「なんでヤツに勝てねぇんだッ!!」

力任せに拳を叩き付けられた壁がベコリと凹む

この壁も量子力学をブレンドした高硬度を誇る金属のはずだが

戦いの申し子である北斗の前には粘土同然らしい


誰もが北斗を恐れて遠巻きにする中

一人の女性が北斗の現状を意に介する事なく近付く

「ご機嫌ナナメね」

「・・・・・・舞歌か」

「また勝負がつかなかったみたいね」

「次こそ 勝つさ」

振り返る事なく言い放ち その場を去ろうとする北斗に舞歌は衝撃的な一言を口にした

「あなた、このままじゃ次も勝てないわよ」

「なんだとッ!!」

どうやら しっかり聞いていたらしい 北斗は舞歌の胸ぐらを掴む・・・が、当の舞歌は平然と北斗を見据える

「北斗、あなたテンカワアキトについて どれだけの事を知ってると言うの?」

「・・・・・・? ヤツは強い、それで充分だ」

「それがいけないのよ」

「なんだと!?」

思わず舞歌の胸ぐらを掴んでいた手を離してしまう

「教えてあげましょうか? あなたがテンカワアキトに勝つために成さねばならない事」

襟元を正しながら舞歌はニヤリと笑った




すべては勝利のために・・・・・・たぶん〜前編〜




「北斗、あなたはズバリ戦闘の基本がなってないのよッ!」

「俺が? 笑わせてくれるな」

「昔の人は偉大ね 言うでしょ?『敵を知り己を知れば百戦危うからず』って、あなたはまず敵を知らないのよ」

「・・・・・・しかし、テンカワアキトの情報は」

「ええ、彼の個人情報はガチガチにプロテクトされているわ、さすが英雄と呼ばれるだけの事はあるわね」

事実はちょっと違う

英雄として大々的に祭り上げられたアキトの人気は相当のもの、当然 女性ファンも多くネルガルにもよく問い合わせがあるらしい

その人気の高さを危惧した某・電子の妖精が全てのアキトの個人データにプロテクトをかけてしまったのだ

しかし、舞歌も北斗もそんな事は知るはずもなかった

「確かに、戦闘能力の高さは知れ渡っているが それ以外に関しては謎だらけだな ヤツは」

「でしょ? まずはテンカワアキトの事を知らなければ勝利を収めるなんて夢のまた夢よ」

「なるほど、ならば諜報員を派遣して・・・」

「ストップ、それじゃダメよ」

「何故だ?」

「彼のバックにはかなりの組織力があるみたいでね、普通に諜報活動なんてできないのよ」

「クッ・・・何とかならないのか?」

「手がないわけじゃないわ」

「本当かッ!?」

「でも、あなた自身に動いてもらうわよ」

舞歌の表情は真剣そのものだ

「・・・いいだろう」

北斗も覚悟を決めた、コソコソしたマネは好まないが、勝利のためだ

「で、俺はどうすればいい?」

「私があなたの名前でテンカワアキトを呼び出すわ」

「決闘を申し込むと?」

「違うわ、ま 見てなさい」

舞歌は不敵に笑った




次の日

ナデシコのアキトの元へ北斗からメールが送られた

もちろん、北斗ではなく舞歌が書いたメールだ

その内容は・・・

「ちょっと待て 舞歌」

「何?」

「これは・・・俗に言う『でぇとのおさそい』と言うヤツでは・・・?」

「そうよ、これならテンカワアキトも油断するでしょ?」

なんと 舞歌は北斗の名前でアキトをデートに誘い出したのだ

「断る! そんな騙すような真似、俺とアキトの決闘を汚すなッ!!」

「あら人聞きの悪い、諜報員を送り込むワケじゃないのよ、あなた自身がテンカワアキトに正面からぶつかるの」

「むぅ・・・」

「確かに力は必要ないわ・・・でも、これは真剣勝負そのものよッ!!」

「・・・わかった」

北斗は承諾した

「こういうのは枝織にまかせれば・・・」

意外と往生際が悪い

「ダメよ、あの子に情報収集なんてできると思って?」

「グッ・・・」

できるわけない

「・・・とは言え、あなたにいきなりデートと言ってもムリな話よね」

「ああ・・・」

「そ・こ・で、決戦の日まであなたに特別特訓を命じます」

「特別特訓?」

「これがスケジュールよ、教官は優華部隊の面々が務めるわ」

渡された書類に目を通す北斗、その顔色が赤くなったり青くなったりしている

そして書類に目を通していた北斗は舞歌の顔に浮かんでいた邪悪な笑みには 当然気付かないのだった・・・


「舞歌様」

「どうしたの?」

優華部隊の隊長 千紗がブリッジを出て行こうとした舞歌を呼び止める

「私にはこの作戦 どうも解せないのですが・・・」

「そう?」

「クリムゾンもテンカワアキトを精神面から攻めようとして敗北したと聞きますが?」

「ふふ、物事を一面だけ見て捉えるのはよくないわよ、この作戦には裏の意味も込められているんだから・・・」

「裏の意味?」

舞歌は その問には答えずただ微笑むだけだった




一方、北斗からのメールが届けられたナデシコでは

「北斗からメール? 内容は?」

「どうやらアキトさんでなければ開けられないようになっているようです」

ブリッジの皆に緊張が走る

「おお〜! 果し状か!? 燃える展開じゃねぇか〜!!」

前言撤回、若干約一名を除き緊張が走った

「アキト、どんな内容なんだ? やっぱり決闘でも申し込んで来たか?」

アキトはメールを見て固まっている

「どうした?」

ナオがメールを覗き込む

ぴしっ

ナオも固まる

「もう、貸してください」

しびれを切らしたルリがメールを正面のウィンドウに大きく表示するが・・・

ぴしっ!

