それは唐突だった。
いや、唐突ではなかったのかもしれない。
これは二人が再会した時点から必然になっていた。
二人は、真実を知ることになった。
第21話「最終決戦前夜・後編」
−シーラ−
ああ・・・もう夢みたい・・。
ヒロシゲさんにこうしてキスしてもらって抱きしめられる日がまた来るなんて・・。
今度は居候じゃない、恋人同士だもんね。
・・・ちょっと扱いがぞんさいな気もするけど、そこは全然OK。
それに今度は二人で戦える。
何度も救われてばかりじゃない、今度は私も護れるんだ。
命を賭ける戦場に居るだけにいつまで続くかは分からないけど、いつ死んでも後悔はしないと思う。
私も、ヒロシゲさんも一度お互いを失ってるから・・・。
それに、もうすぐ和平交渉だ。
これがうまくいけば・・・ずっと死ぬまでヒロシゲさんと居られるんだ。
デートは・・ご飯食べて、映画見て、それで最後には・・・ホテルで・・・きゃ〜〜〜♪
こうやって計画立てるだけでも幸せかも〜。
・・・・でもちょっと自己嫌悪。
戦うって誓いながらこんな事考えてるし・・・えらく錯乱してる気がする。
ぷしゅっ。
「シーラちゃん?」
あ、ライザさんだ。
私はうまく起き上がり、普通に聞いた。
「どうかしたんですか?」
そしたら、ライザさんは血相を変えて怒鳴りだした。
「どうかしたじゃないでしょ!
右手を無くしたって言うから驚いて来たのよ!
痛そうね・・・」
視線がずれていき、右肩を見た。
最後の方は心配そうに呟やいていた。
私が腕を無くした悲しみよりはヒロシゲさんと再会できた喜びのほうが大きいって知ったら怒るかな?
体だけは代えが効かないっていうからね。
でも、本当にこれでよかった、って思ってるんだよ?
「大丈夫ですよ、ライザさん。
心配しないで」
「・・・何でそんなに冷静なのよ」
ぶすっと仏頂面で私を睨むライザさん。
・・・でも顔が4歳児では格好が付きませんよ。
むしろ可愛いかも。
「だって・・・右腕がなくなった代わり、死んだはずのヒロシゲさんが帰ってきたんですよ!
もう気にならない気にならない。
むしろへっちゃら!
元気マックスですよ!」
「・・・そっか、やっぱりシーラちゃんには大切な人なんだね」
今度はしょぼん・・・と落ち込んだように呟く。
・・・うーん、アンニュイ。
じゃなくて。
ライザさんは嬉しい半面複雑なんだね。
自分に似てるだけに・・・ちょっと可哀相かな。
でも、ライザさんの道はライザさんが決めなきゃ。
私だって自分の道は自分で決めた。
その先にヒロシゲさんが居てくれた。
それだけが結果。
ライザさんの先に何があって、何を失うのかはまだ分からない。
だけど、ライザさんだって運命の人はいずれ現われる。
もちろん、私は幸せな人生を送ってもらえるように支えるけど、それでも。
最後の最後はライザさんが決めなきゃいけないんだ。
だからライザさんも励まさなきゃ。
「うん・・・失った思い出って美化されがちだけど、私は変わってないと思う。
ヒロシゲさんの顔を、声を、仕草を見て、
『ああ、帰って来てくれたんだな』
って、逆に実感してました。
まだこれからなんです。
恋人になったのは、最後の死ぬ間際。
思い出は確かにあります。
でも、それは「家主と居候」の思い出であって、「恋人同士」ではなかったんです。
・・・だから、これから思い出を作るんです。
ライザさんだって、これから自分の人生を歩んでいくんでしょ?
思い出はこれから作るんでしょ?
私達のスタートラインはここなんです。
スタートするのは『ナデシコ』からなんです」
私の話を聞いて、ライザさんは小さく肩を震わせていた。
・・・うん、ライザさんも恋人を思い出したんだね。きっと。
どんな人かは分からない。
だけど、ライザさんを縛り付けて迷わせていたのは聞いた話から考えれば間違いない。
・・・そんな人でも忘れられないライザさんは可哀相だと思う。
初恋は、叶わないで終わる。
それが分かってしまうだけに、そんな人でも好きになって忘れられないだけに・・・可哀相。
私の場合は叶って終わってた・・・。
ある意味、これは二回目の恋だ。
だから叶わない事は無い。
・・・都合の良い解釈だけど、きっとこれでいい。
うん、それがいい。
ライザさんの恋も次はきっと成就する。
きっと、前の恋人の事を忘れさせちゃうくらい素敵な人に出会う。
そうじゃなきゃ間違ってる。
漫画好きの少女の妄想だとか、そういう風に取られてもいい。
少なくともこんなに綺麗で、内面は儚い印象を与えるライザさんだ。
男のほうが放っておかないでしょ。
整備班の誰か・・・は、無理だね。
みんな飢えてるから・・・私も貞操の危険を感じたのは一度や二度じゃない。
そんな中にライザさんを一人で放り込むわけには行かないし・・・。
以前みたいに恋人募集宣言をする時は味方がいて初めて出来るんだ。
・・・だって、そうじゃなきゃ恥ずかしくていえないよー。
と、私が色々と思考をめぐらせているとライザさんは泣いていた。
恋人の事で悲しみを紛らわせないんだね。
「あ、ライザさん・・・」
「ひくっ・・・ごめんなさいね・・・。
大人の女がこんな風に泣いちゃっ・・・ないちゃいけない・・の・・に・・・」
いつもクールなライザさんだけど・・・ホントは幼い所がある。
精神年齢ってよく言うけど、それを使うなら・・・恋人に拾われた時から止まったままだ。
社会の事を知っていても・・・心の底は、幼い。
私も人のことは言えないけど・・・アニメ好きだし。
