第23話「明日を掴む為の布石」













和平会談の前日。












−シーラ−

目覚めた私は食堂に向かっていた。

・・・だっておなか空いたんだもん。

気を使うって聞いたから・・・やっぱり食欲が増加するみたい。

・・・アキトさん達だってそうだったし。

「シーラちゃん、注文はなに?」

サユリさんが顔を出して注文を聞く。

私は10秒ほど思案する・・・。

意見がまとまった私は答えた。

「えっと、カツ丼大盛り」

「カツ丼」

「それがごはんでおかずは・・・」

「え」

「ハンバーグにフライドポテト、麻婆豆腐と、スパゲティ、シーフードサラダ」

「・・・・・・・」

あ、唖然としてる。

追撃開始。

「あ、あとお味噌汁の代わりにラーメン。

オムレツ・・・最後にフルーツポンチとストロベリーパフェ。

全部量多めで」

「そ、そんなに?太るよ?」

「昔から食べてますけど一度も太った事は無いんですよね、あっはっは」

「・・・・・」

にゃははは〜太らないから食べ放題だもんね。

これは私だけの特権。

いつもは2人前も食べれば充分なんだけどね。

もしかして太らないのってアイビスの影響だったりするの?

「で、出来たよ」

トレーが5つくらい並んで料理が出された。

「・・・運んであげるね」

「え?何でです?」

「その腕じゃ無理でしょ」

あ、忘れてた。

今片腕しかないんだった。

「シーラちゃん、大丈夫なの?」

「大丈夫、これくらい安いモンです。

義手なら作れますけど、みんなの命には変えられないから」

「・・・そう」

「あ、シーラちゃん」

「ライザさん」

ライザさんが眠そうに目を擦って現われた。

ちょっと可愛いので私はライザさんの寝癖をちょいちょいと弄んだ。

「・・・運ぶの手伝うよ」

「すいません」

ライザさんがトレーを運んでくれた。

「シーラちゃん、その腕で食べれる?」

「あ、大丈夫です。

私、両利きですから」

・・とはいえ、やっぱり茶碗をもてないのは食べづらいけど。

そういえば、私・・・独断行動をとったはずだけど呼び出されてないんだよね・・・。
















−ヒロシゲ−

・・・む、目がさめたな。

何時間経った?・・・4時間か。

ま、徹夜上がりでもこのくらい眠れば十分だな。

後は・・・プロスさんに話をつけとこう・・・。

今日もこんな風にされたらたまんねえからな。

どこに居るか・・・。

ぷしゅ。

と、廊下に出るとプロスさんが現われた。

・・・やっと話がつけられる。

これで何とか寝床も確保できるだろう・・。

「久しぶりっす、プロスさん」

「おや・・あなたは」

ちょいと驚いてるな。

・・・まあ死亡扱いだったろうからな。

「マエノ・ヒロシゲ。

死んでたが、遅れて乗り込めたぜ」

「・・・どういった事情ですか?」

「実は・・・」

簡潔に、殺された所をクリムゾンに拾われて改造されそうになってシーラに助けられた事だけ話した。

それ以上話しても混乱しかしないだろうしな。

「それはそれは・・・大変でしたね」

「・・・すんません、俺が居なかったせいで苦労を掛けて」

「いえいえ、みなさんが頑張ってくれているのでそれほどではなかったですよ」

「・・・そうすか」

「テンカワさんとテンリョウさんが頑張ってくれているお陰で戦争は終わりそうです」


・・

・・・

・・・・

・・・・・?

ちょっと待て、テンカワ?

アキトが?何でだ?

あいつはコックじゃねえのか?

「アキトはコックじゃないんですか?」

「コック兼、パイロットです。

正式には補欠、なのですが・・・実力ではあなたを上回るほどです」

「マジすか!?」

・・・・・・・ちょっと想像がつかんな。

喧嘩が弱くて情けない・・・そんな奴が?

