決戦の地より遠く離れたナデシコ

 

「ところでミスター、テンカワが出発する時に何かを渡していたようだが、あれは?」

「あれですか? 会長からテンカワさんにと頼まれたチケットですよ」

ここにも某・組織の魔の手が伸びていたようだ

「何のチケットか念のために聞いておこうか」

「はっはっはっ、大したモノじゃないですよ。

 今日皆さんが行っている遊園地は観覧車からの景色が絶品な事で有名でしてね」

「そういえば雑誌か何かでそんな記事を見た気がするな、

 あれはそこの遊園地の事だったのか」

「ええ、ですから特に景色のいい夕暮れ時は長蛇の列でして、チケットがあると優先的に

 乗せてもらえるのですよ」

「なるほど、テンカワに渡したのはそのチケットか」

「ご名答です」

ここまで言えば誰だってわかるだろう

バカにしているように聞こえない事もないがそう思わせない雰囲気をこのプロスペクターと

言う男は持っていた

「しかし・・・会長も本気だな」

「ええ、本気であの2人をくっつけようとしています」

「マズイな」

「そうですねぇ・・・結婚となりますとお祝儀に結婚式、披露宴とお金がかかる事ばっかりです」

電卓をはじきながら眉をひそませるプロス

「そんな事を考える必要はあるまい」

「何故です?」

「その時にはナデシコが無事とは思えんからな「彼女たち」の手によって」

しかも、それは「彼女たち」の怒りの余波にすぎないかも知れない

「それも困りますねぇ・・・」

損害の額は比べ物になるまい

「そう思うなら 何故チケットを渡したのだ?」

「いやぁ、私はしがないサラリーマンでして 上の命令に逆らうわけにはいかないのですよ」

言葉と裏腹に顔には満面の笑顔が浮かんでいる

「・・・悪いと思うなら笑うのは止めた方がいい」

「これが普通の顔ですよ」

「そうか・・・」

笑っているようにしか見えなかった

もし、そのチケットが原因でどんな災厄が起きようとも、プロスには責任はないハズ

 


 

 

すべては勝利のために・・・・・・たぶん

〜後編〜

 


 

自分達に刺客が迫っている事など露知らず仲睦まじく腕を組み歩くアキトと北斗の2人

そんな2人を草むらから伺う舞歌達

「ふふふ・・・北斗ちゃん、カワイイわよ」

「・・・舞歌様、ハナ血が」

「あら、私とした事が」

千紗の差し出したティッシュを鼻に詰める舞歌

「もう ひと押しね、がんばるのよ北斗」

慈愛の眼差しで北斗の後ろ姿を見つめる舞歌

しかし、鼻にティッシュを詰めたその姿はマヌケだ

千紗は何故か悲しくなって空を見上げた

太陽がヤケに眩しかった

 

 

その頃、某・同盟の潜む茂みでは

「この方が特別ゲストです、どうぞ!」

ルリの声と同時に姿を現す1人の人物、その正体とは・・・

 

「あの・・・ナオさん、どうしてグルグル巻きで寝てるんですか? 風邪ひきますよ」

「み・・・ミリア!?」

そう、そこにいたのはナオの恋人ミリアだった

「ナオさん、私達の期待を裏切らないでくださいね」

「・・・・・・・・・すまん、アキト」

ナオは泣くしかなかった

「ナオさん、私お弁当作ってきたんですよ」

ミリアも周囲の瘴気に気付かないタイプの人間らしい

「ははは、そうだね〜でも今は塩味しかしなさそうだよ・・・」

それに対しナオはヘタに状況を理解しすぎている分余裕がなかった

「それでは、がんばってくださいね」

前方のアキト&北斗、後方の某・同盟

逃げ場はないが、隣にミリアがいてくれるのがせめてもの救いだろうか

「あら、あそこにいるのアキトさんじゃない?」

前方のアキトに気付きナオを引きずって行くミリア

実は彼女こそが一番手強い相手かも知れない・・・

 

 

「あれ、ナオさんも来てたんですか?」

ナオ達の方からアキト達に近付いて行ったのだが、先に声をかけたのはアキトの方だった

「お、おう アキト・・・奇遇だなぁ」

「こんにちはアキトさん」

乾いた笑みで言葉をかえすナオ

ミリアはあくまでにこやかだ

「・・・誰だ?」

警戒するようにアキトの後ろに隠れる北斗、どうやら人見知りする方らしい

「紹介するよ、ナオさんとその恋人のミリアさん」

「やだわ、アキトさん恋人なんて・・・」

照れ隠しの一撃がナオの肩にヒット

どうやらナオはそれを防ぐ事すらできないほどに消耗しているらしい精神的に

「俺達 これからそこの原っぱでお弁当食べるんですけどミリアさん達も一緒にどうですか?」

「あら、いいですね私も作って来たんですよ」

ミリアもバスケットを持っている

「それじゃ、そこの木陰なんかどうですか?」

「そうだね・・・ナオさん、ほら行くよ!」

 

