本当にこの仕事を受けてよかったのだろうか?
もしかしたら私は とんでもない悪事に荷担してしまったのかもしれない
だが
私が生きていくため 仕方がなかった事も事実だ
漆黒の戦神アナザー
オットー・ラッセルの場合
...え〜 まずはお名前からお願いします
オットー・ラッセル、イングランド海軍の末席に名を連ねる者だ
マシュー・フィッチ、オットー提督の副官をやってる ケチな野郎さ
...今日はお2人に来て頂いたわけですが 彼との出会いを教えて頂きますか?
うむ、あれは イングランド近辺で海賊による被害が多発していた頃の話だ
...海賊、ですか?
今は海賊って言っても海の上で襲われるとは限らねぇんだがな戦艦が空飛ぶ時代だし
...しかし、いまだに そういうのが存在してるんですねぇ
理由はそれぞれだろうが これも戦争という時代かも知れんな
...それで 彼はどのように その件に関わったんでしょう
その当時、イングランド艦隊を中心に襲う 赤毛の海賊がいてな
ありゃぁ ホントに強かった 海賊にしとくにゃ惜しいって心底思ったね
...艦隊をって連合艦隊を襲っていたんですか? スゴい海賊ですね
ああ・・・婚約者の仇を討つためらしい
ギルバートの野郎に殺されたんだよ
マシュー、それはアキトとは関係ない話だ無闇に喋るな!
は、はい・・・すいません!
...(チッ!)彼はその海賊の掃討に関わったんですね?
赤毛だけじゃねぇけどな
アキトとは何度か友軍として戦ったが
確かに赤毛との戦いが一番の激戦だったな
...そ、そんなに強かったんですか? その赤毛の海賊は
ああ、赤毛も元・士官でな 優れた艦長だった
最後は提督が敵艦に体当たりを仕掛けて
相手が怯んだスキにアキトが敵艦に乗り込んで降伏させたんだけどな
...敵艦に体当たり・・・それはまた無茶をしましたね
無茶? 勝算がなければ そんな事はせんよ
...そういうもんですか?
そういうものさ、しかし その後が問題でな
...問題?
ああ、赤毛の艦隊を降伏させたはいいが
その後 別の敵艦隊に囲まれてな
それが聞いて驚け その艦隊の提督が なんとギルバートの野郎だったんだよ
...ギルバート卿が貴方達を襲ったと?
ああ、身内の恥を晒すようでなんだが
ヤツは 日頃 私を疎ましく思っているようでな
赤毛の艦隊と相討ちで名誉の戦死というのが ヤツのシナリオだったらしい
...こういう言い方もなんですが 巻き込まれた赤毛の方も迷惑な話ですな
そうでもねぇさ 後で聞いた話だが
赤毛の狙ってた婚約者の仇ってのが ギルバートの事らしくてな
ヤツのシナリオにゃ 自分の保身も目的に入ってたのさ
...なるほど それで両方を始末しようと共倒れのシナリオを
そういう事 しかも 共倒れになってなきゃ
自分で始末して隠蔽するつもりだったんだから とことん救いようのない野郎だぜ
まぁ そう言うなマシュー、ヤツのシナリオにもひとつミスがあったのだからな
...ミス、と言いますと?
私と赤毛 どちらが勝って残っていたとしても
ヤツごときが率いる艦隊に そうそう負けはしないと言う事だ
...つまり、その戦いの結果は・・・
無論、我々の勝ちだ
降伏したとはいえ 赤毛の艦隊だって完全に戦闘不能になっていた訳ではないからな
ヤツの艦隊に勝ち目はないさ
あの野郎の逃げっぷり あんたにも見せてやりたかったぜ
いや、もうマヌケでマヌケで
...ちなみに ギルバート卿は その後
それが まだ上層部に居座ってやがるんだよ
結構 周りから ほされてるらしいけどな
仕方あるまい あの時 捕える事もできず逃げられ
赤毛を捕える事もしなかった 我々に非があるのも確かなのだからな
...しかし、味方を討とうとしておきながら・・・
・・・それ以上は 言わんでくれ
我々とて このままでいい等とは微塵も思っていない
いずれ 俺がこの手でヤツをシメてやるさ
まかせときな!
