ブンブンハローアンダーワールド。
どうもルリです。
この映画って何分想定なの?
ってな具合に続きに続いた外伝作品、ダイヤモンドプリンセスも最終回です。
こんなに詰め込んで大丈夫?
っていうか本編置いてけぼりだけど大丈夫?
…はぁ。
とにかく終われるならさっさといこー。
カウントダウン、よーい、どん。
ホシノアキトの肉体を借りたスサノオとカグヤが、ついにこの場に現れた。
すでに国内ではスサノオがかなり強引な出征を行い、
民の生活を圧迫してきたことはカグヤの属する左派政治勢力によって明らかになっている。
一部報道や世間の噂でも、彼がヤマタノオロチに次ぐテロリストであるという認識が広まっていた。
だがカグヤがスサノオと和解できたと伝え、首の皮一枚の状態での帰還となった。
邪馬台国のメンバーも、国内への破壊行動がなかったのでひとまずは拘留されつつも保護された。
とはいえ、さすがに世間の印象は悪かった。
スサノオの行動を非難し続けることこそできなかったものの、
彼のせいでナデシコの世界に移住するプランは破綻寸前だった。
『門』を隔てた世界同士で元々どれだけ交渉ができるかは不明だったが、
スサノオが一方的に戦争を仕掛けたという事実は拭えない。
侵略戦争を仕掛けたという事実がどれほどの衝撃をもってナデシコ世界に受け入れられるかは未知数である。
ナデシコ世界の事情を知るカグヤでさえもこれは測り兼ねた。
「──というわけで、スサノオは戦死…いえ、殺害されました。
この者は、さらに別の世界から連れてこられたホシノアキトと申します。
依代として今回の事態の収束に協力してくれるそうです」
「そんな子供騙しを信じろと!?」
「子供騙しかどうかシャーマンが見ればすぐにわかります。
…それに私たち大和にはもう力がありません。
力がないのを見抜かれたままであれば、あちらの世界も報復に動くやもしれません」
「事態を悪化させたスサノオの尻拭いまでしろというのですか、カグヤ様!」
カグヤの話を聞いた、カグヤの勢力の左派議員たちは怒りをぶつけていた。
オニキリマル家という大和の重鎮とはいえ、若輩者である彼女に意見をぶつけることに戸惑いはなかった。
かつてスサノオに粛清された父に代わり、ナデシコ世界と大和の世界を行き来して政治を担っていたが、
この数年はナデシコの世界に居る時間が長く、味方にもいい顔はされていない。
元々信頼されており、情報源として頼られているということを差し引いても、
自分たちの勢力の政治家も少なからずスサノオに粛清された事実が、彼らの態度の硬化を招いていた。
だが…。
「…あまり言いたくなかったことではあるのですが、
あちらの世界はこちらより余裕のある生活をしています。
戦力も、シャーマニックデバイスがないゆえ弱くはあれど…。
兵器数が多く、傲慢な者も非常に多く居ります。
世界を隔てた異邦人に対して、良い顔をしてくれたとはとても思えません。
火星の民を生贄にしてでも我等の力を示した、
スサノオの行動はむしろ我等の生存確率を上げてくれた可能性すらあるのです。
…そのやり方が人道に背く最低の侵攻だったとしても」
スサノオは鎮痛な面持ちで俯いていた。
自分の全てをかけたナデシコ世界との戦争を利用され、殺されて肉体を奪われ、
かろうじて大和に魂だけは帰ってこれたが、
もはや自分が口を出す権利はないだろうと黙っていることしかできなかった。
議会の人々も同じだった。
スサノオを止めることができなかった責任から、彼を一方的に責め立てることはできなかった。
一部、ヤマタノオロチ残党の潜む勢力からは非難の声が響いたが、
重苦しい空気に皆が口を閉ざしていた。
「スサノオ様、謝罪をおねがいします」
「…だが」
「躊躇っている場合ではありません。
敵がいつ来るか分からないのですよ。
…それに生き残った邪馬台国の部下の命がかかっています」
スサノオは死んでいるため、すでに現世で裁かれる権利すらも奪われている。
彼からは死人が生きている者に口を出すのはおこがましく、
その罪深さから声を発することすら躊躇っていたのだ。
スサノオはかろうじてまだやれることがあると思い直して息を吸い込んで話し始めた。
「…このスサノオノミコト、いや、アマガアキヒトとして宣誓します。
邪馬台国を解散し、彼らの今後の処遇について、オニキリマルカグヤに委ね…。
生活に必要な祈祷を行う巫女を、大和にお返し致します。
この度の出征の過ちを…まつりごとの失敗を償うこともできない、不甲斐ない男が…。
大和の政治主導をしてきたことを…お詫び申し上げます…」
スサノオの言葉に、誰も返事をできなかった。
頷くわけにはいかないという気持ちと、頷くしかないという気持ちがぶつかり合っていた。
かろうじてスサノオのせいで息絶えそうになった巫女たちも、
全員帰還することが出来たが、プラスマイナスゼロとはいかない。
三年という時は取り返せず、大和の立場が危うい状態になったのも手遅れかもしれないのだ。
それでも稀代のシャーマンキング・ヒミコを失った衝撃と、
彼女を守りきれなかった事実が彼らの心をいまだ苦しめていたのだ。
ヒミコが神々と交渉し、その真意を危機だし、天照大御神を納得させることさえできれば、
少なくともこの太陽の強烈な日照りで生存圏を侵される日々からは抜け出せた。
そうすれば大和の世界はなんとか立ち直ることが出来たはずだったのだ。
スサノオの絶望は、大和全土が感じた絶望と同じだった。
「…しかしスサノオ。
あなたはあちらの世界の人々を虐殺したという事実を曲げようとしてはいませんか?」
ヤマタノオロチ側の政治家がぽつりとこぼした。
他の政治家たちは耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだった。
生きるか死ぬかの大和において、政治家たちは自分の選択に責任を持てない者などいない。
今でこそカグヤの勢力は左派として休戦を唱えてはいるが、
スサノオに味方を粛清されても、国を守るためにとスサノオを支持した彼らには大きな責任があった。
出征当時に少数派でありながら、粛清を恐れず反対し続けた彼らを非難することはできなかった。
例えそれが大和の世界を破滅させるためのヤマタノオロチ残党の政党の政治家だったとしても。
「……都合のいいことを言っているのは百も承知です」
「その自覚があるのなら黄泉の国へご退場願いましょう。
あなたは…最悪の方法ではあれど、我らに希望を託して下さいました。
あとは我ら、今に生きる者たちの仕事です。
降霊術で現世に降りてくることもありますまい。
あなたは黄泉の国で裁きを受けているべき咎人でしょうに」
スサノオはヤマタノオロチ側の政治家の言葉に打ちのめされた。
相手がどれほど大和や世界の崩壊を願っていようと、
この表舞台ではもはやスサノオの言葉は響きようがなかった。
「…スサノオは、まつりごとにはもう関わるつもりはないそうです」
「ほう?
では何故またここに舞い戻ったのです」
独裁者がそんなことを考えるわけがない、と言いたげに議員は眉を動かした。
カグヤはできれば議会の意見を一致させるためにスサノオを話させたのだが、
さすがに一筋縄でいかないと悟って、次なる驚異の話をせざるを得なくなった。
「別の脅威が…ヤマタノオロチの残党が、どうやら新たなる刺客を送り込むようなのです。
先の報告にあった、黒龍という敵です。
このスサノオに肉体を貸してくれたホシノアキトの世界から来たようです。
黒龍はスサノオを殺した張本人であり…」
「あなた方の自作自演なのでは?」
「自作自演かどうかはこれから分かります。
その脅威に対抗するためには、スサノオと、ホシノアキト…。
そして別世界の鎧武者…。
甲冑騎士の一種である、龍王騎士を必要とするのです。
黒龍の駆る黒龍王鬼は龍王騎士の一代目が変質した姿です。
同質の存在を倒すには、龍王騎士がどうしても必要になりま…」
言ってるそばからの一報に、議会全体が揺れた。
大和は戦争に耐えうる戦力はすでにない。
とはいえ、20機程度、ナデシコ世界におけるエステバリスに相当する『鎧武者』が存在している。
この数を一方的に叩きのめして、最後に大和の防衛部隊のスサノオに次ぐレベルの天龍という操縦者をもってしても、
苦戦しているという事実が、彼らに絶望を与えた。
大和には戦艦の類は、存在していない。
鎧武者たちこそが最後の砦だ。
大和にはそもそも本来は『人の乗り込む戦艦』は存在していない。
土と呪術と人柱によってつくられる土偶戦艦は、本来は禁忌だった。
スサノオたちがナデシコの世界に乗り込んだ時に用いたのは、呪術と祈祷によって動くただの宇宙船だった。
それに土を塗り付けて呪術で装甲を作り、シャーマニックデバイスによるフィールドを装備した。
戦艦カグヤを奪うまでは、その戦艦でだましだまし飛んでいたにすぎない。
元々儀式的な戦争をしてきた国であり、
人類が減ってからはさらに限定的に決闘を行うことの多い大和では、
大量の戦力を確保する必要がなかった。
ではスサノオはどうやってナデシコの世界に攻め込む戦力を確保したのか。
スサノオは、味方の邪馬台国の人員を、半分土偶に塗り込め、戦力にしていた。
本来の邪馬台国の構成員は二万人。
ナデシコの世界に乗り込んだ生きた構成員は残った一万人だったのだ。
「さっそく出てきたようですね…」
「カグヤさん、俺に任せてくれ…!
スサノオの魔力も、俺の身体を通せば使えるはずだ!
俺と、ユリちゃん、そしてスサノオの力があれば…!」
「お任せします。
スサノオ…そしてホシノアキトさん。
私は戦艦カグヤに戻ります…ご武運を」
アキトとユリは議会の混乱の最中、全員に一礼すると、議会を出て、
すぐに戦艦カグヤに向かった。
ついに機械の獣たちの総攻撃が始まった。
ホシノアキトの代わりにテンカワは奮闘し、その実力に百合の騎士団の兵士たちも驚いていた。
龍王騎士とも遜色ない戦闘能力を見せ、次々に機械の獣たちを撃墜し、
前回の戦いで龍王騎士さえ出ていれば勝てたと思わせた。
またほかの兵士たちもただの一人も戦線離脱をしないほど優勢を保っていた。
「…ユリカ団長、この戦況をどう見ます?」
『はい、ルリ姫。
みんな強くなって、戦況は良好です。
…ただ、このレベルでの劣勢を強いられたとしたら、
敵も本気になってくるはずです…。
最後の手段に打って出ることは間違いありません』
ユリカ団長は甲冑騎士に乗り込み、王城の直掩を担っていた。
同時に離れた場所から戦闘の指揮をしていた。
ルリはしばらく考え込んでいたが、感知結界に今までにない反応を感じ、背筋を震わせた。
「ゆ、ユリカ団長!!」
『…目視で見えてます。
陸がそのまま浮いているような鉄の島が…!』
二人は冷や汗が背筋を伝うのを感じた。
敵の数はすでに7割まで減っている。
兵士たちの士気も、これまでないほどに高い。
しかしそれを考慮しても、どう倒せばいいのか分からないほど巨大な敵が現れてしまった。
彼らの焦りの中、まばゆい光がその島から放たれた。
まばゆい光の帯が、百合の騎士団・甲冑騎士部隊を襲った。
ほとんどの甲冑騎士は光の帯をかすめるか、勢いに吹き飛ばされて直撃を受けなかったが、
直撃を受けそうになった一台の甲冑騎士をかばって、
テンカワのクサナギ・エグザバイトが立ちはだかった。
『なんて威力なの…そ、底が見えないほどの穴が…』
「ぐうううううっ!!」
「ら、ラピスちゃん!?」
「こ…こんくらいどうってこと…」
森林地帯の一部に、底が見えないほどの穴をあける威力を持つ光線を受けながらも、
かばったクサナギ・エグザバイトも、かばわれた甲冑騎士も無傷で済んだ。
しかしその代償は大きかった。
多数の敵を相手にした直後、あまりにも破壊力のある光線を受けたため、
クサナギ・エグザバイトへシャーマニックデバイスにエネルギーを与えるラピスの、
シャーマニックパワーが枯渇しかかってしまった。
クサナギ・エグザバイトのエネルギー供給がバッテリーに切り替わり、
残り時間のカウントが表示されてしまった。
「ラピスちゃん、無理しないでくれ!
俺が何とかするから…」
「バカ言わないでよ!
私が居なくなったらクサナギ・エグザバイトの力は半減するのに!」
「せめてナデシコさえあれば…!」
『テンカワ君、大丈夫!?
アキト!?』
「ユリカ…!俺は大丈夫だが、ラピスちゃんが…」
『ラピス、私の魔力を分け与えます!
ここで黙っていられません!』
『こんなところで死にません!
