b2809

ここはネルガル、クリムゾンと並ぶ巨大企業

アスカインダストリィの会長が所有する豪邸だ

ここ数日続いている悲痛な叫びが今日もまた繰り返される

「まだ、火星行きのチケットは手に入らないの？」

傍目には深窓の令嬢

しかし、今の彼女の顔には怒りと、そして焦りが張り付いている

「しかし、お嬢様・・・」

「今、火星は木星トカゲの攻撃を受けて一般人が行ける状態ではありません」

お付きのメイド達も口々になだめようとするが

「私も軍人の端くれです！」

そう、このお嬢様、カグヤ・オニキリマルはれっきとした連合軍の士官だったりする

「今、こうしている間にも私のアキト様は、アキト様は・・・！！」

そう言って泣き崩れるカグヤ

「・・・・・・・・・」

こうなってしまったらメイド達もかける言葉が見つからない

何故なら彼女たちはオニキリマル家に仕えて以来

テンカワ　アキトという幼なじみに一途に想いを寄せていた

カグヤをずっと見続けてきたのだから

今の彼女の気持ちも少しはわかるというものだ

しかし

この程度であっさりとあきらめるようなカグヤではない事も

彼女たちは重々承知している

「決めましたわ」

さっきまで泣いていたかと思えば

今度はスクッと立ち上がる

「私自ら一軍を組織して火星に向かいます！」

「は？」

「お嬢様ッ！？」

カグヤはメイド達に止める間も与えず行動に移そうとしたが

「行かせませんよ、お嬢様」

扉の前に立ちふさがるはメイド長を勤めるヨツハ

先程、カグヤが立ち上がった時にはすでに扉の前に移動していた

カグヤが火星に住んでいた頃からオニキリマルに仕えてきたのは伊達ではないらしい

「ヨツハ、そこをどきなさい！　カグヤは愛に生きますッ！！」

毅然とした態度で臨むが、この程度ではヨツハが退かない事は

付き合いの長いカグヤが一番わかっている

「何を仰いますか、お嬢様を死地に向かわせる訳にはまいりません！」

「その死地にアキト様がおられるなら、カグヤは行かねばならぬのです！」

ハラハラと他のメイド達の見守る中

事態は膠着状態となり長期戦にもちこむかと思われたその時

コンコン

扉が外側からノックされた

「お嬢様、ミヤオカでございます」

「ミヤオカ？　入りなさい」

カグヤもヨツハも扉から離れる

「失礼致します」

一礼とともに部屋に入ってきた老紳士

ヨツハと同じくカグヤが火星に住んでいた頃からオニキリマル家に仕える執事だ

今のオニキリマル家においてアキトを直接知る数少ない１人でもある

「何の用ですかミヤオカ、私は忙しいのです」

火星に行くために忙しいとは流石に言えない

「ハッ、アキト殿の事なのですが・・・」

瞬間、カグヤの目の色が変わる

「アキト様！？　アキト様の事が何かわかったの！？」

ミヤタの襟首を掴み問いつめる

「それが、アキト殿なのですが・・・」

「だから、どうしたのか早く言いなさい　ミヤオカッ！！」

その場にいた皆はミヤオカの次の言葉に耳を疑った

「庭に落ちておりました」

「・・・・・・・・・・・・は？」

カグヤがこの一言を問い返すのに数秒を要した

機動戦艦ナデシコ　ｉｆ

case３．カグヤ・オニキリマル

前編

「ミヤオカ、本当にアキト様なのですか？」

カグヤは急ぎ足で廊下を歩きながら少し後ろを歩くミヤオカに問いかける

「間違いありません」

ミヤオカはそう言って１つのファイルをカグヤに渡す

そこにはどこか当時の面影を残したアキトの写真と

そのアキトの個人データが書かれた書類があった

「念のためにＤＮＡも調べましたが、間違いなくアキト殿です」

資料を読むまでもない、カグヤにはその写真の人物がアキトだとはっきりとわかった

カグヤは急ぎながらもお嬢様らしく上品に歩く

「それで、アキト様は？」

「いまだに意識が戻りません」

「そんな！？」

突然スピードアップするカグヤ

ミヤオカも走ってカグヤの後を追う

それでも、カグヤは上品に歩き続けている

何故、あれだけのスピードは出るかは永遠の謎だ

スピードを落とさず、息切れもせず

カグヤは客間の一室にたどり着くとノックもせずに扉を開ける

「アキト様・・・！！」

アキトは屋敷の客間に寝かされていた

一目見て重傷だとわかる

「ミヤオカ、アキト様の身に一体何が・・・」

「憶測の域を出ませんが、火星から脱出する際に傷を負ったのかと・・・」

「火星の連合軍は何をしていたのです！」

「軍はとうに火星を放棄しておりました」

「クッ・・・」

「それにしても、どうやってアキト殿がここへ来たか解せませぬな」

