テンカワ・ユリカ。享年25歳。
死因は遺跡に融合していた事による衰弱死。
「これでよし」
私は自分の墓に花を添えた。
当然、アキトの墓にも。
でも、本当はアキトも私も生きてる。
何でそんな事をしてるのかって?
私が、変わったから。
アキトを取り戻す為にテンカワ・ユリカという姿を捨てたから。
今の私は、スミダ・コウタロウ。
お父様も、この世界も捨てていかなきゃいけないんだ。
だから、手紙を置いていった。
『私は幸せを取り戻す為に動きます。
アキトが私を取り戻す為に罪を犯してくれたように。
・・・親不孝をお許しください』
・・・これだけじゃ分からないかもしれないけど、一度死んだ存在だから別にどうってことないか。
「ユリカさん」
「ルリちゃん」
私の後ろには二人の少女が居る。
一緒に来てくれる二人だ。
「・・・シェリーと呼んで欲しいですね、コウタロウさん」
「お互い様でしょ?シェリーちゃん」
お互いに微笑を交わす。
真っ青な空が、眩しい。
もう夏も終わる。
けど、地球ではまだ残暑が続くのだろう。
「行こう・・・アキトを連れ戻しに・・・」
二人を連れて、私はエステバリスに乗り込んだ。
・・・・私はどれだけ困難な道を選択したかは分からない。
でも、これが一番私のしたいことだから。
これが「私らしく」だから。
サイドストーリー集「BRANK OF 3MONTH」
私はテンカワ・ユリカだった。
今はスミダ・コウタロウ、16歳。
過去に戻ってアキトを取り戻す。
そう誓った。
一方的に押し付けられたかもしれない、無謀とも思える作戦を信じて。
「・・・しかし狭いですね」
「・・・・仕方ないでしょそれは」
・・・私たちはエステバリスのアサルトピットの中でおしくらまんじゅうをしている。
「シェリーちゃん、そのカツラ、似合ってるよ」
「・・・コウタロウさんこそ」
変装道具だ。
あっちの世界に行ったら間違いなく、その世界の私が居るだろう。
ルリちゃんはマシンチャイルドだし、正体を隠さないわけには行かない。
だから私達はわざわざこんな変装をして過去に向かう。
「ジャンプ〜」
・・・実はこのタイムマシンつきのエステバリス、A級ジャンパーじゃないと実質的に運用は出来ない。
だから、私達以外には使えない。
・・・・・だから誰にも気付かれないで発進できた。
・・・それでも場所は選んだほうが良かったかもしれない。
時間は、ナデシコが8ヶ月のジャンプを終えた時。
どどん!
「どへ!?」
私達が到着したのはヨーロッパの最前線だった。
「えええ〜〜〜!!何で何で!!?」
「いいからジャンプしてください!こんな所で死んだら笑いものですよ!」
「うんうん!ジャンプ!」
とりあえずエステバリスを放棄する事にした。
・・・どちらにしても持ってても宝の持ち腐れだし。
チューリップクリスタルを握り、ジャンプフィールド発生装置を使い、私のナビゲーションでボソンジャンプをした。
・・・近くにあったエッフェル塔付近に。
ここは比較的敵も少ないので逃げるのにはちょうど良かった。
そこには救助活動をしている中年男性が二人居た。
「おらぁ!もたもたしてんなよ!そこのにーちゃんもだ!」
「え・・・私ですか?」
「ゆ・・・コウタロウさん!」
あ、うっかりしてた。今は男なんだ。
「はい・・・でも・・・人が・・・」
私は瓦礫の下敷きになっている人達を見た。
「いいからここは俺達に任せろ!」
「いいえ、手伝います!」
