どうもみなさん。
ルリです。
みんな無事に済みそうな感じでまずは一安心です。
死んだはずの人たちが次々復活して戻ってきちゃってるけど、
ご都合展開がすぎるって思われちゃうけど大丈夫?
ま、ホシノ兄さんの体験した『未来』も、
死亡扱いだった人が生き返っちゃったりしたそうだし、
これも歴史をなぞってるってことで一つ。
そろそろ私達ナデシコ艦隊サイドのお話に移るんだけど、
その前にちょっと時間を巻き戻してお話する必要があるんだって。
確かに謎が未消化なところ、残っちゃってるけど。
もうちょっとだけ自然な流れで見せてくれたらうれしいんだけどね、作者さん。
別にいいけど。
それじゃ今日も行ってみよー。
本番、よーいドン。
【アキトがアギトと相討ちになったと見せかけた日】
〇地球・日本海・機動兵器試験用特設実験島・特設アリーナ・医務室──さつき
「早く早く!遅れちゃうわよ!」
「分かってるわよ!
この身体、ちょっと小さくて走りづらいんだから勘弁してよね!」
私達は急いで医務室に向かっていた。
さっき、アキト様がアギト(実はDさん)とともにアリーナから飛び立った。
事情を知らないアリーナのみんなもアキト様も緊迫してるけど、
私達はそれどころじゃなかった。
急いでこのアリーナから脱出、ヒナギク改二に乗り込んで、
『誰にも気付かれないまま撃墜されたアキト様とアギトさんを救助する』という、
アキト様を守るための最重要ミッションをアクアさんから与えられていた。
この『世界一の王子様の決定戦』をアクアさんが開催したのも、アギトさんの仕込みも、
全てはこの時のために…アキト様を守るために、一時的に死亡を偽装しないといけない。
私達と同じように…!
…っていうかあの木連の刺客のこと、
重子は予期してたくせに教えずにいたのはちょっとムカつくわよね。
ただアイちゃん先生に『アキト様と同じナノマシンの治験』をお願いされて…。
本当に私達も、サバイバビリティナノマシンだって知らなかったから本気で死ぬと思ってたのに。
死んだふりじゃ騙しきれないかもしれないからってひどいわよね。
…っていっても、私達は『半分』はアイドル復帰してたから、
重子には直接文句を言いに行ったんだけどね。
別に私たちは死んだふりをしてからぶらぶらしていたわけじゃなくて、
私は新メンバー候補生『メイ』、レオナは『文』としてゴールドセインツに戻っていた。
でも厳密に秘密を守るためには、仲間たちすらも騙しとおす必要がある。
だからこそ、完璧に私達の存在を抹消するために作られたウリバタケさん作の、
『IFS経由義体』を準備してもらっていた。
何故そんなことをしていたかと言えば、
一つは『体格が明らかに違えば変装とは思われない』から。
もしうかつに変装して戻って来ていたら、みんなに正体がバレた時に、
みんなのリアクションで外部にバレてしまう可能性がある。
あくまで、全員が何も知らされてない状態で、死んだふりを続ける必要があった。
二つ目は『義体であれば』みんなのそばに居続けることも、守ることも可能だから。
もしまた暗殺事件が起きそうになってもみんなをかばえる。
『実はゴールドセインツ護衛用の自立アンドロイドでした』と、
言い訳が出来るし、いくらサバイバビリティナノマシンがあったとしても、
どこまでのダメージに耐えられるのかは分からない、
重機関銃やバズーカ砲を持ち出すような連中が居たら、さすがに死んじゃうかもしれないし。
でも義体ならかなり無茶が出来る。
とはいっても、重子の占いではそこまでの事は起こらないらしいってことだったけどね。
実際起こらなかったし。
これもアクアさんの発案で、アキト様を助けるにあたって絶対必要になること。
私達が死亡扱いにしたのもそのためだった。
すべては「アリバイ作り」のため。
私達が借りの姿でもこのアリーナに居ない状態でアキト様が失踪したとすれば、
私達がアキト様を救助したのではないか、と内外に疑われることになる。
でも私達が借りの姿である『義体』を、医務室に運び、スリープモードで眠ってるように見せかけ、
さらに隠してあったヒナギク改二の中にある私達の『本当の身体』で目覚めてしまえば、
状況的にも時間的にも『絶対に間に合わない』はずの救助が成功する。
このアリーナから離れた人間はおらず、動いた飛行船も船もなにもない。
証拠は何一つ残さず、私達はアキト様を助けることが出来る。
私とレオナが本当に『死亡している』と関係者が全員錯覚しているからこそ、
『誰一人、アキト様を助けられる状況にはなかった』と疑われないで済む。
そうでもしなければ、どこかしらでほころびが起こる。
…ということが、アクアさんとその夫のクリスさんの描いた脚本には書かれていた。
実際、効果は抜群だった。
私達も、自分たちでさえ本当に撃たれて死んだと思ってたもの…。
そりゃ、騙されるわけだわね。
「どうぞ横になって下さい」
私達は医務室に入ると、仮病で横になった。
義体を使ったこの擬態によって、私達は完璧なアリバイを作り…。
そして救出任務を成功させた。
その後もしばらくアイドル候補生のフリを続けて、
アキト様に代わってゴールドセインツの様子を見ていた。
そして緊急時に手が必要な時に備えて、大人しくしていた。
本当はピースランドに向かうアキト様に同行したかったけど、それこそお邪魔虫しちゃうだけだし。
そんなわけで、私達は居ない人間として二ヶ月くらいを過ごした。
…でも、義体をIFSで操作してるだけで、一日のほとんどは寝たきり、
候補生扱いで通いのフリしてたから、ごはんの時間も気を遣わないといけなくて、
合宿所の食堂では義体ではごはん食べられないし、ストレスでちょっと太っちゃった。
ああ、本当に大変だったなぁ…。
【チャリティーコンサート前日・夜】
〇地球・日本海・機動兵器試験用特設実験島・特設アリーナ──チハヤ
私はメグミの追及を止めてくれたアオイジュンに感謝しながらすぐに自室に戻ろうとした。
テツヤに私が裏切ったと思われたら、今すぐにでもここを爆破して幕を引くと思っていた。
だからそうせずに済むようにしてくれたのは本当に助かった。
それだけで、私の心はずいぶん軽くなっていた。
でもアオイジュンは、軽く周りを見回すと、無言で私の肩をつかんで呼び止めた。
「?」
「…」
そしてアオイジュンは端末を取り出して片手でなにやら操作を始めて、
疑問そうに見つめる私に突き出した。
『誰かに盗聴されてる?
されてるなら、ため息を吐いて。
されていないなら、怒って』
アオイジュンは、端末のメモ帳で私に筆談を持ちかけていた。
私の様子がおかしいのを気づいて…。
いえ、もしかしたらとっくにスパイだと気づいて居たのかもしれない。
ちょうどここは監視カメラの死角…ハッキリとは見えないはず。
テツヤが監視カメラ経由で見ていたとしても気づかれないし、
私の端末を盗聴していたとしても分からないはず。
私はアオイジュンがとっさに気遣って、端末による筆談をしてくれたことに感謝した。
「はぁ…なんでそこまで心配するのよ」
ため息を吐いて、それなりに自然に応答して見せた。
テツヤでもこの会話では気づかないと思う。
「一緒に頑張るアイドル仲間の事を心配するのは当たり前じゃないかい?
良かったら、少し相談に乗るよ」
「…もう遅いけど、いいの?」
「もちろん。
ね、メグミちゃん」
「はい!」
私達はできるだけ自然に会話を紡いで、場所を移した。
メグミだけは一人部屋を確保していたらしく、三人で戻った。
そして…他愛ない、アイドルとしての相談をするフリをしながら…。
少しずつ、少しずつ、アオイジュンの端末で筆談した…。
私がどうしてゴールドセインツに入ったのか、
そしてなぜさっきまでアリーナにたたずんでいたのか、事情も込みですべて伝えた。
これは私に残された最後の希望。
まさに一か八かの賭けだった。
アオイジュンとメグミにすべてを話すのはリスクが多いかった。
人柄はよく知っててもユニットも違うし、そこまで信用していいかは未知数だった。
私の正体がテツヤのスパイだと知られてしまうのはデメリットの方が多いし、
裏切ったフリをしているだけなのかと疑われるかもしれない。
でも、ライザを説得したというアオイジュンなら、もしかしたらと思えた。
そして…。
『…分かった。
爆弾の事は信頼できる人にお願いしておくから。
うまくやってくれるとは思う。
でもそのテツヤって人に会うのは危ないんじゃないかな』
『…これだけは譲れないわ。
説得できるような相手じゃないだけに、ね。
ライザと一緒に、決着をつけないといけないの』
メグミは不安そうな顔をしてみていた。
これだけは本当に変えようがない。
少なくともテツヤは相討ち覚悟で止めないと、
今後もゴールドセインツは危険にさらされる可能性が出てくるもの。
…テツヤを殺すとは言い出せないけど気づかれては居ると思う。
『…できれば誰も死なずに済んで、二人とも帰って来てほしいけど。
僕たちは止める資格がないよね』
『ええ。
誰にも止めてほしくないの』
私は言い切るとすっと立ち上がった。
…会話を打ち切りたかった。
これ以上話しても、結局結論は変わらないし…。
また後ろ髪をひかれる気持ちになるだけだから。
「…ふぅ、ちょっと話したらすっきりしたわ。
じゃ、また明日」
「あ…」
「…おやすみなさい、チハヤ君」
メグミは少しためらうようにしていたものの、アオイジュンは冷静に私を見送ってくれた。
…そう、それでいいのよ。
もしここでテツヤにバレたらすべてが台無しになる。
でも爆弾をなんとかしてくれるかもしれない可能性が出てきた。
それだけで十分救われた。
爆弾がこのアリーナに残っていたら、テツヤが爆発させるかもしれないから…。
みんなが無事に生き残ってくれるなら、後悔も未練もだいぶマシになる。
私が出ていく理由を知っていてくれる人が残ってくれるなら、それでいいの。
ゴールドセインツのみんなには、私がアリーナから離れるまで黙ってくれると約束してくれたし。
…ちょっとすっきりしたのは、本当だし。
後悔がないって言えばうそになる。
なんとかなるなら、ここに残りたいって思っているけど…。
…爆弾の解体が間に合う保証もなければ、間に合ったとして別の手でこのアリーナを破壊するかもしれない。
だったらせめてテツヤに、このアリーナには確実に手出しされないようにはしたい。
…どっちみちあいつを生かしておくことはできないんだから。
明日がどうなるかは分からないけど…。
やってみるしかないわ…!