一つ思い当たる節があるとすれば・・・ゲキガンガーか。

「・・・それは置いといて。

俺のパイロットとしての契約を再開して欲しいんですが」

「はあ。

諸事情で、とは言え遅れたからにはペナルティがありますが・・・」

「それでいい、俺は特に条件をつけない。

極端でなければ大抵は飲む」

・・・シーラが戦えない以上、俺が代わるしかない。

それなのに無駄にウダウダ文句を言うのも性にあわねえ。

「給料20%カットですね。

部屋割りは・・・ヤマダさんの部屋と相部屋になりますね」

「分かった」

・・・シーラと同じ部屋ではないが、まあ・・・そこはそこで。

最初に許可されてたのが不思議なんだからな。

「ところでプロスさんは医務室に用事すか?」

「はい・・少々胃腸薬を」

「・・・胃腸薬?」

「・・・・・・少々、この戦艦の会計を担当していると心身ともに負担が大きいので」

「・・・頑張ってください」

・・・この人がストレスを受けるって・・・どれほどだよ・・・。

・・・とりあえずヤマダという奴に挨拶しに行くか。

相部屋になったからにはな。

「ここか」


ぷしゅ。


『夢を乗せ銀河へ〜!

熱い思い抱き羽ばたけ〜!』


「ぐぼぉっ!?」

超大音量で流れるゲキガンガー3劇場版エンディング・・・死ぬ・・・。

だが・・この音量を止めるにはこの部屋に居るヤマダに声をかけねば・・・。

「・・・・おい、ヤマダ・・・」

「ん、なんだお前?」

ヤマダが呑気に振り向く・・・コイツ・・・聴覚がおかしいんじゃねえか?

「相部屋になった・・・マエノ・ヒロシゲだ・・・・。

とりあえず・・・それ、止めてくれ・・・話が出来そうに無い・・・」

しぶしぶと言った様子で・・ヤマダはDVDを止めた。

・・・マジに死ぬかと思った。

「ふう・・・改めて紹介しよう。

俺はマエノ・ヒロシゲ。

誕生日7月26日で血液型はB型、

好きな食べ物はカップ麺の緑のたぬき。

火星出身で趣味は音楽鑑賞・・。

こんなもんでいいか?」

「おお。

俺はダイゴウジ・ガイ」

「・・・ガイ?ヤマダじゃねえの?」

「それは仮の名前・・・ダイゴウジ・ガイは真実の名前・・・魂の名前なのさぁ」

親指をグッ立てて暑苦しい笑顔を見せる。

・・・馬鹿だ。

ぜってー馬鹿だ。

だが俺はこういう馬鹿が嫌いじゃねえ。

自分の気持ちに正直に生きられる奴が好きだからな。

とは言えそれ以上に気になったのは・・・。

「・・・それよか、少しは掃除しろよ。

男の部屋とはいえ最低限の掃除はした方がいい」

「お、おう」

・・・しかしナデシコは性格に問題があっても一流のクルーを集めたと聞いた。

そもそもネルガルそのものもその方針が強い。

無論、俺もそのカテゴリーに入っている事は認めてるものの・・・本当に問題がありそうだな。

「お前はパイロットなのか?」

「ああ、まだまだ未熟だがな」

・・・ほう、自信過剰の馬鹿ではないみたいだな。

「だが一流なんだろ?」

「一流だが、超一流には敵わない。

・・・ここには超一流が二人居るんだよ」

「・・・ほー」

・・・アキトの事だな。

だが・・・本当なのか?

「・・・どれくらいのレベルなんだよ?」

「そうだな・・・チューリップを平然と破壊するぞ」

・・・そりゃとんでもない。

「・・・よし、ちょっと勝負しねえか?

次の戦闘には俺も参加する予定だしよ、少しは連帯感を持っておくのも必要だろ?」

「お、いいぜ」

・・・・・さて、お手並み拝見って所だな。


















その頃。

−シーラ−

「・・・できたっ!」

私は食事を終えた後、設計図を書いていた。

なんの設計図かって?

