「火力だけ強化したって駄目に決まってんだろうが!」


一人の男の罵声が空気を震わせ、静かな部屋に響き渡った。

別にこの部屋、色調が白系の落ち着いている、いわゆる会議室。

そこに男一人で居るわけではない。

他にも数人の男女が椅子に座ってそのやたらに大きい声を黙って聞いていた。

手をテーブルに叩きつけると、彼の近くに置いてあったコーヒーカップの中に入っていたコーヒーが波立ち、僅かに零れた。

それを意に介する様子もなく、中年というにはまだ若い青年の男が言葉を継いだ。

「今まで何を聞いてきた?

俺から何を教わったんだよ。

なあ、キタムラ!」

「・・・・」

名指しされた男は微動だにせず、ただ俯いていた。

彼が提案した、機動兵器強化プラン−。

『デストロイト・エステバリス』についての企画書を指差して、眼鏡の男、ウリバタケ・セイヤは激昂していたのだ。

「今更こんなプランを立てるやつがあるか!

ナデシコのパイロットが使うには機動性も足らない!

かといって連合の一般のパイロットが使うには扱いづらすぎる!

そんな代物をどうする気だよ!?」

「・・・すいません」

キタムラと呼ばれた男は、ただ耐え忍ぶように寡黙な態度を取っていた。

確かに、ウリバタケの主張は的を得ている。

この会議の場では、ナデシコのパイロットの専用エステバリスの強化案、

もしくは一般兵の扱うコストを下げた量産型・エステバリスの強化案を話し合う予定だったのだ。

その趣旨から考えると、キタムラの強化案はあまりにも突飛過ぎた。

コンセプトは、『後方支援重武装砲戦エステバリス』。

両肩に大型のミサイルポッド、両足に6連ミサイルランチャー、両腕には合計6つのガトリングランチャーを装備する。

これでは機動性が失われるので、ローラーダッシュの代わりにホバークラフトを使用して素早い機動力を確保する。

明らかに火力を重視しすぎ、コスト、扱いやすさなどは完全無視である。

扱えるとすればナデシコのパイロットか、相当エステバリスに慣れたパイロットが必要である。

そもそも、ナデシコのパイロット達の使用している専用機は空戦・OGの規格を使用している。

いや、高レベルになればなるほど高速度の戦闘の必要性を要するのである。

それ故に重要な局面でもない限り、陸戦を使い分ける必要はない。

陸戦を使う必要性は皆無ではないが、火星の後継者が陸よりも空に展開するという情報をルリ達から聞いており、

陸からの後方支援など論外である。

しかもこの機体を扱えるほどのパイロットであれば、空戦のエステバリスに搭乗した方がよほど有効だといえる。

だからこそ、ウリバタケはこの提案に激怒しているのだろう。

あまりに無意味な提案をされ、愕然としているのだろう。

「・・・いいか、キタムラ。

俺達はあくまで二つ、さっき言った二つのどちらかの条件を満たすモンを求められてんだよ。

まさに棒には短し、箸には長しってやつだ。

俺達は現場に居たプロだろ?

