「皆の者! 今日という今日は
我々の正義を示すのだぁーッ!!」
「「「「「おおーーーッ!!!!」」」」」
格納庫も某組織の幹部の声が響き渡る
一方、食堂の方でも
「みなさ〜ん、今日こそ
アキトに仇成すみなさんを一掃しちゃいましょ〜!」
「「「「「おおーーーッ!!!!」」」」」
そして、決戦の火蓋は切って落とされた
その頃、平和なブリッジでは
「平和ですな〜」
「いや、まったくです」
シュンとプロスペクターが向かい合って将棋を打っている
ナオはその横で観戦
カズシとゴートもそれぞれの仕事を進めていた
と言うかブリッジに将棋盤を持ち込んじゃいけない
「みんな〜、コーヒー入れるけどいる?」
ブリッジに残っていた紅一点、ミナトが席から立ち上がって皆に聞く
「おお、いいですな」
「俺も頼みます」
「俺も」
次々に答える
「ハイハイ、ちょっと待ってね」
ミナトは脇にあったポットを手元によせ人数分のコーヒーを入れる
とうとうポットまでブリッジに持ち込んだようだ
ゴゥン・・・
その時、ブリッジが遠くの爆音とともに揺れた
そして、その揺れに真っ先に気付いたのはナオだった
「お、今のは大きいな」
「最近、多いですね」
カズシが手元の書類を揃えながら応える
「いったい今日はどうしたんでしょうねぇ・・・ナオさん知ってます?」
「『いつもの事』ですよ」
「そうですか・・・」
プロスもそれだけで納得してしまった
「当のテンカワはどうした?」
ゴートはオモイカネに聞いてみたが
『艦内に反応ナシ』とかえってくるばかり
かわりに答えたのはトレイに人数分のコーヒーを乗せたミナト
「アキト君なら 舞歌さんから呼び出されてシャクヤクに行ったわよ」
「・・・なるほど、会長あたりが行くように勧めたのですね?」
「あったり〜♪」
それが現在艦内で行われている『戦争』の直接の原因だろう
しかし、プロスは慌てない
「ま、しばらくほっときゃ 皆さんも飽きるでしょう」
「そうだな」
「いつもの事だし」
なんと、某同盟と某組織の戦いは
ナデシコにおいて『日常』となってしまったのだ
人は言う
ナデシコは科学では説明できない事が起きる場所だと
しかし忘れてはならない
この宇宙には
『もうひとつのナデシコ』と言える
一隻の艦が存在する事を・・・
シャクヤクでもあったこんな話
「舞歌さん 急に呼び出して何の用だろう?」
きっとロクな理由ではあるまい
アキトはすでにシャクヤクが肉眼で確認できる距離まで来ていた
ブローディアのスピードを以ってすれば容易い事だ
「こちらナデシコのテンカワアキト、着艦許可願います!」
シャクヤクに通信を入れる
しかし、返ってきたのは通信士の声でもオペレーターの声でもなく
『あーくん! しおりに会いにきてくれたんだね〜♪』
「し、枝織ちゃん?」
『枝織様、ちょ ちょっとどいてください』
『やー、あーくんとおはなしするのぉ』
『格納庫に行けばすぐにでもテンカワ殿に会えますよ』
『ホント? じゃ 行ってくる!』
『フゥ、やれやれ・・・』
『コホン、失礼しました そのまま着艦してください』
「は、はぁ・・・」
アキトは思った シャクヤクの人達も大変だなぁと・・・その考えは概ね正しい
しかし、これで終ると思ったら甘い
シャクヤクに着艦したアキトを待ち構えていたのは
「おかえりなさ〜い あ・な・た♪ ごはんにする? お風呂が先? それとも・・・あ・た・し?」
ふりふりエプロンに身を包んだ舞歌だった
「あ、えっと・・・」
あっけにとられたアキトが舞歌の後ろに控えていた千紗に助けを求めるが
「・・・・・・(ふるふる)」
千紗はすべてを諦めたかのように首を横にふるだけだった
「はぁ・・・とりあえず用事の方を先に済ませていただけますか?」
「クッ 第4の選択肢を持ち出してくるとは、やるわね」
アキトの勝ち
格納庫にいた整備班から拍手が巻き起こる
千紗にいたっては羨望の眼差しをアキトに向けていた
「・・・あなた達、おぼえてなさい」
当然ながら皆、寸分違わぬタイミングで揃って視線を逸らした
「まぁ、いいわ・・・とりあえずブリッジの方に行きましょうか」
急に真顔になる舞歌だが、ふりふりエプロンを着たままなので違和感がある
その時