そりゃ・・・決まってるよ。

そういう訳で私はダッシュで格納庫まで向かった。

「ウリバタケさーんっ!」

がりぃっ。

「!?シーラちゃん、傷は大丈夫なのか!?」

「えへへ、大丈夫です」

突如現われた私にウリバタケさんは驚いた。

その驚きのあまり・・・整備していたガンガー(ガイ専用機)の装甲をスパナで引っかいた。

「あっ・・・あちゃ〜」

「あらら」

・・・ごめんなさーい。

「・・・で、何のようだ?

その格好じゃ仕事なんてさせられないぜ?」

そんな用事じゃありません。

「・・・ええ、分かってます。

実は、予備のエステバリスを改造して欲しいんです」

「なに?」

ぴらっと設計図を広げる。

そして・・・ウリバタケさんは驚く。

「!」

「これ・・・ヒロシゲさんの専用機です。

ナデシコに乗ってからいろいろ学ぶうちに暖めてきたアイディアをまとめた、私の最高傑作なんです」

「これは・・・すげえ、すげえぞシーラちゃん!

エステバリスでこんなことをしようってのがすげえ!

男のロマンだぜこれは!」

鼻息も荒く設計図を握り締めるウリバタケさん。

・・・でも私は女の子ですよ。

「どれくらいで出来ます?結構かかりますよね?」

「いやいや、一週間あれば出来る・・・と、言いたいところなんだが火星に着くまでにできるか出来ないかって所だ。

フレームから何から微調整しなきゃならんし、パーツも今ある材料だけじゃ辛い。

・・・やれるだけやる。

ふっふっふ、血が騒ぐぜ」

さっすがぁ。

「じゃ・・・私はこれで」

さて・・・ヒロシゲさんはどこに居るかな?

そろそろ起きてるかな?

















−ヒロシゲ−

・・・こいつは手強いな。

シミュレーション上でガイ専用機の「ガンガー」を借りてるんだが、ちょいと苦戦してる。

俺がテストパイロットをしてた頃と性能が違いすぎる。

一年半・・・シーラが結構大きくなるくらいの時間があったんだ、当然か。

慣れてないと辛い物がある。

ワンスロットルで以前のMAXスピードっていうのはGもキツイ。

ディストーションフィールドもかなり強固になってる。

・・・だが、この戦いにそんな物は関係ない。

ブラックホール・フィスト・・・防御不可・・・。

本来、戦闘ってのはそういうもんだが、タイミングがキツイ。

・・・ガイは強い。

俺もブラックホール・フィストをギリギリ扱えるが・・・イメージしながら戦うのが辛い。

・・・が、まだ甘い。

こいつは一本気すぎる。

どんなにフェイントをしたつもりでも、それは出ちまう。

・・・ついでに、防御不能でも振りが大きい。

出す前に「真・ゲキガンフレアー」っていうからこっちも充分準備できる。

・・・まあミスったらどっちにしろ死亡だな。

じゃあ、どうするか?

答えは簡単だ。

「真!ゲキガンフレー」

「てい」


どごっ。



・・・そう、叫んでる間に打ち込む。

ごく普通だ。

だが、こいつほどの技量になるとそれを狙うだけの暇をくれない。

・・・・マジでイチかバチかって感じでタイミング合わせたからな・・・。

実戦じゃあ本当の本当に最後の手段だよな。

ブラックホール・フィストは近接攻撃だから近寄らなければいかん。

だが・・・近くでポーズを取って叫んでりゃ、タイミングを覚えちまえば一瞬で返せる。

ブラックホールが発生する前に普通のディストーション・ナックルを打てばいい。

ブラックホールにディストーションフィールドを集めてるから回避できねえし。

・・・・だが、やっぱコイツ・・・馬鹿だ。

「・・・やるな、あんた」

「ま、こんなもんですか」

軽く溜息をつくと、俺は立ち上がる。

・・・もしかして、コイツが対戦ランキング・ビリなのはそのせいなのか?