とにかく・・・ライザさんは泣かせてあげたい。
少しでも気が晴れるだろうから。
私はそっ、とライザさんを胸元に寄せる。
「・・・そんな事無いよ。
泣きたい時は思いっきり泣くのが人間なんだよ」
「・・・うん」
本当の年齢ならライザさんは私の姉くらいになるのだろう。
けど、この姿だと私の妹くらいに見える。
・・・そっか、ライザさんは・・・家族を知らないんだ。
甘えたい年頃なんだ・・・まだ、ライザさんの心は・・。
「・・・ライザさん、ライザさんは・・・『お母さん』とか『お父さん』って覚えてます?」
ライザさんは横に首を振った。
やっぱり・・そうなんだ。
私は、家族というものの温かさを知っている。
それは親父にも、ヒロシゲさんにも教えられた・・・。
自分を見てくれる事、褒めてくれる事、優しくされたりする事の嬉しさも・・・。
「私は『お父さん』は居たんです・・・。
甘えることは出来ても・・・最後に、ああなったのは・・・悲しい。
ライザさんだって親には裏切られた・・・。
だけど私は一時の『親の温かさ』は得る事が出来ました。
・・・ライザさん、親に捨てられていたのを恋人に救ってもらえたのは確かに尊い事です。
でも利用する為に拾った彼を・・・親のように大切に思ってしまうのは、分かりません」
「・・・」
私をキッと睨みつける・・・。
その幼児くらいの瞳には似つかわしくない怒気を放ってる・・・。
けど・・・一時の姉・・・いえ、母親代理として言わないといけない。
ライザさんも・・・泣きたい時に泣きつかせてくれる、知らない事を教えてくれる・・・親が欲しかったに違いない・・。
ごめんなさい、ライザさん。
もしここで言わなければ一生その恋人の幻影を追って生きるしかなくなるかもしれないから。
私と・・・同じになっちゃうかもしれないから・・・。
だから、言わないといけない。
「・・・私も、ヒロシゲさんを親のように大切に思っていないのか、といわれたら嘘になります。
けど、ヒロシゲさんは・・・私の世話をちゃんとしてくれた。
利用するどころか、いちいち世話を焼いてくれようとしたんです。
大切にしてもらった、それだけヒロシゲさんのことを強く思い始めたんです」
「・・・」
ライザさんは俯いて私の胸に顔を押し付けた。
嗚咽の声が・・・私の胸を痛める。
肩の震えが・・・私の気持ちを揺り動かす。
でも・・・これは、伝えないと・・・。
私はライザさんを強く抱きしめて・・・話しつづける。
「幸せ者の戯言、と言ってもらって構いません。
人を思うのに自分への奉仕を天秤にかける損得勘定しか出来ない女だと思われてもいいです。
他人の思い出を・・・踏みにじる馬鹿野郎だって言ってください。
人それぞれの価値基準に自分の理論を押し付ける傲慢な女だと罵倒してください。
それでも・・・」
すごく、言いづらい事だけど・・この先を言わなきゃ・・・。
言わなきゃ・・・変われない。
私も、ライザさんも。
ライザさんは自分のことを思ってくれてたと信じたい一心で・・・違うかもしれないけど。
そこから抜け出す為には、新しいものの見方を覚えなきゃいけないんだ。
愛された事が無いから『愛し方』が分からない。
愛された事が無いから『愛され方』が分からない。
愛を表現した事が無いから『愛に伝える』ことが出来ない。
愛を表現した事が無いから『愛を受け止める』ことが出来ない。
それじゃ、後悔する。
ヒロシゲさんは、土壇場で告白してくれた。
お互いに、『愛する事』を表現できなかったから、あの勢いが必要だったのかもしれない。
もし平和に生きていたら、どこかでヒロシゲさんと別れたかもしれない。
だから、なの。
『愛する事』は『愛される事』。
その前の段階は置いておいても、結局はそれだ。
だから・・・一つの判断基準を提示してあげたい。
初恋を覚える前の女の子のような表情をしている、ライザさんに。
これから、愛を覚える上で最低限必要だから。
「・・・少なくとも、心のどこかで好きって感情を持っているとどこかに出てしまうはずなんです。
ライザさんがどんな形で愛されていたのか、もしくは愛されていなかったのか、は置いて、です。
だから・・・愛の本当の形を、覚えて欲しい。
人を好きになったら、好きだって言わなきゃ分からないんです。
・・・ライザさんの恋人は・・・ほとんど生かした見返りに手伝ったくらいにしか思ってなかったのかもしれない。
もし、言ったとしても・・・その人が受け入れてくれるか・・・本当に応えてくれるのか・・・。
表面上で受け入れてくれても・・・本当の意味で応えてくれなきゃ、それは愛じゃない。
・・・・・・少なくとも、そういうものだと、私は思うんです・・・」
「・・・・」
ライザさん・・辛そう・・・でも、これはライザさんが歩き出す為なんだよ。
明日を見るためには・・・自分の過去を否定しなきゃいけないこともある。
私が・・・そうだったから・・・。
「・・・そうね、テツヤは確かにそんな男だったわ」
震える声を制して・・・ライザさんは・・「テツヤ」さんを否定した。
自分の思い出を・・必死に・・否定しようとする姿は・・・痛々しい・・。
「・・・ライザさん」
「けど・・・もうちょっと、時間がかかるかもしれない。
分かってるの、頭では分かってるの・・・。
それでも・・・わたし・・・」
「いいんです、今すぐじゃなくても。
私は、ライザさんが立ち上がってくれることだけが望みで・・・話したんです。