...(そう簡単にいくのか?)オットー提督のこれからの活躍に乞ご期待!といったところですね
まぁ、そんなところだな
...では、最後に彼に一言 お願いします
うむ、そうだな・・・
アキト、そなたのおかげで イングランド海軍は かつての誇りを取り戻しつつある
ヤツを野放しにしたまま イングランドを発つ事を心配していたようだが
そのあたりは心配はいらん、我々にまかせておくがいい
あと、個人的な連絡ではあるが
赤毛が海賊家業から足を洗い ナデシコ遊撃隊となったらしい
いずれ 縁があれば また3人肩を並べて戦いたいものだな
...ありがとうございました
『漆黒の戦神その軌跡』より抜粋
「う〜ん、ホントに女性がらみのトラブルがありませんねぇ」
「ねぇ ルリちゃん これじゃアキトにお仕置きできないよぉ・・・」
現在、ナデシコはとあるドッグに停泊中
せっかくの機会だからアキトにお仕置きをしようと 本が届くのを楽しみにしてた某・同盟だったが
届いた本は その大人気シリーズとしては珍しく カケラも女っ気がないものだった
「残念ですが、今回のところは諦めましょう」
「え〜 つまんないよ〜」
「ルリルリ、艦長・・・手段のために目的を忘れてない?」
カンペキに忘れている
その時、オモイカネがナデシコに客が訪れた事を報せた
「お客さん?」
「あ、この人は・・・」
ルリが開いたウィンドウに映っていたのは
オットー・ラッセルとマシュー・フィッチその人であった
「あら、この人 本の挿絵とそっくり・・・」
「身分照合できました、ご本人のようです
アキトさんとの面会を求めているみたいです どうしましょう 艦長?」
「う〜ん、ご本人に間違いないみたいだし この人なら問題ないでしょ
じゃんじゃん通しちゃってくださ〜い♪」
相変わらず お気楽な人だ
例の本が発売されたにも関わらず お仕置きをされずに済んだアキトは
満面の笑みを浮かべて オットーとマシューに2人を迎え入れた
「オットーさん、マシューさん お久しぶりです」
「アキトも元気そうだな」
「あいかわらず 酒には弱いのかい?」
「やだなぁ、マシューさんが強すぎるんですよ」
「何言ってんだ、強いのなら ウチの提督が間違いなく一番だぜ?」
「それもそうですね」
「おいおい、お前達・・・」
和やかな談笑が続く
ただ、その一語一句漏らす事無く 某・同盟に監視されてはいたが
「そうだ お前にこれを渡しておこう」
オットーは懐から一冊の本を取り出して アキトに渡した
「何です これ?」
アキトはその本を手にとって見るが 最近ナデシコクルー達が読んでいる最新刊ではない
「どうも あのライター、あの後 赤毛の所にも行ったらしくてな」
「げ! それって・・・」
アキトが思わず身を引くと それを逃がすまいとマシューがその太い腕をアキトの首にまわす
「まぁ、いいじゃねえか 赤毛のヤツ ずいぶんお前に惚れ込んでたし 悪いようには言ってないさ」
「そ、そうっスね・・・」
アキトの顔がみるみるうちに青くなる
マシューはそれに気付かず さらに続ける
「それによ お前だって悪い気はしねぇだろ? 年だって同年代だし
何より海賊にしとくにゃ惜しい程のいい女ときてる!
かぁーっ! うらやましいねぇ!!」
その爆弾は 見事に命中した 某・同盟の嫉妬心に・・・
そして、アキトの震える手の中の本にはこう書かれていた
『漆黒の戦神その軌跡 カタリーナ・ヴェルテの場合』と・・・
まだ 終らない
あとがき
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