アキトが白鳥家に転がりこんで はや数ヶ月

その間 何かあったかというと

何もなかったりする



特に仲が悪い訳ではない


特に仲が良い訳でもない



兄、九十九としては安心だが

これと言って事件もなく時間だけが過ぎていった


当初は珍しがられて からかいの対象となっていたユキナとアキトが2人で夕飯の買い物をする姿も

いまや日常の風景に溶け込んでいた




近所の人達も言っている




「まるで、本当の姉弟のようだ」と・・・






どの辺を見て そう判断したのか教えてもらいたいものである





機動戦艦ナデシコ if

case2.白鳥 ユキナ

後編


買い物袋を下げて帰路を急ぐ2人

仲良く手を繋いでいる、これもいつもの事だ

アキトは照れて嫌がったがユキナに押し切られた

未確認の情報だが、そんな2人を見て「若夫婦」と呼んだ人がいたが

顔を真っ赤にしたユキナに殲滅されたらしい



そんな事もあってアキトは夕飯の買い物はユキナが学校から帰ってくるまでに済ませていたが

今日は家を出ようとした所、たまたま早く帰ってきたユキナに発見、捕獲されてしまった

そして、そのまま2人で買い物を終えた帰り道


「あ、お醤油切らしてたんだわ」

「そうだったっけ?」

「ちゃんと覚えてなさいよね・・・買ってくるから待ってて」

ユキナは自分の持っている買い物袋をアキトに渡すと

今来た道をUターンしていく

その直後


「きゃっ 何するの・・・!」


その声にアキトが驚いて振り返ると

そこには口を押さえられ路地裏に連れ込まれようとしているユキナの姿

「ユキナちゃん!?」

アキトはすぐさま買い物袋を放り出し走り出した



「何なのよ あんた達はッ!」

「おとなしくしろッ!」

「傷つけるなよ、大事な人質だからな」

リーダー格らしき男に命じられた1人が路地を抜けたところに用意している車へと

ユキナを引きずって行こうとするが・・・

「お前達、何やってるんだッ!!」

アキトがその場に駆けつけたのはちょうどその時だった

そして、場の惨状を見、持ち前の熱血に火を付ける

「ユキナちゃんを離せえぇぇぇぇぇッ!」

気合一閃、アキトは拳を固めて殴り掛かるが

「素人がぁッ!!」

あっさり 取り巻きの男のカウンターを決められてしまう

「おらおら!」

「さっきの勢いはどうしたぁ!」

さらに追い討ちをかける取り巻き連中


しかし


「ぐえ!」

アキトを囲んでいた1人が背後からの蹴りを食らい吹き飛ぶ

「木連男児の風上におけぬ輩供がぁッ!!」

「貴様・・・白鳥!」

「お兄ちゃん!」

そこに立っていたのは九十九

九十九もアキトに負けじと熱血し、ズイっと一歩踏み出す

「さぁ、妹を返してもらおうか」

だが、相手も取り合わない

「チッ、逃げるぞ こっちにゃ人質がいるんだ!」

その声を合図に全員転進して駆け出す・・・が

「フッ・・・残念だったな、こっちは行き止まりだ」

「路地裏なんぞでコソコソとしてたのが仇になったみたいだな」

路地裏を抜け出す直前に元一郎と源八郎に遮られる

「くそッ!」

リーダー格の男は懐からナイフを取り出し襲いかかる

対し元一郎は慌てず

「くらえ、正義の鉄拳ッ!」

「ぐはっ!!」

今度はリーダー格の男がカウンターをくらう番だった


こうなると後の展開はスピーディだった

あまり追いつめ過ぎて暴走されても困るので源八郎がわざと道を開けると

我先にとユキナを人質にとっていた男さえユキナを放り出し逃げ出した




「ユキナ 無事かッ!!」

その声にハッと我に返ったユキナは涙を浮かべながら九十九の方へ駆け出す

「ユキナ!」

