うづきに侵入したシーラ。

その無謀な行動が起こすのは・・・何だ?






第18話「運命、そして・・・」





「・・・草壁中将が!?」

「・・・・・・そうなのよ」

舞歌は眉をしかめた。

月臣はその話を聞いて心中穏やかではなかった。

草壁がコロニー落としを目論んだ挙句、今度は誘拐を・・・そして脅迫をしているという事実。

そんな事を聞いたのでは、彼がエキサイトするのも無理は無い。

「馬鹿なことを言わないで下さい!何故、そんな事を!

今の木連の状況を見れば・・・和平が最善の策とは分かっているはずです!

・・・少なくとも一方的な虐殺や・・・脅迫などという卑劣な策をとったりは・・・」

月臣が拳を握り、歯を食いしばる。

彼は、草壁を信頼こそすれ、そんなことをする人物とは思った事が無かった。

「けど中将はそう思っていない・・・和平が最善だとは思っていないのよ」

「・・・これも何か考えがあってやっているのでは・・・」

「正気?」

「正気ですとも」

月臣の態度に溜息をつきながら舞歌は言葉を継いだ。

「じゃあ、あなたは草壁中将の何を知っているの?」

「何を急に・・・理想の為に、そして木連全体の事をお考えになっている、ゲキガンガーを愛する方です」

淡々と答える月臣を見てうんざりしたような顔で呟く。

「それだけ?」

「そうです」

「・・・・じゃあ、信用できるかどうか分かるはず無いわよね。

今、月臣君が答えたのは『一般的な、そして模範的な木連兵士の回答』。

・・・・つまり、その程度の事なら誰でも知ってるって事ね。

逆にそれ以上の事は・・・草壁中将の思想、理想までは分からないんじゃない?」

「それは・・・」

月臣は口篭もる。

返事をしない月臣を見て、舞歌はさらに質問をする。

「逆に、和平を考えているテンカワ・アキトの事・・・何を知っているの?」

月臣は若干怪訝そうな顔をするものの、即座に答えた。

「・・・・・・地球側最強のパイロット、和平を成立させる為に味方をも試す。

そして・・・敵である私を殺さず・・・さらには名前すら知っていた」

「そう。

どちらが自分に近く、そして自分が信用できる人間か比べてみなさい」

「・・・確かに義理などを捨て、同じ位で考えてしまえば・・・草壁中将はあまりにも・・・」

「そうでしょう」

舞歌は自分の湯飲みから緑茶を啜る。



すす〜。



「・・・それどころか、ゲキガンガーを正義に見立てるのはまあいいわ。

けど、一方的に地球側を悪にするのはどうかと思うのよ。

地球側がこちらから差し伸べた手をとらなかったから戦争・・・。

あまりにも短絡的で、そしてどうしようもない選択・・・。

加えて、今回の事件よ・・・そんなの信用しろって方が無理じゃないの?

それも私達優華部隊、そしてあなた達優人部隊に作戦を知らせもしないで、

コロニー落としは得体の知れない人物に、今回の誘拐は北山によ?

明らかに・・・これは木連側に伏せているはず。

・・・・・・・こんな状況なのよ」

「・・・失礼します」

急に月臣は背を向けた。

「どこへ行く気?