一年でも・・二年でもいいんです・・・昔の自分を否定するのは、とっても勇気がいります・・・」
「・・・」
「私も・・・生きる為に、父親に甘えてた自分を捨てざるを得なかったんです。
大好きだったお父さんを・・・憎むべき、宿敵にしなければならなかった。
けど、それは・・・私の人間としての根本に背いてたからで・・・。
私が、今までで学んできた人生の中で・・・覚えてきた事で・・・。
でも。
その中で生きる為に人を轢き殺してしまいました。
自分が生きたいが為に・・・自分の根本に・・・その・・・背いて・・・まで・・・」
「シーラちゃん・・・」
「・・・何かを得るためには、何か同等の代価が必要。
それが・・・この世の法則・・・。
生きる事を望んだら・・・それに相当する後悔や、自失をしなければならないんです・・・」
「・・・・」
「でも・・・いつか、それでさえ幸せへの布石だと思える日が、きっと来ます」
私はライザさんの両肩を掴む。
そして・・・目をじっ、と見つめて言う。
「来なければ・・・おかしいんです・・・。
ライザさんは・・・幸せを得るだけの・・・得る資格があるだけの・・辛い人生を送ってるんですから・・・。
等価交換、それが全て・・・私は幸せだった分、不幸をいっぺんに背負った、これからの人生の分も。
だから、これからは・・・不幸が来ないと、そう・・・願いたい。
ライザさんには、どんな人にも追いつけない・・・最大の幸せを、得て欲しい・・・。
それが・・・私の、願いなんです・・・」
言い終わったら・・・どこか、空虚感が私を包み込んだ。
そう・・これは、運動をして全力を出し切ってへたり込んだ時の・・・・あの、感じ。
ただ違うのは心地よさが無いだけ・・・・運動後の、あの、独特の心地よさが無い・・・。
私は。
私は・・・ふと思ったのだ。
私は偽善者ではないのか、と。
何を言ってるの?
私は腑抜けてるのに?
自分が幸せになれたから誰かを幸せにする?
ヒロシゲさんに再会して安定したからこんな傲慢に、人の人生を否定してただけじゃないの?
それが、ライザさんにとってプラスにしろマイナスにしろ、その人の生き方を否定する権利なんてありはしない。
今になって、私は後悔を始めた。
自分の価値観を、押し付けてるだけじゃないのか・・・。
ライザさんの為と思い込んで、自分の・・・言いたいことを言ってるだけじゃないのか・・・。
私は・・・ちっぽけなんじゃないか。
自分が相手の立場になれないのに、こんな事を言うなんて・・・。
虫が良すぎる。
ライザさんは傷付いてた。
私は安心してた。
それなのに・・・。
それなのに、私はライザさんを励ますと思いながら、さらに傷つけた。
それは、すごく卑怯で、傲慢なんじゃないか・・・そう思った。
けど・・ライザさんは・・・。
「・・・こんなに、私の事を想ってくれる人が居るなんて・・・信じられない。
ずっと、私は・・・誰かに想われること無く死ぬと思ってたのに・・・」
「そんな、ライザさんは」
私はライザさんの、自分を打ち消してしまいそうな・・・悲しい一言に、胸が痛んだ。
・・・世界に存在を認められない悲しさ、私も逃げ出した時に感じた。
私と親父が・・・私の世界の全てだった・・・。
親父が私を捨てて、私を殺そうとした時・・・本当に、全世界から否定された気がしたから・・・。
今、私が・・・ライザさんを否定したかもしれないのに、ライザさんは私が・・・。
私が、ライザさんを思ってるって・・・言った。
取り繕うだけでもしたくて・・・何か言おうとしたけど・・。
でも、私が言葉を繋ぐ前にライザさんは言った。
「・・・シーラちゃんに一緒に歩き出そうって言われた時、私・・・嬉しかったの。
自分と同じような境遇なのに、前進できるあなたの・・・あなたの前向きさが、ひたむきさが・・・眩しくて・・・。
幸せになるために一生懸命になれるあなたが・・・羨ましくて・・・。
テツヤの事は・・・ゆっくり忘れる・・・・。
忘れられなくても・・ちゃんと明日を探して、幸せになってみせる。
泣き虫でも・・・私は・・泣きながらでも・・・乗り越えてみせる・・・」
「・・・私は・・・・・」
・・・ライザさんは、「私が取って欲しかった方向に」解釈してくれた・・。
でもそれはたまたまそう取ってくれただけ・・・。
結局・・・私は、ただの傲慢女なのかもしれない・・・。
「・・・ごめんなさい」
「・・?」
「私・・・酷い事・・・」
「どうしたの・・?」
「・・・私は・・偽善者です・・」
「偽善者?」
・・・多分、私も泣いてる。
懺悔の言葉・・・言わなければ咎められもしないかもしれないけど・・。
それでも・・・私は・・・自分が、これほど馬鹿だって思ったことはない・・・。
ヒロシゲさんが死んだと思った時でさえ・・・満足してくれたって言ってくれて・・私が空っぽになっただけだった。
ただ・・・ライザさんに許してもらうのを期待して・・・こんな事を言うのかもしれない・・叱って欲しい。
でも・・・。
「否定、出来るわけ無いのに・・・。
ライザさんの道を・・・否定できる資格なんて・・・ありっこないのに・・・」
「・・・いいのよ、私・・・シーラちゃんの話を聞いてて・・すごく嬉しかったの」
「嬉しい?」
意外な一言に・・・私は、驚いた。
「・・私の選んだ道が正しかったって、
テツヤの幻影から逃れる為に・・・死んででも逃れてみたかった・・・。
そう思ったのが、間違いじゃなかった。
それで正解だった、って・・・今、教えてくれたのよ、あなたが」
私が・・?