九十九はそんなユキナを受け止めようと両手をひろげる・・・・・・・・・が

「アキトぉーーーーッ!!」

ユキナはそのまま九十九の横を素通りしてその後ろに倒れているアキトに駆け寄った

「アキト、大丈夫!?」

「ユキナちゃん・・・よかった無事だったんだね」

「私の事はいいの! しっかりしなさいよ もうっ!」

九十九は両手ひろげたポーズで固まったまま

「ゆ・・・ユキナぁ・・・」

どこかの副艦長みたいなセリフを呟いてみた

「まぁなんだ、年頃の女の子ってのはああいうもんさ九十九」

元一郎も引きつった笑いを浮かべながら九十九をなぐさめる

対して源八郎は呆れ顔で

「毎日のように元一郎の家で徹ゲキやって ロクに帰ってないのが原因じゃないか?」

九十九にそうぼやきながら先程拾った買い物袋をアキト達に返す

「あ、ありがとうございます」

「なんのなんの、君もよくやったな立派だったぞ」

「そんな・・・」

「あーーーーーーッ!!」

突然、ユキナが大声をあげる

「どうしたのユキナちゃん!?」

「お醤油 まだ買ってなかった! 早く行かないとお店閉まっちゃうわ!」

こんな時でも家の調味料の在庫を気にする事ができる小さな主婦ユキナ

「ユキナ、それなら俺が買ってこよう」

兄、九十九は名誉挽回とばかりに買い物をかってでるが

「そう、それじゃお願いね」

対しユキナはあっさりそう言い放つとアキトの手を取ってそのまま帰ってしまった

「ゆ・・・ユキナぁ・・・」

副艦長再び

九十九はだくだくと涙を流しながらその場に立ち尽くしていた・・・






「旨い! これぞアクアマリンの料理ッ!!」

皿を掲げながらいかにもゲキガンなセリフをシャウトしているのは元一郎

あの後、醤油を買ってきた九十九と一緒に元一郎、源八郎の2人も訊ねてきたので

助けてもらった礼も兼ねて夕飯をご馳走する事になったのだ

「しっかし、あの連中いったい何だったのかしらね? 人質とか言ってたけど」

その言葉にピシッと動きを止める九十九達3人

「あの・・・どうかしたんですか?」

「え・・・ああ」

言葉を濁す九十九達2人にかわり源八郎が説明をかってでる

「ヤツらがユキナちゃんを拉致しようとしてたのは我々に原因があるのだよ」

「!!」

「どういう事ですか!?」

ユキナは驚きに目を開き

アキトは前のめりに源八郎に詰め寄る

「実は今 新造戦艦が建造されているのだが・・・それの艦長候補でもめていてな」

「もしかして・・・九十九さん?」

「ああ、艦長候補の1人だ」

「それじゃ、私を拉致しようとしたのも?」

「・・・そうだ、九十九から艦長を辞退させるためだろう」

しばしの間の後 源八郎は首を縦に振った

先程まで黙り込んでいた九十九が突如ユキナの方に向き直り土下座する

「すまないユキナ、俺のせいでお前を・・・」

「お兄ちゃん・・・いいよ、私は無事だったんだから」

しかし、ユキナは許した。少し微妙な笑みを浮かべながら・・・


「まぁ、あと3日もしないうちに正式に艦長が決定する」

「そうだな、そしたら何とか事を収められるだろう」

「未遂とは言え、少女を拉致しようとしたのだからな」

「今すぐ どうにかできないんですか?」

「それは無理だ色々と事情があってな・・・」

なんて事はない、あの男には軍の高官を務める親という後ろ盾があるのだ

そんな裏事情までさすがに説明する気はないのか源八郎は言葉を切り

持ってきた荷物の包みを開けて何か機械らしきモノを取り出す

「そこで、アキト君に頼みたい事がある」

「俺に?」

それはやけに仰々しい半身鎧のような物だった

「これは防弾チョッキに歪曲場・・・つまりバリア発生装置を組み込んだものだ」