「あーく〜〜〜ん!!」
すれ違うクルー達を撥ねながら枝織が格納庫に駆け込んできた
しかも零夜を引きずりながら
「枝織ちゃん・・・艦内構造ぐらい覚えようよ・・・」
道案内のようだ
「あら、枝織ちゃん ブリッジで待ってたらよかったのに」
「だって、はやくあーくんに会いたかったんだもん」
枝織はシュンとなりながらも言い訳する
「・・・・・・・・・」
舞歌は無言だったが、やおら枝織をがばっと抱きしめ
「あーもぅ! カワイイわねぇ・・・北ちゃんもこれぐらい素直ならいいのに♪」
どうやら枝織のその仕草が舞歌のツボだったらしい、頬擦りまでしている
アキトがその光景に呆れていると
今まで静観していた千紗がアキトに言った
「いつもの事です、気にしないでください」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、こちらに戻ってくるまで時間がかかりますから 私がブリッジへご案内します」
そのままアキトを連れて格納庫から逃げ出そうとするが
「待ちなさい! 抜け駆けしてアキト君とランデブーなんてさせないわよ!」
「あーっ! 千紗ちゃん ズルい!!」
舞歌と枝織に阻止された
「だっ 誰がランデブーするですかッ!?」
「フッ・・・証拠があるのに白々しいわね」
舞歌の手には前回(ナデシコ大戦2参照)のボイスレコーダー
「それは舞歌様の陰謀ですッ!!」
大当たり
今度は三つ巴の言い争いになる
ちなみに周りの整備員達は
何事もなかったように自分達の仕事をしている
彼等の態度は如実に物語っていた
「いつもの事だ」と
ちなみに零夜はダウン中
アキトはおろおろとするばかりだったが
救いの手は意外な所から差し伸べられた
『舞歌様! 格納庫にボソン反応が 何者かがボソンアウトしてきますッ!!』
ブリッジに控えていた飛厘からの通信が入る
「!?」
真っ先に反応したのはアキト
「何ですって?」
次に真顔に戻って指揮官の顔になる舞歌
いつもの事ながら この人はどこまでが本気なのかわからない
送れる事 十数秒
枝織と千紗も争いを止めアキトの視線の先を辿る
そこには独特の空間の揺らぎ
アキトは咄嗟に舞歌達の前に立ちボソンアウトしてくるモノに備える
しかし
「・・・女の子?」
そう、ボソンアウトしてきたのは
年の頃は10才前後の少女だったのだ
テクテクとアキトの横を素通りして少女は歩みを進め
枝織の前に立ち ビシっ!と可愛らしい仕草で枝織を指差し
「あなたは狙われています」
と言い放った
「・・・ほう、おもしろい」
こうなると黙っていないのが北斗
すぐさま枝織と代わり不敵な笑みを浮かべる
「その子、どこかで見たような顔ね」
これは復活した零夜のセリフ
流れるような黒髪
いつも見慣れているようなタレ気味の瞳
そう、その少女はそっくりなのだ幼いという部分をのぞけば
彼女達の上官である1人の女性にだ
「あの、舞歌さん知り合いですか?」
アキトが舞歌に問い掛ける
その言葉に振り返った少女は予想通りだが衝撃的な言葉を放った
「パパ! ママ!」
「「「「なんだってぇ〜〜〜ッ!!」」」」
「舞歌様! おめでとうございます!」
真っ先に祝辞を述べる零夜
彼女にとって一番めでたいのはアキトが北斗以外と結ばれた事だろう
「まっままま 舞歌サマっ!?」
あせりまくる千紗
「そんな事はどうでもいい! それより狙われているとはどういう事だッ!!」
怒りをあらわに詰め寄るのは北斗
本人にも何故だかわからないが不機嫌だった
「そうだ、北斗が狙われているって一体誰に・・・・」
そして北斗の言葉に反応したアキト
地球では知られていない北斗を狙うとしたら木連
そして木連で北斗の命を狙える実力者といえば・・・
アキトはひとつの考えたくない結論に至った
もしかして、未来において北斗はすでに亡く
この子はその歴史を変えるためにここに来たとしたら・・・
「それは・・・」
北斗とアキトの疑問に少女が答えようとした時
『舞歌様、大変です! ナデシコが所属不明の機動兵器の攻撃を受けています!!』
「なんだって!?」
再び、飛厘からの通信が入り、その内容にアキトが真っ先に反応する
「すいません、舞歌さん 俺行きます」
