにして、ナデシコのパイロットのみならず、
ほぼ全員があんぐりと口を開けておどろいてしまう事態になってしまいました。
ほとんど機動兵器や戦艦を紙吹雪とか障子紙みたいにぶち破りまくって、
さらにはチューリップをほとんど消滅させるように大穴をぶち開けて。
……もう、アキトさんじゃなくていいっていうか、いい感じに代わりになってくれそうです。
マジで。
「アキトさん、もしかしたらブローディアも別の乗り手が見つかって…。
本当にアキトさんが英雄じゃなくなる日が来るかもしれませんね…」
「…そうなるといいね。
DFSも扱いが難しい兵器だってことで厳しい評価が多かったけど…。
解決策が見えてきたのもあって、一般化したら戦争はずっと早く終わるよ」
そう、DFSはどんな達人でもそうそう操れるものではありません。
刃の発生をしていると機動が難しいです。
でも、タンデムアサルトピットであればそれも解決します。
当初からアキトさんが刃を発生させ、テンカワさんが操縦するというプランがありましたが、
うまくやれば本当に一騎当千の機体が出来上がってしまいます。
二人がかりで一台のエステバリスを扱うというのは非効率だとも言われましたが、
あのアリサさんたちの戦いぶりを見て、本格的にDFSという兵器が注目されてます。
アキトさんのせいで本来IFSを入れない層までIFSを入れてます。
…主に、アキトさんのファンが、ネルガル発売のアキトさんと同じタトゥーが出る奴を。
そうなるとパイロットとしてではなく、
IFSオペレーターとしてエステバリスに二人目のパイロットとして乗る人を探すのも容易になりますね。
…もう、『扱いづらい兵器にして封印』は無理でしょうけどね。
でも別にブローディアの性能を完全に再現できなくても、
未来のエステバリスカスタムのようにエネルギー受信装置を2倍か3倍にしてしまえば、
実は出力が足りる可能性があるそうです。
そうなれば逆にアキトさんに頼る必要性もなくなってしまいます。
ポジティブになりすぎるのもなんですが、この際事態の収束を早めるほうに使いましょう。
…製造が間に合えば、もしかしたら半年もかからない間に地球圏の奪還が出来ちゃうんじゃないですかね。
「ユリちゃん…あと一歩で…俺の戦いも終わるのかもしれないね」
「…ええ」
「……ラピスは喜んでくれる、よね?」
「ええ、当たり前です」
「…ユリちゃん」
「言わないで下さい、
私だってもう覚悟はできてるんです。
…でも、その先を言われると、私は耐えきれる自信がありません…。
二人で決めたことです。
謝ってほしくありません。
堂々と、潔く、カッコよく、決めといてください。
少なくともラピスを納得させるところまではもたせてくださいよ」
「…情けなくてごめんね」
「いいです、諦めてます。
でも今のアキトさんは、自分の気持ちに嘘をつかないのは分かってますから。
だから信じてます」
「責任重大だね…」
自分で臨んだことなんですから、
これくらいは背負える甲斐性を持ってほしいです、全く。
〇宇宙・月軌道上・コスモス・特別会談室──ルリ
私たちは二ヶ月近くの長旅を続けていましたが、
ナデシコはようやく地球の近くまで到着して、事なきを得ました。
とはいえまだ地球まで一週間ほどの距離があります。油断禁物です。
そして木連との直接的なやり取りがここであるようです。
和平の第一歩として、使者を受け入れるパフォーマンスを外部に向けてしてあげる必要があるとかで、
ミスマル父さんと連合軍の高官、そして主要な連合国家の政治家などが月までえっちらおっちら。
何でも月の攻略はほぼ終わっており、はぐれた残党のトカゲさんたちを蹴散らす段階だとか。
だからこの木連宿命の地で世間に猛アピールするべきと。
こういう行動が早いのよね、このおっさんじっちゃんたちってば。
連合軍に通信を入れた時点で、耳をつんざくミスマルお父さんの絶好が聞こえてきました。
……相変わらずなのは腹黒い連中だけじゃなかったんでした。
あ、愛情は嬉しいけど勘弁して…。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
「…というわけで今回の木連の存在秘匿の容疑者はある程度捕らえた。
しかし、まだ疑問点も多いので調査は続行中だ。
今後、木連側の情報とすり合わせて真実を明らかにしたい」
「…誠実な対応、ありがとうございます。
これで兄も報われることでしょう…」
木連側の使者の一人、東舞歌さんが深々と頭を下げました。
彼女は使者として派遣された兄が死んだ理由が明かされるかもしれないことに安堵しているようです。
「我々も…愚かな戦争を画策していたことを詫びねばなりません。
まことに申し訳ございませんでした」
「……ありがとう」
木連側の人たちが深々と頭を下げると、
穏健派の政治家と連合軍高官も深く頷いてくれました。
まだ不満そうにしている人たちもかなりいますが、最初の接触の時のように罵詈雑言は出ません。
生放送だからというのもありますが、この場で口をはさんでもどうしようもないからでしょう。
今回もアキト兄さんが間に入ってるせいもあって、
隠すより公開する方がいいと踏んでくれたのがいい方面に傾いてます。
こうして、木連の穏やかな地球入りが果たされましたが…。
「お父様!?」
「案ずるな、かすり傷だ!」
突如、木連側の護衛として配置されていた兵士が、
銃を抜いて会場に押し入ってきました。
それも一人や二人じゃありません。五、六人いるでしょう。
私達はすぐにテーブルの下に伏せました。
銃を乱射してきたので、ミスマル父さんの片腕にかすったようですが、
利き手じゃなかったのか、すぐに拳銃を手にして私達を後ろに隠しました。
こんな露骨に和平会談を狙ってくるなんて…!
「九十九!東様を守れ!」
「分かっている!」
「俺が戦う!
テンカワっ!みんなを頼む!」
「おうっ、任せろ!」
ホシノ兄さんもテンカワ兄さんも銃を握って…私達の前に構えました。
二人とも例の防弾戦闘服を着てます。
どうやら耐Gスーツ兼用は一着しかないようですけど、防弾性能だけの奴もあるみたいですね。
ただ、その手に握っているのはゴム弾の拳銃ですね…分が悪いかも…。
「ちっ!」
音でしか様子が分かりませんが…。
軽機関銃まで持ち出したのか、グラスが砕ける音が聞こえてきます。
ホシノ兄さんはテーブルの上を走り回ってかろうじて回避しています。
「ホシノ!昴氣を使えよ!」
「バカ!あんなのここで使えるか!」
「な、なんで…」
「テンカワ兄さん、この場で昴氣なんて使ったらまた騒ぎになります。
これはショーじゃないんですよ、本当に奇跡を起こせるって思われたら…」
「あ、そっか…。
せめて北斗ちゃんたちにも来てもらっておけばよかったかな…」
「それもダメですって…」
昴氣は貫手で鉄さえ貫くこともできるようになります。
下手すりゃ銃弾だって素手で裁くかもしれません。
でもそんなことをここでしたら、二人とも軍の関係者にマークされます。
ただでさえホシノ兄さんの身体の件でさえかなり言われかねないのに…。
それに影守姉妹も、北辰さんが名が売れてる関係で今前面に出るのは推奨されてません。
テンカワ兄さんこういうところの判断力、低いんですよね。はぁ。
「こ、こいつら手ごわい…うぐっ!」
「アキトさん!?」
「だ、大丈夫!
