シーラが託した策とは?
そして、サツキミドリは?
ブーステッド達と遭遇した彼等の運命は?
第15話「二人の少女の声にならない叫び」
イオリは肌を焼く炎に目を細めた。
「・・・くっ」
「どうしたよ?」
カエンは満足そうにイオリを見つめていた。
彼はここまで有利に戦いを進めていた。
それは、油断によるものだった。
クローンのキョウを基準にしてかかったのが不味かった。
カエンは経験で言えば確実にクローンなどは凌駕する事だろう。
「最後だ、死ねよっ」
ごっ・・・。
カエンが床に炎を這わせてイオリに当てようとする。
かなり大きな炎である、流石にこれを受けたらほぼ確実に死ぬ。
良くても大火傷、それでも恐ろしい跡が残ってしまう事であろう。
その炎を見てイオリは笑った。
(こんな・・・こんな炎では、ヤツにはほど遠いぞ!)
「馬鹿めッ!」
イオリは炎を飛び越え、手斧のごとき手を振るい、カエンを床に叩きつけた。
ごすっ。
「ごふっ」
裏参百拾壱式、析爪櫛
「おおおあぁっ!」
そのままカエンの頭を引っつかみ、跳躍するのと同時に炎で燃やす。
ごおおおぉぉ・・・・。
カエンは直接炎に捲かれたのが効いたのか、金属製の頭蓋骨が見え、動かなくなった。
「・・・くだらんな、どこまでも・・・」
そのカエンの残骸を見つめ、イオリは鼻で笑った。
「まがい物、お前の操った炎は・・・お前自身を焼き、そして俺の炎を呼ぶ・・・」
背を向け、イオリはシャトルに戻った。
つまらない時間を過ごし、つまらない負傷をしたものだ、とイオリは思った。
「・・・鋼線使い、ウォルターを思い出すなぁっ。
セレスに任せたかった所だが俺がやるしかない」
「何をブツブツと・・・私の相手をするんじゃなかったの?」
シーラが呟くのを聞いたエルは少々挑発するようなニュアンスで話し掛ける、
だが、その一言にシーラはかえって冷静になった。
「鋼線は確かにやっかいだけどよぉ」
シーラはシェルブリットのエンジンを高鳴らせる。
そして、金色のテールが回り、ゆっくりシーラが宙に浮いていく。
「けど、使われる前にやられたら、意味無いだろうがぁ!」
「!!」
ごおっ・・。
そして拳を握り、しゃがみ込んだと思った瞬間、エルの目の前まで迫り、人間の心臓部分に打ち込む。
どごっ。
そこはエネルギーの受信ユニットがある場所であった。
容易く穴があき、二の腕分の広さまで広がる。
だが、すぐに腹部の予備電源に切り替わる。
「胴体もらったぁ!!」
ついでとばかりに腕を手前に引き、エルの体をへし折った。
ばきっ。
「が・・・はぁっ」
エルは体中の力がなくなっていくのを感じた。
胸部と腹部が分かれてしまったのだ、予備電源すらなくなって動きが遅くなっていく。
「ま、けた・・・?」
「・・・・・・」
ゆっくりと、シーラから闘気がおさまっていく。
そして、下を向いたまま黙り込んでしまった。
「あなた・・な、いてるの?」
「!」
そう、シーラは泣いていた。
彼女は、本当は自ら戦う事を好む性格ではない。人を傷つけた時は必ず泣いてしまう程に。
完膚なきまでに破壊してしまったエルを目の前に無意識のうちに涙が出ていた。
今は、彼女はカズマになっているつもり・・・だった。
だが、心の底まではなりきれず、敵であっても傷つけたことに心が痛み、泣いてしまった。
「な・・・泣いてない!」
「嘘よ」
「泣いてないったら!」
左手でごしごしと目を擦るが、涙は止まらず、その勢いがかえって増しているようだった。
何より、男言葉を止めてしまっている時点で彼女はもう戦ってはいない。
「そう・・・泣いてくれるんだ・・・」
「・・・?」
シーラは黙り込んでしまう。
それは図星だったからではなく、何故「泣いてくれる」などと言い、微笑んでいるのかが分からなかったのだ。
「私達は・・名前もアルファベットの、世界にも認められていないそんざいなのよ」
「・・・・・」
言葉が続かなくなってくる。
動力を失ったエルはも後1分も持たないのだろう。
「せめて・・・このコロニーおとして、きょうかしょになまえでものって・・・って、じぇいがいってた・・。
わたしもできればそれくらいはしたかった・・・。
そんなちんぷなねがいでもかなえたかった・・。
わたしは・・・すこしでも「じゆう」になりたかったのかな・・・?