頭の固い、現場にも来ないで部屋に篭ってだらだらやってるだけの開発部とは違うんだよ」

「・・・・」

「・・・あの、ウリバタケさん」

「なんだよ、シーラちゃん」

白髪の少女が、ウリバタケに声をかけた。

彼女はどこか不服そうな顔をしながら、じとりとウリバタケの目を見た。

そして一度途切れた言葉が小さい唇から再び紡がれた。

「私は元々開発部の出です。

そういう風に言われるのは心外ですよ」

「・・ああ、そうだったな、悪かった」

ウリバタケは小さく頭を下げた。

少女、シーラのほうも誇りを持って技術を磨いてきた。

彼はその事を認めている。

しかし、彼が言った事もまた然り、なのである。

開発の際、技術者と協力者との連携が不十分な事が多い。

それは紙の上でしか現場を語れない人間が多いからこそなのだが、もう一つは現場との距離である。

戦場という「待った」の効かない場所に出る以上、試運転程度では分からない欠点が多く見つかる。

演習では順調だったが、戦場に出たら不利な状況を作りがちでした、というのはよくある事だ。

だからこそ、ウリバタケの言う事も真実味があった。

現場での、開発者から見れば急ごしらえとも言えるほどの改良は、彼らが気付かなかった欠点を補う事ができる。

そしてパイロットと共に本来以上の性能を引き出せる状況に置かれる事が出来るのだ。

そう考えると、使用できる度合いの少ない武器というのは意外に多い。

武器で例えるなら現行のエステバリスにも標準装備されているワイヤード・フィストをあげられるだろう。

ワイヤード・フィストは手を使用するため、当然、武器を持っていると使用できないし、

かといって武器を持たせたまま腕を射出すれば命中率は著しく低下する。

武器を消失してしまった時には有効な武器になりえるが、腕を射出してしまうと身動きを取りづらくなってしまう。

その為に、武器を失ったエステバリスライダー達は好んで「攻撃は最大の防御」という理念の元に、

ディストーションナックル(パンチとも呼ばれる)を使用しつづけた。

ワイヤード・フィストを利用した戦法を使って大きな戦果を上げた人間は、その中の1%にも満たないという。

逆に特殊な武器を使って戦果を上げた成功例は、「白銀の戦乙女」と呼ばれるアリサ・ファー・ハーテッドだ。

彼女は連合の出身ながら、ナデシコのパイロット達と互角に渡り合った唯一の人間である。

その戦法はフィールドランサーを使用した突き、そこからの横薙ぎ、とどめのライフル。

突きで装甲を打ち抜き、横薙ぎで損傷部を広げ、中の剥き出しになった機械部を一点集中して攻撃する。

たった一機のエステバリスで無人戦艦を撃墜できたのはアキトが西欧戦線に派遣されるまで、

アリサ・ファー・ハーテッドくらいなものであったのだ。

他にも何人ものエステバリスライダーが同じような戦法を使ったのだが、

いずれも大戦中に死亡、もしくは戦線復帰を許されない後遺症が残るほどの重傷を負ってしまったのである。

過去、アキトが行ったイミディエット・ナイフによる角度をつけた突貫は、

戦闘機などではただの特攻に過ぎないし、非現実的で、場所が宇宙に限られる。

地上のパイロット達からすれば自殺行為どころではなく、味方に多大な被害を与えかねない突出行動でしかない。

それを許されたのはナデシコパイロットの中に明確な指揮隊長が居なかったからであり、

結果がよければ全て善しのネルガルの方針があったからなのだろう。

もっとも、アキトに素質が全く無ければ特攻も失敗していただろうが・・・。

−とにかく、キタムラの案は機動性を優先させるパイロット達の意思を無視した、

実際に役に立たない、完全な卓上戦闘機にしか過ぎないと判断された。

現場で動いていた人間らしからない、開発部の人間じみた意見でしかない。

「・・・じゃあ、シーラちゃんよ。

次に、お前の強化案を見せてくれ」

「あ、はい。

・・・私の強化案は、レイナさんとの合同作品なんですけど・・・」

小さな音を立てて椅子を下げると、シーラは歩いてウリバタケの元に企画書を手渡した。

隣に座っていたレイナはちらり、とその様子を横目で見ていたが、別段不安そうではなかった。

むしろ、自信に満ちている表情だといっても過言ではない。

その自信は、ウリバタケがシーラに発表を指示した事からも明らかである。


彼女が技術者であり、整備班員であり、パイロットであるからだ。


こういう人間は稀で、この世に十人といないだろう。

そしてどの能力も一流という人間は彼女だけであろう。

実際の連携が必要ない、自分一人で大体においての調整を行える人間なのである。


空想の話の中でなら、何人か居るかもしれない。


いわゆる白い悪魔とか短気を起こして人を殴り飛ばす女みたいな名前の男が挙げられるが、

彼女はあそこまで超一流ではないが、それでも一流の中の一流とは断言できる。

その彼女がレイナと協力して作り上げたプランがどんな物か、整備班一同の、

技術者としての感性が、いや、本能がそれに対する関心を刺激せずにはいられなかった。

そしてウリバタケがそのプランに目を通すと、目を細めた。

そこには、細かな改良点が多く見られた。

(・・・シーラちゃん達の量産型は総合力を高める事、だな。

コストを抑える為にあの全方位モニターは使っちゃいねえ。

代わりに、ダメージ個所を的確に表す為にパイロットスーツの下にシートを張って、

ダメージを受けるたびに微弱な電気が流れて教えてくれます・・・か。

空戦、OG兼用、ブースターの付け替えのみで素早く対応可能、

武器の強化に関しては簡易型のDSN(ディストーション・ナギナタ)の使用。

機体性能に関しては、重力波ビームの受信率を高め、ワイヤード・フィストの廃止、拳の拡大・・・。

最後に、パイロット熟練度が一定を超えると発動できるようになる「仮」リミッター解除か・・)

ウリバタケはこの案を見て少々驚いていた。

これは、彼だけがルリに渡されていた、未来の「エステバリスカスタム」の設計図に似ているのだ。

無論、全くというほどではないし、この程度の改良だと性能は上回れないし、コストも少し割高に掛かる。

しかしオリジナルな点のプラスを考えれば、彼女の出した提案は的を得ている。

彼女自身は非常に悪いバランスの悪いエステバリスに乗っているのだが・・・。

(・・・天才めぇ)

ウリバタケはその口元に苦渋と賞賛の意をこめた笑みを浮かべた。

それを企画書でうまく隠した。

だが、同時にここで彼女を認めてもいいのだろうかと思った。

確かに彼女の才能も努力も素直に賞賛すべきでもある。

しかし、どんな天才でも努力を怠れば、努力で秀才になったものには簡単に敗れる。

彼女達がそういう人間ではない事は彼も知っているし、彼以外の整備班員も知っている。

それでも彼女一人の案ではないし、何よりパイロットだから分かった意見である。

その辺りを考慮して、なおかつ角が立たないような物言いにしたほうが良いと考えた。

−いくらシーラとレイナが天才でも、怒鳴られたキタムラからすれば、彼女らがべた褒めされるのはプライドが傷付く−

整備班としての誇りを重んじているウリバタケからすれば、それは明白であった。

すると、彼は電気を消し、プロジェクターに彼女達の作った企画書を映し出して、

注目を示すレーザー・ポインターを使って説明を始めた。

「いいか、てめーら。

これはシーラちゃんとレイナちゃんが二人で協力して作ったもんだ。

たった一人で考えていいモンができるなら、まあそれはかなりすげえ事だろうよ。

けど、一人じゃ限度がある、二人はそこを考えてこれを共同作品にしたんだろう」

ウリバタケは一度言葉を区切って、二人の居る方を見た。

すると、彼女達は納得したように深く何度か頷いた。

それに気付くと彼は説明を続けた。

「お前等、一人でもできると思ってたのか?

協力する、そういう考えは無かったのか?」

ウリバタケが問い掛ける。

しかし、誰一人として返事をするものは居なかった。

確認すると、彼はもう一度言葉を継いだ。

「・・・だろうな。

まあ、それは何となく分かるさ。

俺も、出来れば自分だけのアイディアって言いたいもんな。

けどよ、あんまりなりふり構っても仕方ねえ。

よく見てみろ、これを」

ウリバタケはもう一度プロジェクターを仰ぎ、それから全員を睨むようにして見つめた。

「これはハッキリ言ってよく出来てる。

バランスよく、極端な改造をしないで長所だけを増やせるお手本って言ってもいいだろう。

もし、ここで、お前等がこれよりも良く出来てるって言える企画書持ってんなら、今すぐ手ぇ上げな」

再び問い掛けるが、他の整備士達は沈黙を保つばかりであった。

プロジェクターの光だけが明かりを出す、暗い、冷え切った空間が彼らに無力感を感じさせていた。

しばし黙っていたが、ウリバタケがやっと口を開き始めた。

「・・・だが、あくまで二人で作った作品だ。

それに、シーラちゃんがパイロットやってたから色々わかった事もあったと思う。

お前等も二人で組んだらもっといいのができるかも知れねえ。

そういう・・・なんつうか、もっと広く、もっと単純に、使いやすいのを考えてみろよ。

何人でも集まって、より良くする姿勢がありゃ何でもできる。

俺達は『世界に誇るナデシコの整備士』なんだぜ?」

言い切ると、ウリバタケは消していた蛍光灯のスイッチを入れた。

暗くて冷たそうだった空間が、明るくて清潔感のある部屋に変わる。

それを示すように今まで険しい表情を取っていたウリバタケの顔が笑っていた。

「今日はただ、アイディアを持ちこんでそれを話し合う予定だったろ?