「ええ、行ってあげてください」
アキトがブローディアに乗り込もうとした時
少女がポツリと一言
「まずいわね、昂氣をのせた一撃ならナデシコでも沈むわ」
「「「「「はぁ?」」」」」
全員が驚きの声とともに振り向いた
「まさか、俺を狙ってきたヤツが昂氣の使い手とはな・・・」
「北斗、忘れるなよ。俺達の目的は例の機動兵器を取り押さえる事なんだから」
「わかっている」
急ぎナデシコへ向かうブローディアとダリアがナデシコに到着し見たのは
ナデシコのエステバリス隊の攻撃を受けている見慣れた機動兵器だった
「赤いな」
「ああ」
「2台造ってたって話は聞いてないけどなぁ」
「木連でも量産の予定はないぞ」
「防戦一方みたいだな」
「パイロットの腕が悪いんだろう」
と言うか
「「なんでダリアがそこにいるんだあぁぁッ!!」」
アキトと北斗は仲良くシャウトした
その後、ダリア(偽?)は抵抗する事なく
アキトと北斗に回収されアキト達を後を追ってきたシャクヤクに収容される
舞歌似の少女が中のパイロットをブリッジまで連れてきて欲しいと言うのだ
シャクヤクに戻りダリア(偽?)のコクピットハッチを開きアキト達は再び驚いた
「機体がダリアに似ていると思ったら・・・・」
「乗ってるパイロットまで北斗にそっくりだ・・・」
そのコクピットに乗っていたのは2人
北斗そっくりの少女、そして
「こいつは・・・零夜にそっくりだな」
もう1人の少女も例に漏れず零夜そっくりの顔をしていた
ただし、2人とも舞歌似の少女よりさらに若い
ラピスと同年代といったところだろうか?
「とりあえずブリッジへ連れて行こう、事情はあの子が説明してくれるだろうし」
「・・・そうだな」
アキトが北斗似の少女を北斗が零夜似の少女をそれぞれ背負うと
2人はブリッジへと急いだ
『アキト〜 大丈夫だった〜?』
ブリッジへとたどり着くとそこには事情の説明を求めるナデシコからの通信ウィンドウ
ユリカがドアップで映っている
そのユリカの背後を見るとナデシコの主要メンバーの面々
どうやら、皆ブリッジに集合しているらしい
その時千紗は確かに見た
ウィンドウに背を向けるように立っていた舞歌似の少女がニヤリと笑ったのを
そしてナデシコブリッジへとグラビティブラスト級の衝撃を与える
「ちゃんと2人を連れてきてくれたんだね、さっすがパパ♪」
『『『『『ええええええええぇッ!!』』』』』
ナデシコブリッジはとてもお約束な反応をしてくれた
そして千紗は確信する
この少女は確かに舞歌の娘だと
なにせ、少女の表情が悪巧みする時の舞歌の表情と同じなのだから
『アキト、どういう事!?』
『アキトさん、説明してくださいッ!!』
『テンカワ、てめぇーッ!!』
『『『『やっぱり貴様は敵だぁーッ!!』』』』
次々と開く通信ウィンドウ
それを見て満足そうに肯く少女
『アキトさん、その子は何者なんですか?』
わりと冷静なルリが問う
しかし、目が笑っていない
少女はウィンドウの方に振り向くとちょこんと頭を下げ
「一応はじめまして アキトパパと舞歌ママの娘、テンカワ マイヤです♪」
「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」
時間が止まった
そして時が動き出せば
またナデシコからの怒涛の通信が来るはずだったが
「そんな事はどうでもいいッ!」
それは北斗の怒声に打ち消された
「零夜、こいつを預かっていてくれ」
「え、うん・・・この子、私にそっくり!?」
背負ってきた少女を零夜に預けマイヤに歩み寄る北斗
「俺を狙ってきたというこの2人は何だと言うんだッ!!」
「え〜とね、その子達は・・・」
「私と北ちゃんの愛の結晶♪」
それはありえない
マイヤが説明しようとするが零夜はトリップしていた
「あ、紹介しなくても自分の娘ってわかるんだ」
「もちろんよ!」
零夜は得意気に答える
その声に零夜の腕の中の少女は目を覚ました
そして零夜とその隣に立つ人物に交互に目をやり
「お母さん! お父さん!」
「うんうん、私がママで北ちゃんが・・・って え゙」
その少女の目線を追ってみると・・・
「俺!?」
そこには 零夜の宿敵(笑)テンカワ アキトの姿