ずるずるずるずるずるずるずるずるずるずる・・・・・・

 

いまだに回復しないナオを片手で引きずって木陰に向かうアキト

ちなみにお弁当は背中のバッグの中で

もう片方の手は北斗の手としっかり繋がれていた

「・・・・・・」

それでも北斗は どことなく寂しさを覚えていたのだった

 

 

「ふっふっふっ・・・いい感じですねぇ」

いぢわるである

「流石ね、見事なまでにデートがピクニックになってるわ」

「あの手が気になるけどね」

もちろん繋がれたアキトと北斗の手の事、間違ってもアキトとナオのではない

彼女達は勝利を確信していた

 

「マズイわね・・・」

「どうします、 排除しますか?」

「それもマズイでしょ」

千紗がなにやら物騒な事を言う

「ご安心ください舞歌様!」

「京子、何か策はあるの?」

「すでに特別特訓の時に奥義を伝授してあります!」

「あの奥義を決める事ができたなら今の状況を打破する事も可能なハズですッ!!」

はたして京子と百華が伝授した奥義とは?

 

 

一方その頃

北斗は舞歌の言っていた「真剣勝負」の意味を少し歪んだカタチで理解しつつあった

「(フッ・・・勝負とはままならんものよ・・・だが、こうでなくてはおもしろくない)」

どうやらデートからピクニックへと強制移行された現状の事を言っているらしい

目の前にはアキトの作ってきたお弁当が並んでいる

「(アキトの料理か・・・そうえいばヤツはコック兼パイロットだったな・・・)」

その程度の情報ならサブロウタの報告で知っていた

「口に合うかどうかわからないけど・・・」

お弁当を見つめたまま停止する北斗にアキトがサンドイッチを勧める

「ああ・・・」

言われるままにサンドイッチをひとつ手にとり両手で包み込むように持ちながら一口

「・・・あたたかい」

「あ、あた?」

予想外の感想に呆気に取られるアキト、

しかし北斗にとってまさに「あたたかい」サンドイッチであった

ヒトのぬくもりが感じられる料理、北斗がそれを口にする事はめったにない

あるとすれば時々修練中に零夜が差し入れてくれるのがそうだ

ただ、零夜の料理は「ヒトのぬくもり」以外の何かを感じる事の方が多いのだが・・・

「ナデシコの連中は毎日お前の料理を食べているのか・・・うらやましいな」

正直な感想だった

「俺も毎日お前の料理が食べれたら・・・」

「ハハハ、そういうのも悪くないね」

「そうか?」

北斗は赤面してうつむいてしまう

 

ちなみにナオはいまだ復活しておらずミリアの膝枕で夢の中だ

「(・・・あれは百華から伝授された奥義『ひざまくら』・・・このミリアという女、あなどれん・・・)」

何故か北斗の中でミリアは敵として認識されてしまった

「(だが俺も伊達や酔狂で秘密特訓を受けてきたわけではないッ!!)」

あの奥義を今こそ使うべきだ

そう判断した北斗の行動は素早かった

「ほら、アキト・・・あ〜ん」

「えっ!?」

 

ぼんっ!

 

今度はアキトが赤面する番だ

「いや・・・その・・・」

「あらあらアキト君顔真っ赤にしちゃって〜♪」

ミリアがからかうがアキトの耳には入っていない

「どうした?」

「あ・・・うん」

ぱく

アキトが北斗の手のサンドイッチを一口食べる

「きゃ〜〜〜〜〜見事ですわ北斗様!」

「飛厘、ちゃんとカメラに収めてる?」

「もちろん」

「あんな事まで・・・」

大騒ぎの優華部隊、ただし舞歌と千紗以外・・・

あと零夜も目を見開きながら沈黙をたもっていた

「見た?」

「はい」

「今から私の言う事に間違いがあったら遠慮なく訂正してちょうだい」

「了解」

「まず、北斗がサンドイッチを一口食べたわよね?」

「はい」

「で、その後アキトにサンドイッチを食べさせてあげたわよね? あ〜んって」

「・・・はい」

「それじゃ・・・ 

北斗は自分のサンドイッチとテンカワアキトに食べさせるサンドイッチをいつ持ち替えたの?」

「・・・・・・・・・」

持ち替えてなんていない、同じサンドイッチを食べていた

つまり・・・

 

「間接キッスなんてフケツよおぉぉぉぉッ!!!!」

 

突如、零夜の魂のシャウトが木霊する

手にするメガホン(優華部隊仕様)をどこから取り出したかは不明だ

「あああ〜私の北ちゃんが汚されていくぅ〜〜〜〜」

いつ零夜のモノになったのだろうか?