こう・・・今言ったような姿勢がありゃ、本当に最高のエステバリスができるって思ってよ。

だろう?」

ウリバタケが言い終わっても、整備員たちは黙ったままだった。

それでも、さっきまで浮かべていた敗北感に近い類の暗さはなくなっていた。

今までウリバタケが飛ばしていたのは自分達への信頼感から来る檄だったのだとそれとなく悟っている様子だった。


「できる!」


静かだった整備員の中で、一人だけ、突然立ち上がって大声をあげる者が居た。

黙っていた整備員達は驚いて肩を震わせ、声がしたほうを一斉に凝視した。

立ち上がっていたのはハヤシダという男だった。

彼はまるで闘牛士に挑発されていきり立っている牛のような迫力を放っていた。

今の彼の胸中は、まさにこの例え通りなのだろう。

ウリバタケに、挑発され、自らの情熱に火がついて興奮し始めたのだろう。

ただ、ウリバタケは挑発のような行為をした訳ではなく、協力して欲しいという旨を告げただけなのだが、

ハヤシダはそれを変なベクトルで受け取ってしまったようで吼えているようだ。

「俺達なら出来る!

 何でもできるッ!


 やるぞぉぉぉッ!」



「「「「「「オオオオオオオオオォォッッ!!」」」」」」


今まで黙っていたのに耐えられなくなったのか、ハヤシダに即発させられたのか、

他の整備員たちも拳を突き上げて野獣のごとく吼え始めた。

シーラとレイナは取り残されたように、ぽつりと佇んでいた。

それを見ると、ウリバタケは苦笑しながらも、うまく彼らを焚きつけられた事に満足していた。

彼がこの状況で狙っていた物、独り善がりの技術に対するプライドを捨ててもらう事、

そして自分だけのアイディアにしたいという優越感を得るための技術躍進を止める事だった。

仲間と話し合ってこそ正統性があるかどうか問えるというのに、一人歩きでは技術は磨けない。

競争相手が居てこそ、企業間が成長するのと同じように。

仮に一人で群を抜いた技術を作ったとしても、周りを見下して意見を聞き入れないでは共同開発などできはしない。

そういった意味で、ウリバタケは確実に正論を言っていた。

同時に、改めて、「協力して」エステバリスを作るという土台、団結力を作る事が出来た。

「じゃあ、やるか!」

ウリバタケは彼らに声をかけた。

それに乗らないものは誰も居なかった。




















第5話「僕達の−ketsui−」


























「班長、先に上がりますよォー」

「おーう」

一人の整備士が声をかけて会議室を出て行った。

対して、振り返る事もせず、ウリバタケは声だけで見送った。

振り向きもせずに彼が視線を注いでいるのは、先程の整備員たちがそれぞれ書いた設計図である。

それは極論に走っているとも言えるものが多い。

しかし、技術にかける情熱は感じ取る事が出来る。

自分なりに「こうしたらいいんじゃないか」と言った、独特の考え方をもって作られた案だ。

必ずしもそれを受け入れてくれるとは限らない。

それでも彼らはとても熱心で、素直な態度を取る。

何か注意されれば考え直すし、いいアイディアがあればそれを認める。

彼らはこれからも成長する事ができる人間なのだろう。

「ウリバタケさん、コーヒー持って来ましたよ」

「おう、シーラちゃん。

そこに置いておいてくれ」

シーラがクリーム色をしたトレイにコーヒーと紅茶を一つずつ載せて部屋に入って来た。

ウリバタケに頼まれて煎れて来たのだ。

紙コップに入ったコーヒーを机に置くと、彼女はもう片方の紅茶を自分の手にとって飲み始める。

小さく息を吐いて、目を瞑った。

口から喉に流れ込んだ温かい液体が、胃に到達する事で彼女の体がほんのりと温かくなる。

その余韻を感じるように、彼女は静かにしていたが、やがて口を開いた。

「どうですか、ウリバタケさん」

「ああ、やる気はみんなすげえ。ビンビン伝わってくらぁ。

もっとも、あいつみたいに空回ってるやつも多いけどな」

ウリバタケも机に置いてあったコーヒーを口にすると、設計図を置いてシーラに向き返った。

先程のキタムラの意見を言いたいのだろう。

「・・・それにしても、悪かったな、シーラちゃん」

「?何の事ですか?」

シーラは突然の謝罪に首をかしげた。

それに答えるように、ウリバタケは続けた。

「・・・さっきは『二人でやったからよくできた』みたいな言い方しちまってよ」

「分かってますって、みんなのプライドが傷付くのが嫌だったんでしょう?」

「・・・ああ」

シーラはウリバタケが頷くのを見ると、遠い視線を天井に向けた。

くるくると紙コップを回したり揉んだりしていた手を止めて、そっとテーブルにおいて、

悪い事をしたと思っている彼を許すように話し始めた。

「昔、よく教えられました。

『技術者に必要なのは楽しむ事、そして自分の技術に誇りを持つことだ。

楽しみながら学べば、成長はずっと早い。

そして自分に誇りを持っていれば、新しい技術を見た時に競争心を煽られて事が出来てもっと成長できる』って」

「そりゃあ・・・親父さんか?」

どこか懐かしそうなシーラの口ぶりに、彼は問い掛けるように聞き返した。

「ええ・・・・・・こうしていると、懐かしい感じがします。

お父さんはコーヒーで、私は紅茶で・・・一緒にのんびり休憩して・・・。