「ほら、ちゃんと自己紹介しなさい」
「あ、お姉ちゃん はーい」
少女はフリーズしたままの零夜の腕から抜け出し
「えっと、皆さんはじめまして アキトお父さんと零夜お母さんの娘 テンカワ サクヤです」
『『『『『ええええええええぇッ!!』』』』』
『という事は もしかしてアキトさんの背負っているコは・・・』
またもや冷静にツっこむルリ
しかし、その瞳は怒りに燃えている
「あらら、気を失ってるの? だからダリアに乗るのはまだ早いって言ったのに・・・」
マイヤが呆れたようにアキトに正確にはアキトの背負う少女に歩み寄る
「やっぱりあれはダリアだったのか・・・」
『え、あのダリアには そのコが乗ってたんですか?』
マイヤはアキトに少女を降ろさせるとその耳元で
「早く起きないと・・・ケーキあんたの分も食べちゃうわよ♪」
「私のケーキ!?」
起きた
「え、あれ? ケーキは?」
「ほら、寝ぼけてないでみんなに挨拶しなさい」
「挨拶?・・・あ!」
曰く『二度ある事は三度ある』
少女はアキトの姿に気付くと
「父様〜!」
ひしっと抱き着いた
『『『『『・・・・・・・・・』』』』』
もはや驚きの声をあげる元気もないナデシコの面々
「貴様、何をしているッ!!」
北斗がその拳に怒り(+嫉妬)を乗せ殴り掛かろうとするが
「あ、母様ぁ〜!」
「ぐふぅッ!」
少女は逆に見事なタイミングでカウンターの頭突きを決めた
「こら、ホクナ! ちゃんと挨拶なさい!」
「はい 姉様!」
マイヤの言葉にホクナは思わず姿勢を正す
そしてブリッジの皆に向かって丁寧に一礼すると
「はじめまして、アキト父様と北斗母様の娘、テンカワ ホクナです」
「け、結構 礼儀正しいんだな・・・」
これは普段の北斗を知る万葉の台詞
「問題は、ホクナちゃんがどうして北斗を狙っているかだが、説明してくれるね?」
アキトが北斗を介抱しながらマイヤに問う
「え〜と、どこから説明すればいいやら・・・」
マイヤが困ったように頭をかく
「問題はアキトパパと北斗ママが修行してくるとか言って2人でいなくなったところからはじまるの」
「ふむ、子持ちになっても日々の修練を忘れない、いい事じゃないか」
ようやく頭突きのダメージから回復した北斗が満足そうに肯く
「それだけなら、いつもの事なんだけど・・・」
そこでマイヤの視線はアキトから北斗にうつり
「いつもなら1ヶ月近く帰ってこない2人がたった3日で帰ってきたの」
「何かトラブルがあって修行が続けられなくなったのね」
「ええ・・・まるで研ぎ澄まされた刃のようだった北斗ママは変わり果てた姿で帰ってきたわ・・・」
「・・・・・・・・・」
シャクヤク、そしてナデシコのブリッジを静寂が支配する
「・・・幸せそうにパパと腕を組んでマタニティドレスを着て帰ってきたのよッ!!」
「・・・???」
「つわりのせいで修行を続けられなくなったんだって」
「あらら・・・」
「そりゃ、また・・・」
「おめだたい話なんじゃないの?」
「女の幸せね〜」
「それが、この子が過去に来た理由とどう関係しているんだ?」
「・・・・・・・・・」
優華部隊の面々がそれぞれにリアクションをかえす
無言なのはいまだに復活してない零夜と、意味の理解できてない北斗
「私も母親が同じ妹がいるからわかるんだけどさ やっぱり寂しかったんじゃないかな?」
「寂しかった?」
「北斗ママが出産近くて てんやわんやだからホクナがひとりぼっちになっちゃうのよ」
理由はわかった、しかし納得のいかない千紗とアキト
「しかし、これでは甘えられてると言った方が正確だろう」
「どうして北斗が狙われているなんて・・・」
「そう言った方がリアクションがおもしろいからよ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
実に舞歌の娘らしい答だった
こう答えられては千紗もアキトも黙り込むしかない
「まぁ、ホクナは昂氣が使える上に制御しきれてないから
北斗ママの身に危険がまったくなかったってわけでもないんだけど」
それは先程の頭突きが証明している
今までマイヤ達のやり取りを静観していた舞歌が動いた
「それで、あなた達はいつまでここにいられるの?