そう言ってその半身鎧をアキトに着せる

「まだ発生装置そのものも試作段階で急ごしらえのモノだから1回きりしか使えんのだが・・・」

「これでユキナちゃんを守れと?」

「ああ・・・俺達もできるだけこちらに手が出せないようにするが、もしもの時は・・・・・・頼む」

「わかりました、ユキナちゃんは俺が守ってみせます」

「アキト・・・」

「ユキナぁ お兄ちゃんもがんばるぞ〜」

しかし、ユキナは頬を赤らめアキトの方を見るばかりで九十九の声など聞いちゃいなかった






あれからアキトの意気込みに反して特に騒動もなく平穏な日々が続いた

「これを使うような事にならなければいいけど・・・」

自分の部屋で自分の身を包む鎧をコツンと叩きながらアキトはポツリと呟いた

こんな時の悪い予感ほど当たるモノはない

その時、アキトの視界に家の前に止められる車とその車から降りてくる銃を携えた男達が入った

「そ、そこまでやるかぁ!?」

やるのである

彼にしてみればヤケクソなのであろう

ユキナの拉致を失敗した時点で彼の末路は決まっていたのだから

だが、アキト達にしてみれば最悪の事態だ、そのヤケに付き合わされる訳にはいかない

隣の部屋のユキナを連れ逃げ出すためにアキトは急ぎ部屋を出る

すると、部屋を出てすぐに

「ユキナちゃん!」

「アキト、外の連中見た?」

「ああ、しつこい連中だな」

「裏口から逃げましょ、軍本部へ行けばなんとかなると思うわ」

「わかった!!」

そのまま2人連れ添って家を出るが忘れてはいけない

彼等は車で2人は徒歩なのだ

「へっへっへっ 追いついたぜぇ」

この前のリーダー格の男が車に乗って現れる

そしてアキトとユキナの周囲を男達が取り囲んだ

「追い付かれた!?」

「あんた、いいかげんしつこいわよ!」

うるせぇ! 俺はもう終りなんだよ、てめぇらも道連れにしてやるッ!!」

血走った目、正気ではない

男が手に持った機関銃を構えると同時に輪を作る全員も同じように銃を構える

「クッ! このバリアがあれば・・・!!」

アキトは思わずユキナに覆い被さるように庇う

「アキト!?」

「撃てえぇぇぇぇぇッ!!」

男の号令に合わせて一斉に弾丸が放たれる

ひゃぁーはははははっ! 死ねシネしねぇ・・・・え?」

雨のように放たれた弾丸は一発たりともアキト達に届いてない

そしてアキトの胸元から青い光が発せられた

「「!?」」

一瞬その光が目も開けられない程 強くなったかと思えば

次の瞬間、アキトとユキナの姿は掻き消えていた


その男が その場に駆けつけた九十九達に捕らえられたのは数分後

町中での銃撃はさすがに揉み消し様がなかったのか

父親が更迭されたのはさらに3日後の事である

そして、当のアキト、ユキナの2人は

優人部隊の総力を結集した捜索にも関わらず、ついに発見される事はなかった











「う、うぅん・・・」

どれくらい時間が経っただろうか?

ユキナは焦げ臭い匂いを感じ、目を覚ました

「ここは・・・?」

ユキナが意識を取り戻してまず目にしたのは空の青、そして草の緑

どちらもテラ・フォーミングされた木星ではそうお目にかかれない代物だ

「木星にもこんな場所があったのね・・・」

起き上がるユキナ、今度はその手に何か暖かな感触を感じる

そ〜っとそちらに目を向けてみるとそこには同じく倒れるアキトの姿

ユキナはアキトに寄り添うように倒れていたようだ

焦げ臭い匂いの出所は・・・アキトの身につけている例の防弾チョッキ

所々から黒い煙を噴き、今にも爆発しそう

「!?」

それに気付いたユキナは慌ててアキトから防弾チョッキを引き剥がし力任せに投げ捨てる


ドゥム!