 

「 テンカワアキト許すまじィ〜〜〜〜ッ!!!」

「ま、待ちたまえ君! そのバズーカはまずいバズーカは!!」

某・組織の方もバズーカを持ってテンカワ抹殺に乗り出そうとする某メカニックと

それをしがみついてでも止めようとする某会長&整備班一同で大騒ぎとなっていた

 

ちなみに某・同盟の方は

「・・・・・・」×18(ミナト、ジュン、ハーリー含)

見事にフリーズしていた再起動にはしばらく時間がかかるだろう

 

 

 

それに対し北斗達は

「なにか絶叫が聞こえませんでした?」

ミリアが2人に訊ねる

「さぁ?」

「俺は気付かなかったが」

平和だった・・・今のところ

 

「ミリアさん達はこれ食べ終わったらどうしますか?」

北斗がすがるような目でアキトを見る、昼からも4人で行動するのは避けたい

そしてミリアは同じ女性として北斗のそんな視線に気付いていた

「そうですね・・・アキトさんは どこかオススメあります?」

「オススメですか? う〜ん、お化け屋敷なんかどうです 結構迫力ありましたよ」

「それじゃ、私達はそこに行ってみます」

「そうですか? それじゃ昼からは別行動にしましょうか?」

「そうですね」

某・同盟には一つの誤算があった

それはミリアが同盟の意図を全く理解していないという事だ

彼女だってナオと2人っきりのデートを優先するに決まっている

「それじゃ、俺 このゴミ捨ててきますよ」

空缶とかを持ってアキトは席を外す

そして残された北斗にミリアが近付き耳元に

「がんばってね」

とささやく

ビックリした表情でミリアの方を見る北斗

「そんな驚いた顔しないでよデートの邪魔はしないから、そのかわり私達の邪魔もしないでね」

「・・・・・・・・・ありがとう」

小さくぼそっと呟く

別に初めてのコトバなどではない

「ほらほら、そんな風にうつむいてちゃダメよ

 アキトさんに可愛い笑顔を見せてあげなきゃネ?」

「・・・がんばる」

「うん、がんばってね・・・それじゃお邪魔虫は退散するわ」

ミリアはいまだ復活しないナオを引きずって去っていった

意外とパワフルだ

 

 

 

その後、アキトと北斗はゲームコーナーに来ていた

遊園地といえば絶叫マシーンとかがあるかもしれないが2人はそれらには乗らなかった

あれだけの機動兵器を操る2人にとっては絶叫マシーンぐらいではゆりかご同然だからだ

「お、UFOキャッチャーがあるぞ」

ここで可愛いぬいぐるみでも手に入れて北斗にプレゼントでもすればきっと喜んでもらえるだろう

アキトは迷わずコインを入れる

「え〜と、どれがいいかな? 北斗リクエストはあるか?」

北斗は中のぬいぐるみを見て・・・・・・その中にひときわ目立つモノを見つけた

「あれがいい・・・・」

「あれか・・・って、おい!!」

アキトが驚くのも無理はない北斗の指差す先にあったのは・・・

 

ネルガル製 おしゃべりアキトくん

 

ネルガルがアキトの人気を利用しようと企画した製品で

話しかけるとそれに応じて1500パターンのセリフをアキトの声で喋るというスグレモノだが

世に出る直前 会長から直にプロジェクトの中止が申し渡された

開発部の方も取り消しを求めようとしたが何故か会長は面会謝絶の入院中で

物理的に不可能だった

現在は製造番号1ケタの9体しか存在しない極めてレア度の高い品だ

9体中4体の存在がナデシコ内に存在するらしいが所有者が誰であるかは不明だったりする

ナデシコ外に存在する4体のうち1体を明日香インダストリーの令嬢が所有しているという

ウワサもあるが、これも真相は不明

そして、ネルガルに保管されていたはずの最後の1体がここにあった

ちなみに何故会長がプロジェクトを中止しようとしたかはわかってない

 