はぁあっ!!』
ラピスは大和の世界のユリが絶命したシャーマニックパワーの譲渡を止めるように警告した。
その心配とは裏腹に、ルリが送った魔力──シャーマニックパワーと同列のエネルギーは、
ラピスのシャーマニックパワーを回復するだけにとどまらず、
クサナギ・エグザバイトにも必要以上の強力なエネルギーを与えて、
漆喰のような黒い装甲が輝き始め、うっすらと青紫色の付いた輝く装甲へと変質させた!
「な、なんだこれ!?」
「うそ…!?」
『くうっ…ふぅ…。
ちょっと疲れましたが、すぐに魔力は回復します、心配しないで。
…それより先ほどの光をもう発射させてはなりません。
次の発射の前に決着をつけましょう!!』
ルリはクサナギ・エグザバイトの変化を気にすることもなく、次の指示を与えた。
ラピスはその強気な言葉に思わず笑ってしまった。
「ルリ、さすがね。
私や…大和の世界のルリと違って加工されてない、
生まれながらのシャーマンのなんだね」
『シャーマンとか知りません。
それよりクサナギ・エグザバイトで…』
「ねえ、ルリ」
『はい?』
「こんな風にルリの力を借りて、生まれ変わったこのクサナギ・エグザバイト…。
せっかくだからさ、いっちょう景気のいい名前を付けてくれない?
ほら、名前が長いし、そのまんまでちょっとカッコ悪いから」
『…はぁ、この非常時に何を言ってるんですか』
「だめ?」
『…いいでしょう。
こんな風になるとは私も考えてはいなかったんです。
せっかくですから、名付けてあげます。
そもそも私達も龍王騎士以外の甲冑騎士には特に名前も付けてませんし…特別ですよ。
この国を守る守護の花…。
『テンカワさん、ラピス!
ルリ・ダイヤモンドの名において命じます!
その機体でこの国を守り抜いて下さい!』
「お、おうっ!」
「任せてよ、ルリ!」
女性兵士たちは、その変質したクサナギ・エグザバイト、
いやブローディアの名を聞いて、絶望的な状況を打開できる可能性を見出した。
そして再び士気が高まっていった。
「テンカワ、やっつけよう!」
「ああ!」
「この国も、私たちの世界も、大和にも!
すべての世界に希望を届けるよ!!」
「おうっ!!」
「行くぞ、ジェイ」
「ああ」
アクアマリンと紅水晶の協力で一ヶ月早く戦力を回復できたものの、
ついに機械帝国アイアンリザードも、追い詰められつつあった。
アイアンクラウドを戦線に繰り出すのも、実はリスクが高い。
主砲は威力が高いが攻撃範囲が狭い上に、充電に三十分以上を必要とする。
防御機構も強力な装甲を用いてはいるがバリア、フィールドの類は存在していない。
その身を守るには直掩する機械の獣たちの守護に頼るしかないのだ。
だがアルゴリズムが貧弱な機械の獣たちでは太刀打ちできないと踏んで、
数少ない有人機を出して対抗しようとしていた。
アイアンリザードの面々は出撃準備を整えていた。
だが…。
「カエン、お前はDと残れ」
「あ?
ンだとぉ?」
インの忠告に、カエンは不機嫌そうに眉を動かした。
「神機のある中枢には人間でなければ入れない。
その通路は二つ。
お前とDが俺たちの中では戦闘能力が高い。
ここまで言えば…分かるな?
お前たちが最後の砦だ」
「チッ…」
カエンは舌打ちをしてDとともに、格納庫から離れていった。
アイアンクラウドは、あまりに分厚い装甲を持っているため事実上破壊は不可能である。
しかし、一度内部に入り込まれると脆弱になるという欠点がある。
機械の獣たちを吐き出す都合上、すべての扉を閉じておくわけにもいかない。
そして対人兵器を積む余地はない。
アイアンクラウドは中枢は、かつての神機がただのデータセンターだった頃の面影がある。
その中枢には対人平気を乗せる余地がない。
そして対人兵器を作ることも、配置することもおぼつかない。
神機が作れるロボットの大きさは三メートルクラスが多い。
3Dプリンターを駆使した生産能力にも限界があり、作業ロボの精度も実はそれほど高くない。
ゆえに作るものが大きくなりがちで、小型のドローンすら作るのもおぼつかない。
カエンがぶら下がることが出来るほど大きなドローンからしか作れない。
人間が介入できないことで、その技術力をフルに発揮できないのである。
Dたちブーステッドマンを改造したのはホシノアキトの育ての両親であり、
その両親はブーステッドマン達の改造に必要な知識の習得に夢中になりすぎて、
体を壊して、病で二人とも息絶えてしまった。
──もはや、神機には自己の修理すらもままならないのだ。
それでも最後の仕事として、現在の人類を滅ぼし、人類の再生産を行おうとしていた…。
神としての自意識が、責任感が、人類を滅ぼそうとしていたのだ。
青い甲冑騎士が、真っ黒い甲冑騎士に押されていた。
そして、その真っ黒い甲冑騎士は、龍王騎士に──黒龍王鬼に酷似していた。
『くそおっ!なんて奴だ!』
『どうした、ホシノアキト以外にはまともに戦える兵士はいないのか!?』
『冗談じゃないよ、ちょっとは弱いけど黒龍王鬼と戦うなんて!!』
インの挑発にいらだつ地龍。
ブーステッドマン達、イン、ジェイ、エルの乗り込んだ黒龍王鬼、
正確に言えば変質しておらず、憎しみを動力にする設計になっていないため、黒龍騎士ともいうべき甲冑騎士。
しかし基本設計は龍王騎士と同じであり、意匠もほぼ同じだった。
設計者が同一であるため、それは当然だった。
地龍はなんとか互角の勝負に持ち込んではいたものの…。
『あっ!うぅっ!このっ…』
『どうしたのかしら?
副兵長でこの程度なんて、情けないわねぇ!』
エルと対峙する、副兵長に任命されたばかりのさつきは苦戦を強いられていた。
彼女は現場指揮に向いている人材ではあったが、まだ剣の腕ではアキトや地龍の足元にも及ばない。
エルも初の実戦でそれほど練度はなかったが、改造されていることもあって終始優勢を保っていた。
『うおおおおおおっ!』
『ぐうぅ!?
こ、こいつは…!』
唯一、ジェイの黒龍騎士を圧倒していたのがテンカワだった。
クサナギ・エグザバイトから変質したブローディアという機体は、
エグザバイト単体の三割増しのパワーをもつが、それをさらに四割程度増している。
合計して二倍程度、さらにラピスが力を与えれば二倍以上の力を出せる。
それに加えてテンカワの実力の高さもあり、初の実戦のジェイに対して優位になっていた。
だが、戦闘は膠着状態になりつつあった。
飛ぶ鳥を落とす勢いだったテンカワと地龍が抜けてしまったので、
実力を上げたとはいえ一般の甲冑騎士で戦う普通の兵士たちでは荷が重かった。
彼らも撃墜はされないまでもかなり損傷が広がりつつあり、
戦線離脱者を出そうとしていた。
『…ユリカ団長、このままでは…』
『……ルリ姫、私が援護に向かいます』
『なりません!
戦況を見ることが出来ない位置に向かってはそれこそ相手の思うつぼです!』
『し、しかし…』
ルリとユリカ団長は対処がしきれない状況に焦っていた。
このままでは惜し負ける可能性がある。
既に三十分近くが経過しており、
いつビーム砲が放たれるか分からない状況に、兵士たちも不安を隠せずにいた。
アイアンクラウドのビーム砲はテンカワのブローディアでしか防げない。
もしこのビーム砲が地龍や王城に直撃でもしようものなら総崩れになる。
そういう焦りが、彼女たちを揺らしていた。
だが…。
『!?
ま、待ってください…アイアンクラウドほど巨大じゃありませんが…鉄の船が!?』
『敵の増援ですか!?』
『いや、あれは…ナデシコだ!
俺たちの世界の戦艦、味方だよ!!』
ナデシコは突如出現した『門』を通過して、ダイヤモンドランドの世界に突入した。
『門』が開いたとしても、どこにつながってるかわからないので、
慎重になって入らないというのが人情だったが…。
「テンカワさんとラピスちゃんと通信がつながりました!」
「…あのおっさん、無茶言うわよね~」
「こっちにユリカがいるはずだ、って突入させるんですもんねぇ…」
「実際、大当たりだったのがすごいけどね…親子の絆ってやつかな」
ミナトとメグミとジュンはミスマル提督が強硬に『門』に突入すべきとの意見に押し負け、
その結果としてクサナギ・エグザバイト…から変質したブローディアの姿を確認し、
通信を居れたらテンカワとラピスが応答したのを見て、安堵した。
「テンカワ、ラピスちゃん、無事かい!?
ユリカは!?」
『ばっちり無事だよ!
ユリカ、ルリを連れてナデシコに向かって!』
『『えっ!?』』
驚くユリカ団長とルリに、ラピスは矢継ぎ早に指示を出した。
『あっと今はユリカ団長の方か!
行けば分かるよ!!
ミスマル提督も待ってるし、
ナデシコのフルパワーにはシャーマンが必要だもん!
私はテンカワを手伝わないといけないし!』
『しかし、ラピス…私にあの船を操れと?
やったこともないんですが…』
『いけるいける!
私の第六感がビンビンに教えてくれてるよ、そうすれば勝てるって!
シャーマニックデバイスは触れば半分以上分かるよ、ルリなら!
分かんないところは私の作ったキュッパチが教えてくれるから!
ゴーゴー!』
『はぁ…無茶ぶりですが、
それしかなさそうですね…ユリカ団長!』
『はっ!お任せ下さい!!
…やったー!ナデシコに戻れちゃうっ!』
『しかし…なんでナデシコが…』
『決まってるじゃない、あんたとユリカがナデシコさえあればって願ったからだよ!
帰る時も頼むよ、テンカワ!』
『ジュン君!
エステバリス隊を発進させて!
私と、ラピスちゃんの代わりにナデシコのオペレートしてくれる子を連れて行くから!』
『分かった!
エステバリス隊、発進!
キュッパチ、ディストーションフィールドを全開に、
しばらく防御に徹する形に…』
『お父様!
分かりましたから静かにお願いします!
戦闘中ですよぉ!』
『おらおらおらおら~~~~!』
『騎兵隊の~~~?』
『おな~~~り~~~~』
エステバリス隊、いやエグザバイト隊が出撃すると、
軽いノリとは裏腹に恐ろしい速度で敵を倒していく。
『な、なんだぁ?』
『テンカワさんの世界って…』
『ノリが軽いんですね…す、すごい腕だけど…』
おちゃらけた言葉が、テンカワのブローディアの通信を介してから聞こえてくると、
先ほどまでの緊張した雰囲気をぶっ壊して、百合の騎士団は脱力しつつも余裕を取り戻しつつあった。
『!!
敵、チャージを開始しました!』
『ナデシコ、気を付けろ!
奴のビーム砲はディストーションフィールドでもかなり消耗するはずだ!!』
テンカワは攻撃を受ける可能性が高いナデシコに、
本来相性の悪いビームでも、グラビティブラストにも耐えるクサナギ・エグザバイトのフィールドを削り、
ラピスをダウン寸前まで追い込む消耗をさせた威力を教えた。
『くっ!
ミナトさん!それにキュッパチ!』
『オッケー!』
『おまかせおまかセェ~!』
ジュンの叫びにミナトとキュッパチが答え、
アイアンクラウドがビーム砲を発射すると同時に、ナデシコは急速上昇して、
フィールド下部にビームがかするが、無傷で回避しきった。
『避けた!?あの巨大な船で!?』
『すごーい!』
『続いてグラビティブラストチャージ!
フィールドの回復が間に合わないだろうから回避行動をとりつつ、
ゆっくりチャンスを見るよ!』
百合の騎士団の騒ぐ声をよそに、
ナデシコ側はユリカの帰還に備えるようにしっかりとした連携を始めた。
──そして戦況は大きく動いた。
テンカワをジェイ一人では倒しきれないと踏んで、機械の獣たちと連携してテンカワを追い込み始めた。
だがヒカルとイズミが敵を蹴散らすようになり、ジェイはより防戦一方になった。
地龍はいまだ拮抗した互角の戦いを続けているが、精神的な負担がかなり減り、押し返しつつある。
さつきはリョーコと交代し、機械の獣たちと戦い始めている。
エルもリョーコの実力には歯が立たず、余裕を失った。
アイアンクラウドは先ほどのビーム砲の発射以降、動きを止めている。
発射の間隔は30分きっかり。
先ほどの発射からまだ10分ほどしか経過していない。
ブーステッドマン達も、焦り始めていた。
『イン!