だれかのあたまのなかにそんざいをのこしたかったのかな?
でも・・・もう・・・それはかなわないのね・・・」
ゆっくりと言葉を発するエルの瞳には涙が溜まっていた。
戦闘以外に必要な身体機能が無いはずのエルの目から涙が出ていた。
「あ、あなたの、名前・・・」
シーラは震えた声で聞いた。
自分で殺してしまった以上、出来る事はこれくらいしかなかった。
「『える』・・よ」
聞いた瞬間、肺に空気を目一杯溜めてシーラは叫んだ。
「刻んだ!
あなたの名前は私の中にハッキリと刻まれたよ、エルさん!!
エルさんは私の中で生きていいんだよ!
私の中に存在していいんだよ!!
私の中にエルさんは永遠に居るよ!!
私の中で自由に生きて!!!」
シーラの言葉にエルは涙を一筋流し、瞳をつぶって・・・その機能を停止した。
人間として、死ぬ事すら許されなかった彼女は・・・満足していたのだろうか?
一人の少女の心に名前を、存在を刻み付けられて・・・・それで満足だったのだろうか?
普通に生きて、死にたかったと言いたかったのだろうか?
だが・・・もう、聞けない。
彼女は「壊れて」しまったのだ。
彼女の「残骸」を強く強く抱きしめながらシーラは叫んだ。
この世を奪った恐怖の大王に全人類の分の恨み言を一人で叫ぶかのように彼女は、叫ぶ。
「親父イイイイィィィッ!
こんな事して何が楽しいんだよぉ!
悲しいだけじゃないかあああぁぁ!!」
彼女の叫びは普通に出しても出るはずのない、
血の出るような、悲痛な叫び声。
どこまでも響くような、痛々しい大声。
その叫び声に反応するように、一人の大男が現われ、シーラに声をかける。
「・・・すまない、エルを最後に救ってくれたんだな」
大男の一言にシーラはエルをそっと置いて駆け寄る。
「・・・救った?今、救ったと言ったか!?」
「・・ああ、アイツは仲間の俺達にしか認められず、明るく振舞って誤魔化していたがそれはお互い様・・・。
最後に君に認められて・・・救われたんだよ、エルは」
大男の言い様に襟元を掴んでシーラは再び吼える。
「馬鹿言うな!
エルさんは・・俺の父親に改造されて・・・こんな悲しい思いをしたんだ・・。
それを・・・救ったなんて・・・・・・・。
俺は絶対認めないぞ!!
こんな結果を救ったなんて言えるもんかよ!!」
「だが、君が改造したわけじゃない。
単純に・・・エルが満足してくれたから・・・」
「ああ!確かに満足だろうな!
けどな、もっと人間らしい死に方があるだろうが!
こんな風に機械みたいに部品を散らして死んで!!