「・・・ふう」

俺は缶ジュースを買おうと思ってポケットを探る。

すると、ドアが開いた。

「ヒロシゲさん!ここに居た!」

「お、シーラじゃん。

どうしたよ」

「ヒロシゲさん専用エステバリスが作られてるんです。

その完成型のスペックはデータ化してあるんでちょっと試してくれませんか?」

「・・・手が早いな」

「ふふふ・・・こんな事もあろうかと、こんな事もあろうかと・・・って準備するのが整備士の務めですから」

・・・薄気味悪い笑顔を見せて手をわきわきと握るなよ。

整備士ってみんなこうなのか?

「・・・よし、ちょっと試してみるか」

俺はシミュレーションボックスに入ると、シーラが説明を開始した。

「『バスター』を基準に作ってみたんです。

・・・で、ヒロシゲさんの技を忠実に再現するように出来てますよ」

「・・・おう」

「どうぞ、ヤマダさん相手に試してみてください」

「俺!?」

・・・で、画面にスペック、技が書いてあるが・・・。

おおう、こう来たか。

・・・こりゃ、じゃじゃ馬だな。

だが、扱いきってやるさ。

シーラ。

お前似のじゃじゃ馬でもな。











アキトは、トレーニング室で考え込んでいた。

ヒロシゲ達がトレーニングをしていても一向にお構いなし、さらにお互い気付いていない。

『今回はどうやって暗殺を防ぐか』

それを一心に考えていた。

今回は和平派の舞歌も護る必要がある。

それに、ナデシコ側の人間を撃たないとも限らない。

さらに、以前のように敵と認識されてしまってはどうにもならないかもしれない。

色々と条件が違うだけに・・・停戦に持ち込むにしても、それを満たすだけの条件を作らなければならない。

「しかし、俺がどうこうしても・・・結果は変わらないのかもしれないな」

(・・・そう、火星の後継者はいずれ出てくるんだ。

木連に根付いた・・・地球への恨みは消えない。

・・・俺もなんだかんだ言って同じような事をしたんだ・・・。

否定も出来ないな・・・)

以前、コロニーを襲撃して、火星の後継者に爆破させてしまった事を考えると、

自分も決して正しい人間だとは言えない。

むしろ共感を覚える事もある。

同時に彼等は唆されている人間でもある。

人類の為と促され、地球人は悪と示され・・・それに従った。

草壁が悪いにせよ責任は残る。

個としての復讐心と、公としての復讐心では比較にならないのかもしれないが、

彼が考えているように、深い恨みによる復讐には大きな責任が伴う。

それを知らない人間にはこの責任は圧し掛かってきた時に後悔にとって変わる。

だが、集団をなした時には「正義」の名の元に正当化されてしまう。

そこが組織の性質が悪いところなのだろう。

それだけに火星の後継者の出現は防ぎようが無い。

そう考えると、気分が優れない。

「・・・アキト、なにやってんだ?」

「アキコか・・・ほら、暗殺の防止方法を考えてるんだよ」

「・・・暗殺。

そう言えば、どうやって防ぐか・・・。

それに和平会談でこっちが暗殺をもくろんだって言われたらまずいしな。

・・・多分大丈夫だとは思うんだが、正直、自信はない」

二人は考え込んだ。













−シーラ−

さて、私ができるのはここまでだね。

ヒロシゲさんの特訓の相手は出来ないし・・・後は待ってるだけで・・・。

「・・・正直、自信はない」

あれ?アキコさんの声・・。

何でこんな、トレーニング室の端っこでアキトさんと話を?

まさか、不倫ですか?

・・・・ちょっと聞き耳を立てちゃおう。

「草壁は暗殺を目論んでるだろうからな」

!!

マジですか、アキトさん!

・・・でも、どこからその情報を仕込んだんだろう。

「・・・それに、また混乱を招いて和平そのものが危うくなったら意味がない・・。

歴史を辿るだけじゃ駄目だ」

歴史・・?

「分かってる・・・だが、どうすれば・・」

でも、別に・・・アキトさん達は秘密が多いんだし、そこまで聞かなくてもいっか。

それに素直で純な性格だから、それほど怪しまなくても大丈夫。

・・・これって信じすぎかな?