防弾服に一発もらっただけだから…」
…ホシノ兄さんが手ごわいっていうなんて相当ですね。
それどころか被弾するなんて…。
「ホシノ!
加勢するぞ!」
「す、すまん!」
「アキト!無理しないでね!」
「テンカワ!
合わせるぞ!」
「おうっ!」
ついにテンカワ兄さんまで出撃ですか…これは相当ですね…。
と、思ったら直後に六人分の悲鳴が聞こえてきました。
そして静まり返る会場内…え?
「みんな、大丈夫か!?」
「えっ、やっつけたんですか!?」
「うん、出てきても大丈夫だよ。
六対一だとさすがに俺も死角がない状態じゃ危なかったんだけど…。
テンカワと背中合わせにしたら死角が無くなるからさ」
……相変わらず呆れる人間離れっぷりですね。
テンカワ兄さんも本当にホシノ兄さんに追い付いてしまったんですね。
格闘はともかく、こんな戦闘までも。
「ユリカ!?大丈夫!?
おじさんも…」
「だ、大丈夫だよジュン君!」
「アオイ君も無事か、良かった」
アオイさんが駆けつけてきました。
ホシノ兄さんたちがミスマル父さんと私達の護衛に入ってくれたので、
装甲服に身を包んで会場周辺で警護に当たっていたようですが…。
どうやらヘルメットにヒビが入ってる様子からして、
最初の段階で襲撃されてダウンしてしまったんでしょう。
でも無事でよかったです。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
そして会場の負傷者を治療するために救護班が入ってきました。
襲撃した六人組はみんな拘束されています。
どうやら地球・木連双方ともに死者・重傷者は居なかったようです。
敵ですらも死なずにすんだ…まずは一安心ですね。
「ミスマル提督、お怪我はありませんか」
「む…かすり傷だ。
私は後でいい、先に重傷者を…」
「そう、ですか。
なら…」
──その時。
私達は目を疑いました。
救護班の人は静かに拳銃を向けていました。
〇宇宙・月軌道上・コスモス・医務室──ユリ
……私達は手術室の前でうなだれることしかできませんでした。
お父さんは撃たれてしまって…。
…救護班の人は敵だったんです。それも地球側の。
アキトさんとテンカワさんは拘束した六人に警戒していたので少し離れていたので、どうしようもなくて…。
でも、その一瞬前に気付いたジュンさんが救護班の人を撃ってくれたのが幸いして、
心臓に向けられていた銃がそれて、弾丸は腹部に…。
でも至近距離過ぎて威力が高いため、助かるかどうかは五分五分だと…。
私も、ユリカ姉さんもユリ姉さんも、ホシノ兄さんもテンカワ兄さんも、
手術室の前のベンチでしばらくうつむいて居ることしかできませんでした…。
「どうして…」
「……。
俺の、せいかもしれない…。
この大事な時に、俺が心を乱せば潰れてくれるかもしれないから…」
「そんな!?
アキト君のせいじゃ…」
アキトさんは静かに首を降りました。
落ち込んでいるというよりはこわばった表情です。
怒りに震えながらも冷静さを保とうとしながら、
胸の中のざわめく『黒い皇子』の感情に傾かないように我慢しているんです。
こんな事が起こって黙っていられるアキトさんじゃありません。
自分自身が傷つく分には、相手を許せば済むといいそうですけど、
大事な人が傷つく時、自分を抑えられる人じゃないんです…。
「…なぜこの土壇場で、
俺でも、連合軍でも、政府高官でもなく…。
木連の使者でもなく…。
お義父さんを狙ったのか…。
……理由は俺しか考えられないんです。
あの場合、ユリちゃん、ユリカ義姉さん、ルリちゃん…そしてお義父さんのうち、
誰かが負傷したら、救護班を装って暗殺する。
そうすれば俺の心が揺れるのは間違いないですから…」
アキトさんはいつも通りのぼうっとした姿が嘘のように、
的確に反論しようのない事実を答えました。
私もユリカさんも、もしかしたらルリもうすうす勘付いていたことです。
政府高官、連合軍高官、木連の人たちを殺せば和平がすぐに壊れる状況ではありません。
あんなストレートな、乱入などかえってわざとらしいです。
彼らはアキトさんを集中攻撃してましたし、それで殺すことができればと考えて居たんでしょう。
でも、やっぱりどうやってもアキトさんは真正面からは殺せません。
爆弾でも持ち込めば別ですが、この警備では不可能。
護衛の人達であれば銃を持ち込めます。
…このあたりは木連の責任問題になりそうですが、救護班の人は地球側の人です。
控え目に言っても相殺される可能性が高そうですし。
何より、敵はアキトさんを引きずり出すためだけに襲ってきたところがあります。
アキトさん以外の人にはほとんど威嚇射撃のような形でしか発砲してません。
…そうなると、やっぱりアキトさん個人への攻撃の可能性が高いですね…。
……と、ここまですべて、アキトさんが推測した敵の目論見を裏付ける要素しかありません。
木連と手を結んでいた地球側の勢力があるとすれば…。
恐らくはクリムゾン関係の勢力が…仕組んでいたと考えるべきでしょうね…。
……私達の間に、沈黙が漂いました。
励ます言葉も、何も思いつかなくて…。
「手術は成功しましたが…。
あとは本人の体力次第です…。
今夜、峠を越えられるかどうかが…」
「「「そんな…」」」
医務室から出てきた医師の言葉に、私達は言葉を失うしかありませんでした。
…アキトさんはもしお父さんが死ぬようなことがあれば、もしかしたら…。
いえ、そんなことになれば、ラピスの中のユリカさんも、
遺跡ユリカさんの言う通り『黒い皇子』の因子を持ってるとしたら…。
……最悪の事態になりかねません。
「……。
よっと………すみません、先生。
俺とテンカワにお父さんを護衛させてくれませんか?
再び襲撃がないとも限りませんし、
俺たち以上の護衛なんてそうはないでしょう?」
アキトさんは立ち上がると、どこか覚悟を決めたかのように私達を見ました。
自信すら感じます。なんていうか…初めて見る顔かもしれません。
「は?それは構いませんが…。
一応、部屋の外にも護衛を付けます。
では手配してきますから、少々お待ちください」
「お願いします」
そう言って医師は静かに相談に出ていきました。
アキトさんは今度は自分の手をじっと見ています。
「アキ…トさん?」
「ユリちゃん、大丈夫。
……俺も、できることはしておきたいからさ。
お義父さんのこと、任せておいてくれないかな」
「…!
はいっ…」
「あ、アキト君!?
