機動戦艦ナデシコ アナザーストーリー

 

世紀を超えて

第11話 傷つきし心に休息を

 

 

 

 

戦いは終わった…施設には沢山の独立派の人間が集まり始め、次第に活気が生まれ始めていた。  

だが、この戦いはアキトにとって一概には喜べない側面を持っていたのだ。  

(…施設の人間をほぼ皆殺しにしてしまったからな・・・。)  

意図した物では無いとは言え、2千人余りの警備兵の中で生き残ったのは僅か数十人程度では、虐殺となんら変わらない。  

一体どんな報復があるだろうか?  

それが・・・アキトには気がかりだった…。  

 

・・・。  

 

…出発の数日前にアキトと話し込んでいた子供が駆け込んできた。  

 

「アキト兄ちゃん!」  

「ああ、君は何時かの・・・。」  

 

子供は屈託の無い表情で何かを手渡してきた・・・。  

 

「これは…勲章かい?」  

 

それは丸く切った厚紙にクレヨンで『えらい』と書かれ、首にかけられる様に紐が通されていた。  

 

「ああ、皆で作ったんだ!…父ちゃんのカタキ取ってくれてありがと。」  

「・・・ああ。」  

「…どうしたの?元気無いけど・・・。」  

「何でも無いよ。」  

「うん!じゃあね。…次はナツメ姉ちゃんか。」  

 

そうして子供は去っていった・・・。      

アキトは渡された勲章らしきものをじっと見つめていたが・・・。  

(…親父さんを殺したのが誰かなんてわかる理由がない。

 …あの子にとってカタキって言うのは連合軍そのものなんだろう・・・)  

(だが、それではこの戦争は終わらないだろう。…憎しみは憎しみを呼ぶ)  

 

・・・。  

 

(…良く考えてみれば木連の連中の怒りは当然だったのかも知れない)  

(…100年考えつづけ、ようやく…謝ったら許してやろうと言う気になったと思ったら、地球側の対応がアレだものなあ・・・)  

(…最初に連合政府が謝罪と事実の公表を行ってさえいれば、あんな悲惨な戦争にはならなかっただろう)  

(草壁にしても、野心をあらわにする事もできなかっただろう・・・)  

 

・・・。  

 

(と、すれば・・・。)  

(一番悪いのは・・・何なんだ?)  

 

・・・。  

 

一時期、アキトにはこのまま放って置けば木連も無くなり…結果的に悲劇も起こらないかも知れないと考えた時期もあった。

だが・・・。  

その場合でも、やはりアキトの両親はボソンジャンプがらみで命を落としていただろうし、

ユリカやアキト自身も、時期の違いは有るだろうが…何処か別の研究施設で実験に使われていたに違いない。  

何故なら  

それはボソンジャンプがらみの出来事だからで、火星の後継者がやらなくとも

…いずれ誰かが始めるのは明白だったからである・・・。  

 

(…木連が存在しない場合…最悪の場合、俺は連合軍の研究施設にユリカを取り戻しに行く事になったかも知れない。)  

(…いや、ラボであのまま死んでた可能性の方が高いか…。)  

(…それ以前に…ネルガルで実験材料にされる可能性が…。)  

 

…そう考えると、草壁や北辰の存在はアキトにとって決してマイナスでは無かった事になる。  

 

・・・全てを奪った存在のおかげで命が助かる・・・。  

・・・何にせよ・・・妙な話ではある・・・。      

 

・・・。      

 

・・・夜・・・。  

 

「ぅ…グスッ。…ひっ…。アキト…さん、ボク…。ぅ…グス…。」  

「…アムちゃん。」  

「…くー。アキト・・・。(眠)」  

 

アキトはアムとラピスに挟まれるようにしてベッドに入っている。  

…この施設を攻撃したあの日、アムは結局…自分が何をしたか知ってしまった・・・。  

目を覚ました後、何故…当身をしたのかとアムに詰問されたアキトは、不覚にもその時の思考を読まれてしまった。  

 

・・・それから数日…アムはベッドから出てこようとしない。  

 

だが、それに反して一睡もしていないのに気づいたアキトは、安心させてやろうと横で添い寝してあげる事にしたのだ・・・。  

…当然ラピスも付いて来る。…で、こう言う状況な訳だ。  

 

…けど  

…アムちゃんもそろそろ年頃の女の子だぞ(14歳)…。  

勘違いされやしないか?  