「じゃあそこのねーちゃんを助けてくれ!」
私達3人は近くで血を流して倒れていた女の人を助けようとした。
だが。
どどどどどどど・・・・。
突如ビルが崩れ、女の人の姿が見えなくなった。
「え・・・・?」
「逃げろ!もうここは限界だ!」
さっきの中年男性が腕を引っ張る。
「え、でも・・・」
「逃げろ!」
私達は民間人を救助していたらしき大型トラックに押し込められた。
ごおおおおお・・・。
外の様子はわからないが、戦っている人は恐らく民間人たちを助けるために犠牲になっているのだろう。
トラックに揺られ、ルリちゃんは不安そうな表情で私に話し掛けた。
「コウタロウさん・・・これからどうすれば良いんでしょうか・・・」
「大丈夫、大丈夫だよ」
私はルリちゃんを抱きしめた。
ルリちゃんは震えていた・・・隣に居るラピスちゃんも・・・。
アキトに会うまでは死ねない。
生き残るよ。
「おう、にーちゃん。さっきは済まなかったな」
さっきの中年男性が話し掛けてきた。
「いえ、こちらこそ危ないところを」
・・・別段何も出来たような気はしないけど。
「俺達もこっちの民間人の救助を最優先にしてるんだが・・・いかんせん激戦区だ。カバーできるのにも限界がある。
君みたいなのが居てくれると助かるんだが・・・」
私は頭を捻った。
私達がここで留まるのは危険だ。
だけど、ここに居る人達は本当に危険なんだ。
出来ればサポートしたいんだけど・・・。
心情を読まれたのか、ルリちゃんが耳打ちをし始めた。
(ユリカさん、駄目ですよ。
ナデシコに乗り込むまでの手順を踏まなきゃいけないんですから)
うーん・・・ナデシコに乗りこむには何かしらの能力を見せなきゃいけないんだけど・・・。
ルリちゃんの言うとおりなんだよねえ・・・。
「・・・すいません、今はそれに答えられません」
「・・・気にすんな。こんな危険な仕事は君みたいな優男がやらなくていいんだよ」
「最後に、お名前を聞いて良いですか?」
「ああ、言ってなかったな。俺はオオサキ・シュンだ」
「わ・・・僕はスミダ・コウタロウです」
私達は避難を終え、何とか町まで戻ってきた。
人気のない大きい公園で相談を始める。
「・・・どうします?ナデシコに乗り込むには何かしらの条件が必要ですよ?」
「ん〜。一番手っ取り早い方法は・・・」
「・・・私が経歴を変更してしまう事、ですね」
ルリちゃんがいたずらっぽい笑顔を見せる。
「それは簡単だよ。でもすぐに乗り込んでもアキトは戻ってきてくれない。
・・・それにね、物事には順序っていうのがあるんだよシェリーちゃん。
ナデシコは人数が足りてる。
アカツキさんやエリナさんは自分達の都合で乗り込む事ができる。
そんな特殊なケースで乗り込もうとすればアカツキさんの目は誤魔化せないだろうし。
十分説得力があって、なおかつ自然に乗り込む方法・・・・何だと思う?」
「・・・う〜ん」
私の質問に唸る。
「・・・降参です」
「正解は連合軍だよ」
「・・・どういうことですか?」
「ナデシコは最後まで連合軍の目の敵だったでしょ?
ムネタケ提督だけじゃナデシコの監視には不十分だと思うの。
今回は私達の時代のアキトが居るんだよ?
どう考えても抑えきれない。
そこを狙うの」
「・・・本気ですか?少なくとも少佐・・・どう考えてもその地位までのし上がるのに早くても1年以上は掛かりますよ?」
「ふっふ〜ん、ルリちゃん。
私は仮にも連合軍主席の実力を持ってるのよ?