「・・・シーラちゃん、ありがとう。
こんな私でも・・・泣かせてくれて・・・。
私・・・あの日、シーラちゃんが命を助けてくれた日から・・・ずっと。
テツヤを否定して正解だったのか・・・判断しかねてた。
だけど、シーラちゃんが改めて否定してくれたから・・・私は、ちゃんと諦められると・・思ったのよ。
時間がかかっても、って言ったでしょう?
もう一声、無かったら・・・まだ忘れられなかったかもしれないの。
・・・だから」
「けど・・・・だけどっ!
私は否定しちゃいけないのに・・・」
私は、頭が真っ白になった・・。
何を言っていいのか・・・何か言っていいのか、分からない。
けど。
けど、ライザさんは・・・許してくれようとする。
「・・・いいの」
「・・・!!」
私は・・・ライザさんに、抱きしめ返されて・・・言葉が告げなかった。
「・・・私は、歩き出せるきっかけを貰ったんだから」
「・・・・・・許さないで・・・」
・・・許して欲しくて言ったわけじゃないの・・・・・。
「命があって・・・こんなに、嬉しく思った日はないんだよ?」
「でも・・・」
「・・・ありがとう」
「・・・ライザさ、ん」
私は・・・・わたしは・・・っ。
正しかったのかな・・?
間違っても・・・お礼を言われるような事をしたとは思えなかった・・・。
それが、私の不安定で・・・気まぐれに近い、ただの・・・だったら・・・。
で、も・・・・。
ライザさんは・・・・・・。
「明日を・・・」
御礼を言って・・・。
「未来を、ありがとう」
許してくれた・・・。
私は・・・。
本当に・・・。
どうしようもなく・・・。
傲慢で・・・。
卑怯で・・・。
弱くて・・・。
情けなくて・・・。
侮ってて・・・。
人に迷惑をかけて・・・。
ただ、偽善を通してるだけなんだ・・・。
なのに・・・。
それなのに・・・。
許してくれるなんて・・・。
「何で・・・」
ヒロシゲさんも・・・。
ライザさんも・・・・・。
「こんなに・・・優しいの・・・・?」
ライザさんはしばらく私を泣かせてくれたら出て行った。
あんなに自分を卑怯だと思っていたのに、どこか気分が晴れ晴れとしていた。
やっぱり泣きあうっていうのは・・・お互いにすごく癒されるものなのかなぁ・・・。
そんな事を考えていたら・・・イネスさんが入ってきた。
精密検査をするって言われて・・・レントゲンやらなんやらで体を見てもらったんだけど・・。
精密検査を一通り終え、どこか溜息じみた息を吐くとイネスさんはこう切り出した。
「・・・シーラちゃん、あなたどういう体してるのよ?」
「へ?」
私は思わぬ一言に疑問符を浮かべる。
それもそのはず、私自身は普通・・・いや、体力には自信の無い方だと思っていたのだ。
体育の授業だって人並みにしか出来なかったし、部活のバスケットだって・・・いいとこ、補欠。
だから、私は聞いてみた。
「どういうことですか?」
「・・・普通じゃないのよ。
精密検査自体は命にも別状は無いし、体も大丈夫そう。
・・・でも、骨、筋肉、髪の組織・・・その他もろもろ、普通じゃないの」
・・・普通じゃない、それは髪に関しては確かに分かる。
染めたわけでもないのに、真っ白で・・・痛んでいる様子もないし、
キラキラして綺麗だねってよく言われる自慢の髪だから。
「・・・心当たりはありますけど・・具体的には?」
カルテをこんこん叩き、イネスさんは怪訝そうな顔をする。
・・・そんなに変なのかな?
そして、顔を上げると私を見据える。
「そうね・・・遺伝子に手を加えられているのはまず間違いないわね」
私の頭の中に・・ひとつの単語が浮かび上がる・・・。
「アイビス」
私が親父に植え付けられた・・・兵器を強化出来る人間として開発された、システム・・・。
あの一撃は・・・これが無ければ放てなかった。
だけど・・・忌々しい。
まだ、あの親父の掌の上から抜け出せていない以上・・・忌々しい。
私は、遺伝子に手を加えられているといわれたのでルリちゃん達、マシンチャイルドの顔を思い出す。
「ルリちゃん達みたいにですか?」
「いえ・・・ナノマシン自体はパイロットのそれと変わらないみたいだけど、まず強度ね。
鍛えていない割に体の強度が規格外なのよ。
・・・常人の5倍はあるわね」
「嘘ぉ」
・・・5倍?
私って・・・そんなに頑丈なの?
意識した事は無いけど・・・。
「確かに・・・あんな無茶な事をして腕を痛めていないのはおかしいと思ってたわ」
「痛っ」
腕をつねられて私は痛くなる。
「・・・こうすると痛いわよね?