まさか今の話を誰かに聞かせて同意を得て・・・クーデターでも起こす気なの?」

「・・・その心積もりです」

「それは許せないわね。

私達、一部隊が喚いたところで木連全体の意見が変わるわけではない。

一度根付いた大木を幾ら何十人で押したって動くわけは無いし、折れる事だって無い。

それは分かるわよね?」

「しかし・・・どうしろと言うんですか?」

月臣は自分の手に爪が食い込むほど強く拳を握りしめた。

「このままでは・・・和平交渉の場を開いたとしても・・・」

「そうならないように動くしかない・・・けど、あなたにはそういう策を練ったりするのは無理でしょう?」

「・・・・・・・はい」

月臣がしぶしぶ頷く。

「それに・・・・」

「それに?」

舞歌が何か付け加えようとするのを見て、月臣は顔を上げた。

「あなたをこのまま戦場に向かわせたら、京子に殺されるわ。

もし帰って来れても・・・ね?」

「・・・・」

黙り込んでしまう。

そして、月臣はそれ以上何も言う事無く部屋を出て行った。

「若いわね」

「・・・舞歌様、この話は・・・」

後ろから男が出てくる。

舞歌は振り返らずもせず、答える。

「ええ、本当よ」

「・・・・」

「安心して。

公の為に命を捨てるほど私は責任感が強くないから」

(・・・嘘ですね・・・・・・)

舞歌の声は驚くほど静かだった。

それが、かえって彼女の決意の強さを物語っていた。

「失礼します」

「あ、氷室君」



ぱたん。



「・・・・あなたも若いわねぇ」

出て行った氷室を嗜めるように呟き、舞歌は茶を口にした。



















「いい、セレス。

私はアキトさんとアキコさんを助けに行く。

あなたは人質になったみんなを助けに行く。

助け終わったら私に連絡して・・・私が追いつくまで自衛する事。

それだけよ」

「はい」

シーラは簡単な説明をした。

いや、これが作戦だった。

二人はマントを羽織ると歩き出す。

「・・・光学迷彩、ON」



ひゅん・・・。



呟くと彼女の周りが透明になり、姿が消える。

「・・じゃ、黙って移動開始〜」

二人は別々に行動を開始する。


















−セレス−

私はロボット。

そう、認識している。

少なくとも、戦う時はそうしている。

時々、私は母に疑問を持つ。


−何故、ロボットの私に感情をつけたがるのか−


だってそうでしょう?