何故こんな貴重品がこんなところにあるかと言うと

「舞歌様、ただいま戻りました!」

「高杉君 ごくろうさま」

やはり舞歌の暗躍だった

「ところで、命令通りにあの人形を置いてきましたけどあんなのどこで手に入れたんです?」

「フフッ、私に不可能はないのよ」

「はぁ・・・」

答になってなかった

 

「ふぅ・・・やっと手に入れた」

サブロウタと舞歌のやり取りの間にアキトはおしゃべりアキトくんを手に入れていた

使用した金額は2000円ナリ

「これ、北斗にプレゼント」

さっそくそれを北斗に手渡す

「ありがとう、大事にする・・・それじゃ俺も」

北斗もUFOキャッチャーの前に立ち

 

自分を見つけた

 

別に中に鏡が置いてあったワケではない

中に自分そっくりの人形があったのだ

 

「ああ〜〜〜!

 私のぷりち〜北ちゃんが〜〜〜〜〜!!」

「のレプリカよ」

再びメガホン(優華部隊仕様)を持って絶叫する零夜のセリフを舞歌が訂正する

「私がわざわざ夜なべして作ったんだから」

しかも舞歌のお手製らしい

 

 

「ほら、取れた・・・」

北斗の方はアキトと違いあっさりとぷりち〜北ちゃんを手に入れる事ができた

当然ながらこちらの人形は喋らない

「アキト、貰ってくれるか?」

「ありがとう、うれしいよ」

「そ、そうか・・・?」

後日、某・同盟がアキトの部屋を捜索したが、

結局このぷりち〜北ちゃんは発見できなかったとか

 

 

 

そうこうしているうちに時間は夕方

かなりいい雰囲気になっている2人を前に某・同盟はじだんだを踏み

某・組織の方はもう少し決定的なものを求めていた

2つの勢力の決戦は近い・・・

 

腕を組みながら歩く2人

アキトはポケットからチケットを取り出す

「北斗、向こうに見える観覧車のチケットがあるんだ 乗りに行かないか?」

「(観覧車? 時間は夕暮れ・・・はっ、まさかアキトはあの奥義の事を知っているのか!?)」

また何かよからぬ事を吹き込まれている北斗

「(わざわざこの時間にあの場所へ連れて行くという事はアキトもあの奥義を望んでいる

 というのか!? そんな・・・)」

「・・・北斗?」

アキトにはそんなつもりはない、ただプロスペクターにこのチケットを使えばきっと彼女も

喜んでくれると教えられたからにすぎない

「(いや、俺も覚悟を決めるべきだ・・・

 いつまでもチンタラやってるワケにはいかないからな・・・ここで決着をつけてやるッ!!)」

「お、おい! どうしたんだ急に」

そう心に決めた北斗はアキトの腕をひっぱりそのまま観覧車へと向かう

 

 

「どうやら、僕の用意したチケットを使うみたいだね・・・」

「しかし、会長その作戦には穴があるぜ」

「・・・わかっているよ時間だろ?」

「そうだ、観覧車一周の短い時間の間にあのテンカワアキトという男がアクションを起こす事が

 できると思うか?」

「・・・難しいだろうね、だが可能性はゼロではない奇跡を待とうじゃないか」

「俺は奇跡を待つより捨て身の努力をする男でね・・・時計の針を止めてみるさ」

「管理システムに入り込んで観覧車を止めようと言うのかい?

  それはムチャだ向こうには電子の妖精がいる」

「・・・悪い、ここは黙って俺にまかせてくれ」

「フッ・・・まかせられないね僕も行くよ」

「お前・・・」

「僕達の勝利のために! 生きるも死ぬも一緒だと誓ったはずだろ?」

「おうっ!」

やけにシリアスに決めた2人は隠れ家を出た、勝算はあるのだろうか?

 

そして・・・

 

ガクンッ

 

大きな振動とともに観覧車は止まった!

 

 

アキトと北斗の2人は並ぶ事なく観覧車に乗る事ができた、会長の準備したチケットは

それだけの効果があったようだ

「(・・・どうしよう)」

「ほら、景色がキレイだよ」

「そうだな・・・(この奥義はまず相手の懐に入らなければいけない・・・)」

北斗は観覧車に乗ったものの奥義を放つタイミングを掴めずにいた

 

ガクンッ

 

ちょうどその時、観覧車が止まった

「(チャンス!)」

油断しきっていたアキトと違いタイミングを計っていた北斗はこの機を逃さなかった

 

ぽす

 

「ほほほほほほほ北斗!?」

北斗の体は見事にアキトの胸に飛び込んでいた!