…ま、嫌がっちゃいないから良いけど。  

 

・・・。  

 

「…アキトさん。」  

 

アムがベッドの上にちょこんと座り、アキトに話しかけてきた。  

 

「何だい?」  

「…ボク…こんな事になるなんて…思いませんでした。」  

「・・・。」  

「眠ると…死んだ兵士の方が近づいてくるんです…痛い、痛いって…。」  

「気のせいだよ。…ただの夢だ。」  

「お前のせいだって…耳元で怒鳴りつけてくるんです…家族の元に帰りたいって…悲しげに言うんです…。」  

 

アキトの両肩に手を置き、目に涙を溜めながら縋る様に話しを続ける…。  

 

「…落ちつくんだ。アムちゃん。」  

「ボクの所為じゃないんです!…ボクだって…好きであんな事した訳じゃ無いんですよぉ・・・!」  

 

両手で頭を抱え込み、髪を振り乱して暴れるアム・・・。  

 

「でも…でも…解ってくれないんです…。痛い、痛いって…毎晩…毎晩…」  

 

そのまま…うずくまるアム。  

 

「…ぅぐ…ぅ…ひっ…ぅ…ぅぅぅ」  

 

アムが声を殺して泣いている・・・。あの日からずっとこんな感じだ…。  

よほどショックが大きかったのだろう。  

 

・・・。  

 

だが、このままでは…彼女はここから一歩も前に進めない・・・。  

アキトは…ある覚悟を固めていた。  

…彼女の道を開く為…今…自らの過去の汚点をさらけ出そう。      

 

「アムちゃん。…少し、歩こうか?」      

 

・・・そして二人は屋上にいる。  

 

アムが数歩踏み出した。  

 

「綺麗な星空ですね。」  

「ああ。」  

 

・・・。  

 

二人は端っこの手すりに寄り掛かる。  

 

「でも…アキトさん。ボクをこんな所に連れ出して、どう言うつもりです?」  

「…なんか、思いつめてるみたいだから。」  

「…頭を冷やせって言うんですか?」  

 

…アキトは手すりから離れるとクルリと後ろを向いた。  

 

「…少し、昔話でも…って思ってね。」  

「はあ…昔話…ですか?」  

「ああ、俺の…ね。(未来の事なのに昔話…か)」  

 

・・・。  

 

「…アムちゃん。俺はね…昔、数千人単位で人を殺した事がある。」  

「!?」  

「…あの時の俺は狂った復讐鬼だった。」  

「な…何言ってるんですか?」  

「守りたかった物と…殺したい奴を追って、戦いつづけていた。」  

「・・・。」  

「結局…守りたかった物を自分で取り戻す事は出来なかった。

 …巻き込みたくなかった物まで巻き込んで…ようやく敵を倒したとき…」  

「俺は殆ど全てを失っていた。」  

「その手は血で汚れ、命は数年を残すのみ。」  

「…そして、巣穴も失って…さまよった挙句…ここに辿りついた。」  

「・・・俺は、本当はここに居るべき人間じゃない。」  

「異邦人なんだよ・・・。俺はね。」  

 

吐き捨てるような物言いだった・・・。  

 

・・・。  

 

「何が言いたいか解るかい?」  

 

アムは…何がなんだか解らなかった。  

とにかく首を横に振るのが精一杯だった。  

 

「君はまだ、何も無くしちゃいない。」  

「・・・。」  

「仲間も…居場所も。…無論、命も。」  

「・・・。」  

「やってしまった事にやり直しなどききはしない。」  

「・・・これからの事を考えるんだ。」  

「少なくとも、君のお陰で、仲間の命は助かったんだから・・・。」  

 

・・・。  

 

少女は…泣きながら…微笑んでいた…その言葉に納得しきれた訳ではない。…何だか詭弁のような気は…している。  

 

だが・・・。  

 

アムにとってはもう、そんな事はどうでも良くなっていた・・・。  

 

今までアキトは自分の過去の事を語ろうとはせず、記憶にもブロックが掛かっていて、

アキトの過去の全ては闇の中…だった。  

 

そんなアキトが自分の事を話してくれたのだ。  

…慰めだけでは無いだろう。あれだけの暗い過去だ。…なんの覚悟も無しで言えるわけが無い。  

嘘な訳でも無いだろう。…後ろからでも解る…肩が震えている。

…その表情はここからでは見えない。だが、かなり歪んでいるのは間違い無い。  

 

それでも…話してくれた…。      

 

『信頼』されてきたのだろう。      

 