私は母が泣くのを身近で見ている。

可哀相で仕方ないけど・・・私はその気持ちを理解できない。

それで聞いた。

「ねえ、お母さん。

そんな悲しいなら見るのをやめなよ」

でも、首を振った。

「セレス、これは悲しいからじゃないのよ。

感動してるからなの」

「感動?」

意味は私の頭の中にあった。

だけど、それはどうも理解に苦しむ物。

『何かに感銘を受けたり、心が動かされる事』

・・・どう理解するべきなんだろう。

私はそこまで思考が深くない。

時に、ディアさんとブロスさん、あるいはディオさんとブレアさんに接する機会がある。

その時、感情のプログラムをきちんと持って居る事に気付き、

私は少々自分の低性能さにがっかりした。

・・・母はそれを別に気にしていない。

むしろ、別の感情を持っているようだ。

でも・・・私は、母の為に働く為のロボット。

仕事をする事に支障は無いのだから感情などはつけなくても良いと思う。

私は・・・誰かに接するときは人間として振舞うように言われている。

けど、それが何を意味しているのかは特に理解できないし、しなくてもいい。

だから、これ以上は考えない・・・考えないと言っているのに、私の中にはハッキリとしない、もやもやしたものが残る。

これだから・・・感情プログラムは。

私はその反応に苛つきながらも自身の生体反応探索システムを動かす。

生体反応が7以上の場所を検索。

・・・・・該当する個所、3。

その内、生体反応の大きさがCサイズである場所を検索。

・・・・・該当個所、1。

距離、北西に108。

そこの角を曲がって・・・真っ直ぐ進んだ所・・・か。

結構遠くにあったんだ。

「・・・任務の第一目的・・・人質の救出」

私は光学迷彩を解除し、腕を取り外してドリルを取り出す。



ぎゅいいいいいいいいいい。



壁に穴があき、中がハッキリ見えるようになる。

「皆さん、無事ですか?」

「せ、セレスちゃん?」

無事だ・・・7人、無事。

続いて、中に入れるように扉の爆破をしなければ・・。

「みなさん、部屋の端によってください。扉ぁ、爆破します」

「うん」

皆さんが下がると、私は自分の羽織っていたマントから粘土のようなものを取り出し、

ぺたぺたと扉の淵に張っていく。

そして、爆破。



どごっ。



・・・・プラスチック爆弾、今時使わないってウリバタケさんに念を押されたらしいけど・・・破壊力は十分。

「任務・・・続行する」

「待てよ」

「!!」

そこには・・・羅刹が居た。

















−シーラ−

・・・アキトさん達が運ばれてる。

作戦の口頭説明が早かったからそれなりに追いつけたけど・・・。

周りには、特に強い人は居ないようにみえる。

セレスからの連絡が来るのを待ってから攻撃。

・・・それが最善策。

アキトさん達は人質のことを第一に考えてるだろうし。

二人も安心するし、これでよし。

・・・っとぉ〜、連絡が来たみたい。

じゃ、いっせーの小突きシェルブリット〜。



がつんっ。


「何だ!?」

驚いている間抜けさんにもう一発〜♪



ごつん。



そして迷彩を解除する。

「お待たせしました〜。助っ人、ただいま参上!!」

・・・・・・あれ、返事が無い。

視線だけはこっちに向いてる・・・あ、そうか。

「ああ、薬を飲まされてんでしたっけ。ごめんなさい」

私はお辞儀をしてから無針注射を二人に打った。

アイちゃんに貰った、解毒剤。

それほど強力な薬じゃなければ簡単に分解できるようになるらしい。

もっとも二人ともナノマシンが驚異的な強さらしいから放っておいてもかなり早い段階で起き上がれるそうだけど。



ぷしゅっ、ぷしゅっ。



十数秒で効き始めるそうだけど・・・。

辺りに敵が居ないか確認しながら私は二人が動き出すのを待つ。

すぐに二人は立ち上がり、声の確認をしながら話し掛けてきた。

「あ・・・あーうー・・・と。ありがとうシーラちゃん。

でも人質の方は・・・」

「ああ、それはセレスがさっき助けたって連絡がありました。

さ、早く皆を助けに行きましょう」

私は歩き出そうとする。

「!!」

・・・角で、会いたくない・・相手に・・・・いや、ある意味では会いたかった。

幾ら憎んでも憎みきれない・・・最悪の男。

「親父!!」

「おぉっ、何だ、久しぶりだな」

呑気に笑顔なんか作って・・・!

あんたが居たから私は!

「アキトさん、アキコさん、先行ってください・・・。

こいつには少なからず・・・恨みがあるんです」

「・・シーラちゃん、復讐なんて・・・・・」

アキトさんが私を心配そうに見つめる。

けど、答えは決まってる。

「・・・分かってますよ、カトルみたいにはなりません。

ただ、親父は・・・親父は、木連の機動兵器を作った張本人・・・。

そして、私の恋人の仇!!」



ざっ。



私はシェルブリットを突き出すようにして構える。

・・・この時をどれだけ待ったか!!

「進んでください、アキトさん!アキコさん!


ここからは、私・・・いや、俺の戦いだ!!」


「・・・分かったよ」



たったった・・・・。



二人は走っていった。

「さー、こっちも始めるか、親父!喧嘩をよ!」

「・・・喧嘩?

喧嘩か・・・くくく、そうだな、壮大な親子喧嘩だな」

余裕たらたらのその顔、ばらばらにしてやる・・・。



ふぉんふぉんふぉんふぉん・・・・。



シェルブリットの小型相転移エンジンが高鳴り・・・フィンが回転して体が浮き上がり、親父に突進する。

「衝撃のファースト・ブリットぉ!!」

「無駄だ」



ばちぃっ・・・。



だけど、その拳は・・・届く事が無かった。

広げた掌だけでそれは受け止められた。

「俺のシェルブリットを受け止めやがった!?」

「お前、俺を誰だと思ってる?

お前に相転移エンジンの基礎を教えたのは・・・俺だ」

・・その手からディスト−ションフィールドが張られていた!!

しかもそれは私のシェルブリットより強い!