色々な技術を話してくれて、それで・・・」

どこか寂しそうな目をしてシーラは話していた。

この会議室は周りは電気がついていて明るく、蛍光灯の色は部屋の白さを強調する無白色なのだが、

二人が居るそこだけが青白い空気に包まれているように、ひんやりした雰囲気を放っていた。

今の彼女にとっては、父親は敵なのである。

自分も、そして自分を取り巻く人間を危険に晒す危険な相手でしかない。

それ故に、彼女は寂しく、悲しい感情を持っているのだろう。

激情が自分を支配している時は激しい怒りを露にする事が出来ても、それは彼女の本性ではない。

やはり、根っこから言えば、戦いを好めるような人間ではないのだ。

ただ、戦わなければ何も手に出来ないし、何も護れない。

それを知っているからこそ、できれば戦いたくないと言う気持ちがあるからこそ、

彼女は複雑な思いを父に対して抱いているのだろう。

「ウリバタケさんは、お父さんに似てます」

彼女が言葉に込めた意味。

それは、純粋な探究心を持って技術を磨くという気概、

自分を成長させてくれる人間であるという共通点を感じた、ということだろう。

そのシーラの呟きに、ウリバタケもどこか、奇妙な心境を抱いていた。

ただ黙って聞いているのだが、彼はそんな彼女の気持ちにどう反応していいのか分からなかった。

自分の娘でもなければ、自分に異性としての好意を持っているわけでもない。それは分かっている。

しかし、彼からすれば、シーラの言葉の意味は分かるはずは無かった。

彼は大きな反応を返す事も無く、静かに聞き入る。

真剣な表情で、彼女の本音を聞きとめる気で居た。

「・・・根っこは違うんですけど、優しかった頃のお父さんを思い出させてくれます」

「優しかった・・ってのは?」

ウリバタケが聞き返すと、彼女は一瞬戸惑ったような表情を見せて言葉を詰らせるが、改めて話を続けた。

「そのっ・・・・・・裏切られたんです。

・・・人を殺す為の無人兵器を作る片棒を担がされていた事に気付いて、

それをやめて欲しいと思って止めようとしたんですけど、逆に殴られて・・・・逃げ回ったんです。

挙句の果てに私を追い詰めて、私が娘じゃなくて、モルモットみたいなものだったって言って・・・」

「シーラちゃん・・」

シーラは爪が掌に食い込むほど、強く拳を握りしめた。

血がうっすらと滲んでいたが、そんな事を意に介せるような心境ではなかった。

彼女がウリバタケにここまで話したのは、本当に彼を父親のような存在だと思って信頼しているからなのだろう。

そして彼は同情するでもなく、返事をするかのように彼女の名を呼んだ。

この時、彼自身はその父親に似ていると言われた事は気にしていなかったが、

彼女の悩みは決して浅いものではなかったと感じていた。

ウリバタケも、最初から軍に人を殺す為の兵器を整備してほしいとスカウトされたら断っていただろう。

人を殺すのではなく、ただの無人兵器を破壊し、人を救助する為に火星に向かうという事が目的だったからこそ、ナデシコに乗り込んだ。

無論、いくつか有人兵器があって、死んだ人も居るかもしれないし、戦闘で巻き込まれて死んだ人も居る。

それだけに何も考えずに整備をしていたという事は無かったが、

シーラのように最初から「人を殺す」前提で作られた兵器を設計し、製造していたというのでは重さが違った。

少なくとも彼女が関わったのはバッタの製造のみだったが、恐らく数億を超えるであろう生産数を誇り、

そしてチューリップを介した奇襲戦法で何人の命を奪ったか、考える事も出来ない。

火星を襲った無人兵器達は問答無用で人を殺しつづけ、コロニー一個分の人間が消滅した。

一部は生き残っていたが、9割の人間は死に絶えたのである。

そう考えれば、彼女はそれだけのことに手を貸してしまったということになるのである。

「・・・変な事話しちゃいましたね。

すみません」

「い、いや・・・謝る事無いだろ?」

「はい・・・」

二人の間に気まずい雰囲気が流れた。

特に意味も無く、二人はうつむいて黙り込んでしまった。

ウリバタケは段々居た堪れなくなってしまうが、話題を変えようとしたのか、シーラのほうが話し掛けてきた。

「そう言えばウリバタケさん。

あの時のことで一つ、聞きたいことがあったんです」

「あ、ああ。

何でも言ってくれ」

話題を切り替えてきた彼女に、これ幸いにとウリバタケは答えた。

この沈黙を作り出したのは彼女であったが、それを打ち砕いてくれるなら、とりあえず良かった。

彼女なら変な質問もしてこないだろうとも考えて。

「どうして、リリーちゃんにも人工知能をつけたんですか?」

「?何でだ?」

質問を質問で返されて、シーラは面食らう。

少し戸惑いながらも、顔を逸らさずにすぐに詳しく言い直す。

「えっと・・・その、セレスはナデシコに居た時から色々と弄ってたんですけど、

ウリバタケさんは少なくとも降りてから作ってたみたいじゃないですか?

ロボットバトルに出すだけなら別に人工知能は・・・」

ウリバタケは、シーラに問い掛けられると小さく肩でくっくっく、と笑っていた。

疑問を持った彼女は質問を止めて彼の目を見て首をかしげていた。

そして、ウリバタケは彼女の方に向きかえって、どこか嬉しさに満ち溢れた顔で笑った。

「言っただろ?