でも、あなたは痛覚こそ普通だけど・・・かなり無理が利くわね。
それこそ・・・アキト君達みたいに他人では体が潰れかねないGを受けても訓練すればすぐ扱えるはず」
「・・・無理って、あのゲキガンガーロボットにシェルブリットを使った時の事ですか?」
よくよく考えれば・・・シェルブリットを放つ時は必ず痛む。
だけど、撃ち終われば痛みは消えた。
あんまり意識はしなかったけど骨がミシミシ言うのは結構多かった。
「ええ、そうよ。
普通に考えてあれを普通の人間がやろうものなら・・・軽く骨は折れるはず。
鍛え方によっては扱えるかもしれないけど、あなたの筋力では無理なのよ」
私の二の腕を揉んで筋肉の無さを強調してみせるイネスさん。
そっか、今まで生きてきて骨折をしなかったのはそのせいなんだ。
友達と二人掛り運んでいた重い机で、揃って足を下敷きにされたことがあった。
けど、私はひびすら入らなかった。
友達は骨折してたけど・・・。
「・・・ま、あなたの体には興味があるからその心当たりって言うのは何か教えてもらえる?」
イネスさんは・・・深く入り込む顔をしていた。
・・・そうだよね、少なくとも何かされていなければこんな体じゃないし・・。
「・・・私、機械を強化出来る人間として開発されたらしいんです・・・。
原理は分かりませんけど、多分親父に改造されたんじゃないかと・・・」
「・・・あなたのプライバシーの問題だからあんまり口は出さないけど大変ね・・・」
「・・・ええ、今はそれでも良いって思ってるんですけどね。
ヒロシゲさんが・・・生きててくれたから・・・」
「シーラちゃん、もっと正確に体を見たほうが良いと思うんだけど」
「・・・何か企んでません?」
「あら、分かる?」
・・・そりゃ、イネスさん。
何か含む笑顔を見せて話し掛けているのを見たら・・・誰だって分かりますよ。
「・・・まあ、いつか何かを相談する時が来るかも知れませんけどぉ・・・。
それでも自分から、なんの目的も無く実験台になる趣味は持ってませんよ」
「やぁね、いくら私でも同じ女の子にそんな事しないわよ。
とりあえず今日の診察はこれで終わり。
今日は休んで、明日には退院してもいいから」
「はーい」
イネスさんは言うと医務室から出て行く。
・・・私って、結局・・・普通の人間じゃないんだね。
・・・ヒロシゲさんは、こんな私でも・・・嫌いにならないよね・・?
しばらくして、ヒロシゲさんも再び現われた。
寝に入ろうと思ってまどろんでいたけど・・・何度見ても感動するなぁ・・・。
「よ、シーラ」
「ヒロシゲさん・・・どうでした?」
あ、ヒロシゲさんもスクライドを見てきたみたい・・・。
だって、顔がどこかすっきりしてる表情だし。
あれはラストの虚脱感を感じると自然に出てくる、疲れにも似た表情だ。
「サイコーよ。
お前が俺に似てた・・・っていうのがすげえ分かった。
あれ、俺の昔にそっくりだぜ」
「ホントですかぁ?」
・・・やっぱり、私の見定めは間違ってなかったみたい。
ヒロシゲさんに重ねたカズマの姿は・・・ヒロシゲさんそのものだったんだね。
「ああ・・・まんまじゃねえけど・・・多分・・・」
「・・・あの、ヒロシゲさんはカズマみたいに居なくなりませんよね?」
・・・真似して欲しくない、どんな事があっても私の傍に居て欲しい。
一度失うと・・・二度失う事が怖くて、離れられなくなる。
かなみちゃんみたいに私は・・・ヒロシゲさんの心が分かる訳じゃないから。
ヒロシゲさんは心配そうに見つめる私を撫でてくれた。
「理由もねえのにいなくならねーよ」
「・・・そうですか」
・・ちょっと、安心できた。
すると、ドアが開いた。
ぷしゅっ。
「ちょっといいかい?」
「タニさん」
医務室に入ってきたのは30歳くらいの男性・・・でも、どこか表情が険しい。
まるで、苦渋の決断をしたかのような顔だ。
「・・・どうした?」
ヒロシゲさんは名前を知っていたみたいだけど・・・その表情に、何かを感じ取ったらしい。
「・・・二人とも落ち着いた頃だと思って話をしに来た。
ヒロシゲ君が何故あそこにいたのか、そしてシーラ君の・・・事だ」
私の・・・事?
「・・・聞かせてくれ。
こうして俺達が再び会ったのは偶然じゃないんだろ?」
「・・・ヒロシゲ・・・さん?」
偶然じゃない・・?
「多分、裏があるとは思っていた。
そう・・・あの馬鹿親父がいたあたりからずっと考えていた。
・・・・あいつが一枚噛んでいるんだな?」
「・・・ああ」
タニさんは溜息をつきながら顎を抑えた。
「実は・・・あの男は人の人生をゲーム程度にしか思っていない。
彼自身、かなりのゲーム好きだった」
・・・うん。
私も何かといえばゲームの相手をさせられた記憶がある。
主にロボットアクションが好きだったみたいだけど・・・。
人の人生をゲームにするって?
「そして次第に彼は人の人生を弄ぶ事を好むようになった。
・・・君は、あの男のシナリオ上の駒にされるところだったんだ」
私は背筋が凍る。
ヒロシゲさんを、駒に?
「臓器を再生後、洗脳してシーラ君に見せるつもりだった。
途中で君がパイロットをしている事実も知った。
だから彼は・・・戦場で君を追い詰めて反応を楽しもうとしていたらしい」
そんな・・・だからあの場所にヒロシゲさんも親父も居た・・って事?