【チャリティーコンサート前日】
〇地球・日本海・機動兵器試験用特設実験島・特設アリーナ──メグミ
私はチハヤちゃんを見送って、無力な自分にうなだれていた。
だって止めようがなさそうなんだもん。
ジュンさんはなんか手立てがあるかもしれないって言っていたけど、どうするつもりなんだろ?
端末をいじって何か調べてるみたいだけど…あ、電源を切った。
「メグミちゃん、端末の電源を切って」
「え?は、はい?」
私は促されるまま端末の電源を切った。どうしたのかな。
そして盗聴器がないかを探知機で調べて…。
すべて終わると、再び私の前に座った。
「…どうやらホシノは生きてるらしい。
どこにいるかは分からないけど、呼び出すことができたら、
爆発物を、敵に知られずに何とかできるかもしれない」
「ええ!?」
私はびっくりして声をあげてしまった。
あ、深夜だから、気をつけないと…。
「僕はホシノから『世紀末の魔術師』の完全版ディスク広告が出てたら、
生きてるって合図になるって聞かされてたんだ。
その広告が出てないか検索して確認した。
だから生きてるのは間違いないと思う」
「でも、呼び出す方法が…」
「…うん、どうしたらいいか悩んでて」
私達は方法を考えたけど、全然思いつかなかった。
だって、ピースランドに連絡したらたぶん敵に気付かれるから。
私達の端末だって盗聴されてるかもしれないし、
ピースランドの方の通話回線も、ネットのログも監視されてるかも…。
なにか方法はないかな…。
こんこん…。
「「はい!?」」
「夜分遅くに失礼します、警備の者です」
「「ど、どうぞ!?」」
私とジュンさんはやましいことは何もないのに驚いて返事をしちゃった。
警備の人もネルガル関係者だから私達の関係を広めるはずはないけど、
つい週刊誌に追われてる時の癖がでちゃって。
さっきのチハヤちゃんの一件で敵が来た可能性よりそっちを考えちゃった。
──でもドアを超えて入ってきた人の顔に、私達は驚いた。
ウィッグとメガネと風邪用のマスクをしていたその人は…。
行方不明になっていた、あの人だったから!
「「ええっ!?」」
「…どうやら大変なことになったみたいだね。
重子ちゃんから秘密回線経由で呼ばれてたんだ。
危険があるからって。
だから俺だけ先乗りしておいたんだ」
「そ、そんなことより、今までどこで何を?!
ホシノさん、どうやって助かったんですか!?」
「メグミちゃん、それどころじゃないよ。
一刻を争うんだから、ちょうどいいし相談しよう。
…だけどホシノ、どうやって僕たちのところに?」
「重子ちゃんに、チハヤちゃんをよく見てほしいってお願いされてたんだ。
つかず離れず様子を見てて、悪いけどさっきの事も立ち聞きしてたんだ」
「…ホシノ、君の事だから今更驚かないけどさ。
立ち聞きって言っても何百メートルも離れて聞いていたんだろ。
例の五感を研ぎ澄ませればって、得意技。
…盗聴器要らずだよね」
「バレたか。
さすがに端末を介した筆談の内容までは分からなかったけどな。
精神の波を読んで、大丈夫そうだったから入ってきたんだ」
…ホシノさんって人間離れしすぎて、ホント怖い。
この人がマスコミだったらゾッとする。
とはいえ、味方で居てくれて良かった。
私とジュンさんは、ホシノさんに詳しい事情を話した。
チハヤちゃんの事情、アリーナに無数の爆弾が仕掛けられていること、
チハヤちゃんはライザさんと一緒にテツヤという敵に会いに行くと言うこと…。
全てを話すと、ホシノさんはテツヤという敵が、ライザさんの元上司で、
ホシノさん暗殺事件、ラピスちゃんのあの誘拐事件の両方を主導した人物だと説明してくれた。
「…出来ればチハヤちゃんについていって、
テツヤって男を何とか止めたいけど…。
重子ちゃんの占いどおりに行くなら、
俺はこのアリーナで敵の目を引き付けておく必要がある。
全世界が俺に注目している状態にしておかないと、
敵が自由に動ける状態になるとアドリブで攻撃仕掛けてくる可能性があるとかで、
ステージに立って足止め役をやらないといけないんだ。
それに今も爆弾を何とかできる可能性があるのは、
死んでることになってる俺とさつきちゃん、レオナちゃんだけだ。
それ以外の誰かが欠けたら敵に気付かれるし」
…なんかさらっと死んだはずの二人の名前が出ちゃいましたけど。
もしかしなくても、そっちもヤラセだったんですか?
「いや、それでいいよホシノ。
…チハヤ君は僕たちが何とかする。
ゴールドセインツのみんなにも声をかけておくよ。
君たちがステージに出るなら、ステージの順番を気にすることもないだろうしね。
事前にディレクターたちに言うと動きがバレるから、黙って抜けるしかないんだけど」
「たのむ、ジュン。
…重子ちゃんも合わせて装備と武器を準備してくれてるはずだから。
俺は爆弾を調べる。
爆発物の探知をするための道具はないけど、
爆弾の構造をある程度つかんでおかないと解体が間に合わない。
無理にでも一つくらいは見つけておかないとな。
爆弾のことまでは重子ちゃんも占いきれなかったらしいから、
必要な道具と、爆弾処理の経験がある人を、日本で待機してるさつきちゃんに頼んでおこうと…」
「…あてはあるんですか?」
「…ラピスがこういう時のための、
『こんなこともあろうかと』って残してくれた手があるんだ。
ラピスが俺のファンクラブの人たちの身元データを収集して置いてくれたんだけど。
ファンの個人データってことは言い換えると、
世界各国、ありとあらゆる人材がインプットされてるんだって。
だ、だから、爆弾処理のエキスパートを呼ぶことができるんだって。
重子ちゃんにも占いで人物評価してもらっておけば万全だからって…」
「「うわぁ…」」
…それは何か嫌ですね。すごく。
ホシノさんも嫌そうです。すっごく。
最後の手段っぽいですけど、この際手段は選べないってことでこうしなきゃいけないし、
警察を呼ぶと動きで敵にバレちゃいますし、仕方ないと言えば仕方ないけど…。
「…舞台袖で今回のステージを見れる条件で、手を打ってもらうことになるかな。
うう…乗り気じゃないけど、我慢しないと…」
…そういうの苦手だって知ってますけど、なんかそれでも、
「説得力ない」「フル活用している」って言葉がちらほら浮かんできます。
別に私には関係ないことなんで、良いんだけど。
…でも、何とか全員が無事でいられるかもしれないところまで持ってこれた。
もしかしたら誰かが負傷することになるかもしれないし、私も治療を手伝うために付いて行かないと…。
このひのき舞台に残れないのはちょっとアイドルとしては残念だけど…!
チハヤちゃんを、ライザさんを、助けたい…!
二人とも、テツヤって人のせいでひどいことをさせられてる。
やりたくないことを、無理矢理させられて、それしか道がないように思わされて…。
そんなの、絶対おかしい!
だから、絶対…!
もう一度、同じステージに立てるように助けたいんだ!
【チャリティーコンサート当日・早朝】
〇地球・日本・東京都内・住宅地──さつき
私とレオナはヒナギク改二を自動操縦で日本に呼ぶと、
ありったけの資材と十四人の女性とともに乗り込んだ。
そして徹夜でバスで走り続け、呼び出せるアキト様ファンのうち、
爆弾処理技能を持つ人を深夜でも無理矢理起こして、家から引きずりだした。
いざって時に備えて日本にいて大正解だったわ…!
「なんなのよ!?
こんな時間に呼び出して、ケーサツ呼ぶわよ!?
…って、ええっ!?