「(よし、第一段階成功・・・後は・・・)」

北斗は決意を固めた

 

 

「よし、見事だ!!」

双眼鏡片手にガッツポーズの会長

「時間を止める必要なかったかも知れねぇが、あれできっかけができたって事でよしとするか」

あとは電子の妖精が観覧車を復旧させるまでに2人がアクションを起こしてくれればいい

 

 

観覧車の停止に気付いた某・同盟はすぐさま観覧車を復旧させようとする、しかし・・・

「あれ?」

「どうしたのルリルリ?」

「観覧車のシステムが復旧できません」

「なんで!? はやくしないとアキトが北斗ちゃんの毒牙に・・・あうあうあうあうあうあうあう〜」

ユリカがジュンに買ってこさせた双眼鏡をのぞき込みながら錯乱している

「貸して、私がやってみる」

ラピスがルリから端末を奪い、システムを復旧させようと試みるが・・・

「ダメ・・・システム上の問題じゃない」

 

 

その頃、ウリバタケとアカツキは・・・

「うまい事考えたものだな」

「まあな、こちとら本職だからよ」

ウリバタケの手にはレンチがひとつ

「こうやって回線を物理的に切断しちまえばここを繋ぎ直さない限り観覧車は復旧しねぇ」

「ホントに見事だよウリバタケ君」

2人は勝利を確信していた

 

 

電子の妖精2人の敗北により某・同盟の焦りのボルテージは嫌でも上がっていく

「ど、どういう事?」

「たぶん、接触不良とかの物理的な問題ですよ」

メグミの問にハーリーが答える

「電子戦では敵無しの2人が揃ってダメって事は そういう理由しか考えられません」

そう、これがウリバタケの策、いくら電子戦に強くても繋がっていない線を繋げられる

ワケではない

それこそウリバタケ達 整備員の仕事だ

「どこが繋がってないか調べられないの?」

「ダメなんです、監視カメラの映像をまわす事はできても どこが繋がっていないかまでは・・・」

「あうあうあうあうあうあう〜 こんな時にタイミング悪すぎるよ〜〜〜」

ユリカの錯乱は止まらない、しかし、そのセリフにイネスは閃いた!

「ラピス、すべての監視カメラを使って人を探して!」

「わ・・・わかった」

「イネスさん、何かわかったんですか?」

サラの質問にイネスのメガネがキュピーーンと輝く

「説明しましょう! ズバリ今回の事はタイミングが良すぎるのよ!」

「作為的って事ですか?」

「その通りよ、そしてそんな事をする連中と言えば私達にはひとつしか心当たりがないはずよ」

「「「「・・・・・・・・・」」」」

たぶん、今みなの心がひとつになった瞬間だろう

「いた・・・ウリバタケ達・・・・」

その時、ラピスが監視カメラのスミに映るウリバタケとアカツキを発見した

「ホントなら あと3時間ぐらい説明したいとこだけど 時間がないわ行くわよ!」

彼女達は走りだした、思い思いの武器を手に持って

そして、ミナトは唯一の良心としてなんとかして被害を少なくしようと管理事務所に避難を

うながすため電話するのだった

 

 

「あらあら〜、誰だか知らないけどおもしろい事やってくれたじゃないの」

その頃、舞歌も双眼鏡を覗き込み予想外のハプニングを楽しんでいた

そして、舞歌の後ろでは・・・

「離してえ〜〜〜〜!!」

釘バットを振りまわす零夜が優華部隊全員に取り押さえられていた

「テンカワアキトごときに奪わせるぐらいなら、

 いっその事この私があ〜〜〜〜〜!!」

あまりにもヤバい事を言うので千紗が鎮静剤を注射する

「はぅ・・・北ちゃん・・・」

零夜、沈黙

「まったく・・・ここは静観するに限るわ みんな場所を移動するわよ」

「わかりました、ではあちらの展望台のレストランにでも・・・」

「「「え? 舞歌さまの奢りですか?」」」

千紗の提案に京子、百華、飛厘が目を輝かせる

「もう、しょうがないわねぇ・・・いいわよ」

舞歌も苦笑しながら了承する

「「「わ〜〜〜〜い♪」」」

皆、レストランへと向かった、これから起きるであろう争いから避難するために

「それじゃ、俺達もこれから2人っきりで・・・・・・へぶっ!!」

「・・・・・・・・・」

三姫は無言でヘビィブローを決めるとそのままサブロウタを置いて舞歌達と行ってしまった

哀れサブロウタ・・・

 

 

その頃、突如止まってしまた観覧車の中では

 

どきどきどきどきどきどきどき・・・

 

「(相手に近付いて・・・密着して・・・それから・・・)」

 

そしてアキトは・・・完璧に冷静さを失っていた

「(え? もしかしてOK? いや、OKって何がだ!?