防弾チョッキは鈍い音とともに小さな爆発を起こし四散した

もう使い物にもならないだろう

しかし、あれがなければ2人は今無事な姿でここにいなかっただろう

そういう意味では感謝しなければなるまい、たった今放り投げたばかりだが


そしてアキトも目を覚ます

「うぅ・・・・・・ゆ、ユキナ・・・ちゃん?」

「あんた・・・もうちょっと早く目を覚ましなさいよ・・・ぜぇぜぇ」

「え、あ・・・ご、ごめ」

ゴッ

「ん」と続けようとしたところでアキトの言葉は途切れる

アキトの後頭部にトランクが直撃していた

そのままアキトは再び夢の中、ユキナの方に倒れ込む

「すいませ〜ん、大丈夫ですかぁ?」

頭上から聞こえる能天気な声

上の方を見ると大量の荷物を積んだ車と、トランクの持ち主であろう女性

「あら、ひざまくらですか? 仲良いんですね〜」

「違うッ!!」

駆け寄ってきた女性は どこかズレていた



結局、アキトが意識を取り戻す事はなく

そのまま彼女らの車で病院・・・は無理なので軍施設まで送ってもらう事になった

運転手をしている方の男はジュンという名らしい

そして助手席の女性、こちらの名はユリカというらしい

ユキナは後部座席でいまだ意識が戻らないアキトにひざまくらをしていた

そしてアキトの後頭部には大きなタンコブ、これだけで済んだのが不思議なぐらいだ

「すいません、本当なら病院まで送るところなんですが、僕達も急いでいるんで」

「いえ、気にしないでください」

「軍施設に行けば医療設備が整っているから大丈夫ですよ」

「はい・・・」

その時、ユキナはバックミラー越しにこちらを見るユリカの視線に気付いた

「あの・・・何か?」

「いえ、その人・・・どこかで会った事ないかな〜って」

その人とは当然アキトの事

「気のせいじゃないですか?」

「そうなのかなぁ・・・」

この時、ユキナはまだここが木星のどこかだと思っていたのだ

自慢じゃないがアキトが木星に来て家に転がり込んでからの行動はほとんど把握している

自分の知らぬ間に他の女性と知り合っているなんて事はないはずなのだ

・・・木星においては



「それにしても、ボンネットが急に開くなんて・・・」

「だから言ったじゃないか、荷物をもう少し減らした方がいいって」

「あうぅ・・・」

前の席で話す2人、どこかの制服らしき服装をしているがユキナには見覚えがない

「(ここ・・・どこなんだろう?)」

はじめてユキナはここはどこなのか?と考える

ちょっと遅い




その後は例のトランクをユリカが前座席で抱えていたおかげか

荷物も落ちる事なく無事ユリカ達の目的地にたどり着く事ができた

カーブでアキトが窓に突っ込みその衝撃で目を覚ましたのは些細な事

さぞかし最悪の目覚めだっただろう

それよりも・・・

「ちょっと攻撃されてるじゃない!」

ジュン達の目的地であるドックは木星トカゲの攻撃を受けていた

「ジュン君、急いで!」

「ああ」

ユリカの言葉にジュンはさらにアクセルを踏み込む

「(あれはバッタ、なんで軍施設を攻撃してるのよ? ま、まさか ここって・・・)」

ようやくユキナはここが地球である可能性に思い至った

「(考えてみればアキトは地球から木星に跳んで来たんだったわ

・・・って事は逆もありえる! やっぱりここは地球なんだわ!!)」

そして確信に至る

「君達、すまないが このままナデシコに向かう!」

「ナデシコ?」

「ネルガルの新造戦艦の名前よ、ユリカはその艦の艦長さんなんだぞ エッヘン♪」

「そ、そう・・・この際、安全ならどこでもいいわ」




何度か爆風に煽られながらも なんとかナデシコに乗り込む4人

そこには眼鏡をかけた細身の男が待ち構えていた

「艦長、出港当日に遅刻とはどういう事ですか」

「あぅ・・・ごめんなさぁい」

「プロスさん、今はそれどころじゃないですよ!」

「おっと、そうでしたな・・・ところで後ろのお2人は?」

後ろのお2人とは当然ユキナとアキトの事

「ここへ来る途中にちょっと・・・」

「そうですか、今は非常時です 部外者ですが特例として乗船を許可いたしましょう」

「すいません」

「では、艦長達はブリッジへ 彼等は私が預かりましょう」

「お願いします」

「また後でね〜♪」

こうしてアキト達はプロスに引き渡され

ジュンとユリカは最後まで軽いノリで走っていった



「とりあえず、お名前を伺わせていただきましょうか」

「えと、俺はテンカワ アキトっていいます。で、こっちが」

「ユキナです」

「テンカワ・・・?」

プロスは一瞬眉をピクンと動かすがすぐさま平静を取り戻し

「失礼ですが、どうしてこちらに? 2人はどういったご関係で? ご兄妹ですか?」

こうなると困るのがアキトとユキナ

木星から不可思議な力で地球に来ましたなどといえる訳がない

どうしようとアキトが悩んでいるとユキナが一歩前に出て

「私達・・・駆け落ちしてきたんです!