どうするの!?」
「試してみたいことがあるんです。
みんな、眠れないかもしれないけど…ひとまずナデシコで休んでて…」
……私達はそのアキトさんの、いつにない自信にかけてみることにして、
不安を抱きながらもナデシコに戻りました。
…捕まった人たちも…とりあえず全員生きてます。
アオイさんに撃たれた人は打ち所が良かったのか、重傷ではありますが無事です。
とりあえず回復を待って事情聴取ということにはなってますが…。
……お父さんが死ぬようなことがあったら…アキトさんも、私も…。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
私達はユリカさんの部屋に集まりました。
一人だと不安でつぶされてしまいそうで、いっしょにナデシコ健康ランドで悪寒を流しきってから。
パジャマに着替えて、電気を消して…眠ろうかとした時、ユリカさんは言ってくれました。
「…ユリちゃん、大丈夫、きっとアキト君とアキトが何とかしてくれるよ」
「……そうかもしれないですね。
でも…」
私はつい、涙をこぼしてしまいました。
ユリカさんも、ルリも不安を押し殺して、泣くのを我慢してるのに…。
「お父さんとアキトさんが心配で…。
…自分のせいで…大事な人が死ぬのって…。
耐えきれるものじゃないですから…」
「…ユリ姉さん、未来のことをまだ悔やんでるんですか…?」
私はうつむくことしかできなかった。
そう…ホシノルリとして生きた最後の時にユリカさんを撃った…。
あの時、私はすべてを失ったような気分になりました。
もうあのラーメン屋台を引いた日々に戻れるなんて思ってなかったけど…。
ユリカさんが死んだら、アキトさんがどうなってしまうか想像に難くなかった。
アキトさんが『黒い皇子』のまま、死ぬまで戦う未来が決まってしまう…。
そしてあの時にユリカさんのクローンを撃たなかったとしたら、
誰かがボソンジャンプを操るために利用し続けたはずです。
そんなことを許してはいけなかった…何があっても…。
…忘れることのできない、辛い記憶です。
この世界でユリカさんと会うまで、ずっと夢に見ました…。
でも…。
「……ユリちゃん。
もしかして、お父様と最初に会った時、逃げるように帰っちゃったのって…」
「ぐすっ…。
……クローンごとユリカさんの記憶部分の脳を殺して、
その上この世界ではアキトさんを奪って…。
そんなひどいことしかしてこなかったのに、
なんで今更…妹にしてもらえるんです…子供に、してもらえるんですか…。
そう思って…辛くなって…。
最低最悪の……バカな妹です……」
自暴自棄に、全て言うことしかできませんでした…。
未来でユリカさんのクローンを本物のユリカさんの記憶部分の脳ごと殺したと、
遺跡ユリカさんにばらされたのに、ユリカさんは何も言わずにいてくれました。
何事もなかったかのようにずっと黙っててくれた…いつも通り接してくれた…。
いつかは話さないといけないことだったのに、私は逃げていたんです…。
情けなくて、また自分が嫌になってきます…。
「……ユリちゃん、本当に辛かったんだね。
でも、ユリちゃんのせいじゃないよ…。
火星で聞いたひどいあの未来じゃ、仕方ないよ…。
ユリちゃんはなんにも悪くない。
二度と誰にもユリカを好き勝手に翻訳機にしてほしくなかったんでしょ?
アキト君…ううん、アキトに昔みたいに笑って欲しかったんでしょ?
責められるわけない、一生懸命に何とかしようと頑張ったユリちゃんを攻められないよぅ…。
それにユリちゃんが私と一緒に居る時、
嬉しそうな顔してくれて…私もすごくうれしかった。
もっと早く会いたかったって何度も思ったよ。
一緒に育ったら、きっともっと幸せな人生だったんだろうなって。
…ユリちゃんもそう思ってくれたんでしょ?
私って幸せ者だなって思ったんだ…」
「ユリカさん…っ!」
私は感極まって、ユリカさんを抱きしめてしまいました。
そんな風に想ってもらえるだけで、私は…!
……まだ本人に許せてもらってるわけじゃないのに、救われた気持ちになりました。
でも、隣から小さなため息が聞こえて、私は思わずそっちを見ました。
「ユリ姉さん…。
今更、そんなこと気にしてどうするんです?
そうしなきゃ、トカゲさんたちを止められないって、
ボソンジャンプを誰かに使われるって、
ユリカ姉さんをいいように使われるのが許せないって思って、やったことでしょう?
アキト兄さんと、苦労する覚悟で付き合ってたのだってそうです。
あの黒い姿を見ても、ついていくなんてよっぽどです。
いいじゃないですか、誰も傷つけずに自分の責任でしっかりやってるんですから。
ホシノ兄さん…いえ未来のテンカワ兄さんが16216回も繰り返した、
とんでもない悪事よりはよっぽどマシです」
「る、ルリちゃん…身も蓋もないこと言っちゃダメだよぅ」
「身も蓋もなにも悪魔みたいな人じゃないですか。
あの話どおりだったら。
世界を滅ぼしても助けたい大切な人だって言いながら、
一緒に居たらぶっ殺すこともあるなんてめちゃくちゃです」
…ユリカさんは冷や汗かいてます。
ふふふ、ちょっとおかしいです。
とんでもないことが、現実として起こったと…。
……アキトさんが救えない悪人だったと知っても、
こんな風にいつもどおりやれやれな感じで流しちゃうんだから…。
「でも、今回はそうならないように自分で何とかしようとしてるみたいですし。
あの二人がまともで居られるように、
おねーさん達二人には頑張ってもらいますよ」
「……分かってます」
……こういう時のルリってホントにくったらしいですね。
我ながら、ですけど。
「…はぁ…落ち着きましたよ。
そうですね…アキトさんも何か考えがあるみたいですし」
「ふふっ、アキト君のことだからまた奇跡を起こしそうだよね」
「……アキトさん、今回は超強運ですからね」
「……不思議だよね。
アキト君が何とかしてくれるかもしれないって考えるだけで…。
お父様が死んじゃうかもしれないって不安がすっ飛んじゃった」
……確かに、おかしいけど大丈夫な気がしてきました。
まだ油断できない状態だっていうのに。
「…ラピスちゃんのこともきっと大丈夫だよ。
だって、私だったらアキトの隣に居られるだけで世界一幸せだもん。
それにアキト君は世界一の王子様!
敵も多いかもしれないけど、それ以上に味方が多いんだから!
もしアキト君がお願いしたらなんだって叶っちゃうんだよ!」
「…そーいう問題ですか?」
「そういう問題だよ、ルリちゃん!」
ルリはちょっと呆れてます。
…でも私、ちょっとユリカさんの言葉に納得してしまってるところがあります。
これもユリカさんの因子、そしてミスマル家のDNAのせいなのか…。
「それにね、遺跡のユリカが言ってた通り、
ルリちゃんの因子が混ざってるってすっごく説得力があると思うの!
お姫様のルリちゃんに合わせるみたいに本当に王子様になっちゃうんだから!」
「失礼です。
私あんなにバカじゃないですし、ぼうっとしてません」
「同感です」
ホントにこの世界のホシノアキトと足して二で割った精神、そして知識は壊滅的です。
事情や人を見る目はついてきたところありますけど、発想が悪いです。
ウジウジするところも完全には治ってないですし。暗くならないところだけは褒めますけど。
「いいじゃない、バカでも!
ユリちゃん、そんなバカなアキトが大好きなんでしょ!」
「うっ…。
そう言われると弱いです…」
実際、『黒い皇子』時代のような、
破滅的ネガティブにならないだけでも御の字なんですよね、バカでも。
そ、それに…なんかすごく恥ずかしがりなのは変わらないのに正直に好意を伝えてくれて、
テンカワさん時代でも黒い皇子時代でもありえないことがたくさん…嬉しかった…。
私がぽけっとしてるのを見て、ユリカさんはにっこり笑って手を打ちました。
「うん!