「そして、俺は反撃する・・。

・・・・・・リバース・アンド・シュート」



ばりぃっ。



「うわああああああああっ!!」











−アキト−

俺はアキコと一緒に走っていた。

もちろん、会話なんてない。

・・・そういう状況でも、する話も無いのも分かっていたからだ。

「なあ、アキト」

・・・・・アキコはそうは思っていなかったらしい。

「何だ?」

「ちょっと思ったんだけどさ。後ろ、誰か居ないか?」

俺は少し意識を後ろに集中させた。

・・・確かに誰か居る。

だが、俺達に気付かれない人間なんてかえって少ない。

・・・そう考えると。

「北斗か枝織ちゃんだな」

「へへへ、当たり」

気配を消すのをやめて後ろからついてくる枝織ちゃん。

「今日は遊んでる暇なんて無いからついて来ないでね」

「知ってるよ?」

俺は拍子抜けした。

・・・いつもの枝織ちゃんだったらこんなところで食い下がったりしない。

「だーかーら。

今日はお仕事でアー君と遊ぶの」



しゅっ。



「・・・・な!?」

枝織ちゃんは急に前に現れ、俺の顔に貫手を打った。

何とか首を反らして回避はしたものの、頬からは血が流れる。

そこで足が止まった。

「この前だって命を賭けてまで撃墜しなくていいって言われたからそれなりだったけど・・。

ピースランドの時の続きをしよう、アー君」

「命の駆け引きは遊びじゃ・・・」

「今日はお仕事なの。

だからアー君には私が邪魔なら倒していってもらわないと駄目だよ。

アー君を倒すのが今日のお仕事。

この前までは全部遊んでたけど、今日のは私の事実上の初仕事になるかな?

・・・・さ、やろ」

枝織ちゃんは構えをとる。

・・・確かに殺気が浮ついていない、今日の枝織ちゃんは本気だ!!

遊ぶように向かってくるのも危険だが・・・枝織ちゃんが真剣にやるとなると・・・。

「・・・仕方ない。

アキコ、先に行ってくれ」

「・・・ああ」



たったった・・・。



「あ、北ちゃんもそのへんにいるからね〜」

・・・くっ!俺達の対策も抜かりは無いって事か!!

俺は、腕に昂氣をためて枝織ちゃんを睨みつける。

「・・・行くぞ、枝織ちゃん!!」








−セレス−

「・・・くぅっ、さすが、流石「真紅の羅刹」・・・」

「どうした、紛い物。

その程度で俺と渡り合うつもりか?」

私は非常に不味い位置に立たされていた。

皆さんを背に背負っている上、相手が「真紅の羅刹」なんて・・・分が悪すぎる!

何より・・・私の格闘専用の「アーカードLV2」でさえ押されている・・・。

相手は攻撃力ではブーステッド以上・・・うまく捌かなければ。

今日は強力な近接武器は持ってない・・・お母さんに銃剣を作ってもらう約束をしたけど・・・。

ああ、もう!無い事を悩んでもしょうがないでしょが!

「うらあああぁあぁぁ!!!」



ばっ。



ロボットに有るまじき・・・妙な叫び声を上げて私は北斗さんに襲い掛かる・・。

一度は同じ釜を食った(当然私は食べません)間柄、少しは手加減してくれてもいいでしょうに!!

「遅い」


ごすっ。


頭を殴られて・・・私のCPUがぐらつく。

他の部分ならまだ・・・よかったのに・・・。

「北斗ぉ!!俺が相手だ!!」

「・・・!アキコか!!」

!アキコさんが・・・。

良かった・・・・・・私じゃ役不足だから・・・。

「すいません、後はお願いします」

「分かってる・・・少し下がって皆を護ってくれないか?」

「要人七人のガードを最優先、了解しました」

私はボロボロのまま皆さんの前に立つ。

・・・このままじゃ脱出が出来ない。

アキトさんが北斗さんに付きっきりでは・・・。

「北斗!お前は・・何故ここに居る!?」

「ああ、叔父に言われてな。

・・・それに、お前と戦えるかもしれないって聞いたら嬉しくてたまらないじゃないか!」



がっ。



昂氣に包まれたお互いの拳が激突します。

アキコさんの表情は複雑なものになっています。

「だが・・・!これでは!!」

「いいんだ!俺はお前と戦えればそれでいいんだ!!」

「くそっ・・・馬鹿野郎ーー!!