とのたまった

「ユキナちゃん!?」

「駆け落ち・・・ですか?」

ユキナは止まらない

「はい、私は訳あって言えませんが、さる良家の令嬢です。そしてアキトは家で働くコックでした」

良家の令嬢・・・自分で言うか?

しかし、ユキナは止まらない

「いつしか2人は愛し合うようになり2人で将来を誓い合ったのですが、両親から身分違いと許されず・・・」

妄想含有率150%、両親はきっと悪者に仕立て上げられ草葉の陰で泣いている事だろう

まだ止まらない

「このまま2人離れ離れにされるぐらいならと、手に手を取って家を飛び出したのです。シクシク」

乙女ちっくに崩れ落ち 自分のついた嘘の世界に浸りきるユキナ、今の彼女は悲劇のヒロインだ

こんな話し信じるわけがないとアキトは頭を抱えたがプロスの方は

「なるほど、苦労なされたんですなぁ・・・」

ハンカチ片手にユキナの話に聞き入っていた

「よろしい! お2人をこのナデシコのコックと調理師補助として雇いましょう」

「えっ いいんですか?」

「私も?」

「愛し合う2人のために私も少しばかり協力いたしましょう」

もちろんプロスは嘘だと勘付いている、親切心だけで言ってる訳ではない


「それでは、こちらへどう・・・」


ドガシャーーン!!


プロスのセリフが轟音に掻き消される

「何、何、何なの!?」

「格納庫の方みたいですね」

言うやいなやプロスは駆け出す、年を感じさせない走りである

アキト達も後を追うが、そこでみたのは格納庫で倒れる大きな機動兵器だった

「何これ・・・」

「ロボット・・・?」

呆然と呟く2人

「我がネルガルの誇る最新鋭の機動兵器エステバリス・・・のハズなんですがねぇ」

流石のプロスもフォローし難いらしい

その時、整備員の1人がプロスに気付いて声をかける

「おう、プロスさんよ なんでんなバカをスカウトしたんだい」

「ウリバタケさん、彼はあれでパイロットとしての腕はなかなかのもので・・・」

「バーロー! 肝心の時に足折って出撃できないパイロットなんざジャンク以下だッ!!」

「はぁっ!?」

「だから、あのバカは姿勢制御働いてないビットでエステ動かして

たった今コケて足折ったんだよッ!!」

「なんですって!?」

そこにビットからパイロットを引きずり出した整備班の1人がウリバタケに声をかける

「班長ー、このヤマダだかガイだかってヤツどうしますー?」

「邪魔にならんとこに、転がしとけ!」

その言葉通りに転がされるガイ、哀れ

「ブリッジはキノコがパイロット出せってうるせーし!

いねぇもんをどうやって出せってんだよッ!!