「ふふふふふふふふふふ・・・お困りのようですね」

「シーラちゃん!?聞いてたのか?」

それはもちろん。

「木連が和平会談の時に暗殺計画を使おうとしている事は聞きました。

・・・というよりたまたまそこに座ってたんですけどね。

それなら妙案がありますよ」

「どんな?」

そう・・・イーリャン+瓜核が最終回で行った、あれが。

「それは・・マシンチャイルドのみんなに放送ネットワークをハックしてもらって、

セレスが映し出す映像を木連中に放送するって作戦です」

「・・・」

「セレスに映像送信機を装着し、光学迷彩で隠れる。

和平会談の様子を放送して、真実を見せるんですよ」

「・・・なるほど!

そうすれば、確かに混乱くらいは起こせる!」

これは暗殺は防げないかもしれないけど、和平は達成できる可能性が上がる。

最悪の場合でも、相手の政治家の排斥はできる。

「・・・でも、そんなぶっ飛んだ作戦、よく思いつくね?」

「そりゃ・・・アニメばっかり見てれば、こんな作戦だって思いつきますよ」

「・・・そういうもんかな?」

「そういうモンです」

・・・流石に、現実性がなかろーとも思うけどね。

それに、このアイディアもハヤシダさん達の悪戯がなければ思いつかなかったし。

・・・・・なーんか複雑。















夜。

アキトは展望室に居た。

何をするわけでもなく、星を見上げるだけだった。

「・・・」

彼自身、何故ここで空を見上げているのかは分からなかった。

だが、気持ちが落ち着かないらしい。


ぷしゅ。


「・・・コウタロウか」

「あ、アキト」

ごろ寝していたアキトの脇にコウタロウは体育座りで座り込む。

「・・・どうした?」

「眠れなくて」

コウタロウは空を見上げる。

宇宙が見える。

だが、宇宙が見えるだけではあまり綺麗に見えないものだ。

地上では大気圏やオゾン層などで濾過されている為に綺麗に見える。

そういう加工が施されているこの部屋の風景にはあまり真実味はないのかもしれない。

(明日の和平交渉の事が気に掛かってるのか。

こいつは元々そういう性格じゃないと思っていたんだが。

・・・まあ、俺も心の底では結構緊張してて眠れないのかもしれないけどな)