もっと人間らしく死なせてあげたいと思ったんだよ!!俺は!!」
その一言に大男も思わず涙した。
「・・・俺達でも泣けるのか。
心の底から涙を流せる、これだけでも嬉しい・・・んだな」
親指でぐい、と涙を拭い、頷く大男。
「そう思えるなら・・・アンタだって、エルさんの分も普通に生きてやりたいとは思えないのか!?」
「・・・どの道、俺達は研究所に戻らなければ数日持つかどうか・・。
それにここで死ぬのも明日死ぬのも俺達には同じ事だ」
大男はゆっくりとシーラの腕を放し、数歩歩いて止まった。
「だが、俺は戦わなきゃいけない」
敵同士である以上、戦う事を止められない、Dはそうする事しか出来なかった。
「・・・これ以上」
「俺の名はD!君の中に名前を刻ませてもらう!」
シーラは構えながらも、涙を流しながらも・・・震えながらも、言おうとした。
「これ以上・・・」
「戦う事だけが俺達ブーステッドの運命!戦って死ぬ事が使命だ!」
「これ以上俺を戦わせるなぁぁぁぁああああ!」
ばこん。
Dは自分のディストーションフィールドが動いているのは分かった。
彼はシーラのシェルブリットに搭載されている小型相転移エンジンの存在には気付いた。
そして、それに安堵した。
その小型相転移エンジンは自分に内蔵されているエンジンよりも出力が高いと分かったからだ。
他のブーステッドには悪いが、ここで命を終えるのも悪くない、そう思ってしまった。
自分が壊れてしまえば他のブーステッド達も機能を停止する。
だが、この少女の一途な思いには納得してくれるだろうと、あの世での弁解を考えていた。
シーラの叫びの中で、Dは意識を失っていった。
彼女は一瞬で楽にさせようと頭を狙い、頭が粉々に砕け散った。
こ。
そして、膝を付き再びシーラはうな垂れ、叫んだ。
「う、うああああぁぁぁ・・・」
自分が出来る事は破壊だけなのか、そう思ったら涙が止まらなかった。
彼女が・・・戦う理由はなんなのか、自分でも分からなくなっていた。
カズマに憧れていた訳じゃない、では何が自分をかき立てたのだろう?
今は考えられない。
ひたすらに涙を流し、悲しみを流し尽くしてしまおうとシーラは泣きつづける。
ここが、戦場である事も気にせずに、泣くのが彼女の出来るたった一つの償いだった。
「・・・セレスちゃん、先行っててくれないか?
ピンチになっても助けを呼びたくないからさ」
「ええ、いいですよ。
・・・ただし、負けないって約束できるならですけど」
セレスは出来ないならここでナオをどついて気絶させてから自分が戦おうと思っていた。
「ああ、約束する」
「じゃ、先行きますね」
セレスは制御室に向かって走り出した。
「っと、ちょっと自己紹介でもしようか。
俺はイン。
・・・ま、アンタとは兄弟みたいなもんか」
「・・・兄弟?」
ナオはつい頭を傾げる。
戦闘態勢を崩して、だ。
「分かってるわけ無いな・・・K1932。
俺はK3532だが・・・クサナギ・キョウのクローンの一人なのさ」
「・・・何となく、そんな気はしてたが・・・そうか」
ナオは納得がいった。
ナオが居た場所、ネスツの支部にはクサナギ・キョウのクローンがかなり居た。
そこに居たナオが知識もなしに居たとなればそっちの方が自然と言うものである。
だが、彼の頭の中にふと小さい疑問が浮かび上がる。
「でも俺はクサナギさんには似てないぞ?」
「それはアンタが不良品だからだ」
「不良品?」
ナオはぴくりと眉を歪める。
「そうだ、不良品だ。
アンタは劣化コピー品で姿が似ないばかりか炎すら出せない。
劣化コピーにはK9999とかいう、突然変異の化け物同然の変形腕持った奴もいるしよぉ」
「・・・ほー」
「それでアンタが何でクリムゾンにスカウトされたか知ってるか?」
「しらねーよ」
当然のようにナオは無愛想に答える。
不良品扱いされてごちゃごちゃ言われたら誰でも毒づきたくなると言うものだ。
「・・・・・アンタはヤガミ・イオリについて来れた。
いや、ついて来れて当然だったのか?