全員 固まる

若干約一名さえもだ


その内容は北斗どころか枝織の方が書いたのでは?と思えるようなかる〜い文体の丸文字で

アキトをデートに誘うものだったのだ

繰り返し言っておくが このメールを書いたのは舞歌である

「は、ははははは・・・で、どうするよアキト、こんなメールを貰う心当たりはあるのかい?」

ナオがみんなを代表して問う

周囲の殺気は気のせいではあるまい

「いや・・・まったく・・・」

アキトも虚ろな目で答える

とりあえず嘘を言ってるようには見えない

「んじゃ、ワナか?」

「それにしちゃ あからさまじゃないかい?」

アカツキも呆れた顔で話に参加する

「じゃ、まぢか?」

「幾度となく戦場で渡り合ううちに愛が芽生えたとか?」

「ありえる話だが、なんでこんなメールになるんだ?」

「ほら、恋は女性を変えるって言うじゃない」

「変わり過ぎだ」

「そうだね・・・」


「で、アキトさんは どうするんですか? この話を受けるんですか?」

ルリがこめかみをピクピクさせながらアキトに問い掛ける

相手の真意がわからないにしろ、デートの誘いというのは納得がいかないらしい

「どうしよう?」

さすがのアキトもどうすればいいかわからない

「だってさ、おい陰謀のプロとしてはどう考える?」

ナオがアカツキに話をふる

「そりゃ僕の事かい? う〜ん・・・僕達の最終目標は和平だからなぁ、手段はどうあれ相手が歩み寄ってきたなら答えるべきじゃないかな?」

とか言いながら心の中では

「(意外な伏兵だ、彼女とテンカワをくっつければ 我々の目的のひとつが達成される)」

こんな事を考えてた

「そうだな・・・よし、この話受けよう」

ちなみにアキトがこの結論を出す後押しをした某会長は その数日後 何者かに闇討ちされ しばらく入院する事になる

犯人が誰かはいまだにわかっていない




木連側ではアキトから承諾の返事が来たとわかると

北斗の特別特訓は急ピッチで進められた

「ほら、そんな大股で歩かない!」

「わ、わかった」

「2人で歩く時は腕を組む!」

「それは決定事項か!?」

「当日はテンカワアキトがお弁当を作って持ってくるそうです! さ、お弁当を食べさせてあげる訓練です!」

「それになんの意味がある!!」

「北斗様、訓練のスケジュールに従ってください!!」

しかし、難航しているようだ

「北斗様、これがテンカワアキトを誘惑するための構えです、チラリズムがポイントです!!」

「なんだそれはあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

北斗の絶叫が響く中、特別特訓はデート当日まで1週間続けられた




そしてデート前日

「北ちゃん」

北斗の部屋に一人の少女が入ってくる

「零夜か・・・何か用か?」

「舞歌様からのお届け物、決戦用だって」

「決戦用?」

渡されたのは小さな包み

頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら包みをあけると中には・・・


「・・・なんだこれは?」

「決戦用・・・だそうよ、明日はそれを着用するようにとの命令です」

「・・・・・・・・・・・・(汗)」

その頃ブリッジでは舞歌と千紗が明日の打ち合わせをしていた

「明日が楽しみね・・・」

「舞歌様、そろそろこの作戦の本当の目的を教えてくださいませんか?」

「本当の目的?」

「テンカワアキトの情報を得るため・・・それだけなら現在ナデシコに潜伏している高杉中尉だけで充分です 他に目的があるのでは?」

「あら、鋭いわね」

「伊達に舞歌様の元で働いてるわけじゃありませんから」

「誉め言葉として受けとっておくわ・・・そこで明日の真の目的のためにこれだけの物を用意して欲しいのよ」

メモを千紗に渡す

「これは・・・本気ですか?」

「本気よ、明日の作戦の成否は それにかかっているんだから」

「・・・舞歌様、楽しんでますね?」

「当然♪」