落ち着いたところでそろそろ寝よっか!
お父様もきっと大丈夫だよ!
…そういえばユリちゃん、ラピスちゃんと一緒に出掛ける約束したんでしょ?
私達も一緒に行くって」
「私も楽しみにしてるんですよ、ユリ姉さん」
「ええ…。
……そのためにも、ラピスと、その中のユリカさんの事も、
アキトさんに何とかしてもらいます」
「大変なことを押し付けてますね、ユリ姉さん」
「当たり前です。
私はこの一年半、アキトさんのせいで苦労ばっかりです。
幸せなこともいっぱいありましたけど。
大事なところくらいビシっとやってもらいます」
そして午前二時を回って…私達はようやく深く眠りました。
…きっとまた早く目覚めてしまうんでしょうけどね。
アキトさん、信じてますよ…。
〇宇宙・月軌道上・コスモス・医務室・集中治療室──テンカワアキト
俺とホシノは手指を洗浄、消毒してマスクをつけて入室した。
…おじさんがこんな目に遭うなんて。
ホシノは自分のせいだと気に病んでいたようだったけど…。
何か思いついたのか、今は真剣な目でおじさんを見てるだけだった。
心拍数は若干不安定で…死の淵で戦っているのが分かった。
呼吸も弱々しくて苦しそうだ。
「…どうするんだよ、ホシノ」
「昴氣を使う」
「はぁ!?」
「北斗が言っていた。
一週間は回復にかかる怪我を一晩で癒したのは昴氣が影響したからだって。
それに枝織ちゃんの指の骨折を一時間そこそこで治したらしい。
……一か八か、俺たちの昴氣を使って癒すぞ」
「だ、だけど、そんなことをしたら…」
「大丈夫だ、ここにはカメラはない。
呼吸や脈拍が極端に悪くなければ医師もここには来ない。
…完治に数か月かかるような怪我だ。
一晩でどこまで治せるか分からないし…。
俺たちの昴氣もどれくらい持つか分からないが…。
でも、黙って死なせるわけにはいかない!
死なせたくないんだ!」
ホシノの叫びに、俺は驚いた。
確かにその気持ちは分かるが…やはり未来の負い目もあるんだろうな…。
それに…。
「…ユリカとユリさん、ルリちゃん…。
ラピスちゃんのためにも、だな」
「…ああ」
ラピスちゃんの中には…未来のユリカが居る。
しかもとても不安定な状態で…。
ここでおじさんが死ぬようなことがあったら、どうなっちゃうか…。
いや、それはホシノもだな…。
「やるぞ」
「おう」
俺たちの手に、青い光と銀色のきらめきが宿り…。
おじさんの体に触れると、おじさんの全身に光が移った!
…やるしかない!
〇宇宙・月軌道上・コスモスドック・ナデシコ・展望室──ジュン
僕は深夜だというのにメグミちゃんに呼ばれてしまった。
あの後、おじさんを撃った犯人の無事が確認されたが、おじさん自身は重体らしい。
僕のせいだ…と思ったが、ユリカは僕に礼を言ってくれた。
助けられなかったのに、本当に君ってやつは…。
それで和平会談の失敗もあって、ひとまずナデシコに戻ることになったわけなんだけど…。
「…アオイさん、別れてくれませんか」
「…え?」
メグミ君は僕が来たことを確認すると、背を向けて一言、ぼそっとつぶやいた。
僕はなにか思い当たることがあったか思案したけど…何も思いつかなかった。
「どうして…」
「…分からないんですか」
メグミ君はいら立つように振り向いて僕を睨んだ。
怒りとか、憎しみに染まっているようにすら見える表情で…。
「どうして!
あなたは実弾で人を撃ったんですか!?
ゴム弾だって選べたでしょ!?」
「な……」
僕は絶句した。
和平会談の最中、暗殺を目論んだ相手を撃つのに実弾を使ったことで怒ってるんだ。
僕はさすがにムッと来てしまった。
「どうしてじゃないだろ!?
あの場面で、もし実弾じゃなかったらミスマル提督は即死だったかもしれないのに!」
「だからといって実弾を持って行っていい理屈にはなりません!
人殺しになるところだったんですよ!?」
「相手が銃を持っているのにこっちだけゴム弾にしろっていうのかい!?
そんなことが出来るのは技量がけた違いじゃないとできないんだよ!
あの二人だからできたことであって、あの場にいた護衛はすべて実弾銃だよ!?」
「だ、だって…だって…!
「それは結果論です!
死ぬかもしれないようなことをしないで欲しいんです!
相手も自分も死んだらダメです!」
……平行線だ。
メグミ君の言っていることは…ある意味では正しい。
だが、理想論だ。
もし戦争のない世の中を作れればもしかしたらと思うけど…。
でも、今はそうじゃない。
そうしていたら、ミスマル提督は死んで、ホシノアキトだってどうなってたか…。
「……。
メグミ君、もし、もしだよ…?
僕が、戦うのをやめて…君と船を降りると誓ったら…。
今回の事を許してくれるかい…?」
「…!
はいっ!」
メグミ君はぱぁっと明るい顔になって深く頷いてくれた。
……メグミ君は僕をまっすぐ好きで居てくれているのかもしれない。
自分の想う通りに相手を操ろうとか、そういうつもりはないんだと思う。
でも…僕は…。
「……ごめん、それだけはできないんだ」
「!?
ど、どうして…」
「僕はね…。
自分がどうしようもなく弱いやつで、器用貧乏な方だって分かってる…。
でもそんな男を必要としてくれるのが連合軍だった。
僕みたいな人間でも向いてた、中佐で採用してくれた。
家柄のことも確かにあったけどさ…ユリカに惹かれてナデシコに乗って…。
ユリカに振り向いてもらえないでも、自分の居場所を初めて得られたと思ったんだ」
「都合よく、いいように扱われているって分かってないんですか?!
艦長はあなたの気持ちを利用してるだけで…」
「…気持ちに気付いてもらえなかったのは僕のせいだよ。
ユリカは関係な…」
……。
僕は、今気づかなくてよかったことに気付いてしまった。
ユリカは…僕をなんとも思ってない。
いっそ利用されてる方がまだいいくらいに。
ずーっと何年も隣に居ても、そんな感じだったよ…。
「ユリカと付き合う」じゃなくて「ユリカに付き合う」ことしかできてなかったんだ…。
は、はは…そりゃ身を粉にしても気づいてもらえないわけだよね…。
ミスマル提督のこともあって、ほどほどにするしかないと思い込んでたし…。
いい子にしてたって、報われないってことだよね……あ、はははは……。
「…アオイさん?」
「……ああ、ごめん。
メグミ君…。
僕をそんなに想ってくれてありがとう。
…でも僕は君を幸せにはできないみたいだ。
ナデシコを降りても…こんな僕じゃ…。
だから…。
君の言う通り、別れるよ…」
僕は背を向けて、メグミ君から離れようと歩き出した。
でもその背中に飛んできたメグミ君の大声に振り向くと…。
メグミ君は今までにない顔で泣いていた。
大粒の涙をこぼして、僕を叱るように、諭すように…。
………とても嬉しい言葉だった。
でも…。
「ごめんね、メグミちゃん。
別れ話からじゃなかったら、
情けない僕の事だから…きっと頷いてた。
でもそうしなかったし…君の言葉を聞いても僕は考え直せなかった…。
……だからきっと合わないんだよ。
君と僕は…」
「…ッ!