ヤツはクサナギ・キョウと同レベルながら危険度はトップクラスなんだよ。
それなのに行動を共に出来た、理由がわかるか?」
「分からないって言ってるだろうが」
「・・・お前は劣化コピー品だが、素質は一級品だった。
学習能力と基礎戦闘能力が異常に高かった。
それで、他のクローンとは隔離されていた所を拾われたんだ。
ネスツは知ってはいたがハッキリ言って居ても居なくても同じだったから見放されてたんだよ。
クリムゾンもそれは知らなかったみたいだが、少し興味が湧いて実際に見てみたいと思ってスカウトしたわけだ。
ま、要は会長の道楽に付き合わされたって事だな」
ナオは少しあきれ返っていた。
どうも大きい組織の陳腐さは知っていたつもりだったが、ここまで管理が乱雑でいい加減だと知ると頭が痛くなる。
それによくよく見れば目の前の男はクサナギ・キョウに似ていた。
つまり、この男は劣化していないコピー品と言う事だ。
「さて、冥土の土産はこのくらいにしてやろうか」
「・・・ま、お仕事だからな、兄弟」
「俺を兄弟と思うな。
ほんの少しでも特別扱いされたお前は劣化コピー品にも劣ると見られた量産型の俺を兄弟だと思うな!」
「・・・さっきは兄弟みたいなもんだって言っただろうに」
ナオがぼやくのとほぼ同時にインは走りこんでくる。
当然、かなり素早い。
彼はブーステッドのようだ。
「・・・ちっ、お前も改造人間かよ!」
ナオはインが拳を打ち込むのとほぼ同時に拳をぶつける。
普通であればブーステッド相手にそんな真似をすれば腕が吹っ飛んでもおかしくは無いのだが・・。
「な、なんだそりゃ」
インは間抜けな顔で驚く。
それはそうだ、相手は幾ら強くてもただの人間である。
なのに、自分と拳を打ち付けて平然とファイティングポーズを取り直すナオには驚嘆を覚えて当然だ。
「・・・ちょっと仕掛けがしてあってな」
ナオはニヤリ、と笑い、ブラスターを握る。
(今、俺のポケットに入ってるディストーションフィールド発生装置と、このグローブがな。
グローブはシーラちゃんのシェルブリットのデータを元にして作ってある。
頑丈で、ブラスターだってうまくいけば弾ける代物だ。
今みたいに防御を犠牲にすればディストーションフィールドを纏ってパンチを打ち込める。
・・・・・それにしても、本当にあの子が作ったのか?)
ナオはナデシコに乗り込んでいる白衣の少女の顔を思い浮かべた。
(ま、後は・・・奥の手だよな)
「なら、焼き尽くしてやる!」
インは手に炎を灯して格好をつける。
ナオはチャンスだと思い、ブラスターを構えた。
「銃なんか効かないぞ」
インが呟いた瞬間、ブラスターが火を噴いた。
赤い弾丸がインの腹部に大きな穴をあけ、インは立ち尽くす。
「そうか?」
「な・・な」
「・・・フェザーブラスター、結構効いたみたいだな」
驚愕しているインに詰め寄ったナオはディストーションフィールドを腕に集中させ、連打した。
が・・・がす、がんっ、ごんごんごんっ。
その拳は見事にインを粉砕した。
「・・・あばよ、兄弟」
ざっ。
走っていたセレスの目の前に長身の男が現われた。
立ち止まり、大型の銃を構える。
「・・・」
「お嬢ちゃん、そんな物騒なもんもってどこ行く気だ?」
「・・・・・・・戦争」
表情を変えずにセレスは答えた。
その様子に男は苦笑する。
「面白い・・・面白いな。
そんな華奢に見えて実はロボットか・・・」
男はブーステッドだった。
故に、生体反応が無いのが分かる。
男の言動を気にする事無く、セレスは言った。
「・・・・来なさい」
「言われなくてもいくぜ!」
男はセレスに飛び掛る。
飛び蹴りが出るが、セレスはそれに合わせて自分も蹴りを出す。
がっ。
「・・・互角」
「へー、やっぱり頑丈だな」
着地して男は体勢を整える。
だが、男には少し状況が悪く感じた。
彼は腕力に長けたブーステッドなのだ。
それ以外の能力はほとんど皆無と言っていい。
つまり、最初から戦闘用に作られたと思われるこの女ロボットより、
最初は普通の人間であっただろう、男が弱いと思って然りである。
(それでもやるっきゃないっしょ!)