プロスさんもプロスさんだ、いつチューリップが動き出すかわからんのに

パイロット乗せてないってどういうこったッ!?」

「いや、なにぶんパイロットの人件費も馬鹿になりませんから・・・」

プロスが計算機か片手に言い訳するとウリバタケはそのプロスのむなぐらを掴み

「人件費と葬式代、どっちが高いか考えろぉッ!!」

「ご、ごもっともです」

「誰でもいい、エステを動かせるヤツはいねぇのか?」

ウリバタケは頭抱えながら辺りを見回し

「いたあぁーーーーーッ!!」

ビシィ!っとアキトを指差しその手を掴む

「このタトゥー、お前パイロットだな?」

「ち、違うッ! 俺はパイロットじゃないッ!!」

「嘘付け!」

アキトは必死で否定するがそれを一言否定し返される

「さぁ乗れ! 男ならバーンっと逝ってこいッ!!」

「字が違うッ!!」

いやがるアキト、ウリバタケはそんなアキトの頭をガシっと掴み

「いいか小僧、今 お前がやらなきゃそこの嬢ちゃんまで死ぬ事になるんだぞ?」

ウリバタケの視線の先にはユキナ

アキトはしばし言葉を失いながらユキナを見つめ

「・・・わかりました、やります」

と答えた。短く、しかし力強く






そして アキトは張り切ってエステで飛び出していった

・・・が、しかし

「うわあぁぁぁぁぁッ!!」

やはり恐怖の方が勝ってしまい

みるみるうちに被弾していく

それを見ていた格納庫の方では

「やっぱり素人じゃダメか・・・」

「ヤツには熱血が足りないんだよ!」

彼等は気付かなかった、自分達の背後に迫る鬼の姿を




それ以降 2人を含む整備班一同はユキナに逆らえなくなった

何故か染色体レベルで恐怖を植え付けられたらしい

・・・何をしたんだろう?