  ああ〜俺はどうしたらいいんだ〜〜〜〜!!!!)」

心の中でシャウトしていた

 

 

そして、某・同盟と某・組織

「ふはははははは!

このゲキガン軍団の前にお前達の力など無駄無駄無駄ぁ〜〜〜!!」

「そーいう事! 残念だろうけどあきらめてくれたまえ!!」

何故か天空ケンと海燕ジョーのコスプレをするウリバタケとアカツキの前には人間サイズの

ゲキガンガーがズラッっと並んでいた

「(・・・ちょっと暑いよな、このアーマー)」

「(言うなよ、よけいに暑くなる)」

なんと全員、某・組織に属する整備員だった

「この防御網を突破できるかな? 否、できるいはずがなぁい!!」

勝ち誇るウリバタケ、某・同盟メンバーの怒りのボルテージは急上昇だ

「う〜〜〜〜、ジュンくん! ユリカのために力を貸して!!」

「もちろん、ユリカのため・・・え?」

ユリカは返事も聞かずにジュンの胸ぐらを掴み・・・

「ジュンくんミサイィィィィルゥ!!」

「なんでえぇぇぇぇえええ!?」

ジュンをゲキガンガー部隊へ投げつけた!

 

ドッカアァァァァァァァンッ!!

 

大爆発する

「アオイさんって爆発物だったのね・・・」

「私もはじめて知ったわ・・・」

もちろん、爆発したのはゲキガンアーマーの方だが今はそんな事どうでもよかった

「くっ・・・こしゃくな・・・お、ちょうどいいところに」

「よし、協力してもらうぞ!」

ウリバタケはそこに倒れていたサブロウタの襟元を掴み

「高杉ボンバー、Fireーーー!!」

「どわあぁぁぁぁああ!!」

サブロウタは見事な放物線を描いて飛んだ、その先には

「ルリちゃん、危ない!」

「甘いです、ハーリーシールド!!

ルリをハーリーを盾として構えた

「そこどけ、ハーリィーーー!!」

「ムチャ言わないでくださいよぉ〜〜〜」

むろん、万有引力に逆らえるハズもなく・・・

 

 

 

(ただいま画面が乱れております、しばらくおまちください)

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん、

 僕の青春の1ページがぁぁぁ!!」

何があったかは全くの不明だがハーリーは得意技の『ハーリーダッシュwithまぢ泣き』

走り去っていった

そしてサブロウタは

「・・・・・・・・・・・・」

ピクリとも動かなかった

 

「こうなったら総力戦だ、行くぞ!!」

「「「「「イエッサーッ!!」」」」」

 

「皆さん、恋する乙女のチカラを見せてあげちゃいましょうっ!!」

「「「「「おお〜〜〜〜っ!!」」」」」

 

こうして決戦の火蓋は切って落とされた

 

そして観覧車という名の密室の中では

「(相手に密着して・・・それから・・・それから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだっけ?)」

見事に、その先を忘れていた

「(まあいいか・・・こうしてるとあたたかいし・・・)」

とりあえず、思考が帰結した北斗はそのまま安心しきった表情でその瞳を閉じた

「・・・北斗?」

声をかけてみるが返事はなく、かわりに可愛い寝息が聞こえてきた

「寝ちゃったか・・・安心したような、残念なような・・・」

アキトは少し微笑むと北斗の肩を抱き自らもその瞳を閉じるのだった

 

 

「ぬおおおおお、こしゃくなあッ!!」

「負けません! 愛のためにッ!!」

周囲に響く爆発音

もはやそこは遊園地ではなかった

戦場だ、しかもかなり最前線

観覧車停止から1時間

「舞歌様〜、終ったみたいですよ〜」

双眼鏡で同盟、組織の戦いを見物してた百華が報告する

舞歌達は食事を終え、デザートのケーキ3つめに突入していた

「やっと観覧車も動き出したようね・・・」

「ええ、争いがおさまったので係員が観覧車を復旧させたようです・・・・・あ、あれは!?」

「どうしたんですか!?」

零夜も双眼鏡を取り出し観覧車の方を見る!