ナデシコのメカニックNO.1は俺だって。

俺のワザを見せたかったんだよ」

「・・・そうですか」

理由になっていない気がしないでもないウリバタケの返事だが、

それでもセレスを超えるロボットを作るために自分の全力を注ぎ込んだというのは本当らしい。

もし、競技に関係の無い事だとしても、だ。

シーラはその返事を聞いて安堵した。

セレスの人工知能を利用した、動揺を狙う作戦だった・・・と言われたら嫌だと思っていた。

無論、戦いの場ではそれはれっきとした「戦術」になりうるのだが、それは人間の場合であり、

特に競技場では人間として、いや、競技参加者としては卑怯といわざるを得なくなる。

競技は戦争でも闘争でもなく自己を磨くものに近いものだからだ。

それが命を賭けた殴り合いでも、競技としてのルールに従える強い精神を持つ事が不可欠である。

競技上であっても心理戦は有効なものではあるものの、それを行えるだけの頭脳と度量が必要で、

実行できる人間は稀、引っかからせるというのは非常に難しい。

その技術の上になればなるほど、そういったものに左右されてしまうのは二流以下だと分かってくる。

結局、隠した相手に使う以外では、最後の最後で決め手になるかどうかでは微妙になってしまう。

しかし、そういったものは戦争などではかなり有効になっている。

手段を選ばない、ルールの無い場所だからこそつかえるもので、

さらに一人対一人ではなく、あくまで団体対団体、罠を仕掛けてもいいバーリ・トゥードなのである。

司令を出す人間ではなく、作戦を実行する人間に心理戦を仕掛ければ戦場での動きが散漫になる。

完全に統率された軍人というのはありえず、一人でも挑発に乗れば総崩れになりうる。

逆に司令部に心理戦を仕掛ければ、作戦を遅らせたり、リスクを省みない策を講じる事もありうる。

あの戦いの、相手のロボットを破壊するという目的から考えれば、戦争や闘争といってもいいかもしれない。

しかし、大衆の目の前で戦い、ルールが定められていれば「競技」である。

戦争にもルールはあるかもしれない、だがそれを厳密に守れる軍人というのは希少だ。

敗者を虐げるのは古代からの、いや、人間が動物としての闘争を行っていた頃からの原則であり、

時に完全に正当性を欠いている戦術をとるし、元々人の命を奪い合う、禁忌の場所に居るからだ。

多少、もしくは大体において人間性を考慮しない行動をとるのは当然なのかもしれない。

話を戻そう。

とにかく、二人は正々堂々と戦って、決着をつけているのだ。

その結果からも、今回の設計図の話に関しても、シーラはウリバタケとは違った意味で、彼を超えた。

生きていた年数からはじき出される経験と応用力、判断力ではウリバタケは彼女に二歩も三歩も上回る。

もし彼がシーラと同じように相転移エンジンを使用していたとしたら、彼が勝っていたかも知れない。

いや断言できる、勝っていただろう。

ただ彼は相転移エンジンを使う事などは考えていなかった。


彼女が全てオリジナルで作っているのに、自分がすべてオリジナルで作っていないのでは意味が無い。


と考えたのだろう。

単純な閃き、アイディアなどでシーラはウリバタケを超え、

逆にウリバタケはそれ以外のところでは彼女に一歩も譲っていないのである。

そして、彼は自らの肺の府に溜め込んだ重苦しい空気を1CCも残らず吐き出す。

大きく息を吸うと、コーヒーのカップに口をつけ、飲み込んだ。

少し長い間はなしていたせいか、若干冷えていて不味かった、と思った。

それを邪魔になったように一息で飲み干すと再び彼は口を開いた。

「何つーかさ。

機械作って技術研いてってーのは商売じゃねえな。

生き方だよな」

「・・・はい」

ウリバタケの言葉には、経験から来る年季が感じられた。

彼はまだ三十路に足を踏み入れたばかりなのだが、やたらと老け込んでいるような物言いだった。

そして、それはとても納得できる言葉であった。

特に彼ほどの人間になれば説得力に溢れる発言になる。

彼の、技術に対するプライドや技術そのものからもわかるのだが、

一番それを確固たるものにしているのは、彼の笑い話にしかならないほどの執念である。

表向きは町工場兼、修理場、だが裏では恐らく摘発されれば間違いなく逮捕は免れないほどの違法改造屋を営み、

色々な改造を重ね、趣味でもそれには糸目もつけず改造資金を惜しまずに、時々は家庭の貯金すらちょろまかせる。

そこまでするという彼は、同僚から時に尊敬を抱かれ、時には心配の種になっている。

曰く、「さっすがウリバタケさん!」

曰く、「女子供には分からない男のロマンを分かってらッしゃる!」

曰く、「技術者としては尊敬できるんですけど、女の子としてはちょっと付き合うには辛いんですよねぇ・・・」

曰く、「よく奥さんがついてこられるわよねぇ」

など、評価は様々である。

ナデシコに乗り込んでいる整備員の99%が男性であるが、残りの1%の女性は特に辛口である。

・・・とはいっても二人しか居ないのだが。

とにかく、彼は最高の整備士だが、同時に家庭を省みない子供じみた無責任さを持ち合わせた人間なのである。

そして、シーラが返事をしたのを聞くと、ウリバタケは小さく呟いた。

「・・・シーラちゃんよぉ。

結局さ、尊敬できるところと、そいつがどんな人間かなんて別っこなんだ。

俺だって、そんなに尊敬されるような事はしてないしよ」

「え、でも」

シーラが否定をしようとするものの、ウリバタケがすぐに言い返した。

「さっき、俺が親父さんに似てるって言ったろう?

俺だって家族には散々迷惑を掛けてるし、傍から見りゃそんなに大切にしてないように見える。

そういう意味では確かに似てる。

けど、俺は何だかんだいってオリエもキョウカもツヨシも大切だ。

何か言い訳臭いけどよ、そういう・・・何だ?