「・・・つくづくゲス野郎だな」
ヒロシゲさんが・・・怒ってる・・・。
元々表情に感情が出づらいけど・・特に無表情になる時は、怒ってる時だ。
「・・・そんな時、丁度チャンスが訪れた。
シーラ君が侵入した事で正規の軍人が少ないあの艦はかなり混乱していた。
その間に私達は脱走を図った。
・・・その時、君も逃がそうとしたんだ」
・・・凄い話・・・。
私が侵入したからヒロシゲさんは生きて出られて・・・でも私が居なければそのまま生きてたわけで・・・。
・・・うー。
「なるほど・・・無謀だと思ったが勝算がなかったわけじゃなかったのか」
「そしてシーラ君の事だが・・・アイビスについて・・。
結構・・・私達にも原理だけは教えてくれた。
・・・やはり誇りたがる物なのだろうな、化学者と言うものは・・・。
『アイビス』はマシンチャイルドが開発され始めた頃、クリムゾンで開発に着手していた。
・・・彼は人の『気』に着目していた。
『気』は人間には操りにくいものだ。
どこかに集中させ、強力にするのは・・・北斗君、枝織君くらいしかできない。
あれを、機動兵器の強化に使用した。
・・・私はその話を聞いたとき正気かどうか疑ったよ。
幾らなんでもそんなむちゃくちゃな話、信じられるか?」
・・・なに?それ?
ドラゴンボールじゃあるまいし・・・でもあの二人なら?
「・・・だが、人間の『気』は私の想像を越えていた。
現にあの二人は素手で機動兵器を破壊してみせる。
実験に付き合ってもらったが・・・握力、跳躍力、走力・・・どれもが規格外。
挙句の果てにエステバリスをひっくり返した。
アイビスは激情によって発露するのだが・・・激情は気を高めるそうだ。
・・・その結果は君が自らの体を持って体験しただろう?」
確かにダイマジンのフィールドを打ち破るほどの力を持つシェルブリットだ。
それ以上の負担をかけたら腕が吹っ飛んでもおかしくない。
ダイマジンに対しては一撃で使用不能になる有様だし。
それに、あの二人なら本当にエステバリスくらいならひっくり返しちゃうだろうし・・・。
私の『気』がどれ位強いかは分からないけど、できる確率は・・・ゼロじゃない。
「・・・そもそも君と彼の作る物は異常だ。
相転移エンジンを小型化・・・それも自分なりの理論だけで、だ。
・・・彼はダイマジンに使われるフィールドよりも強力なフィールドを張って見せただろう?」
「そういえば・・・」
・・・確かに、親父は・・・。
多分、私のシェルブリットよりも高性能なディストションフィールド発生装置があったのだろう。
装置があんまり目立たなかったけど。
「・・・天才、そう言ってもいい。
君は彼と比べてまだ未熟だが、それでも最高のエンジニアだと思う。
だが彼は手段を選ぶ人間ではない。
勝てるかどうか・・・」
しゃらくさい、そんな細かい理屈。
私は・・・。
「勝って見せます。
アイビスが無くても・・・私は、私が私である事を・・・。
シーラ・カシスは親父を超えられると証明してみます」
「・・・そうか」
言い終わると、ヒロシゲさんがずいっ、と前に出る。
「そして、俺はシーラを護る。
ついでにあの馬鹿に二度も三度も痛い目を見せられてる俺達二人分、全部倍返しにしてやる」
ヒロシゲさんの返事に・・タニさんがふっ、と溜息をついた。
けど・・・どこか嬉しそうな目をしていた。
「・・・その若さがあの男を超える要素になるかもしれない」
「言われなくても」
「やってやるよ」
「・・・その返事を聞いて安心した。
私はこの話を聞かせたら殴られるんじゃないかって思っていたんだが・・・」
ヒロシゲさんは鼻でふん、と笑う。
「・・なあに。
あんたが直接シーラに手ぇ出したんなら『ほぼ』全殺しだったがよ。
俺達が知らない情報を持ってきてくれた、それだけでも御の字だ」
「・・・すまない。
それと、気がかりな事がある」
「何だ?」
「・・・それが脳移植を施したクローンが居たんだが・・・。
どうもそのクローンには完成版のアイビスが搭載されているらしい」
「「!!」」
私は・・・驚愕した。
機動兵器サイズになったらどれくらいの効果が現われるかは分からない。
けど、それがフルバーストと平行して発動できたとしたら?
それを扱いきれるパイロットだとしたら?
・・・不安は尽きない。
「・・・激情を必要としない代わり、効果は若干落ちる・・・だが、それでも十分脅威になりえる。
君のその白髪はアイビスの印だそうだ・・・だから白髪のパイロットには気をつけろ」
「・・・分かりました」
・・・それでも、私の決心は変わらない。
親父を超えてこそ・・・私は、勝ったと言える。
勝たないと・・・自分で歩き出したと言い切れない。
「あとは・・・ああ、そうだ。
君は気付いていないかもしれないが・・・アイビスを使っている間、その白髪と瞳が真っ黒になるそうだ」
「・・?」
・・・どういうこと?
「アイビスを使っているかどうか確認するために付けられている『機能』だ。
・・・・・・あまり意味はないかもしれないが、これで私が知っていることは全部だ」
「・・・何から何まで教えてくれてありがとうございます。
これから、私達は・・・仕返しに行きます」
「・・・復讐、ではないんだね?」
「・・・あくまで受けた分を返しにいくだけです。
正義も悪も無い、自分達の信念に沿って・・・喧嘩を売りにいくだけです」
「・・・そうか。
では、あとは何も言わないさ」
ぷしゅ。
そう言うと、タニさんは出て行った。
「・・・さて、今日はもう遅い。
俺も部屋に戻って寝るぞ」
「・・・寝るって、どこで?」
「・・・なに?」
ふふふふ。
ヒロシゲさんは気付いてないみたいね。
ヒロシゲさんの使用予定だった部屋は私が使ってる。
・・・ちなみに私も同室の予定だった。
それに私が居ないからライザさんだけが私の部屋のベットを使ってるから・・・ヒロシゲさんは入れない。
ベットの数、減ってるし。
「ヒロシゲさん、ちゃんとプロスさんに話してなかったんですね?