 

動き出して下まで降りてきた2人の乗る観覧車

それはいい

だが、その周囲を正体不明の一団が取り囲んでいたのだ

 

「あたしの北ちゃんが〜〜〜〜〜〜〜!!」

そう叫ぶやいなや零夜はドップラー効果を残しながらレストランを飛び出していった

「ちょ・・・ちょっと待て零夜!」

三姫を先頭に零夜の後を追う優華部隊、しかし、千紗だけは双眼鏡をのぞき込み・・・

「舞歌様、あの連中はもしかして・・・」

「あら? 千紗は知ってたの? 流石ね」

「伊達に舞歌様の元で働いてるワケではありませんから」

 

そして零夜達が観覧車にたどり着いた時、正体不明の一団が撤収するところだった

その一団は真っ白な軍服に身を包んで同じく白い帽子をかぶっている以外特徴はなく

ただ、その物腰から全員その筋のエキスパートであろうと予測できた

「あなた達・・・そこで何してるの?」

口調こそ穏やかだが零夜が釘バットを構え正気とは思えない目をして、

その一団の背後に迫っていた

「う・・・」

「今宵の釘バットは血を欲しているわ・・・」

ついに訳のわからない事を言い出す零夜

さすがに謎の一団もビビる

「も・・・目的は達成した退くぞッ!!」

リーダー格らしき男の声が響くと同時に一団は一斉に逃げ出す

「・・・逃げられると思ってるの? ・・・・・・・・・・あぅ」

釘バットを上段に構えそのまま追いかけようとした零夜だったが、追い付いた飛厘に催眠ガス

を吹き付けられ そのまま昏倒した

「北斗様、ご無事ですか!?」

京子と百華が観覧車に駆け込む

「「あ・・・」」

そこで2人が見たのは

穏やかな表情で眠るアキト、そして・・・

・・・その腕の中でアキトの胸に顔を埋め今まで見た事もない程に安らかな顔をして眠る、

北斗の姿があった

「零夜、寝かせといて正解だったね・・・」

「うん・・・」

「どうする?」

「時間も遅いし、このまま連れて帰りましょ」

「置き手紙残しとけばOKよね♪」

「キスマーク忘れちゃダメよ♪」

どう見ても楽しんでるようにしか見えない2人だった

 

先に帰る、今日は楽しかった

 

北斗らしい一文に眠る北斗のキスマークを付けた置き手紙を残し優華部隊は北斗を連れて

帰っていった

後に残るは眠る王子様と屍のみ・・・

後日、ナデシコ宛に届けられた遊園地からの請求書を見てプロスペクターが大説教大会を

開催したのは余談である

 

 

 

そして北斗を連れて船に戻り、ブリッジに入った舞歌と優華部隊を待っていたのは

先程、観覧車の周囲にいた白い一団だった

「お前達はっ!?」

優華部隊が構えると白い一団はおもむろに立ち上がり

「「「「「「お帰りなさいませ、舞歌様!!」」」」」」

一糸乱れる事ない敬礼で舞歌を迎える

「みんな、ごくろうさま」

そして舞歌はニッコリ微笑み、それに応える

「・・・・・・はい?」

状況の理解できない優華部隊、ただ千紗だけが1人すべてを察したようにため息をついた

「あの〜〜〜、あなたがたは?」

百華がおずおずと訊ねる

「我々は舞歌親衛隊ですッ!!」

「・・・・・・・・・・・・はい?」

先程より沈黙が長かった

 

 

舞歌親衛隊

木連の命令系統に属さない舞歌直属の部隊

心身優れた者のみで構成され、各人の力量は優人部隊にも劣らない

ただ、その力は舞歌の望みをかなえるためのみに発揮される

例えばネルガル本社からおしゃべりアキトくんを盗み出してくるとか・・・

言い方を変えるならば、彼等は全員

ナデシコでやっていけるメンバーである

 

 

「舞歌様、御命令の任務 完了しておりますッ!!」

「報告を聞きましょうか?」

 

「観覧車内の映像および音声の記録に成功いたしました!」

「ごくろうさま、編集してマスターデータを提出してちょうだい」

 

「北斗様とテンカワアキトの間接キスの決定的シーンを写真におさめる事に成功しました!」

「あなたボーナス期待してていいわよ、特大パネルにしてちょうだい北斗の部屋に飾るから」

 

「『北斗様秘密特訓ハプニング集』編集完了いたしました!」

「早かったわね、マスターを私に、それとナデシコへテンカワアキト宛で送っといてちょうだい」

 

「ナデシコのメインコンピュータをハッキングし隠しテンカワアキトライブラリのコピーに成功

 致しました!!」

「でかしたわ! マスターは私に、あと北斗の個人端末にも送っておいて」

「ただ・・・未成年が見るには不適当なモノが・・・」

「・・・・・・・・・それは、私の個人端末に送っといてちょうだい(ぽっ)

 

優華部隊が呆然と見守る中

舞歌は次々と命令を発し、それが終ると上機嫌でブリッジを出ていった

 