男は蹴りでセレスの銃を弾き飛ばす。
がつんっ。
「・・・・!!」
「おらよっ!」
もう一撃、セレスの頭部に攻撃を仕掛けるもののそれはかわされる。
「・・・強い」
「ま、命削ってるからね」
すると、セレスは上着を開く。その下には何も着ていない。
「な・・・な?」
突然出てきた本物の女性のそれと遜色ない裸体に思わず呆然とする男。
だが、次の瞬間驚愕する。
ボディが開き、胸の部分からミサイルが二発飛んできた。
・・・冗談としか思えない攻撃に男は吹き出しながらうまく回避した。
どどんっ。
「・・・隠し武器、回避」
呟くとセレスは急に目が死んだようになる。
そして何かを確認するかのような言葉を紡ぎ出した。
「・・・カテゴリーB以上の目標と認識する。
拘束解除、状況B、「アーカードLV1」発動による承認認識。
目前の敵、完全沈黙の間までの限定解除開始」
ブツブツ言い出したセレスに男は攻撃を仕掛けようと体勢を整える。
・・・・・・・・・・・・
「・・・教えてあげる。本当の戦闘マシーンの闘争というのを」
だが、それは出来なくなった。
セレスは太腿に手を当てる。
がぱっ。
すると、ロボコップのように太腿の部分が展開し二挺の銃が出る。
それはかなり大型で片手で持てるような代物ではないが、軽々と持ち上げ、男に向ける。
男は回避しようとするが、それも無駄だった。
セレスは元々ロボットであり、人間を改造した程度の動きを捉えるなど問題の無い事である。
どんどんどんどんどんどん。
どんどんどんどんどんどん。
二挺の銃が放った12発の弾丸・・・爆裂鉄鋼弾が男を完全に破壊した。
男の名はジェイと言った。
「・・・・・・」
シーラは歩いていた。
自分が、今は進まなければいけないことを思い出したからだ。
まだ彼女の涙は止まってはいなかった。
だが、彼女の中に確固として存在するカズマのような気持ちが湧き上がっていた。
(・・・背負ってやる。
ヒロシゲさんも、エルさんも、Dさんも、背負って・・・私は生きる!
生きてやる!!)
彼女は決意を胸に歩きつづけている。
そして、十字路でナオとセレスと合流する。
「お、そっちは片がついたか」
「ナオさん」
シーラは泣き顔でも構わないとばかりにナオを見つめた。
「・・・どうした?」
「・・・いえ、何でも・・」
ジャケットでぐい、と涙を拭う。
「さ、行きましょう」
シーラが二人を仰ぐと、目の前の道へ進み始めた。
「・・・そういえばウリバタケさんは」
「多分、制御室に侵入できたと思うんだが・・」
二人の不安は高まる。
何しろ、一人に対して一人は敵に遭遇していたのだ。
ウリバタケが敵に遭遇する確率は非常に高い。
そんな事を考えていたら、目の前にウリバタケが居た。
だが、ウリバタケは敵に捕まっており、小柄な男が首を締めてナイフを突きつけていた。
「待て、武器を捨てて手を上げろ」
ばきっ。
言い切る前にシーラは男を殴り飛ばしていた。
・・・カズマ戦法である。
敵に人質をとられたらとにかく攻撃、だ。
その思わぬ攻撃に男は吹き飛ばされ、ウリバタケを離してしまった。
駄目押しにシーラは頭をもう一撃する。
「鎮魂のシェルブリット!」
ばこんっ。
男の頭を粉砕する。
当然、男は起き上がる事が出来ない。
「はぁー・・・はぁー・・・」
息を荒げてシーラは倒れこむ。
「し、シーラ?無理するなよな」
「これが・・・一番確実なんですよ」
少し泣き顔の混じった笑顔で答える。
まだ、悲しみを吹っ切れない様子であった。
「それはそうとウリバタケさん。爆破は出来そうですかい?」
ナオが話し掛けると思い出したようにウリバタケは言い始めた。
「あ、そうだ、それがあったんだよ。
・・・元々、爆破のプログラムが設定されていたんだが、かなりきわどい。