まず、軍の学校を出るの。
そうすればいきなり少尉くらいになれるよ。
それなら難しくないでしょう?」
「・・・・・それ、安直過ぎません?」
「・・・まあね。
でも、軍の学校なら単位のスキップも出来る。私なら、ね?」
「・・・確かに優秀な人物って評価はつきますけど・・・」
「そこで、ナデシコに正面から入社すればいいの」
「・・・・・・・・・・・・うまくいくんですか?」
「大丈夫!」
「もし失敗して入社できなくても私が情報操作すれば良いだけですし・・・。分かりました、やってみましょう」
「そうと決まれば善は急げ!学校を探そう!」
・・・ルリちゃん、呆れないでよ。
ラピスなんか見てすらいないし。
「シェリーちゃん、ただいま」
「お帰りなさい、コウタロウさん」
私が軍の学校に通っている間、ルリちゃんは屋台を引いていた。
もちろん、アキトが戻ってきてくれた時にすぐに屋台が出来るようにしたかったからだ。
ルリちゃんはアキトから渡されたあのレシピを持っている。
アキトが、料理を諦める時に渡したあのレシピを。
「いらっしゃい」
西欧地方ではこの手の屋台は珍しいらしく、お客さんはぞろぞろと来た。
そのお陰で学校の高い授業料も割と簡単に払えた。
「お?なんだ、この前のにーちゃんじゃねえか」
「あ、シュンさん」
「評判のラーメン屋台をお前さんがやってたとはな。ラーメン一つ」
「はい」
ルリちゃんが手際よくラーメンを作っていく。
「お前は作らないのか?」
「いえ、作りたいのは山々なんですけど・・・昔作ったら気絶されるほど不味いって言われちゃって・・・」
私は嘘をついた。
・・・実は私も少し味覚がおかしいからなんだ。
料理が下手だとかじゃなくて、アキトと同じ理由。
完全に無くしたわけじゃないけど料理人としては欠陥だらけだ。
あっちについたらイネスさんに治療してもらおうかと思ってるけど。
「はは、それは大変だな。ところでお前らって出来てんのか?」
小指を立ててシュンさんはいたずらっぽく笑った。
「違いますよ。家の養子で一緒に暮らしてるだけですよ。僕には心に決めた人がいるんです」
「へえ、その歳で大したもんだな」
「ラーメン、お待ちどうさまです」
「おっ、来たか」
シュンさんはどんぶりを受け取り、ラーメンを啜った。
ずずずず〜〜〜。
「うめえな。今度カズシもつれてくるぜ」
「どうも」
このラーメンだけは不味いなんていわせない。
アキトの、アキトの心をダイレクトに表現したラーメンだもん。
で、一ヶ月で私は卒業資格を得ることに成功していた。
ルリちゃん達は「扶養家族」として付いて来ることにしようと思ったんだけど・・・。
流石に許可が下りないということで、ルリちゃんは通信士、ラピスちゃんは索敵を担当する事になった。
このご時世、好き好んで危険の多い激戦区に来る人が少ないからほぼ素人同然の人でも雇ってしまうらしい。
もちろん、配属はシュンさんの部隊を志願した。
「お?コウタロウだったか・・・お前わざわざ来てくれたのか?結構縁があるのかもな」
「はい、今度この部隊の作戦指揮補佐になりました。よろしくお願いします!」
「こっちこそよろしく。急に屋台が消えちまったからカズシが残念がってたぜ。また作ってくれ」
「はい」
・・・こうして私は経験した事のない、最前線での戦艦無しの戦いを始める事になった。
ここから第三者視点。
シェリーは通信士、マリーは索敵の訓練を受けていた。
「私がここのメイン通信士をしているアヤノ・サヨ。ちなみに17歳」
「俺がメインの索敵をしているキンダイチ・レンだ。16歳」
二人が紹介を終えると、シェリー達も挨拶を返した。
「私はスミダ・シェリー、16歳です」
「・・・スミダ・マリー、11歳」
「ほんじゃサヨ。シェリーちゃんに基礎を教えてやれ。俺もマリーちゃんにおしえるからよ」
「・・・あんたそんな小さい子まで手ぇ出す気?」
「んなわけないっしょ。俺の本命はオメーだ」
アヤノのほうを指差す。
「口ばっかりなんだから」
「いやいや、本気だぜ」
飄々としたキンダイチにアヤノは溜息をついた。
「・・・もういい。シェリーちゃん、まずね通信を入れるときは・・」
「マリーちゃんよ。敵が来るって言うのはまず音で分かるんだ。バッタのエンジン音ってな・・・」
その夜。
コウタロウ達の部屋。
「二人とも、どうだった?」
「通信士って結構面倒なんですね。メグミさんはのんびりしてたように見えましたけど・・・」
「だってメグミちゃんは「一流」だもん。
・・・・あ、でも声の方で一流だっけ?」
「・・・・・・ねえ、ルリ」
「なんですか?」
マリーがシェリーに話し掛けた。
「・・・・・アキトに会うのに・・・こんなことする必要があるの?」
その一言に、二人は一瞬戸惑った。
この少女は段階を踏む意味を分かりかねているのだろう。
「・・・ラピス、アキトさんが今本当に私達を必要としているかどうかが問題なんです。
ラピスは少し前までアキトさんに五感がない為にいなければいけない存在でした。
でも今は?