アキトは何となく気に掛かったようで、落ち着けるように話し掛けた。

「・・・緊張するのも分かるが・・アキコは?」

「・・・寝てるよ」

「・・・分かった、深くは触れない」

コウタロウが少し笑みを浮かべたのをみて、アキトは視線を逸らした。

アキトが黙り込んだのを見てコウタロウはさらに微笑む。

「ふふふ」

「何がおかしいんだよ」

「いやあ・・アキトってそういうとこ変わんないなぁって」

「・・・変わってたまるか」

アキトが剣呑とした目つきでコウタロウを睨みつけるも、

コウタロウ自信は全く余裕の表情で笑顔で見つめていた。

「でもアキコは変わったよ。

結構甘えてくれるしね」

照れるようにコウタロウは額を掻いて俯いた。

横目でアキトを見る。

アキトの表情はいささか優れていない。

今度は剣呑というよりは、寂しそうな表情だった。

「それに・・・あんな事があっても変わらないって、難しいかなって思ったんだけど・・・。

結局、根っこは変わりようが無いんだね」

「・・・俺はあの頃から変わってないのか?」

アキトがコウタロウに問う。

自分は変わり果てた、復讐に身を焦がし、憎しみだけで戦っていたと思っていた。

コウタロウは足をあぐらに崩しながら頷いた。

「うん、いい意味でも、悪い意味でもね。

好きな人を好きって正直に言えないし、みんなを惹きつけちゃうのも。

・・・少し、寂しがりになっただけかな」

「・・・そうか?」

「周りから見ると凄く分かるよ。

確かに気迫を見せたり、言葉に重みを見せたり・・・そう言う意味では変わったって言えるかもしれない。

でも、本当の・・・強そうに見える表面上からだって、弱い所はお見通しだよ」

アキトは額をつん、とつかれ、頭をボリボリと掻いた。

「・・・やっぱり、ユリカには敵わないな」

「・・・ずっと、一緒だったから。

あの辛い日々を潜り抜けて今がある。

そう思うと・・・私は生きてて良かったって思うの。

アキトは・・・そっちに居た、私との関係はどうしたの?」

「・・・逃げてた、そうとしか言いようが無い。

俺が・・・ユリカを・・・辛い現実を一緒に見てたはずのユリカを突き放したのは・・・。


今も逃げてると思う。


・・・何で、人の気持ちが分からないのか・・・。


・・・そう思う」


アキトの独白を聞いて、コウタロウは視線を天井に向けた。

「・・・そうだね、アキトって自分の考えに閉じこもっちゃう癖があるもん」

「そんなにストレートに言われるとへこむな」

アキトは表情を変える事こそしなかったが、その目には明らかな不満の感情が見て取れる。

それを見ても、コウタロウは全く訂正しようとはしない。

彼も気付いてはいるが、気付いていないと思ってしまうほど自然に返事をした。

「でも、ホントにそうだよ?

アキトは私も、ルリちゃんも、ラピスちゃんも、イネスさんも、エリナさんも、メグミちゃんも、リョーコちゃんも・・・。

みーんなアキトの事が大好きで、気持ちを伝えようとしてたのに・・・ほとんど気付かなかったじゃない」

「・・・そうだったのか?」

鉄面皮と言うべきか、単純に鈍いというべきなのか、この男はここまで来て「そうだったのか」とのたもうた。

そんな彼を見据えて、コウタロウは頷いた。

「うん。今はもっとすごいし」

「・・・駄目だな、俺は」

アキトは体を勢いよく起こすと、うな垂れるような体勢になり、コウタロウを見据える。

目と目が合って、かつての妻を思い出す。

この世界のユリカではなく、コウタロウを見ると良く思い出す。

目の前に居るこの男は、男である前に女として人生を歩み、自分と生涯を共にする事を誓った妻。


それの、言わば、幻影だろうか?