アオイさんのっ…!
僕とメグミちゃんは…永久にすれ違うんだって、分かってしまった。
僕たちは好きあっていた。
でも噛み合わなかった。
それだけなんだよ…きっと…。
メグミちゃんは僕なんかと違って自立してて、強い子だ。
僕が隣にいなくたって、きっとやっていける──。
だから…。
「好きで居てくれてありがとう。
僕も好きだったよ…。
…さよなら、メグミちゃん」
〇宇宙・月軌道上・コスモス・医務室・集中治療室──ミスマル提督
……む、目が覚めたな。
死に損なったようだな…。
はは、妻と三途の川で話し込んでいた夢をみるなどと。
…しかし、あいつテンカワ君の方を褒めるというのはどういうことなんだ。
ユリカのために必死に頑張って強くなってくれたと…。
…夢は夢だ、深く考えることもあるまい。
久々に会えて嬉しかったのは確かだが。
そんなことを考えて、瞼を開いたが…。
──目の前にいる二人の姿に、私は唖然とした。
「ど、どうした!?
何があったんだ?!」
アキト君とテンカワ君がうつろな目でふらついている。
アキト君は髪の色が点滅しているし…。
いや、何か妙な光に包まれているし、私自身も何か光っているような…。
「ぁ…テンカワ…お義父さんが息を吹き返したぞ…」
「ぅ…よ、よか…」
「うおっ!?
いた…いやあまり痛くない!?」
突然テンカワ君が思いっきり傷口のところに倒れてきたので激痛に備えたが、
思ったより痛くなくて驚いてしまった。
「な、なにが…」
「ちょ、ちょっとした魔法です…そ、それじゃ俺たちはこれで…」
「だ、大丈夫か!?」
アキト君がテンカワ君を連れて退室しようとしたところで…。
二人そろって床にぶっ倒れた。
だが…。
……そのまま大いびきをかいて眠り始めてしまった。
私はナースコールを使って看護師を呼び出すと、
二人がどういうわけか過労のように倒れてしまったので連れていって欲しいと伝えた。
看護師と、私の目覚めを聞いた医師は卒倒せんばかりの驚き方をしていた。
傷の治りもそうだが、あまりに私がはつらつとしているので驚いたようだ。
ちょっと重いものを持って軽く腰を痛めたんだがそっちまで完治しているし…。
……二人の生気を吸い取ったんじゃないかと、私も医師も疑ってしまっていた。
「お父様!」「お父さん!」「お、お父さん…」
「あ、ああ…無事だぞ…」
「「「よかった!!」」」
私とアキト君たちは通常の病室に移動させられ、
そしてユリカたちが駆けつけて、私の生還を喜んでくれた。
娘三人に抱き着かれるというのは…ふふふ、幸せなことだ。
そうこうしているうちにアキト君も目覚めた。テンカワ君の方はまだ深く眠っている。
アキト君は寝ずの番をしたのでぶっ倒れたと言い訳をして、人払いするように頼んで話し始めた。
……どうやら武術の達人が気を扱えるようになるような奥義である『昴氣』を習得しており、
それで私の治癒力を高めて助けてくれたらしい。
驚いたことに、傷はもうほとんどふさがってくれたようだった。
何と言うか、なんでもありだな、アキト君は…。
「…はぁ…でもこっちが死ぬところでした…。
昴氣はせいぜい一時間も使えればいいのに、
一晩も続けてしまって…完全にガス欠です」
「アキトさん、食堂にいっぱいお願いしてますから。
また無茶して、もう」
「しょうがないじゃんか…」
アキト君は目を細めてユリを見ていた。
ナノマシンが致死量あるアキト君は完全に体内の食物エネルギーを使い切ると、
五感が弱っていき、最終的には指一本動かせなくなると言っていたが、今まさにそういう状態なんだろう。
眼の色も髪の色も真っ黒くなってしまってほとんどテンカワ君と見分けがつかん。
やはりクローンだと納得せざるをえないな。
「こんなことなら北斗さんと枝織さんに手伝ってもらえばよかったでしょう?」
「あ、そっか…」
アキト君は頬をぽりぽり掻いて判断ミスに照れていた。
……ふ。
「ははは、相変わらず奇跡を起こすのが得意だな」
「や、やめてくださいよぉ、お義父さん…。
それに、テンカワの力が無かったらどうなってたか…」
「ん…?
テンカワ君も手伝ってくれていたとは聞いたが…。
アキト君は横目でテンカワ君の方を見た。
…そういえばテンカワ君も武術達人に?四か月そこそこでか?と思ったが…。
先ほどの護衛の時は黒いマントと言うかポンチョと言うか、体を隠す戦闘服だった。
倒れ込んできた時もじっと見なかったから気づかなかったが…。
鍛え抜かれたアキト君と比べても一回り以上大きく見える。
「な、何があったんだ!?」
「火星で何が起こるか分からないので、行きも帰りも特訓漬けだったんです。
いや、お恥ずかしいんですけど俺、テンカワに力負けするようになっちゃって…。
技術面と経験ではまだまだ全然なんすけど、真剣勝負すると危ないかもっす」
「お父様、アキト必死に頑張ってくれたんですよぅ。
私を守るために、それにアキト君を助けるために」
……。
それにしたって異常だ…ドーピングしてたってこうはならんぞ…。
「だから、ねっ!お父様!
アキトを認めてくれますよねっ!」
「む、むう…」
ユリカはテンカワ君を自分の相手にふさわしいと認めさせようと迫ってきた。
確かにアキト君を超えることを条件に出したのは私だが…。
先ほどの襲撃での戦いぶりもあるし、命を救われたのもある…。
だ、だが…。
「……。
地球に戻って、もう一度実力を見せてもらってからでいいか」
「少佐さんとの戦いですね」
一応、約束どおり少佐と戦ってもらって実力を見たい。
それは覆すつもりはないからな。
「ぶーっ!
お父様ったら、私のことになると厳しいんだもん!」
「まあまあ、ユリカさん。
勝てる勝負なんですから」
「ちょっとやそっとじゃ勝てないですよ、今のテンカワさんには」
……ユリカだけじゃなく、ユリやルリ君までお墨付きか。
こ、これは年貢の納め時になってしまうか…?
いや!まだ嫁に出したくない!
そもそも戦争はまだ続いているんだからな!
…しかし、ユリカもアキト君たちともども戦艦から降りてくれるのはそれはそれで…。
いや、ダメだ!
ユリカにはもっと人生経験をだな…。
「…やっほー。
お父様ー?聞こえてますかー?」
「…今日の説得はあきらめましょう、ユリカ義姉さん」
「ぶー!