プロスさんでもこの時間帯は寝てますよ?
・・・さあ、どうします?」
「・・・どうって」
「寝る場所が無いんでしょう?
この医務室のベットだってユキナさんとタニさんの分で埋まってるんですよ?」
「・・・なにが言いたいんだよ」
「まーだ、気付いてないんですか?
・・・私と一緒に寝るしかないんですよ、ヒロシゲさん♪」
びきり。
あ、石化した。
・・・実は、これ、嘘。
整備班用の仮眠室が格納庫にあるんだ。
でも、そんなことはおくびにも出さないもんね。
ナデシコに乗ってる限り、こんなチャンスは多分、来ないだろうから。
「・・・ほら、来てくださいよ♪」
「・・・いや、シミュレーション室かどこかで寝てるから」
「この時間はどこも空いてません」
「そこの椅子でも」
「風邪を引いたら困ります。
今、私は戦闘不能なんですよ?
代わりのパイロットが居なかったら困るじゃないですか」
へへへ、卑怯って言われてもこれは譲れない。
それだけ待ったんだもん。
「・・・・・・・・・・」
がん、がん。
・・・壁を叩いて八つ当たりしてる。
夜だし、そんな強くないけど・・・私と寝るのがそこまでいやなのかと怒りたくなる。
・・・けど、ここはちゃんとツボを抑えて。
「・・・私がどれだけ寂しかったか・・・・・・知ってますね?」
「・・・」
ぴた。
あ、壁を叩くのをやめた。
「出来れば隣に居る二人に見られてもいいから抱いて欲しい」
「・・・・・・」
ヒロシゲさんを取り巻く怒気が消えてく。
・・・・・・やっぱり、しんみり系には弱いんですね。
「・・抱いてくれないんなら、一緒のお布団で眠るくらい・・・いいじゃ・・ないです・・か」
・・いけない、私も本当に寂しくなっちゃった。
一粒、涙が零れる。
・・・・・・本当は一時間ぐらいヒロシゲさんの胸の中で泣きたかったんだ。
だから・・・これは演技じゃない。
「・・・ああ」
やった♪
心では喜びながらも、小さくコクリと頷く。
すると、ヒロシゲさんはベットの端にごろりと寝転ぶ。
・・・もっと近づいてもいいのに。
「こっちに来てください・・・寒くなりますよ」
「・・・いい」
「落ちちゃいます」
「・・・大丈夫だ」
「・・・・・・」
・・・ふーんだ。
私はそれでもいいもん・・・。
・
・・・だって、ヒロシゲさんは私の意思に関係なく密着するから。
2分ほどして・・・。
−ヒロシゲ−
すーっ・・・すーっ・・・。
やれやれ・・・やっと寝たか。
コイツも随分わがまま言ってくれるな。
多分、どこか寝るところはあるはずだ。
だが、コイツの頼みはできるだけ聞いてやりたい。
が、これだけ距離をおくのは、正直、これ以上近づくと俺のガラスの理性は崩壊してしまいかねないからだ。
・・・・・女気のない(直接接触を控えられる)生活から彼女ができるだけでここまで危険度が上がるとは・・・。
ぶっちゃけ、抱いてやってもいいとも思う。むしろそうしたい。
理性を抑えるのは結構ストレスが溜まる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だが、プロスさんが怖い。
あの人だけは怒らせちゃならねえ。
一度、給料がどうのこうの騒いでた馬鹿野郎が居た。
・・・どうも、ごねてるから止めようかどうか迷っていたら、プロスさんが殴られる。
だが逆に一撃で伸して、そいつを別室に連れ込んだ。
・・・・・・・・翌日から、そいつは会社に来なかった。
訳を聞こうとしたが・・・
「はい?その方なら少々セミナーに通っていますよ」
俺は詳しくは分からなかった。
だが、その表情の裏にある空恐ろしい冷徹さから分かった。
・・・・・・・・少なくとも何か恐怖を植え付けられている状態で帰ってくることだけは。
予想通り・・・そいつは髪を紫に染めて、いつも人のことを馬鹿にしている態度を取る女だったが。
帰ってきたときには髪を黒くして、ボブヘアーが綺麗な淑女と呼んでも良いほどだった。
人柄も良くなって、なぜかとても優しくなっていた。
・・・代わりに、プロスさんを見ると必ずしゃがみ込んで頭を抱え、ガタガタと震えてしまう癖がついていた。
・・・・・・なにをやった、と思ったが、踏み込んだら俺もただじゃ済まなそうで何も言わなかった・・。
・・・・・・・・・・・・・どっちにしろ自業自得・・・だよな?あってるよな?
ただ、殴ったから殴り返すのと同じだよな?少なくともセミナーだよな?犯罪行為じゃないよな?
・・・・これ以上考えるのはやめよう、プロスさんには勝てないだろうし・・・。
早く寝よう・・・と、思ったら、シーラが俺の首筋に腕をかける。
さっさと引き剥がそう・・・。
・・・と、思ったが、今の状況を見て俺は愕然とした。
シーラは俺の体を足、片手で見事なロックを決めていた!