「はぁ・・・わかりました これは明日までに必ず用意します」

「お願いね」

メモを片手にブリッジを出て行く千紗と入れ替わりで零夜が入ってきた

「零夜、あれは渡してくれた?」

「ええ、微妙な顔をしていました・・・」

「そう、私も見たかったわね」

「・・・・・・・・・」

「どうしたの?」

「・・・いえ」

零夜は黙り込んだまま何も答えなかった




その夜

零夜も北斗と同じく微妙な顔をしていた

「・・・・・・北ちゃん」

潤んだ瞳でぽつり呟きながら零夜は枕を抱きしめた


千紗は複雑な顔をしながらも忠実に任務をこなしていた

「舞歌様・・・一体何を考えておられるのだ・・・」

舞歌様を信じるしかない、そう自分に言い聞かせた


某・同盟の面々は憤怒の表情で策を張り巡らせていた

「ふっふっふっ アキトさん 私が北斗の陰謀からあなたを守ってあげます・・・」

「そうよ! 私達しかアキトさんを救えないのよッ!!」

「「「えいえい、おぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」」」」

待ち合わせの時間、場所、そして自分たちに敵対する某・組織、すべての情報は某・電子の妖精が握っていた


某・組織の面々は薄暗い照明の中で緊急会議を開いていた

「我が同士諸君、 神は我々に好機を与えたもうた」

「志半ばにして散っていった英霊(某・会長、既に闇討ち済)に報いるためにも 我々は成し遂げなければならない」

「我等の手でアキトと北斗添い遂げさせるのだ! これぞ美しい漢の友情ではないかッ!!」

「我等の素晴らしき明日のためにッ!!」

「「「我等の素晴らしき明日のためにッ!!」」」

彼等にとって願ってもないチャンスだった


アキトは少し嬉しそうに明日のお弁当の下ごしらえをしていた

「まさか北斗からデートに誘われるとはな・・・でも、これで戦いが回避できるなら・・・」

この時の映像はもちろんオモイカネによって録画されていた、これが後の「おしおき」の原因になるのは間違いない


北斗は百面相しながら舞歌から渡された『決戦用』を眺めていた

「俺がアキトとでぇと・・・いや、しかし・・・でも・・・」

覚悟を決めるしかない、そう判断した北斗はとっとと寝る事にした が、何故かなかなか寝付けなかった



そして全ての糸を裏で引く舞歌は・・・

「『敵を知り己を知れば百戦危うからず』 ふふっ、昔の人はよく言ったものだわ・・・」

顔には邪悪な笑みが浮かんでいる

「覚悟しなさいテンカワアキト!・・・そして、北斗ッ!!」

そして舞歌は高笑いをあげた、女王様気取りで


すべての決着は明日着く

様々な思惑が渦巻く中

夜はただ静かに深けていった






続く


あとがき


ちょっと長くなりそうなんで前、後編に分けました

突っ込まれる前に言っておきますが舞歌嬢を悪人にするつもりはアリさんの触覚の先っちょ程もありません

裏で糸を引いてるのはあきらかに舞歌嬢ですが


私自身の北斗のイメージですが

「すっごく一般常識に欠けていて精神的に未成熟」 というイメージがあるんです

言葉を変えると「天然で子供っぽい」ですね

このSSの北斗は そういうイメージで書いてます ご了承くださいませ


こんな駄文を最後まで読んでくださった皆さんに感謝です

もし、よろしければ後編が掲載されたらまた読んでやってください

それでは また

 

 

 

管理人の感想

 

 

別人28号さんからの投稿です!!

もう、人気がブレイクしまくりの北斗です!!

しかし・・・オリキャラで一番人気があるかもな(苦笑)

でも、人気投票では最初最下位に近かったのに・・・

恐るべし鋼の城さん、恐るべし北斗(爆)

そう仕向けたのは誰だ!!(俺だ!!)

・・・スンません、ベタなギャグかましても〜て。

でも、デートの特訓をする北斗は可愛いぞ(爆)

後半にも期待大ですね!!

 

それでは、別人28号さん投稿有難うございました!!