アキト君だって私とアキトが結婚するの見たい癖に!」
「そ、それはそうなんですけど…けど…」
何か聞こえたが気のせいだろう。
…ユリカは自信をつけてもらってだな…。
それからしばらく実家に戻ってもらって…。
だが初孫が生まれるのは楽しみで…。
ユリの方が先になる可能性は高いが…。
それにユリとアキト君はまだ結婚式を挙げてないそうだから…。
いやルリ君もラピスもちゃんと見てあげたいしな…。
〇???
とある特殊な暗号化されたプライベート回線に通話が開かれている。
軍の上層部の人間をも含む、かなりの大企業の要人、政府要人などが集まっている。
クリムゾンを筆頭とする、木連と手を結んで利益を共有するために同盟を結んでいる人物たちである。
『──暗殺失敗か』
『ミスマル提督を失えばかなりのダメージを与えられると思ったがな』
『しかし今回の失敗はかなり手痛いぞ。
地球側で仕掛けている人間がいるとあれば奴らもガードを固くせざるを得ないだろう』
『それに木連側の協力者を失った。
地球行きの船に乗ってこちらまで来てくれた、数少ない協力者がな。
かろうじてホットラインを復旧させて連絡してくれたというのに、
これでは…』
『案ずるな、ミスマル提督はホシノアキトのアキレス腱ではない』
クリムゾンの発言に全員が絶句した。
かつてクリムゾンがホシノアキトのアキレス腱を切るという発言をしたが、
彼らは今回の暗殺がそれにあたるとばかり思っていた。
ミスマル提督はPMCマルスを裏から操っている。
この仮定の元、彼らは今回の作戦に協力し、危ない橋を渡った。
彼らの命令は、ミスマル提督が負傷していようがいまいが救護班として近づいて、
撃ち殺すという命令を与えていた。
ホシノアキトの妻ユリ、義姉ユリカ、義妹ルリを狙うより、
具体的な後ろ盾となりえる、命令者になりえるミスマル提督を指示していた。
クリムゾンも実際、その計画には口出しはしなかった。反対もしなかった。
だが、クリムゾンはそれは序章にすぎないと思っていた。
『ミスマル提督の死に揺れている間、追撃で奴のアキレス腱…。
ラピスラズリを殺すのが効果的だと思ったのだ』
クリムゾン以外の同盟メンバーは激震した。
ラピスはホシノアキトの関係者の中では地味な部類という評価だった。
ミスマル提督の実子であり、エステバリスの単体運用ですらも成果を出す、ユリカとユリ。
ピースランドの姫であり、ナデシコ級のオペレーターとして優れているルリ。
ネルガルの会長であり、ホシノアキトと互角にやりあうレベルのエステバリスパイロット、アカツキ。
戦闘能力ではホシノアキトと同レベルのヤガミナオ。
ホシノアキトを世界的なスターに押し上げた眼上マネージャー。
このほとんどが、どこかしらの勢力に属しており、後ろ盾を得られる状況にある。
それに比べると、ラピスは後ろ盾が得られる可能性が低い。
あくまで年齢に見合わないやり手のマネージャーにすぎないという評価だった。
せいぜい眼上マネージャーには及ばないマネージャースキル、
そしてルリの代わりの控えオペレーターの印象の方が強い。
それを覆すだけの裏付けがあるようには、同盟メンバーには思えなかったのだ。
『しかしなぜラピスラズリがホシノアキトのアキレス腱なのだ!?』
『…これは眉唾の情報なんだが、
どうやら彼女はホシノアキトとテレパシーが使えるらしい。
アクアがこぼしていたことだがな』
『それを本気で信じているのか』
『まあ聞け。
…ピースランドの一件についてだ。
例の始末屋の分析で分かったことだが…。
不自然なところが多くないか?
例えばピースランドの国王から、我らに対して支援が出かかっていたにもかかわらず…。
記者会見の前に破棄されただろう』
『そういえば…』
『あの奇妙なショーもそうだ。
『世紀末の魔術師』はかなり派手な企画だったが、眼上マネージャーの得意なやり方じゃないようだ。
では外部から企画を募ったか?それにしてはスパンが短すぎる。
…そうなるとピースランドから持ちかけたか、身内が計画していたと考える方が自然だ。
だが会見で語った事情説明ではあのホシノルリ…いやミスマル・ルリか。
あの小娘のわがままだったと発表されたが、人を振り回すタイプには見えん。
評判とも相反する。
そしてとどめに、我らに対する支援破棄だ。
あそこまでネルガル、ホシノアキトと対決姿勢を見せていたプレミア国王が、だ。
…となれば、敵対関係が、
あのショーの間に解決したことにはならないか?』
『た、たしかに辻褄は合う。
だがあれはショーではなく、本物の戦いだったということになるが…』
『そうだ。
状況証拠でしかないが、そう考えた方が自然なことが多すぎる。
だがあんなエキセントリックな方法をとる人間は、PMCマルスの関係者には居ない。
となると…』
『そのあたりで合流したラピスラズリが、浮かんでくるということか』
『だが確信に至るには弱くないか?
ラピスラズリを取り戻すためにサイボーグと戦ったとはいえだ』
『分からないのか?
火星に向かうナデシコに乗らず、ただ一人地球に残った理由がそれだ。
あのウイルス騒ぎの通り、敵対組織に狙われる危険があるにも関わらず、
ユーチャリスもマシンチャイルドなしで十分に扱えているのに、無理に残った…。
だが、集めた情報によると彼女はPMCマルスの中心人物として動き続けている。
ラピスラズリが全て裏で糸を引いている…あるいはラピスラズリを介して、
ネルガルが操っている可能性があると私は睨んだ。
どのみち、ラピスラズリがホシノアキトの行く先を整備していると言っていいだろう。
…あの歳で、サポートもなしにPMCマルスを事実上動かしている。
ウイルスのために倒れるまで、ずっと続けてだ。
PMCマルスの運営は人数が少ない時期でもホシノユリでも過労寸前になるレベルだそうだ。
しかも人数が増えて管理する人数が増している状態だ。
マシンチャイルドだとしても、おかしいとは思わんか?』
『『『『『『確かに…』』』』』』
『ラピスラズリがネルガルから指令を受けているとして、消すに越したことはない。
それだけの能力がある人間、そしてマシンチャイルドの替えなど、そうそう準備できまい。
ラピスラズリが死ぬようなことがあればプレミア国王とてルリを連れ帰るだろう。
もしラピスラズリが後ろ盾もなく独力で動いていたとしたら、儲けものだ。
PMCマルス丸ごと総崩れする可能性すらもある。
…どのみち、ラピスラズリは事実上、
ホシノアキトの真なるアキレス腱だと言えるだろう』
『荒唐無稽と言いたいが、言い切れんな…』
『…万全を期すためにミスマル提督の暗殺を謀ったわけだが、こちらは失敗した。
こんな手を使った以上、奴らも世間も我々の存在に気付き始めるころだ。
もはや地球上には反和平派は圧倒的に少ないのだからな。
ここで一気に叩き潰さなければ足がつくだろう。
このまま追い込みをかけるぞ。
奴の次の行き先も例の始末屋の読みが当たっている。
少し前に同じく仕込み済みだった傍受装置に引っ掛かった通信でな…。
ピースランドに潜入した奴の部下がとどめを刺すために動いてくれるだろう』
〇宇宙・地球⇔月間航路・ナデシコ・ブリッジ──ホシノアキト
月軌道上での事件から一週間近くが経過して…もうすぐ俺たちは地球に戻る。
あれだけの事件が起こったものの、犯人の自殺で事件は闇に葬られてしまった。
お義父さんが生きていた以上…正当に尋問を行うべきだったのに…。
犯人は救護班の人と入れ替わり化けていたらしい。
広いコスモス内を捜索して、入れ替わられていた救護班の人は何とか無事に見つかったが…。
…やはり奴らの手は長いようだ。
身元も割れないほどのプロを寄越して、お義父さんを殺そうとするなんて。
だけど、この一件で…。
「…ねえ、メグミちゃぁん?