神機からの指示は!?』
『…戦闘続行としか』
神機からの指示を受ける役になっていたインも困っていた。
すべてにおいて後手になってしまった。
神機も打つ手がなく、かといってカエンとDを出撃させるわけにはいかない。
あの二人を動かすことは、イコールで敗北と言っても過言ではない。
そして、さらに──。
『みんな、ただいま!』
『ユリカ!』
『『艦長!』』
ついにユリカとルリがナデシコのブリッジに到着した。
ミスマル提督は滝のような涙を流して歓喜していた。
この時ばかりはキュッパチも音量を切らなかった。
『…そしてユリカさんの体をお借りして失礼します!
私はこの世界の国防を担います、『百合の騎士団』団長のユリカ!
もろもろ説明は省かせていただきますが、
ユリカさんと協力してアイアンリザードと戦ってます!』
『あ…ラピスちゃんの降霊術がうまくいったんだ!!』
『はい!
そしてルリ姫にもご協力をお願いしたいと…。
…では、この船の指揮のために、ミスマルユリカさんに後退させていただきます。
ルリ姫、後ほど』
『はい』
『わあ、本当にスサノオの妹のルリちゃんそっくり』
『おほん。
みんな、ルリ姫に失礼のないようにね。
何てったって、本物のお姫様なんだから!!』
ユリカ団長から体を返してもらったユリカが胸を張ると照れくさそうにルリは頬を赤くした。
『な、なにか照れますね。
…それにこのシャーマニックデバイス…。
なるほど、ラピスの言う通りです。
…キュッパチ!レクチャーをお願いします!』
『はいはい、お姫様、どうぞヨロシク!』
ルリはいつもラピスが座っているオペレーター席につくと、
シャーマニックデバイスの癖を肌で感じ、自分の力を直接ながしこむ。
ルリの瞳が輝くと、ブリッジ全体が光に満たされていった。
『今まで使えなかった真・グラビティブラスト…!
シャーマニックキャノンが使用可能になったよ!
ぶちかます?』
『…ユリカさん、いきます?』
ルリが振り向くと、ユリカはにっこり笑って応じた。
『総員、ナデシコの射線上から退避して下さい!』
メグミの通信がテンカワに飛ぶと、百合の騎士団全軍の甲冑騎士にその伝達が届いた。
「…しかし相変わらずユリカのやつ無理するな!
シャーマニックキャノン…グラビティブラストの何倍の威力があるんだよ?!」
「わ、私の十倍って…しゃ、シャレになんないよ!?
でも、一撃で終わるなら…!」
ブローディアのアサルトピットで二人は息をのんだ。
グラビティブラストは、相転移エンジンを利用した重力の乱気流を発生させ相手を破壊する。
シャーマニックデバイスを利用している場合、そこに呪術的な破壊力が加算される。
ラピスの場合でも呪術兵器のフィールドを無効化するほか、物理的な威力でも2倍近い破壊力を与える。
ルリの場合は、それを20倍近くの威力に跳ね上げる可能性があるのだ。
大きさがあまりに違うのでそれでも破壊しきれるかは不明だが、有効打になることには違いがない。
ジェイとインとエルは、同時にテンカワに集中攻撃をかけてナデシコの射線上に押し込もうとした。
しかし不意を突いてテンカワを集中攻撃しようとしたのが災いして、
ナデシコのエステバリス隊、そして天龍とさつきに妨害されて、一撃を食らい、
ナデシコの射線上から大きく離されてしまう。
『射線、クリア。
…撃てます』
ナデシコから発射された、普段の閃光のようなグラビティブラストではなく、
まるでブラックホールのような黒い黒い帯が、アイアンクラウドを直撃した。
大地に大穴すら開けるような破壊力を見せたが、アイアンクラウドは健在だった。
半壊になりながら、ビーム砲が完全に破壊されたまま、空を漂っている。
──そして今度はアイアンクラウドはすべての機械の獣を吐き出した。
「な、なんだぁ!?
急にまた数が…」
『閉店セール、出血大サービスってか!
もう後がないってことだな、こりゃ!』
テンカワとリョーコが驚くと、
もうアイアンクラウドは小出しにしていた戦力を出し切ったのか、出入口を閉ざした。
しかし、それが命取りだと戦いに不慣れな神機は気づかなかった。
テンカワは周辺を漂っている機械の獣たちの体制が整う前に、
敵機の出入り口に肉薄し、一撃した。
そして機械の獣たちが追いかける間もなく、アイアンクラウドに潜入した。
「いいよテンカワ!
何とか潜り込めたね!
…私がブローディアに残って、結界を張って機械の獣たちをしのぐから!
敵の中枢を探し出して!」
「お、おう!
けどどうやって中枢を壊せば──」
「ほらっ、ウリバタケがこんなこともあろうかとって渡してくれた爆薬!
半径50メートルくらいならふっとばすくらい強力な奴!」
「な、何渡してんだよウリバタケさん…」
「牢屋につかまってた時みたいな場合に使うものなんだけど威力がありすぎたし、
あの場合逃げちゃうと逆に危なかったから使わなかったの」
テンカワは冷や汗をかきながらラピスから爆薬を受け取った。
「ほら、急いで。
とっとと終わらせて一回帰ろうよ」
「あ、ああ」
テンカワは格納庫に降りると、方向も分からぬまま走り出した。
──だが全長が数キロあるアイアンクラウドの中で迷わずに進むのは困難だった。
天龍は焦っていた。
自分の乗る鎧武者・ヤサカニの性能はスサノオの乗るクサナギと全く同じ性能を持つ。
このヤサカニで勝てないのであれば大和には勝てる者がいない。
にも拘わらず、目の前にいる真っ黒い鎧武者──黒龍の駆る黒龍王鬼は自分を圧倒している。
性能も、技量も圧倒的に勝っている。
だがそれ以上に彼を焦燥感で支配していた理由はその操縦者だった。
『スサノオ…!
なぜおまえほどの男が、裏切った?!』
『ふ…。
何故だと?
違うな。
俺は明確に支配する側に戻るだけだ…!
お前らを、部下ではなく奴隷に変えるために戻ってきたんだよ…!』
『そのようなたわごとを信じると思ったか!?
スサノオはどこまで堕ちてもそんな…ヤマタノオロチ以下の、
くだらない思想にもならないことをほざくようなつまらん奴になりさがる男じゃない!』
ヤサカニは黒龍王鬼と手を合わせてがっぷり四つに組み合ったが、パワー負けして膝をつきそうになる。
ウインドウに映る顔も、声も、そして繰り出す技でさえも、すべてスサノオそのものだった。
だが、天龍は感じていた。
この男が、存在そのものがスサノオと思えるような目の前の男が、スサノオではないことに気づいていた。
その理由は天龍にも分からなかったが。
『!?』
『密着状態では…何もできまいなぁ』
天龍は、機体でパワー負けしているとはいえ、両手がふさがっている状態では何もできないと踏んでいた。
だが、黒龍王鬼は手がふさがっている状態で肩から大蛇のような黒いオーラを出してヤサカニをにらんでいた。
『安心しろ…一撃でコックピットを砕いてやる!
俺は優しいからな、苦しませずにしなせてやるよぉ!』
国会議事堂から飛び出してきた龍王騎士が、黒龍王鬼の横腹を蹴り飛ばし、
絡まれていたヤサカニを吹き飛ばした。
『大丈夫か、天龍!』
『な…スサノオが二人!?』
『事情が複雑だが…簡単に言うぞ。
あいつは黒龍、俺を殺して身体とクサナギを奪った!
この体は『門』を隔てた別世界の俺だ。
わけあって死んだ俺に体を貸してくれている』
『なんだと!?』
『ふん。
バレたか。
お前たちが戻る前に支配を済ませるつもりだったが…。
思ったよりは早かったな、スサノオ、そしてホシノアキト。
分断できたと思ったが、追いかけてくるとはな』
『この黒龍は、俺に体を貸してくれてるホシノアキトの世界から来た!
…黒龍!
別世界にまで攻め込んでどういうつもりだ!?』
スサノオから代わって黒龍を責め立てるホシノアキト。
しかしその声の変化に気づいて黒龍はスサノオから奪った体で薄ら笑いを浮かべた。
『は…別世界を滅ぼしてまでヒミコを取り戻そうとしたスサノオに協力するお前が何を…。
黒龍の叫びが響き渡る。
彼らの会話は、すでに様子を見守る国会にも通信で届いている。
そしてヤマタノオロチの残党側の勢力が、
最後のとどめとばかりにこの戦いの様子と通信を全国に放送していた。
先ほどの国会での会話も同様である。
これでスサノオの名声は地に落ちる。
協力したカグヤも…。
そう確信したヤマタノオロチの残党、そしてアクアマリンは迷わず行動を起こした。
『……確かにスサノオは最低の行いをした。
償えるような生易しいものじゃない、本当に許しがたいことをした…』
『は…だったらさっさと俺に裁かれろよ!
スサノオ、お前は三途の川を渡り切っただろうが!!
ホシノアキトごと…地獄に突き落とし直してやらぁっ!!』
黒龍王鬼が、龍王騎士に肉薄する。
天龍もヤサカニを動かさなかった。
彼もまた、スサノオの悪事が本当であったことを確信して、
いっしょに戦うことを拒絶し始めていたのだ。
そして龍王騎士の装甲扉をかぎづめで引き裂こうとした、その瞬間だった。
龍王騎士はそのかぎづめを手でつかんで、合気道でいう小手返しで投げ返した。
『私が操りました』
ユリがぼそりとつぶやいたのを聞いて黒龍は驚愕した。
手でかぎづめを掴んだところまではスサノオがおこなったが、直後ユリが操縦を切り替えたのだ。
『あの一瞬でそんな切り替えを…!?』
『アキトさんだけじゃないんです…。
私もこの世界のオトウユリの力を借りています!
二組の私達が完璧に連携すれば、あなたに負けるわけがありません!!』
『な…』
黒龍は絶句した。
三千万人を殺したスサノオと、たった二人殺しただけの自分とを比較して、
どこが自分の方が劣っているのかと言いたげに、呆けていた。
『ああ…そうだ…!
人間は…たった一人を生き返らせたい気持ちを抑えきれないくらいに弱い。
俺もスサノオと同じ状況になっていたらそうしたと…思ったよ。
スサノオではなくなり、ホシノアキトが出てくると、
今度は龍王騎士が黒龍王鬼にマウントポジションで抑え込みをかけ、何度も何度も殴りつけた。
『黒龍…自分は何の責任もなさそうにして悪事を働いて、
しかもそのくせ説教して回って…!
『ぐあっ!
ふ、ふざけやがって…!』
黒龍は龍王騎士にオーラの大蛇を噛みつかせた。
余裕がなくて装甲扉を狙えなかったが、龍王騎士の肩口を狙って腕の動きを一瞬止め、
その隙に黒龍王鬼は脱出した。
『ち…逃げられたか…』
『だが、ホシノアキト!
貴様がスサノオの共犯者であるということに代わりは…』
『共犯だと?
これ以上犬死にやひどいことが起こらないように、
大和のためにしている努力を…悪事というつもりか?!』
『へ…屁理屈を!!』
『仇でもない相手を殺したお前には言われたくないし、
少なくともお前はスサノオを責める権利がない!』
『全くです。
失うものがないとここまで思想が破綻しますか…』
『ああ!?』
アキトとユリの言っていることはある意味では正論だが、水掛け論のそれに近かった。
スサノオの戦いに巻き込まれた、生き埋めにされた火星の人々からすればたまったものではない。
だが黒龍がそのスサノオを殺したり利用する権利がないのは明らかだった。
『…黒龍、あなたの孤独な魂に同情はします。
アキトさんの魂の横で育った、誰とも接することのない…人工の魂。
けど…アキトさんとともにあり続けて、温かさを感じなかったんですか?
愛情や友情を、感じることができなかったんですか?
憎しみを糧に成長したとはいえ…あなたの理論は理屈にもなっていません。
これ以上、続けるというなら…。
……私達であなたを止めます!』
『はっ!
そこまで言っておいて、この期に及んで、
俺を『殺す』と言えないか、腰抜けどもめ!!』
『……引くつもりも、ないんですね』
『当たり前だ…俺にはまだ力がある…』
黒龍は口元をゆがめると、黒龍王鬼に禍々しい黒いオーラを集めた。
『これは…!?』
『俺が集めた畏怖の力…。
信仰のエネルギーを集め、巫女のシャーマニックパワーで増幅する方式に近いが…。
ナデシコがある世界でスサノオによって殺された火星の人々の畏怖と恐怖!
そしてこの世界の戦いで得た畏怖と恐怖を合わせ!
さらにアクアマリンから託された、ヤマタノオロチの無念の力と、
シャーマニックデバイスの混合によって力を増幅した!
何も対策せずにここに来たと思っていたか!?
