「たっだいま〜！」

少女の元気な声が聞こえてくる

「ああ、おかえりユキナ」

「あれ、お兄ちゃん　帰ってたんだ？」

お茶の間で意外な人物を発見したユキナが驚きの声をあげる

詳しくは聞いて無いが今日は何か重要な作戦だとか言って

朝早くに出掛けていたはずだ

「ああ、意外と早く終ったんでな」

「ふ〜ん、晩ご飯　用意する前にシャワー浴びていい？」

ユキナはそういいながらも風呂場に向かっている

返事がどうであろうとシャワーを浴びるつもりらしい

「ん？　俺は　今から月臣の家に行くから晩ご飯はいらないよ」

「・・・また、ゲキガンガー？」

「ハハ、それだけじゃないけどね」

否定はしない

「ふ〜、１人家に残される妹の事も考えてよねぇ プンスカスカプン！」

「・・・・・・」

返事がない

ガチャ

玄関の方で扉を閉める音がする

「・・・もう、行ったのね」

呆れながらも風呂場に向かうユキナ

その頃、九十九は

「あ、忘れてた」

ある事を思い出し

今、歩いてきた道を戻った

「まったく、これじゃ　どっちが保護者だかわかんないわよ！」

ユキナは怒りを込めて履いていたスカートをカゴにシュートしたりしながら

さっさと服を脱ぎ、タオルを片手に風呂場の扉を開け

ピタッ

動きが止まる

その視線の先には

・

・

・

同じく浴槽の中から立ち上がったまま動きを止めた男が１人

その出で立ちは・・・風呂に入っているのに服を着たままというのも珍しいだろう

と言う事は

・

・

・

「きゃあぁッ！へんたいぃーッ！！」

ユキナの絶叫が響き渡ったのも仕方のない事だろう

「ごっ　誤解だ！」

「ゴカイもロッカイもないわよ！」

石鹸

シャンプーのボトル

ドライヤー

手当たり次第に物を投げつける

「痛てっ！　痛いって！！」

「当たると痛い物投げてるんだから　当然でしょ！！」

物を投げつける少女、名は　白鳥　ユキナ

それを一身に受ける青年、名は　天河　アキト

これが２人の運命の出会いだとは　今は誰も気付いていなかった

・・・そう、当の本人達でさせも

機動戦艦ナデシコ　ｉｆ

case２．白鳥　ユキナ

前編

「・・・遅かったか」

九十九は先程くぐったばかりの玄関の前で

中の喧騒を聞きながらポツリ呟いた

さらに扉を開く覚悟を決めるまでに数分

九十九が現場に駆けつけた時には

すでに簀巻き状態のアキトが転がっていて

さらにユキナはそのアキトの上に

獅子を打ち倒したヘラクレスのごとく悠然と腰掛けていた

「あ、お兄ちゃん！　変態を捕まえたわよ」

「・・・だから誤解だってば」

アキトは涙ながらに訴える

「何言ってるのよ　盗人たけだけしいとはこの事ね！」

「いや、確かに誤解なんだよ」

「・・・え？」

意外な救いの手は九十九から差し伸べられた

「ユキナに紹介するのを忘れていた、その下の彼は

今日から家で暮らす事になった　天河アキト君だ」

・

・

・

ユキナが九十九のセリフを理解するまでに数秒

そして

「なんですってえぇぇぇぇぇッ！！」

閑静な住宅街に本日の２度目の絶叫が木霊した

「地球からの異邦人？」

「ああ、彼は次元跳躍門を越えて地球から来たんだ」

「そりゃまた非常識な事やったわねぇ」

「ははは・・・」

ユキナの身も蓋も無いセリフに苦笑するしかないアキト

本当なら次元跳躍門を生身で越えてきた時点で

木連全体を揺るがすような大問題なのだが九十九はこのあたりは伏せておいた

親友である月臣元一郎、秋山源八郎と話し合った結果

一種の遭難者であるアキトを匿う事にしたのだ

「で・も・ビシィッ！」

ユキナは九十九を指差す

「ビミョ〜な年令の妹がいる家に

どこの馬の骨かもわからない男連れてくるお兄ちゃんの方が