アキコさんが叫ぶ脇では・・・コウタロウさんが心配そうに見守っていました。

・・・どうも私の知識が偏っているのか分かりませんが、普通は男が女を護るような気が・・?

















ナデシコ。

二人が引き渡された後、10分もしないうちに事は起きた。



ぴっ。



ナデシコのオペレーターコントロールパネルが光る。

『敵襲』

オモイカネがそれを伝えると、マリーが眉も動かさず、小さい声で言う。

「・・・敵襲、戦艦タイプが3、ゲキガンタイプ5、小型機動兵器800」

「なんだって?」

マリーの一言を聞いて、ジュンは振り向く。

「・・・各員、戦闘配備!」

準備が始まると、ジュンはレーダーを見て確認する。

「・・・・・どうしてこんな時に!」

吐き捨てるように言いながらジュンは待機していたパイロット達に通信を入れる。

「パイロットの皆はオフェンス4、ディフェンス4でナデシコの防衛を最優先。

機動兵器は全て撃退、ゲキガンタイプについてはコックピットだけは狙わない事。

ただし、戦艦クラスは落とさない事・・・どれかに人質がいるかもしれない。

チューリップは無いみたいだから、心してかかってくれ」

『・・・ジュン、ちょっとまずった』

「どうしたんですか?」

ウリバタケから通信が入る。

『シーラちゃんが居ない。パイロットは全員格納庫に集合するように行ってあったはずなんだが・・・』

「なんだって?

・・・何が起こってるんだ」

顔をしかめるジュン。

だが敵は待ってはくれない。

「・・・敵、攻撃を開始」

「!四の五の言ってる場合じゃない、発進してくれ!」

『分かってるよ〜!』

パイロット達は発進する。

『・・・・たぁく、何やってんだよあの野郎』

『案外、あの戦艦に乗り込んでたりして』

ヒカルの茶化すような一言に手を振って否定する。

『・・・幾らなんでもんな事出来ないだろ』

しかし、ヒカルの冗談は意外に当たっていた。

流石に、冗談になるような事をしているとは思いもしないだろうが。




























草壁は、モニターを見ていた。

そこにはナデシコの映像があった。

「草壁中将・・・」

「氷室か・・・」

後ろからかかってきた声に草壁は返事をする。

「・・・私はこの作戦について一言も聞いていないのですが」

氷室の様子に、少々落ち着いた様子で答える。

「では聞かせよう。

ナデシコの戦力、機能を奪った上で動けなくなったところを殲滅・・・。

それがこの作戦の概要だ」

「しかし・・・そんな卑怯な真似を・・」

「卑怯?」

どこか歪んだ笑いを草壁は浮かべる。

「違うな、地球人は全て悪だ」

言い切った草壁に氷室は愕然とした。

建前だけでも他の理由を言うと思ったのだが。

少し幻滅した様子で氷室は出て行った。

「・・・草壁中将は・・・悪なのか!」

氷室はその心の中にあった草壁への信仰が一瞬で崩れた。

まだ信じたいという気持ちはあった。

舞歌の話を聞いていなかったら別段卑怯とも思わなかったかもしれない。

しかし少なくとも彼には草壁中将が絶対の正義ではなくなった。

(舞歌様も・・・あるいは・・・)

このまま和平会談に持ち込んだとしても・・何かが起こるのかもしれない。

舞歌も無事ではすまないかもしれない。

そんな事が彼の頭に巡る。

(・・・そんなことはさせない・・・絶対に・・・!)





















「今回は楽勝だな」

『そうだな』

木連のパイロットの二人が含み笑いをする。

ダイマジンがカタパルトにセットされていた。

『悪の地球人も痛手だろうな』

「ああ。せいぜい正義の鉄槌に打ちひしがれてもらおうぜ」

『発進、OKです!!』

整備員のサインが入ると、二人は叫んだ。

「『レッツ!ゲキガイン!!』」



ばしゅんっ!