わかっている事はウリバタケが全治2週間

ガイが全治2ヶ月の怪我を負った事ぐらいだ


「プロスさん、こっちからアキトと話はできないの?」

「話ですか、それならこれを」

プロスは自分のコミュニケを操作しアキトに繋ぐ

そしてユキナはウィンドウの向こうのアキトに向かって

「こらぁ アキトぉー! しっかりしなさぁーーいッ!!」

『! ユキナちゃん!?』

ウィンドウの向こうのアキトがハッと顔を上げる

そして、ウィンドウ越しに自分をみつめるユキナに気付いた

『(そうだ、俺がユキナちゃんを守らないと・・・!!)』

それが奮いになったのか、アキトはいっぱしのパイロットとは言えないが

見事に囮役を果たし、十数分後

『今です、海に向かってジャンプして下さい』

オペレーターの少女の声に従い大きく海に向かって跳躍した

すると、豪快な水音とともに海中からナデシコが姿を現し

『グラビティーブラスト、目標敵ぜーんぶ!』

アキトのエステバリスがちょうどナデシコのブリッジの上に着地すると同時に

ナデシコから放たれる黒い光に呑まれ木星トカゲ達が圧壊していく

「すごい・・・」

『おつかれさまでしたテンカワさん』

『やったね、アキト!』

『見事な囮っぷりだったぞ』

『あなたのおかげで助かりました』

あまりにもなグラビティブラストの威力に呆然となるアキトの元に

次々とよせられるナデシコからの通信

その中には当然ユキナの顔も有り


「アキト・・・おつかれさま」


やわらかな笑みを浮かべ、ただ一言そう言った



その時

『まだです、木星トカゲ1機接近中』

『撃ち漏らしたのかッ!?』

ブリッジの悲痛な声に顔を上げてみると

爆発の中から火を吹きながらこちらに特攻してくる木星トカゲが1体

『迎撃、間に合いません!!』

木星トカゲはもう眼前に迫っている、この危機を回避できる人間はただ1人

「やってやるッ!!」

その1人の意気込みに合わせてかエステバリスの目に光が宿る



そして



「ユキナちゃんは俺が守るッ!!」


瞬間、鋼鉄の拳が木星トカゲの顔面に突き刺さった











「まったく、恥ずかしい事言わないでよね・・・」

「ごめん・・・」 ユキナがうれしいような困ったような顔で言った

アキトの例のセリフはなんとあの時ウィンドウを開いていたところ全て

つまりはナデシコ全体に響き渡ったのだ

「また、助けられちゃったね」

「ユキナちゃんが無事でよかったよ」

「・・・・・・・・・」

ユキナはいつか見たような複雑な笑みを浮かべた


格納庫に戻ったアキトを待っていたのは整備班一同による「お出迎え」


その光景をウィンドウ越しに見ていたユリカとジュンの2人はこう言った

「ねぇ ジュンくん、アキトがケガしてる事 プロスさんに伝えたっけ?」

「え、ユリカが伝えたんじゃなかったの?」


当然、アキトはそのまま医務室送りとあいなった

整備班一同にやっかみとひやかしを込めてタコ殴りにされれば当然だろう

医務室は先程まで 「お出迎え」の後ユキナに蹴散らされた整備員達で一杯だったが今は静かなものだ

ガイはユキナが怖くて自室休養を選んだらしい


「まぁいいわ、ごはん作ってきてあげたわよ」

「あ、ありがとう ユキナちゃん」

「ほら、食べさせてあげるわよ あーんして」

ユキナはわきにどけていたトレイを持ってくると

自信作の卵焼きを1つつまみアキトに食べさせようとする 「いっいいよ! 自分で食べれるって!!」

「遠慮する事ないって、ほら!」

アキトは断ろうとするがユキナもゆずらない


結局はアキトの方が折れた


「アキト、おいしい?」

「う、うん おいしいよ」

アキトが苦笑いしながらもそう答えると

「よかったぁ」

ユキナは心底安心したような笑みを浮かべ、今度はアキトの方が見惚れてしまう

しかし、すぐにユキナの表情が沈んでしまう

「ねぇ、アキト・・・・・・聞いてくれる?」

「え? ああ、何だい?」

「私ね、正直なところ 家を離れられてよかったと思ってるの」

「えっ! どうして!?」

「私の・・・両親の事は知ってるよね?」

「・・・ずっと昔に亡くなったんだってね、九十九さんから聞いたよ」

「うん、それからね 私 ずっとお兄ちゃんに育てられてきたの」

「・・・・・・」

顔を伏せたユキナの表情は見えない

「お兄ちゃんは私に言ってくれたの、2人で支えあって生きていこうって」

「いいお兄さんじゃない」

違う! 違う、そうじゃないの・・・」

「え・・・?」


私は支えあってなんかない、ずっとお兄ちゃんの重荷でしかなかった!

「ユキナちゃん、そんな事は・・・」

あるわよ!

「・・・・・・・・・」

声を荒げるユキナにアキトは思わず黙り込んでしまう

「ゴメン・・・あのね 私、アキトとは支えあいたいの 重荷になりたくないの・・・わかって」

「・・・ユキナちゃん」


「あ、ゴメン ごはんさめちゃうわね ア〜ンして」

「う、うん・・・」

ユキナは強引に食事を再開させる

「私 もっと料理うまくなるからね アキトに負けないぐらいに」

「・・・ありがとう、ユキナちゃん」

ユキナは本当にかいがいしく世話をする

せめて今だけはアキトを自分が支えようという想いを込めて

「いつか 帰れるよ」

「その時は・・・一緒に支えあえられてたらいいよね」

「うん、そうだね」


「ねぇ、アキト 私達 またお兄ちゃんに会えるよね?」

「会えるさ それまでユキナちゃんは俺が守ってみせるよ」

「・・・うん♪」

見詰め合う2人






「いい雰囲気じゃな〜い」

「仲良いですね」

「まったくですな〜」

「うぅ、アキト〜 妹さんよね、 ね? ね?」

「バカばっか」

その光景がブリッジ要員により覗き見されてたのは言うまでもない





















さらに その事を知ったユキナが大暴れしたのは3日後の話だったりする




終らせてください



あとがき


申し訳ない

ホントにお待たせしました


ユキナがボソンジャンプできるかどうかは知りません

ディストーションフィールド発生装置があるって事で勘弁してください

ナデシコが無事火星から飛べたんだから

フィールドがあって その中にジャンパーが1人でもいればいけるハズ

これに関するツっこみは一切 受け付けないです

跳べるって事にしといてください


心残りがあるとすれば『擬音』があんまり出せなかった事ですかね

どうもセリフまわしが そういう方向にいかなかったんで

こんなの ユキナぢゃない!って言うような方がいらっしゃったら

見なかった事にしといてください(笑)


でわでわ 次はcase.3 後編でお会いしましょう

・・・ナデパレの1話かもしれないケド



管理人の感想

 

 

別人28号さんからの投稿です!!

 

いや〜、このカップリングもあったんですよね(笑)

しかし、良い雰囲気を作ってるし。

二人が消えた後の九十九の状態を見てみたいものですが・・・

でも、これで終わりなんですよね〜

残念っす・・・

 

それでは、別人28号さん投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 別人28号さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

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