せっかく来たんだからゆっくりしていってくれたら、うれしいんだけど」
しかし舞歌のその表情は母親としてのそれではなく、新しいオモチャを見つけた時のそれだ
「う〜ん、私もゆっくりしていきたいんだけど 早く帰らないと」
「どうして?」
「ほら、ナデシコのママ達を見てよ」
「あら」
大きく表示されてるウィンドウには嫉妬に燃えるナデシコの面々の顔
「ここで、パパとママ達の仲がケンアクになって妹達がいなくなるのはゴメンだから」
「・・・もう手後れだったりして」
京子がポツリと呟くがシャレになってない
その時、ナデシコの面々が映っていたウィンドウがユリカオンリーのドアップになる
『ちょっと待って、いまマイヤちゃん「妹達」って言った?』
「? 言ったけど それがどうかしたの ユリカママ」
『ママ』という単語にトリップしかけたユリカだったが
なんとか踏みとどまり、とても気になっている事を聞く
『もしかしてなんだけど マイヤちゃんって・・・・・・・・・長女?』
「そうよ、それがどうかしたの?」
あっさり答えるマイヤ、そしてさらに続ける
「ママ いつも言ってたよ 「和平会談が行われた日の晩 パパとママは結ばれた」って」
『へ、へ〜 そうなんだぁ』
言葉では平静だが、ユリカの顔がだんだん険しくなる
言わば、近い未来においてユリカ達は舞歌に敗北すると言われたのである
「マイヤお姉ちゃん、そんな事言っちゃってもいいの?」
サクヤがアキトの影に隠れながらも顔をのぞかせておずおずと問い掛ける
ホクナはいまだに北斗に抱き着いて甘え続けている
「いいのよ、別にどって事・・・」
ドガァッ!!
「ない」と続けようとしたが、それは鈍い金属音にかき消された
アキトは背後から繰り出された一撃をサクヤを小脇に抱え間一髪避けた
「お、お母さん!?」
「あぶないじゃないか!」
「ふっふっふっ・・・私の純潔だけでも許し難いと言うのに私の北ちゃんまで・・・」
言わずと知れた零夜だ
隙のない構えで釘バットを構える零夜
いい塩梅に暴走している
そのバットに書かれた文字は『漢樹』
あきらかに誤字なのだが、それをツっこむ勇気のある猛者はいない
そして、釘の刺さるバットがメタリックな輝きを放っているのは目の錯覚だと信じよう
妙に銀色だが、きっとそういう木材なのだ
・・・誰が釘を打ったのだろう?
「あんたを殺して私も死ぬうぅッ!!」
まさに会心の一撃
怒りにまかせての一撃はアキトの不意を突き
確実に脳天にメリ込むはずだった
・・・しかし!
ガシッと零夜にしがみつくようにその一撃を止めた者が1人
「お母さん、やめてください」
意外な事にそれは先程までアキトの影に隠れていたサクヤだった
その身のこなしはやはり父の血か、それとも釘バット振り回す母の血か
「お母さん、どうしてこんな事を!」
零夜を見上げるサクヤの瞳は涙に濡れていた
「お母さんは私に言ってくれました、お父さんと愛し合い私が産まれてきた事を誇りに思うって!」
零夜は釘バットを上段に構えたまま動けなくなっていた
母性本能に目覚めた?
違う
その愛らしい少女に萌えた?