し、死んだはずの、ご、ゴールドセインツの…明野さつき!?」
「ごめんなさい、緊急事態なの。
…アキト様を助けるために、手を貸してくれる?
アキト様ファンクラブの会員なら、アキト様のために死ねるわよね?」
みんな最初はブーブー言っていたけど、私達が素顔を見せて、
脅迫じみたことを言ったらすぐに頷いてバスに乗り込んでくれた。
アキト様が生きてる事を知って、黙っていられる子は一人もいなかった。
かなり時間は限られていたけど、東京近郊に人が集中していたので夜が明ける前にアリーナに到着できた。
そしてアキト様直々の出迎えに、感激してみんな叫びそうになるのを堪えて、
協力して爆弾捜索と処理を行う計画を立てた。
全員が光学迷彩と対爆スーツ、爆弾の周りに赤外線センサーがないかを調べる赤外線ゴーグルを装備、
その他爆弾解体に必要な資材を搬入して、手分けして爆弾を探した。
「…それじゃ、爆弾の位置を把握する班と解体する班。
それぞれ行動を開始して。
会場に人が入るまで、あと三時間しかない。
三時間経過したら、全員手早く撤収してくれるかい。
さつきちゃんたちが、舞台袖に案内するから」
「もし開場までに爆弾を処理しきれなかったらどうするんですか?」
「人がいる状態、しかも超満員のアリーナでは、俺以外の人が動くのは危険だ。
だから、残った分は俺が一つずつ解体する。
…とはいっても、爆弾解体は専門じゃないから時間がかかるけどね。
情報通りなら、ゴールドセインツのステージまでは時間があるから、
ギリギリまで粘ればなんとか間に合うと思う。
だから…」
「「「「「私達がそれまでに出来るだけ片付けておくってことですね!!」」」」」
「そ、そうそう」
アキト様は冷や汗をかきながらうなずいていた。
死ぬかもしれないこの作戦に、やたらめったら燃えてるこの急造爆弾解体チーム…。
バレたら解体成功してもマズイことになるっていうのに、人生賭けて手伝ってくれてホント助かったわ…。
で、結果として…。
この子たちは完璧に爆弾解体をこなして、アキト様の出番は来なかった。
アキト様が爆弾解体班の到着までの間、爆弾の作りを調べてくれたことが功を奏して、
三時間きっかりで一台のとりのがしもなく爆弾の解体は成功した…。
私は胸をなで下ろして、チハヤに会場に残るように言おうとしたんだけど、それは重子が止めた。
重子はばっちりチハヤの部屋の前に待ち構えていて、
警備員に変装して人相も分からないはずの私を呼び止めた。
「さつき。
…気持ちは分かるけど行かせてあげなさい。
チハヤも行かないと決着がつけられないし、
もしチハヤが来なかったら敵は何をしてくるか分からない。
きっと裏切りに気付いて、こちらを攻撃するための爆弾の発火に失敗したら、
間違いなく別の手を打ってくる。
…そうじゃなくても、チハヤが行かないと悪い目が出るわよ」
「…相変わらず、おっかないわね。
あんたって」
「そうでもないわよ?
うちの占いはほとんど予知とはいえ、読めるところが限られてるし、
運命も人間も操れるほどは強くないんだから」
「それは知ってるけど、十分脅威だってば。
…じゃ、チハヤのこと、頼んだわよ」
「任せて。
あんたはアキト様とステージに立って、じっと待ってなさいって」
…本当に重子だけは敵に回したくないわよね。
占いで世界制覇できそうだわ、マジで。
少なくとも上がる株とかナンバー式宝くじとか、当てられると思うし。
私は重子から離れて…今回の作戦を成功させた立役者たちをねぎらうために歩いた。
あとはステージ袖に協力した爆弾処理班のみんなを案内して、
最後にステージでみんなを驚かす役目で、今回の私達の役目は終わり。
…とにかく私達はやれるだけやったわ。
あとは敵の対処くらいだけど、
機動兵器で敵が攻めてくる場合はブローディアコピー・ワレモコウでアギトとサラさんが、
白兵戦がある場合はアキト様が、
アキト様のステージ中の白兵戦は北斗さんが対応する。
あとはチハヤとライザさんを…。
ゴールドセインツのみんながうまく助けてくれるのを祈るしかないわね。
…黙って別のところに居なきゃいけないのは、歯がゆいけど。
それにラピスちゃんが、敵の本丸…。
決して表舞台には出てこない、戦争を、世の中を操り、後ろで手を引く人たち。
幾重にも張り巡らされた権力に守られた『真の敵』を、
この混乱に合わせてあぶりだすつもりらしいけど…。
あの投票アプリといい、この作戦といい、
地球での作戦執行代理人のアクアがいるとはいえ、本人は木星に居ながらにして、
どうやってそんなことをするつもりなんだろ?
【チャリティーコンサート当日・アキトがステージに立っている頃】
〇地球・日本海・機動兵器試験用特設実験島・近海──青葉
……はぁ。
なんていうか、本当に心配して損したって感じよね。
アキト様も、さつきもレオナも、全員生きていたのはめちゃくちゃ嬉しいけど、
ラピスちゃんとアクア、重子の三人が主体で動いていたなんて。
っていうか、ラズリさんの方を寝かしつける方法を考えてまでそんなことしてたなんて。
適当なところで種明かししてくれても良かったでしょうに、全く。
私達はチハヤとライザさんの乗り込んだ飛行船をヒナギク改二で追跡中、
会場がどうなってるかを知るためにチャリティーコンサートを端末経由で見て、
アキト様復活に大熱狂した。
でもたった一人平然としている重子を見て、もしかしてと思って締め上げた。
重子は私の手をそっと離すと、アキト様に起こった出来事、
さつきとレオナが生きてた理由も、ひょうひょうと全部話した。
私達の気持ちを知りながら黙っていた重子に、ひなんごうごうだったけど…。
「一週間前にサバイバビリティナノマシン『ダイヤモンドダスト』を、
アイちゃんに打たれたあたりで気づくべきじゃないの?
あれ、さつきとレオナの治験があって完成したんだから」
「「「「「「う"っ」」」」」」
…私達は、一言で完膚なきまでに黙らされた。
そういえばそうだった。
この間の健康診断の時、『何が起こるか分からないから、命を守るために打って欲しい』と、
前置きをされて説明されたサバイバビリティナノマシン『ダイヤモンドダスト』…。
アキト様の持つサバイバビリティナノマシンの改良版を、
チハヤとライザさん以外のゴールドセインツは全員打った。
あとはジュンさん、天龍地龍兄弟も。
他の人たちは荒事に向いてないことと、ナノマシンを導入することにやや抵抗があるタイプの人だった。
今興味なさそうに外を見ているカエンさんも、身体の改造具合のせいもあってナノマシンは導入できないし。
で、考えてみれば五年前に解析が終わった、
『AH型うるう年ナノマシン』に比べれば大幅に時間がかかったとはいえ、
急にぽんぽんと、安定した完成品が出来上がるとは考えづらい。
人体実験を避けるという意味でも、積極的な治験はできないはずだし。
動いてるかチェックして死んだら大ごとだし、マウスの実験だけではとても足りない。
だけど死亡する占いが出ているさつきたちは、
アキト様のサバイバビリティナノマシンを調整なしで受け入れる必要があった。
その結果として完成型『ダイヤモンドダスト』が完成した。
未完成の初期型のサバイバビリティナノマシンは、アキト様、ライザさんに続いて、
さつきとレオナがこのサバイバビリティナノマシンの保有者になってしまった。
重子の実家の巫女一族の占いによって決まっちゃったみたいで…。
で、アギトって人もアクアの仕込みで、ガワはアキト様の肉体のコピーだけど、
脳はサイボーグ・Dさんだったことも判明した。
…でもなんで世界最強のDFS使いのサラさんを地球に残したのかしらね。
アギトがDFS使えないからってそこまでする必要ないはずだし…。
「…ったく、Dの奴死んでなかったのかよ。
こっちだって寿命が限られてんだから、もうちょっと早く教えろってんだ」
「そう言わないで、カエンさん。
…方法が方法だけに、あんまり広められないんだから。
それに、あなた達の身体を普通の人間に戻せるかもしれないんだから。
拒絶反応も和らげる方法があればきっと」
「…今んところはホシノアキトの身体しか準備できねぇんだろ?
気持ちわりぃ、さすがに我慢でき、ねぇ、よ……?」
アキト様を批難する言葉を吐いたせいか、全員ににらまれて、
カエンさんは冷や汗をかきながら口笛をならして誤魔化していた。
そりゃアキト様を「気持ち悪い」なんて私達の前で言ったら私だって青筋立てて切れるわよ。
本当にツンデレもほどほどにしとかないと身の危険があるわよ?
「あっ!?
ちょっと待って、なんかカプセルが落ちたわよ!?」
「あ、あれは…。
チハヤ!?」
私達が不穏な空気を出しているそばで、大型の飛行船からカプセルが落下してきた。
私達は急いでヒナギク改二でチハヤの入ったカプセルを回収した。
光学迷彩で隠してるから飛行船からは見えないし、すぐに助けることになったけど…。
「ら、ライザが、ライザが!!
早く、助けにいかないと!!