『夢が明日を読んでる〜正義の叫びさレッツ・ゴー・パッション!!』

彼らのコックピットには当たり前のようにゲキガンガーのテーマが流れている。

自分達をゲキガンガーに重ねて出撃していく。

だが・・・彼らは気付いているだろうか?

無抵抗の相手にゲキガンガーは手を出したりしない事を。

ゲキガンガーが数で相手を圧倒したりしない事を。

そして、戦争とゲキガンガーが全くの別物だという事を。

彼らは全く知らない。

そのアニメを見るにふさわしい少年たちのように。

それが、仇になる。

『ナデシコから・・・敵が!?』

「馬鹿な!相手は動けないはず・・・」

『ゲキガン・フレアー!!』

しかし、そんな攻撃を受けるほどナデシコの面々はあまくはない。

「う、うわあああ!!」

一人のダイマジンが首を落とされる。

そこがコックピットになっているのでパイロットは無事なはずだ。

『前田!くそおおぉ!』

もう一人のパイロットが赤いエステバリスに攻撃をしようとする。

だが、脇から現われたピンクのエステバリスによってボディを抉られる。

『何だとおおおお!?』

男は絶叫した。





















−シーラ−

「・・・くうっ」

私は吹き飛ばされて床に這いつくばっていた。

「愚か者が。

所詮、俄仕込みの知識・・・応用では私の一歩上を行っていたが・・・なまじ、基礎がなってない。

その程度で私に勝てると思っていたのか?」

そんな説教を聴きたくて生きてたわけじゃない。

ヒロシゲさんの為に・・・あくまで、その為に・・・。

ここであんたと戦うのも、あんたが居たからだ・・・!

「撃滅の・・・セカンド・ブリット・・・」

倒れた体を無視して浮かせるために回転していくフィン。

私は痛む体を無視して突撃する。



ぶおんっ・・・!



「無駄だというのが分からんか?」

「ああ、俺は馬鹿だからな」



がきぃぃぃっ。



親父のフィールドにぶち当たって私はその強度がシェルブリットの出力を僅かに上回っているだけなのだと確信した。

・・・なら、その位なら・・・気合でぶち抜けるかもしれない・・・。

確証はない・・・けど、あくまでそれくらいの差だと私は思った。

「・・・・リバース・アンド・シュート」



ばしゅっ!



私はもう一度吹き飛ばされる・・・けど、そこで止まっているわけには行かない。

立ち上がって深呼吸をする。

「すぅ〜・・・・はぁああああ〜〜〜〜・・・・」

「無駄だ・・・幾らやっても結果は同じ・・・待っているのは、死だ」

無駄?そんな言葉はいい飽きたし、聞き飽きた。

それに・・・私はあの時から諦める事、捨てる事を止めた。

私の性分は・・・・・!

「・・・倒れるにしても・・・前のめりだッ!!

抹殺のラスト・ブリット!!」



ばしゅううううううっ!!



最後の一撃・・・・これで効かなければ私は・・・!



ばちんっ!!



フィールドにぶち当たる。

ここで・・・ここで私は乗り越えるんだ!

親父を超えて・・・私の先にある、何かを見る!

そして・・・明日を探す!




そう思い始めたら・・・。




私は何故か叫んでた。




泣いてた。



「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「!!!??

今になって・・なんでそれが動く!!?

私はお前が・・・それを使えなくなったから捨てた・・・はずっ!!」

何を言ってるかしらないけど・・・私は確かにそれを見た。


シェルブリットが・・・光ってる。


そして・・・私は思わず叫んだ。



「もっと・・・もっとだ・・・・」



ぎりぎりぎりぎり・・・。



シェルブリットそのものの耐久力が限界に近づいてる・・・そんな事知った事か!

親父を倒せるかもしれないのに止められるかよ!!