否
ただ、恐怖した
顔中から汗がだらだらと流れる
「(この子は何を言っているの? そう遠くない未来、私の身に何が起こるというの?)」
得意の妄想がネガティブな方向に集約されていく
「(頭でも打ったのかしら未来の私、それとも改造? 執刀医は飛厘かしら?)」
同僚まで妄想に参加しはじめた
「(ハッ もしかしてヒミツのクスリでも打たれたとか? 舞歌様あたりならやりかねないワッ!)」
とうとう上司まで持ち出す
「(イヤよイヤよイヤよイヤよイヤよイヤよイヤよイヤよイヤイヤイヤイヤイヤイヤ・・・・)」
そして臨界を突破し
「いーーーやぁーーーーーッ!!」
釘バットを振りまわしながらブリッジからエスケープしてしまった
「あっ お母さん!?」
「ほっときなさいサクヤ、この頃の零夜ママはパパとあんまり仲よくなかったらしいし」
慌てて零夜の後を追おうとしたサクヤをマイヤが引き止める
マイヤはサクヤを安心させるためにおもむろに艦内放送のスイッチを入れてから
「安心しなさい、今はああでも いずれ娘相手にのろけて
パパに膝枕してもらって甘える万年新婚ボケ夫婦になるんだから♪」
と のたまった
わざわざフルボリュームにしている所がミソだ
「いーーーやぁーーーーーッ!!」
遠くから零夜の叫び声が聞こえる
先程の放送が聞こえていたらしい
「姉様、いぢめっこ・・・」
ホクナが北斗にしがみついたままポツリともらす
「いいじゃない、向こうじゃ からかったところで惚気話聞かされるのがオチなんだから」
「お母さん、何て両極端な・・・」
サクヤがその場に力無く崩れながらも呆れたように呟く
「さて、零夜ママいぢめは充分に堪能したし・・・ホクナも充分に甘えた?」
「うにゅ〜〜〜〜〜♪ 母様ぁ」
聞いちゃいなかった
北斗の方もどう反応していいかわからず無反応だったがその表情はまんざらでもないようだ
「いつまでも甘えてないで、とっとと帰るわよホクナ パパも心配してるんだから」
マイヤが子猫をつまみ上げるようにホクナを北斗から引き離す
「あ・・・」
北斗が一瞬残念そうな顔をしたのを当然の事ながらマイヤは見逃さない
「北斗ママ〜♪ そんなにホクナが可愛いならすぐにでもパパと子供をつくればいいのよ♪」
さらっと問題発言
さらに舞歌の方に振り返り
「ママもがんばってね〜 私お姉さんの立場を譲りたくはないから♪」
それに対して舞歌は自信たっぷりに
「安心なさい、計画は順調に進行中よ」
と言い放った
どんな計画なのだろう?
「すでに進行中なのね、安心したわ ここ半日の皆の記憶を消してかないといけないから」
「あら、そうなの?」
「だって、ナデシコのママ達 すっごい怖い顔してるんだもん
これでパパとの仲がこじれたら困るのは私達なんだから」
「それはそうだけど記憶を消すなんてできるの?」
「イネスママが作ったマシンを使えば・・・」
この瞬間、ナデシコの全乗組員が額に冷や汗流した
「ほら、サクヤも悲劇のヒロインちっくに崩れてないで」
「は〜い、お母さん大丈夫かしら?」
「母様・・・また、会おうね」
そう言いながら3人はブリッジを出て行った
「「「『『『・・・・・・・・・』』』」」」
後に残された者達は呆然とするしかない
いや、動いた者が1人
北斗だ
「テンカワアキト」
「・・・え、ああ、何だ?」
不意に声をかけられたアキトはどもりながらも返事を返す
「子供をつくるぞ」
「は?」
ホクナに甘えられて母性本能が芽生えたらしい
いつもの事だが彼女の行動は極端だ
「今つくるぞ、すぐつくるぞ、さぁつくるぞ
俺はきちんとしたカタチでホクナに会いたい」
「い、いや北斗 物事には順序というモノが・・・」
「?・・・コウノトリを呼ぶには前準備が必要なのか?」
「「「「「はぁ?」」」」」
北斗の知識は やはりどこか偏っていた
「なかなか愉快な事になってるわねぇ・・・」
ダリアに乗り込んでシャクヤクを飛び出した3人はウィンドウを通してブリッジの様子を見ていた
サクヤが間違えて今の時代のダリアに乗り込みかけたのはここだけの話
見た目はほとんど変わらないが今の時代のダリアでは単独ボソンジャンプができない
「歴史が変わったりしないかしら・・・?」