私のせいで!!」
「落ち着いて、チハヤちゃん!」
「う、ううう…私が…私のせいで…。
なんで置いてくのよぉ…嘘つき…」
チハヤは睡眠薬で眠らされていた。
起こされてからもぼうっとしていたので気付け薬をかがされて、
意識が覚醒するとパニックを起こして、ボロボロ泣き始めてしまった。
私達が少しずつなだめると、涙声で飛行船で起こった出来事を洗いざらいすべて話した。
アオイさんから一部聞かされていたことではあったけど、
より詳細に自分の過去とテツヤの関係も話してくれた。
懺悔でもするかのように、取り乱して許しを請うチハヤを、メグミが抱きしめて介抱した。
「大丈夫、みんな分かってるから。
私達、チハヤちゃんもライザさんも助けたいから追っかけてきたんだよ。
泣かないで…。
いっしょに助けに行こう、ね?」
「う、う、うぅ……。
ありがと…」
チハヤはメグミから離れると、呼吸を整えた。
少しずつ、冷静になってきたところでミネラルウォーターを差し出した。
弱々しい目で、私から視線を外してうつむきいていたが、
やがてチハヤはペットボトルの蓋を開けて、口をつけた。
「んぐ…ごめん」
「…チハヤ。
あんたを最初は怪しんでたのは確かなんだけど…。
重子に言われて、信じてみようと思ったの。
私達を助けてくれるかもしれないって占ってくれた。
それで今日…実際にあんたは私達を助けるために出ていった。
今もライザの事をこんなに心配してくれてる。
…私達、あんたを信じて良かったって、心から思えたわ。
私だったら一人じゃ抱えきれないくらい、重いものを背負っていたのに、
あんたも私達を信じてくれたんだって…嬉しかったから」
「青葉ぁ…」
「べそかいてんじゃないわよ。
そんなこといいから、ライザを助けるのを手伝って。
それでこの一件はチャラ。
チームメイトなんだからこれくらい当然でしょ。
いいわよね?」
「…うん」
チハヤは、控え目だけど素直に小さく頷いた。
とてもかわいい笑顔で。
チハヤはいつもどこか突っ張ってて、クール気取りで一人で居ることが多かった。
ライザと違って、クールさに芯がないっていうか、未熟な感じで…。
でも、今のチハヤは違う。
私達の手を取ってくれる優しい普通の女の子の顔をしてる。
こんなに、この子は輝くんだ…。
人生をぐちゃぐちゃに壊されたせいで本当の自分を封じ込めて…。
苦しい想いをしてきたから強がってうまく笑えなかったんだと思う。
…決着をつけてあげたい。
命を賭けてでも…この子にもっと笑って欲しい…!
この子と一緒にまたアイドルやるんだから…!
「生きて帰るわよ、チハヤ」
「…うん!」
【現在】
〇地球・日本海・機動兵器試験用特設実験島・特設アリーナ──ホシノアキト
…俺は全世界が見ている中で、慎重に言葉を紡いでいった。
ここで話している事情はかなり嘘を混ぜているからぼろを出さないで話すのが大変だった。
俺とユリちゃんに起こった出来事とさつきちゃんとレオナちゃんの事はおおむね事実として話せる。
さつきちゃんとレオナちゃんの件はサバイバビリティナノマシンのテスターとして、
治験に参加していたからだと説明できた。
俺の事も最初からアギトに協力をお願いしたということにしたし、
ユリちゃんの件に関しては普通に事実を言えばいいだけだった。
俺がすぐに戻らなかった理由については、
平和のためというのは白々しいし、そもそも最初からそんなつもりはなかった。
単純にさつきちゃんとレオナが暗殺されかかるということが起こったので、
俺の暗殺に巻き込まれないためにみんなや関係者を守るため、
そしてユリちゃんが臨月を迎えるにあたって安全な場所で過ごすためと言うことにしておいた。
俺がいない状態でも世の中が平和になってくれるのが一番良かったけど、
全世界の意思が反戦にまとまった今日という日に、
このアリーナを襲撃する人たちがいるかもしれないからこうしてアギトと潜んでいたと説明した。
だが、アギトとなったDの身体の事だけはほとんど嘘で覆い隠さないといけない。
アギトという人間が生まれた経緯を知られてしまえば、俺でもかばえないと思うから。
アイちゃんとアクアが主導したとはいえ、俺の身体データを使ったということは提供したとみなされる。
…だから、俺たちはとんでもない嘘をつくことになった。
俺の、ホシノアキトの生まれた研究所の生き残りの職員に頼んで、
アギトという存在について偽証することをお願いした。
アギトは俺を元にして作られたクローン、そして別の研究所に売られたと。
初めて世の中に出てきた時…北斗と戦っていたところまでは敵で、
その後、再び北斗と戦い、説得され、敵組織を壊滅させて自由にさせるという条件で協力者になったと。
そしてアリーナで相討ちになったフリをした日、
俺がアギトと対決中にこの仕込みについて説明され、相討ちを演じることになった。
その後、俺、アギト、北斗の三人で敵組織を急襲、壊滅させたと言うことにした。
…当然、本当はそんな組織は存在しないので、
ラピスが先んじて発見していた、無人の元人体改造の研究所跡を使って一芝居打った。
三人で攻撃を仕掛けたものの敵組織の構成員には逃げられてしまったという、
なんともお粗末なカバーストーリーを語るしかなかった。
穴が多すぎるけど、一応お義父さんのフォローでなんとか誤魔化してある。
お義父さんは過去に違法研究所をほぼほぼすべてつぶした実績があるので、
連合軍にも支援してもらって、調べに入ったということにして…。
…とはいえ詳しく調べられるとバレるので、研究所を爆破。
逃げる敵に研究所自体を爆破されたと、さらに嘘の上塗りをしている。
ああ、あの新聞記事の通りじゃん…。
俺、とんだペテン師だよ…いや、もはや考えまい。
誰か死んだわけでもないし、迷惑は誰にもかけてないから…。
…だ、大丈夫、だよな?
「…そういうわけで、アギトの力を借りることに成功して、
俺たちは無事に生き残れたんだ。
状況的に身重のユリちゃんを守りながら、俺に関係する人たちを守るのは難しいからね。
俺とユリちゃんが死んでいれば、ひとまずは俺の命を狙う人たちも大人しくしてくれると思って。
でも、そのせいで俺の意思を継いでくれたアイドルのみんなが、
反戦運動をしてくれたのがきっかけなのか、このアリーナが襲撃されちゃって…。
だから、こうして俺も戻ってきて…アギトに戦ってもらってるんだ。
…謝って許されることじゃない、けど。
ごめん。
俺が無責任なことばかり言って、みんなを巻き込んで。
本当はピースランドでひっそり暮らしていようかとも、本気で考えたんだ…。
俺が居ると、誰かが傷つくかもしれない、から…」
「そんなこと…」
ミカコちゃんが、心配そうに俺を見てくれていた。
またどこかに俺が消えてしまうかもしれないと思っていたんだろう。
アリーナのみんなも、同じように心配そうな顔をしている。
でも…俺は…!
「…大丈夫、もうどこにも行かないよ。
俺は言葉に詰まった…。
五年も芸能人とかアイドルとかやってきたくせに、
ちゃんとファンの気持ちに応えられてなかった自分が、
今更歌う楽しさに気付いたことが、情けなくて恥ずかしかった。
でも…それでいい。
これから、少しずつでも応えていけばいいんだ!
みんなが、俺なんかを見続けてくれた!信じてくれた!
そして平和な世の中をつくることを選んでくれた!
だったら…恩に報いるためにも!
食堂も、アイドルもやってやる!
どっちも本気で、全力でやってやる!
いつものことじゃんか、俺が半端者なのは!
半端者でいい!
掛け値なしのバカでいい!
それが俺、ホシノアキトなんだから!
『はぁ…まったく、子育ては私に投げっぱなしにするつもりですか?
相談なしであんまし無責任なことを言わないでもらえますか、アキトさん』
「はっ!?
ユリちゃん!?
ご、ごめん…」
突如、アリーナ場内に浮かんだウインドウにユリちゃんの顔が映った。
それを見て、アリーナはまたざわめいた。
先ほどの話で生存は伝えたけど、臨月を迎えてなお元気そうなユリちゃんを見て、
みんなが心の底から喜んでくれたのが分かった…。
俺たちの子供に、期待してくれてるってことだろう。
う、うう…どうしようかなあ、これから…。
もう普通の家庭はあきらめざるを得ないのは分かってたけど…。
い、いや!ま、まだあきらめないぞ!!
『ま、いいです。
帰ったらまた家族会議です。
ちょうどお父さんもいますし…』
ひ、久しぶりに喰らうミスマルお義父さんの大声はキツい!!
静まり返ったアリーナに響き渡る絶叫は、本当に音響兵器だ。
地声でさえ、この巨大なスピーカーに匹敵する威力だからな…。
って、そんなことはいいとして…。
「じゃなくて、ユリちゃん!
こっちに着いたんだね!?」
『ええ、ばっちりです。
あなたのために急いできました。
さすがにこの数となるとアギトでも厳しいはずですから。
新生ナデシコAで、駆け付けました』
『そうだよっ!