「もっと・・・もっと・・・」



びきびきびきびき・・・。



フィールドをゆっくりと拳が突き抜けていく。



あと一歩・・・最後の一歩・・・届け!








「もっと輝けええええ!!!!」










ばごんっ!!






特大の・・・一撃・・・。

ははっ、やった・・・届いた・・・。

私の拳が・・・親父を超えた・・・。

けど・・・・・・腕が・・・肘から下がぶっとんじゃった・・・。

血も出てない・・・親父のフィールドに焼かれたみたい・・。

満足・・・じゃないけど・・一矢報いた・・・意識を失いそうだけど・・・。

「おもい・・・いったか・・馬鹿・・おやじ・・・・」

「げほっ・・・・・・・くっくっく、アイビスが使えたか・・・まだアイビスが・・・」

アイビス・・・?

そんなものは聞いた事も無かった。

だけど、血を吐きながらも意味深に私の方を見て笑ってる親父は何かむかついた。

お互いに床に這いつくばって・・・くたばってんでしょうが。

「リチャードさん・・・あらら、大丈夫ですか?」

「お、おう・・・何とかな・・・。

肩かしてくれないかい?山崎さん・・・」

「あれ?そこに居るのは・・・」

「ああ、アイビスだ・・・もう玩具にしかならないと思ってたが・・・」

「アイビス・・・て何だ」

親父は立ち上がってにやりと笑う。

そして、銃をこちらに向ける。

私はもう動けない・・・!!

「冥土の土産に聞いておけ。

お前は・・アイビスプロジェクト・・・まあ仕掛けは教えてやらん・・長くなる。

機械を強化できる人間の開発・・・それのたった一つの成功例だ・・・」

「な・・・!?」

私は頭の中が真っ白になった。

つまり・・・私は、今の一撃をそれを使って放った!?

「発動条件としては極端な激情が必要な上・・・他のアイビスどもは発動した瞬間に死んだ。

ま、お前も歳を追って経験が増える事に発動が困難になっていってな。

大体研究が終わったのが・・・お前が出て行った日の10日前。

あとは普通の生活を送って親子関係も悪くないと思ってた所に切れて出てきたから・・。

あれだ、「人間は絶望的な状況でどれだけ生きていられるのか」って実験したくなったんだ」

そんな・・・私は・・そしてヒロシゲさんはそんな事の為に・・・。

「冥土の土産・・・これくらいでいいか。

さあ・・・・死ぬがいい」

「くそぉ・・・」

私は涙を流した。

結局、私は親父の玩具にしかなれないのだろうか?

そんな事は無い、アキトさん達を助ける事が出来た。

自分が勝手に起こした行動だ、ここで死んでも文句は言えない。

それに・・・ヒロシゲさんに会えるかも知れない。

なら・・・死んでいいの?

「私、死んでいいのかな・・・・」

ボソリと・・・私は呟き、勢いを失った私の心は・・・驚くほど静かだった。

ああ、これが死ぬ時の気分なのかな?

ヒロシゲさんは・・・こんな風に死んでいったのかな?