「大丈夫でしょ、これで記憶を消すんだから」
マイヤが懐から小さな装置を取り出しポチっとスイッチを入れる
何も変化がないように見えるが実は人の耳には感知できない特殊な音波がかなり広範囲に放射される
「それじゃ、オモイカネの方もここ半日のデータ消しといてね」
『了解しました』
すぐさま返事を返すオモイカネ、この辺のアバウトさがいかにもオモイカネだ
「父様、怒ってるかなぁ?」
「それより北斗ママの方を心配しなさい」
「母様、怒ってた?」
「まぁね、あれですっごい心配性だから・・・」
そんなセリフを残しながらダリアはボソンジャンプで去って行った
しかし、そのセリフを聞く者はこの場にいない
何故なら、マイヤの持っていたイネス印のマシンから発せられた音波により
シャクヤク、ナデシコの皆が眠りについていたからだ
例えるならば火星からボソンジャンプしたナデシコのような状態だろうか
そして、いつもの日常に戻ったナデシコ
「う〜〜〜ん」
「おや、どうしました艦長?」
「何か漠然とした不快感のようなモノが・・・」
「あ、艦長もですか? 私もなんですよ」
「お二人揃って・・・自作の料理の味見でもしたんですか?」
「「どういう意味ですか?」」
「あ、いや・・・」
その時、格納庫のレイナから通信が入る
「艦長、今 格納庫でウリ・・・いえ『組織』が決起集会開いてるんだけど どうします?」
ユリカは胸に燻っている正体不明のイライラの手伝いもあってすぐさま決断を下す
「メグミちゃん、『同盟』のみんなに連絡して」
「わかりました」
メグミも同じくイライラしていた事もありすぐさま行動に移す
「腕は一流」なナデシコクルーだが こんな所でその腕を発揮しなくてもいいと思うが
『同盟』のメンバーがブリッジに集合するまでの所用時間はわずか2分
普段の敵の襲撃時よりはるかに速い
「みなさ〜ん、今日こそ
アキトに仇成すみなさんを一掃しちゃいましょ〜!」
「「「「「おおーーーッ!!!!」」」」」
一方、格納庫では
「何かムショーに怒りがわいてくるぜぇッ!!」
「君もかウリバタケ君 実は僕もなんだよ!」
「僕も今ならブーステッドマンにも勝てるゾォォォォッォォッ!!」
「今ならアオイさんみたくダークになれるような気がします!」
「皆の者! 今日という今日は
我々の正義を示すのだぁーッ!!」
「「「「「おおーーーッ!!!!」」」」」
そして、決戦の火蓋は切って落とされた
これがナデシコにおける『日常』だ
確かにマイヤ達は記憶を消していった
しかし、それまでに沸き起こった皆の感情は消せなかったのだ
と、言う事はシャクヤクの方では当然
「舞歌、いるか?」
「あら、北斗じゃない 何か用?」
「うむ、聞きたい事がある」
「また ヘンな夢でも見たの?」
しかし、北斗の口から発せられたのはそんな生易しいモノではなく
「テンカワアキトとの子供が欲しい、どうすればいい?」
ガコンッ!
不意を付かれた舞歌がもたれかかっていた椅子から転がり落ちる
「いーーーやぁーーーーーッ!
何か『テンカワアキトとの子供』って言葉が! 響きが! 語感が!
なんだか いーーーやぁーーーーーッ!!」
零夜がシャウトを残してブリッジからエスケープしていった
トラウマにならなければいいが・・・
北斗達の現在位置はブリッジ
ブリッジクルーの皆も衝撃で固まってしまっている
まさか北斗が「子供が欲しい」などと言い出すとは思わない
しかし、舞歌は慌てず騒がずいつものペースを取り戻し
「それじゃ、まずは『ハナヨメシュギョウ』からはじめないとね」
「ぐっ コウノトリを呼ぶには前準備が必要なのか?」
「ええ、そうよ」
真顔で嘘をつく女、東 舞歌
北斗の偏った知識の一因は彼女にあった
「まずは家事の基本、料理をマスターする事からはじめなさい」
「・・・わかった」
北斗は神妙な面持ちでブリッジを出て行った
それを見届けた舞歌は力が抜けた様に艦長席に座り込む
「計画を早める必要があるかしら・・・?」
そう呟く舞歌の席には1つのウィンドウが開いていて
そこには和平実現からアキトげっとに至るまでの綿密な計画書が表示されていた・・・
歴史は舞歌の望む通りの道を辿るのか?