このままだと西欧諸国に降り注ぐ事になる。
プログラムの解析も出来ねえ・・・ルリちゃんでも居れば話は別だったんだろうが」
「・・・ってことは打つ手無しですか?」
「・・・大丈夫ですよ」
シーラが口を挟む。
そして、さらに言葉を継いだ。
「・・・あれで何とかなりますよ」
「・・・まさかあれか?」
「あれ・・・です」
二人が口を合わせているが、何なのか分からないナオは首をかしげていた。
−ナデシコ。
「・・・おいおいおいおいおい、こんなモン本当に使うのか?」
「・・・あの二人と、シーラちゃんを信じましょう」
ユリカとシュンが話し合っていた。
シーラが託した策−
それは、こんな概要だった。
「潜入班がサツキミドリの落下を阻止できなかった場合の作戦を発表します」
ブリッジでパイロット達に口頭説明を始めるユリカ。
「・・・あの、シュンさん、これって言った方が良いんですか?」
「・・・一応言っておけばいいだろう」
冷たく返された。
これは立案者に言うべきかも知れない・・・。
ユリカは少し顔を赤らめて言った。
「え、えーとシーラちゃんの発案で作戦名は、
『CODE:In My Justice〜太いんだよ!硬いんだよ!暴れっぱなしなんだよ!の巻〜』
だ・・・そうです」
・・・・・ポッ。
その一言を聞いた女性クルーの顔は少し赤らんでいた。
・・・なお、アキコが真っ赤になっていたのは気のせいではないだろう(笑)。
「簡単に言うと、出来るだけ近づいてからこの、『グラビティバスターライフル』を使った狙撃だそうです。
計算上から得られる射程はナデシコが目一杯近づいてもギリギリなので期待は・・・・」
「ユリカ」
アキトが一歩前に出て、話し掛けた。
「・・・俺にいいアイディアがある」
『お二人とも、発進してください!!』
ルリのからの発進指示が入り、二人はカタパルトから発進する。
ばしゅん・・・・。
「・・・ねえ、何であの二人じゃなきゃいけないの?アキコちゃんにはコウタロウ君が居るじゃない」
何か悔しそうにアリサがぼやいた。
「アリサさん、そういう問題じゃないんですけど・・・」
「じゃあ、どういう問題よ」
ルリは小さく溜息をついてから人差し指を立てて話し始めた。
「第一に、グラビティーバスターライフルの最大出力を出す為にはブローディア二機が必要です」
元々、グラビティーバスターライフルには一台の小型相転移エンジンが積んである。
だが、それだけならばナデシコのグラビティーブラスト程度の出力になる。
あのサイズのコロニーを完全に撃破するためにはあと4台、必要なのだ。
最大5台。
これがシーラの出した最大出力だ。
続けてルリが中指を立てて説明を継ぐ。
「第二にブローディアはあのお二人しか乗れません。
第三に『移動手段』が他の人には出来ないからです」
「・・・何よ、その『移動手段』って」
「・・・今は話せません」
ルリはそっぽを向いてしまう。
その態度にアリサはムッとむくれてブリッジから出て行ってしまった。
『・・よし、ジャンプ』
しゅんっ。
二人はグラビティーバスターライフルを持ってジャンプする。
すると、サツキミドリの目の前に出てくる。
まだ大気圏には入っていないようだ。
ブローディアの背中から剥き出しになったコードはグラビティーバスターライフルに繋がっている。
そして二人のブローディアはそれを掴んでいた。
−ブリッジ。
「・・・本当にあんな場所まで移動した」
「・・・嘘みたい」
ブリッジにいた人物のほとんどが呆気にとられていた。
「でも以前は月まで移動してたわけだし、そんなに不思議じゃないじゃ?」
ユリカは首を傾げる。
「・・・艦長、言っておくけど生体ボソンジャンプの研究はまだ完成していないのよ?