アキトさんはきっと、ラピスが自分の為に縛られる事を嫌って近づける事すら迷ってしまうかもしれないんですよ?
・・・・アキトさんはイネスさんの作戦通りなら悩み始めている段階のはずなんです。
私達はアキトさんが寂しがっている時に会わなければ多分、二度と一緒に暮らすことなんて出来ません」
言い切った後、彼女は自らも少し落ち込んだ。
彼女自身、アキトの精神状態は分からない。
いつ、寂しがるのか。
いつ、自分達を恋しく思っているのか。
いつ、出会えば受け入れてもらえるのか。
・・・そう考えると不安は尽きない。
実際、この時でさえ、アキト=アキコは恋しく思っていた。
だが、それを知る術はない。
「・・・ルリちゃん、ラピスちゃん。
きっと、アキトは私達を必要としてくれるよ」
「・・・・・なんで?」
マリーは上目遣いでコウタロウを見つめた。
「・・・・・・私が、アキトを失ったとき・・帰ってきてくれなかった時、死にたくなるほど寂しかったからだよ。
・・・・・アキトは男の子だったから耐えられたんだと思うの。
でも、女の子だよ?
ラピスちゃんも、ルリちゃんだってそうだったでしょ?
アキトが居なくなった時、凄く寂しかったでしょ?」
「・・・うん」
「それに、アキトが私を取り戻したときの気持ちを考えてみて。
アキトは自分が居ても迷惑がかかるって、自分が人を殺しすぎた事に対して責任を感じて行っちゃったんでしょ?
でも、二人ならどうする?
相手が死ぬほど寂しがるって、居なくなったら嫌だって分かってるでしょ。
アキトは、幾らでも選ぶ道があったんだよ。
姿を隠しながらでもいい。
たまに会いに来てくれればいい。
それもしなかったんだよ。
・・・・・アキトは、なんでそれをしなかったと思う?」
「・・・・・自分に対する情を捨てて欲しかった」
「そう。
・・・私達が諦めない事を分かってなかった。寂しがったりする事も多分、分からなかった。
だから、自分に対する情が無くなるように、迷惑がかからないように・・・って、敢えてそうしたんだよ。
・・・・・私達はそれが分かる。
・・・・・・そういう「寂しがられる」感情が分かるの。
女の子だったから、女の子だから」
自分とシェリーたちの方を指差す。
「・・・・・・だから、アキトは分かる。
私達がいかに寂しい思いをしていたか分かる。
そして、自分自身も寂しくなる。
・・・・・だから必要としないはずないよ」
「・・・そうですね、そうですよね。もう少しですよ、きっと」
「・・・・・・アキトの為に、頑張る」
「頑張ろう」
コウタロウは笑顔を見せた。
コウタロウの初作戦。
「救助活動、完了しました!」
「よし、作戦会議をするぞ」
民間人をシェルターに避難させ、私達は作戦を開始した。
「まず、バッタの大群・・・およそ200だ。
エステバリスの数は陸戦2、砲戦3、空戦5。フレームの数はこれだけだ。
合計10・・・まあ負けるわけは無いんだが、被害を最小に食い止めたい。
コウタロウ、何かいい作戦はないか?」
コウタロウは少し考えた後、こう答えた。
「・・・まず、空戦が敵中を突破して後ろに回り込みながらライフル中心で各個撃破。
陸戦は左右からゆっくり追い詰めるように蹴散らしてください。
砲戦は正面から集中放火してください」
「その作戦のメリットは?」
「基本的に誤射を防げます。何より敵から攻撃の主導権を奪われずらい事にあります」
「よし、みんな聞いたな。以上の作戦で行くぞ」
「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」
で、作戦終了後。
「エステバリス隊、被害微弱。損傷軽微9、小破1」
「おおっ、本当に被害が少ないな」
「・・・ただ」
「ただ?」
シェリーは少し困った顔で言った。
「・・・弾薬の消費量が1.5倍増しです」
「・・・別にいい。生存率を高くしたほうが良いだろ」
「・・・でも上がうるさいんじゃないですか?」
「始末書きは慣れてるよ」
シュンは踵を返し、自室に戻っていった。
「・・・もう少し作戦の研究でもしておこうかな」
コウタロウも自室に戻る事にした。
食堂。
アヤノがシェリーと話している。
「どう?通信士って」
「・・・思ったより大変です。マニュアル操作って結構大変なんですね」