アキト君とユリちゃん、アギト君とナナホシちゃんに続いて、
ついでにナデシコAも復活しちゃいましたぁ!
ぶいっ!』
…ユリカ義姉さん、絶好調だな。
それはそうだ、ナデシコの艦長が天職なんだよな、ホントは。
でも…。
自分の生きたいように生きるのが一番いい。
テンカワと幸せに暮らしてくれれば、俺もユリちゃんも…。
だから…。
『ホシノ!
こっちは大丈夫だからそこで歌ってろ!
お前はもう戦わなくていい!
戦いを嫌っている奴が前に出ることもないだろ!
それに、俺もユリカも、ユリさんも…そしてナデシコも!
全人類も!!
今日で戦争は終わりだ!
だからお前はそこで英雄らしくどんと構えてろよ!』
「…お前も言うよな、テンカワ」
今日のテンカワは妙にハイだ。
めずらしくズケズケ言って…いや、俺って元々こんなもんなのか?
確かに実力はついたし考え方もよくなった気はするけど、
何故か分からんが身の程知らずな印象があるんだよな…。
ま、まあそんなことはどうでもいいか。
…これで、すべて終わる。
だけどまだ俺たちの敵は…クリムゾンたちはどうにもなってない。
ラピスが言ってたのが本当なら、もう少しであいつらを引きずり出せるそうだけど…。
うーん、なにをどうやったんだラピスは…。
【現在】
〇宇宙・木星宙域・木星軌道上───リョーコ
あたしとサブは、タンデムアサルトピットに同乗し直して再出撃した。
他のライオンズシックル隊員は、ナデシコCとナデシコDの直掩に回ってもらった。
そうでもねぇと、この強敵の撃退は難しいからだ。
ヤマタノコクリュウオウの大群をくぐり抜けて現れた、特別製の八機のヤマタノコクリュウオウ。
軽々と百以上のグラビティブラストを潜り抜けて突撃してきたこいつらは、
エステバリスの攻撃も潜り抜けてくる。
ナメてんのか知らねぇが、こいつらも鳥獣機と同じでアサルトピットは狙わねぇ。
とはいえすさまじい勢いでエステバリスも、ナデシコ級も攻撃を受けている。
高機動による急接近と、高収束のグラビティブラスト、ぶ厚いディストーションフィールドにまもられ、
挙句にディストーションフィールドキャンセラーの付いた剣まで持ち合わせてるもんだから、
こっちの攻撃は次々にキャンセルされる。
実弾兵器の方がまだ有効だが、
佐世保のブラックサレナ急襲の時同様、装甲自体も厚いので通すのは一苦労だ。
けどな!
五年もあったんだ、あたしたちだって対策の一つや二つ、準備してんだよぉ!
「おらおらおらおらぁっ!
いまさらその程度の機動におっつけないあたしたちじゃねぇんだよぉっ!」
「リョーコさん、機動力で負けてますから焦らずに!」
あたしの攻め口に、焦りを感じたのか後ろでDFSオペレータをやってるサブが注意する。
ヤマタノコクリュウオウ剣の形をしたディストーションフィールドキャンセラーは、
ウリバタケの作ったフィールドを中和するフィールドランサーなんて目じゃないくらいに、
艦隊の主力・グラビティブラストも、白兵戦の花形・DFSもあっさり止めちまう。
確かに分が悪い。
あたしの乗ってるエステバリスカスタムの、DFSをまとうための刀は、
ヤマタノコクリュウオウとの打ち合いでボロボロだ。
確かに敵もそこそこいいAIしてるぜ。
それでも…!
つばぜり合いの姿勢が続いていたけど、あたしがエステバリスの腕を振るい、
ヤマタノコクリュウオウのフィールドキャンセラー剣の上を刀で滑らせるように走らせた。
そうするとヤマタノコクリュウオウの持つ剣の柄の部分から離れた瞬間に、
あたしの刀からDFSが爆ぜるように吹き出し、そのままヤマタノコクリュウオウを両断した。
サブがDFSの集中を切らせてなければ、キャンセルされなくなった瞬間こうなるんだ。
「つばぜり合いの基本も知らねぇんじゃ、こんなもんだ!
剣道でも居合道でもないような、剣術未満の、
消極的な防御の型であたしを封じ込めようってのが大間違いだぜ!」
「お…おみごと…」
「おっと、浮かれてる場合じゃねぇ!
次だ!
ルリ、戦況はどうなってる!?」
『順調です。
ヤマタノコクリュウオウの大群の方はすでに全滅しています。
特別製のヤマタノコクリュウオウの方もほぼ片付いてます。
アリサさんとサラさんの翼の龍王騎士が三機のヤマタノコクリュウオウを撃墜、
続いてゲキガン・ファイブ小隊が二機、
他、各艦の艦載機の集中攻撃で一機の撃墜です。
DFS搭載機のタンデムエントリーで、敵のキャンセルが間に合わないうちの撃破が出来てます。
残るは二機、ゲキガン・ファイブ小隊と翼の龍王騎士がそれぞれ相手をしています』
「そんなら、もう出番はねぇかもだが…。
…サブ、少し休んどけ。
結構長丁場で消耗してんだろ」
「ど、どうも…」
他の小隊がかろうじて複数で撃墜する中、あたしとサブは単騎で長期戦を演じちまったんで、
どうしても消耗は大きい。あたしだって全然平気じゃねぇ。
でも、最後の一機が抜けてくるようなことがあったらあたしたちの出番だ。
だったら、少し休みながら様子をみるしかねぇだろ。
「あ、アリサとサラの翼の龍王騎士…二刀流だぞ!?
い、いや…テールバインダーにも発生して、三刀流だぁ!?
ど、どれだけ精神の集中ができんだよ、サラの奴!!」
「ホシノアキト以上とは聞いてましたが、これほどとは…!
あ、DFSの羽根を連射して追い込んで…!」
アリサとサラの戦いは、まさに圧巻だった。
DFSを自由自在に操り、時には羽根の形の弾丸を繰り出し、
時に装甲のように機体の周りにディストーションフィールドを再構成しやがる…。
それが、今回はさらにパワーアップしていた。
ヤマタノコクリュウオウの四機目を、手慣れた様子で追い込んでいる。
五年前からヤマタノコクリュウオウはバージョンアップをしていない様子だったが、
機体のコントロールをするアリサは、ホシノ・テンカワ顔負けの操縦を見せるし、
剣術の類はフェンシング仕込みだから突き中心で防がれやすいが、二刀流で隙が少なくなってる。
あげく、テールバインダーですれ違いや機体の回転で見えづらい死角から斬りつけてる。
こ、こいつは敵に回したくねぇな…!
模擬戦でさえ本気を出してなかったってことかよ!
そして、アリサとサラに追い込まれるヤマタノコクリュウオウは、すでにボロ雑巾だった。
双子らしい息ぴったりのコンビネーションで、アリサが攻め立てるそばから、
DFSの余剰分で次々に攻撃を繰り出すサラ。
しかもそれは三つのDFSを同時に発生させるという離れ業をこなしながら、
一本のDFSを使っているサブがここまで疲弊するのと、同じ時間ずっと続けてやがる!
あっ!
ついにヤマタノコクリュウオウのフィールドキャンセラー剣が、折れた!?
【現在】
〇宇宙・木星宙域・木星軌道上・ナデシコC───ハーリー
す、すごい…!
ナデシコ艦隊は、ついにヤマタノコクリュウオウをあと一機まで追い込んだ。
五年前にアリサさんとサラさんが、撃墜寸前まで追い込まれた時は絶望的だったけど…。
これなら、もう大丈夫…!
アリサさんとサラさんが四機も落としちゃうなんて、本当にすごい!
ここまでは死人どころか、撃墜もほぼ出してない。
やっぱり、話し合った通りヤマサキって人は…。
だから…。
『ヤマサキさん、お願いだから戦うのをやめて…。
アキトも、私も…あなたの事をもう憎んでないから…。
もう誰も死ぬことなんてないんだよ!
戦争はこれで終わるの!
あなたが全部一人で背負う必要なんて、ないんだから!
だから…!』
『白々しいんだよ、君は!
僕の大切な人を死なせたことを忘れたとは言わせないよ!』
ほぼ戦闘が終了しかかっている今、ラピスさんはラズリさんに変わった。
そして、最後のヤマタノコクリュウオウを倒す前にヤマサキ博士を説得にかかった。
事情を知っていればこの戦いは続けてはいけないと分かる。
子供の、僕にだって…。
『だからって、最後まで戦うなんて間違ってる!
負けが決まっているのに、死ぬのが分かってて戦うなんて!
話し合うことを、理解し合うことを拒絶することが戦争の元でしょう…!
生きて帰れば、取り返せるものだってあるじゃない…!』
『僕には何もないよ…。
大切な誰かを失った者には、もう何もない…。
この戦争をひとりで企てた、世界最悪の機械帝国の、首領。
償うことなどできない、途方もない罪を背負った僕に…。
取り返せるものがあるなんて…。
…綺麗事だよ』
『…綺麗事、でいい。
ヤマサキさん、私にもっと恨み言を聞かせたいと思ってるでしょ…?