・・・そういう気持ちを忘れたくないって思うんだよ・・あ、いや、何言ってんだ、俺は。

なあぁに格好つけてんだよ、あはははは」

照れくさそうにウリバタケは頬を赤らめて顔を背けた。

どこか独り言のように呟いていたが、その言葉は一語一句かける事無くシーラの耳に届いていた。

彼女はその言葉を嘘だとも意外だとも思わなかった。

よく子供たちの自慢話を聞かせてくれたし、肌身はなさず家族と一緒に映っている写真を持ち歩いていた。

彼自身はそういう気持ちはあまり表には出さないつもりでいるのだが、

結果的にはかなりの子煩悩であることを自分から広めてしまっている。

それは、誰の目にも明らかであった。

そんな彼がナデシコに乗った理由は色々あるだろうが、特に際立ったのは、

これから子供が大きくなるに連れて大きくなるであろう、自分の責任を一時でも離れたかった事だろう。

だが、ウリバタケが自分からこのように胸中を語るというのは非常に珍しい事だった。

彼が語る言葉は、どれも偽りのない真実であると、少なくともシーラはそう思った。

焦っていっているような余裕の無い喋り方と、それと正反対の真摯な眼差しがそれを物語っていた。

それを見取ると、シーラは、小さく口の中で呟いた。

「・・・私のお父さんだったら良かったのに」

「へ?何かいったか?」

「いーえっ!なんでもありませーんっ!」

彼女の呟きは、最初、消えいるような独り言だったが、声を張り上げて立ち上がった。

嬉しそうに笑いながら、立ち上がっていたが、同時に恥ずかしそうに頬を桜色に染めていた。

その笑顔には間抜けな顔で返事をしてきたウリバタケの顔に苦笑していたのも含まれていただろう。

「じゃ、私も上がりますよ。

ウリバタケさんはどうするんですか?」

「んー・・・もう少し見てから帰る。先に上がんな」

「はーいっ」

シーラはまたもや声を張り上げて勢いよく走っていった。

もしかしてここに居るのが嫌だったのではないだろうか、と思わせるほどに素早く、勢いよくドアをすり抜けた。

どこからそんな元気が出るのかと不思議に思いながらウリバタケは物思いに耽った。

もし、自分の娘があれ位の年頃になったらああいう風になるのだろうか、

それとも、もっとおしとやかで大人しい娘になるのだろうか、とぼんやり考えた。

目の前にある設計図には全く頭が回らず、とりあえず、と散らかしていた設計図を片付け始めた。

結局彼が部屋を出たのは30分という時間が過ぎてからだった。

















シーラは勢いよく部屋を飛び出すと、そのままトレーニング室に向かって走り出した。

廊下を走るのは小学校から社会まで例外なくルール違反だが、そんな事は全くお構いなしに彼女は走り抜ける。

彼女は、特に急ぐ理由は無いが、ゆっくりと進む必要も無いと感じていた。

これは彼女の全速力のスピードで、50メートルを7秒切るスピードである。

一直線に進むと、その先にトレーニングルームがある。

距離はそれほど離れていないのだが、一瞬でも早くヒロシゲに会いたいという気持ちの現われだろうか、

前傾姿勢で、頭を下に向け、腕を大きく振り、ただひたすらに走り抜けている。

すると、ちょうどタイミングが良いというべきか悪いというべきか、勢いよくヒロシゲが飛び出して来た。


どむっ。


前が見えていなかった二人は、見事に衝突した。

特に、シーラは頭を下げて走っていたためにちょうど、ヒロシゲの腹部に頭をぶつけるような形になっていた。

サンドバッグにボディ・ブロウを叩き込んだような、重苦しくて鈍い音が彼の胴に響いた。

「おふぅ」

「あっ・・・!ひ、ヒロシゲさん、ごめんなさい!」

「あ、ああ、大丈夫だ」

大丈夫だ、と言いつつも彼はぶっ飛んでダウンしていた。

ややうずくまりながら、腹を抑えて苦笑いをしていた。

シーラは体が頑丈なせいか、はたまた柔らかい部分にぶつかったせいなのか、別段どこも痛がって居ない。

「それよりシーラ。

スクライド第一話でカズマが劉鳳に勝ったシーン、覚えてるか?」

「へ?」

唐突に質問され、シーラは疑問符を頭の上に浮かべた。

その質問を理解するのに数秒ほどの時間を費やすと、首をかしげながら答えた。

「何言ってるんです?カズマは負けたじゃないですか?」

「ああ、そうだな」

ヒロシゲはシーラの瞳に視線を向けた。

一度、確認をやめると、顔を近づけて改めてじっくりと観察した。

「ふえ?」

シーラは状況を理解できずに再び疑問符を浮かべる。

しかしヒロシゲはそんな事は全くお構いなしに、

「・・・どうしたんです?ヒロシゲさん変ですよ?」

「ちょっと・・・一応、入念に確認しておこうと思ってな」

「確認?」

「口で説明するより、まずは実物を見たほうが良い。

ついて来い」

ヒロシゲは、シーラに背を向けてトレーニング室に戻った。

言われるがままに、彼女はそれについて行く。

そして、その場所の雰囲気に違和感を感じた。

一箇所に、何人か人が集まっており、そこにはリョーコの姿もあった。

トレーニング室の管理者ら数人が集まってその場所を取り囲んでいた。

そこに割り込むようにして二人が入り込むと、ヒロシゲは壊れているそれをシーラに見せた。

「これだ」

「!」

彼女は、何か異質なものを感じ、驚いた。

そこにあったのは、自分と瓜二つのロボット。

腹部に強烈な打撃を加えられたようで、大穴があき、部品が回りに散っていた。

その後にはトレーニング中の事故によって破損しても大丈夫なように頑丈にしてある壁が、

まるで隕石が落ちた地面のように大きなクレーターを作っていたのである。

「ひ、ヒロシゲさん、これって・・・」

「多分、その通りだ。

あの大会の時に出てきたタイプと同型の・・・。

俺を殺そうとしたのかどうかわかんねえんだけど、こいつ、シーラの振りして近付いてきやがった」

「で、どうしたんです?」

「ああ、偽者だって確信があったからな。

押さえつけて義手でガンガン顔ブッ叩いてやったらすぐ吐いた。

やっぱ単純だったぜ、こいつ。

背中見せてやったら本性見せてかかって来たんで、これでぶっ飛ばしたわけさ」

そう言って、ヒロシゲは半壊した義手を見せた。

シーラは、複雑な心境であった。

彼は自分に対してはかなり入念な確認を行っていたし、今の話だとすぐに見破れたと分かる。

だが、自分の好きな人が命を護れたとしても、自分の姿のロボットを破壊されるのはいささか気分が悪い。

それが敵の作った、ただの機械人形だったとしてもだ。

すると、沈黙を保っていた彼らの間に、ノイズの入った機械音が割り込んできた。

「グ・・・ガガ」

「!おい!