「・・・・思ったんだけど、何で敬語なの?」
「アヤノさんは私より一歳年上でしょう?」
「ううん。私、5月生まれで誕生日が早いだけよ。
いいのよ、崩しても」
「・・・昔からこうなんです。昔から年上の人ばかり近くに居て・・癖になっちゃったんです」
「いいじゃない、崩しても。少し練習してごらんよ」
「え、えーと、そ・・・そうだね」
言葉を選びながら、ルリは返事を返す。
「そうそう。コウタロウさんとは恋人同士なの?」
「ちっ、違うよ・・・」
「ははは、上出来上出来。
よし、明日休みでしょ?皆で少し町に出かけない?」
「・・いいよ」
シェリーは少し恥ずかしそうだった。
翌日。
「コウタロウさん、一緒に行きましょう」
「・・・うーん、少し寝たい〜」
コウタロウは布団を被っていた。既に10時を回っていた。
彼は少し低血圧なところがあった。いや、そういう問題ではないか。
・・・そもそも高血圧にしては能天気すぎる性格か。長生きしそうなのんびりタイプである。
「あ、アキトさん」
「うそっ!どこどこ!?」
コウタロウは凄いスピードで起き上がりあたりを見回した。
「・・・ほら行きましょう」
「・・・うー」
頭をぼりぼりと掻きながらコウタロウは着替えを始めた。
「マリー、一緒に行きますよね?」
「・・・・・一人じゃ嫌」
マリーも少し人間らしくなったというべきであろうか。
彼女はアキトが居なくなった為、二人を自然に頼るようになっていた。
だが、まだ警戒している様子はある。
町。
「よーっし、今日は遊ぶぞー!」
「・・・レン、120ホーンを超える騒音で騒ぐのはやめて」
隣にいたアヤノは耳をふさいだ。
「・・・・・そもそも何であんたまで来るのよ?関係はベットだけって言ったでしょう?」
「バーロー。そんなんじゃ歳食ったら冷めるだろ!」
・・・アヤノは平然と肉体関係を暴露した。
「・・・・ふう」
「・・・アヤノさん、キンダイチさんのこと嫌いなの?」
シェリーは耳打ちしながら訪ねた。
「ううん。好きなんだけど、ちょっと強引でナルシストで騒音の根源で出会う女性に冗談で肉体関係を迫るあたりが苦手なの」
「「「・・・・・・・・」」」
・・・えらく欠点だらけである。
それなのに好きだとは、口はきつくてもよく出来た女性だ。
「まあ、ベットに入ると別人になるの。急に優しくなってね。二重人格みたいよ」
「・・・・・・そっちの話題は今度にして」
シェリーは少し恥ずかしそうに俯いた。
「まずはゲーセンだろ!」
「また?あんた、この前金がないとか嘆いてなかった?」
「いや、ちょっと買い込んどいたカップめんをシュンさん達に買ってもらって何とか金が出来たんだよ」
・・・そこまでしてゲーセンに来るのだろうか。
そうこうしている内にキンダイチはゲーセンに入り込んだ。
「ワー根だ、コラァ!」
「しょうがないわね・・・コウタロウさん、シェリーちゃん一緒にやる?」
「4人・・・ですか」
そこにあった「ワールド・根性・ウォ〜(日本製)」というゲームは4人で出来るゲームである。
ちなみに白兵戦をするゲームでアサルトライフルを使用して骸骨の兵隊を蹴散らすといったもの。
「っしゃあ、きやがれ!」
横一列に並び、筐体の前で構える。
「お、重い・・・」
「も、持てないです・・・」
・・・・・片や腕を全くといって良いほど使っていないマシンチャイルドと、
片や数年仮死状態にされていて筋力がゼロに近い元女性ではこのコントローラーは重すぎる。
・・・実際のアサルトライフルをかたどったそれは二人の手には余るものだった。
「情けないわね・・・これくらい何よ」
アヤノは片手で軽々と振り回してみせる。
だが、いくら二人が力がないといっても、それは標準の人から見ればであって、このコントローラー自体はかなり重い。
アキトぐらいの体格ならば両手でちょうどいいといった物である。
「あ〜コウタロウ、情けねえな。オメー女臭いと思ったら力もないのかよ」
「そんな、僕は・・・」
「「僕」は、とかいってんなよ。男だったら「俺」だろ!」
「お、俺・・・?」
「じゃあ行くぞ、オラァ!」
がががが・・・。
キンダイチは両手持ちで凄い連射力で敵を蹴散らしていく。
「いいか、このゲームは銃を上にあげると盾がでる!