・・・それは時の流れだけが知っているのかもしれない
おわらせてください
あとがき
アキトの娘inシャクヤクを書いてみました
舞歌にハジけてもらうつもりが
書き終えてみるとマイヤと零夜の方がハジけているような・・・
なかなか思い通りにはすすみませんねSSというのは
オリキャラとしてアキトと舞歌の娘のマイヤ、アキトと北斗の娘ホクナ
そして問題のアキトと零夜の娘サクヤの3人を登場させましたが
いかがなもんでしょう?
名前が安直ってのは言わないでください(笑)
では、オマケをお楽しみください
・・・自分で書いといてなんですが、かなり衝撃的です
お気を付けください
あるパパの一日
コンコン
ここはある男の執務室
「失礼いたします」
一礼とともに女性士官が入ってくる
「頼まれていましたお嬢様とその想い人に関する報告をお持ちしました」
「・・・うむ」
女性士官は手にしたファイルをパラリとめくる
「お嬢様とその想い人・・・テンカワ アキトとの仲は
前回の報告時と比べあまり進展したとは言えません」
「・・・・・・・・・」
「テンカワ アキトの意識調査ですが、こちらも難航しております」
「ぬぅ・・・」
ここで女性士官は視線をファイルから上官へと向け
「ひとつ、質問をしてもよろしいでしょうか?」
「・・・なんだ?」
「お嬢様とテンカワ アキトとの仲・・・お認めになられるのですか? それとも・・・」
「ワシとて人の親、娘がそれだけ好いておるなら認めるつもりだ。それに・・・」
「それに?」
「彼をワシの後継者にとも考えておる」
「後継者・・・ですか?」
「彼ほどの実力があれば不都合はあるまい?」
「それはそうですが・・・」
彼はそれを望むだろうか?
「しかし、あれだ・・・ワシは彼にはじめて会った時何と言うか敵意のような気がしてな」
「そうなんですか?」
「ワシはどこかで彼の恨みでも買っているのだろうか?」
「我々の『仕事』を考えれば、心当たりがなくとも恨みを買うぐらいは・・・」
「宮仕えの辛いところか・・・まぁ、いい 調査は続行せよ
なんとしても婿殿と我が娘の仲を取り持つのだ」
「ハッ!」
女性士官は敬礼をして退室しようとしたが扉の手前で呼び止められる
「ああ、君・・・その、何だ、娘に たまには家に帰ってこいと伝えてくれないか?」
「は?」
「何を考えておるのか知らないが、最近 ロクに連絡すらよこさないのだ」
「嫌われているのでは?」
「まさか!・・・いや、そんなハズはないッ!!」
男は感情もあらわに立ちあがる
「確かに、蝶よ花よと箱入り娘に育てたのは認めよう!
少々、世間知らずに育ってしまった事も認める!
だが、それも可愛い娘に悪い虫が寄りつかぬようにとの親心なのだッ!!」
娘への父の愛を力説しはじめた
女性士官は仕方なく向き直り演説に耳を傾ける
ここで無視すれば後でうるさい
「それもこれも片親しかいないあの子が不憫でだな・・・」
10分経過、そろそろ終る頃だ
「・・・ともかく! いかなる手段を用いてでも2人の仲を進展させるのだッ!!」
「了解しました、おまかせください北辰殿」
「頼んだぞ、舞歌」
舞歌は北辰の執務室を後にした
そして北辰は引き出しの中からおもむろに写真立てを取り出す
そこには亡き妻の写真が飾られている
廊下に出た舞歌が歩く事100m
「そろそろね・・・」
舞歌は指で耳を塞いだ
周囲の者達は何事かと舞歌の方を見るが、その数秒後
「北斗ぉ! パパは寂しいゾおぉッ!!」
北辰の絶叫が響き渡った
「・・・やっぱり」
誰が想像できようか、あの北辰にこんな裏の顔があったなどと
そして舞歌は思った
「木連も長くないわね・・・」
まったくもってその通りだ
追加説明
コンマ3秒でもコウイチロウとその部下の会話だと勘違いしてくれたら成功です(笑)
管理人の感想
別人28号さんからの投稿です!!
いや〜、本編も素晴らしいものでしたが・・・(笑)
おまけが、また凄い(爆笑)
そうか〜、北辰は親馬鹿だったのか(笑)
なんだか凄くこの先の話が気になりますね!!(笑)
それでは、別人28号さん投稿有難うございました!!