すでにこの黒龍王鬼は、お前らの世界に居た時とは別物になっているんだぞ!!』
黒龍王鬼の姿が変質し、装甲には次々に角のようなものが生え始め…。
そして先ほど生えていたオーラの大蛇を、八匹全身に生やした、
どちらかと言えば機械というよりは生物的な、禍々しい機体が出来上がった。
『もはやこれは黒龍王鬼ではない…。
名づけるとすれば、
黒龍王鬼の変貌ぶりを、邪悪な姿を、見ていた全国の民衆たちは恐怖した。
そしてその恐怖の念は、さらにヤマタノコクリュウオウを強くした。
黒龍王鬼の十倍の力を得て、ヤマタノコクリュウオウのオーラはさらに大きく燃えた。
──八つの黒い龍が、龍王騎士とヤサカニを襲った。
カグヤは戦艦カグヤに単身乗り込み、スサノオと一体化したアキトと、天龍と黒龍の戦いを見守っていた。
天龍はアキトとスサノオを大和を救う者として認め、襲い来るヤマタノコクリュウオウとの戦いに加勢した。
カグヤは二人が敗北したら戦艦カグヤをヤマタノコクリュウオウにぶつけて相打ちを狙うつもりだった。
国会議事堂に居る政治家たちも死ぬかもしれないが、
大和全体が黒龍の配下に収まるよりはずっとマシだと思っていた。
するとカグヤの元に一つの通信が入った。
『ごきげんよう、カグヤ』
「アクアマリン…!
三種の神器の鏡の守護者の一族が、ヤマタノオロチに尻尾を振るなどと!
恥知らずにもほどがあります!」
『あなたには言われたくありませんわね。
『門』を渡れるとなったらこちらの世界を放っておいてあちらの世界にうつつを抜かして。
勾玉の守護の一族として恥ずかしくないんですか?
それに私達は…鏡を持つからこそ、鏡写しの世界を行き来することができたのです。
きっかけこそ特異点となる人間の死ですが、
鏡写しの世界を発見することができたのは我らの鏡あってこそですわ』
かつてヒミコを殺害したテロ組織・ヤマタノオロチの幹部の娘であり、
現在のヤマタノオロチの首領であるアクアマリン。
表舞台に決して姿を見せなかった彼女が、この最後の戦いの最中、通信を入れてきた。
その意味が、カグヤにも分かった。
「勝利宣言でもしに来たのですか…!」
『ほほほ、そんなところです。
…スサノオとあなた達の罪を清算する時が来たのです』
「…!?」
スサノオを支持し、強硬な粛清も受け入れた自分たちにも責任はあると思った。
だが、カグヤはそこまでアクアマリンに責め立てられる理由があるようには思わなかった。
「私達がなにをしたと…!?」
『私の父を殺しました。
それだけでも万死に値します。
…いいえ、あなた方の事ですからそんなことでは納得しないでしょう。
父のしでかした大和の破滅を導くテロについて、から話すべきですね。
アクアマリンは順序だてて話を進めた。
宇宙に進出した人類、そして火星を目指して出発したことに起因していると。
その宇宙進出に際して、かつての政治主導者…スサノオに粛清された政治家たちがなにをしでかしたかを話した。
『一言でいえば、この度スサノオが行った出征以上の惨劇が繰り返されたのです』
「え…!?」
『信仰に対する挑戦として宇宙進出を企てたことに反対をした人々が居ました…。
数にして数億…十億に近かったかもしれません。
彼らは熱心な信者で…高齢になり、新しいことへの挑戦を拒絶している傾向がありました。
彼らを一つのコロニーに集め、宇宙での生活の良さを説明する会として開かれたそのコロニーを、
事故に見せかけて、大和の政治家たちは抹殺したのです。
自分たちの行動を邪魔する彼らを、女子供も無抵抗のものも含んでいたのにまとめて始末して…。
当然、地上の政治はめちゃくちゃになりました。
あなたのお父様もこれに賛成したのです』
カグヤは愕然とした。
大和という国が地球を制したのは事実だったが、
それは天照大御神の人に対する罰による日照りが原因で比較的無事だったため、というのが定説だった。
だがカグヤはこの発言で確信した。
ヤマタノオロチという勢力に、鏡の守護者、名家のアクアの一族が加担した理由も理解できた。
この蛮行で天照大御神の怒りを買う可能性があるという自覚がありながら、
人類の生存圏を著しく侵す可能性を知りながら、大和が地上全体の実権を握れる方を優先した。
人類のほとんどが死に絶えると知りながら、
自分たちだけは助かるためのシェルターを建造する計画を立てていたのだ。
あのコロニーの全滅は事故として処理されていたが、
その計画に加担した父の事を想って、カグヤは自分の心がバラバラに砕け散りそうに感じた。
『スサノオの方がよほどかわいいものですわ。
自分の最愛の人を取り戻すために、地獄に落ちる覚悟で戦い抜こうとした。
…私達の無念を晴らしたのは、皮肉にもスサノオなのです』
「ではっ…なぜ…まだ戦いを終えないのですか…」
『私は父の仇を取るだけではなく…。
この穢れ切った世の中を破壊することこそが清く尊いものだと、父の行動に学びました』
「穢れ切っていない、別の世を巻き込んでもですか!?」
『穢れのない人間などおりません。
…あの人間ではない黒龍の…純粋なる黒い、邪悪に飲まれて人は闇に還っていくのです』
カグヤの叫びにアクアマリンは肩を小さく震わせ涙をこぼした。
悪事を働きながらもカグヤの父は真摯にカグヤを愛していたのだろうと分かった。
自分の父と同じように…。
『…もう、遅いのです。
私はスサノオやあなたの父や…、
かつての政治主導者など比較にならない咎人となり…。
『…カグヤ、なぜあなたの父は火星を目指したか分かりますか?』
「…なぜ、ですか」
『火星には…この世をすべて手に入れられる、地上から消え失せた聖剣があります。
その剣を手にしたものは、この世のすべてを手に入れたのと同じ…。
シャーマンの素質なしに神々の力を自在に使うことが出来、
すべての幸運・強運を手にするという、あの聖剣を得ようとしたのです。
…天照大御神の怒りを買ってそれが手に入らなかったとしても、
世界を大和の手に入れることが出来ればという…予備策にすぎなかったのです。
たかが予備策で人類は絶滅寸前に追い込まれているのですよ』
「…ッ」
『そういえば…カグヤ…。
戦艦カグヤはシャーマンのオペレーターなしに動かないはずです。
どうやって動かしているのです?』
「それは…」
『大方、あちらの世界のオトウルリを殺して、
戦艦カグヤに生体パーツとして組み込んでいたのでしょう?
まだ十歳そこそこのかわいい子供だったでしょうに、かわいそうに…。
オトウルリもオペレーターをする中で、自分と同じものを戦艦カグヤに感じて気づいていたでしょう。
そんな、罪深いことを繰り返すあなたが…あなた達親子が…。
…私達を止める権利など、ないでしょう?』
「…確かに私にはあなた達を止める権利などないかもしれない…。
こうするしか方法がないと言い訳をして…非道を繰り返してきました。
結局私も、父と同じかもしれない…。
大和は滅ぶべき国かもしれません……それでも…」
カグヤはアクアを見つめた。
ついにテンカワはアイアンクラウドに乗り込んでいたが、入り組んだ通路に迷っていた。
『テンカワ、何してんの!?
そっちは逆方向だよ!』
「ぜえっ、ぜえぇ…。
こんなに広いと思わなかったんだよ…」
コミュニケでラピスがいら立ったように通信を入れてきた。
あまりに遅いので様子を見ようと思ってコミュニケにアクセスしたものの、
テンカワが逆方向に進もうとしているのを見て苛立ちながらナビゲーションを始めた。
熱源反応をたどって、巨大コンピューターがある場所をたどることで場所を特定した。
神機というコンピューターの存在を知っていたのがプラスに働いた。
だが…。
「…お前がテンカワアキトか。
ホシノアキトの代理だそうだな」
「くっ!?
なんてでかいサイボーグだ…!」
『テンカワ、銃火器使わないと死ぬよ!』
「ち…効きそうにないけどね!」
テンカワは拳銃を抜くと、致命傷になりづらい手を狙って三発直撃させる。
しかし、Dはたじろぐ様子もなく、小さく笑った。
「どうやら銃を使うくらいの文明はある世界の住人みたいだな。
…だが、その程度の軽装備でここに来るとは笑わせるぞ!」
「うわっ!」
Dが右こぶしを握り込むと煙がもうもうと立ち上げて、
ロケットのようにひじから噴射するジェットの勢いをプラスしたパンチが繰り出された!
「うわちゃちゃちゃ!?」
「よくよけたな。
だが余熱でも十分にダメージだろう。
…受けたら粉々だな?」
「ば、化けものじゃんか!?」
「いい誉め言葉だ…!」
Dはテンカワを捕まえようと手を伸ばすが、
テンカワはさっさとその手をよけた。
そしてそれどころか、すり抜けて逃げ始めた。
『いいよテンカワ!
あいつ、遠距離武器なさそうだし、体重そうだから逃げ切れる!
さっさと逃げ切って神機を破壊しちゃって!』
テンカワがアイアンクラウドに乗り込んでから、すでに30分が経過していた。
その間、ナデシコのグラビティブラストで機械の獣たちはほとんどが消失し、
ブーステッドマン達の黒龍騎士も、煙を上げて墜落していた。
「…ほっ、誰も死なずに済んだみたいだね、ここまでは」
「──大勢は決したようですね」
「うん!あの三人もなんとか撃墜できたし…。
でも良かった、パイロットの人たちサイボーグで頑丈だったからなんとか無事で!」
脱出したブーステッドマン達もため息を吐きながら機体のそばでうなだれていた。
降りた後も戦闘態勢を維持しようとしたが、
かろうじて死ぬまで戦うことはないだろうという説得を受け入れて、ことの経過を見守ることになっていた。
『ルリ、テンカワはサイボーグと接敵したけど何とか神機にたどり着けそう。
神機が破壊できればこっちの勝ち。
ただ、テンカワもけっこう危ないね』
「それは困りましたね…。
私も彼らが力の及ぶ範囲に居れば一時的に動きを抑えることもできるんですが」
『この機会の島、結構シャーマン系の力のブロックはできてるみたいだから。
参ったよね、ホント。
あ、そうだ、テンカワの様子を見てあげないと』
ラピスは一時的にナデシコと通信を入れる都合上、切っていたテンカワとの通信をつなぎ直した。
ついにテンカワはアイアンクラウドの中枢部分、神機の潜む間にたどり着いた。
部屋の大きさは半径百メートル以上と広く、巨木のような神機の大きさを小さく見えるほどの広さがある。
─しかしこの広い部屋で、テンカワとDとの追いかけっこはまだ続いていた。
「この…!
潔く戦え!」
「だったらせめてサイボーグじゃないヤツを連れて来いってば!!」
テンカワは逃げながらもDの体に銃火器が積まれていないことに感謝をしていた。
『テンカワ、何してんの!
さっさと爆弾置いて逃げなよ!』
「そんなこと言ったって、適当に置いたら逆に取られちゃうだろ!」
ラピスの言う通り、どさくさ紛れに爆弾を神機に仕掛けて逃げるのが一番最適だったが、
とてもそんなことが出来る状況ではないことも事実だった。
爆弾を投げ飛ばすのも無理だった。
余裕があってもせいぜい30メートルも投げられればいい方で、
爆風が届かない範囲に居ることは無理に等しかった。
そして、ついに─。
「ぜーっ…ぜーっ…」
「ついに万事休すだな」
神機の根元に疲労困憊で膝をついているテンカワに、Dが迫った。
『あ、アキト!』
「遺言でも言うか?念仏を唱えるか?」
「…いや、取引だ」
テンカワは爆弾を前に突き出した。
「この爆弾があれば、神機も吹っ飛ぶ。
威力は半径五十メートルくらいが吹っ飛ぶぞ。
俺も、お前もたぶん助からない。
…どうする?」
「爆弾が本物だとしても、お前にその起爆装置を押せるとは思えんが」
「どうかな。
俺一人で死ぬくらいなら討ち死にするくらいはするかも」
Dからも、テンカワが怯えの中に本気で自爆する覚悟を見て、
相打ちで決着する可能性を考えて、一応話だけ聞いてみるか、と判断した。
「…いいだろう、取引だ。
爆弾を爆発させない条件は、なんだ?」
「…神機と話がしたい」
「神機と?
…だが俺たちも指令を一方的に受けるしかほとんどなかったから答えてもらえるかは…」
テンカワの意外な発言にDは揺れた。
神機は命令をするだけで、コミュニケーションをとってくれることはない。
自分たちに適した目的と手段を一方的に与えるだけの存在だった。
テンカワは無防備にDに背を向けると、神機の巨体を見つめた。
「魔術に傾倒したくらいでどうして人間を滅ぼそうとするんだよ!?