こいつ・・・まだ生きてるぞ!離れろ!」

ヒロシゲが声をかけると、集まっていた人間は後に飛びのいてロボットから間合いを置いた。

しかし、体を動かす様子でもなく、掠れた合成音声でうわ言のように喋っていた。

「しすてむ・・・おーるだうん・・・通信会話もーどニ移行シマス・・・・ガガッ」

「通信・・・?」

合成音声とノイズが消え去り、僅かに残っていた光も消え、ロボットのAIは完全に沈黙した。

後は無線機としての機能を持った、ただのマネキン同然である。

『・・・・ヒロシゲ君・・・そして・・・シーラ君、初めまして・・・いや、お久しぶりと言っておこうか・・・・』

「誰だ?お前は?」

突然聞こえてきた、ぼやけた無線の音声。

彼らは、雑音が混じりこんでやや聞き取りづらい音声を、一語一句聞き逃さなかった。

話し掛けられたヒロシゲはすぐに何者かを聞いた。

『私はサキヤマ・ショウゴ・・・以前火星でお目にかかったこともある』

「お前・・・あの時北辰の遺体を持ち帰ったあいつか!?」

ヒロシゲは怒ったような口調で叫んだ。

彼は家族のこともあり、人の死には敏感な方で、どんな悪人でも死者に鞭打つものを許す気にはなれない人間である。

特に、北辰は家族を護りたいという気持ちを抱いたまま死んでいた。

そんな彼(もしくは彼女)の骸を盗みさった人間と、今、会話をしている。

ヒロシゲは骸を取り戻し、ちゃんと弔えなかったことに少なからず責任を感じているようで、怒りを露にしていた。

『そうだ・・・・』

「だったらどうした?