高めの声と華奢なその容姿に女性と錯覚してしまう。

自分の中の記憶と重なって、今話している彼は自分の妻ではないかと錯覚してしまう。

だが、それは正解であり、不正解。


正解であったら、と彼は切に思った。


男であっても、それならばすぐさま抱きしめたい。

今は届かない、届いても戸惑ってしまいそうなもどかしさを彼は抱いていた。

そして、さらに言葉を紡ぐ。

「・・・何か話してたら自分がとんでもなく馬鹿だったって思った。

・・・そうだよな、ユリカはこんな風に考えて、こんな風に思ってたんだよな」

小さく頷いて、アキトはコウタロウの手をとった。


やはり、小さい。


男の物ではないかのような小ささ、白さ、柔らかさ。

確かに彼の記憶の中にある妻の手はそれよりももっともっと小さくて、白くて、柔らかかった。

だが、それでも。

彼には、辛かった。

この手は決して自分のものにはならないのだと。

そう分かってしまう事が辛い。

姿形ではない。

ミスマル・ユリカという人間は確かに姿形では同じといっていいかもしれない。

だが、あくまで彼が惚れ込んだのは容姿ではない。

心だ。

その手を握りながら見るその瞳の奥に隠された、

傷つけられ、汚された思い出のキャンパスが垣間見えて、自分の求めた物の大きさに気付かされる。

彼はそのキャンパスを描こうとしているのだ。

『描こう、描こう。

自分の望んだ、恋人の望んだ時間を、思い出を描き出そう』

そう語っているような、彼の瞳が美しい。

ひたすらに、ただひたすらに直向な彼が羨ましい。

正直に自分の望む物を求められる、それに対して一生懸命になれる彼が羨ましい。


ああ、許されるならば彼であってもいい。


自分が女になってしまってもいい。


彼に抱かれれば、きっとこの直向さが、自分にも明日を見せてくれる。


そう思ってしまうほどに、彼にとって、この一瞬一瞬は後悔を重ねさせる時間だった。

彼はそんな彼の心中を悟ったのか、手をしっかり握って、応えた。

「・・・アキト、自分にはこれが相応しいとか、これが一番いいって考えるのは辞めようよ。

相手が求めた、自分が求めた・・・それだけで充分じゃない、迷惑なんて気にしないで・・。

・・・全部が全部、迷惑をかけないようにすると余計に状況が悪くなるって、分かったんじゃない?」

「・・・」

アキトにはその一言が、怖かった。

自分では出せそうだった、いや、出せていたはずの結論だった。

だが、頭では分かっていても、恐ろしかった。


自分のような人間についてきて誰が幸せになれるだろう。


以前のように巻き込んで不幸にしてしまうだけではないのか。


自分の中の臆病で卑怯な心が逃げを示す。

それが彼を追い詰めた。

彼は逃げる事を前提にして行動し、考えてしまった。

しかし、彼を落ち着けるように、母のようにコウタロウは、語り掛ける。

「アキコが寝言でよく言うんだ・・。

『ごめんな、もう離れないよ、ユリカを頼るよ』って。

・・・寂しいから離れたくないから・・・本当に、求めたから・・私の気持ちも、分かった。

耐え切れないほど弱くなった・・・私に頼る事に抵抗を感じなくなったんだ。

・・・それに、私達にこれ以上ないくらい迷惑をかけたから・・・分かったんだって。

逃げれば逃げるほど迷惑が掛かるって。

なら、自分が足りない部分を補ってもらって、代わりに、護ればいいんだって気付いたんだって。

・・・だから、アキトも・・・」

「・・・あ」

彼の、臆病さが、卑怯さが一瞬で砕かれた。

ただの一言で、彼の中の問題は、コウタロウという方程式を使い、答えを導き出せた。

ぼんやりと見えていた答えが、はっきりと見えた。

彼の瞳から涙が零れていく。

誰にも崩せない、心の壁、それを砕ける人間は一人だけ。

その一人の幻影に破られた。


何だ。


簡単じゃないか。


自分が護ればよかったんだ。


補ってもらえばよかったんだ。


自分の勝手な方程式に当てはめる必要はなかった。


相手が望むなら、自分が望んだなら、後は何も柵はないじゃないか。


そう、思えた。


彼は涙を迸らせてコウタロウの手を強く握りしめた。

「あ・・・・ああ・・・」

「・・・アキト」


「うわあああああぁぁぁ・・・」


彼は恥も外聞もなく、泣き始めた。

大声で、他には誰も居ない、展望室で。

心の壁が壊れ、本当の弱い部分が露呈した。

妙に胸が熱く、苦しかった。


































どれくらいの時間が経っただろう。

アキトがコウタロウの手を離して、黙り込んでしまった。

思わず泣いてしまった気恥ずかしさか、一言も喋らない。

すると、コウタロウは空に手を伸ばし、話し始めた。