だったら、そのままそこで待っていて。
…裁きの時まで、あなたを誰かに殺させはしない。
絶対に、そんなことは誰にもさせない。
夏樹さんの命に誓って、今度こそ私の命を賭けてもあなたを守るから…。
お願いだから…』
『…』
ラズリさんの最後の一言が聞こえると、ヤマサキ博士は一方的に通信を切った。
自棄になって切ったんじゃない、と僕は思った。
…たぶん、ラズリさんの言葉を受け入れてくれたんだ。
そうでなければ強い拒絶で通信が終わるはずだから。
どこか、泣きだしそうな顔でうつむいて静かに通信を切ったヤマサキ博士。
自決や、自殺をする人の目には見えなかった…。
『…ナデシコ艦隊、最後のヤマタノコクリュウオウを撃墜後に、
木星居住区に突入。
エステバリスの護衛を伴って、突入班とともに乗り込むよ』
『…ラズリ、あんたも来るっていうの?』
『…はい。
約束通り、ヤマサキ博士を守ります』
「なら私も行きます。
変に無茶されたら、ホシノ兄さんにもユリ姉さんにも怒られますし」
『でも…。
…ううん、分かった。
ついてきて』
「ぼ、僕もいきます」
『ハーリー君は、お留守番。
私とラズリちゃん、ルリちゃん以外で、
ナデシコCとナデシコDを守れるのは、誰かな?』
「ぼ、僕だけです…」
「ハーリー君、よくできました」
…二人にたしなめられてしまった。
でも、確かに僕はこういう時に役に立てるタイプじゃない。
だったらルリさんとラピスさん、ラズリさんの代わりにナデシコを守らなきゃ。
とはいえ…うう、僕があと五歳くらい歳をとってたらもしかしたのにぃ…。
…いや、僕は黙っていよう。
ラズリさんとラピスさん、ホシノアキトさんとユリさんの、
未来から続く長い長い旅は、ここが終着駅だ。
僕が口を出したり、足を引っ張るべきじゃない。
この戦いが終わったら…。
きっと生きてるホシノアキトさんとユリさんに会える。
なんとなく、そんな気がしているんだ…僕は…。
だから──。
ラズリさんとラピスさん、ルリさんに『いってらっしゃい』とだけ言おう。
【現在】
〇木星・都市・プラント制御室──遺跡ユリカ
…ラズリちゃん、未来のテンカワユリカとの通信を切ったヤマサキさんは黙り込んでいた。
私は…説得に乗ってくれるような気がして少しだけ嬉しかった。
実は自分で立てた『ヤマサキさんに木星戦争の責任を押し付けて死なせる』ことに明確に悩んでたの。
私の誤算は──私は想像以上にヤマサキさんを愛してしまったこと。
私は遺跡でありながら、決して結ばれないと分かっていながら、
ヤマサキさんと戦争を企て、身体を重ね、同じ時を過ごした。
ヤマサキさんの言葉も、声も、表情も、潔癖すぎる思想も…本当は愛する人と過ごしたいと願う心も。
何もかもが愛おしく、人間的で、永久に一緒に居たいと思うようになった。
ヤマサキさんの婚約者の夏樹さんを呼び寄せることを何度も提案していたのは、
せめてもの罪滅ぼしのつもりだった。
そして少しでも生きることに執着を見出してくれることを望んでいたから。
私とヤマサキさんは結ばれることはあり得ない。
だったら、せめて人生の最期で後悔を取り戻してほしかった。
山崎さんが私の計画に乗った時点で、それはあり得ないと分かっていたのに。
そんな風に引き返すことはできないと、分かっていたのに。
でも、あの説得でヤマサキさんには一つの希望が生まれていたと思った。
だって──。
「…遺跡ユリカ君」
「なぁに?」
「…やっぱり、生きていたんだね。
夏樹は…」
やっぱり気づいてた。
あの会話には、ラズリちゃんにあるべき「悲壮感」がなかった。
前の世界のことはまだ気にしているかもしれないけど、
夏樹さんを死なせた罪を背負っていたらあんなことは堂々と言えない。
ヤマサキさんを助けたい、生きていてほしい。
あなたの生きる理由を、届けてあげるから、自決なんてしないで待っていてほしい。
ただただ、そんな気持ちのこもった言葉だった。
ヤマサキさんに気付かせるつもりでああいう説得をしたんだと分かりやすく伝えていた。
私は、最後の最後でラズリちゃんの言葉に賭けていた。
死んだふりをした夏樹さん…その死のニュースに、ヤマサキさんは三日ほど酒浸りになっていた。
なんとか戻ってきたヤマサキさんは、後悔を胸に抱きながらも、
私に恨み事も言わずに、ナデシコ艦隊を迎え撃つ準備に戻った。
…あの時のヤマサキさんは、見てられなかった。
でも、今夏樹さんが生きていたと知ったからには、山崎さんは死ねなくなる。
最後に自決して終わるエンディングを、覆すことがきっとできる。
あんな後悔をするくらいならって、ヤマサキさんは思ってくれるかもしれないから…。
「…うん、生きてる。
迎えに来てくれるの。
でも、きっと驚く場所に居ると思うよ?」
「…え?」
【現在】
〇宇宙・木星宙域・木星軌道上・翼の龍王騎士───アリサ
ついに四機目のヤマタノコクリュウオウを撃墜して、私達は一息ついていた。
ここまでの死闘は、本当に大変だったけど…でもやっぱり一番大変だったのは、私じゃない。
「やったわね、姉さん!」
「はぁ…はぁ…うん…」
DFSオペレータとして、必死に私をサポートしてくれていた、姉さん…。
五年前の比じゃないくらいの実力をつけて…。
ここまで成長しなかったら、もしかしたら危なかったかもね。
でも、本当は…。
『アリサさん、サラさん、お疲れ様です!
あとはゲキガン・ファイブ小隊にお任せを!』
『ちくしょう、さすがに二人には敵わねぇな!
俺たちに最後の一機は任せてゆっくり休んでな!』
「「あ、ありがと、ヤマダくん」」
『ヤマダ、ボケボケしてると死ぬわよ』
『イズミ…お前ってやつはまだ、ガイ呼びしねぇのかよ、約束破ってからによ』
『作戦中は本名でないと混乱するからよ。
…後にしなさい』
次々に浮かびあがるウインドウから、艦隊のみんながねぎらいの声をかけてくれる。
本当に、もうすぐ終わるのね…。
「ぐず…やったよぉ…ううぅ…」
…サラ姉さんは目に涙を浮かべていた。
それをみんなは、気が緩んだ、戦いが終わる嬉し涙だと思っていた。
でも、違う。
このパイロットの中で、私だけはそれが違うと知っている。
私達姉妹は…この五年の間、普通に生活しながら訓練を積んで操縦技術、DFS技術を上げてきた。
ヤマタノコクリュウオウにほぼ完封され、相討ち同然で辛くも勝利したあの一件から、
この最後の決戦に向けて、最後のひと押しをする時に私達は出撃する必要があると分かっていた。
地上では私達が出撃したらチューリップからヤマタノコクリュウオウが出てきてしまうけど、
最終決戦となれば私達がいなくても出てくる可能性がある。
だから必死になって訓練を続けてきた…。
でも三年前、合同訓練が終わった時に北斗さんと、
一人の女性が一対一のシミュレーターバトルを申し込んできた。
ホシノアキトさんとほぼ同一のDFSを使える北斗さんも、私達のレベルのDFSには勝てない。
でも、なにか秘策があるように不敵に笑って戦いを始めた。
結果は──私達の惨敗だった。
サラ姉さんの繰り出すDFSを、それ以上の完成度で繰り出すDFSオペレータがいた。
その上、地のパイロット能力で私に勝る北斗さんが居たのでは勝ち目がなかった。
呆然とする私達を尻目に、北斗さんとそのDFSオペレータは立ち去った。
と、思ったら、ラピスちゃんが顔を出して、お茶に誘ってきたので付き合うと、
とんでもないことを言いだした。
『あの子をサラの代わりに、木星に行かせてほしい』
突然の申し出に私達が困惑していると、ラピスちゃんはさらに畳みかけた。
ボソンジャンプとか未来とか、色々と荒唐無稽な話をされて…。
でもそれを裏付ける証拠が、たくさんある。
口外したら、今まで以上にいろんなところから狙われちゃうのが分かったので、
ほとんどのみ込む形で頷くしかなかった。
そもそもサラ姉さん以上の使い手であるなら実力的な問題はない。
あとは、私達が離れ離れになることを許容するかどうかだけだった。
私達は彼女の事情を汲んであげることにした。
…そう。
北斗さんと一緒に居た、DFSオペレータとは…。
木星に来る途中でに死んだことになっていた…。
『草壁夏樹』
今私の後ろにいる、サラ姉さんの姿をしているのは、草壁夏樹その人だった。
彼女は、全世界の敵になってしまったヤマサキ博士にもう一度会いたいという執念で、
血反吐を吐きながら精神の集中を極め、サラ姉さんすらも乗り越える実力を身に着けていた。
最初から天才的な実力を備えていたサラ姉さんに追いつく…。
素質があったとしても、どれだけの苦難を乗り越えたらそこまで極められるのか。
私達は絶句するしかなかった…恐ろしいわよね、愛の力って。
……そして、現にこうして倒せないはずのヤマタノコクリュウオウを四機も撃墜できた。
サラ姉さんも、この二年でさらに腕を上げて今では夏樹とトントンってところだけど。
そんなことはさておいて…。
…この計画を立てた、ラピスちゃんとアクアの悪辣さに、
私達はちょっとげんなりしていたけど、結果は出たからいいのかな、まだ。
だって、事前説明なしで色々起こるんだもの…。
【夏樹が撃たれた日】
〇火星⇔木星航路・ナデシコD・医務室・集中治療室──枝織
私達は撃たれて死亡確認された夏樹ちゃんのところに、ラピスちゃんと一緒に向かった。
夏樹ちゃんはすでに蘇生はすんでるんだけど…例のサバイバビリティナノマシンの件で、
どうしてもここに来る必要があったの。
…で。
「な、何するのよ!?