 

 

次の日

「うぅん・・・はっ、ここは・・・・・・・・・・・・俺の部屋? ・・・寝ちまってたのか・・・」

北斗が目を覚ましたのは翌日の朝だった

気だるそうに起き上がりあたりを見回し

自分がまだデートの時の服のままだと気付き服を脱ぎ出す

「シャワーでも浴びよ・・・」

そのままバスルームに向かって歩き出し・・・ふと、鏡の前で足を止める

 

じ〜〜〜〜〜〜〜

 

自分の身を包む『決戦用』を見つめ

「はぁ〜〜〜」

ため息をつく

「今日はこいつを活かしきる事ができなかった・・・俺は未熟だ・・・」

そんな事を悔やんでいた

「だが、次こそはっ・・・!!」

何をするつもりだろうか?

「・・・?」

その時、鏡に映る自分の向こう側・・・つまり背後に目をやり

はっと振り返る

 

「なんじゃこりゃああぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

北斗の絶叫が艦内中に響いた

起きた時は気付かなかったが北斗の背後の壁には例の特大パネルが飾られていたのだ

それだけではなく背後の壁一面隠しテンカワライブラリから厳選されたものがパネルとして

飾られていた

「あ・・・・・・」

今度はそのうちの1枚に目を止め真っ赤になって黙り込んでしまう

どうやら気に入ったものがあったらしい

 

 

「ほ〜んと、北斗は可愛いリアクションしてくれるわね〜〜♪」

北斗の部屋の様子が映されているモニタを前に舞歌は鼻にティッシュをつめながら笑顔で隣の

千紗に同意を求める

「はぁ・・・」

千紗が舞歌のモニタを覗き込むと、そこには真っ赤な顔で気に入ったパネルをいそいそと

自分の枕元に置きかえる北斗の姿が映っていた

そして、そのモニタの右上にはしっかりと「REC」の3文字が表示されていたのだった

「舞歌様・・・・・・」

「なーに?」

「楽しんでますね?」

「もちろん♪」

舞歌は満面の笑みを浮かべながらそう答えた

 

 

 

 

 

ちなみに北斗の絶叫は個人端末内のアキトライブラリを発見した時にも響き渡る事になる

めでたしめでたし..........か?


あとがき

 

やっと終りました・・・長くなりました・・・

これでも、いくつかシーンを削ったんですけどねぇ

 

最後の方にオリキャラを登場させちゃいましたが

あくまでアナザーって事で・・・

 

あと、本編に登場せず人気投票上位に食い込んだ御令嬢が影見せてますけど・・・

・・・深くは気にしないでください

 

それでは私は脱兎のごとく逃げ出します

みなさんはオマケを楽しんでくださいな♪

 

ではでは、さようなら〜〜〜〜〜〜

 

 

 

オマケ☆

 

「はぁーーーー、はぁーーーーー」

北斗は落ち着いて息を整えようとする

いまだかつてない敵を前に北斗は驚愕していた

まさか、テンカワアキト以外にこれ程の強敵が存在していようとは・・・

相手は身動き一つしない

「(俺をなめているのか?)」

北斗の頬を汗が一筋流れる

「(だが・・・俺は負けんッ!!)」

手にした武器を握り直し気を練る

 

 

そして

 

 

「たあぁぁぁぁぁッ!!!」

渾身の力をこめて振り下ろす!

「(やった!)」

刃が相手の肉に潜り込み、骨を断つ感触が腕に伝わる

さらに固い感触・・・どうやら刃は敵の背の向こうにまで届いたようだ

「ふっ・・・俺の力を持ってすればこの程度・・・」

 

 

ポカン

 

 

「何やってるんですか 北斗様!!」

「あ〜あ、魚1匹切るのにまな板まで真っ二つにしちゃって・・・

「ス・・・スマン」

包丁片手にひよこのアップリケ付のエプロンを身につけた北斗が素直にあやまった

 

 

優華部隊にお料理を習う北斗ちゃんでした♪

 

ホントに終り

 

 

 

管理人の感想

 

 

別人28号さんからの投稿です!!

待ちに待った後編です!!

別人28号さん、投稿有り難うございました!!

しかし、まあ、可愛い北斗ですな(苦笑)

舞歌の暗躍も凄いけど・・・

某同盟と某組織って、本当にしのぎを削ってるよな(笑)

三姫とサブロウタも良い雰囲気ですしね(笑)

最後のオチも笑えました!!

でも、敢闘賞はナオ&ミリアだな(爆)

 

それでは、別人28号さん投稿有難うございました!!