よっぽど非常識よッ！！」

「うっ・・・スマン」

そんな風に言われては反論できない九十九は素直に謝る

しかし一転アキトの方に向き直ると

「まぁ、私も鬼じゃないし　あんたを追い出したりはしないわよ」

「あ、ありがとう・・・ユキナちゃん」

「・・・で・も、お風呂場での事は忘れてないからね　プンプンッ！」

「・・・ハイ」

この家で主導権を握っているのは誰か

それが　ハッキリとわかるやり取りだった

「そ、それじゃ俺は元一郎との約束があるから・・・」

いたたまれなくなった九十九はそそくさと出掛けていった

ユキナとアキトが無言のまま残される

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

先にその沈黙を破ったのはユキナの方だった

「・・・気にしないで、いつもの事だから」

「え？」

そう言うとユキナはやおら立ち上がり

「あたし、シャワー浴び直してくるわ」

そしてご丁寧に部屋を出る直前

「・・・また、のぞきに来たら息の根止めるからね」

一言、そう言い残すと風呂場へと向かった

「う〜ん」

しかし、こいうなると　する事がないのがアキト

落ち着かない様子でキョロキョロあたりを見回す

ふと目に止まったのがユキナの買い物袋

袋からカレールーがはみ出ているのを見ると今晩はカレーらしい

「・・・そうだ！」

アキトはある事を思い付き　すぐさま実行に移した

「・・・どうやら、のぞきには来なかったみたいね　感心、感心」

シャワーを浴び終えたユキナが廊下に出ると良い香りがしていた

「クンクン・・・これカレーの匂い？」

ユキナが匂いを辿っていくと　そこには台所で鼻歌混じりに料理をするアキトの姿が

「・・・あんた、何やってるの？」

「あ、ユキナちゃん　お世話になりっぱなしってのもなんだからね」

アキトの前の鍋からは言い香りが漂っている

「・・・あんたが作ったの？」

「これでもコック見習いだったんだよ」

「へぇ〜　それじゃ味は期待していいのね？」

「それは、どうだろう？」

「何よそれ？ ま、いいわ　あたし向こうで待ってるから」

しかし、コックと言うだけあって手際よく

アキトはカレーライス２つをお盆に乗せユキナの待つ茶の間へと向かう

「それじゃ、味あわせてもらおうかしら」

「プレッシャーかけないでよ・・・」

「何よ女々しいわねぇ、男ならバンと構えてなさい！」

このあたりが木連らしい考え方だろうか？

文句を言いながらもユキナはそのカレーを口に運ぶ

「どう？」

「・・・・・・・・・」

返事がない

「あれ、失敗してたかな・・・」

「・・・・・・・・・」

そうではない、おいしいのだ

今、ユキナの頭の中には九十九に見せられたゲキガンガーの一場面が浮かんでいる

うまい！　うまいよ！

　　　俺嫁さんにもらうなら

　　　　　　料理のうまい子って決めてたんだ

有名なアクアマリンの料理に対するケンのセリフだ

「（確かにその通りよねぇ、その点このカレーは合格だわ）

・・・って、違ぁ〜〜〜〜〜うっ！！」

「えっ、やっぱりマズかった！？」

本日３度目のシャウトにビビるアキト

「あ、いや、オイシイのよホントに　私の作るカレーとは違うなって」

必死で取り繕うユキナ

「そう、よかった・・・」

対して安堵の笑みを浮かべるアキト

ユキナの方も黙々とそのカレーを食べていた

自らの思考の帰結に少し顔を赤くしながら

夕飯の後しばらくして九十九から電話があり

「重要な会合があるから今日は帰れない」との連絡があった

ちなみに受話器の向こう側から「ゲキガァンフレアーッ！！」と

聞こえていたのは言うまでもない

「・・・また徹ゲキ？」