ヨシオさん以外の人に、せ、接吻されるなんて?!
あ、あれ、動けるように…」
「だから一応キスする前に説明したでしょ!?
出発前にあんたにアキトのナノマシンを入れておいたから、
ナノマシンのバッテリー不足が起こって動けなくなっちゃうからキスして充電したの!
私だってアキトとユリ以外とキスするのすごーい嫌だったんだから!」
「ほかに方法はなかったの!?
ヨシオさんにだって、し、してもらったことなかったのに!
そうじゃなくても、やるならやるで、最初っから私に言っといてくれたって…。
頭を撃たれたらどうなってたか…」
「あーーーーもう!
四の五の言うんじゃァないわよ!
こうでもしないと敵をごまかせないんだから!
本当に夏樹がヤマサキと一緒に地球に戻るため、
そして捕縛する時に同行するためにもこうしないといけなかったの!!」
…夏樹ちゃんもラピスちゃんもすごい言い合っちゃってる。
ま…無理もないよね、こんなことされちゃ。
夏樹ちゃんは、アー君そっくりの白い髪と金色の瞳に成り果てて、もうすごい権幕。
私は夏樹ちゃんが撃たれて運ばれた時…。
昴氣での治療のために立ち入った時、ネルガルの関係者の医療スタッフに、
すでに蘇生は成功したけど外部に黙っててほしいと言われて、口止めされてた。
ラピスちゃんの作戦で、死亡扱いにする必要があるからってことだった…。
「…そういうわけで、夏樹。
あんたは今後、サラのフリをして生活しないといけないの。
そこまでして、草壁夏樹という女の子が死んだことにして、ようやくヤマサキと会える。
…反論の余地、あるの?」
「…ぐすっ。
ひどい…ひどいよ…」
夏樹ちゃんはべそをかきながら黙り込んでしまった。
ラピスちゃんの計画は…。
とっても危険だけど、そこまでしないといけない内容だった。
まず、本人にも知られないうちにアー君の『絶対生存微小機械』を導入しておく。
そしてあえて暗殺を起こす。
一か八かの策だったけど、ラピスちゃんは正確に敵の取れる暗殺方法を見抜いていた。
暗殺方法は、間違いなく銃器に限られる。
それも、たった一発の銃弾しか撃たれない。
乗船前のオモイカネダッシュのチェックでは刃物を持ち込めない。
さらに連合軍の銃器の持ち込みは可能だけど、士官にしか扱えないレーザーブラスターは持ち込めない。
格闘や首絞め、あるいはひも状のものを用いた絞殺は銃殺よりも時間がかかりすぎるため、
チャフによる一時電気停止では暗殺が間に合わない可能性も高い。
そうなると統合軍の正式拳銃を用いた銃殺による暗殺だけが残る。
しかも、硝煙反応を大量に残すデメリットも鑑みれば連射もできない。
そして実際そうなった。
まあ、手榴弾とかくらいまでは生き残れるという目算は立ってたそうだから大体大丈夫だけど、
レーザーブラスター以上の武器が来ると危なかったみたい。
それで夏樹ちゃんをどうして死なせる必要があったか、
偽装して生き残らせる必要があったかというと…。
夏樹ちゃんは草壁閣下の娘だから、どうあっても敵からのマークが外れない。
草壁閣下を恨んでいる人からも、ヤマサキ博士を憎んでいる人からも、最重要人物。
ヤマサキ博士の説得の最終手段でもあるわけで、見抜かれてしまえば最後、確実に殺される。
しかも自衛出来るタイプじゃないだけ、アー君以上に狙われやすい。
だから強力なマークを外すためには『死ぬしかない』。
ネルガルの医療スタッフに協力してもらって偽の死亡診断を作り、
地球で作られた夏樹ちゃんそっくりの人形を死体として宇宙に葬ることで、
「草壁夏樹」という人間はこの世から消え去る…。
そしてDFSの腕前が同レベルのサラ・ファー・ハーデットと入れ替わる形で、夏樹ちゃんはナデシコCに移る。
アリサちゃんは、実はナデシコCに乗り込む段階で、一度艦の中に入った上で、光学迷彩を使って艦を抜けて…。
サラちゃんの変装をしてナデシコCに乗り込み直し、一人二役で乗船をごまかした。
その後はオモイカネの合成処理によって、すべてのカメラで幻のサラちゃんが映り込むように仕向けた。
こうまでしないとマークも外せないし、暗殺者を特定するのも難しかった。
オモイカネダッシュに監視させてるのは敵も理解しているから、どれだけ厳重にしても守り切れるかは怪しいし。
そしてヤマサキ博士を説得する時も、迎えに行く条件が整った時も…。
夏樹ちゃんは自分の顔をさらすわけにはいかない。
そこで撃たれる可能性だってある。
その時は私や月臣さんが守るけど、撃たれる可能性を下げないといけない。
あくまでサラちゃんのフリを続けてヤマサキ博士を迎えに行かないといけない。
帰りだって、夏樹ちゃんのままだったらヤマサキ博士の世話をするのは周りが許してくれない。
その時にもサラちゃんの振りをして振舞っていれば、いくらでも二人の時間を作るチャンスができる。
何しろサラちゃんの幻を作って誤魔化す方法は、もう確立されちゃってるんだから。
…でもすべてうまくいったとしても、夏樹ちゃんはもう草壁閣下のところには戻れない。
死亡扱いで居続けなければ、ヤマサキ博士の事も詮索される可能性があるし、命が危ない…。
全てが終わったら、遺伝子を改ざんして、別人として生きなければいけない。
ラピスちゃんの考えた方法は、本当に最低最悪だった。
人ひとりの命を、失うかもしれない状態に追い込み、存在そのものを抹消してしまうんだから…。
でも、そうまでしないとどうやってもヤマサキ博士と再会することは叶わない。
それが分かってるから、夏樹ちゃんは泣くしかできなかった。
この方法を受け入れないと、永久に会えないと分かっているから。
ヤマサキ博士が、拒絶したらどうなるか分からないのに、それに賭けるしかないんだ…。
【夏樹を打った保安部副主任をラズリが捕縛した日】
〇宇宙・火星⇔木星航路・ナデシコD・ラピスとラズリの部屋──ラズリ
「…っていうことがあったの」
私はラピスちゃんに事情の説明をされて固まっていた。
目の前に現れたサラさんの顔を脱ぎ捨てて自分の顔をさらけ出した、夏樹さん。
嬉しい気持ちと…悔しい気持ちがあふれ出した…。
「ら……。
「あ、私は先に聞かされてました。
夏樹さんが蘇生できた時点で。あんまり不安がるなって。
艦長が二人ともダウンしてたら緊急時動けなくなって困るからって」
「ラズリさん、被害者なのは分かりますけど落ち着いて下さい。
…いい加減うっさいです。
あなたの声はこの防音壁すらぶち抜きかねないんですから、ちょっとは自重して下さい。
っていうか、うら若き女子が人を殺そうとする方が悪いです」
「うう…ルリちゃんが怖い」
私はルリちゃんの容赦ない脳天チョップで黙り込むしかなかった。
ルリちゃんは私の大声で耳が痛いのか頬がひくついてるし、私の方が明らかに悪いから…。
…ってそうなると地球で撃たれたさつきちゃんたちも生きてるかも。
(…一応補足ね。
さつきとレオナの事も気になってるだろうし。
二人ともアキトのサバイバビリティナノマシン入れてるから無事だよ。
五年前に、重子の占いで死ぬ可能性がある二人に先んじて入れてもらったの。
…まあ、ユリに怒られてるだろうけどね。
アカツキに言われてキスで目覚めさせただろうから)
と思ったらラピスちゃんは私に詳しく説明してくれた。
アキトに浮気行為までさせてるなんて、ラピスちゃんってば…。
…でも死んじゃうよりはずっといいよね。
わ、私達って…本当にラピスちゃんに一生敵わない気がする…。
いい大人なのに…しゅーん…。
「まあラピスも見ての通りでひょうひょうとしてますし、
本気で悲しんでくれないと全員を騙せないんです。
本当に申し訳ないです」
「しゅん…でも謝らないといけないのはこっちだよ…。
夏樹さん、こんな目に遭わせてごめんなさい…」
「…いいわよ、別に。
ラズリさんのせいじゃないし、お互いに危ないところだったんだし。
それより、本物のサラさんは大丈夫なのかしらね」
「大丈夫じゃない?