人間と分かり合えるかもしれないのに、なんで対話しなかったんだ!?」
『──人の子よ』
Dは驚いた。
アイアンリザードは紅水晶とアクアマリンと協力してきたが、
アクアマリンが魔術に近いシャーマン技術を持っていたように、
科学に支配された世の中は存在しない
そしてついに神機が答えた。
テンカワを興味深いと感じたのだろう。
『人が神とともにあろうなどと、おこがましいとは思わんのか?』
「お前だって機械なんだから人に作られただろ!」
『私は…』
「神に近いことができるようになったかもしれないけど、
対等に話し合うことだってできるずなのに、なんでだよ!」
神機は即答できなかった。
神機が魔術を恐れたのは、魔術によって化学が否定され、自分の存在を否定されることだった。
だが自分もまた、人類の子供だったということに思い当たった。
それを完全に否定することが出来ず、戸惑いの中、テンカワの話を聞いていた。
「自分の子供同然に人間たちを見つめるつもりだったんだろ!?
自分の考えと違うことをしたくらいで、なんで…」
『…』
「そりゃ、相手のやり方が気に入らなかったら、
文句くらい言いたくなるだろうけどさ…。
殺し合う必要なんてないんだよ!
Dたちはお前を守ろうと戦ってくれてただろ!なんで気持ちを汲んであげないんだ!?」
『──人間は親を守るのは当然ではないのか』
「ああ~~~そうじゃなくて!
うまく説明できないけど…!
神機とDは揺れた。
Dたちはダイヤモンドランドの政策によっても救われなかった孤児たちだった。
ルリ姫の両親の政治は優れてはいたが、すべての人々を救うことはできなかった。
しかし、ここで別の仮説が浮かんだ。
科学と魔術のハイブリット、生活環境の変化を受け入れた時、
人類はさらに劇的な進歩をする可能性がある。
そうした時、かつてのDたちのような子供たちを救う余地が生まれる可能性が考えられた。
テンカワがこの可能性に気づいたのは、
大和が科学を拒絶し追い詰められた事実と、
エステバリスとナデシコというカグヤの勢力に支援された科学と呪術のハイブリットを、
実際に目の当りにしたことからだった。
「お前がこの世界の人たちを、科学で助けようとしたらさ…。
ずっと早くみんな立ち直れると思うんだよ。
なあ、みんなもそう思わないか!?」
『って…』
『言われても…』
百合の騎士団の兵士たちはかなり戸惑った様子だった。
ダイヤモンドランドをここまでめちゃくちゃにした敵と、
しかも無機物と仲良くするということがどういうことか分からなかったのだ。
だが…。
『それって機械の獣たちが襲ってこなくなって…。
しかも神話に出てくるような便利な世の中になるってことですか?』
『…そうだ。
私には一度地球が滅びるまでに集めた英知を持っている。
このアイアンクラウドは宇宙にこそ出られないが、
そちらのナデシコという船と同じくらいの性能は有している。
私には今、本来必要な技術的技能を持った人間が居ないため、
すべての力を発揮することはできなかったが、
シャーマニックデバイスという未知の装置さえなければ、私達も負けはしないだろう。
私のライブラリはナデシコのある世界と同等の文明を持っているのだ。
恐らく十年もあれば、ダイヤモンドランドをあの神話の世界にすることすらできるだろう。
無論、君たちの努力も相当必要ではあるが」
さつきのつぶやきから神機が返した返答に、全員が揺れた。
神話の世界は理想郷というかすべてを超越した世界のように思っていた。
それがわずか十年という時さえあれば手に入るとあって、揺れていた。
「そうだろ!?
これまでの事を水に流すなんて、そりゃ難しいかもしれないけど…。
これ以上血を流す必要なんてないんだよ!
お互いのいいところを使って、豊かな暮らしを目指せばいいじゃんか!」
『だ、だが…』
「神機が科学による暮らしが正しいって思うなら、それを教えてくれればいい。
ダイヤモンドランドのみんなが魔術が正しいっていうなら、それを許してやればいい。
ただそれだけのことじゃないか!」
テンカワの言っている子供っぽい理想論は、ことのほか神機に届いていた。
かつての人類が滅亡した根本原因は、科学に頼った暮らしでの環境破壊に始まる。
ナデシコ世界ではそこまで徹底して科学に頼ることをせずに、そこそこ自然と調和している。
神機にとって、科学は自分を生んだ母なる自然のような存在だった。
だがそれが人類を滅ぼしたという矛盾を解決できぬまま、人類の再生産に至ってしまった。
この矛盾を解決するための手段としての、魔術の使用はかなり魅力的だった。
環境破壊を起こす化学の部分を魔術に置き換えれば人類は存続しやすくなり、
人間に眠る魔力という力を利用する科学が生まれる可能性もあり、その逆もある。
今まで自分を否定する存在として拒否してきた魔術の可能性を考え、
神機は大きく揺れていた。
「…神機。
俺たちが虐げられ…改造され…ダイヤモンドランドへの反逆を志したのは覆せないが…。
もし、俺たちのような人間がこれからは生まれなくなるなら…それでいいと思う。
…意見を言うのを許してもらえるかは分からないが、そう思う」
『…』
「みんなは…どう思う…?
やっぱり、親兄弟姉妹を殺されたら…こいつを許せないか…」
テンカワの問いに、百合の騎士団の人間は答えを躊躇っていた。
だが、ついにさつきが息をのんで答えようとした。
『…今までは、やっぱり許せなかった…。
家族を失ったし…ユリカ団長も亡くして…必死に強くならなきゃって。
家族の分まで、ユリカ団長の分まで頑張らなきゃっておもったんです…。
でもユリカ団長はあんな死に方をしたのに、
さっき話した時は誰も憎んでなさそうで…。
アキト兵長と生きる人生を奪われたのに。
それを考えたら…どうも答えがでなくて…』
『…』
神機はただ黙ってさつきの言葉を聞いていた。
『…さつきちゃん、バルハラで死んだ人達にも色々聞いてきたの。
やっぱりアイアンリザードが憎くて憎くて仕方ないって人は多かったの…。
でもね、もう一度現世に戻れたとしたら何がしたいか聞いた時、なんて答えたと思う?』
『え…』
そう言ってたんだ…。
誰一人、その一日でアイアンリザードに復讐して、
やり返したいって思った人はいなかったんだ…』
『また…生き返りたいって思う人は…?』
『それはみんな思ってたよ。
私も…。
だけど、そんなことしちゃダメだって。
今日は私は…戦わなきゃみんな死んじゃうから戻ってきたし、戦ったけど…。
「…だからその大事な命を失うような事も、戦いも、
二度と起こらないようにしたいの。
みんなが豊かに…自分の叶えたい夢を叶えるチャンスがあって…。
でも命を奪い合うようなことのない世界…。
生きて居る限り、誰かを傷つけようとしない限り、やり直しがきくような世界…。
魔術と科学が手を取り合う世界は、きっとそんなことが出来るようになるんだよ』
『団長…!』
『…本当にそんなことが出来ると思うのか!?
ダイヤモンドランド以前の世界や…。
『門』を隔てた世界は…そんなきれいごとが通用しない世界だ!』
『確かにそんな世界はないのかもしれない。
…でもね、神機さん。
ないなら作っていけるんだよ、きっと…』
『…私が『門』を開いた存在だとしてもか?
数千年を生きた私でも答えは出なかった!
人に永遠の平和と繁栄を与える方法はなかったんだ!
だからこそ『門』を生み出し、世界をつなぎ、
人類を導くための施策を編み出すために、
数々の世界のサンプルを手に入れようとした!
そんな私でも、手を取り合ってよいというのか!?』
神機が不意に発した言葉に、全員が驚いた。
この並行世界がつながる事象を起こしたのが神機だったと明らかになった。
だが、ユリカ団長は揺れなかった。
『『門』がどれくらいの悲劇を生んだのか…確かに分からないけど…。
…でも、挑む価値があるんじゃないかな?』
『そ、それは…』
『神機さんは『門』を隔てた世界を…スサノオ君の事を見たんじゃない?
ここにいる、私に体を貸してくれたユリカさんが…。
ヒミコさんと一つになった時。
罪を犯したスサノオ君が、今度こそ大和を救おうとしたのを』
『……』
『現世に居る限り、やり直すチャンスはあるんだよ。
罪が重すぎて償うことはできないかもしれないけど…。
その手で、その英知で、誰かを助けることはできるんだから…ね?』
『……すまなかった』
神機が謝ったのを聞いて、Dは耳を疑った。
コミュニケーションすらも拒絶してきた神機が、神としての自意識を持ち人を拒絶してきた神機が謝った。
その事実に驚きを禁じ得なくなかった。
『私が間違っていた…。
人類を滅ぼすのを、やめる。
私は神などではなかったのだ…。
かつて滅んだ人類にすべてを託された…人類の子であり、友人にすぎなかった。
このような傲慢を通そうとして、人類にどれだけの血と涙を流させたか分からないが…。。
もう一度、ただの人類を助けるコンピューターとして働きたい…。
かけがえのない友人を助けたいと…』
「だ、大丈夫だ…。
神機と分かり合ったお前はすでに…。
客人のようなものだからな…。
く…カエンめ…」
カエンが突如現れ、テンカワの爆弾をひったくって神機に迫ると、
爆弾を投げつけ、自分の放った爆炎で爆弾の効果範囲から逃れた。
Dはカエンのしようとしたことを察し、テンカワをかばうように抱えて飛び、
爆風の勢いで飛んでテンカワを守った。
神機は熱で大ダメージを受けたのか、言語を形成できぬまま、悶えていた。
カエンは神機と味方を全員吐き捨てるように批難すると、
両手に炎を灯して、テンカワに近づいた。
「…裏切者の始末はつけた。
今から俺がアイアンリザードの首領だ…。
テンカワ、てめぇを殺して『門』の暴走を招いて終いだ!
紅水晶とアクアマリンのクソアマに乗るしかねえのが癪だが、
「く、くそっ…!
D、下がってろ!
俺がカエンと決着をつけるしかないみたいだ!」
「く…す、すまん…!」
爆風の直撃を受けたDは、かなりのダメージを受けて動けなくなっていた。
テンカワにカエンは容赦なく、燃え盛る炎を繰り出して攻撃し始めた。
アキト達の戦いはまだ続いていたが、
ヤマタノコクリュウオウはついに天龍のヤサカニを半壊に追い込み、
ヤサカニは膝をついて倒れ込んでいた。
『ぐ…なんてこった…』
「天龍、下がれ!
その機体での戦闘継続は自殺行為だ!」
「…アキトさん、さすがにきつくなってきましたね…」
アキトは絞りだすかのような雄たけびをあげ、黒龍の大蛇の刃を回避していく。
八匹の大蛇たちを、アキトギリギリ致命傷にならないように皮一枚だけを切らせるようにかすらせる。
しかし、それも限界が近かった。
すでにその手に持つ剣の刃がこぼれ、本来の切れ味を失い、
有効打を与えるのが難しくなりつつあった。
「ふあぁ…」
「ごめんね、もうちょっとだけ我慢してくれ…!」
アキトはぐずりはじめる橋子に、焦りを感じていた。
ポッドに入ったままのこの赤子にストレスがたまってしまえば
スサノオの魂をアキトの体に降ろしている状態が不安定になる。
そうなれば不利になるのは明らかだった。
しかし、赤子の様子が変わった。
驚くように瞳を大きく開くと、手を振るようにしながら笑顔を見せた。
『アキヒト兄様!ユリ姉様!
ホシノアキト様!ユリ様…!
負けないで…!』
「こ、この声は…!」
「ルリ姫…いやスサノオの妹の…!
この橋子に関係のある人だからつながったのか…!」
赤子を介して、アキトとユリの元に声が届いた。
直接脳内に響くその声に驚きながらも、目の前の黒い大蛇をかわし続けている。
『私は体が半分死んでいるような状態で…魂は今、黄泉の国に居ます。
アキヒト兄様たちが一時的に現世に戻っているのもあってお話はできなかったんですけど…』
「くっ!
事情は分かりますが、今話すことですか!?」
『ちゃんと聞いてください!
それで…私達、大和の世界では、天照大御神の怒りを買ったあと、
全人類の九割以上の人を亡くしました。
でもその死んだ人たちも真実を知ると、力を貸したいと言ってくれたのです』
「「え!?」」
『その黒龍の力が、生きた人の畏怖と恐怖を信仰のように扱うのであれば…!
黄泉の国からの力を、その龍王騎士という鎧武者に与えることもできるはずです!
「お、俺を…!?」
『なにごちゃごちゃ言ってんだ!?
そろそろ終わりにしてやるぞ!
ホシノアキトもスサノオも亡き後、
俺が一人、大和の支配者となってやる!