アムにとっては…それが何より嬉しかったのである。  

 

・・・。  

 

「…有難う御座います。アキトさん。…ボク、もう1度頑張ってみます。」  

 

ぺこり  

 

アムがお辞儀をして部屋に戻っていく。  

その背中を見つめながら、アキトはほっと一息ついていた。  

 

・・・。  

 

「ふーん。じゃ、アキトは宇宙人なんだ?」  

「!!」  

 

ナツメが出てきた…!隅っこのタンクの裏で酒を飲んでいたらしい。  

…だが、聞かれた事は非常にまずい内容だ。  

 

「ナツメ…何時からここに?」  

「最初から…聞かせてもらったわ。」  

 

ナツメは無防備に近づいてくる。…バイザーの下…アキトの顔が強張る。

 

「まさか、山崎君が冗談半分で言ってたことが本当だったなんてね。」  

「…別に宇宙人だなんて言った覚えはない。」  

「…じゃあ、何なの?」  

 

・・・。  

 

「・・・未来から来た、時の漂流者さ。」  

アキトはあえて真実を語る作戦に出た。…但しキザっぽく。  

 

・・・。  

 

「…ぷ…くく…なぁにそれぇ…宇宙人のほうがまだ真実味があるよ…。」  

 

作戦成功。荒唐無稽な真実は、かえって信用されないものだ。ヒイヒイ笑いながらナツメが続ける。  

 

「ま、アタシまで騙す必要はないよ。アキト…アムちゃんの事、有難うね。」  

「ああ、…所でナツメは何でこんな所に?」      

 

・・・この一言が命取りだった・・・。      

 

「!そうだ、聞いてよアキト。」  

 

ずいっと近づいてきたナツメはアキトをタンクの陰へ引きずり込んだ。…息が酒くさい。  

 

「あーの爺ちゃん達ってばもう!…ホントにムカツクんだから!」  

 

・・・。  

 

延々と愚痴に付き合わされるアキト。  

要約するとこうなる。      

 

−その日の昼頃…会議室にて−  

 

長老格らしき沢山の人影の中にナツメがいる。  

 

「ナツメ君。大変拙い事をしてくれた物だね。」

「左様。…何も壊滅させなくても良いものを。」

「確かに…もっとスマートな方法があった筈だよ。」  

 

ずず・・・と茶を啜りながらナツメを非難する老人達。  

 

(だったらアンタ達がやってくれりゃ良いのに)  

 

「それと…君の計画だと食糧の配給に差別が出来てしまうよ。」

「うむ。…それはいかんな。」

「もっと公平にな…ああ、お茶菓子…おかわり。」  

 

茶菓子のヨウカンをパク付きながらブーたれる老人達。  

(そんなに公平が良いならヨウカンを要求しないでよ。

 あんた達がパク付いてる一切れ作るのに子供のお菓子なら、数人分の物資が要るんだから)  

 

「まったく…困った娘だ。」

「まあまあ、彼女はまだ若い。父親のようには行きますまい。」

「先代に追いつくにはまだまだかかりそうですな。」  

 

もう、ここまで来ると嫌味でしかない。  

 

(その父さんを、乱暴者とか独裁者とか言って馬鹿にしてたのは何処のどいつでしたかねぇ?(怒))  

 

「とにかく、我等の目的を忘れないように。」

「今となっては、独立云々より生き残るべきだね。」

「つまり…今回の事は君の独断だと言う事だ。」  

 

(なんだ。何かと思ったら、結局…身の保身か…。あーやだやだ・・・。)  

 

…。  

 

「…そうですか…解りました。」  

「「「…では…如何するのかね?」」」      

「・・・タックン・・・GO!!(激怒)」      

「はっ、閣下!(ニヤリ)」  

 

ドドドドドドドドド・・・。  

 

「「「うぎゃぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」  

 

こうして会議(?)は終了した・・・。(汗)      

 

(何時でも、何処でも…権力者ってのはこんなのばかりなのか?)      

 

・・・。      

 

「…でさ、あいつら…。」  

 

・・・愚痴はまだ続いていたが…突然、静かになった。  

 

「…ち…くしょ…う」  

「・・・ん?」  

 

・・・ナツメは泣いていた…とても悔しそうに。  

 

「なんでアタシが怒られなきゃなんないのよ!」  

「…アムちゃんが怒られるべきだったとでも言うのか!」  

 

アキトが怒鳴る!  