ヒロシゲさん・・・・。



「死ぬな・・・」



迎えに来てくれたんだ・・・ヒロシゲさん・・・。




声が・・・聞こえるよ・・・。




「死ぬなぁ・・・・」



もうすぐ・・・私もいくから・・・・。






「死なせるかぁぁ!!!」







ばんっ。






撃たれた銃弾は・・・私を赤く染める事は無かった。



ただ・・・目の前にいる・・・誰かが身代わりになってくれた・・・って事は分かった。




でも・・・・・・・・でも・・・・その人は・・・・。



「間に合ったな、シーラ」




「あ・・・・・あ・・・あ、あ」



その姿が・・・私の聞こえた声が・・・幻聴じゃないって教えてくれた。



忘れるわけが無い、忘れられるはずが無い・・・・。



失った・・・はずの・・・・ヒロシゲさんが・・・ここに居る・・・。



後ろにまとめてある長い髪も・・・顔に蓄えられた無精髭も・・・あの日のままだ・・・。



「ひろ・・・しげ・・さぁんっ」


ぶわぁっ、って・・・涙が溢れた。



私が作った義手で・・・銃口を掴んで笑顔で私を見つめてくれた。



もう・・・今、ヒロシゲさんの顔を見れただけで・・・もう死んでもいいかもしれない・・・・。











そう思っちゃうくらい・・・素敵な笑顔で・・・・。


















作者から一言。

・・・ヒロシゲ生還。

ええ、ご都合主義と言われようと。

俺的にはこういう展開が燃えたりしたりしちゃうんで。

理由は次回明らかになりますから。

本当は「ヒロシゲさーん!」「あいよ」・・・ってめっちゃスクライドにしたかったんですが、

やはりここはオリジナリティを加味する事が必要かと。

それと、迷ったんですけどやっぱり生還を選びました。

これ以外にもいくつかシナリオを考えておいたんですけど。

1.第三章最終話で登場させてシーラに助けさせる

ちょっと情けないんで中止。

2.第四章中盤でブーステッド化して敵として登場

reloadはダークではないので中止。

3.死なせとく

これは青reloadで描く予定なので中止。

・・・・・で、復活させた理由はやっぱりこれ以上引っ張ると他の作品を書き始めそうになるんで、

ここで復活させた方が順当かなと。

あとポイント的にはセレスかな。

・・Actionで真面目にドリルを使ったのは見た事が無いんでちょっと使ってみたくなりました。

>勘違いしてませんか?

すいません、激勘違いでした。駄目なんだなぁ・・・俺。読む側の事考えてないや。

今回は・・・ちゃんと書けてるでしょうか。

では、次回へ。



P.S.

なんか書いてて思ったんですけど・・・北辰とか北斗とか少しヤガミ家の人間に似てるような・・。

本編でも北辰は血がどうだこうだとか・・・北斗は性格とか容姿とか・・・それっぽいし。肉好きだし・・・。








最近のネタ。

武説草「BEN殿っ!!ナデシコの雰囲気が分かりません!!」

BEN様「そうか!ならば、これを聞けッ!」

武説草「おおッ!これはナデシコのサントラ!」

BEN様「とりあえず1曲目、YOU GET BURNINGだ!!」

武説草「よく分かりましたッ!」

・・・数分後。

武説草「BEN殿ぉ!戦闘シーンが分かりません!」

BEN様「そうか!ならばそのCDの20曲目を聞け!!」

武説草「おおっ!!これはエステバリスの戦闘曲!!よく分かりました!!」

・・・数分後。

武説草「BEN殿ぉぉぉ!!ユリカの気持ちが分からんです!!」

BEN様「ええい!これでも聞けい!24曲目だ!」

武説草「おおっ!私らしく・・・よくわっかりました!!!」

・・・数分後。

武説草「BEN殿ぉぉぉぅううう!!!木連軍人の気持ちが分からんです!!」

BEN様「んむうううっ!なら13曲目!!」

武説草「おおっ!レッツ・ゴー・ゲキガンガー3!燃える!!」

・・・数分後。

武説草「BENどのぉぉぉぉっぉぉうううおおおおっはっうあっ!!!!次回予告の心得は!?」

BEN様「25曲目・・・っていうか、

お主、次回予告なんてしないだろう」

武説草「そうでした!!」




・・・・・・これトップのネタになるレベルかなぁ。ならないレベルだろうなぁ。




Q.何で代理人さん(鋼の城さん)でなくて管理人さん(BENさん)なのか?

A.どこかの感想で「TV版見てません」っておっしゃってたんで・・・。

  俺もほとんど見てませんけど。





 

代理人の感想

ん?

私も管理人氏もTV版は見てますけど・・・・・なんかで勘違いされましたか?

 

それはさておき、ご都合主義は嫌いじゃないです。

後は、それを如何に格好良く書けるか。

頑張って下さい。

 

追伸

舞歌さん妙に老成し過ぎ(笑)。

一応設定年齢25なんですけどねぇ。

アニキのほうならこれはこれで似合うかもですがw