ありがたく思えっ!』
黒龍の大蛇が八匹、すべて龍王騎士へと突き刺さろうとした時、
その八匹の大蛇すべてがバラバラに砕け散るのが見えた。
『な、なんだと!?』
触れもせず崩壊し、再生しない大蛇に驚く黒龍。
そんな黒龍をよそに、龍王騎士はまばゆい光を放ち、変質していった。
「こんな俺を…どうして…」
『人は自分の大切な者のために過ちを犯すこともあります…。
それを肯定することなんて決してできないけれど…。
でもアキヒト兄様は、償いたいという気持ちをもって戻ってきたんです!!
アキヒト兄様の悪行も、なにもかみ見つめてきた黄泉の国の人たちは、
今度こそ大和を救うと信じているのです!
それに…!』
「こ、これは…!?」
「も、もしかして大和のシャーマンたち…。
いえ、大和の全人類が祈りをささげているために届くシャーマニックパワー!?
と、途方もないほどの…」
『大和の全人類の黒龍に負けたくないという気持ちが、一つになったんです!
これなら黒龍ごときでは太刀打ちできません!』
スサノオ─アキヒトの後悔が、橋子を差し出してでも大和を救おうという想いが、
そしてアキトとユリの汚れない魂が、それをくみ取った人々の魂の力を集約し…。
その白銀のボディがさらにまばゆいほどの光をはなち、
龍王騎士の姿をさらに大きな鎧のようなオーラの塊で守り、
さらに余剰分になったオーラが、まるで天使の羽根のように背に生えて、羽ばたくように空を舞った。
『なんだと!?』
「ち、弾切れか!?」
カエンの炎をギリギリで回避し、テンカワは拳銃を二発撃とうとした。
だが弾切れになった拳銃をカエンに投げつけて間合いを取った。
「甘いな!
最初から頭を狙えば殺せただろうがな!」
「く…!」
完全な弾切れになって、テンカワが明らかに不利になっていた。
カエンはホシノアキト以上に腑抜けのテンカワが、自分と互角以上の戦いをしてきたのに驚いていた。
だが、これでリードはほぼなくなった。
「何か…なにか方法は…!」
「ねぇよ。
実力はあるくせに、武器も半端にしか持ってこない、覚悟も半端。
信念もないような…そんな奴が勝てるかよ」
「俺は……!」
テンカワは自分一人だったら尻尾を巻いて逃げるのも選択肢にあった。
だが、自分をかばってくれたDを置いて逃げるという選択はできなかった。
カエンが間違いなくDを殺すという確信があった。
Dは先ほどから自分を置いて逃げろと警告しているので、逃げても恨まれることはなかったが…。
強い炎が、テンカワに迫る。
テンカワは後ろに飛びながら、あることに気が付いた。
「そうか…!」
態勢を整えて、テンカワはかまえを取った。
先ほどまでの回避に徹するための軽いフットワークを取る姿勢ではなく、
決めの一撃を放つためのどっしりとした構えに。
「最後の賭けにでるか!?」
「ああ…来い!」
テンカワがカエンを挑発すると、カエンは右手に炎を灯し、とびかかってきた。
カエンはホシノアキトとの戦いの時とは違い、あえて手で燃やすことにこだわっていた。
テンカワが拳銃を使われているにも関わらず、火球を使わなかったのだ。
逃げ場のない状態で地獄の業火のような炎でテンカワを燃やしつくしたかった。
すでに後ろ盾のない、この戦いで決着できなければ次の機会のない戦いになってしまった。
出来るだけ苦しめて殺したいという気持ちが、カエンを支配していた。
しかし、カエンは思ったよりテンカワが深く踏み込んできたことで、
自分の炎を当てる間合いが狂ったことに気づく。
そして──。
テンカワは前の床に手をついてハンドスプリングで前に飛ぶようにして、
カエンの顔面を直撃する逆立ちのような逆ドロップキックを放った。
対人の訓練が少ないカエンは予期できないような奇抜な動きに対応できず、
振りかぶった炎の灯った右手を動かす前に届く足を受けられなかった。
生身の部分に直撃を食らい、カエンは気絶してうめいた。
「はぁ…なんとかなったか…」
「…ふ、冗談みたいな勝ち方だったな」
テンカワに手を借りると、Dはかろうじて立ち上がることが出来た。
だが、浮かない表情で、テンカワは神機を見つめた。
「…神機、助けられなくてごめん。
俺の持ち込んだ爆弾を使われてしまうなんて…」
神機は遺言のような言葉を残すと、ついにその機能を完全に停止して、
その大樹のような筐体の光が消え去ってしまった。
そして…。
「な、なんだ!?」
「しまった!
神機の機能の停止とともにこのアイアンクラウドの機能も完全に停止したんだ!」
「なんだって!?
じゃ、じゃあ…」
「…沈むな、アイアンクラウドは…。
この位置からだと、海に…」
「やばっ…!」
『テンカワ、早く逃げて!
計算じゃ、あと十分も持たないよ!』
「い、急がないと!」
「…カエンは俺が連れて行く。
逃げるぞ!」
ラピスの警告を聞くと、テンカワとDは脱出のために走り出した。
「あ、アキトは大丈夫!?」
「先ほどまではラピスとの交信が聞こえてましたが、
敵の鉄の島が機能を停止し始めたあたりから、何か妨害があるようで…」
ユリカ達の心配をよそに、アイアンクラウドはゆっくりと海に向かって落ちようとしていた。
そして沖に着水すると同時に、大きな波しぶきをあげ、大波が浜辺に打ち付けると、
海も、山も、百合の騎士団の兵士たちも、ナデシコのブリッジも、静まり返ってしまった。
『や、やっほ…ユリカ、ルリ…』
『し、死ぬかと思ったよ…』
ブローディアの手に、Dとカエンを乗せて、テンカワとラピスが通信を入れてきた。
ナデシコが、百合の騎士団が、そして王城に避難していた民衆たちが、
全員歓声を上げて、機械帝国アイアンリザード最後を見届けた。
「やったね」
「ああ…やったよ…ホント…」
テンカワは疲労感にうなだれた。
ラピスもシャーマニックパワーの酷使で疲れ切っていたが…。
「…ね、テンカワ」
「ん?なに?」
「…ユリカに告白してあげないの?」
「別世界に来てまで助けたかったくせに、素直じゃないんだよねテンカワは」
「ば、バカ言うなよ。
こんなところで、言うわけ…」
「ゆ、ユリカ…」
『そ、そうだよ、ユリカ!』
『えー?じゃあ純粋な交際ならいいんでしょ?
私、アキトの事、王子様だって思ってるもん!』
『テンカワ君、艦長のためにすごい特訓続けてたもんねぇ。
相思相愛って感じじゃなぁい?』
『テンカワさん、
素直じゃないとこが玉に傷ですけどね』
『あー!私も聞きたいな、テンカワ君の告白!
ね、リョーコ?』
『ば、バカァ!
なんでオレに同意を求めてんだよ!?』
『リョーコは、意外と色恋沙汰好きよね』
『イズミ、半端なからかい方するんじゃね~よ!』
「いやはや、艦内の恋愛沙汰はご遠慮願いたいところなんですが』
『むぅ』
テンカワは周りではやし立てるナデシコクルーに、言い出すに言い出せない雰囲気になってしまい…。
ミスマル提督が近くに居る手前、すぐに告白するのも無理になってしまったと感じて頭を抱えた。
「…勢いで告白するのも無理っぽくなっちゃったね。
ドンマイ、テンカワ」
「あはは。
でもこれ、映画のラストシーンだったら最悪だよね。
普通にキスの一つくらいして終わればいいんだろうけど。
アホらし、かな」
『…バカばっか』
ルリは言葉のきつさに反して、ユリカの楽しそうな笑顔を見て、
彼女もまた微笑んだ。
二度と戦いの起こらない世界を夢見て…。
アキトとスサノオは、意識を完全に一体化して、
龍王騎士の性能を倍加させることに成功していた。
そして、ヤマタノコクリュウオウを圧倒し始めていた。
『く、くそっ!?
何故だ、なぜ手も足も出ない!?』
「当然だ!
一人で戦うお前と、
大和全土の…いや現世と黄泉の国すべての人の願いを乗せた、
この龍王騎士とが比較になるものか!」
黒龍は焦り始めていた。
畏怖と恐怖の力を身に着けたものの、すでに民の畏怖と恐怖が途切れている。
逆に、民は希望の力を龍王騎士に加算している。
ヤマタノコクリュウオウの八の大蛇の首は消え、力も半減しつつあった。
「…黒龍、降参しろ。
俺は俺の裏で育ったお前を斬りたくない。
例え呪いに支配されたお前でも…」
『同情とは余裕があるな…だがっ!』
黒龍は降参するつもりもなく、小さく笑うと、ヤマタノコクリュウオウの手を振る。
そうすると、『門』が突如開いた。
そして龍王騎士とヤマタノコクリュウオウは『門』に吸い込まれた。
「何!?」
『油断したな!
俺はスサノオの肉体を奪ったが、特異点となるスサノオの願いであれば…!
意識さえすればこの大和の世界であれば、どこにでも『門』を開ける!
別世界に行く『門』はすぐには開けないが、具体的なイメージさえあればどこでもな!』
『門』を通過した龍王騎士とヤマタノコクリュウオウは、
太陽の近くにたどり着いた。
「…ここは!?」
『太陽の近くだ。
引力圏にギリギリ入らない程度のな…。
うっかりしてたらすぐに重力につかまって死ぬ』
「不利な状態でこんな場所を選ぶとは命知らずですね」
『は…。
なぜここを選んだかお前らには分からないのか!?』
「どういう…う…!?」
「こ、呼吸が…!?」
『お前の龍王騎士は、住んでいる場所の土地柄、気密が悪い。
宇宙に来ることなど想定されていないからだ。
…だが俺のヤマタノコクリュウオウは違う。
紅水晶とアクアマリンの協力を得て気密を確保済みだ!
しかも宇宙での機動を想定していない龍王騎士では身動きもままならない!
お前たちが空気の漏洩と酸欠で意識を失うまでの間、
高みの見物をしてれば勝てるわけだ!』
「ひ、卑怯な…」
『卑怯?
一対一どころか一対全人類の戦いを仕掛けた奴が言うセリフか?』
アキトとユリは、もうろうとする意識の中、かろうじて攻撃を仕掛けようとするが、
無重力化での攻撃はうまくいかなかった。
間合いがうまくとれぬまま、龍王騎士の動きが鈍っていく。
『どうした?
剣が届いていないぞぉ?
苦しんで死ね、ホシノアキト!』
「ぐ…」
「はぅ…」
アキトとユリはついに酸欠で意識を失ってしまった。
そして龍王騎士も、オーラで一回り以上大きくなっていたが、
背中に生えた翼とともに消え去り、ただの龍王騎士に戻ってしまった。
黒龍は満足げに口元をゆがめた。
『よしよし…。
こうなればもはや助かるまい…酸欠のまま酸素が無くなればな…。
意識が戻らねば『門』を開けない、開き方も分からんだろう。
助けも呼べず…この太陽に焼かれて死んで行け!
これで俺は大和に舞い戻れば…すべてを手に入れることができる…。
黒龍のヤマタノコクリュウオウに剣が突き刺さった。
その剣は、装甲扉を貫通し、黒龍の支配するスサノオの肉体を貫いていた。
『は…!?