お前等がシーラの命を狙うなら分かるが、俺にあんな悪趣味な人形を寄越す理由がわかんねえ」

彼が疑問に思っていた事。

それは、明らかに自分を殺すにしろ何にしろ、シーラと暮らしている人間では自分が一番やりづらいと思っていたからである。

この時点ではセレスは修理中で動けないし、どちらかと言えば女性のライザの方が狙い目だと考えられる。

シーラの精神的動揺を狙って、リチャードの「お遊び」の演出だと言う事も考えられるが、

最初に彼の命を奪い去ったが、彼女は一人で立ち直った。

二度も同じ行動をとっても「面白くない」だろうと考えてこの推理は却下される。

それに答えるようにサキヤマは返事を返した。

『そうか・・それなら教えてやろう。

一つは・・・君を誘拐すればシーラ君が助けに来るだろう・・・その時に捕らえるためだ・・。

頭部が無傷ならば生死は特に問わない・・・15分以内ならばどうにでもできる・・・君が最初に死んだ時のように・・・。

二つ目は・・・我々、A級ジャンパーとして火星の後継者の糧になって貰うためだ・・・』

「なに?」

ヒロシゲが小さく反応した。

アキト達の話しが正しければ、火星の後継者は間違いなくこの時点でも行動は始めている。

だが、その話によればA級ジャンパーの誘拐はあと二年は先の話なのである。

それに、この時点ではジャンパーという呼称すら確立されていなかった頃なのである。

時間的にも理論的にもつじつまは合わない。

しかし、次の瞬間に放たれた言葉に、彼らは驚愕の表情を浮かべた。

『・・・「逆行者」は一人ではない・・・。

未来から来た人間がそちら側だけに居ると考えないほうが身のためだぞ・・・』


「「「なっ!?」」」


ヒロシゲ、シーラ、そしてリョーコ。

未来人からの話を聞いていた彼らにとって、その言葉の意味するところは小さくなかった。

この一言だけで様々なことが分かる。いや、様々な事を推測できるようになると言った方が良いだろうか。

少なくとも、火星の後継者の側にも逆行者は存在すると言う事である。

存在するならば、同時にアキトが逆行者であることも知っている事もセットになる。

今の言い方ならば、ナデシコ側に逆行者=未来で火星の後継者によく知られていた人物=アキトの公式が完成する。

しかし、そこで疑問も浮かぶ。

未来からきているのならば何故、この戦争で勝利を収めるような戦いをしなかったのか。

それならば、圧倒的支配を敷いた上で、A級ジャンパーを堂々とさらう事もできる。

もっとも、それは不可能かもしれない。

いくら技術が優れていたところで、資源も人材も食料も不足の木連では、持久戦など土台無理な話だ。

チューリップを減らされ、奇襲を封じられれば、物量で勝る地球の勝利はまず揺るがない。

北辰の一派ならばかなりの戦力だが、ナデシコ居る時点でほぼ五分五分になる。

ならば和平を結び、堂々と物資の行き来ができる状況を確保した上で地球とのパイプを太くすればいい。

様々な視点からの推理ができるため、あまり考え込んでも仕方ないと思い、彼らは話に耳を傾けた。

『口が滑ったか・・・恐らく君達が良く知る人物だ・・・。

そんなことより・・・もう一人君達が気にかけなければいけない人間が居るのではないか・・・?』

「ライザか」

「!!」

ヒロシゲは冷静に返事を返していたが、シーラは驚いた。

彼女は今朝の会話で覚悟はしていたが、こんなタイミングで事が起こるなどとは全く予想しては居なかった。

そして彼女は激昂し、怒鳴りつけた。

「ライザさんを・・どうするつもりっ!?」

『なに・・・少し、お茶会に誘っているだけだよ・・・。

もし良ければ・・招待しよう・・・楽しい歓迎を考えている』

どこか芝居臭い物言い、いや、国語の授業中に、無理矢理本を棒読みしているような、

感情の篭っていない、平坦な言葉の継ぎ方でサキヤマは笑い声を出していた。

ヒロシゲは鼻で笑った。

彼だけが、サキヤマの言いたい事を理解しているようで、

周りの人間は何が起こっているのか分からないように呆然としていた。

「ハッ、こーいう時は、大体何もしない代わりに言ったら罠だったりするんだろ?」

『嫌かね?』

「いーーーや。

是非招待してくれよ。

てめえら全員まとめてぶっ飛ばしに行ってやるからよ」

『そうか・・・ふふ、楽しみにしているよ。

では、な』

ぷつり、と音がしたきり、シーラに良く似たロボットは何の音も出さなくなった。

完全に沈黙したそれは、人形のようでもあり、眠っている少女のようにも見えた。

それを一瞥すると、ヒロシゲは踵を返してドアの方へ向かった。

「いくぞ」

「え・・・?」

どこへ、と言いたそうなシーラを見て、ヒロシゲは言葉を継いだ。

「あいつらのハッタリかもしれない、ライザを探しに行くんだよ」

「!は、はいっ!」

シーラはそれにやっと気づいたとばかりに大きな声で返事をした。

二人は駆け足で、部屋を後にした。

−もっとも、彼は、サキヤマの言葉が嘘ではない事を知っていたのだが。


























テツヤが死んで、私は因縁を断ち切れたと思ってた。


でも、何も終わっていなかった。


私が終わった気になっていただけだった。


「ライザ・・・」

「!テツヤ・・・!」

「テツヤ、様、だろうが?」


私の時間が、時間を刻んでいた歯車がゆっくりとずれていく。


捨てたはずの私の想い−。


闇に生きる者としての恋を−。


忘れようとしていた初恋を−。


思い出させる、懐かしい顔が、そこにあった。










−私はどっちのみちを選ぶべきだろう−

























作者から一言。

前回は本当にお粗末な出来で申し訳ありませんでした(汗)。

これからはそれなりの出来で出したいと思うんですけど・・・いかんせん稚拙ですみません。

・・・ちゃんとしたシリアスを書けるようにしたいと思ってます。

>滑ってる

・・・・・(汗々)。

前回の更新で滑ってるかなぁ・・・っていう出来だったとは思ってます。

毎回思うけど・・・って言われると何も言い訳できませんが。

いえ、原因は分かってるんです。

1.文章しかイメージを発生させるものが無いのに書いてみるとその土台が出来ていない

2.中途半端に影響を受けたものを取り入れてしまう

3.根本的に読書率が低い

4.気持ちの方が思考より先行しがちだ

5.連載だと起承転結のリズムが取れない

6.最近、執筆時間が減りがちだ

7.その為に自分の作った話の筋を忘れがちだ

8.ACEを買ってしまった

・・・ちゃんと確認するとこんなにあった。駄目だこりゃ。

自分に当てはまる人が居たら気をつけたほうがいいかもです。

それと武器に関しての考察ですが、


全くのデタラメなので悪しからず。


公式設定とか完全に無視してます。

アリサのフィールドランサーの使い方もスパロボを見る限りではちょっと使いかたが違うっぽいし、原作はあんまり見てないし。

ワイヤード・フィストが使えないとか思ったのはACEやっててワイヤークローがアクション的にはいいけど、

出してる間は何となく動くのを忘れてしまうから、と感じたからです。

決して、不要じゃあないとは思ってます。マニュアルに慣れると微妙に使わなくなっちゃいますが。

性質が微妙に違うので何ともいえないんですけど。

次回作で使おうかなぁと考えてる矢先に先を越されてちょっとガッカリ>ワイヤークロー

わーい、僕んとこのエステバリスは基本的に勘違いトンデモブラックサレナと同じだアハハー(?)。

今回の本文に関しては、ちょっとダラダラやっちまった感じがあってすみません・・・。

以前、『読んでいる人を楽しませるだけの演出が無い』と代理人様に言われていたことと、

前回の『シェイクスピア劇じゃないんだから・・・』との感想を経て、試行錯誤の毎日でございます。

・・・けど、自分に一ヶ月一本のノルマを課していたのにぶっちぎっちゃってちょっと後悔してます。

とはいえ今までのように締め切りに囚われてその為にお粗末な作品を掲載したのでは申し訳ないですし・・・。

そういうわけで、若干投稿を遅らせて腰を据えて打って見ました。

>こういうところでギャグを入れるのは滑りかねない諸刃の剣

・・いえ、あのあとがきはギャグじゃないんです、一応。

いつも微妙なギャグを繰り出していたせいでそう見えていたかもしれないんですけど、

多くを語りませんよ、って言う意味であえてああいうふうに書いたんで・・・ちょっと、いえかなり変ですけど。

では次回へ。


















おまけ情報。

ACE、やってますか?

知っている方も多いかもしれませんが、ちょっと小技紹介と行きます。

電源入れた時にやるオープニングは島谷ひとみさんの『Garnet Moon』です。

しかし、全てのミッションをクリアした後、フリーミッションが出た後、

一度タイトルでしばらく待っているとフロムソフトウェア独特の曲でもう一度オープニングしてくれます。

見たこと無い人は一度おためしを。(失敗したとしても責任は一切持ちませんが)








P.S.

最近初めてインフルエンザというものに掛かってしまいました。

それで一週間近く行動不能に陥ってましたが・・・結構怖いものなんですねぇ。

病気はしないボディだと過信しすぎ・・・家族感染してしまいました。

家族が掛かったら気をつけたほうがよろしいかと・・・。







P.S.2(プレステ2にあらず)

最近、自動車の教習場に通い始めたのですが。

そこに食堂があったのでよってみました。

メニューを見て、一瞬こんなのが過りました。








『ユリカ風味唐揚げ定食』












・・・・・なんですとぉ?










と、思ってよくよく見ると『ユカリ風味唐揚げ定食』でした。


いやー、危ない危ない。


まさか殺人料理を堂々と販売できる食堂があるのかと思った。








・・・・。









で、『ユカリ』って誰だ。




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代理人の感想

滑るというか・・・まぁ、何か言うと傷口に塩どころか血管に気泡を送り込みそうなのでノーコメント(爆)。

と、言うわけで更なる精進を以下略。