『なな何を言うんだユキナナナナ・・・』

おもしろいぐらいに動揺する九十九

「わかったわよ・・・朝ごはん用意しとかないからね」

そう言うとユキナはガチャンと電話を切った

その表情は不機嫌そのものだ

「まったく、可愛い妹　１人ぼっちで置き去りにして・・・」

ドスドスと音を立てながら廊下を歩くユキナだったが

「あ、ユキナちゃん　洗い物済ませといたよ」

ふと台所の方を見るとそこには食器を片付けるアキトの姿

「・・・そういや今日からあんたがいたっけか」

思わず笑みがこぼれてしまう

「アキト、部屋に案内するわ・・・客間だけどね」

ユキナはアキトの手を引いて２階へ向かった

アキトも子供じゃないのだから手を引く必要などなかったかもしれないが

それでもユキナはアキトの手を引いて歩く

そして一室の前に立ち止まると

「ほら、ここがアキトの部屋よ」

「あ、ありがとう・・・ユキナちゃん」

「隣があたしの部屋だから何かあったら言ってね」

ここでギンッとアキトを睨み付け

「・・・でも、ノック忘れたら承知しないわよ」

と付け加えた

「わ、わかったよ」

アキトはそれだけ言うと部屋の中に逃げ込み

すぐさまパタンと扉が閉められた

するとユキナは表情を緩め

「おやすみ、アキト」

小さく呟くと自分も部屋に入った

「九十九さんもユキナちゃんもいい人でよかった・・・」

部屋に入ったアキトはすぐに布団を引きずり出すと

そこに倒れこんでしまった

木星トカゲの襲撃 そしてバッタに連れられての木星へのジャンプ

一生分のアクシデントがまとめてやってきたかのような一日だった

だが、木星という見知らぬ地で 九十九やユキナと出会えた事は幸運だったと言えるだろう

「でも、俺　これからどうなるんだろう？」

それは誰にもわからない

兄が誇り高き木連の軍人である事はユキナにとっても誇らしい事だった

だが、地球への侵略が軍の中で騒がれだしてから状況が変わってきた

九十九がエリート部隊『優人部隊』の候補に選ばれたのだ

うれしそうにその事を話してくれた九十九の顔は今でも覚えている

ユキナも我が事のように喜んだ

だが

ユキナに待っていたのは孤独だった

九十九は優人部隊の訓練

そして詳しくは教えてもらえなかったが何か特殊な研究をしているらしく

家で過ごす時間が激減したのだ

しかも、家を空ける時間の３分の１ぐらいが

ゲキガンガーがらみというのが腹が立つ

木連の男達にとってゲキガンガーは言わば道徳の授業の一種なのだ

しかし、ユキナは何も言えなかった

正義の軍人になる事を夢見ていた兄の足枷になる事が

ユキナには耐えられなかったのである

しかし

「もう　１人じゃないんだぁ・・・」

うれしそうに呟くと誰に見られている訳でもないのに

布団に潜りこんだ

やけに冷え込む夜だったが

ユキナには何故か暖かく感じられた

続けるしかないでしょう

あとがき

一応、説明

アキトは火星での戦いにおいて

ＴＶ版とまったく同じ行動をしてます

農業用トラクター（で、いいのかな？）でバッタに突っ込んで

背後でドカンとなってその後ボソンジャンプ

ただ、違うのは

そのジャンプした先が木星だという事です

強引だというのは私自信よくわかってるんで

ツっこまないでください（笑）

でわでわ

管理人の感想

別人２８号さんからの投稿です！！

ほほぉ〜、ユキナできましたか。

しかし、アキト・・・お前のランダムジャンプって・・・

更に危険な立場に自分を追い込んでどうするよ？（笑）

まあ、アキトらしいと言えばらしいですけどね〜

・・・本編ではジュン君の面倒を見ているぶん、こちらではアキトとラブラブになって下さいな♪

それでは、別人２８号さん投稿有難うございました！！