「・・それに、本当に望めば何でも手に入ると思うんだ。

望んだ物をすぐ手に入れようとすれば・・・何でもね。

アキコだって、私を求めて手に入ったんだから」

「・・・・」

反応こそしないが、その言葉は確実にアキトの心に届いていた。

「少しは信じてみようよ。

恨めしかった『運命』って物を」

「・・・そうだな」

少しかすれた声でアキトは答えた。

返事が返ってきた事に嬉しくなったのか、コウタロウは声を弾ませて続けた。

「無くす時があったら、それを探し出す。

何かを欲すれば、求める。

そうすれば、自然に出てくるし、手に入るはずなんだよ。

もうすぐ、何かを手に入れるときが来るって・・・願ってみよう」

コウタロウの一言に、アキトははにかんだように微笑みながら、答えた。

「ああ・・・ありがとう・・・コウタロウ、いや・・・『ユリカ』」

「うん」


ちゅっ。


「な・・に?」

不意のキスに、アキトは呆然とした。

すぐに立ち上がり、コウタロウは逃げるように走って言った。

ドアの前に来てから、

「じゃあ、私は・・・部屋に戻るから・・・。

・・・・・・必ず、幸せになってね」

言い切ると、ドアのボタンを押す。

「あ、ユリ・・・」


ぷしゅん。


アキトが声をかけようとするも、その声は届かなかった。

何故声をかけようとして、何を言おうとしたのかは彼にも分からなかった。

その背中に、今は手の届かない場所に居るであろう、伴侶の姿を重ねたのかもしれない。

「ふ・・・はは・・・なんて馬鹿なんだよ・・・俺ってやつはぁ・・・。

人の話を聞けよ・・・俺・・・・何でこう・・・馬鹿なんだよ・・・。

帰れば良かっただろう・・・帰れば、嬉し泣きも出来たろうに・・・・・。

あっははは・・・・・」

乾いた笑い声を上げて、アキトは頭を抱えて再び泣いた。

「ユリカ・・・・ゆりかぁ・・・・俺は・・・・・・お前無しじゃ・・・幸せになれないのにな・・・・・」

うずくまりながら、咽び泣く。

彼の心は悲しみの色で埋め尽くされていた。

「・・・だが・・・・。

俺は・・・・・幸せに・・・ならないといけない・・・。

俺が不幸になれば・・・泣くのは、俺じゃない・・・・・・」

彼には、分かっていた。

自分が不幸になったら本当に不幸になる人間が誰なのか。








































「・・・ああ、なってやるさ。なってやるとも。

あの二人に・・・負けないくらい幸せに・・・なってやるよ・・・」










































作者から一言。

えーと、前回の解説を少々したかったので、舞台裏というか。

あとアキトにちょっと思い知って欲しかったような。

それ以外の効果は望んでいません。

ただ、ちょっと・・・ごにょごにょ。

・・・と言う事にしときます。伏せます。

>遊戯王ライダーからオンドゥルに至るまでのよう。

確かに俺のも本来の王道パターンを外れてるような感じはしますし、感動も出来ませんが。

・・・まあそれを置いても現在の偽ライダー達は子供より奥様方に愛されるつくりですし。

子供ならば外見や戦う姿だけで充分ですし。

原作の方の仮面ライダーは、改造人間にされた悲しみを描く話と聞きましたし。

時代に合わせると種ガンダムのように腐女子の方々の人気を掻っ攫う為になっちゃいますし。

・・・仮面ライダーは大好きですが、遊戯王ライダーは問題外、オンドゥルはネタ以外では・・・ですし。

しかも人物名が『カズマ』『橘』『桐生』『あまね(小説版)』とスクライドっぽいと、オンドゥル視聴してる弟者に報告され愕然。

つーか「オ、オンドゥルルルラギッタンディスカー!テレ朝ザァーン!」です。

・・・遊戯王ライダーに限らず、遊戯王そのものもあんまり感動できないような・・。

>凄い設定だ。意味があったのか分からず仕舞いでしたが。

多分ヒロシゲのことだと思いますが、彼は空いた部分を補完する役ですので。

この設定は次回策へ持ち越しなので半ばゲスト出演です。

・・・しいて言うと第二次スパロボの時点のマサキのような。

アキコの事・・・なわけないですよね?ですよね?(心配)

では、次回へ。








最近焦った事。

TOPで使ってたネタを見て。

「オリキャラの作戦が大当たりしすぎです」

・・・俺のことです、すいません。自粛します。

でも時ナデもそんな事が多かったような・・・。

言い訳?

んッん〜〜〜聞こえんねえ。←反省してない





 

 

代理人の感想

うーむ、そっちのケがないひとにはやはり辛いかなー(苦笑)。

性転換した経験はありませんのでねぇ。

 

>設定

性転換したアキトとユリカのことに決まってますがな(爆)。