もちろん、アキトは火星からボソンジャンプで地球へときたのだが

カグヤ達がそれを知るわけがないし、知る術もない

ミヤオカの疑問はとても重要な事だが

「・・・そんな事、どうでもいいわ」

しかし、カグヤはいまだ目を覚まさぬアキトの手を取り

「アキト様がこうして無事でいてくれた、カグヤはそれだけで充分です」

カグヤは安堵の表情を浮かべる

しかし、もう夜も遅い

「お嬢様・・・今日のところはもうお休みください」

カグヤの体調の事も考えて、ミヤオカは休むように促すが

「いえ、カグヤはアキト様のそばにいます」

カグヤはアキトそばを離れようとはしない

「鎮痛剤を打っておりますゆえ、明日まで目を覚ましませんぞ」

「それでも　かまいません・・・・・・お願い」

こんな時のカグヤはテコでも動かない

先に折れたのはミヤオカだった

「・・・わかりました、無理をなさいませぬように」

そう言って部屋を出ていく

部屋の外にはヨツハをはじめとするメイド達

それだけでなく警備兵の姿もある

どうやら、カグヤの事が心配で様子を伺いにきたようだ

「ぼうやの容態はどうなんだい？」

部屋から出てきたミヤオカに問いかけるヨツハ

彼女もアキトを直接知る１人だ

「無事とは言い難いが、命に別状はなかろう」

「そうかい、そりゃよかった・・・」

メイド達からも安堵のため息が漏れる

「で、お嬢様は寝ずの看病でもするつもりなのかい？」

やはり、長年カグヤを見てきたのは伊達ではないらしい

ヨツハはカグヤの行動をズバリ言い当てた

「そのようだ、ヨツハ　お嬢様を頼む」

「わかった、あんたは警備兵の方へ連絡しないと」

「・・・そうだな、おい！」

ミヤオカは近くの警備兵を呼び寄せ

「皆に通達せよ、お嬢様の脱走に対する警戒態勢を解除するとな」

「ハッ！」

打てば響くような返事を残し警備兵は走り去る

彼らにしてみても肩の荷が降りた気分なのだろう

「さて、これからが大変だな」

「まったくだね」

古株２人は顔を見合わせてため息をついた

月がやけに綺麗な夜だった

あくる日の朝

カグヤはベッドにもたれかかるように眠っていたところを

メイドの１人に起こされた

「うぅ～ん」

「お嬢様、起きてください」

「・・・はっ　アキト様！？」

寝ぼけている

「アキト様はまだお目覚めになっておりません」

「・・・朝？　あのまま眠っちゃってたのね」

自分に毛布がかけられていた事に気付く

きっとヨツハがかけてくれたのだろう

「お嬢様、一旦お部屋に戻りお召し物をお換えになってください」

「構いません、私はアキト様が目覚めるまでお傍を離れませぬ」

カグヤはアキトが目覚めるまでこの部屋を離れるつもりはないようだ

「それでは、私がチーフに叱られてしまいます」

チーフとはもちろんヨツハの事だ

「・・・・・・・・・」

「お嬢様、それではアキト様がお目覚めになられる前にここで着替えを済ませては？」

それでも部屋を動こうとしないカグヤにもう１人のメイドが妥協案を出す

「・・・・・・わかりました」

この部屋から動こうとしないのは所詮はカグヤのワガママだ

それに、巻き込んでメイド達に迷惑をかけるわけにもいかない

カグヤはメイドの提案に妥協する事にした

「手早くお願いします」

「はい、それはモチロン」

メイド達はいそいそと動き始める

「あ、そんなドレスはいりませんわ」

「しかし・・・」

「アキト様に会うのですから綺麗に着飾りたいのはやまやまですけど」

それが女心というものだろう

「しばらくはアキト様の看病に専念する事になりそうですし

清潔感のある服を用意してちょうだい」

「かしこまりました」

アキトはまだ目を覚ましそうにない

しかし

「（アキト様、殿方の前で着替える　はしたないカグヤを許してください）」

心の中でアキトに詫びるカグヤ

当然、アキトには聞こえるはずもない声だ

「（それでも、カグヤはアキト様のお傍を離れたくないのです・・・）」

そのカグヤの純粋な想いが通じたかどうかはわからないが

「うぅ・・・こ、ここは？」

アキトは無事　目を覚ました

「え？」

カグヤが着替えている真っ最中に

「・・・・・・・・・」

その時、アキトの目に映ったのは

肌色

白

他は意識の外らしい

そして、それが「何か」と判断できた瞬間

ぱた

再び倒れた

「アキト様！？」

「あっ　お嬢様、先に着替えをっ！！」

カグヤは自分が下着姿であることも意に介せずアキトに駆け寄る

「アキト様！　アキト様！　しっかりしてくださいッ！！」

そのままアキトを抱き起こし揺するが

「うぅ・・・・・・・・・！！　ハゥ」