盾が出ている間はダメージは受けねえし、同時に弾薬の補充も出来る!」
「は、はいい・・・」
「だから情けねー返事をすんな!「おう!」ってでけえ声で返事しろ!
おらおらおらおらぁ!」
5分後。
「ぜーはー・・・」
「はぁ〜・・限界ですよ、キンダイチさん・・・」
「なんだぁ!?もう少し頑張れねえのか!?」
・・・二人は体力もない。
キンダイチのすばらしい好プレーのお陰で二人ともノーダメージだが・・・。
肝心の射撃の腕は酷いものである。
「アヤノ、ちょっと位置変われ。二人とも、少し休んでな」
「・・・・・あれ?」
「あれだ」
二人はコウタロウ達から銃を受け取る。
「どけどけ〜!」
ががががががががががががが。
あろうことに二人は両手に構え、連射しはじめた。
「うわぁ・・凄いね」
「・・・・えらく馬鹿力ですね」
「・・・・・・・変」
・・・三者三様、感心しているんだかしていないんだか分からない言葉を発した。
「・・・・今日は疲れたね」
「・・・はい」
自室でコウタロウたちはベットに倒れこんだ。
あの後、ボーリング、卓球、カラオケと立て続けに渡り歩いていたのだ。
それより、かなり金を使ったはずだがどれだけのカップめんを売ったのだろうか?
その頃。
シュン&カズシの部屋。
「・・・隊長、なんすかこれ」
少し出かけている間に部屋に出来たカップめんの山にカズシは顔を引きつらせた。
「・・・いや、ちょっとレンが金が欲しいからって売りつけやがった」
「・・・・いくらですか」
「・・・しめて103ドル27セントだ・・」
「・・・・・しばらく食堂に行かないですみますね」
「・・・体、壊すなこりゃ」
・・・カズシは苦笑するしかなかった。
ここはコウタロウ視点。
一ヵ月後。
「隊長・・・どうやってあの敵を退けるんですか?」
カズシさんは絶望的な表情をしていた。
それもそのはず、目の前にはゲキガンタイプが立ちはだかっていたから。
以前はアキトが月に飛んだ日より前には出て来なかったったはずなのに。
そんなことが問題なんじゃない。
今はあれを倒さないと。
「あのデカブツ・・・半端じゃねえ。
しかもこの市街地でだぞ?こっちは迂闊に攻撃できねえのにグラビティブラストうちまくってやがる」
「・・・頼みのエステバリスも残り3。
しかも動きの遅い砲戦が・・・ですよ?」
「・・・・・万事休すか!?」
「隊長、俺に作戦があります!」
「・・・なんだ、言ってみろ」
「簡単な作戦ですけど、まず一機が注意を逸らします。
グラビティブラストを撃った瞬間はフィールドが弱まるはずです。
残りの二機は前と後ろから胸部を攻撃します。
グラビティブラストを発射する場所付近にエンジンがあるはずですから、少なくとも動きを止める事ぐらいは出来るはずです!」
「・・・だが囮になった奴は危険だ!そんな役を任せる事はできない!」
「俺がやります!」
「お前が!?」
・・・私は自ら危険な作戦に打って出る事にした。
これは私が作った作戦だ。
他の人に押し付けることは出来ない。
「コウタロウさん!それは・・・」
「・・・シェリーちゃん、確かに僕は死んじゃいけないけど・・・もし、ここで踏みとどまってしまったら、
自分の危険をかえりみず戦ってくれた人を抱くなんて出来やしないよ。
仲間を、そして家族を・・・護ってくれた、あの人を。
それにぼーっとしてたらここもグラビティブラストで撃たれるかもしれないんだよ?