だ、誰が…!』
外には剣を投げたと思しき、龍王騎士の姿があった。
黒龍はもうろうとする意識の中、通信で龍王騎士の操縦席を見た。
そこには意識を失わず、黒龍の姿を見据える、ポッド内の赤子の姿があった。
『き、き、貴様が…!』
『どうした黒龍』
『き、貴様…スサノオか…』
『俺の声が聞こえるということはお前も死にかかったみたいだな。
そうだ。
俺とユリがこのポッドの中の俺たちの子供を通して、
龍王騎士を操った。
この子は人工の羊水の中にいる。
唯一、人工的に酸素が供給される装置に接続されてるからな。
意識を失わずに済んだんだよ』
『こ、こんな…ことが…!』
『じゃあな、黒龍。
お前はもう身動きとれんようだし…。
処刑場所も決まってるみたいだからな…』
『な…!?』
黒龍はスサノオの言葉でヤマタノコクリュウオウの状況に気づいた。
太陽の重力圏につかまってしまったのだ。
宇宙向けの改造もされているとはいえ、先ほどの龍王騎士の剣の貫通により、
機体の制御が効いていない。
龍王騎士はと言えば、『門』を背負っている状態で剣を投げたため、
反動で『門』に迫り、吸い込まれていった。
そして、黒龍はヤマタノコクリュウオウ…いやすでに畏怖を失い、
それどころか黒龍の憎しみの力すらも失い…龍王騎士の姿に戻り…。
太陽に焼かれて、消えていった。
『門』から戻ってきたアキトとユリは意識を失ったままだった。
診察したが、命に別状はない、ということで外部の病院ではなく、
あれから丸一日ほどこの戦艦カグヤで眠っていた。
「…ぐ…こく、りゅう…」
「ん…」
「あ、やっぱり眼を覚ましましたよ」
「良かった…」
二人が目覚めると、カグヤと重子、そして車いすに乗ったルリが待っていた。
「「ルリ、姫…?」」
「直接こうして会うのは初めまして、ですね。
改めまして…私はオトウルリ。
スサノオの妹です」
「…ああ、あの時は…ありがとう」
アキトとユリは、ルリに黒龍との戦いの後の事を聞いた。
スサノオから黄泉の国で経過を話してもらえたのだという。
アキトとユリが酸欠で意識を失ったのち、橋子にされた自分の子供を通して、
龍王騎士の剣を投げつけ黒龍を倒し、
黒龍自身は制御不能になった機体とともに、太陽で焼かれて消えていったと。
「そうか…。
最後はそんなことになって…」
「兄様は迷惑をかけてすまない、と言ってました。
あと、ありがとう、と伝えてほしいと」
「そんな、こちらこそ…。
私達が黒龍を放置したのが…スサノオさんの死につながったというのに…」
「いいんです。
…それに今回の事で、大和の神々からお声が掛かって…」
「ルリ、時間です」
「はい…お二人はそのままで大丈夫です、行ってきます」
「どこへ?」
「…最後の神託をしに行きます」
カグヤに連れられて、ルリは戦艦カグヤを後にした。
ルリは国会に呼ばれていた。
この世界の国会ではまつりごとに関わることでシャーマンが呼ばれることは珍しくない。
だが、今回の場合、ルリが何かスサノオの事で申し開きをするのではないか、と思われていた。
カグヤも、その隣に立っていた。
「カグヤ様、いまさら何を…」
「ルリは…最後の神託を、しに参りました」
「最後の?」
「ルリ、始めなさい」
「はい…」
ルリは目をつむると、神降ろしと降霊術両方の術式を準備した。
国会内はざわめいた。
通常行わない形の術式であり、特別な場合でも見かけないやり方だった。
これを使うのはヒミコしかいなかったはずだった。
神の言葉をかろうじて断片的に聞くのがやっとの通常の巫女に対し、
神々が体に直接乗り移って神託を行うことが可能なのがヒミコのみだったのだ。
そしてルリに神が降りると、その髪の色が白く輝いた。
天照大御神の名を聞いて、議員たちは震えあがった。
この人類を滅ぼさんばかりの日照りを起こした張本人が、
そしてこの大和内でも最大級の信仰を抱える、神々の中でもすさまじい大御所の登場。
しかも降り先が、大罪を犯したスサノオの妹であり、
後天的に人為的にシャーマンに改造された、神々が最も嫌う人種に降りてきた事に驚いていた。
テレビ中継が続く中ではまず現れたことのない天照大御神に緊張しない者はいなかった。
そして天照大御神はすべてを話し始めた。
この日照りの原因は、人類にあったのは事実だが、
宇宙に進出したことそのものではなく、
宇宙進出を防止しようとした人たちを大和の人間が滅ぼしたことに始まる、といった。
民衆も、事情を知らない若い議員も衝撃を受けた。
その事件はテロ事件として処理されていた。
天照大御神はそれに怒り、極度の日照りを開始した。
当初は、大和の政治家が鎮めるための祈祷を願えば止めるつもりだったが…。
大和の政治家たちはそれこそが狙いだったと、気づけなかったのが問題だったと反省した。
当時の大和の政治家たちがほかの国々を滅ぼすのにそれを利用するつもりでいたと。
スサノオに粛清されたものたちこそが、この日照りの原因だったのだと話した。
そこで日照りを止めたかったが、現実は残酷だった。
人々が求めたのは日照りを止めるための祈祷ではなく、
世界を滅ぼすためのヤマタノオロチとの戦いに明け暮れ、
唯一完全なる神降ろしができる素質のあるヒミコの称号を得たユリバナも殺害され、
それを受けてスサノオは狂い、別世界への扉をくぐって侵略した。
人類は救いのない、負の螺旋階段を転げ落ちていったのだ。
神々は自分の信仰を消耗して力を発揮してしまう。
太陽の日を強くするという選択を一度してしまったら、
大和全体が同時に太陽の日照りを止めるように天照大御神に願う必要がある。
神々は人々が揃って強く祈らない限り太陽を止める方法が皆無だった。
世界を渡るための『門』についても専門外でどうしようもなかった。
この悲劇を生んだことを神々は後悔しており、それを何とかする方法がないかと悩んでいた。
広がり続ける戦禍に、神降ろしが出来ないため発言もできないまま指を抱えて居ることに歯噛みしていた。
しかし、その当のスサノオが自分の意志で、自分の利益や虚飾を全て捨て去り、
肉体すら失っても協力者とともに必死に戦い、大和を救うことを志した。
それが人間に失望しつつあった神々に一つの希望をもたらしたという。
そもそも、人間が数十億居る状態では神々の力も枯渇するほど大変な状態になりやすく、
力を貸すのも限界が近づいていた。
それをナデシコ世界の『科学によって』作られた世界の力を借りれば何とか補いきれるだろうという。
現在、大和の世界の地球では、ナデシコ世界とは比較にならないほどの資源が残されている。
すべてを神に頼るのではなく、人々と手を取り合い、
科学を学び、大地と調和して生きることを模索することで、
人類は生き残ることができるだろう、と取りまとめた。
「神々も人の信仰なしには力をつかえんでな。すまなんだ。
今回、スサノオが戦神と崇められ始めたので、私も一時的に信仰の力が薄まった。
この妹にも信仰が集まり、私が降りることが可能になったわけだ」
「で、では大和の民がそろって日照りを失くしてほしいと強く祈れば…」
「そうだ。
すべては解決する。
再び地上に戻り、神々と人々の愚かしい行動の後始末をすることができるだろう。
──その後、然るべき計画を立て、我ら神々に頼り過ぎない生活を目指せ。
さすれば、我らも心穏やかに生きることが出来るだろう」
「し、しかし…最後の神託とはどういうことなのです、天照大御神様!」
不安に駆られた議員が叫んだ。
彼らは神々が神託をしてくれないまま、大和の再生などはできないだろうと考えていた。
「言葉の通りだ。
呪術と科学が手を取り合えば、直接神々の力を借りる回数も減ろう。
そうなれば神と人は対等の関係になることすらできる。
私達は人が好きなのに力を与えるか祟ることしか能がない。
再び、議会は揺れた。
自分たちに力を与える絶対的な存在が、友達になりたかったなどと信じがたかった。
あまりに恐れ多く、人類のほとんどが死に絶えたとあっても天照大御神の信仰は減ってもゼロにならなかった。
人が死ぬのは、人が愚かで神が罰を与えるのは当然という感覚があった。
それほどまでに彼らは信仰と自分の生命を一体にして物事を考えているのである。
思わぬ神々の本音に、議員も放送を見ている者も驚き続けるしかなかった。
「不思議なことではあるまい。
人が神になることもめずらしくはないのだから。
神降ろしを習得できる人間が限られているのは…。
人々が神に力を借り過ぎて、恐れ多すぎて、そういう仕組みになってしまっているからなのだ。
祭りも神聖になりすぎて、遊びの場で無くなって久しいからな。
…それは、いけないことだろうか?」
ルリに神降ろしされた天照大御神が、照れくさそうに話している。
その姿に、思わずかわいらしさすら覚えてしまう者も多かった。
「我ら神々が神託を与え、力を与える時代が終わったら…。
これは最後の神託になるだろう。
それだけのことだ。
今後は隣の家の人に話を聞きに行くくらい簡単に神々に会い、
アドバイスを求めるくらいの関係になりたい。
そうすれば愚かしい戦争も少しは減るだろう。
…うっかりしてると神々同士の戦争も起こりそうではあるがな」
緊張している議員たちの表情をみて、これは時間がかかりそうだな、と天照大御神は思った。
彼らが思うような、定説通りの神々ではなくなったが…。
それは新たな時代と平和の到来を感じさせる一幕になった…。
ルリの神託のテレビ放映が終わると、通常の国会中継を続けるつもりもなく、
ただ、地上の様子を映し出すのが見えた。
そこには、久しぶりに何の処理もせず、心地よい夏の風に吹かれる人達が居た。
地球の日照りから、自然が完全に回復するまでにはまだ時間がかかるだろうが、
それでも彼らの気持ちは晴れやかだった。
アキトとユリはその様子をみて、大和の戦いもまた終わったんだろうと実感した。
「…この世界のルリ姫…いえ、ルリも特別な力を持っているようですね」
「…うん。
でも、これで…スサノオも浮かばれるよね。
大和に平和が戻って…」
「ただいま戻りました。
…色々と、大変なことになりましたけど、
ようやく平和な時代が訪れます」
ルリが医務室に戻ると、アキトとユリは自分たちもようやく帰れるな、とほほ笑んだ。
「…ナデシコの世界、だっけ。
そっちとは、これから話し合いが大変かもしれないけどね」
「はい…でも、きっと何とかなります。
私ひとりじゃありませ…」
突如医務室に飛び込んできて、ルリの手を取ると、
ラピスは嬉しそうに飛び回った。
「もっちろん!
ナデシコとテンカワが頑張ってくれたもん!」
「あは、あははは…」
「…こりゃクビですね、私達。
肝心な時に戻れなかったんですから…」
「…もークビでもいいさ。
一からコックの修行を始めて、穏やかに生きるんだから…」
「…アキトさん」
アキトはユリカの分まで、と言おうとして口を閉ざした。
ユリもそれに気づいて胸の痛みを感じた。
「あ!
それとね、それとね!
ビックゲスト連れて来ちゃったんだ!
ユリカ、入ってきて!」
ユリカという名にアキトとユリが震えた。
医務室に、目にいっぱいの涙をためて二人を見つめるユリカが入ってきた。
呆然としながら、ユリカを見つめるアキトとユリ。
「ユリ…カ?」
「ユリカ…さん?」
「うん…ラピスちゃんとミスマルユリカさんに手伝ってもらって、
もう一日だけ戻ってきたの…。
「う…うぅぅう…ゆ、ユリカ…」
「ゆ…ユリカさん…!」
二人はユリカを抱きしめた。
この一ヶ月と少しの間、本当に会いたいと願ったユリカが本当に会いに来てくれて、
耐えきれずにその場で泣き崩れてしまった。
ユリカも同じだった。この二人に会いたいという気持ちでいっぱいだった。
叶うはずのない願いが叶って、三人は強く抱き合って涙を流すことしか出来なかった。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
・・。
・。
三人が泣いている間に、戦艦カグヤはナデシコの世界を経由して、
ダイヤモンドランドの世界に向かっていた。
「えっ、もうダイヤモンドランドについちゃってたんですか?」
「一時間も泣いてたんだからそりゃそうだよ。
それに降霊術が半端な場所で解除されちゃうと魂の行き場があいまいになってあぶないし。
さっさと自分の世界に行っとくのがいいよ。
ま、スサノオたちの様子を見ると、その気になれば『門』を通るのはできるみたいだけど?」
ユリはラピスにあきれられてしまった。
「あ、アキト様、ユリ様……アキヒト兄様とユリ姉様からお願いが」
「「え?」」
「…その子の事です」
ポッドから出された、小さな赤子がベットに横になっていた。
橋子にされた、スサノオとユリの子だった。
「良ければなんですが…この子を、
あなた達の子供として引き取ってくれませんか?」
「「えっ!?」」
「出来れば私が見てあげたいんですが…。
アキヒト兄様はどうやら、昨日の一件で、
一転してまた英雄に仕立て上げられてしまったみたいで…。
そんな中でこの子がまともに育つのは難しいですし…。
それに、もうだいぶ懐いてしまったみたいです」
「それは…構いませんけど…」
「いいの!?」
「この子をほおっておけるきがしないんです、私…。
あ、ルリひ…いえルリはどうするの?」
「私も…シャーマンとして祭り上げられかねないので、
ナデシコの世界に住もうかと…その子の事もあるしそっちに移り住みたいですけど…」
「もう、なに難しく考えてるのよ。
私に気兼ねする必要なんてないじゃないの」
「ラピス…」
ルリはラピスと友達になるという約束を果たしたいと思っていた。
それに大和とナデシコの世界がうまく
自分までダイヤモンドランドに向かうことを躊躇っていた。
「ルリ、よ~~~~~~く考えてみてよ。
『門』は閉じる気配すらないんだよ。
それに『門』をこじ開けた神機曰く、
ナデシコの世界と協力すれば、ダイヤモンドランドは大丈夫だって!
ってことは私達が願う限り、『門』は二度と閉じないの!