(なんじゃこりゃああああ!)
・・・心で叫んでも、今は叫べない。
・・・流石に他の安眠している人を起こすのは忍びない・・・。
手は空いて・・・無い。
片手はシーラの肘でロックされてる。
・・・もう片手を、足で無理矢理ロックしてる。
・・・それも、ものすごい力で、なおかつ外せないほどに。
ちなみに、俺は今・・・正面で抱き合っている体制だ。
・・・これが、どれだけ危うい事か分かるだろう。
胸が直撃なんだよぉぉ(泣)。
理性が、理性がぁー・・・・。
ガラス細工ほどの強度の俺の理性が風速30Mの風の前に崩壊寸前だ。
こんな事をされて平気な奴はいねえ・・・居たら女たらしだろう。
しかしッ!ここで切れてしまえばプロスさんセミナー決定!
俺は恐怖を植え付けられたくは無い!
だが・・・このままではぁ〜〜〜!
発狂しそうだああああ・・・・。
眠れねえし・・・ぐあああああぁぁぁぁ・・・・・。
−ナレーション−
翌日。
「・・・ん・・・ん〜!良く眠れたぁ。
やっぱり・・抱き枕っていいよね〜・・・あ、ヒロシゲさんでしたか。
おはよーございます」
しゅぱっ。
左手をびしっとあげて敬礼をかます。
だが、ヒロシゲはそれどころではない。
目が真っ赤、隈も出来ている。
彼は息が絶え絶えの様子でぼそぼそと呟いた。
「・・・てめえ、抱き枕使うのが癖なら言え・・」
「だって、ヒロシゲさんが私の傍で寝てればこの癖は出なかったんですよ?」
ライザの時は自分の近くで寝かせていたらしい。
「風邪は引かなかったが・・・死にそうに眠い・・・ぐあ」
一声、悲鳴じみた声を上げるとヒロシゲは意識を失った。
「お休みなさい・・とぉっ!
あ〜〜〜〜〜っ!!本当に良く眠れたぁっ!!」
ベットから降りると、ぎりぎり体を言わせながらシーラは体を伸ばした。
「・・んんっ、もう・・・右手が無いのもバランス悪くていやだなぁ・・・。」
腰を回す運動をすると、ふらふらと左側にずれる。
「あ、でも・・・」
ヒロシゲの方を見て、呟く。
「・・・ヒロシゲさんとお揃だし・・・いっか♪」
彼女はかなり楽観的だった。
だが、彼女が眠っている間に事は思いの他進んでいた。
すでに・・・和平交渉寸前まで来ていた。
そして、今。
「あ、艦長」
「何?シェリーちゃん」
「つく・・・いえ、かんなづきから通信です」
「出してくれる?」
ぴっ。
『初めまして。
和平使者の白鳥・九十九です』
物語は。
山場を迎える。
作者から一言。
前回の終わりはヒロシゲ中心だったので、今回はシーラ中心でやりました。
代理人さんに言われたとおり演出に関して少し考えて前半のライザのくだりだけは強調してみました。
シーラが自分が教えてると思ったら、最後には自分が教わってるようになっているのは仕様です。
・・・書いてて分かったのは人を惹きつけるだけの演出力が無い事と、
「他人に面白いと言ってもらうために書いている」というよりは、
「書きたいから、自分なりの結末を作りたいから書いてる」感じが強いという事です。
うまい人ならばそれでも良いんですが、僕は他の方の作品を参考にして演出力を上げる必要があると思いました。
・・・何しろ、進路の作文かいていたら「自分の理屈を書きすぎてて、相手に意思が伝わらない」と評されてましたし・・・。
またちょっと甘すぎる感じがありますし。
あと、結構カットしました。
冗長すぎると、状況をダラダラと説明しているだけだと言われて・・・で、見直したんですが。
この話でキャラ立てをしてしまおうとか、本家時ナデなら黙っておく所で喋らせたり・・・と、
とにかく引き付けでは下の下の手法を使いまくってたので、変更を余儀なくされました。
・・・・でも、後半からこれじゃどっちにしろ駄目だと思ってたのは内緒です。
そもそも冗長になりそうだからカットしたとは言っても説明的だし・・・何よりナデシコキャラが居ない・・・。
それに、端折りに逃げてるような気がしないでもないので・・・あれですが。
では、次回へ。
最近確信した事。
実は、僕がActionで読み始めたのは「ナデひな」でした。
・・・いや、アキトがひなた荘に来てる話で、ってのは分かったんですが。
まず分からなかったのは。
ハーリーやウリバタケが南極に居た事に疑問を持ったのではなく。
ゴートって誰?
ってことです。
・・・だって、スパロボRに出てこないんだもん。
その後、借りてきたビデオでも目立たないし・・・。
ナデひな自体、キャラが立ちすぎてて違和感が無くて(爆)。
馴れとは怖い物だ・・・。
それと自分が小説に書きたくなる事は、大体最近凝っている事に気付きました。
以上、最近確信した事でした。
代理人の感想
先生の言葉が簡にして要を得ていますね。
>「自分の理屈を書きすぎてて、相手に意思が伝わらない」
多分、私のいいたかったのはこの一言に尽きると思います。
読んでいて、つながりに違和感があるんですね。
他人のわかる理屈じゃなくて、作者の人だけが分かる理屈というか。
だから、泣けるシーン、燃えるシーン、笑えるシーンでも泣けないし、燃えないし、笑えないんだと。
例えて言うなら某遊戯王からオンドゥルに至る、偽作ライダーのシナリオ・・・・げふんげふん。