喧嘩別れしたからって仕事に支障出しちゃダメよ?」
「分かってます!」
…お義父さんを助けるために銃を抜いた件で、ジュンはメグミちゃんに責め立てられてしまい、
そのまま喧嘩別れしてしまい、この一週間のブリッジの空気は最悪だった。
メグミちゃんは立ち直りが早い子だと思ったけど、思いのほか尾を引いてしまったみたいだな…。
「ジュンくーん、勤務交代だよー」
「…ありがとう、ユリカ」
「ホシノアキト殿。
少しよいか」
「ん、あ、はい」
そうこうしていると、俺は北辰…さんに呼び止められた。
隣に白鳥さんも居る。
どうしたんだろう…。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
「うむ。
あの後、木連の艦で身元を洗った結果間違いないと判明した。
こちらに写真を送ってもらって確認したのだ」
手ごわいはずだ、あの六連の攻撃のすさまじさは俺も散々悩まされたんだ。
次期ということで技術はまだ現役の六連には劣るそうだけど…圧勝できない訳だ。
昴氣さえ使えれば問題はなかったんだけど…。
そして北辰さんは続けて告げた。
現役の六連は草壁さん直属のSP部隊のように残り、後任の育成に当たっていた。
そして次期六連のメンバーは地球行きの護衛につくことになっていたが…。
どうやら地球に向かう間に、木連の極右勢力に引きずり込まれて今回の襲撃に至ったようだと。
その上…。
「…恐らくは木連の内部にはまだ地球に加担する者が残っている。
そうでなければ暗殺者との連携はできないはずだ」
「け、けど…レーザー通信なしじゃ傍受されるはずですけど…」
「うむ。
だが木連と地球の間でひそかに直通通信がされていたのも事実だ。
どうやらかなり特殊な周波数を使っているようで傍受されないようだ。
火星の初戦以降は政治家たちが死亡していたため利用されなくなったが、
この期に及んで地球行きの船の中で、
直通通信を使った連中がいたということになるな」
「な、なるほど…」
…しかし犯人探しをしようにも、今はまずい。
この事実は公表せずにはいられないだろうけど、和平に傾いた世論を足止めしかねない。
木連側の人たちもかなり気落ちしていることだろうし、俺たちも肝が冷えた。
しかも…。
「…ホシノ君。
君は敵を抱えながら我々を守ることになってしまう。
私達も、そこまで世話になっては…」
そうなんだ…。
俺は地球での木連の人たちの保護を任されている。
少なくとも和平交渉がまとまるまでの間、
PMCマルスの敷地内にプレハブの施設を新設して保護することになってる。
これを中止するべきかもしれないけど、逆に俺たち以外が匿うというのは危険すぎる。
ある意味でPMCマルスはどの勢力からも直接手出しができない場所だ。
だが、その中に敵を抱えているとしたらどうしようもないが…。
「…いえ、そっちはやめるわけにはいきません。
今、木連との和平の手を止めてしまっては、反感を買う可能性があります。
それより周波数の特定を急ぎましょう。
何かしらの通信があるとしたら、引っ掛かるはずです。
オモイカネがキャッチできれば、逆探知もできるかもしれないですし」
「…すまない、ホシノ君」
…とはいえ、二ヶ月の航行期間の間、一切尻尾を出さなかった連中だ。
中々尻尾を出してくれるとは思えないな。
せめて保護してる間は、PMCマルスのみんなを呼び戻すのは避けないと…。
オモイカネダッシュがユーチャリスから降ろされるって話もあるし、
電波・危険物察知のシステムを構築してもらうしかないが…それくらいで足りるかどうか。
…先んじてユリちゃんたちと相談するしかない、か…。
『アキトさん、お話は済みましたか?
あと数時間で、地球からユーチャリスのお出迎えがきます。
ブリッジに戻って下さい。
みんなアキトさんと話すのを楽しみにしてるんです。
ねぎらってください』
「あ、うん。
そうだよね…頑張ってくれたし…」
俺たちがいない間命を懸けて戦ってくれたPMCマルスのみんなを労おう。
それから重子ちゃんに、ラピスの一件について聞いておくべきだろう。
……ラピスを守るいいアイディアを出してくれたのもあるし、ホント助けられてばっかりだよな。
ちゃんとボーナスとかでお礼しないといけないよなぁ。
〇宇宙・ユーチャリス・ブリッジ──オモイカネダッシュ
僕たちは先ほど出撃を終えて、ホシノアキトを出迎えに向かっていた。
…僕の気持ちは冷え切っていたけど、艦内はもうお祭り気分だ。
ここが連合軍の管轄になってるだけマシだけど…ナデシコだったら本当に屋台やらテキ屋やら出そうだよ…。
…ああ、どうしてここまで熱狂できるかなこの人たち。
あんな軽薄で薄情な人に…。
「あんた達、戦闘配備はまだ解除されてないわよ!
合流出来て、無事に佐世保に帰るまでは油断しちゃダメなんだから!」
……本当に分かってるんだろうか。
でもそろそろだね…。
『ハーリー、動くよ』
「…うん」
僕はハーリーに動くように伝えると、電力管理を僕の周りに集中して、ほかは最低限に調整し始めた。
…相手はあのルリとユリだ。
できる限り準備をしておかないと…。
「すみませーん、ナデシコが来る前におトイレいってきまーす」
「さっさと行ってきなさいっての」
〇宇宙・ユーチャリス・ハーリーの部屋──ハーリー
…僕は自分の部屋に戻った。
そして隠し通路を伝って…サブブリッジに移動し始めた。
この通路は僕かルリさん、ラピスさんの体格じゃないと通れないくらいの隠し通路。
オペレーターの僕たちが、いざっていう時に隠れたり逃げたりするための場所。
なんでもブリッジののっとりが行われたり、誘拐の危険を避けたり…そういう時に使うもの。
一人用サブブリッジに直通しているのも、そのため。
その気になれば一つの戦艦をマシンチャイルドが動かせるから、こういう備えがある。
この大事な設備を、悪い目的で使うのは気が引けるけど…。
でも、僕は決めたんだ。
あのラピスさんに悲しい決意をさせてしまった原因…。
アキトさんに…。
「…僕が教えてあげなきゃ。
ラピスさんが…どうしてそうしたのか…」
〇宇宙・ユーチャリス・格納庫・パイロット控室──さつき
「やっとアキト様が戻ってくるわね…」
ぼそりとつぶやいたレオナの言葉に、全員が静かにうなずいた。
臨時クルーのみんなのようにはしゃぎたい気持ちはみんな同じだった。
でもラピスちゃんの件がまだ残っている…。
私達はこの一ヶ月の間、今まで以上に必死に戦った。
ナデシコのパイロットの人たちにはまだまだ及ばないと思うけど、
それでもなかなかだと思うわ…。
……まさかアリサが『翼の龍王騎士』で大暴れしちゃうとは思わなかったけど。
まあ、アキト様が戦いから降りるって決まってる以上、その方がアキト様のためになるけどね。
とはいえブローディアの方はこの艦に積んである…。
これからアキト様が自衛する手段として、有効に使えるはず。
ばっちり届けて差し上げないとね。
「ここが終わりなんて思ってないわよね」
青葉の挑発するような言葉に全員がニヤリと笑った。
そう。
私達はアキト様が抜けた分まで今後ずっと戦うことになる。
その道がどれだけ険しいのか分かっていてそうするつもりになってる。
ほんと、ルリちゃんに馬鹿ばっかって言われちゃうわね。
でもラピスちゃんが…未来のユリカさんが助かったら、もうアキト様達は戦っちゃダメなの。
もう十分戦ったもの。あとは私達が…。
私達は敵襲でも聞いたことのないようなブザー音を聞いて身構えた。
この種類のブザーは、かなりの緊急事態…いったい何が!?