 

「違う!アタシが認可したんだ。アムちゃんの所為じゃない…失敗した場合の責任はアタシが取るつもりだった!!」  

 

溢れる涙を拭おうともせず、ナツメは続ける。  

 

「けどさ…なんで味方に被害が無かったのに責められなきゃならないの!?」  

「あの爺ちゃん達だってアタシ達の仲間の筈なのに・・・。」  

 

…アムとは根本的に違う次元の悩みだった。

…ナツメにとっては敵が死んだのは、ある意味…仕方の無い事だと割り切っているのだろう…。  

だが、成功した仕事で味方に責められるのには耐えられなかったに違いない。  

そんなナツメに対してアキトのかけた言葉は・・・、  

 

「そう言うもんさ。誰だって自分が一番可愛いはずさ。…あの爺さん達の事は忘れた方が良い。」  

「けどさ、アタシは・・・。」  

「全部が全部うまく行くわけが無い。…仲間は守れたんだ。良くやってるよ…ナツメは。」  

「…優しいんだね。アキトはさ。」  

「虐殺経験者だからな。さて、自棄酒なら付き合おうか?」  

「おーっ!(経験者って…まさかさっきの話…(汗))」  

 

1時間後・・・。  

 

「ったくにょ!ワラシをなんだと・・・。」  

「・・・。(グビグビ)」  

 

二人はすっかり出来あがっていた・・・。  

 

・・・。  

 

さらに数時間後  

 

「ン・・・朝か。」  

 

・・・どうやら、酔いつぶれて寝てしまったらしい・・・。  

横には樽が一つ、空になって転がっている。・・・これだけ飲めばいくらアキトでも酔っ払うだろう。  

 

「…良い天気だ…。」  

 

空は晴れ渡り、空気は澄んでいた・・・。  

 

(今日は何だかいい事がありそうだ)  

 

等とアキトは思ったが・・・横を見て固まった。      

 

・・・。      

 

・・・・・・。          

 

「・・・ユリカァッ!!!・・・済まないぃぃっ!!!!!(絶叫)」          

 

・・・。      

 

だが、それでも空は晴れ渡り、空気はある程度…澄みきっていた・・・。  

 

 

続く  

 

−−−その後…食堂−−−  

アキトは朝食を取る為に食堂に来ていた…味覚は無いが、それでも栄養の補給はしなくてはならない。  

 

「アキト…如何したの?顔、真っ青ダヨ?」  

 

アキトの膝の上でラピスが言う。  

 

「具合が悪いのでしょうか…ボク、薬取ってきますか?」  

 

右隣に座るアムも心配そうだ・・・。  

 

「ハハ・・・ナンデモナイヨ・・・。(カクカク)」  

 

ロボットのようにカクカク言いながらアキトが答える。

…様子がおかしい。おかし過ぎる・・・。

何と言うか…こう、真っ白に燃えつきました…と言うか・・・。  

ギギ…ぽすっ。  

 

「おはよ!(ポッ)」  

 

ナツメがアキトの左隣に座った。…顔が赤い。(汗)  

 

ビクッ!!  

 

アキトが過剰反応したが、幸い誰も気づかなかった。  

 

「あ、そうだ・・・。」  

「なんですか?」  

「アムちゃんとラピスちゃんに宣戦布告。」  

「「は?」」  

「アキトの『彼女』のよ。…アタシも参戦表明!(笑顔)」  

 

ピキシッ!!!  

 

その時・・・時が止まった・・・気がした・・・。  

…後に、その場に居合わせた月臣弦悟郎氏はこう語る。  

 

「…あの時、殺気でガラスが一枚割れた。…後、数名の腰が抜けた。」  

 

・・・因みに・・・彼もだ。  

 

::::後書き::::  

BA‐2です。

・・・こんなのも有りだろうか?

本来もう少し進むはずだったんですが、そろそろアキトにナツメを落としてもらわないといけなかったんで・・・。  

・・・その他のコメントはこの場では控えさせてもらいます。  

では!

 

 

 

管理人の感想

 

 

BA-2さんからの連載投稿です!!

いや〜、とうとうナツメちゃんまで落としちゃったんですね〜、アキト君(笑)

それにして、一体目覚めた時はどんな状況だったんだろう?

実に気になりますね(苦笑)

地球からの報復を恐れつつ、束の間の休息を楽しみアキト達。

さてさて、次回からはどうなるのでしょうか?

 

ではBA-2さん、投稿有り難う御座いました!!

次の投稿を楽しみに待ってますね!!

 

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