あの二人がそれを出来るだけでも驚くのが普通よ」
「あ、そうなんですか」
エリナの突っ込みにユリカはぽんと手をたたいた。
と、たまたまブリッジに来ていたガイが思わぬ一言。
「おお、なんかケーキの入刀みたいだな」
「「「「「冗談でもそんな事を言うな!!」」」」」
ごっ・・・どか、ばきっ。ごす、ざしゅっ。
「ひでぶ」
不用意な一言を言った為、某同盟の攻撃によりガイは重傷を負った。
「・・・おい、コウタロウ・・・お前まで・・・」
「・・・何か?」
コウタロウもその攻撃に荷担していたようだ。
殺意の篭った視線に、ガイは沈黙する。
「・・・大人しいヤツが切れると怖いって本当だったんだな」
「・・・そうですね」
その様子を傍観していたシュンとカズシはガイに同情の念を抱かずには居られなかった。
『よし、ナオさん達は地球に下りたみたいだな』
『・・・始めるか』
二人はリミッターを外す。
そして、ブロスとディアが、ブレアとディオが、エンジンを最大出力まで回転させる。
隠れた2台目の相転移エンジンが高鳴り、グラビティーバスターライフルにチャージされていく。
『・・・エンジン、出力100%オーバー。
ライフルエネルギー充填率400・・・430・・・470・・・500%突破!!』
『撃っていいよ、アキト兄ぃ!!』
『・・・発射!』
アキトの一声と共に、グラビティブラストの黒い帯がサツキミドリを飲み込んだ。
ばしゅううううう・・・・・どごおおおんっ。
バラバラに崩れ・・・最後には大きな爆発を起こした。
『よし・・・やった・・・帰還する』
ふぅ、と溜息をついたアキトの鼓膜が震えた。
『アキト兄ぃ、アキコ姉がぁ!!』
ブレアの通信が耳に入ったのだ。
『!?どうしたんだ!』
『アキコ姉が・・・急に・・・急に気絶しちゃったんだ!』
『なんだって!?オイ、アキコ、起きろよ!』
アキトが声をかけるが、アキコの返事は無い。
『く・・・仕方ない。
ディオ、ブレア、ブローディアをナデシコに帰還するまで制御してくれ』
『わ、わかった・・・』
『・・・一体、何がどうしたんだ?』
アキトは誰にともなく呟いた。
おまけ。
シャトルに戻ったイオリ。
だが、そこには・・・。
「・・・貴様、下りていなかったのか」
ゴートが居た。
イオリの存在に気付いたのか、ゴートは振り向く。
「・・・むっ、イオリ。・・・・・・ナオのせいだろう」
「・・・・・・馬鹿が」
・・・そうとしか言い様が無かった。
作者から一言。
・・・うーん、やっぱりクロスオーバーがややこしくなってるかも。
でも、これくらいが僕の納得する解説なんですけどね。
では、次回へ。
代理人の感想
んー。
クロスオーバー自体は私も好きなんですけど、設定だけ持ってきてオリキャラにそれを投入するというのではやはり燃え方がいまいち。
例えばブーステッド達がクサナギ・キョウのクローンだとか、ヤガミナオのヤガミが彼由来だったりするのはいいのですが、ナデシコ側のオリキャラ連中がただ原作の能力を持っているだけなのでは、設定のすり合わせとかキャラクターの絡みによって産まれるはずの、クロスオーバーの面白さが生まれてこないように感じるのです。
クローンのオリジナルという設定のクサナギ・キョウは「そのもの」ですし、ヤガミ・ナオの名前の元である「ヤガミ・イオリ」も「そのもの」です。でもオリキャラ連中は「そのもの」じゃないんですね。コーヒーミルクを作ろうとしたはいいけれども、ミルクが姿だけミルクに似たまがい物ではコーヒーミルクは出来上がらない、似ても似つかぬ味の何かが出来上がるだけと、そんな感じなんです。両方とも純正品じゃないと、混ぜたときの味も一段劣るものになってしまうんですね。
以上、クロスオーバーが好きな人間の放言でした。