と思ったらたくさんのコミュニケのウインドウが艦内に乱舞した。
『緊急事態!緊急事態!』
『ユーチャリスは猛烈なハッキング攻撃にさらされてるよ!』
『ハッチを開けられたら目も当てられないから、
格納庫に居る人たちは自室に戻って待機!』
『当面、索敵機能、生命維持機能以外の設備は使用できなくなるよ!
自室のドアは自分でこじ開けてね!』
『地震雷火事親父、マッチ一本火事の元!』
「こ、こりゃ一大事じゃない!」
「で、でも待機してないと…」
「ここで閉じ込められたら酸素不足であっという間に死ぬわよ!
居住区に逃げないと!」
私達は慌てて整備班のみんなと一緒に居住区に逃げ帰った。
……でも引っ掛かるなぁ。
だって、オモイカネクラスのコンピューターってそうそうないって聞くし…。
こんな大規模なハッキングなんてそうそう起こらないはずなんだけど。
それにユーチャリスをなんで狙うんだろう、ナデシコの方にアキト様は乗ってるのに…。
ブローディアの移送を狙ってるならわかるけど、外部には知られてないはずだし…。
疑問は多かったけど、そんなことを考えてる時間が惜しかった。
私達は何とか居住区に逃げ、各自の部屋に籠って様子を見ることにした。
……何も起こらなければいいんだけど…。
〇作者あとがき
どうもこんばんわ、武説草です。
そしてAction復活、おめでとうございます!
いや、焦りました…大詰めが近い中、まさかの連載中止かと…。
思い出も多いのでおっかなびっくりでした。
とはいえ、仕事のことで時間をとる必要もあったので、一時執筆を休んで、
それからじっくり仕上げることができたので、怪我の功名です。
ではラストに向けてゴー!
そしてそして今回は、
襲撃事件、ジュン君失恋、そして敵対組織とユーチャリスとの合流でお送りしました。
和平会談の襲撃についても結構歴史的な事件になりそうですし、
事態がこじれそうではありますが、二人がかりの昴氣を使ってかろうじて回避。
実は一人でも助けることは可能でしたが。
ここはテレビ版の白鳥さん暗殺回にあたります。
でも昴氣があること、そして味方陣地であるという点から助かります。
白鳥さん暗殺シーンと言えば、スパロボRではシャッフル同盟がついてって弾丸を受け止める、
北辰と六連を超級覇王電影弾で蹴散らす(でも普通に出撃してくる)とかお気に入りです。
そらそうなるなwと。
ちなみに最近動画で見直したところ、
ブラックサレナが装甲の中に相転移エンジンが内蔵されてる超設定になってるのに吹きました。
あと北斗と枝織ちゃんは北辰の子供と気づかれてはいけないのでこういう書き方になりました。目立つし。
じゃああの試合は?というのはありますが、あれはあくまでプロレス感覚だったので、
昴氣同様、ショー扱いで誤魔化せたということでひとう。
少なくとも今回な公的な、政治的意味がある場所で前にでて記録に残るのは避けたかったようです。
それとメグちゃんってこういうこと言い出すよねっていうシナリオですね…。
連合軍の人とお付き合い嫌がるんじゃないかなぁ、でもジュンを落とそうとしたらこういうかなぁと。
でも実直な付き合い方をしいこうと思ったジュンはそれを拒絶するんだろうなぁって。
だったら実直にさっさと告白せえよジュン。
と自分で書いてて思いましたw
まあ、ユリカを諦めてちょっとだけ成長したのかも。
そして最期、報連相が行き届かない結果として、
また気軽に通信が出来ないという都合で、ハーリー君暴発の事態と相成りました。
体調不良と精神不調のラピスを休養させたいという気持ちは全員一致してますけど、
ハーリー君だけは詳しい事情を知らされず、オモイカネダッシュに操られちゃってますね。
そしてハーリー君がサブブリッジに移動しているというのは、
ルリがテレビ版でナデシコ内に隠れるためにダクトに逃げ込んでいたのを少し拡大解釈した設定です。
アカツキたちはテレビ版でルリがナデシコに潜んでいたのを知って、
今回はあえてもろもろの回避策として増設してたという形でしょうかね。
まさかの裏目にでる感じでしたが。
ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!
〇代理人様への返信
>うーんwww
>まあなんというか、これだけの機体が作れて今まで何で押されまくってたのかなあとw
>それを言っちゃあおしめえよ、ではありますが。
地球側だけではテレビ版時代2196年時点の技術しかなく、
アイちゃん(イネスさん)の未来の技術、そして木連側の技術の合算とで、
駆け足でオーバースペック気味にできましたw
というかアイちゃんがスパロボF完結編のアストナージのごとし…。
加入したとたん十段改造可能+フル改造ボーナス追加。
ああ、せめて完結編開始直後に居てくれれば…(もはや言うまい
>しかしアクア有能だなほんとw
本編にあまり関わらないところで有能っぷりを発揮しちゃってるアクア(ぉ
~次回予告~
……オモイカネダッシュだよ。
ついに、僕たちの戦争が始まる。
ホシノアキトを…僕たちで叩きのめす。
勝てるわけないって?プランはある。
彼には弱点がある。
本人には覆せないほど、とても脆弱な部分が。
ラピスに送ったメッセージが、そして彼の過去が本当にそうだとするなら…。
未熟な僕でも気づくような弱点がある。
君が本当に心を痛めるかは知らないけど…ラピスの痛みをちょっとでも味わえ!
Actionがサーバー落ちたのか消滅したのか分からなくて壮絶に焦った作者が贈る、
でも色々まとめるのに時間がかかるところだからじっくり仕上げた系ナデシコ二次創作、
をみんなで見てよ。
感想代理人プロフィール
戻る
代理人の感想
いやもー後から後からやっかいごとがw
好事魔多しなんて言うけど、好事どころじゃないよこれw
というかクリムゾン達にどうやって木連での協力者が・・・
あっちの虫退治は終わってないのかいな。
※この感想フォームは感想掲示板への直通投稿フォームです。メールフォームではありませんのでご注意下さい。