・・・・だから行かなきゃ」
「・・・死なないで下さいね。私、また死んで欲しくないんですから」
「3回目はないよ、シェリーちゃん」
顔を叩いて、私は格納庫に向かった。
「・・・なあ、「また」とか「3回目」って何だよ?」
「秘密ですよ、シュンさん」
「・・・・・ま、いいか」
「コウタロウ、でます!」
思えば、私が戦場に立つのはこれが初めてだ。
アキトは最初に戦場に立ったとき何を思ったんだろう?
ナデシコに乗ってた時、アキトは足掻いてた。
自分の不甲斐なさに抵抗していた。
・・・・・私も足掻いて見せる。
ぐぉん・・・。
・・・なんて威圧感。
エステバリスから見てもゲキガンタイプの大きさは怪獣のように見える。
これが戦場・・・これが戦い。
私はキャノン砲を発射し、ダイマジンの注意をこちらに集中させる事にした。
・・・・どんっ。
フィールドを破る事はできる。
けどエステバリスサイズの砲弾では、ダイマジンの装甲とディストーションフィールドの頑丈さに阻まれて大したダメージはない。
と、ダイマジンの腕が飛んできた。
まずい。
この作戦はグラビティブラストを撃ってくる事を想定して動いている。
当然私もグラビティブラストを撃つと思っていた。
とっさにその一撃を回避する事は出来た。
けど次に撃たれたら避ける自信はない。
私はパイロットではないのだから。
『コウタロウ!無理だけはするな!可愛い妹だけ残して死ぬなよ!』
シュンさん・・分かってます。
ルリちゃんもラピスちゃんも・・・アキトも。
みんなだけ残して死ぬ事だけはしたくありません。
「ほら、撃ってこないの!?」
私はミサイルを連射してダイマジンの注意を引いた。
もちろん、グラビティブラストを撃ってくれるように遠距離の間合いで。
だが、それは思わぬ結果をもたらした。
爆発の煙でダイマジンの姿が見えないうちにグラビティブラストを発射されてしまった。
そして、私のエステバリスは黒い光の帯に包まれた・・・。
作戦本部サイド。
「コウタロウさんっ!」
「今だ!うてぇ!」
どんっどんっどんっどんっ!
ダイマジンは一瞬の内に爆発した。
・・・ぼんっ。
「コウタロウさん・・・ここに来た理由は・・死ぬためじゃないでしょう?何で・・・死んじゃうんですか・・・」
「・・・シェリーちゃん」
シェリーは涙を流しながら呟き、アヤノはその泣き顔に自分ももらい泣きしてしまいそうだった。
「・・・コウタロウ機、生存反応ありません」
マリーも顔面蒼白の表情で報告をする。
「・・・コウタロウ、お前は男らしくなかったけど・・・最後は男らしかったぞ」
意外にもキンダイチは泣いていた。
再びシェリーが呟いた。
「・・・コウタロウさん」
「な〜に?」
びくっ!
大きく体を震わせてシェリーが振り向くと・・。
「コウタロウさんっ!」
「ええっ!?」
「なっ!?」
「いっ!?」
「うおっ!?」
「なぬっ!?」
様々な驚き方を見せ、コウタロウの方を向いた。
「ただいま」
・・・・がばっ。
コウタロウに抱きつくルリ。
「ど、どうして生きていたんですか?生存反応はないって・・・」
「これのおかげだよ」
コウタロウの手のひらには一粒のクリスタルチューリップがあった。
「たまたま残ってた二粒。良かったよポケットに残してあって」
「馬鹿ですよ・・・コウタロウさん・・」
「うん、ごめんね。心配かけて」
「・・・おい、コウタロウ。お前どんな手品を使ったんだ?」
「・・・・・今は教えられません」
「・・・そのうち話せよ?」
「ええ、約束します」
コウタロウは満面の笑みで返事を返した。
・・・その頃、ナデシコではアキトの西欧諸国への出向が決まっていた。
作者から一言。
えー。
ちょっと簡潔すぎた「コウタロウ達が到着した経緯」をSSにしました。
こんな事をしていたから「謎が多い」ってシュン達に言われてたわけです。
アヤノとキンダイチ・・・これから登場させようか迷いますな。
でも無駄にオリジナル増やすと痛い目を見るんで・・・チョイ役ぐらいで出そうと思います。
では、次回へ。
代理人の感想
時ナデでも、立っていたオリキャラってナオと北斗くらいのもんですからねー。
下手な冒険自爆に似たり。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いかん、シャレになってないかも(爆)。