今度はドアップで見てしまったアキトは完全に気を失ってしまった

「カグヤをおいて逝かないでください！　アキト様ぁーーーーッ！！」

カグヤはアキトの顔を胸に抱きしめ悲痛な叫びをあげるが

元々、命に別状はないと診断されているアキトだ

このまま出血多量にでもならない限り、死にはしないだろう

「お前達、何をしているのですか、はやくお医者様をお呼びしなさいッ！！」

「お呼びしますから、その前に前を隠してくださいお嬢様！」

言うまでもないがカグヤは下着姿のままだ

「・・・！！　や、やだ、私ったら」

ここにきてカグヤはようやく自分の状態に気付いたようだ

次に目を覚ました時、アキトの視界に一番に入ってきたのは

自分の事を今にも泣きそうな瞳で見つめるカグヤの顔だった

「・・・・・・カグヤ・・・ちゃん？」

アキトはおぼろげな記憶からその名を導き出す

「アキト様・・・！」

ついに涙腺が決壊し、堪えていた涙がこぼれ落ちる

そのままアキトの胸に飛び込みたかったが

今のアキトはケガ人なのであきらめる事にした

「カグヤちゃん、どうして火星にいるんだ？」

「？」

アキトは今の自分のおかれている状況を理解していないようだ

「アキト様、ここは地球の私の家ですわ」

「・・・チキュウ・・・？・・・地球！？」

アキトは驚きのあまりに勢いよく起き上がるが

「イタタ・・・」

そのまま胸を押さえて再び倒れてしまう

「アキト様！」

「君、無理をしてはいかん」

カグヤの後ろに控えていた医者もベッド脇まで来る

オニキリマル家お抱えの医者らしい

「・・・どうやら、記憶が混乱しているようですね」

「混乱・・・うぅ、そういえば気を失う前に何かスゴいモノを見たような・・・」

「そ、それは忘れてくださいアキト様・・・」

カグヤは顔を真っ赤にして俯いてしまう

「・・・まぁ、混乱はじきに収まるだろう、それよりはケガの方だ」

そう言うと医者は鞄からいくつかの薬を取り出しベッド脇の棚に並べはじめる

「鎮痛剤と化膿止め、あと昨日のうちに治療用ナノマシンを打ち込んであるからそれの安定剤も

毎食後に飲むんだよ、睡眠薬も入ってるから　そのまま眠ってケガを治す事に専念しなさい」

薬を並べ終えると医者はカグヤの方に向き直り

「お嬢様、看病もいいですが　くれぐれも自分のお体をこわすような事のないように」

「ええ、わかってますわ」

「では、私はこれで・・・」

恭しく一礼をして医者は部屋を去った

それと同時に

「失礼いたします」

入れかわるようにミヤオカが部屋に入ってくる

「ミヤオカ、何か用かしら？」

「ひとつ確認をとりにまいりました」

「確認？」

「お嬢様は、アキト殿のケガが完治するまで看病をするおつもりですかな？」

「もちろんです、カグヤはアキト様のお傍を離れません」

カグヤは即答する

「わかりました、でわ」

ミヤオカがパチンと指を鳴らすと同時に１０人程の男達が部屋に雪崩れ込み

ベッドの隣で何かを組み立てはじめる

「あ、あの～　何してるんですか？」

おそるおそる不安そうに聞くアキト

「カグヤお嬢様はアキト殿が完治するまでつきっきりで看病にあたるとの事」

「当然ですわ」

カグヤがエヘンと胸をはる

「故にお嬢様用にベッドを用意するのは至極当然でございます」

「は、はぁ・・・」

その後、メイド達の手により部屋を仕切るカーテンも用意され

アキト看病のための万全の態勢が整えられた

部屋に運び込まれた物の中にカグヤ用の白衣があった事は余談だ

「ところで、ミヤオカさん」

「ん、何ですかな？　ヨツハ殿」

「旦那様には報告したのかい？」

「・・・・・・・・・あ」

これが一番の問題だったりする

続けるしかないでしょう

あとがき

実は最近になって遊撃機動戦艦ナデシコのＣＤドラマを手に入れました

カグヤ出番少ないけど　あのぶっとび具合がイカします

ｉｆシリーズはｃａｓｅ１．で異常に高い評価を受けちゃったんで

実は書くのにプレッシャーがあるんですが

少なくとも当初の予定通りｃａｓｅ５．までは続けます

４と５のヒロインが誰になるかはまだヒミツ

・・・そろそろヒロイン選定の基準に気付いてる人もいるかもしれませんが・・・

でわでわ　後編でお会いしましょう

管理人の感想

別人２８号さんからの投稿です！！

実はこの作品と槍さんのメールで本編のカグヤ嬢の登場が決まりました（爆）

いや～、面白いキャラですよね、カグヤって（苦笑）

マンガでしか登場していないというのに、これだけ人気があるんですからね。

しかし、アキト・・・やっぱりランダムジャンプはお前には鬼門だよ（核爆）