ピースランドの王城で王子たちにエステバリスの操縦を教えてる頃だろうから。
ちなみに夏樹の事も、草壁にも実はこっそり話を通しておいたの。
…もう親子として会うことは叶わなくなるって残念そうな顔をしてたけど、
暗殺が起こるようなことがあったら死んだものと諦める、ってさ。
ヤマサキと夏樹のために、放っておいてくれるって」
私達は結局、ラピスちゃんの事情説明に納得させられるしかなかった。
全員が、一応納得の上でラピスちゃんの計画に乗っている。
事後承諾もたくさんだけど、それ以外の方法を考えろって言われても無理だったし。
「でもラピス、ホシノ兄さんだけじゃなくていろんな人を巻き込むのは感心しないです。
ホシノ兄さんだって、あんまり操作しすぎるのもよくないです。
流されやすいっていっても、もう子供じゃないんですから大丈夫でしょう?」
「ううん、どれだけ強くなってもアキトは流されるのは変わってない。
だから私が流れる方向を決めてあげてるだけだよ。
言いなりにしたいわけじゃないもん。
巻き込んでる人たちの道を邪魔するようなことも強制もしないし。
夏樹が望むなら、どこかのタイミングで草壁の元に戻る方法を考えるつもりだし」
「…ホントにラピスならできそうだから怖いですね」
…ホントだよね。
地球からこんなに離れてるのに、ほとんど連絡も取り合わないでいろんな計画を成功させてるんだもん…。
でも、ラピスちゃんの協力者って誰なんだろ?
【現在】
〇宇宙・木星宙域・木星軌道上・翼の龍王騎士───サラ(夏樹)
私は集中力を酷使したせいで、身体の方にも大きな影響が出ているのを感じていた。
心臓の鼓動が弾み、体温も上がっていた…。
でも、そんなことはもうどうでもよかった。
全てを捨て去って、自分が死んだことになって…。
お父様にもう会えないとしても…!
私はもう一度、ヨシオさんに会いたい!
もうすぐ、会えるんだ…。
嬉しくて、涙が全然止まらない。
できれば…最後の思い出を作って、地球に戻るまでの半年を過ごしたい…。
ヨシオさんが裁かれるまでの間、一緒に居ることはできるかもしれないから…!
そのために、私は…!
「…姉さん、あんまり泣いてちゃ、みんなに見られちゃうわよ」
「あ、そ、そうよね…」
私はアリサさんに、変装が崩れてしまう可能性があると注意されて呼吸を整えた。
あと一息ってところで、台無しにしちゃったらだめだものね…。
…。
ヨシオさんが、もし木連のためを思うなら、自決するしかないと思う。
そうすることで木連は、この戦争の責任をかなり軽くできるから。
でも、ヨシオさんはそんなことが出来る人じゃない。
未来の世界でひどいことをしたのは知ってるけど、今はそうじゃない。
木連のために本当に命を賭けられる…ホシノアキトさんでも敵わないほどの英雄。
世界一やさしい、幸せになるべき、大事な人…。
私にとっては、そうなの…。
ラズリさんが説得してくれたなら、もしかしたらって…。
もう、当事者が全員ヨシオさんを許してくれた。
私が生きてる事に気付いているなら、死なないでいてくれる。
そう信じているの…。
だから…ヨシオさん…!
〇作者あとがき
どうもこんばんわ、武説草です。
これにて十話以上引いてきた伏線と、裏で動いていた計画のすべてを描き切れました…。
う、うおお想像以上に管理が難しかったぁ…。
というかほぼこのあたりのネタバラしだけで三話もかかってしまった。
時系列が分かりづらくはありますが、この順番じゃないと物語が追いづらいのでこうなりました。
死亡回避にはかなり気を遣ってて、特に夏樹のあたりのトリックは組むのが大変でした。
一番の問題は結構な話数かつ長期にわたってしまったので、
だ~~~いぶ読みづらいかもしれなくなってしまったことです(爆
ここからは伏線はあまり気にしなくていいと思うので、気楽に書くと思います。
正直、ビルからのラピス救出の話が一番描きたかったので、
ある意味じゃ消化試合になっているのに、
勢いで書けない部分をすごい複雑に組んでしまったのが悪いんですが。
まあ、ここまで複雑には出来るのが分かったのはある意味収穫です。
余裕があったら次回作書くかもですんで、その場合はこの経験を活かしましょう(次回があるのか?
とにかく、フィナーレが本当に近くなってきたし、
ストックもなくなってきたので(ストックがあったせいで情報整理が大変だった)、
ごりごり次に進んで行きます!
ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!
〇代理人様への返信
(92話分)
>テツヤ老け込んでたのか・・・w
テツヤって何歳なのか考えてたんですけど、時ナデで登場時の28歳のナオさんに対して、
さらにライザが仮に18~20歳と仮定して、33歳くらいかなって思ってたんですが、
調べ直すとどうやら31歳でニアミスでした。
で、ライザも19歳くらいを想定したら22歳で…。
ま、まあナデシコDだと時ナデ時で19歳ってことで一つ(おい
それはさておいてそこから5年経過して、さらに苦労して老け込んでるようです。
実際、私もナデDを32歳で書き始めて35歳まで進むだけで結構…。
うん!
やめようか、この話!!
>ぶっちゃけ「この世が嫌いなら二度とあの世から出てくるな!」という草薙素子の名言そのままのクソ野郎テロリストなんですがw
いや、ホントに世の中って見方次第では果てしなく地獄に見えるので、
どっかで折り合いつけて好きなことして生きていかないとなんですよねぇ。
テツヤの場合、元々思想と趣味と実益がそろい過ぎてた前職を失い、
今回はもう純粋に時ナデ以上の、利益度外視高純度のテロリスト。
倒されるしかないとはいえ、そこそこ穏便に片付きそうに見えて、どうなるんだろう。
とりあえず、続き書きます。
>キャラが多いのは本当にねえ。
>モブか半モブならともかく、メインで動かすとなると数人が限界でしょう。
本当は二時間映画の映画の登場人物数ぐらいがベストですよね。お話まわしやすいし。
十五年前はナデシコやエヴァぐらいの登場人物でも結構パンクしやすくて…。
むしろ最近の方がそのあたりの管理は楽ですね。
ナデシコDはやり過ぎましたが!!!!!!!
>え、元の時ナデからして多いって? アーアーキコエナーイ(ぉ
時ナデでも時々名前が出てこなくて大変だったりとか。
あと、ジュンとシュンを間違えたりしてました(どうでもいい
ナデシコDの場合、登場人物に同一人物がいるし、
ルリとユリ、ユリカとラズリあたりは同席させるとめんどくさいし、読みづらい。
意外とテンカワアキトととホシノアキトは未熟と完成品で対比しやすくて困らなかったけど…。
…でも退場する人が少なすぎて、増える一方だぁ、うごご。
(93話分)
>めでたしめでたし・・・かな?
>あの爺どもが一掃されない限りどうもならんと思いますがw
94話のとおり、何かラピスにいい考えがあるそうです。
しかし、ハッカーでプログラミングに精通しているとはいえ、どこまで出来るんだろう。
ルルーシュが相手のリアクションを読んで録音した音声で相手を操るレベルの能力が必要だけど…。
とりあえず、決戦も終わりそうですし、物語も収束に向かいます。
>>策士
>策士wwwww
>草生え散らかすわこんなんwwwww
確かに策士というよりは、
「自分の好きなようにやると、誰も読めないプランが算出できるので独走できる」だけですよねwww
そしてラピス以上に趣味全開で、クリムゾン譲りの剛腕をふるってくる感じで…。
自分で書いといてなんですけど、こいつぁひどいw
~次回予告~
いやぁ、僕だよ。
ヤマサキヨシオ。
なんだかホシノアキト君ってば吹っ切れちゃって楽しそうだよねぇ。
…僕も、最後に向けて気持ちの整理をしないとね。
ついに最後、だよねぇ。
九回裏、同点、ツーアウト満塁、フルカウントの状況で、
肩の壊れたピッチャーが、強打者を前にして膝に手をついている。
まさにそんな状態さ。
え?ここまで完封してたように見えるって?
ホシノアキト君たちの試合は完封試合に見えて、意外とスレスレだったんだよね。
一個でもほころびがあれば、誰かが死んで、ホシノアキト君が切れて即ゲームオーバーだったから。
とはいえゲームセットは近い。もはや勝ちは間違いない、と思うけど…。
僕は悪あがきするには遅すぎると、思うけど…。
地球じゃこの状況でも、デッドボール投げようとする人がいるみたいでね。
勝つかどうか、負けるかどうかっていうのは…。
試合とか勝負とか、形になっているから成立するんだよね。
最初っから勝負にならないような、勝ち戦しかしてこなかった人は…。
癇癪起こして、負けるくらいならって盤面ごとひっくり返しちゃうよ。
勝負を投げだして、決着がつかないように、ね。
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代理人の感想
ネタバラしお疲れ様でした。
まあネタを思いついたら書きたくなるのが物書きのサガw
そしてどんどん収拾がつかなくなるのだorz
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