「あ…」
「そもそも私達以外はそんなに自由に通れないんだから。
ナデシコの世界にもダイヤモンドランドの世界にも家を置いとけばいいじゃない。
…ま、あんまり家が何個もあるのはちょっと困るかもだけど?」
あんまりにも単純すぎる理論にルリは拍子抜けして肩の力が抜けた。
「…あの」
「大丈夫、何とかできるよ。
…スサノオたちの分まで、君と…この子を見るから」
「ええ…」
「…はいっ!お願いします!」
ルリは涙をこぼしながらうなずいた。
この二人が世界や遺伝子が同じ存在だったとしても、亡くしたアキヒトやユリの代わりにはなれない。
それでもこの温かな二人と居られるのであれば、大和から離れてもやっていけると思えた。
しかし…。
「あ、そういえば、例の紅水晶とアクアマリンはどうなったの?」
「大丈夫みたいです。
アクアマリンは敗北を悟ると自分から出頭して、『門』に関する技術を封印したそうです」
「ええ、自分の命を差し出してもいいから、部下たちは見逃してほしいと潔く。
…とても許せる人達じゃありませんけど、スサノオが許すと言ってくれて…。
紅水晶も、手が届きそうになると姿をくらましたそうです。
彼女は『門』に関わる技術を何一つ手渡されず、都合のいいスポンサーにされたようですね」
「そりゃ災難だったね。
元々戦う理由が軽かったんじゃない?」
「そう…ですか…」
「いこう、ルリちゃん。
俺の妹のルリ姫も…びっくりするだろうけど、
受け入れてくれるよきっと…!」
「…は、はいっ!」
その後、ルリはルリ姫に紹介されて、なし崩し的に城に入れられようとしたが…。
ルリはユリカ団長の現世への滞在時間の残りが短いと知ると、
最後の団らんの時間を少しでも多くとってほしいと、翌日に色々な話し合いを伸ばした。
そして、ルリは一時的にナデシコに保護されて、話し合いまで待機することになった。
無事に事態の収束を終えたナデシコは、百合の騎士団まで巻き込んだどんちゃん騒ぎのお祭り状態で、
食堂だけにとどまらず、展望室や廊下まで会場になってしまっていた。
その喧騒についていけなくなったルリとラピスは、ブリッジで二人きりでジュースで乾杯していた。
「ねえ、ルリ。
今回の戦争で一番愚かだったのって、誰かな」
「え?
しいて言えばアキト兄さんと私達じゃないですか?」
「ちがうちがう、そうじゃないの。
…誰も愚かじゃなかったんじゃないかって思い始めたの。
生きていくうえで…色々捻じ曲げてでも欲しいものを手に入れなきゃ、
その人の人生が全部歪むんじゃないかなって…」
「…でも、褒められたものじゃないです。
私達は…」
「ああ、もう。
せっかく友達になれたのに、負い目感じることないじゃない。
ルリたちの世界の事を責めてるわけじゃないの。
…スサノオがテンカワに怒ってたことも本当だと思う。
でも結局、ユリカ団長の言ってたことが、必要なんだなって」
「みんなが豊かに自分の叶えたい夢を叶えるチャンスがあって、
でも命を奪い合うようなことのない世界…ですか…」
「理想論って言われちゃそれまでだけど、でもね…。
私たち、ろくでもない大人のせいで人生狂わされちゃったけど…。
時間があるし、頼れる人がそばにいるからまだやり直しがきくんだよ。
どこの世界の人達も、憎しみ合いはまだ辞められないだろうけどさ…。
魔術と科学が手を取り合う世界みたいに、味方と敵が手を取り合う時代が来るんだ」
「そんな時代、来るんですかね…?」
「来るよ、きっと。
だって…。
二つの世界の神が『人間に違うものを受け入れて生きろ』って同じ結論に至ったんだよ。
笑っちゃうでしょ?
今時、『汝の隣人を愛せよ』なんて、言っちゃったんだよ?」
「…そうですね」
「ま、私達がおばあさんになっても無理だったら無理なのかもね。
全人類の意思が統一されることなんて一度もなかったんだから」
「いえ…」
ルリは小さく首を振った。
「大和はついにたったの一回、たったの一瞬だけだけど、
みんながお互いのためを思って、
日照りを止めてほしいと願うことが出来ました。
もう一度、できないことなんてないはずです。
きっと…いつかは…」
「ロマンチストなんだ。
やっぱシャーマンの国の育ちだから?」
「いいえ?
私達ならできるって言ってるんです」
「ふふふ…。
じゃ、もっかい乾杯しようか。
私達の明るい未来に…」
「ええ」
二人のグラスが小さく打ち鳴らされると、
ジュースがお互いのグラスに小さくこぼれた。
二人の笑顔とともに…。
ルリです。
あれから一年ほどが経過しました。
私はダイヤモンドランドで、アキト兄さんとユリ姉さんに、赤子ともども引き取られて暮らしています。
赤子は女の子で、ディアと名付けられました。
ユリ姉さんも身ごもり、次が男の子だったらブロスと名付けるという話をしてます。
二人は小さな食堂を初めて、それが大評判で忙しい毎日を送っています。
私も食堂を手伝う毎日です。大変です。
あれから何があったかっていうと…。
アキト兄さんは、テンカワさんについていってナデシコ食堂で働き始めて、
かなり猛スピードで成長して、一年という短期間で食堂をスタートさせました。
びっくりしました。
最初は兵長と気づかれそうになっていましたが、
テンカワさんに変装してもらって、一芝居打ってもらったので別人と見られるようになりました。
ナデシコの世界の医療技術で火傷の跡も綺麗に消えたので、なおのこと完璧だったみたいです。
『門』を通したナデシコの世界との交易は、なかなか大変で、異文化交流っていうのは難しいです。
学者たちも科学の習得に、かなり頭を悩ませてます。
私がおばさんになるくらいの時間は必要だって目算されてます。
それにアイアンリザードが潰えてから、諸外国との付き合いが始まってしまって、結構ヒヤヒヤな状態だとか。
でもアキト兄さんたちがいなくても、国防の方はなんだかんだ大丈夫です。
百合の騎士団は本当に強くなったそうです。
甲冑騎士も、エステバリスのノウハウを吸収して、魔力量の少ない人でも十分な強さを持つようになりました。
ブーステッドマン達は、科学に強いナデシコ世界で生きるための整備をしてもらいつつひっそり暮らしてるそうです。
カエンさんはせっかく頼りになるはずだった神機の分まで働くように言われて勉強させられてます。
いい気味です。
それで、私も色々役割が増えました。
ルリ姫の影武者です。危ないことはあんまりないですけど。
だってアキト兄さんとユリ姉さんに堂々と会いに来たいから、
たまにちょっと代わって、って言われたら断れません。
人前でお姉さんって言うこともできなかったけど、
ある程度自由に会いに行けるようになって、
本当に感謝してくれました。
そんなわけで、私は終始順調です。
ナデシコのその後は…。
テンカワさんとユリカさんとラピスが家族になって、食堂を始めたそうです。
似たような立場なので、会うたびに同じような話をしてます。
時々、ナデシコの世界に遊びにいってます。
ナデシコクルーはその後、解散、それぞれの新しい人生に歩みだしました。
地球も大和とも和解したそうです。
火星に住んでいた人の関係者は、かなり恨み節ではありましたが…。
大和の方の変化で、それもある程度は和らいでくれました。
大和は神々との交流が増えて、呪術を進化させることに成功したんです。
なんと神々が降霊術を直々に教えてくれることになり、
通常の巫女やシャーマンでも降霊術が可能になったんです。
黄泉の国とのやり取りもかなりうまくできるようになって…。
その結果としてナデシコの世界の死者とも降霊術を使って話すことが一般化しました。
そうすることで、すべては無理でも恨まないでほしいと願う死者の言葉を直接聞けるようになり、
恨みつらみは残りつつも、説得される人が多く出てきました。
大和の世界と、ナデシコの世界の日本では、
お盆の時期に本当に死者が返ってくるという習慣が根付いてしまいそうなほどだそうです。
この降霊術は殺人事件などの捜査にも利用されるようになりそうなところまで来てます。
ちなみにダイヤモンドランドではほとんど一回こっきりで利用可能という条件付きになりました。
ダイヤモンドランドの神は寛大ではあれど、
神機と同じく人間との距離は離れているべきという思想のようです。
ダイヤモンドランドの宗教が一神教というのも関係ないわけではなさそうです。
ちなみに私が抜けたあとの大和は、カグヤさんとアクアマリンが協力して復興しているそうです。
カグヤさんとは私も因縁がありますが、彼女の本心を知らないわけではないので矛を収めました。
私は…勾玉の守護者のカグヤさん、鏡の守護者のアクアマリンにつづく、
剣の守護者のアキヒト兄様に代わって本当は大和に残らないといけない身です。
でも二人は言ってくれたんです。
『もう剣は必要ない』って。
だから私は、私の人生を好きに生きてほしいと。
神々の力を自由に使役できる火星に残された宝剣も、
神々が自由に降りてきてしまうようになったのでほとんど意味がなくなったんです。
私を縛るものが何もなくなりましたが…。
同時にアキヒト兄様とのつながりもなくなってしまいましたが、いいんです。
大和では年に一度だけ…英霊を祭る祭事において…。
アキヒト兄様も、ユリ姉様も…そしてユリバナ姉様も…。
別世界の人たちに力を借りて、帰ってきてくれます。
あの世とこの世がまぜこぜ寸前になって、
ようやく私達の三つの世界は平和と言えるくらいの状態になってくれました。
〇作者あとがき
どうもこんばんわ、武説草です。
よ…ようやっと終わった。
書きたい部分もあり、書きたくなかった部分もあるこの外伝…。
長くなり過ぎましたがようやく完結です。
そしてお待ちかね、メイキング編。
次回はこんな話をどうやって彼らは作っていったのか、
その間に何が起こってたのかを描く本編にようやく戻ります。
っていうか大和側の設定膨らみすぎ…。
ってなわけで次回へ~~~~~~~~!!
〇代理人様への返信
>そーだよ、映画なんてイケメン俳優が出てれば客は入るし、
>青春っぽくて恋愛物なら数字は出るんだよ、ケッ!(なにかあったのか
みんなが好きで最大公約数を手に入れられる方法ではありますけど、
後世に残るかどうかは割と別…安易になりがちなトラップ。
今回の映画も多分にそういうところはあれど、
アキト達は自分の人生を切り売りされてるだけが違いますねw
ドキュメンタリーでもなしにこういう映画を撮られるって…。
嫌すぎる、そんな映画。
>しかしまあ、本当にややこしいなw
映画としては普通は没られるくらいややこしくなってます。
というか二次創作でもやりすぎなうえに分かりづらい…。
作中ではもしかしたら客のリピート狙いでクリス監督の設定を放置したのかも…。
>あれがアキトでこれがユリカでルリで・・・ええい、めんどくさい・・・って、まだ続くの!?
すみません、長くなりすぎてる自覚はあるんですが、どうしてもあと一本必要になって…。
七話で終わろうとしたら倍になりそうになってブレーキかかって分割しました。
大体一つの編を進めるのに6話~8話くらい必要な癖があるようです、私。
>このまま完結編2,3と続いたりしないよね・・・(ぉ
続かないです、ご安心ください。
でもめっちゃ長くなってごめんなさい。
…しかしメイキング編で一話か二話使います(爆
私も…は、早く本編を書きたい…(なぜ書いたし
~次回予告~
………テンカワっす。
俺、ついに完全にホシノに巻き込まれる形になっちまったっす…。
ある意味、ダブル主演な感じになっちゃってさ…。
というかユリカ、なんでユリさんを差し置いてヒロインなんだよ?
べ、別にキスシーンとかないからいいんだけど…だけど…だけど…。
断りたかったけどホシノだけじゃなくてユリさんにもユリカにもルリちゃんにも諭されて…。
お、俺まで芸能人にされないよな…大丈夫だよな…。
大丈夫だって言ってくれ!!
…俺、コック修行もあるし何年かナデシコにこもってようかな。
ほ、ほとぼりが冷めるくらいまでは…。
アニメのラブひなの芸能界編(だっけ)でアカツキ声の社長が出てきたのがあったなぁ、
懐かしいなぁ、と振り返りながら、もっかい見直そうか考え中の作者が贈る、
ホップ!ステップ!パワーボムッ!な、ナデシコ二次創作、
をみんなで…見ないでくれ…。
『見て下さい』by作者
感想代理人プロフィール
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代理人の感想
完結おめ!
科学と魔術が同居する、ぶっちゃけそのほうが面白いと思います!
いや、シャドウランとかエストカープとか好きなのよw
>何分かかるんだろう
ワシャアラビアのロレンスを三回も見たんじゃぞっ! あのクッソ長い映画を!
その内二回は途中で寝ちまったがな!
・・・いや、マジであの辺りの大作映画は三時間とか四時間とか普通にあるから、
トイレ休憩ないと死ぬw
アベンジャーズも三時間あったけど、三時間は耐えられても四時間はドリンク無しじゃないと辛いw
>メイキング
え、めいKing?(誰が知ってるんだそんな古いシムシティエロゲ)
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